説明

イオン性液体中に電気エネルギーを蓄える方法

本発明は、少なくとも1種のイオン性液体を含む電解質を有するレドックスフロー電池に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種のイオン性液体を含む電解質を含むレドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーは、種々のプロセスにより蓄えることができる。1つの選択肢は、電流による電極表面における化学的反応による電気エネルギーの化学的エネルギーへの変換である。エネルギーを蓄えるこの方法は、二次電池(畜電池)において大規模に工業的に利用される。
【0003】
二次電池は、さらにイオン電導性セパレーターにより分離された2つの半電池からなる電気化学的電池である。セパレーターは、電荷バランスを保証するが、半電池間の物質移動を防止する。蓄電動作中に、負の半電池において活性物質の還元が起こり、正の半電池において酸化が起こる。したがって、電子は、蓄電動作中に正の半電池から負の半電池に、放電動作中には逆の方向に流れる。
【0004】
電荷のバランスをとり、イオンの移動を可能にするために、電解質と称される液体物質又は物質混合物が、両方の半電池でイオンの導体として必要になる。電極は、電導体とイオン導体との間の相境界である。活性材料は、電極それ自体、電解質中に溶解した物質、又は電極材料中にインターカレートされた物質であってよい。
【0005】
負の電解質(陽極液)及び正の電解質(陰極液)の活性材料が電解質中に溶解した物質からなれば、電解質は貯蔵容器から電極を通り過ぎて輸送され得るので、このタイプの電池においては、エネルギーと電力の量とが互いに独立に計られ得る場合が生じる。このタイプの電気化学的エネルギーの貯蔵所は、レドックスフロー電池と呼ばれる。
【0006】
一般的化学的反応は以下の通りである:
【化1】


レドックスフロー電池の電解質は、典型的には、水に溶解した鉱酸又は有機酸からなる。電解質の構成要素として水を使用した結果として、グラファイト電極で、標準水素電極に対しておよそ−0.5Vから1.2Vの電位窓が可能である。電位窓と呼ばれるこれらの限界を超えると、水の分解、それ故、水系電解質の破壊、ガスの発生及び効率の低下が始まる。したがって、グラファイト電極を用いる水系レドックスフロー電池の全電圧は、最大1.7Vに限定される。
【0007】
しかし、1.7Vより高い電圧が確立されているレドックス対の組合せが存在する。レドックス対のこれらの組合せを電気化学的エネルギー貯蔵所として使用するのを可能にするために、有機酸で可能な非水系電解質を使用すること、又はより高い電位窓を有する新電極材料を見出すことが必要である。P=UIであるから、電圧における増加は上昇する電力密度を伴い、また、W=Utであるから、エネルギー密度における上昇が可能である。
【0008】
レドックスフロー電池のエネルギー密度は、レドックス対の溶解度に依存する。最大エネルギー密度に対して、レドックス対は電解質中における溶解度の限界にある。レドックスフロー電池の1つのタイプはバナジウムレドックスフロー電池である。そのようなバナジウムレドックスフロー電池の反応方程式は以下の通りである:
【化2】


この電気化学的エネルギー貯蔵においては、バナジウムは、正の電解質(陰極液)と負の電解質(陽極液)とで異なった酸化状態で使用される。溶媒として硫酸水溶液を使用する場合に、バナジウムの濃度は、およそ1.6mol/lに限定される。このことに対する理由は、硫酸水溶液中におけるジバナジルカチオン(VO)の限定された溶解度にある。40℃を超える温度では、方程式にしたがって、時間及びバナジル/ジバナジルカチオンの比(VO2+/VO)の関数として、陰極液中に溶解したジバナジルカチオン(VO)から固体五酸化バナジウム(V)が形成されて、化学的反応のために最早利用できず、したがって、電力及び貯蔵容量を低下させ、正の半電池中のグラファイトフェルトの濾過効果の結果として、陰極液における圧力上昇を惹起する。
【化3】

【0009】
ジバナジルカチオン(VO)は、バナジウムレドックスフロー電池中で充電動作中に以下の反応方程式にしたがって形成される:
【化4】


水系において、そのダイヤモンド、グラファイト及びガラス状炭素の多形にある炭素は、大きい電気化学的電位窓を有する。同程度の電位窓を有する電極材料は、如何なる不動態化する層又は副反応の状態にもなってはならない。この理由のために、レドックスフロー電池においては、水の分解を防止するために、グラファイト電極を使用することが通例である。他方、有機酸、例えばメタンスルホン酸は、1.7Vの限界を超えるレドックス対の組合せを使用することができるように、電解質構成要素として使用される。
【0010】
標準水素電極に対する電気化学的電位窓、即ち酸素及び水素の形成、即ち水の分解(電気分解)の間の電圧範囲は、電極の材料に依存する。金属電極は、通常、グラファイトで構成される炭素系電極よりはるかに低い電位窓を有するか、又は不動態化する、即ち性能を低下させる層を形成する。しかし、上ですでに説明したように、レドックス対を使用するためには最大幅の電気化学的電位窓が必要とされるので、炭素がそのダイヤモンド、グラファイト及びガラス状炭素の多形で使用される。純粋なグラファイト電極は、金属に比較して、はるかに低い安定性及び電気伝導度を有する。安定性を増すために、グラファイト/ポリマー混合物で構成される複合体材料が使用される。しかし、ポリマーの使用は、それがまた電気伝導度における減少を、そのため抵抗損失の結果として性能低下をもたらす。
【0011】
一般的に、レドックスフロー電池のエネルギー密度は、電解質中におけるレドックス対の溶解度に直接依存する。溶解度を増大させるために、酸又は塩基が電解質の構成要素として比較的高濃度で使用されるか、又は安定剤が添加される。
【0012】
上ですでに論じたように、五酸化バナジウムの沈殿が、バナジウムレドックスフロー電池において問題である。五酸化バナジウムのそのような沈殿を防止するために、先行技術において、4つの対策が特に使用される。
【0013】
1.電池系の作動温度が、0℃<T<40℃の間に固定される。T<0℃で、水性電解質は、固体状態に変換され始め、温度が低下するにつれて、電解質の粘度は作動範囲から増大する。電解質の凍結は電池の破壊の原因となる。40℃を超える温度で、固体五酸化バナジウムの不可逆的沈殿が生じる。この作動範囲内の温度の制限は、温度の監視及び系の温度の調節を意味する。第一に、電解質が凍結せず、したがって系が破壊されないことが、例えば加熱により確実にされなければならず、第二に、反応区域における温度が40℃を超えて上昇してはならない。冷却によりこれを確実にすることが必要になることがある。
【0014】
2.固体五酸化バナジウムの沈殿は、バナジル/ジバナジルカチオンの比に依存する。0℃<T<40℃の温度限界内においてさえ、充電動作を増大させるジバナジルカチオンの濃度が高いほど、固体五酸化バナジウムの沈殿する確率は高い。この理由により、充電動作における>1.6mol/lのバナジウム濃度では、80%の充電状態に相等するバナジルカチオンのおよそ80%までがジバナジルカチオンに変換されるのみである。
【0015】
3.バナジウム電解質の標準的濃度が3M硫酸(HSO)中において1.6mol/lである。これはより高い硫酸濃度で上昇した粘度(ポンプのための上昇したエネルギー消費、及びそれ故の効率低下)とエネルギー密度との間の妥協となる。温度限界内において、五酸化バナジウムの沈殿はおよそ0.05mol/lのリン酸により防止される。
【0016】
4.電解質中における硫酸濃度の増大は、バナジル/ジバナジルカチオンの僅かにより高い溶解度を可能にする。この場合、限界は4〜5M硫酸中でおよそ2Mバナジウムである。
【0017】
上で概略を述べた対策は、それ故、バナジウムレドックスフロー電池の動作における悪化に通じる。
【0018】
この関係において、ファントホッフ則(RGT則)にしたがって、温度における10Kの上昇は化学反応の反応速度が約2倍増大することを引き起こすことも注意すべきである。反応速度の増大は電力密度における増大を伴う。レドックスフロー電池は、可能な限り、室温を超える温度で作動する。バナジウムレドックスフロー電池は、五酸化バナジウムの沈殿により40℃以下の温度に制限される。
【0019】
急速に上昇する電解質の分圧は、系全体で圧力の高まりが起こる原因となり、それは洩れをもたらす可能性があり、電解質が反応に最早関与できなくなるので、一般に、作動温度は電解質の沸騰温度よりかなり下に限定される。それ故、現行の通例のレドックスフロー電池は、非常に限定された温度範囲でのみ動作することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記の不利点がほとんど実質的に回避され、動作パラメーター、例えば動作温度の選択又は電極材料の選択における改善された可変性が可能になるレドックスフロー電池を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的は、本発明にしたがって、少なくとも1種のイオン性液体を含む電解質を含むレドックスフロー電池の提供により達成される。
【0022】
本発明の文脈において、用語「レドックスフロー電池」はその通常の意味で使用される。レドックスフロー電池の基本的構造は当業者に公知である。
【発明の効果】
【0023】
レドックスフロー電池は、化合物に電気エネルギーを蓄え、それ故、畜電池に関係する。従来の畜電池と対照的に、2種のエネルギー貯蔵電解質が、電池中で膜又はセパレーターにより電荷の交換が可能な2つの別々の回路で循環する。電解質は、電池の外側で別々の容器又は槽中に貯蔵され、その結果として、蓄えられるエネルギーは電池のサイズに最早依存せず、それ故、エネルギー及び電力は分離して計ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】レドックスフロー電池の基本構造を示す図である。
【図2】電圧プロファイルを示す図である。
【図3】容量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
それ故、従来のレドックスフロー電池と同じく、本発明のレドックスフロー電池は、正の半電池、負の半電池、2つの半電池を分離するセパレーター、2つの電極、及び電池の外側にある2つの電解質容器を有する。
【0026】
上ですでに論じたように、セパレーターは、電荷バランスを保証するが、半電池間の物質移動を防止する。蓄電動作中に、負の半電池で活性物質の還元が、正の半電池で酸化が起こる。したがって、蓄電動作中に、電子は、正の半電池から負の半電池に、放電動作中には逆の向きに流れる。
【0027】
図1は、例により、(a)イオン電導性セパレーター、(b)電極、(c)電解質容器、(d)電解質ポンプ、(e)電源/シンク(sink)及び(f)正の及び負の半電池を備えたレドックスフロー電池の基本的構造を示す。
【0028】
本発明の文脈において、用語「イオン性液体」は、その通常の意味で使用され、即ちイオン性液体は、有機又は無機アニオンと嵩高い有機カチオンとで構成される有機イオン性化合物を意味すると理解される。イオン性液体が100℃より下で溶融形態にあれば、RTIL(室温イオン性液体)として言及される。
【0029】
イオン性液体の典型的な性質は、
−高い化学的安定性、
−広い電位窓(高い電気化学的安定性)、
−高いイオン伝導度、
−低い蒸気圧力、
−非燃焼性、
−高い熱安定性
である。
【0030】
有機置換基における変化の広い範囲及びアニオンとカチオンとの可能な組合せの数が多いことは、イオン性液体の物理化学的性質が広い範囲で影響されること、又は制御された様式で用途に合致することを可能にする。
【0031】
レドックスフロー電池の両方の(即ち、正の及び負の)半電池がイオン性液体を含むことが好ましく、且つイオン性液体は同じであっても異なっていてもよい。
【0032】
好ましい実施形態において、電解質は、0.05重量%未満の水、より好ましくは0.02重量%未満、さらにより好ましくは0.01重量%未満の水しか含まない。
【0033】
電解質は好ましくは無水である。
【0034】
無水電解質を使用する結果として、水系レドックスフロー電池の場合より大きい電気化学的電位窓が達成可能である。電圧が上がるとともに、系の電力及びエネルギー密度は増大する。
【0035】
電解質中におけるイオン性液体の含有率は、広い範囲にわたって変えることができ、好ましくは0.1から100重量%の範囲内である。本発明のレドックスフロー電池の電解質は、好ましくは少なくとも80重量%の程度まで、より好ましくは少なくとも90重量%の程度まで及びより好ましくは100重量%の程度までイオン性液体(単数又は複数)を含む。
【0036】
イオン性液体(単数又は複数)のアニオンは、好ましくは、ハライド、ホスフェート、例えばヘキサフルオロホスフェート、アルセネート、アンチモネート、ナイトライト、ナイトレート、サルフェート、例えばアルキルサルフェート、水素サルフェート、カルボネート、水素カルボネート、ホスフェート、ホスフィネート、ボレート、例えばテトラフルオロボレート、スルホネート、例えばトシレート又はメタンスルホネート、カルボキシレート、例えばホルメート、イミド、例えばビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、メチド及びそれらの混合物から選択される。
【0037】
好ましいアニオンの例として、フルオライド、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、ヘキサフルオロアンチモネート、トリフルオロアルセネート、ナイトライト、ナイトレート、サルフェート、水素サルフェート、カルボネート、水素カルボネート、ホスフェート、水素ホスフェート、二水素ホスフェート、ビニルホスフェート、ジシアナミド、ビス(ペンタフルオロエチル)ホスフィネート、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、トリス(ヘプタフルオロプロピル)トリフルオロホスフェート、ビス[オキサラト(2−)]ボレート、ビス[サリチラト(2−)]ボレート、ビス[1,2−ベンゼンジオラト(2−)−O,O’]ボレート、テトラシアノボレート、
【0038】
一般式[BRのテトラ置換ボレート(式中、RからRまでは各々独立に、フッ素若しくは炭素を含有する有機飽和若しくは不飽和の、1から30個の炭素原子を有する非環状若しくは環状、脂肪族、芳香族若しくは芳香脂肪族ラジカルであり、1個若しくは複数のヘテロ原子を含んでもよく、及び/又は1個若しくは複数の官能基若しくはハロゲンにより置換されていてもよい)、
【0039】
一般式[R−SOの有機スルホネート(式中、Rは、炭素を含有する有機飽和若しくは不飽和の、1から30個の炭素原子を有する非環状若しくは環状、脂肪族、芳香族若しくは芳香脂肪族ラジカルであり、1個若しくは複数のヘテロ原子を含んでもよく及び/又は1個若しくは複数の官能基若しくはハロゲンにより置換されていてもよい)、
【0040】
一般式[R−COO]のカルボキシレート、(式中、Rは、水素若しくは炭素を含有する有機飽和若しくは不飽和の、1から30個の炭素原子を有する非環状若しくは環状、脂肪族、芳香族若しくは芳香脂肪族ラジカルであり、1個若しくは複数のヘテロ原子を含んでもよく、及び/又は1個若しくは複数の官能基若しくはハロゲンにより置換されていてもよい)、
【0041】
(フルオロアルキル)フルオロホスフェート、
【0042】
一般式[R−SO−N−SO−R、[R−SO−N−CO−R又は[R−CO−N−CO−Rのイミド(式中、RからRは、各々独立に水素若しくは炭素を含有する有機飽和若しくは不飽和の、1から30個の炭素原子を有する非環状若しくは環状、脂肪族、芳香族若しくは芳香脂肪族ラジカルであり、1個若しくは複数のヘテロ原子を含んでもよく、及び/又は1個若しくは複数の官能基若しくはハロゲンにより置換されていてもよい);
【0043】
一般式
【化5】


のメチド(式中、RからRは、各々独立に水素又は炭素を含有する有機飽和若しくは不飽和の、1から30個の炭素原子を有する非環状若しくは環状、脂肪族、芳香族若しくは芳香脂肪族ラジカルであり、1個若しくは複数のヘテロ原子を含んでもよく、及び/又は1個若しくは複数の官能基若しくはハロゲンにより置換されていてもよい);
【0044】
一般式[RO−SOの有機サルフェート(式中、Rは、炭素を含有する有機飽和若しくは不飽和の、1から30個の炭素原子を有する非環状若しくは環状、脂肪族、芳香族若しくは芳香脂肪族ラジカルであり、1個若しくは複数のヘテロ原子を含んでもよく、及び/又は1個若しくは複数の官能基若しくはハロゲンにより置換されていてもよい)
が挙げられる。
【0045】
イオン性液体(単数又は複数)のカチオンは、好ましくはイミダゾリウム、ピリジニウム、ピラゾリウム、キノリニウム、チアゾリウム、トリアジニウム、ピロリジニウム、ホスホニウム、アンモニウム、スルホニウム及びそれらの混合物から選択される。
【0046】
イオン性液体の好ましいカチオンの例として:
【0047】
一般式[NRの第四級アンモニウムカチオン(式中、R、R、R、Rは同じであっても異なっていてもよく、各々C1〜12−アルキル若しくはフェニル−C1〜4−アルキルであり、並びに/又はR1及びR2は一緒に置換若しくは非置換C4〜5−アルケニレンラジカルである);
【0048】
一般式[PRの第四級ホスホニウムカチオン(式中、R、R、R、Rは、同じであっても異なっていてもよく、各々C1〜12−アルキル若しくはフェニル−C1〜4−アルキルであり、並びに/又はR1及びR2は一緒に置換若しくは非置換C4〜5−アルケニレンラジカルである);
【0049】
一般式
【化6】


のイミダゾリウムカチオン
一般式
【化7】


のピリジニウムカチオン
一般式
【化8】


のピラゾリウムカチオン
一般式
【化9】


のキノリニウムカチオン
一般式
【化10】


のチアゾリウムカチオン
一般式
【化11】


のトリアジニウムカチオン
(式中、n、R及びRは、各々以下の通りに定義される:
nは0、1、2、3又は4であり;
Rは、水素、C1〜12−アルキル又はフェニル−C1〜4−アルキルであり;
は、C1〜6−アルキル、ハロゲン、アミノ、シアノ、C1〜4−アルコキシ、カルボキシレート又はスルホネートである)
が挙げられる。
【0050】
イオン性液体は、レドックス対を溶解してそれらをレドックスフロー電池における電解質として使用する可能性を提供する。
【0051】
正の半電池のためのレドックス対は、好ましくはV4+/V5+、F/F、O/O2−、O/O、Ag2+/Ag、Co3+/Co2+、NO/N、Ce4+/Ce3+、Au/Au、Mn7+/Mn4+、Ni4+/Ni2+、Mn3+/Mn2+、Pb4+/Pb2+、Au3+/Au、Cl/Cl、Tl3+/Tl2+、Mn4+/Mn2+、Cu2+/Cu、Pu5+/Pu4+、Br/Br、I5+/I、Fe3+/Fe2+、Pu4+/Pu3+、Hg2+/Hg2+、Hg2+/Hg、U5+/U4+、Ag2+/Ag、V4+/V3+、Ru3+/Ru2+、Sn4+/Sn2+、Cl/Cl、I/Iから選択される。
【0052】
負の半電池のためのレドックス対は、好ましくはV3+/V2+、Np4+/Np3+、Sn4+/Sn2+、Sr2+/Sr、Ba2+/Ba、Ce3+/Ce、Zn2+/Zn、As5+/As3+、U4+/U3+、Sb5+/Sb3+、S4+/S2+、Ti4+/Ti2+、In3+/In2+、Ni4+/Ni2+、S/S2−、Cr3+/Cr2+、In2+/In、Ti3+/Ti2+、Eu3+/Eu2+、Pb2+/Pb、Tl/Tl、Ti4+/Ti3+、Na/Na、Li/Li、K/K、Mg/Mg、Mg2+/Mg、Ca/Ca、Ca2+/Ca、Sr/Sr、Be2+/Beから選択される。
【0053】
好ましい実施形態において、レドックスフロー電池は、バナジウムレドックスフロー電池であり、それは、正の半電池のために使用されるレドックス対がV4+/V5+であり、負の半電池のために使用されるレドックス対がV3+/V2+であることを意味する。
【0054】
さらに好ましい実施形態において、以下のレドックスフロー電池を例のために挙げることができる:
【0055】
−鉄−クロムレドックスフロー電池
正の半電池:Fe2+/Fe3+
負の半電池:Cr2+/Cr3+
【0056】
−セリウム−バナジウムレドックスフロー電池
正の半電池:Ce3+/Ce4+
負の半電池:V2+/V3+
【0057】
−鉄−チタンレドックスフロー電池
正の半電池:Fe2+/Fe3+
負の半電池:Ti3+/Ti4+
【0058】
−ポリスルフィド−ブロミドレドックスフロー電池
正の半電池:Br/Br
負の半電池:S2−/S2−
【0059】
−バナジウム−ブロミドレドックスフロー電池
正の半電池:Br/Br
負の半電池:V2+/V3+
【0060】
−亜鉛−臭素レドックスフロー電池
正の半電池:Zn/Zn2+
負の半電池:Br/Br
【0061】
好ましい実施形態において、バナジウムレドックスフロー電池は、−30℃から400℃の範囲内、より好ましくは−20℃から200℃の範囲内に動作温度を有する。好ましい実施形態において、バナジウムレドックスフロー電池の動作温度は、40℃を超え、さらにより好ましくは50℃を超える。
【0062】
好ましくは、バナジウムレドックスフロー電池における電解質中のバナジウムイオンの濃度は、0.1mol/lから10mol/lの範囲内、さらにより好ましくは0.1mol/lから5mol/lの範囲内である。好ましい実施形態において、電解質中のバナジウムイオンの濃度は、2mol/lを超え、さらにより好ましくは3mol/lを超える。
【0063】
上ですでに論じたように、固体五酸化バナジウムは、従来のバナジウムレドックスフロー電池においては、40℃を超える温度及び1.6mol/lを超えるバナジウム濃度で形成される。イオン性液体、好ましくは、無水イオン性液体を使用する結果として、固体五酸化バナジウムの形成は起こらない。したがって、電解質中におけるバナジウムのより高い濃度を達成することが可能である。これはバナジウムレドックスフロー電池において、より高いエネルギー密度をもたらす。それに加えて、電池の作動範囲を40℃を超えて拡張することができ、それはより高い電力密度をもたらす。
【0064】
イオン性液体は、水並びに水に溶解した酸及び塩基と異なる融点及び沸点を有する。これは水性電解質では得ることができない異なった作動範囲を生じる。例えば、より高い電力密度と合わせて、水の沸点(100℃)をかなり超える動作温度を達成することが可能である。如何なる冷却及び監視装置もなしで済ますことができる。同様に、イオン性液体を用いて水の凝固点(0℃)より低い動作温度を達成することが可能である。これは系に如何なる加熱もなしで済ますことを許容する。
【0065】
好ましい実施形態において、レドックス対は、レドックスフロー電池の少なくとも1つの半電池中で、好ましくは両方の半電池中で、イオン性液体により形成される。
【0066】
イオン性液体は、それら自体でレドックス対を形成することができる。結果として、物質をレドックス対として液体中におけるそれらの溶解度の限界まで溶解することは最早必要でなく、それどころか溶媒それ自体を電解質及びレドックス対として使用することが可能である。
【0067】
このことは、系のエネルギー密度がレドックス対の電解質中における溶解度及び電圧に最早依存せず、むしろイオン性液体の分子質量及び確立された電圧に依存するという利点を提供する。したがって、水性電解質を用いる現行の系よりはるかに高いエネルギー密度を達成することが可能である。
【0068】
好ましい実施形態において、本発明のレドックスフロー電池は金属電極を有する。金属は、好ましくは、鉄、鉄合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、亜鉛、亜鉛合金、銀、銀合金、アルミニウム、アルミニウム合金から選択される。
【0069】
含水率の非常に低いイオン性液体又は無水イオン性液体の使用は、水の分解が完全に又は少なくとも実質的に回避されることを可能にする。電位窓はイオン性液体の分解の範囲内である。したがって、水性電解質とは対照的に、金属電極を使用することが可能である。
【0070】
代替として、電極は、さらに好ましい実施形態において、ダイヤモンド又はインジウム酸化スズ(ITO)からなる。これらの電極材料は多数の物質に対して化学的に不活性であり、且つ機械的に安定である。
【0071】
電極は、公知のコーティングプロセス(例えば、CVD、PVD)により適当な基材に適用されるか又は別に製造されて基材と共に圧縮されるかのいずれかである。後者の変形は、所望の基材に対して利用できるコーティングプロセスがないときに使用される。
【0072】
所望の電気伝導度を確立するために、ダイヤモンド電極は、好ましくはホウ素、窒素及び/又はリンでドープされる。ドーパントの選択及びドーピングの程度を、電気伝導度を調節するために使用することができる。
【0073】
好ましい実施形態において、本発明のレドックスフロー電池の電解質には、安定剤及び/又は酸若しくは塩基の如何なる添加もない。
【0074】
イオン性液体中のレドックス対は、水系におけるこれらと異なる溶解度を有する。それに加えて、イオン性液体の溶解度は、相互にも非常に大きく異なる。レドックス対は、水系において可能であるよりも高い溶解度をイオン性液体中有し得る。安定剤又は酸若しくは塩基の添加は、なしで済ますことができる。
【0075】
2つの半電池の間のセパレーターは、好ましくは、NAFION;Fumasep FAP、FAD、FAB、FKE、FKS、FKB、FTCM−A、FTCM−E、FKL、FAA、FTAM−E、FTAM−A、FAS、FBM;微孔性セパレーターから選択される。
【0076】
さらなる態様において、本発明は、レドックスフロー電池中にイオン性液体を含む電解質の使用に関する。
【0077】
イオン性液体、電解質及びレドックスフロー電池の好ましい性質に関して、上の記述を参照することができる。
【0078】
以下に記載した例は、本発明を詳細に例示する。
【実施例】
【0079】
以下に記載した例においては、イオン性液体、及びレドックスフロー電池中の無機塩のための溶媒として2−ヒドロキシエチル−アンモニウムホルメートを使用した。
【0080】
各場合に、0.5molの塩化バナジウム(III)(VCl)を2×50mlの2−ヒドロキシエチルアンモニウムホルメート中に溶解した。2つの溶液中で、3価バナジウムは、フロー電池により炭素電極で電気的にV2+に還元又はV4+に酸化された。50mlの2−ヒドロキシエチルアンモニウムホルメート中の0.5molのVClのさらなる溶液が、電気的に調製されたV4+溶液と共に、エネルギー貯蔵及びエネルギー引き出し(withdrawal)実験のための出発電解質として使用された。
【0081】
3+溶液が陽極液として使用され、ポンプにより電気化学的フロー電池の負の半電池中に導入された。陰極液としてはV4+溶液が使用され、フロー電池の正の半電池中に導入された。溶液は、循環における電池を通るさらなるポンプ輸送には少しもかけなかった。電池試験系により、0.5V〜1.65Vの限界内で最大電流密度の5mA/cmで、電池を静的に充電及び放電した。約9000サイクルを完了した。図2に、充電及び放電の最初の10サイクルの電圧プロファイルがプロットされている。
【0082】
図3は、最初の放電容量に対する、充電及び放電の最初の5000サイクルの放電容量のプロファイルを示す。
【0083】
図2は、2−ヒドロキシエチルアンモニウムホルメートを溶媒として用いる定常状態のバナジウムレドックスフロー電池の最初の10サイクルの充電及び放電曲線を示す。電池は、0.25Aの定電流で1.65Vの電圧まで充電した。これに続いて、0.15Aの電流まで1.65Vの電圧での定電圧充電に切り替えた。これに直ちに放電動作が続いた。0.25Aの電流で、電池は、電圧が0.5Vに下がるまで定電流で放電された。これに続いて0.5Vの電圧で、より低い電流限界の0.15Aに達するまで定電圧放電を行った。放電動作に、60秒間負荷なしの終端電圧の測定を含むステップが続いた。このステップにおいて、電池の電圧は、およそ0.7Vに上昇する。これらの充電/放電サイクルを図3に示したように5000回実施した。図3は、電流、電圧及び時間の測定から、最初の放電容量に基づいて計算した容量を示す。最初の放電動作の放電容量をアンペア時間(Ah)で1に設定し、それに続くサイクルの放電容量は最初の値に基づいた。最初の1000サイクルの間、容量における急激な低下が明かであるが、これはそれに続いて回復し、一時的に出発値を超える。5000サイクル後でさえ、出発容量のおよそ20%の容量がなお測定可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のイオン性液体を含む電解質を含むレドックスフロー電池。
【請求項2】
レドックスフロー電池の両方の半電池がイオン性液体を含み、イオン性液体は同じであっても異なっていてもよい、請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項3】
電解質が、0.02重量%未満の水しか含まず、好ましくは無水である、請求項1又は2に記載のレドックスフロー電池。
【請求項4】
電解質が、少なくとも0.1重量%の程度までイオン性液体(単数又は複数)を含む、請求項1から3までのいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項5】
イオン性液体(単数又は複数)のアニオンが、ハライド、ホスフェート、アルセネート、アンチモネート、ナイトライト、ナイトレート、サルフェート、水素サルフェート、カルボネート、水素カルボネート、ホスフェート、ホスフィネート、ボレート、スルホネート、カルボキシレート、イミド、メチド及びそれらの混合物から選択される、請求項1から4までのいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項6】
イオン性液体(単数又は複数)のカチオンが、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピラゾリウム、キノリニウム、チアゾリウム、トリアジニウム、ピロリジニウム、ホスホニウム、アンモニウム、スルホニウム及びそれらの混合物から選択される、請求項1から5までのいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項7】
正の半電池のためのレドックス対が、V4+/V5+、F/F、O/O2−、O/O、Ag2+/Ag、Co3+/Co2+、NO/N、Ce4+/Ce3+、Au/Au、Mn7+/Mn4+、Ni4+/Ni2+、Mn3+/Mn2+、Pb4+/Pb2+、Au3+/Au、Cl/Cl、Tl3+/Tl2+、Mn4+/Mn2+、Cu2+/Cu、Pu5+/Pu4+、Br/Br、I5+/I、Fe3+/Fe2+、Pu4+/Pu3+、Hg2+/Hg2+、Hg2+/Hg、U5+/U4+、Ag2+/Ag、V4+/V3+、Ru3+/Ru2+、Sn4+/Sn2+、Cl/Cl及びI/Iから選択される、請求項1から6までのいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項8】
負の半電池のためのレドックス対が、V3+/V2+、Np4+/Np3+、Sn4+/Sn2+、Sr2+/Sr、Ba2+/Ba、Ce3+/Ce、Zn2+/Zn、As5+/As3+、U4+/U3+、Sb5+/Sb3+、S4+/S2+、Ti4+/Ti2+、In3+/In2+、Ni4+/Ni2+、S/S2−、Cr3+/Cr2+、In2+/In、Ti3+/Ti2+、Eu3+/Eu2+、Pb2+/Pb、Tl/Tl、Ti4+/Ti3+、Na/Na、Li/Li、K/K、Mg/Mg、Mg2+/Mg、Ca/Ca、Ca2+/Ca、Sr/Sr及びBe2+/Beから選択される、請求項1から7までのいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項9】
正の半電池のために使用されるレドックス対がV4+/V5+であり、負の半電池のために使用されるレドックス対がV3+/V2+である、請求項1から8までのいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項10】
動作温度が−30℃から400℃の範囲内である、請求項9に記載のレドックスフロー電池。
【請求項11】
電解質中におけるバナジウムイオンの濃度が、0.1mol/lから10mol/lの範囲内である、請求項9又は10に記載のレドックスフロー電池。
【請求項12】
レドックスフロー電池の少なくとも1つの半電池において、好ましくは両方の半電池において、レドックス対がイオン性液体により形成される、請求項1から6までのいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項13】
電極が、金属電極、ダイヤモンド電極又はインジウム酸化スズ電極から選択される、請求項1から12までのいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項14】
電解質が、安定剤及び/又は酸若しくは塩基の如何なる添加も含まない、請求項1から13までのいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項15】
レドックスフロー電池における、イオン性液体を含む電解質の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−518247(P2012−518247A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549591(P2011−549591)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051872
【国際公開番号】WO2010/094657
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(505250029)フラウンホーファー − ゲゼルシャフト ツル フェーデルング デル アンゲヴァントテン フォルシュング エー.ファォ. (6)
【Fターム(参考)】