説明

イオンビームミキシング方法

【目的】 イオンビームミキシング方法で基板上に成膜する場合、成膜速度、膜質、基板と膜の付着力の改善を目的とする。
【構成】 ミキシングチャンバー17内のターゲット7にAr+ イオンビーム6を入射させてスパッタ原子8を放出せしめ、一方基板11にはN2 + イオンビーム9を走査しながら照射すると共に、ミキシングチャンバー17内には反応ガス15を導入し、かつ光源13から光13a(主として紫外線)を基板11の表面、反応ガス15及びスパッタ原子8に照射して基板11上にスパッタ原子8による成膜と同時にミキシングされたミキシング膜16を成長させるように構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はイオンビームミキシング方法に関し、特にガス及び光を使用したイオンビームミキシングを行う成膜法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、基板上に薄膜を形成する場合、スパッタリング又は真空蒸着による薄膜の形成後、イオンビームを薄膜上に照射して薄膜と基板の付着力を強化することが行われていた。
【0003】この方法の一つとして図3に示すように真空チャンバー21の内部にターゲット24を装着したターゲットホルダー25と試料22を装着した試料ホルダー23が互いに対向して配置され、ターゲット24及び試料22のそれぞれの表面にイオンビームを照射するイオン銃27、26が設けられているが、2個のイオン銃が必要であり、装置が複雑で大型となる欠点がある。
【0004】これを改良したものとして、本出願人が提案した特願昭63−334093号(複合イオンビーム照射方法及び照射装置)がある。この装置は図2に示すように、複合イオンビーム3を発生するイオン源1と、このイオン源1から放出された複合イオンビーム3を分離する質量分析器4と、この質量分析器4で分離された各イオンの進行方向を平行にせしめる複合イオンビーム偏向装置5と、分離された一方のイオンビームを走査させるビームスキャナー10と、前記分離された各イオンビームを導入し、かつ薄膜を形成させる基板11及びターゲット7を配置したミキシングチャンバー12とよりなる。
【0005】前記イオン源1には2種類のイオン源ガス(例えばAr、N2)を導入するガス導入管1a、1bが設けられており、イオン放出口1cの外側には放出されたイオン(Ar+ 、N2 + )を加速して複合イオンビーム3とする加速電極2が設けられている。
【0006】この加速電極2の出力側に設けられている前記質量分析器4は約1/4円周に沿って湾曲した円筒形で、横方向から一定の磁場が印加されて、通過するイオンビームをその質量及び荷電数に応じて湾曲せしめるように構成されている。
【0007】この質量分析器4の出力端には分離されたそれぞれのイオンビームの軌跡を別個に微調整するために2組の対向する電極で構成された複合イオンビーム偏向装置5が設けられている。この各組の電極にはそれぞれ別個の電源により電圧V1 、V2 が印加されてそれぞれ独立した電場を構成するものである。
【0008】この複合イオンビーム偏向装置5を通過したイオンビームのうち、一方の質量の大きいAr+ ビーム6はそのまま直進してミキシングチャンバー12内のターゲット7を照射してスパッタ原子8を発生させ、他方の質量の小さいN2 + ビーム9はビームスキャナー10を通過して基板11を走査しながら照射する。
【0009】上述の質量分析器4にはイオンビームの軌跡と垂直方向に磁場が印加されているので、この磁場を通過するイオンビームは加速された電圧が同じであれば、その原子特有の原子量(質量数)とイオンの荷電数との比に対応した曲率半径ρで湾曲した軌跡を描く
【0010】例えば、Ar+ (ρ1 )とN2 + (ρ2 )の場合には
【数1】


となり、Ar+ ビーム6とN2 + ビーム9の軌跡は分離する。
【0011】なお、上述のターゲット7のAr+ ビーム6による照射面は基板11の方向に傾斜しており、Ar+ ビーム6の照射により発生するスパッタ原子8により基板11に薄膜が形成される。
【0012】上述のイオン源1からターゲット7、基板11までのイオンビームの軌跡は図示しない容器内に収容されて10-5〜10-6Torrの真空に保持されているものである。
【0013】次にこの動作について説明する。先ず、イオン源1のガス導入管1a、1bからそれぞれ異なったガスを導入する。上述の例ではArガスとN2 ガスを使用している。この結果イオン源1の内部でAr+ とN2 + のイオンが混在した複合イオンが生成され、この複合イオンを加速電極2で加速して複合イオンビーム3として出力される。
【0014】この複合イオンビーム3は質量分析器4に入力され、そこに印加されている磁場により各イオン原子の原子量及び荷電されている電子数に応じて磁場方向と垂直方向に湾曲された軌跡を描くことになる。
【0015】この場合、各イオンの受ける力FはF=qvB=m(d2 x/dt2
q:イオンの荷電量で1荷イオンでは1.6×10-19 クーロン2荷イオンでは2×1.6×10-19 クーロンv:イオンビームの速度(m/sec)
B:磁場の強さ(Wp/m2
m:イオンの質量で、N+ では m=14×938MeVN2 + では m=28×938MeVAr+ では m=40×938MeV
【0016】この力Fにより、イオンビームはその原子特有の上記の荷電数/質量数に対応した曲率半径で湾曲した軌道を描くので、同一点から入力した2種類のイオンビームの軌跡は分離され、異なった点から出力する。
【0017】このように分離されたAr+ ビーム6及びN2 + ビーム9は複合イオンビーム偏向装置5のそれぞれの電場によって軌道が修正され、重い方のAr+ ビーム6は直進してターゲット7を照射し、ターゲット7の材質のスパッタ原子8を放射せしめる。このスパッタ原子8は基板11の表面に薄膜を形成する。
【0018】一方、同じく軌道を修正された軽い方のN2 + ビーム9はビームスキャナー10で基板11の全面に走査するように偏向され、基板11の全面を照射する。
【0019】この場合、Ar+ ビーム6によるターゲット7の照射と、N2 + ビーム9による基板11の照射とは同時に行われているので、スパッタ原子8による基板11上の成膜は、成膜が進行しながら同時にミキシングが行われている。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述の各方法でも成膜速度、膜質、基板との付着強度等で改善を必要とする点がある。特に改善された後者の場合では、装置等ではほぼ満足すべき状態であるが、成膜そのものに、なお上述のような改善すべき点がある。
【0021】本発明は上述の問題を解決して、装置も簡単で、かつ成膜も理想的な膜質となるような成膜方法を提供することを課題とする。
【0022】
【課題を解決するための手段】上述の課題を解決するために、スパッタリング又は真空蒸着による粒子と注入イオンを基板表面で混合させて薄膜を形成せしめる方法において、前記粒子と反応するガスを導入し、前記反応ガス及び前記粒子の両方、又は何れか一方に光を照射しつつ薄膜を形成するものである。なお、前記照射する光が紫外線であるものがある。
【0023】
【実施例】図1は本発明の成膜方法を実施するためのミキシングチャンバーである。このミキシングチャンバーは上述の特願昭63−334093号の複合イオンビーム照射装置(図2に示す)のミキシングチャンバー12に代わるもので、それより前側のイオンビームの生成過程は同じであるので、主としてミキシングチャンバー部分の説明をする。
【0024】図1のミキシングチャンバー17にはスパッタ原子8と反応する反応ガス15を導入する反応ガス導入管14が設けられており、更に基板11の表面、反応ガス15及びスパッタ原子8を照射する光13aを発生する光源13が設けられている。
【0025】実験例−1 イオン源1にガス導入管1a、1bからそれぞれArガス0.1CCMとN2 ガス0.06CCMを導入し、Ar+ とN2 + の複合イオンを生成する。この複合イオンを20kVの電圧を印加した加速電極2でイオン放出口1cから引出して複合イオンビーム3とし、質量分析器4の電磁石に電流13Aを通電して磁場を発生させ、Ar+ ビーム6とN2 + ビーム9とに分離する。このうちAr+ ビーム6(ビーム電流300μA)をターゲット7のTi表面に照射し、Tiのスパッタ原子8を放出させる。
【0026】一方、N2 + ビーム9(ビーム電流80μA)をビームスキャナー10で走査してアルミナの基板11の全面に照射する。この場合、反応ガス導入管14から反応ガス15として N2 ガスをミキシングチャンバー17内に0.4CCM導入し、同時に基板11の表面、反応ガス15及びスパッタ原子8に重水素ランプよりなる光源13から紫外線(波長112nm)を照射する。
【0027】この状態で4時間照射後、基板11上にミキシング膜16としてTiNが228nmの厚さに成膜されていた。この成膜速度は、ミキシングチャンバー12内でN2 ガスを導入せず、紫外線も照射しない以外は上述と同じ条件で成膜した場合に比べて2倍速かった。
【0028】実験例−2 イオン源1にガス導入管1a、1bからそれぞれArガス0.2CCMとN2 ガス0.1CCMを導入し、Ar+とN2 + の複合イオンを生成する。この複合イオンを20kVの電圧で加速した加速電極2でイオン放出口1cから引出して複合イオンビーム3とし、質量分析器4の電磁石に電流13.5Aを通電して磁場を発生させ、Ar+ ビーム6とN2 + ビーム9とに分離する。このうちのAr+ ビーム6(ビーム電流300μA)をターゲット7のTi表面に照射し、Tiのスパッタ原子8を放出させる。
【0029】一方、N2 + ビーム9(ビーム電流300μA)をアルミナの基板11に照射する。この場合、反応ガス導入管14から反応ガス15としてN2 ガスをミキシングチャンバー17内に0.8CCM導入し、同時に基板11の表面、反応ガス15及びスパッタ原子8に重水素ランプよりなる光源13から紫外線(波長112nm)を照射する。
【0030】この状態で4時間照射後、基板11上にミキシング膜16としてTiNが350nmの厚さに成膜されていた。この成膜速度はミキシングチャンバー12内でN2 ガスを導入せず、紫外線も照射しない以外は上述と同じ条件で成膜した場合に比べて2.4倍速かった。
【0031】
【発明の効果】上述のように、反応ガス15を導入し、かつ紫外線を照射することにより、スパッタ原子8による成膜と同時にミキシング膜16となるので、付着力の強いミキシング膜16の生成が可能である。
【0032】又、一旦成膜してからミキシングする従来方法と比べて成膜速度を2倍以上早くすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のイオンビームミキシング方法を実施するためのミキシングチャンバーの構成図である。
【図2】従来の改良された複合イオンビーム照射装置の構成図である。
【図3】従来のイオンビームミキシング装置の構成図である。
【符号の説明】
1 イオン源
2 加速電極
3 複合イオンビーム
4 質量分析器
5 複合イオンビーム偏向装置
6 Ar+ ビーム
7 ターゲット
8 スパッタ原子
9 N2 + ビーム
10 ビームスキャナー
11 基板
13 光源
13a 光
14 反応ガス導入管
15 反応ガス
16 ミキシング膜
17 ミキシングチャンバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】 スパッタリング又は真空蒸着による粒子と注入イオンを基板表面で混合させて薄膜を形成せしめる方法において、前記粒子と反応するガスを導入し、前記反応ガス及び前記粒子の両方、又は何れか一方に光を照射しつつ薄膜を形成することを特徴とするイオンビームミキシング方法。
【請求項2】 前記照射する光が紫外線であることを特徴とする請求項1のイオンビームミキシング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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