説明

イオン注入装置およびビーム軌道補正方法

【課題】イオン源から出射するイオンビームの軌道がイオン源におけるY方向磁界の影響を受けて設計上のビーム軌道からずれたとしても、分析スリットに入射するイオンビームの軌道を設計上のビーム軌道に近づけることができるようにする。
【解決手段】イオン源10aの引出し用電極を第1、第2引出し用電極22a、22bに分けて構成しておき、かつ両電極間に電位差を形成する直流電源52a、52bと、イオンビーム2を撮影してその画像データを出力するカメラ80と、分析スリット40を通過したイオンビーム2のビーム電流I2を測定する後段ビーム測定器70とを設けておき、I2が最大になるように分析電磁石電流I3を調整し、次に、カメラからの画像データに基づいて分析スリットに入射するビーム軌道の設計値からの偏差角度を求め、それが小さくなるように両引出し用電極間の電位差を調整する。調整を繰り返して偏差角度を許容範囲内に入れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イオン源から引き出したリボン状(これはシート状または帯状と呼ばれることもある。以下同様)のイオンビームを分析電磁石および分析スリットを用いて運動量分析(例えば質量分析。以下同様)した後にターゲットに入射させる構成のイオン注入装置、および、分析スリットに入射するイオンビームの偏差角度を小さくするようにイオンビームの軌道を補正するビーム軌道補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のイオン注入装置の従来例を図18に示す。
【0003】
イオンビーム2の設計上の進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、このイオン注入装置は、Y方向の寸法がX方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビーム2を引き出すイオン源10と、このイオン源10からのイオンビーム2を磁界BによってXZ平面内で曲げて運動量分析を行う分析電磁石30と、この分析電磁石30よりも下流側に設けられていて分析電磁石30と協働してイオンビーム2の運動量分析を行う分析スリット40とを備えていて、分析スリット40を通過したイオンビーム2をターゲット6に入射させる構成をしている。なお、この出願においては、イオンビーム2を構成するイオンは正イオンの場合を例に説明している。
【0004】
上記のようなY方向の寸法WY がX方向の寸法WX よりも大きいリボン状のイオンビーム2の一例を図19に示す。但し、この図19、図3、図5および図16以外の図においては、図示を簡素化して見やすくする等のために、XZ平面内におけるイオンビーム2は線で表している。
【0005】
イオン源10は、内部でプラズマ14を生成するプラズマ生成容器12と、このプラズマ生成容器12内のプラズマ14から電界の作用でイオンビーム2を引き出す引出し電極系20と、プラズマ生成容器12内にY方向に沿う磁界18を印加する磁石16とを有している。
【0006】
引出し電極系20は、図18では、図示の簡略化のために1枚の電極で図示しているが、イオンビーム引出し方向に複数の電極を有している場合が多い。各電極は、例えば、Y方向に伸びたスリット状の開口を有している。
【0007】
磁石16は、図18等では図示を簡略化しているが、プラズマ生成容器12をY方向において上下から挟む磁極を有している。磁石16は、例えば電磁石であるが、永久磁石でも良い。磁界18の向きは、図示例では紙面の裏から表向きであるが、図示とは逆向きでも良い。
【0008】
磁界18は、例えば特許文献1にも記載されているように、当該磁界18によってプラズマ生成容器12内の電子を閉じ込めて当該電子がプラズマ生成容器12の壁面に衝突するのを防止して、プラズマ生成容器12内に導入された原料ガスの電離効率を高めてプラズマ密度を高める働きをする。
【0009】
分析電磁石30には、それを励磁する分析電磁石電流I3 が直流の分析電磁石電源32から供給される。磁界Bは、図示例では紙面の裏から表向きである。分析スリット40は、Y方向に伸びるスリット状の開口42を有している。
【0010】
分析スリット40を通過したイオンビーム2は、ホルダ8に保持されたターゲット(例えば半導体基板)6に照射されてイオン注入が行われる。例えば、ホルダ8およびターゲット6を、図示しないターゲット駆動装置によって、図18中に矢印Aで示すように、リボン状のイオンビーム2の主面3(図19参照)に交差する方向に機械的に駆動(走査)することによって、ターゲット6の全面にイオン注入を行うことができる。
【0011】
【特許文献1】特開2008−27845号公報(段落0114−0115、図19)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、イオン源10のY方向に沿う磁界18は、プラズマ生成容器12内におけるプラズマ密度を高めること等に有効であるけれども、この磁界18は通常は引出し電極系20まで及び、この磁界18の影響によって、イオン源10(より具体的にはその引出し電極系20)から引き出されるイオンビーム2が曲げられてイオンビーム2の出射方向が変化するという課題がある。
【0013】
これを図20を参照して説明すると、プラズマ生成容器12から引き出されるイオンビーム2に磁界18が作用すると、イオンビーム2にはローレンツ力Fが働くので、実際のイオンビーム2は、例えば図示例のように、設計上のビーム軌道4からずれた方向に出射することになる。
【0014】
イオン源10の下流側(イオンビーム2の進行方向の下流側。以下同様)に設けられた分析電磁石30、分析スリット40等のビーム光学系要素は、通常、イオン源10から出射するイオンビーム2が設計上のビーム軌道を通るものとして設計製作されているので、大本であるイオン源10から出射するイオンビーム2の方向が上記のようにずれると、イオンビーム2をターゲット6まで効率良く輸送することが困難になり、イオンビーム2の輸送効率が低下する等の不都合が生じる。
【0015】
これに対しては、イオン源10の向きを可変にして上記ビーム軌道のずれを補正するという考えがあるけれども、イオン源10はその大部分が真空雰囲気中に配置されているので、イオン源の可動機構は例えばベローズ等を有していて真空を保持することができるものでなければならず、そのような可動機構は構造が複雑になる。従って、イオン源の向きを可変にするというのは現実的ではない。
【0016】
そこでこの発明は、イオン源の向きを可変にしなくても、イオン源から出射するイオンビームの軌道がイオン源におけるY方向に沿う磁界の影響を受けて設計上のビーム軌道からずれたとしても、分析スリットに入射するイオンビームの軌道を設計上のビーム軌道に近づけることができる方法または装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に係るビーム軌道補正方法の一つは、イオンビームの設計上の進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、Y方向の寸法がX方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームを引き出すイオン源であって、内部でプラズマを生成するプラズマ生成容器と、このプラズマ生成容器内のプラズマから電界の作用でイオンビームを引き出すものであってイオンビーム引出し方向に複数の電極を有している引出し電極系と、前記プラズマ生成容器内にY方向に沿う磁界を印加する磁石とを有しているイオン源と、前記イオン源からのイオンビームを磁界によってXZ平面内で曲げて運動量分析を行う分析電磁石と、前記分析電磁石にそれを励磁する分析電磁石電流を供給する直流の分析電磁石電源と、前記分析電磁石よりも下流側に設けられていて前記分析電磁石と協働してイオンビームの運動量分析を行う分析スリットとを備えていて、前記分析スリットを通過したイオンビームをターゲットに入射させる構成のイオン注入装置において、
前記イオン源の引出し電極系を構成していて前記プラズマ生成容器内のプラズマからイオンビームを引き出すための電極であって、前記プラズマ生成容器の電位に対して絶対値が10kV以上の負の電位にされる電極の内の最プラズマ側の電極である引出し用電極を、イオンビームの経路をX方向において挟む第1引出し用電極と第2引出し用電極とに分けて構成しておき、かつ、前記第1引出し用電極と第2引出し用電極との間に電位差を形成することができる電圧可変の直流電源と、前記分析電磁石と分析スリットとの間においてイオンビームを受けてそのX方向におけるビーム電流密度分布を測定する前段ビーム測定器と、前記分析スリットを通過したイオンビームを受けてそのビーム電流を測定する後段ビーム測定器とを設けておき、前記後段ビーム測定器で測定するビーム電流が最大になるように前記分析電磁石電流を調整する分析電磁石電流調整工程と、前記前段ビーム測定器を用いてイオンビームのX方向における中心位置を測定し、かつ当該中心位置および前記前段ビーム測定器と分析スリット間の距離を用いて、前記分析スリットに入射するイオンビームの実際のビーム軌道の、XZ平面内における設計上のビーム軌道からの偏差角度を求める偏差角度測定工程と、前記偏差角度測定工程で測定した偏差角度が所定の許容範囲以内にあるか否かを判断して、許容範囲以内になければ、前記引出し電極系を出る際に前記第1引出し用電極と第2引出し用電極との間の電位差によってイオンビームが前記偏差角度を小さくする方向に曲げられるように、当該電位差を前記直流電源を用いて調整する電位差調整工程とを、前記偏差角度測定工程で測定した偏差角度が前記許容範囲以内に入るまで1回ずつ以上行うことを特徴としている。
【0018】
上記ビーム軌道補正方法によれば、イオン源の引出し電極系を構成する第1引出し用電極と第2引出し用電極との間の電位差によってイオンビームを電位の低い電極側へ偏向させて、イオン源から出射するイオンビームの方向を変化させることができる。従って、イオン源の向きを可変にしなくて済む。
【0019】
しかも、上記分析電磁石電流調整工程と、偏差角度測定工程と、電位差調整工程とを、偏差角度測定工程で測定した偏差角度が所定の許容範囲以内に入るまで1回ずつ以上行うことによって、イオン源から出射するイオンビームの軌道がイオン源におけるY方向に沿う磁界の影響を受けて設計上のビーム軌道からずれたとしても、分析スリットに入射するイオンビームの軌道を補正して、当該ビーム軌道を設計上のビーム軌道に近づけることができる。
【0020】
上記前段ビーム測定器の代りに、分析スリットからその上流側にかけての領域におけるXZ平面内でのイオンビームを撮影してその画像データを出力するカメラを設けておき、偏差角度測定工程において、当該カメラからの画像データを処理して、分析スリットに入射するイオンビームの実際のビーム軌道の、XZ平面内における設計上のビーム軌道からの偏差角度を求めるようにしても良い。
【0021】
XZ平面内において、前記イオン源から前記分析電磁石内の円弧軌道を経由して前記分析スリットに至るイオンビームの設計上のビーム軌道に対して、それよりも前記円弧の中心寄りを内側、その反対側を外側と呼ぶと、前記第1引出し用電極は内側、第2引出し用電極は外側に位置しており、前記偏差角度が設計上のビーム軌道よりも外側の角度である場合には、前記電位差調整工程において、前記第1引出し用電極よりも第2引出し用電極の電位が高くなるように前記電位差を調整し、前記偏差角度が設計上のビーム軌道よりも内側の角度である場合には、前記電位差調整工程において、前記第2引出し用電極よりも第1引出し用電極の電位が高くなるように前記電位差を調整しても良い。
【0022】
この発明に係るイオン注入装置の一つは、イオンビームの設計上の進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、Y方向の寸法がX方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームを引き出すイオン源であって、内部でプラズマを生成するプラズマ生成容器と、このプラズマ生成容器内のプラズマから電界の作用でイオンビームを引き出すものであってイオンビーム引出し方向に複数の電極を有している引出し電極系と、前記プラズマ生成容器内にY方向に沿う磁界を印加する磁石とを有しているイオン源と、前記イオン源からのイオンビームを磁界によってXZ平面内で曲げて運動量分析を行う分析電磁石と、前記分析電磁石にそれを励磁する分析電磁石電流を供給する直流の分析電磁石電源と、前記分析電磁石よりも下流側に設けられていて前記分析電磁石と協働してイオンビームの運動量分析を行う分析スリットとを備えていて、前記分析スリットを通過したイオンビームをターゲットに入射させる構成のイオン注入装置において、
前記イオン源の引出し電極系を構成していて前記プラズマ生成容器内のプラズマからイオンビームを引き出すための電極であって、前記プラズマ生成容器の電位に対して絶対値が10kV以上の負の電位にされる電極の内の最プラズマ側の電極である引出し用電極を、イオンビームの経路をX方向において挟む第1引出し用電極と第2引出し用電極とに分けて構成しており、更に、前記第1引出し用電極と第2引出し用電極との間に電位差を形成することができる電圧可変の直流電源と、前記分析電磁石と分析スリットとの間においてイオンビームを受けてそのX方向におけるビーム電流密度分布を測定する前段ビーム測定器と、前記分析スリットを通過したイオンビームを受けてそのビーム電流を測定する後段ビーム測定器と、(a)前記後段ビーム測定器で測定するビーム電流が最大になるように、前記分析電磁石電源を制御して前記分析電磁石電流を調整する分析電磁石電流調整制御と、(b)前記前段ビーム測定器からの測定情報を用いてイオンビームのX方向における中心位置を求め、かつ当該中心位置および前記前段ビーム測定器と分析スリット間の距離を用いて、前記分析スリットに入射するイオンビームの実際のビーム軌道の、XZ平面内における設計上のビーム軌道からの偏差角度を求める偏差角度測定制御と、(c)当該偏差角度測定制御で測定した偏差角度が所定の許容範囲以内にあるか否かを判断して、許容範囲以内になければ、前記引出し電極系を出る際に前記第1引出し用電極と第2引出し用電極との間の電位差によってイオンビームが前記偏差角度を小さくする方向に曲げられるように、当該電位差を前記直流電源を制御して調整する電位差調整制御とを、前記偏差角度測定制御で測定した偏差角度が前記許容範囲以内に入るまで1回ずつ以上行う機能を有している制御装置とを備えていることを特徴としている。
【0023】
上記前段ビーム測定器の代りに、分析スリットからその上流側にかけての領域におけるXZ平面内でのイオンビームを撮影してその画像データを出力するカメラを設けておき、偏差角度測定制御において、当該カメラからの画像データを処理して、分析スリットに入射するイオンビームの実際のビーム軌道の、XZ平面内における設計上のビーム軌道からの偏差角度を求めるようにしても良い。
【0024】
XZ平面内において、前記イオン源から前記分析電磁石内の円弧軌道を経由して前記分析スリットに至るイオンビームの設計上のビーム軌道に対して、それよりも前記円弧の中心寄りを内側、その反対側を外側と呼ぶと、前記第1引出し用電極は内側、第2引出し用電極は外側に位置しており、前記制御装置は、前記偏差角度が設計上のビーム軌道よりも外側の角度である場合には、前記電位差調整制御において、前記第1引出し用電極よりも第2引出し用電極の電位が高くなるように前記電位差を調整し、前記偏差角度が設計上のビーム軌道よりも内側の角度である場合には、前記電位差調整制御において、前記第2引出し用電極よりも第1引出し用電極の電位が高くなるように前記電位差を調整するものでも良い。
【発明の効果】
【0025】
請求項1〜6に記載の発明によれば、イオン源の向きを可変にしなくても、イオン源から出射するイオンビームの軌道がイオン源におけるY方向に沿う磁界の影響を受けて設計上のビーム軌道からずれたとしても、分析スリットに入射するイオンビームの軌道を補正して、当該ビーム軌道を設計上のビーム軌道に近づけることができる。
【0026】
その結果、ターゲットへのイオンビームの輸送効率を高めることができる。また、ターゲットに入射するイオンビームの入射角度が設計値からずれるのを抑制することができる。
【0027】
更に、イオン源の引出し電極系を構成する引出し用電極を、イオンビームの経路をX方向において挟む第1引出し用電極と第2引出し用電極とに分けて構成し、これらをビーム軌道の制御に用いるので、引出し電極系とは別のビーム軌道補正用の電極をビームラインに設けずに済む。その結果、ビームラインが長くなるのを防止することができるので、この観点からもイオンビームの輸送効率を高めることができる。
【0028】
更に、請求項2、5に記載の発明によれば次の効果を奏する。即ち、偏差角度の測定にカメラを用いる場合は、カメラは固定しておけば良く、測定の際にカメラをビーム経路上に出し入れする必要はないので、移動機構が不要であり、従って前段ビーム測定器を用いる場合に比べて、構成が簡素になる。しかも、カメラはイオンビームを受ける(即ちカメラにイオンビームを入射させる)必要がないので、イオンビームを受ける前段ビーム測定器を用いる場合と違って、ターゲット表面を汚染する原因になるパーティクル(汚染物質)を発生させる心配がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1は、この発明に係るビーム軌道補正方法を実施するイオン注入装置の一実施形態を示す概略平面図である。図2は、図1中のイオン源およびそれ用の電源のより詳細例を示す図である。図3は、図1および図2中の引出し用電極の概略を、イオンビーム進行方向に見て示す正面図である。図18に示した従来例と同一または相当する部分には同一符号を付し、以下においては当該従来例との相違点を主に説明する。
【0030】
このイオン注入装置は、前述した分析電磁石30、分析電磁石電源32、分析スリット40、ホルダ8等の他に、従来のイオン源10に代るイオン源10aと、このイオン源10a用の直流電源52a、52bと、分析スリット40からその上流側にかけての領域におけるXZ平面内でのイオンビーム2を撮影してその画像データD1 を出力するカメラ80と、分析スリット40を通過したイオンビーム2を受けてそのビーム電流I2 を測定する後段ビーム測定器70と、後述する制御を行う制御装置90とを備えている。
【0031】
イオン源10aは、内部に原料ガス(蒸気の場合を含む)が導入されそれを電離させて内部でプラズマ14を生成するプラズマ生成容器12と、このプラズマ生成容器12内のプラズマ14から電界の作用でイオンビーム2を引き出す引出し電極系20aと、プラズマ生成容器12内にY方向に沿う磁界18を印加する磁石16とを有している。この磁石16については前述したとおりである。
【0032】
引出し電極系20aは、イオンビーム2の引出し方向(即ちZ方向)に複数の電極を有している。具体的にはこの例では、図2に示すように、最プラズマ側(最もプラズマ14に近い側。以下同様)から下流側に向けて配列されていて、それぞれ概ね板状をしているプラズマ電極21、引出し用電極22および接地電極23を有している。プラズマ電極21および接地電極23は、それぞれ1枚の電極であり、例えば、Y方向に伸びていて前述したリボン状のイオンビーム2が通るスリット状の開口をそれぞれ有している。
【0033】
引出し用電極22は、この実施形態では、プラズマ生成容器12内のプラズマ14からイオンビーム2を引き出すための電極であって、プラズマ生成容器12の電位に対して絶対値が10kV以上の負の電位にされる電極の内の最プラズマ側の電極であり、この引出し用電極22を、イオンビーム2の経路をX方向において挟む二つの電極、即ち第1引出し用電極22aと第2引出し用電極22bとに分けて構成している。第1引出し用電極22aおよび第2引出し用電極22bは、それぞれ概ね板状の電極であり、両電極22a、22b間には、例えば図3に示すように、前述したリボン状のイオンビーム2が通る隙間22cが形成されている。
【0034】
なお、図1、図7〜図15においては、図示を簡略化するために、引出し電極系20aを構成する電極は、上記第1引出し用電極22aおよび第2引出し用電極22bのみを図示している。
【0035】
イオン源10a用の電源の例を図2を参照して説明する。
【0036】
この例では、プラズマ生成容器12とプラズマ電極21とは、互いに電気的に接続されていて、互いに同電位である。
【0037】
接地電極23と大地電位部との間には、前者を正極側にして、直流で電圧可変の加速電源54が接続されている。その出力電圧をV4 とする。この電圧V4 によって、イオン源10aから引き出されたイオンビーム2を所望のエネルギーまで加速することができる。従ってこの電圧V4 は、加速電圧とも呼ばれる。上記から分かるように、接地電極23は、この例では接地されている訳ではないが、通常は接地電極と呼ばれている。
【0038】
接地電極23とプラズマ生成容器12(およびプラズマ電極21)との間には、後者を正極側にして、直流で電圧可変の引出し電源53が接続されている。その出力電圧をV3 とする。この電圧V3 は、プラズマ生成容器12内のプラズマ14から電界の作用でイオンビーム2を引き出す働きをし、イオン源10a(具体的にはその引出し電極系20a)から引き出すときのイオンビーム2のエネルギーはこの電圧V3 によって決まる。従ってこの電圧V3 は、引出し電圧とも呼ばれる。この電圧V3 は、通常は10kV程度以上であり、より具体例を挙げると15〜35kV程度である。
【0039】
接地電極23と第1引出し用電極22aおよび第2引出し用電極22bとの間には、後者22a、22bを負極側にして、電圧可変の第1直流電源52aおよび第2直流電源52bがそれぞれ接続されている。各直流電源52a、52bの出力電圧をそれぞれV1 、V2 とする。この直流電源52a、52bによって、接地電極23よりも両電極22a、22bを負電位にして、下流側からの逆流電子を抑制することができる。引出し用電極22は、上記イオンビーム引出し作用に着目して引出し電極と呼ばれる場合もあるし、上記逆流電子抑制作用に着目して抑制電極と呼ばれる場合もある。各電圧V1 、V2 は、例えば、1〜5kV程度である。
【0040】
プラズマ生成容器12およびプラズマ電極21の電位を基準にした電位で言うと、第1引出し用電極22a、第2引出し用電極22bおよび接地電極23の電位P1 、P2 およびP3 は、次式でそれぞれ表すことができる。プラズマ生成容器12内のプラズマ14からイオンビーム2を引き出すためには、電位P1 およびP2 は、共に、絶対値が10kV以上の負の電位にされる。
【0041】
[数1]
1 =−(V3 +V1
2 =−(V3 +V2
3 =−V3
【0042】
両直流電源52a、52bの出力電圧V1 、V2 の値を互いに異ならせることによって、第1引出し用電極22aと第2引出し用電極22bとの間に電位差ΔPを形成することができる。従ってこの実施形態では、両直流電源52a、52bが、電位差ΔPを形成する電圧可変の直流電源を構成している。この電位差ΔPは次式で表すことができる。
【0043】
[数2]
ΔP=P1 −P2
=V2 −V1
【0044】
引出し電極系20aのイオンビーム引出し方向の電極の数は、上記例では三つ(3段)であるが、それに限られるものではない。例えば、二つ(2段)でも良いし、四つ(4段)以上でも良い。いずれにしても、この出願では、プラズマ生成容器12内のプラズマ14からイオンビーム2を引き出すための電極であって、プラズマ生成容器12の電位に対して絶対値が10kV以上の負の電位にされる電極の内の最プラズマ側の電極(図2の例では引出し用電極22)に着目している。プラズマ生成容器12の電位に対して絶対値が10kV以上の負の電位にされる電極に着目するのは、そのような電位の電極は、プラズマ生成容器12内のプラズマ14から電界の作用でイオンビーム2を引き出す作用を十分に奏することができるからである。この電極は、他の名称、例えば前述したように引出し電極、抑制電極等と呼ばれる場合があるけれども、この出願では引出し用電極と呼んでいる。そしてこの引出し用電極を、従来と違って、上記のように第1引出し用電極22aと第2引出し用電極22bとに分けて構成しているのが、本願発明の一つの特徴である。
【0045】
上記最プラズマ側の電極に着目する理由は次のとおりである。例えば図4に示す例のように、プラズマ生成容器12の電位に対して絶対値が10kV以上の負の電位にされる電極が電極24と電極26の二つあり、両電極24、26を、それぞれ、イオンビーム2の経路をX方向において挟む第1電極24aと第2電極24b、および、第1電極26aと第2電極26bに分けて構成したとする。また、プラズマ生成容器12から引き出されるイオンビーム2の設計上のビーム軌道4は、電極24、26に垂直、即ちZ軸に平行であるとする。
【0046】
この場合、電極24を構成する第1電極24aと第2電極24bとの間に電位差を形成することにより、その電位差によって、イオンビーム2を偏向させることができる。電極26についても同様である。その場合、イオンビーム2を同じ目標点28に向けて偏向させる場合を考えると、図4からも分かるように、電極24による偏向角度φ1 の方が電極26による偏向角度φ2 よりも小さくて済む。目標点28からの距離が大きいからである。
【0047】
従って、電極24で偏向させる方が、電極26で偏向させるよりも、第1電極(24a、26a)と第2電極(24b、26b)との間の電位差が小さくて済む。換言すれば、電極24で偏向させる方が、小さな電位差で大きな偏向が可能になるので制御性が良い。また、前述したローレンツ力Fによって曲げられた場所にできるだけ近い所でイオンビーム2を曲げ戻す方が、曲げ戻しの制御も容易である。このような理由から、プラズマ生成容器12内のプラズマ14からイオンビーム2を引き出すための電極であって、プラズマ生成容器12の電位に対して絶対値が10kV以上の負の電位にされる電極の内の最も上流側、即ち最プラズマ側の電極を、イオンビーム2の軌道補正に用いるのが好ましく、この出願ではそのような最プラズマ側の電極を引出し用電極と呼んでビーム軌道補正に用いることにしている。
【0048】
即ち、引出し電極系20aを構成する第1引出し用電極22aの電位P1 と第2引出し用電極22bの電位P2 との間の電位差ΔPによって、イオンビーム2を電位の低い電極側へ偏向させて、イオン源10aから出射するイオンビーム2の方向を変化させることができる。例えば、図2を参照して、P2 <P1 とすることによってイオンビーム2を図中の左側へ、P2 >P1 とすることによって図中の右側へ、それぞれ偏向させることができる。従って、イオン源の向きを可変にしなくて済む。
【0049】
図2中のイオンビーム2の軌道は、実際にシミュレーションを行った結果に基づいて図示している。このシミュレーション結果について以下に説明する。なお、イオンビーム2は、特にその軌道を区別する必要がある場合は、イオンビーム2a、2b、2cと表すことにする。他の図においても同様である。
【0050】
このシミュレーションでは、イオン源10aの磁石16(図1参照)によってプラズマ生成容器12内に250×10-4[T]の磁界18を発生させた状態で、プラズマ生成容器12内にB+ をイオンとするプラズマ14を生成した。プラズマ生成容器12およびプラズマ電極21の電位を基準にして言うと(以下の電位P1 、P2 も同様)、接地電極23の電位P3 を−25kVにした。
【0051】
イオンビーム2aは、第1引出し用電極22a、第2引出し用電極22bの電位P1 、P2 を共に−27kVにしてB+ イオンビームを引き出した場合のものであり、イオンビーム2bは、第1引出し用電極22aの電位P1 を−27kV、第2引出し用電極22bの電位を−28.5kV(即ちP2 <P1 であり、その電位差ΔPは1.5kV)にしてB+ イオンビームを引き出した場合である。
【0052】
前述したように、プラズマ生成容器12内のプラズマ14から引き出されるイオンビーム2には磁界18によってローレンツ力Fが作用するので、第1引出し用電極22aと第2引出し用電極22b間に電位差がない場合のイオンビーム2aの軌道は、ローレンツ力Fによる偏向がないものとしている設計上のビーム軌道4に対して、約4度の角度を持っている。一方、上記のように第1引出し用電極22aと第2引出し用電極22bとの間に1.5kVの電位差ΔPを付けた場合のイオンビーム2bの軌道は、電位の低い第2引出し用電極22b側に偏向されて、設計上のビーム軌道4にほぼ一致している。
【0053】
この発明に係るビーム軌道補正方法は、上記のように第1引出し用電極22aと第2引出し用電極22bとの間に電位差ΔPを形成することによって、イオン源10aから出射するイオンビーム2の方向を変化させることができることを利用するものである。これを以下に詳述する。
【0054】
図5も参照して、上記後段ビーム測定器70は分析スリット40の下流側近傍で、分析スリット40を通過したイオンビーム2を受けてそのビーム電流I2 を測定するものであり、例えば矢印Cで示すように、測定の際にはイオンビーム2の経路に入れられ、ターゲット6(図1参照)へのイオン注入時はイオンビーム2の経路から外される。後段ビーム測定器70は、例えばファラデーカップである。
【0055】
上記カメラ80は、分析スリット40からその上流側にかけての領域におけるXZ平面内でのイオンビーム2を撮影してその画像データD1 を出力するものである。分析スリット40は、この例では、開口42をX方向に隔てた2枚の板であり、開口42は分析スリット40のY方向における上から下まで通じているので、開口42を分析スリット40のY方向における上方または下方から見ることができる。
【0056】
カメラ80は、分析スリット40のY方向における上方または下方に設けられていて、このカメラ80の視界82は、分析スリット40の開口42からそのある程度上流側までの領域をカバーしている。このカメラ80は、イオンビーム2の経路に入れてイオンビーム2を受ける必要はないので、イオンビーム2の経路外に固定しておけば良い。
【0057】
特開2006−196400号公報にも記載されているように、イオンビーム2はその経路中に存在する残留ガスと衝突することによって発光する。より正確に言えば、イオンビーム2がその経路中に存在する残留ガスと衝突することによってイオンビーム2を中心にビームプラズマが生成されてそれが発光する。この発光強度は、イオンビーム2のビーム電流密度と残留ガス圧とに依存している。
【0058】
従って、カメラ80からの画像データD1 を処理することによって、分析スリット40(より具体的にはその開口42)に入射するイオンビームの実際のビーム軌道の、XZ平面内における設計上のビーム軌道4からの偏差角度θを求めることができる。
【0059】
より具体的には、イオンビーム2の進行方向Zの2箇所においてイオンビーム2のX方向における中心位置x1 、x2 を測定することができる。両中心位置x1 、x2 間のビーム軌道4に沿う方向の距離L1 は予め分かっているので、次式またはそれと数学的に等価の式によって偏差角度θを算出することができる。なお、中心位置x1 、x2 を求める場合、イオンビーム2の発光のピーク位置で測定しても良いし、重心位置で測定しても良いが、2箇所における測定方法は同じにするのが好ましい。
【0060】
[数3]
θ=tan-1{(x1 −x2 )/L1
【0061】
なお、中心位置x1 のZ方向における位置は、この例では分析スリット40の板厚の中心にしているが、必ずしもそのようにしなくても良く、例えば、分析スリット40の上流側の表面あるいはそれよりも更に上流側、または、分析スリット40の下流側の表面あるいはそれよりも更に下流側にしても良い。要は、カメラ80の視界82に入っていれば良い。中心位置x2 のZ方向における位置についても、要はカメラ80の視界82に入っていれば良い。
【0062】
上記のようなカメラ80、後段ビーム測定器70等を用いて行うビーム軌道補正方法の実施形態を図6のフローチャート、更には図7〜図14を参照して説明する。この内、図7〜図10は、偏差角度θが設計上のビーム軌道4よりも内側の角度である場合の例であり、図11〜図14は、偏差角度θが外側の角度である場合の例である。
【0063】
この出願では、図1を参照して、XZ平面内において、イオン源10aから分析電磁石30内の円弧軌道を経由して分析スリット40に至るイオンビーム2の設計上のビーム軌道4に対して、それよりも前記円弧の中心5寄りを内側、その反対側を外側と呼んでいる。従って、第1引出し用電極22aは内側、第2引出し用電極22bは外側に位置している。また、イオン源10aから出射するイオンビーム2は、設計上のビーム軌道4を通る場合をイオンビーム2b、内側を通る場合をイオンビーム2a、外側を通る場合をイオンビーム2cとしている。
【0064】
まず、後段ビーム測定器70で測定するビーム電流I2 が最大になるように、分析電磁石電流I3 を調整して分析電磁石30における磁界Bの強さを調整する(ステップ100)。これが分析電磁石電流調整工程である。
【0065】
例えば、イオン源10aから出射するイオンビーム2が図7に示すイオンビーム2aのように内側にずれており、かつ分析スリット40に入射するイオンビーム2が外側にずれている場合は、分析電磁石電流I3 を大きくして磁界Bを強くして、分析電磁石30におけるイオンビーム2の偏向を強くして、イオンビーム2が分析スリット40の開口42の中心に入射するようにする。その状態の例を図8に示す。イオン源10aから出射するイオンビーム2が図11に示すイオンビーム2cのように外側にずれており、かつ分析スリット40に入射するイオンビーム2が外側にずれている場合も、分析電磁石電流I3 を大きくして磁界Bを強くして、分析スリット30におけるイオンビーム2の偏向を強くして、イオンビーム2が分析スリット40の開口42の中心に入射するようにする。その状態の例を図12に示す。
【0066】
次に、カメラ80でイオンビーム2を撮影し(ステップ101)、更にカメラ80からの画像データD1 を処理して上記偏差角度θを算出する(ステップ102)。これらの方法の詳細は前述したとおりである。偏差角度θを算出する式は上記数3に示したとおりである。これが偏差角度測定工程である。
【0067】
例えば、図8に示す状態では、偏差角度θは設計上のビーム軌道4よりも内側の角度であり、図12に示す状態では外側の角度である。偏差角度θの正負の符号は、この実施形態では、内側の角度の場合が−(マイナス)、外側の角度の場合が+(プラス)になる。
【0068】
次に、上記偏差角度測定工程で測定した偏差角度θが所定の許容範囲ε以内にあるか否かを判断して(ステップ103)、許容範囲以内になければステップ104に進んで、引出し電極系20aを出る際に第1引出し用電極22aと第2引出し用電極22bとの間の電位差ΔPによってイオンビーム2が偏差角度θを小さくする方向に曲げられるように、当該電位差ΔPを直流電源52a、52bを用いて調整する(ステップ104)。これが電位差調整工程である。
【0069】
上記所定の許容範囲εは、例えば、±0.5度〜±1.0度程度であるが、これに限られるものではない。
【0070】
例えば、図8に示す例のように、偏差角度θが許容範囲ε以内になく(即ち|θ|>|ε|。以下同様)かつ内側の角度である場合には、第2引出し用電極22bの電位P2 よりも第1引出し用電極22aの電位P1 が高くなるように(即ちP2 <P1 になるように)、電位差ΔPを調整する。具体的には、上記数2からも分かるように、第2直流電源52bの出力電圧V2 と第1直流電源52aの出力電圧V1 との差を調整する。これによって、前述したようにイオン源10aから出射するイオンビーム2は外側に偏向されるので、例えば図9に示す状態になる。
【0071】
反対に図12に示す例のように、偏差角度θが許容範囲ε以内になく、かつ外側の角度である場合には、第1引出し用電極22aの電位P1 よりも第2引出し用電極22bの電位P2 が高くなるように(即ちP2 >P1 になるように)、電位差ΔPを調整する。具体的には、上記数2からも分かるように、第2直流電源52bの出力電圧V2 と第1直流電源52aの出力電圧V1 との差を調整する。これによって、前述したようにイオン源10aから出射するイオンビーム2は内側に偏向されるので、例えば図13に示す状態になる。
【0072】
上記偏差角度θの向きと、調整後の電位P1 、P2 との関係を表1にまとめて示す。
【0073】
【表1】

【0074】
なお、上記電位差調整工程における電位差ΔPの調整は、(a)予めシミュレーション等によって、偏差角度θを1度補正するのに適した電位差ΔP1 [V/度]を求めておいて、次の数4に従って電位差ΔPを調整しても良いし、(b)適当な電圧刻み、例えば100V刻みで調整しても良い。上記電位差ΔP1 は、例えば550V/度である。(a)の方法の方が、適切な電位差ΔPをより早く実現することができる。
【0075】
[数4]
ΔP=ΔP1 ×θ[V]
【0076】
そして、上記分析電磁石電流調整工程、偏差角度測定工程および電位差調整工程を、偏差角度測定器で測定した偏差角度θが上記許容範囲ε以内に入るまで1回ずつ以上行う。
【0077】
例えば、図9、図13に示す例の場合は、後段ビーム測定器70で測定するビーム電流I2 が最大になるように、分析電磁石電流I3 を小さくして磁界Bを弱くして、分析電磁石30におけるイオンビーム2の偏向を弱くする。その結果、それぞれ図10、図14に示す状態になり、偏差角度θが許容範囲ε以内に入る。
【0078】
以上のようにこのビーム軌道補正方法によれば、イオン源10aの向きを可変にしなくても、イオン源10aから出射するイオンビーム2の軌道がイオン源10aにおけるY方向に沿う磁界18の影響を受けて設計上のビーム軌道4からずれたとしても、分析スリット40に入射するイオンビーム2の軌道を補正して、当該ビーム軌道を設計上のビーム軌道4に近づけることができる。
【0079】
その結果、ターゲット6へのイオンビーム2の輸送効率を高めることができる。また、ターゲット6に入射するイオンビーム2の入射角度が設計値からずれるのを抑制することができる。
【0080】
更に、イオン源10aの引出し電極系20aを構成する引出し用電極22を、イオンビーム2の経路をX方向において挟む第1引出し用電極22aと第2引出し用電極22bとに分けて構成し、これらをビーム軌道の制御に用いるので、引出し電極系20aとは別のビーム軌道補正用の電極をビームラインに設けずに済む。その結果、ビームラインが長くなるのを防止することができるので、この観点からもイオンビーム2の輸送効率を高めることができる。
【0081】
図1に示すイオン注入装置は、前述したように制御装置90を備えている。この制御装置90には、上記後段ビーム測定器70で測定するビーム電流I2 、カメラ80からの画像データD1 および各種の設定情報が与えられる。設定情報は、例えば、上記許容範囲ε、設計上のビーム軌道4の位置、上記距離L1 (図5参照)である。そして制御装置90は、与えられた上記情報に基づいて、上記第1直流電源52a、第2直流電源52bおよび分析電磁石電源32を制御する機能を有している。
【0082】
より具体的には、制御装置90は、この実施形態では、図6のフローチャートを参照して説明した上記分析電磁石電流調整工程、偏差角度測定工程および電位差調整工程と実質的に同じ内容の制御を行う機能を有している。
【0083】
即ち、制御装置90は、(a)上記後段ビーム測定器70で測定するビーム電流I2 が最大になるように、上記分析電磁石電源32を制御して上記分析電磁石電流I3 を調整する分析電磁石電流調整制御と、(b)上記カメラ80からの画像データD1 を処理して、上記分析スリット40に入射するイオンビーム2の実際のビーム軌道の、XZ平面内における設計上のビーム軌道4からの偏差角度θを求める偏差角度測定制御と、(c)当該偏差角度測定制御で測定した偏差角度θが所定の許容範囲ε以内にあるか否かを判断して、許容範囲ε以内になければ、上記引出し電極系20aを出る際に上記第1引出し用電極22aと第2引出し用電極22bとの間の電位差ΔPによってイオンビーム2が上記偏差角度θを小さくする方向に曲げられるように、当該電位差ΔPを上記直流電源52a、52bを制御して調整する電位差調整制御とを、上記偏差角度測定制御で測定した偏差角度θが前記許容範囲ε以内に入るまで1回ずつ以上行う機能を有している。
【0084】
制御装置90は、この実施形態では、上記偏差角度θが設計上のビーム軌道4よりも外側の角度である場合には、上記電位差調整制御において、上記第1引出し用電極22aの電位P1 よりも第2引出し用電極22bの電位P2 が高くなるように上記電位差ΔPを調整し、上記偏差角度θが設計上のビーム軌道4よりも内側の角度である場合には、上記電位差調整制御において、上記第2引出し用電極22bの電位P2 よりも第1引出し用電極22aの電位P1 が高くなるように上記電位差ΔPを調整する。図15に示す制御装置90も、より具体的にはこれと同様の制御を行う。
【0085】
従って、上述した分析電磁石電流調整工程、偏差角度測定工程および電位差調整工程と実質的に同じ内容の測定および調整を、制御装置90を用いて行うことができるので、省力化を図ることができる。
【0086】
次に、ビーム軌道補正方法およびイオン注入装置の他の実施形態を、図15〜図17を参照して説明する。図1〜図14に示した先の実施形態と同一または相当する部分には同一符号を付し、以下においては当該実施形態との相違点を主体に説明する。
【0087】
この実施形態のイオン注入装置は、図15、図16に示すように、上記カメラ80に代えて、分析電磁石30と分析スリット40との間においてイオンビーム2を受けてそのX方向におけるビーム電流密度分布を測定する前段ビーム測定器60を備えている。
【0088】
前段ビーム測定器60は、この実施形態では、図16に示すように、イオンビーム2のX方向における幅よりも十分に小さい幅の開口64を有するマスク62と、このマスク62の下流側近傍に絶縁物66を介して配置されたファラデーカップ68とを備えている。開口64、ファラデーカップ68のY方向における長さは、イオンビーム2のビーム電流密度I1 を測定することができる長さであれば良く、特定の長さに限定されない。この前段ビーム測定器60によってイオンビーム2を受けてそのビーム電流密度I1 を測定することができる。
【0089】
しかもこの実施形態では、図示しない駆動機構によって、前段ビーム測定器60を、矢印Eで示すように、イオンビーム2の経路を横切ってX方向に一次元で動かすことができるようにしている。この可動式の前段ビーム測定器60を用いて、イオンビーム2のX方向におけるビーム電流密度分布を測定して、例えばそのピーク位置から、イオンビーム2のX方向における中心位置x3 を測定することができる。
【0090】
分析スリット40の開口42のX方向における中心位置x1 は予め分かっている。また、前段ビーム測定器60と分析スリット40間の距離L2 も予め分かっている。距離L2 は、より具体的には図6の例では、マスク62の前面と分析スリット40の板厚の中心との間の距離としているが、必ずしもこれに限定されるものではない。要は、上記二つの中心位置x1 、x3 を規定した位置間のビーム軌道4に沿う方向の距離であれば良い。そして、次式またはそれと数学的に等価の式に従って、上記偏差角度θを算出することができる。
【0091】
[数5]
θ=tan-1{(x1 −x3 )/L2
【0092】
上記前段ビーム測定器60および前述した後段ビーム測定器70等を用いて行うビーム軌道補正方法の実施形態を図17のフローチャートに示す。前述した図7〜図14は、この実施形態の場合にもそのまま適用することができる。
【0093】
図17のフローチャートと図6のフローチャートとの相違点はステップ105、106であるので、これについて説明する。
【0094】
図6のフローチャートと同じ内容の分析電磁石電流調整工程(ステップ100)に次いで、前段ビーム測定器60でイオンビーム2のX方向における中心位置x3 を測定し(ステップ105)、更に上記数5に従って偏差角度θを算出する(ステップ106)。これらの方法の詳細は上述のとおりである。これが偏差角度測定工程である。
【0095】
ステップ103、104の電位差調整工程は図6のフローチャートと同じ内容である。更に、偏差角度測定工程で測定した偏差角度θが前記許容範囲ε以内に入るまで、上記分析電磁石電流調整工程、偏差角度測定工程および電位差調整工程を1回ずつ以上行うことも、図6のフローチャートの場合と同じである。
【0096】
従って、この実施形態のビーム軌道補正方法の場合も、先の実施形態のビーム軌道補正方法の場合と同様の効果を奏することができる。即ち、イオン源10aの向きを可変にしなくても、イオン源10aから出射するイオンビーム2の軌道がイオン源10aにおけるY方向に沿う磁界18の影響を受けて設計上のビーム軌道4からずれたとしても、分析スリット40に入射するイオンビーム2の軌道を補正して、当該ビーム軌道を設計上のビーム軌道4に近づけることができる。
【0097】
その結果、ターゲット6へのイオンビーム2の輸送効率を高めることができる。また、ターゲット6に入射するイオンビーム2の入射角度が設計値からずれるのを抑制することができる。
【0098】
更に、イオン源10aの引出し電極系20aを構成する引出し用電極22を、イオンビーム2の経路をX方向において挟む第1引出し用電極22aと第2引出し用電極22bとに分けて構成し、これらをビーム軌道の制御に用いるので、引出し電極系20aとは別のビーム軌道補正用の電極をビームラインに設けずに済む。その結果、ビームラインが長くなるのを防止することができるので、この観点からもイオンビーム2の輸送効率を高めることができる。
【0099】
なお、上記のようなX方向可動式の前段ビーム測定器60の代りに、X方向に複数の測定点を有する多点式の前段ビーム測定器を設けて、この前段ビーム測定器によってイオンビーム2を受けてそのX方向におけるビーム電流密度分布を測定して、例えばそのピーク位置から、イオンビーム2のX方向における中心位置x3 を測定するようにしても良い。この多点式の前段ビーム測定器も、測定時にはイオンビーム2の経路に入れられ、ターゲット6へのイオン注入時にはイオンビーム2の経路から外される。
【0100】
また、上記のようなX方向可動式の前段ビーム測定器60または多点式の前段ビーム測定器を用いる実施形態と、カメラ80を用いる先の実施形態とを比べれば、カメラ80を用いる場合は、カメラ80は固定しておけば良く、測定の際にカメラ80をビーム経路上に出し入れする必要はないので、移動機構が不要であり、従って上記いずれの前段ビーム測定器を用いる場合に比べても、構成が簡素になる。しかも、カメラ80はイオンビーム2を受ける(即ちカメラ80にイオンビーム2を入射させる)必要がないので、イオンビーム2を受ける前段ビーム測定器を用いる場合と違って、ターゲット6の表面を汚染する原因になるパーティクル(汚染物質)を発生させる心配がない。
【0101】
図15に示すイオン注入装置を構成する制御装置90には、上記後段ビーム測定器70で測定するビーム電流I2 、前段ビーム測定器60で測定するビーム電流密度I1 および各種の設定情報が与えられる。設定情報は、例えば、上記許容範囲ε、設計上のビーム軌道4の位置、上記中心x1 、上記距離L2 (図16参照)である。そして制御装置90は、与えられた上記情報に基づいて、上記第1直流電源52a、第2直流電源52bおよび分析電磁石電源32を制御する機能を有している。
【0102】
より具体的には、制御装置90は、この実施形態では、図17のフローチャートを参照して説明した上記分析電磁石電流調整工程、偏差角度測定工程および電位差調整工程と実質的に同じ内容の制御を行う機能を有している。
【0103】
即ち、制御装置90は、(a)上記後段ビーム測定器70で測定するビーム電流I2 が最大になるように、上記分析電磁石電源32を制御して上記分析電磁石電流I3 を調整する分析電磁石電流調整制御と、(b)上記前段ビーム測定器60(または多点式の前段ビーム測定器)からの測定情報(例えば上記ビーム電流密度I1 )を用いてイオンビームのX方向における中心位置x3 を求め、かつ当該中心位置x3 および上記前段ビーム測定器と分析スリット間の距離L2 を用いて、上記分析スリット40に入射するイオンビーム2の実際のビーム軌道の、XZ平面内における設計上のビーム軌道4からの偏差角度θを求める偏差角度測定制御と、(c)当該偏差角度測定制御で測定した偏差角度θが所定の許容範囲ε以内にあるか否かを判断して、許容範囲ε以内になければ、上記引出し電極系20aを出る際に上記第1引出し用電極22aと第2引出し用電極22bとの間の電位差ΔPによってイオンビーム2が上記偏差角度θを小さくする方向に曲げられるように、当該電位差ΔPを上記直流電源52a、52bを制御して調整する電位差調整制御とを、上記偏差角度測定制御で測定した偏差角度θが上記許容範囲ε以内に入るまで1回ずつ以上行う機能を有している。
【0104】
従って、上述した分析電磁石電流調整工程、偏差角度測定工程および電位差調整工程と実質的に同じ内容の測定および調整を、制御装置90を用いて行うことができるので、省力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】この発明に係るビーム軌道補正方法を実施するイオン注入装置の一実施形態を示す概略平面図である。
【図2】図1中のイオン源およびそれ用の電源のより詳細例を示す図である。
【図3】図1および図2中の引出し用電極の概略を、イオンビーム進行方向に見て示す正面図である。
【図4】引出し電極系を構成する分割電極の位置によるビーム偏向効果の差を説明するための概略平面図である。
【図5】図1中の分析スリット周りの詳細例を示す平面図である。
【図6】この発明に係るビーム軌道補正方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図7】偏差角度が設計上のビーム軌道よりも内側の角度である場合のビーム軌道補正方法の工程の例を示す概略図である。
【図8】偏差角度が設計上のビーム軌道よりも内側の角度である場合のビーム軌道補正方法の工程の例を示す概略図である。
【図9】偏差角度が設計上のビーム軌道よりも内側の角度である場合のビーム軌道補正方法の工程の例を示す概略図である。
【図10】偏差角度が設計上のビーム軌道よりも内側の角度である場合のビーム軌道補正方法の工程の例を示す概略図である。
【図11】偏差角度が設計上のビーム軌道よりも外側の角度である場合のビーム軌道補正方法の工程の例を示す概略図である。
【図12】偏差角度が設計上のビーム軌道よりも外側の角度である場合のビーム軌道補正方法の工程の例を示す概略図である。
【図13】偏差角度が設計上のビーム軌道よりも外側の角度である場合のビーム軌道補正方法の工程の例を示す概略図である。
【図14】偏差角度が設計上のビーム軌道よりも外側の角度である場合のビーム軌道補正方法の工程の例を示す概略図である。
【図15】この発明に係るビーム軌道補正方法を実施するイオン注入装置の他の実施形態を示す概略平面図である。
【図16】図15中の分析スリット周りの詳細例を示す平面図である。
【図17】この発明に係るビーム軌道補正方法の他の実施形態を示すフローチャートである。
【図18】従来のイオン注入装置の一例を示す概略平面図である。
【図19】リボン状のイオンビームの一例を部分的に示す概略斜視図である。
【図20】Y方向に沿う磁界によって、イオン源から引き出されるイオンビームの出射角度が変化した状態の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0106】
2、2a〜2c イオンビーム
4 設計上のビーム軌道
6 ターゲット
10a イオン源
12 プラズマ生成容器
14 プラズマ
16 磁石
18 磁界
20a 引出し電極系
21 プラズマ電極
22 引出し用電極
22a 第1引出し用電極
22b 第2引出し用電極
23 接地電極
30 分析電磁石
32 分析電磁石電源
40 分析スリット
52a 第1直流電源
52b 第2直流電源
60 前段ビーム測定器
70 後段ビーム測定器
80 カメラ
90 制御装置
θ 偏差角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームの設計上の進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、Y方向の寸法がX方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームを引き出すイオン源であって、内部でプラズマを生成するプラズマ生成容器と、このプラズマ生成容器内のプラズマから電界の作用でイオンビームを引き出すものであってイオンビーム引出し方向に複数の電極を有している引出し電極系と、前記プラズマ生成容器内にY方向に沿う磁界を印加する磁石とを有しているイオン源と、
前記イオン源からのイオンビームを磁界によってXZ平面内で曲げて運動量分析を行う分析電磁石と、
前記分析電磁石にそれを励磁する分析電磁石電流を供給する直流の分析電磁石電源と、
前記分析電磁石よりも下流側に設けられていて前記分析電磁石と協働してイオンビームの運動量分析を行う分析スリットとを備えていて、
前記分析スリットを通過したイオンビームをターゲットに入射させる構成のイオン注入装置において、
前記イオン源の引出し電極系を構成していて前記プラズマ生成容器内のプラズマからイオンビームを引き出すための電極であって、前記プラズマ生成容器の電位に対して絶対値が10kV以上の負の電位にされる電極の内の最プラズマ側の電極である引出し用電極を、イオンビームの経路をX方向において挟む第1引出し用電極と第2引出し用電極とに分けて構成しておき、
かつ、前記第1引出し用電極と第2引出し用電極との間に電位差を形成することができる電圧可変の直流電源と、
前記分析電磁石と分析スリットとの間においてイオンビームを受けてそのX方向におけるビーム電流密度分布を測定する前段ビーム測定器と、
前記分析スリットを通過したイオンビームを受けてそのビーム電流を測定する後段ビーム測定器とを設けておき、
前記後段ビーム測定器で測定するビーム電流が最大になるように前記分析電磁石電流を調整する分析電磁石電流調整工程と、
前記前段ビーム測定器を用いてイオンビームのX方向における中心位置を測定し、かつ当該中心位置および前記前段ビーム測定器と分析スリット間の距離を用いて、前記分析スリットに入射するイオンビームの実際のビーム軌道の、XZ平面内における設計上のビーム軌道からの偏差角度を求める偏差角度測定工程と、
前記偏差角度測定工程で測定した偏差角度が所定の許容範囲以内にあるか否かを判断して、許容範囲以内になければ、前記引出し電極系を出る際に前記第1引出し用電極と第2引出し用電極との間の電位差によってイオンビームが前記偏差角度を小さくする方向に曲げられるように、当該電位差を前記直流電源を用いて調整する電位差調整工程とを、
前記偏差角度測定工程で測定した偏差角度が前記許容範囲以内に入るまで1回ずつ以上行うことを特徴とするビーム軌道補正方法。
【請求項2】
イオンビームの設計上の進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、Y方向の寸法がX方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームを引き出すイオン源であって、内部でプラズマを生成するプラズマ生成容器と、このプラズマ生成容器内のプラズマから電界の作用でイオンビームを引き出すものであってイオンビーム引出し方向に複数の電極を有している引出し電極系と、前記プラズマ生成容器内にY方向に沿う磁界を印加する磁石とを有しているイオン源と、
前記イオン源からのイオンビームを磁界によってXZ平面内で曲げて運動量分析を行う分析電磁石と、
前記分析電磁石にそれを励磁する分析電磁石電流を供給する直流の分析電磁石電源と、
前記分析電磁石よりも下流側に設けられていて前記分析電磁石と協働してイオンビームの運動量分析を行う分析スリットとを備えていて、
前記分析スリットを通過したイオンビームをターゲットに入射させる構成のイオン注入装置において、
前記イオン源の引出し電極系を構成していて前記プラズマ生成容器内のプラズマからイオンビームを引き出すための電極であって、前記プラズマ生成容器の電位に対して絶対値が10kV以上の負の電位にされる電極の内の最プラズマ側の電極である引出し用電極を、イオンビームの経路をX方向において挟む第1引出し用電極と第2引出し用電極とに分けて構成しておき、
かつ、前記第1引出し用電極と第2引出し用電極との間に電位差を形成することができる電圧可変の直流電源と、
前記分析スリットからその上流側にかけての領域におけるXZ平面内でのイオンビームを撮影してその画像データを出力するカメラと、
前記分析スリットを通過したイオンビームを受けてそのビーム電流を測定する後段ビーム測定器とを設けておき、
前記後段ビーム測定器で測定するビーム電流が最大になるように前記分析電磁石電流を調整する分析電磁石電流調整工程と、
前記カメラからの画像データを処理して、前記分析スリットに入射するイオンビームの実際のビーム軌道の、XZ平面内における設計上のビーム軌道からの偏差角度を求める偏差角度測定工程と、
前記偏差角度測定工程で測定した偏差角度が所定の許容範囲以内にあるか否かを判断して、許容範囲以内になければ、前記引出し電極系を出る際に前記第1引出し用電極と第2引出し用電極との間の電位差によってイオンビームが前記偏差角度を小さくする方向に曲げられるように、当該電位差を前記直流電源を用いて調整する電位差調整工程とを、
前記偏差角度測定工程で測定した偏差角度が前記許容範囲以内に入るまで1回ずつ以上行うことを特徴とするビーム軌道補正方法。
【請求項3】
XZ平面内において、前記イオン源から前記分析電磁石内の円弧軌道を経由して前記分析スリットに至るイオンビームの設計上のビーム軌道に対して、それよりも前記円弧の中心寄りを内側、その反対側を外側と呼ぶと、前記第1引出し用電極は内側、第2引出し用電極は外側に位置しており、
前記偏差角度が設計上のビーム軌道よりも外側の角度である場合には、前記電位差調整工程において、前記第1引出し用電極よりも第2引出し用電極の電位が高くなるように前記電位差を調整し、前記偏差角度が設計上のビーム軌道よりも内側の角度である場合には、前記電位差調整工程において、前記第2引出し用電極よりも第1引出し用電極の電位が高くなるように前記電位差を調整する請求項1または2記載のビーム軌道補正方法。
【請求項4】
イオンビームの設計上の進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、Y方向の寸法がX方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームを引き出すイオン源であって、内部でプラズマを生成するプラズマ生成容器と、このプラズマ生成容器内のプラズマから電界の作用でイオンビームを引き出すものであってイオンビーム引出し方向に複数の電極を有している引出し電極系と、前記プラズマ生成容器内にY方向に沿う磁界を印加する磁石とを有しているイオン源と、
前記イオン源からのイオンビームを磁界によってXZ平面内で曲げて運動量分析を行う分析電磁石と、
前記分析電磁石にそれを励磁する分析電磁石電流を供給する直流の分析電磁石電源と、
前記分析電磁石よりも下流側に設けられていて前記分析電磁石と協働してイオンビームの運動量分析を行う分析スリットとを備えていて、
前記分析スリットを通過したイオンビームをターゲットに入射させる構成のイオン注入装置において、
前記イオン源の引出し電極系を構成していて前記プラズマ生成容器内のプラズマからイオンビームを引き出すための電極であって、前記プラズマ生成容器の電位に対して絶対値が10kV以上の負の電位にされる電極の内の最プラズマ側の電極である引出し用電極を、イオンビームの経路をX方向において挟む第1引出し用電極と第2引出し用電極とに分けて構成しており、
更に、前記第1引出し用電極と第2引出し用電極との間に電位差を形成することができる電圧可変の直流電源と、
前記分析電磁石と分析スリットとの間においてイオンビームを受けてそのX方向におけるビーム電流密度分布を測定する前段ビーム測定器と、
前記分析スリットを通過したイオンビームを受けてそのビーム電流を測定する後段ビーム測定器と、
(a)前記後段ビーム測定器で測定するビーム電流が最大になるように、前記分析電磁石電源を制御して前記分析電磁石電流を調整する分析電磁石電流調整制御と、(b)前記前段ビーム測定器からの測定情報を用いてイオンビームのX方向における中心位置を求め、かつ当該中心位置および前記前段ビーム測定器と分析スリット間の距離を用いて、前記分析スリットに入射するイオンビームの実際のビーム軌道の、XZ平面内における設計上のビーム軌道からの偏差角度を求める偏差角度測定制御と、(c)当該偏差角度測定制御で測定した偏差角度が所定の許容範囲以内にあるか否かを判断して、許容範囲以内になければ、前記引出し電極系を出る際に前記第1引出し用電極と第2引出し用電極との間の電位差によってイオンビームが前記偏差角度を小さくする方向に曲げられるように、当該電位差を前記直流電源を制御して調整する電位差調整制御とを、前記偏差角度測定制御で測定した偏差角度が前記許容範囲以内に入るまで1回ずつ以上行う機能を有している制御装置とを備えていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項5】
イオンビームの設計上の進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、Y方向の寸法がX方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームを引き出すイオン源であって、内部でプラズマを生成するプラズマ生成容器と、このプラズマ生成容器内のプラズマから電界の作用でイオンビームを引き出すものであってイオンビーム引出し方向に複数の電極を有している引出し電極系と、前記プラズマ生成容器内にY方向に沿う磁界を印加する磁石とを有しているイオン源と、
前記イオン源からのイオンビームを磁界によってXZ平面内で曲げて運動量分析を行う分析電磁石と、
前記分析電磁石にそれを励磁する分析電磁石電流を供給する直流の分析電磁石電源と、
前記分析電磁石よりも下流側に設けられていて前記分析電磁石と協働してイオンビームの運動量分析を行う分析スリットとを備えていて、
前記分析スリットを通過したイオンビームをターゲットに入射させる構成のイオン注入装置において、
前記イオン源の引出し電極系を構成していて前記プラズマ生成容器内のプラズマからイオンビームを引き出すための電極であって、前記プラズマ生成容器の電位に対して絶対値が10kV以上の負の電位にされる電極の内の最プラズマ側の電極である引出し用電極を、イオンビームの経路をX方向において挟む第1引出し用電極と第2引出し用電極とに分けて構成しており、
更に、前記第1引出し用電極と第2引出し用電極との間に電位差を形成することができる電圧可変の直流電源と、
前記分析スリットからその上流側にかけての領域におけるXZ平面内でのイオンビームを撮影してその画像データを出力するカメラと、
前記分析スリットを通過したイオンビームを受けてそのビーム電流を測定する後段ビーム測定器と、
(a)前記後段ビーム測定器で測定するビーム電流が最大になるように、前記分析電磁石電源を制御して前記分析電磁石電流を調整する分析電磁石電流調整制御と、(b)前記カメラからの画像データを処理して、前記分析スリットに入射するイオンビームの実際のビーム軌道の、XZ平面内における設計上のビーム軌道からの偏差角度を求める偏差角度測定制御と、(c)当該偏差角度測定制御で測定した偏差角度が所定の許容範囲以内にあるか否かを判断して、許容範囲以内になければ、前記引出し電極系を出る際に前記第1引出し用電極と第2引出し用電極との間の電位差によってイオンビームが前記偏差角度を小さくする方向に曲げられるように、当該電位差を前記直流電源を制御して調整する電位差調整制御とを、前記偏差角度測定制御で測定した偏差角度が前記許容範囲以内に入るまで1回ずつ以上行う機能を有している制御装置とを備えていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項6】
XZ平面内において、前記イオン源から前記分析電磁石内の円弧軌道を経由して前記分析スリットに至るイオンビームの設計上のビーム軌道に対して、それよりも前記円弧の中心寄りを内側、その反対側を外側と呼ぶと、前記第1引出し用電極は内側、第2引出し用電極は外側に位置しており、
前記制御装置は、前記偏差角度が設計上のビーム軌道よりも外側の角度である場合には、前記電位差調整制御において、前記第1引出し用電極よりも第2引出し用電極の電位が高くなるように前記電位差を調整し、前記偏差角度が設計上のビーム軌道よりも内側の角度である場合には、前記電位差調整制御において、前記第2引出し用電極よりも第1引出し用電極の電位が高くなるように前記電位差を調整するものである請求項4または5記載のイオン注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−295475(P2009−295475A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149162(P2008−149162)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】