イオンビームの進行角修正方法およびイオン注入装置
【課題】 イオンビームのy方向における進行角を修正する。
【解決手段】 前段多点ファラデー24および後段多点ファラデー28の複数の検出器をそれぞれ電気的に並列接続した状態で、各多点ファラデー24、28にy方向においてイオンビーム4が徐々に入射するようにして、イオンビーム4のy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット16付近でのイオンビーム4のy方向における進行角を測定する進行角測定工程と、この工程で測定した進行角を小さくする方向に、イオン源の引出し電極系のy方向における傾き角度を変化させて、イオン源から引き出すイオンビームのy方向における角度を変化させる進行角修正工程とを、進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで1回ずつ以上行う。
【解決手段】 前段多点ファラデー24および後段多点ファラデー28の複数の検出器をそれぞれ電気的に並列接続した状態で、各多点ファラデー24、28にy方向においてイオンビーム4が徐々に入射するようにして、イオンビーム4のy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット16付近でのイオンビーム4のy方向における進行角を測定する進行角測定工程と、この工程で測定した進行角を小さくする方向に、イオン源の引出し電極系のy方向における傾き角度を変化させて、イオン源から引き出すイオンビームのy方向における角度を変化させる進行角修正工程とを、進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで1回ずつ以上行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、x方向の走査を経て、またはx方向の走査を経ることなく、x方向の寸法が当該x方向と実質的に直交するy方向の寸法よりも大きいリボン状(これは、シート状または帯状と呼ぶこともできる)のイオンビームをターゲットに照射する構成のイオン注入装置において、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を修正する進行角修正方法および当該修正方法を実施することができるイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体デバイスの高性能化、高微細化等に伴い、より具体例を挙げれば急峻な注入境界を持つイオン注入等を実現することができるように、イオン注入技術には、より高精度の注入角制御を可能にすることが求められる傾向にある。例えば、上記のようなリボン状のイオンビームを用いてターゲットにイオン注入を行う場合、従来は殆ど問題にされていなかった、y方向におけるイオンビームの注入角(換言すれば、ターゲットへのイオンビームの入射角)をも精度良く制御することが重要になってきている。
【0003】
このy方向における注入角と、イオンビームのy方向における進行角とは大いに関係している。ターゲットのy方向における傾きに、上記進行角を加味したものが、注入角となるからである。従って、高精度の注入角制御を行うためには、イオンビームのy方向における進行角も重要である。
【0004】
このy方向における進行角については、ターゲットの上流側および下流側にそれぞれ設けられていて、イオンビームのビーム電流を測定する複数の検出器がx方向にそれぞれ並設されて成る前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを用いて、リボン状のイオンビームのy方向における進行角を測定する測定方法およびイオン注入装置が、特許文献1および2に記載されている。この進行角は、両特許文献では、y方向における角度偏差と呼ばれているが、両者は実質的に同じものである。
【0005】
【特許文献1】特開2007−5779号公報(段落0031−0033、0042、図7)
【特許文献2】特開2005−195417号公報(段落0028−0030、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1、2に記載の技術は、イオンビームのy方向における進行角を測定するまでのものである。しかし、実際のイオン注入装置においては、測定から更に進んで、当該進行角を所定のものに修正することが重要であるけれども、その修正の具体的な手段については、上記特許文献1、2には記載されていない。
【0007】
そこでこの発明は、イオンビームのy方向における進行角を修正することができる進行角修正方法およびイオン注入装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るイオンビームの進行角修正方法の一つは、イオンビームの設計上の進行方向をz方向とし、z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をx方向およびy方向とすると、引出し電極系を有するイオン源から引き出したイオンビームであって、x方向の走査を経て、またはx方向の走査を経ることなく、x方向の寸法がy方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームをターゲットに照射する構成の装置であって、ターゲット付近におけるイオンビーム進行方向の相対的に上流側および下流側に設けられていて、イオンビームのビーム電流を測定する複数の検出器がx方向にそれぞれ並設されて成る前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを有しているイオン注入装置において、前記前段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続し、かつ後段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続した状態で、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定する進行角測定工程と、当該進行角測定工程で測定した進行角を小さくする方向に、前記イオン源の引出し電極系のy方向における傾き角度を変化させて、前記イオン源から引き出すイオンビームのy方向における角度を変化させる進行角修正工程とを、前記進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで1回ずつ以上行うことを特徴としている。
【0009】
この進行角測定方法によれば、進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで、イオンビームのy方向における進行角を修正することができる。
【0010】
進行角測定工程においては、各多点ファラデーの複数の検出器をそれぞれ電気的に並列接続する代わりに、前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーのx方向における中央付近の検出器をそれぞれ用いても良い。
【0011】
前記進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入った後に、前記前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを用いて、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定し、しかもこのような測定をx方向の複数位置において行う進行角分布測定工程と、当該進行角分布測定工程で測定した複数位置の進行角の内に、その大きさが第2の許容範囲内から外れている進行角があるか否かを判定する進行角分布判定工程とを更に行っても良い。
【0012】
この発明に係るイオン注入装置の一つは、前記イオン源の引出し電極系の少なくともy方向における傾き角度を変化させる機能を有する電極駆動装置を備えており、更に、(a)前記前段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続し、かつ後段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続した状態で、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定する進行角測定制御と、(b)当該進行角測定制御で測定した進行角に基づいて前記電極駆動装置を制御して、当該進行角を小さくする方向に、前記イオン源の引出し電極系のy方向における傾き角度を変化させて、前記イオン源から引き出すイオンビームのy方向における角度を変化させる進行角修正制御とを、前記進行角測定制御で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで1回ずつ以上行う機能を有している制御装置を備えている。
【0013】
進行角測定制御においては、各多点ファラデーの複数の検出器をそれぞれ電気的に並列接続する代わりに、前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーのx方向における中央付近の検出器をそれぞれ用いても良い。
【0014】
前記制御装置は、前記進行角測定制御で測定した進行角が第1の許容範囲内に入った後に、(a)前記前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを用いて、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定し、しかもこのような測定をx方向の複数位置において行う進行角分布測定制御と、(b)当該進行角分布測定制御で測定した複数位置の進行角の内に、その大きさが第2の許容範囲内から外れている進行角があるか否かを判定してその結果を表す信号を出力する進行角分布判定制御とを行う機能を更に有していても良い。
【発明の効果】
【0015】
請求項1、2に記載の発明によれば、進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで、イオンビームのy方向における進行角を修正することができる。その結果、ターゲットに対するイオン注入において、より高精度の注入角制御が可能になる。また、輸送途中のイオンビームが構造物に衝突する可能性を小さくして、イオンビームの輸送効率を向上させることもできる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、次のような更なる効果を奏する。即ち、進行角が第1の許容範囲内に入った後に、更に、進行角分布測定工程で測定した複数位置の進行角の内にその大きさが第2の許容範囲内から外れている進行角があるか否かを判定するので、進行角分布の悪いイオンビームによるターゲットへのイオン注入を防止することができる。
【0017】
請求項4、5に記載の発明によれば、進行角測定制御で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで、イオンビームのy方向における進行角を修正することができる。その結果、ターゲットに対するイオン注入において、より高精度の注入角制御が可能になる。また、輸送途中のイオンビームが構造物に衝突する可能性を小さくして、イオンビームの輸送効率を向上させることもできる。しかも上記測定および制御を、制御装置および電極駆動装置を用いて行うことができるので、省力化を図ることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、次のような更なる効果を奏する。即ち、進行角が第1の許容範囲内に入った後に、更に、進行角分布測定制御で測定した複数位置の進行角の内にその大きさが第2の許容範囲内から外れている進行角があるか否かを判定してその結果を表す信号を出力するので、進行角分布の悪いイオンビームによるターゲットへのイオン注入を防止することができる。しかも上記測定および制御を、制御装置を用いて行うことができるので、省力化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(1)イオン注入装置の構成について
図1は、イオン注入装置の一例を示す概略平面図である。この明細書および図面においては、イオンビーム4の設計上の進行方向を常にz方向とし、このz方向と実質的に直交する面内において互いに実質的に直交する2方向をx方向およびy方向としている。例えば、x方向およびz方向は水平方向であり、y方向は垂直方向である。「設計上の進行方向」というのは、換言すれば、所定の進行方向、即ち本来進むべき進行方向のことである。
【0020】
このイオン注入装置は、リボン状イオンビームの元になる小さな断面形状のイオンビーム4を射出する(引き出す)イオン源2と、このイオン源2からのイオンビームが入射され当該イオンビーム4から所望質量のイオンビーム4を分離して取り出す質量分離器6と、この質量分離器6からのイオンビーム4が入射され当該イオンビーム4を加速または減速する加減速器8と、この加減速器8からのイオンビーム4が入射され当該イオンビーム4から所望エネルギーのイオンビーム4を分離して取り出すエネルギー分離器10と、このエネルギー分離器10からのイオンビーム4が入射され当該イオンビーム4をx方向に走査するビーム走査器12と、このビーム走査器12からのイオンビーム4が入射され当該イオンビーム4を曲げてビーム走査器12と協働してイオンビーム4を平行ビーム化するビーム平行化器14と、このビーム平行化器14からのイオンビーム4の照射領域内でターゲット(例えば半導体基板)16を、イオンビーム4の主面4b(図3参照)と交差する方向に、例えばy方向に機械的に往復走査(往復駆動)する(図6中の矢印22参照)ターゲット駆動装置20とを備えている。
【0021】
このイオン注入装置は、更に、図6に示す前段多点ファラデー24、後段多点ファラデー28、制御装置50等の測定装置および制御装置を備えている。この図6は後で詳述するが、ターゲット16は、図6に示すように、ターゲット駆動装置20のホルダ18に保持される。
【0022】
イオン源2は、図2に示す例のように、プラズマ72を生成するプラズマ生成部70と、このプラズマ生成部70内のプラズマ72から電界の作用でイオンビーム4を引き出す引出し電極系74と、この引出し電極系74を矢印Bで示すようにy方向から左右に傾けて、引出し電極系74の少なくともy方向における傾き角度(より厳密に言えば、y−z平面内におけるy方向からの傾き角度)βy を変化させる機能を有する電極駆動装置76とを備えている。
【0023】
引出し電極系74は、図2に示す例では、図示の簡略化等のために1枚の電極で示しているが、それに限られるものではなく、引出し電極系74を構成する電極の数は1枚以上で任意である。
【0024】
傾き角度βy は、チルト角とも呼ばれる。この傾き角度βy の正負の取り方は任意であるが、ここでは、図2中に二点鎖線で示す例のように、引出し電極系74がy方向の下向きに傾いている場合を負(マイナス)とする。
【0025】
図1に示すビーム平行化器14から導出されてターゲット16に照射されるイオンビーム4は、上記例では、x方向の高速の(例えば数十kHz程度の)走査(より具体的には平行走査)を経て、図3に示す例のように、x方向の寸法Wx がy方向の寸法Wy よりも大きい(より詳しく言えば、十分に大きい)形状をしている。このようなイオンビーム4も、この明細書ではリボン状のイオンビームと呼んでいる。走査前のイオンビーム4の断面形状は、例えば、図3中に符号4aで示すような小さな長方形をしている。
【0026】
このようなリボン状のイオンビーム4を用いると共に、ターゲット16を上記のように機械的に走査することによって、ターゲット16の全面にイオンビーム4を照射して均一性の良いイオン注入を行うことができる。
【0027】
但し、上記のようにx方向の走査を経たリボン状のイオンビーム4の代わりに、図4に示す例のように、x方向の走査を経ることなく(例えばイオン源2から引き出したイオンビーム4自体が)、x方向の寸法Wx がy方向の寸法Wy よりも大きくて(より詳しく言えば、十分に大きくて)リボン状をしているイオンビーム4をターゲット16に照射するようにしても良い。以下に説明する進行角θy の測定、制御等においては、断わりがない限り、図3のイオンビーム4と図4のイオンビーム4とを区別する必要はない。その測定、制御等の技術を、どちらのイオンビーム4にも適用することができるからである。
【0028】
イオンビーム4のy方向における進行角θy は、要約して言えば、図5に示す例のように、イオンビーム4の設計上の進行方向zに対する、現実のイオンビーム4のy方向における角度(より厳密に言えば、イオンビーム4の中心軌道の、y−z平面内におけるz方向からの角度)のことである。従って、イオンビーム4がz方向に完全に平行な軌道を辿る理想的な場合はθy =0°である。この進行角θy の正負の取り方は任意であるが、ここでは、図5に示す例のように、イオンビーム4がy方向の上向きに傾いている場合を正(プラス)とする。この進行角θy のより詳しい定義は後述する。
【0029】
図6を参照して、このイオン注入装置は、ターゲット16付近におけるイオンビーム4の進行方向zの相対的に上流側および下流側に、前段多点ファラデー24および後段多点ファラデー28を有している。より具体的にはこの実施形態では、イオンビーム4の進行方向z上の位置に関して、ターゲット16の上流側の位置zffに前段多点ファラデー24を有しており、ターゲット16の下流側の位置zfbに後段多点ファラデー28を有している。ターゲット16のz方向上の位置をzt とする。ターゲット16が図6に示す例のように傾いている場合は、ターゲット16の中心のz方向上の位置をzt とする。
【0030】
両多点ファラデー24、28は、それぞれ、イオンビーム4のビーム電流を測定するものであってx方向に並設された複数の検出器(図に表れていない)を有している。両多点ファラデー24、28を構成する複数の検出器の数を、それぞれm個、n個(m、nはそれぞれ2以上の整数)とする。m、nは、例えば、10〜20である。各検出器の前方には、スリット状の入口26、30がそれぞれ設けられている。各検出器は、例えばファラデーカップである。
【0031】
なお、両多点ファラデー24、28は、この実施形態のように、ターゲット16を挟んで上流側および下流側にそれぞれ設けておくのが、ターゲット16付近における進行角θy の測定をより高精度で行うことができるので好ましいけれども、それに限られるものではなく、両多点ファラデー24、28を、ターゲット16付近の上流側に、または下流側に設けても良い。
【0032】
(2)イオンビームの進行角θy の測定について
上記前段多点ファラデー24および後段多点ファラデー28を用いて、各多点ファラデー24、28にy方向においてイオンビーム4が徐々に入射するようにして、イオンビーム4のy方向における中心位置をイオンビーム進行方向zの上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット16付近でのイオンビーム4のy方向における進行角θy を測定する。この測定方法を以下に詳述する。
【0033】
図6を参照して、前段多点ファラデー24の上流側近傍の位置zf に、x方向に幅の広いイオンビーム4を遮ることができる前段ビーム制限シャッター32が設けられている。この前段ビーム制限シャッター32は、x方向に実質的に平行な一辺34を有している。この一辺34は、x方向とできるだけ精密に平行に保つのが好ましい。前段ビーム制限シャッター32は、この例ではx方向に長い長方形をしているが、それに限らない。また、前記一辺34は、この例では前段ビーム制限シャッター32の下辺であるが、上辺でも良い。
【0034】
前段ビーム制限シャッター32を保持してそれを、矢印38に示すように、y方向に往復駆動する前段シャッター駆動装置36が設けられている。この前段シャッター駆動装置36は、この例では、前段ビーム制限シャッター32のy方向の位置を精密に制御する制御回路および前記一辺34のy方向の位置y1 を精密に測定して出力する位置センサー(いずれも図示省略)を有している。
【0035】
更に、後段多点ファラデー28の上流側近傍の位置zb に、より具体的にはターゲット16よりも下流側であって後段多点ファラデー28の上流側近傍の位置zb に、x方向に幅の広いイオンビーム4を遮ることができる後段ビーム制限シャッター42が設けられている。この後段ビーム制限シャッター42は、x方向に実質的に平行な一辺44を有している。この一辺44は、x方向とできるだけ精密に平行に保つのが好ましい。後段ビーム制限シャッター42は、この例ではx方向に長い長方形をしているが、それに限らない。また、前記一辺44は、この例では後段ビーム制限シャッター42の下辺であるが、上辺でも良い。
【0036】
後段ビーム制限シャッター42を保持してそれを、矢印48に示すように、y方向に往復駆動する後段シャッター駆動装置46が設けられている。この後段シャッター駆動装置46は、この例では、後段ビーム制限シャッター42のy方向の位置を精密に制御する制御回路および前記一辺44のy方向の位置y1 を精密に測定して出力する位置センサー(いずれも図示省略)を有している。
【0037】
図8も参照して、z方向における前段ビーム制限シャッター32と後段ビーム制限シャッター42との間の距離、即ち位置zf と位置zb との間の距離をLとする。
【0038】
このイオン注入装置は、更に、後述する各種の処理や制御を行う制御装置50を備えている。この制御装置50は、前段シャッター駆動装置36、後段シャッター駆動装置46をそれぞれ制御して前段ビーム制限シャッター32、後段ビーム制限シャッター42を前記のようにそれぞれ駆動させると共に、前段シャッター駆動装置36、後段シャッター駆動装置46から前記位置y1 の情報をそれぞれ取り込む。更に、前段多点ファラデー24、後段多点ファラデー28から、後述するビーム電流Sf,i(y)、Sb,i(y)の情報をそれぞれ取り込む。更に制御装置50には、上記距離Lの情報が与えられる(例えば設定される)。
【0039】
ここで、この明細書における、イオンビーム4のy方向の中心軌道およびy方向における進行角θy の定義について説明する。
【0040】
図7に、イオンビーム4のy方向のビーム電流密度jの分布j(y)の一例を示す。ビーム電流密度分布j(y)は、ガウス分布に近い形状をしている場合が多いけれども、必ずしもそのような形状をしているとは限らないので、ここでは一例として、図7に示されているような形状を取り上げる。このとき、ビーム電流密度分布j(y)の積分の中心位置(換言すれば重心位置)を中心位置yc とする。即ち、図7中にハッチングを付した上半分の面積Sa と下半分の面積Sb とが互いに等しくなる位置が中心位置yc である。但し、上記のようにビーム電流密度分布j(y)がガウス分布に近い形状をしている場合は、そのピーク位置を中心位置yC としても良い。このようなイオンビーム4の中心位置yc の軌道が、イオンビーム4のy方向の中心軌道である。
【0041】
上記中心位置yc が、z方向において所定の距離だけ離れた2点間で異なっている場合、具体的には距離Lだけ離れた前段ビーム制限シャッター32の位置zf と後段ビーム制限シャッター42の位置zb (図8参照)との間で異なっている場合、イオンビーム4の中心軌道はy方向に進行角θy を持っていることになる。この場合、前段ビーム制限シャッター32の位置zf および後段ビーム制限シャッター42の位置zb におけるイオンビーム4の中心位置yc をそれぞれycf、ycbとすると、進行角θy は次式で表される。
【0042】
[数1]
θy =tan-1{(ycb−ycf)/L}
【0043】
次に、上記のように表される進行角θy の測定方法について説明する。
【0044】
測定に際しては、図9に示すように、前段多点ファラデー24を駆動装置(例えば、図11に示す前段ファラデー駆動装置56)によってイオンビーム4の経路上に位置させておいて、前段シャッター駆動装置36によって前段ビーム制限シャッター32をy方向に駆動しつつ、前段多点ファラデー24に入射するイオンビーム4のビーム電流を前段多点ファラデー24によって測定する。この前段ビーム制限シャッター32の駆動は、前段ビーム制限シャッター32がイオンビーム4を全く遮っていない状態から遮る状態への駆動でも良いけれども、ここでは、前段ビーム制限シャッター32がイオンビーム4を完全に遮っている状態から遮らない状態への駆動を例に説明する。その前段ビーム制限シャッター32の駆動方向を矢印39で示す。この場合、初めはイオンビーム4は前段ビーム制限シャッター32によって完全に遮られているため、前段多点ファラデー24にはイオンビーム4は全く入射しない。このときの前段ビーム制限シャッター32の前記一辺34のy座標位置をy0 とする。
【0045】
そして、前段ビーム制限シャッター32が、矢印39で示すようにy方向に駆動されると、駆動が進むにつれて、前段ビーム制限シャッター32によって遮られていたイオンビーム4の一部が前記一辺34の外側を通過して徐々に前段多点ファラデー24に入射するようになる。ここで、イオンビーム4の少なくとも一部が前段多点ファラデー24に入射しているときの前段ビーム制限シャッター32の前記一辺34のy座標位置をy1 とする。
【0046】
今、前段多点ファラデー24のx方向におけるi番目の検出器に着目し、その中心のx座標位置をxi とする。このとき、前段ビーム制限シャッター32の位置zf において、x方向の座標xi でのy方向の前記ビーム電流密度分布jf(y)を表す関数をjf,i(y)とする。このとき、i番目の検出器で測定されるビーム電流Sf,i(y1 )は、次式で表される。これを図示したのが図10である。ここでは、ビーム電流密度jf,i は、y0 以下ではゼロであるとしている。
【0047】
【数2】
【0048】
従って、前段シャッター駆動装置36によって前段ビーム制限シャッター32をy方向に駆動しつつ、前段多点ファラデー24でビーム電流Sf,i(y)を測定し、かつその次式で表される変化率から、即ちビーム電流Sf,i(y)を距離yで微分することによって、位置zf 、xi でのイオンビーム4のy方向のビーム電流密度分布jf,i(y)を求めることができるのでそれを行う。これを前段ビーム電流密度分布測定工程と呼ぶ。
【0049】
[数3]
dSf,i(y)/dy=jf,i(y)
【0050】
上記と同様の方法によって、後段多点ファラデー28、後段ビーム制限シャッター42および後段シャッター駆動装置46を用いて、位置zb 、xi でのイオンビーム4のy方向のビーム電流密度分布jb,i(y)を求めることができるのでそれを行う。これを後段ビーム電流密度分布測定工程と呼ぶ。なお、この後段での測定時は、その測定の妨げにならないように、前段ビーム制限シャッター32、前段多点ファラデー24およびターゲット16をイオンビーム4の経路から外しておく。この制御を制御装置50に行わせても良い。この場合、前段多点ファラデー24は駆動装置(例えば、図11に示す前段ファラデー駆動装置56)を用いてイオンビーム4の経路から外すようにすれば良い。
【0051】
更に、上記のようにして求めたビーム電流密度分布jf,i(y)、jb,i(y)から、前段ビーム制限シャッター32、後段ビーム制限シャッター42のそれぞれの位置zf 、zb でのイオンビーム4の前述したy方向の中心位置ycf、ycbをそれぞれ求める。これらを、それぞれ前段中心位置算出工程および後段中心位置算出工程と呼ぶ。
【0052】
更に、上記のようにして求めた中心位置ycf、ycbおよび前記距離Lを用いて、前記数1またはそれと数学的に等価な式に基づいて、イオンビーム4のy方向における進行角θy を求める。これを進行角算出工程と呼ぶ。
【0053】
なお、前段側においては、前記実施形態(図6等に示した実施形態。以下同様)のように、前段ビーム制限シャッター32およびそれをy方向に駆動する前段シャッター駆動装置36を設ける代わりに、図11に示す実施形態のように、イオンビーム4が通過する開口54を有するマスク52を前段多点ファラデー24の上流側近傍に設けておき、前段多点ファラデー24を前段ファラデー駆動装置56によってy方向に駆動するようにしても良い。この場合の実施形態を以下に説明する。
【0054】
前段多点ファラデー24は、軸57を介して、前段ファラデー駆動装置56によって、矢印58に示す上昇方向またはその逆の下降方向に駆動され、前述したようにイオンビーム4の経路に出し入れされるよう構成されている。前段多点ファラデー24と軸57とは、前段多点ファラデー24によるビーム電流測定に支障を来さないように、図示しない絶縁物によって電気的に絶縁されている。
【0055】
この前段多点ファラデー24を用いてのイオンビーム4の測定は、前段多点ファラデー24の上昇時に行っても良いし、前段多点ファラデー24の下降時に行っても良いけれども、ここでは、矢印58に示すように上昇時に行う例を説明する。
【0056】
前段多点ファラデー24は、前述したように(例えば図6参照)、複数の検出器の前方に入口26をそれぞれ有している。この実施形態では、その複数の入口26の上端60を結ぶ線が前記x方向に実質的に平行になるようにしておく。そのようにしておくと、x方向での測定のバランスが良くなるからである。
【0057】
前段ファラデー駆動装置56は、上記上端60のy方向の位置y1 を精密に測定して出力する位置センサー(図示省略)を有している。
【0058】
制御装置50は、この実施形態では、前記実施形態のように前段シャッター駆動装置36を駆動してそれからの前記位置y1 の情報を取り込む代わりに、前段ファラデー駆動装置56を上記のように駆動すると共にそれからの位置y1 の情報を取り込む。
【0059】
更に、この実施形態では、前段多点ファラデー24の入口26の位置をzf とし、z方向における入口26と後段ビーム制限シャッター42との間の距離、即ち位置zf と位置zb との間の距離をLとする。
【0060】
マスク52の開口54の正面形状は、この例では、x方向に長い長方形をしている。この開口54のy方向の寸法Wm は、前段多点ファラデー24の入口26のy方向の寸法Wf 以下にしておく方が測定が簡単であり好ましい。この実施形態ではWm <Wf にしており、その場合の例を主体に説明する。
【0061】
初めは、前段多点ファラデー24の上端60がマスク52の開口54よりも下にあるものとする。この場合は、イオンビーム4は、マスク52によって遮られて、前段多点ファラデー24には全く入射しない。このときの前段多点ファラデー24の上端60のy座標位置をy0 とする。
【0062】
そして、前段多点ファラデー24が、矢印58で示すようにy方向に駆動されると、その駆動が進むにつれて、マスク52によって遮られていたイオンビーム4の一部が開口54を通過して徐々に前段多点ファラデー24に入射するようになる。ここで、イオンビーム4の少なくとも一部が前段多点ファラデー24に入射しているときの前段多点ファラデー24の入口26の上端60のy座標位置をy1 とする。
【0063】
前記実施形態の場合と同様に、前段多点ファラデー24のx方向におけるi番目の検出器に着目し、その中心のx座標位置をxi とする。このとき、前段多点ファラデー24の入口26の位置zf において、x座標xi でのy方向の前記ビーム電流密度分布jf(y)を表す関数をjf,i(y)とする。このとき、i番目の検出器で測定されるビーム電流Sf,i(y1 )は、前記数2で表される。これを図示すると前記図10と同様になる。
【0064】
従って、前段ファラデー駆動装置56によって前段多点ファラデー24をy方向に駆動しつつ、当該前段多点ファラデー24でビーム電流Sf,i(y)を測定し、かつその前記数3で表される変化率から、即ちビーム電流Sf,i(y)を距離yで微分することによって、位置zf 、xi でのイオンビーム4のy方向のビーム電流密度分布jf,i(y)を求めることができる。
【0065】
上記例とは反対に、前段多点ファラデー24を上から下降させてイオンビーム4のビーム電流密度分布jf,i(y)を求めても良い。その場合は、上端60の代わりに、前段多点ファラデー24の入口26の下端62に着目すれば良い。そして、複数の入口26の下端62を結ぶ線がx方向に実質的に平行になるようにしておけば良い。
【0066】
マスク52の開口54の寸法Wm が前段多点ファラデー24の入口26の寸法Wf よりも大きい場合は、前段多点ファラデー24の駆動の途中でビーム電流の増減が互いに相殺されることが起こる可能性があるが、これの影響を避けることは可能である。例えば、イオンビーム4のy方向の中心過ぎまで前段多点ファラデー24を下から上昇させて行う測定と、前段多点ファラデー24を上から下降させて行う測定とに分けて測定すれば良い。
【0067】
マスク52の位置において、イオンビーム4のy方向の寸法Wy が開口54の寸法Wm よりも小さい場合は、寸法Wm の代わりにこの寸法Wy と前段多点ファラデー24の寸法Wf との関係を、上記と同様に考えれば良い。
【0068】
また、以上二つの段落に記載の内容を総合すれば分かるように、マスク52の開口54の寸法Wm は、前段多点ファラデー24の入口26の寸法Wf やイオンビーム4のy方向の寸法Wy よりも大きくても良く、これは言い換えれば、マスク52は必ずしも設けなくても良いということである。
【0069】
上記のようにして求めたビーム電流密度分布jf,i(y)を用いて、前記実施形態の場合と同様にして、イオンビーム4のy方向の中心位置ycfを求め、更にイオンビーム4のy方向における進行角θy を求めることができる。
【0070】
前段多点ファラデー24および後段多点ファラデー28は、前述したように、それぞれm個、n個の検出器をx方向に有しているので、上記iは、それぞれ1〜m、1〜nまでの任意の値を取ることができる。従って、1〜m、1〜nの内の任意のi番目の検出器を用いて、x方向の任意の位置において、イオンビーム4の進行角θy を測定することができる。その場合、前後の多点ファラデー24、28の検出器は、x方向の位置が互いに実質的に同じかまたは近い検出器を用いるのが、進行角θy をより正確に測定する観点から好ましい。
【0071】
また、着目する(測定に用いる)i番目の位置を上記範囲内で変えることによって、上記進行角θy をx方向の複数位置において測定して、進行角θy のx方向における分布を測定することができる。これが進行角分布測定工程である。この進行角分布測定工程は、上記前段ビーム電流密度分布測定工程、後段ビーム電流密度分布測定工程、前段中心位置算出工程、後段中心位置算出工程および進行角算出工程を総合したものである。
【0072】
進行角θy のx方向における分布は、実際のイオン注入装置においては、一様でない場合は、例えば図12中に示す進行角分布P1 のように、斜めに傾いている場合の多いことが経験によって分かっている。この傾きは、この進行角分布P1 とは逆の場合もある。
【0073】
そこで、以下に述べる進行角修正に用いるために、上記のような進行角分布P1 をしている進行角θy の平均的な進行角θya、またはx方向における中央付近の進行角θycを測定する。これが進行角測定工程である。両進行角θya、θycは、それぞれ一つの値であるので、後の進行角修正工程や進行角修正制御に用いるのに都合が良い。両進行角θya、θycは、実際のイオン注入装置における上記のような傾向から、通常は互いに近い値になる場合が多い。従ってどちらを用いても良い。この進行角測定工程も、上記前段ビーム電流密度分布測定工程、後段ビーム電流密度分布測定工程、前段中心位置算出工程、後段中心位置算出工程および進行角算出工程を総合したものである。
【0074】
上記平均的な進行角θyaを測定するには、前段多点ファラデー24の複数の検出器を互いに電気的に並列接続し、かつ後段多点ファラデー28の複数の検出器を互いに電気的に並列接続した状態で、上に詳述したように、各多点ファラデー24、28にy方向においてイオンビーム4が徐々に入射するようにして、イオンビーム4のy方向における中心位置をイオンビーム進行方向zの上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット16付近でのイオンビーム4のy方向における進行角θyaを測定する。複数の検出器を互いに電気的に並列接続するには、例えば、制御装置50内に引き込まれている複数の検出器からの複数の信号ラインを、制御装置50内においてスイッチで並列接続すれば良い。
【0075】
上記中央付近の進行角θycを測定するには、前段多点ファラデー24および後段多点ファラデー28のx方向における中央付近の検出器をそれぞれ用いて、上に詳述したように、各多点ファラデー24、28にy方向においてイオンビーム4が徐々に入射するようにして、イオンビーム4のy方向における中心位置をイオンビーム進行方向zの上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット16付近でのイオンビームのy方向における進行角θycを測定する。中央付近の検出器を用いるには、例えば、制御装置50内に引き込まれている複数の検出器からの複数の信号ラインの内で、x方向の中央付近の検出器からの信号ラインをスイッチで選択すれば良い。
【0076】
制御装置50は、上記前段ビーム電流密度分布測定工程と実質的に同じ内容の前段ビーム電流密度分布測定処理、上記後段ビーム電流密度分布測定工程と実質的に同じ内容の後段ビーム電流密度分布測定処理、上記前段中心位置算出工程と実質的に同じ内容の前段中心位置算出処理、上記後段中心位置算出工程と実質的に同じ内容の後段中心位置算出処理、上記進行角算出工程と実質的に同じ内容の進行角算出処理を行うことができる。即ち、上記進行角測定工程と実質的に同じ内容の進行角測定制御および上記進行角分布測定工程と実質的に同じ内容の進行角分布測定制御を行うことができる。
【0077】
(3)イオンビームの進行角θy の修正について
イオンビームの進行角θy の修正を行うには、上記進行角測定工程に加えて、当該進行角測定工程で測定した進行角θyaまたはθycを用いて、当該進行角θyaまたはθycを小さくする方向に(即ち、進行角θyaまたはθycを0度に近づける方向に)、イオン源2の引出し電極系74の傾き角度βy (図2参照)を変化させて、イオン源2から引き出すイオンビーム4のy方向における角度を変化させる。これが進行角修正工程である。より具体的には、進行角θyaまたはθycのy方向における向きと反対方向に、引出し電極系74のy方向における傾き角度βy を変化させる。
【0078】
例えば、進行角分布が図12中に示す進行角分布P1 のようにy方向のプラス側にある場合は、上記進行角θyaまたはθycはプラス側(簡単に言えば上向き)になり(これは図5に示す状態と同様である)、この場合は引出し電極系74をより下に向くように傾ける。例えば、傾き角度βy をよりマイナス側にする。元々傾き角度βy がプラス側であった場合は、傾き角度βy が0度に近づく、またはマイナス側になるように引出し電極系74の傾き角度βy を変化させる。これによって、イオン源2から引き出すイオンビーム4の向きはより下向きになるので、上記進行角θyaまたはθycを小さくして0度に近づけることができる。進行角θyaまたはθycがマイナス側(簡単に言えば下向き)の場合は、引出し電極系74の傾き角度βy を上記とは反対方向に変化させる。
【0079】
この実施形態の進行角修正方法は、上記進行角測定工程と進行角修正工程とを、進行角測定工程で測定した進行角θyaまたはθycが第1の許容範囲R1 (図12参照)内に入るまで1回ずつ以上行う。この許容範囲R1 は、例えば±0.1度程度の0度に近い範囲にしておく。
【0080】
その結果、例えば図12中に示す進行角分布P1 は、その元の形をほぼ保った状態で全体が下がって、二点鎖線で示す進行角分布P2 のように、0度付近を中心にしたものとなる。上記進行角分布P1 とは反対に、進行角分布がマイナス側に大きい場合は、全体が上がって0度付近を中心にしたものとなる。
【0081】
従ってこの進行角修正方法によれば、進行角測定工程で測定した進行角θyaまたはθycが第1の許容範囲R1 内に入るまで、イオンビーム4のy方向における進行角θy を修正することができる。
【0082】
その結果、ターゲット16に対するイオン注入において、より高精度の注入角制御が可能になる。その結果、例えば、ターゲット16の一例である半導体基板の表層部に半導体デバイスを製造する工程にイオン注入を用いる場合に、一つの半導体基板内におけるデバイス特性のばらつき低減、デバイス製造の歩留まり向上等を図ることができる。また、異なるロット間におけるデバイス特性のばらつき低減等にも効果がある。
【0083】
更に、輸送途中のイオンビーム4が構造物に衝突する可能性を小さくして、イオンビーム4の輸送効率を向上させることもできる。その結果、例えば、ターゲット16の処理能力(スループット)を高めること等に効果がある。
【0084】
図13に、引出し電極系74の傾き角度βy とイオンビーム4の進行角θy との関係を表す特性の一例を示す。これは、傾き角度βy を変化させると、ターゲット16付近での進行角θy がどの方向にどの位変化するかを表したものであり、各イオン注入装置に固有のものである。この特性から、進行角θy を0度に近づけるための修正に最適な傾き角度βy の大きさおよび方向(正負)を知ることができる。修正のためには、傾き角度βy の正負は、図の特性とは逆に見る。例えば、進行角θy がθy1のときは、傾き角度βy を−βy1にすれば良い。
【0085】
従って当該イオン注入装置におけるこのような特性を予め調べておいて、それを上記進行角修正工程において用いても良い。そのようにすれば、進行角θy の修正をより速やかに行うことができる。
【0086】
上記進行角測定工程で測定した進行角θyaまたはθycが第1の許容範囲R1 内に入った後に、進行角θy のx方向における分布を測定する上記進行角分布測定工程と、この進行角分布測定工程で測定した複数位置の進行角θy の内に、その大きさが第2の許容範囲R2 (図14参照)内から外れている進行角θy があるか否かを判定する進行角分布判定工程とを更に行っても良い。第2の許容範囲R2 は、上記第1の許容範囲R1 よりも広くしておく。例えば±0.3度程度にしておく。
【0087】
上記進行角分布測定工程では、一つの進行角θyaまたはθycを測定する上記進行角測定工程と違って、多点ファラデー24、28の複数の検出器を並列接続したり、x方向の中央付近の検出器を用いたりするのではなく、それぞれ複数の検出器を用いて、x方向の複数位置における進行角θy を測定する。測定した進行角分布P2 の一例を図14に示す。この進行角分布P2 は、図12中の進行角分布のP2 と同じものである。この図14の進行角分布P2 の場合は、許容範囲R2 から外れている進行角θy はない。
【0088】
上記のような判定を行うことによって、進行角分布の悪いイオンビーム4によるターゲット16へのイオン注入を防止することができる。その結果、例えば、ターゲット16の一例である半導体基板内に特性の悪い半導体デバイスが多く形成されて歩留まりが悪化したり、不良注入による半導体基板の損失や時間の損失等が発生することを防止することができる。
【0089】
制御装置50は、この実施形態では、(a)上記進行角測定工程と実質的に同じ内容の測定を行って、上記平均的な進行角θyaまたは中央付近の進行角θycを測定する進行角測定制御と、(b)この進行角測定制御で測定した進行角θyaまたはθycに基づいて上記電極駆動装置76を制御して、上記進行角修正工程と実質的に同じ内容の制御を行う進行角修正制御とを、進行角測定制御で測定した進行角θyaまたはθycが第1の許容範囲R1 内に入るまで1回ずつ以上行う機能を有している。従って、上記進行角測定工程および進行角修正工程と実質的に同じ内容の測定および制御を、制御装置50および電極駆動装置76を用いて行うことができるので、省力化を図ることができる。
【0090】
制御装置50において図13に示したような特性を用いる場合は、例えば、その特性を制御装置50内に格納しておけば良い。
【0091】
制御装置50は、この実施形態では更に、上記進行角測定制御で測定した進行角θyaまたはθycが第1の許容範囲R1 内に入った後に、(a)上記進行角分布測定工程と実質的に同じ内容の進行角分布測定制御と、(b)この進行角分布測定制御で測定した複数位置の進行角θy の内に、その大きさが第2の許容範囲R2 内から外れている進行角θy があるか否かを判定してその結果を表す信号Sa を出力する進行角分布判定制御とを行う機能を有している。信号Sa は、例えば、許容範囲R2 から外れている進行角θy が一つでもあれば「1」になり、一つもなければ「0」になる。もちろん、この論理値と逆にしても良い。
【0092】
従って、上記進行角分布測定工程および進行角分布判定工程と実質的に同じ内容の測定および判定を、制御装置50を用いて行うことができるので、省力化を図ることができる。また、制御装置50から出力される信号Sa を、警報出力や、イオン注入を止めるインターロック等に用いることができる。
【0093】
(4)イオンビームのx方向における進行角θx について
上記y方向における進行角θy に加えて、ターゲット16付近でのイオンビーム4のx方向における進行角θx (図15参照)についても、上記前段多点ファラデー24および後段多点ファラデー28を用いて測定し、更にそれを修正するようにしても良い。
【0094】
例えば、図1に示したイオン注入装置におけるように、ターゲット16付近におけるイオンビーム4がx方向の走査を経てリボン状をしている場合は(図3参照)、例えば特許第2969788号公報に記載されている技術と同様に、両多点ファラデー24、28を用いて、互いに対応する時刻におけるイオンビーム4のx方向における走査位置を上流側および下流側の2箇所で測定し、当該測定した走査位置間のx方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離に基づいて、ターゲット16付近でのイオンビームのx方向における進行角θx を測定する。
【0095】
そして、進行角θx が例えば図15に示すような場合(この方向のθx を便宜上マイナスとする)、ビーム平行化器14に供給する電流または電圧を増加させて、ビーム平行化器14におけるイオンビーム4の曲げを強くする。進行角θx が上記とは逆のプラスの場合は、上記電流または電圧を減少させて、ビーム平行化器14におけるイオンビーム4の曲げを弱くする。これによって、進行角θx を0度に近づけることができる。
【0096】
ターゲット16付近におけるイオンビーム4が図4に示した例のようにx方向の走査を経ずにリボン状をしている場合は、両多点ファラデー24、28の複数の検出器をそれぞれ用いて、イオンビーム4のx方向におけるビーム電流分布およびその中心位置(重心位置またはピーク位置)を上流側および下流側の2箇所で測定し、当該測定した中心位置間のx方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離に基づいて、イオンビーム4のx方向における進行角θx を測定する。
【0097】
そして、例えば上記ビーム平行化器14に相当するビーム偏向器を用いて、当該ビーム偏向器に供給する電流または電圧を上記と同様に増減させて、進行角θx を0度に近づける。
【0098】
上記のようにして、y方向における進行角θy に加えて、x方向における進行角θx も0度に近づける修正を行うことによって、x、y両方向の2次元において、より高精度の注入角制御を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】イオン注入装置の一例を示す概略平面図である。
【図2】イオン源の一例を示す概略図である。
【図3】x方向の走査を経て、x方向の寸法がy方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームの一例を部分的に示す概略斜視図である。
【図4】x方向の走査を経ることなく、x方向の寸法がy方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームの一例を部分的に示す概略斜視図である。
【図5】イオンビームのy方向における進行角θy の一例を示す図である。
【図6】ターゲット付近におけるイオンビームの測定装置および制御装置の一例を示す図である。
【図7】イオンビームのy方向のビーム電流密度分布j(y)の一例を示す図である。
【図8】イオンビームのy方向における進行角θy のより詳しい定義を説明するための図である。
【図9】前段ビーム制限シャッターの位置でのy方向のビーム電流密度分布を測定する方法の一例を示す図である。
【図10】前段ビーム制限シャッターの位置でのy方向のビーム電流密度分布の一例を示す図である。
【図11】前段多点ファラデー周りの他の例を示す図である。
【図12】イオンビームの進行角θy のx方向における分布の一例を示す図である。
【図13】引出し電極系の傾き角度βy とイオンビームの進行角θy との関係を表す特性の一例を示す図である。
【図14】イオンビームの進行角θy のx方向における分布の他の例を示す図である。
【図15】イオンビームのx方向における進行角θx の例を示す図である。
【符号の説明】
【0100】
2 イオン源
4 イオンビーム
16 ターゲット
24 前段多点ファラデー
28 後段多点ファラデー
50 制御装置
74 引出し電極系
76 電極駆動装置
θx 、θy 、θya、θyc 進行角
【技術分野】
【0001】
この発明は、x方向の走査を経て、またはx方向の走査を経ることなく、x方向の寸法が当該x方向と実質的に直交するy方向の寸法よりも大きいリボン状(これは、シート状または帯状と呼ぶこともできる)のイオンビームをターゲットに照射する構成のイオン注入装置において、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を修正する進行角修正方法および当該修正方法を実施することができるイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体デバイスの高性能化、高微細化等に伴い、より具体例を挙げれば急峻な注入境界を持つイオン注入等を実現することができるように、イオン注入技術には、より高精度の注入角制御を可能にすることが求められる傾向にある。例えば、上記のようなリボン状のイオンビームを用いてターゲットにイオン注入を行う場合、従来は殆ど問題にされていなかった、y方向におけるイオンビームの注入角(換言すれば、ターゲットへのイオンビームの入射角)をも精度良く制御することが重要になってきている。
【0003】
このy方向における注入角と、イオンビームのy方向における進行角とは大いに関係している。ターゲットのy方向における傾きに、上記進行角を加味したものが、注入角となるからである。従って、高精度の注入角制御を行うためには、イオンビームのy方向における進行角も重要である。
【0004】
このy方向における進行角については、ターゲットの上流側および下流側にそれぞれ設けられていて、イオンビームのビーム電流を測定する複数の検出器がx方向にそれぞれ並設されて成る前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを用いて、リボン状のイオンビームのy方向における進行角を測定する測定方法およびイオン注入装置が、特許文献1および2に記載されている。この進行角は、両特許文献では、y方向における角度偏差と呼ばれているが、両者は実質的に同じものである。
【0005】
【特許文献1】特開2007−5779号公報(段落0031−0033、0042、図7)
【特許文献2】特開2005−195417号公報(段落0028−0030、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1、2に記載の技術は、イオンビームのy方向における進行角を測定するまでのものである。しかし、実際のイオン注入装置においては、測定から更に進んで、当該進行角を所定のものに修正することが重要であるけれども、その修正の具体的な手段については、上記特許文献1、2には記載されていない。
【0007】
そこでこの発明は、イオンビームのy方向における進行角を修正することができる進行角修正方法およびイオン注入装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るイオンビームの進行角修正方法の一つは、イオンビームの設計上の進行方向をz方向とし、z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をx方向およびy方向とすると、引出し電極系を有するイオン源から引き出したイオンビームであって、x方向の走査を経て、またはx方向の走査を経ることなく、x方向の寸法がy方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームをターゲットに照射する構成の装置であって、ターゲット付近におけるイオンビーム進行方向の相対的に上流側および下流側に設けられていて、イオンビームのビーム電流を測定する複数の検出器がx方向にそれぞれ並設されて成る前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを有しているイオン注入装置において、前記前段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続し、かつ後段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続した状態で、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定する進行角測定工程と、当該進行角測定工程で測定した進行角を小さくする方向に、前記イオン源の引出し電極系のy方向における傾き角度を変化させて、前記イオン源から引き出すイオンビームのy方向における角度を変化させる進行角修正工程とを、前記進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで1回ずつ以上行うことを特徴としている。
【0009】
この進行角測定方法によれば、進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで、イオンビームのy方向における進行角を修正することができる。
【0010】
進行角測定工程においては、各多点ファラデーの複数の検出器をそれぞれ電気的に並列接続する代わりに、前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーのx方向における中央付近の検出器をそれぞれ用いても良い。
【0011】
前記進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入った後に、前記前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを用いて、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定し、しかもこのような測定をx方向の複数位置において行う進行角分布測定工程と、当該進行角分布測定工程で測定した複数位置の進行角の内に、その大きさが第2の許容範囲内から外れている進行角があるか否かを判定する進行角分布判定工程とを更に行っても良い。
【0012】
この発明に係るイオン注入装置の一つは、前記イオン源の引出し電極系の少なくともy方向における傾き角度を変化させる機能を有する電極駆動装置を備えており、更に、(a)前記前段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続し、かつ後段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続した状態で、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定する進行角測定制御と、(b)当該進行角測定制御で測定した進行角に基づいて前記電極駆動装置を制御して、当該進行角を小さくする方向に、前記イオン源の引出し電極系のy方向における傾き角度を変化させて、前記イオン源から引き出すイオンビームのy方向における角度を変化させる進行角修正制御とを、前記進行角測定制御で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで1回ずつ以上行う機能を有している制御装置を備えている。
【0013】
進行角測定制御においては、各多点ファラデーの複数の検出器をそれぞれ電気的に並列接続する代わりに、前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーのx方向における中央付近の検出器をそれぞれ用いても良い。
【0014】
前記制御装置は、前記進行角測定制御で測定した進行角が第1の許容範囲内に入った後に、(a)前記前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを用いて、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定し、しかもこのような測定をx方向の複数位置において行う進行角分布測定制御と、(b)当該進行角分布測定制御で測定した複数位置の進行角の内に、その大きさが第2の許容範囲内から外れている進行角があるか否かを判定してその結果を表す信号を出力する進行角分布判定制御とを行う機能を更に有していても良い。
【発明の効果】
【0015】
請求項1、2に記載の発明によれば、進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで、イオンビームのy方向における進行角を修正することができる。その結果、ターゲットに対するイオン注入において、より高精度の注入角制御が可能になる。また、輸送途中のイオンビームが構造物に衝突する可能性を小さくして、イオンビームの輸送効率を向上させることもできる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、次のような更なる効果を奏する。即ち、進行角が第1の許容範囲内に入った後に、更に、進行角分布測定工程で測定した複数位置の進行角の内にその大きさが第2の許容範囲内から外れている進行角があるか否かを判定するので、進行角分布の悪いイオンビームによるターゲットへのイオン注入を防止することができる。
【0017】
請求項4、5に記載の発明によれば、進行角測定制御で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで、イオンビームのy方向における進行角を修正することができる。その結果、ターゲットに対するイオン注入において、より高精度の注入角制御が可能になる。また、輸送途中のイオンビームが構造物に衝突する可能性を小さくして、イオンビームの輸送効率を向上させることもできる。しかも上記測定および制御を、制御装置および電極駆動装置を用いて行うことができるので、省力化を図ることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、次のような更なる効果を奏する。即ち、進行角が第1の許容範囲内に入った後に、更に、進行角分布測定制御で測定した複数位置の進行角の内にその大きさが第2の許容範囲内から外れている進行角があるか否かを判定してその結果を表す信号を出力するので、進行角分布の悪いイオンビームによるターゲットへのイオン注入を防止することができる。しかも上記測定および制御を、制御装置を用いて行うことができるので、省力化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(1)イオン注入装置の構成について
図1は、イオン注入装置の一例を示す概略平面図である。この明細書および図面においては、イオンビーム4の設計上の進行方向を常にz方向とし、このz方向と実質的に直交する面内において互いに実質的に直交する2方向をx方向およびy方向としている。例えば、x方向およびz方向は水平方向であり、y方向は垂直方向である。「設計上の進行方向」というのは、換言すれば、所定の進行方向、即ち本来進むべき進行方向のことである。
【0020】
このイオン注入装置は、リボン状イオンビームの元になる小さな断面形状のイオンビーム4を射出する(引き出す)イオン源2と、このイオン源2からのイオンビームが入射され当該イオンビーム4から所望質量のイオンビーム4を分離して取り出す質量分離器6と、この質量分離器6からのイオンビーム4が入射され当該イオンビーム4を加速または減速する加減速器8と、この加減速器8からのイオンビーム4が入射され当該イオンビーム4から所望エネルギーのイオンビーム4を分離して取り出すエネルギー分離器10と、このエネルギー分離器10からのイオンビーム4が入射され当該イオンビーム4をx方向に走査するビーム走査器12と、このビーム走査器12からのイオンビーム4が入射され当該イオンビーム4を曲げてビーム走査器12と協働してイオンビーム4を平行ビーム化するビーム平行化器14と、このビーム平行化器14からのイオンビーム4の照射領域内でターゲット(例えば半導体基板)16を、イオンビーム4の主面4b(図3参照)と交差する方向に、例えばy方向に機械的に往復走査(往復駆動)する(図6中の矢印22参照)ターゲット駆動装置20とを備えている。
【0021】
このイオン注入装置は、更に、図6に示す前段多点ファラデー24、後段多点ファラデー28、制御装置50等の測定装置および制御装置を備えている。この図6は後で詳述するが、ターゲット16は、図6に示すように、ターゲット駆動装置20のホルダ18に保持される。
【0022】
イオン源2は、図2に示す例のように、プラズマ72を生成するプラズマ生成部70と、このプラズマ生成部70内のプラズマ72から電界の作用でイオンビーム4を引き出す引出し電極系74と、この引出し電極系74を矢印Bで示すようにy方向から左右に傾けて、引出し電極系74の少なくともy方向における傾き角度(より厳密に言えば、y−z平面内におけるy方向からの傾き角度)βy を変化させる機能を有する電極駆動装置76とを備えている。
【0023】
引出し電極系74は、図2に示す例では、図示の簡略化等のために1枚の電極で示しているが、それに限られるものではなく、引出し電極系74を構成する電極の数は1枚以上で任意である。
【0024】
傾き角度βy は、チルト角とも呼ばれる。この傾き角度βy の正負の取り方は任意であるが、ここでは、図2中に二点鎖線で示す例のように、引出し電極系74がy方向の下向きに傾いている場合を負(マイナス)とする。
【0025】
図1に示すビーム平行化器14から導出されてターゲット16に照射されるイオンビーム4は、上記例では、x方向の高速の(例えば数十kHz程度の)走査(より具体的には平行走査)を経て、図3に示す例のように、x方向の寸法Wx がy方向の寸法Wy よりも大きい(より詳しく言えば、十分に大きい)形状をしている。このようなイオンビーム4も、この明細書ではリボン状のイオンビームと呼んでいる。走査前のイオンビーム4の断面形状は、例えば、図3中に符号4aで示すような小さな長方形をしている。
【0026】
このようなリボン状のイオンビーム4を用いると共に、ターゲット16を上記のように機械的に走査することによって、ターゲット16の全面にイオンビーム4を照射して均一性の良いイオン注入を行うことができる。
【0027】
但し、上記のようにx方向の走査を経たリボン状のイオンビーム4の代わりに、図4に示す例のように、x方向の走査を経ることなく(例えばイオン源2から引き出したイオンビーム4自体が)、x方向の寸法Wx がy方向の寸法Wy よりも大きくて(より詳しく言えば、十分に大きくて)リボン状をしているイオンビーム4をターゲット16に照射するようにしても良い。以下に説明する進行角θy の測定、制御等においては、断わりがない限り、図3のイオンビーム4と図4のイオンビーム4とを区別する必要はない。その測定、制御等の技術を、どちらのイオンビーム4にも適用することができるからである。
【0028】
イオンビーム4のy方向における進行角θy は、要約して言えば、図5に示す例のように、イオンビーム4の設計上の進行方向zに対する、現実のイオンビーム4のy方向における角度(より厳密に言えば、イオンビーム4の中心軌道の、y−z平面内におけるz方向からの角度)のことである。従って、イオンビーム4がz方向に完全に平行な軌道を辿る理想的な場合はθy =0°である。この進行角θy の正負の取り方は任意であるが、ここでは、図5に示す例のように、イオンビーム4がy方向の上向きに傾いている場合を正(プラス)とする。この進行角θy のより詳しい定義は後述する。
【0029】
図6を参照して、このイオン注入装置は、ターゲット16付近におけるイオンビーム4の進行方向zの相対的に上流側および下流側に、前段多点ファラデー24および後段多点ファラデー28を有している。より具体的にはこの実施形態では、イオンビーム4の進行方向z上の位置に関して、ターゲット16の上流側の位置zffに前段多点ファラデー24を有しており、ターゲット16の下流側の位置zfbに後段多点ファラデー28を有している。ターゲット16のz方向上の位置をzt とする。ターゲット16が図6に示す例のように傾いている場合は、ターゲット16の中心のz方向上の位置をzt とする。
【0030】
両多点ファラデー24、28は、それぞれ、イオンビーム4のビーム電流を測定するものであってx方向に並設された複数の検出器(図に表れていない)を有している。両多点ファラデー24、28を構成する複数の検出器の数を、それぞれm個、n個(m、nはそれぞれ2以上の整数)とする。m、nは、例えば、10〜20である。各検出器の前方には、スリット状の入口26、30がそれぞれ設けられている。各検出器は、例えばファラデーカップである。
【0031】
なお、両多点ファラデー24、28は、この実施形態のように、ターゲット16を挟んで上流側および下流側にそれぞれ設けておくのが、ターゲット16付近における進行角θy の測定をより高精度で行うことができるので好ましいけれども、それに限られるものではなく、両多点ファラデー24、28を、ターゲット16付近の上流側に、または下流側に設けても良い。
【0032】
(2)イオンビームの進行角θy の測定について
上記前段多点ファラデー24および後段多点ファラデー28を用いて、各多点ファラデー24、28にy方向においてイオンビーム4が徐々に入射するようにして、イオンビーム4のy方向における中心位置をイオンビーム進行方向zの上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット16付近でのイオンビーム4のy方向における進行角θy を測定する。この測定方法を以下に詳述する。
【0033】
図6を参照して、前段多点ファラデー24の上流側近傍の位置zf に、x方向に幅の広いイオンビーム4を遮ることができる前段ビーム制限シャッター32が設けられている。この前段ビーム制限シャッター32は、x方向に実質的に平行な一辺34を有している。この一辺34は、x方向とできるだけ精密に平行に保つのが好ましい。前段ビーム制限シャッター32は、この例ではx方向に長い長方形をしているが、それに限らない。また、前記一辺34は、この例では前段ビーム制限シャッター32の下辺であるが、上辺でも良い。
【0034】
前段ビーム制限シャッター32を保持してそれを、矢印38に示すように、y方向に往復駆動する前段シャッター駆動装置36が設けられている。この前段シャッター駆動装置36は、この例では、前段ビーム制限シャッター32のy方向の位置を精密に制御する制御回路および前記一辺34のy方向の位置y1 を精密に測定して出力する位置センサー(いずれも図示省略)を有している。
【0035】
更に、後段多点ファラデー28の上流側近傍の位置zb に、より具体的にはターゲット16よりも下流側であって後段多点ファラデー28の上流側近傍の位置zb に、x方向に幅の広いイオンビーム4を遮ることができる後段ビーム制限シャッター42が設けられている。この後段ビーム制限シャッター42は、x方向に実質的に平行な一辺44を有している。この一辺44は、x方向とできるだけ精密に平行に保つのが好ましい。後段ビーム制限シャッター42は、この例ではx方向に長い長方形をしているが、それに限らない。また、前記一辺44は、この例では後段ビーム制限シャッター42の下辺であるが、上辺でも良い。
【0036】
後段ビーム制限シャッター42を保持してそれを、矢印48に示すように、y方向に往復駆動する後段シャッター駆動装置46が設けられている。この後段シャッター駆動装置46は、この例では、後段ビーム制限シャッター42のy方向の位置を精密に制御する制御回路および前記一辺44のy方向の位置y1 を精密に測定して出力する位置センサー(いずれも図示省略)を有している。
【0037】
図8も参照して、z方向における前段ビーム制限シャッター32と後段ビーム制限シャッター42との間の距離、即ち位置zf と位置zb との間の距離をLとする。
【0038】
このイオン注入装置は、更に、後述する各種の処理や制御を行う制御装置50を備えている。この制御装置50は、前段シャッター駆動装置36、後段シャッター駆動装置46をそれぞれ制御して前段ビーム制限シャッター32、後段ビーム制限シャッター42を前記のようにそれぞれ駆動させると共に、前段シャッター駆動装置36、後段シャッター駆動装置46から前記位置y1 の情報をそれぞれ取り込む。更に、前段多点ファラデー24、後段多点ファラデー28から、後述するビーム電流Sf,i(y)、Sb,i(y)の情報をそれぞれ取り込む。更に制御装置50には、上記距離Lの情報が与えられる(例えば設定される)。
【0039】
ここで、この明細書における、イオンビーム4のy方向の中心軌道およびy方向における進行角θy の定義について説明する。
【0040】
図7に、イオンビーム4のy方向のビーム電流密度jの分布j(y)の一例を示す。ビーム電流密度分布j(y)は、ガウス分布に近い形状をしている場合が多いけれども、必ずしもそのような形状をしているとは限らないので、ここでは一例として、図7に示されているような形状を取り上げる。このとき、ビーム電流密度分布j(y)の積分の中心位置(換言すれば重心位置)を中心位置yc とする。即ち、図7中にハッチングを付した上半分の面積Sa と下半分の面積Sb とが互いに等しくなる位置が中心位置yc である。但し、上記のようにビーム電流密度分布j(y)がガウス分布に近い形状をしている場合は、そのピーク位置を中心位置yC としても良い。このようなイオンビーム4の中心位置yc の軌道が、イオンビーム4のy方向の中心軌道である。
【0041】
上記中心位置yc が、z方向において所定の距離だけ離れた2点間で異なっている場合、具体的には距離Lだけ離れた前段ビーム制限シャッター32の位置zf と後段ビーム制限シャッター42の位置zb (図8参照)との間で異なっている場合、イオンビーム4の中心軌道はy方向に進行角θy を持っていることになる。この場合、前段ビーム制限シャッター32の位置zf および後段ビーム制限シャッター42の位置zb におけるイオンビーム4の中心位置yc をそれぞれycf、ycbとすると、進行角θy は次式で表される。
【0042】
[数1]
θy =tan-1{(ycb−ycf)/L}
【0043】
次に、上記のように表される進行角θy の測定方法について説明する。
【0044】
測定に際しては、図9に示すように、前段多点ファラデー24を駆動装置(例えば、図11に示す前段ファラデー駆動装置56)によってイオンビーム4の経路上に位置させておいて、前段シャッター駆動装置36によって前段ビーム制限シャッター32をy方向に駆動しつつ、前段多点ファラデー24に入射するイオンビーム4のビーム電流を前段多点ファラデー24によって測定する。この前段ビーム制限シャッター32の駆動は、前段ビーム制限シャッター32がイオンビーム4を全く遮っていない状態から遮る状態への駆動でも良いけれども、ここでは、前段ビーム制限シャッター32がイオンビーム4を完全に遮っている状態から遮らない状態への駆動を例に説明する。その前段ビーム制限シャッター32の駆動方向を矢印39で示す。この場合、初めはイオンビーム4は前段ビーム制限シャッター32によって完全に遮られているため、前段多点ファラデー24にはイオンビーム4は全く入射しない。このときの前段ビーム制限シャッター32の前記一辺34のy座標位置をy0 とする。
【0045】
そして、前段ビーム制限シャッター32が、矢印39で示すようにy方向に駆動されると、駆動が進むにつれて、前段ビーム制限シャッター32によって遮られていたイオンビーム4の一部が前記一辺34の外側を通過して徐々に前段多点ファラデー24に入射するようになる。ここで、イオンビーム4の少なくとも一部が前段多点ファラデー24に入射しているときの前段ビーム制限シャッター32の前記一辺34のy座標位置をy1 とする。
【0046】
今、前段多点ファラデー24のx方向におけるi番目の検出器に着目し、その中心のx座標位置をxi とする。このとき、前段ビーム制限シャッター32の位置zf において、x方向の座標xi でのy方向の前記ビーム電流密度分布jf(y)を表す関数をjf,i(y)とする。このとき、i番目の検出器で測定されるビーム電流Sf,i(y1 )は、次式で表される。これを図示したのが図10である。ここでは、ビーム電流密度jf,i は、y0 以下ではゼロであるとしている。
【0047】
【数2】
【0048】
従って、前段シャッター駆動装置36によって前段ビーム制限シャッター32をy方向に駆動しつつ、前段多点ファラデー24でビーム電流Sf,i(y)を測定し、かつその次式で表される変化率から、即ちビーム電流Sf,i(y)を距離yで微分することによって、位置zf 、xi でのイオンビーム4のy方向のビーム電流密度分布jf,i(y)を求めることができるのでそれを行う。これを前段ビーム電流密度分布測定工程と呼ぶ。
【0049】
[数3]
dSf,i(y)/dy=jf,i(y)
【0050】
上記と同様の方法によって、後段多点ファラデー28、後段ビーム制限シャッター42および後段シャッター駆動装置46を用いて、位置zb 、xi でのイオンビーム4のy方向のビーム電流密度分布jb,i(y)を求めることができるのでそれを行う。これを後段ビーム電流密度分布測定工程と呼ぶ。なお、この後段での測定時は、その測定の妨げにならないように、前段ビーム制限シャッター32、前段多点ファラデー24およびターゲット16をイオンビーム4の経路から外しておく。この制御を制御装置50に行わせても良い。この場合、前段多点ファラデー24は駆動装置(例えば、図11に示す前段ファラデー駆動装置56)を用いてイオンビーム4の経路から外すようにすれば良い。
【0051】
更に、上記のようにして求めたビーム電流密度分布jf,i(y)、jb,i(y)から、前段ビーム制限シャッター32、後段ビーム制限シャッター42のそれぞれの位置zf 、zb でのイオンビーム4の前述したy方向の中心位置ycf、ycbをそれぞれ求める。これらを、それぞれ前段中心位置算出工程および後段中心位置算出工程と呼ぶ。
【0052】
更に、上記のようにして求めた中心位置ycf、ycbおよび前記距離Lを用いて、前記数1またはそれと数学的に等価な式に基づいて、イオンビーム4のy方向における進行角θy を求める。これを進行角算出工程と呼ぶ。
【0053】
なお、前段側においては、前記実施形態(図6等に示した実施形態。以下同様)のように、前段ビーム制限シャッター32およびそれをy方向に駆動する前段シャッター駆動装置36を設ける代わりに、図11に示す実施形態のように、イオンビーム4が通過する開口54を有するマスク52を前段多点ファラデー24の上流側近傍に設けておき、前段多点ファラデー24を前段ファラデー駆動装置56によってy方向に駆動するようにしても良い。この場合の実施形態を以下に説明する。
【0054】
前段多点ファラデー24は、軸57を介して、前段ファラデー駆動装置56によって、矢印58に示す上昇方向またはその逆の下降方向に駆動され、前述したようにイオンビーム4の経路に出し入れされるよう構成されている。前段多点ファラデー24と軸57とは、前段多点ファラデー24によるビーム電流測定に支障を来さないように、図示しない絶縁物によって電気的に絶縁されている。
【0055】
この前段多点ファラデー24を用いてのイオンビーム4の測定は、前段多点ファラデー24の上昇時に行っても良いし、前段多点ファラデー24の下降時に行っても良いけれども、ここでは、矢印58に示すように上昇時に行う例を説明する。
【0056】
前段多点ファラデー24は、前述したように(例えば図6参照)、複数の検出器の前方に入口26をそれぞれ有している。この実施形態では、その複数の入口26の上端60を結ぶ線が前記x方向に実質的に平行になるようにしておく。そのようにしておくと、x方向での測定のバランスが良くなるからである。
【0057】
前段ファラデー駆動装置56は、上記上端60のy方向の位置y1 を精密に測定して出力する位置センサー(図示省略)を有している。
【0058】
制御装置50は、この実施形態では、前記実施形態のように前段シャッター駆動装置36を駆動してそれからの前記位置y1 の情報を取り込む代わりに、前段ファラデー駆動装置56を上記のように駆動すると共にそれからの位置y1 の情報を取り込む。
【0059】
更に、この実施形態では、前段多点ファラデー24の入口26の位置をzf とし、z方向における入口26と後段ビーム制限シャッター42との間の距離、即ち位置zf と位置zb との間の距離をLとする。
【0060】
マスク52の開口54の正面形状は、この例では、x方向に長い長方形をしている。この開口54のy方向の寸法Wm は、前段多点ファラデー24の入口26のy方向の寸法Wf 以下にしておく方が測定が簡単であり好ましい。この実施形態ではWm <Wf にしており、その場合の例を主体に説明する。
【0061】
初めは、前段多点ファラデー24の上端60がマスク52の開口54よりも下にあるものとする。この場合は、イオンビーム4は、マスク52によって遮られて、前段多点ファラデー24には全く入射しない。このときの前段多点ファラデー24の上端60のy座標位置をy0 とする。
【0062】
そして、前段多点ファラデー24が、矢印58で示すようにy方向に駆動されると、その駆動が進むにつれて、マスク52によって遮られていたイオンビーム4の一部が開口54を通過して徐々に前段多点ファラデー24に入射するようになる。ここで、イオンビーム4の少なくとも一部が前段多点ファラデー24に入射しているときの前段多点ファラデー24の入口26の上端60のy座標位置をy1 とする。
【0063】
前記実施形態の場合と同様に、前段多点ファラデー24のx方向におけるi番目の検出器に着目し、その中心のx座標位置をxi とする。このとき、前段多点ファラデー24の入口26の位置zf において、x座標xi でのy方向の前記ビーム電流密度分布jf(y)を表す関数をjf,i(y)とする。このとき、i番目の検出器で測定されるビーム電流Sf,i(y1 )は、前記数2で表される。これを図示すると前記図10と同様になる。
【0064】
従って、前段ファラデー駆動装置56によって前段多点ファラデー24をy方向に駆動しつつ、当該前段多点ファラデー24でビーム電流Sf,i(y)を測定し、かつその前記数3で表される変化率から、即ちビーム電流Sf,i(y)を距離yで微分することによって、位置zf 、xi でのイオンビーム4のy方向のビーム電流密度分布jf,i(y)を求めることができる。
【0065】
上記例とは反対に、前段多点ファラデー24を上から下降させてイオンビーム4のビーム電流密度分布jf,i(y)を求めても良い。その場合は、上端60の代わりに、前段多点ファラデー24の入口26の下端62に着目すれば良い。そして、複数の入口26の下端62を結ぶ線がx方向に実質的に平行になるようにしておけば良い。
【0066】
マスク52の開口54の寸法Wm が前段多点ファラデー24の入口26の寸法Wf よりも大きい場合は、前段多点ファラデー24の駆動の途中でビーム電流の増減が互いに相殺されることが起こる可能性があるが、これの影響を避けることは可能である。例えば、イオンビーム4のy方向の中心過ぎまで前段多点ファラデー24を下から上昇させて行う測定と、前段多点ファラデー24を上から下降させて行う測定とに分けて測定すれば良い。
【0067】
マスク52の位置において、イオンビーム4のy方向の寸法Wy が開口54の寸法Wm よりも小さい場合は、寸法Wm の代わりにこの寸法Wy と前段多点ファラデー24の寸法Wf との関係を、上記と同様に考えれば良い。
【0068】
また、以上二つの段落に記載の内容を総合すれば分かるように、マスク52の開口54の寸法Wm は、前段多点ファラデー24の入口26の寸法Wf やイオンビーム4のy方向の寸法Wy よりも大きくても良く、これは言い換えれば、マスク52は必ずしも設けなくても良いということである。
【0069】
上記のようにして求めたビーム電流密度分布jf,i(y)を用いて、前記実施形態の場合と同様にして、イオンビーム4のy方向の中心位置ycfを求め、更にイオンビーム4のy方向における進行角θy を求めることができる。
【0070】
前段多点ファラデー24および後段多点ファラデー28は、前述したように、それぞれm個、n個の検出器をx方向に有しているので、上記iは、それぞれ1〜m、1〜nまでの任意の値を取ることができる。従って、1〜m、1〜nの内の任意のi番目の検出器を用いて、x方向の任意の位置において、イオンビーム4の進行角θy を測定することができる。その場合、前後の多点ファラデー24、28の検出器は、x方向の位置が互いに実質的に同じかまたは近い検出器を用いるのが、進行角θy をより正確に測定する観点から好ましい。
【0071】
また、着目する(測定に用いる)i番目の位置を上記範囲内で変えることによって、上記進行角θy をx方向の複数位置において測定して、進行角θy のx方向における分布を測定することができる。これが進行角分布測定工程である。この進行角分布測定工程は、上記前段ビーム電流密度分布測定工程、後段ビーム電流密度分布測定工程、前段中心位置算出工程、後段中心位置算出工程および進行角算出工程を総合したものである。
【0072】
進行角θy のx方向における分布は、実際のイオン注入装置においては、一様でない場合は、例えば図12中に示す進行角分布P1 のように、斜めに傾いている場合の多いことが経験によって分かっている。この傾きは、この進行角分布P1 とは逆の場合もある。
【0073】
そこで、以下に述べる進行角修正に用いるために、上記のような進行角分布P1 をしている進行角θy の平均的な進行角θya、またはx方向における中央付近の進行角θycを測定する。これが進行角測定工程である。両進行角θya、θycは、それぞれ一つの値であるので、後の進行角修正工程や進行角修正制御に用いるのに都合が良い。両進行角θya、θycは、実際のイオン注入装置における上記のような傾向から、通常は互いに近い値になる場合が多い。従ってどちらを用いても良い。この進行角測定工程も、上記前段ビーム電流密度分布測定工程、後段ビーム電流密度分布測定工程、前段中心位置算出工程、後段中心位置算出工程および進行角算出工程を総合したものである。
【0074】
上記平均的な進行角θyaを測定するには、前段多点ファラデー24の複数の検出器を互いに電気的に並列接続し、かつ後段多点ファラデー28の複数の検出器を互いに電気的に並列接続した状態で、上に詳述したように、各多点ファラデー24、28にy方向においてイオンビーム4が徐々に入射するようにして、イオンビーム4のy方向における中心位置をイオンビーム進行方向zの上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット16付近でのイオンビーム4のy方向における進行角θyaを測定する。複数の検出器を互いに電気的に並列接続するには、例えば、制御装置50内に引き込まれている複数の検出器からの複数の信号ラインを、制御装置50内においてスイッチで並列接続すれば良い。
【0075】
上記中央付近の進行角θycを測定するには、前段多点ファラデー24および後段多点ファラデー28のx方向における中央付近の検出器をそれぞれ用いて、上に詳述したように、各多点ファラデー24、28にy方向においてイオンビーム4が徐々に入射するようにして、イオンビーム4のy方向における中心位置をイオンビーム進行方向zの上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット16付近でのイオンビームのy方向における進行角θycを測定する。中央付近の検出器を用いるには、例えば、制御装置50内に引き込まれている複数の検出器からの複数の信号ラインの内で、x方向の中央付近の検出器からの信号ラインをスイッチで選択すれば良い。
【0076】
制御装置50は、上記前段ビーム電流密度分布測定工程と実質的に同じ内容の前段ビーム電流密度分布測定処理、上記後段ビーム電流密度分布測定工程と実質的に同じ内容の後段ビーム電流密度分布測定処理、上記前段中心位置算出工程と実質的に同じ内容の前段中心位置算出処理、上記後段中心位置算出工程と実質的に同じ内容の後段中心位置算出処理、上記進行角算出工程と実質的に同じ内容の進行角算出処理を行うことができる。即ち、上記進行角測定工程と実質的に同じ内容の進行角測定制御および上記進行角分布測定工程と実質的に同じ内容の進行角分布測定制御を行うことができる。
【0077】
(3)イオンビームの進行角θy の修正について
イオンビームの進行角θy の修正を行うには、上記進行角測定工程に加えて、当該進行角測定工程で測定した進行角θyaまたはθycを用いて、当該進行角θyaまたはθycを小さくする方向に(即ち、進行角θyaまたはθycを0度に近づける方向に)、イオン源2の引出し電極系74の傾き角度βy (図2参照)を変化させて、イオン源2から引き出すイオンビーム4のy方向における角度を変化させる。これが進行角修正工程である。より具体的には、進行角θyaまたはθycのy方向における向きと反対方向に、引出し電極系74のy方向における傾き角度βy を変化させる。
【0078】
例えば、進行角分布が図12中に示す進行角分布P1 のようにy方向のプラス側にある場合は、上記進行角θyaまたはθycはプラス側(簡単に言えば上向き)になり(これは図5に示す状態と同様である)、この場合は引出し電極系74をより下に向くように傾ける。例えば、傾き角度βy をよりマイナス側にする。元々傾き角度βy がプラス側であった場合は、傾き角度βy が0度に近づく、またはマイナス側になるように引出し電極系74の傾き角度βy を変化させる。これによって、イオン源2から引き出すイオンビーム4の向きはより下向きになるので、上記進行角θyaまたはθycを小さくして0度に近づけることができる。進行角θyaまたはθycがマイナス側(簡単に言えば下向き)の場合は、引出し電極系74の傾き角度βy を上記とは反対方向に変化させる。
【0079】
この実施形態の進行角修正方法は、上記進行角測定工程と進行角修正工程とを、進行角測定工程で測定した進行角θyaまたはθycが第1の許容範囲R1 (図12参照)内に入るまで1回ずつ以上行う。この許容範囲R1 は、例えば±0.1度程度の0度に近い範囲にしておく。
【0080】
その結果、例えば図12中に示す進行角分布P1 は、その元の形をほぼ保った状態で全体が下がって、二点鎖線で示す進行角分布P2 のように、0度付近を中心にしたものとなる。上記進行角分布P1 とは反対に、進行角分布がマイナス側に大きい場合は、全体が上がって0度付近を中心にしたものとなる。
【0081】
従ってこの進行角修正方法によれば、進行角測定工程で測定した進行角θyaまたはθycが第1の許容範囲R1 内に入るまで、イオンビーム4のy方向における進行角θy を修正することができる。
【0082】
その結果、ターゲット16に対するイオン注入において、より高精度の注入角制御が可能になる。その結果、例えば、ターゲット16の一例である半導体基板の表層部に半導体デバイスを製造する工程にイオン注入を用いる場合に、一つの半導体基板内におけるデバイス特性のばらつき低減、デバイス製造の歩留まり向上等を図ることができる。また、異なるロット間におけるデバイス特性のばらつき低減等にも効果がある。
【0083】
更に、輸送途中のイオンビーム4が構造物に衝突する可能性を小さくして、イオンビーム4の輸送効率を向上させることもできる。その結果、例えば、ターゲット16の処理能力(スループット)を高めること等に効果がある。
【0084】
図13に、引出し電極系74の傾き角度βy とイオンビーム4の進行角θy との関係を表す特性の一例を示す。これは、傾き角度βy を変化させると、ターゲット16付近での進行角θy がどの方向にどの位変化するかを表したものであり、各イオン注入装置に固有のものである。この特性から、進行角θy を0度に近づけるための修正に最適な傾き角度βy の大きさおよび方向(正負)を知ることができる。修正のためには、傾き角度βy の正負は、図の特性とは逆に見る。例えば、進行角θy がθy1のときは、傾き角度βy を−βy1にすれば良い。
【0085】
従って当該イオン注入装置におけるこのような特性を予め調べておいて、それを上記進行角修正工程において用いても良い。そのようにすれば、進行角θy の修正をより速やかに行うことができる。
【0086】
上記進行角測定工程で測定した進行角θyaまたはθycが第1の許容範囲R1 内に入った後に、進行角θy のx方向における分布を測定する上記進行角分布測定工程と、この進行角分布測定工程で測定した複数位置の進行角θy の内に、その大きさが第2の許容範囲R2 (図14参照)内から外れている進行角θy があるか否かを判定する進行角分布判定工程とを更に行っても良い。第2の許容範囲R2 は、上記第1の許容範囲R1 よりも広くしておく。例えば±0.3度程度にしておく。
【0087】
上記進行角分布測定工程では、一つの進行角θyaまたはθycを測定する上記進行角測定工程と違って、多点ファラデー24、28の複数の検出器を並列接続したり、x方向の中央付近の検出器を用いたりするのではなく、それぞれ複数の検出器を用いて、x方向の複数位置における進行角θy を測定する。測定した進行角分布P2 の一例を図14に示す。この進行角分布P2 は、図12中の進行角分布のP2 と同じものである。この図14の進行角分布P2 の場合は、許容範囲R2 から外れている進行角θy はない。
【0088】
上記のような判定を行うことによって、進行角分布の悪いイオンビーム4によるターゲット16へのイオン注入を防止することができる。その結果、例えば、ターゲット16の一例である半導体基板内に特性の悪い半導体デバイスが多く形成されて歩留まりが悪化したり、不良注入による半導体基板の損失や時間の損失等が発生することを防止することができる。
【0089】
制御装置50は、この実施形態では、(a)上記進行角測定工程と実質的に同じ内容の測定を行って、上記平均的な進行角θyaまたは中央付近の進行角θycを測定する進行角測定制御と、(b)この進行角測定制御で測定した進行角θyaまたはθycに基づいて上記電極駆動装置76を制御して、上記進行角修正工程と実質的に同じ内容の制御を行う進行角修正制御とを、進行角測定制御で測定した進行角θyaまたはθycが第1の許容範囲R1 内に入るまで1回ずつ以上行う機能を有している。従って、上記進行角測定工程および進行角修正工程と実質的に同じ内容の測定および制御を、制御装置50および電極駆動装置76を用いて行うことができるので、省力化を図ることができる。
【0090】
制御装置50において図13に示したような特性を用いる場合は、例えば、その特性を制御装置50内に格納しておけば良い。
【0091】
制御装置50は、この実施形態では更に、上記進行角測定制御で測定した進行角θyaまたはθycが第1の許容範囲R1 内に入った後に、(a)上記進行角分布測定工程と実質的に同じ内容の進行角分布測定制御と、(b)この進行角分布測定制御で測定した複数位置の進行角θy の内に、その大きさが第2の許容範囲R2 内から外れている進行角θy があるか否かを判定してその結果を表す信号Sa を出力する進行角分布判定制御とを行う機能を有している。信号Sa は、例えば、許容範囲R2 から外れている進行角θy が一つでもあれば「1」になり、一つもなければ「0」になる。もちろん、この論理値と逆にしても良い。
【0092】
従って、上記進行角分布測定工程および進行角分布判定工程と実質的に同じ内容の測定および判定を、制御装置50を用いて行うことができるので、省力化を図ることができる。また、制御装置50から出力される信号Sa を、警報出力や、イオン注入を止めるインターロック等に用いることができる。
【0093】
(4)イオンビームのx方向における進行角θx について
上記y方向における進行角θy に加えて、ターゲット16付近でのイオンビーム4のx方向における進行角θx (図15参照)についても、上記前段多点ファラデー24および後段多点ファラデー28を用いて測定し、更にそれを修正するようにしても良い。
【0094】
例えば、図1に示したイオン注入装置におけるように、ターゲット16付近におけるイオンビーム4がx方向の走査を経てリボン状をしている場合は(図3参照)、例えば特許第2969788号公報に記載されている技術と同様に、両多点ファラデー24、28を用いて、互いに対応する時刻におけるイオンビーム4のx方向における走査位置を上流側および下流側の2箇所で測定し、当該測定した走査位置間のx方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離に基づいて、ターゲット16付近でのイオンビームのx方向における進行角θx を測定する。
【0095】
そして、進行角θx が例えば図15に示すような場合(この方向のθx を便宜上マイナスとする)、ビーム平行化器14に供給する電流または電圧を増加させて、ビーム平行化器14におけるイオンビーム4の曲げを強くする。進行角θx が上記とは逆のプラスの場合は、上記電流または電圧を減少させて、ビーム平行化器14におけるイオンビーム4の曲げを弱くする。これによって、進行角θx を0度に近づけることができる。
【0096】
ターゲット16付近におけるイオンビーム4が図4に示した例のようにx方向の走査を経ずにリボン状をしている場合は、両多点ファラデー24、28の複数の検出器をそれぞれ用いて、イオンビーム4のx方向におけるビーム電流分布およびその中心位置(重心位置またはピーク位置)を上流側および下流側の2箇所で測定し、当該測定した中心位置間のx方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離に基づいて、イオンビーム4のx方向における進行角θx を測定する。
【0097】
そして、例えば上記ビーム平行化器14に相当するビーム偏向器を用いて、当該ビーム偏向器に供給する電流または電圧を上記と同様に増減させて、進行角θx を0度に近づける。
【0098】
上記のようにして、y方向における進行角θy に加えて、x方向における進行角θx も0度に近づける修正を行うことによって、x、y両方向の2次元において、より高精度の注入角制御を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】イオン注入装置の一例を示す概略平面図である。
【図2】イオン源の一例を示す概略図である。
【図3】x方向の走査を経て、x方向の寸法がy方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームの一例を部分的に示す概略斜視図である。
【図4】x方向の走査を経ることなく、x方向の寸法がy方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームの一例を部分的に示す概略斜視図である。
【図5】イオンビームのy方向における進行角θy の一例を示す図である。
【図6】ターゲット付近におけるイオンビームの測定装置および制御装置の一例を示す図である。
【図7】イオンビームのy方向のビーム電流密度分布j(y)の一例を示す図である。
【図8】イオンビームのy方向における進行角θy のより詳しい定義を説明するための図である。
【図9】前段ビーム制限シャッターの位置でのy方向のビーム電流密度分布を測定する方法の一例を示す図である。
【図10】前段ビーム制限シャッターの位置でのy方向のビーム電流密度分布の一例を示す図である。
【図11】前段多点ファラデー周りの他の例を示す図である。
【図12】イオンビームの進行角θy のx方向における分布の一例を示す図である。
【図13】引出し電極系の傾き角度βy とイオンビームの進行角θy との関係を表す特性の一例を示す図である。
【図14】イオンビームの進行角θy のx方向における分布の他の例を示す図である。
【図15】イオンビームのx方向における進行角θx の例を示す図である。
【符号の説明】
【0100】
2 イオン源
4 イオンビーム
16 ターゲット
24 前段多点ファラデー
28 後段多点ファラデー
50 制御装置
74 引出し電極系
76 電極駆動装置
θx 、θy 、θya、θyc 進行角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームの設計上の進行方向をz方向とし、z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をx方向およびy方向とすると、引出し電極系を有するイオン源から引き出したイオンビームであって、x方向の走査を経て、またはx方向の走査を経ることなく、x方向の寸法がy方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームをターゲットに照射する構成の装置であって、ターゲット付近におけるイオンビーム進行方向の相対的に上流側および下流側に設けられていて、イオンビームのビーム電流を測定する複数の検出器がx方向にそれぞれ並設されて成る前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを有しているイオン注入装置において、
前記前段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続し、かつ後段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続した状態で、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定する進行角測定工程と、
当該進行角測定工程で測定した進行角を小さくする方向に、前記イオン源の引出し電極系のy方向における傾き角度を変化させて、前記イオン源から引き出すイオンビームのy方向における角度を変化させる進行角修正工程とを、
前記進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで1回ずつ以上行うことを特徴とするイオンビームの進行角修正方法。
【請求項2】
イオンビームの設計上の進行方向をz方向とし、z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をx方向およびy方向とすると、引出し電極系を有するイオン源から引き出したイオンビームであって、x方向の走査を経て、またはx方向の走査を経ることなく、x方向の寸法がy方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームをターゲットに照射する構成の装置であって、ターゲット付近におけるイオンビーム進行方向の相対的に上流側および下流側に設けられていて、イオンビームのビーム電流を測定する複数の検出器がx方向にそれぞれ並設されて成る前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを有しているイオン注入装置において、
前記前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーのx方向における中央付近の検出器をそれぞれ用いて、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定する進行角測定工程と、
当該進行角測定工程で測定した進行角を小さくする方向に、前記イオン源の引出し電極系のy方向における傾き角度を変化させて、前記イオン源から引き出すイオンビームのy方向における角度を変化させる進行角修正工程とを、
前記進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで1回ずつ以上行うことを特徴とするイオンビームの進行角修正方法。
【請求項3】
前記進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入った後に、
前記前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを用いて、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定し、しかもこのような測定をx方向の複数位置において行う進行角分布測定工程と、
当該進行角分布測定工程で測定した複数位置の進行角の内に、その大きさが第2の許容範囲内から外れている進行角があるか否かを判定する進行角分布判定工程とを更に行う請求項1または2記載のイオンビームの進行角修正方法。
【請求項4】
イオンビームの設計上の進行方向をz方向とし、z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をx方向およびy方向とすると、引出し電極系を有するイオン源から引き出したイオンビームであって、x方向の走査を経て、またはx方向の走査を経ることなく、x方向の寸法がy方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームをターゲットに照射する構成の装置であって、ターゲット付近におけるイオンビーム進行方向の相対的に上流側および下流側に設けられていて、イオンビームのビーム電流を測定する複数の検出器がx方向にそれぞれ並設されて成る前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを有しているイオン注入装置において、
前記イオン源の引出し電極系の少なくともy方向における傾き角度を変化させる機能を有する電極駆動装置を備えており、
更に、(a)前記前段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続し、かつ後段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続した状態で、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定する進行角測定制御と、(b)当該進行角測定制御で測定した進行角に基づいて前記電極駆動装置を制御して、当該進行角を小さくする方向に、前記イオン源の引出し電極系のy方向における傾き角度を変化させて、前記イオン源から引き出すイオンビームのy方向における角度を変化させる進行角修正制御とを、前記進行角測定制御で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで1回ずつ以上行う機能を有している制御装置を備えていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項5】
イオンビームの設計上の進行方向をz方向とし、z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をx方向およびy方向とすると、引出し電極系を有するイオン源から引き出したイオンビームであって、x方向の走査を経て、またはx方向の走査を経ることなく、x方向の寸法がy方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームをターゲットに照射する構成の装置であって、ターゲット付近におけるイオンビーム進行方向の相対的に上流側および下流側に設けられていて、イオンビームのビーム電流を測定する複数の検出器がx方向にそれぞれ並設されて成る前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを有しているイオン注入装置において、
前記イオン源の引出し電極系の少なくともy方向における傾き角度を変化させる機能を有する電極駆動装置を備えており、
更に、(a)前記前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーのx方向における中央付近の検出器をそれぞれ用いて、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定する進行角測定制御と、(b)当該進行角測定制御で測定した進行角に基づいて前記電極駆動装置を制御して、当該進行角を小さくする方向に、前記イオン源の引出し電極系のy方向における傾き角度を変化させて、前記イオン源から引き出すイオンビームのy方向における角度を変化させる進行角修正制御とを、前記進行角測定制御で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで1回ずつ以上行う機能を有している制御装置を備えていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記進行角測定制御で測定した進行角が第1の許容範囲内に入った後に、(a)前記前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを用いて、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定し、しかもこのような測定をx方向の複数位置において行う進行角分布測定制御と、(b)当該進行角分布測定制御で測定した複数位置の進行角の内に、その大きさが第2の許容範囲内から外れている進行角があるか否かを判定してその結果を表す信号を出力する進行角分布判定制御とを行う機能を更に有している請求項4または5記載のイオン注入装置。
【請求項1】
イオンビームの設計上の進行方向をz方向とし、z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をx方向およびy方向とすると、引出し電極系を有するイオン源から引き出したイオンビームであって、x方向の走査を経て、またはx方向の走査を経ることなく、x方向の寸法がy方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームをターゲットに照射する構成の装置であって、ターゲット付近におけるイオンビーム進行方向の相対的に上流側および下流側に設けられていて、イオンビームのビーム電流を測定する複数の検出器がx方向にそれぞれ並設されて成る前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを有しているイオン注入装置において、
前記前段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続し、かつ後段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続した状態で、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定する進行角測定工程と、
当該進行角測定工程で測定した進行角を小さくする方向に、前記イオン源の引出し電極系のy方向における傾き角度を変化させて、前記イオン源から引き出すイオンビームのy方向における角度を変化させる進行角修正工程とを、
前記進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで1回ずつ以上行うことを特徴とするイオンビームの進行角修正方法。
【請求項2】
イオンビームの設計上の進行方向をz方向とし、z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をx方向およびy方向とすると、引出し電極系を有するイオン源から引き出したイオンビームであって、x方向の走査を経て、またはx方向の走査を経ることなく、x方向の寸法がy方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームをターゲットに照射する構成の装置であって、ターゲット付近におけるイオンビーム進行方向の相対的に上流側および下流側に設けられていて、イオンビームのビーム電流を測定する複数の検出器がx方向にそれぞれ並設されて成る前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを有しているイオン注入装置において、
前記前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーのx方向における中央付近の検出器をそれぞれ用いて、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定する進行角測定工程と、
当該進行角測定工程で測定した進行角を小さくする方向に、前記イオン源の引出し電極系のy方向における傾き角度を変化させて、前記イオン源から引き出すイオンビームのy方向における角度を変化させる進行角修正工程とを、
前記進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで1回ずつ以上行うことを特徴とするイオンビームの進行角修正方法。
【請求項3】
前記進行角測定工程で測定した進行角が第1の許容範囲内に入った後に、
前記前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを用いて、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定し、しかもこのような測定をx方向の複数位置において行う進行角分布測定工程と、
当該進行角分布測定工程で測定した複数位置の進行角の内に、その大きさが第2の許容範囲内から外れている進行角があるか否かを判定する進行角分布判定工程とを更に行う請求項1または2記載のイオンビームの進行角修正方法。
【請求項4】
イオンビームの設計上の進行方向をz方向とし、z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をx方向およびy方向とすると、引出し電極系を有するイオン源から引き出したイオンビームであって、x方向の走査を経て、またはx方向の走査を経ることなく、x方向の寸法がy方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームをターゲットに照射する構成の装置であって、ターゲット付近におけるイオンビーム進行方向の相対的に上流側および下流側に設けられていて、イオンビームのビーム電流を測定する複数の検出器がx方向にそれぞれ並設されて成る前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを有しているイオン注入装置において、
前記イオン源の引出し電極系の少なくともy方向における傾き角度を変化させる機能を有する電極駆動装置を備えており、
更に、(a)前記前段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続し、かつ後段多点ファラデーの複数の検出器を互いに電気的に並列接続した状態で、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定する進行角測定制御と、(b)当該進行角測定制御で測定した進行角に基づいて前記電極駆動装置を制御して、当該進行角を小さくする方向に、前記イオン源の引出し電極系のy方向における傾き角度を変化させて、前記イオン源から引き出すイオンビームのy方向における角度を変化させる進行角修正制御とを、前記進行角測定制御で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで1回ずつ以上行う機能を有している制御装置を備えていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項5】
イオンビームの設計上の進行方向をz方向とし、z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をx方向およびy方向とすると、引出し電極系を有するイオン源から引き出したイオンビームであって、x方向の走査を経て、またはx方向の走査を経ることなく、x方向の寸法がy方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームをターゲットに照射する構成の装置であって、ターゲット付近におけるイオンビーム進行方向の相対的に上流側および下流側に設けられていて、イオンビームのビーム電流を測定する複数の検出器がx方向にそれぞれ並設されて成る前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを有しているイオン注入装置において、
前記イオン源の引出し電極系の少なくともy方向における傾き角度を変化させる機能を有する電極駆動装置を備えており、
更に、(a)前記前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーのx方向における中央付近の検出器をそれぞれ用いて、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定する進行角測定制御と、(b)当該進行角測定制御で測定した進行角に基づいて前記電極駆動装置を制御して、当該進行角を小さくする方向に、前記イオン源の引出し電極系のy方向における傾き角度を変化させて、前記イオン源から引き出すイオンビームのy方向における角度を変化させる進行角修正制御とを、前記進行角測定制御で測定した進行角が第1の許容範囲内に入るまで1回ずつ以上行う機能を有している制御装置を備えていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記進行角測定制御で測定した進行角が第1の許容範囲内に入った後に、(a)前記前段多点ファラデーおよび後段多点ファラデーを用いて、各多点ファラデーにy方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビームのy方向における中心位置をイオンビーム進行方向の上流側および下流側の2箇所で求めて、当該中心位置間のy方向における距離および前記2箇所間のz方向における距離を用いて、ターゲット付近でのイオンビームのy方向における進行角を測定し、しかもこのような測定をx方向の複数位置において行う進行角分布測定制御と、(b)当該進行角分布測定制御で測定した複数位置の進行角の内に、その大きさが第2の許容範囲内から外れている進行角があるか否かを判定してその結果を表す信号を出力する進行角分布判定制御とを行う機能を更に有している請求項4または5記載のイオン注入装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−235006(P2008−235006A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72895(P2007−72895)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
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