説明

イオン交換フィルター用繊維

【課題】構成材料にイオン交換樹脂を含み、そのイオン交換樹脂が水分を含んだ状態で凍結した場合においても破損しにくいことを特徴とするイオン交換フィルター用繊維を提供する。
【解決手段】粒状のイオン交換樹脂10が疎水性樹脂製の基材54に埋没しており、埋没しているイオン交換樹脂10のうち少なくとも一部は表面に露出しているイオン交換フィルター用繊維50。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布に成形することにより、溶液中の特定イオンを捕捉するとともに、ダストを捕捉することができるイオン交換フィルターとして好適に用いることができるイオン交換フィルター用繊維に係る。
【背景技術】
【0002】
イオン交換樹脂としては、例えば、ポリスチレンに架橋剤であるジビニルベンゼンを加えて得られるスチレン−ジビニルベンゼン共重合体を骨格とするものが広く知られている。このような骨格は、ポリスチレンにジビニルベンゼンが架橋し、その架橋により立体構造が制御された立体網目状となっている。イオン交換樹脂は、このような骨格にイオン交換基を付与し、骨格の表面にイオン交換基を結合させることにより形成される。したがって、イオン交換樹脂は、骨格で区画された立体網目状の空間の表面および内部にイオン交換基を備えている。イオン交換樹脂は、骨格が立体網目状であるから、その内部に水を吸収することができる。したがって、イオン交換樹脂は、表面のイオン交換基によってイオン交換可能であるとともに、内部のイオン交換基によってもイオン交換可能となっており、効率よく水中のイオンを捕捉することができる。このような性質を利用し、イオン交換樹脂は、一般に粒状に成形され、カラムやモジュール等に充填されてフィルターを構成し、水質浄化、各種溶液の精製などを目的として種々の産業分野で幅広く利用されている。
【0003】
しかしながら、イオン交換樹脂は、その内部に水を吸収する性質を有するため、吸収した水が凍結した場合には、水の体積膨張により生じる応力により、破損する可能性がある。このような問題点を解決するために、例えば、特許文献1には、粒状のイオン交換樹脂がカラムに充填されたフィルターにおいて、凍結に伴う体積増加をカラムの形状により緩和する方法が開示されている。この方法は、凍結時にイオン交換樹脂間に隙間を生じさせることにより、イオン交換樹脂の体積増加を許容するものであり、イオン交換樹脂の体積膨張自体を抑制するものではなかった。
【0004】
一方、フィルターにイオン交換樹脂を用いる方法としては、粒状のイオン交換樹脂をカラム等に充填して用いる他に、例えば、特許文献2には、不織布のフィルターの表面に微粒子状のイオン交換樹脂を接着する方法が開示されている。しかしながら、このフィルターにおいて、イオン交換樹脂は、繊維に埋没しておらず、単に不織布を構成する繊維の表面に付着しているにすぎないため、凍結時のイオン交換樹脂の体積増膨張が抑制されない。したがって、凍結時にイオン交換樹脂が破損しやすく、イオン除去効率が低下したり、イオン交換樹脂が脱落して下流側へ流出する恐れがある。また、特許文献3には、繊維状のイオン交換樹脂が用いられたフィルターが開示されている。このフィルターにおいて、他の構成材料と均一に混合することを目的とし、繊維状のイオン交換樹脂の長さが0.1〜5mmと規定されている。しかしながら、繊維径については何ら示唆されておらず、繊維径が太い場合には凍結時の体積増加が大きくなり、破損する可能性が大きい。
【0005】
【特許文献1】特開2004−230215号公報
【特許文献2】特開平11−300364号公報
【特許文献3】特開2003−10614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、構成材料にイオン交換樹脂を含み、そのイオン交換樹脂が水分を含んだ状態で凍結した場合においても破損しにくいことを特徴とするイオン交換フィルター用繊維を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、粒状のイオン交換樹脂が疎水性樹脂製の基材に埋没しており、前記イオン交換樹脂のうち少なくとも一部は表面に露出していることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維である。第1の発明のイオン交換フィルター用繊維は、イオン交換樹脂が基材に埋没しているが、埋没しているイオン交換樹脂のうちの少なくとも一部は表面に露出しているためイオン交換可能である。イオン交換樹脂が基材に埋没して包まれていることにより、イオン交換樹脂内で水分が凍結しても、基材がイオン交換樹脂の膨張を抑制して破損を防ぐことができる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明に記載のイオン交換樹脂フィルターであって、前記イオン交換樹脂は、粒径が5μm以上10μm以下であることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維である。第2の発明のイオン交換フィルター用繊維によれば、イオン交換樹脂は、10μm以下の微粒子状であり、イオン交換樹脂内で水分が凍結しても体積変化が小さく、より破損しにくい。また、イオン交換樹脂の粒径が5μm以上であることにより、イオン交換樹脂が基材内部で離間せず、互いに水分を受け渡すことができ、効率よくイオン交換可能である。
【0009】
第3の発明は、第1または第2の発明に記載のイオン交換樹脂フィルターであって、繊維径は、20μm以上50μm以下であることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維である。第3の発明のイオン交換フィルター用繊維は、繊維径が20μm以上であることにより、フィルターに成形したとき、適度なこしがあり形状が安定する。また、繊維径が50μm以下であることにより、単位重量あたりの表面積が大きく、効率よくイオン交換可能である。
【0010】
第4の発明は、第1から第3の発明のうちいずれか1項に記載のイオン交換樹脂フィルターであって、前記基材である疎水性樹脂は、ポリプロピレンであることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維である。第4の発明のイオン交換フィルター用繊維は、基材がポリプロピレン製であるため、耐酸性・耐アルカリ性および耐熱性に優れる。
【0011】
第5の発明は、疎水性樹脂製の芯材と、前記芯材の表面に形成されたイオン交換性樹脂製の被膜と、を備えることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維である。第5の発明のイオン交換フィルター用繊維は、イオン交換樹脂が薄い膜状であるため、イオン交換樹脂内で水分が凍結しても体積変化が小さく破損しにくい。また、イオン交換樹脂が繊維表面に被膜として配置されているため効率よくイオン交換可能である。
【0012】
第6の発明は、第5の発明に記載のイオン交換フィルター用繊維であって、前記被膜は、厚さが2μm以上5μm以下であることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維である。第6の発明のイオン交換フィルター用繊維は、イオン交換樹脂製の被膜が厚さ5μm以下の薄膜であるため内部で水分が凍結しても体積変化が小さいので破損しにくく、2μm以上であるため、十分なイオン交換量を有する。
【0013】
第7の発明は、第5または第6の発明に記載のイオン交換フィルター用繊維であって、前記芯材は、繊維径が10μm以上50μm以下であることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維である。第7の発明のイオン交換フィルター用繊維は、芯材の繊維径が10μm以上であることにより、フィルターを成形すると、適度なこしがあり形状が安定する。また、芯材の繊維径が50μm以下であることにより、単位重量あたりの表面積が大きく、効率よくイオン交換可能である。
【0014】
第8の発明は、第5から第7発明のうちいずれか1項に記載のイオン交換フィルター用繊維であって、前記芯材を構成する疎水性樹脂は、ポリプロピレンであることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維である。第8の発明のイオン交換フィルター用繊維は、芯材がポリプロピレン製であり、耐酸性・耐アルカリ性および耐熱性に優れる。
【0015】
第9の発明は、イオン交換樹脂製であって、繊維径は、5μm以上20μm以下であることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維である。第9の発明のイオン交換フィルター用繊維は、イオン交換樹脂製であって、その繊維径が20μm以下と細いため、内部で溶液が凍結しても体積変化が小さく破損しにくい。また、繊維径が5μm以上であるから、フィルターを成形するのに十分な強度を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、イオン交換樹脂が水分を含んだ状態で凍結した場合においても破損しにくいイオン交換フィルター用繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係るイオン交換フィルター用繊維(以下、単に繊維と記載することがある)は、その構成材料にイオン交換樹脂を含むイオン交換可能な繊維であり、特に、不織布に成形することにより、溶液中の特定イオンを捕捉して除去するとともに、ダストを捕捉することができるイオン交換フィルターとして好適に用いることができる繊維である。
【0018】
図1に、粒状のイオン交換樹脂を模式的に示した。イオン交換樹脂10は、一般に骨格となる立体網目状の疎水性樹脂20を有し、その疎水性樹脂20の表面にイオン交換基30を保持している。すなわち、イオン交換樹脂10は、疎水性樹脂20により区画された立体網目状の空間の内部および外表面において、イオン交換基30備えている。本明細書においては、以下、この骨格となる立体網目状の疎水性樹脂20を「基体」と記載する。イオン交換樹脂10は、その基体20が立体網目状となっているため、液体が内部へ浸透することができる。したがって、イオン交換樹脂10は、捕捉対象となるイオン40を含む溶液等(以下、単に溶液と記載する。)を内部に吸収することにより、外表面に固定されたイオン交換基30aのみでなく、内部に固定されたイオン交換基30bによってもイオン交換可能となっている。それにより、図1に示すように、イオン交換樹脂10は、その外表面および内部において、イオン40を捕捉することができる。
【0019】
イオン交換樹脂10の基体20を構成する立体網目状の疎水性樹脂としては、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、アクリル酸−ジビニルベンゼン共重合体、メタアクリル酸−ジビニルベンゼン共重合体、フェノール−ホルムアルデヒド共重合体などを用いることができる。これらは、従来公知の方法により得ることができる。なお、基体20は、一般に母体と称されることもある。
【0020】
イオン交換基30としては、具体的には、スルホン酸基、カルボキシル基、フェノール性ヒドロキシル基などの酸性基、または4級アンモニウム塩基、置換アミノ基などの塩基性基が挙げられ、捕捉対象となるイオン40の性質により選択することができる。
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、具体的な実施形態を挙げ、詳細に説明する。
【0022】
[第1の実施形態]
図2(A)は第1の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維の斜視図であり、図2(B)は、図2(A)のイオン交換フィルター用繊維の径方向の断面を一部拡大して示している。
図2(A)および図2(B)に示すように、第1の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維50は、粒状のイオン交換樹脂10が疎水性樹脂製の基材54に埋没しており、そのうち一部のイオン交換樹脂10が表面に露出していることを特徴とする。すなわち、繊維50は、粒状のイオン交換樹脂10が基材54に練りこまれた形態となっている。
【0023】
図2(B)に示すように、第1の実施形態に係る繊維50において、イオン交換樹脂10は疎水性の基材54に練りこまれて埋没しているが、そのうち一部のイオン交換樹脂10は繊維50の表面に露出しているので、溶液は当該露出部からイオン交換樹脂10の内部へ浸透することができる。繊維50において、溶液は、まず表面に露出したイオン交換樹脂10aの内部に取り込まれ、次いで基材54の内部に埋没している隣接するイオン交換樹脂10bの内部に受け渡されることとなる。したがって、繊維50は、表面に露出したイオン交換樹脂10aのみならず、基材54の内部に埋没しているイオン交換樹脂10bにおいてもイオン交換可能となっている。
【0024】
第1の実施形態に係る繊維50において、粒状のイオン交換樹脂10は基材54に埋没している。言い換えれば、粒状のイオン交換樹脂10は基材54に包まれている。それにより、溶液がイオン交換樹脂10内で凍結した場合も、基材54がイオン交換樹脂10の膨張を抑制し、イオン交換樹脂10の破損を防ぐことができる。また、イオン交換樹脂10が基材54に埋め込まれて固定されているため、フィルターを成形した場合には、イオン交換樹脂10が繊維50から脱落しにくく、通水によりイオン交換樹脂10が下流側へ流出するのを防ぐことができる。
【0025】
イオン交換樹脂10の粒径は、5μm以上10μm以下とするのが好ましい。イオン交換樹脂がこのような微粒子状であると、イオン交換樹脂10内で溶液が凍結しても体積変化が小さく、イオン交換樹脂10の破損をより低減させることができる。
【0026】
また、イオン交換樹脂10の粒径が大きいほど、繊維断面に占めるイオン交換樹脂10の面積が大きくなるが、イオン交換樹脂10は基材54に比べて強度が低いため、イオン交換樹脂10が損傷した場合には、その損傷部から繊維50が断裂しやすくなる。フィルターを成形した場合には、繊維50が断裂することにより、イオン交換樹脂10が脱落して下流側へ流出する恐れもある。イオン交換樹脂10を10μm以下の微粒子状とすれば、基材54の強度により繊維50が断裂するのを防ぐことができ、繊維50自体の強度を高く保つことができ、イオン交換樹脂10の脱落を防ぐことができる。
【0027】
一方、イオン交換樹脂10の粒径が5μmより小さい場合は、基材54の内部においてイオン交換樹脂10が離間しやすくなる。繊維50においては、表面に露出したイオン交換樹脂10aが溶液を取り込み、基材54内に埋没した隣接するイオン交換樹脂10bに受け渡す。しかしながら、イオン交換樹脂10aとイオン交換樹脂10bとが基材54の内部において離間していると、相互に溶液を受け渡すことができない。その結果、表面に露出したイオン交換樹脂10aのみしか溶液を取り込むことができず、基材54の内部に埋没したイオン交換樹脂10bには溶液が達しない。このような場合、繊維50の単位量あたりのイオン交換量が著しく低下することとなる。
【0028】
したがって、イオン交換樹脂10の粒径を5μm以上10μm以下とすることにより、イオン交換樹脂10の内部で溶液が凍結してもイオン交換樹脂10が破損しにくいだけでなく、効率よくイオン交換可能であり、且つ、強度の高い繊維とすることができる。
【0029】
繊維50の繊維径は20μm以上50μm以下とするのが好ましい。繊維径が20μm未満である場合は、フィルターを成形してもこしが低くなりやすく、フィルターの形状を保持しにくくなる可能性がある。また、繊維径が50μmより大きい場合、繊維単位重量あたりの表面積が小さくなり、イオン除去効率が低下しやすくなる。繊維径を20μm以上50μm以下とすると、イオン除去効率に優れ、形状の安定したフィルターを成形することができる。
【0030】
イオン交換樹脂10の粒径および繊維50の繊維径は、粒径が5μm以上10μmであり、且つ、繊維径が20μm以上50μm以下であると、より好ましい。繊維径が20μm以上50μm以下であるのに対し、イオン交換樹脂10の粒径が10μmを超えると、イオン交換樹脂10の粒径が繊維径の半分を超える場合がある。この場合、繊維50に荷重がかかるとイオン交換樹脂10の部分から断裂しやすくなり、イオン交換樹脂10が脱落する可能性がある。また、繊維径が20μm以上50μm以下であるのに対し、イオン交換樹脂10の粒径が5μm未満であると、繊維表面に露出するイオン交換樹脂10が少なくなるとともに、基材54の内部でイオン交換樹脂10同士が離間しやすくなり、効率よくイオン交換できなくなる可能性があり好ましくない。
【0031】
繊維50は、基材54とイオン交換樹脂10との体積比を変化させることにより、強度およびイオン交換量を制御することができる。基材:イオン交換樹脂(体積比)は、80:20から20:80の範囲以内とするのが好ましい。基材54の割合を高くするほど、繊維50の強度は高くなる。しかしながら、この範囲を超えて基材54の割合を高くすると、繊維50のイオン交換量を十分に確保することができない可能性がある。また、イオン交換樹脂10の割合を高くするほど、繊維50のイオン交換量は増加する。しかしながら、この範囲を超えてイオン交換樹脂10の割合を高くすると、繊維50の強度が低下し断裂しやすくなる。
【0032】
基材54としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、6ナイロンあるいは66ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタンなど、種々の熱可塑性の疎水性樹脂を用いることができる。中でも、ポリプロピレンを用いれば、耐酸性、耐アルカリ性、耐熱性、耐加水分解性に優れ、かつ引張強さの高い耐久性に優れた繊維50を得ることができ、より好ましい。また、イオン交換樹脂10は、イオン交換基30の種類によっては、イオン交換樹脂10自体がpH2未満の強酸性あるいはpH11を超える強塩基性であるが、基材54として耐酸性・耐アルカリ性に優れるポリプロピレンを用いれば、イオン交換樹脂52がどのような種類であっても引張強さの高い耐久性に優れた繊維50を得ることができる。なお、基材54には、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤などの樹脂成形一般に用いられる添加剤を加えてもよい。
【0033】
第1の実施形態に係る繊維50は、粒状のイオン交換樹脂10を基材54となる疎水性樹脂に練り込むことにより得られる。すなわち、基材54となる疎水性樹脂を加熱溶融し、その際に粒状のイオン交換樹脂10を添加混合して紡糸して得ることができる。このとき用いるイオン交換樹脂10は、従来公知の製法により得られるものでよく、粒状の立体網目状の基体20にイオン交換基30が結合したものである。繊維50の紡糸方法は特に限定されるものではなく、遠心紡糸法、押出紡糸法等の種々の紡糸法を用いることができ、得られた繊維をさらに延伸してもよい。また、繊維50を紡糸するのに連続して、不織布を成形してもよい。例えば、紡糸された繊維50を積層し、加熱ロールで加圧することにより繊維同士を熱融着させるいわゆるスパンボンド法によって、不織布を成形することができる。
【0034】
また、第1の実施形態に係る繊維50は、上記の方法以外に以下の方法により得ることもできる。まず、基材54となる疎水性樹脂を加熱溶融し、その際に粒状の立体網目状の基体20を添加混合し、紡糸して基体20の練りこまれた繊維を得る。次に基体20にイオン交換基30を付与する。基体20にイオン交換基30が結合することにより、イオン交換樹脂10が形成され、イオン交換樹脂10の練りこまれた繊維50を得ることができる。繊維に練りこまれた基体20にイオン交換基30を付与するには、従来公知のイオン交換樹脂の製法においてイオン交換基を基体に付与する方法を適用することができる。
【0035】
例えば、基体20がスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなり、イオン交換基30としてスルホン酸基を保持したイオン交換樹脂10が、ポリプロピレン製の基材40に練りこまれた繊維50を得る場合は、まず、ポリプロピレンを加熱溶融する際に粒状のスチレン−ジビニルベンゼン共重合体を添加混合し、紡糸する。得られた繊維に濃硫酸を接触させることにより、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体にスルホン酸基を付与する。このとき、濃硫酸が繊維表面に露出したスチレン−ジビニルベンゼン共重合体から、ポリプロピレンに埋没した隣接する他のスチレンジビニルベンゼン共重合体に浸透するため、ポリプロピレンに埋没したスチレン−ジビニルベンゼン共重合体にもスルホン酸基を付与することができる。
【0036】
従来公知のイオン交換樹脂の中には、耐熱性が十分でなく、疎水性樹脂(基材54)の溶融温度において不安定なものもある。しかしながら、この方法によれば、イオン交換基30を付与する前の耐熱性を有する基体20を疎水性樹脂(基材54)に練りこむため、熱影響を考慮することなく練りこむことができる。また、基体20の練りこまれた繊維を紡糸するのに連続して、スパンボンド法等により不織布を成形し、その不織布において基体20にイオン交換基30を付与してもよい。
【0037】
[第2の実施形態]
図3(A)は、第2の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維の斜視図であり、図3(B)は、図3(A)のイオン交換フィルター用繊維の径方向の断面を一部拡大して示している。
図3(A)および図3(B)に示すように、第2の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維60は、粒状のイオン交換樹脂10が疎水性樹脂の基材64に埋没しており、イオン交換樹脂10のすべてが繊維60の表面に露出していることを特徴とする。すなわち、繊維60は、基材64の表面に粒状のイオン交換樹脂10が埋め込まれた形態となっている。第2の実施形態に係る繊維60は、基材64に粒状のイオン交換樹脂10が埋没している点においては、第1の実施形態に係る繊維50と共通しているが、イオン交換樹脂10のすべてが繊維60の表面に露出している点において第1の実施形態と相違している。
【0038】
第2の実施形態に係る繊維60は、イオン交換樹脂10が疎水性樹脂製の基材64に埋め込まれた形態となっている。それにより、イオン交換樹脂10内で溶液が凍結した場合も、基材64がイオン交換樹脂10の膨張を抑制し、イオン交換樹脂10の破損を防ぐことができる。また、イオン交換樹脂10が基材64に埋め込まれて固定されているため、フィルターを成形した場合にも、イオン交換樹脂10が繊維60から脱落しにくく、通水によりイオン交換樹脂10が下流側へ流出するのを防ぐことができる。さらに、第2の実施形態に係る繊維60は、イオン交換樹脂10のすべてが繊維60の表面に露出しており溶液を直接取り込むことができる。したがって、効率よくイオン交換可能となっている。
【0039】
第2の実施形態においては、第1の実施形態において用いられるイオン交換樹脂および基材を用いることができる。
【0040】
第2の実施形態に係る繊維60は、基材64となる疎水性樹脂を加熱溶融して紡糸し、その繊維が冷えて硬化する前にイオン交換樹脂10を繊維表面に埋め込むことにより得ることができる。このとき用いるイオン交換樹脂10は、従来公知の製法により得られるものでよく、立体網目状の基体20にイオン交換基30が結合したものである。紡糸方法は特に限定されるものではなく、遠心紡糸法、押出紡糸法等の種々の紡糸法を用いることができ、得られた繊維をさらに延伸してもよい。
【0041】
また、第2の実施形態に係る繊維60は、上記の方法以外に以下のように得ることもできる。まず、基材64となる疎水性樹脂を加熱溶融し、細孔から押出すことにより紡糸し、その繊維60が冷えて硬化する前に網目状構造を有する粒状の基体20を繊維表面に埋め込み、基体20の埋め込まれた繊維を得る。次に基材64に埋め込まれた基体20にイオン交換基30を付与する。基体20にイオン交換基30が結合することにより、イオン交換樹脂10が形成され、イオン交換樹脂10の埋め込まれた繊維を得ることができる。基体20にイオン交換基30を付与するには、第1の実施形態と同様に従来公知のイオン交換樹脂の製法においてイオン交換基を基体に付与する方法を用いることができる。また、第1の実施形態と同様に、基体20の埋め込まれた繊維から不織布を成形し、その不織布において基体20にイオン交換基30を付与してもよい。
【0042】
[第3の実施形態]
図4(A)は、第3の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維の被膜を切り欠いて示す斜視図であり、図4(B)は、図4(A)のイオン交換フィルター用繊維の径方向の断面を一部拡大して示している。
図4(A)および図4(B)に示すように、第3の実施形態に係る繊維70は、疎水性樹脂製の芯材74の表面にイオン交換樹脂製の被膜72を備えていることを特徴とする。
【0043】
第3の実施形態に係る繊維70において、被膜72は、イオン交換樹脂製である。すなわち、被膜72は、図示しないが、立体網目状の骨格(基体)を有し、その基体の表面および内部においてイオン交換基を備えている。したがって、被膜72は、その内部に溶液を吸収することにより、表面に固定されたイオン交換基のみでなく、内部に固定されたイオン交換基によってもイオン交換可能となっている。
【0044】
第3の実施形態に係る繊維70においては、イオン交換樹脂が薄い膜状となっているため、イオン交換樹脂(被膜72)の内部で溶液が凍結しても、イオン交換樹脂(被膜72)の体積変化が小さく、破損しにくい。また、たとえイオン交換樹脂(被膜72)の一部が芯材74から剥離する、あるいは、亀裂が入るなど破損した場合であっても、イオン交換樹脂は、被膜72として連なって芯材74の表面を覆っているため、繊維70から脱落しにくい。さらに、第3の実施形態に係る繊維70は、イオン交換樹脂が被膜72として繊維の表面に配置されているため、イオン交換反応の速度が速く、効率よくイオン交換可能となっている。
【0045】
被膜72の厚さは、2μm以上5μm以下とするのが好ましい。被膜72の厚さが5μmより厚い場合、被膜72の内部で水分が凍結した場合の体積変化が大きくなり、破損しやすくなる。また、被膜72の厚さが2μmより薄い場合、十分なイオン交換量を確保することができない場合がある。したがって、被膜72の厚さを2μm以上5μm以下にすることにより、より確実に凍結による破損を防ぎ、且つ、十分なイオン交換量を確保することができる。
【0046】
芯材74の直径は、10μm以上50μm以下とするのが好ましい。芯材74の繊維径が10μm以上であることにより、フィルターを成形すると、適度なこしがあり形状が安定する。また、芯材74の繊維径が50μm以下であることにより、単位重量あたりの表面積が大きく、効率よくイオン交換可能である。したがって、イオン除去効率に優れ、形状の安定したフィルターを成形することができる。
【0047】
芯材74としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、6ナイロンあるいは66ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタンなど、種々の熱可塑性の疎水性樹脂を用いることができる。中でも、ポリプロピレンを用いれば、耐酸性、耐アルカリ性、耐熱性、耐加水分解性に優れ、かつ引張強度の高い耐久性に優れた繊維70を得ることができ、より好ましい。
【0048】
第3の実施形態に係る繊維70は、以下のように得ることができる。まず、芯材74となる疎水性樹脂製の繊維の表面に、イオン交換樹脂の骨格となる立体網目状の基体の被膜を形成する。次に、その基体にイオン交換基を付与する。基体にイオン交換樹脂が結合することにより、被膜がイオン交換樹脂となり、第3の実施形態に係る繊維70を得ることができる。基体にイオン交換基を付与するには、従来公知のイオン交換樹脂の製法においてイオン交換基を基体に付与する方法を用いることができる。
【0049】
[第4の実施の形態]
図5(A)は、第4の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維の斜視図であり、図5(B)は、図5(A)に示すイオン交換フィルター用繊維の径方向の断面を一部拡大して示している。
第4の実施形態に係る繊維80は、イオン交換樹脂製であって、繊維径が5μm以上20μm以下であることを特徴とする。繊維80は、イオン交換樹脂製であるから、図示しないが、立体網目構造の骨格(基体)を有し、その基体の表面および内部においてイオン交換基を備えている。したがって、繊維80は、表面に固定されたイオン交換基によってイオン交換可能であるとともに、その内部に溶液を吸収することにより、内部に固定されたイオン交換基によってもイオン交換可能となっている。
【0050】
図5(A)および図5(B)に示すように、第4の実施形態に係る繊維80は、その全体がイオン交換樹脂製である。したがって、効率よくイオン交換可能であることは言うまでもない。繊維80において、イオン交換樹脂は繊維80そのものであり、繊維径が20μm以下と細いため、内部で溶液が凍結しても体積変化が小さく破損しにくい。また、繊維径が5μm以上であるから、フィルターを成形するのに十分な強度を有する。
【0051】
第4の実施形態に係る繊維80は、イオン交換樹脂の基体となる立体網目状の疎水性樹脂を繊維状に成形し、その繊維にイオン交換基を付与することにより得られる。繊維にイオン交換基を付与する方法は、従来公知のイオン交換樹脂の製法においてイオン交換基を基体に付与する方法を用いることができる。
【0052】
以上説明したように、本発明のイオン交換フィルター用繊維は、効率よくイオン交換可能であり、不織布に成形することにより、イオン交換フィルターとして好適に用いることができる。このイオン交換フィルターは、イオン交換反応により溶液中の特定のイオンを捕捉し除去するとともに、ダストを捕捉して除去することができる。さらに、溶液がイオン交換樹脂内で凍結した場合も体積変化が小さくイオン交換樹脂は破損しにくいため、不使用時に氷点下となる場所に設置して使用することが可能である。
【0053】
本発明に係る繊維を不織布に成形する方法は特に限定されず、例えば、ニードルパンチ法、ケミカルボンド法、水流交絡法等の種々の成形方法を用いることができる。また、上記第1から第3の実施形態に係る繊維のように、基材54、基材64または芯材74として熱可塑性の疎水性樹脂を含んでいる場合は、スパンボンド法、サーマルボンド法によって繊維同士を熱融着させて不織布を成形することも可能である。
【0054】
不織布を成形した際、その目付は、例えば、50g/m2以上500g/m2以下とするのができる。目付が50g/m2以下であると、イオン交換量が十分に確保されずイオン交換効率が劣ったり、ダスト保持量を十分に確保できない場合がある。また、目付が500g/m2を超えると、不織布の組織が過密になりやすく、その結果、イオン交換効率およびダスト保持量が低下したり、これらと圧損との適切なバランスを保つことが困難となる場合がある。目付が50g/m2以上500g/m2以下の範囲で不織布を成形すれば、フィルターのイオン交換効率、ダスト保持量、圧損等を最適化することができる。
【0055】
上記第1から第3の実施形態において、基材54、基材64または芯材74としてポリプロピレンを用いた場合、その繊維によりフィルターを成形すると、特に耐久性に優れたフィルターを成形することが可能である。このように成形されたフィルターは、効率よくイオン交換可能で、且つ、イオン除去効率およびダスト保持量が優れるだけでなく、強度が高く、例えば、負圧50kPa.abs、正圧250kPa.absが繰り返しかかる環境においても使用可能である。また、強酸性または強アルカリ性、且つ、高温環境下においても、強度劣化が少なく耐久性に優れる。
【0056】
なお、本発明のイオン交換フィルター用繊維により成形されるフィルターの形態は、特に限定されるものではなく、カラム、モジュール等の種々の形態をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】粒状のイオン交換樹脂を模式的に示した図である。
【図2】(A)は、第1の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維の斜視図であり、(B)は、図2(A)に示すイオン交換フィルター用繊維の径方向の断面を一部拡大して示した図である。
【図3】(A)は、第2の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維の斜視図であり、(B)は、図3(A)に示すイオン交換フィルター用繊維の径方向の断面を一部拡大して示した図である。
【図4】(A)は、第3の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維の被膜を切り欠いて示す斜視図であり、(B)は、図4(A)に示すイオン交換フィルター用繊維の径方向の断面を一部拡大して示した図である。
【図5】(A)は、第4の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維の斜視図であり、(B)は、図5(A)に示すイオン交換フィルター用繊維の径方向の断面を一部拡大して示した図である。
【符号の説明】
【0058】
10 イオン交換樹脂
50 第1の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維
54 第1の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維の基材
60 第2の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維
64 第2の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維の基材
70 第3の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維
72 被膜
74 芯材
80 第4の実施形態に係るイオン交換フィルター用繊維


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状のイオン交換樹脂が疎水性樹脂製の基材に埋没しており、
前記イオン交換樹脂のうち少なくとも一部は表面に露出していることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン交換フィルター用繊維であって、
前記イオン交換樹脂は、粒径が5μm以上10μm以下であることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のイオン交換フィルター用繊維であって、
繊維径は、20μm以上50μm以下であることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載のイオン交換フィルター用繊維であって、
前記基材である疎水性樹脂は、ポリプロピレンであることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維。
【請求項5】
疎水性樹脂製の芯材と、前記芯材の表面に形成されたイオン交換性樹脂製の被膜と、を備えることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維。
【請求項6】
請求項5に記載のイオン交換フィルター用繊維であって、
前記被膜は、厚さが2μm以上5μm以下であることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のイオン交換フィルター用繊維であって、
前記芯材は、繊維径が10μm以上50μm以下であることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維。
【請求項8】
請求項5から請求項7のうちいずれか1項に記載のイオン交換フィルター用繊維であって、
前記芯材を構成する疎水性樹脂は、ポリプロピレンであることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維。
【請求項9】
イオン交換樹脂製であって、
繊維径は、5μm以上20μm以下であることを特徴とするイオン交換フィルター用繊維。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−19530(P2008−19530A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192694(P2006−192694)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】