説明

イットリウム安定化二酸化ジルコニウム製歯科修復物用ベニアセラミック、およびイットリウム安定化二酸化ジルコニウム製歯科修復物のベニア形成方法

本発明は、イットリウム安定化二酸化ジルコニウムで作られたフレームセラミックの歯科修復物用ベニア形成セラミックスに関する。本発明の目標は、大きな曲げ強度を有し、イットリウム安定化二酸化ジルコニウムで作られたフレームセラミックに極めて良好に密着する半透明ベニア形成セラミックをもたらすことである。イットリウム安定化二酸化ジルコニウムで作られた歯科修復物のベニア形成セラミックにおいて、前記目標は、次の成分:a)58.0〜74.0重量%のSiO、b)4.0〜19.0重量パーセントのAl、c)5.0〜17.0重量%のLiO、d)4.0〜12.0重量%のNaO、e)0.5〜6.0重量%のZrOからベニア形成セラミックを生成させることにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレームセラミックがイットリウム安定化二酸化ジルコニウムで作られている歯科修復物用ベニアセラミックスを対象とする。
【背景技術】
【0002】
イットリウム安定化二酸化ジルコニウムは、修復歯科医学においてクラウン、インレーおよびブリッジ用のフレーム(framework)セラミックスのために益々広範に使用されている極めて高強度の高性能材料である。ベニアセラミックスを適用することが、多様な天然歯に対する微調整のために必要とされる。現在まで、ベニアセラミックスは、修復された歯が応力に耐える能力の点で弱点を提示してきている。
【0003】
ベニアセラミックスは、優れた成形を可能にし、着色に関して隣接する歯と一致可能であり、高度に耐薬品性であり、管理された熱処理後も高い曲げ強度を有し、かつフレームセラミックへの卓越した密着性によって特徴付けられるべきものである。
【0004】
ベニアセラミックスを製作する出発材料として、粉末またはペーストが一般に使用される。ベニアセラミックの性状は、化学的および結晶学的特徴によって、その上出発材料の粒径によって決定される。
【0005】
特許文献1によれば、ガラス溶融物によって白榴石(リューサイト)含有歯科用ポーセレン(磁器)が作られる。白榴石含量は、35〜60重量パーセントの範囲にある。高い膨張係数13〜15×10−6/Kの白榴石含有歯科用ポーセレンが、メタルクラウンにベニア形成を行うため使用される。白榴石結晶を有するベニアセラミックの曲げ強さは、80MPaである。
【0006】
特許文献2において、修復用歯補綴物のために二ケイ酸リチウムの使用が提案されている。この参考文献は、LiO−CaO−Al−SiOの材料系に絞り込んでいる。結晶化を促進するため、核形成剤NbおよびPtが添加される。
【0007】
特許文献3は、核形成および結晶化を増進させるため、LiO−CaO−Al−SiOの基本系への核形成剤Pの添加を示唆している。
【0008】
特許文献4は、ホットプレス方法における二ケイ酸リチウムガラスセラミックスの使用を記載している。しかし、この方法を適用すると、修復した歯の不十分なエッジ強度、および仕上げ中の工具摩耗の増加を招くことが示されている。
【0009】
特許文献5は、修復される歯の二段階製作を示唆している。第1のステップにおいて、メタケイ酸リチウムが結晶化され、機械的に工作されて、歯科製品を形成する。第2の熱処理により、このメタケイ酸リチウムはより強い二ケイ酸リチウムに変換される。したがって、修復歯は、完全に二ケイ酸リチウム結晶を有するガラスセラミックで作られている。
【0010】
特許文献6は、焼結可能な二ケイ酸リチウムガラスセラミックおよびガラスを記載している。出発材料を焼結して、ブランク(半製品)を形成する。これらのブランクを700℃〜1200℃でプレスして、歯科製品を成形する。記述された二ケイ酸リチウムガラスセラミックは、可塑性変形の間、隣接する鋳込みインベストメントヘの僅かな反応しか示さない。
【0011】
特許文献7は、イットリウム安定化二酸化ジルコニウムを主成分とする高強度セラミック歯科補綴物の製造方法を記述している。この方法により作られるフレームセラミックスは、1200MPaを超える4点曲げ強さを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4,798,536号明細書
【特許文献2】米国特許第4,189,325号明細書
【特許文献3】米国特許第4,515,634号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第19750794号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第10336913号明細書
【特許文献6】独国特許19647739号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第1235532号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
高い曲げ強度ならびに、イットリウム安定化二酸化ジルコニウムのフレームセラミックへの優れた密着性を有する半透明ベニアセラミックを可能にすることが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明により、この目的は、イットリウム安定化二酸化ジルコニウムで作られた歯科修復物用ベニアセラミックであって、下記の成分:
a)SiO 58.0〜74.0重量パーセント、
b)Al 4.0〜19.0重量パーセント、
c)LiO 5.0〜17.0重量パーセント、
d)NaO 4.0〜12.0重量パーセント、
e)ZrO 0.5〜6.0重量パーセント
により生成されるベニアセラミックにおいて、叶えられる。
【0015】
核形成剤ZrOのほかに、0.2〜8.0重量パーセントの範囲内で、他の核形成剤、例えばTiOが添加される場合、それを有利とすることができる。
【0016】
ベニアセラミックは、イットリウム安定化二酸化ジルコニウムの歯科製品上に結晶性添加物を有するもしくは別個に結晶性添加物を含まない出発ガラス粉末として塗布され、800℃〜940℃の範囲にある規定された温度プログラムによって焼結され、かつ制御された形で結晶化される。
【0017】
驚くべきことに、特定のガラスセラミックスおよび規定された温度プログラムにより、イットリウム安定化二酸化ジルコニウムの歯科製品への非常に高い付着強度が達成されることが示された。このベニアセラミックは、半透明であり、非常に良好な耐薬品性を有する。このガラスセラミックの主結晶相は、二ケイ酸リチウムを含む。
【0018】
このガラスセラミックの出発ガラス粉末のほかに、ベニアセラミックは、出発製品として結晶粉末を含有することもできる。規定された熱処理によりベニアセラミック粉末は、イットリウム安定化二酸化ジルコニウムと共に核形成、焼結および溶融、ならびに微結晶の生成を伴う結晶化の過程に掛けられる。
【0019】
また、出発ガラスに、二ケイ酸リチウム粉末を添加することも好ましい。二ケイ酸リチウムは、固相反応によって生成させることができる。
【0020】
TiOの添加は、二ケイ酸リチウムの核形成および結晶化の過程を促進する。次いで、下記の成分を含有する混合物から、ベニアセラミックが有利に生成される:
a)SiO 58.0〜72.0重量パーセント、
b)Al 4.0〜18.0重量パーセント、
c)LiO 5.0〜17.0重量パーセント、
d)NaO 4.0〜11.0重量パーセント、
e)ZrO 0.5〜5.5重量パーセント、
f)TiO 0.2〜8.0重量パーセント。
【0021】
二酸化ジルコニウム、または二酸化ジルコニウムと二酸化チタンの混合物は、ケイ酸リチウム材料を主成分とするベニアセラミックの制御された結晶化のための核形成剤として使用される。二酸化チタンの添加は、メタケイ酸リチウムの二ケイ酸リチウムへの変換を促進する。
【0022】
好ましいベニアセラミックにおいて、二ケイ酸リチウムのほかに、リチウムチタンオキシドシリケートLiTiOSiO、ケイ酸リチウムアルミニウム(ベータスポジュメン)、および少量のメタケイ酸リチウムが結晶化される。
【0023】
ベニアセラミックは、結晶性部分が40%未満であるような形で、形成することもできる。この場合、ベニアセラミックは、歯科用フレームセラミックに薄く塗布され、色合わせに役立ち、また独特の審美的光沢を付与する。ベニアセラミックの強度は、計画的な圧縮応力によりさらに増加させることができる。
【0024】
元素Ce、Fe、Mn、Sn、V、Cr、Inの、また希土類Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、DyおよびErの酸化物を、着色もしくは蛍光添加物として使用することができる。
【0025】
この技術を改良するため、添加剤La、B、P、CaO、MgO、ZnOおよびフッ化物を、せいぜい4.0重量パーセントまでの濃度で互いに独立に添加することができる。
【0026】
ベニアセラミックを生成させるため、500℃〜680℃の温度範囲で核形成が行われ、また800℃〜940℃の温度範囲で溶融および結晶化が行われる。核形成と結晶化の間でベニアセラミックを室温まで冷却し、貯蔵し、次いで結晶化温度まで加熱すると、核形成および結晶化過程を中断することができる。
【0027】
イットリウム安定化二酸化ジルコニウムとベニアセラミックの間の付着強度は、曲げ試験により測定される。この目的のため、二酸化ジルコニウムの2本の丸棒の端面に、粉末のベニアセラミックを塗布し、規定された熱処理に掛ける。3点曲げ試験により付着強度を測定する。
【0028】
少なくとも150MPaの、二酸化ジルコニウムへの密着力を有するベニアセラミックスが好ましい。
【0029】
本発明は、下記において実施形態例を参照して、より完全に記述されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】酸化リチウムおよび二酸化ケイ素の固相反応(940℃において4時間)後のX線回折図形(XRD)である。
【図2】ベニアセラミックの生成についての典型的な温度曲線である。
【図3】本発明によるベニアセラミックのXRDである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明によるベニアセラミックスの実施形態例として、表1において12種の組成物を示している。
【0032】
表1
【0033】
【表1】

ガラス出発物は、温度1530℃で白金もしくは白金−ロジウムるつぼ内で溶融し、水中に投入して、フリットを生成させた(図2)。
【0034】
制御された結晶化を促進するため、フリット化したガラス出発物は、580℃±100℃でおよそ4時間鍛錬し、冷却後粉末としている。使用した粒径は0.6μm〜20μmの範囲である。
【0035】
二ケイ酸リチウム粉末を、ガラス出発物に添加することができる。二ケイ酸リチウムは、固相反応により生成させる。
【0036】
図1は、固相反応により生成した二ケイ酸リチウムのX線回折図形(XRD)を示す。
【0037】
湿らせた出発材料を、ベニアセラミックとしてイットリウム安定化二酸化ジルコニウムの歯科用フレームセラミックに塗布し、890℃±50℃で溶融し、制御された形で結晶化させている。
【0038】
図2は、ベニアセラミックについての生成過程の間の典型的な温度曲線を示す。
【0039】
表1に掲げた全ての12種の実施例のベニアセラミックは、半透明である。
【0040】
ベニアセラミックスの光学的効果および機械的抵抗性は、ベニアセラミックの構造によって、加えてベニアセラミックとフレームセラミックの相互作用によって影響される。
【0041】
ベニアセラミックの膨張係数(α)およびイットリウム安定化二酸化ジルコニウムのフレームセラミック(TZ3Y)の膨張係数(α)を、互いに適合させなければならない。
【0042】
表1における実施例に基づいて、表2中にベニアセラミックスの膨張係数(α)を示し、イットリウム安定化二酸化ジルコニウムと比較している。
【0043】
表2
【0044】
【表2】

イットリウム安定化二酸化ジルコニウムのフレームセラミックとベニアセラミックの間の付着強度を、3点曲げ試験によって測定した。この目的のため、ベニアセラミックの粉末を、2本の二酸化ジルコニウムの円筒形試料の間に塗布し、図2に対応する熱処理に掛けた。
【0045】
表3は、選択された試料についての付着強度を示しており、α=3点曲げ試験に基づく付着強さ(MPa)であり、またm=ワイブル(Weibull)パラメーターである。
【0046】
表3
【0047】
【表3】

組成および熱処理に応じて、本発明による高付着強度を有するベニアセラミックスにおいて、核生成および結晶化の過程が異なり得る。
【0048】
表1および温度890℃±50℃を参照すると、ベニアセラミックスの実施例1、4、8、9および10は、ケイ酸リチウムおよび二酸化ジルコニウム結晶相として結晶化する。ケイ酸リチウムの結晶化は、2つの時間段階で行われる。最初に、メタケイ酸リチウムLiSiOが生成され、周囲のケイ酸塩相とのその後の反応によりメタケイ酸リチウムが二ケイ酸リチウムLiSiに変換される。
【0049】
表1および温度890℃±50℃を参照すると、ベニアセラミックスの実施例2、5および7は、二ケイ酸リチウム、ベータスポジュメン、リチウムチタンオキシドシリケートLi(TiO)(SiO)およびメタケイ酸リチウムの結晶相として結晶化する。二ケイ酸リチウムLiSiの結晶化は、二酸化チタンの添加により促進される。図3はそのXRDを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリウム安定化二酸化ジルコニウムを含む歯科修復物用ベニアセラミックであって、下記の成分:
a)SiO 58.0〜74.0重量パーセント、
b)Al 4.0〜19.0重量パーセント、
c)LiO 5.0〜17.0重量パーセント、
d)NaO 4.0〜12.0重量パーセント、
e)ZrO 0.5〜6.0重量パーセント
を含有することを特徴とするベニアセラミック。
【請求項2】
イットリウム安定化二酸化ジルコニウムを含む歯科修復物用ベニアセラミックであって、下記の成分:
a)SiO 58.0〜72.0重量パーセント、
b)Al 4.0〜18.0重量パーセント、
c)LiO 5.0〜17.0重量パーセント、
d)NaO 4.0〜11.0重量パーセント、
e)ZrO 0.5〜5.5重量パーセント、
f)TiO 0.2〜8.0重量パーセント
を含有することを特徴とするベニアセラミック。
【請求項3】
下記のさらなる成分:
a)La 1.0〜4.0重量パーセント、
b)B 0.0〜2.0重量パーセント、
c)MgO 0.0〜2.0重量パーセント、
d)CaO 0.0〜2.0重量パーセント、
e)ZnO 0.0〜2.0重量パーセント、
f)BaO 0.0〜1.0重量パーセント
g)P 0.0〜2.0重量パーセント、
h)フッ化物 0.0〜3.0重量パーセント
が含有されることを特徴とする、請求項1または2に記載のベニアセラミック。
【請求項4】
元素Ce、Fe、Mn、Sn、V、Cr、Inの、ならびに希土類Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、DyおよびErの着色もしくは蛍光添加物である酸化物が個別にまたは組み合わせて含有されることを特徴とする、前記請求項の一項に記載のベニアセラミック。
【請求項5】
ベータ−石英混晶の結晶化を抑制するために他の酸化アルカリ、好ましくは酸化ナトリウムが含有されることを特徴とする、請求項1または2に記載のベニアセラミック。
【請求項6】
請求項1または2に記載のベニアセラミックによる、イットリウム安定化二酸化ジルコニウムを含む歯科修復物へのベニア形成方法であって、下記の方法ステップ:
a)1530℃で溶融したガラスを、水中でフリット化するステップと、
b)前記フリット化したガラスを、核形成のため500℃〜680℃の温度で2〜6時間鍛錬するステップと、
c)冷却後、前記鍛錬したガラスを機械的に微粉砕するステップと、
d)前記前処理した粉末を、水の添加によりペーストに変換するステップと、
e)前記ペーストを、イットリウム安定化二酸化ジルコニウムを含む前記修復物に塗布するステップと、
f)次いで、800℃〜940℃における熱処理に掛けるステップであり、前記ベニアセラミックにおいて、主結晶相として二ケイ酸リチウムが結晶化されるステップと
を特徴とする方法。
【請求項7】
前記二ケイ酸リチウムに加えて、ケイ酸リチウムアルミニウム、およびリチウムチタンオキシドシリケートLiTiOSiOも結晶化されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記フリット化されたガラスに、固相反応により生成された二ケイ酸リチウム微粉砕物を含む結晶性添加物が添加されることを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−519986(P2010−519986A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552063(P2009−552063)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際出願番号】PCT/DE2008/000405
【国際公開番号】WO2008/106958
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(501151539)イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL−9494 Schaan Liechtenstein
【Fターム(参考)】