説明

イオン伝導性高分子複合膜、膜電極接合体、燃料電池およびイオン伝導性高分子複合膜の製造方法

【課題】 高ガスバリア性と高プロトン伝導性を両立させたイオン伝導性高分子複合膜、該イオン伝導性高分子複合膜を用いた膜電極接合体および燃料電池およびイオン伝導性高分子複合膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 イオン伝導性高分子と、イオン伝導性構造体とからなるイオン伝導性複合膜において、前記イオン伝導性構造体は、無機化合物からなる層を複数有する無機層状構造体と、スルホベタイン型又はヒドロキシスルホベタイン型の両性イオン界面活性剤と、を有し、前記両性イオン界面活性剤が、前記無機化合物からなる層の間に存在していることを特徴とするイオン伝導性高分子複合膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性高分子複合膜、膜電極接合体、燃料電池およびイオン伝導性高分子複合膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nafion膜(登録商標、デュポン社製)を始めとするイオン伝導性高分子膜のガスバリア性能を向上させる方法として、特許文献1には、無機層状構造体が有するシラノール基を利用して無機層状構造体にスルホン酸基を結合させて得たイオン伝導性構造体をイオン伝導性高分子膜中に分散させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−327932
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、端面にのみシラノール基を有するモンモリロナイトを無機層状化合物として使用しているため、図1に示すように、スルホン酸基を無機層状化合物からなる層1の端面にしか結合させることができず、得られるイオン伝導性高分子複合膜のプロトン伝導性が十分ではなかった。
そこで、本発明では、高ガスバリア性と高プロトン伝導性を両立させたイオン伝導性高分子複合膜、該イオン伝導性高分子複合膜を用いた膜電極接合体および燃料電池、前記イオン伝導性高分子複合膜を形成するためのイオン伝導性構造体、イオン伝導性構造体の製造方法およびイオン伝導性高分子複合膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一は、
イオン伝導性高分子と、イオン伝導性構造体とからなるイオン伝導性複合膜において、
前記イオン伝導性構造体は、無機化合物からなる層を複数有する無機層状構造体と、スルホベタイン型又はヒドロキシスルホベタイン型の両性イオン界面活性剤と、を有し、
前記両性イオン界面活性剤が、前記無機化合物からなる層の間に存在していることを特徴とするイオン伝導性高分子複合膜である。
【0006】
本発明の第二は、前記イオン伝導性高分子複合膜と、該イオン伝導性高分子複合膜に接触する2つの触媒層と、からなることを特徴とする膜電極接合体である。
【0007】
本発明の第三は、前記膜電極接合体と、該膜電極接合体に接触する2つのガス拡散層と、該2つのガス拡散層に各々接触する2つの集電体と、を有することを特徴とする燃料電池である。
【0008】
本発明の第四は、
(i)無機化合物からなる層を複数有する無機層状構造体と、前記無機化合物からなる層の間に存在する金属イオンと、からなる金属イオン含有無機層状構造体の、前記金属イオンを、イオン交換基を有する両性イオン界面活性剤に置換してイオン伝導性構造体を形成する工程と、
(ii)前記イオン伝導性構造体をイオン伝導性高分子膜に分散させる工程と、
を有することを特徴とするイオン伝導性高分子複合膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高ガスバリア性と高プロトン伝導性を両立させたイオン伝導性高分子複合膜、該イオン伝導性高分子複合膜を用いた膜電極接合体および燃料電池、およびイオン伝導性高分子複合膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】先行技術1のイオン伝導性構造体を示す模式図である。
【図2】本発明のイオン伝導性高分子複合膜におけるイオン伝導性構造体の一例を示す模式図である。
【図3】本発明における無機化合物からなる層の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の膜電極接合体の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の燃料電池の一例を示す模式図である。
【図6】本発明のイオン伝導性構造体の製造方法の一例を示す模式的な工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の第一は、イオン伝導性高分子と、イオン伝導性構造体とからなるイオン伝導性複合膜において、
前記イオン伝導性構造体は、無機化合物からなる層を複数有する無機層状構造体と、スルホベタイン型又はヒドロキシスルホベタイン型の両性イオン界面活性剤と、を有し、
前記両性イオン界面活性剤が、前記無機化合物からなる層の間に存在していることを特徴とするイオン伝導性高分子複合膜である。
【0013】
図2は、本発明の第一のイオン伝導性高分子複合膜におけるイオン伝導性構造体の一例を示す模式図である。
【0014】
図2において、1は無機化合物からなる層であり、2は無機化合物からなる層1が複数集まった無機層状構造体である。そして、本発明の第一のイオン伝導性高分子複合膜におけるイオン伝導性構造体4は、無機層状構造体2と、無機層状構造体2を構成する無機化合物からなる層1の間に存在するイオン交換基Aを有する両性イオン界面活性剤(言い換えれば、両性イオン両親媒性分子)3と、からなる。
【0015】
以下、イオン伝導性構造体を構成する各部分について説明する。
【0016】
無機層状構造体2は、無機化合物からなる層1の集合体であり、無機化合物からなる層1を複数有する。ここで、本発明において、無機化合物とは、炭素を含まない化合物、グラファイトやダイヤモンドなどの炭素の同位体、一酸化炭素、二酸化炭素あるいは炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩、青酸と金属青酸塩、金属シアン酸塩、金属チオシアン酸塩を示す。
【0017】
なお、本発明において、「層」とは、アスペクト比が20以上であるものである。また、構造体aのアスペクト比とは、[構造体a内に存在し得る線分のうち最大の長さを有する線分(ア)の長さ]/[前記線分(ア)に垂直に構造体a内に存在し得る線分のうちの最大の長さを有する線分(イ)の長さ]とする。なお、線分(ア)の長さおよび線分(イ)の長さは、剥離させた無機層状化合物からなる層を透過型電子顕微鏡(TEM)、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定することが可能であり、線分(イ)の長さは、無機層状化合物の化学構造から類推することも可能である。
【0018】
また、無機層状構造体は、一般的に、負に帯電している無機化合物からなる層同士が、層の間に存在する陽イオンによって電荷不足が補われることによって、間隔を空けてスタックした構造となっている。なお、無機化合物からなる層同士は、主面が対向する。より具体的には、図3のように、無機化合物からなる層が直方体である場合、主面5aおよび6aと端面7aおよび8aを有する無機化合物からなる層Aの主面6aと、主面5bおよび6bと端面7bおよび8bを有する無機化合物からなる層Bの主面5bとが対向する。
【0019】
このような無機層状構造体としては、層状構造を有する、ケイ酸塩鉱物、リン酸塩鉱物、チタン酸塩鉱物、マンガン酸塩鉱物、ニオブ酸塩鉱物からなるなどが挙げられ、それらの中でも、層状構造を有するケイ酸塩鉱物などが好ましい。層状構造を有するケイ酸塩鉱物の具体例としては、雲母族(白雲母、黒雲母、鉄雲母、金雲母、白水雲母、ソーダ雲母、シデロフィライト、イーストナイト、ポリリシオ雲母、トリリシオ雲母、リチア雲母、チンワルド雲母、マーガライト、イライト、海縁石)、スメクタイト族(モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティブンサイト、タルク)、カオリン族(カオリナイト、ハロイサイト)、バーミキュライト、マガディアイト、カネマイト、ケニヤアイトなどが挙げられるが、スメクタイト族であることが特に好ましい。また、これらの層状ケイ酸塩鉱物については、天然に存在するものであっても良く、合成して得られたものであっても良い。
【0020】
両性イオン界面活性剤3は、イオン交換基Aであるアニオン基とカチオン基Bとを有する界面活性剤であり、無機層状化合物からなる層の間に存在する。両性イオン界面活性剤3が無機層状化合物からなる層の間に存在することにより、イオン交換基Aが無機層状化合物の層の間に配置される。なお、両性イオン界面活性剤3は、全てが同じ両性イオン界面活性剤でなくても良く、無機層状化合物の層の間には複数種類の両性イオン界面活性剤が存在していても良い。
【0021】
イオン交換基Aは、イオン解離性を有する官能基であり、例えば、スルホン酸、カルボン酸、リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸などが挙げられる。
【0022】
イオン交換基Aを有する両性イオン界面活性剤の例としては、カルボキシベタイン型、ホスホベタイン型、スルホベタイン型、ヒドロキシスルホベタイン型の両性イオン界面活性剤などが挙げられる。そして、それらの中でも、ヒドロキシスルホベタイン型、スルホベタイン型両性イオン界面活性剤であることが好ましい。ヒドロキシスルホベタイン型両性イオン界面活性剤としては、例えば、アルキルヒドロキシスルホベタイン、アルキルジメチルアミノヒドロキシスルホベタイン、脂肪酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン、およびそれらの誘導体などが挙げられる。また、スルホベタイン型両性イオン界面活性剤としては、アルキルスルホベタイン、アルキルジメチルアミノスルホベタイン、脂肪酸アミドプロピルスルホベタイン、およびそれらの誘導体などが挙げられる。
【0023】
イオン伝導性高分子膜は、イオン交換基を有する高分子化合物からなり、イオン伝導性構造体を保持することができるものである。イオン伝導性構造体はイオン伝導性高分子膜に分散されていることが好ましい。
【0024】
このようなイオン伝導性高分子膜としては、例えば、ナフィオン(登録商標)などのパーフルオロスルホン酸高分子や、イオン交換基を有する、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポルスチレン、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体や、イオン伝導性ブロックと非イオン伝導性ブロックとからなるブロック共重合体などいずれを用いても良い。
【0025】
本発明に用いるイオン伝導性構造体は、水分子を層間に吸収することにより膨潤するため、多量に含まれると燃料電池の電解質膜として使用する場合に、出力を低下させてしまう場合がある。よって、イオン伝導性構造体の含有量は、イオン伝導性高分子膜の重量の50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0026】
なお、イオン伝導性高分子複合膜に含まれるイオン伝導性構造体としては、一つの種類のイオン伝導性構造体を用いても良く、複数の種類のイオン伝導性構造体を用いても良い。
【0027】
本発明の第二は、本発明の第一であるイオン伝導性高分子複合膜と、該イオン伝導性高分子複合膜に接触する2つの触媒層と、からなることを特徴とする膜電極接合体である。
【0028】
本発明の第二である膜電極接合体の一例を図4に示す。
【0029】
本発明の第二である膜電極接合体12は、イオン伝導性高分子複合膜9と、該イオン伝導性高分子複合膜と接触する2つの触媒層10、11とからなる。
【0030】
2つの触媒層10、11(アノード側触媒層10およびカソード側触媒層11)は、白金などの金属触媒もしくは白金とルテニウムなどの白金以外の金属との合金触媒といった触媒からなる構造体や、これらの構造体をカーボンなどの担持体上に分散担持させたものからなる層を用いることができる。ここで前記触媒層に用いることができる構造体は、粒子形状であっても良いし、樹枝状形状など粒子以外の形状であっても良い。
【0031】
本発明の第二である膜電極接合体を形成する際は、イオン伝導性高分子複合膜8を触媒層9および触媒層10で挟んで、温度130〜150℃、加圧時間1〜30分、圧力1〜40MPaの範囲でホットプレスを行うことが好ましい。
【0032】
次に、本発明の第三について説明する。
本発明の第三は、本発明の第二である膜電極接合体と、該膜電極接合体に接触する2つのガス拡散層と、該ガス拡散層に各々接触する二つの集電体と、を有することを特徴とする燃料電池である。
【0033】
図5は、本発明の第三である燃料電池の一例を示す断面図であり、12は本発明である第二の膜電極接合体、15はアノード側ガス拡散層、16はカソード側ガス拡散層、17はアノード側集電体、18はカソード側集電体である。
【0034】
アノード側ガス拡散層15およびカソード側ガス拡散層16は、膜電極接合体12に酸素もしくは燃料を供給する役割を有する。アノード側ガス拡散層15およびカソード側ガス拡散層16は、複数のサブレイヤーで構成されていることが好ましい。複数のサブレイヤーで構成する場合は、アノード側ガス拡散層15およびカソード側ガス拡散層16が有するサブレイヤーのうち膜電極接合体12と接触するサブレイヤーがその他のサブレイヤーと比較して孔の平均径が小さいことが好ましい。具体的には、ガス拡散層を2つのサブレイヤーで構成する場合、図5に示したように、アノード側ガス拡散層15およびカソード側ガス拡散層16のうちの膜電極接合体12と接触するサブレイヤー13の孔の平均径を、アノード側ガス拡散層15およびカソード側ガス拡散層16を構成するその他のサブレイヤー14の平均径よりも小さくすることが好ましい。
【0035】
なお、以降は、アノード側ガス拡散層15およびカソード側ガス拡散層16が有するサブレイヤーのうち膜電極接合体12と接触するサブレイヤーがその他のサブレイヤーと比較して孔の平均径が小さい場合、膜電極接合体12と接触するサブレイヤーをマイクロポーラスレイヤー(MPL)と呼ぶ場合がある。
【0036】
MPLは、例えば、PTFEをバインダーとして用いた炭素微粒子などで構成することができる。炭素微粒子の例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相成長によって形成される繊維状カーボン、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0037】
アノード側ガス拡散層15及びカソード側ガス拡散層16を構成するサブレイヤーの内、MPL以外の部分には、カーボンクロスやカーボンペーパー、多孔質金属などを用いることができる。また、MPLとこれらのうちの複数種を積み重ねて、もしくはMPLとこれらのうちの一種を複数積み重ねて、3つのサブレイヤーからなる構造のガス拡散層として用いることもできる。なお、サブレイヤーに金属材料を用いる場合には、耐酸化性に優れた材料を用いることが好ましい。具体的にはSUS316L,ニッケルクロム合金、チタンなどを用いることができる。ニッケルクロム合金の多孔質金属の例としては、例えば富山住友電工社製のセルメット(登録商標)などを用いることができる。
【0038】
アノード側集電体17、カソード側集電体18の材料としては、導電性と耐酸化性に優れた材料が用いられる。このような材料としては、例えば、白金、チタン、カーボン、ステンレス鋼(SUS)、金で被覆したSUS、カーボンで被覆したSUS、金で被覆したアルミニウム、カーボンで被覆したアルミニウムなどが挙げられる。
【0039】
本発明の第四は、
(i)無機化合物からなる層を複数有する無機層状構造体と、前記無機化合物からなる層の間に存在する金属イオンと、からなる金属イオン含有無機層状構造体の、前記金属イオンを、イオン交換基を有する両性イオン界面活性剤に置換してイオン伝導性構造体を形成する工程と、
(ii)前記イオン伝導性構造体をイオン伝導性高分子膜に分散させる工程と、
を有することを特徴とするイオン伝導性高分子複合膜の製造方法である。
【0040】
図6(A)及び図6(B)は、それぞれ本発明の第四の(i)の工程を説明する模式的な工程図である。
【0041】
図6(A)において、金属イオン含有無機層状構造体20は、無機化合物からなる層1を複数有する無機層状構造体2と、無機化合物からなる層1の間に存在する金属イオン19とからなる(図6(A)左側)。
【0042】
無機層状構造体2は、本発明の第一における無機層状構造体と同様である。
【0043】
金属イオン19は、無機化合物からなる層1の間に存在する。このような金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン、ニッケルイオン、銅イオン、リチウムイオンなどが挙げられる。
【0044】
無機化合物からなる層1の間に存在する金属イオン19は、イオン交換基Aとカチオン基Bとを有する両性イオン界面活性剤3が有するカチオン基Bによって置換され、カチオン基Bと無機化合物からなる層1とがイオン結合によって結合する(図6(A)右側)。
【0045】
金属イオン19を両性イオン界面活性剤3に置換する具体的な方法としては、例えば、金属イオン含有無機層状構造体20を、両性イオン界面活性剤3を含む溶液に分散させて攪拌するなどの方法を用いることができる。なお、金属イオンを両性イオン界面活性剤に置換した後、ろ過や遠心分離を行うことによって、イオン伝導性構造体を得ることができる。
【0046】
また、金属イオン19を両性イオン界面活性剤3に置換する際には、図6(B)に示すように、金属イオン19をプロトンで置換する段階(図6(B)の左側から中央)の後にプロトンを両性イオン界面活性剤3で置換する段階(図6(B)の中央から右側)を経ることが好ましい。このような場合、金属イオン含有無機層状構造体をプロトンを含む溶液に分散させて攪拌し、回収および精製を行った後に、両性イオン界面活性剤3を含む溶液に分散させて攪拌する方法などの方法を用いることができる。
【0047】
無機層状化合物からなる層の間に存在する金属イオンが、両性イオン界面活性剤に置換されていることの確認は、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)、エックス線光電子分光(ESCA)、二次イオン質量分析(SIMS)等の元素分析によって行うことが可能である。これらの方法により、無機層状物質中に残存する金属イオン量を定量することで、両性イオン界面活性剤による置換の程度を算出することができる。また、無機層状化合物の層間の金属イオンが両性イオン界面活性剤に置換された場合は、無機層状物質の層間の間隔が変化するため、エックス線回折(XRD)によって層間隔を測定することにより置換の程度を確認することも可能である。
【0048】
本発明の第4における(ii)の工程について以下に説明する。
【0049】
(i)の工程で得られたイオン伝導性構造体をイオン伝導性高分子膜に分散させる方法としては、例えば、以下のような方法を用いることができる。
【0050】
一つ目の方法としては、イオン伝導性高分子膜となるモノマーからなる溶液に(i)で得られたイオン伝導性構造体を分散させた溶液(a)を作製し、溶液(a)のモノマーを重合して、基板表面に塗布し、製膜する方法が挙げられる。
【0051】
重合反応については、無機層状構造体が有するイオン性交換基によって重合反応が停止しない限りにおいて、特に制限はなく、例えば、イオン交換基の影響を受けず重合反応が進行するラジカル重合が好適である。ラジカル重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル等の過酸化物系重合開始剤、または、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤を用いることができる。溶液(a)の溶媒としては、無機層状構造体およびモノマーを分散させることができる溶媒であれば良く、例えば、N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、メタノール、エタノール、プロパノール等、或いは、前述の溶媒を2種類以上混合した混合溶媒等を用いることが可能である。
【0052】
重合反応停止後の溶液(a)は、直接、基板表面に塗布するか、或いは、溶液(a)を精製・回収後、溶媒中で再分散させた溶液を基板表面に塗布してもよい。基板表面に塗布する方法としては、バーコート法、グラビアコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、スプレー法、キャスト法などを用いることができる。
【0053】
二つ目の方法としては、イオン伝導性高分子膜を構成するイオン伝導性高分子とイオン伝導性構造体とを、イオン伝導性高分子のガラス転移温度以上の温度で機械的に混練し、基板表面に塗布し、製膜する方法が挙げられる。
【0054】
三つ目の方法としては、イオン伝導性高分子からなる溶液にイオン伝導性構造体を分散させた溶液(b)を作製し、溶液(b)を基板表面に塗布し、製膜する方法が挙げられる。
【0055】
溶液(b)を基板表面に塗布する方法としては、バーコート法、グラビアコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、スプレー法、キャスト法などを用いることができる。
【0056】
また、溶液(b)の溶媒としては、一つ目の方法において、イオン伝導性高分子膜となるモノマーからなる溶液の溶媒と同様のものを用いることができる。
【0057】
なお、イオン伝導性高分子からなる溶液にイオン伝導性構造体を分散させる際は、超音波洗浄機やホモジナイザーを用いても良い。これらのいずれかを用いることで、溶液(b)におけるイオン伝導性構造体の分散性を向上させることができる。また、イオン伝導性高分子複合膜中におけるイオン伝導性構造体の分散状態については、超薄切片の透過型電子顕微鏡(TEM)観察により容易に確認することが可能である。
【実施例】
【0058】
(合成例1)H−モンモリロナイトの作製
アルミニウムの含水珪酸塩を主成分とする粘土鉱物として、山形県月布産モンモリロナイト5gを1Nの塩酸500ml中で24時間攪拌した。反応後、10000rpmで15分間遠心分離を行い、上澄み液を除去後、再び水中に分散させた。遠心分離による再沈殿と水による洗浄を2回繰り返すことで、無機化合物からなる層の層間に存在するナトリウムイオンをプロトンで置換したH−モンモリロナイトを作製した。
【0059】
(合成例2)スルホベタイン含有モンモリロナイトの作製
合成例1で得られたH−モンモリロナイト10g、ジメチルエチルアンモニウムプロパンスルホベタイン2.9gを500mlの水中で24時間攪拌した。反応後、10000rpmで15分間遠心分離を行い、上澄み液を除去後、メタノール中に分散させた。遠心分離による再沈殿とメタノールによる洗浄を2回繰り返すことで、モンモリロナイトの層間のプロトンをジメチルエチルアンモニウムプロパンスルホベタインで置換したスルホベタイン含有モンモリロナイトを作製した。
【0060】
(合成例3)ヒドロキシスルホベタイン含有モンモリロナイトの作製
合成例1で得られたH−モンモリロナイト10g、ラウリル酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン5.8gを500mlの水中で24時間攪拌した。反応後、10000rpmで15分間遠心分離を行い、上澄み液を除去後、メタノール中に分散させた。遠心分離による再沈殿とメタノールによる洗浄を2回繰り返すことで、モンモリロナイトの層間のプロトンを、ラウリル酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタインで置換したヒドロキシスルホベタイン含有モンモリロナイトを作製した。
【0061】
(合成例4)スルホン化モンモリロナイトの作製
水1.8ml、35%塩酸100μl、エタノール10mlの混合溶液中にメルカプトプロピルトリメトキシシラン2mlを徐々に滴下し、50℃で1時間攪拌した。得られた溶液は、山形県月布産モンモリロナイト10gをエタノール60ml中に分散させた溶液と混合し、70度で13時間攪拌した。
合成したメルカプト基を有するモンモリロナイト10gをエタノール40mlと過酸化水素10mlの混合溶液中、70℃で2時間攪拌することにより、メルカプト基をスルホン酸基に置換し、スルホン化モンモリロナイトを得た。
【0062】
(実施例1)ナフィオン/スルホベタイン含有モンモリロナイト複合膜
Nafion5wt%溶液を準備した。続いて,合成例2で得たスルホベタイン含有モンモリロナイトをNafion溶液中に分散させ、Nafionとスルホベタイン含有モンモリロナイトの重量比が90:10となる混合液を得た。その後、超音波洗浄機を用い混合液中でスルホベタイン含有モンモリロナイトをさらに十分に分散させ、混合液を窒素雰囲気下中において溶媒キャスト法により製膜した。製膜後のフィルムの膜厚は40μmであった。
四端子法により交流インピーダンス測定(電圧振幅 5mV、周波数1Hzから1MHz)を行い、求めた抵抗値より、電解質膜の膜面方向の導電率を算出した。その結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は2.32×10−2S・cm−1であった。
【0063】
(実施例2)ナフィオン/ヒドロキシスルホベタイン含有モンモリロナイト複合膜
Nafion5wt%溶液を準備した。続いて,合成例3で得たヒドロキシスルホベタイン含有モンモリロナイトをNafion溶液中に分散させ、Nafionとヒドロキシスルホベタイン含有モンモリロナイトの重量比が90:10となる混合液を得た。その後、超音波洗浄機を用い混合液中でヒドロキシスルホベタイン含有モンモリロナイトをさらに十分に分散させ、混合液を窒素雰囲気下中において溶媒キャスト法により製膜した。製膜後のフィルムの膜厚は40μmであった。
四端子法により交流インピーダンス測定(電圧振幅 5mV、周波数1Hzから1MHz)を行い、求めた抵抗値より、電解質膜の膜面方向の導電率を算出した。その結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は1.68×10−2S・cm−1であった。
【0064】
(比較例1)Nafion/H−モンモリロナイト複合膜
Nafion5wt%溶液を準備した。続いて,合成例1で得たH−モンモリロナイトをNafion溶液中に分散させ、NafionとH−モンモリロナイトの重量比が90:10となる混合液を得た。続いて、超音波洗浄機を用い混合液中でH−モンモリロナイトをさらに十分に分散させた。続いて、混合液を窒素雰囲気下中において溶媒キャスト法により製膜した。製膜後のフィルムの膜厚は40μmであった。
四端子法により交流インピーダンス測定(電圧振幅 5mV、周波数1Hzから1MHz)を行い、求めた抵抗値より、電解質膜の膜面方向の導電率を算出した。その結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は2.55×10−3S・cm−1であった。
【0065】
(比較例2)Nafion/スルホン化モンモリロナイト複合膜
Nafion5wt%溶液を準備した。続いて,合成例4で得たスルホン化モンモリロナイトをNafion溶液中に分散させ、Nafionとスルホン化モンモリロナイトの重量比が90:10となる混合液を得た。その後、超音波洗浄機を用い混合液中でスルホン化モンモリロナイトをさらに十分に分散させ、混合液を窒素雰囲気下中において溶媒キャスト法により製膜した。製膜後のフィルムの膜厚は40μmであった。
四端子法により交流インピーダンス測定(電圧振幅 5mV、周波数1Hzから1MHz)を行い、求めた抵抗値より、電解質膜の膜面方向の導電率を算出した。その結果、温度50℃、相対湿度50%におけるイオン伝導度は5.69×10−3S・cm−1であった。
【0066】
なお、実施例1、2および比較例1、2の結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
(実施例3)
膜−電極接合体、および燃料電池セルの作製方法の一例を以下に示す。
【0069】
触媒粉末として、HiSPEC1000(登録商標、ジョンソン&マッセイ社製)を使用し、触媒層に用いるイオン伝導性電解質の溶液としてはNafion溶液を使用した。まず、触媒粉末とNafion溶液の混合分散液を作製し、ドクターブレード法を用いてPTFEシート上に製膜し、触媒シートを作製した。次に、作製した触媒シートをデカール法によって、120℃、100kgf/cmで、実施例1で得たイオン伝導性高分子複合膜上にホットプレス転写し、膜−電極接合体を作製した。さらに、その膜−電極接合体をカーボンクロス電極(E−TEK社製)で挟持した後、集電体で挟んで締結し、燃料電池を作製した。
【0070】
作製した燃料電池を用いて、アノード側に水素ガスを注入速度300ml/minで、カソード側には空気を供給し、セル出口圧力を大気圧、相対湿度をアノード、カソードともに50%、セル温度を50℃とした。電流密度400mA/cmで定電流測定を行ったところ、セル電位は770mVであり、100時間後においても安定した特性を保っていた。
【符号の説明】
【0071】
1 無機化合物からなる層
2 無機層状構造体
3 両性イオン界面活性剤
4 イオン伝導性構造体
5a、6a 主面
5b、6b 主面
7a、8a 端面
7b、8b 端面
9 イオン伝導性高分子複合膜
10 アノード側触媒層
11 カソード側触媒層
12 膜電極接合体
13、14 サブレイヤー
15 アノード側ガス拡散層
16 カソード側ガス拡散層
17 アノード側集電体
18 カソード側集電体
19 金属イオン
20 金属イオン含有無機層状構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性高分子と、イオン伝導性構造体とからなるイオン伝導性複合膜において、
前記イオン伝導性構造体は、無機化合物からなる層を複数有する無機層状構造体と、スルホベタイン型又はヒドロキシスルホベタイン型の両性イオン界面活性剤と、を有し、
前記両性イオン界面活性剤が、前記無機化合物からなる層の間に存在していることを特徴とするイオン伝導性高分子複合膜。
【請求項2】
前記無機層状構造体が、ケイ酸塩鉱物、リン酸塩鉱物、チタン酸塩鉱物、マンガン酸塩鉱物、ニオブ酸塩鉱物のいずれかからなることを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性高分子複合膜。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のイオン伝導性高分子複合膜と、該イオン伝導性高分子複合膜に接触する2つの触媒層と、からなることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項4】
請求項3に記載の膜電極接合体と、該膜電極接合体に接触する2つのガス拡散層と、該2つのガス拡散層に各々接触する2つの集電体と、を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
(i)無機化合物からなる層を複数有する無機層状構造体と、前記無機化合物からなる層の間に存在する金属イオンと、からなる金属イオン含有無機層状構造体の、前記金属イオンを、スルホベタイン型又はヒドロキシスルホベタイン型の両性イオン界面活性剤に置換してイオン伝導性構造体を形成する工程と、
(ii)前記イオン伝導性構造体をイオン伝導性高分子膜に分散させる工程と、
を有することを特徴とするイオン伝導性高分子複合膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−27606(P2010−27606A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138405(P2009−138405)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】