説明

イオン性液体を用いたセルロースの溶解及びプロセッシング

【課題】イオン性液体を用いたセルロースの溶解及びプロセッシング法の提供。
【解決手段】セルロースは誘導体化せずにイオン性液体に溶解し、また有害、又は揮発性の有機溶媒の使用を必要とせずに構造上の形態の範囲で再生する。セルロースの溶解度、及び溶解性は、溶液を好む小さい陽イオン、ハロゲン化物、擬ハロゲン陰イオンを伴って、イオン液体成分の選択により制御されうる。前記イオン性液体が、-44℃〜120℃の温度で溶融されていること、並びに記混合物を、マイクロ波放射で照射して、溶解を補助することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性液体を用いたセルロースの溶解及びプロセッシングに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、最も豊富な生物再生可能な物質であり、セルロース誘導生成物は、最も原始的なものから非常に発達した近代技術社会に至るまでのすべての文化において使用されてきている。未変性のセルロース含有材料(例えば木材、木綿)とは別に、近年のセルロース技術においては、近代化学産業の発端からほとんど変化していない技術を用いて、主要な源からセルロースを抽出し、プロセッシングすることを必要とする。
セルロース及びその誘導体は、多くの化学薬品に対する、資源として使用されうる。例えば、石油供給原料はセルロースで置換されて、塗料、プラスチック及び他の構築材料の用途に対するポリマーを調製しうる。セロファンは、溶解されるビスコースの中間体を経て調製され、次いで再生されるが、エステル形成又はエーテル形成のような典型的な誘導体化を組み込む化学的溶解は、広範囲の近代な材料を産する。
セルロースの変形に対する主たる化学は、エステル化であり、セルロースエステルは、例えば、繊維、テキスタイル並びにポリマー及びフィルムの調製のために、紙産業において重要な大規模な用途を有する。アセテート/プロピオネート又はアセテート/ブチレートのような混合エステルは、プラスチックに用いられる。混合エステルも、レオロジー変性剤として例えば自動車塗料において用いられ、金属フレークが配向して、仕上げと乾燥時間を改善する。微結晶性セルロースも、ダイエット食品添加剤としてまた医薬製剤において市場で販売されている。
【0003】
セルロース及びセルロース製品の十分な性能は、完全には開発されておらず、これは、部分的には、1940年代以後、石油をベースとしたポリマーへの歴史的変化のためであり、またセルロースが容易に溶解する一般的な溶媒の数が制限されていることにもよる。銅アンモニア及びキサンテート工程を含む従来のセルロース溶解方法は、しばしば扱いにくく又は高価であり、また特別な溶媒、典型的には高イオン強度を有する溶媒の使用を必要とし、相対的に過酷な条件下で用いられる。非特許文献1を参照されたい。そのような溶媒としては、二硫化炭素や、N-メチルモルフォリン-N-オキシド(NMMO)、N,N-ジメチルアセトアミドと塩化リチウム(DMAC/LiCl)との混合物、ジメチルイミダゾロン/LiCl、濃厚な無機塩水溶液[ZnCl/H2O、Ca(SCN)2/H2O]、濃厚な鉱酸(H2SO4/H3PO4)、又は溶融塩水和物(LiClO4・3H2O、NaSCN/KSCN/LiSCN/H2O)が含まれる。
セルロース源を処理するための物理及び化学処理方法は非常に多い。製品形成のために熱力学的に有利なものとして選ばれた条件の下で、化学的、酵素的な、微生物学的な及び大型生物学的な触媒を使用して、この過程を加速させうる。化学的過程は、酸化、還元、熱分解、加水分解、異性化、エステル化、アルコキシル化及び共重合を含む。セルロースの化学的及び酵素的加水分解は、非特許文献2で議論されている。
木材、紙、綿、レーヨン、セルロースアセテート、及び他のテキスタイルは、広範囲のセルロース物質のわずかな例である。
【0004】
工業上の汚染及びそれに伴なう政府の規制の増加に伴い、汚染及び廃棄物の防止及び再生可能な源を利用するための‘緑の(green)’プロセスを実行する必要性がますます顕著になってきた。セルロースを溶解させ及び誘導化させるための現存の方法の効率は、精製されたセルロース及び天然セルロースに対して好適な溶媒の入手可能性により有意に改良され得、例は、N-メチルモルフォリン-N-オキシド(NMMO)であり、リオセル(lyocell)繊維の製造のためのセルロースの非誘導溶解のための溶媒として用いられる。[http://www.lenzing.com]
化学的、生化学的及び分離工程において通常の有機溶媒の代わりにイオン性液体を使用することが、証明された。グラエナッチャー(Graenacher)は、特にピリジンのような窒素含有塩の存在下において液体N-アルキルピリジニウム又はN-アリールピリジニウムクロリド塩中でセルロースを加熱することにより、特許文献1でセルロース溶液の調製のための方法を初めて示唆した。しかしこの所見が実用的価値のほとんどない新しさとして扱われているように見えるのは、溶融塩系がその当時幾分難解なためである。この独創的な研究は、イオン性液体が本質的に未知でかつ一群の溶媒としてのイオン性液体の用途及び価値が理解されていなかったときに行われた。
【0005】
実質的に水、窒素含有塩基及び他の溶媒なしのイオン性液体として記載されている溶媒にセルロースを溶解しうることが今や分かってきた。広くまたさまざまな範囲のイオン性液体が、プロセシング方法全体にわたりより大きい制御及び可撓性を提供するために使用されうる。さらに、セルロース含有物質が、揮発性の有機溶媒又は他の望ましくない溶媒をこの方法で用いなくとも、イオン性液体の溶媒系から得られうることが分かった。これらの発見は以下の開示で議論される。
【特許文献1】米国特許第1,943,176号明細書
【特許文献2】米国特許第5,827,602号明細書
【特許文献3】米国特許第5,683,832号明細書
【特許文献4】米国特許第1,943,176号明細書
【非特許文献1】Kirk-Othmer “Encyclopedia of Chemical Technology”,Fourth Edition 1993,volume5,p.476-563.
【非特許文献2】‘The Encyclopedia of Polymer Science and Technology’,2nd Ed,J.I.Kroschwitz (Ed in Chief),Wiley (New York),1985
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
セルロースの溶解方法が、企図された。この方法は、セルロースを、水又は窒素含有塩基の実質的不存在下、陽イオンと陰イオンから成る親水性イオン性液体と混含し、混合物を形成する工程を含む。この混合物は、溶解が完結するまで攪拌される。この混合物は、いくつかの態様において加熱され、また加熱は好ましくはマイクロ波照射により行われる。このイオン性液体は、約150℃未満の温度で溶融される。
イオン性液体の陽イオンは、好ましくは、環状であり、次からなる群から選択される式に構造的に対応し、かつ前記イオン性液体の前記陰イオンはハロゲン、擬ハロゲン又はC1-C6カルボキシレートを表す。
【0007】
【化1】

【化2】

(式中、R1及びR2は独立してC1-C6アルキル基又はC1-C6アルコキシアルキル基を表し、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9(R3-R9)は、存在するときは、独立してヒドリド、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシアルキル基又はC1-C6アルコキシ基を表す。)二つの異性体の1,2,3-トリアゾールが存在することに注目すべきである。陽イオン形成に必要とされないすべてのR基はヒドリドであることが好ましい。
他の環構造と縮合していない単一の5員環を含む陽イオンは、更に好ましい。これらの陽イオンを含むイオン性液体を使用するセルロースの溶解方法も、企図されている。この方法は、セルロースを、実質的に水の不存在下これら5員環陽イオン及び陰イオンを含む親水性イオン性液体と混合して、混合物を形成する工程を含む。この混合物は、溶解が完結するまで攪拌される。例示の陽イオンは、以下に示され、式中、R1、R2、及びR3-R5は、存在するときは先に定義した通りである。
【0008】
【化3】

他の環状構造と縮合していない単一の5員環を含むより好ましい陽イオンの中で、R1、R2、及びR3-R5は、存在するときは先に定義した通りである式A
【化4】

に構造上対応するイミダゾリウム陽イオンが著しく好ましい。
1,3-ジ-(C1-C6アルキル)-置換-イミダゾリウムイオンは、より特別に好ましい陽イオンである。すなわち、式AのR3-R5が、それぞれヒドリドであり、またR1及びR2は独立してそれぞれC1-C6アルキル基又はC1-C6アルコキシアルキル基であるイミダゾリウム陽イオンである。1-(C1-C6-アルキル)-3-(メチル)-イミダゾリウム[Cn-mim、n=1-6]陽イオンは、最も好ましく、またハロゲンは好ましい陰イオンである。最も好ましい陽イオンは、下式B、
【化5】

(式中、式AのR3-R5は、それぞれヒドリドを表し、またR1はC1-C6アルキル基又はC1-C6アルコキシアルキル基を表す。)
に構造上対応する化合物によって説明される。
【0009】
セルロースを溶融した親水性イオン性溶媒に含む溶液であって、実質的に水又は窒素含有塩基ないものも企図されている。上記のように、イオン性液体は、好ましくは先述されたものである陽イオン及び陰イオンを含む。より好ましい溶液は、親水性液体であって先述したようにその陽イオンが他の環状構造と縮合していない単一の五員環を含む液体に溶解したセルロースを含む。企図された溶液は、セルロースのさらなる反応、例えばアシル化を行い、セルロースアセテート又はブチレートを形成し、又は再生するために用いられ得る。
セルロースの再生方法も企図されている。この方法は、実質的に水又は窒素含有塩基を含まない溶融親水性イオン性液体のセルロース溶液又は、又は親水性イオン性液体であってその陽イオンが他の環状構造と縮合していない単一の五員環を含む親水性イオン性液体のセルロース溶液を、イオン性液体と混和しうるセルロースに対する液状非溶媒と混合する工程を含む。この混合によって、セルロース及びイオン性液体は、それぞれ固相及び液相を形成する。固相は、再生したセルロース、現場(in situ)でさらに反応したものと比べて好ましく集められたものである。この方法で用いられるイオン性液体は、上記で議論したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は親水性イオン性液体のセルロース溶液の形成に関する。溶媒は、有機陽イオン及び無機又は有機陰イオンを含む親水性イオン性液体である。
セルロースの溶解方法は、本発明の一態様として企図されている。1つの特徴において、この方法は、セルロースを、実質的に水又は窒素含有塩基の不存在下で陽イオン及び陰イオンからなる親水性イオン性液体と混合して、混合物を形成する工程を含む。この混合物は、溶解が完了するまで攪拌される。この混合物はいくつかの態様においては加熱され、また加熱は好ましくはマイクロ波照射によって行われる。イオン性液体は、約150℃未満の温度で溶融される。
具体的な環状イオン性液体陽イオンは、構造上、以下に示した式に対応する。
【化6】

【化7】

(式中、R1及びR2は独立してC1-C6アルキル基又はC1-C6アルコキシアルキル基を表し、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9(R3-R9)は、存在するときは、独立してヒドリド、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシアルキル基又はC1-C6アルコキシ基を表す。さらに好ましくは、R1及びR2は共にC1-C4アルキル基を表し、一方がメチルであり、R3-R9は、存在するときは好ましくはヒドリドである。例示的なC1-C6アルキル基及びC1-C4アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソ-プロピル、ブチル、sec-ブチル、イソ-ブチル、ペンチル、イソ-ペンチル、ヘキシル、2-エチルブチル、2-メチルペンチル等を含む。対応するC1-C6アルコキシ基は、陽イオン環とも結合する酸素原子と結合した上記C1-C6アルキル基を含む。アルコキシアルキル基は、アルキル基と結合したエーテル基を含み、ここで合計6個までの炭素原子を含む。
【0011】
“存在するとき”という表現は、置換基Rに関してここでしばしば用いられ、それはすべての陽イオンが、番号付けされた基のすべてを有するわけではないからである。R2はすべての陽イオンに存在する必要はないが、企図される陽イオンのすべては、少なくとも4つのR基を含む。
“実質的不存在”及び“実質的にない”という表現は、同意語として例えば約5質量%未満の水が存在することを意味するために用いられる。さらに好ましくは、組成物中に約1%未満の水が存在する。同一の意味は、窒素含有塩基の存在に関して意図されている。
企図されたイオン性液体陽イオンに対する陰イオンは、好ましくはハロゲンイオン(塩化物、臭化物、又はヨウ化物)、過塩素酸塩(perchlorate)、擬ハロゲンイオン、例えばチオシアネート及びシアネート又はC1-C6カルボキシレートである。擬ハロゲン化物は一価であり、ハロゲン化物の特性に類似した特性を有する[Schriver et al.,Inorgnic Chemistry,W.H.Freeman & Co.,New York(1990) 406-407]。擬ハロゲン化物は、シアン化物(CN-1)、チオシアネート(SCN-1)、シアネート(OCN-1)、フルミネート(CNO-1)及びアジド(N3-
1)陰イオンを含む。カルボキシレート陰イオンは、1-6個の炭素原子を含み(C1-C6カルボキシレート)、また、ホルメート、アセテート、プロピオネート、ブチレート、ヘキサノアート、マレエート、フマレート、オキサレート、ラクテート、ピルベート等によって例証される。企図されるイオン性液体は、親水性であり、従って、Kochらの特許文献2に記述された疎水性イオン性液体、又はBonhoteらの特許文献3に記述された、例えばトリフルオロメタンスルホネート又はトリフルオロアセテート陰イオンにおけると同様に炭素原子に共有結合した1以上のフッ素原子を含む疎水性イオン性液体と異なる。
【0012】
陽イオン形成に必要とされないすべてのR基、すなわち上記イミダゾリウム、ピラゾリウム及びトリアゾリウム陽イオン以外の化合物に対するR1及びR2以外の基は、ヒドリドであることが好ましい。従って、先に示された陽イオンは、好ましくは以下に示される構造に対応し、式中R1及びR2は、先述の通りである構造を有する。
【化8】

【化9】

他の環状構造と縮合していない単一の五員環を含む陽イオンが更に好ましい。具体的な陽イオンは、以下に示され、ここで、式中R1、R2、及びR3-R5は、存在するときは先述のように定義される。
【化10】

本発明の別の特徴は、セルロースの溶解方法を企図し、この方法は、セルロースを、実質的水の不存在下で、溶融イオン性液体と混合して、混合物を形成する工程を含む。ここに、イオン性液体は、他の環状構造と縮合していない単一の五員環を含む陽イオンからなる。得られた混合物は、溶解が完結するまで攪拌される。この混合物は、この中の他のどこかで議論しているように溶解を助けるために加熱しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
他の環状構造と縮合していない単一の五員環を含むより好ましい陽イオンの中で、式Aに構造上対応するイミダゾリウム陽イオンは、特に好ましく、ここで、R1-R5は、先に定義された通りであり、イオン性液体の陰イオンは、ハロゲン又は擬ハロゲンである。
【化11】

1,3-ジ-(C1-C6アルキル又はC1-C6アルコキシアルキル)-置換-イミダゾリウムイオンは、より特に好ましい陽イオン、すなわち、イミダゾリウム陽イオンであり、ここで式AのR3-R5は、それぞれヒドリドを表し、またR1及びR2は独立してC1-C6アルキル又は基又はC1-C6アルコキシアルキルを表す。さらに好ましくは、1,3-ジ-C1-C6アルキル基(R1又はR2)の一つは、メチルである。陽イオンが式Aの陽イオンに構造上対応するイオン性液体の陰イオンは、ハロゲン又は擬ハロゲンである。
1-(C1-C6-アルキル)-3-(メチル)-イミダゾリウム[Cn-mim、n=1,6]陽イオンは、最も好ましく、ハロゲンは最も好ましい陰イオンである。最も好ましい陽イオンは、以下に式B、に構造上対応する化合物によって図示され、ここで式AのR3-R5は、それぞれヒドリドを表し、またR1は、C1-C6アルキル基を表す。最も好ましい陰イオンは、塩化物イオンである。
【化12】

企図されたイオン性液体は、約200℃の温度以下で、好ましくは約150℃の温度より下で及び約-100℃の温度より上で液体である。例えば、N-アルキルイソキノリニウム及びN-アルキルキノリニウムハライド塩は、約150℃未満の融点を有する。N-メチルイソキノリニウムクロリドの融点は、183℃であって、またN-エチルキノリニウムヨウ化物は、158℃の融点を有する。更に好ましくは、企図されたイオン性液体は、約120℃の温度以下及びマイナス44℃(-44℃)の温度より上では液体(溶融)である。最も好ましくは、企図されたイオン性液体は、約-10℃〜約100℃の温度で液体(溶融)である。
【0014】
セルロースは、イオン性液体中、高濃度で誘導化せずに、約100℃まで加熱することにより、超音波バスにおいて約80℃で加熱することにより、また最も効果的にはサンプルを家庭用マイクロ波オーブンを用いてマイクロ波を用いて加熱することにより溶解しうる。
マイクロ波ヒーターを使用して、親水性イオン性液体及びセルロースの混合物を約100℃〜約150℃までの温度に加熱することは、好ましい。
企図されたイオン性液体は、極めて低い蒸気圧を有し、沸騰より前に典型的に分解する。例示の1,3-ジ-C1-C6-アルキルイミダゾリウムイオン含有イオン性液体であって、ここでR1及びR2はメチルである、イオン性液体に対する例示的な液化温度[すなわち、融点(MP)及びガラス転移温度(Tg)]及び分解温度を、以下の表に示す。

a) Ngo et al., Thermochim. Acta, 2000, 357, 97.
b) Fannin et al., J.Phys.Chem., 1984, 88, 2614.
c) Wilkes et al., Chem.Commun., 1992, 965.
d) Suarez et al., J.Chim.Phys., 1998, 95, 1626.
e) Holbrey et al., J.Chem.Soc., Dalton Trans., 1999, 2133.
f) Bonhote et al., Inorg.Chem., 1996, 35, 1168.
【0015】
例示の1-アルキル-3-メチル-イミダゾリウムイオン性液体[Cn-mim]X [n=4及び6、X=Cl-、Br-、SCN-、(PF6)-、(BF4)-]が、その使用がクレームされていない[C8-mim]Clを有するように、調製された。セルロース(繊維セルロース、アルドリッチ化学社製)のこれら例示のイオン性液体への溶解が、周囲条件下、100℃までの加熱で、超音波をあてて、マイクロウェーブで加熱して試験された。溶解は、マイクロ波の加熱の使用により、高められる。セルロース溶液は、非常に素早く調製され得、これはエネルギー効率がよく、関連する経済利益を提供する。
企図されたイオン性液体及びそのような液体から調製される溶液は、実質的に水又は窒素含有塩基がなく、混合物を形成する。そのようなものとして、かかる液体又は溶液は約1%以下の水又は窒素含有塩基を含む。従って、溶液が調製されたとき、イオン性液体及びセルロースを水又は窒素含有塩基の不存在下で混合して、混合物を形成することにより調製される。
溶解されるべきセルロースは、実質的に液体により湿潤するいかなる形態であり得る。
ここで有用な例示的なセルロースの形態は、繊維セルロース、木材パルプ、リンタ、木綿玉、及び紙のようなセルロースを含む。例えば、繊維セルロースは、マイクロ波加熱により[C4mim]Cl中25質量%で溶解され、視覚的に透明であり、粘性のある溶液を提供する。
【0016】
セルロースは、イオン性液体の範囲において溶解しうる。セルロースは、誘導体化及び例えばサイズ除外クロマトグラフィーによる分析のために、溶解しうる。
セルロースは、熱源として家庭用電子レンジを使用してイオン性液体に容易に溶解しうる。マイクロ波加熱は、セルロースのイオン性液体の溶解を顕著に高める。セルロースのイオン性液体へのマイクロ波加熱誘起溶解は、非常に早い工程であり、重合度の減少が低下される。相対的に速い工程なので、溶解は熱効率的である。
セルロースは、イオン性液体に高溶解性を示す。粘性の、複屈折の液体結晶溶液が、高濃度、例えば約10から約25質量%で得られる。
セルロースのイオン性液体の企図された溶液は、セルロースを溶液の約5〜約35質量%含み得る。更に好ましくは、セルロースは、溶液の約5〜約25質量%で存在する。なおさらに好ましくは、セルロースは、溶液中に約10〜約25質量%で存在する。
塩化物陰イオンを含むイオン性液体は、最も効果的に見える。塩化物陰イオンは、必要とされない。イオン性液体が、チオシアネート、過塩素酸塩、及び臭化物イオンを含む場合、妥当な溶解性も観測された。テトラフルオロボレート又はヘキサフルオロホスフェート陰イオンを含有するイオン性液体に対して溶解性は観測されなかった。
【0017】
異なる陽イオンの範囲が使用されうる。イオン性液体の調製に用いられる通常のセットからスクリーニングされる陽イオンの中で、イミダゾリウム塩は、最も効果的に最も容易に溶解する最小のイミダゾリウム陽イオンを有するように見える。有機塩基を有さないアルキル-ピリジニウム塩は、効果が劣り、調べた長鎖アルキルホスホニウムクロリド塩においては顕著な溶解性が観測されなかった。短鎖のアルキル置換基を含有する小さいホスホニウム及びアンモニウム四級塩は、公知であるが、高融点を有し、しばしばイオン性液体としての定義において許容しうる範囲に入る液体でない。
セルロースの溶媒としてイミダゾリウム塩化物イオン性液体の使用により、特許文献4で議論されているように、有機塩/塩基N-ベンジルピリジニウムクロリド/ピリジンへの従来報告のセルロースの溶解性超えた顕著な改良が得られ、最大溶解度は5質量%あった。実際に、この特許で用いられているような追加の窒素含有塩基は、イオン性液体におけるセルロースの良好な溶解性を得るのに必要ではない。
セルロースは、イオン性液体溶液を、そのイオン性液体と混和可能なセルロースの液体非溶媒と混合(接触)することにより再生されうる。この液体非溶媒は、好ましくは、水と混和しうる。例示の液体非溶媒は、水、メタノール又はエタノールのようなアルコール、アセトニトリル、フラン又はジオキサンのようなエーテル、及びアセトンのようなケトンを含む。水の利点は、この方法が揮発性有機化合物(VOC)の使用を避けることである。
再生は、揮発性有機溶媒の使用を必要としない。イオン性液体は、再生後、乾燥及び再利用されうる。
【0018】
セルロースは、イオン性液体から、種々の構造型で再生されうる。これらは、フロック、又は粉末(バルククエンチングにより調製された)、チューブ、繊維、及び押し出し物、及びフィルムを含む。押し出しの間、セルロース合成物を処理して異なる形態のものを調製しうる。再生されたセルロースは、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から相対的に均質にみえる。チューブ、繊維及び他の押し出し物を調製する場合、混合工程は、セルロース溶液をダイを通して、非溶媒の中へ押し出すことにより行われる。
【実施例1】
【0019】
セルロースの溶解
例示となる試験物質である再生繊維セルロースの溶解に対する最善のイオン性液体は、[C4mim]Clであることが分かった。一般的な手順において、繊維セルロース(0.2g)は、ガラスバイアルにおいて融解した[C4mim]Cl(2g)中に置かれ、家庭用電子レンジで3x5秒の加熱パルスで加熱した。それぞれの加熱パルスの後、バイアルを、取り出し、攪拌して内容物を混合し、その後マイクロ波中に置いた。粘性のある、視覚的に清澄なイオン性液体のセルロース溶液を得た。
溶液は、イオン性液体に溶解した種々の濃度のセルロースによりこのようにして調製され得た。この溶液は、セルロース濃度に従いますます粘性を有する。25質量%のセルロースにおいて、清澄な溶液はまだ機能する。より高いセルロース濃度において、不透明な粘稠性のゲルが形成された。 [C4mim]Cl中のセルロースに対する有効な溶解度の限度は明らかには確認されていないが、セルロース組成物が25質量%を超えたとき、形成された高粘稠性のペーストの機械的処理の程度に依存する。
セルロースの[C4mim]Clへの溶解度は、他の溶媒を用いて得られるよりも顕著に高い。
例えば、溶融無機塩水和物中、最大5質量%まで溶解したセルロース溶液が記載された。[Leipner et al.,Macromol.Chem.Phys.,(2000)201:2041.]
通常の加熱を用いると、セルロースの溶解は遅く、透明な溶液を得るまでに70-100℃で数時間までの加熱が必要となる。超音波のバスに試料を定期的に置くことにより、溶解速度は高まった。
【実施例2】
【0020】
陰イオン及び陽イオンの機能としての1,3-ジアルキルイミダゾリウム塩へのセルロース溶解
セルロースは、通常の溶媒と比較してイオン性液体中に高濃度で容易に溶解した。異なる陽イオンを有するイオン性液体は、それらの塩化物塩として評価した。これらは、[C6mim]Cl及び[C8mim]Clを含んでいた。セルロースのイミダゾリウム塩基イオン性液体への溶解度は、陽イオンのアルキル鎖長が増加するのに伴って増加することが分かった。
小さい、水素結合受容体(Cl-)から大きい、無配位の陰イオン(テトラフルオロボレート及びヘキサフルオロホスホネート)まで変化するさまざまな陰イオンが[C4mim]+塩としてスクリーニングされた。この陰イオンは、Cl、Br、チオシアネート、過塩素酸塩、ヘキサフルオロホスフェート及びテトラフルオロボレートを含んだ。これらの結果は、下の表1に示される。
強い水素結合受容体(ハロゲン及び擬ハロゲン)である陰イオンを含有するイオン液体は、良好な溶解を提供することが分かった。これらすべての陰イオンは、水素結合性受容体として知られ、また拡張された水素結合ネットワークに関与することが知られている。
セルロースは、BF4-、及びPF6-を含む‘無配位(non-coordinating)’陰イオンを含むイオン性液体に溶解し得ないことも決定された。他の無配位陰イオンは、トリフルオロメチルスルホニル含有陰イオン例えば、トリフルオロメチルスルホネート、ビス-トリフルオロメチルスルホニルアミド(NTf2-)等を含む。
従って、溶解要件は、強く配位した陰イオンの存在を含むように見える。芳香族陽イオンは、水素結合供与に関係しうるものであるが、これらの陽イオンは弱いH-結合ドナーであるとしても必要かもしれない。
セルロース溶解に対する溶媒の水素結合特性の重要性が、認識された。例えば、NMMOは、水又は多糖と二つの水素結合を形成しうる。[Maia et al.,Acta.Cryst.B,(1981) 37:1858.]無水NMMO及び一水和物の両方ともセルロースに対して良好な溶媒である。しかし、2以上の水と水和した場合、NMMOは、もはやセルロースの溶媒ではなく、優先的に水に溶解する。
試料の加熱は、溶解を可能とするために通常必要とされる。この加熱の効果は、イオン性液体溶媒が繊維壁を貫通できるようにし、これによって、繊維及び微小繊維(ミクロフィブリル)構造を破壊し、かつ包まれた(encapsulated)水と競争的に水素結合できるようにする。
イオン性液体は、マイクロ波条件で非常に有効に加熱される。従って、高度に局在化した温度が得られ、これは天然ポリマー鎖の強い水介在水素結合を分裂させることによりセルロースの溶解を促進する。
表1
繊維セルロースのイオン性液体に対する溶解度

*PR4Cl=テトラデシル-トリヘキシルホスホニウムクロリド;NR4Cl=テトラブチルアンモニウムクロリド
【実施例3】
【0021】
セルロースの再生
セルロースが、水の添加によってイオン性液体溶液から沈殿することが分かった。この非相溶性は、以下に記載されている再生手順の根拠である。
[C4mim]Cl中に存在しうる水の濃度を、イオン液体の溶媒特性を維持しながら、既知の量の水をイオン性液体に添加し、その後溶解操作をマイクロ波加熱によって行うことによって溶解した。イオン性液体の水含有量が約1質量%(約0.5モル画分H2O)より大きい場合、溶媒特性は有意に損なわれ、繊維セルロースはもはや溶解しないことが分かった。
高濃度のセルロース(10質量%より大きい)が[C4mim]Clに溶解した場合、溶液が得られ、これは交差偏光フィルター及び露呈した複屈折とのあいだで光学的に異方性を示した。
セルロースの液体結晶性溶液の形成は、新規の、進歩した物質の生成に対して有用な実用性を有する。固相中の異方性の維持は、特に望ましく、高まった力学的特性及び高い強度の物質を導いた。さらに、他の領域、例えば光学において、異方性に起因する特定の品質も、開発され得た。
【実施例4】
【0022】
セルロースの溶解度研究
イオン性液体中のセルロースの溶解度は、陰イオン及び陽イオンの変化により制御されうる。小さな、極性の陰イオンに必要とされるものは、塩化物含有イオン性液体での、セルロースの高溶解度により示され、臭化物系では、溶解度は減少し、またテトラフルオロボレート及びヘキサフルオロホスホネート系では溶解度を示さなかった。
陽イオンの大きさの増加例えば、アルキル基の長さの増加、またイミダゾール環のC-2位(R3基)にメチル官能性の置換によっても溶解度は減少するように見える。従って、陽イオン中の電荷密度及び水素結合供与力共に、重要であり、イオン性液体の機能性の変動により容易に及び選択的に変更されうる。そのような修正により、溶液のレオロジー及び組成の簡単な制御が可能となり、これは溶解したセルロースのその後の処理に有利である。イオン性液体中の水の存在は、おそらく溶解を阻害するセルロースの微小繊維に対する競争的な水素結合を通して、セルロースの溶解度を有意に減少させることが示された。
主要な研究が、再生された繊維セルロースについて行われた。追加の研究も他のセルロース試料に対して行われた。生産ラインからの3種の乾燥した-溶解パルプ試料を研究した。サンプルA、セルロースアセテート用途で用いられる木材パルプは98.7%のR-18を有し、サンプルB、リオセル(lyocell)用途で用いられる木材パルプは97.5%のR-18を有し、サンプルC、レーヨン用途で用いられる木材パルプは96.8%のR-18を有する。[R-18試験は、TAPPI(Technical Association of Pulp and Paper Industry)で規準化された試験であり、18%苛性ソーダ溶液への溶解に対するセルロース耐性の割合を測定する。]3種のパルプに対する重合度(DP;鎖長の測定)は、サンプルA;1056、サンプルB;470、サンプルC;487である。すべての3種のサンプルは、繊維セルロースよりも[C4mim]Cl中でより容易に溶解しうることが分かった。
繊維セルロースは、[C4mim]Br及び[C4mim]SCNイオン液体中に5%より大きく溶解し得るが、これらの溶解は、[C4mim]Cl系を使用する場合よりも達成するのに困難であった。加熱条件の下で、トリエチルアンモニウムクロリド及びテトラブチルアンモニウムクロリドが分解した。
別の研究において、無灰ワットマン濾紙が、上記マイクロ波操作を用いて[C4mim]Clイオン性液体に溶解した。最初の接触及びマイクロ波加熱において、濾紙は、イオン性液体が基質に吸収されるにつれ半透明になり、膨張が観測された。さらなる加熱及び攪拌において、濾紙は、5質量%において完全に溶解し、無色透明溶液を提供した。イオン液体が、濾紙に10質量%取り込まれたとき、完全な溶解がさらにいっそう困難になり、また濾紙に含浸された残余のイオン性液体を含む粘性溶液が得られた。
すべての3種の木材パルプは、繊維セルロースサンプルよりいっそう容易に溶解した。
我々は、試験を実施し、マイクロ波加熱を3秒パルスで用いて、[C4mim]Cl(10gイオン液体中0.5g)の5%溶液を調製した。負荷を増大すると、非常に粘性の混合物が、生成し、最善の表現はペーストであった。約25質量%までの繊維セルロースを添加し、ペーストは、スパチュラを使い、また延長された加熱及び操作によって清澄な物質を得た。不均一な、部分的に不透明な混合物はより高い添加で得られた。
【実施例5】
【0023】
セルロース溶液の処理
セルロースのイオン性液体の溶液は、簡単に処理されうる。セルロースは、セルロース含有イオン性液体を水と混合させることによって、イオン性液体溶液から再生しうる。他の沈殿溶液も用いられうる。例示のそのような溶液は、エタノール、アセトン、水、及び水溶性又はニートの塩溶液である。
セルロースは、広範囲の巨視的(macroscopic)形態で再生され、イオン性液体と再生液体の接触がどのように行われたかによる。モノリス、繊維及びフィルムが調製され、イオン性液体から水相に形成することによって、セルロースのプロセッシングの範囲を説明した。イオン性液体溶液と、水性流体との迅速な混合により、セルロースが粉末状の綿状沈殿物として沈殿した。上記とは別に、イオン性液体/セルロース溶液の、非溶媒(例えば)水への押し出しにより、図1に示されるように薄い繊維及びロッドの調製を可能とする。最初の押出物は、展性があり、イオン性液体は、押出物から溶液に拡散するので水と接触すると硬化する。
セルロースフィルムが適当な表面、例えばガラス顕微鏡用スライド等を、セルロース溶液中の平たい層(約1-2mm厚さ)でコーティングすることによって得られた。このスライドは、次いで水浴中に浸された。最初の、再生したセルロースサンプルは、可撓性があり、また外観上、非常に多孔性であった。乾燥すると、有意な収縮が生じ、硬質の弾力的なフィルムを生じた。
イオン性液体溶液からのセルロースも、種々の形態に形作られうる。この溶液は、型に注がれ、非溶媒を添加してセルロースを沈殿させた。
溶液の粘度及びセルロース濃度が、独立して類似のシリーズ(例えば[C4mim]Cl又は[C6mim]Cl)からの異なるイオン性液体の選択によって、又は温度変化によって制御されうるので、加工条件は、特別な生成物の調製に対して最適化されうる。従って、イオン性液体溶液及び水接触方法の制御によって、セルロースが、加工条件及びイオン性液体の簡単な変化によって、広範囲の形態を伴い、溶液から再生できる。
再生液体としての水の使用は、揮発性有機溶媒利用する現行の加工方法に対して潜在的環境的な利点、及び費用優位を有する。このイオン性液体は、水溶液から再生され得、また水を除去することにより再利用される。この水除去方法は、水溶性/イオン性液体溶液を蒸発させ乾燥させることにより実験室規模で実施された。しかし、工業規模で、水の除去のための他の方法がより実用的であることが分かった。実例としての代替物は、イオン性液体の逆浸透法、浸透気化法、及び塩析法を含む。
【実施例6】
【0024】
再生セルロースの物理的特性
再生セルロースは、示差走査熱量測定(DSC)、熱重量分析(TGA)、及び粉体X線回折によって特性を示し、イオン性液体からの再生が、セルロースの分子形態においていかなる変化を起こしたかを決定した。走査型電子顕微鏡(SEM)を、イオン性液体から再生によって調製されたセルロース物質のバルク構造を観測するために用いた(図4を参照のこと)。
DSC及びTG温度記録を、イオン性液体溶液から沈殿したセルロースに対して集め、また元のセルロース物質と比較した。サンプルを、白金サンプル容器に置き、10℃min-1の窒素雰囲気下、600℃で加熱した。
図2は、元の繊維セルロース及び[C4mim]Clから調製された再生形態に対してTGAカーブを示す。純粋なセルロースは、350-360℃の狭い温度範囲において分解を示した。イオン性液体からの再生は、分解の開始温度を下げるが、結果として、より高い熱分解の炭化物収量(不揮発性炭素質物質)となった。
[C4mim]Clから再形成された繊維セルロースに対し、粉末XRDは、形態においてほんの小さな変化しか見せなかった。繊維セルロースの結晶化度は、図3に示される相対強度、及び約10℃(d=4Å)の鋭いピーク及び幅広の下にある回折バンドから示されるように、溶解及び[C4mim]Clからの再生の後わずかに減少するように見える。
セルロースの結晶性指数、Icは、以下の式を用いて計算されうる。
Ic=1-(Imin/Imax)
ここで、Iminは、2θ=18-19°間の最小強度であり、またImaxは、2θ=22-23°間の最大強度における結晶ピークの強度を示す。
これは、Marson et al.,Journal of Applied Polymer Science,1999,1355-1360.から引用した。
数週間、イオン性液体に保存され、その後再生したサンプルにおいて、XRDは異なり、セルロース結晶領域に特徴的なピークを欠いている。単一の幅広バンドは観測され、アモルファス物質の特徴である。これは、液体アンモニア中でセルロースが膨張し、セルロースIII型を生成した後に観測されるように、ポリマー鎖の遅い分解を時間とともに示すかもしれない。
繊維セルロースのサンプルは、[C4mim]Clに溶解して、均質の5質量%溶液を提供する。
その後、2種のサンプルが、(i)水中へのフロックとして、及び(ii)注射器から水中への押し出によるロッドとして別々に再生される。再生された形態を両方とも、水で洗浄し、その後1週間空気乾燥して、含水量の平衡を雰囲気により確実にした。
オリジナル繊維セルロースに対して決定された粉末XRD形跡及び結晶インデックス、及び二つの再生形態を以下の図に示した。これらの特定の研究において、粉末状の再生された綿状沈殿物(floc)は、結晶性を示さずアモルファス回折パターンを示し、押し出されたロッド型は、結晶型インデックスを有し、オリジナル繊維物質と識別不能であった。これらの結果は、物質を結晶性からアモルファスへ変化する微小結晶度を有する材料を製造するための再生工程の間、セルロースの結晶化度(従って、微少構造)を操作しうることを示す。
再生セルロースのバルク構造に対する変性は、最初の未処理サンプル及び[C4mim]Clから再生したセルロースの走査電子顕微鏡写真(図4)に示される。繊維セルロース及び溶解パルプの最初のサンプルは、SEMにおいて300X拡大率で繊維を示す。再生後、両方の場合において、セルロースは、完全に変化した形態を示し、粗いが、しかし繊維が融合した集塊状の生地を示した。SEMデータは、セルロース繊維が可溶化されまた相対的に均質的なマクロ構造で再生されうることを示した。
【実施例7】
【0025】
再生セルロースからのイオン液体の除去
一連の研究を行い、再生工程において、イオン性液体は、セルロースマトリックス内に捕捉されたか、被包されたかを決定した。溶解溶媒として、カーボン14標識された[C4mim]Clサンプルを用いて、繊維セルロースのサンプルを溶解し(40μLのカーボン-14標識された[C4mim]Brを含有する2%(質量/質量)溶液の1g)、次いで押し出されたロッドとして再生した。このサンプルの放射能を決定し、及びこのサンプルを既知の容積の水と接触することにより順次に洗浄しながらモニターした。
セルロース/イオン性液体溶液はその後、5mlの脱イオン水で希釈し、またセルロース/イオン性液体/水溶液の初期活性を測定した。サンプリングの後、水相をデカントし、また追加の5mlの脱イオン水を添加した。その後、この溶液をよく混合し、再度活性を測定した。この手順を10回繰り返した。
各洗浄における水性洗浄溶液の活性の変化は、効果的にすべてのイオン性液体がそれぞれ、最初のイオン性液体の容積の5倍である4-5回以内の洗浄で、セルロースから抽出されることを示した。しかし、10回目の洗浄の後、残渣活性の測定をしたが、グラムセルロース当たりおよそ76μgのイオン性液体(76ppm)が、再生セルロース内に残存していることが測定された。
【実施例8】
【0026】
セルロース/イオン性液体溶液の特性
セルロースが、高濃度(>10質量%)で[C4mim]Clに溶解すると、非常に粘性の高い溶液が得られ、これは交差偏光フィルターと、示された複屈折との間に光学的に異方性であることが分かった。交差偏光フィルターの下で複屈折が観測される種々の濃度のセルロースの[C4mim]Cl溶液が以下の表に示される。複屈折は、ネマチック又はスメクチックいずれかの液体結晶相を示し、ポリマー鎖はバルク配向性指示器(director)で部分的に整列している。液体結晶性ポリマー溶液の形成は、望ましく、また高強度材料の調製に用いられ得、この材料は固相において溶液異方性を保存し、高められた力学的特性を示す。
液体結晶構造のセルロース溶液の特性

ここで引用されている特許、出願及び論文のそれぞれは、参考として組み込まれている。冠詞「a」又は「an」の使用は、1以上を含むと意図されている。
上記事項から、多数の変更及び変動が、本発明の新規概念の真の意図及び範囲から離別することなく、達成されうる。示された特定の態様に関して、制限を企図したり又は推測されるものでないと理解されるべきである。この開示は、特許請求の範囲内にあるように、すべてのそのような変更を添付された特許請求の範囲によって、網羅すると企図されている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、元の繊維セルロース(左)及び広穴注射器で水中に押し出して調製した再生セルロース(右)の二つの写真を示し、モノリス型が、容易に調製されうることを説明し、
【図2】図2は、再生セルロースサンプル(青色、黒色) と、元の繊維セルロース(赤色)の熱質量分析(TGA)トレースの比較を示すグラフであり、
【図3】図3は、図3Aと図3Bの二つのパネルにおいて、それぞれ元の繊維セルロース(図3A)及び[C4mim]Clから再生した繊維セルロース(図3B)のX線回折パターンを示し、
【図4】図4は、図4A、4B、4C、4Dの4つのパネルにおいて、繊維セルロース(4A、4B)及びセルロースサンプルA(セルロースアセテートの適用において用いられた木材パルプ;4C、4D)、[C4mim]Clから水への再生前(4A、4C)及び再生後(4B、4D)の、走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを溶解する方法であって、セルロースを、窒素含有塩基を含まない溶融イオン性液体と混合して、混合物を形成する工程であって、該イオン性液体が、150℃未満の温度で溶融し、かつ陽イオン及び陰イオンからなり、該陽イオンが、構造上以下の群から選択される工程、及び溶解が完結するまで前記混合物を攪拌する工程を含むことを特徴とする方法。




(式中、R1及びR2は独立してC1-C6アルキル基又はC1-C6アルコキシアルキル基を表し、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9(R3-R9)は、存在するときは、独立してヒドリド、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシアルキル基又はC1-C6アルコキシ基を表す。)
【請求項2】
前記イオン性液体が、-44℃〜120℃の温度で溶融されている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合物を、マイクロ波放射で照射して、溶解を補助する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン性液体の前記陰イオンが、ハロゲン、擬ハロゲン又はC1-C6カルボキシレートである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記イオン性液体の陰イオンが、ハロゲン又は擬ハロゲンである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
セルロースの溶解方法であって、以下の工程、
(a)セルロースを、窒素含有塩基を含まないイオン性液体と混合して、混合物を形成する工程であって、前記イオン性液体が150℃未満の温度で溶融されており、かつ陽イオン及び陰イオンを含み、前記陽イオンが、構造上以下の群から選択されかつ、前記イオン性液体の前記陰イオンがハロゲン、擬ハロゲン又はC1-C6カルボキシレートである化学式に構造上対応する工程、


(式中、R1及びR2は独立してC1-C6アルキル基又はC1-C6アルコキシアルキル基を表し、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9(R3-R9)は、存在するときは、独立してヒドリド、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシアルキル基又はC1-C6アルコキシ基を表す。)
(b)前記混合物をマイクロ波放射で照射して、溶解を補助する工程、及び
(c)溶解が完結するまで前記混合物を攪拌する工程、
を含む方法。
【請求項7】
前記セルロースが、繊維セルロース、木材パルプ、リンタ、木綿玉、又は紙である請求項6に記載の前記方法。
【請求項8】
前記陽イオンが、他の環状構造と縮合していない単一の五員環を含む請求項6に記載の前記方法。
【請求項9】
R3-R9が、ヒドリドである請求項6に記載の前記方法。
【請求項10】
セルロースの溶解方法であって、以下の工程、
(a)セルロースを、陽イオン及び陰イオンからなる水を含まないイオン性液体と混合して、混合物を形成する工程であって、前記イオン性液体が、-44℃〜120℃の温度で溶融されており、前記陽イオンが、他の環状構造と縮合していない単一の五員環を含み、かつ前記陰イオンが、ハロゲン、擬ハロゲン、又はC1-C6カルボキシレートである工程、
(b)前記混合物にマイクロ波放射を照射して、溶解し易くする工程、及び
(c)溶解が完結するまで前記混合物を攪拌する工程、
を含む前記方法。
【請求項11】
前記セルロースが、繊維セルロース、木材パルプ、リンタ、木綿玉又は紙である請求項10に記載の前記方法。
【請求項12】
前記陽イオンが、以下の基から成る群から選択された式に対応する構造を有する請求項10に記載の前記方法。

(式中、R1及びR2は独立してC1-C6アルキル基又はC1-C6アルコキシアルキル基を表し、R3、R4、及びR5(R3-R5)は独立してヒドリド、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシアルキル基又はC1-C6アルコキシ基を表す。)
【請求項13】
R3-R5が、ヒドリドである請求項12に記載の前記方法。
【請求項14】
前記陽イオンが、1,3-ジ-C1-C6-アルキルイミダゾリウムイオンである請求項12に記載の前記方法。
【請求項15】
前記1,3-ジ-C1-C6-アルキル基の1つが、メチルである請求項14に記載の前記方法。
【請求項16】
窒素含有塩基を含まない溶融イオン性液体溶媒中のセルロースからなり、前記イオン性液体が陽イオン及び陰イオンを含み、該陽イオンが、構造上以下の群から選択されることを特徴とする溶液。




(式中、R1及びR2は独立してC1-C6アルキル基又はC1-C6アルコキシアルキル基を表し、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9(R3-R9)は、存在するときは、独立してヒドリド、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシアルキル基又はC1-C6アルコキシ基を表す。)
【請求項17】
前記セルロースが、前記溶液の5〜35質量%の量で存在する請求項16に記載の前記溶液。
【請求項18】
前記イオン液体の前記陰イオンが、ハロゲン、擬ハロゲン又はC1-C6カルボキシレートである請求項16に記載の前記溶液。
【請求項19】
前記イオン液体の前記陰イオンが、ハロゲン又は擬ハロゲンである請求項16に記載の前記溶液。
【請求項20】
前記イオン性液体が、-44℃〜120℃の温度で溶融している請求項16に記載の前記溶液。
【請求項21】
-44℃〜120℃の温度で溶融され、かつ窒素含有塩基を含まないイオン性液体溶媒中における、5〜35質量%のセルロースを含む溶液であって、前記イオン性液体が陽イオン及び陰イオンを含み、該陽イオンが以下の基から成る群から選択された式に構造上対応し、かつ前記イオン液体の前記陰イオンが、ハロゲン、擬ハロゲン又はC1-C6カルボキシレートであることを特徴とする溶液。


(式中、R1及びR2は独立してC1-C6アルキル基又はC1-C6アルコキシアルキル基を表し、R3、R4、R5、R6、R7、R8及びR9(R3-R9)は存在するときは、独立してヒドリド、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシアルキル基又はC1-C6アルコキシ基を表す。)
【請求項22】
前記イオン液体溶媒が、-10℃〜100℃の温度で溶融する請求項21に記載の前記溶液。
【請求項23】
前記陽イオンが、他の環状構造と縮合していない単一の五員環を含む請求項21に記載の前記溶液。
【請求項24】
前記陽イオンが、以下の基から成る群から選択される式に対応する構造を有する請求項23に記載の前記溶液。

(式中、R1及びR2は独立してC1-C6アルキル基又はC1-C6アルコキシアルキル基を表し、R3、R4、R5(R3-R5)は独立してヒドリド、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシアルキル基又はC1-C6アルコキシ基を表す。)
【請求項25】
セルロースを再生する方法であって、150℃未満の温度での溶融イオン性液体溶媒中のセルロース溶液であって、該溶融液体溶媒は、窒素含有塩基を含まず、前記イオン性液体が陽イオン及び陰イオンからなり、前記陽イオンが、構造上以下の群から選択されるセルロース溶液を、前記イオン性液体と混和性の前記セルロースに対する液状非溶媒とを混合する工程を含み、該混合によって、セルロース及びイオン性液体がそれぞれ、固相及び液相を形成することを特徴とする方法。




(式中、R1及びR2は独立してC1-C6アルキル基又はC1-C6アルコキシアルキル基を表し、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9(R3-R9)は、存在するときは、独立してヒドリド、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシアルキル基又はC1-C6アルコキシ基を表す。)
【請求項26】
前記イオン性液体の前記陰イオンが、ハロゲン、擬ハロゲン、又はC1-C6カルボキシレートである請求項25に記載の前記方法。
【請求項27】
前記イオン性液体の前記陰イオンが、ハロゲン又は擬ハロゲンである請求項25に記載の前記方法。
【請求項28】
形成したセルロース相を収集する更なる工程を含む請求項25に記載の前記方法。
【請求項29】
セルロースを再生する方法であって、以下の工程、
(a)150℃未満の温度で溶融され、窒素含有塩基を含まない溶融イオン性液体溶媒中のセルロース溶液であって、前記イオン性液体が陽イオン及び陰イオンからなるセルロース溶液を、前記イオン性液体と混和可能な前記セルロースに対する液状非溶媒と混和する工程であって、前記混合によってセルロース及びイオン性液体が、固相及び液相をそれぞれ形成し、前記陽イオンが、以下の基から成る群から選択される化学式に構造上対応し、前記イオン性液体の前記陰イオンはハロゲン、擬ハロゲン、又はC1-C6カルボキシレートである工程、及び


(式中、R1及びR2は独立してC1-C6アルキル基又はC1-C6アルコキシアルキル基を表し、R3、R4、R5、R6、R7、R8及びR9(R3-R9)は、存在するときは、独立してヒドリド、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシアルキル基、又はC1-C6アルコキシ基を表し、前記イオン性液体の前記陰イオンはハロゲン、擬ハロゲン、又はC1-C6カルボキシレートを表す。)
(b)形成されたセルロース相を収集する工程、
を含む前記方法。
【請求項30】
前記イオン性液体が、-44℃〜120℃の温度で溶融されている請求項29に記載の前記方法。
【請求項31】
前記イオン性液体に混和可能な前記セルロースに対する前記液状非溶媒が、さらに水にも混和可能である請求項29に記載の前記方法。
【請求項32】
セルロースを再生する方法であって、以下の工程、
(a)-44℃〜120℃の温度で溶融されかつ水を含まない溶融イオン性液体の溶媒のセルロース溶液であって、前記イオン性液体が、陽イオン及び陰イオンからなるセルロース溶液を、前記イオン性液体に混和可能でかつ水にも混和可能な前記セルロースに対する液状非溶媒と混和する工程であって、前記混合によってセルロース及びイオン性液体が、固相及び液相をそれぞれ形成し、前記陽イオンが、以下の基から成る群から選択される次式に構造上対応し、かつ前記イオン性液体の前記陰イオンが、ハロゲン又は擬ハロゲンである工程、

(式中、R1及びR2は独立してC1-C6アルキル基又はC1-C6アルコキシアルキル基を表し、R3、R4、及びR5(R3-R5)は独立してヒドリド、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシアルキル基又はC1-C6アルコキシ基を表す。)、及び
(b) 形成したセルロース相を収集する工程、
を含むことを特徴とする前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−79220(P2009−79220A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244569(P2008−244569)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【分割の表示】特願2003−532567(P2003−532567)の分割
【原出願日】平成14年10月3日(2002.10.3)
【出願人】(504133420)ザ ユニヴァーシティー オブ アラバマ (2)
【Fターム(参考)】