説明

イチゴの栽培方法及びその高設栽培装置

【課題】 本発明はイチゴ専用の育苗トレイを利用することにより、従来からの「定植」作業を省略することができるイチゴ栽培方法と、そのための高設栽培装置の提供を目的とする。
【解決手段】 図1に示したようにイチゴの親株1から成長するランナー2の発根部分3より、イチゴ専用育苗トレイ(以下、単にトレイともいう)6を用いて「苗取り作業100」を行う。次に、その「苗取り作業100」をした前記トレイ6を、あらかじめ設置された高設栽培装置7の棚パイプ70に移動して載せ、そのまま「育苗作業110」と栽培を植え替えなしに継続して行う。
このように実施形態に係る栽培方法では、イチゴ専用育苗トレイ6を用いることで従来の育苗作業とその後の栽培を一体化することができ、その結果、従来の苗を培地に植付けする「定植」作業を省略することができ、大幅な労力を削減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業分野でのイチゴの高設栽培における苗の栽培方法とその高設栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に行われるイチゴの高設栽培方法の手順は、図6に示す通りである。
まず、イチゴの親株1から成長するランナー2の発根部分3を、培土の入った育苗ポット4に漬けて子苗を採る「苗取り作業10」と、その子苗をある程度大きく成長させる「育苗作業11」と、あらかじめ設置された高設栽培装置5の栽培容器50内の培地51に、育苗した苗を植付ける「定植作業12」を経て、栽培管理へと作業が移行する。
そしてこの「苗取り作業10」と「育苗作業11」は通常、育苗棟で行われ、一方、その後の「定植作業12」と栽培管理は栽培棟で行われるのが一般的である。
このような栽培手順は、所謂イチゴのリレー栽培による生産方法を開示している特許文献1においても当然の前提としている。
【特許文献1】特開2004−208550
【0003】
しかし、上記方法では「定植作業12」の時に育苗ポット4から苗を外して、栽培容器50内の培地51への植換え作業が生じるため、かなりの労力が必要とされていた。
また、生産者からはこの植換え作業の根本的な改善が強く要求されていた。
さらに、「育苗作業11」のためのスペース確保の削減、高設栽培装置の軽量化や簡素化も要望されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明はイチゴ専用の育苗トレイを利用することにより、従来からの「定植」作業を省略することができるイチゴ栽培方法と、そのための高設栽培装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、イチゴ専用育苗トレイの内、二連一体型の育苗トレイを利用して、「苗取り」が済んだトレイをそのまま高設栽培用の棚に載せ、「育苗」から「栽培」まで継続して行う栽培方法と、軽量・簡素化された二連一体型育苗トレイ用高設栽培装置である。
即ち、イチゴの親株からイチゴ専用育苗トレイに苗取りし、このイチゴ専用育苗トレイを高設栽培装置に載せ、そのままイチゴの苗の育苗と栽培を継続して行うことを特徴とするイチゴの栽培方法とした(請求項1に記載の発明)。
この方法では、育苗と栽培を植え替えなしにそのまま継続して行うため、従来の培地に植え付けする「定植」作業を省略することができ、大幅な労力を削減できる。
また、従来必要としていた育苗スペースの削減ができることにより、高設栽培装置の増設が可能となり設備スペースの有効利用ができる。
【0006】
また、前記イチゴ専用育苗トレイとして、前記高設栽培装置の長手方向に交差する方向に2個のポット部を備えると共に、そのポット部は前記高設栽培装置の長手方向に沿って2列平行に複数設けられているイチゴ専用育苗トレイを利用することを特徴とする(請求項2に記載の発明)。
この方法では、苗取りから育苗と栽培まで別の栽培容器を必要とせず、トレイを高設栽培装置の棚パイプに載せた状態で、従来通り高設栽培装置の両側からの栽培管理を可能とするとともに、培地量を従来の半分以下にでき、費用の削減と共に高設栽培装置の軽量化を可能とする。
【0007】
また、前記イチゴ専用育苗トレイを、前記高設栽培装置の長手方向に必要な長さに応じたユニット数で並べることにより、栽培面積の調整を可能とするイチゴの栽培方法とした(請求項3に記載の発明)。
この方法は、病害が発生した時に、その病害部分のトレイだけ交換することにより、感染症の拡がりをいち早く防止することができる。又、前記高設栽培装置の長手方向に二列平行にポット部が設けられたイチゴ専用トレイは、中心長手方向に給液チューブを敷設することができ、従来からの給液システムをそのまま利用することができる。
【0008】
イチゴ専用育苗トレイの両端を載せ、且つ、必要な長さに応じたイチゴ専用育苗トレイのユニット数が並べられる2本の平行な棚を備え、軽量で簡素化された構造の高設栽培装置とした(請求項4に記載の発明)。
従来の培地が入った状態での栽培容器の三分の一程度の重量であり、高設栽培装置の構成部材の簡素化と軽量化を図ることができる。
【0009】
前記イチゴ専用育苗トレイの下方に、取替え可能な排水溝を有することを特徴とする高設栽培装置とした(請求項5に記載の発明)。
この排水溝はイチゴ専用育苗トレイから切り離されて取り付けられるため、トレイの水切りが良く給液管理が適切にできる。又、構造もシンプルで、取換えも簡単にできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来のイチゴ高設栽培手順の工程の内、植換え作業である「定植」作業を省略できる画期的なものである。
又、収穫後のイチゴの株の片付けが、従来の「一株づつ刈り取る」の方法からトレイの撤去に変わることにより、大幅な労力の削減ができる。
さらに、従来の栽培容器が不要となり、培地の使用量も半減以下とすることができ、費用の削減ができる。
そして、削減される従来の「育苗」作業用スペースの後に、高設栽培装置の増設ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記発明の実施形態を図面に基いて詳細に説明する。
図1は実施形態に係る栽培方法の手順図、図2は同方法で用いられるイチゴ専用育苗トレイの斜視図、図3は同トレイの別例図、図4は高設栽培装置の要部斜視図、図5は同装置の要部断面図である。
【0012】
実施形態に係る栽培方法は、図1に示したようにイチゴの親株1から成長するランナー2の発根部分3より、イチゴ専用育苗トレイ(以下、単にトレイともいう)6を用いて「苗取り作業100」を行う。
次に、その「苗取り作業100」で用いた前記トレイ6を、あらかじめ設置された高設栽培装置7の棚パイプ70に移動して載せ、そのまま「育苗作業110」と栽培を植え替えなしに継続して行う。
【0013】
このように実施形態に係る栽培方法では、イチゴ専用育苗トレイ6を用いることで従来の育苗作業とその後の栽培を一体化することができる。その結果、従来の苗を培地に植付けする「定植」作業を省略することができ大幅に労力を削減できる。
【0014】
前記イチゴ専用育苗トレイ6は、図2に示したように長方形状のトレイ上面60と、このトレイ上面60の長手方向Xに、二列に設けられた複数の開口61・・・と、各開口61・・・からトレイ上面60の下方に形成された各凹部62・・・と、各凹部62・・・の底部63に形成された排水用の孔64(図示せず)とからなり、これらの開口61、凹部62、底部63及び排水用の孔64によってポット部が形成されている。
前記各ポット部は、前記トレイ上面60の長手方向Xの両端から所定の間隔を空けて設けられ、その間隔によってトレイ耳部65、65が形成されている。
後述のようにこれらの耳部65、65が高設栽培装置7の棚パイプ70に載せられるようになっている。
このようなトレイ6は、典型的には合成樹脂で成型されているが、この材質に限定されるものではない。
【0015】
なお、前記トレイ耳部65はこの実施形態では平板状に形成されているが、前記トレイ上面60の長手方向Xの両端66、66を下向きフック状に形成してもよい(図3参照)。
前記トレイ上面60の両端66を棚パイプ70に載せた場合に、前記トレイ6が棚パイプ70に係止されて、高設栽培装置7に対する補強機能が発揮される。
【0016】
前記トレイ6の各ポット部は略円錐状になっているが、その形状は限定されるものでもない。
またポット部数はこの実施形態では10個であるが、この個数に限定されるものでもなく8個等でもよい。即ち、前記高設栽培装置7の長手方向X1(図4参照)に交差する方向に2個のポット部を備えると共に、そのポット部が前記高設栽培装置7の長手方向X1に沿って2列平行に設けられていればよい。
【0017】
上記トレイ6を前記高設栽培装置7に配置するには、その長手方向X1に必要な長さに応じたユニット数を並べて、栽培面積を調整する。
よって病害が発生した時に、その病害部分のトレイ6だけ交換することにより、感染症の拡がりをいち早く防止することができる。
前記トレイ6は、中心長手方向に給液チューブを敷設することができ、従来からの給液システムをそのまま利用することができる。
【0018】
次に、図4に基き前記高設栽培装置7の構成例を説明する。
前記高設栽培装置7は、水平方向に、且つ、略平行に配置される共に、前記トレイ6の所定個数のユニット数を並べることができる2本の棚パイプ70と、これらの棚パイプ70を支える二本の垂直支持パイプ71と、これらの垂直支持パイプ71の上端で前記棚パイプ70を固定するT字金具72と、前記トレイ6の耳部65を載置可能に、且つ、前記ポット部を挟むような間隔Lを維持可能に配置されたスペーサー73(図5も参照)と、前記トレイ6の下方に配置された排水溝74と、高設栽培装置7全体の沈み防止用の沈下防止パイプ75とから構成されている。
【0019】
前記トレイ6は従来の培地が入った状態での栽培容器の三分の一程度の重量であり、上記高設栽培装置7では、支持装置の構成部材の簡素化と軽量化を図ることができる。
また、上述のように前記トレイ6に高設栽培装置7の補強機能を発揮させるようにすれば、スペーサー73の省略等、さらに構成部材の簡素化と軽量化を図ることができる。
【0020】
前記排水溝74は、図4に示したようにその横断面がU字形に形成され、溝の底部が少なくとも前記トレイ6の底部63より低い位置になっている。
前記排水溝74は、前記トレイ6の排水用の孔64からの排水を受けるものであり、その材質は限定されるものではないが、ビニール等のシート状材料を用いて作製し、シートの長手方向の両端を固定具76を介して前記棚パイプ70に固定し、取り替え可能に構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態に係る栽培方法の手順図、
【図2】同方法で用いられるイチゴ専用育苗トレイの斜視図、
【図3】同トレイの別例の斜視図、
【図4】高設栽培装置の要部斜視図、
【図5】同装置の要部断面図、
【図6】従来のイチゴの栽培方法と高設栽培装置の概要図である。
【符号の説明】
【0022】
1 親株 2 ランナー 3 発根部
4 育苗ポット 5 7 高設栽培装置 50 栽培容器
51 培地 6 トレイ 60 上面
61 開口 62 凹部 63 底部
64 孔 65 耳部 66 端部
70 棚パイプ 71 垂直支持パイプ 72 T字金具
73 スペーサー 74 排水溝 75 沈下防止パイプ
76 固定具 100 苗取り作業 110 育苗作業

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イチゴの親株からイチゴ専用育苗トレイを用いて苗取りし、
このイチゴ専用育苗トレイを高設栽培装置に載せ、
そのままイチゴの苗の育苗と栽培を継続して行うことを特徴とするイチゴの栽培方法。
【請求項2】
請求項1に記載のイチゴ専用育苗トレイとして、前記高設栽培装置の長手方向に交差する方向に2個のポット部を備えると共に、そのポット部は前記高設栽培装置の長手方向に沿って2列平行に設けられているイチゴ専用育苗トレイを利用することを特徴とするイチゴの栽培方法。
【請求項3】
請求項2に記載のイチゴ専用育苗トレイを、前記高設栽培装置の長手方向に必要な長さに応じたユニット数で並べることにより、栽培面積の調整を可能とするイチゴの栽培方法。
【請求項4】
イチゴ専用育苗トレイの両端を載せ、且つ、必要な長さに応じたイチゴ専用育苗トレイのユニット数を並べることができる2本の略平行な棚パイプを備え、軽量で簡素化された構造の高設栽培装置。
【請求項5】
前記イチゴ専用育苗トレイの下方に、取替え可能な排水溝を有することを特徴とする請求項4に記載の高設栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−254744(P2006−254744A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74283(P2005−74283)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(305013758)株式会社オオツ (1)
【Fターム(参考)】