説明

イチジク果実の腐敗防止組成物及び腐敗防止組成物により処理されたイチジク果実

【課題】
収穫後のイチジク果実に対して腐敗防止効果を発揮し、尚かつ安全性の高い、イチジク果実の腐敗防止組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明により、イチジク果実に対して優れた腐敗防止効果を発揮し、尚かつ安全性の高い腐敗防止組成物を提供できる。本発明の腐敗防止組成物で収穫後のイチジク果実に対して浸漬や噴霧などの処理を行うことにより、貯蔵、輸送時におけるカビによる腐敗を大幅に減らすことができる。更には市場、店頭陳列、消費者による購入後においても腐敗を減らすことできる。その結果、イチジク果実の商品価値を落とすことなく賞味期間を長期化することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イチジク果実の腐敗防止組成物及び腐敗防止組成物により処理されたイチジク果実に関するものである。
【背景技術】
【0002】
収穫後の青果物は、貯蔵や輸送時に時間の経過と共に腐敗が発生し、外観を著しく損なって品質または利用価値を低下させるなどの弊害をもたらすことから、腐敗による社会的、経済的損出は大きい。特にイチジク果実は青果物の中でも軟弱で鮮度低下が早いことから、カビによる腐敗が発生しやすい果実である。収穫後から消費者の手元に届くまでの間にカビによる腐敗の発生を防ぐことが強く望まれている。
【0003】
従来、収穫後のイチジク果実のカビによる腐敗の被害を防止する方法として活性酸素の含まれた活性酸素水を噴霧する方法(特許文献1)やショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とする青果物の病害防止剤にて処理する方法(特許文献2)、柑橘類の果皮に含まれる抗菌性物質を防カビ剤として使用する方法(特許文献3)、ヒノキ精油を抗カビ剤として使用する方法(特許文献4)、合成樹脂フィルム或いは半合成樹脂フィルムを含む袋で包装する方法(特許文献5)、焼成カルシウムの水溶液に浸漬する方法(特許文献6)などが提案されている。しかしながら、いずれもカビに対する殺菌性、抗菌性、効力持続期間の点からいずれも完全にカビの発生を防止するまでには至っていない。従って、カビに対して効力が高く、しかも安全性の高い天然物由来の食品添加物を利用して収穫後のイチジク果実の腐敗を抑制することができればその価値は非常に大きなものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−157166号公報
【特許文献2】特開2000−139340号公報
【特許文献3】特開平8−27005号公報
【特許文献4】特許第2799577号公報
【特許文献5】特開2005−230004号公報
【特許文献6】特開2008−35854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術の問題点に鑑みて行われたものであり、収穫後のイチジク果実に対して腐敗防止効果を発揮し、尚かつ安全性の高い、イチジク果実の腐敗防止組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
カピリンを含有する腐敗防止組成物をイチジク果実に処理することでイチジク果実に対して優れた腐敗防止効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、イチジク果実に対して優れた腐敗防止効果を発揮し、尚かつ安全性の高い腐敗防止組成物を提供できる。本発明の腐敗防止組成物で収穫後のイチジク果実に対して浸漬や噴霧などの処理を行うことにより、貯蔵、輸送時におけるカビによる腐敗を大幅に減らすことができる。更には市場、店頭陳列、消費者による購入後においても腐敗を減らすことできる。その結果、イチジク果実の商品価値を落とすことなく賞味期間を長期化することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明において使用するカピリンは、キク科アルテミシア属に含まれる精油成分で、中でも生薬インチンコウとして使用されているカワラヨモギ(学名:Artemisia capillaris Thunb.)に多く含まれている。カワラヨモギよりエタノール抽出などで得られたエキスはカワラヨモギ抽出物の名称で既存食品添加物に登録されており、安全性の高い原料である。よって、カワラヨモギに含まれているものを使用すると良い。カピリンはカワラヨモギの中でも特に花穂に多く含まれていることから、乾燥した花穂を使用することが好適である。
【0010】
カピリンは、主にカワラヨモギの花穂を抽出溶媒に浸漬して得るが、抽出溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどの多価アルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、メチルエーテルやジエチルエーテルなどのエーテル類、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素類などの有機溶媒、植物油や動物油脂などの油脂類、水を単独または混合して使用すると良い。これらの抽出溶媒で抽出したカピリンはそのまま使用しても良いが、有効成分の含有量が低く多量に配合する必要がある場合もあるため、溶剤を完全に留去してあるいは適度に濃縮して使用しても良い。その際、成分が溶媒とともに留出することを防止するため、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコールや、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどを添加して濃縮しても良い。また、カワラヨモギから水蒸気蒸留により得た精油成分をそのまま使用しても良い。更に、超臨界流体などの公知の方法を用いて抽出した抽出物を使用しても良い。抽出溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類、メチルエーテル等のエーテル類等の有機溶媒、またこれらのうち水と混和する溶剤では水との混合溶剤を使用することができる。また、カワラヨモギから水蒸気蒸留により得たカピリン等を含有する精油成分をエタノール等に希釈して使用しても良い。更に、溶媒抽出物や水蒸気蒸留で得た精油成分を、カラムクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィー等によりカピリンを分取してエタノール等に希釈して使用しても良い。この他、化学合成により合成したカピリンをエタノール等に希釈して使用しても良い。
【0011】
本発明に係る腐敗防止組成物のカピリン含有量は特に限定されないが、カビの発生を防止するための量として0.0001〜0.1重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.005〜0.02重量%であることが望ましい。0.1重量%を超えて含まれる場合、イチジク果実に対して悪影響を及ぼす可能性が生じる。
【0012】
本発明に係る腐敗防止組成物には、浸透性を調整し効果をさらに高める目的で、界面活性剤を配合することが好適である。本発明に使用される界面活性剤は一般に使用されるものであれば特に限定されることはないが、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤などは腐敗防止組成物の変性の原因となりうる可能性があり、製剤の安定性、イチジク果実への影響、安全性を考慮すると非イオン界面活性剤が好ましく、さらに好ましくは食品添加物などで使用されるポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが選択される。
【0013】
また、本発明に係る腐敗防止組成物に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、溶解性、浸透性を考慮するとHLB値8〜20のものが好ましく、さらに好ましくはHLB値13〜20のものが選択される。ここで用いられるHLBとはGriffinの経験式から計算されるHLB値(Hydrophile−Lipophile Balance Value値)が8〜20、好ましくは13〜20のものが選択される。
【0014】
本発明に係る腐敗防止組成物に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、ジグリセリンモノカプリレート、ジグリセリンモノミリステート、ジグリセリンモノパルミテート、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノオレート、デカグリセリンモノカプリレート、デカグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノミリステート、デカグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノオレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖カプリン酸エステル、ショ糖カプリル酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノヤシ油脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなどが例示される。
【0015】
本発明に係る腐敗防止組成物の界面活性剤含有量は特に限定されないが、カビの発生を防止するための量として0.01〜5重量%であることが好ましい。5重量%を超えて含まれる場合、イチジク果実にべとつきなどの悪影響を及ぼす可能性が生じる。
【0016】
また本発明に係る腐敗防止組成物には、イチジク果実に吸着、浸透したカピリンの揮発や蒸散を抑制させ、効果をより高める目的で脂肪酸グリセリドを配合することが好適である。本発明に係る腐敗防止組成物に用いられる脂肪酸グリセリドは、グリセリンと脂肪酸とのエステルであり、モノグリセリド、ジグリセリド及びトリグリセリドのうち一種又は二種以上を含有する脂肪酸グリセリドが使用される。
【0017】
脂肪酸グリセリドは、例えば、公知の脂肪酸とグリセリンをエステル化する方法によって製造される。脂肪酸グリセリドを製造する場合に使用する脂肪酸は、酪酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトオレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が使用され、これらの脂肪酸のうち一種又は二種以上選択して使用すると良い。
【0018】
また脂肪酸グリセリドは、主成分にグリセリドを含有する天然油脂を使用しても良い。天然油脂には、動物脂や動物油である動物油脂、又は、植物脂や植物油である植物油脂の何れを使用しても良い。
【0019】
植物脂としては、ヤシ油、パーム油等である。植物油としては、乾性油、半乾性油及び不乾性油を使用することが可能であり、乾性油としては、アマニ油、キリ油、サフラワー油が例示され、半乾性油としては、大豆油、コーン油、ゴマ油、菜種油、ヒマワリ油、綿実油が例示され、不乾性油としては、オリーブ油、ツバキ油、ヒマシ油、落花生油が例示される。また、前記天然油脂に含まれる構成油脂を分別して使用することも可能である。
【0020】
脂肪酸グリセリドは、一種又は二種以上の炭素数が8〜12の脂肪酸とグリセリンとをエステル化した脂肪酸グリセリドが使用されることが好適である。
【0021】
本発明に係る腐敗防止組成物の脂肪酸グリセリド含有量は特に限定されないが、カビの発生を防止するための量として0.01〜10重量%であることが好ましい。
【0022】
ポリフェノールは、同一分子内に複数のフェノール性水酸基(ヒドロキシ基)をもつ化合物の総称で、ほとんどの植物に含有され、その数は5000 種以上に及ぶといわれている。光合成によってできた植物の色素や苦味の成分であり、抗酸化能力に優れた水溶性(一部は脂溶性)物質である。
【0023】
代表的なポリフェノールとしては、大豆に含まれるイソフラボン、緑茶に含まれるカテキン、コーヒー豆に含まれるクロロゲン酸、カカオ豆に含まれるクロマミド類、葡萄果皮に含まれるアントシアニン、ウコンに含まれるクルクミン、ゴマに含まれるセサミン、カキの果実、クリの渋皮五倍子、タマリンドの種皮、タラ末、没食子、ミモザの樹皮、リンゴ、芍薬および桂皮等から抽出することができるタンニンが例示される。好適には、柿渋やお茶に含まれている縮合型タンニンよりも、五倍子、没食子、チョウジ等に含まれている加水分解型タンニンが選択される。より好適には、タンニン酸が選択される。
【0024】
本発明に係る腐敗防止組成物のポリフェノール含有量は特に限定されないが、カビの発生を防止するための量として0.01〜10重量%であることが好ましい。
【0025】
本発明に適応されるイチジク果実の品種はその種類を問わない。例えば桝井ドーフィン、蓬莱柿、とよみつひめ、ビオレ・ソリエス、ビオレ・ドーフィン、スミルナ、セレスト、ゼブラ・スイート、アーチペル、ショート・ブリッジ、ホワイト・イスキア、ホワイト・ゼノア、アーテナ、カドタ、ブルジャソット・グリーズ、ブルンスウィック、ブラウン・ターキー、ネグローネ、ネグロ・ラルゴ、サン・ペドロ・ブラック、サン・ペドロ・ホワイト、カリフォルニア・ブラック、ロイヤル・ビンヤード、ヌアール・ド・カロンなどが挙げられる。
【0026】
本発明が対象にしているカビの種類は特に問わない。イチジク果実の腐敗を引き起こすカビとしては、リゾプス(Rhyzopus)属菌、アルタナリヤ(Alternaria)属菌、ボトリチス(Botrytis)属菌、グロメレラ(Glomerella)属菌等が挙げられる。即ち、本発明に係る腐敗防止組成物は、真菌に対して特に腐敗防止効果を発揮するものである。
【0027】
本発明に係る腐敗防止組成物の使用方法としては、イチジク果実の一部又は全体を浸漬・噴霧する方法、また不織布、繊維、ウレタン、綿、吸水性ポリマーのような吸収体へ吸収させ、イチジク果実を包む方法などがある。これらの使用方法により、イチジク果実に対する本発明に係る腐敗防止組成物の使用量を調節することができる。
【0028】
さらに、本発明に係る腐敗防止組成物には植物の栄養源となりうる糖類、アミノ酸類、無機化合物類等を添加しても良い。
【実施例】
【0029】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0030】
(製造例1:カワラヨモギ抽出エキスの調製)
乾燥したカワラヨモギの花穂100gにエタノール500gを加えて常温にて24時間浸漬して抽出後、ろ過し、カピリンを含有するカワラヨモギ抽出液400gを得た。このカワラヨモギ抽出液のカピリン濃度は0.02重量%であった。本カワラヨモギ抽出液をカワラヨモギ抽出エキスとした。尚、カピリンの濃度は、下記条件の高速液体クロマトグラフィーにて分析し、カピリンの検量線から濃度を求めた。
高速液体クロマトグラフィーの分析条件
(株)島津製作所製 LC−10Aシステム
カラム:信和化工(株)製 STR ODS−2
4.6mmI.D.×150mmL
移動相:0.5%酢酸水溶液55%+エタノール45%、0.8mL/min
検出器:UV280nm
試 料:移動相により10%に希釈し、20μL注入
【0031】
(製造例2:カワラヨモギ濃縮エキスの調製)
乾燥したカワラヨモギの花穂2kgにエタノール10kgを加えて常温にて24時間浸漬して抽出後、ろ過し、カワラヨモギ抽出エキス8kgを得た。これよりエタノールを留去し、全量を400gとし、カワラヨモギ濃縮エキスを得た。このカワラヨモギ濃縮エキスのカピリン濃度は0.4重量%であった。
【0032】
製造例1及び製造例2に記載のカワラヨモギ抽出エキスカワラヨモギ濃縮エキスを使用し、表1記載の実施例1〜8の腐敗防止組成物及び表2記載の比較例1〜4の組成物を調製した。なお、この表における配合量は全て重量%で示す。
【0033】
実施例1〜8の腐敗防止組成物及び比較例1〜4の組成物に関して、以下の試験により腐敗防止効果を確認した。収穫直後のイチジク果実(品種:桝井ドーフィン)を使用し、傷がなく且つ大きさや成熟度が同等のものを選別した。実施例1〜8、及び比較例1〜4の組成物にそれぞれ30個の果実を2秒間浸漬した。風乾後、イチジク果実をポリエチレン製容器内に並べ、20℃の温度条件で貯蔵した。貯蔵開始から3、5、7、10日後にカビにより腐敗した果実数をそれぞれ評価した。その結果を無処理のイチジク果実の結果と併せて表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1より明らかなように、実施例1〜8はカピリンを含有する腐敗防止組成物であり、比較例1〜4と比べてカビにより腐敗した果実数が少ないことが確認され、優れた腐敗防止効果を示すことが確認された。実施例2、実施例3、実施例4、実施例6の順にカビにより腐敗した果実数が少なくなっていることから、界面活性剤、脂肪酸グリセリド、ポリフェノールをカピリンと併用することで腐敗防止効果を高めることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カピリンを含有することを特徴とするイチジク果実の腐敗防止組成物。
【請求項2】
HLB値が8〜20の界面活性剤及び/又は脂肪酸グリセリドを含有することを特徴とする請求項1に記載されたイチジク果実の腐敗防止組成物。
【請求項3】
ポリフェノールを含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたイチジク果実の腐敗防止組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載された腐敗防止組成物で処理されたイチジク果実。

【公開番号】特開2012−92035(P2012−92035A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239974(P2010−239974)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】