説明

イソチオシアネート変敗防止剤及びそれらの使用方法

感湿性のイソチオシアネート化合物及び吸湿性担体を含む固形食品の変敗を防止するための組成物であって、前記組成物は、ソルビン酸、安息香酸、及びそれらの塩を実質的に含まない。上述の変敗防止用組成物を含有する固形食品、及び感湿性のイソチオシアネートを固形食品に添加する工程と、得られた製品を低温で変敗を防止する工程を含む、固形食品の変敗防止方法もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品製品の変敗を防止するのに特に有用な感湿性のイソチオシアネート変敗防止剤を含む組成物に関する。本発明は更に、これらの変敗防止用組成物で処理された食品製品、並びに上記イソチオシアネート変敗防止剤を利用する工程を含む製品の変敗防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者製品は、迅速な微生物増殖に適した環境を提供する可能性がある。このような汚染は、製造中又は包装中の製品の故意でない微生物の植菌から生じることがあり、またそのような場合が多い。例えば食品製品における腐敗微生物はその後、製品によって提供される栄養素を餌にすることによって迅速に増殖する可能性がある。
【0003】
変敗防止剤、例えば、ソルベート類、ベンゾエート類、有機酸類、及びそれらの組み合わせは、ある程度の微生物阻害を提供するために、種々の製品、特に食品及び飲料において使用されている。しかし、微生物増殖を阻害するのに有効な濃度で、これらの変敗防止剤のいくつかは、製品中で異臭に寄与し、その意図される目的についてその製品を所望でないものにする場合がある。同様に、天然変敗防止剤、例えば、ナタマイシンは、微生物増殖を阻害するために食品及び飲料製品において頻繁に使用される。残念ながら、これらの天然変敗防止剤は酵母又は細菌のいずれかに対して有効であり得るが、酵母及び細菌の両方に有効ではない場合が多い。
【0004】
カラシナの精油が、イソチオシアネートを含有し、経口治療及び特定の食品において抗菌効果及び抗かび効果を示すことが開示されている。例えば、米国特許第5,334,373号(セキヤマ(Sekiyama)ら、ニッポンサンソ社(Nippon Sanso Corp.)、1994年8月2日発行);及び、米国特許第3,998,964号(マダウス(Madaus)ら、1976年12月21日発行)を参照。カラシ精油中のイソチオシアネート化合物は、抗菌効果を提供する活性薬剤である。白カラシナ又は黄カラシナ(シナピスアルバ(Sinapis alba)又はブラッシカアルバ(Brassica alba))由来の精油は更に、上記の抗菌の利益及び抗かびの利益を提供するが、白カラシ精油は粘稠な油であり、それ故に固形食品内又は固形食品表面に均一に分散することが難しいことは当該技術分野において既知である。更に、イソチオシアネート化合物は、比較的低い使用レベルで有効な抗菌剤である。それ故に、固形食品マトリックス内又は固形食品の表面にこのような低いレベルで均一に分配することが難しい場合がある。更に、白カラシ精油中に存在する主なイソチオシアネートである4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートは、水分に暴露されてから数時間以内に分解(すなわち加水分解)し始める感湿性の化合物である。分解すると、4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートは、他の化合物の中で、4−ヒドロキシベンジルアルコールを形成する。
【0005】
現在、カラシナ加工産業は、白カラシ粉を主に利用する一方、その精油はほとんど無視される。実際には、白カラシ粉をカラシの「加熱」感覚なく利用するために、磨砕したカラシ粉を熱不活性化工程に供する。ここで、酵素ミロシナーゼは、前駆体4−ヒドロキシベンジルグルコシノレートからの4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートの形成を触媒するが、粉が湿った食品製品、例えば肉及びソーセージと混合される場合、精油を形成しないように意図的に不活性化される。更に、その不安定性のために、4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートは、天然産物としても純粋な化学物質としても、現在市販されていない。
【0006】
それ故に、上記の全ての理由のために、白カラシ精油は、その抗菌効果及び抗かび効果について当該技術分野において広範囲に知られていないか又は広く利用されていない。これは、固形食品において、白カラシ精油の均一な分散が困難であり得る点において、また、貯蔵期間の延長、従って水分への暴露時間の延長が必要であり得る点について、特に真実である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本願発明者らは意外にも、磨砕したカラシナに水を添加することによって白カラシ精油を精製し、溶媒又は超臨界体を用いて白カラシ精油を抽出し、残留水分を除去することによって精油を迅速に乾燥し、次いで、得られた白カラシ精油を吸湿性担体と密にブレンドすることによって、それらに含有される感湿性のイソチオシアネート化合物が安定化することを発見した。従って、白カラシ精油と吸湿性担体とのブレンドは、その後に、固形食品のための有効な抗菌剤及び抗かび剤として使用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
a.感湿性のイソチオシアネート化合物;及び
b.吸湿性担体を含み;
ソルビン酸、安息香酸、及びそれらの塩を実質的に含まない、固形食品の変敗を防止するための組成物に関する。
【0009】
更に、本発明は、変敗防止用組成物が、ソルビン酸、安息香酸、及びそれらの塩を実質的に含まない、感湿性のイソチオシアネート化合物を含む前記変敗防止用組成物を添加した固形食品に関する。
【0010】
最後に、本発明は、
(a)固形食品を提供する工程;
(b)感湿性のイソチオシアネート化合物を含む変敗防止用組成物を前記固形食品に添加する工程;及び
(c)前記変敗防止用組成物を前記固形食品に添加してから2時間以内に、前記固形食品を約10℃以下にして少なくとも12時間保持する工程を含む、固形食品の変敗防止方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
刊行物及び特許はこの開示全体に渡って参照される。本明細書で引用された全ての参考文献は参考として本明細書に組み込まれる。
【0012】
本明細書中で使用される全てのパーセント、比、及び比率は、他に指定がない限り、重量基準である。
【0013】
本発明の記載において、様々な実施形態及び/又は個々の特徴が開示される。当業者に明らかであるように、このような実施形態及び特徴の全ての組み合わせが可能であり、それらの組み合わせは本発明の好ましい実行においてもたらすことができる。
【0014】
本明細書中の製品は、本明細書中に記載されるような要素のいずれかを含み、このような要素のいずれかから本質的になり、又はこのような要素のいずれかからなってもよい。
【0015】
I.用語の定義及び使用
以下に、本明細書で使用する用語に関する定義を列記する。
【0016】
本明細書で使用する時、用語「抗菌効果」は、製品が、微生物(例えば、酵母、細菌、菌、及び/又は真菌、好ましくは酵母及び/又は細菌)の増殖を阻害し、絶滅させ、及び/又は別の方法で微生物の存在を減らすことを意味する。
【0017】
本明細書で使用する時、「精油」は、油が引き出される植物で、その植物の特徴的な芳香に寄与する植物から蒸留又は抽出可能な一連の全ての化合物を指す。例えば、H.マクギー(H.McGee)、食物及び料理について(On Food and Cooking)、チャールススクリブナーズサンズ(Charles Scribner's Sons)、p.154〜157(1984)を参照。本発明に従って、精油は、好ましくは、感湿性のイソチオシアネート化合物、更に特定的には、4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートを産生可能な白カラシナ又は黄カラシナ(シナピスアルバ(Sinapis alba)又はブラッシカアルバ(Brassica alba))に由来する。
【0018】
本明細書で使用する時、用語「吸湿性担体」は、水分を呼び込み、吸収し、結合可能な基質を意味する。このような基質は、液体、粉末又は顆粒状の固形形態であってもよい。
【0019】
本明細書で使用する時、用語「感湿性の」は、イソチオシアネート化合物が水存在下で分解することを意味する。この分解は、加水分解反応を介して進行し、水存在下で、活性なイソチオシアネート抗菌剤のレベルを保存時間にともなって減少させる。感湿性を決定する方法は、以下の試験方法の章で記載される。感湿性のイソチオシアネートは、イソチオシアネート化合物の濃度が、約3.6のpHを有するホスフェート緩衝水溶液中に約20〜約23℃の温度で24時間懸濁された場合に、開始濃度の少なくとも約20%減少することによって特徴付けられる。
【0020】
本明細書で使用する時、用語「天然成分」は、対応する精油を参照して、天然に生じる精油から得られる本発明において利用される成分を指す。
【0021】
本明細書で使用する時、用語「固形食品」は、その製品の貯蔵に典型的な温度で重力下で容易に流動しない食用の摂取可能な組成物を指す。固形食品の例としては、これらに限定されないが、果物類、野菜類、肉類(例えば、牛肉、豚肉、鶏肉、及び魚)、ナチュラルチーズ類及びプロセスチーズ類、焼いた食品類、スナック食品類、マーガリン類、スプレッド類、及びゲル状の食品組成物類が挙げられる。本発明において記載される変敗防止用組成物は、更に、最終的な固形食品にブレンドされ、混合され、注入され、又は別の方法で組み込まれることが意図される液体製品において利用されるか、又は固形食品の表面に適用されてもよい。例としては、固形食品、例えば、肉類、鶏肉、魚、及び野菜類に添加されることが意図される、マリネ液類、食塩水溶液、軟化液、ドレッシング類、ソース類、グレイビー類などが挙げられる。
【0022】
本明細書で使用する時、用語「ソルベート、ベンゾエート、及びそれらの塩を実質的に含まない」は、変敗防止用組成物がソルベート、ベンゾエート、及びそれらの塩を約0.0005重量%未満(すなわち、約5ppm未満)含むことを意味する。
【0023】
II.本発明の組成物
1つの態様では、本発明は、固形食品中又は固形食品上で使用するための以下の変敗防止剤系を含む組成物に関する:
a.感湿性のイソチオシアネート化合物;及び
b.吸湿性担体であって;
前記組成物は、ソルビン酸、安息香酸、及びそれらの塩を実質的に含まない。
【0024】
a.イソチオシアネート化合物
本発明に従って、前記製品は、白カラシ精油中に見出される感湿性のイソチオシアネート化合物(すなわち、−N=C=S部分を有する化合物)、例えば、化合物4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートを含む固形食品の変敗を防止するための組成物を含む。このような化合物は、食品製品において有利な抗菌活性を有するものとして以前に確認されているが、それらは、既知の変敗防止剤である安息香酸、ソルビン酸又はそれらの塩と組み合わせて使用されることが多い。この理由として考えられるのは、完全に認識されていない水分により誘発される加水分解に対する固有の感湿性であり、従って追加の変敗防止剤が必要な点である。しかし、感湿性のイソチオシアネート化合物、例えば、白カラシ精油中の4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートと、水分を呼び込み、吸収し、結合する吸湿性担体とを混合することによって、本願出願人らは、感湿性のイソチオシアネートを貯蔵中に安定化することができることを発見した。結果として、イソチオシアネートが存在し、食品製品を変敗を防止するための変敗防止用組成物の使用中に活性である。重要なことに、吸湿性担体は、更に、固形食品マトリックス全体で、又は固形食品の表面で、感湿性のイソチオシアネートの均一な分布を助ける希釈剤として作用する。吸湿性担体のこの希釈剤としての機能は、感湿性のイソチオシアネートが比較的低い使用レベルで有効な抗菌剤であり、このような低いレベルで希釈剤を使用することなく固形食品内又は表面に均一に分配することが困難であり得るため、特に重要である。
【0025】
いずれかの感湿性のイソチオシアネートが本発明の組成物において使用可能であるが、4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートの使用が特に好ましい。
【0026】
使用される感湿性のイソチオシアネートにかかわらず、本願発明者らは、比較的低いレベルの本化合物が本発明の組成物及び方法において所望の抗菌効果を生じることを発見した。この観点において、イソチオシアネート化合物が、組成物の全重量の約0.0025%〜約10%、更に好ましくは約0.005%〜約8%、なお更に好ましくは約0.01%〜約6%、なお更に好ましくは約0.1%〜約4%の量で変敗防止用組成物中に存在することが好ましい。
【0027】
−N=C=S部分を有するあらゆる感湿性のイソチオシアネート化合物が、本発明において使用されてもよい。好ましくは、本組成物において使用されるイソチオシアネート化合物は以下の構造を有する:
【0028】
【化1】

【0029】
ここで、Rは、4−ヒドロキシベンジル又はパラ−ヒドロキシベンジル部分である。この構造は、4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネート又はp−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートとして一般的に知られており、合成によって得られるか、又は例えば白カラシナから天然に得られてもよい。
【0030】
本発明に従えば、感湿性のイソチオシアネート化合物を含む成分が、白カラシナ又は黄カラシナ(シナピスアルバ(Sinapis alba)又はブラッシカアルバ(Brassica alba))科の精油、精油の天然成分、又は精油の合成成分(全て以下で詳細に記載される)であることが好ましい。既知のように、ブラッシカ(Brassica)科の植物は、約2000の種及び300を超える属を有する小さな科である(例えば、天然食品抗微生物系(Natural Food Antimicrobial Systems)、A.S.ナイズ(A.S.Naidu)編、CRCプレスLLC(CRC Press LLC)、pp.399〜416、2000を参照)。あるいは、感湿性のイソチオシアネート化合物を含む成分は、感湿性のイソチオシアネート化合物を産生し得るいずれかの他の科の植物の精油、精油の天然成分、又は精油の合成成分であってもよい。例えば、食品化学(Food Chemistry)、O.R.フェネマ(O.R.Fennema)編、マーセルデッカー社(Marcel Dekker,Inc.)、pp.602〜603(1985)及び食品中の天然に生じる抗菌剤(Naturally Occurring Antimicrobials in Food)、農業科学・技術協議会(Council for Agricultural Science and Technology)、pp.31〜32(1998)を参照。
【0031】
本発明に従って、精油、又は最も好ましくはそれらの天然成分を、食品製品中で容易に利用され得る本組成物の成分として利用することが好ましい。精油又はそれらの天然成分が本製品の成分として使用される場合、油は、好ましくは、ブラッシカ(Brassica)科のメンバーである植物;非限定的な好ましい例は4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートである。本明細書で使用する時、「精油」は、油が引き出される植物、その植物の特徴的な芳香に寄与する植物から蒸留又は抽出可能な一連の全ての化合物を指す。例えば、H.マクギー(H.McGee)、食物及び調理について(On Food and Cooking)、チャールス スクリブナーズ サンズ(Charles Scribner's Sons)、p.154〜157(1984)を参照。本発明に従って、精油は、好ましくは、イソチオシアネート化合物を産生可能なグルコシノレート化合物に由来し(例えば、酵素ミロシナーゼによって1つ以上のグルコシノレートの触媒加水分解を介して)、ここで、前駆体及び酵素を含有する植物組織を均質化し、磨砕し、破砕し、プレスし、ないしは別の方法で破壊する。ブラッシカ(Brassica)科の植物に由来する精油は、一般的に当該技術分野において既知の手順を用いて得られる。
【0032】
当該技術分野において既知であるように、例えばブラッシカ(Brassica)種のいずれかの種子及び/又は花(好ましくは種子)は、対応する精油の1つ以上の前駆体(例えばグルコシノレート)を活性化するために、均質化され、磨砕され、破砕され、プレスされ、ないしは別の方法で破壊されてもよい。油からのイソチオシアネート化合物製造は、例えば、植物、それらの種子及び/又は花を均質化し、磨砕し、破砕し、プレスし、ないしは別の方法で破壊する際に、酵素触媒によって生じることが知られている。例えば、PCT国際公開特許WO94/01121(コンカノン(Concannon)、1994年1月20日公開)及びブラウン(Brown)ら、「生物除草剤としてのグルコシノレート含有植物組織(Glucosinolate-Containing Plant Tissues as Bioherbicides)」、農業食品化学誌(Journal of Agricultural Food Chemistry)、第43巻、pp.3070〜3074(1995)を参照。グルコシノレートとの相互作用の際にイソチオシアネート化合物の産生に関与することが一般的に知られている酵素はミロシナーゼであり、これはチオグルコシドグルコヒドロラーゼとしても知られている(酵素分類番号EC3.2.3.1を有する)。ミロシナーゼは、種々のグルコシノレートについて非特定的であることが知られている。
【0033】
精油は、種々の既知の方法のいずれかによって得られてもよい。例えば、使用される植物は、均質化され、磨砕され、破砕され、プレスされ、ないしは別の方法で破壊され(例えば切断され)てもよく;次いで、精油は、有機溶媒、例えば、アルコール(例えばエタノール)又はジエチルエーテル又は酢酸エチル、又はプロピレングリコールのような化合物を用いて抽出されてもよい。例えば、オノ(Ono)ら、「大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を有する食品由来の化合物としての6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート及びそのホモログ(6-Methylsulfinylhexyl Isothiocyanate and Its Homologues as Food-originated Compounds with Antibacterial Activity against Escherichia coli and Staphylococcus aureus)」、生物科学、生命工学、及び生化学(Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry)、第62巻(2)、pp.363〜365(1998)を参照。あるいは、精油は、植物、それらの種子、花及び/又は他のいずれかの成分を均質化し、磨砕し、破砕し、プレスし、ないしは別の方法で破壊した後に、蒸留(例えば、その中に存在するイソチオシアネート化合物の揮発性に依存する蒸気蒸留)を介して得られてもよい。例えば、イッシキ(Isshiki)ら、「食品保存のためのアリルイソチオシアネート蒸気の予備的試験(Preliminary Examination of Allyl Isothiocyanate Vapor for Food Preservation)、生物科学、生命工学、及び生化学(Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry)、第56巻(9)、pp.1476〜1477(1992)を参照。
【0034】
あるいは、精油は、植物、それらの種子、花及び/又は他のいずれかの成分を均質化し、磨砕し、破砕し、プレスし、ないしは別の方法で破壊した後に、二酸化炭素のような超臨界流体を用いて抽出されてもよい。このようなプロセスは、米国特許第5,017,397号及び第5,120,558号に記載される。精油の抽出の際に、抽出物は、遠心分離、デカンテーション、モレキュラーシーブの通過、無水塩への暴露、又は真空下での乾燥によって抽出物から残留している水を除去することによって優先的に安定化される。
【0035】
1つ以上の感湿性のイソチオシアネート化合物、好ましくは、4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートを含有する精油自体は、次に、本発明の組成物及び方法において利用されてもよい。
【0036】
あるいは、精油の天然成分が利用されてもよく、ここで、精油は、好ましくは、ブラッシカ(Brassica)科の植物から引き出される。本明細書中で上に述べられるように、精油の天然成分は、1つ以上の感湿性のイソチオシアネート化合物(すなわち、−N=C=S部分を有する化合物)、好ましくは4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートを含むべきである。
【0037】
天然成分を精油から得る方法は、本発明にとって重要ではない。本発明に従って、天然成分は、感湿性のイソチオシアネート化合物を含むべきであり、精油から引き出されるさらなる成分を所望により含んでもよい。例えば、精油の天然成分は、1つ以上のイソチオシアネート化合物を得るための精油自体の標準的な精製、例えば、抽出、クロマトグラフィー、又は蒸留を介して得られてもよい。例えば、一般的なクロマトグラフィー技術(例えば、HPLC)が、精油の天然成分を得るために利用されてもよい。例えば、オノ(Ono)ら、「大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を有する食品由来の化合物としての6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート及びそのホモログ(6-Methylsulfinylhexyl Isothiocyanate and Its Homologues as Food-originated Compounds with Antibacterial Activity against Escherichia coli and Staphylococcus aureus)」、生物科学、生命工学、及び生化学(Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry)、第62巻(2)、pp.363〜365(1998)を参照。さらなる例として、一旦蒸留又は抽出された精油(精油自体)は、目的物ではない揮発性成分を除去するために、又は目的のイソチオシアネート化合物を除去するために、再び蒸留又は抽出されてもよい。本発明の好ましい一実施形態は、精油の天然成分を利用することである。
【0038】
本発明における精油又はその天然成分、精油の合成成分、好ましくはブラッシカ(Brassica)精油の利用に対する代替法が使用されてもよい。本明細書で使用する時、用語「合成成分」は対応する精油を参照して、ミロシナーゼを介して活性化された精油中で天然に生じるが、天然に生じる精油から抽出又は精製することなく合成技術を介して得られる、本発明において利用される成分を指す。本明細書中で上に述べられるように、精油の合成成分は、1つ以上の感湿性のイソチオシアネート化合物(すなわち、−N=C=S部分を有する化合物)、好ましくは4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートを含むべきである。
【0039】
種々の合成イソチオシアネート化合物は、例えば、アルドリッチケミカル社(Aldrich Chemical Co.)(ウィスコンシン州、ミルウォーキー(Milwaukee));フルカケミカル社(Fluka Chemical Co.)(ウィスコンシン州、ミルウォーキー(Milwaukee));シグマケミカル社(Sigma Chemical Co.)、(ミズーリ州セントルイス(St. Louis));及びランカスターシンセシス社(Lancaster Synthesis Inc.)、(ニューハンプシャー州ウィンダム(Windham))から商業的に得られてもよい。更に、イソチオシアネート化合物を調製する合成法は、当該技術分野において周知である。例えば、J.マーチ(J.March)、上級有機化学(Advanced Organic Chemistry)ジョン ウィリー アンド サンズ(John Wiley & Sons)(1992)を参照。更に、イソチオシアネート化合物の天然の製造は、1つ以上のグルコシノレート化合物を商業的に得て、いずれかのミロシナーゼ産生植物(上に議論されるような)から単離され得るか又は市販の(例えば、ミロシナーゼは、シグマケミカル社(Sigma Chemical Co.)、(ミズーリ州セントルイス(St. Louis))からチオグルコシダーゼとして市販されている)ミロシナーゼを導入することによって、合成的に模倣されてもよい。あるいは、イソチオシアネート化合物の天然の製造は、いずれかのグルコシノレート産生植物からグルコシノレート化合物を単離し、市販のミロシナーゼを導入することによって合成的に模倣されてもよい。
【0040】
b.吸湿性担体
上述のように、本発明において利用されるイソチオシアネート組成物は感湿性であり、水に暴露された際に分解する(すなわち加水分解する)ことを意味する。この特徴は、これらの化合物を含む変敗防止用処方物を食品保存分野において製造及び利用することが困難であることがわかっている理由の1つである。処方物の困難性に追加される別の要因は、白カラシ精油が粘稠であり、それ故に、固形食品マトリックス内又は固形食品表面に均一に分散することが困難な場合があるという事実である。更に、一般的にイソチオシアネート化合物、特に4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートは、比較的低い使用レベルで有効な抗菌剤である。それ故に、固形食品内又は固形食品の表面にイソチオシアネートをこのような低いレベルで均一に分配することが困難である場合がある。イソチオシアネートが有効な抗菌剤として作用するために、変敗防止剤が食品(例えば牛挽肉)内又は食品物品の表面(例えば肉、鶏肉、又は魚の無傷な切断面)に均一に分散することが好ましい。
【0041】
本願発明者らは驚くべきことに、上述の課題の両方、すなわち、固形食品内又は固形食品上の感湿性及び均一な分布が、吸湿性担体中にイソチオシアネートを希釈することによって対処されてもよいということを発見した。感湿性のイソチオシアネートを希釈することによる多くの方法が存在する。例えば、イソチオシアネート又はイソチオシアネートを含む精油は、液体吸湿性担体に溶解され、分散され、ないしは別の方法で均一にブレンドされてもよい。あるいは、イソチオシアネート又はイソチオシアネートを含む精油は、粉末又は顆粒の吸湿性担体の固体粒子とともに粉砕され、その上にプレート化され、ないしは別の方法でそれとともに密に混合される。粉砕は好ましいプロセスであり、ここで、イソチオシアネート又はイソチオシアネートを含む精油及び吸湿性粉末又は顆粒物質は、こすったり、磨砕することで粉砕及び/又は十分に微粉砕することによって密に混合される。イソチオシアネート又はイソチオシアネートを含む精油を粉末又は顆粒の吸湿性担体の固体粒子上にプレート化することは、イソチオシアネート又は精油のフィルム又はコーティングでこのような粒子の表面をコーティングするプロセスを指す。
【0042】
あらゆる数の吸湿性物質が、本発明において使用されてもよい。担体として使用するのに適した液体吸湿性物質としては、これらに限定されないが、グリセリン、ポリエチレングリコール、及びプロピレングリコールが挙げられる。担体として使用するのに適した粉末又は顆粒の固形吸湿性物質としては、これらに限定されないが、多糖類(マルトデキストリン、デンプン、及び微結晶セルロースを含む)、オリゴ糖類、糖類(グルコース、フルクトース、ショ糖、マルトース、及びラクトースを含む)、糖アルコール類(マンニトール、マルチトール、エリスリトール、及びソルビトールを含む)、塩、二酸化ケイ素(沈殿シリカ及び燻蒸シリカを含む)、及び固化防止剤及び/又は流動剤(アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸三カルシウム、及び炭酸マグネシウムを含む)が挙げられる。特に好ましい担体はマルトデキストリン及びグリセリンである。使用される吸湿性担体の種類は、変敗防止用組成物のための最終的な適用に依存する。例えば、多くの使用のために、好ましい担体は、変敗防止用組成物の取り扱い及び運搬の容易さのために、粉末又は顆粒の固形物質の1つ、特にマルトデキストリンである。しかし、押し出されるか又は注入される能力のために、及び/又は固形食品の表面の有効なコーティングのために重要であり得る流動性のために、液体変敗防止用組成物が好ましくあり得る特定の例が存在する場合がある。例えば、吸湿性担体としてのグリセリンの使用は、変敗防止用組成物が牛挽肉製品にブレンドされる場合、特に有効である場合があり、この時、変敗防止用組成物が流動し、個々の牛挽肉を均一にコーティングする能力は有利である場合がある。
【0043】
変敗防止用組成物は、典型的には、約90重量%〜約99.9重量%の吸湿性担体を含む。典型的には、組成物は、約92重量%〜約99.9重量%、更に典型的には約94重量%〜約99.9重量%、なお更に典型的には約96重量%〜約99.9重量%の吸湿性担体を含む。
【0044】
3.本発明の変敗防止用組成物を含む食品
別の態様では、本発明は、本明細書中に記載される変敗防止用組成物で処理される固形食品を対象とする。この観点では、感湿性のイソチオシアネート化合物、好ましくは4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートは、典型的には、固形食品の約0.001重量%〜約0.06重量%の量で存在する。更に典型的には、感湿性のイソチオシアネート化合物は、固形食品の約0.003重量%〜約0.05重量%、なお更に典型的には約0.005重量%〜約0.04重量%の量で存在する。
【0045】
固形食品にイソチオシアネート変敗防止用組成物を添加する種々の方法が存在し、その方法としては、これらに限定されないが、固形食品マトリックス(例えば牛挽肉)内にブレンド、ないしは別の方法で混合する方法、又はイソチオシアネート変敗防止用組成物を含む液体溶液又は分散液(例えば、洗浄溶液、食塩水溶液、軟化液、又はマリネ液)を調製し、その中に固形食品(例えば、果物、野菜、又は肉、鶏肉、又は魚の切片)を浸漬又は液漬して、変敗防止剤を表面に適用する方法が挙げられる。あるいは、イソチオシアネート変敗防止用組成物を含む液体溶液又は分散液(例えば、食塩水溶液、軟化液、又はマリネ液)は、固形食品(例えば、牛肉又は鶏肉体)の表面にスプレーされ、刷毛で塗られ、ないしは別の方法でコーティングされてもよく、又は、加圧注入又は真空タンブリングによって固形食品の内側に組み込まれてもよい。加圧注入及び真空タンブリングは、肉、例えば、牛肉、豚肉、鶏肉、及び魚の無傷の切片にイソチオシアネート変敗防止用組成物を組み込むために特に好ましい方法である。イソチオシアネート変敗防止用組成物は更に、包装材料と固形食品との間の密な接触のために、固形食品の包装に使用される物質に組み込まれてもよく、変敗防止用組成物を食品製品の表面に移行させることができる。このような包装材料の非限定的な例としては、小売分売を目的とする肉、例えば、鶏肉の切片の下に置かれる吸収パッドが挙げられる。
【0046】
4.本発明の方法
本発明は更に、
(a)固形食品を提供する工程;
(b)感湿性のイソチオシアネート化合物を含む変敗防止用組成物を前記固形食品に添加する工程;及び
(c)前記変敗防止用組成物を前記固形食品に添加してから2時間以内に、前記固形食品の温度を約10℃以下にして少なくとも約12時間保持する工程を含む、固形食品の変敗防止方法に関する。
【0047】
本発明に従って、上記の方法は、食品製品、好ましくは固形食品の変敗防止に関する。固形食品の非限定的な例としては、これらに限定されないが、果物類、野菜類、肉類(例えば、牛肉、豚肉、鶏肉、及び魚)、ナチュラルチーズ類及びプロセスチーズ類、焼いた食品類、スナック食品類、マーガリン類、スプレッド類、及びゲル状の食品組成物類が挙げられる。本発明において記載される変敗防止用組成物は更に、最終的な固形食品にブレンドされ、混合され、注入され、ないしは別の方法で組み込まれることが意図される液体製品において利用されるか、又は固形食品の表面に適用されてもよい。例としては、固形食品、例えば、肉類、鶏肉、魚、及び野菜類に添加されることが意図される、マリネ液類、食塩水溶液、軟化液、ドレッシング類、ソース類、グレイビー類などが挙げられる。
【0048】
更に、本願発明者らは、意外にも、感湿性のイソチオシアネート化合物、好ましくは4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートの残留時間が、上述されたいずれかの手段によってイソチオシアネート変敗防止用組成物を固形食品に最初に添加し、次いで、約10℃以下、好ましくは約7.5℃以下、更に好ましくは約5℃以下にして食品製品を保持することによって延長される場合があることを発見した。低温で固形食品を保存した結果として、感湿性のイソチオシアネートの分解(すなわち加水分解)速度が減少する。結果として、活性なイソチオシアネート抗菌剤化合物の残留時間又は寿命が延長され、得られる抗菌剤の効力が高まる。
【0049】
イソチオシアネート変敗防止用組成物を含む上述の液体溶液又は分散液(例えば、洗浄溶液、食塩水溶液、軟化液、又はマリネ液)が固形食品に変敗防止剤を添加するために利用される場合、感湿性のイソチオシアネートの分解を最小限にするために低い温度で溶液又は分散液を保持することが好ましい。好ましくは、溶液又は分散液は、約10℃未満、更に好ましくは約7.5℃未満、最も好ましくは約5℃未満の温度に保持される。更に、イソチオシアネート変敗防止用組成物を含む液体溶液又は分散液は、感湿性のイソチオシアネートの分解速度を最小限にするために、好ましくは、約2〜5のpH、更に好ましくはpH3〜4.5を有する。液体溶液又は分散液は、所望により、固形食品表面上での溶液又は分散液の広がりを向上し、均一な適用を達成するために、添加された界面活性剤又は乳化剤を含有してもよい。
【0050】
固形食品は、必ずしもイソチオシアネート変敗防止用組成物を添加した直後に低い温度にさらされる必要はないが、低い温度に食品製品をさらす前に、約2時間以下、更に好ましくは約1時間以下、なお更に好ましくは約30分以下の時間が経過することが許される。固形食品がイソチオシアネート変敗防止用組成物を添加した後すぐに低い温度にさらされることが一般的に最も好ましい。一旦さらされると、食品製品の温度は、食品製品中又は食品製品上の感湿性のイソチオシアネート化合物の残留時間を延長するために、少なくとも約12時間、好ましくは少なくとも約24時間、更に好ましくは少なくとも約72時間、なお更に好ましくは少なくとも約120時間、この低いレベルで保持されるべきである。
【0051】
5.4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートの測定及び感湿性のイソチオシアネート化合物の識別のための試験方法
超臨界流体クロマトグラフィーを、変敗防止用組成物中の4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートの量を決定するために使用することができる。最初に、変敗防止用組成物の正確に秤量した量は、適合性溶媒、例えば、酢酸エチル又は酢酸エチル及びエタノール混合物に溶解されるか、又は固形変敗防止用組成物が酢酸エチルで繰り返し抽出される。
【0052】
これらの溶液は、バスコフ.S(Buskov,S.)ら、「4−ヒドロキシベンジルグルコシノレート分解生成物の決定のための分析方法としての超臨界流体クロマトグラフィー(Supercritical fluid chromatography as a method of analysis for the determination of 4-hydroxybenzylglucosinolate degradation products)」、生化学法及び生物物理学法誌(Journal of Biochemical and Biophysical Methods)、第43巻、pp.157〜174(2000)に記載される方法と以下の改変とを用いて、超臨界流体クロマトグラフィーによって分析される。光ダイオードアレイ検出器を取りつけたBerger SFC 3Dシステム(バーガーインスツルメンツ社(Berger Instruments Inc.)、デラウェア州ニューアーク(Newark)、DE)が分析のために使用される。内部標準としてブチルパラベンを含有する酢酸エチル溶液(10μL)は、シアノカラム(内径15cm×5mm、粒径5μm、フェノメネックス(Phenomenex)、カリフォルニア州トランス(Torrance)、CA)に注入される。オーブン温度は50℃である。移動相は、20MPa(200Bar)の圧力に保持され、2mL/分で押し出される、変性剤として4%MeOHを含むCO2である。溶出液は、226nm及び252nmで検出される。4−ヒドロキシベンジル−イソチオシアネートは、約3.8分後に溶出する。その同一性は、以下の様式によって調製される合成4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートの純粋なサンプルをクロマトグラフにかけることによって確認される。
【0053】
ソールデード,M.(Soledade,M.)、ペドラス,C.(Pedras,C.)及びスミス,K.C.(Smith,K.C.)、タイトル「デストルシンB及びアルテルナリアブラッシケーンによって誘発される全カラシからのシナレキシン、フィトアレキシン(Sinalexin,phytoalexin from whole mustard elicited by destrucin B and Alternaria brassicane)」、植物光学(Phytochemistry)、46(5)、p.833〜837、1997によって記載される方法が改善され、以下のように使用される。100mL丸底フラスコ中で、トリホスゲン(1.1g、9.56mmol)をクロロホルム(20mL)に溶解する。続いて、メタノール(20mL)に溶解したp−ヒドロキシベンジルアミン(400mg、3.25mmol)及びトリエチルアミン(820mg、8.1mmol)の溶液を、氷浴を用いて0〜4℃に維持した攪拌溶液に滴下する。約30分後、添加を終了し、混合物を氷浴で更に10分間維持する。反応後、移動相としてFCC溶出液を用いてシリカゲル60254での薄層クロマトグラフィーにかけた。続いて、溶媒を、45℃で回転蒸発によって減圧下で除去し、残渣をジクロロメタン−酢酸エチル(49+1;4mL)の混合物に溶解する。化合物は、スティル,W.C.(Still,W.C.)、カーン,M.(Kahn,M.)及びミトラ A.J.(Mitra A.J.)、「中程度の解像度を持つ分離のための迅速なクロマトグラフ法(Rapid chromatographic method for separation with moderate resolution)」、有機化学(Organic Chemistry)、14、pp.2923〜2925、1978によって記載されるようなフラッシュカラムクロマトグラフィー及びその修正によって更に精製される。移動相でカラムを流した後、移動相(4mL)に溶解した反応生成物は、カラムの一番上に置かれる。溶出は、溶媒ヘッドを約5.08cm/分(2インチ/分)に下げるような様式でアルゴン過剰圧を調整することによって行われる。アリコート10mLを集める。標的化合物は、通常はフラクション6〜10で溶出する。フラクションをあわせ、溶媒を減圧下45℃で回転蒸発によって蒸発させた後、黄色油状物が得られる(典型的な収率:66%)。4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートの構造は、CDCl3中のH1−NMR、CDCl3中のC13−NMR、及び電子衝撃モードで操作するGC−MSによって確認される。
【0054】
感湿性のイソチオシアネート化合物は、イソチオシアネート含有物質をリン酸緩衝水溶液(pH約3.6)に室温で懸濁することによって同定される。得られた懸濁液を十分に振り混ぜ、0時間のサンプルを分液漏斗に抜き取り、酢酸エチルで抽出する。この抽出物は、酢酸エチルを更に2容積用いて繰り返す。分離した酢酸エチル層をプールし、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、0時間のイソチオシアネート濃度を超臨界流体クロマトグラフィーで分析するまで凍結しておく。イソチオシアネート化合物が加水分解する感湿性を決定するために、イソチオシアネート懸濁液を約20℃〜約23℃の温度で約24時間保存する。抽出手順が24時間後に繰り返され、残留イソチオシアネート化合物のレベルは、超臨界流体クロマトグラフィーによって測定される。感湿性のイソチオシアネート化合物は、0時間の濃度又は開始濃度と比較して、約24時間後のイソチオシアネートの濃度が少なくとも約20%減少することによって特徴付けられる。
【0055】
6.実施例
(実施例1)
白カラシ精油は、当該技術分野において記載される既知のプロセスに従って、粉砕した白カラシ種子に水を添加し、次に超臨界二酸化炭素を用いて精油を抽出することによって精製される。抽出の直後、残留水分を遠心分離によって、及び真空下で乾燥することによって精油から除去し、真空下で乾燥する。得られた白カラシ精油は、約25重量%の4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートを含有する。精油をリン酸緩衝水溶液(pH約3.6)中に室温(約20〜23℃)で懸濁させ、以下の章に記載されるように、4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートのレベルを0時間及び貯蔵約24時間後に測定する。24時間後の4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートのレベルの減少率は約72%である。それ故に、4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートは感湿性のイソチオシアネート化合物である。
【0056】
(実施例2)
液体変敗防止用組成物は、実施例1の白カラシ精油とグリセリンとを以下の処方に従ってブレンドすることによって調製される。
【0057】
【表1】

【0058】
得られたブレンドを十分に混合し、精油をグリセリン担体中に均一に分散するか又は溶解する。変敗防止用組成物中の4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートのレベルは約0.5重量%である。
【0059】
(実施例3)
粉末の変敗防止用組成物は、実施例1の白カラシ精油とマルトデキストリンとを以下の処方に従って粉砕することによって調製される。
【0060】
【表2】

【0061】
物質のブレンドは、密に混合されるか、モルタル又はペストルを用いて粉砕される。得られた変敗防止用組成物中の4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートのレベルは約2.5重量%である。粉末の変敗防止用組成物中の4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートのレベルは、室温(約21.1℃)での変敗防止用組成物の貯蔵中安定に維持される。
【0062】
(実施例4)
実施例2液体の変敗防止用組成物は、貯蔵中の牛挽肉の変敗を防止するために使用される。液体変敗防止用組成物を約2重量%のレベルで牛挽肉に添加し、得られたブレンドを十分に混合して、変敗防止用組成物を製品内に均一に分配する。得られた牛挽肉製品中の4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートのレベルは約0.01重量%である。牛挽肉を包装し、約4℃で保存する。
【0063】
(実施例5)
実施例3の粉末の変敗防止用組成物を鶏肉のための冷却した洗浄水に添加する。変敗防止用組成物を攪拌しながら洗浄水に分散する。洗浄水の温度は約4℃であり、変敗防止用組成物の添加レベルは約1.8重量%である。洗浄水中の4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートのレベルは約0.045重量%である。変敗防止用組成物は、個々の片を変敗防止用組成物を含有する冷却した洗浄水に浸漬又は液浸することによって鶏肉片の表面に適用される。得られた鶏肉片を包装し、約4℃で保存する。
【0064】
(実施例6)
実施例3の粉末の変敗防止用組成物を冷却した食塩水溶液に約3.0重量%のレベルで添加する。得られた食塩水溶液を十分にブレンドして、変敗防止用組成物を均一に分散する。食塩水溶液中の4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートのレベルは約0.075重量%である。食塩水溶液は約4℃に維持され、肉の無傷な切片の内側に加圧下で注入される。肉への食塩水の添加レベルは約7重量%である。最終肉製品中の4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートのレベルは約0.0053重量%である。
【0065】
(実施例7)
実施例1の白カラシ精油は、肉製品に適用するための冷却した液体マリネ溶液に分散される。マリネ溶液は約4℃に維持され、精油は激しい攪拌を用いて分散される。マリネ溶液中の白カラシ精油のレベルは約1重量%である。マリネ溶液中の4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートのレベルは約0.25重量%である。約4℃に維持された肉(牛肉、鶏肉、豚肉、又は魚)の無傷な切片は、白カラシ精油を含有するマリネ溶液に完全に浸漬される。肉に対するマリネ溶液の適用率は、約4重量%である。マリネされた肉製品中の4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートのレベルは約0.01重量%である。得られたマリネされた肉製品は包装され、約4℃で保存される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.感湿性のイソチオシアネート化合物、好ましくは4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネート;及び
b.吸湿性担体
を含有することを特徴とする固形食品の変敗を防止するための組成物であって、
前記組成物が、ソルビン酸、安息香酸、及びそれらの塩を実質的に含まないことを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記感湿性のイソチオシアネート化合物が、前記組成物の0.0025重量%〜10重量%、好ましくは0.1重量%〜4重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記吸湿性担体が、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、多糖類、オリゴ糖類、マルトデキストリン、糖類、糖アルコール類、塩、二酸化ケイ素、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸三カルシウム、炭酸マグネシウム、及びこれらの混合物から成る群から選択され;好ましくは前記吸湿性担体が、マルトデキストリン、グリセリン、及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、ソルビン酸、安息香酸、又はそれらの塩を含有しないことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の変敗防止用組成物を含有することを特徴とする、固形食品。
【請求項7】
果物類、野菜類、肉類、ナチュラルチーズ類及びプロセスチーズ類、焼いた食品類、スナック食品類、マーガリン類、スプレッド類、及びゲル状の食品組成物類から成る群から選択される、請求項6に記載の固形食品。
【請求項8】
前記食品が肉であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の固形食品。
【請求項9】
前記固形食品が肉であり、前記感湿性のイソチオシアネート化合物が4−ヒドロキシベンジルであり、前記変敗防止用組成物が、ソルビン酸、安息香酸、又はそれらの塩を含有しないことを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の固形食品。
【請求項10】
(a)固形食品を提供する工程;
(b)感湿性のイソチオシアネート化合物、好ましくは4−ヒドロキシベンジルイソチオシアネートを含む変敗防止剤用組成物を前記固形食品に添加する工程;及び
(c)前記変敗防止用組成物を前記固形食品に添加してから2時間以内に、前記固形食品の温度を10℃以下にして少なくとも12時間保持する工程
を特徴とする、固形食品の変敗防止方法。


【公表番号】特表2007−507236(P2007−507236A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534197(P2006−534197)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/032523
【国際公開番号】WO2005/032283
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(590005058)ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー (2,280)
【Fターム(参考)】