説明

イオン性液体を用いた合成方法

本明細書に示す開示では、芳香族求核置換反応をイオン性液体中で実施することで高分子材料を生じさせる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に示す開示は、芳香族求核置換反応をイオン性液体中で起こさせることを利用して重合体を生じさせることに関する。本開示は、ポリエーテルケトンおよびポリエーテルスルホンの種類に属する重合体の製造に関する。より詳細には、本開示は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)として知られるポリエーテルケトンを溶液または懸濁いずれかの重合で合成するための媒体としてイオン性液体を用いることに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は、少なくとも、非特許文献1から公知である。Victrex PLCがVICTREX(登録商標)ポリエーテルエーテルケトン重合体の製造業者であり、それは以下の繰り返し構造を有する。
【0003】
【化1】

【0004】
PEEKを4,4'-ジフルオロベンゾフェノンから生じさせる公知の商業的技術では、300℃に及ぶ高温合成をジフェニルスルホン溶媒中で実施することを利用しており、例えば下記である。
【0005】
【化2】

【0006】
しかしながら、そのような反応でジフェニルスルホンを溶媒として用いるのは問題である、と言うのは、その溶媒が低温で液体である範囲が限られているからである。ジフェニルスルホンを用いると結果として生成物の分離を行う時に室温で生成物と溶媒の“飴状”または高粘性混合物が生じてしまう、と言うのは、その溶媒がそのような条件下で固体であるからである。また、ジフェニルスルホンには毒性があることから、それの使用は環境的に影響がある。
【0007】
PEEKを商業的に製造するための代替溶媒はN-メチルピロリドン(NMP)である。特許文献1に、NMPが使用溶媒であると言った開示が含まれている。しかしながら、また、そのような溶媒に関連した問題も存在する、と言うのは、それは反応に必要な温度で大きな蒸気圧を示すからである。このことは、高圧が必要なことで特殊な高圧工程装置が必要であることを意味する。相対的に揮発性の溶媒を使用することは、また、反応に導入することができる熱が限られていることも意味する、と言うのは、溶媒の還流を回避する必要があるからである。
【0008】
この上に示したように、公知の商業的PEEK合成では炭酸カリウムが塩基として用いられている。その理由は、相当する炭酸ナトリウムが使用有機反応溶媒中で充分な溶解性を示さないからである。炭酸カリウムの方が相当するナトリウム塩よりも高価であることから
、炭酸ナトリウムをそのような塩基として用いることができれば、その方が有利であることが当該技術分野で公知である。PEEKの生成で使用する塩基の種類および粒径が非常に重要である、と言うのは、そのような塩基は通常の溶媒中で低い溶解度を示すからである。例えば、特許文献2に、大きな粒子の炭酸ナトリウムは製品を汚染する可能性があることからそれが合成に入り込まないようにする特殊な要求が考察されている。イオン性液体である溶媒を用いるとそのような制限が回避される。
【0009】
公知の商業的縮合重合の別の特徴は、生じさせる重合体の純度に関連した問題である。この上に示したPEEK合成の場合、副生成物であるフッ化カリウムが使用溶媒系にほとんど溶解しないことから、それが生じるとPEEK重合体マトリクスの中に封じ込まれてしまう。その後、その封じ込まれたフッ化カリウムを除去するのは非常に困難であり、それによって、そのような公知の商業的合成で得ることができる重合体の純度が制限される。
【0010】
この上で考察したヒドロキノンと4,4'-ジフルオロベンゾフェノンの反応(芳香族求核置換反応)では、PEEKが部分結晶性熱可塑性重合体として生じる。そのような重合体は耐化学品性および耐熱性が優れることで特徴付けられる。その重合体が示す電気絶縁特性はフルオロポリマーが示すそれと同様であることが知られている。PEEKの使用には、電気ケーブル絶縁およびプラスチック製医学部品が含まれる。PEEKに適用される公知加工方法は、通常の装置を用いた押出し加工および射出成形方法である。
【0011】
当該技術分野で公知の1つのポリエーテルスルホン重合体合成は、ジフェノールとビス(4-クロロフェニル)スルホンの反応であり、塩化ナトリウムの除去を伴ってポリエーテルが生じる:

nHOC6H4OH + n(ClC6H4)2SO2+ nNa2CO3 → [OC6H4SO2C6H4]n+ 2nNaCl + nH2O + nCO2

そのようなジフェノールは典型的にビスフェノール-Aまたはこの上に示した如きヒドロキノンである。ポリエーテルスルホンはエンジニアリング熱可塑性プラスチックであり、優れた熱安定性および機械的強度を有する。PESとして知られる特別なポリエーテルスルホンの構造および特性が非特許文献2の中で考察されている。
【0012】
イオン性液体または低温溶融塩はある範囲の化学反応の実施で用いるに適した非常に低揮発性の溶媒であるとして当該技術分野で公知である。重合反応をイオン性液体中で実施することは以前に記述されてはいたが、それらは主に非晶質重合体、例えばポリメチルメタアクリレート(PMMA)またはポリオレフィンなどをもたらす重合反応であった(非特許文献3)。そのような重合体は典型的にある範囲の有機溶媒中で良好な溶解性を示すことから、そのような反応では溶媒の選択は重要でない。加うるに、そのような重合反応は、PEEKなどの合成の場合のような縮合重合機構によるものではなく、フリーラジカル機構によって進行する点で、この上で考察した商業的合成とは異なる。縮合重合反応に適した溶媒は限られていることは当該技術分野で公知である。例えば、PEEKは、製造可能な融点が最も高い半結晶性重合体の中の1つであり、このように、それを製造している間に生じるオリゴマーが示す溶解度が低いことから、反応用媒体から結晶化してくる。縮合重合の場合、生じる重合体の分子量はその重合体が当該溶媒中で示す溶解度に大きく依存していることが当該技術分野で理解されている。特許文献3に、重合が進行するのは生じてくる重合体が当該溶媒に溶解する時のみであることと通常の溶媒中で非常に低い溶解度を示すことが知られているPEEKの場合にはそれが理由で変換率が低い時点でも重合体が沈着するであろうことが述べられている。また、非特許文献4にも、PEEKの製造で通常の溶媒を用いることに関して、生じてくる重合体が示す溶解性が主な制限になっていることが述べられている。従って、縮合重合で用いる溶媒の選択は非常に重要であるが、イオン性液体は今まで高分子量の縮合重合体、例えばPEEKなどの製造に適した使用可能な溶媒であるとは見な
されていなかった。
【0013】
イオン性液体は、エーテルを合成するための芳香族求核置換反応用の溶媒として当該技術分野で用いられてきた(非特許文献5を参照)。しかしながら、それらを芳香族求核置換手段による重合体合成用の溶媒として用いることができることは以前には予想されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】MitsuiのEP1464662
【特許文献2】WO2010046483
【特許文献3】EP1464662
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Ashford’s Dictionary of Industrial Chemicals, 1994, Wavelength Productions Ltd、733頁
【非特許文献2】Engineering Thermoplastics(ISBN 0-8247-7294-6) Margolis J.M. 編集 Rigby R.B.、9章 235
【非特許文献3】Polymer Synthesis in Ionic Liquids、Haddlelton D.M.、Welton T.、Carmichael A.J. in Ionic Liquids in Synthesis、Wassercheid P.、Welton T. 編集 第2版 2008、Wiley
【非特許文献4】Polymer 1988、29、1902
【非特許文献5】Welton T.、Newington I.、Perez-Arlandis J.M.、Organic Letters 2007、9、5247
【発明の概要】
【0016】
本明細書に示す開示では、芳香族求核置換反応をイオン性液体中で実施することで高分子材料を生じさせる方法を提供する。従って、1つの面において、本発明は、芳香族求核置換反応で高分子材料を生じさせる時にイオン性液体を溶媒として使用することに関する。
【0017】
本発明は、イオン性液体を芳香族求核置換重合反応用の溶媒として用いることができかつそれによって高分子量の重合体が容易な様式でもたらされることを驚くべきことに見いだしたことが基になっている。イオン性液体は低い揮発性を示しかつそれが液状である範囲が幅広いことから、本発明によって通常の有機溶媒の使用に関連した欠点を克服した。例えば、イオン性液体である溶媒は反応に必要な温度で液相中に存在することから高温高圧の使用に関連した問題が克服される。イオン性液体である溶媒はまた生成物である重合体の単離に必要な低温でも液相中に存在したままであることで、溶媒の分離も比較的容易である。
【0018】
本発明の方法の1つ態様は、少なくとも1番目の成分の一部(例えばジハライド単量体)および2番目の成分の一部(例えばジフェノール単量体)をイオン性液体の一部に供給することで反応前混合物を生じさせ、前記反応前混合物の加熱および撹拌を前記1番目および2番目の成分が実質的に反応するに充分な時間行いそして高分子材料を単離することを含んで成る。
【0019】
本発明で用いるジハライド単量体は典型的に式X-R1-[C(O)-R2]n-YまたはX-R1-S(O)2-R2-Y
[式中
XおよびYは独立してF、Cl、BrおよびIから成る群より選択される。好適には、XおよびYは
同じでClまたはFである。最も好適には、XおよびYはFである。
R1およびR2はアリール基である。場合により、前記アリール基はフェニレン基であってもよく、それらは場合により更にアルキルまたはハロゲンから選択される1個以上の基で置換されていてもよい。
nは1または2である。好適には、nは1である。
XおよびYは基R1およびR2とそれぞれ許容可能ないずれかの位置で結合している。R1およびR2がフェニレン基の場合、XおよびYは各々独立してフェニル環上のオルソ、メタまたはパラ位に結合していてもよい。好適には、XおよびYは各々フェニル環のパラ位に結合している。]
で表される。
【0020】
好適な態様におけるR1およびR2は非置換フェニレン基であり、XおよびYはClまたはFでありそしてnは1である。より好適には、本発明で用いるジハライド単量体を4,4'-ジフルオロベンゾフェノン、4,4'-ジクロロベンゾフェノンまたはビス(4-クロロフェニル)スルホンから選択する。最も好適なジハライド単量体は4,4'-ジフルオロベンゾフェノンである。
【0021】
本発明で用いるジフェノール単量体をフェノールのOH基を2個有する化合物から選択する。そのようなジフェノール単量体は典型的に一般式HO-Ar-OH[式中、Arはアリール基であり、これはカルボニル官能基で結合しているフェノール基を3個以下の数で含有していてもよい]で表される。例えば、1つの態様におけるArは-Ph-C(O)-Ph-C(O)-Ph-でありそして生じる生成物はPEKKである。別の態様におけるArはフェニレン基である。そのOH基とアリール基は許容可能ないずれかの位置で結合してもよい。例えば、Arがフェニレン基の場合、そのOH基は互いに関してフェニル環上のオルソ、メタまたはパラ位に位置する置換基であってもよい。場合により、そのようなジフェノール単量体をヒドロキノン(1,4-ベンゼンジオール)、レゾルシノール(1,3-ベンゼンジオール)、ピロカテコール(1,2-ベンゼンジオール)またはビスフェノール-Aから成る群より選択する。最も好適なジフェノール単量体はヒドロキノンである。
【0022】
本発明の方法の別の態様は、1番目の成分(例えばモノハライド-モノフェノール単量体)をイオン性液体の一部に供給することで反応前混合物を生じさせ、前記反応前混合物の加熱および撹拌を前記1番目の成分が実質的に反応するに充分な時間行いそして高分子材料を単離することを含んで成る。
【0023】
本発明で用いるモノハライド-モノフェノール単量体は典型的に式 X-R1-[C(O)-R2]n-OHまたはX-R1-S(O)2-R2-OH
[式中、
XはF、Cl、BrおよびIから成る群より選択される。好適には、XはClまたはFである。最も好適には、XはFである。
R1およびR2はアリール基である。場合により、前記アリール基はフェニレン基であってもよく、それらは場合により更にアルキルまたはハロゲンから選択される1個以上の基で置換されていてもよい。
nは1または2である。好適には、nは1である。
XおよびOHは基R1およびR2とそれぞれ許容可能ないずれかの位置で結合している。R1およびR2がフェニレン基の場合、XおよびOHは各々独立してフェニル環上のオルソ、メタまたはパラ位に結合してもよい。好適には、XおよびOHは各々フェニル環のパラ位に結合している。]
で表される。
【0024】
好適な態様におけるR1およびR2は非置換フェニレン基でありそしてXはFである。より好
適には、本発明で用いるモノハライド-モノフェノール単量体は4-フルオロ-4'-ヒドロキシベンゾフェノンである。
【0025】
1つの態様では、塩基を当該イオン性液体に供給する。例えば、塩基を当該単量体と一緒に当該イオン性液体に供給することで反応前混合物を生じさせる。本発明の方法で用いる典型的な塩基は金属の炭酸塩、重炭酸塩または水酸化物である。金属炭酸塩の金属カチオンはルビジウム、セシウム、リチウム、ナトリウムまたはカリウムから選択可能である。本発明で用いる好適な塩基は炭酸カリウムおよび炭酸ナトリウムである。
【0026】
反応で用いる金属炭酸塩の塩基および反応で生じる副生成物である金属の塩は、本発明で用いるイオン性液体である溶媒中で向上した溶解性を示す。このように、イオン性液体を用いるとより高価な炭酸カリウムではなくより安価な塩基性炭酸ナトリウムを用いることが可能になる。加うるに、最終生成物である重合体の純度も向上する、と言うのは、生じる副生成物である金属の塩、例えばカリウムまたはナトリウムのフッ化物などは当該イオン性液体に可溶であることで重合体生成物に混入することがないからである。
【0027】
いくつかの態様において、本明細書に示す開示では、芳香族求核置換反応をイオン性液体中で実施することでポリエーテルケトンおよびポリエーテルスルホン重合体の中から選択した高分子材料を生じさせる方法を提供する。
【0028】
ポリエーテルケトン重合体は、繰り返し単位の各々がエーテル官能基を少なくとも1個とケトン官能基を少なくとも1個含有する群の重合体である。1つの態様における重合体繰り返し単位は、エーテル官能基を1個とケトン官能基を1個含有する。そのような重合体の一例はPEKであり、これは以下に示す構造を有する:
【0029】
【化3】

【0030】
場合により、前記重合体繰り返し単位はエーテル官能基を1個とケトン官能基を2個含有してもよい。そのような重合体の一例はPEKKであり、これは以下に示す構造を有する:
【0031】
【化4】

【0032】
好適には、そのポリエーテルケトン重合体繰り返し単位は、エーテル官能基を2個とケトン官能基を1個含有する。そのような重合体の一例はPEEKであり、これの構造を以下に示す。
【0033】
【化5】

【0034】
ポリエーテルスルホン重合体は、繰り返し単位の各々がエーテル官能基を少なくとも1個とスルホニル官能基を少なくとも1個含有する群の重合体である。1つの態様における繰り返し単位は、エーテル官能基を1個とスルホニル官能基を1個含有する。そのような重合体の一例はPESであり、これの構造を以下に示す:
【0035】
【化6】

【0036】
別の態様における繰り返し単位は、エーテル官能基を2個とスルホニル官能基を1個含有する。そのような重合体の一例はPSであり、これの構造を以下に示す。
【0037】
【化7】

【0038】
PSの製造および使用の詳細がJ.E. Harris、Engineering Thermoplastics、Marcel Dekker 1985 J.M. Margolis編集177頁以降に示されている。
【0039】
いくつかの態様において、本明細書に示す開示では、芳香族求核置換反応をイオン性液体中で実施することで高分子材料であるPEEKを生じさせる方法を提供する。
【0040】
いくつかの態様において、本明細書に示す開示は、溶液または懸濁いずれかの重合でPEEKを合成するための溶媒としてイオン性液体を用いることに関する。
【0041】
いくつかの態様において、本明細書に示す開示は、ヒドロキノンおよび4,4'-ジフルオロベンゾフェノンを用いて出発してジフェニルスルホン中で調製した時の特徴とイオン性液体中で調製した時の特徴が実質的に同じ(分光法、例えばNMR、IR、DSCなどを基にして)である重合体に関する。
【0042】
イオン性液体または低温溶融塩はある範囲の化学工程の実施で用いるに適した非常に低揮発性の溶媒であるとして当該技術分野で公知である。しかしながら、イオン性液体を高分子芳香族求核置換反応の実施、特にPEEKの合成で溶媒として用いることができることは以前には開示されていなかった。本発明で用いるに特に有用なイオン性液体は、窒素含有複素環式カチオンを含有して成るイオン性液体である。例えば、可能なイオン性液体は、1-ブチル-1-メチル-アゼパニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-ブチル-1-メチル-アゼパニウムジシアナミド、6-アゾニア-スピロ[5,6]ドデカンビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、6-アゾニア-スピロ[5,6]ドデカンジシアナミド、1-ベンジル-3-メチルイミダゾリウムクロライド 1-ブチル-1,3-ジメチルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-ブチル-1,3-ジメチルピペリジニウムジシアナミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、テトラフルオロホウ酸1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、酢酸1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、チオシアン酸1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、エチル硫酸1-エチル-3-メチルイミダゾリウムおよび酢酸N,N-ジメチルエタノールアミンである。好適なイオン性液体は1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドである。
【0043】
いくつかの態様において、本明細書に示す開示は、PEEKを溶液または懸濁いずれかの重合で合成するための媒体としてイオン性液体を用いることに関し、その用いるイオン性液体は、Whiston他の米国公開特許出願2008/0296531A1(2008年12月04日に公開)(これの開示は引用することによって全体が本明細書に組み入れられる)に開示されていて公知のそれら、例えば1-ブチル-1-メチル-アゼパニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミ
ド、1-ブチル-1-メチル-アゼパニウムジシアナミド、6-アゾニア-スピロ[5,6]ドデカンビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、6-アゾニア-スピロ[5,6]ドデカンジシアナミド、1-ブチル-1,3-ジメチルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドおよび1-ブチル-1,3-ジメチルピペリジニウムジシアナミドなどである。
【0044】
いくつかの態様において、本明細書に示す開示は、ポリエーテルスルホン合成およびイオン性液体の使用に関する。
【0045】
1つの態様では、単官能単量体を当該イオン性液体に他の反応体と一緒に供給することで反応前混合物を生じさせる。前記ジハライド、ジフェノールおよびモノハライド-モノフェノール単量体とは対照的に、そのような単官能単量体が有する反応性基は1個のみであり、このように、それらは、重合体合成中に連鎖停止を誘発する働きをする連鎖制限添加剤である。従って、適切な単官能単量体はフェノールおよびアリールモノハライド、例えば4-フルオロベンゾフェノンまたは4-クロロベンゾフェノンなどである。
【0046】
別の態様では、多官能単量体を当該イオン性液体に他の反応体と一緒に供給することで反応前混合物を生じさせる。前記ジハライド、ジフェノールおよびモノハライド-モノフェノール単量体とは対照的に、そのような多官能単量体が有する反応性基は3個以上であり、このように、それらは、重合体合成中に鎖分枝を誘発する働きをする鎖分枝剤である。従って、適切な多官能単量体はトリヒドロキシベンゼンおよびトリハロベンゼン種である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1に、比較実施例1および実施例1の方法に従って調製したPEEKサンプルが示したNMRスペクトルを示す。
【図2】図2に、比較実施例1および実施例1の方法に従って調製したPEEKサンプルが示した拡散反射FT IRスペクトルを示す。
【図3】図3に、比較実施例1に示したPEEK材料を示差走査熱量測定(DSC)で試験した時の結果をグラフで示す。
【図4】図4に、実施例1に示したPEEK材料のDSC結果をグラフで示す。
【図5】図5に、熱重量分析(TGA)をN2流下1分当たり5℃の加熱速度で行った時の結果を示す。摂氏度で表す温度をx軸に示しそして元々の重量に対するパーセントをy軸に示す。実線の曲線は実施例1の方法で調製したPEEKが示した結果を示している。破線の曲線はジフェニルを用いた比較実施例1の方法で調製したPEEKが示した結果を示している。
【0048】
詳細な説明
以下の詳細な説明に数多くの明細を例示の目的で含めるが、通常の当業者は以下に示す詳細の数多くの変形および代替は本発明の範囲内であることを理解するであろう。
【0049】
従って、以下に示す本発明の態様は請求する発明の普遍性を全く失うことなくかつ請求する発明に制限を課すことなく示すものである。本開示をより詳細に説明する前に、本開示を説明する個々の態様に限定するものでなくかつそれ自体は勿論多様であり得ると理解されるべきである。また、本明細書で用いる用語は単に個々の態様を説明する目的でありかつ限定することを意図するものではないことも理解されるべきである、と言うのは、本発明の範囲を添付請求項によってのみ限定するからである。
【0050】
特に明記しない限り、本明細書で用いる技術的および科学的用語は全部本開示が属する技術分野の通常の技術者が一般に理解するであろう意味と同じ意味を有する。また、本明細書に記述する方法および材料と同様または相当する方法および材料のいずれも本開示の実施または試験で用いることは可能ではあるが、ここに好適な方法および材料を記述する。
【0051】
本明細書に引用する公開および特許は全部あたかも個々の公開または特許の各々を具体的かつ個別に引用することによって組み込むと示すかのように引用することによって本明細書に組み込まれ、かつ本明細書で引用することによって本開示に組み込まれ、それらには、引用する公開に関連した方法および/または材料が記述されている。如何なる公開の引用もそれの開示は本出願日以前であり、先行する開示によって本開示にそのような公開に先行する日付が与えられる権利がないことを認めると解釈されるべきではない。その上、示されている公開日付は、実際の公開日付とは異なる可能性があり、それを個別に立証する必要もあり得る。
【0052】
本開示を読んだ後の当業者に明らかになるであろうように、本明細書に記述および例示する個々の態様は各々が本開示の範囲からも精神からも逸脱することのない他のいくつかの態様のいずれかが有する特徴から容易に区別可能であるか或はそれと組み合わせることができる個別の構成要素および特徴を有する。示す如何なる方法も示す出来事の順でか或は論理的に可能な他のいずれかの順で実施可能である。
【0053】
本開示の態様では、特に明記しない限り、当該技術分野の技術の範囲内である化学、重合体化学などの技術を用いる。そのような技術は文献の中に詳細に説明されている。
【0054】
以下に示す実施例は、本明細書に開示および請求する方法をどのように実施しかつ本明細書に開示および請求する組成物および化合物をどのように用いるかに関する完全な開示および説明を通常の当業者に示す目的で提示するものである。数値(例えば量、温度など)に関して正確さを確保するように努力したが、いくらかの誤差および偏差を考慮すべきである。特に明記しない限り、部は重量部であり、温度を℃で表しそして圧力を気圧で表す。標準的温度および圧力は25℃および1気圧であると定義する。
【0055】
本開示の態様を詳細に説明する前に、特に明記しない限り、本開示を個々の材料、反応体、反応材料、製造方法などに限定するものでなく、それら自体は多様であり得ると理解されるべき。また、本明細書で用いる用語は単に個々の態様を説明する目的であり、限定を意図するものでないことも理解されるべきである。また、本開示に示す段階は論理的に可能な様々な順で実施可能である。
【0056】
明細書および添付請求項の両方に関して本明細書で用いる如き単数形“a”、“an”および“the”は、特に明瞭に示さない限り、複数指示対象も包含する。このように、例えば“ある担体”を言及する場合、それは複数の担体を包含する。本明細書および以下の請求項では、反対の意図が明らかでない限り、以下の意味を有すると定義する数多くの用語を言及する。
【0057】
定義および試験方法
イオン性液体は、本質的にイオンのみを含有する液体、即ち溶融塩であるが、ある種のイオン性液体は動的平衡状態にあり、その液体の大部分は分子種ではなくイオン種で構成されている。当該技術分野では、融点が100℃未満のそのような塩を指す目的で用語“イオン性液体”が用いられる。そのようなイオン性液体を時にはまた室温イオン性液体(RTIL)とも呼ぶ。イオン性液体は典型的にかさ高い非対称有機カチオンの塩である。例えば、米国特許第7,157,588号に、可変長アルキルスペーサーによってピロリドン環から離れて位置するペンダント型アンモニウムカチオンを有するN置換ピロリジノンが基になった組成物が教示されている。WO2006/136529に、アルキル硫酸ピラゾリウムおよびそれの製造方法が教示されている。WO2008/150842に、複素環式窒素含有カチオンを含有して成る幅広い種類のイオン性液体が記述されている。
【0058】
本発明の文脈で用いる如き用語“イオン性液体”は、融点が約100℃未満の塩を指す。場合により、本発明で用いるイオン性液体は有機カチオンを含有して成っていてもよい。有機カチオンは炭素原子を少なくとも1個含有するカチオンである。有機カチオンが含有するアルキル基は典型的に少なくとも1個である。便利に、イオン性液体は非対称有機窒素含有カチオンを含有して成る。1つの面において、本発明で用いるイオン性液体は有機アニオンを含有して成る。有機アニオンは炭素原子を少なくとも1個含有するアニオンである。典型的に、有機アニオンは炭素原子を少なくとも1個含有するアニオンであるが、炭酸塩アニオンも重炭酸塩アニオンも除く。別の面において、本発明で用いるイオン性液体は有機カチオンと有機アニオンを含有して成るが、ここで、前記有機カチオンおよびアニオンはこの上で定義した通りである。
【0059】
本発明の方法では、1種類のみのイオン性液体または2種類以上のイオン性液体の混合物を用いてもよい。典型的には、1種類または2種類、典型的には1種類のみのイオン性液体を用いる。このように、1つの態様におけるイオン性液体は、1-アルキルピリジニウム(N-アルキルピリジニウム)、アルキル-またはポリアルキル-ピリジニウム、アルキル-またはポリアルキル-グアニジニウム(特にテトラアルキルグアニジニウム)、イミダゾリウム、アルキル-またはポリアルキル-イミダゾリウム(特に1,3-ジアルキルイミダゾリウム)、アンモニウム(NR4+)、アルキル-またはポリアルキル-アンモニウム(特にテトラアルキルアンモニウム)、アルキル-またはポリアルキル-ピラゾリウム、アルキル-またはポリアルキル-ピロリジニウム(特にジアルキルピロリジニウム)、アルキル-またはポリアルキル-ピペリジニウム(特に3-メチルピペリジニウム)、アルキル-またはポリアルキル-アゼパニウム、アルキルまたはポリアルキル-アゼピニウム、アルキルオキソニウムおよびアルキスルホニウムの中の1種以上から選択したカチオンを含有して成る。前記アンモニウムカチオンの各R基は独立して水素、ヒドロキシル、アルキル、アルキルエーテル、アルキルエステル、アルキルアミド、アルキルカルボン酸、アリールまたはスルホネートから選択可能である。例にはN-エチルピリジニウム、N-メチル-N-アルキルピロリジニウム、例えばN-ブチル-N-メチルピロリジニウム、N-メチル-N-(ブチル-4-スルホン酸)ピロリジニウムなど、1-アルキル-3-アルキルイミダゾリウム、例えば1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム(BMIM、またN-メチル-N'-ブチルイミダゾリウムとも呼ぶ)など、1-アルキル-3-アリールイミダゾリウム、例えば1-メチル-3ベンジルイミダゾリウム、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムおよびトリメチル-(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムが含まれる。
【0060】
多種多様なアニオンを用いることができ、それには、無機アニオンおよび大型の有機アニオンが含まれる。1つの態様では、イオン性液体1種または2種以上のアニオンをハロゲン化物(通常は塩化物、臭化物またはヨウ化物)、硝酸塩、アルキルスルホン酸塩またはアルキルポリアルコキシスルホン酸塩、水素スルホン酸塩、ヘキサフルオロ燐酸塩およびテトラフルオロホウ酸塩、および窒素、燐、硫黄、ホウ素、珪素、セレン、テルル、ハロゲンが基になった他のアニオン、および金属のオキソアニオンの中の1種以上から選択する。適切なアニオンには、これらに限定するものでないが、テトラフルオロホウ酸塩(BF4-)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(NTf2-)、水素硫酸塩(HSO4-)、メチルスルホン酸塩、トリフルオロメチルスルホン酸塩、メトキシエチルスルホン酸塩、2-メトキシエチルスルホン酸塩、エトキシエチルスルホン酸塩、2-エトキシエチルスルホン酸塩、(メトキシプロポキシ)プロピルスルホン酸塩、1-(1-メトキシプロポキシ)-プロピルスルホン酸塩、(メトキシエトキシ)-エチルスルホン酸塩、1-(1-メトキシエトキシ)-エチルスルホン酸塩、メチル(ジエトキシ)エチルスルホン酸塩、1-メチル(ジエトキシ)エチルスルホン酸塩、トルエン-4-スルホン酸塩 トリフルオロメチルスルホニル、カルボン酸塩、蟻酸塩、酢酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、ジシアニミド、トリフルオロ酢酸塩およびビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが含まれる。
【0061】
本発明の方法は、当該反応前混合物の加熱を当該単量体成分が実質的に反応するに充分な時間行うことを含んで成る。重合体化学分野の技術者は、当該単量体成分が実質的に反応するに必要な温度および時間を容易に理解するであろう。
【0062】
典型的な反応温度は150℃から400℃の範囲内である。場合により、反応を200℃から400℃の範囲内の温度で実施することも可能である。便利には、250℃から350℃の範囲内の温度を用いる。1つの態様では、温度を反応工程全体に渡って段階的または連続的に上昇させることで最終的重合体が如何なる中間的段階でも溶液中に存在するようなレベルにする。場合により、反応温度を200℃で出発した後に250℃に上昇させてもよく、場合により、決めた時間が経過した後にか或は生じてくる重合体がそのような温度で溶解するに必要な如き時間が経過した後に更に320℃にまで上昇させてもよい。
【0063】
当該単量体成分が実質的に反応するに充分な時間は典型的に少なくとも1時間、場合により少なくとも2時間、場合により少なくとも3時間、場合により少なくとも4時間である。
【0064】
上述したように、反応を異なる温度で異なる時間実施することも可能である。1つの態様では、反応を200℃で2時間実施した後に温度250℃に上昇させて更に2時間反応させてもよい。場合により、反応を200℃で1時間、250℃で更に1時間そして次に320℃で更に1時間実施することも可能である。
【0065】
当該単量体成分が実質的に反応したことは、生成物の相対粘度(RV)が少なくとも1.05に到達することで明らかになる。1つの態様において、当該単量体成分が実質的に反応したことは、生成物のRVが少なくとも1.1、1.2、1.3、1.4または1.5になることで明らかになる。
【0066】
本明細書で用いる如き用語アリールは、炭素環式芳香基、例えばフェニルまたはナフチルなど(場合によりフェニル)を意味する。
【0067】
そのようなアリール基は1個以上の置換基で置換されてもよく、可能な置換基にはアルキル、アリール、アリールアルキル(例えば置換および非置換ベンジル(アルキルベンジルを包含))、ハロゲン原子およびハロゲン含有基、例えばハロアルキル(例えばトリフルオロメチル)またはハロアリール(例えばクロロフェニル)、ヒドロキシル、カルボキシル(例えばカルボキサルデヒド、アルキル-またはアリール-カルボニル、カルボキシ、カルボキシアルキルまたはカルボキシアリール)、アミドおよびニトリルが含まれる。場合により、そのようなアリール基は非置換であってもよい。
【0068】
相対粘度(RV)の測定を下記の如く行う:1グラムの重合体を100cm3の96-98%硫酸(密度が1.84g/cm3)に溶解させる。そのようにして新しく作成した溶液がU字管粘度計を通る流動時間tsを25℃で測定する。同様にして、また、溶媒である硫酸が示す流動時間toも測定する(理想的には約120秒の流動時間)。RVをRV=ts/toから計算する。
【0069】
重合体溶液および粒子分散液の特徴付けは当業者に良く知られている。本明細書で用いる如き拡散反射フーリエ変換赤外分光(DRIFTS)は、散乱IRエネルギーを集めて分析する技術である。DRIFTSを微細粒子および粉末の測定で用いるが、サンプリングは困難ではない、と言うのは、サンプル調製を行う必要がないからである。当業者に公知のように、IR線
がサンプルの中に入り込みそして粒子の表面から反射して出て行くか或は粒子を通り抜ける。表面から反射して出て行くIRエネルギーは典型的に失われる。粒子を通り抜けたIR線は、次の粒子から反射して出て行くか或は次の粒子を通り抜け得る。そのような透過-反射事象がサンプルの中で多数回起こるにつれて路長が長くなり得る。最終的に、その散乱IRエネルギーを検出器に焦点を当てた球面鏡で集める。サンプルの粒子が部分的に吸収した検出IR光に結果としてサンプルの情報が含まれている。
【0070】
示差走査熱量測定(DSC)は、サンプルおよび標準の温度を上昇させるに必要な熱量の差を温度の関数として量化する目的で本明細書で用いる熱分析技術である。当業者に公知なように、サンプルと標準の両方を実験全体に渡ってほぼ同じ温度に維持する。DSC分析の温度プログラムをサンプルホルダーの温度が時間の関数として直線的に上昇するようなプログラムにする。標準サンプルは、走査する温度範囲全体に渡って明確な熱容量を示すべきである。本明細書に示しかつ当業者に公知のDSCを重合体の相転移、例えば溶融、ガラス転移、またはエネルギー変化または熱容量変化を伴う発熱分解などに適用する。
【0071】
核磁気共鳴分光測定(NMR)は当業者に良く知られている分光技術であり、本明細書では、本明細書で調製した重合体を特徴付ける目的でそれを用いる。本開示の教示ではFT-NMRおよび伝統的な技術の両方をもちいることができる。
【0072】
熱重量分析、即ちTGAは、重合体の重量変化を温度の変化に関して量化する目的で本明細書で用いる熱分析技術である。当業者に公知なように、そのような分析は下記の3測定値の精度が高いことに頼っている:重量、温度および温度変化。本明細書で用いる如きTGAは、重合体の特定の特徴、例えば分解温度、吸収している水分の含有量、材料中の無機および有機成分の濃度および溶媒残存量などを測定する目的で研究および試験で通常用いられる技術である。
【実施例】
【0073】
以下の実施例は本発明を例示する目的で示すものである。本実施例で本発明の範囲を限定することを意図するものでなくかつそのように解釈されるべきでない。
【0074】
本明細書では比率、濃度、量および他の数値データを範囲形式で表すことがあり得ることを注目すべきである。そのような範囲形式は便利さおよび簡潔さの目的で用いるものであり、従って、範囲の限界として明確に示した数値を包含するばかりでなくまたその範囲内に含まれる個々の数値も部分的範囲も全部あたかも各数値および部分的範囲を明確に示すかのように包含すると言った柔軟な様式で解釈されるべきであると理解されるべきである。例示として、“約0.1%から約5%”の濃度範囲には明確に示した約0.1重量%から約5重量%の濃度ばかりでなくまたその示した範囲内の個々の濃度(例えば1%、2%、3%および4%)および部分的範囲(例えば0.5%、1.1%、2.2%、3.3%および4.4%)も含まれると解釈されるべきである。用語“約”には修飾を受けさせる数値1種または2種以上の±1%、±2%、±3%、±4%、±5%、±8%または±10%が含まれ得る。加うるに、語句“約‘x’から‘y’”には“約‘x’から約‘y’”が含まれる。
【実施例1】
【0075】
ヒドロキノン(1.691g、15.36ミリモル)、4,4-ジフルオロベンゾフェノン(3.347g、15.34ミリモル)、粉砕炭酸カリウム(2.144g、15.51ミリモル)およびイオン性液体である1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス{(トリフルオロメチル)スルホニル}アミド(15mL)の混合物に真空/窒素サイクルによるパージ洗浄をSchlenkラインを用いて受けさせた。その混合物を窒素雰囲気下で撹拌しながら200℃に1時間に続いて250℃に更に1時間そして最後に320℃に更に1時間加熱した。褐色のスラリーを得て、それを室温に冷却しそしてプロパノン(40mL)と混合した。その結果として生じた懸濁液を激しく撹拌した。結果として生じた
生成物の粉末を濾過で集め、水(3×20mL)に続いてプロパノン/メタノール混合物(重量で1:1、3×20mL)で洗浄した。次に、その生成物の乾燥を空気流下に続いて高真空下140℃で12時間行うことで褐色の固体を得た(3.684g、83%)。その生成物に示差走査熱量測定(DSC)による特徴付けを窒素雰囲気下10℃/分の加熱/冷却速度で受けさせそして融点(融点=326℃)を2番目の加熱サイクルにおける発熱ピークとして得た。相対粘度(RV=1.44)の測定を硫酸中の溶液(1重量%)としてD型粘度計を用いて実施した。また、その生成物に1H n.m.r.による分析もD2SO4を溶媒として用いて受けさせかつ拡散反射FT-IRを用いた分析も受けさせた。
【実施例2】
【0076】
実施例1と同様にして、ヒドロキノン(1.652g、15.00ミリモル)、4,4-ジフルオロベンゾフェノン(3.273g、15.00ミリモル)および粉砕炭酸カリウム(2.103g、15.22ミリモル)の混合物を溶媒としてのイオン性液体である1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス{(トリフルオロメチル)スルホニル}アミド(15mL)中で反応させた。その反応を200℃の温度で2時間に続いて250℃で更に2時間実施した。次に、結果として生じた白色の反応生成物スラリーに処理を実施例1と同様にして受けさせることで白色の固体を得た(4.090g、95%の収率)。その生成物に特徴付けを実施例1と同様にして受けさせた(融点=329℃、RV=1.32)。
【実施例3】
【0077】
実施例1と同様にして、ヒドロキノン(1.003g、10.02ミリモル)、4,4-ジクロロベンゾフェノン(2.517g、10.02ミリモル)および粉砕炭酸カリウム(1.399g、10.12ミリモル)の混合物を溶媒としてのイオン性液体である1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス{(トリフルオロメチル)スルホニル}アミド(10mL)中で反応させた。次に、その結果として生じた褐色の生成物スラリーに処理を実施例1と同様に受けさせることで白色固体を得た(2.150g、74%の収率)。その生成物に特徴付けを実施例1と同様にして受けさせた(RV=1.23)。
【0078】
図1、2、3、4および5に、実施例1および比較実施例1が示した1H NMR、FTIR(DRIFT)、DSCおよびTGAデータの比較を示す。それらは、いずれの方法を用いて生じさせた生成物も同様な性質を有することを示している。
【比較実施例1】
【0079】
ヒドロキノン(1.106g、10.04ミリモル)、4,4-ジフルオロベンゾフェノン(2.192g、10.05ミリモル)および粉砕炭酸カリウム(1.400g、10.13ミリモル)の混合物をジフェニルスルホン(6.09g)を溶媒として用いる以外は実施例1と同様にして反応させた。そのようにして得た灰色の固体状混合物を100-120℃で粉砕した後、液体窒素で冷却して粉砕することで微粉にし、次に、それに処理を実施例1と同様にして受けさせることで灰色の固体を得た(2.775g、96%)。その生成物に特徴付けを実施例1と同様にして受けさせた(融点=335℃、RV=2.48)。
【比較実施例2】
【0080】
ヒドロキノン(1.100g、9.990ミリモル)、4,4-ジクロロ-ベンゾフェノン(2.510g、10.00ミリモル)および粉砕炭酸カリウム(1.490g、10.78ミリモル)の混合物をジフェニルスルホン(7.02g)を溶媒として用いる以外は実施例1と同様にして反応させた。次に、その灰色の固体状混合物に処理を実施例4と同様にして受けさせることで灰色の固体を得た(2.785g、97%)。その生成物に特徴付けを実施例1と同様にして受けさせた(融点=328℃、RV=2.00)。
【0081】
比較実施例1および2をヨーロッパ特許資料EP 0001879 B2(ICI Ltdの名前で1989-11-23に公開)の開示のラインに沿って実施した。
【0082】
【表1】

【0083】
上述した態様に対して様々な変更および修飾を行うことができる。本明細書ではそのような修飾形および変形の全部を本開示の範囲内に含めて以下の請求項で保護することを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性液体の使用であって、芳香族求核置換反応で高分子材料を生じさせる時に溶媒としての使用。
【請求項2】
前記芳香族求核置換反応が
少なくとも1番目の成分の一部および2番目の成分の一部をイオン性液体の一部に供給することで反応前混合物を生じさせ、
前記反応前混合物の加熱および撹拌を単量体成分が実質的に反応するに充分な時間行い、そして
高分子材料を単離する、
段階を含んで成る請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記1番目の成分がジハライド単量体を含有して成りそして前記2番目の成分がジフェノール単量体を含有して成る請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記芳香族求核置換反応が
少なくともモノハライド-モノフェノール単量体を含んで成る成分の一部をイオン性液体の一部に供給することで反応前混合物を生じさせ、
前記反応前混合物の加熱および撹拌を前記単量体成分が実質的に反応するに充分な時間行い、そして
高分子材料を単離する、
段階を含んで成る請求項1記載の使用。
【請求項5】
塩基を前記イオン性液体に前記単量体成分と一緒に供給する請求項1から4のいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
前記高分子材料がポリエーテルケトンおよびポリエーテルスルホン重合体の中から選択される請求項1から5のいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
前記高分子材料がPEEK、PEK、PEKK、PESまたはPSから選択される請求項6記載の使用。
【請求項8】
前記高分子材料がPEEKである請求項7記載の使用。
【請求項9】
単官能単量体を前記イオン性液体に供給することで前記反応前混合物を生じさせる請求項2から8のいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
多官能単量体を前記イオン性液体に供給することで前記反応前混合物を生じさせる請求項2から9のいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
芳香族求核置換反応をイオン性液体中で実施して高分子材料を生じさせる方法であって、反応体をイオン性液体中で接触させることを含んで成る方法。
【請求項12】
前記反応体が1番目の成分の一部および2番目の成分の一部を含有して成りそして前記成分をイオン性液体の一部に供給することで反応前混合物を生じさせる請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記1番目の成分がジハライド単量体を含有して成りそして前記2番目の成分がジフェノール単量体を含有して成る請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記反応体がモノハライド-モノフェノール単量体の一部を含有して成りそしてそれをイオン性液体の一部に供給することで反応前混合物を生じさせる請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記芳香族求核置換反応の実施が
前記反応前混合物の加熱および撹拌を前記単量体成分が実質的に反応するに充分な時間行いそして高分子材料を単離する、
ことを含んで成る請求項12から14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
塩基を前記イオン性液体に前記単量体成分と一緒に供給する請求項11から15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記高分子材料をポリエーテルケトンおよびポリエーテルスルホン重合体の中から選択する請求項11から16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記高分子材料をPEEK、PEK、PEKK、PESまたはPSから選択する請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記高分子材料がPEEKである請求項18記載の方法。
【請求項20】
単官能単量体を前記イオン性液体に他の反応体と一緒に供給することで前記反応前混合物を生じさせる請求項12から19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
多官能単量体を前記イオン性液体に他の反応体と一緒に供給することで前記反応前混合物を生じさせる請求項12から20のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−500350(P2013−500350A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521099(P2012−521099)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001424
【国際公開番号】WO2011/010116
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(309028329)インビスタ テクノロジーズ エス エイ アール エル (80)
【Fターム(参考)】