説明

イオン伝導性シート、調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、合わせガラス、調光シートの製造方法、及び、調光体の製造方法

【課題】取扱い性に優れたイオン伝導性シート、該イオン伝導性シートを含む調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、合わせガラス、調光シートの製造方法、及び、調光体の製造方法を提供する。
【解決手段】バインダー樹脂と支持電解質塩と溶媒を含有するイオン伝導性シートであって、少なくとも第1の層と第2の層を有し、前記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度は、前記第2の層との動的粘弾性におけるtanδのピーク温度よりも10℃以上高く、前記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より高く、かつ、前記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より低いイオン伝導性シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取扱い性に優れたイオン伝導性シート、該イオン伝導性シートを含む調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、合わせガラス、調光シートの製造方法、及び、調光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加することにより光の透過率が変化する調光体は、広く用いられている。この調光体を建築物等や、電光板等の表示装置に応用することを目的とする検討が重ねられてきた。近年、自動車等の車内の温度を制御するために、調光シートを合わせガラス用中間膜として用いた合わせガラスが提案されている。このような合わせガラス用中間膜を用いることにより、合わせガラスの光線透過率を制御することができると考えられている。
【0003】
上記調光体は、液晶材料を用いた調光体と、エレクトロクロミック化合物を用いた調光体とに大別される。なかでも、エレクトロクロミック化合物を用いた調光体は、液晶材料を用いた調光体に比べて光散乱が少なく、偏光の影響を受けない等の優れた性質を有している。
【0004】
エレクトロクロミック化合物を用いた調光体として、対向する一対の電極基板の間に、エレクトロクロミック層と支持電解質塩層とを備える調光シートが挟み込まれている調光体が提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、無機酸化物を含有するエレクトロクロミック層、イオン伝導層、無機酸化物を含有するエレクトロクロミック層の3層が順次積層された積層体が、2枚の導電性基板間に挟み込まれている調光体が開示されている。また、特許文献3及び特許文献4には、対向する一対の電極基板の間に、有機エレクトロクロミック材料を含有するエレクトロクロミック層と支持電解質塩層とが挟み込まれている調光体が開示されている。
【0005】
上記支持電解質塩層は、イオンを伝導することによりエレクトロクロミック層に電圧を印加する役割を有し、バインダー樹脂、支持電解質塩、及び、溶媒を含有するイオン伝導性シートが用いられる。充分なイオン伝導性を発揮させるために、イオン伝導性シートには大量の支持電解質塩と溶媒とが配合される。しかしながら、大量の溶媒を含有するイオン伝導性シートは、表面にタック感があり、押出工程において、押出直後のシート状成型物を搬送する際に搬送用ロールに巻きつくトラブルが発生したり、ロール状に巻き取ったときにブロッキングが発生して展開しにくくなったり、取扱い性の点で問題があった。また、調光シートを合わせガラス用中間膜として用いる場合、ガラスとの積層時に空気溜まりが発生しないように、調光シートの表面にエンボス加工を施すことが通常である。しかし、大量の溶媒を含有するイオン伝導性シートの表面には、エンボス加工を施し難いという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−062030号公報
【特許文献2】特開2005−062772号公報
【特許文献3】特表2002−526801号公報
【特許文献4】特表2004−531770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、取扱い性に優れたイオン伝導性シート、該イオン伝導性シートを含む調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、合わせガラス、調光シートの製造方法、及び、調光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、バインダー樹脂と支持電解質塩と溶媒を含有するイオン伝導性シートであって、少なくとも第1の層と第2の層を有し、前記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度は、前記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度よりも10℃以上高く、前記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より高く、かつ、前記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より低いイオン伝導性シートである。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、少なくとも第1の層と第2の層を有し、第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度よりも10℃以上高く、第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より高く、かつ、第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より低いイオン伝導性シートは、取扱い性に極めて優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
このような第1の層と第2の層との動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の相違は、後述するように、例えば、第1の層と第2の層に含まれる支持電解質塩濃度と溶媒濃度とを調整することにより達成することができる。即ち、第1の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計を、第2の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計よりも低くすることにより達成できる。
【0011】
このような支持電解質塩濃度と溶媒濃度との層間での相違は、本発明のイオン伝導性シートを長期間保管したり、イオン伝導性シートを用いて調光体を製造したりした後に時間が経過するとともに、第2の層と第1の層との間で支持電解質塩及び溶媒の移行が起こり、第1の層の支持電解質塩濃度と第2の層の支持電解質塩濃度の差が小さくなり、また、第1の層の溶媒濃度と第2の層の溶媒濃度の差が小さくなることにより解消され、良好なエレクトロクロミック性を発揮させることができる。
即ち、本発明の技術思想は、動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の異なる少なくとも2層を積層してイオン伝導性シートの取扱い性を改善する一方、化学物質の層間移行現象を利用して、時間の経過とともに2層間の化学的性質を均一化して、最終的に得られる調光シート等のエレクトロクロミック性を維持するというものである。
【0012】
なお、上記動的粘弾性におけるtanδのピーク温度は、JIS K 7244に準拠して以下の方法にて測定することができる。
第1の層と第2の層を有するイオン伝導性シートを用いて試験シート(直径8mm)を作製し、得られた試験シートの動的粘弾性を、せん断法にて、歪み量1.0%及び周波数1Hzの条件下において、昇温速度3℃/分で動的粘弾性の温度分散測定をすることにより、第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度及び第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度を測定できる。
上記tanδのピーク温度とは、上記方法にて得られたtanδが最大値を示す温度を意味する。上記tanδのピーク温度は、例えば、粘弾性測定装置(レオメトリックス社製「ARES」)を用いて、測定することができる。
【0013】
なお、本発明のイオン伝導性シートにおける各層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度は、イオン伝導性シートの第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃よりも高いときに、測定することが好ましく、イオン伝導性シートの第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃よりも高く、かつ、第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度よりも10℃以上高いときに測定することがより好ましい。
【0014】
本発明のイオン伝導性シートは、少なくとも第1の層と第2の層とを有する。
上記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度は、上記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度よりも10℃以上高い。このような動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が異なる層を含む積層体とすることにより、最終的に得られる調光シート等のエレクトロクロミック性を維持したまま、取り扱い性を向上させることができる。上記第1の層と第2の層との動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の差が10℃未満であると、イオン伝導性シートの取り扱い性と、最終的に得られる調光シート等のエレクトロクロミック性とを両立させることは困難となる。上記第1の層と第2の層との動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の差の好ましい下限は20℃であり、より好ましい下限は30℃である。上記2層間の化学的性質を容易に均一化できることから、上記第1の層と第2の層との動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の差の好ましい上限は100℃であり、より好ましい上限は80℃であり、更に好ましい上限は60℃である。
なお、取扱い性により一層優れることから、二層の上記第1の層の間に上記第2の層が積層された多層構造であることがより好ましく、二層の上記第1の層の間に上記第2の層が積層された三層構造であることが更に好ましい。
【0015】
上記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度は5℃よりも高い。上記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度を5℃よりも高くすることにより、上記第1の層は、タック感が少なく、押出工程における搬送において、ロールに巻きつくなどのトラブルが著しく減少し、ロール状に巻き取ったときでもブロッキングを起こさずに展開することができる。また、第1の層の表面にエンボス加工を施すこともできる。上記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度は10℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。
上記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の上限は特に限定されないが、50℃以下であることが好ましい。上記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が50℃を超えると、第1の層を押出する工程において、粘度が高く、機械への負荷が大きくなったり、シートを成型する際の厚み精度が損なわれたりすることがある。上記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度は40℃以下であることがより好ましく、30℃以下であることが更に好ましく、25℃以下であることが特に好ましい。
【0016】
上記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度は5℃よりも低い。上記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度を5℃よりも低くすることにより、上記2層間の化学的性質が均一化したときの動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が低くなるため、良好なエレクトロミック性を得ることができる。
上記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度は−5℃以下が好ましく、−10℃以下がより好ましく、−15℃以下が更に好ましい。
上記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の下限は特に限定されないが、−40℃以上であることが好ましい。上記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が−40℃未満であると、柔らかすぎてシート状に成型することが困難であったり、シートの厚み精度が損なわれたりすることがある。上記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度は−35℃以上であることが好ましく、−30℃以上であることがより好ましく、−25℃以上であることが更に好ましい。
【0017】
本発明のイオン伝導性シートは、バインダー樹脂と支持電解質塩と溶媒を含有する。
上記バインダー樹脂は特に限定されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化エチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましく、ポリビニルアセタール樹脂がより好ましい。
【0018】
上記バインダー樹脂は、動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が30〜80℃であることが好ましい。上記バインダー樹脂の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が30℃未満であると、押出工程においてバインダー樹脂を押出機に投入する際に、樹脂がブロッキングを起こす可能性がある。上記バインダー樹脂の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が80℃を超えると、大量の支持電解質塩と溶媒とを配合させても充分に動的粘弾性におけるtanδのピーク温度を低下させることができず、上記第2の層を得ることができないことがある。上記バインダー樹脂の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度のより好ましい範囲は45〜75℃である。上記バインダー樹脂の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の更に好ましい下限は50℃、特に好ましい下限は55℃、最も好ましい下限は60℃、更に好ましい上限は70℃である。
【0019】
上記バインダー樹脂は、上記第1の層と第2の層とで同一の樹脂又は性質の近似した樹脂を用いることが好ましい。同一の樹脂又は性質の近似した樹脂を用いることにより、最終的に得られる調光シートの支持電解質塩層(イオン伝導性シート)が均一な組成分布となり、より良好なエレクトロミック性が得られる。上記2層間の化学的性質を容易に均一化できることから、上記第1の層に含まれるバインダー樹脂の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度と、上記第2の層に含まれるバインダー樹脂の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度との差は、10℃以下が好ましく、5℃以下がより好ましく、2℃以下が更に好ましい。
【0020】
上記支持電解質塩は特に限定されず、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム、リンフッ化リチウム等の無機酸アニオンリチウム塩や、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム等の有機酸アニオンリチウム塩が挙げられる。
また、上記支持電解質塩は、アンモニウムカチオンと、アニオンとの塩であってもよい。上記アンモニウムカチオンは特に限定されず、テトラエチルアンモニウム、トリメチルエチルアンモニウム、メチルプロピルピロリジニウム、メチルブチルピロリジニウム、メチルプロピルピペリジニウム、メチルブチルピペリジニウム等のアルキルアンモニウムカチオンや、エチルメチルイミダゾリウム、ジメチルエチルイミダゾリウム、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム等が挙げられる。
上記アニオンは特に限定されず、過塩素酸アニオン、ホウフッ化アニオン、リンフッ化アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドアニオン等が挙げられる。
【0021】
上記溶媒は特に限定されず、上記支持電解質塩を溶解できることが好ましい。
上記溶媒として、例えば、アセトニトリル、ニトロメタン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等のエステル類や、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の置換テトラヒドロフラン類や、1,3−ジオキソラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン、t−ブチルエーテル、イソブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−エトキシメトキシエタン等のエーテル類や、エチレングリコール、ポリエチレングリコールスルホラン、3−メチルスルホラン、蟻酸メチル、酢酸メチル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
また、上記溶媒として、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(4GO)、ジヘキシルアジペート(DHA)等の液状可塑剤を用いてもよい。
【0022】
本発明のイオン伝導性シート中における上記支持電解質塩の濃度は、上記第1の層と上記第2の層とを合わせたイオン伝導性シート全体として、好ましい下限は5重量%、好ましい上限は40重量%である。上記支持電解質塩の濃度が5重量%未満であると、イオン伝導性が低くなるため、電圧を印加しても上記エレクトロクロミック層の光の透過率が変化しないことがある。上記支持電解質塩の濃度が40重量%を超えると、イオン伝導性が低くなるため、電圧を印加しても上記エレクトロクロミック層の光の透過率が変化しないことがある。上記支持電解質塩の濃度のより好ましい下限は15重量%、より好ましい上限は30重量%である。
【0023】
本発明のイオン伝導性シート中における上記溶媒の濃度は、上記第1の層と上記第2の層とを合わせたイオン伝導性シート全体として、好ましい下限は5重量%、好ましい上限は55重量%である。上記溶媒の濃度が5重量%未満であると、押出する工程において、粘度が高く、機械への負荷が大きくなったり、シートを成型する際の厚み精度が損なわれたりする可能性があるからである。上記溶媒の濃度が55重量%を超えると、イオン伝導性シートからブリードアウトが起こりエレクトロミック性の性能変化を起こしてしまうことがある。上記溶媒の濃度のより好ましい下限は15重量%、更に好ましい下限は25重量%、より好ましい上限は55重量%、更に好ましい上限は40重量%である。
【0024】
本発明のイオン伝導性シート中における上記支持電解質塩濃度と上記溶媒濃度との合計は、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は60重量%である。上記濃度が10重量%未満であると、押出する工程において、粘度が高く、機械への負荷が大きくなったり、シートを成型する際の厚み精度が損なわれたりする可能性がある。上記濃度が60重量%を超えると、イオン伝導性シートからブリードアウトが起こりエレクトロミック性の性能変化を起こしてしまうことがある。上記溶媒の濃度のより好ましい下限は20重量%、更に好ましい下限は25重量%、より好ましい上限は55重量%、特に好ましい下限は30重量%、更に好ましい上限は50重量%である。
【0025】
第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が第2の層との動的粘弾性におけるtanδのピーク温度よりも10℃以上高くする方法としては特に限定されないが、第1の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計を、第2の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計よりも低くする方法が挙げられる。
上述のように、このように層間に支持電解質塩濃度と溶媒濃度の差があっても、時間の経過とともに第1の層と第2の層との間で支持電解質塩及び溶媒の移行が起こり、第1の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計と第2の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計との差が小さくなる。更に、最終的には支持電解質塩層(イオン伝導性シート)全体として支持電解質塩濃度と溶媒濃度が均一になることが好ましい。
【0026】
上記第1の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計の好ましい上限は50重量%である。上記第1の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計が50重量%を超えると、動的粘弾性におけるtanδのピーク温度を5℃より高くすることが困難となり、タック感が大きくなり、取扱い性が低下することがある。上記第1の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計のより好ましい上限は40重量%、更に好ましい上限は35重量%、特に好ましい上限は30重量%である。
上記第1の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計の下限は特に限定されず、0重量%であってもよい。しかし、上記第1の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計を0重量%とすると、上記第2の層との濃度差が大きくなる。上記第1の層と第2の層との濃度差が大きいほど、第1の層と第2の層との間で支持電解質塩及び溶媒の移行速度が遅くなり、支持電解質塩濃度及び溶媒濃度が均一になるまでの期間が長くなる。支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計が均一になるまでの期間が長いと、本発明のイオン伝導性シートを用いて調光シートを製造してから、調光シート中の支持電解質塩層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計が均一になり、所期のエレクトロクロミック性を発揮できるようになるまでの期間(要均一化時間)が長くなる傾向にある。上記第1の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計の好ましい下限は5重量%、より好ましい下限は10重量%、更に好ましい下限は20重量%である。
【0027】
一方、上記第1の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計を比較的高くして、上記第1の層と第2の層との濃度差を小さくすると、第1の層と第2の層との間で支持電解質塩及び溶媒の移行速度が速くなり、支持電解質塩濃度及び溶媒濃度が均一になるまでの期間が短くなる。支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計が均一になるまでの期間があまりに短いと、本発明のイオン伝導性シートを製造してから、調光体の製造に使用できる期間(可使期間)が短くなる傾向にある。
上記第1の層と第2の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計の差は、最終的に支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計が均一になったと仮定したときの支持電解質塩層(イオン伝導性シート)全体としての支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計が上記所期の範囲内となるようにして、イオン伝導性シートの可使期間と、調光シートの要均一化時間とを考慮して設定すればよい。
【0028】
上記第1の層と第2の層の厚さについては、第1の層を厚く設定すると、第1の層と第2の層との支持電解質塩濃度や溶媒濃度の差を大きくできる設計となり、第1の層を薄く設定すると、第1の層と第2の層との支持電解質塩濃度や溶媒濃度の合計の差を小さくできる設計となる。
【0029】
本発明のイオン伝導性シート全体の厚さの好ましい下限は50μm、好ましい上限は2000μmである。イオン伝導性シート全体の厚さを50〜2000μmの範囲内とすることにより、調光体の応答性を向上させることができる。本発明のイオン伝導性シート全体の厚さのより好ましい下限は200μm、より好ましい上限は1000μmである。
【0030】
上記第1の層と第2の層との間で支持電解質塩及び溶媒の移行速度は、バインダー樹脂の選択によっても調整することができる。例えば、上記第1の層と第2の層に含まれるバインダー樹脂がポリビニルアセタール樹脂である場合、該ポリビニルアセタール樹脂の重合度を第1の層と第2の層とで異なる重合度とすることにより、支持電解質塩及び溶媒の移行速度を調整することができる。
【0031】
本発明のイオン伝導性シートを製造する方法は特に限定されず、上記第1の層と第2の層とを別々に製造し、第1の層と第2の層とを積層してもよいし、上記第1の層と第2の層とを共押出しして本発明のイオン伝導性シートを製造してもよい。
【0032】
本発明のイオン伝導性シートの少なくとも片面に、エレクトロクロミック層を形成することにより調光シートを得ることができる。
本発明のイオン伝導性シートと、該イオン伝導性シートの少なくとも片面に形成されたエレクトロクロミック層とを有する調光シートもまた、本発明の1つである。
【0033】
上記エレクトロクロミック層は、エレクトロクロミック化合物を含有する。上記エレクトロクロミック層は、酸化により可視光線透過率が増加する性質を有する。上記エレクトロクロミック層はアノードエレクトロクロミック層として作用する。なお、エレクトロクロミック性を有するとは、電圧を印加することにより光の透過率が変化する性質を有することを意味する。
【0034】
上記エレクトロクロミック化合物は導電性高分子であることが好ましい。
上記導電性高分子は、例えば、ポリピロール化合物、ポリアセチレン化合物、ポリチオフェン化合物、ポリパラフェニレンビニレン化合物、ポリアニリン化合物、ポリエチレンジオキシチオフェン化合物等が挙げられる。なかでも、ポリアセチレン化合物が好ましく、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物がより好ましい。
【0035】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は、エレクトロクロミック性と導電性とを有し、かつ、エレクトロクロミック層の形成が容易である。従って、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物を用いれば、優れた調光性能を有するエレクトロクロミック層を容易に形成できる。また、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は、構造が変化することにより、吸収特性の変化を示す。その結果、吸収スペクトルが近赤外線の波長領域に及ぶため、エレクトロクロミック層は広い波長領域について優れた調光性能を有する。
【0036】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は特に限定されないが、例えば、一置換又は二置換の芳香族を側鎖に有するポリアセチレン化合物等が好適である。
【0037】
上記芳香族側鎖を構成する置換基は特に限定されないが、例えば、フェニル、p−フルオロフェニル、p−クロロフェニル、p−ブロモフェニル、p−ヨードフェニル、p−ヘキシルフェニル、p−オクチルフェニル、p−シアノフェニル、p−アセトキシフェニル、p−アセトフェニル、ビフェニル、o−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、p−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、o−(ジフェニルメチルシリル)フェニル、p−(ジフェニルメチルシリル)フェニル、o−(トリフェニルシリル)フェニル、p−(トリフェニルシリル)フェニル、o−(トリルジメチルシリル)フェニル、p−(トリルジメチルシリル)フェニル、o−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、p−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、o−(フェネチルジメチルシリル)フェニル、p−(フェネチルジメチルシリル)フェニル等のフェニル基や、ビフェニル基や、1−ナフチル、2−ナフチル、1−(4−フルオロ)ナフチル、1−(4−クロロ)ナフチル、1−(4−ブロモ)ナフチル、1−(4−ヘキシル)ナフチル、1−(4−オクチル)ナフチル等のナフチル基や、ナフタレン基や、1−アントラセン、1−(4−クロロ)アントラセン、1−(4−オクチル)アントラセン等のアントラセン基や、1−フェナントレン等のフェナントレン基や、1−フルオレン等のフルオレン基や、1−ペリレン等のペリレン基等が挙げられる。
【0038】
上記エレクトロクロミック層は、熱線吸収剤や接着力調整剤を含有してもよい。従来公知の熱線吸収剤や接着力調整剤を用いることができる。
【0039】
上記エレクトロクロミック層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は0.05μm、好ましい上限は4μmである。上記エレクトロクロミック層の厚さが0.05μm未満であると、上記エレクトロクロミック層に電圧を印加しても充分に光の透過率が変化しないことがあり、4μmを超えると、調光体の透明性が低下することがある。上記エレクトロクロミック層の厚さのより好ましい下限は0.1μm、より好ましい上限は3μmである。
【0040】
上記エレクトロクロミック層はバインダー樹脂を含有してもよい。上記バインダー樹脂は上述した本発明のイオン伝導性シートに含まれるバインダー樹脂と同様のバインダー樹脂を用いることができる。
【0041】
本発明の調光シートを製造する方法は特に限定されず、上記エレクトロクロミック化合物を有機溶剤に溶解させた溶液を調整し、得られた溶液を本発明のイオン伝導性シートの少なくとも一方の面に塗布し、有機溶剤を揮発させる方法が挙げられる。製造直後の本発明のイオン伝導性シートは極めて取り扱い性に優れる。一方、上記エレクトロクロミック層を形成した後、一定時間放置することによりイオン伝導性シート中の第1の層と第2の層との間で支持電解質塩濃度や溶媒濃度に差があっても、時間の経過とともに移行が進み、最終的には第1の層と第2の層との支持電解質塩濃度や溶媒濃度の差が小さくなる。
バインダー樹脂と支持電解質塩と溶媒を含有するイオン伝導性シートであって、少なくとも第1の層と第2の層を有し、上記第1の層と上記第2の層との動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の差が10℃以上であり、上記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より高く、かつ、上記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より低いイオン伝導性シートの少なくとも一方の面上に、エレクトロクロミック層を形成する工程と、上記イオン伝導性シート中の第1の層と第2の層との間で支持電解質塩及び溶媒を移行させる工程とを有する調光シートの製造方法もまた、本発明の1つである。なお、上記調光シートの製造方法は、バインダー樹脂と支持電解質塩と溶媒を含有するイオン伝導性シートであって、少なくとも第1の層と第2の層を有し、上記第1の層と上記第2の層との動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の差が10℃以上であり、上記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より高く、かつ、上記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より低いイオン伝導性シートを調製する工程を有してもよい。
【0042】
また、バインダー樹脂と支持電解質塩と溶媒を含有するイオン伝導性シートであって、少なくとも第1の層と第2の層を有し、上記第1の層と上記第2の層との動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の差が10℃以上であり、上記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より高く、かつ、上記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より低いイオン伝導性シートの少なくとも一方の面上に、エレクトロクロミック層を有する調光シートを、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込む工程と、上記イオン伝導性シート中の第1の層と第2の層との間で支持電解質塩及び溶媒を移行させる工程とを有する調光体の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0043】
更に、バインダー樹脂と支持電解質塩と溶媒を含有するイオン伝導性シートであって、少なくとも第1の層と第2の層を有し、上記第1の層と上記第2の層との動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の差が10℃以上であり、上記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より高く、かつ、上記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より低いイオン伝導性シートを、エレクトロクロミック層を有する導電膜が形成されている第1のガラス板と、導電膜が形成されている第2のガラス板との間に、イオン伝導性シートが第1のガラス板のエレクトロクロミック層と第2のガラス板の導電膜と接するように挟み込む工程と、上記イオン伝導性シート中の第1の層と第2の層との間で支持電解質塩及び溶媒を移行させる工程とを有する調光体の製造方法が挙げられる。なお、上記第1のガラス板は、ガラス板に形成された導電膜の表面にエレクトロクロミック層が形成されている。
【0044】
更に、バインダー樹脂と支持電解質塩と溶媒を含有するイオン伝導性シートであって、少なくとも第1の層と第2の層を有し、上記第1の層と上記第2の層との動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の差が10℃以上であり、上記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より高く、かつ、上記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より低いイオン伝導性シートを、エレクトロクロミック層を有する導電膜が形成されている第1のガラス板と、エレクトロクロミック層を有する導電膜が形成されている第2のガラス板との間に、イオン伝導性シートが第1のガラス板のエレクトロクロミック層と第2のガラス板のエレクトロクロミック層と接するように挟み込む工程と、上記イオン伝導性シート中の第1の層と第2の層との間で支持電解質塩及び溶媒を移行させる工程とを有する調光体の製造方法が挙げられる。なお、上記第1,第2のガラス板は、ガラス板に形成された導電膜の表面にエレクトロクロミック層が形成されている。
【0045】
本発明の調光シートが、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれている調光体もまた、本発明の1つである。
本発明の調光シートは、合わせガラス用中間膜として使用することができる。上記調光シートを用いる合わせガラス用中間膜もまた、本発明の1つである。
本発明の合わせガラス用中間膜は、本発明の調光シートの構成以外に、必要に応じて、紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収層や、熱線吸収剤を含有する赤外線吸収層等を有してもよい。
【0046】
本発明の合わせガラス用中間膜が、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれている合わせガラスもまた、本発明の1つである。上記ガラス板は、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入りガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
上記ガラス板として、2種類以上のガラス板を用いてもよい。例えば、透明フロート板ガラスと、グリーンガラスのような着色されたガラス板とで、本発明の調光シート又は合わせガラス用中間膜を挟持した調光体又は合わせガラスが挙げられる。また、上記ガラス板として、2種以上の厚さの異なるガラス板を用いてもよい。
【0047】
上記導電膜は、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)等を含む透明導電膜が好ましい。
【0048】
本発明の合わせガラスは、自動車用ガラスとして使用する場合は、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラスとして用いることができる。本発明の合わせガラスは、また、住宅用窓ガラス、住宅天井用窓ガラス、店舗ショーウインドウ、店舗窓ガラス、店舗パーティション等にも用いることができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、取扱い性に優れたイオン伝導性シート、該イオン伝導性シートを含む調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、合わせガラス、調光シートの製造方法、及び、調光体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
(1)第1の層を形成するための樹脂組成物の調製
バインダー樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂(平均重合度2300、ブチラール化度65モル%、水酸基の含有率22モル%、アセチル化度13モル%、tanδのピーク温度70℃)100重量部と、支持電解質塩として過塩素酸リチウム5.8重量部と、溶媒としてプロピレンカーボネート20重量部とを充分に混合し、第1の層を形成するための樹脂組成物を調製した。
【0052】
(2)第2の層を形成するための樹脂組成物の調製
バインダー樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂(平均重合度2300、ブチラール化度65モル%、水酸基の含有率22モル%、アセチル化度13モル%、tanδのピーク温度70℃)100重量部と、支持電解質塩として過塩素酸リチウム24.6重量部と、溶媒としてプロピレンカーボネート86.7重量部とを充分に混合し、第2の層を形成するための樹脂組成物を調製した。
【0053】
(3)イオン伝導性シートの製造
第1の層を形成するための樹脂組成物と第2の層を形成するための樹脂組成物とを用いて共押出しすることにより、第1の層(厚み50μm)と第2の層(厚み300μm)と第1の層(厚み50μm)とがこの順に積層された三層構造のイオン伝導性シートを製造した。
【0054】
なお、JIS K 7244に準拠して、イオン伝導性シートを用いて試験シート(直径8mm)を作製し、得られた試験シートの動的粘弾性を、粘弾性測定装置(レオメトリックス社製「ARES」)を用いて、せん断法にて、歪み量1.0%及び周波数1Hzの条件下において、昇温速度3℃/分で動的粘弾性の温度分散測定をすることにより、第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度及び第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度を測定した。
また、バインダー樹脂であるポリビニルブチラール樹脂の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度は、ポリビニルブチラール樹脂を200℃で溶融プレスし、直径8mm、厚み1mmの試験シートを作成し、イオン伝導性シートの動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の測定と同様に測定した。
【0055】
(4)ポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)の調製
窒素雰囲気下−50℃で9−エチニルフェナントレン3gを溶解させたテトラヒドロフラン溶液30mLにノルマルブチルリチウムの1.6mol/Lヘキサン溶液を添加した。次いで、−90℃に冷却後、カリウムターシャリーブトキシド1.8gを溶解させたテトラヒドロフラン溶液15mLを添加し、−80℃で1時間撹拌し、5℃まで昇温した。次いで、−70℃で1−ヨードオクタデカン5.6gを滴下し、−30℃で12時間撹拌した。0℃で水100mLを滴下し、ヘキサンを加え、生成した化合物を抽出した。このヘキサン層を蒸留水300mLで3回洗浄後、無水硫酸マグネシウムで1時間乾燥させ、濾過後、溶媒を留去した。カラム精製後溶媒を留去し、ヘキサンを展開溶媒としてカラム精製することにより3.5gの9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレンを得た。
得られた9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレンについてH−NMR(270MHz、CDCl)により分析を行ったところ、δ8.7(2H)、8.5(1H)、8.1(1H)、7.7(4H)、3.7(1H)、3.5(2H)、1.7(2H)、1.6(30H)、1.0(3H)のピークが認められた。
得られた9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン0.35gをWCl触媒を用いて重合させ、ポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)0.27gを得た。
【0056】
(5)調光シートの製造
得られたポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)10mgをトルエン0.6mLに溶解し、イオン伝導性シート層上に乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにコントロールコーターで塗布した後、乾燥して調光シートを得た。
【0057】
(6)調光体の製造
得られた調光シートを、表面にITO層を設けた2枚のガラス板(表面抵抗10Ω/□)で、それぞれのITO層が調光シートに接するように挟み、真空ラミネーターを用いて、90℃で20分間圧着し、調光体を得た。
【0058】
(実施例2〜8、比較例1〜3)
表1の組成及び厚みに従い、実施例1と同様にしてイオン伝導性シート、調光シート及び調光体を得た。
【0059】
(実施例9)
第2の層を形成するための樹脂組成物の調製にて、バインダー樹脂であるポリビニルブチラール樹脂を、ポリビニルブチラール樹脂(平均重合度2100、ブチラール化度56モル%、水酸基の含有率22モル%、アセチル化度22モル%、tanδのピーク温度66℃)に変更した以外は、実施例1と同様にしてイオン伝導性シート、調光シート及び調光体を得た。
【0060】
(評価)
実施例及び比較例で得たイオン伝導性シート及び調光体について、以下の方法で評価を行った。結果を表1に示した。
【0061】
(1)イオン伝導性シートの第1の層の表面のタック感の評価
得られたイオン伝導性シートを縦50mm、横150mmの大きさに切断し、試験片を作製した。作製した試験片を同じ大きさのSUS鋼鈑(304−2B、表面仕上げ加工をJIS B 0601に準拠した十点粗さRzで50〜100z)に、0.2kgのローラーを2往復させた後、30分間放置する方法により貼り合わせて、試験体を得た。
【0062】
万能材料試験機(オリエンテック社製「TENSILON RTC−1310」)を用いて、剥離速度300mm/minにて得られた試験体の90度剥離試験(JIS Z 0237に準拠)を行い、第1の層表面のタック感を評価した。90度剥離試験において、剥離力が3N以上を「×」、1N以上3N未満を「△」、1N未満を「○」と評価した。なお、90度剥離試験は、イオン伝導性シートを製造してから1時間が経過した時点で行った。
【0063】
(2)イオン伝導性シートの支持電解質塩濃度と溶媒濃度との合計の均一化に要する時間の測定およびイオン伝導性シートのtanδのピーク温度の測定
得られたイオン伝導性シートを直径8mmの大きさに切断し、試験片を作製した。得られた試験片を、粘弾性測定装置(レオメトリックス社製「ARES」)を用いて、せん断法にて、歪み量1.0%及び周波数1Hzの条件下において、昇温速度3℃/分で動的粘弾性の温度分散を測定した。第1の層に由来するtanδのピーク温度1と第2の層に由来するtanδのピーク温度2とが確認された。イオン伝導性シートを作製して1時間後に各々の層に由来するtanδのピーク温度を測定するとともに、イオン伝導性シートを23℃の環境下に保管し、イオン伝導性シートを作製してからピーク温度1とピーク温度2とが一致するまでの時間を測定した。
【0064】
(3)調光体のエレクトロクロミック性の評価
得られた調光体の電極に+2Vの直流電圧を印加してから、青色の調光体が目視にて無色に変化するまでの時間を測定した。直流電圧を印加してから、青色の調光体が目視にて無色に変化するまでの時間が1時間以下の場合を「○」、1時間を超え2時間以下の場合を「△」、2時間を超えても調光体の色が無色に変化しなかった場合を「×」と評価した。
【0065】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、取扱い性に優れたイオン伝導性シート、該イオン伝導性シートを含む調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、合わせガラス、調光シートの製造方法、及び、調光体の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂と支持電解質塩と溶媒を含有するイオン伝導性シートであって、少なくとも第1の層と第2の層を有し、前記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度は、前記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度よりも10℃以上高く、前記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より高く、かつ、前記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より低いことを特徴とするイオン伝導性シート。
【請求項2】
第1の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計が、第2の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計よりも低いことを特徴とする請求項1記載のイオン伝導性シート。
【請求項3】
第2の層が二層の第1の層の間に積層されていることを特徴とする請求項1又は2記載のイオン伝導性シート。
【請求項4】
第1の層の支持電解質塩濃度と溶媒濃度の合計が50重量%以下であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のイオン伝導性シート。
【請求項5】
バインダー樹脂がポリビニルアセタール樹脂であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のイオン伝導性シート。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載のイオン伝導性シートと、前記イオン伝導性シートの少なくとも片面に形成されたエレクトロクロミック層とを有することを特徴とする調光シート。
【請求項7】
請求項6記載の調光シートが、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれていることを特徴とする調光体。
【請求項8】
請求項6記載の調光シートを用いることを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項9】
請求項8記載の合わせガラス用中間膜が、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれていることを特徴とする合わせガラス。
【請求項10】
バインダー樹脂と支持電解質塩と溶媒を含有するイオン伝導性シートであって、少なくとも第1の層と第2の層を有し、前記第1の層と前記第2の層との動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の差が10℃以上であり、前記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より高く、かつ、前記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より低いイオン伝導性シートの少なくとも一方の面上に、エレクトロクロミック層を形成する工程と、前記イオン伝導性シート中の第1の層と第2の層との間で支持電解質塩及び溶媒を移行させる工程とを有することを特徴とする調光シートの製造方法。
【請求項11】
バインダー樹脂と支持電解質塩と溶媒を含有するイオン伝導性シートであって、少なくとも第1の層と第2の層を有し、前記第1の層と前記第2の層との動的粘弾性におけるtanδのピーク温度の差が10℃以上であり、前記第1の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より高く、かつ、前記第2の層の動的粘弾性におけるtanδのピーク温度が5℃より低いイオン伝導性シートの少なくとも一方の面上に、エレクトロクロミック層を有する調光シートを、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込む工程と、前記イオン伝導性シート中の第1の層と第2の層との間で支持電解質塩及び溶媒を移行させる工程とを有することを特徴とする調光体の製造方法。

【公開番号】特開2012−83747(P2012−83747A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203352(P2011−203352)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】