説明

イチゴ品種「アスカルビー」を識別可能なDNAマーカー

【課題】イチゴに関する育成者権保護および食品表示の偽造表示防止の観点から生育条件に影響されず正確に品種を識別する必要がある。しかし、従来の方法では、正確に識別するには操作が煩雑で、長時間を要するといった問題があった。
【解決手段】イチゴからゲノムDNAを抽出し、それを鋳型DNAに用い、3対、合計6種類のプライマーを混合してPCR法に供し、反応液の一部をアガロースゲル電気泳動後、UV照射下で確認することでDNA断片の品種間多型が得られる。これにより、イチゴ品種「アスカルビー」を他の品種と識別することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイチゴ品種「アスカルビー」を特異的に識別するためのDNA断片、プライマー及び識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イチゴの品種識別は果実又は葉の外観および草型の比較により行われている。
【0003】
また、イチゴ品種間で異なる塩基配列を標的としたPCR法によってDNAを増幅し、増幅したDNAの多型及び増幅したDNAの制限酵素による消化で生じる多型を検出し、品種識別する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許公開2003−339399号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
果実又は葉の外観および草型の比較による品種識別方法では、生育条件による差を生じ、これらの比較による品種識別は極めて困難で正確性にも乏しかった。また、イチゴ品種間で異なる塩基配列を標的としたPCR法によってDNAを増幅し、増幅したDNAの多型及び増幅したDNAの制限酵素による消化で生じる多型を検出する品種識別方法は、PCR反応のあと、さらに制限酵素処理を実行するため、操作が煩雑で、相当の労力と時間を要する。
【0005】
本発明は、これらのような従来の識別方法が有していた問題を解決しようとするものであり、生育途中のイチゴを試料として、生育条件に左右されず、また、制限酵素処理の過程を経ず、より迅速かつより簡便に、イチゴ品種「アスカルビー」を正確に識別することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために、RAPD法によりイチゴ品種「アスカルビー」特異的に見られるDNA断片に着目し、「アスカルビー」とその他品種のゲノムDNAの塩基配列の差異を発見し、これを利用することで本方法を発明するに至った。すなわち、本発明は「アスカルビー」および「ダナー」に特異的に存在しないゲノムDNA断片をPCR法により増幅することができるプライマー対であり、それを使用するPCR法により増幅可能なゲノムDNA断片である。
【0007】
また、本発明は「あかねっ娘」、「ダナー」および「宝交早生」に特異的に存在するゲノムDNA断片をPCR法により増幅することができるプライマー対であり、それを使用するPCR法により増幅可能なゲノムDNA断片である。
【0008】
さらに、本発明は、あらゆるイチゴ品種に共通に存在するゲノムDNA断片をPCR法により増幅することができるプライマー対であり、それを使するPCR法により増幅可能なゲノムDNA断片である。
【0009】
さらに、本発明はこれらのゲノムDNA断片を分析することによって、イチゴ品種「アスカルビー」を識別する方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の識別方法は、上述した3対のプライマーを反応液に混合し、1回のPCR反応および増幅されたDNA断片を電気泳動で解析することで、正確に、より簡便かつ迅速にイチゴ品種「アスカルビー」を識別できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ゲノムDNAをイチゴ試料から抽出する。これをPCR法によりDNA断片を増幅させる際の鋳型として用いる。PCR法には3対のプライマーセットを使用する。それらは請求項1記載のプライマー対19−3F(配列表の配列番号1)と19−3R(配列表の配列番号2)、請求項2記載のプライマー対G3STSF(配列表の配列番号3)とGal3R(配列表の配列番号4)および請求項3記載のプライマー対STS1F(配列表の配列番号5)とSTS1R(配列表の配列番号6)の合計6種類である。これらの鋳型DNAおよびプライマーとTaqポリメラーゼ等の耐熱性DNAポリメラーゼを混合して反応液を調製し、常法に従いDNA断片を増幅させる。
【0012】
続いて、PCR法に供した反応液の一部を電気泳動により分析する。この時の方法は常法に従えば良く、ポリアクリルアミド又はアガロースゲル中で電圧をかけ、PCR法により増幅されたDNA断片を分離させ、得られたDNA断片のバンドパターンによりイチゴ品種「アスカルビー」を識別することができる。
【実施例】
【0013】
以下に実施例を示し、具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
品種を識別するイチゴの各品種から新葉を採取し、Qiagen社のDNeasy Plant Mini Kitを用いてゲノムDNAを抽出した。ここでは、「アスカルビー」に加え、「章姫」、「さちのか」、「とちおとめ」、「とよのか」、「女峰」、「福岡S6号」、「あかねっ娘」、「レッドパール」、「メイヒャン」、「はるのか」、「ひみこ」、「さがほのか」、「アイベリー」、「アスカウェイブ」、「さつまおとめ」、「サマーベリー」、「サンチーゴ」、「ダナー」、「濃姫」、「はつくに」、「紅ほっぺ」、「宝交早生」及び「麗紅」の24品種と1系統「奈良6号」を識別対象に用いた。抽出したゲノムDNAはPCR法における反応の際の鋳型DNAとして用いた。
【0015】
調整したDNA溶液を鋳型とし、オペロン社製ランダムプライマーを使用してRAPD解析をおこなった。そこで得られた「アスカルビー」に特異的に存在しないDNA断片を「とちおとめ」のゲノムを鋳型にして増幅させ、電気泳動で分離後、アガロースゲルから切り出し、東洋紡績(株)製のMagExtractorを用いて精製した。精製したDNA断片はプロメガ社製のpGEM−T Easy Vectorを用いてプラスミドに組み込み、BIO RAD社製GENE PULSERIIを用いてエレクトロポレーション法により大腸菌に導入した。この形質転換大腸菌を大量に増殖させた後、QIAGEN社のQIAprep Spin Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出し、ABI社製のシーケンサーABI3100を用いて塩基配列を解読しプライマーを設計し、作製した。
【0016】
また、オペロン社製ランダムプライマーを使用したRAPD解析の結果、あらゆるイチゴ品種に共通に増幅されたDNA断片を、同様の方法で塩基配列を解読し、プライマー対を設計、作成した。
【0017】
これにより、イチゴ品種「アスカルビー」および「ダナー」特異的に増幅しないプライマー及びあらゆるイチゴ品種に共通に増幅可能なプライマー対を発明した。
【0018】
さらに、イチゴ品種「アスカルビー」および「ダナー」のゲノムDNAを鋳型に用い、βガラクタナーゼ遺伝子を増幅させ、塩基配列を解読、比較した結果、SNPsを発見した。この塩基配列の差異をもとにプライマー対を作成した。その結果、イチゴ品種「あかねっ娘」、「ダナー」および「宝交早生」に特異的に存在するゲノムDNA断片をPCR法により増幅することができるプライマー対を発明した。
【0019】
これらのプライマー対を同時に混合し、PCR反応に供した。
【0020】
PCR反応にはタカラバイオ(株)製のTaKaRa LA Taqを耐熱性DNAポリメラーゼとして用いた。反応液組成は、TaKaRa LA Taqを0.5units、添付の2×GC BufferIを10μl、dNTPsを4mM、鋳型DNAを10ng、プライマーとして19−3F及び19−3Rを各3pM、G3STSF及びGal3Rを各6pM、そしてSTS1F及びSTS1Rを各3pMずつ混合し、最後に滅菌水を用いて1サンプルあたりの反応液量を20μlにした。PCR反応にはABI(Applied Biosystems Instrument)社製Gene Amp PCR System9700を使用した。反応サイクルは、最初に94℃で5分反応させた後、94℃30秒、54℃30秒、72℃1分の反応を30サイクル行い、最後に72℃で7分間反応させた。
【0021】
PCR反応終了後、反応液の一部をコスモ・バイオ(株)製のi−Mupidを用いて、1.5%アガロースゲルで50V、50分間電圧をかけて、DNA断片を分離させた。泳動終了後のアガロースゲルはエチジウムブロマイド染色後、UV照射下でバンドパターンを確認し、多型を比較した(図1)。
【図面の簡単な説明】
【0022】

【図1】PCR法により得られたDNA断片バンドパターンの写真
【符号の説明】
【0023】
a イチゴ品種のうち品種「アスカルビー」および「ダナー」に特異的に存在しないゲノムDNA断片
b すべてのイチゴ品種に共通に存在するゲノムDNA断片
c イチゴ品種のうち品種「あかねっ娘」、「ダナー」および「宝交早生」に特異的に存在するゲノムDNA断片
d 1kb DNA Ladder Marker
1 「アスカルビー」
2 「章姫」
3 「さちのか」
4 「とちおとめ」
5 「とよのか」
6 「女峰」
7 「福岡S6号」
8 「あかねっ娘」
9 「レッドパール」
10 「メイヒャン」
11 「はるのか」
12 「ひみこ」
13 「さがほのか」
14 「アイベリー」
15 「アスカウェイブ」
16 「さつまおとめ」
17 「サマーベリー」
18 「サンチーゴ」
19 「ダナー」
20 「濃姫」
21 「はつくに」
22 「紅ほっぺ」
23 「宝交早生」
24 「麗紅」
25 「奈良6号」

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イチゴ品種のうち品種「アスカルビー」および「ダナー」に特異的に存在しないゲノムDNA断片をPCR法により増幅することができるプライマー対。
【請求項2】
イチゴ品種のうち品種「あかねっ娘」、「ダナー」および「宝交早生」に特異的に存在するゲノムDNA断片をPCR法により増幅することができるプライマー対。
【請求項3】
すべてのイチゴ品種に共通に存在するゲノムDNA断片をPCR法により増幅することができるプライマー対。
【請求項4】
請求項1記載のプライマー対を使用し、PCR法により増幅可能な配列表の配列番号7に示すゲノムDNA断片。
【請求項5】
請求項2記載のプライマー対を使用し、PCR法により増幅可能な配列表の配列番号8に示すゲノムDNA断片。
【請求項6】
請求項3記載のプライマー対を使用し、PCR法により増幅可能な配列表の配列番号9に示すゲノムDNA断片。
【請求項7】
イチゴの葉より抽出したDNAを鋳型とし、請求項1及び/又は請求項2及び/又は請求項3記載のプライマーを用いたPCR法によってDNAを増幅後、増幅したDNAの多型を識別することを特徴とするイチゴの品種識別方法。




【図1】
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【公開番号】特開2006−340685(P2006−340685A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171167(P2005−171167)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000225142)奈良県 (42)
【Fターム(参考)】