説明

イオンビーム加工方法及び加工装置

【課題】被加工物の加工に際し、加工手段として用いられるイオンビームのビーム径の大きさを容易に変更させることができ、加工時間の短縮化が図れ、高精度の加工が可能となるイオンビーム加工方法及び加工装置を提供する。
【解決手段】被加工物1009にイオンビーム1003を照射し、前記被加工物を加工するイオンビーム加工方法または装置を、つぎのように構成する。
前記被加工物に対する測定形状と設定形状との差によって予め求められた加工量に応じて、前記イオンビームのビーム径1004を変更すると共に、前記イオンビームの前記被加工物に対する照射時間を制御して加工する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体、硝子、セラミックス、金属単体または金属酸化物の単結晶及び多結晶等の硬脆材料の表面を、イオンビームによって加工する加工方法および加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、半導体、硝子、セラミックス、金属単体または金属酸化物の単結晶等の硬脆材料の表面を、研磨装置等で精密研磨加工する方法として、例えば、特許文献1のような加工方法が知られている。
この加工方法では滞留時間制御と呼ばれる手段が用いられており、これを図11を用いてさらに説明する。
図11において30は研磨装置であり、研磨装置30は被加工物36の表面を加工する研磨ヘッド50等からなる研磨加工部と、形状計測部を備えている。
この研磨装置では、或る第1の研磨ヘッドによる単位時間の加工量及び加工形状(以下、これを単位除去形状と記す)を一定とし、あらかじめ計測した被加工物の形状データを元に、目標とする加工形状との差を求める。
そして、より多く加工する必要のある部分には長時間、少なく加工する必要しかない部分には短時間研磨工具を当てて、前述した加工量を変える滞留時間制御と呼ばれる方法で加工するものである。
その際、第1回の修正研磨が終了した時点で研磨ヘッド50を被加工物から隔離し、被加工物を上記形状計測部へ移動させ、第2回目の形状計測を行う。
この修正研磨と形状計測を繰り返し、被加工物の形状が目標とする設計形状に対する公差内に入ったかどうか等により、更に修正研磨と形状計測を繰り返すか、研磨を終了させるかを判断する。
このような修正研磨を複数回繰り返し行うに際し、通常、研磨工具はそれぞれの修正研磨において加工したい形状に合せ、大きさの異なる研磨工具に適宜交換して加工が行われる。
【特許文献1】特開平5−57606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来例の加工方法においては、つぎのような問題を有している。
この加工方法による場合、例えば、まず最初の修正研磨により被加工物の表面を一通り加工した後、表面形状を測定すると、大きな領域の形状誤差をなくすことができる。
しかし、より高精度に研磨するためには、次回以降の修正研磨において、研磨工具の大きさを、順次より小型の物に変えて加工することが要求される。
研磨工具を交換するためには加工装置を停止し、研磨工具を取り外し、取り付けしなければならなず、そのために加工時間を要することとなる。
さらに、その大きさの研磨工具固有の単位除去形状を求める必要があるので、一旦、被加工物と同材質の試料を加工後、その加工痕を計測し、演算しなければならない。
これを怠ると、研磨工具毎の単位除去形状が異なるため、高精度な加工が望めないことから、このような計測等により作業効率が低下する。
また、加工中に研磨工具の大きさを変えるとより短時間の加工が可能となるが、加工途中の研磨工具の交換は不可能である。
また、研磨工具による加工では、被加工物の端部においては研磨工具の一部が被加工物からはずれると、研磨が不安定になって精度が落ちるため、被加工物の有効でない部分を大きく採ることが必要となる。
【0004】
本発明は、上記課題に鑑み、被加工物の加工に際し、加工手段として用いられるイオンビームのビーム径の大きさを容易に変更させることができるようにする。
それにより、加工時間の短縮化が図れ、高精度の加工が可能となるイオンビーム加工方法及び加工装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のように構成したイオンビーム加工方法及び加工装置を提供するものである。
本発明は、被加工物にイオンビームを照射し、前記被加工物を加工するイオンビーム加工方法を、つぎのように構成したことを特徴としている。
すなわち、前記被加工物に対する測定形状と設定形状との差によって予め求められた加工量に応じて、前記イオンビームのビーム径を変更すると共に、前記イオンビームの前記被加工物に対する照射時間を制御して加工する工程を有する構成とする。
その際、前記イオンビームのビーム径を、前記予め求められた加工量に応じて、加工中に変更しながら加工を行うようにすることができる。
また、本発明は、被加工物にイオンビームを照射し、前記被加工物を加工するイオンビーム加工装置を、つぎのように構成したことを特徴としている。
すなわち、前記被加工物に対する測定形状と設定形状との差によって予め求められた加工量に応じて、前記イオンビームのビーム径を選択する手段及び前記イオンビームの前記被加工物に対する照射時間を制御する手段を有する構成とする。その際、本発明のイオンビーム加工装置においては、前記イオンビームのビーム径を選択する手段を、前記イオンビームのビーム径を、前記予め求められた加工量に応じて加工中に変更可能とする構成を採ることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、被加工物の加工に際し、加工手段として用いられるイオンビームのビーム径の大きさを容易に変更させることができ、加工時間の短縮化が図れ、高精度の加工が可能となるイオンビーム加工方法及び加工装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の実施の形態におけるイオンビーム加工方法は、上記した本発明を適用してイオンビーム加工するに際し、例えば、つぎのように実施することができる。
まず、イオンビームのエネルギー、イオン電流、ビーム径を使用予定の或る値に調整した後、そのイオンビームを用いて被加工物と同じ種類の材料を加工し、そのイオンビームによる単位除去形状を求めておく。
次に、使用予定である、先ほどと別なイオンビームのエネルギー、イオン電流、ビーム径を決めて、先ほどと同様な方法でそれらの単位除去形状を求めておく。次に、被加工物の表面形状を測定し、ここで測定された測定データと設定形状の差から、加工量に相当する除去量を算出する。求めた各部の除去量中で、最も除去量の小さい部分を基準とし、各部の除去量を算出する。
次に、上記した方法により予め求められた単位除去形状と、上記被加工物の除去量から各部の加工必要時間を算出する。このとき、大きなエリアの除去部分は径の大きなイオンビームを選択するようにして、被加工物の表面上をイオンビームでスキャンしながら加工する。
このように、本実施の形態によれば、例えば被加工物の形状誤差を計測した値に対し、加工すべき位置とその除去量を演算から求めて加工する場合に、除去領域の形状に合せてイオンビームの径を選択して加工することができる。
そのため、効率の良い加工ができ、加工時間を短縮することができる。
その際、イオンビームのビーム径を変更する方法として、例えば、数種類の大きさの穴があいた板を移動又は回転可能にし、イオンビームガンと被加工物の間に設ける構成を採ることができる。
このような構成によると、イオンビーム径の変更が容易であり、予め各々のアパーチャー径に対する単位除去形状を求めておけば、イオンビーム径を変更した後に、直ちに加工を開始することができる。
更に、加工中であってもイオンビーム径の変更が可能であるので、除去領域が大きい部分ではイオンビーム径を大きくして除去レートを大きくすることにより、加工時間の短縮化が図れる。
また、イオンビームのビーム径を換える他の方法として、複数の可動板、例えば、4枚以上の可動板によって形成されるアパーチャーにより、イオンビームが通過する径を制御する構成を採ることにより、アパーチャーの大きさの変更が、さらに容易となる。
また、イオンビームのビーム径を換える他の方法として、例えばイオン源のイオン密度、引き出し電圧、加速電圧、収束レンズにかける電圧のいずれか1つ、または2つ以上の要素を変更して、イオンビームのビーム径を変更する方法を用いる。
これによって、上記アパーチャーによりビーム径を容易に変更することができることに加え、イオン粒子がアパーチャーに当たって発生するパーティクルを防止することが可能となる。
【実施例】
【0008】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
本発明の実施例1は、本発明の構成を適用してイオンビーム加工方法及び加工装置を構成したものである。
図1に本実施例のイオンビーム加工方法及び加工装置を説明する図を示す。図1において、1001は真空室であり、図示しない排気装置により圧力5×10-4Pa程度に保たれている。
1002はカウフマン型のイオンビームガンであり、図示しないArガスの配管が接続されていて、ガスを適量流しながら内部のフィラメントに電流を流すことにより、熱電子を発生させArガスをイオン化している。また、内部にイオンの加速電極が設置され、図示しない導線が接続されている。この導線は真空室外部に導き出され、高圧電源につながっている。この高圧電源により、加速電極に電圧が加えられる。
【0009】
また、1003はイオンビーム、1004はアパーチャー通過後のイオンビーム、1005はアパーチャー板、1006はアパーチャーの回転軸であり、また1007は回転軸1006の回転方向を示している。このパーチャー板1005には、アパーチャー径の大きい孔1025および順次径の小さい孔1024、1023が形成され、回転軸1006によりアパーチャー板1005を回転させることでアパーチャー径が変更可能に構成されている。
1008はファラデーカップ、1009は被加工物、1010は固定治具、1012は5軸ステージである。
この被加工物1009は材質が合成石英の外径φ200mm、曲率半径400mmの凸型球面ミラーであり、固定治具1010により5軸ステージ1012に固定されている。
【0010】
ファラデーカップ1008は、図示しない導線が接続され、その導線は真空室の外側まで引き出され、真空室の外側でイオンビームの電流値を測定できるようになっている。ファラデーカップ1008の開口はφ0.1mmと小さくしてあるため、ステージ1012をX−Yに移動しながら測定するとイオンビームの電流密度分布を測定できるようになっている。ここで、イオンの加速電圧2kV、総イオン電流値が100μAのイオンビームを照射してイオンビームのプロファイルをファラデーカップ1008により測定すると、図3の(a)のようなプロファイルが測定された。
【0011】
次に、イオンビームガン1002と被加工物1009の間に上記したように回転式によりアパーチャー径が変更可能に構成されているアパーチャー板1005を設置した。このアパーチャー板1005は、具体的には図2に示す形状をしており、点1022を中心に回転することにより、イオンビームのビーム径を変更することができるようになっている。
先ず、アパーチャー径の大きい孔1025を通してイオンビームのビーム径を制御し、ファラデーカップ1008を用いてビームプロファイルを測定したところ、図3の(d)図に示す様にイオンビームの半値幅が10mmになった。ここで、この制御されたビーム径に対する単位除去形状を求めておく。
イオンビームの単位除去形状は、事前に被加工面と同様な材質のテストピース上で、実際の加工で用いるのと同一のイオンビームガン、照射条件、イオンビーム径で一定時間の加工を行う。
得られた除去窪みを形状計測し、それを単位時間あたりに換算することによって得られる。
【0012】
また、イオンビームによる除去加工は、ビームエネルギーが同じであればイオン電流値に比例するので、イオン電流密度の分布を測定し、所望のイオンビームプロファイルに調整すると、加工の都度の単位除去形状測定は不要である。
続けて、アパーチャー板1005にある他の直径の孔1023と1024に付いてのイオンビームプロフィルを求めておく。図3の(b)は孔1023に、図3の(c)は孔1024にそれぞれ対応している。
【0013】
以下に、加工時の動作フローを説明する。
先ず、前加工した被加工物1009の3次元表面形状を高精度に測定し、表面形状データを得る。
この時の測定器はプローブ接触式の測定器を用い、1mmピッチで測定した。
次に、測定データと設計形状データを比較し差を求め除去形状とする。この除去形状とあらかじめ求めたφ10mmのイオンビームによる単位除去形状で演算し各加工点の加工時間に変換した。
【0014】
図4は被加工物1009上をスキャンするときの軌跡を示し、1042の線にそって被加工物上をイオンビームの照射をしながら加工する。この時、除去量の多い部分では被加工物の移動を長時間止め、また、除去量の少ない部分では被加工物の移動停止を短時間にし、さらに除去が不要な部分では被加工物1009を速やかに移動する。
【0015】
また、図5は除去加工の説明をするために、被加工物の一部を示した図である。
図5の1051は被加工物1056の移動方向である。
1052はイオンビームガンで、1053は径を制御していないイオンビーム、1054はアパーチャーを通過した後の径を制御したイオンビームである。イオンビーム照射中の加工点1057では被加工物の移動を5秒間止め、未加工点1058では3秒間被加工物の移動を止める。
以上のように、各部の除去量に合せて移動停止時間を調整し加工を進めていく。
【0016】
図4に示すスキャンが一通り終了した後、表面の形状を測定し、設定形状との差を求めた。それによると、空間波長が10mm以上の長さの凹凸は無くなり、更に空間波長が小さな長さの凹凸が見られた。そこで、次の加工はあらかじめ求めておいたφ5mmのビームを用いてスキャンを行った。
このときのスキャンはスキャン間隔(図4における1044)を前回の半分で行った。前回と同様にスキャンが終了した後、再度計測し、こんどはφ2mmのイオンビームを用いてイオンビーム加工を行った。このようにして、最終的には設定値を表す線1059に近づけた。
イオンビーム加工前の表面形状測定では、設定値との最大差は20nmであった。その後、本発明のイオンビーム加工装置により加工したところ、被加工物である球面ミラーは設定形状に対し、1.2nm以内の誤差であった。また、このようにイオンビームの径を切替式のアパーチャーを用いて制御すると、工具の段取り変えの時間が短縮され、効率のよい加工を行うことができた。
【0017】
[実施例2]
本発明の実施例2は、本発明の構成を適用してイオンビーム加工方法及び加工装置を構成したものである。
図6に本実施例のイオンビーム加工方法及び加工装置を説明する図を示す。図6において、2001は真空室であり、図示しない排気装置により圧力5×10-4Pa程度に保たれている。
2002はカウフマン型のイオンビームガンであり、図示しないArガスの配管が接続されていて、ガスを適量流しながら内部のフィラメントに電流を流すことにより、熱電子を発生させArガスをイオン化している。また、内部にイオンの加速電極が設置され、図示しない導線が接続されている。この導線は真空室外部に導き出され、高圧電源につながっている。この高圧電源により、加速電極に電圧が加えられる。
【0018】
また、2003はイオンビーム、2004はアパーチャー通過後のイオンビーム、2005はアパーチャー機構である。2008はファラデーカップ、2009は被加工物、2010は固定治具、2012は5軸ステージである。この被加工物2009は、材質が低膨張ガラスの外径φ160mm、曲率半径約380mmの凸型非球面ミラーであり、固定治具2010により5軸ステージ2012に固定されている。
【0019】
ファラデーカップ2008は、図示しない導線が接続され、その導線は真空室の外側まで引き出され、真空室の外側でイオンビームの電流値を測定できるようになっている。ファラデーカップ2008の開口はφ0.1mmと小さくしてあるため、ステージ2012をX−Yに移動しながら測定するとイオンビームの電流密度分布を測定できるようになっている。ここで、イオンの加速電圧2kV、総イオン電流値が100μAのイオンビームを照射してイオンビームのプロファイルをファラデーカップ2008により測定したところ実施例1と同様に、図3の(a)のようなプロファイルが測定された。
【0020】
次に、イオンビームガン2002と被加工物2009の間に可動板式のアパーチャー機構2005を設置した。このアパーチャー機構2005は図7(a)に示す構造をしており、3対の可動板2072を持ち、図示しない動力機構により移動出来る様になっている。可動板2072を移動すると、イオンビーム通過孔となるアパーチャー2071の大きさを変化させることができ、結果として、イオンビームの径を制御することが可能になる。
【0021】
先ず、可動版2072同士の距離を10mmにしてイオンビームのビーム径を制御し、ファラデーカップ2008を用いてビームプロファイルを測定したところ、実施例1と同様に図3の(d)に示す様にイオンビームの半値幅が10mmになった。アパーチャーは6角形であるが、アパーチャーと被加工物の距離があるため、ほとんど円形となる。ここで、この制御されたビーム径に対する単位除去形状を求めておく。単位除去形状の求め方は実施例1と同様である。
また、実施例1と同様にアパーチャーで径を制御したイオンビームのエネルギーは、径が変わっても同じであるので、イオン電流密度の分布を測定すれば、単位除去形状は推定できる。
続けて、可動版2072間の距離を5mm、2mmにしてそれぞれイオンビームプロフィルを求めておく。
【0022】
実施例1と同様な動作フローで被加工物2009を加工した。
先ず、前加工した被加工物2009の3次元表面形状を高精度に測定し、表面形状データを得る。
この時の測定器はプローブ接触式の測定器を用い、1mmピッチで測定した。次に、測定データと設計形状データを比較し差を求め除去形状とする。この除去形状とあらかじめ求めたφ10mm相当のイオンビームによる単位除去形状とで演算し各加工点の加工時間に変換した。このデータを元に、被加工物2009上をスキャンしながらイオンビームで加工した。この時、除去量の多い部分では被加工物の移動を長時間止め、又、除去量の少ない部分では被加工物の移動停止を短時間にし、さらに除去が不要な部分では被加工物2009を速やかに移動する。
【0023】
スキャンが一通り終了後、表面の形状を測定し、設定形状との差を求めた。
それによると、空間波長が10mm以上の長さの凹凸は無くなり、更に空間波長が小さな長さの凹凸が見られた。そこで、次の加工はあらかじめ求めておいたφ5mm相当のビームを用いてスキャンを行った。前回と同様にスキャンが終了した後、再度計測し、こんどはφ2mmのイオンビームを用いてイオンビーム加工を行った。このようにして、最終的には表面形状全体を設定値に近づけた。
【0024】
イオンビーム加工前の表面形状測定では、設定値との最大差は25nmであった。その後、本発明のイオンビーム加工装置により加工したところ、被加工物2009は設定形状に対し、1.5nm以内の誤差であった。また、このようにイオンビームの径を可動板式のアパーチャーを用いて制御すると、工具の段取り変えの時間が短縮され、効率のよい加工を行うことができた。
また、アパーチャー機構に図7の(b)のように可動板の数を増やした構成を用いると、イオンビームは更に円形に近くなり、より精度を上げることが可能となる。
【0025】
[実施例3]
本発明の実施例3は、本発明の構成を適用してイオンビーム加工方法及び加工装置を構成したものである。
図8に本実施例のイオンビーム加工方法及び加工装置を説明する図を示す。図8において、3001は真空室であり、図示しない排気装置により圧力5×10-4Pa程度に保たれている。
3002はRFタイプのイオン源を持つイオンビームガンであり、図9にイオンビームガン内部の構造を示した。
また、3003はイオンビーム、3008はファラデーカップ、3009は被加工物、3010は固定治具、3012は5軸ステージである。この被加工物3009は、材質が低膨張ガラスの外径φ180mm、曲率半径約300mmの凹型非球面ミラーであり、固定治具3010により5軸ステージ3012に固定されている。
【0026】
3092はイオン化室であり、図示しない配管が接続され、Arガスが供給される。また、図示しないRF電源が接続され、RFパワーによりArガスがイオン化される。3093は引き出し電極、3094は加速電極と呼ばれる構成部品であり、図示しない真空室の外に設置した高圧電源から高圧電圧が導かれイオン化室でイオンとなったAr粒子を引き出して加速する。
また、3095は静電レンズであり、加速されたイオンを収束してイオンビームを所定の位置で細くする役目を持つ。
【0027】
また、ファラデーカップ3008は、図示しない導線が接続され、その導線は真空室の外側まで引き出され、真空室の外側でイオンビームの電流値を測定できるようになっている。ファラデーカップ3008の開口は0.1mmと小さくしてあるため、ステージ3011をX−Yに移動しながら測定するとイオンビームの電流プロファイルを測定できるようになっている。ここで、このようなイオンビームガン及び測定システムを用いて、φ8mm、φ4mm、φ2mm、φ1mmのビーム径に調整し、さらに、中心部の加工レートが同程度になるように、RFパワー、引出し電圧、加速電圧、及び静電レンズ電圧を調整した。
φ8mm径イオンビームは引き出し電圧1kV、加速電圧3kV、総イオン電流値は50μAで、静電レンズによりビーム径は半値幅で8mmに調整した。φ4mm、φ2mm、φ1mmのビームについても同様であるが、径が小さくなるにつれ電流値を下げ、加速電圧を上げるようにした。こうすることにより収束性を上げ、同時に加工レートが下がるのを防いだ。これらの各イオンビームの被加工物に照射する時の単位除去形状を実施例1と同様な方法で求めておく。
【0028】
以下に加工時の動作フローを説明する。
先ず、前加工した被加工物3008の3次元表面形状を高精度に測定し、表面形状データを得る。この時の測定器はプローブ接触式の測定器を用い、0.5mmピッチで測定した。
次に、測定データと設計形状データを比較し差を求め除去形状とする。この除去形状をフーリエ変換し、空間波長で分類する。このデータとあらかじめ求めた各径のイオンビームによる単位除去形状とで演算し各加工点の加工時間に変換した。このデータを元に、被加工物3008上を、イオンビームをスキャン照射しながら加工する。この時、除去面積の大きい部分では径を大きく設定したイオンビームを用いて加工した。
【0029】
図10は被加工物3009上をスキャンする方法を説明する図である。3009は被加工物を示し、3105は有効加工範囲を示す。3101はスキャンの開始点、3102はスキャンラインである。3106、3107、3108は除去形状の空間波長が長い部分である。この部分ではビーム径をφ8mmに調整したビームを用いて加工した。矢印3109はビーム径φ8mmのイオンビームでのスキャン範囲である。このように、大きなエリアは大きな径のイオンビームで速く加工し、空間波長が短い成分は、再度その上をイオンビームガンの制御条件を、あらかじめ単位除去レートを調べておいた径の小さなビームに変えて加工する。このような方法を用いると、加工時間を短縮することが出来、また、研磨工具を交換する時間も発生しないので、更に、短時間で加工を終了することができる。
【0030】
イオンビーム加工前の表面形状測定では、設定値との最大差は28nmであった。その後、本発明のイオンビーム加工装置により加工したところ、被加工物3008は設定形状に対し、1.5nm以内の誤差であった。
また、この実施例では、大径のビームで加工後に小径のビームで加工する順番の説明をしたが、先に小径ビームで空間波長の短い成分を除去してから、大径ビームで加工しても良い。
【0031】
[実施例4]
次に、本発明の実施例4におけるイオンビーム加工方法について説明する。
本実施例においては、基本的には実施例3と同様の図8に示されるイオンビーム加工装置、図9に示されるイオンビームガン及び測定システムが用いられており、したがって実施例3と重複する説明については省略する。
本実施例においては、以上の実施例3と同様のイオンビーム加工装置、図9に示されるイオンビームガン及び測定シスイオンビーム加工装置を用いる。
また、イオンビームガン及び測定システムを用いて、φ8mm、φ4mm、φ2mm、φ1mmのビーム径に調整し、さらに、中心部の加工レートが同程度になるように、RFパワー、引出し電圧、加速電圧、及び静電レンズ電圧を調整した。
φ8mm径イオンビームは引き出し電圧1kV、加速電圧3kV、総イオン電流値は50μAで、静電レンズによりビーム径は半値幅で8mmに調整した。φ4mm、φ2mm、φ1mmのビームについても同様であるが、径が小さくなるにつれ電流値を下げ、加速電圧を上げるようにした。
こうすることにより収束性を上げ、同時に加工レートが下がるのを防いだ。これらの各イオンビームの被加工物に照射する時の単位除去形状を実施例1と同様な方法で求めておく。なお、本実施例の被加工物も、実施例3同様に材質が低膨張ガラスの外径φ180mm、曲率半径約300mmの凹型非球面ミラーとされている。
【0032】
つぎに、以下に加工時の動作フローを説明する。
先ず、前加工した被加工物3009の3次元表面形状を高精度に測定し、表面形状データを得る。この時の測定器はプローブ接触式の測定器を用い、0.5mmピッチで測定した。
次に、測定データと設計形状データを比較し差を求め除去形状とする。この除去形状をフーリエ変換し、空間波長で分類する。このデータとあらかじめ求めた各径のイオンビームによる単位除去形状とで演算し各加工点の加工時間に変換した。このデータを元に、被加工物3009上を、イオンビームをスキャン照射しながら加工する。このとき、除去面積の大きい部分では径を大きく設定したイオンビームを用いて加工した。図10は被加工物3009上をスキャンする方法を説明する図である。3009は被加工物を示し、3105は有効加工範囲を示す。3101はスキャンの開始点、3102はスキャンラインである。3106、3107、3108は除去形状の空間波長が長い部分である。この部分ではビーム径をφ8mmに調整したビームを用いて加工した。矢印3109はビーム径φ8mmのイオンビームでのスキャン範囲である。このように、大きなエリアは大きな径のイオンビームで速く加工し、空間波長が短い成分は、再度その上をイオンビームガンの制御条件を、あらかじめ単位除去レートを調べておいた径の小さなビームに変えて加工する。
【0033】
ここで、ビームを一旦シャッターにて遮断し、ファラデーカップ3008を用いて、ビームプロファイルの確認及び調整を行った。
ビームプロファイルを設定した物に確実にしたところで次の加工を続けた。このような方法を用いると、加工時間を短縮することができ、また、研磨工具を交換する時間も発生しないので、更に、短時間で加工を終了することが出来る。また、このように一旦ビームプロファイルを確認することで、加工精度をより向上させることが出来る。
イオンビーム加工前の表面形状測定では、設定値との最大差は28nmであった。その後、本発明のイオンビーム加工装置により加工したところ、被加工物3009は設定形状に対し、1.3nm以内の誤差であった。
また、この実施例では、大径のビームで加工後に小径のビームで加工する順番の説明をしたが、先に小径ビームで空間波長の短い成分を除去してから、大径ビームで加工しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例1に係るイオンビーム加工方法及び加工装置を説明する図である。
【図2】本発明の実施例1に係るアパーチャー板を説明する図である。
【図3】本発明の実施例1に係るイオンビームのビームプロファイルを説明する図である。
【図4】本発明の実施例1に係るイオンビームのスキャン方法を説明する図である。
【図5】本発明の実施例1に係るイオンビームの加工方法を説明する図である。
【図6】本発明の実施例2に係るイオンビーム加工方法及び加工装置を説明する図である。
【図7】本発明の実施例2に係るアパーチャーの構造を説明する図である。
【図8】本発明の実施例3に係るイオンビーム加工方法及び加工装置を説明する図である。
【図9】本発明の実施例3に係るイオンビームガンの構造を説明する図である。
【図10】本発明の実施例3に係るイオンビームのスキャン方法を説明する図である。
【図11】従来例である特許文献1に開示される研磨技術を説明する図である。
【符号の説明】
【0035】
1001、2001、3001:真空室
1002、2002、3002:イオンビームガン
1003、2003、3003:イオンビーム
1004、2004:アパーチャー通過後のイオンビーム
1005:アパーチャー板
1008、2008、3008:ファラデーカップ
1009、2009、3009:被加工物
1010、2010、3010:固定ジグ
1012、2012、3012:5軸ステージ
1042、3082:イオンビームスキャンライン
1051:被加工物移動方向
1052:イオンビームガン
1053:イオンビーム
1054:アパーチャー通過後のイオンビーム
1055:アパーチャー
1056:被加工物
1057:加工点
1058:未加工点
1059:加工目標線
2005:アパーチャー機構
2071、2074:アパーチャー
2072、2075:可動板
3091:イオンビームガン
3092:イオン化室
3093:引き出し電極
3094:加速電極
3095:静電レンズ
3098:イオンビーム
3106、3107、3108:大径イオンビーム加工エリア
3109:大径イオンビームスキャンライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物にイオンビームを照射し、前記被加工物を加工するイオンビーム加工方法において、
前記被加工物に対する測定形状と設定形状との差によって予め求められた加工量に応じて、前記イオンビームのビーム径を変更すると共に、
前記イオンビームの前記被加工物に対する照射時間を制御して加工する工程を有することを特徴とするイオンビーム加工方法。
【請求項2】
前記工程が、前記イオンビームのビーム径を、前記予め求められた加工量に応じて、加工中に変更しながら加工を行う工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のイオンビーム加工方法。
【請求項3】
前記工程における前記イオンビームのビーム径の変更が、2種類以上の異なった大きさの孔径のアパーチャーを有する遮蔽板の該孔径の切り替えによることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のイオンビーム加工方法。
【請求項4】
前記工程における前記イオンビームのビーム径の変更が、複数の可動板によって形成されるアパーチャーの開口径の制御によることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のイオンビーム加工方法。
【請求項5】
前記工程における前記イオンビームのビーム径の変更が、イオン源のイオン密度、引出し電圧、加速電圧、収束レンズにかける電圧の少なくとも1つ以上の要素の変更によることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のイオンビーム加工方法。
【請求項6】
前記工程が、被加工物に対するイオンビームの照射を中断し、前記イオンビームのプロファイルを所定のイオンビームプロファイルに確認・調整した後、加工を継続する工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のイオンビーム加工方法。
【請求項7】
被加工物にイオンビームを照射し、前記被加工物を加工するイオンビーム加工装置において、前記被加工物に対する測定形状と設定形状との差によって予め求められた加工量に応じて、
前記イオンビームのビーム径を選択する手段及び前記イオンビームの前記被加工物に対する照射時間を制御する手段、を有することを特徴とするイオンビーム加工装置。
【請求項8】
前記イオンビームのビーム径を選択する手段は、前記イオンビームのビーム径を、前記予め求められた加工量に応じて加工中に変更可能に構成されていることを特徴とする請求項7に記載のイオンビーム加工装置。
【請求項9】
前記イオンビームのビーム径を選択する手段が、2種類以上の異なった大きさの孔径を有するアパーチャーと、該アパーチャーを回転させる回転手段を備え、
該回転手段によりアパーチャーの孔径を切り替えるようにした手段によって構成されていることを特徴とする請求項7または請求項8に記載のイオンビーム加工装置。
【請求項10】
前記イオンビームのビーム径を選択する手段が、複数の可動板によるアパーチャーを備え、
該複数の可動板を移動させ、これらの可動板によって形成されるアパーチャーの開口径を変更するようにした手段によって構成されていることを特徴とする請求項7または請求項8に記載のイオンビーム加工装置。
【請求項11】
前記イオンビームのビーム径を選択する手段が、
イオン源のイオン密度、引出し電圧、加速電圧、収束レンズにかける電圧の少なくとも1つ以上の要素を変更する手段によって構成されていることを特徴とする請求項7または請求項8に記載のイオンビーム加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−98438(P2007−98438A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291782(P2005−291782)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度新エネルギー・産業技術開発機構委託研究「極端紫外線(EUV)露光システムの基盤技術開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】