説明

イソシアネート混合物の製造方法

【課題】イソシアネート混合物の反応性に影響を及ぼす金属の混入量の低減されたイソシアネート混合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】アミン混合物A、ホスゲンB、不活性溶媒を反応槽10内に導入し、アミン混合物AとホスゲンBとを反応させてイソシアネート混合物を合成する反応工程と、イソシアネート混合物、不活性溶媒、副生した塩化水素や余剰のホスゲン等の酸性化合物からなる反応工程液を濃縮槽20で濃縮して反応工程液から不活性溶媒および酸性化合物を留去する濃縮工程とを備え、反応工程では不活性溶媒が還流する条件下で反応が行われるとともに、濃縮工程では留去された不活性溶媒の少なくとも一部が濃縮槽20内に再び戻されるイソシアネート混合物Cの製造方法において、還流する不活性溶媒および濃縮槽20内に再び戻される不活性溶媒の少なくとも一方を、それぞれの槽10,20内に導入する前に吸着剤13A,23Aで処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソシアネート混合物の製造方法に関し、さらに詳述すると、金属含有量の少ないイソシアネート混合物の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソシアネート混合物の製造工程は、アニリンとホルムアルデヒドとを酸触媒の存在下で縮合させてアミン混合物を合成する縮合工程、またはニトロ化合物やニトリル化合物の水素化反応等によりアミン混合物を得る工程、この縮合工程または水素化反応等によって得られたアミン混合物とホスゲンとを不活性溶媒中で反応させて実質的にイソシアネート混合物を合成する反応工程、このイソシアネート混合物と反応工程で用いた不活性溶媒と上記反応により副生した塩化水素および/または余剰のホスゲン等の酸性化合物とからなる反応工程液からイソシアネート混合物、不活性溶媒および酸性化合物を分離して不活性溶媒および酸性化合物を回収する濃縮工程、並びにイソシアネート混合物を蒸留して留出分と残留分とに分離する精製工程からなる。
【0003】
上記イソシアネート混合物の工業的な製造工程は、コストやメンテナンスの面から、一般的に鉄やステンレスを主体とする金属製設備を用いて行われている。
この製造設備の定期修理等では、機器や配管を開放して点検するため、それらを構成する金属は空気中の酸素と接触し、酸化されて金属酸化物の形態、例えば、鉄であれば酸化鉄として製造工程内に残存する。
製造工程内に残存した金属酸化物は、イソシアネート混合物には不溶である。
【0004】
しかし、上述のとおり、イソシアネート混合物製造時にはアミン混合物とホスゲンとの反応で副生した塩化水素や余剰のホスゲン等の酸性化合物が存在し、これらによって製造系内、特に反応工程および濃縮工程の系内は酸性雰囲気となっており、この酸性雰囲気に晒された金属酸化物は、イソシアネート混合物に溶解し易い金属塩化物に変化する。
このように金属製設備が酸性化合物による腐食や侵食を受けた結果、微量の金属、特に鉄が、反応工程液中に溶け出し、最終製品であるイソシアネート混合物に混入してしまう。
【0005】
また、イソシアネート混合物を含む反応工程液は、上述したように、酸性化合物によって酸性状態となる。この状態で溶媒の還流が行われると、還流設備が酸によって腐食および/または侵食され、溶媒中に鉄などの金属成分が混入することになる。その結果、還流設備からの金属を含んだ状態で溶媒が反応工程(反応槽)に戻ることになるため、反応工程液中の金属含有量がさらに増大することになる。
一方、濃縮工程では、反応工程液から分離される溶媒にイソシアネート混合物が同伴して収率が低下するのを防止するため、回収された溶媒の一部は再び濃縮工程に戻される。しかし、この溶媒も酸性状態であるため、上記と同様に設備の腐食などによって金属が溶媒中に溶け出し、溶媒とともに濃縮工程に戻ることになる。このため、この場合も、ポリイソシアネートを含む濃縮液中の金属含有量がさらに増大することになる。
【0006】
イソシアネート混合物中に含まれる鉄分量が多くなると、イソシアネート混合物の貯蔵安定性に影響を及ぼすことがある。
また、イソシアネート混合物はポリウレタンの出発原料として用いられているが、イソシアネート混合物のポリオール化合物等との反応性は、イソシアネート混合物に含まれる鉄分量に影響を受ける。
さらに、酸性化合物と金属酸化物との反応により生じる水などの副生物が、イソシアネート混合物に混入すると、その改質、変質を引き起こす原因ともなる。
以上のような理由から、イソシアネート混合物中の鉄分含有量は可能な限り少ないことが望まれる。
【0007】
一般的に、イソシアネート混合物中の鉄分含有量が10ppm以下であれば、イソシアネート混合物の貯蔵安定性やポリウレタン製造原料として用いる場合の反応性などに悪影響を与えるものではないと言われている。
この点、上記製造工程によって得られたイソシアネート混合物中に含まれる鉄分含有量は、通常10ppm以下であり、イソシアネート混合物の貯蔵安定性やポリウレタン製造原料として用いる場合の反応性などに大きな影響を与えるものではない。
しかし、設備の定期修理等を行った後、製造再開直後に得られたイソシアネート混合物においては、鉄含有量が数百ppmに及ぶ場合があり、その貯蔵安定性やポリオール化合物等との反応性などに悪影響を及ぼすことがある。
【0008】
以上のような問題点に鑑み、イソシアネート混合物中に含まれる鉄分の量を減少させることを目的とした様々な技術が開発されている。
例えば、特許文献1では、少なくとも100m2/gの内部表面積を有する微孔質吸着剤にてジフェニルメタンジイソシアネート、またはジフェニルメタン系ポリイソシアネートを処理する手法が開示されている。
特許文献2では、塩基性吸着剤にて有機ポリイソシアネート組成物を処理する手法が開示されている。
【0009】
しかし、特許文献1の手法では、イソシアネート混合物中の鉄含有量を実用上問題のないレベルまで低減し得るものの、微孔吸着剤がイソシアネート混合物中に混入してしまうという新たな問題を招来する。
また、特許文献2の手法では、塩基性の吸着剤を用いているため、処理後の有機ポリイソシアネート組成物の改質、変質が懸念される上に、その貯蔵安定性にも問題がある。
【0010】
一方、吸着剤を用いた炭化水素中の金属の除去は公知であり、様々な技術が開示されている。
例えば、特許文献3には、石油製品の混合基材であるナフサやコンデンセート油などの炭化水素油中に含まれる水銀を、活性炭を用いて除去する方法が開示されている。
特許文献4,5には、重金属を含む炭化水素油に水や塩素含有化合物を添加し、多孔性吸着剤による重金属を除去する方法が開示されている。
特許文献6には、重金属を含有する炭化水素油にキレート剤を添加し、活性炭と接触させて重金属を吸着除去する方法が開示されている。
しかし、これらの方法は、塩素含有化合物、キレート剤、水等いずれも添加物を用いて重金属を改質する必要があり効率的ではなかった。
【特許文献1】特許第3881046号公報
【特許文献2】特開2006−160684号公報
【特許文献3】特開平10−195456号公報
【特許文献4】特開平11−50065号公報
【特許文献5】特開平11−50066号公報
【特許文献6】特開平5−86373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、イソシアネート混合物の反応性に影響を及ぼす、鉄をはじめとした金属の混入量の低減されたイソシアネート混合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、一般的なイソシアネート混合物の製造工程において、反応工程にて還流する不活性有機溶媒や濃縮工程で回収されて再度濃縮工程に戻される不活性有機溶媒を吸着剤で処理することで、最終製品としてのイソシアネート混合物中の金属含有量を効率的に低減し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、
1. アミン混合物、ホスゲンおよび不活性溶媒を反応槽内に導入し、前記アミン混合物およびホスゲンを反応させてイソシアネート混合物を合成する反応工程と、このイソシアネート混合物、前記不活性溶媒並びに前記反応により副生した塩化水素および/または余剰のホスゲン等の酸性化合物からなる反応工程液を濃縮槽で濃縮して前記反応工程液から前記不活性溶媒および酸性化合物を留去する濃縮工程と、を備え、前記反応工程では、前記不活性溶媒が還流する条件下で前記反応が行われるとともに、前記濃縮工程では、留去された前記不活性溶媒の少なくとも一部が前記濃縮槽内に再び戻されるイソシアネート混合物の製造方法であって、前記還流する不活性溶媒および前記濃縮槽内に再び戻される不活性溶媒の少なくとも一方が、それぞれの槽内に導入される前に吸着剤で処理されることを特徴とするイソシアネート混合物の製造方法、
2. 前記還流する不活性溶媒および前記濃縮槽内に再び戻される不活性溶媒の双方が、それぞれの槽内に導入される前に吸着剤で処理される1のイソシアネート混合物の製造方法、
3. 前記吸着剤での処理が、前記吸着剤を充填した充填塔に前記不活性溶媒を通すことで行われる1または2のイソシアネート混合物の製造方法、
4. 前記吸着剤が、活性炭、活性白土またはゼオライトである1〜3のいずれかのイソシアネート混合物の製造方法、
5. 前記吸着剤が、活性炭である4のイソシアネート混合物の製造方法、
6. 前記吸着剤の平均粒径が、0.01〜20mmである1〜5のいずれかのイソシアネート混合物の製造方法、
7. 前記吸着剤での処理温度が、20〜200℃である1〜6のいずれかのイソシアネート混合物の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、イソシアネート混合物の製造方法において、反応工程で還流する不活性溶媒および濃縮工程に再び戻される不活性溶媒の少なくとも一方が、反応槽や濃縮槽に戻る前に吸着剤で処理されているから、他の設備から反応槽や濃縮槽に混入する金属分が減少する結果、イソシアネート混合物への金属分の混入量を大幅に減少させることができる。
このため、ポリウレタン原料として供する上で必要となる鉄分含有量の調整(低減化)などの作業工程が不要となるという利点がある。
しかも、上述した特許文献1の方法と違い、イソシアネート混合物自体を吸着剤で処理する方法ではないから、最終製品であるイソシアネート混合物へ吸着剤が混入することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るイソシアネート混合物の製造方法は、アミン混合物、ホスゲンおよび不活性溶媒を反応槽内に導入し、アミン混合物およびホスゲンを反応させてイソシアネート混合物を合成する反応工程と、このイソシアネート混合物、不活性溶媒並びに上記反応により副生した塩化水素および/または余剰のホスゲン等の酸性化合物からなる反応工程液を濃縮槽で濃縮して反応工程液から不活性溶媒および酸性化合物を留去する濃縮工程と、を備え、反応工程では、不活性溶媒が還流する条件下で反応が行われるとともに、濃縮工程では、留去された不活性溶媒の少なくとも一部が濃縮槽内に再び戻されるイソシアネート混合物の製造方法であって、還流する不活性溶媒および濃縮槽内に再び戻される不活性溶媒の少なくとも一方が、それぞれの槽内に導入される前に吸着剤で処理されるものである。
【0016】
すなわち、イソシアネート混合物の反応性に影響を及ぼす、鉄をはじめとした金属のイソシアネート混合物への混入を防止するため、反応工程で還流される、金属を含む溶媒、および濃縮工程でイソシアネート混合物と分離・回収され、再び濃縮工程に戻される、同様に金属を含む溶媒の少なくとも一方を吸着剤にて処理する。
この際、吸着剤での処理(以下、吸着処理という)は、反応工程側だけでも、濃縮工程側だけでもイソシアネート混合物に混入する金属量を低減することができるが、より効果的にその混入量を低減させることを考慮すると、反応工程で還流する不活性溶媒および濃縮工程に再び戻される不活性溶媒の双方を、それぞれの槽内に戻る前に吸着処理することが好ましい。
また、反応工程および濃縮工程における吸着処理の回数は任意であり、それぞれ1回でも複数回でもよい。
【0017】
上記吸着処理の手法は特に限定されるものではなく、それぞれの溶媒中に吸着剤を添加して処理する手法でも、吸着剤が充填された充填塔やカラム中にそれぞれの溶媒を通す手法でもよいが、後者の手法を用いると、製造ライン中に組み込んで連続的に処理できるという利点がある。
また、充填塔やカラム中に溶媒を通す手法を用いる場合において、吸着処理を複数回行う場合は、充填塔やカラムを直列に配置した直列処理でも、それらを並列に配置した並列処理でも、両者の組み合わせでもよい。
【0018】
本発明で用いられる吸着剤としては、製造工程中の溶媒に含まれる鉄、クロム、ニッケル、モリブデンなどの金属、特に鉄を吸着し得る微孔質吸着剤であれば特に限定されるものではない。
このような微孔質吸着剤としては、例えば、活性炭、炭素繊維、活性白土、ゼオライト、シリカゲル等が挙げられる。これらの中でも、金属の吸着能やコスト面を考慮すると、活性炭、活性白土、ゼオライトが好ましく、特に、活性炭が最適である。
【0019】
上記吸着剤の平均粒径は、特に限定されるものではないが、0.01〜20mmが好ましく、0.05〜20mmがより好ましく、0.1〜20mmがより一層好ましい。平均粒径が0.01mm以下の場合、上述した充填塔を用いて処理する場合や、吸着剤をろ過する場合に目詰まりを起こし易くなって処理効率が著しく低下する場合がある。一方、20mm以上では吸着剤の比表面積が小さくなり、金属の吸着能が不十分となる場合がある。
平均粒径は、公知の方法で測定することができる。例えば、活性炭はJIS K 1474に準拠して測定することができる。また、篩い分け法、光散乱法などを用いることができる。
本発明における平均粒径は、活性炭はJIS K 1474、その他の吸着剤は篩い分け法による測定値である。
【0020】
なお、吸着剤に含まれる水は、吸着剤と接触した溶媒に混入して溶媒と共に反応工程や濃縮工程に導入される場合がある。このため、吸着剤中の含水量は、5質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以下である。
吸着剤に含まれる水分は、使用前に予め公知の技術で除去してもよく、充填塔などに充填してからイソシアネート混合物の製造工程内の水分除去と同時に除去してもよい。
含水率は、公知の方法で測定することができる。例えば、公定標準測定法である乾燥減量法や赤外線水分計を用いて測定することができる。
本発明における含水率は乾燥減量法による測定値である。
【0021】
吸着剤の使用量は、吸着剤の粒径や溶媒中の金属量などによって変わるため一概には規定できないが、吸着剤1kg当たり不活性溶媒100〜10000kg、好ましくは100〜5000kgを処理することが好ましい。
また、処理温度は20〜200℃、好ましくは50〜200℃であり、処理圧力は0.01〜5MPa、好ましくは0.03〜3MPaである。処理時間は1〜200分間、好ましくは1〜120分間である。
以上説明した吸着処理によって、金属分、特に鉄分を10ppm以上含むイソシアネート混合物の製造量が減少する。
【0022】
本発明のイソシアネート混合物の製造方法は、上述したように、反応工程で還流する溶媒および/または濃縮工程で再利用される溶媒を吸着処理することに特徴があるため、その他の工程は、従来公知の手法と同様である。
イソシアネート混合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族ジイソシアネート混合物;イソホロンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート混合物;トルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の芳香族イソシアネート混合物等が挙げられ、これらに応じて適宜なアミン混合物が用いられる。
中でも、鉄分の影響が特に問題になるMDI混合物、具体的には、1分子中にベンゼン環およびイソシアネート基を各々2個有するイソシアネートを20〜70質量%、1分子中にベンゼン環およびイソシアネート基を各々3個以上有するイソシアネート系多核縮合体を80〜30質量%含有するMDI混合物に、本発明の方法を用いると効果的である。
【0023】
不活性溶媒は、一般的にイソシアネート混合物の製造に用いられるものであれば任意であり、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、シクロヘキサンなどを用いることができる。
濃縮工程後は、蒸留など常法に従って精製し、純粋なイソシアネート混合物を得ることができる(精製工程)。
なお、その他の製造条件、例えば、ホスゲン化反応条件、濃縮条件、蒸留条件などの諸条件は、製造するイソシアネート混合物に応じて、従来公知の条件を適宜採用すればよい。
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の一形態を説明する。
図1には、本発明のイソシアネート混合物の製造方法に用いられる製造装置1が示されている。
この製造装置1において、アミン混合物AおよびホスゲンBは、それぞれ不活性溶媒であるクロロベンゼンとともに反応槽10に導入され、加熱還流条件下でホスゲン化反応が行われる(反応工程)。
この際、クロロベンゼンは、アミン混合物AとホスゲンBとの反応により副生した塩化水素や、余剰のホスゲンBなどの酸性化合物とともに、第1熱交換器11に送られた後、第1溶媒回収タンク12で回収される。
【0025】
回収されたクロロベンゼンおよび酸性化合物は、平均粒径2mmの活性炭13A 500kgが充填された第1吸着剤充填塔13の下部から導入され、その内部で活性炭13Aによって吸着処理される(通液速度60kg/分、処理温度80℃)。この処理によって、酸性化合物による腐食や侵食によって熱交換器11や回収タンク12などからクロロベンゼン中に溶出した鉄分などの金属分が除去される。
吸着処理後のクロロベンゼンは第1吸着剤充填塔13の上部から排出され、再度反応槽10に戻される。
【0026】
反応工程終了後、生成したイソシアネート混合物、酸性化合物およびクロロベンゼンを含む反応工程液は濃縮槽20へ送られて濃縮される(濃縮工程)。
この工程で留去されたクロロベンゼンおよび酸性化合物は、第2熱交換器21に送られた後、第2溶媒回収タンク22で回収される。
回収されたクロロベンゼンおよび酸性化合物は、反応工程と同様に、平均粒径2mmの活性炭23A 500kgが充填された第2吸着剤充填塔23の下部から導入され、その内部で活性炭23Aによって吸着処理される(通液速度60kg/分、処理温度80℃)。この処理によって、酸性化合物による腐食や侵食によって熱交換器21や回収タンク22などからクロロベンゼン中に溶出した鉄分などの金属分が除去される。
吸着処理後のクロロベンゼンは第2吸着剤充填塔23の上部から排出され、再度濃縮槽20に戻される。
濃縮工程終了後、粗イソシアネート混合物は、蒸留塔30へ送られ、ここで留出分である低沸点化合物等と分離精製され、残留分としてイソシアネート混合物Cが得られる(精製工程)。
【0027】
なお、上記実施形態では、反応工程および濃縮工程において、吸着処理はそれぞれ1回しか行われていないが、これに限定されるものではない。
すなわち、吸着剤充填塔を複数設けて複数回吸着処理することもでき、この際、複数の充填塔は、直列に配設しても、並列に配設してもよい。
また、吸着処理時の通液速度や処理温度も上記の値に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
さらに、反応工程と濃縮工程とを別々の槽内で行っていたが、これらを同一の槽で行う、すなわち、反応槽内で濃縮工程を行うこともできる。
その他、製造設備の構成や製造条件などは、本発明の目的を達成し得る限りにおいて、適宜変更することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、鉄含有量の測定は原子吸光光度計(AA−6800,(株)島津製作所製)を用いた。また、特に記載がない限り、温度は全て摂氏温度、パーセントは全て質量パーセントである。
【0029】
[実施例1]
アミン混合物AであるポリメチレンポリフェニルポリアミンとホスゲンBとをクロロベンゼンとともに反応槽10へ導入し、常法に従ってホスゲン化反応を行った。次いで、ホスゲン化後の反応工程液を濃縮槽20へ導入して、イソシアネート混合物から、過剰のホスゲン、副生した塩化水素およびクロロベンゼンを分離して、イソシアネート混合物を得る濃縮を行った。次いで、この濃縮液を蒸留塔30へ導入して、蒸留による留出分と残留分との分離により、MDI混合物Cを得た。
この際、第1吸着剤充填塔13および第2吸着剤充填塔23には、それぞれ活性炭(クラレケミカル社製活性炭KW、平均粒径2mm、含水率3.0質量%)500kgを充填し、クロロベンゼン(鉄含有量50ppm)を80℃、60kg/分で第1吸着剤充填塔13および第2吸着剤充填塔23を通して吸着処理した。
【0030】
上記の製造を6日間連続して行ったところ、6日後の吸着処理後に反応槽10および濃縮槽20へ戻るクロロベンゼン中から鉄分は検出されなかった。
そして、6日間における鉄分を10ppm以上含有するMDI混合物の製造量は、全製造量の30%であり、6日間において製造された全MDI混合物における鉄分の平均含有量は12ppmであった。
【0031】
[実施例2]
活性炭(クレハ社製球状活性炭、平均粒径1mm、含水率2.9質量%)を用いた以外は、実施例1と同様にしてイソシアネート混合物を製造した。
その結果、6日間における鉄分を10ppm以上含有するMDI混合物の製造量は、全製造量の30%であり、6日間で製造された全MDI混合物における鉄分の平均含有量は12ppmであった。
【0032】
[実施例3]
活性炭(クラレケミカル社製クラレコール4GS、平均粒径4mm、含水率3.0質量%)を用いた以外は、実施例1と同様にしてイソシアネート混合物を製造した。
その結果、6日間における鉄分を10ppm以上含有するMDI混合物の製造量は、全製造量の40%であり、6日間で製造された全MDI混合物における鉄分の平均含有量は15ppmであった。
【0033】
[実施例4]
活性炭(ツルミコール社製ツルミコール4GV、平均粒径4mm、含水率3.0質量%)を用いた以外は、実施例1と同様にしてイソシアネート混合物を製造した。
その結果、6日間における鉄分を10ppm以上含有すMDI混合物の製造量は、全製造量の40%であり、6日間で製造された全MDI混合物における鉄分の平均含有量は15ppmであった。
【0034】
[実施例5]
活性炭(クラレケミカル社製クラレコール7GS、平均粒径7mm、含水率2.4質量%)を用いた以外は、実施例1と同様にしてイソシアネート混合物を製造した。
その結果、6日間における鉄分を10ppm以上含有するMDI混合物の製造量は、全製造量の50%であり、6日間で製造された全MDI混合物における鉄分の平均含有量は20ppmであった。
【0035】
[実施例6]
第1吸着剤充填塔13で50ppmの鉄を含むクロロベンゼンを処理せず、そのまま反応槽10に戻した以外は、実施例1と同様の処理を行った。
その結果、6日間における鉄分を10ppm以上含有するイソシアネート混合物の製造量は、全イソシアネート混合物の製造量の50%であり、6日間において製造された全イソシアネート混合物における鉄分の平均含有量は18ppmであった。
【0036】
[実施例7]
第2吸着剤充填塔23で50ppmの鉄を含むクロロベンゼンを処理せず、そのまま濃縮槽20に戻した以外は、実施例1と同様の処理を行った。
その結果、6日間における鉄分を10ppm以上含有するイソシアネート混合物の製造量は、全イソシアネート混合物の製造量の60%であり、6日間において製造された全イソシアネート混合物における鉄分の平均含有量は25ppmであった。
【0037】
[実施例8]
活性炭の代わりに活性白土(水澤化学社製、ガレオナイト、粒径2mm、含水率3.0質量%)を第1吸着剤充填塔13および第2吸着剤充填塔23に充填した以外は、実施例1と同様の処理を行った。
その結果、6日間における鉄分を10ppm以上含有するイソシアネート混合物の製造量は、全イソシアネート混合物の製造量の50%であり、6日間において製造された全イソシアネート混合物における鉄分の平均含有量は18ppmであった。
【0038】
[実施例9]
活性炭の代わりにゼオライト(東ソー社製、HSZ−930−HOA、粒径2mm、含水率2.9質量%)を第1吸着剤充填塔13および第2吸着剤充填塔23に充填した以外は、実施例1と同様の処理を行った。
その結果、6日間における鉄分を10ppm以上含有するイソシアネート混合物の製造量は、全イソシアネート混合物の製造量の40%であり、6日間において製造された全イソシアネート混合物における鉄分の平均含有量は15ppmであった。
【0039】
[比較例1]
第1吸着剤充填塔13および第2吸着剤充填塔23でクロロベンゼンを処理せず、そのまま反応槽10および濃縮槽20に戻してMDI混合物を製造した。
その結果、6日間における鉄分を10ppm以上含有するMDI混合物の製造量は、全製造量の90%であり、6日間で製造された全MDI混合物における鉄分の平均含有量は100ppmであった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係るイソシアネート混合物の製造方法に用いられる装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0041】
1 イソシアネート混合物製造装置
10 反応槽
13 第1吸着剤充填塔
20 濃縮槽
23 第2吸着剤充填塔
13A,23A 吸着剤
30 蒸留塔
A アミン混合物
B ホスゲン
C イソシアネート混合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン混合物、ホスゲンおよび不活性溶媒を反応槽内に導入し、前記アミン混合物およびホスゲンを反応させてイソシアネート混合物を合成する反応工程と、このイソシアネート混合物、前記不活性溶媒並びに前記反応により副生した塩化水素および/または余剰のホスゲン等の酸性化合物からなる反応工程液を濃縮槽で濃縮して前記反応工程液から前記不活性溶媒および酸性化合物を留去する濃縮工程と、を備え、
前記反応工程では、前記不活性溶媒が還流する条件下で前記反応が行われるとともに、前記濃縮工程では、留去された前記不活性溶媒の少なくとも一部が前記濃縮槽内に再び戻されるイソシアネート混合物の製造方法であって、
前記還流する不活性溶媒および前記濃縮槽内に再び戻される不活性溶媒の少なくとも一方が、それぞれの槽内に導入される前に吸着剤で処理されることを特徴とするイソシアネート混合物の製造方法。
【請求項2】
前記還流する不活性溶媒および前記濃縮槽内に再び戻される不活性溶媒の双方が、それぞれの槽内に導入される前に吸着剤で処理される請求項1記載のイソシアネート混合物の製造方法。
【請求項3】
前記吸着剤での処理が、前記吸着剤を充填した充填塔に前記不活性溶媒を通すことで行われる請求項1または2記載のイソシアネート混合物の製造方法。
【請求項4】
前記吸着剤が、活性炭、活性白土またはゼオライトである請求項1〜3のいずれか1項記載のイソシアネート混合物の製造方法。
【請求項5】
前記吸着剤が、活性炭である請求項4記載のイソシアネート混合物の製造方法。
【請求項6】
前記吸着剤の平均粒径が、0.01〜20mmである請求項1〜5のいずれか1項記載のイソシアネート混合物の製造方法。
【請求項7】
前記吸着剤での処理温度が、20〜200℃である請求項1〜6のいずれか1項記載のイソシアネート混合物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−47503(P2010−47503A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212109(P2008−212109)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】