説明

イオン交換基含有ポリアリーレンの析出方法

【課題】イオン交換基含有ポリアリーレンを析出させる新規な方法を提供する。
【解決手段】イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液を非プロトン性貧溶媒と接触させ、これにより、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンを析出させることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン交換基含有ポリアリーレンの析出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換基含有ポリアリーレンは、例えば燃料電池の固体電解質またはプロトン伝導膜などとして用いられ得る有用な物質である。
【0003】
従来、イオン交換基含有ポリアリーレンの製造方法として、例えば特許文献1に記載される方法が知られている。特許文献1に記載の方法では、重合反応によって生じたイオン交換基含有ポリアリーレンを含む反応混合物をメタノールまたは硫酸水溶液等に注ぎ込み、イオン交換基含有ポリアリーレンを析出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−270118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下、イオン交換基含有ポリアリーレンを析出させる新規な方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の本発明に至った。
【0007】
本発明は、以下の[1]〜[15]を提供するものである。
[1] イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液を非プロトン性貧溶媒と接触させ、これにより、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンを析出させることを特徴とする方法。
[2] 非プロトン性貧溶媒がケトン溶媒であることを特徴とする、前記[1]記載の方法。
[3] ケトン溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンからなる群より選択される1種または2種以上の混合物であることを特徴とする、前記[2]記載の方法。
[4] 非プロトン性貧溶媒が疎水性溶媒であることを特徴とする、前記[1]記載の方法。
[5] 疎水性溶媒は、ペンタン、ヘキサン、へプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロへプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンからなる群より選択される少なくとも1種1種または2種以上の混合物であることを特徴とする、前記[4]記載の方法。
[6] 前記溶液は、非プロトン性良溶媒を含んで成ることを特徴とする、前記[1]〜[5]のいずれか記載の方法。
[7] 前記接触は、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液をノズルから、その下方に位置する非プロトン性貧溶媒に、下記の式(1)および(2)を充足する条件で流下させることによって実施されることを特徴とする、前記[1]〜[6]のいずれか記載の方法。
【数1】

(式中、
μは前記溶液の粘度[Pa・s]であり、
ρは該溶液の密度[kg/m]、
σは該溶液の表面張力[N/m]、
Hは非プロトン性貧溶媒の液面からノズルまでの高さ[m]、
Dはノズルの孔径[m]、
uはノズルから流下する該溶液の線速度[m/s]、
h、aおよびbは係数[−]であって、
μが1Pa・s以上2Pa・s未満の場合、h=12、a=0.513、b=2.898であり、
μが2Pa・s以上の場合、h=25、a=0.454、b=2.294である)
[8] 粘度μが1〜7Pa・sであることを特徴とする、前記[7]記載の方法。
[9] 密度ρが700〜1300kg/mであることを特徴とする、前記[7]または[8]記載の方法。
[10] 表面張力σが25×10−3〜35×10−3N/mであることを特徴とする、前記[7]〜[9]のいずれか記載の方法。
[11] 孔径Dが1×10−3〜4×10−3mであることを特徴とする、前記[7]〜[10]のいずれか記載の方法。
[12] 線速度uが0.01〜0.2m/sであることを特徴とする、前記[7]〜[11]のいずれか記載の方法。
[13] 高さHが0.5〜3mであることを特徴とする、前記[7]〜[12]のいずれか記載の方法。
[14] 前記接触は、前記溶液中に非プロトン性貧溶媒を供給することによって実施されることを特徴とする、前記[1]〜[6]のいずれか記載の方法。
[15] 前記[1]〜[14]のいずれか記載のイオン交換基含有ポリアリーレンの析出方法を用いることを特徴とする、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、イオン交換基含有ポリアリーレンを析出させる新規な方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の1つの実施形態におけるイオン交換基含有ポリアリーレンの析出方法を説明する概略図である。
【図2】粒状のイオン交換基含有ポリアリーレンの長さおよび長径を説明する図であり、(a)は粒状のイオン交換基含有ポリアリーレンの長さLを示した図であり、(b)は(a)のX−X断面(長さLの方向に対して垂直な断面)における長径dを示した図である。
【図3】糸状のイオン交換基含有ポリアリーレンの長さおよび長径を説明する概略図であり、(a)は糸状のイオン交換基含有ポリアリーレンの長さLを示した図であり、(b)は(a)のY−Y断面(長さLの方向に対して垂直な断面)における長径dを示した図であり、(c)は糸状のイオン交換基含有ポリアリーレンが屈曲した状態を示した図である(なお、(a)〜(c)で縮尺は異なる)。
【図4】本発明のいくつかの実施例でノズルとして用いた多孔板を示す概略図である。
【図5】本発明のいくつかの実施例に用いたイオン交換基含有ポリアリーレンの析出方法を説明する概略図である。
【図6】本発明の実施例に関して行った粘度μが2〜7Pa・sの場合における実験データに基づいて、安定液柱パラメータxに対して高さHをプロットしたグラフであり、H=0.454ln(x)+2.294の曲線を合わせて示したものである。
【図7】本発明の実施例に関して行った粘度μが1〜2Pa・sの場合における実験データに基づいて、安定液柱パラメータxに対して高さHをプロットしたグラフであり、H=0.513ln(x)+2.898の曲線を合わせて示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
本発明の1つの実施形態について、図面を参照しながら以下に詳述する。図1は本実施形態のイオン交換基含有ポリアリーレンの析出方法を説明する概略図である。
【0011】
・イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液の調製
本発明において用いるイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液は、例えば以下のようにして調製できる。
【0012】
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態を説明すると、イオン交換基含有ポリアリーレンを反応容器1にて重合反応により得る。より詳細には、原料モノマーを良溶媒および必要に応じて縮合剤、重合開始剤、重合触媒などの重合剤と共に反応容器1に供給し、これらの混合物3を撹拌部材5で撹拌しながら、適切な温度および圧力下にて重合反応を進行させる。
【0013】
本発明の方法において、所望に応じて任意のイオン交換基含有ポリアリーレンを用いることができるが、本実施形態では、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を実質的に有しないセグメントとを有するイオン交換基含有ポリアリーレンを得ることとする。ここで、「イオン交換基を有する」とは、当該セグメントに含まれる芳香族基当たり有しているイオン交換基が、概ね平均0.5個以上であることを意味し、「イオン交換基を実質的に有しない」とは、当該セグメントに含まれる芳香族基当たり有しているイオン交換基が概ね平均0.1個以下であることを意味する。
【0014】
イオン交換基を有するセグメントとしては、例えば、下記一般式(1)で表わされるようなセグメントを挙げることができる。
【化1】

(式中、mは1以上、例えば1〜1000、好ましくは5〜1000、より好ましくは5〜500の整数を表し、Arは2価の芳香族基を表し、Arは主鎖を構成する芳香環に、少なくとも1つのイオン交換基が直接結合する。)
【0015】
ここで、2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル基、1,4−ナフタレンジイル基、1,5−ナフタレンジイル基、1,6−ナフタレンジイル基、1,7−ナフタレンジイル基、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル基、キノキサリンジイル基、チオフェンジイル基等の2価の芳香族複素環基等が挙げられる。好ましくは2価の単環性芳香族基である。
【0016】
この2価の芳香族基は置換基を有していなくても、1つまたはそれ以上の置換基Rを有していてもよい。置換基Rが2つ以上存在する場合は同じであっても異なっていてもよい。
【0017】
この置換基Rには以下のものが含まれる:
フッ素原子、
置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の炭素数1〜20のアルキル基、およびこれらの基に含まれる水素原子の一部が、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基またはナフチルオキシ基等に置換され、その総炭素数が20以下であるアルキル基等)、
置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ドデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、イコシルオキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基、およびこれらの基に含まれる水素原子の一部が、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基またはナフチルオキシ基等に置換され、その総炭素数が20以下であるアルコキシ基等)、
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基(例えばフェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基等のアリール基、およびこれらの基に含まれる水素原子の一部が、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基またはナフチルオキシ基等に置換され、その総炭素数が20以下であるアリール基等)、
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基(例えばフェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェナントレニルオキシ基、アントラセニルオキシ基等のアリールオキシ基、およびこれらの基に含まれる水素原子の一部が、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基またはナフチルオキシ基等に置換され、その総炭素数が20以下であるアリールオキシ基等)、または
置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基(例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基等の炭素数2〜20のアシル基、およびこれらの基に含まれる水素原子の一部が、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基またはナフチルオキシ基等に置換され、その総炭素数が20以下であるアシル基)。
【0018】
本実施形態においてイオン交換基は酸基である。酸基は、弱酸基、強酸基、超強酸基等であり得るが、好ましくは強酸基または超強酸基である。弱酸基にはホスホ基(−PO)、カルボキシル基(−COOH)等が含まれる。強酸基にはスルホ基(−SOH)、スルホンイミド基(−SO−NH−SO−R。ここでRはアルキル基、アリール基等の一価の基を表す。)等が含まれる。強酸基であるスルホ基、スルホンイミド基が好ましく、スルホ基がより好ましい。また、フッ素原子等の電子吸引性基で芳香環および/またはスルホンイミド基のRに含まれる水素原子を置換することにより、フッ素原子等の電子吸引性基の効果で上記強酸基を超強酸基として機能させることも好ましい。
【0019】
重合反応性の観点からイオン交換基が塩を形成した状態のモノマーを用いることが好ましく、このようなモノマーから得られたイオン交換基含有ポリアリーレンのイオン交換基は塩を形成した状態となる。本発明の方法では、イオン交換基(本実施形態においては酸基)は、その一部または全部が、金属イオン(例えばLiイオン、NaイオンまたはKイオンなどのアルカリ金属イオン)や4級アンモニウムイオンなどと塩を形成しているイオン交換基含有ポリアリーレンをそのまま用いることができる。(この場合、後述するように、必要に応じて金属イオンや4級アンモニウムイオンなどをプロトン(H)と交換させて遊離酸とし得る。)
【0020】
上記一般式(1)で示されるセグメントの好ましい例としては、下記一般式(2)で表されるセグメントが挙げられる。
【化2】

(式中、mおよびRは上記と同様の定義である。pは0以上3以下、好ましくは0または1、より好ましくは0(すなわち置換基を有しない)の整数である。)
尚、スルホ基は、上述のように、金属イオン(例えばLiイオン、NaイオンまたはKイオンなどのアルカリ金属イオン)や4級アンモニウムイオンなどと塩を形成していてよい(以下も同様とする)。
【0021】
他方、イオン交換基を実質的に有しないセグメントとしては、例えば、下記一般式(3)で表わされるセグメントを挙げることができる。
【化3】

(式中、a、b、cは互いに独立に0か1を表し、nは3以上、好ましくは3〜200の整数を表す。Ar、Ar、Ar、Arは互いに独立に2価の芳香族基(この芳香族基の具体例は、Arについて上述したものにおいて、イオン交換基を有しない点以外は同じであり、同様に、置換されていてもよい)を表す。X、X'は、互いに独立に直接結合または2価の基を表し、好ましくはカルボニル基、スルホニル基、2,2−イソプロピリデン基、2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン基または9,9−フルオレンジイル基である。Y、Y'は、互いに独立に酸素原子または硫黄原子を表す。)
【0022】
上記一般式(3)で表されるセグメントの好ましい代表例としては、例えば以下のセグメントが挙げられる。式中、nは上記一般式(3)と同様の定義である。
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【0023】
本発明に用いられるイオン交換基含有ポリアリーレンの製造方法としては、所望するイオン交換基含有ポリアリーレンに応じて原料モノマー、重合剤、温度および圧力等を適切に選択し重合すればよい。
具体例としては、上記一般式(3)で表わされるセグメントの結合手に塩素原子などのハロゲン原子が結合した化合物と、上記一般式(2)で表わされるセグメントのm=1であり結合手に塩素原子などのハロゲン原子が結合したジハロフェニレンとを、後述する良溶媒に溶解し、遷移金属錯体の存在下、反応容器1で重合反応(ブロック共重合またはグラフト重合)を進行させて、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液を得る方法(例えば特開2007−177197号公報を参照のこと)等を挙げることができる。
【0024】
本発明の方法に用いられるイオン交換基含有ポリアリーレンの分子量としては、ポリスチレン換算の数平均分子量が、例えば5,000〜1,000,000の範囲内のものを挙げることができ、好ましくは15,000〜400,000の範囲内のものが挙げられる。
【0025】
重合反応は一般的に良溶媒の存在下にて行われる。本明細書において良溶媒は、イオン交換基含有ポリアリーレンを溶解させ得るものであり、特に、非プロトン性の良溶媒、例えばジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどを用いることが好ましい。
【0026】
以上により、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液(混合物)3が得られ、反応容器1からライン7を通じて抜き出される。
【0027】
・イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液の粘度、密度および表面張力
本発明を限定するものではないが、後述するように非プロトン性の貧溶媒との接触を、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液をノズルから非プロトン性貧溶媒へ流下させることにより実施する本実施形態においては、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液の粘度μ[Pa・s]、密度ρ[kg/m]および表面張力σ[N/m]を、必要に応じて接触(流下)前に適宜調整することが好ましい。
【0028】
粘度μは、例えば1〜7Pa・sであり、好ましくは1〜4Pa・sである。例示した範囲から理解されるように、本発明は、4Pa・s以上の高粘度の溶液であっても適用可能である。粘度は、下記分析条件によるB型回転式粘度計により測定される。
<分析条件>
測定装置:ブルックフィールド社(米国)製 B型粘度計(LVDV−II+)
スピンドル:No.18
チャンバー:13R
測定温度 :80℃
【0029】
密度ρは、例えば700〜1300kg/mであり、好ましくは900〜1100kg/mである。密度は、JIS K2249に従って測定される。
【0030】
表面張力σは、例えば25×10−3〜35×10−3N/mであり、好ましくは28×10−3〜32×10−3N/mである。表面張力は、下記分析条件にて、界面張力測定器(懸滴法)により測定される。
<分析条件>
測定装置:協和界面科学株式会社製 界面張力測定器DropMaster500
測定温度:80℃
【0031】
これらの値は、溶液に含まれるイオン交換基含有ポリアリーレンの分子量(代表的には数平均分子量)および該溶液のイオン交換基含有ポリアリーレンの濃度によって異なり、例えば溶液中の良溶媒(好ましくは非プロトン性の良溶媒)の割合を変更することよって調整可能である。該溶液のイオン交換基含有ポリアリーレンの濃度は、1質量%以上、好ましくは3質量%以上であり、上限は、例えば50質量%以下、好ましくは25質量%以下である。
【0032】
・イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液と非プロトン性貧溶媒との接触
本実施形態においては、上記のようにして得られたイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液をノズル9から、その下方に位置する析出容器11に予め入れておいた非プロトン性貧溶媒13へ流下させる。この際、貧溶媒13を撹拌部材15で撹拌することが好ましい。流下状態を確認できるように、ノズル9の出口側方に観察用サイドグラス(図示せず)を設けておいてもよい。
ここで「流下」とは、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液をノズルから、自然落下あるいはポンプからの吐出などにより非プロトン性貧溶媒に流れ下すことを意味する。ノズルから流下するイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液は連続的に流下しても間欠的に流下させてもよいが、生産性の観点から、連続的に流下させることが好ましい。
【0033】
本発明において、非プロトン性貧溶媒とは、イオン交換基含有ポリアリーレンが溶解せず、かつ、その分子中に活性水素(例えば水酸基、カルボキシル基、アミノ基などにおける水素)を有しない有機溶媒を意味する。
【0034】
非プロトン性貧溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、脂肪族炭化水素溶媒(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等)、脂環式炭化水素溶媒(シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等)、ハロゲン化炭化水素溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン)等の疎水性溶媒、また例えば、ケトン溶媒(例えば炭素数3〜6のケトン溶媒等、より詳細にはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、エーテル溶媒(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコールジメチルエーテル等)、エステル溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル、ポリエチレングリコールジアセテート、ポリプロピレングリコールジアセテート等)などを挙げることができ、これらを1種または2種以上の混合物として使用してよい。
好ましい例としては、ケトン溶媒、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンからなる群より選択される1種または2種以上の混合物が挙げられる。
また、別の好ましい例として、疎水性溶媒、例えばペンタン、ヘキサン、へプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロへプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンからなる群より選択される少なくとも1種または2種以上の混合物が挙げられる。
【0035】
本実施形態においては、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液の流下を、下記の式(1)および(2)を充足する条件にて実施する。
【数2】

(式中、
μはイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液の粘度[Pa・s]であり、
ρは該溶液の密度[kg/m]、
σは該溶液の表面張力[N/m]、
Hは非プロトン性貧溶媒の液面からノズルまでの高さ[m]、
Dはノズルの孔径[m]、
uはノズルから流下する該溶液の線速度[m/s]、
h、aおよびbは係数[−]であって、
μが1Pa・s以上2Pa・s未満の場合、h=12、a=0.513、b=2.898であり、
μが2Pa・s以上の場合、h=25、a=0.454、b=2.294である)
【0036】
本発明者らは、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液を非プロトン性貧溶媒に流下させる場合に、上記の式(1)および(2)を充足する条件を設定することにより、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液を連続的に流下させても、非プロトン性貧溶媒中でイオン交換基含有ポリアリーレンが粒状の形態で析出しやすい傾向があることを見出した。
上記の式(2)に示すxは安定液柱パラメータ[m]であり、本発明者らが独自に定義したものである。安定液柱パラメータx[m]において、係数h[−]は粘度μの寄与率を意味し、1≦μ<2[Pa・s]の場合(低粘度の場合)と2≦μ[Pa・s]の場合(高粘度の場合)とに分けて、それぞれにつき異なる係数hを独自に設定している。
そして、これらの場合に分けて、安定液柱パラメータxに対して高さHをプロットした多数のデータから、イオン交換基含有ポリアリーレンが粒状の形態で析出する境界を描くように、上記の式(1)に示すように安定液柱パラメータxを試行錯誤的に対数近似して係数aおよびb[−]の各値を見出したものである。
【0037】
析出容器11内の非プロトン性貧溶媒(および流下された該溶液より形成される混合物)13の液面からノズル9(より詳細にはその孔)までの高さHは、上記の式(1)を満足すればよい。高さHは、液面の変動に応じて変化し得るが、流下する間に亘って式(1)を満足するものとする。高さHの上限は本質的には存在しないが、装置全体の規模が過大とならないように、例えば10m以下であり得る。高さHは、例えば0.5〜3mであり、好ましくは1.0〜2.5mである。
【0038】
ノズル9は少なくとも1つの孔を有し、その孔からイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液が流下される。ノズルの孔は一般的には円形であるが、例えば楕円形や多角形(三角形および矩形等)等の任意の適切な形状を有し得る。孔径Dは、吐出面における最大の内側寸法(内径)を言うものとする。孔径Dは、例えば1×10−3〜4×10−3mであり、好ましくは2×10−3〜3×10−3mである。
【0039】
ノズル9(より詳細にはその孔)から流下する該溶液の線速度uは、該溶液の流量および孔面積(孔が複数存在する場合にはそれらの総合面積)等によって決まり、これらにより調整可能である。線速度uは、例えば0.001〜0.2m/sであり、好ましくは0.01〜0.2m/sである。
【0040】
流下させる該溶液の温度は、粘度μに影響し、例えば、5〜200℃の範囲を挙げることができ、好ましくは10〜100℃の範囲が挙げられる。非プロトン性貧溶媒の温度は、例えば0〜100℃の範囲を挙げることができ、好ましくは10〜60℃の範囲が挙げられる。該溶液への圧力は、所望の線速度uを与えるように適宜設定すればよく、例えば供給ライン全体で0〜180kPa。好ましくは10〜100kPa(いずれもゲージ圧、即ち常圧に対して加圧した値)である。
【0041】
ノズル9に複数の孔が存在する場合、隣接する2つの孔の間隔は、それらの孔径および吐出する該溶液の粘度などに応じて適宜選択され得る。
【0042】
このようにしてイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液を非プロトン性貧溶媒13に流下させると、イオン交換基含有ポリアリーレンが非プロトン性貧溶媒中に溶解されることなく固形状で析出してくる。(この結果、もともとは非プロトン性貧溶媒のみであった相は、この貧溶媒に加えて、固形状イオン交換基含有ポリアリーレン、および流下させた溶液に含まれていた良溶媒等を含んで成る混合物13となる。)
【0043】
本実施形態により得られる固形状イオン交換基含有ポリアリーレンの形状は粒状である。例えば図2(a)に示すように、粒状の固形物の最大寸法を長さLとし、長さLの方向に対して垂直な断面のうちで最大寸法を与えるX−X断面を決め、図2(b)に示すように該断面における最大寸法を長径dとする。長さL方向に対して垂直な断面における長径dは、好ましくは平均1〜50mmであり、長径dに対する長さLの比(長さL/長径d)は、好ましくは平均1〜10の範囲内である。ここで、長径Dの平均値および長さLの平均値は、任意の30個の固形物の長径Dおよび長さLを測定し、これら長径および長さの測定値をそれぞれ平均したものである。そして、長径Dに対する長さLの比の平均は、長さLの平均値を長径Dの平均値で除したものである。(後述する糸状の場合も同様である。)
【0044】
本実施形態の1つの例においては、液状物をできるだけ除去して、析出容器11に固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを残し、その後、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを析出容器11から排出してよい。別の例においては、析出容器11から液状物を除去しながら、鉱酸水を析出容器11へ新たに供給して、混合物13中の液状物を鉱酸水で置換し、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンと鉱酸水とを含む流体を析出容器11から排出してよい。後者の例の場合、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを、これを含む流体として取り扱うことができるので好ましい。析出容器11から排出された固形状イオン交換基含有ポリアリーレン(固形物または流体のいずれの形態であってもよい)は、必要に応じて濾過器(図示せず)にて固液分離して、回収してもよい。
【0045】
また、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンは、水や、鉱酸と水との混合液、即ち鉱酸水などで洗浄した上で回収してよい。洗浄に用いる鉱酸水は、例えば塩酸(すなわち塩化水素の水溶液)等が挙げられる。塩酸を用いる場合の濃度としては、例えば、5〜35重量%等が挙げられる。
【0046】
該溶液中に含まれていたイオン交換基含有ポリアリーレンが、そのイオン交換基が塩を形成したものであった場合、析出したイオン交換基含有ポリアリーレンにおいて塩を形成しているイオン交換基の金属イオンや4級アンモニウムイオンなどを水または鉱酸水のプロトン(H)と交換させて、遊離酸とすることができる。最終的に回収される固形状イオン交換基含有ポリアリーレンは、そのイオン交換基の全部が遊離酸となっていることが好ましいが、一部が塩を形成した状態のままとなっていてもよい。
【0047】
以上のようにして、イオン交換基含有ポリアリーレンが析出し、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンが製造される。
【0048】
一般的には、イオン交換基含有ポリアリーレンは水などの溶液を含んで膨潤しやすいが、本発明の方法に従ってイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液を非プロトン性貧溶媒と接触させて得られる固形状イオン交換基含有ポリアリーレンは吸水膨潤時の寸法変化率(以下、単に膨潤率とも言う)が小さい。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、この理由としては、例えば、イオン交換基含有ポリアリーレンが析出する際、重合体中のイオン交換基部分は非プロトン性貧溶媒と親和し難いために析出物の内側に存在する傾向にあるためと考えられ得る。膨潤率は、例えば、イオン交換基含有ポリアリーレン(乾燥)1重量部に対し、1〜25重量部の範囲であり、好ましくは1〜20重量部の範囲である。
【0049】
更に、本発明により得られる固形状イオン交換基含有ポリアリーレンは、膨潤率が小さく、また、プロトン伝導度の湿度依存性が小さく、更に、好ましくはそのイオン交換基の実質的に全てが遊離酸の状態であるので、燃料電池の固体電解質またはプロトン伝導膜などの原料として好適に用いられ得る。
【0050】
特に、本実施形態によれば、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを粒状の形態で得ることができるので、洗浄し易く、かつ、その他の取扱いにも優れている。例えば、イオン交換基含有ポリアリーレンを粒状で得られることにより、該溶液と貧溶媒とを含む混合物から該混合物に含まれる液状物を容易に分離除去できることが挙げられる。また、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンが撹拌部材15に巻き付くのを回避し、析出容器11からこれを容易に取り出す(排出する)ことができることが挙げられる。
【0051】
しかし、本発明はこれに限定されず、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液と非プロトン性貧溶媒との接触の態様によっては、得られる固形状イオン交換基含有ポリアリーレンは糸状などであってもよい。糸状の場合、その断面はノズルの孔の形状によっても異なるが、概ね円柱状または楕円柱状の形状をしている。例えば図3(a)に示すように、糸状の固形物の長さLとし、長さLの方向に対して垂直な断面のうちで最大寸法を与えるY−Y断面を決め、図3(b)に示すように該断面における最大寸法を長径dとする。糸状の場合、例えば図3(c)に示されるように、貧溶媒において折り畳まれて屈曲する場合があるが、長さLは、屈曲した糸状のイオン交換基含有ポリアリーレンを、図3(a)に示すように展ばして測定すればよい。長さL方向に対して垂直な断面における長径dは、好ましくは平均0.1mm〜5mmであり、長径dに対する長さLの比(長さL/長径d)は、好ましくは平均1〜1000の範囲内である。
【0052】
(実施形態2)
本発明のもう1つの実施形態について、実施形態1と異なる点を中心に説明する。以下、特に説明のない限り実施形態1と同様である。
【0053】
実施形態1では、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液と非プロトン性貧溶媒との接触を、該溶液をノズルから非プロトン性貧溶媒へ流下させることにより実施するものとした。これに対し、本実施形態では、この接触を、該溶液中に非プロトン性貧溶媒を供給することによって実施する。例えば、析出容器にイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液を予め入れておき、撹拌部材で該溶液(または混合物)を撹拌しながら、これに非プロトン性貧溶媒を徐々に添加してよい。
【0054】
このようにしてイオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液中に非プロトン性貧溶媒を供給すると、イオン交換基含有ポリアリーレンが非プロトン性貧溶媒中に溶解されることなく固形状で析出してくる。
【0055】
得られる固形状イオン交換基含有ポリアリーレンは粉末状である。この粉末は、例えば数平均粒径0.1〜10000μmであり得る。
【0056】
本実施形態によって得られる固形状イオン交換基含有ポリアリーレンも、実施形態1と同様に、吸水膨潤時の寸法変化率(膨潤率)が小さく、膨潤率は、例えば、イオン交換基含有ポリアリーレン(乾燥)1重量部に対し、1〜25重量部の範囲であり、好ましくは1〜20重量部の範囲である。
【0057】
以上、本発明の2つの実施形態について説明した。該溶液に含まれていたイオン交換基含有ポリアリーレンが、そのイオン交換基が塩を形成したものであった場合、実施形態2の方が、得られる固形状イオン交換基含有ポリアリーレンを水や鉱酸水などで洗浄して、塩を形成しているイオン交換基の金属イオンや4級アンモニウムイオンなどをプロトン(H)と交換させ易い傾向があることから好ましい。
【0058】
本発明はこれら実施形態に限定されず、種々の改変がなされ得る。例えば、上記実施形態1では、イオン交換基含有ポリアリーレンが、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を実質的に有しないセグメントとを有するものとしたが、イオン交換基を有する限りいかなるポリアリーレンであってもよい。例えば、イオン交換基を有する1種または2種以上の繰り返し単位(または構造単位)のみを含んで成るイオン交換基含有ポリアリーレンであってよい(2種以上の場合、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を有する別のセグメントとを有し、およびブロック共重合またはグラフト共重合により共重合しているものであってよい)(例えば特開2007−177197号公報を参照のこと)。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例においては、得られたポリアリーレンを、ゲル浸透クロマトグラフィにより分析(分析条件は下記のとおり)し、分析結果からポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を算出した。
<分析条件>
測定装置:HLC−8220GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSK−GEL(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
移動相:臭化リチウム含有N,N−ジメチルホルムアミド(臭化リチウム濃度:10mmol/dm)(但し、臭化リチウム含有N,N−ジメチルホルムアミドに代えて臭化リチウム含有N,N−ジメチルアセトアミドを使用した場合にはその旨を付記した。)
流量:0.5mL/分
検出波長:300nm
【0060】
[製造例1:イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液Aの調製]
窒素置換した反応容器に、臭化ニッケル2.24kg、N−メチル−2−ピロリドン133.4kgを加えた。得られた混合物を65℃で2時間撹拌した後、50℃に冷却し、2,2’−ビピリジン1.60kg、N−メチル−2−ピロリドン1.0kgを加え、1時間撹拌した後、20℃に冷却し、ニッケル含有溶液を調製した。
窒素置換した別の反応容器に、下記式
【化15】

で示されるスミカエクセルPES 3600P(住友化学株式会社製;Mw=37,000、Mn=22,000)16.6kg、N−メチル−2−ピロリドン149.1kgを加えた。得られた混合物を40℃で2時間撹拌し、20℃に冷却し、PES溶液を調製した。
窒素置換した別の反応容器に、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)29.2kg、N−メチル−2−ピロリドン112.1kgを加え、20分撹拌し、前記PES溶液、亜鉛粉末8.63g、N−メチル−2−ピロリドン1.0kgを加えた。得られた混合物を40℃に昇温し、メタンスルホン酸59gとN−メチル−2−ピロリドン3.9kgとを混合することにより調製した溶液を加え、3間撹拌した後、20℃に冷却し、モノマー溶液を得た。
前記ニッケル含有溶液をモノマー溶液に注ぎ、得られた混合物を20℃で13時間撹拌し、カップリング反応を行った。これにより、下記式
【化16】

で示される繰り返し単位と、下記式
【化17】

で示されるセグメントを含むMwが249,000であるポリアリーレンを含む、黒色の重合溶液455kgを得た。
得られた重合溶液にトルエン910kg、メチルエチルケトン728kg、18.9%塩酸136.6kgを加え、80℃で撹拌した。15分静置後に分液し、下層の水層を分離し、ポリアリーレンを含む上層を2003kg得た。得られた上層を減圧下、濃縮し、トルエンとメチルエチルケトンを留去後、N−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアリーレンを含む溶液を437kg得た。35%塩酸21.4kgを加え120℃で26時間撹拌し、脱保護反応を行い、得られた溶液を減圧下、濃縮し、N−メチル−2−ピロリドン(非プロトン性良溶媒)を加えて、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液Aを379kg得た。
【0061】
[実施例1]
本実施例は、実施形態1に関し、非プロトン性貧溶媒としてアセトンを用いたものである。
上記の製造例1で調製した溶液A91kgを、ノズルから、その下方に位置するアセトン300kgに、アセトンを撹拌しつつ、流下させたところ、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンが析出した。得られた混合物から液状物を分離後、析出したイオン交換基含有ポリアリーレンをアセトン、13.2%塩酸、水、メタノールで順次洗浄して減圧乾燥した。これにより、下記式
【化18】

で示される繰り返し単位と、下記式
【化19】

で示されるセグメントを含むイオン交換基含有ポリアリーレンを5.9kg得た。乾燥前重量は乾燥後重量の7倍であった。
【0062】
本実施例に関し、流下条件(溶液条件、多孔板条件および析出条件)を種々変更して実験No.1〜36を行った。本実験では、図1に示す装置を用い、ノズル9として図4に示すような円形の板9aに複数の孔9bがほぼ均等に設けられた多孔板(PTFE製、直径800mm、厚さ30mm)を用いた。結果を表1A、1B、2、3に示す。
なお、図4は、孔径3mmの孔が37個設けられた多孔板を例示したものであり、孔径および孔数は異なり得、また、孔間距離は孔径および孔数に応じて10〜17mmで異なる。
【0063】
【表1A】

【0064】
【表1B】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
これら表を参照して、条件等について説明する(後述する表についても同様である)。
溶液条件として、該溶液のイオン交換基含有ポリアリーレンの濃度を調整し、各サンプルにつき粘度を測定した。かかる濃度範囲では、表面張力および密度は一定と考えて差し支えなく、表面張力σは0.03N/mであり、密度ρは1100kg/mであった。
多孔板条件として、孔径Dおよび孔数を異ならせた。
析出条件として、非プロトン性貧溶媒の液面からノズルまでの高さHおよび流量Uひいては線速度uを異ならせた。なお、表中の高さHは、便宜的に滴下初期の高さとしたが、滴下終了までに大きく変化しなかったため、高さ変化を無視して差し支えない。
実験により析出した固形物(イオン交換基含有ポリアリーレン)の形状を目視により確認し、粒状であった場合は記号○で、糸状または繊維状であった場合は記号×にて示した。
粘性係数hは、粘度μに応じて上記で定義した通りである。そして、各条件および粘性係数から安定液中パラメータx[m]を上述の式(2)に従って算出した。
【0068】
図6は、粘度μが2〜7Pa・sの場合における実験データに基づいて、安定液柱パラメータxに対して高さHをプロットしたグラフであり、H=0.454ln(x)+2.294の曲線を合わせて示したものである。また、図7は、粘度μが1〜2Pa・sの場合における実験データに基づいて、安定液柱パラメータxに対して高さHをプロットしたグラフであり、H=0.513ln(x)+2.898の曲線を合わせて示したものである。
【0069】
図6を参照して、粒状の析出物が得られた実験No.1〜3では、H≧0.454ln(x)+2.294であったのに対し、糸状または繊維状の析出物が得られた実験No.4〜14では、H<0.454ln(x)+2.294であった。また、図7を参照して、粒状の析出物が得られた実験No.15〜19および25〜29では、H≧0.513ln(x)+2.898であったのに対し、糸状または繊維状の析出物が得られた実験No.20〜24および30〜36では、H<0.454ln(x)+2.294であった。
【0070】
[比較例1]
上記の製造例1に順じて調製した溶液A’を用いた。溶液A’中のイオン交換基含有ポリアリーレンは、製造例1にて調製した溶液Aのイオン交換基含有ポリアリーレンと同様のセグメントを含んでおり(但し、Mwは273,000)、溶液A’は溶液Aと同様と考えて差し支えない。
溶液A’93.9gを、実施例1と同様にノズルから、その下方に位置する18.9%塩酸308gに流下させたところ、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンが析出した。液られた混合物から液状物を分離後、析出したイオン交換基含有ポリアリーレンを水、メタノールで順次洗浄して減圧乾燥した。これにより、実施例1と同様の構造を有するイオン交換基含有ポリアリーレンを3.15g得た。乾燥前重量は乾燥後重量の44倍であった。
【0071】
[製造例2:イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液Bの調製]
窒素置換した反応容器に、臭化ニッケル2.8kg、N−メチル−2−ピロリドン156kg加えた。得られた混合物を65℃で2時間撹拌した後、50℃に冷却し、2,2’−ビピリジン2.0kgを加え15℃に冷却し、ニッケル含有溶液を調製した。
窒素置換した別の反応容器に、下記式
【化20】

で示される化合物5.2kg、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)34.0kg、N−メチル−2−ピロリドン265kgを加え、30分撹拌した。亜鉛粉末6.2kgを加え、40℃に昇温し、メタンスルホン酸72.8gとN−メチル−2−ピロリドン4.78kgとを混合することにより調製した溶液を加えた。得られた混合溶液を40℃で3時間撹拌した後、15℃に冷却し、モノマー溶液を得た。
前記ニッケル含有溶液をモノマー溶液に注ぎ、得られた混合物を20℃で13時間撹拌し、カップリング反応を行った。これにより、下記式
【化21】

で示される繰り返し単位と、下記式
【化22】

で示されるセグメントを含むMwが359,000であるポリアリーレンを含む、黒色の重合溶液476kgを得た。
得られた重合溶液476kgにトルエン476kg、メチルエチルケトン476kg、18.9%塩酸143kgを加え、80℃で撹拌した。2時間静置後に分液し、下層の水層を分離し、ポリアリーレンを含む上層を1291kg得た。得られた上層を減圧下、濃縮し、トルエンとメチルエチルケトンを留去後、N−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアリーレンを含む溶液を607kg得た。35%塩酸24.8kgを加え120℃で24時間撹拌し、脱保護反応を行い、得られた溶液を減圧下、濃縮し、N−メチル−2−ピロリドン(非プロトン性良溶媒)を加えて、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液Bを671kg得た。
【0072】
[実施例2]
本実施例は、実施形態1に関し、非プロトン性貧溶媒としてアセトンを用いたものである。
上記の製造例2で調製した溶液B200kgを、ノズルから、その下方に位置するアセトン400kgに、アセトンを撹拌しつつ、流下させたところ、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンが析出した。得られた混合物から液状物を分離後、析出したイオン交換基含有ポリアリーレンをアセトン、13.2%塩酸、水で順次洗浄して減圧乾燥した。これにより、下記式
【化23】

で示される繰り返し単位と、下記式
【化24】

で示されるセグメントを含むイオン交換基含有ポリアリーレンを7.9kg得た。乾燥前重量は乾燥後重量の21.9倍であった。
【0073】
本実施例に関しても、流下条件(溶液条件、多孔板条件および析出条件)を種々変更して実験No.37〜40を行った。本実験でも、実施例1にて上述したように、図1に示す装置を用い、ノズル9として図4に示すような多孔板を用いた。結果を表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
図7を参照して、粒状の析出物が得られた実験No.37〜40では、H≧0.513ln(x)+2.898であった。
【0076】
[実施例3]
本実施例は、実施形態2に関し、非プロトン性貧溶媒としてアセトンを用いたものである。
上記の製造例2で調製した溶液B109g中に、該溶液を撹拌しながら、アセトン435gを徐々に供給したところ、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンが析出した。得られた混合物から液状物を分離後、析出したイオン交換基含有ポリアリーレンを13.2%塩酸、水で順次洗浄して減圧乾燥した。これにより、実施例2と同様の構造を有するイオン交換基含有ポリアリーレンを4.56g得た。乾燥前重量は乾燥後重量の10倍であった。
【0077】
[実施例4]
本実施例は、実施形態1をより小さいスケールで実施した改変例に関し、非プロトン性貧溶媒としてメチルエチルケトンを用いたものである。
上記の製造例2で調製した溶液B112gを、ノズルから、その下方に位置するメチルエチルケトン217gに流下させたところ、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンが析出した。得られた混合物から液状物を分離後、析出したイオン交換基含有ポリアリーレンをメチルエチルケトン、13.2%塩酸、水で順次洗浄して減圧乾燥した。これにより、実施例2と同様の構造を有するイオン交換基含有ポリアリーレンを4.44g得た。乾燥前重量は乾燥後重量の21倍であった。
【0078】
本実施例に関し、実験No.41を行った。本実験では、図5に示す装置を用い、ノズル9’として滴下漏斗を用いて、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液3’を非プロトン性貧溶媒13’に流下させた。結果を表5に示す。
【0079】
【表5】

【0080】
図7を参照して、粒状の析出物が得られた実験No.41では、H≧0.513ln(x)+2.898であった。
【0081】
[実施例5]
本実施例は、実施形態2に関し、非プロトン性貧溶媒としてメチルエチルケトンを用いたものである。
上記の製造例2で調製した溶液B109g中に、該溶液を撹拌しながら、メチルエチルケトン435gを徐々に供給したところ、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンが析出した。得られた混合物から液状物を分離後、析出したイオン交換基含有ポリアリーレンを13.2%塩酸、水で順次洗浄して減圧乾燥した。これにより、実施例2と同様の構造を有するイオン交換基含有ポリアリーレンを3.88g得た。乾燥前重量は乾燥後重量の16倍であった。
【0082】
[製造例3:イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液Cの調製]
窒素雰囲気下、蒸留管を付けた反応容器に、ヒドロキノンスルホン酸カリウム8.00g、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム17.91g、炭酸カリウム5.09g、ジメチルスルホキシド104mL、トルエン21mLを加え撹拌した。次いで、100℃まで昇温し、同温度にて5時間保温することにより、系中の水分をトルエンとともに共沸除去した。その後、140℃まで昇温し、同温度で12時間反応させ、反応液Xを調製した。
窒素雰囲気下、蒸留管を付けた別の反応容器に、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン15.82g、2,6−ジヒドロキシナフタレン10.59g、炭酸カリウム9.70g、N−メチル−2−ピロリドン56mL、ジメチルスルホキシド52mL、トルエン22mLを加え撹拌した。次いで100℃まで昇温し同温度にて6時間保温することにより、系中の水分をトルエンとともに共沸除去した。その後、同温度で5時間反応させ、反応液Yを調製した。
反応液Y中に反応液Xを移送し、N−メチル−2−ピロリドン149mL、ジメチルスルホキシド79mLで希釈後、135℃で30時間反応させた。80℃まで冷却後、N−メチル−2−ピロリドン182mLで希釈し、ラジオライトを濾過助剤として使用し、加圧濾過を行った。濾過後得られた溶液をポリマー濃度が8.4%となるまで減圧濃縮し、下記式
【化25】

で示される繰り返し単位と、下記式
【化26】

で示される繰り返し単位を含むMwが437,000(分析条件:移動相に臭化リチウム含有N,N−ジメチルアセトアミドを使用した)である、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液Cを調製した。
【0083】
[実施例6]
本実施例は、実施形態1をより小さいスケールで実施した改変例に関し、非プロトン性貧溶媒としてトルエンを用いたものである。
上記の製造例3で調製した溶液C204gを、ノズルから、その下方に位置するトルエン401gに流下させたところ、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンが析出した。得られた混合物から液状物を分離後、析出したイオン交換基含有ポリアリーレンをメタノール、18.9%塩酸、水で順次洗浄して減圧乾燥した。これにより、下記式
【化27】

で示される繰り返し単位と、下記式
【化28】

で示される繰り返し単位を含むイオン交換基含有ポリアリーレンを19.7g得た。乾燥前重量は乾燥後重量の5倍であった。
【0084】
本実施例に関し、実験No.42を行った。本実験では、実施例4にて上述したように、図5に示す装置を用いた。結果を表6に示す。
【0085】
【表6】

【0086】
図6を参照して、粒状の析出物が得られた実験No.42では、H≧0.454ln(x)+2.294であった。
【0087】
[比較例2]
上記の製造例3で調製した溶液C200gを、実施例6と同様にノズルから、その下方に位置する6.9%塩酸1260gに流下させたところ、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンが析出した。液られた混合物から液状物を分離後、析出したイオン交換基含有ポリアリーレンを6.9%塩酸、水で順次洗浄して減圧乾燥した。これにより、実施例6と同様の構造を有するイオン交換基含有ポリアリーレンを18.7g得た。乾燥前重量は乾燥後重量の130倍であった。
【0088】
[製造例4:イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液Dの調製]
窒素置換した反応容器を使用し、無水塩化ニッケル10.97gとジメチルスルホキシド110gとを混合し、内温70℃に昇温し、1時間撹拌した。これを50℃に冷却し、2,2’−ビピリジン14.54gを加え、同温度で10分撹拌し、ニッケル含有溶液を調製した。
別途、窒素置換した反応容器を使用し、下記式
【化29】

で示されるスミカエクセルPES 5200P(住友化学株式会社製;Mw=63,000、Mn=30,000(分析条件:移動相に臭化リチウム含有N,N−ジメチルアセトアミドを使用した))4.94gとジメチルスルホキシド150gを混合後、50℃に昇温し、1時間撹拌した。得られた溶液に、亜鉛粉末8.30gと2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)10.00gを加え、30分撹拌した。得られた混合溶液に前記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、ついで70℃に昇温して2時間重合反応を行った。これにより、下記式
【化30】

で示される繰り返し単位と下記式
【化31】

で示されるセグメントを含むMwが202,000(分析条件:移動相に臭化リチウム含有N,N−ジメチルアセトアミドを使用した)であるポリアリーレンを含む黒色の重合溶液309gを得た。
反応容器に室温で水620gを加え、さらに、上記で調製した重合溶液を注ぎ込み、2時間撹拌したのち析出した固体を濾別した。濾別した固体と水を混合し348gのスラリー溶液とした。
反応容器に室温で24.3%硝酸水440gを調整し、前記のスラリーを仕込み、1時間撹拌した。個体を濾過し、濾上物を水洗浄、メタノール洗浄し、80℃で12時間減圧乾燥して、12.5gの白色粉末を得た。
得られた白色粉末5.0gをN−メチル−2−ピロリドン75mLに溶解し、次いで臭化リチウム2.34g加え120℃で24時間反応させ、脱保護反応を行い、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液Dを得た。
【0089】
[実施例7]
本実施例は、実施形態1をより小さいスケールで実施した改変例に関し、非プロトン性貧溶媒としてトルエンを用いたものである。
上記の製造例4で調製した溶液D20.7gを、ノズルから、その下方に位置するトルエン100gに流下させたところ、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンが析出した。得られた混合物から液状物を分離後、析出したイオン交換基含有ポリアリーレンを重量比1:1のメタノールと塩酸からなる溶液、水で順次洗浄して減圧乾燥した。これにより、下記式
【化32】

で示される繰り返し単位と、下記式
【化33】

で示されるセグメントを含むイオン交換基含有ポリアリーレンを0.96g得た。乾燥前重量は乾燥後重量の5倍であった。
【0090】
本実施例に関し、実験No.43を行った。本実験でも、実施例4にて上述したように、図5に示す装置を用いた。結果を表7に示す。
【0091】
【表7】

【0092】
図6を参照して、粒状の析出物が得られた実験No.43では、H≧0.454ln(x)+2.294であった。
【0093】
[比較例3]
上記の製造例4で調製した溶液D20.7gを、実施例7と同様にノズルから、その下方に位置する18.9%塩酸65gに流下させたところ、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンが析出した。液られた混合物から液状物を分離後、析出したイオン交換基含有ポリアリーレンを重量比1:1のメタノールと塩酸からなる溶液、水で順次洗浄して減圧乾燥した。これにより、実施例7と同様の構造を有するイオン交換基含有ポリアリーレンを0.87g得た。乾燥前重量は乾燥後重量の45倍であった。
【0094】
[製造例5:イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液Eの調製]
窒素置換した反応容器に、臭化ニッケル1.45g、2,2’−ビピリジン1.55gおよびN−メチル−2−ピロリドン119.2gを加えた。得られた混合物を65℃で2時間撹拌した後、20℃に冷却し、ニッケル含有溶液を調製した。
窒素置換した別の反応容器に、下記式
【化34】

で示されるスミカエクセルPES 3600P(住友化学株式会社製;Mw=37,000、Mn=22,000)10.68g、亜鉛粉末2.60gおよびN−メチル−2−ピロリドン124.3gを加えた。得られた混合物を80℃で30分撹拌した後、メタンスルホン酸72mgとN−メチル−2−ピロリドン4.7gとを混合することにより調製した溶液を加えた。得られた混合溶液を80℃で3時間撹拌した後、20℃に冷却し、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)19.00gを加え、モノマー溶液を得た。
前記ニッケル含有溶液をモノマー溶液に注ぎ、得られた混合物を20℃で13時間撹拌し、カップリング反応を行った。これにより、下記式
【化35】

で示される繰り返し単位と、下記式
【化36】

で示されるセグメントを含むMwが273,000であるポリアリーレンを含む、黒色の重合溶液294gを得た。
得られた重合溶液180gにトルエン360g、メチルエチルケトン288g、18.9%塩酸54gを加え、80℃で撹拌した。15分静置後に分液し、下層の水層を分離した。その後上層の油層に18.9%塩酸54gを加え、80℃で撹拌した。15分静置後に分液し、下層の水層を分離し、ポリアリーレンを含む上層を724g得た。得られた上層を減圧下、濃縮し、トルエンとメチルエチルケトンを留去後、N−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアリーレンを含む溶液を188g得た。ピリジン12.78g、水43g、35%塩酸16.83g、N−メチル−2−ピロリドン85.5gを加え120℃で15時間撹拌し、脱保護反応を行い、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液Eを得た。
【0095】
[実施例8]
本実施例は、実施形態2に関し、非プロトン性貧溶媒としてトルエンを用いたものである。
上記の製造例5で調製した溶液E100g中に、該溶液を撹拌しながら、トルエン300gを徐々に供給したところ、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンが析出した。得られた混合物から液状物を分離後、析出したイオン交換基含有ポリアリーレンを18.9%塩酸、水で順次洗浄して減圧乾燥した。これにより、下記式
【化37】

で示される繰り返し単位と、下記式
【化38】

で示されるセグメントを含むポリアリーレンを2.85g得た。乾燥前重量は乾燥後重量の14倍であった。
【0096】
[比較例4]
上記の製造例5で調製した溶液E93.9g中に、実施例8と同様に、18.9%塩酸308gを徐々に供給したところ、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンが析出した。得られた混合物から液状物を分離後、析出したイオン交換基含有ポリアリーレンを水、メタノールで順次洗浄して減圧乾燥した。これにより、実施例8と同様の構造を有するイオン交換基含有ポリアリーレンを3.15g得た。乾燥前重量は乾燥後重量の44倍であった。
【0097】
[製造例6:イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液Fの調製]
窒素置換した反応容器に、臭化ニッケル2.8kg、N−メチル−2−ピロリドン156kg加えた。得られた混合物を65℃で2時間撹拌した後、50℃に冷却し、2,2’−ビピリジン2.0kgを加え15℃に冷却し、ニッケル含有溶液を調製した。
窒素置換した別の反応容器に、下記式
【化39】

で示される化合物5.2kg、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)34.0kg、N−メチル−2−ピロリドン265kgを加え、30分撹拌した。亜鉛粉末6.2kgを加え、40℃に昇温し、メタンスルホン酸72.8gとN−メチル−2−ピロリドン4.78kgとを混合することにより調製した溶液を加えた。得られた混合溶液を40℃で3時間撹拌した後、15℃に冷却し、モノマー溶液を得た。
前記ニッケル含有溶液をモノマー溶液に注ぎ、得られた混合物を20℃で13時間撹拌し、カップリング反応を行った。これにより、下記式、
【化40】

で示される繰り返し単位と、下記式
【化41】

で示されるセグメントを含むMwが359,000であるポリアリーレンを含む、黒色の重合溶液476kgを得た。
得られた重合溶液476kgにトルエン476kg、メチルエチルケトン476kg、18.9%塩酸143kgを加え、80℃で撹拌した。2時間静置後に分液し、下層の水層を分離し、ポリアリーレンを含む上層を1291kg得た。得られた上層を減圧下、濃縮し、トルエンとメチルエチルケトンを留去後、N−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアリーレンを含む溶液を607kg得た。35%塩酸24.8kgを加え120℃で24時間撹拌し、脱保護反応を行い、得られた溶液を減圧下、濃縮し、N−メチル−2−ピロリドン(非プロトン性良溶媒)を加えて、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液Fを671kg得た。
【0098】
[実施例9]
本実施例は、実施形態1をより小さいスケールで実施した改変例に関し、非プロトン性貧溶媒としてトルエンを用いたものである。
上記の製造例6で調製した溶液F109gを、ノズルから、その下方に位置するトルエン217gに流下させたところ、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンが析出した。得られた混合物から液状物を分離後、析出したイオン交換基含有ポリアリーレンをトルエン、13.2%塩酸、水で順次洗浄して減圧乾燥した。これにより、下記式
【化42】

で示される繰り返し単位と、下記式
【化43】

で示されるセグメントを含むイオン交換基含有ポリアリーレンを5.56g得た。乾燥前重量は乾燥後重量の22倍であった。
【0099】
本実施例に関し、実験No.44を行った。本実験でも、実施例4にて上述したように、図5に示す装置を用いた。結果を表8に示す。
【0100】
【表8】

【0101】
図7を参照して、粒状の析出物が得られた実験No.44では、H≧0.513ln(x)+2.898であった。
【0102】
[実施例10]
本実施例は、実施形態2に関し、非プロトン性貧溶媒としてトルエンを用いたものである。
上記の製造例6で調製した溶液F109g中に、該溶液を撹拌しながら、トルエン435gを徐々に供給したところ、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンが析出した。得られた混合物から液状物を分離後、析出したイオン交換基含有ポリアリーレンを13.2%塩酸、水で順次洗浄して減圧乾燥した。これにより、下記式
【化44】

で示される繰り返し単位と、下記式
【化45】

で示されるセグメントを含むポリアリーレンを3.77g得た。乾燥前重量は乾燥後重量の11倍であった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によって得られるイオン交換基含有ポリアリーレンは、例えば燃料電池の固体電解質またはプロトン伝導膜などとして用いられ得る。
【符号の説明】
【0104】
1 反応容器
3、3’ 混合物(イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液)
5 撹拌部材
7 ライン
9、9’ ノズル
9a 分散板
9b 孔
11 析出容器
13、13’ 非プロトン性貧溶媒(流下した該溶液と共に混合物を形成する)
15 撹拌部材
H 非プロトン性貧溶媒の液面からノズルまでの高さ
PI 圧力計
TI 温度計
L 長さ
d 長さ方向に対して垂直な断面における長径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液を非プロトン性貧溶媒と接触させ、これにより、固形状のイオン交換基含有ポリアリーレンを析出させることを特徴とする方法。
【請求項2】
非プロトン性貧溶媒がケトン溶媒であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ケトン溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンからなる群より選択される1種または2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
非プロトン性貧溶媒が疎水性溶媒であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
疎水性溶媒は、ペンタン、ヘキサン、へプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロへプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンからなる群より選択される少なくとも1種1種または2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記溶液は、非プロトン性良溶媒を含んで成ることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか記載の方法。
【請求項7】
前記接触は、イオン交換基含有ポリアリーレンを含む溶液をノズルから、その下方に位置する非プロトン性貧溶媒に、下記の式(1)および(2)を充足する条件で流下させることによって実施されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか記載の方法。
【数1】

(式中、
μは前記溶液の粘度[Pa・s]であり、
ρは該溶液の密度[kg/m]、
σは該溶液の表面張力[N/m]、
Hは非プロトン性貧溶媒の液面からノズルまでの高さ[m]、
Dはノズルの孔径[m]、
uはノズルから流下する該溶液の線速度[m/s]、
h、aおよびbは係数[−]であって、
μが1Pa・s以上2Pa・s未満の場合、h=12、a=0.513、b=2.898であり、
μが2Pa・s以上の場合、h=25、a=0.454、b=2.294である)
【請求項8】
粘度μが1〜7Pa・sであることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
密度ρが700〜1300kg/mであることを特徴とする、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
表面張力σが25×10−3〜35×10−3N/mであることを特徴とする、請求項7〜9のいずれか記載の方法。
【請求項11】
孔径Dが1×10−3〜4×10−3mであることを特徴とする、請求項7〜10のいずれか記載の方法。
【請求項12】
線速度uが0.01〜0.2m/sであることを特徴とする、請求項7〜11のいずれか記載の方法。
【請求項13】
高さHが0.5〜3mであることを特徴とする、請求項7〜12のいずれか記載の方法。
【請求項14】
前記接触は、前記溶液中に非プロトン性貧溶媒を供給することによって実施されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか記載のイオン交換基含有ポリアリーレンの析出方法を用いることを特徴とする、固形状イオン交換基含有ポリアリーレンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−12508(P2012−12508A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150751(P2010−150751)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】