説明

イネ変異体及びその製造方法、並びに該イネ変異体に由来する澱粉及びその製造方法

【課題】高アミロース澱粉は、難消化性澱粉やフィルム特性等、工業品、食品及び食品添加物として多岐に渡って利用されているが、これまで市販されているのは、高アミロース澱粉を含む品種のトウモロコシ由来であり、米由来はない。そこで、高アミロース澱粉を含むジャポニカ米品種のイネ変異体及びその製造方法、並びに該イネ変異体に由来する澱粉及びその製造方法を提供する。
【解決手段】イネの澱粉生合成酵素の一つであるスターチシンターゼのアイソザイムであるI型とIIIa型の変異体を交配した後代から、レトロトランスポゾンTos17の挿入によって得た、両酵素活性が非常に低下した白濁種子を選別したイネ。該イネ変異体系統の胚乳澱粉は、高いアミロース含量をもち、アミロペクチンの構造もユニークである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高アミロース澱粉を含むジャポニカ米品種のイネ(Oryza sativa)変異体及びその製造方法、並びに該イネ変異体に由来する澱粉及びその製造方法に関する。さらに、本発明は、該澱粉を利用する飲食品及び工業品に関する。
【背景技術】
【0002】
高アミロース澱粉は、糊化しにくく、老化しやすいため、人間が食したときに、大腸まで消化されずに到達する難消化性澱粉(レジスタントスターチ、RS)と成り易く、大腸癌予防食品として最近注目されている。RSは、食物繊維の一種であり、大腸環境の改善や免疫賦活作用等の生理機能をもつことが知られている。また、高アミロース澱粉は、その優れたフィルム特性等を利用した食品添加物や工業素材としても利用されている。
【0003】
高アミロース澱粉を蓄積する日本稲(ジャポニカ米)としては、スターチシンターゼ(SS)のアイソザイムの一つであるSSIIIa型変異体イネがある(非特許文献1、特許文献1)。SSIIIaは、イネの登熟胚乳で働くSS活性のうち、SSIに次ぐ第2番目の活性を示し、この酵素を完全に欠失した変異体では、結合型澱粉合成酵素(Granule−bound starch synthase,GBSSI)の発現が促進され、アミロース含量が増加する。そして、その見かけのアミロース含量は、正常なジャポニカ米の1.5倍である。
また、ジャポニカ米品種のモチ米に印度稲(インディカ米)由来のGBSSI遺伝子を形質転換することで、見かけのアミロース含量が46.3%であるジャポニカ米が得られたという報告がある(非特許文献2)。しかし、このアミロース含量の数値は、測定方法によって大きく異なり、Hanashiroらの方法によると、これらの見かけのアミロース含量は21.9−22.2%である(非特許文献3)。なお、申請者らが非特許文献3と同様の手法で測定したSSIIIa変異体イネは、見かけのアミロース含量は26.0%である。
【0004】
【特許文献1】特開2006−051023号公報
【非特許文献1】N. Fujita他 Plant Physiol., 144: 2009-2023 (2007)
【非特許文献2】K. Itoh他 Plant Cell Physiol., 44: 473-480 (2003)
【非特許文献3】I. Hanashiro他 Plant Cell Physiol., 49: 925-933 (2008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高アミロース澱粉素材としては、米由来のものは存在せず、主にトウモロコシ由来が用いられてきた。さらに、ジャポニカ米において、インディカ米と同等レベルもしくはそれ以上のアミロース含量を含む澱粉を胚乳に生産する高アミロース米は存在しなかった。加えて、米由来の高アミロース澱粉を応用した飲食品、食品添加物及び工業品はこれまで製造販売されていなかった。
【0006】
本発明は、斯かる課題に鑑みてなされたもので、上記課題を解決できる高アミロース澱粉を含むジャポニカ米品種のイネ変異体及びその製造方法、並びに該イネ変異体に由来する澱粉及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載のイネ変異体の製造方法は、イネスターチシンターゼI型変異体イネ及びイネスターチシンターゼIIIa型変異体イネの交配後代から生じた白濁種子を選別したことを特徴とする。
また、請求項2に記載のイネ変異体の製造方法は、前記イネスターチシンターゼI型変異体イネ及び前記イネスターチシンターゼIIIa型変異体イネは、レトロトランスポゾンTos17の挿入によって得たことを特徴とする。
また、請求項3に記載のイネ変異体は、請求項1又は2に記載のイネ変異体の製造方法から製造されたことを特徴とする。
また、請求項4に記載のイネ変異体は、イネスターチシンターゼI型及び/又はイネスターチシンターゼIIIa型の活性が野生型イネおよび親系統イネと比べて低下したことを特徴とする。
また、請求項5に記載のイネ変異体は、イネスターチシンターゼI型及びイネスターチシンターゼIIIa型の一方の遺伝子型は劣勢ホモであり、もう一方の遺伝子型はヘテロであることを特徴とする。
また、請求項6に記載のイネ変異体は、野生型イネ及び親系統イネと比べて、種子重量が8割以上維持され、農業形質に低下が見られないことを特徴とする。
また、請求項7に記載の澱粉の製造方法は、請求項3乃至6の何れかに記載のイネ変異体を用いたことを特徴とする。
また、請求項8に記載の澱粉の製造方法は、前記イネ変異体の胚乳を用いたことを特徴とする。
また、請求項9に記載の澱粉は、請求項7又は8に記載の澱粉の製造方法から製造されたことを特徴とする。
また、請求項10に記載の澱粉は、イネスターチシンターゼI型及びイネスターチシンターゼIIIa型の活性の低下に起因する野生型イネや親系統イネを用いて製造される澱粉とは異なることを特徴とする。
また、請求項11に記載の澱粉は、野生型イネや親系統イネを用いて製造される澱粉と比べて、真のアミロース含量が高いことを特徴とする。
また、請求項12に記載の澱粉は、野生型イネや親系統イネを用いて製造される澱粉と比べて、アミロペクチンの鎖長分布が異なることを特徴とする。
また、請求項13に記載の澱粉は、野生型イネや親系統イネを用いて製造される澱粉と比べて、澱粉物性が異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、白濁種子という形質を指標として用いることによって、高アミロース澱粉を含むイネ変異体を簡易に選別することができる。さらに、バイオ燃料の需要過多から、輸入穀類澱粉価格が高騰している昨今、国産のジャポニカ米品種での代用が望まれるが、本発明の高アミロース澱粉を含むイネ変異体は、これまでトウモロコシにしか無かった高アミロースの性質を備えており、代用はもちろん、米食の我が国においては、さまざまな食品添加物や工業素材への利用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、スターチシンターゼIIIa型(SSIIIa)変異体イネの胚乳澱粉よりも高アミロースである澱粉を得るため、本発明者らが既に得ているSSIIIa変異体イネ(特開2006−051023号公報)にスターチシンターゼI型(SSI)変異体イネ(N. Fujita他 Plant Physiology 140: 1070-1084 (2006);特開2003−079260号公報)を交配することで、それらの後代から高アミロース澱粉を蓄積する種子を選抜する。
以下、本発明の具体的態様、技術的範囲等について詳しく説明する。
【0010】
本発明のイネ変異体は、SSI変異体イネのうちSSIを完全に欠失した系統(e7−/−)とSSIIIa変異体イネのうちSSIIIaを完全に欠失した系統(e1−/−)を定法で交配したものであり、得られたF種子の自殖種子(F種子)を用いる。ここで、SSI変異体イネ及びSSIIIa変異体イネは、当業者が用いることが可能な技術であれば、任意の方法を用いて作成することができる。好ましくは、SSI遺伝子あるいはSSIIIa遺伝子にレトロトランスポゾンTos17を挿入して作成する。
種子は、親系統イネの種子の形態とは異なる白濁種子である。すなわち、野生型イネと同一の種子の形態を示すSSI変異体イネの種子、及び種子の中央部が濁る心白種子の形態を示すSSIIIa変異体イネの種子は選択から除外する(図1下部参照)。
さらに、この白濁種子を播種し、次世代の種子を得る。すると、白濁種子と正常種子が分離した系統と、白濁種子と心白種子が分離した系統が存在する(図1参照)。このことから、播種した白濁種子は、SSI遺伝子とSSIIIa遺伝子に関して二重劣性ホモではなく、いずれかがヘテロであることが分かる。ここで、前者をR系統、後者をA系統と呼ぶ(図1参照)。
【0011】
次に、R系統及びA系統の白濁種子を発芽させた後、葉身からDNAを抽出し、PCR法によってその遺伝子型を検出する。
すると、R系統白濁種子は、SSI遺伝子座は劣性ホモであり、SSIIIa遺伝子座はヘテロである。一方で、A系統白濁種子は、R系統とは逆に、SSI遺伝子座はヘテロであり、SSIIIa遺伝子座は劣性ホモである(図2参照)。
【0012】
次に、R系統白濁種子及びA系統白濁種子の次世代の登熟種子の可溶性抽出液のSS活性をNative−PAGE/SS活性染色法で測定する。
すると、R系統白濁種子の次世代では、いずれの登熟種子でもSSI活性バンドが欠失するが、SSIIIa活性が強いものと弱いものが存在する(図3参照)。この可溶性画分を抽出して残った沈殿を用いてアミロペクチンの鎖長分布解析を行ったところ、SSIIIa活性が強い種子は、いずれもSSI変異体イネの親系統イネと同一の鎖長分布パターンを示し、SSIIIa活性が弱い種子は、いずれもR系統白濁種子と同一の鎖長分布パターンを示す(図3参照)。
また、A系統白濁種子の次世代では、いずれの登熟種子でもSSIIIa活性バンドが欠失するが、SSI活性が強いものと弱いものが存在する(図4参照)。この可溶性画分を抽出して残った沈殿を用いてアミロペクチンの鎖長分布解析を行ったところ、SSI活性が強い種子は、いずれもSSIIIa変異体イネの親系統イネと同一の鎖長分布パターンを示し、SSI活性が弱い種子は、いずれもA系統白濁種子と同一の鎖長分布パターンを示す(図4参照)。
このように、本発明のイネ変異体は、SSI及び/又はSSIIIaの活性が野生型イネおよび親系統イネと比べて低下しているものを含む。
【0013】
以上のことから、SSI変異体イネとSSIIIa変異体イネを交配した後代に得られる白濁種子には、R系統及びA系統の2種類の遺伝子型のものが存在し、それらは、レトロトランスポゾンTos17の挿入によって生じたSSI活性あるいはSSIIIa活性の低下を親から受け継ぐ。すなわち、SSIあるいはSSIIIaの一方の遺伝子座が劣勢ホモとなり完全に欠失し、もう一方の遺伝子座がヘテロになることでSS活性が激減して、種子が白濁するという特徴を有する。このSS活性の低下は、好ましくはSSI及び/又はSSIIIaの活性が野生型イネおよび親系統イネと比べて低下することが望ましい。また、両酵素の活性が低下、即ち、二重劣勢ホモになると種子が稔実しない。
なお、これらのイネ変異体イネの系統はいずれかの遺伝子座がヘテロであることから、次世代は再び異なる形態の種子が分離する(図1のF種子参照)。したがって、白濁という明確な指標で、以下に述べるユニークな澱粉構造をもったイネ変異体を容易に選抜することが可能である。
【0014】
次に、本発明のイネ変異体の澱粉について説明する。
一般に、澱粉とは、少なくとも緑藻より高等な植物が主として貯蔵組織に蓄積する不溶性のαグルカンである。イネ、トウモロコシ等の穀類や芋類、豆類が蓄積する貯蔵澱粉は、α1,4グルコシド結合からなる直鎖構造とα1,6グルコシド結合からなる枝分かれ構造とのグルコースホモポリマーである。通常の貯蔵澱粉は、ほとんどが直鎖成分からなるアミロースと枝分かれ成分を含むアミロペクチンからなり、後者は前者より多く、通常は70−80%を占める(澱粉科学の事典(不破英次他),3〜38頁,朝倉書店(2003))。
澱粉合成に関与する酵素には、ADPグルコースを基質としてα1,4グルコシド結合を伸長するスターチシンターゼ(SS)、α1,6グルコシド結合を作る枝作り酵素(BE)、ADPグルコースを生産するADPグルコースピロフォスフォリラーゼ(AGPase)、余分な枝を払う枝切り酵素(DBE)の4種類が考えられている。イネ等の高等植物には、これらの酵素に複数のアイソザイムが存在し、これらは異なる遺伝子にコードされている。これらのアイソザイム遺伝子が欠失あるいは損傷すると、変異体となり、すべての遺伝子が正常な野生型イネとは異なる澱粉構造を示すことが知られている(Y. Nakamura Plant Cell Physiol. 43: 718-725 (2002))。
【0015】
ここで、本発明のイネ変異体の澱粉は、以下の特徴を有する。
(1)本発明のR系統白濁種子とA系統白濁種子のアミロペクチンの鎖長分布を測定したところ、野生型イネ及び両親系統イネとは異なるユニークなパターンを示す(図5参照)。
(2)本発明のR系統及びA系統白濁種子は、野生型イネの種子重量のそれぞれ87.7%及び83.6%を維持する。好ましくは、野生型イネ及び両親系統イネの種子重量の8割以上を有することが望ましい。また、生育、開花日等も野生型イネと変わらず、農業形質の低下がみられない。これらの性質は、育種素材として利用する場合のメリットとなる。
(3)R系統及びA系統白濁種子澱粉の糊化温度は、アミロペクチンの鎖長分布の変化に伴い高くなる。特に、R系統白濁種子の糊化開始温度は、野生型イネの種子に比べて約6℃高いという澱粉物性を有する(図6参照)。このように、糊化温度が高い澱粉は、低温糊化させると、未糊化澱粉が残存し、老化しやすく、難消化性澱粉と成りやすい。
(4)R系統及びA系統白濁種子澱粉の見かけのアミロース含量は、それぞれ、28.6%及び32.5%であり、真のアミロース含量は、それぞれ、25.3%及び29.4%である。特にA系統白濁種子は、SSIIIa変異体イネ(見かけのアミロース含量が30.2%,真のアミロース含量が26.9%)より高い値を示す(図7及び図8参照)。好ましくは、野生型イネ及び両親系統イネを用いて製造される澱粉よりも真のアミロース含量が高いことが望ましい。
なお、本明細書中に記載の見かけのアミロース含量とは、澱粉のイソアミラーゼ分解物をゲル濾過したときに、最も分子量が大きいため、最初に検出されるフラクションの含量であり、アミロペクチンの超長鎖をも含む値である。これに対して、真のアミロース含量とは、見かけのアミロース含量からアミロペクチンの超長鎖を引いた値である(T. Horibata他 J. Appl. Glycosci. 51: 303-313 (2004))。
【実施例】
【0016】
以下、図を参照しながら本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0017】
(実施例1:白濁種子の遺伝子型決定)
本発明の白濁種子の親系統イネは、レトロトランスポゾンTos17をSSI遺伝子あるいはSSIIIa遺伝子に挿入することで、SSI活性あるいはSSIIIa活性が低下している系統である。これらの遺伝子型が劣性ホモかヘテロかを確認するには、それぞれの遺伝子上にTos17が挿入されているか否かをネステッドPCR法によって確認すればよい。
SSI遺伝子にTos17が挿入されていることを確認するPCR(挿入PCR)は、ファーストPCRのプライマーとして、T1F(配列表の配列番号9)とSSI−1R(配列表の配列番号1)を、セカンドPCRのプライマーとしてT2F(配列表の配列番号10)とSSI−2R(配列表の配列番号2)を用いた。また、Tos17が挿入されていないことを確認するPCR(非挿入PCR)は、ファーストPCRのプライマーとして、SSI−3F(配列表の配列番号3)とSSI−1R(配列表の配列番号1)を、セカンドPCRのプライマーとしてSSI−6F(配列表の配列番号4)とSSI−2R(配列表の配列番号2)を用いた。
そして、ネステッドPCRを行うと、挿入PCRで2920b.p.、非挿入PCRで3170b.p.のバンドが得られた。SSI遺伝子にTos17がホモで挿入されていれば、挿入PCRでのみバンドが検出され、ヘテロであれば、挿入及び非挿入PCRの両方にバンドが検出されるが、いずれも予想通りのバンドパターンが得られた(図2上段参照)。
【0018】
同様に、SSIIIa遺伝子にTos17が挿入されていることを確認するPCR(挿入PCR)は、ファーストPCRのプライマーとして、T1F(配列表の配列番号9)とSSIIIa−5R(配列表の配列番号5)を、セカンドPCRのプライマーとしてT2F(配列表の配列番号10)とSSIIIa−6R(配列表の配列番号6)を用いた。また、Tos17が挿入されていないことを確認するPCR(非挿入PCR)は、ファーストPCRのプライマーとして、SSIIIa−5F(配列表の配列番号7)とSSIIIa−5R(配列表の配列番号5)を、セカンドPCRのプライマーとしてSSIIIa−6F(配列表の配列番号8)とSSIIIa−6R(配列表の配列番号6)を用いた。
そして、ネステッドPCRを行うと、挿入PCRで3020b.p.、非挿入PCR後者で4870b.p.のバンドが得られた。SSIIIa遺伝子にTos17がホモで挿入されていれば、挿入PCRでのみバンドが検出され、ヘテロであれば、挿入及び非挿入PCRの両方にバンドが検出されるが、いずれも予想通りのバンドパターンが得られた(図2下段参照)。
【0019】
(実施例2:白濁種子の次世代の登熟種子から得た可溶性画分のSS活性検出法)
白濁種子の次世代の登熟種子から得た可溶性画分のSSI活性及びSSIIIa活性をNative−PAGE/SS活性染色法(Activity staining)を用いて検討した。具体的には、N. Fujita他 Plant Physiology 140: 1070-1084 (2006)に記載の方法に従って行った。
【0020】
開花後10〜15日くらいの登熟種子1粒のもみ、胚、果皮を除去し、3倍体積の抽出バッファー[50mMのImidazol(pH7.4),12.5%のglycerol,8mMの塩化マグネシウム,500mMの2−メルカプトエタノール]を加え、マイクロチューブ内でプラスチック製ホモジナイザー(グライナー社製)を用いてホモジナイズし、15,000rpm、10分、4℃で遠心分離して得た上清にNative−PAGE用サンプルバッファー[0.3MのTris−HCl(pH7.0),0.1%のブロモフェノールブルー,50%のグリセロール]を1/2体積加えて電気泳動に用いた。電気泳動にはグルコシルトランスフェラーゼ反応に必要なプライマーとしてカキグリコーゲンを60℃で溶かし込んだ7.5%のアクリルアミドゲルを用いた。フロントが濃縮ゲルを通過するまで7.5mA、通過してから15mAの定常電流で4℃下で電気泳動し、フロントが出てから60分で電流を止めた。その後、基質であるADPグルコースを除いた反応液[クエン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5),0.5MのCitrate−Na,100mMのBicine−NaOH(pH7.5),0.5mMのEDTA、10%のGlycerol、2mMのジチオスレイトール,1mMのADPグルコース]で2回洗浄し(各15分)、ADPGを加えて20時間、30℃でシーソーで反応させた。反応後、ヨード・ヨードカリ液(1%のKI/0.1%のI)で染色した。
【0021】
図3及び図4に上記の結果を示す。イネの野生型(日本晴)の登熟種子をNative−PAGE/SS活性染色した場合、SSアイソザイムはゲル中にポリグルカンを伸長するため、ヨード・ヨードカリ液で染色すると茶色のバンドを生じた。移動度の遅いバンドがSSIIIaであり、これよりも移動度の早いバンドがSSIである。野生型イネである日本晴(日)では両SSのバンドが検出されるが、両親の変異体イネ(ΔSSI及びΔSSIIIa)ではいずれかの活性が欠失していた。それに対して、R系統白濁種子の次世代の登熟種子では、いずれもSSI活性バンドが欠失するが、SSIIIa活性が強いものと弱いものが存在した(図3#1〜13)。また、A系統白濁種子の登熟種子では、いずれもSSIIIa活性バンドが欠失するが、SSI活性が強いものと弱いものが存在した(図4#1〜14)。したがって、実施の形態でも述べたように、本発明のイネ変異体には、SSI及び/又はSSIIIaの活性が野生型イネおよび親系統イネと比べて低下したものを含むことが示された。
【0022】
[実施例3:胚乳アミロペクチンの鎖長分布解析]
胚乳澱粉のアミロペクチンの鎖長分布解析は、オセアとモレルの方法(O’Shea and Morell, Electrophoresis, 17, 681-688 (1996))を参考に以下のように行った。
【0023】
試料は、完熟種子1粒から外内穎及び胚を取り除き、ペンチで胚乳を粉砕した後、エッペンドルフチューブ内でプラスチック製ホモジナイザー(グライナー社製)を用いてさらに磨砕した粉末あるいは、Native−PAGE/SS活性染色に用いた上清を採取した後に残った沈殿を蒸留水とアセトンで洗浄したものを用いた。各々に5mlのメタノールを加え、10分間煮沸した。次に、2、500xgで10分間遠心分離し、上清を除去し、90%のメタノールを5ml加え2度洗浄した。さらに、沈殿に5Nの水酸化ナトリウムを15μl加え、5分間煮沸して澱粉を糊化させた。その糊化液を氷酢酸9.6μlで中和した後、蒸留水を1089μl、0.6Mの酢酸緩衝液(pH4.4)を100μl、2%のアジ化ナトリウムを15μl、P.amyloderamosaイソアミラーゼ(EC3.2.1.68,林原生物化学研究所)を2μl(約210unit)加え、スターラーバーで撹拌しながら37℃で8時間以上反応した。さらに、イソアミラーゼを2μl追加して8時間以上反応した後、常温で10,000xgで遠心分離し、上清を脱イオンカラム(AG501−X8(D), Bio−Rad)で濾過した。次に、α−グルカン鎖の非還元末端を蛍光標識するため、Hizukuriら(Carbohydrate Research, 94, 205-213 (1981))の方法により試料中の糖含量を定量し5nmol相当の還元末端をもつα−グルカン鎖を遠心濃縮機で乾燥させ、1−アミノピレン−3,6,8−三硫酸塩(APTS)溶液[2.5%のAPTS、15%の酢酸]を2μl、シアン化ホウ素ナトリウム溶液[1Mのシアン化ホウ素ナトリウム、100%のテトラヒドロフラン]を2μl添加し、55℃で90分間反応させた。分析時には12.5倍に蒸留水で希釈して用いた。鎖長分布解析は、キャピラリー電気泳動装置(P/ACE MDQ, Beckman Coulters)を用いて行った。グルコース重合度(DP)3以上の各ピーク面積を数値化し、DP60までのピーク面積の合計を100%としたときの各DPの割合(Molar %)を算出した。また、各変異体イネから野生型イネのパターンを引いた差分(ΔMolar %)のグラフを作成した(図3、図4及び図5参照)。これより、R系統白濁種子とA系統白濁種子のアミロペクチンの鎖長分布は、野生型イネ及び両親系統イネとは異なるユニークなパターンであることが示された。
【0024】
(実施例4:胚乳澱粉の熱糊化特性)
イネ変異体系統における胚乳澱粉の熱糊化特性を、Fujita et al. Plant Cell Physiol. 44: 607-618 (2003)に記載の方法に従って、以下のように調べた。
【0025】
完熟種子のもみ、胚を除去し、乳鉢で粉砕したものを105℃で2時間乾燥させた。乾燥させた粉末約3mgに蒸留水9μlを加えたものをアルミ容器に入れて示差走査熱量測定(DSC,セイコーインスツルメンツ社製)に用いた。昇温速度は3℃/分で5〜100℃を測定した。そして、測定器付属の計算ソフトで、糊化開始温度、糊化ピーク温度、糊化終了温度、糊化熱量を算出した。
図6に野生型(日本晴)、SSI変異体、SSIIIa変異体、R系統、A系統における澱粉特性の一覧を示す。各系統において、種子の澱粉特性が異なっていた。
特に、R系統白濁種子の糊化開始温度は58.0±0.2℃であって、野生型イネ(日本晴)種子の52.4±0.1℃と比べて約5.6℃上昇した。また、澱粉の糊化ピーク温度は、R系統白濁種子は64.6±0.1℃及びA系統白濁種子は61.9±0.1℃であって、日本晴種子の58.2±0.1℃と比べてそれぞれ約6.4℃及び約3.7℃上昇した。また、澱粉の糊化終了温度は、R系統白濁種子は69.9±0.2℃及びA系統白濁種子は67.8±0.2℃であって、日本晴種子の63.3±0.3℃と比べて各々約6.6℃及び約4.5℃上昇した。このように、糊化温度が高い澱粉物性を示すR系統及びA系統白濁種子の澱粉は、低温糊化させると未糊化澱粉が残存し老化しやすいため、難消化性澱粉に成りやすいことが示された。
【0026】
(実施例5:枝切りした澱粉のゲル濾過クロマトグラフィー)
澱粉のα−1,6結合をイソアミラーゼで完全に切断し、α−1,4鎖のみにした後、ゲル濾過によって分離することで、澱粉中の見かけのアミロース含量を求めることができる。また、澱粉からアミロペクチンを精製し、同様にゲル濾過を行えば、真のアミロース含量を求めることができる。すなわち、澱粉のゲル濾過によって検出される高分子量のピークには真のアミロース含量とアミロペクチンに接続された非常に長い直鎖(Extra long chain, ELC)の両方が検出され、精製したアミロペクチンからは、高分子量のピークにはELCのみが検出されるため、真のアミロース含量は見かけのアミロース含量からELC含量を引くことで求めることができる(T. Horibata他 J. Appl. Glycosci. 51: 303-313 (2004))。
これらの方法を用いて、本発明のR系統及びA系統の白濁種子、並びに野生型イネ(日本晴)種子、SSI変異体イネ種子、SSIIIa変異体イネ種子の胚乳澱粉の真のアミロース含量及びELC含量を求めた。方法の詳細を以下に示す。
【0027】
(実施例5.1:澱粉の精製法)
澱粉の精製は、冷アルカリ浸せき法(Yamamoto他, Denpun Kagaku 28: 241-244 (1981))を用いた。10gの玄米を80%まで精米し、0.1%のNaOHを200ml加えて一晩4℃で放置した。翌日、上清を捨て、乳鉢ですりつぶし、150μmのメッシュに通して、3,000g、4℃で10分間遠心分離した。沈殿に0.1%のNaOHを600ml加えて氷中で3時間振とうし、一晩4℃で放置した。翌日、上清を捨て、蒸留水でけん濁し、1Nの酢酸で中和した。さらに、蒸留水で5回洗浄し、乾燥させ、乳鉢で粉体にした。
【0028】
(実施例5.2:アミロペクチンの精製法)
アミロペクチンの精製は、Takeda et al. Carbohydr. Res. 148: 299-308 (1986)に記載の方法に基づいて行った。まず、精製した澱粉1gにDMSOを100ml加え、80〜85℃で窒素気流下で静かに撹拌しながら澱粉を3時間溶解させた。次に、60℃まで冷却後、エタノール500mlを加え、5℃で一晩放置し、2,000g、5℃で15分間遠心分離した。沈殿に再びDMSOを100ml加え、80〜85℃で窒素気流下で静かに撹拌しながら澱粉を3時間溶解させた。次に、60℃まで冷却後、エタノール500mlを加え、5℃で一晩放置し、2,000g、5℃で15分間遠心分離した。次に、得られた沈殿に60℃の蒸留水170mlを加えて78〜80℃に温め、窒素気流下で溶解させた。溶解後、80〜85℃に保温し、n−ブタノールとイソアミルアルコールをそれぞれ10mlずつ加え、3時間静かに撹拌した。そして、60℃まで冷却後、緩やかに冷却しながら一晩放置し、さらに二晩5℃で放置した。そして、8,500g、5℃で20分遠心分離し、上清をロータリーエバポレーターで8倍に濃縮し、3倍量のメタノールを加えて5℃で一晩放置した。加えて、8,500g、5℃で20分遠心分離し、沈殿にエタノール、アセトン、ジエチルエーテルを順次加えて2,000g、5℃で10分間の遠心分離を行い、減圧乾燥して、粉末アミロペクチンを得た。
【0029】
(実施例5.3:澱粉及び精製アミロペクチンの枝切り及びゲル濾過)
精製した澱粉あるいはアミロペクチン22.5mgに蒸留水0.25ml加えて混合し、2NのNaOHを0.25ml加えて37℃で2時間糊化させた。これに蒸留水3.26mlを加え、5NのHClを90μl加えて中和させた。次に、100mMの酢酸緩衝液(pH3.5)を5ml加え、P.amyloderamosaイソアミラーゼ(EC3.2.1.68,林原生物化学研究所)を12.5μl(約875unit)加え、40℃で24時間揺らしながら反応させた。そして、エタノールを5ml加え、ロータリーエバポレーターで乾固させた。これに蒸留水を0.4ml及び2NのNaOHを0.4ml加えて、5℃で30分間糊化させ、5μmのフィルターで濾過した後、ろ液をゲル濾過カラムにアプライした。
【0030】
使用したカラムは、TSKgel toyopearl HW55S(300x20mm)1本にTSKgel toyopearl HW50S(300x20mm)3本(両カラムともTOSOH社製)を直列に接続したものであり、溶離液は0.2%のNaCl/0.05NのNaOHを用いた。試験管1本あたり3mlずつ分取し、68本に分画した。各フラクションの糖量をフェノール硫酸法で測定した。
図7にゲル濾過の結果を示す。野生型(日本晴)、SSI変異体、SSIIIa変異体、R系統白濁種子、A系統白濁種子における各フラクションの胚乳澱粉及び精製アミロペクチンの全糖量(%)、並びに澱粉ヨウ素複合体のλmax(nm)を求めた。
図8に図7で求めた値から計算した結果を示す。各系統の胚乳澱粉(starch)及び精製アミロペクチン(amylopectin)の第1ピーク(Fr.I)、第2ピーク(Fr.II)、第3ピーク(Fr.III)の各相対糖含量(%)、真のアミロース含量TAC(%)、並びにFr.III/Fr.IIを求めた。
これより、第1ピークにおける胚乳澱粉から精製アミロペクチンの量を引いた値である真のアミロース含量は、R系統白濁種子は25.3%及びA系統白濁種子は29.4%であって、日本晴種子の17.9%と比べて大きく上昇していた。また、R系統及びA系統白濁種子共にSSI変異体種子の19.7%と比べて高くなっていた。さらに、A系統白濁種子は、SSIIIa変異体種子の26.9%と比べても高くなっていた。
【0031】
このように、R系統白濁種子は親系統であるSSIIIa変異体の澱粉よりわずかに低いか同等の見かけのアミロース含量を示し、A系統白濁種子は親系統であるSSIIIa変異体の澱粉より見かけのアミロース含量が高かった。以上のことから、野生型イネや既に報告されている組換体イネより、本発明のイネ変異体の方が澱粉の見かけのアミロース含量は高いといえる。
なお、日本人が米飯として食している米は日本稲(ジャポニカ米)であり、ジャポニカ米澱粉の見かけのアミロース含量は16−22%程度である。これに対し、東南アジア、インド等で食されている印度稲(インディカ米)は、ジャポニカ米に比べてパサパサとした食感を示し、見かけのアミロース含量は23−28%程度である(T. Horibata他 J. Appl. Glycosci., 51: 303-313 (2004))。これは、SSアイソザイムのうち、アミロース合成に関与するGBSSIがインディカ米では正常であるのに対し、ジャポニカ米はGBSSI遺伝子の変異によってその発現が低下しているため、そのアミロース含量がインディカ米に比べて低下するからである(M. Isshiki他 Plant J., 15: 133-138 (1998))。
一般に、日本人にはアミロース含量の低いモチモチとした食感の米を好んで食す長年の習慣があり、最近はこれら通常のジャポニカ米より低アミロースである米が良食味米として全国の農業試験場で開発されている。したがって、本発明のジャポニカ米品種を用いた高アミロース含量の澱粉は、日本人にとって受け入れ易いと考えられる。
【0032】
また、ジャポニカ米澱粉のもう一つの特徴は、糊化開始温度がインディカ米より低いことである。これは、SSアイソザイムのうち、アミロペクチン合成に関与するスターチシンターゼIIa型(SSIIa)がインディカ米では正常であるのに対し、ジャポニカ米はSSIIa遺伝子の変異によってその活性が低下しているため、そのアミロペクチンの鎖長が完全に伸びきらず糊化温度の低下が生じるためである(Y. Nakamura他 Plant Mol. Biol., 58: 213-227 (2005))。GBSSI遺伝子とSSIIa遺伝子は、イネの染色体6番の比較的近接した位置に座乗しているため、多くのインディカ米品種はGBSSI及びSSIIaが正常で、多くのジャポニカ米品種は両酵素が変異している(Y. Nakamura他 Starch, 54: 117-131 (2002))。
このように、ジャポニカ米澱粉及びインディカ米澱粉の特徴は、主としてこれらのGBSSI遺伝子とSSIIa遺伝子の両遺伝子によって特徴づけられることが解明されているが、本発明のSSIとSSIIIaの活性が著しく低下したイネ変異体は、別のSSアイソザイムであり、アミロース合成に働くGBSSI遺伝子の発現を著しく促進させ、GBSSIタンパク質が増加するため、高アミロースになると予想される。
また、イネのスターチシンターゼアイソザイムは10種類も存在し、それぞれに組織、生育時期特異性や、対象とするαグルカンの種類が異なること、また、伸長するαグルカンの長さも異なる等によって役割分担されている(N. Fujita他 Plant Physiology 140: 1070-1084 (2006))が、多くの場合は、特定のアイソザイムの活性が低下しても、他のアイソザイムの相補作用によって、グルカン量は大きくは減少しない。一方、相補によって強発現したアイソザイムの役割分担が異なることから、澱粉の成分や構造が野生型イネとは大きく変化すると解される。本発明は、まさに、この生物学的性質を狙ったものである。
【0033】
なお、これまでに高アミロース澱粉としては、トウモロコシ由来のアミロメイズ(ハイロン50、ハイロン70)が利用されている。アミロメイズは、amylose−extender(ae)変異体で、枝作り酵素IIb型の変異体であると考えられているが、その学術的情報が公開されていないため、詳細は不明である。アミロメイズを湿熱処理したRS(日食ロードスター、日本食品化工(株)製、アミロジェルHB−450、三和澱粉工業(株)製)が販売されている。また、トウモロコシのae変異体の見かけのアミロース含量は65.2%である(CD Boyer他 Starch 12: 405-436 (1976))。
これに対し、イネのae変異体は、野生型イネに比べて特に高アミロースにはならないことが知られている(A. Nishi他 Plant Physiol., 127: 459-472 (2001))。ただし、アミロペクチンの平均鎖長が非常に長いため、イネのae変異体の胚乳澱粉は難糊化性を示す。そして、トウモロコシのように見かけのアミロース含量が50%を超えるイネは、現在のところ存在しない。これまで、さまざまな米品種の中で、最も高いものでも見かけのアミロース含量が30%程度であり、これらはいずれもインディカ米である(N. Inouchi他 J. Appl. Glycosci. 52: 239-246 (2005))。
このように、これまで高アミロース澱粉素材としては、米由来のものは存在せず、トウモロコシ由来のものが用いられてきたが、近年、価格が高騰しているトウモロコシの代替として、さらには米食を習慣とする日本人にとって、高アミロース米が受け入れられる可能性は高い。特に、本発明の高アミロース澱粉は、糊化温度が高く老化し易く、難消化性の特徴を示す可能性が高いので、本発明の高アミロース米品種はダイエット米としても注目される。
【0034】
上記に説明したように、本発明の高アミロース澱粉を有するジャポニカ米品種のイネ変異体は、高アミロース澱粉素材として食品添加物や工業素材における利用価値が高い。
本発明のイネ変異体は、イネやトウモロコシ等の穀類の登熟胚乳で最重要SSであるSSIとSSIIIaの活性が著しく低下した系統であり、これらの詳細を解析することで、澱粉生合成における基礎的知見が豊富に発信できる上で重要な材料となる。
また、本イネ変異体の澱粉、即ち、本発明のイネ変異体系統によって生産される澱粉は、これまでに存在するイネ澱粉と比較して、類い希な高いアミロース含量を示し、アミロペクチン構造も野生型イネや両親系統イネと異なるユニークなものであり、独特の澱粉物性を示すことから、新規の構造・性質を有する澱粉として工業及び食品の各分野での利用が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明はスターチシンターゼの主要なアイソザイムであるSSIとSSIIIaの活性を著しく低下させたイネ変異体系統から得られる新規の構造を有する澱粉及びその作成方法に関するものである。本発明のイネ変異体から得られた澱粉は、これまでのイネ澱粉には無かった高アミロースの性質をもち、アミロペクチンの構造もユニークで、新規の特性を有する。これらの米由来の高アミロース澱粉は、価格の高騰が懸念されるトウモロコシで用いられてきた澱粉産業の代替となりうる。また、難消化性を示すことが予想されることから、ダイエット米としての食品や添加物への利用、高アミロース澱粉が示すフィルム特性等から、工業用途にも用いられる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】スターチシンターゼI型(SSI)変異体イネとスターチシンターゼIIIa型(SSIIIa)変異体イネを交配した後代に得られた白濁種子の系譜及び遺伝子型を示す図である。また、両親の変異体イネ及びR系統とA系統の白濁種子を播種して得られたF種子の形態も示す図である。
【図2】R系統及びA系統の遺伝子型を決定するPCR産物のアガロースゲル電気泳動像を示す図である。#1−3は、各々異なる白濁種子から発芽させて得られた葉身から抽出したDNAを示す。全ての個体で、予想通りのバンドパターンが得られた。
【図3】R系統白濁種子の次世代の登熟種子をランダムに採取し、それらから得られた可溶性画分のNative−PAGE/SS活性染色を示す図である。SS活性バンドを検出した結果、R系統から得られた種子は全てSSIバンドを欠失しており、SSIIIaバンドは濃い種子と薄い種子が存在する。また、下図はこれらのSS活性検出後に残った澱粉のアミロペクチンの鎖長分布解析を行い、SSI変異体イネの種子、R系統の白濁種子、及びR系統の登熟種子のパターンと比較した図である。
【図4】A系統白濁種子の次世代の登熟種子をランダムの採取し、それらから得られた可溶性画分のNative−PAGE/SS活性染色を示す図である。SS活性バンドを検出した結果、A系統から得られた種子は全てSSIIIaバンドを欠失しており、SSIバンドは濃い種子と薄い種子が存在した。また、下図はこれらのSS活性検出後に残った澱粉のアミロペクチンの鎖長分布解析を行い、SSIIIa変異体イネ、A系統の白濁種子、及びA系統の登熟種子のパターンと比較した図である。
【図5】R系統及びA系統の白濁種子並びに両親の変異体イネの胚乳アミロペクチンの鎖長分布パターンを野生型イネの分布パターンから引いた差分を示す図である。両白濁種子のパターンは、両親系統イネ及び野生型イネと比較しても異なるユニークなものであることが示される。
【図6】各系統の胚乳澱粉における示差走査熱量測定(DSC)による糊化開始温度(℃)、糊化ピーク温度(℃)、糊化終了温度(℃)、及び糊化熱量(mJ/mg)を示す図である。
【図7】各系統の胚乳澱粉および精製アミロペクチンをゲル濾過した後、各フラクション(Fraction No.)の全糖量(%)をフェノール硫酸法で定量したものを示す図である。また、澱粉由来の各フラクションの澱粉ヨウ素複合体のλmax(nm)も同時に示す。
【図8】各系統の胚乳澱粉および精製アミロペクチンをゲル濾過で分離したときの第1ピーク(Fr.I)、第2ピーク(Fr.II)、第3ピーク(Fr.III)の各相対糖含量(%)、真のアミロース含量TAC(%)、並びにFr.III/Fr.IIを示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0037】
配列番号1:PCRプライマー(SSI−1R)
配列番号2:PCRプライマー(SSI−2R)
配列番号3:PCRプライマー(SSI−3F)
配列番号4:PCRプライマー(SSI−6F)
配列番号5:PCRプライマー(SSIIIa−5R)
配列番号6:PCRプライマー(SSIIIa−6R)
配列番号7:PCRプライマー(SSIIIa−5F)
配列番号8:PCRプライマー(SSIIIa−6F)
配列番号9:PCRプライマー(T1F)
配列番号10:PCRプライマー(T2F)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネスターチシンターゼI型変異体イネ及びイネスターチシンターゼIIIa型変異体イネの交配後代から生じた白濁種子を選別したイネ変異体の製造方法。
【請求項2】
前記イネスターチシンターゼI型変異体イネ及び前記イネスターチシンターゼIIIa型変異体イネは、レトロトランスポゾンTos17の挿入によって得た請求項1に記載のイネ変異体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のイネ変異体の製造方法から製造されたイネ変異体。
【請求項4】
イネスターチシンターゼI型及び/又はイネスターチシンターゼIIIa型の活性が野生型イネおよび親系統イネと比べて低下した請求項3に記載のイネ変異体。
【請求項5】
イネスターチシンターゼI型及びイネスターチシンターゼIIIa型の一方の遺伝子型は劣勢ホモであり、もう一方の遺伝子型はヘテロである請求項3又は4に記載のイネ変異体。
【請求項6】
野生型イネ及び親系統イネと比べて、種子重量が8割以上維持され、農業形質に低下が見られない請求項3乃至5の何れかに記載のイネ変異体。
【請求項7】
請求項3乃至6の何れかに記載のイネ変異体を用いた澱粉の製造方法。
【請求項8】
前記イネ変異体の胚乳を用いた請求項7に記載の澱粉の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の澱粉の製造方法から製造された澱粉。
【請求項10】
イネスターチシンターゼI型及びイネスターチシンターゼIIIa型の活性の低下に起因する野生型イネや親系統イネを用いて製造される澱粉とは異なる請求項9に記載の澱粉。
【請求項11】
野生型イネや親系統イネを用いて製造される澱粉と比べて、真のアミロース含量が高い請求項9又は10に記載の澱粉。
【請求項12】
野生型イネや親系統イネを用いて製造される澱粉と比べて、アミロペクチンの鎖長分布が異なる請求項9乃至11の何れかに記載の澱粉。
【請求項13】
野生型イネや親系統イネを用いて製造される澱粉と比べて、澱粉物性が異なる請求項9乃至12の何れかに記載の澱粉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−63401(P2010−63401A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232298(P2008−232298)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(306024148)公立大学法人秋田県立大学 (74)
【Fターム(参考)】