説明

イネ育苗箱施用被覆粒状物

【課題】本発明は、播種時から移植時までのイネ育苗期間に育苗箱へ処理しても幼苗に薬害を生じることがなく、かつ本田移植後は十分な薬効を示すイネ育苗箱施用被覆粒状物を提供することを目的としている。
【解決手段】農薬活性成分、リグニンスルホン酸塩、無水芒硝および固体担体を用いた粒状組成物の表面を、水系合成樹脂エマルジョン、ポリビニルアルコール水溶液を混合した液で被覆したイネ育苗箱施用被覆粒状物は、被覆膜中のポリビニルアルコールが徐々に溶解することによって引き起こされる被覆膜透湿性の増大、および該被覆膜を徐々に透過した水分により無水芒硝とリグニンスルホン酸塩が粒状組成物の崩壊を促進するという2つの機能による相乗効果から、被覆粒状物からの薬剤溶出性に変曲点が得られるという優れた溶出制御効果があることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イネ育苗箱に施用しても幼苗に対して薬害を生じる恐れがなく、しかも本田移植後に農薬活性成分の溶出量を増加させることにより、優れた薬効を示すイネ育苗箱施用被覆粒状物に関する。
【背景技術】
【0002】
農薬を使用する際には、省力化・環境負荷の低減という観点から農薬の使用量あるいは使用回数の減少と施用時期の早期化が望まれている。このような要望を受けて、水稲作では本田で使用していた農薬を種籾の播種時・育苗期に施用して、移植後本田においてその効果を発揮させる育苗箱処理や、苗を本田に移植する際、田植え機にアタッチメントを装着して薬剤を苗の近傍部の土中に埋め込む移植同時処理が行われている。しかしながら、苗が幼弱なこの期間に通常の粒状農薬を施用した場合、農薬活性成分が短時間で水中または土壌中に溶出されてしまうため薬害が発生しやすく、また効果の持続期間も短くなるなどの欠点を有する。
【0003】
これを解決するため、粒剤を溶出制御膜で被覆し、徐々に農薬活性成分が溶出されるよう工夫された各種の徐放性農薬粒剤が検討されてきた。例えば、(1)農薬活性成分を含有した粒子の表面を被覆することにより溶出制御した粒剤として、水溶性又は蒸散性農薬活性成分を含む農薬粒子を熱可塑性樹脂で被覆した粒状徐放性農薬(特許文献1)、(2)農薬活性成分および担体を含有する粒状組成物にイソシアネート化合物および流動パラフィンよりなる被覆層を設けた徐放性粒剤(特許文献2)、(3)農薬含有粒状物100重量部に対し、0.5〜15重量部の熱硬化性樹脂で被覆された粒状農薬組成物(特許文献3)、(4)農薬活性成分、水溶性高分子および固体担体からなる内核と被覆層より構成される粒子において、内核の吸油率が20以下であり、内核の吸油率に対する被覆率(被覆層/内核の重量比)の割合が0.1〜10であることを特徴とする粒状農薬組成物(特許文献4)などが挙げられる。
【0004】
一方、こうした被覆粒剤は溶出不足による薬効不足を起こすことがあり、そうした問題を解決するために、農薬粒剤を処理した後、一定時間は農薬活性成分の溶出量を低く抑え、一定期間経過後に農薬活性成分の溶出を開始する機能、すなわち時限溶出制御機能を有する農薬粒剤が提案されている。
【0005】
時限溶出制御機能を有する農薬粒剤としては、例えば、(1)高吸水膨潤性物質層とオレフィン系重合体層からなる多層被膜で被覆した被覆農薬粒剤や、アルカリ物質層とオレフィン系樹脂およびアルカリ水可溶性重合体からなる多層被膜で被覆した被覆農薬粒剤などの多層被膜により被覆した被覆農薬粒剤(特許文献5、特許文献6、特許文献7)、(2)水膨潤性物質を含有する農薬粒剤を熱可塑性樹脂の被膜で被覆した被覆農薬粒剤(特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12)などが知られている。
【0006】
しかしながら、多層被膜で被膜が形成されているものは、単層被膜で被覆する場合と比べて製造工程が多く、コスト高となるという問題点がある。また、水膨潤物質を用いた刺激応答型粒剤は、一定の条件下では目的とする効果を発揮するが、気温や水温、水の硬度、潅水量などの条件が変わると、水刺激による被膜に亀裂等を発生させる構造のため、溶出開始のタイミングコントロールが難しく、薬害や薬効不足が生じるという問題点があった。
また、特に水に対する溶解度が高い農薬活性成分は、薬剤処理直後から高濃度の薬量が放出されやすく、薬害を生じたり、流亡による薬効不足を招きやすい。しかし透湿性を低くしすぎると放出される薬量が不足し薬効不足を招くことがあり、水溶解度が低い農薬活性成分に比べ、長期残効性をもった徐放粒剤に製剤化しにくいという問題があった。
これらの被覆粒剤に用いられる被膜の透湿性は、被膜の構成成分や厚みに大きく依存し、農薬活性成分とその使用方法に適合した素材の探索には、多大な労力と時間が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭64−5002号公報
【特許文献2】特公昭64−4483号公報
【特許文献3】特開平10−167904号公報
【特許文献4】特開2000−128705号公報
【特許文献5】特開平6−9303号公報
【特許文献6】特開平6−9304号公報
【特許文献7】特開平6−80514号公報
【特許文献8】特開平9−67206号公報
【特許文献9】特開平9−97608号公報
【特許文献10】特開平9−268103号公報
【特許文献11】特開平11−322503号公報
【特許文献12】特開2001−192305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するもので、水に対する溶解度が高い農薬活性成分を播種時から移植時までのイネ育苗期間に育苗箱へ処理しても幼苗に薬害を生じることがなく、かつ本田移植後は十分な薬効を示すイネ育苗箱施用被覆粒状物、つまり一定期間活性成分の溶出を抑え、一定期間後に活性成分の溶出量を増大させることができる単層の被覆膜からなるイネ育苗箱施用被覆粒状物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、農薬活性成分、リグニンスルホン酸塩、無水芒硝および固体担体を用いた粒状組成物の表面を、水系合成樹脂エマルジョンとポリビニルアルコール水溶液を混合した液で被覆したイネ育苗箱施用被覆粒状物は、被覆膜中のポリビニルアルコールが徐々に溶解することによって引き起こされる被覆膜透湿性の増大、および該被覆膜を徐々に透過した水分により無水芒硝とリグニンスルホン酸塩が粒状組成物の崩壊を促進するという2つの機能による相乗効果から、被覆粒状物からの薬剤溶出性に変曲点が得られるという優れた溶出制御効果があることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の内容をその要旨とするものである。
〔1〕a)水に対する溶解度(25℃)が0.01g/L以上である農薬活性成分、b)リグニンスルホン酸塩、c)無水芒硝およびd)固形担体からなる粒状組成物の表面を、e)水系合成樹脂エマルジョンとf)平均重合度2000以下でケン化度が69〜90モル%であるポリビニルアルコールの水溶液とを、それぞれ固形分の含有量(重量部)比が2:1〜20:1となるように混合した液で被覆することを特徴とするイネ育苗箱施用被覆粒状物。
〔2〕農薬活性成分、リグニンスルホン酸塩、無水芒硝および固形担体からなる粒状組成物を調製する工程、および水系合成樹脂エマルジョンとポリビニルアルコールの水溶液とを混合し、前記粒状組成物の表面を被覆する工程を備えていることを特徴とする〔1〕に記載のイネ育苗箱施用被覆粒状物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のイネ育苗施用被覆粒状物を実施すると次のような効果がもたらされる。すなわち、
(1)水に対する溶解度(25℃)が0.01g/L以上の比較的水溶解度が高い農薬活性成分を用いても、水系合成樹脂とポリビニルアルコールで形成された被膜により育苗期間は薬剤の溶出が低く抑えられ、薬剤溶出過多による薬害や薬剤の流亡等による薬効不足を生じることがない。
(2)このため、水に対する溶解度が高く育苗箱に施用した場合、流亡によって長期的な防除効果が期待できなかった農薬活性成分や、薬害のため高濃度処理や育苗箱施用が不可能であった農薬活性成分の育苗箱処理が可能となる。したがって本発明により、適用時期の拡大および早期化による省力化が可能となる。
(3)また、水系合成樹脂エマルジョンとポリビニルアルコールの水溶液を混合した後で被覆するため、被膜内での成分ムラが生じにくく、均質な粒状剤の製造が容易となる。
(4)さらに、被膜を徐々に通過した水分が粒状組成物に浸透した際に、無水芒硝とリグニンスルホン酸塩が粒状組成物の崩壊を助長し、農薬活性成分と水分との接触面積が大きくなり農薬活性成分の溶解速度が増す。このため、被膜中のポリビニルアルコールの溶解による透湿性の向上と粒状組成物の崩壊による薬剤の溶解速度の上昇による相乗効果から、被覆粒状物からの薬剤溶出性に変曲点が得られる。これらの結果として、生育初期は溶出性を抑えて薬害の発生を防止し、その後の溶出性の高まりによって病害虫に対し高い防除効果を発揮する。本発明のイネ育苗箱施用被覆粒状物は、多層被覆工程や膨潤物質による膨潤性の管理が必要なく、効率的・経済的効果も高い。
なお、本明細書中において溶出性の変曲点とは、一定期間活性成分の溶出を抑え、一定期間後に活性成分の溶出速度を増大させること、すなわち農薬活性成分の溶出速度勾配がS字曲線を描くことをいう。
【発明を実施するための形態】
【0012】
a)農薬活性成分
本発明に使用可能な農薬活性成分は水に対する溶解度(25℃)が0.01g/L以上であり通常イネの栽培に用いられるものであればよく、1種または2種以上を併用しても良い。このような農薬活性成分としては、次のようなものが挙げられる。
殺虫剤としては、例えば、有機リン系、カーバメート系、ピレスロイド系、ネライストキシン系(例えばカルタップ〔有効成分水溶解度200g/L(25℃)〕など)、ネオニコチノイド系(例えばチアメトキサム〔有効成分水溶解度0.41g/100ml(25℃)〕など)、クロロニコチノイド系、フェニルピラゾール系およびベンゾイルフェニル尿素系の殺虫剤、天然殺虫剤などが挙げられる。
殺菌剤としては、例えば、無機銅剤、有機銅剤、無機硫黄剤、有機硫黄剤、メラニン生合成阻害剤(例えばピロキロン〔有効成分水溶解度4.6g/L(25℃)〕など)、有機リン系、ベンゾイミダゾール系、ジカルボキシイミド系、酸アミド系、トリアゾール系、イミダゾール系、メトキシアクリレート系、ストロビルリン系、アニリノピリミジン系、ジチオラン系、キノキサリン系、アミノピリミジン系、フェニルピロール系、トリアジン系、シアノアセトアミド系、アニリド系、グアニジン系の殺菌剤、抗生物質系の殺菌剤(例えばカスガマイシン〔有効成分水溶解度228g/L(25℃)〕など)などが挙げられる。
これらに含まれる個々の具体的な農薬活性成分は、例えば「農薬ハンドブック2005年版」(財団法人 日本植物防疫協会 平成17年10月11日発行)などに記載されている。
本発明において使用される農薬活性成分としては、上記に限定されることはなく、必要があれば上記以外の成分を適用することができる。
これらの農薬活性成分の含有量は、製剤100重量部中に通常0.01〜90重量部、好ましくは0.1〜50重量部、さらに好ましくは0.5〜30重量部である。
【0013】
b)リグニンスルホン酸塩
本発明におけるリグニンスルホン酸塩とは、木材の主要成分であるリグニンをスルホン化することによって得られる水溶性高分子である。また、塩の部分については、特に限定されないが、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム塩などが挙げられる。なお、このようにして製造されたものが使用できることはもちろんのこと、サンエキスP−201(商品名:日本製紙株式会社製)、サンエキスP−252(商品名:日本製紙株式会社製)、Reax 85A(商品名:ウエストベーコ社製)など、工業的に生産販売されているものも使用できる。リグニンスルホン酸塩の製剤中への添加量は、製剤100重量部中に通常0.01〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0014】
c)無水芒硝
本発明に使用できる無水芒硝としては、硫酸ナトリウム特級(純度99%以上、関東化学株式会社)のように無水硫酸ナトリウムとして市販されているものであればよく、なんら限定されるものではない。ただし、本発明中における無水芒硝の含有量としては、製剤100重量部中に0.1〜50重量部であることが好ましく、さらには0.5〜30重量部であることがより好ましい。本発明では、リグニンスルホン酸塩と無水芒硝を併用することにより粒状組成物の崩壊を助長する効果が得られる。
【0015】
d)固体担体
本発明で使用できる固体担体としては、非水溶性固体担体と水溶性担体を挙げることができる。
非水溶性担体としては、クレー、炭酸カルシウム、ケイ砂およびその粉砕物、ケイソウ土、ベントナイト、タルク、ジークライト、セリサイト、酸性白土、活性白土、珪石、軽石、ゼオライト、バーミキュライト、ホワイトカーボン、シラスバルーンなどを粉砕したガラス質粉末などの無機担体、セルロース、パルプ、モミガラ、木粉、デンプン、大豆粉などの有機担体が挙げられる。
水溶性担体としては、硫酸アンモニウム、塩化カリウム、尿素、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖などが挙げられる。
固体担体は、これらに限定されるものではなく、また、これらの1種あるいは2種以上を併用しても構わない。
これらの固体担体の含有量は、製剤に対して通常0.1〜99重量部、好ましくは0.5〜90重量部である。
【0016】
e)水系合成樹脂エマルジョン
本発明に使用できる水系合成樹脂エマルジョンは、水に不溶性の合成樹脂組成物を水に乳化あるいは分散させたものであれば特に限定されるものではないが、好ましい水系合成樹脂エマルジョンとしては、ポリウレタン樹脂、アクリル酸エステル樹脂、スチレン・アクリル酸エステル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン・酢酸ビニル樹脂、アクリルシリコン樹脂である。ポリウレタン樹脂の例としては、スーパーフレックス126、スーパーフレックス150、スーパーフレックス420(以上、第一工業製薬株式会社の商品名)、ハイドランAP−40(大日本インキ化学工業株式会社製の商品名)などが挙げられる。アクリル酸エステル樹脂の例としては、モビニール745(ニチゴー・モビニール株式会社製の商品名)、ポリゾールAP−4690、ポリゾールAP−609L、ポリゾールAP−4770(以上、昭和高分子株式会社製の商品名)、アクアブリッド4173(ダイセル化学工業株式会社製の商品名)などが挙げられる。スチレン・アクリル酸エステル樹脂の例としては、モビニール860(ニチゴー・モビニール株式会社製の商品名)、ポリゾールAP−4710、ポリゾールAP−4750、ポリゾールAP−5051(以上、昭和高分子株式会社製の商品名)などが挙げられる。酢酸ビニル樹脂の例としては、モビニール116(ニチゴー・モビニール株式会社製の商品名)、ポリゾールAX−751、ポリゾールAX−820(以上、昭和高分子株式会社製の商品名)などが挙げられる。エチレン・酢酸ビニル樹脂の例としては、ポリゾールP−3、ポリゾールP−38(以上、昭和高分子株式会社製の商品名)などが挙げられる。アクリルシリコン樹脂の例としては、JSR SX−800A、JSR SX−800B、JSR SX−800T、JSR SX−808(以上、JSR株式会社製の商品名)、ロイシール6202、ロイシール6260(以上、昭和高分子株式会社製の商品名)モビニール7110(ニチゴー・モビニール株式会社製の商品名)、などが挙げられる。
本発明における被膜中の水系合成樹脂の量(固形分の重量部)としては、0.5〜40重量部であることが好ましく、さらには1.0〜20重量部であることがより好ましい。この量は、使用する農薬活性成分の水溶解度および育苗期間におけるイネへの薬害程度を考慮して適宜決められる。
【0017】
f)ポリビニルアルコール
本発明においてポリビニルアルコールは、透湿性の低い水系合成樹脂に添加して透湿性を徐々に高める目的で用いる。完全ケン化型のポリビニルアルコールは水溶解度が低く透湿性の変化が小さく溶出性における変曲点が得られにくい為、ケン化度69〜90モル%の部分ケン化型のものがよい。また、重合度についても、高重合度のものは水溶解度が低下する傾向があり、溶出性の変曲点を得るには重合度2000以下のものがよい。これらを満たすポリビニルアルコールとしては、例えば、クラレポバールPVA−205(株式会社クラレ製、平均重合度500、ケン化度86.5〜89.5モル%)、クラレポバールPVA−405(株式会社クラレ製、平均重合度500、ケン化度80.0〜83.0モル%)、クラレポバールPVA−210(株式会社クラレ製、平均重合度1000、ケン化度87.0〜89.0モル%)、クラレポバールPVA−420(株式会社クラレ製、平均重合度2000、ケン化度78.0〜81.0モル%)、クラレポバールL−8(株式会社クラレ製、平均重合度1000以下、ケン化度69.5〜72.5モル%)などが挙げられるが、これに限定されるものではなく、また、これらの1種または2種以上を併用しても何ら問題はない。
【0018】
また、ポリビニルアルコールは、酢酸ビニル樹脂の乳化重合における乳化剤として用いられることがあるが、この場合のポリビニルアルコールは酢酸ビニルモノマーに対する保護コロイド剤として機能しており、本発明のような水系合成樹脂とポリビニルアルコールの混合による被膜の透湿性のコントロールを目的とはしていない。本発明において、水系合成樹脂エマルジョンとポリビニルアルコール水溶液を混合する際、農薬活性成分の溶出制御のためポリビニルアルコール水溶液中の固形分量に対し水系合成樹脂エマルジョン中の固形分量の割合を多くするが、ポリビニルアルコールの割合が少なすぎるとポリビニルアルコールの溶解による透湿性の変化よりも合成樹脂の特性が強く反映され、本発明による溶出性の変曲点が得られない。
【0019】
一方、ポリビニルアルコールの割合を多くしすぎると、合成樹脂による溶出制御効果が損なわれてしまうため、初期濃度が高くなりイネ苗の生育不良の薬害を生じやすくなる。この場合、溶出性を低く抑えるには被膜を必要以上に厚くしなければならず、効率的・経済的な生産が不可能となる。このため、水系合成樹脂エマルジョンとポリビニルアルコール水溶液中のそれぞれの固形分含有量(重量部)の比は、2:1〜20:1であることが好ましい。また、水系合成樹脂エマルジョンとポリビニルアルコール水溶液中のそれぞれの固形分(重量部)の比は、農薬活性成分の種類や水系合成樹脂の組成、薬剤の処理時期などにあわせて上記の範囲内で適宜決められる。
【0020】
本発明のイネ育苗箱施用被覆粒状物には、必要に応じて、リグニンスルホン酸塩以外の界面活性剤、結合剤、溶剤、補助剤等が本発明の効果を損なわない範囲で含まれていてもよい。これら他の含有物の含有量(合計)としては、製剤全量に対して、通常0〜40重量部、好ましくは0〜30重量部である。
【0021】
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤および両面活性剤などが用いられる。
例えば、非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキレート、ポリオキシエチレンフェニルエーテルポリマー、ポリオキシエチレンアルキレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーなどが挙げられる。
陰イオン界面活性剤としては、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルサルフェート、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェート、ラウリル硫酸塩などが挙げられる。
陽イオン界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩などが挙げられる。
両面活性剤としては、ジアルキルジアミノエチルベタイン、アルキルジメチルベンジルベタインなどが挙げられる。ただし、本発明において使用できる界面活性剤としてはこれらの例示に限られるものではなく、1種または2種以上を併用しても何ら問題はない。
【0022】
本発明に使用できる結合剤としては、天然系、半合成系および合成系の高分子類などである。天然系のものとしては、例えば、デンプン、プルラン、アルギン酸ナトリウム、デキストラン、マンナン、ペクチン、トラガントガム、カードラン、ソルビトール、グアーガム、ロースカストビーンガム、アラビアゴム、キサンタンガム、ゼラチン、カゼイン等が挙げられる。
半合成系のものとしては、例えば、デキストリン、可溶性デンプン、酸化デンプン、α化デンプン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
合成系のものとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、エチレン−アクリル酸共重合体、無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。本発明における結合剤は、これら例示に限られるものではなく、1種または2種以上を併用してもなんら問題はない。
【0023】
本発明に使用できる溶剤としては、例えば、ソルベッソ150(エクソン化学株式会社製の商品名)、ハイゾールE、ハイゾールF(日本石油株式会社製の商品名)、カクタスソルベントP100、カクタスソルベントP150、カクタスソルベントP187、カクタスソルベントP200(日本鉱業株式会社製の商品名)、アルケン56N、アルケン60NH、アルケンL(日本石油化学株式会社製の商品名)などのアルキルベンゼン系溶剤、カクタスソルベント220、カクタスソルベントP240(日本鉱業株式会社製の商品名)、ソルベッソ200(エクソン化学株式会社製の商品名)、精製メチルナフタレン(住金化工株式会社製)、ジイソプロピルナフタレン(商品名「KMC−113」呉羽化学工業株式会社製)などのアルキルナフタレン系溶剤、イソパラフィン(商品名「アイソゾール300」日本石油化学株式会社製)、流動パラフィン、n−パラフィンなどのパラフィン系溶剤、ナフテゾール(日本石油化学株式会社製)、Exssol(エクソン化学株式会社製の商品名)などのナフテン系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルなどのエーテル系溶剤、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−1,3−ブタンジオールなどのアルコール系溶剤、N−メチルピロリドン、n−オクチルピロリドン、n−ドデシルピロリドンなどのアルキルピロリドン系溶剤、デュポンDBE(デュポン株式会社製の商品名)、フタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジイソデシル、フタル酸ジデシル、フタル酸ジデシル、フタル酸ジアルキル(C10〜C12)、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリノルマルアルキル(C8〜C10)トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリアルキル(C9)、トリメリット酸トリイソデシル、アジピン酸ジオレイルなどの多塩基酸エステル系溶剤、オレイン酸イソブチル、ヤシ脂肪酸メチル、ラウリン酸メチル、パーム脂肪酸メチル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸イソトリデシル、ステアリン酸−2−エチルヘキシル、オレイン酸メチル、オレイン酸オクチル、オレイン酸ラウリル、オレイン酸デシルなどの脂肪酸エステル、ジアリルエタンを基本骨格とする芳香族炭化水素系溶剤、トリアリルジエタンを基本骨格とする芳香族炭化水素系溶剤、などの溶剤、さらに、米ヌカ油脂脂肪酸メチルエステル、ナタネ油、大豆油、ヒマシ油、綿実油、コーン油などの植物油を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、また、これらの1種を用いても2種以上を併用しても何ら問題はない。
【0024】
本発明に使用できる補助剤としては、酸化防止剤、紫外線防止剤、結晶析出防止剤などの安定化剤、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、p−クロロ−m−キシレノール、p−オキシ安息香酸ブチルなどの防腐防バイ剤、クエン酸、リン酸、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどのpH調整剤などを挙げることができる。
【0025】
本発明のイネ育苗箱施用被覆粒状物は、水に対する溶解度(25℃)が0.01g/L以上である農薬活性成分、リグニンスルホン酸塩、無水芒硝および固形担体からなる粒状組成物の表面を、水系合成樹脂エマルジョンとポリビニルアルコールの水溶液を混合した液で被覆することで得られるが、その方法は農薬の製剤化において通常用いられる方法でよい。本発明のイネ育苗箱被覆粒状物を得るに際して、水系樹脂とポリビニルアルコールによる被覆前の粒状物を調製するには、通常の造粒法によればよいが、その方法としては、押出し造粒法、転動造粒法、転動流動造粒法、流動層造粒法、圧縮造粒法、攪拌混合造粒法、被覆造粒法および打錠法などを挙げることができる。円柱状の造粒物を得る場合には、押出し造粒法が好ましく、また、球状の造粒物を得る場合には、転動造粒法および攪拌混合造粒法が好ましい。
【0026】
押出し造粒法においては、まず、農薬活性成分とリグニンスルホン酸塩、無水芒硝および固体担体、更に必要に応じて結合剤、その他の界面活性剤、溶剤、補助剤を添加して、ジュースミキサー、ハンマーミル、レディゲミキサーまたはリボンミキサーなどを用いて均一に混合する。この混合物に水および/または結合剤の水溶液または水分散液を添加して双腕ニーダーまたはリボンミキサーなどを用いて混練する。
次に、この混練物をバスケット式造粒機、スクリュー式造粒機などの押し出し造粒機を用いて造粒する。造粒時の押出し穴径(スクリーン径)は通常0.3〜5mm、好ましくは0.5〜2mmの範囲である。得られた造粒物をマルメライザーなどで整粒した後、流動乾燥機やベット式乾燥機などを用いて乾燥させ、次いで篩別することにより本発明で用いる上記被覆前の粒状物が得られる。
【0027】
攪拌混合造粒法においては、まず、農薬活性成分とリグニンスルホン酸塩、無水芒硝および固体担体、更に必要に応じて結合剤、その他の界面活性剤、溶剤、補助剤を添加して、ジュースミキサー、ハンマーミル、レディゲミキサーまたはリボンミキサーなどを用いて均一に混合する。この混合物を攪拌混合造粒機の造粒ベッセル内で攪拌羽根を回転させて攪拌流動状態にする。転動状態の混合物に水および/または結合剤の水溶液または水分散液を滴下または噴霧して、適度な大きさまで粒子を成長させて造粒する。この造粒物を取り出し、流動層乾燥機やベット式乾燥機などを用いて乾燥させた後、篩別することにより本発明で用いる被覆前の粒状物が得られる。
【0028】
転動造粒法や転動流動層造粒法により得られる粒状物は球状であり、本発明で用いられる粒状物としては直径または最大径が、通常0.1〜20mm、好ましくは0.5〜15mmの範囲にあるものが好ましい。
打錠法においては、押し出し造粒法により得られた粒状物の所定量をそのまま打錠機を用いて加圧圧縮して整形造粒してもよく、農薬活性成分とリグニンスルホン酸塩、無水芒硝および固体担体、更に必要に応じて結合剤、その他の界面活性剤、溶剤、補助剤を添加して混合した粉体をそのまま打錠機で加圧圧縮することにより整形造粒して粒状物としてもよい。この場合の粒状物の形態は、打錠機の臼と杵の形によって決まるが、それらは円形板状、長円形板状、角形板状、楕円球状など種々の形状、大きさのものを得ることができ、いずれも本発明において使用できるが、直径または最大径が、通常0.1〜30mm、好ましくは0.5〜20mmの範囲にあるものが好ましい。
【0029】
次に、上記の方法で得た粒状物を水系合成樹脂エマルジョンとポリビニルアルコールの水溶液を混合した液で被覆すれば、本発明のイネ育苗箱施用被覆粒状物を得ることができる。そのような被覆方法としては、特に限定はなく、例えば、加熱気流下での流動層中あるいは回転パン、回転ドラムでの転動中の粒状物に、水系合成樹脂エマルジョンを連続的にあるいは断続的に噴霧または滴下し、乾燥することにより、上記粒状物が樹脂で被覆されたイネ育苗箱施用被覆粒剤が得られる。
【0030】
本発明のイネ育苗箱施用被覆粒状物が、育苗箱に施用されるときの施用量は、育苗箱(通常0.18平方メートル)一枚あたり10〜200g、好ましくは25〜100gである。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、なお、以下の実施例、比較例において「部」は「重量部」の意味である。
【0032】
〔実施例1〕
カスガマイシン(抗生物質系殺菌剤)2.0部、リグニンスルホン酸カルシウム5.0部、無水芒硝2.0部およびクレー80.0部をハンマーミル(不二パウダル株式会社製)にて均一混合した後、この混合物に水11.0部を添加して双腕ニーダー(不二パウダル株式会社製)で混練した。
次に、この加水混練物を孔径1.0mmのバスケット型スクリーンを付けた押し出し造粒機で造粒した。得られた造粒物を流動層乾燥機(不二パウダル株式会社製)で乾燥した後、1.7mm〜850μmのフルイで篩別して粒状物を得た。
この粒状物89.0部を、転動流動層コーティング装置「マルチプレックスMP−01」(株式会社パウレック製)に入れ、水系合成樹脂エマルジョンとしてのポリゾールAP−4690(昭和高分子株式会社製、アクリル酸エステル樹脂35%)28.6部(固形分として10.0部)とポリビニルアルコールとしてのクラレポバールPVA−405(株式会社クラレ製、平均重合度500、ケン化度80.0〜83.0モル%)の5%水溶液20.0部(固形分として1.0部)を混合させた液を該粒状物に噴霧した。噴霧終了後引き続きコーティング装置内で乾燥させ、上記粒状物89.0部がアクリル酸エステル10.0部およびポリビニルアルコール1.0部にて被覆されているイネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0033】
〔実施例2〕
実施例1のリグニンスルホン酸塩をリグニンスルホン酸ナトリウム3.0部、無水芒硝を3.0部、固体担体をケイソウ土81.0部とし、水系合成樹脂エマルジョンをアクアブリッド4173(ダイセル化学工業製、アクリル酸エステル樹脂48%)20.8部(固形分として10.0部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0034】
〔実施例3〕
実施例1のリグニンスルホン酸カルシウムを10.0部、無水芒硝を4.0部、固体担体をゼオライト73.0部とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0035】
〔実施例4〕
実施例1の固体担体を炭酸カルシウム80.0部、ポリビニルアルコールの水溶液をクラレポバールPVA−L8(株式会社クラレ製、平均重合度1000以下、ケン化度69.5〜72.5モル%)の5%水溶液20.0部(固形分として1.0部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0036】
〔実施例5〕
実施例1のリグニンスルホン酸カルシウムを0.5部、無水芒硝を0.5部、固体担体を乳糖86.5部、クラレポバールPVA−405の5%水溶液を10.0部(固形分として0.5部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0037】
〔実施例6〕
実施例1のクレーを79.5部、水系合成樹脂エマルジョンをスーパーフレックス126(第一工業製薬製、ポリウレタン樹脂30%)33.3部(固形分として10.0部)、クラレポバールPVA−405の5%水溶液を30.0部(固形分として1.5部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0038】
〔実施例7〕
実施例1のクレーを78.0部、水系合成樹脂エマルジョンをポリゾールAP−4710(昭和高分子株式会社製、スチレン・アクリル酸エステル樹脂35%)28.6部(固形分として10.0部)、ポリビニルアルコールの水溶液をクラレポバールPVA−210(株式会社クラレ製、平均重合度1000、ケン化度87.0〜89.0モル%)の5%水溶液60.0部(固形分として3.0部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0039】
〔実施例8〕
実施例1のクレーを79.0部、ポリビニルアルコールの水溶液をクラレポバールPVA−420(株式会社クラレ製、平均重合度2000、ケン化度78.0〜81.0モル%)の5%水溶液40.0部(固形分として2.0部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0040】
〔実施例9〕
実施例1のクレーを79.0部、ポリビニルアルコールの水溶液をクラレポバールPVA−205(株式会社クラレ製、平均重合度500、ケン化度86.5〜89.5モル%)の5%水溶液40.0部(固形分として2.0部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0041】
〔実施例10〕
実施例1の農薬活性成分をピロキロン(メラニン生合成阻害剤)12.0部、リグニンスルホン酸カルシウムを3.0部、クレーを74.5部、ポリゾールAP−4690を22.9部(固形分として8.0部)、クラレポバールPVA−405の5%水溶液を10.0部(固形分として0.5部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0042】
〔実施例11〕
実施例10のクレーを72.5部、水系合成樹脂エマルジョンをスーパーフレックス420(第一工業製薬株式会社製、ポリウレタン樹脂32%)25.0部(固形分として8.0部)、ポリビニルアルコールの水溶液をクラレポバールPVA−217(株式会社クラレ製、平均重合度1700、ケン化度87.0〜89.0モル%)の5%水溶液50.0部(固形分として2.5部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0043】
〔実施例12〕
実施例10のリグニンスルホン酸塩をリグニンスルホン酸ナトリウム2.0部、クレーを75.0部、ポリビニルアルコールの水溶液をクラレポバールPVA−420(株式会社クラレ製、平均重合度2000、ケン化度78.0〜81.0モル%)の5%水溶液20.0部(固形分として1.0部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0044】
〔実施例13〕
実施例1の農薬活性成分をカルタップ(ネライストキシン系殺虫剤)4.0部、クレー76.0部、クラレポバールPVA−405の5%水溶液を60.0部(固形分として3.0部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0045】
〔実施例14〕
実施例13のクレーを74.0部、水系合成樹脂エマルジョンをスーパーフレックス126 33.3部(固形分として10.0部)、ポリビニルアルコールの水溶液をクラレポバールPVA−205の5%水溶液100.0部(固形分として5.0部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0046】
〔実施例15〕
実施例13のリグニンスルホン酸塩をリグニンスルホン酸ナトリウム8.0部、固体担体をゼオライト74.0部、クラレポバールPVA−405の5%水溶液を40.0部(固形分として2.0部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0047】
〔実施例16〕
実施例1の農薬活性成分をチアメトキサム(ネオニコチノイド系殺虫剤)2.0部、リグニンスルホン酸カルシウムを2.0部、無水芒硝を5.0部、クレーを84.0部、ポリゾールAP−4690を17.1部(固形分として6.0部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0048】
〔実施例17〕
実施例16のクレーを83.8部、水系合成樹脂エマルジョンをスーパーフレックス126 20.0部(固形分として6.0部)、クラレポバールPVA−405の5%水溶液を24.0部(固形分として1.2部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0049】
〔実施例18〕
実施例16のクレーを84.5部、水系合成樹脂エマルジョンをポリゾールAP−4750(昭和高分子株式会社製、スチレン・アクリル酸エステル樹脂45%)13.3部(固形分として6.0部)、クラレポバールPVA−405の5%水溶液を10.0部(固形分として0.5部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0050】
〔実施例19〕
実施例16のリグニンスルホン酸カルシウムを6.0部、無水芒硝を10.0部、固体担体をゼオライト75.0部とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0051】
〔実施例20〕
実施例16のリグニンスルホン酸塩をリグニンスルホン酸ナトリウム1.0部、無水芒硝を8.0部、固体担体をケイソウ土81.5部、ポリビニルアルコールの水溶液をクラレポバールPVA−420の5%水溶液30.0部(固形分として1.5部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0052】
〔実施例21〕
実施例16のリグニンスルホン酸塩をリグニンスルホン酸ナトリウム0.5部、無水芒硝を1.0部、固体担体を乳糖90.1部、ポリビニルアルコールの水溶液をクラレポバールPVA−420の5%水溶液8.0部(固形分として0.4部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0053】
〔比較例1〕
実施例1のクレーを81.0部、クラレポバールPVA−405の水溶液を無添加とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0054】
〔比較例2〕
実施例1のクレーを90.0部、ポリゾールAP−4690を無添加とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0055】
〔比較例3〕
実施例1の無水芒硝を無添加とし、クレーを82.0部とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0056】
〔比較例4〕
実施例1のリグニンスルホン酸塩を無添加とし、クレーを85.0部とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0057】
〔比較例5〕
実施例1のリグニンスルホン酸塩に変えてポリオキシアルキレンアルキルエーテル3.0部とし、クレーを82.0部とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0058】
〔比較例6〕
実施例1のリグニンスルホン酸塩に変えてアルキルマレイン酸共重合物3.0部とし、クレー82.0部とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0059】
〔比較例7〕
実施例1のクレーを91.0部とし、粒状物を水系合成樹脂エマルジョンおよびポリビニルアルコールの水溶液で被覆しない以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用粒状物を得た。
【0060】
〔比較例8〕
実施例1のクレーを71.0部、クラレポバールPVA−405の5%水溶液を200.0部(固形分として10.0部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用粒状物を得た。
【0061】
〔比較例9〕
実施例1のクラレポバールPVA−405 1.0部を水に溶解せずポリゾールAP−4690 28.6部(固形分として10.0部)と混合した以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用粒状物を得た。
【0062】
〔比較例10〕
実施例2のケイソウ土を81.7部、クラレポバールPVA−405の5%水溶液を6.0部(固形分として0.3部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用粒状物を得た。
【0063】
〔比較例11〕
実施例6のクレーを81.0部とし、クラレポバールPVA−405の水溶液を無添加とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用粒状物を得た。
【0064】
〔比較例12〕
実施例6のクレー71.0部とし、クラレポバールPVA−405の5%水溶液を200.0部(固形分として10.0部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用粒状物を得た。
【0065】
〔比較例13〕
実施例7のクレーを81.0部とし、クラレポバールPVA−210の水溶液を無添加とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用粒状物を得た。
【0066】
〔比較例14〕
実施例1のリグニンスルホン酸塩をリグニンスルホン酸ナトリウム2.0部、クレーを83.0部、水系合成樹脂エマルジョンをスーパーフレックス126 33.3部(固形分として10.0部)、ポリビニルアルコールの水溶液をクラレポバールPVA−117(株式会社クラレ製、平均重合度1700、ケン化度98.0〜99.0モル%)の5%水溶液を20.0部(固形分として1.0部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0067】
〔比較例15〕
比較例14の無水芒硝を無添加とし、クレーを85.0部とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0068】
〔比較例16〕
実施例10の無水芒硝を無添加とし、クレーを76.5部とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0069】
〔比較例17〕
実施例11のクレーを75.0部、ポリビニルアルコールの水溶液を無添加とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0070】
〔比較例18〕
実施例11のクレーを74.7部、クラレポバールPVA−217の5%水溶液を6.0部(固形分として0.3部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0071】
〔比較例19〕
実施例12のポリビニルアルコールをクラレポバールPVA−624(株式会社クラレ製、平均重合度2400、ケン化度95.0〜96.0モル%)の5%水溶液20.0部(固形分として1.0部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0072】
〔比較例20〕
実施例12のポリビニルアルコールの水溶液をクラレポバールPVA−105(株式会社クラレ製、平均重合度500、ケン化度98.0〜99.0モル%)の5%水溶液20.0部(固形分として1.0部)とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0073】
〔比較例21〕
実施例13のクラレポバールPVA−405 3.0部を水に溶解せずポリゾールAP−4690 28.6部(固形分として10.0)と混合した以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用粒状物を得た。
【0074】
〔比較例22〕
実施例13のリグニンスルホン酸塩を無添加とし、クレーを81.0部とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0075】
〔比較例23〕
実施例14のリグニンスルホン酸塩を無添加とし、クレーを79.0部とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0076】
〔比較例24〕
実施例14のリグニンスルホン酸塩に変えてジアルキルスルホコハク酸ナトリウム5.0部とした以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0077】
〔比較例25〕
実施例15のゼオライトを84.0部とし、水系合成樹脂エマルジョンを被覆しない以外は、実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0078】
〔比較例26〕
実施例15のゼオライトを66.0部、クラレポバールPVA−405の5%水溶液を200.0部(固形分として10.0部)とした以外は実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0079】
〔比較例27〕
実施例16のリグニンスルホン酸塩を無添加とし、クレーを86.0部とした以外は実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0080】
〔比較例28〕
実施例18のリグニンスルホン酸塩を無添加とし、クレーを86.5部とした以外は実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0081】
〔比較例29〕
実施例20のケイソウ土を83.0部とし、ポリビニルアルコールの水溶液を無添加とした以外は実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0082】
〔比較例30〕
実施例21の乳糖を90.5部とし、ポリビニルアルコールの水溶液を無添加とした以外は実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0083】
〔比較例31〕
実施例21の乳糖を91.1部とし、無水芒硝を無添加とした以外は実施例1の調製法に準じて調製し、イネ育苗箱施用被覆粒状物を得た。
【0084】
次に試験例により、本発明のイネ育苗箱施用被覆粒状物の有用性を示す。
【0085】
<水中溶出試験>
1000ml容量の大きさの共栓付き三角フラスコに35℃の3度硬水1000mlを入れ、実施例および比較例により調製したイネ育苗箱施用被覆粒状物1gを投入し、三角フラスコを30回倒立後、35℃の恒温器に静置する。それから、所定期間後に三角フラスコを30回倒立し、直ちに試験液5mlを採取する。その後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分析し、溶出率(%)を次式により算出した。
【0086】
【数1】

【0087】
<水稲薬害試験>
育苗箱に培養土4Lを入れ、種籾(品種:コシヒカリ)180g、調製したイネ育苗箱施用被覆粒状物50gを処理した。播種から20日後(本田への移植時期に相当)にイネ苗の生育程度を調査し、薬害程度をイネ・ムギ等殺菌剤圃場試験法(平成2年5月(社)日本植物防疫協会出稿)に準拠した下記の評価基準にて評価した。
【0088】
〔イネ苗の生育における薬害評価基準〕
○:無処理区対比で80%以上(薬害は認められない)。
△:無処理区対比で50〜79%(生育が劣り薬剤の影響が認められる)。
×:無処理区対比で49%以下(生育不良で移植できない)。
【0089】
<水稲に対する薬効試験>
〔葉いもち防除効果確認試験〕
水稲薬害試験と同様に育苗したイネ苗を使用し、1区50m2(5m×10m)とした水田に播種から20日後に機械移植した。薬剤処理から30日後、60日後におけるイネいもち病あるいはニカメイチュウに対する薬効をイネ・ムギ等殺菌剤圃場試験法(平成2年5月(社)日本植物防疫協会出稿)あるいはイネ・ムギ等殺虫剤圃場試験法(平成2年5月(社)日本植物防疫協会出稿)に準拠した下記の評価基準にて評価した。
【0090】
〔薬効評価基準〕
○:防除価80〜100(十分な効果が認められる)。
△:防除価60〜79(効果にバラツキが認められる)。
×:防除価59以下(薬剤の有効性が認められない)。
【0091】
<表の説明>
実験結果を表1〜6に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
【表4】

【0096】
【表5】

【0097】
【表6】

【0098】
表1〜6に記載された結果から明らかなように、水に対する溶解度(25℃)が0.01g/L以上である農薬活性成分、リグニンスルホン酸塩、無水芒硝および固形担体からなる粒状組成物の表面を、水系合成樹脂エマルジョンとポリビニルアルコールの混合水溶液で被覆した実施例1〜21は、イネ苗移植の20日から農薬活性成分の溶出は増えており、その溶出は60日後まで継続され、水稲薬害は認められず、30日後、60日後の薬効は持続している。一方、比較例1〜31において、水中溶出試験で早い段階から水中溶出が起こり、薬害が発生したグループ、日数経過後も溶出が不十分で、薬効が発揮されていないグループが存在し、その効果に顕著な差が認められた。
【0099】
詳細に検討を行うと実施例1、10、21と無水芒硝を欠いた比較例3、16、31の溶出実験において、実施例、比較例とも10日目までは同様の溶出曲線を描き、比較例ではその後も同様の溶出勾配を描くが、実施例では20日後から溶出量の増大、つまり変曲点が認められる。
実施例1、6、7、11、20、21および比較例1、11、13、17、29,30との溶出実験において、ポリビニルアルコールが被覆膜に欠損している場合、被膜の崩壊は起こりにくいため、活性成分の溶出量は少ないままである。また、実施例1、12および比較例14、19、20を比較した場合、ポリビニルアルコールの平均重合度の値が2000より大きい場合、およびケン化度が90モル%以上の場合も、被膜の崩壊は起こりにくいため、活性成分の溶出量は少ないままである。
さらに特開2002−29903に従い調製した比較例15は、溶出制御効果の持続を目的とし、無水芒硝を欠き、ケン化度が90モル%以上であるため、実施例で認められる変曲点が得られておらず、活性成分の溶出量は少ないままである。
【0100】
また、実施例1、2、6、7、11、15および比較例8、10、12、18、26の溶出実験において、合成樹脂とポリビニルアルコールの固形分比が2:1〜20:1の範囲にないと、溶出性の変曲点が認められないことが分かる。同様に、実施例1、13、14、16、18および比較例4〜6、22〜24、27,28を比較すると、リグニンスルホン酸塩を欠いている場合および他の界面活性剤で代用した場合には変曲点が認められないことがわかる。
【0101】
これらの結果より、農薬活性成分、リグニンスルホン酸塩、無水芒硝および固体担体を用いた粒状組成物の表面を、水系合成樹脂エマルジョンとポリビニルアルコール水溶液を混合した液で被覆したイネ育苗箱施用被覆粒状物は、農薬活性成分の溶出性に変曲点が得られるという優れた溶出制御効果があることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)水に対する溶解度(25℃)が0.01g/L以上である農薬活性成分、b)リグニンスルホン酸塩、c)無水芒硝およびd)固形担体からなる粒状組成物の表面を、e)水系合成樹脂エマルジョンとf)平均重合度2000以下でケン化度が69〜90モル%であるポリビニルアルコールの水溶液とを、それぞれ固形分の含有量(重量部)比が2:1〜20:1となるように混合した液で被覆することを特徴とするイネ育苗箱施用被覆粒状物。
【請求項2】
農薬活性成分、リグニンスルホン酸塩、無水芒硝および固形担体からなる粒状組成物を調製する工程、および水系合成樹脂エマルジョンとポリビニルアルコールの水溶液とを混合し、前記粒状組成物の表面を被覆する工程を備えていることを特徴とする請求項1に記載のイネ育苗箱施用被覆粒状物の製造方法。

【公開番号】特開2011−16779(P2011−16779A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164144(P2009−164144)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】