説明

イタコン酸誘導体及びその製造方法

【課題】リジンのアミノ基、カルボキシル基に特別な保護基を必要とすることなく、簡便に好収率で、各種ポリマーの原料として有用な、ラジカル重合可能な不飽和結合を有する新規なイタコン酸誘導体を提供する。
【解決手段】リジンをリジン−銅錯体に変換した後、無水イタコン酸と反応させ、次いで銅を脱離させることにより製造される特定式で表されるイタコン酸誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖にリジン残基を有するポリマーの製造に用いられる新規なイタコン酸誘導体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油を主原料とする合成化学薬品ならびに合成高分子は、日常生活においてその利便性から極めて多様な分野において使用されている。しかしながら、近年、環境問題あるいは自然保護に関する重要性が叫ばれ、再生可能な天然資源を基にした生分解性プラスチックや生体模倣材料等が求められるようになってきてた。かかる生分解性プラスチックや生体模倣材料の原料あるいは改質剤として、アミノ酸は有用な原料と考えられており、アミノ酸残基を有するラジカル重合可能な不飽和結合を有する化合物あるいはそのポリマーが開発されており、例えば、特許文献1には、アミノ酸残基を有するアクリルアミド誘導体及び該誘導体をラジカル重合させたポリマーが開示されている。
【0003】
一方、アミノ酸残基を有するイタコン酸誘導体としては、非特許文献1には、(N−保護)リジンエステルと無水イタコン酸とを反応させたイタコノイル−(N−保護)リジンエステル、及び該化合物をアクリルアミド等と共重合した後、脱保護したポリマーが報告されている。しかし、該イタコン酸誘導体はアミノ酸のアミノ基及びカルボキシル基が保護されたものであり、その合成に高価な試薬を必要としたり、また、ポリマーとした後に脱保護する必要があり、煩雑で温和な条件では製造することが困難であった。
【特許文献1】特開平11−124360号公報、特開2000−281726号公報
【非特許文献1】J.Polym.Sci.:Part C:Polym.Lett.1987 25 19
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みなされたもので、不飽和結合を有するためにそのまま重合反応に使用できる、アミノ酸残基に保護基を有しない新規なイタコン酸誘導体、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる課題を解決するため鋭意研究の結果、無水イタコン酸とリジン−銅錯体とを反応させることにより、保護基を用いることなく、アミノ酸にラジカル重合可能な不飽和結合を導入できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち請求項1記載の発明は、一般式(1)(式中、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)又は一般式(2)(式中、Xは前記と同じ。)で表されるイタコン酸誘導体、である。
【0006】
【化5】

【0007】
【化6】

【0008】
また、請求項2記載の発明は、無水イタコン酸とリジン−銅錯体とを含水有機溶媒中で反応させ、次いで銅をキレート化剤により除去することを特徴とする、前記一般式(1)(式中、Xは前記と同じ)又は前記一般式(2)(式中、Xは前記と同じ。)で表されるイタコン酸誘導体の製造方法、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リジンのアミノ基、カルボキシル基に特別な保護基を必要とすることなく、簡便に好収率で、各種ポリマーの原料として有用な、ラジカル重合可能な不飽和結合を有する新規なイタコン酸誘導体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のイタコン酸誘導体は、上記一般式(1)又は(2)で表される化合物で、これらは単独、あるいはミックスチャーでもよく、また、リジンは、L−型、D−型、あるいはDL−型のいずれでもよい。
【0011】
本発明のイタコン酸誘導体は、リジンをリジン−銅錯体に変換した後、無水イタコン酸と反応し、次いで銅を脱離させることにより製造される。
(1)リジン−銅錯体の合成
リジンに銅イオンを加え、錯体を形成させる。具体的には、例えば、リジン塩酸塩を熱水に溶解し、取定量の銅イオン、例えば炭酸銅、を加えて煮沸することにより実施される。リジン−銅錯体は、煮沸後、速やかに濾過することにより水溶液として得られ、そのまま水溶液の形で次の反応に用いることができる。
【0012】
(2)無水イタコン酸との反応
得られたリジン−銅錯体水溶液に、苛性カリ等のアルカリをリジンと当量加える。次いで、氷冷下で激しく攪拌しながら、無水イタコン酸をアセトン等の適当な有機溶媒に溶解した溶液、及びアルカリを数回に分けて加え、3時間〜2日間程度、室温で攪拌する。
反応終了後、イタコン酸誘導体−銅錯体は、反応液を濃縮後、適当な有機溶媒、例えばアセトン等に注入することにより沈殿物として析出させることにより、単離することができる。
【0013】
(3)銅の脱離
イタコン酸誘導体−銅錯体にキレート化剤を作用させることにより、銅が脱離される。
用いられるキレート化剤としては、キレート試薬、キレート樹脂等が例示される。
具体的には、キレート試薬としては、8−キノリノール、ビス(8−キノリル)マロンアミド誘導体、2−カルボキシフェニル−アゾ−β−ナフチルアミン、ヒドロキシアゾベンゼン、ジヒドロキシアゾベンゼン、ジフェニルチオカルバゾン、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、等を挙げることができる。これらキレート試薬を用いる場合は、銅錯体の水分散液に、キレート試薬を水と混和しない有機溶媒に溶解した溶液を加え、銅を有機溶媒中に抽出した後、水溶液を凍結乾燥等の方法により処理することにより、目的物を単離することができる。
一方、キレート樹脂としては、イミノジ酢酸型キレート樹脂、ポリアミン型キレート樹脂、メチルグルカン型キレート樹脂等が挙げられる。これらキレート樹脂を用いる場合は、銅錯体の水分散液にキレート樹脂を添加し銅を抽出した後、キレート試薬の場合と同様に、水溶液を凍結乾燥等により処理することができる。
【0014】
得られたイタコン酸誘導体は、上記一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物のミックスチャーである。ミックスチャーは、このままで重合、あるいは他の共重合可能なモノマーと共重合させることができるが、例えば、クロマトグラフィーによりそれぞれの化合物に分離し、それぞれを単離することもできる。
【実施例1】
【0015】
リジン塩酸塩5.0gを熱水60mlに溶解し、炭酸銅(CuCOCu(OH))3.3gを徐々に加え溶解させ、10分間煮沸した後、素早く濾過し、リジン−銅錯体水溶液を得た。得られた水溶液を室温まで冷却し、2M−KOH溶液14ml添加した。その溶液に、氷冷下、無水イタコン酸3.88gをアセトン30mlに溶解した溶液と、2M−KOH溶液17mlとを、それぞれ4回に分けて10分おきに交互に加え、引き続き氷冷下24時間攪拌した。
反応終了後、減圧下、反応液を70mlまで濃縮し、濃縮液をアセトン400mlに注ぎ、析出した結晶を濾取、アセトン、エーテルで洗浄後、減圧下乾燥することにより、濃青色固体として、イタコン酸誘導体−銅錯体11.2gを得た。
【0016】
得られた銅錯体5.0gを蒸留水60mlに溶解し、これに、攪拌下、8−ヒドロキシキノリン3.0gをクロロホルム60mlに溶解した溶液を加え、6時間、激しく攪拌した。反応終了後、反応液を濾過し、濾液の水層を分取した。水層は、減圧下約10mlまで濃縮し、濃縮液をエタノール200mlに加えた。下層に分離した粘性を有する液体をデカンテーションで分離し、凍結乾燥することにより褐色結晶のイタコン酸誘導体(一般式(1)と(2)のミックスチャー)1.3gを得た。
得られたイタコン酸誘導体(ミックスチャー)のFT−IRスペクトルを図1に示す。
【0017】
得られた結晶(ミックスチャー)は、HPLCにより各化合物に分離した。HPLCのクロマトグラムを図2に示す。
なお、HPLCの条件は以下の通りである。
・使用カラム:Grand 120−STC 18−5
・カラムサイズ:4.6mmI.D×150mm
・溶離液:CHCN/HO(TFA0.1%)=3/97、0.5ml/min
・温度:35℃
・検出器:UV(波長210nm)
図1の(a)、(b)のピークに相当するフラクションを分取し、溶離液を留去した後、凍結乾燥することにより、一般式(1)(Xは水素原子)で表される、N−(3−カルボキシ−2−メチレン−1−オキソ−プロピル)−リジン、及び一般式(2)(Xは水素原子)で表される、N−(3−カルボキシメチレン−1−オキソ−プロピル)−リジン、を得た。
それぞれの化合物のプロトン核磁気共鳴スペクトル(DO+KOD)を、図3及び図4に示す。
【0018】
参考例1
実施例1で得られたイタコン酸誘導体(ミックスチャー)1.0gとNaHPO0.36gを水2.5mlに加えた。これを窒素通気下で95℃に昇温し、KPS0.12gを10分おきに3回に分けて加え、3時間反応した。反応終了後、凍結乾燥して黄色固体1.2gを得た。
得られた黄色固体を透析後、凍結乾燥することによりポリマーを得た。
得られたポリマーのプロトン核磁気共鳴スペクトルを図5に示す。
【産業上の利用可能性】
【0019】
上述べてきたように、本発明によると、アミノ酸残基を有した不飽和結合を持つ新規なイタコン酸誘導体が簡便に製造できるため、両性電解質としての紙薬品、水処理剤、化粧料、コンクリート緩和剤、衛生材料等の原料として、金属イオン捕集としての電子材料洗浄剤の原料、あるいは家庭用洗浄剤の原料、等として、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1で得られた、イタコン酸誘導体(ミックスチャー)のFT−IRスペクトルを示す図である。
【図2】イタコン酸誘導体(ミックスチャー)のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【図3】実施例1で得られた、N−(3−カルボキシ−2−メチレン−1−オキソ−プロピル)−リジンのプロトン核磁気共鳴スペクトルを示す図である。
【図4】実施例1で得られた、N−(3−カルボキシメチレン−1−オキソ−プロピル)−リジンのプロトン核磁気共鳴スペクトルを示す図である。
【図5】参考例1で得られたポリマーのプロトン核磁気共鳴スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)(式中、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)又は一般式(2)(式中、Xは前記と同じ。)で表されるイタコン酸誘導体。
【化1】

【化2】

【請求項2】
無水イタコン酸とリジン−銅錯体とを含水有機溶媒中で反応させ、次いで銅をキレート化剤により除去することを特徴とする、一般式(1)(式中、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)又は一般式(2)(式中、Xは前記と同じ。)で表されるイタコン酸誘導体の製造方法。
【化3】

【化4】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−22010(P2006−22010A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198892(P2004−198892)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【出願人】(502451982)
【Fターム(参考)】