説明

イソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂及びその製造方法

【課題】本発明は、未反応イソシアネートの含有量が少ないイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を、短時間で効率良く製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】有機溶剤中で金属アセチルアセトネート触媒の存在下に、ポリビニルアセタール樹脂とモノイソシアネートとを反応させるイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法、及び該製造方法により得られるイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアセタール樹脂は、無機物との接着性に優れ、強度が高く、柔軟性の高いフィルムが成形可能であることから、ガラス中間膜、塗料・インキのバインダー、フェノール樹脂と配合した銅箔接着剤、セラミックのシート成形用バインダー等に使用されている。
【0003】
ポリビニルアセタール樹脂の特性を活かし、各種用途に適合した物性を発現させるため、特殊な構造を導入した各種の変性についても検討されている。
例えば、特許文献1では、フェニルイソシアネートで変性させたポリビニルアセタール樹脂が記載されている。また、特許文献2では、イソシアネート基やエポキシ基、アミノ基を結合させたオルガノシロキサンとポリビニルアセタール樹脂との共重合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−032742号公報
【特許文献2】特許第3332288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、短時間で効率良くイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を製造する方法を提供することを目的とする。
また、本発明はイソシアネートの反応率が高く、未反応イソシアネートの含有量が少ないイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題解決のため、本発明は、有機溶剤中で金属アセチルアセトネート触媒の存在下に、ポリビニルアセタール樹脂とモノイソシアネートとを反応させるイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法を提供する。
この製造方法において、金属アセチルアセトネート触媒は、モノイソシアネートの0.0001〜0.1モル倍量の鉄(III)アセチルアセトネート触媒であることが好適となる。
また、この製造方法では、モノイソシアネートは、ポリビニルアセタール樹脂が有するビニルアルコール基の0.05〜1モル倍量であり、環状構造を有する炭素数7〜13のモノイソシアネートであることが好適となる。
併せて、本発明は、有機溶剤中で金属アセチルアセトネート触媒の存在下に、ポリビニルアセタール樹脂とモノイソシアネートを反応させて得られるイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を提供する。
このイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂において、金属アセチルアセトネート触媒は、モノイソシアネートの0.0001〜0.1モル倍量の鉄(III)アセチルアセトネート触媒であることが好適となる。
また、このイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂において、モノイソシアネートは、ポリビニルアセタール樹脂が有するビニルアルコール基の0.05〜1モル倍量であり、環状構造を有する炭素数7〜13のモノイソシアネートであることが好ましい。
このイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂は、好適には、下記一般式(1)で表されるものである。
【化1】


(式(1)中、bで表される酢酸ビニルエステル単位は3モル%以下であり、cで表されるビニルアセタール単位は65〜90モル%であり、dで表されるイソシアネート変性単位は0.5〜35モル%である。Rは炭素数1〜10の鎖状脂肪族基、環状脂肪族基及び芳香族基を表す。Rは炭素数6〜12の環状構造を有する炭化水素基である。)
【0007】
本発明において、上記式(1)中の脂肪酸ビニルエステル(酢酸ビニルエステル単位)、ビニルアセタール単位及びイソシアネート変性単位の比率は、エチレン重合単位を1モルとしたモル百分率(モル%)によって示す。各単位のモル%は、イソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を重水素置換DMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解して1H−NMR(核磁気共鳴スペクトル)を測定することで求めることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、短時間で生産性良くイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を製造する方法が提供される。
また、本発明によりイソシアネートの反応率の高く、未反応イソシアネートの含有量が少ないイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。
【0010】
1.イソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法
本発明者らは、未反応イソシアネートの含有量が少ないイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を、短時間で効率よく製造する方法を検討した結果、有機溶媒中で特定の触媒の存在下にポリビニルアセタール樹脂とモノイソシアネートを反応させることで解決できることを見出した。ここで、「モノイソシアネート」とは、1分子中に1つのイソシアネート基を有する化合物を指すものである。
【0011】
すなわち、本発明に係るイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法は、有機溶剤中で金属アセチルアセトネート触媒の存在下にポリビニルアセタール樹脂とモノイソシアネートとを反応させる工程を含むことを特徴とする。
【0012】
ポリビニルアセタール樹脂とモノイソシアネートとを金属アセチルアセトネート触媒の存在下で反応させることで、短い時間に、高い反応率でイソシアネートを反応させることが可能となり、その結果、未反応イソシアネートの含有量が少ないイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を効率よく生産することができる。
【0013】
以下、本発明に係るイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法に用いられるポリビニルアセタール樹脂、モノイソシアネート、金属アセチルアセトネート触媒、溶媒等について具体的に説明する。
【0014】
2.ポリビニルアセタール樹脂
本発明に係るイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法に用いられるポリビニルアセタール樹脂は、一般に、酸触媒下でアルデヒドとポリビニルアルコールとをアセタール化反応させて得ることができる。
【0015】
ポリビニルアルコールには、脂肪酸ビニルエステルを重合した後、鹸化反応させて得られるものを用いることができる。また、肪酸ビニルエステルと共重合可能な他の単量体を共重合させた後にケン化した、変性ポリビニルアルコールを用いてもよい。
【0016】
脂肪酸ビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、オレフィン類(エチレン、プロピレン等)、(メタ)アクリレート(メチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等)、アリルエーテル(アリルグリシジルエーテル等)、ハロゲン化ビニル系化合物(塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等)、ビニルエーテル(アルキルビニルエーテル、4−ヒドロキシビニルエーテル等)などが挙げられる。
【0017】
これらの単量体の配合量は、脂肪酸ビニルエステル100質量%に対して0.5〜25質量%がよい。配合量をこの数値範囲とすることにより、得られるポリビニルアルコール及びこれをアセタール化してなるポリビニルアセタール樹脂の特性を維持しつつ、単量体の特性を発現させることができる。
【0018】
アセタール化反応に用いられるアルデヒドには、炭素数1〜10の鎖状脂肪族基、環状脂肪族基あるいは芳香族基を有するアルデヒドが用いられる。これらのアルデヒドとしては、従来公知のアルデヒドを使用できる。例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド等の鎖状脂肪族炭化水素基を持つアルデヒドや、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール等の環状脂肪族炭化水素基を持つアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒド等の2官能性アルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等の芳香族基を有するアルデヒドがある。
【0019】
これらのアルデヒドは、単独又は2種類以上が組み合わされて用いられるが、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラアセトアルデヒド等の炭素数2以下のアルデヒドや、環状脂肪族炭化水素基を持つアルデヒド、芳香族基を有するアルデヒドが1種類以上併用されていると、得られるイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度を高くすることができ、耐熱性が重要な用途では好適となる。
【0020】
アルデヒドは、特に好ましくは安価なアセトアルデヒドであり、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基のうち、50モル%以上がアセトアセタールまたはブチルアセタールであることが好ましい。耐熱性が要求され、高いガラス転移温度が望まれる場合はアセトアセタールが好適であり、室温付近での柔軟性が重要となる場合にはブチルアセタールが好適となる。
【0021】
さらに、本発明に係るイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法に用いられるポリビニルアセタール樹脂には、側鎖に変性基を有する変性ポリビニルアセタール樹脂も含まれる。
【0022】
側鎖に導入され得る変性基としては、−COOM、−CH2COOM、−SO3M、−OSO3M、−PO(OM)2、−P(=O)(R)(OM)、第三級アミン基、及び第四級アンモニウム塩基等が挙げられる。ここで、MはH、Li、Na、またはKを表し、Rは水素原子、または炭素数1〜20の炭化水素基を表す。
【0023】
このような変性ポリビニルアセタール樹脂を得る方法としては、例えば、特開平2−220221号公報に開示されているように、予め変性基団を有するユニットを主鎖の形成位置に共存させておく方法や、主鎖の形成後にアルコール型ユニットの水酸基を利用して親水性基団を導入する方法等が採用される。
【0024】
変性ポリビニルアセタール樹脂中の変性基の割合は、0.1〜5モル%の範囲がよい。変性基の割合が0.01モル%未満では、変性基団を導入した効果が充分に得られない場合がある。変性基の割合が5モル%を超えると、アセタール化後の溶剤に対する溶解性が低下する場合がある。
【0025】
ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度は、200〜4000が好ましい。平均重合度が200以下あるいは4000以上のポリビニルアセタール樹脂は、原料となるポリビニルアルコールの製造が難しくなる。さらに、ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度は、800〜2800が好ましい。
【0026】
ポリビニルアセタール樹脂中のビニルアルコール単位の含有量は、10〜35モル%の範囲が好ましい。ビニルアルコール単位が35モル%より高いと溶剤溶解性が低く、モノイソシアネートと反応させるために有機溶剤に溶解するのが困難になる。ビニルアルコール単位を10モル%より小さくするは工業的に難しいため、ポリビニルアセタール樹脂が高価になる。
【0027】
ポリビニルアセタール樹脂中の脂肪酸ビニルエステル単位の含有量は、0.1〜14モル%の範囲が好ましく、より好ましくは0.2〜3モル%である。ビニルエステル単位が14モル%より多いと耐熱性が低下する。ビニルエステル単位を0.1モル%より小さくするのは工業的に難しいため、ポリビニルアセタール樹脂が高価になる。
【0028】
ポリビニルアセタール樹脂中のビニルアセタール単位の含有量は、65〜90モル%の範囲が好ましい。ビニルアセタール単位が65モル%より低いと溶剤溶解性が低く、モノイソシアネートと反応させるために有機溶剤に溶解するのが困難になる。ビニルアセタール単位を90モル%より大きくするは工業的に難しいため、ポリビニルアセタール樹脂が高価になる。
【0029】
3.モノイソシアネート
本発明に係るイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法に用いられるモノイソシアネートには、例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、n−プロピルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、n−ブチルイソシアネート、tert−ブチルイソシアネート、n−ヘキシルイソシアネート、2−エチルヘキシルイソシアネート、ドデシルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート等の脂肪族イソシアネートや、シクロヘキシルイソシアネート、シクロヘキシルメチルイソシアネート等の脂肪族環を有するイソシアネートや、フェニルイソシアネート、ベンジルイソシアネート、ナフチルイソシアネート、ビフェニルイソシアネート等の芳香族環を有するイソシアネートが挙げられる。
【0030】
また、モノイソシアネートとして、イソシアネート基を複数有するポリイソシアネートに、水酸基やアミノ基等の活性水素を有する物質を反応させて余剰のイソシアネート基を無くし、1分子中に平均的に1つのイソシアネート基を残した化合物も使用することができる。
【0031】
モノイソシアネートは、炭素数6〜12の環状構造を有する脂肪族イソシアネートあるいは芳香族イソシアネートを用いることが好ましく、フェニルイソシアネート及びシクロヘキシルイソシアネートが特に好ましい。これらのモノイソシアネートを用いることで、得られるイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度を高くできる。
【0032】
ポリビニルアセタール樹脂と反応させるモノイソイソシアネートの量は、ポリビニルアセタール樹脂が有するビニルアルコール基1モルに対し、0.05〜1モルが好ましい。0.05モル未満では、イソシアネート変性の効果が充分に発現しない。また、1モルを超えると、得られるイソシアネート変性ポリビニルアセタール中に残存する未反応イソシアネートが増加し、未反応イソシアネートに由来する臭気が著しくなったり、未反応イソシアネートが空気中の水分と反応して生じるアミン類や尿素類により、イソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の物性が低下する。
【0033】
モノイソイソシアネートとの反応後のポリビニルアセタール樹脂中のイソシアネート変性単位の含有量は、0.5〜35モル%の範囲が好ましい。イソシアネート単位が35モル%より多くすることは、溶剤溶解性のポリビニルアセタール樹脂を原料とする観点から不可能である。また、イソシアネート単位が0.5モル%より少ないとイソシアネート変性の効果が充分でなくなる。
【0034】
4.金属アセチルアセトネート触媒
本発明に係るイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法に用いられる金属アセチルアセトネート触媒は、金属としてアルミニウム、バリウム、カドミウム、カルシウム、セリウム(III)、クロム(III)、コバルト(II)、コバルト(III)、銅(II)、インジウム、鉄(III)、ランタン、鉛(II)、マンガン(II)、マンガン(III)、ネオジミウム、ニッケル(II)、パラジウム(II)、カリウム、サマリウム、ナトリウム、テルビウム、チタニウム、バナジウム、イットリウム、亜鉛、及びジルコニウムが使用できる。このうち、環境への影響が少ないことと、活性が高いことから、特に鉄(III)アセチルアセトネートが好適に用いられる。
【0035】
触媒に金属アセチルアセトネートを用いることで、ポリビニルアセタール樹脂とモノイソシアネートとの反応を高効率に進行させ、得られるイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂中に残存する未反応モノイソシアネート量を低減することができる。
【0036】
金属アセチルアセトネート触媒の使用量は、モノイソシアネート1モルに対し0.0001〜0.1モルである。0.0001モル未満では、触媒活性が充分発現されないため、生産性向上の役割を果たせず、得られるイソシアネート変性ポリビニルアセタール中に残存する未反応イソシアネートも低減できない。また、0.1モルを超えると、触媒コストが高くなる上、イソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の着色が著しくなる。
【0037】
5.溶媒
本発明に係るイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法に用いられる溶媒は、ポリビニルアセタール樹脂を溶解できるもので、イソシアネート基と反応する活性水素を有しないものであれば特に限定されず任意の溶媒を使用できる。
【0038】
溶媒としては、例えば、アセトン、MEK、MIBK、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル等のエステル系溶媒、ジメチルエーテル、THF、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、クロロホルム、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、及びこれらの混合溶剤が挙がられる。溶媒は、用いるポリビニルアセタール樹脂に応じて適宜選択され得る。
これらの溶媒は、水分が含有されるとモノイソシアネートとの反応により副生物を生じるので、必要に応じてモレキュラーシーブ等の脱水剤を用いて水分を除去しておくことが出来る。
【0039】
6.その他の反応条件
本発明に係るイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法において、ポリビニルアセタール樹脂とモノイソシアネートを反応する際の反応温度は、20℃以上、好ましくは40℃以上である。反応温度を20℃以上とすることで、反応を高効率に進行させ、生産性の向上や未反応イソシアネートの低減を図ることができる。
本発明に係るイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法において、反応時間は、所望するイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の変性量やイソシアネートの反応率に応じて、任意に選択することができる。本発明に関わる金属アセチルアセトネート触媒を用いない場合に比べると、本発明の製造方法では、同一の反応時間でも、より高い反応率でイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を得ることができる。
【0040】
7.イソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂
本発明に係るイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂は、上記の製造方法により得られるものであり、その好適な一実施形態において、以下の一般式(1)によって表すことができる。
【0041】
【化2】

【0042】
式(1)中、bで表される酢酸ビニルエステル単位(脂肪族ビニルエステル単位)の含有量は、既に説明したように、0.1〜14モル%の範囲が好ましく、より好ましくは0.2〜3モル%である。また、cで表されるビニルアセタール単位の含有量は、65〜90モル%である。さらに、dで表されるイソシアネート変性単位は0.5〜35モル%である。なお、式(1)中、Rは炭素数1〜10の鎖状脂肪族基、環状脂肪族基、または芳香族基を表し、Rは炭素数6〜12の環状構造を有する炭化水素基を示す。
【0043】
上記の炭素数6〜12の環状構造を有する炭化水素基を有するイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂は、未変性のポリビニルアセタール樹脂に比べてガラス転移温度を向上させるか、或いは維持ししたまま、親水性のビニルアルコール基を減らすことで耐水性が向上し、また疎水性物質との優れた相溶性を示す。
【実施例】
【0044】
以下、実施例、比較例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
(ポリビニルアセタール樹脂の合成)
(参考例1)
攪拌機のついた溶解槽に、純水9kg、平均重合度2200、けん化度98モル%のポリビニルアルコール1kgを投入し、加温してポリビニルアルコール水溶液を得た。
次に下部に三つの供給口、上部に一つの排出口を有する容積2Lの筒型ガラス製容器を準備した。前記筒型ガラス製容器内に純水を満たし、アンカー翼で攪拌しながら内温を40℃に保持した。内温40℃でアンカー翼による攪拌を継続しながら、前記で調整した10重量%ポリビニルアルコール水溶液、35重量%塩酸、及びアセトアルデヒドを、各々の供給速度が5.1kg/hr、0.11kg/hr、0.32kg/hrとなるように筒型ガラス製容器下部から導入し、筒型ガラス製容器内にてアセタール化反応を行った。ポリビニルアルコール水溶液、塩酸、及びアセトアルデヒドを筒型ガラス製容器下部から導入しながら、並行して筒型ガラス製容器上部より反応液を排出させた。
排出させた反応液は、三枚後退翼の攪拌翼を有する20L熟成槽に送り、反応液100重量部に対して10重量部の35重量%塩酸を添加した後、55℃で8時間熟成反応を行ってから、水洗中和、乾燥して「ポリビニルアセタール樹脂A」を得た。このポリビニルアセタール樹脂Aを重水素置換DMSOに溶解させて1H−NMRにより樹脂組成を測定したところ、ビニルアルコール単位が13.3モル%、酢酸ビニルエステル単位が1.3モル%、ビニルアセトアセタール単位が85.4モル%であった。ガラス転移温度をDSC(示差走査熱量測定)により測定すると、112℃であった。
【0045】
(参考例2)
攪拌機のついた溶解槽に純水9kg、平均重合度800、けん化度98モル%のポリビニルアルコール1kgを投入し、加温してポリビニルアルコール水溶液を得た。
反応器下部に三つの供給口を有し、反応器上部に一つの排出口を有する容積2Lの筒型ガラス製密閉容器を準備し、反応器内に純水を満たし、アンカー翼で攪拌しながら内温を35℃に保持した。内温35℃でアンカー翼による攪拌を継続しながら、前記で調整した10重量%ポリビニルアルコール水溶液、35重量%塩酸、およびブチルアルデヒドを、各々の供給速度が7.5kg/hr、0.14kg/hr、0.40kg/hrとなるように反応器下部から反応器に導入し、アセタール化反応を行った。ポリビニルアルコール水溶液、塩酸およびブチルアルデヒドを反応器下部から導入しながら、並行して反応器上部より反応液を排出させた。
排出させた反応物は、別に準備した20Lの熟成槽に送り、反応液100重量部に対して7重量部の35重量%塩酸を添加した後、40℃に昇温し1時間熟成反応を行ってから、水洗中和、乾燥させて「ポリビニルアセタール樹脂B」を得た。このポリビニルアセタール樹脂Bを重水素置換DMSOに溶解させて1H−NMRにより樹脂組成を測定したところ、ビニルアルコール単位が33.1モル%、酢酸ビニルエステル単位が1.1モル%、ビニルブチルアセタール単位が65.8モル%であった。ガラス転移温度をDSC(示差走査熱量測定)により測定すると、73℃であった。
【0046】
(実施例1)
(イソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の合成)
窒素気流下で乾燥させたコンデンサー付き1Lフラスコに、予めモレキュラーシーブで水分除去したMEKとトルエンの混合溶媒(MEK/トルエン重量比=3/2)1900gを仕込み、アンカー型攪拌翼で撹拌しながら、ポリビニルアセタール樹脂Aを100g(ビニルアルコール単位0.24mol)投入して溶解した。この溶液にフェニルイソシアネート22.7g(0.19mol、ビニルアルコール単位の80モル%に相当)を添加し、充分に混合したところで鉄(III)アセチルアセトネート0.67g(1.9mmol、フェニルイソシアネートの0.01モル%相当)を添加して60℃に加熱し、4時間反応を継続した後、室温まで冷却した。
この反応液をテフロン(登録商標)シャーレに少量取り、常温で真空乾燥して、溶剤を除いてイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。これを重水素置換DMSOに溶解し1H−NMRを測定したところ、フェニルイソシアネート変性部は10.3モル%、酢酸ビニル単位は1.2モル%、ビニルアセトアセタール単位は85.9モル%、ビニルアルコール単位は2.6モル%であった。
ビニルアルコール単位の反応率を、イソシアネート変性部とビニルアルコール単位の合計に対するイソシアネート変性部の比率として求めると80モル%であった。フェニルイソシアネートの反応率を、仕込みのフェニルイソシアネート/ビニルアルコール単位の比率と、変性後のビニルアルコール単位の反応率(イソシアネート変性部/(イソシアネート変性部+ビニルアルコール単位)の比率)から求めると、フェニルイソシアネート反応率は100%であった。
また、イソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度(Tg)を、DSC(示差走査熱量測定)により測定すると124℃であった。また、イソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂からイソシアネート臭は感じられなかった。
【0047】
【表1】


(*1:「A」はポリビニルアセタール樹脂A(参考例1)、「B」はポリビニルアセタール樹脂B(参考例2)を示す。
*2:「PhI」はフェニルイソシアネート、「cHI」はシクロヘキシルイソシアネートを示す。
*3:「Fe」は鉄(III)アセチルアセトネート、「Ti」はチタン(IV)アセチルアセトネートを示す。)
【0048】
(実施例2〜6)
金属アセチルアセトネートの仕込量と反応時間を、「表1」の通り変更した以外は、実施例1と同様にして、イソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
【0049】
(実施例7〜8)
反応温度を「表1」の通り変更した以外は、実施例1と同様にして、イソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
【0050】
(実施例9〜11)
モノイソシアネートと金属アセチルアセトネートの仕込量、及び反応時間を「表1」の通り変更した以外は、実施例1と同様にして、イソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
【0051】
(実施例12〜15)
モノイソシアネートの種類、金属アセチルアセトネートの種類、溶媒の組成、ポリビニルアセタール樹脂の種類、反応時間を、「表1」の通り変更した以外は、実施例1と同様にして、イソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
【0052】
(比較例1〜2)
金属アセチルアセトネートを使用しないこと、及び反応時間を「表1」の通り変更した以外は、実施例1と同様にして、イソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
【0053】
実施例1〜8は、比較例1〜2に比べ、同一の反応時間でもモノイソシアネートの反応率が高くなっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明はイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂を、短時間で効率良く製造する方法として利用され得る。また、本発明に関わるイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂は、樹脂中に残存する未反応イソシアネート量が少なく、ガラス中間膜、塗料・インキのバインダー、フェノール樹脂との配合した銅箔接着剤、セラミックのシート成形用バインダー等として好適に利用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤中で金属アセチルアセトネート触媒の存在下に、ポリビニルアセタール樹脂とモノイソシアネートとを反応させるイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項2】
金属アセチルアセトネート触媒が、モノイソシアネートの0.0001〜0.1モル倍量の鉄(III)アセチルアセトネート触媒である請求項1記載のイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項3】
モノイソシアネートが、ポリビニルアセタール樹脂が有するビニルアルコール基の0.05〜1モル倍量であり、環状構造を有する炭素数7〜13のモノイソシアネートである請求項2記載のイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項4】
有機溶剤中で、ポリビニルアセタール樹脂とモノイソシアネートを、金属アセチルアセトネート触媒の存在下に反応させて得られるイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂。
【請求項5】
金属アセチルアセトネート触媒が、モノイソシアネートの0.0001〜0.1モル倍量の鉄(III)アセチルアセトネート触媒である請求項4記載のイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂。
【請求項6】
モノイソシアネートが、ポリビニルアセタール樹脂が有するビニルアルコール基の0.05〜1モル倍量であり、環状構造を有する炭素数7〜13のモノイソシアネートである請求項5記載のイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂。
【請求項7】
下記一般式(1)で表される請求項6記載のイソシアネート変性ポリビニルアセタール樹脂。


(式(1)中、bで表される酢酸ビニルエステル単位は3モル%以下であり、cで表されるビニルアセタール単位は65〜90モル%であり、dで表されるイソシアネート変性単位は0.5〜35モル%である。Rは炭素数1〜10の鎖状脂肪族基、環状脂肪族基、または芳香族基を表す。Rは炭素数6〜12の環状構造を有する炭化水素基である。)

【公開番号】特開2011−195696(P2011−195696A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63528(P2010−63528)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】