説明

イオン性液体を脱水する方法

イオン性液体における水投入を妨げる方法が提供されており、当該方法は、オルトエステルを含む添加剤をイオン性液体に添加するステップを含む。特に、イオン性液体の使用中、添加剤のうち少なくとも一部の残基が、イオン性液体内に残り得るか又は存在し得る。例えば、添加剤は、オルトエステルによって、又は、オルトエステルの混合物によって形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性液体を脱水する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン性液体は、有機カチオン及び有機若しくは無機アニオンから成り、且つ、100℃未満の融点を有する液体有機塩又は塩の混合物である。さらに、これらのイオン性液体に無機塩及び/又は添加剤を溶解することができる。これらのイオン性液体は、非常に低い実質的には計測できない蒸気圧、高い液相線範囲、優れた電気伝導率、及び、興味深い溶媒和特徴を有する等、いくつかの非常に興味深い特徴を示す。これらの特徴は、例えば、(例えば、有機又は無機合成、遷移金属触媒、生体触媒、多相性反応、光化学、ポリマー合成、及び、ナノテクノロジーにおける)溶媒、(例えば、液液又は液ガス抽出、原油処理中の硫黄除去、水処理中の重金属の除去、及び、液体膜抽出等の)抽出剤、(例えば、電池、燃料電池、コンデンサー、太陽電池、センサー、電気化学、電気めっき、電気化学的金属処理、電気化学的合成、有機電解合成、及び、ナノテクノロジーにおける)電解液、潤滑剤、熱流体、ゲル、有機合成に対する試薬として、(例えば、揮発性有機化合物の代わりとしての)いわゆる「グリーンケミストリー」、静的抑制剤、(例えば、ガスクロマトグラフィー、質量分析、キャピラリーゾーン電気泳動等の)化学分析における特定用途、並びに、液晶において等、いくつかの用途にイオン性液体を前もって運命づけることができる。さらなる詳細は、Rogers,Robin D.;Seddon, Kenneth R.(Eds);Ionic Liquids−Industrial Applications to Green Chemistry,ACS Symposium Series 818,2002:ISBN 0841237891、及び、Wasserscheid,Peter;Welton,Tom(Eds);Ionic Liquids in Synthesis,Verlag Wiley−VCH 2003;ISBN 3527305157において見つけることができる。イオン性液体の特徴は、それぞれのアニオン及びカチオンを変えることによって、いかなる所望の用途にも適応させることができる。この広範ないろいろのあり得る特徴のため、イオン性液体は「デザイナーソルベント」と呼ばれることが多くある。
【0003】
しかし、多くの用途において、イオン性液体のあり得る不純物、汚染、又は、混入が、不利な効果を生じる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオン性液体の汚染を妨げる方法を提供することが、本発明の目的であり得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、イオン性液体の汚染、特に水質汚染を妨げる方法によって解決することができる。さらに、例証的な実施形態が従属項に記載されている。
【0006】
本発明の例証的な態様によると、イオン性液体における水投入を妨げる方法が提供されており、当該方法は、オルトエステルを含む添加剤をイオン性液体に添加するステップを含む。
【0007】
特に、添加剤のうち少なくとも一部の残基は、イオン性液体の使用中、イオン性液体に残り得るか又はイオン性液体に存在し得る。例えば、添加剤は、オルトエステルによって、又は、オルトエステルの混合物によって形成することができる。このように、オルトエステルを含む添加剤は、イオン性液体の使用中、イオン性液体内への将来の水分摂取を緩衝する緩衝液を形成することができる。添加剤としてのオルトエステルの使用は、イオン性液体の生成によって使用され、その生成処理後にイオン性液体から除去される乾燥剤の使用と区別されなくてはならない場合がある。すなわち、「添加剤」という用語は、特に、製造処理の間又は後に添加され、且つ、例えば、溶媒、抽出剤、電解液、潤滑剤、熱流体、ゲル、有機合成に対する試薬として、いわゆる「グリーンケミストリー」、静的抑制剤、化学分析における特定用途、及び、液晶において、生成物の通常又は意図された使用の間に、製造された生成物において少なくとも十分な量で、すなわち、ほんのわずかな量だけではなく残る物質を意味し得る。そのような添加剤に対する例は、製造された生成物又は物質に存在する緩衝物質若しくは緩衝液であり得る。すなわち、例証的な態様は、イオン性液体に対する緩衝物質としてオルトエステルを含む添加剤の使用であり得る。
【0008】
この用途によると、「イオン性液体」という用語は、有機カチオン及び有機若しくは無機アニオンを含み、且つ、200℃未満の融点を有する液体有機塩又は塩の混合物も含み得るということに留意するべきである。すなわち、「イオン性液体」という用語は、これらのイオン性液体が、一般的に従来技術による融点閾値である100℃未満の融点を有するイオン性液体とは他の特徴において異ならないため、100℃を超えるが200℃未満である融点を有する溶融塩も含み得る。
【0009】
「水投入」という用語は、特に、例えばイオン性液体の使用中のその吸湿効果による、イオン性液体内への水の吸収又は取り込みを意味し得る。
【0010】
特に、イオン性液体内へのいかなる水投入も添加剤のオルトエステルと着実に又は直ちに反応し得るため、使用中イオン性液体内に残ったオルトエステルを含む添加剤の量は、使用中の水投入に対する緩衝液を形成し得るか、又は、緩衝液として作用し得る。従って、イオン性液体の使用中にイオン性液体内に水が存在しないことを確実にすることが可能であり得る。水がイオン性液体内に存在する場合、この水は、イオン性液体の化学的及び/又は物理的特徴に対するいくつかの不利な効果を生じる可能性があり、これらの不利な効果は、例証的な態様による水質汚染を妨げる方法を使用した場合に省くか又は少なくとも減らすことができる。これらの不利な効果の一部は、例えば分解生成物の酸性度によるイオン性液体を使用した装置の腐食を生じ得る例えばアニオン等のイオン性液体の加水分解であり得る。これらの腐食効果は、特に、高い作動温度の場合に、及び/又は、長い存続期間の場合に関連し得る。さらに、一部のイオン性液体は固体の塩と同様に吸湿性であるため、初期においてイオン性液体を脱水することは困難でありえ、従って、緩衝添加剤の使用は、おそらく、イオン性液体の存続期間の間に水の量を減らし得る。このように、添加剤は、イオン性液体内への水投入を着実に除去する腐食止め添加剤として作用し得るため、イオン性液体の加水分解及び分解は、阻止するか又は少なくとも減らすことができる。さらに、一般的に酸性であり、且つ、イオン性液体を使用した装置を害するか若しくは破損し得る腐食反応産物の発生を阻止するか又は少なくとも減らすことができる。
【0011】
次に、水質汚染を妨げる方法の例証的な実施形態のさらなる態様が記述される。
【0012】
例証的な実施形態によると、当該方法は、イオン性液体を生成するために含水イオン性液体を脱水するステップをさらに含む。特に、脱水するステップは、過化学量論量で含水イオン性液体内へ添加剤を添加するステップによって行うことができる。すなわち、脱水するステップ及び添加剤を添加するステップ、すなわち、あり得る将来の水質汚染を妨げる方法は、1つのステップ又は同時のステップで行うことができる。
【0013】
言い換えると、オルトエステルは、イオン性液体内の全ての水が反応することができるのに必要とされる量よりも多い量で添加することができる。イオン性液体内へ添加剤又はオルトエステルを添加する前に、水の含有量を決定するか又は推定して、必要な化学量論量を決定することができる。次に、添加剤を過化学量論量で添加することができる。一般的に、数は、10ppmからイオン性液体の約20容量パーセントの範囲内、又は、含有する水との反応後にイオン性液体が10ppmから20容量パーセントの添加剤、特に、100ppmから5容量パーセント、好ましくは、1000ppmから1容量パーセント含有する程度であり得る。このように、微量の水ですでに汚染されたイオン性液体は、オルトエステルを使用することによって脱水することができ、さらに、オルトエステルの一部の残基は、脱水されたイオン性液体内に残ることができ、リザーバーを構築することができ、将来のイオン性液体の汚染を妨げることができる。これらの残基は、将来の汚染に対する一種の緩衝液として作用し得る。
【0014】
この用途において、「脱水」又は「脱水する」という用語は、特に、例えばイオン性液体等の液相に存在する水の量を減らす手順を意味し得る。特に、当該用語は、イオン性液体内にすでに微量で存在する水がイオン性液体から除去される処理も含み得る。従って、「イオン性液体」という用語は、特に、純粋なイオン性液体、並びに、主成分として、しかし、例えば、容量で5%未満若しくは1%未満という微量の水を含み得るイオン性液体を有する液体混合物又は異なるイオン性液体の混合物を意味し得る。すなわち、「イオン性液体」という用語は、特に、イオン性液体又は異なるイオン性液体の混合物が、例えば、容量で80%若しくは90%を超える部分に一致し得る主成分を形成するいかなる液体物質も意味し得る。オルトエステルは、イオン性液体の使用中、水投入を緩衝する液体の脱水又は乾燥剤を形成することができる。すなわち、第1のステップにおいて、オルトエステルは、アルコール及びエステルまでイオン性液体内に含まれた水と反応することができるため、オルトエステルを添加することによって、含水イオン性液体を処理して、脱水されたイオン性液体を形成することができる。このように、オルトエステルの添加は、生成物(例えばエステル及びアルコール)が除去されない場合でさえも、イオン性液体を脱水することができる。第2のステップにおいて、オルトエステルは、将来の水質汚染をおそらく防ぐためにイオン性液体内に残る添加剤を形成することができる。当然ながら、脱水に使用される第1の添加剤は第1のオルトエステルを含むことができ、阻害添加剤として使用される第2の添加剤は第2のオルトエステルを含むことができるということが述べられるべきである。特定の実施形態によると、第1のオルトエステル及び第2のオルトエステルは、同じであり得るか又は異なり得る。
【0015】
当該方法の例証的な実施形態によると、オルトエステルは、所定の閾値より低い沸騰温度を有している。
【0016】
特に、閾値は、イオン性液体の融解温度の検討中に決定することができる。例えば、イオン性液体の融解温度及びオルトエステルの沸騰温度は、同じ範囲内にあり得る。しかし、オルトエステルの沸騰温度は、イオン性液体の融解温度よりも高くあり得る。イオン性液体の融解温度は200℃未満、特に150℃未満、より詳しくは100℃未満であり得るため、所定の閾値も、それぞれ200℃、150℃、及び、100℃の範囲内であり得る。一部の実施形態によると、オルトエステルは、例えば、室温の液体又は少なくともイオン性液体が液相である温度の液体等の液体であり得る。すなわち、オルトエステル及びイオン性液体は、どちらも液相である温度及び/又は圧力の範囲が存在するように選ぶことができる。特に、所定の閾値は、低い沸騰温度を特徴づけることができる。低い沸騰温度を有するオルトエステルは、イオン性液体と反応することができず、イオン性液体に溶ける場合があり、すなわち、オルトエステル及びイオン性液体は、同質の溶液を形成することができる。しかし同時に、そのようなオルトエステルは、イオン性液体内に少量又は微量で存在する水と容易に反応することができ、一方で、結果として生じる生成物は液体でありえ、低い沸騰温度又は沸点も有し得る。低い沸点を有するオルトエステルが使用され、及び/又は、それぞれの結果として生じる生成物が低い沸騰温度を有する場合、例えば、連続ガス流として、イオン性液体からオルトエステル及び/又は結果として生じる生成物を容易に除去することが可能であり得る。特に、閾値は、低い沸騰温度を確実にすることができ、低いとは、イオン性液体の作動温度、すなわち、イオン性液体が使用される温度と比較して定義することができる。この状況において、低い沸騰温度とは、例えば、作動温度よりも約10℃高いか又は30℃高い値等の作動温度に近い温度であるため、オルトエステルは、イオン性液体を少しばかり加熱することによってイオン性液体から容易に除去可能であり得る。同じことが、当然ながら、例えばエステル及び/又はアルコール等の結果として生じる生成物にあてはまり得る。このように、低い沸騰温度は、イオン性液体からのオルトエステル及び/又は結果として生じる生成物の容易な除去を確実にすることができる。
【0017】
当該方法の別の例証的な実施形態によると、オルトエステルは、所定の閾値を超える沸騰温度を有している。
【0018】
閾値は、イオン性液体の融解温度及び/又は作動温度の検討中に決定することができる。特に、閾値は、例えば作動温度を30℃から100℃まで超えた温度等、作動温度を十分に超えた温度にてオルトエステルが沸騰するように選ぶことができる。例えば、作動温度は、室温でありえ、一方、オルトエステルの沸騰温度は、125℃の範囲内であり得る。そのような閾値は、高い沸騰温度を確実にすることができ、すなわち、オルトエステルがイオン性液体内で液体のままでいて、作動温度にてイオン性液体からの燻蒸を施さないのを確実にすることができる。従って、高い閾値又は高い沸騰温度は、オルトエステルが作動温度にて液体のままでいて、燻蒸を施さないように定めることができる。同じことが、当然ながら、例えばエステル及び/又はアルコール等の結果として生じる生成物にあてはまり得る。すなわち、オルトエステル、及び/又は、オルトエステルとイオン性液体に含まれる水との反応から生じる生成物は、作動温度よりも高い沸騰温度を有し、意図されたイオン性液体の使用中、イオン性液体内に残り得る。
【0019】
しかし、高い沸騰温度、すなわち、作動温度を十分超える沸騰温度を有するオルトエステルを選択することが可能でありえ、一方、結果として生じる生成物、すなわち、オルトエステルと水との反応産物は、作動温度よりも少しだけ高いか又は作動温度よりも低くさえあり得る低い沸騰温度を有し得る。そのようなオルトエステルは、特に、オルトエステルの高い沸騰温度は気体が抜けないことを確実にすることができ、一方、結果として生じる生成物の低い沸騰温度はイオン性液体から容易に取り除くことができることを確実にすることができるため、イオン性液体の汚染を防ぐためにイオン性液体内に残ったままでいる添加剤に有用であり得る。
【0020】
阻害添加剤が添加される前に脱水するステップが行われる場合に、低い沸騰温度を有し、結果として生じる生成物が低い沸騰温度を有するため、容易に除去することができるということを確実にするオルトエステルを脱水剤は含むことができ、一方で、イオン性液体の使用中にイオン性液体内に残ったままでいる阻害添加剤は、高い沸騰温度を有するオルトエステルを含むため、イオン性液体の使用中にオルトエステルはイオン性液体内に残ることができるということに留意するべきである。しかし、阻害添加剤のオルトエステルの結果として生じる生成物は低い沸騰温度を有し得るため、イオン性液体から容易に除去することができる。
【0021】
例証的な実施形態によると、当該方法は、含水イオン性液体を脱水する場合に形成されるアルコール及び/又はエステルを除去するステップをさらに含む。
【0022】
特に、アルコール及び/又はエステルは、イオン性液体内に含まれたか又は存在する水とのオルトエステルの反応の生成物である。例えば、アルコール及び/又はエステルは、温めるか若しくは加熱する、及び/又は、脱水したイオン性液体を真空状態、若しくは、例えば大気圧よりも低い圧力等、減らした圧力に晒すことによって、イオン性液体から除去することができる。「真空」という用語は、特に、イオン性液体が存在する近辺にもともと存在する圧力を減らすことによって達成されるいかなる圧力も意味することができ、必ずしも0hPaに近い圧力を意味しない。この観念においては、約100hPa又は10hPaの圧力も真空状態を表し得る。除去するステップは、脱水ステップの間に一度行うことができるか、又は、イオン性液体の使用中に何度か行うことができ、例えば、イオン性液体内に水が投入されるか若しくは浸透させられる毎に行うことができる。しかし、オルトエステルの一部の残基は、イオン性液体内に残り得る。
【0023】
例証的な実施形態によると、当該方法は、触媒を添加するステップをさらに含む。特に、触媒は酸であり得る。
【0024】
例えば、酸は、揮発性酸、及び/又は、所定の閾値よりも低い沸騰温度を有する酸であり得る。閾値は、イオン性液体の分解温度又は典型的な用途の温度に基づき決定することができ、例えば、オルトエステルの沸騰温度の状況において記述したのと同様に、イオン性液体の分解温度又は典型的な用途の温度と同じ状態であり得る。別の例に対して、酸は、不揮発性酸、及び/又は、所定の閾値を超える沸騰温度を有する酸でありえ、オルトエステルの沸騰温度の状況において記述したのと同様に、蒸発することなくイオン性液体内に残り続ける。さらに、イオン性液体自体が酸性であることが可能であり、例えば、弱酸性を形成することできるか、又は、低い酸性を有し得る。
【0025】
当該方法の例証的な実施形態によると、イオン性液体はアニオンを含み、アニオンは、脱プロトン化された酸に対応する。すなわち、イオン性液体のアニオン、又は、異なる種類のアニオンがイオン性液体内に存在する場合は、異なる種類のアニオンのうち少なくとも一つが、酸が脱プロトン化された場合に生じるアニオンと同じであり得る。従って、酸はイオン性液体のアニオンに結合されたと言うことが可能であり得る。
【0026】
それぞれの酸が揮発性ではない場合、微量の酸がイオン性液体内に残り得ることが可能であり得る。
【0027】
例証的な実施形態によると、当該方法は、前記酸の酸性度定数値よりも高い酸性度定数値を有するさらなる酸を添加するステップをさらに含む。
【0028】
特に、前記さらなる酸の酸性度定数値は、前記酸の酸性度定数値と比較して少なくとも1倍増やすことができ、特に、少なくとも2倍増やすことができる。前記さらなる酸は、揮発性酸であり得るか、及び/又は、例えば、イオン性液体の融点よりも低い沸点等、低い沸点を有する酸であり得る。さらに、又は、あるいは、前記酸又は前記酸の一部は、乾燥剤を使用することによって抽出することができる。
【0029】
脱水したイオン性液体にさらなる酸を添加することによって、微量の触媒酸(catalyst acid)が、その揮発作用及び/又は低い沸点のためより容易に除去可能であり得る前記さらなる酸と交換されることが可能であり得る。しかし、上記のように、前記さらなる酸も、不揮発性であり得る、及び/又は、イオン性液体内に残り得る、及び/又は、蒸発することができない。さらに、前記さらなる酸は、イオン性液体自体、又は、イオン性液体の一部であり得る。さらに、前記さらなる酸は、イオン性液体の反応産物であり得る。例えば、硫酸メチルCH3SO4等の硫酸アルキルのアニオンは、それ自体が酸性であるメタノール及び硫酸水素塩を生成することによって、水又は微量の水と反応する。この例において、第1の酸性の反応産物は、酸性の触媒として作用することができ、その後、オルトエステルとの水の反応によってさらなる加水分解を抑制することができる。
【0030】
当該方法の例証的な実施形態によると、オルトエステルは、オルトギ酸エステル、オルト炭酸エステル、環状オルトエステル、ラクトンアセタール、オルトギ酸トリメチルエステル、オルトギ酸トリエチルエステル、オルト酢酸トリメチルエステル、オルト酢酸トリエチルエステル、オルト炭酸テトラメチルエステル、オルト炭酸テトラエチルエステル、及び、環状オルトエステルから成る群のうちの1つである。
【0031】
要約すると、本発明の例証的な態様に従い、イオン性液体の水質汚染を妨げる方法を提供することができる。当該方法は、イオン性液体内へ阻害添加剤を添加するステップを含み得る。阻害添加剤は、イオン性液体の使用中、イオン性液体内に残ることができ、イオン性液体内への水投入を吸収するか又はイオン性液体内への水投入と反応することができる。特に、オルトエステルは、添加剤の一部を形成することができ、イオン性液体を脱水するために初期に使用することもできる。オルトエステルは、約数容量パーセントの割合まで、又は、イオン性液体が蒸気圧を実質的には示さないため反応産物は蒸留によって容易に除去することができないけれどもイオン性液体自体と反応することができる金属ナトリウム、酸化カルシウム、若しくは、五酸化燐のような一般的な脱水剤を使用することによって可能ではあり得ない約100ppmまでも、水質汚染を減らす及び/又は維持することが可能であり得るため、イオン性液体に対して適した添加剤及び/又は脱水剤であり得る。同じ理由により、硫酸ナトリウム、過塩素酸マグネシウム、硫酸カルシウムは、適切であり得ない。オルトエステルは、微量の水を除去するのに一般的には効果的ではないモレキュラーシーブ、ゼオライト、又は、酸化アルミニウムよりも適切でもあり得る。特に、モレキュラーシーブは、一部の水を除去する代わりに放出し得るか、又は、鉄若しくは塩化物のような他の汚染物質を放出し得る。その他に、これらの上記の従来の乾燥剤は固体であり、一方、オルトエステルは液体であり、ほとんどの場合、イオン性液体と混和でき、同質の相を形成する。
【0032】
阻害剤又は脱水剤としてのオルトエステルの使用は、イオン性液体を加熱すること及び/又は真空状態若しくは低圧にイオン性液体を晒すことよりもイオン性液体に対して有害でない場合があり、イオン性液体を加熱すること及び/又は真空状態若しくは低圧にイオン性液体を晒すことは、不活性ガスを使用した場合でさえも、色の変化又はイオン性液体の分解を生じる可能性があり、例えば、約100ppmという量まで等、微量の水を除去するのに適していない可能性がある。
【0033】
本発明の上記の態様及びさらなる態様が、以下に記述されることになる実施形態の例から明らかであり、これらの実施形態の例を参考にして説明される。1つの例証的な実施形態又は例証的な態様に関して記述される特徴は、他の例証的な実施形態及び他の例証的な態様と組み合わせることができるということに留意するべきである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下において、本発明の例証的な実施形態がより詳細に記述される。
【0035】
イオン性液体を脱水するために、含水イオン性液体に添加剤及び/又は脱水剤を添加することができる。好ましくは、添加剤は、例えば200℃未満、特に150℃未満、より詳しくは100℃未満等、低い沸騰温度を有した液体のオルトエステルを含み得る。一般的に、そのようなオルトエステルは、イオン性液体自体とは反応せず、イオン性液体に溶け得る。しかし、オルトエステルは、同様に液体であり且つ低い沸点を示し得る反応産物に対して、イオン性液体に含まれる水とは容易且つ迅速に反応することができる。さらに、液体のオルトエステル、並びに、例えばエステル及びアルコール等の反応産物は、弱溶媒和化合物を形成することができるため、わずかに加熱する及び/又は圧力を減らすことによって容易に除去することができる。
【0036】
添加剤の脱水能力を改善するために、例えば150℃未満等の低い沸騰温度を有する揮発性酸のような触媒を添加することができる。あり得る酸は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、塩酸、臭化水素酸(bromhydric acid)等であり得る。特に、イオン性液体のアニオンに結合する酸を使用することができ、すなわち、この酸が揮発性であり且つ低い沸騰温度を有する場合に、アニオンは、脱プロトン化された酸に対応する。しかし、それぞれの酸が揮発性ではない場合、イオン性液体の能力をかなり下げることなく、少量の酸がイオン性液体内に残ることができる。あるいは、酸は、例えば乾燥した有機乾燥剤を使用して、抽出できる方法で除去することができる。別の可能性は、イオン性液体内の酸の残基を、揮発性であり且つ低い沸点を有し、前記酸の酸性度定数値よりも高い酸性度定数値を有する別の酸と交換する又は置換することであり得る。特に、さらなる酸の酸性度定数値は、前記酸の酸性度定数値と比較して少なくとも1倍増やすことができ、特に、少なくとも2倍増やすことができる。
【0037】
1−エチル−3−メチルイミダゾリウム−チオシアナート(EMIM−SCN)を脱水するのに適したオルトエステルは、オルトギ酸トリエチルエステルであり得る。例えば、1.8gのオルトギ酸トリエチルエステル(1.1当量)を、触媒酸として使用される数滴のギ酸と共に50gのEMIM−SCNに添加することができる。次に、混合物を、50℃にて1時間撹拌することができる。その後、残りのオルトエステル及び結果として生じる生成物(メタノール及びギ酸メチル)を、約10hPaまで圧力を下げながら70℃で回転式蒸発器を使用して除去することができる。これは、約5540ppmの水の初期量を約35ppmまで減らすことができ、一方、赤外線スペクトル又はHNMRにおいていかなる汚染物質も見ることができない。
【0038】
脱水したイオン性液体の将来の水質汚染を妨げるために、脱水するための添加剤又はオルトエステルを含む別の適した添加剤を、過化学量論量で添加することができる。すなわち、脱水するステップ、及び、阻害剤又は添加剤を添加するステップは、1つのステップ又は同時のステップで行うことができる。しかし、阻害添加剤は、脱水するステップ、及び、脱水処理の生成物の可能な除去が完了した後に、別のステップで添加することができる。特に、阻害添加剤は、脱水するステップにおいて使用される1つとして別のオルトエステルを含み得る。
【0039】
脱水添加剤及び/又は阻害添加剤のオルトエステルは、以下の一般的な式:
【0040】
【化1】

に従いイオン性液体内の水と反応することができ、式中、R、R、R、及び/又はRのうち少なくとも1つは、C1−C10−アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、C6,C10アリール又はヘテロアリール、及び、ハロゲンから成る群のうちの一部分である。特に、Rは、オルトギ酸エステルをもたらす水素であり得るか、又は、Rは、オルト炭酸エステルをもたらすC1−C10アルコキシ若しくはアリールオキシであり得る。あるいは、R、R、R、及び、Rは、例えば、C1−C6−アルキル、アルケニル、アルキニル鎖によって互いに接続させ、環状オルトエステル又はラクトンアセタールをもたらすことができる。一部の実施形態において、Rは、水素、メチル、エチル、メトキシ、及び、エトキシのうちの1つであり得る一方で、R、R、及び、Rは、メチル又はエチルであり得る。一部の特定の例によると、Rは水素であり得る一方で、R、R、及び、Rは、オルトギ酸トリメチルエステルをもたらすメチルであり得る、Rは水素であり得る一方で、R、R、及び、Rは、オルトギ酸トリエチルエステルをもたらすエチルであり得る、R、R、R、及び、Rは、オルト酢酸トリメチルエステルをもたらすメチルであり得る、Rはメチルであり得る一方で、R、R、及び、Rは、オルト酢酸トリエチルエステルをもたらすエチルであり得る、Rはメトキシであり得る一方で、R、R、及び、Rは、オルト炭酸テトラメチルエステルをもたらすメチルであり得るか、又は、Rはエトキシであり得る一方で、R、R、及び、Rは、オルト炭酸テトラエチルエステルをもたらすエチルであり得る。あるいは、前記一部分は、環状オルトエステルをもたらすC1−C10 2−アルコキシ−1,3−ジオキソラン、又は、2−アルコキシ−1,3−ジオキサンであり得る。
【0041】
上記の方法は、効率的且つ攻撃性の低い様式で、イオン性液体を脱水する、及び、将来のイオン性液体の水質汚染を妨げるのに適している場合がある。さらに、例えば100ppm未満又は10ppm未満までの非常に低い水質汚染が、複雑な固体又は液体の反応産物の除去を生じることなく、及び、熱効果による多量の分解を生じることなく、達成可能であり得る。オルトエステルと含まれた水との反応は、一般的に、100度未満、特に70℃未満、より詳しくは50℃未満又は30℃未満の温度にて、数時間、特に1時間未満、より詳しくは15分未満の間実行される。イオン性液体の使用又は作動中、オルトエステル又は少なくとも微量のオルトエステルがイオン性液体内に残る、すなわち、一種の添加剤を形成する場合、典型的な反応温度は、イオン性液体の作業温度の範囲内であり得る。例えば室温(25℃)以下等、この作業温度が低い場合、反応速度は減らすことができる。しかし、オルトエステルは、例えば、準無限の反応期間等、イオン性液体内に残るため、低い反応速度が十分であり得る。過度のオルトエステル及び/又は反応産物の除去は、70℃未満、特に50℃未満の温度までイオン性液体を加熱することによって、及び、利用可能であれば、1mbar又はhPa未満、特に20mbar又は20hPa未満の真空状態を使用して、1時間未満、特に15分未満、より詳しくは1分未満の期間の間行うことができる。例えば、回転式蒸発器、流下膜式蒸発器、薄膜蒸発器、又は、短経路蒸発器を使用することができる。
【0042】
最後に、上記の実施形態は本発明を限定しているのではなく例証しており、当業者は付随の特許請求の範囲によって定められた本発明の範囲から逸脱することなく別の実施形態を多数設計することができるということに注目されたい。特許請求の範囲において、括弧内に置かれたいかなる参照番号も特許請求の範囲を限定するとして解釈するべきではない。「含む」という動詞及びその変化形の使用は、いかなる請求項又は明細書に述べられたもの以外の要素又はステップの存在も除外しない。要素の前の不定冠詞は、複数のそのような要素の存在を除外しない。いくつかの手段を列挙する装置の請求項において、これらの手段のうちいくつかを、ソフトウェア又はハードウェアの1つの同じ項目によって具体化することができる。特定の手段が互いに異なる従属項において列挙されるという単なる事実は、これらの手段の組合せを使用して利することができないと示しているのではない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性液体における水投入を妨げる方法であって:
オルトエステルを含む添加剤を前記イオン性液体に添加するステップ;
を含む方法。
【請求項2】
前記イオン性液体を生成するために、含水イオン性液体を脱水するステップ;
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脱水するステップが、過化学量論量での前記含水イオン性液体内への前記添加剤の添加によって行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記オルトエステルが、所定の閾値未満である沸騰温度を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記オルトエステルが、所定の閾値を超える沸騰温度を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記含水イオン性液体を脱水する場合に形成されるアルコール及び/又はエステルを除去するステップ;
をさらに含む、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
触媒を添加するステップ;
をさらに含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒が酸である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記イオン性液体がアニオンを含み、
該アニオンが、脱プロトン化された酸に対応する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記酸の酸性度定数値よりも高い酸性度定数値を有するさらなる酸を添加するステップ;
をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記オルトエステルが、
オルトギ酸エステル、
オルト炭酸エステル、
環状オルトエステル、
ラクトンアセタール、
オルトギ酸トリメチルエステル、
オルトギ酸トリエチルエステル、
オルト酢酸トリメチルエステル、
オルト酢酸トリエチルエステル、
オルト炭酸テトラメチルエステル、
オルト炭酸テトラエチルエステル、及び、
環状オルトエステル
から成る群のうちの1つである、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法。


【公表番号】特表2012−524759(P2012−524759A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506523(P2012−506523)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055448
【国際公開番号】WO2010/122150
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(511160066)ヴイティーユー ホールディング ゲーエムベーハー (3)
【氏名又は名称原語表記】VTU HOLDING GMBH
【住所又は居所原語表記】Parkring 18,A−8074 Grambach,Austria
【Fターム(参考)】