説明

イノシトールリン脂質による免疫系の調節

本発明は、免疫学の分野に関する。より具体的には、本発明は、とりわけ抗原提示分子及びT細胞活性化が妨げられることによって、免疫系を抑制するための組成物及びその使用に関する。T細胞活性化の抑制が望ましい状態の予防又は治療のための組成物であって、活性成分としてイノシトールリン脂質又はその医薬的に許容される塩を含む組成物を提供する。該状態は、自己免疫疾患、アレルギー性疾患又は慢性炎症性疾患、例えば喘息、1型糖尿病、関節リウマチ(RA)又は炎症性腸疾患(IBD)でありうる。また、有効な量のイノシトールリン脂質を含む、免疫調節特性を有する食品又は食品サプリメントが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学の分野に関する。より具体的には、本発明は免疫系を抑制するための方法及び組成物、特に、抗原提示分子及びT細胞活性化に関する又はそれらによって生じる疾患、例えば喘息及び大腸炎の予防又は治療のための、リン脂質を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系は、異物として認識される侵入者による攻撃から身体を防御する。該システムの中心は、それらが感染物質又は体の一部(自己抗原)であるかどうかを認識し且つ抗原と呼ばれる物質に応答するための能力である。免疫系は、炎症性物質、微生物侵入又は損傷によって脅かされるときに宿主を保護するためにサイトカイン及び他の体液因子を生産する。ほとんどの場合、この複雑な防御ネットワークは正常なホメオスタシスを成功裡に回復するが、ある時は、免疫メディエーターは宿主に実際に有害であることがわかりうる。免疫疾患及び免疫系を媒介とした損傷の幾つかの例は、アナフィラキシーショック、自己免疫疾患及び免疫複合体疾患を含む。
【0003】
ほとんどの免疫系細胞は白血球であり、それには多くの型がある。リンパ細胞は白血球の1つの型であり、及びリンパ細胞の2つの主なクラスは、T細胞及びB細胞である。T細胞は、感染細胞を破壊し且つ全体的な免疫応答を調節するのに役立つ重大な免疫系細胞である。T細胞は、その表面上でT細胞レセプター(TCR)を持つ。このレセプターは、抗原提示分子、例えばMHC(主要組織適合複合体)分子と相互作用する。
【0004】
MHC分子は、身体のほとんどの他の細胞の表面上に存在し、及びT細胞がペプチド抗原フラグメントを認識するのに役立つ。MHC分子の主な免疫学的機能は、リンパ細胞の抗原特異的TCRによって認識(結合)のための細胞の表面上の抗原ペプチドを結合し且つ示す。クラスI及びクラスIIMHC分子の種々の細胞型発現は、免疫細胞の種々の型の特殊化された機能と関連する。MHCクラスI発現は、身体の事実上全ての細胞に広範囲であり、細胞表面を連続的に調査しし且つ代謝的に活性な微生物をかくまう細胞を殺す細胞毒性TCリンパ球の保護機能と一致する。MHCクラスII発現は、抗原提示細胞(APC)に制限される。MHCクラスI及びクラスII分子の種々の構造的特性が、Tリンパ球の種々の集団を活性化する際にそれらの個々の役割を果たす。細胞毒性Tリンパ球(CTL)は、MHCクラスI分子によって示される抗原ペプチドを結合する。ヘルパーTリンパ細胞は、MHCクラスII分子によって示される抗原ペプチドを結合する。
【0005】
種々の抗原減成及び処理経路がMHCペプチド複合体を生産し、それは「内因性の」ペプチドがクラスI分子と関連し且つ「外因性の」ペプチドがクラスII分子と関連する。MHCクラスI分子は、細胞によって内因的に合成されたタンパク質分解的に減成されたタンパク質から得られるペプチドフラグメントを結合する。小さいペプチドが小胞体内に輸送され、そこではそれらがゴルジ体を介して経路付けされ、そしてCTLによる認識のために表面上に示される前にそれらが初期MHCクラスI分子と関連する。対照的に、MHCクラスII分子は、マクロファージ、樹状細胞及びB細胞を含む「抗原提示細胞」によって内面化された、タンパク質分解的に減成されたタンパク質から得られるペプチドフラグメントを結合する。生じたペプチドフラグメントはエンドソーム内に区分けされ、そこではそれらがヘルパーTHリンパ細胞による認識のために細胞表面に経路付けされる前にMHCクラスII分子と関連する。
【0006】
T細胞がMHC上の異種抗原に応答するために、抗原提示細胞上の他の分子が、T細胞に別のシグナルを送らなければならない。T細胞の表面上の対応する分子は、別のシグナルを認識する。抗原提示細胞及びT細胞のこれら2つの二次的な分子は、共刺激分子と呼ばれる。抗原提示細胞とT細胞の相互作用に参加しうる共刺激分子の幾つかの種々のセットがある。
【0007】
ペプチド抗原提示MHC分子に加えて、T細胞に脂質抗原を提示しうる抗原提示分子のグループを示すCD1ファミリーがある。CD1ファミリーは、グループI(CD1a、CD1b及びCD1c)並びにグループII(CD1dタンパク質)を含む。トポロジー的に、大きな、排他的に無極性な及び疎水性の、CD1の抗原結合溝は特異的なTリンパ球に対して細胞性及び病原体由来の脂質抗原を示すために発展しているという点を除いて、それらは古典的なペプチド抗原提示MHC分子と類似する。疎水性溝は種々のファミリーメンバー間で形状において異なり、特有の脂質結合能力を与える。結合疎水性リガンドを含むほとんどの表面のCDlアイソフォームは、T細胞上の特異的なT細胞レセプターを刺激しうる。CDlに関する詳細情報は、Brigl及びBrenner("CDl:antigen presentation and T cell function." Annu. Rev. Immunol. 2004年; 第22巻:第817〜90頁)並びにそれに引用されている参考文献において見つけられうる。CD1dはマウスとヒトの両方において見つけられた唯一のCDl分子であり、それはナチュラルキラー(NK)T細胞を選択し且つ刺激する能力を有するので、CD1dは特に興味深いファミリーメンバーである。NKT細胞は、αβTCRを有するT細胞である。しかしながら、それらはまた、NK細胞の細胞表面分子のうちの幾つかを発現する(それ故にそれらの名前である)。それらは、それらのαβTCRの明らかに制限された多様性においてほとんどのT細胞と異なり、及びこれらは、(MHC分子によって示されるペプチド抗原にではなく)CD1dを指定された細胞表面分子によって示される糖脂質抗原に応答する。NKT細胞は、IFN-γ(Th1免疫応答の主なサイトカイン)又はIL-4(Th2応答の主なサイトカイン)のいずれかの大部分を分泌しうる。ある感染剤に対して防御することに加えて、NKT細胞は、自己免疫疾患、移植片拒絶及び腫瘍に対して保護することに関与していた。顕著に、NKT細胞はまた、様々な(自己免疫)疾患、例えば喘息、潰瘍性大腸炎及び自己免疫性肝炎の発病に関与していた。
【0008】
一旦、抗原提示分子(それはペプチド又は脂質抗原提示細胞及びT細胞レセプターでありうる)が相互に作用すると、T細胞がとりうる幾つかのありうる経路がある。これらは、T細胞活性化、耐性又はT細胞死を含む。MHC及びT細胞レセプターの相互作用及び共刺激分子の相互作用に応じてT細胞が応答しうる1つの方法は、炎症性サイトカイン及びケモカインを分泌することである。典型的なサイトカインは、TNFアルファ、インターフェロンガンマ及び他のインターロイキンを含む。
【0009】
すなわち、炎症反応は、病原性感染を制限し且つ制御する重要な役割を果たす。前炎症性サイトカインは、幾つかの他の関連する分子とともに、感染剤の免疫学的認識に関連付けられた炎症性応答を介在する。しかしながら、高められたレベルの炎症性サイトカインはまた、自己免疫の多くの疾患、例えば毒素性ショック症候群、関節リウマチ、骨関節炎、糖尿病及び炎症性腸疾患に関連付けられる(Dinarello, C. A.等, 1984年, Rev. Infect. Disease 第6巻 :第51頁)。これらの疾患では、炎症の慢性的な上昇は、観察された病態生理のほとんどを悪化させるか又は引き起こす。例えば、リウマチ性滑膜組織は、軟骨及び骨の破壊を生じる炎症性細胞で侵入されるようになる。これらの炎症性疾患における潜在的薬物介在のための重要且つ受け入れられた治療的アプローチは、炎症性サイトカイン、例えばTNFα及びIL-13の減少である。多くの抗サイトカイン治療が、現在臨床試験中である。効能が、関節リウマチ、クローン病及び潰瘍性大腸炎の治療を含む多くの自己免疫疾患においてTNFαに対して向けられた単クローン抗体で示されている(Rankin, E. C. C等, 1997年, British J. Rheum. 第35巻 : 第334〜342頁、及びStack, W. A.等, 1997年, Lancet 第349巻 : 第521〜524頁)。
【0010】
他の抗炎症性治療は、様々な前炎症性メディエーター、例えばサイトカイン及びプロスタグランジンの生産を減少することによって、痛み、腫れ、凝り及び炎症を和らげる薬である非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を含む。NSAIDは、多くの副作用に関連付けられている。副作用の頻度は、薬物間で変わる。最も一般的な副作用は、吐き気、嘔吐、下痢、便秘、減退した食欲、発疹、めまい、頭痛及び眠気である。NSAIDはまた体液貯留を生じ、浮腫をもたらしうる。最も重大な副作用は、けが又は手術後の腎不全、肝不全、潰瘍及び長引く出血である。ある個体はNSAIDに対してアレルギーであり、及びNSAIDが投与される場合に息切れを展開しうる。喘息を持つ人々は、NSAIDへの重大なアレルギー反応を経験することについてより高い危険性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
炎症性疾患の予防及び治療のための代替的な方法及びその組成物を提供することが本発明の目的である。特に、喘息及び炎症性腸疾患(IBD)(例えば、潰瘍性大腸炎)に関連付けられた症状を予防し又は減少することが可能な新規な組成物を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚いたことに、該目的は、イノシトール含有リン脂質がT細胞活性化を抑制するために適切に使用されるという発見によって達成される。該抑制効果は、種々のレベルで与えられることが観察された。最初のレベルは、直接の阻害を介して、すなわちT細胞それ自身に対してである。特に別記しない限り、語「T細胞」は、T細胞レセプターを運ぶ何らかの型の細胞を含むことを意味される。すなわち、T細胞レセプターを有する古典的なTリンパ球以外の細胞、例えばNKT細胞がまた含まれる。イノシトールリン脂質がT細胞活性化を抑制しうる第2のレベルは、抗原提示の工程を間接的に調節することによってである。イノシトールリン脂質は、抗原提示細胞による抗原提示の有効的な抑制剤であることが見つけられた。該効果は、特異的な抗原又は抗原の型に制限されなかった。例えば、MHCクラス1、11及びCD1分子による抗原提示が阻害された。
【0013】
それ故に、本発明は、望まれないT細胞活性化に関連付けられた状態の予防又は治療のための組成物であって、活性成分としてイノシトールリン脂質(以下、本明細書では「IPL」と略される)を含む組成物に関する。該組成物は、例えば、免疫調節特性を有する医薬組成物又は食品である。真核細胞では、イノシトールリン脂質は量的には少ないが、重要な構造的、代謝的及びシグナル的役割を有する膜脂質の重要な成分である。すなわち、既知の免疫抑制剤とは対照的に、イノシトールリン脂質は体の天然の構成要素である。従って、本発明の組成物の望まれない副作用の危険は、上記した「異種の」免疫調節剤と比較して低い。
【0014】
本発明の他の観点は、望まれない又は過剰なT細胞活性化に関連付けられた何らかの疾患、例えば免疫疾患、アレルギー性疾患又は慢性炎症性疾患の治療のための医薬品の製造のためにIPLを使用する方法に関する。本発明はまた、対象の免疫系を抑制するための方法であって、IPLの適切な用量を対象に投与することを含む方法に関する。本発明は、特に、喘息、1型糖尿病、関節リウマチ(RA)及び炎症性腸疾患(IBD)の治療のために使用する方法である。さらに、本発明は、免疫調節特性を有する食品又は食品サプリメントを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本明細書で示されるように、IPLは、ペプチド抗原提示分子(例えば、MHCクラス1、クラス11)並びに脂質抗原提示分子(例えば、CD1)の両方によって、T細胞及びNKT細胞の活性化をイン ビトロ(in vitro)で阻止し又は調節することが可能である(図1を見よ)。さらに、IPLが、下流T細胞レセプターシグナリングを模倣するためにホルボールエステル及びカルシウムイオノフォアによって並びにT細胞レセプター複合体(CD3)及び共刺激分子CD28の刺激によって誘発されるT細胞活性化を直接的に阻害しうることが見つけられた(図3B)。重要なことには、IPLの粘膜投与は、確立された動物モデルにおいて喘息及び潰瘍性大腸炎に関連付けられた症状を減少し又は予防するために非常に有効であった。上記効果は、用量依存的であることが見つけられた。ミオイノシトールは有意な抑制効果を有しなかったので、フォスフォジエステル架橋及び脂質残基の存在はこれらの効果のために重要であることが明らかである(図2B)。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】CD1d制限された(restricted)NKT細胞活性化のPIによる用量依存的阻害を示す。CD1d形質転換された上皮細胞株T84Dは、アルファガラクトシルセラミドで標識化され(pulsed)、そして種々の濃度でPIとともに共培養された。NKT細胞活性化は、上清中に存在するIL-2の測定によって決定された。
【図2】ホスファチジルイノシトール(しかしミオイノシトールでない)は、CD1d依存性NKT細胞活性化を阻害することを示す。CD1d形質転換された上皮細胞株T84Dは、アルファガラクトシルセラミドで標識化され、そして溶媒対照、PI又はミオイノシトールのいずれかとともに共培養された。NKT細胞活性化は、上清中に存在するIL-2の測定によって決定された。
【図3】細胞生存能力及び免疫抑制に対するPI及びPSの種々の効果を示す。T細胞が、24ウェルプレート(ウェル当たり1 ml懸濁液)中に106細胞/mlで懸濁された。細胞は、示された濃度(μg/mlで表される)でPI又はPSの存在中、5 ng/ml PMA + 0.1 μg/ml カルシウムイオノフォア A23187 (PMA 5 ng/ml、Cal 0.1 μg/ml)で処理されていない(PMA 0、Cal 0)又はそれで活性化されていないのいずれかであった。パネルA:示された脂質の存在下での24時間インキュベーション期間に引き続き、刺激細胞生存能力が7-AAD染色された細胞のフローサイトメトリー検出を使用して測定された。PIは細胞生存能力に有意に影響を与えなかったが、PSは、用量依存的様式で、活性化された細胞について毒性である。パネルB:Il-2サイトカイン生産によって測定されたT細胞活性化に対する、PIの阻害効果対PSの刺激効果。
【図4】IPLは、オキサゾロン大腸炎モデルにおける初期の生存に強く影響を与える。実験の詳細については、実施例2Aを見よ。
【図5】オキサゾロン大腸炎マウスをIPL直腸内処理すると、腸のT細胞によるIL-2生産の抑制を示す。マウスは、オキサゾロンで大腸炎を誘発する試験の前に、食塩水(グループA)又はPI(グループB)で処理された。マウスが犠牲にされ、そして腸のT細胞が、48時間(パネルA)又は72時間(パネルB)の期間にaCD3/aCD28により刺激し、IL-2生産のために分析された。ALN=腋下(axillair)LN;MLN=縦隔(mediastinal)LN;ILN=腸骨(iliacal)LN。更なる詳細については、実施例2Aを見よ。
【図6】IPLでの処理(非リポソームエアロゾル)は、喘息マウスモデルに関連付けられている典型的な組織病理学的変化を防ぐ。実験の詳細については、実施例2Bを見よ。
【図7】PIでの処理(エアロゾル)は、喘息マウスモデルに関連付けられる好酸球増加症を防ぐ。実験の詳細については、実施例2Bを見よ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
従って、イノシトールリン脂質、例えPIを含む組成物は、T細胞の活性化を抑制し又は阻害するために、及びそれとともにT細胞活性の望まれない効果、特にサイトカイン生産を抑制するために適切に使用される。組成物は、Tリンパ球又はNKT細胞のような、T細胞レセプターを生じる細胞に関連付けられた状態又はその望まれない(例えば、過剰の)活性化によって生じる状態の治療又は予防のために有利に使用される。例えば、ペプチド又は脂質抗原提示分子のいずれかの抗原提示細胞によって、望まれないT細胞活性化に関連付けられた状態が、IPLを含む組成物で処理されることによって改善されうる。特定の実施態様では、上記状態は、MHC関連状態である。MHCクラスII分子は、喘息、サルコイドーシス、過敏性肺炎及び肺移植拒絶反応を含む幾つかの肺疾患の病態生理学において中心的な役割を果たす。他のMHC関連疾患は、1型糖尿病、クローン病、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、多発性硬化症及び固形臓器移植拒絶反応(例えば、肝臓及び腎臓)を含む。しかしながら、下記に述べられたイン ビトロ(in vitro)実験から明らかであるように、IPLの免疫抑制効果が、抗原提示分子を含む工程に制限されない。むしろ、それらは、増殖及びサイトカイン生産の誘発を含む、下流T細胞シグナリングの直接の調節に及ぶ。1つの実施態様では、本発明は、T細胞活性化の抑制のためのIPLを含む組成物であって、デ ノボ(de novo)タンパク質合成を要求する細胞内T細胞イベントを調節する組成物を提供する。
【0018】
イン ビトロ(in vitro)研究において、IPLの多面発現抑制効果が、脂質処理された細胞の細胞生存能力の全体的損失によらなかったことを示した。IPLへの休止した又は活性化された細胞の長期暴露は、細胞死を誘発しなかった(図3A)。さらに、IPLの抑制効果は可逆であることが見つけられ、それは永久的な不活性化を生じないことを示した(データは示されず)。すなわち、本発明は、抗原提示細胞のレベルで並びにT細胞のレベルで免疫系を(可逆的に)調節するための方法を提供する。イノシトールリン脂質が抗原提示分子、すなわちかなりの構造的変化を伴う多くの種々の抗原を有するペプチドの及び脂質の抗原提示分子の個々の型を阻止し又は修正しうることは驚くべきことである。すなわち、それは除外されることができないけれども、本明細書において開示された効果は抗原結合部位のためのイノシトールリン脂質の競合的な効果に単に基づいていることはありそうにもない。如何なる理論によって拘束されることは望まれないが、イノシトールリン脂質の多面発現性効果が、とりわけ、種々の抗原提示分子が例えば細胞表面への抗原提示分子の細胞内輸送を共通に有するレベルで発揮されることが考えられる。より具体的には、イノシトールリン脂質の作用の1つのモードが抗原をロードされた分子の細胞内取引障害との干渉に基づくことが本明細書において仮定される。これにより、本発明はまた、原形質膜への分子の輸送、好ましくはエンドソーム輸送、より好ましくは原形質膜への後期エンドソーム輸送を調節するための方法及び組成物を提供する。上記分子は、免疫調節分子、例えばMHCクラスI又はII、CDlファミリーメンバー、又は原形質膜への後期エンドソーム輸送されなければならない何らかの他の分子、例えば、膜貫通タンパク又はそれと一緒に物理的に関連付けられたタンパク質若しくはペプチド、例えばTo1様レセプター(例えばTLR4)でありうる。
【0019】
IPLの効果は、イノシトール頭部基に特異的である。ホスファチジルセリン(PS)、また酸性リン脂質の同じ投与量は、T細胞活性化を抑制する際に有効でないだけでなく、さらにPMA/Ca誘発されたIL-2生産を促進することが見つけられた(図3B)。その上、PIが、試験された最高の投与量まで(100μg/ml)細胞生存能力に影響を与えなかった一方、PSは用量依存性方法において、活性化されたT細胞に対して毒性であるように見える(図3Aを見よ)。これは、酸性リン脂質の免疫調節的効果についての初期の研究と対照的である。例えば、Ponzin等(Immunopharmacology. 1989年 11月-12月; 第18巻(第3号): 第167-76頁)は、マウスにおける静脈内投与されたPS小胞の免疫抑制効果を開示する。その同じ株に従って、Caselli等(Immunopharmacology. 1992年5月-6月; 第23巻(第3号):第205-213頁)は、PSによる活性化された末梢血細胞におけるDNA合成の阻害を報告した。PIが単に部分的に有効であった(且つさらに低濃度でDNA合成の刺激をもたらした)ので、該効果はホスフォリルセリン頭部基に貢献した。さらに、不飽和脂肪酸アシル鎖を含むPS種だけが活性であった。
【0020】
本明細書において使用される語「イノシトールリン脂質」(IPL)は、フォスフォジエステル架橋によって結合される脂質残基及びミオ−D−イノシトールの共役体をいう。イノシトール(ヘキサヒドロキシシクロヘキサン)残基が、リン酸化されてもよい。該脂質は、グリセロ脂質又はスフィンゴリン脂質でありうる。グリセロ脂質は主鎖としてグリセロール残基を有し、一方、スフィンゴ脂質は主鎖としてスフィンゴイドベースを有する。脂肪アシル鎖長及び不飽和度は、変わりうる。それはまた、イノシトールリン脂質前駆体(下記をさらに見よ)及びイノシトールリン脂質の許容される塩をいう。
【0021】
本発明で使用されるイノシトールリン脂質は、天然の、合成の又は半合成の起源から得られうる。イノシトールリン脂質の豊富な動物(例えばウシ)の器官、例えば脳及び肝臓は、天然資源として使用されうる。天然資源からイノシトールリン脂質を単離する方法は、従来技術で知られている。例えば、ネオマイシンアフィニティークロマトグラフィーが使用されうる。IPLは、レシチンと商業的に呼ばれる複雑なリン脂質混合物から得られうる。この混合物は、実際は、3分の1のみが真のレシチンである。生化学的にいって、レシチンは、脂質として知られる栄養素の群(脂肪、油、ワックス)に属し及びフォスファチジルコリンと呼ばれるリン脂質である。商業的なレシチンの他の3分の2は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)及びホスファチジルイノシトール(PI)を含む他のリン脂質から成る。
【0022】
別の実施態様では、合成IPLが使用される。イノシトールリン脂質の合成のための方法は、従来技術で知られている(例えば、米国特許第6,737,536号明細書及びその中で引用されている参考文献を見よ)。米国特許第6,737,536号明細書は、イノシトールリン脂質、特にホスファチジルミオイノシトール、セラミドフォスフォイノシトール及びそれらの構造的且つ立体化学的類似物の合成のための方法を開示する。公表された方法は、実験的規模調製のために並びに大規模な工業的生産のために適切に使用されうる。
【0023】
1つの実施態様では、IPLは、グリセロホスフォ脂質、例えばホスファチジルミオイノシトール(PtdIns又はPIと略される)又はそのリン酸化された誘導体、例えばPIP、PIP又はPIPである。ホスファチジルイノシトールは、鍵となる膜構成要素、並びに植物及び動物における(及び幾つかの微生物における)必須の代謝的工程における参加物の両方として、重要な脂質である。それは、フォスフェート基を介してイノシトールに結合されたホスファチジン酸主鎖を必須的に構成する酸性(アニオン性)リン脂質である。ほとんどの有機体では、イノシトールの立体化学形は、ミオ−D−イノシトール(1つのアキシャル水素を持つ)であり、しかしながら、他の形(scyllo-及びchiro-)が植物において時折見つけられている。
【0024】
好ましくは、IPLのイノシトール残基はlD-1-ミオイノシトール配置内にあり、及びグリセロール残基はsn-グリセロ-3-フォスフォ配置内にある。グリセロ脂質のグリセロール主鎖のsn-1及びsn-2位置での脂肪アシル鎖は、一般にエステル結合されるだろう。グリセロ残基は、飽和長炭素鎖脂肪酸アシルと、並びに不飽和及び多価不飽和脂肪酸アシル(集合的に(多価)不飽和脂肪酸アシルと呼ばれる)との混合物でエステル化されうる。組成物は、好ましくは、少なくともジアシルホスファチジルイノシトールを含む。
【0025】
天然起源からのIPLは、典型的に、分子種の複雑な混合物であり、それらの脂肪酸アシル組成及び/又はグリセロ−1及び−2位置の間の分布において互いに異なる。ホスファチジルイノシトールの脂肪酸組成は、やや独特である。動物の組織では、該特徴は、ステアリン酸(C18:O)及びアラキドン酸(C20:4)の高い量である。全てのステアリン酸は位置sn-1に結合され、及び全てのアラキドン酸は位置sn-2に結合され、並びに総脂質の80%までが単一の分子種 sn1-ステアロイル-sn2-アラキドノイル-グリセロフォスフォリルイノシトールからなりうる。植物ホスファチジルイノシトールでは、パルミチン酸(C16:0)は主な飽和脂肪酸であり、一方リノール酸(C18:l)及びリノレン酸(C18:2)は主な不飽和成分である。再び、ほとんどの飽和脂肪酸は位置sn-1にあり、及び不飽和脂肪酸は位置sn-2にある。しかしながら、sn-1脂肪酸残基はまた、O−アルキル又はO−アルケニルによって置換されて、それぞれアルキルアシルPI又はアルケニルアシルPIを生じる。また、2-脂肪酸アシルを欠き、従ってグリセロ−2位置で遊離の水酸基を有するリソイノシトールフォスフォ脂質が含まれる。
【0026】
他の実施態様では、組成物はスフィンゴフォスフォ脂質セラミド-フォスフォイノシトール(CerPhosIns)又はその誘導体を含む。好ましくは、スフィンゴシン/セラミド残基は、天然に生じるCerPhosInsにおいて見られるようにD-エリスロ立体化学配置を有する。CerPhosInsは、可変鎖長及びセラミド残基の2つのアルキル基中に不飽和度を含むことができ、及び追加の不飽和、水酸基又は関連する官能基を持ちうる。また、アミド脂肪酸アシルを欠き且つさらに誘導体化されうる遊離の2-アミノ基を有するスフィンゴシルホスフォイノシトール(スフィンゴシル-PhosIns)が本発明によって包含される。組成物はまた、2以上の個々のイノシトールリン脂質の組み合わせを含みうる。それは、例えば、脂質主鎖(例えば、グリセロール又はセラミド)、脂肪酸アシル組成物、脂肪酸アシル結合の型(例えば、エステル又はエーテル)、及び/又はイノシトール頭部基(例えば、0、1、2又は3のフォスフェートを持つ)に関して特徴であるIPLの混合物を含む。その上、ジグリセリド又はステロールのような他の脂質(フォスフォ脂質又は中性脂質でありうる)は、IPLに加えて存在しうる。好ましい実施態様では、複数のIPLの混合物のうちの1つのIPLは、組成物の総脂質含量の少なくとも50%、好ましくは75%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%、若しくはまさに99%又は100%を成す。
【0027】
好ましくは、例えば、経済的理由のために、本発明を実行するためのIPLは、天然資源から、例えば植物又は動物の組織から得られる。他の有機体が、同様に使用されうる。組織由来のIPLは、特に脂肪酸組成物に関して、イノシトールリン脂質の様々な分子種の混合物を含む。好ましい実施態様では、(組織由来の)イノシトールリン脂質中の飽和/不飽和脂肪酸の比が、少なくとも1.0、より好ましくは少なくとも1.1である。40%よりも多いステアロイル(C18:O)の脂肪酸含量を持つIPLが好ましく、任意的に少なくとも10%のアラキドン酸(C20:4)との組み合わせが好ましい。本発明において使用するためのIPLの非常に良い天然資源が、哺乳動物の肝臓、例えばウシの肝臓である。他の有用な起源は、心臓を含む。
【0028】
IPLのイオン化したイノシトール頭部基は、好ましくは、1つ以上のリン酸基以外の残基に共役されない。アシルグリセリルホスファチジルイノシトールマンノオリゴサッカライド(PIM)を含む細菌細胞壁の免疫源成分のために観察されるのとは異なって、例えば、IPLは、好ましくは、イノシトール残基にグリコシド的に結合されたサッカライドがない。さらに、治療的又は予防的価値のある医薬的組成物のために、IPLは、キャリヤー残基に、例えば、米国特許出願公開第2004/0229842号明細書に記載されている生理学的に許容されるモノマー、ダイマー、オリゴマー又はポリマーに結合される又は共役されることは必ずしも必要でない。
【0029】
IPLを含む組成物から利益を得る状態は、抗原提示分子及び/又は過剰な又は望まれない(ナチュラルキラー)T細胞活性化の弱化が望ましい何らかの状態を含む。1つの実施態様では、本発明の組成物は、NKT又は(自己反応性)T細胞活性化の弱化が望ましい状態の治療又は予防のために使用される。ナチュラルキラーT(NKT)細胞は、ナチュラルキラー細胞及び慣用のT細胞の特性を共有するT細胞のサブセットである。それらは、即時の自己免疫疾患、腫瘍拒絶、免疫監視及び自己免疫疾患の制御に関与する。ほとんどのNKT細胞は、不変のT細胞抗原レセプター及びNK細胞レセプターNK1.1の両方を発現し、及び不変のNKT細胞といわれる。この不変のT細胞レセプターは、非古典的なMHC、CD1dによって示される糖脂質との相互作用を制限されている。これらのNKT細胞は、それらのTCRを介して刺激すると、インターロイキン(IL)-2、IFNガンマ、TNFアルファ及びIL-4の高いレベルを生産する。ほとんどはまた、NK細胞に類似する細胞毒性を有する。NKT細胞は、多くの病理学的状態に関与し、及びイン ビボ(in vivo)でのウィルス感染を制御し且つ腫瘍成長を制御することが示された。それらはまた、ある自己免疫疾患、例えば糖尿病、狼瘡、アテローム性動脈硬化症、潰瘍性大腸炎及びアレルゲン誘発喘息の進行に保護的な且つ有害な役割の両方を果たしうる。
【0030】
好ましくは、該状態は、特にMHCクラスI又はII分子によって、ペプチド抗原提示の弱化又は抑制によって改善される。そのような状態は、例えば、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、移植拒絶反応、又は(慢性)炎症性疾患でありうる。好ましくは、それらに関連付けられる疾患又は症状は、本発明の組成物での局所的処理(より好ましくは粘膜投与による)を許す。しかしながら、IPL含有組成物の全身投与がまた予想されうる。
【0031】
自己免疫疾患は、体内に通常存在する物質及び組織に対する身体の過剰に活動的な免疫応答から生じる。自己免疫疾患の例は、次の通りである:全身性紅斑性狼瘡(SLE)、関節リウマチ(RA)、出産後甲状腺機能異常、自己免疫性血小板減少症、乾癬、硬皮症、疱疹状皮膚炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、尋常性天疱瘡、脊椎関節症(例えば、強直性脊椎炎)、白斑、シェーグレン症候群、多発性硬化症(MS)、クローン病、重症筋無力症、潰瘍性大腸炎、自己免疫性神経障害(例えば、ギラン・バレー)、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎、自己免疫性ブドウ膜炎、1型又は免疫介在糖尿病(DM1)、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血、グレーブス病、自己免疫性血小板減少症、橋本甲状腺炎、自己免疫性卵巣炎及び精巣炎、副腎の自己免疫疾患、抗リン脂質症候群、脈管炎(例えば、ヴェーゲナー肉芽腫症)及びベーチェット氏病である。
【0032】
免疫系が環境における抗原への暴露に対して過剰反応する場合、アレルギー性疾患が生じる。そのような攻撃を引き起こす物質(抗原)は、アレルゲンと呼ばれる。免疫応答は、症状、例えば腫れ、涙目及びくしゃみ、並びにまたアナフィラキシーと呼ばれる生命を脅かす応答を引き起こしうる。抗ヒスタミン剤と呼ばれる薬物を摂取することは、ほとんどの症状を和らげうる。アレルギー性疾患の幾つかの例が、喘息及び湿疹である。喘息は、呼吸障害を生じうる呼吸器疾患であり、及び肺によるアレルギー反応を頻繁に含む。肺が(花粉、かび、動物の鱗屑又はイエダニのような)あるアレルゲンに過敏である場合、それは狭窄を来すように肺内の呼吸管を誘引し、減少した気流をもたらし且つそれはヒトが息をするのを困難にする。湿疹は、アトピー性皮膚炎としてまた知られているうろこ状の、かゆみを伴う発疹である。環境アレルギー(例えば、イエダニに対する)、季節性アレルギー(例えば、花粉症)、薬物アレルギー(特定の医薬品又は薬物に対する反応)、食物アレルギー(例えば、ナッツ)及び毒物に対するアレルギー(例えば、蜂刺され)が、ヒトが通常アレルギーと呼ぶ共通の状態である。
【0033】
本発明者等は、2つの種々の動物モデル(ハプテン誘発された大腸炎モデル及びオボアルブミン誘発された喘息モデル、それぞれヒト炎症性腸疾患及びヒトアレルギー性喘息についての有効なネズミのモデルシステムを示す)でのIPLのイン ビボ(in vivo)抗炎症性効果を調査した。
【0034】
オキサゾロン大腸炎モデル(Boirivant, Exp. Med., 第188巻, 第10号, 1998年11月16日, 第1929-1939頁)は、ハプテン化剤、オキサゾロンの直腸注入によってSJL/Jマウスにおいて誘発され、及び結腸の遠位半分に制限された急速に展開する大腸炎によって特徴付けられる;それは、潰瘍に関連付けられる粘膜の表面層に制限された混合好中球/リンパ球浸潤からなる。病変組織からの刺激されたT細胞はインターロイキン(IL)-4及びIL-5の著しく増加した量を生産する故に、オキサゾロン大腸炎はII型Tヘルパー細胞(Th2)介在処理である(Nieuwenhuis等 "Disruption of T helper 2-immune responses in Epstein - Barr virus-induced gene 3-deficient mice" ProcNatl Acad Sci U S A. 2002年12月24日;第99巻(第26号):第16951-6巻、及びHeller等"Oxazolone colitis, a Th2 colitis model resembling ulcerative colitis is mediated by IL-13-producing NK-T cells." Immunity. 2002年11月;第17巻(第5号):第629-38巻)を見よ)。オキサゾロン大腸炎の組織学特徴及び分布は、IBD、特に潰瘍性大腸炎(UC)と類似する特性を有し、すなわちT細胞独立である障害モデルとしてみなされるこのモデルを、多くの他のモデル、例えばラットにおける酢酸誘発された大腸炎からはっきりと区別する。
【0035】
イノシトールリン脂質のイン ビボ(in vivo)免疫抑制性作用は、オキサゾロン大腸炎において、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患(IBD)のためのマウスモデルで調査された。詳細については、実施例2Aを見よ。要するに、オキサゾロンで皮下に感作されたマウスは、イノシトールリン脂質の様々な投与量と一緒にオキサゾロンの直腸投与によって試験された。著しく、IPLを受け取っているマウスは、より高い初期の生存率を示した(図4)。その上、エクス ビボ(ex vivo)で活性化すると、腸のT細胞によるサイトカイン生産は、IPL処理されたマウスから得られた細胞において強く抑制された(図5)。
【0036】
本発明者等によって使用されたヒトのアレルギー性喘息のためのネズミOVA吸入モデルはまた十分に確立されており、例えばHessel等(Eur J Pharmacol. 1995年12月7日; 第293巻(第4号):第401-12頁)及びHofstra等 (J.Immunol. 第161巻:第5054頁)において記載されている。簡潔に、BALB/cマウスは腹腔内(IP)注射によってオボアルブミン(OVA)に感作され、引き続き、エアロゾル化されたOVAで試験された(13日及び14日目)。何匹かのマウスは、OVAエアロゾル試験前にエアロゾルスプレーを使用して、0、200又は2000μg/mlで気管内に暴露された。何匹かのマウスは、OVAエアロゾル試験を経験する前にエアロゾルスプレーを使用して、0、200又は2000μg/mlで気管内に暴露された。対照群は、OVAだけに暴露された。その後、マウスは犠牲にされた。
【0037】
下記においてより詳細に説明されるように(実施例2B)、活性成分として少なくとも1つのIPLを含む組成物は、喘息動物モデルにおい明白な免疫抑制性効果を示した。染色された肺部分の組織学的分析は、PI処理が喘息に関連付けられた典型的な組織学的及び病理学的変化を防いだことを示した(図6)。
【0038】
1つの観点では、本発明は、活性成分として少なくとも1つのIPLを含む医薬組成物であって、肺投与のために適合されている又は処方されている医薬組成物を提供する。哺乳動物における、好ましくはヒト対象における喘息状態の治療又は予防のための医薬品を製造するためのIPL、特にPIを使用する方法をまた提供する。IPLを含むリン脂質は、以前は肺組成物において活性剤の配送を容易にするために使用されていた。典型的に、該脂質はリポソーム又は他の型の脂質体中に取り込まれ、タンパク性の活性剤の配送及び分散を許す。国際公開第2005/055994号パンフレットは、例えば、リン脂質と小窩(alveoli)とのその相互作用を最大限にする特異的なアミノ酸配列の肺サーファクタントポリペプチドとを含むサーファクタント混合物を含む組成物を開示する。対照的に、本発明の抗喘息組成物は、活性成分として肺サーファクタントポリペプチドでなくIPLを含む。従って、1つの実施態様では、IPLの肺内投与のための組成物は、肺サーファクタントポリペプチド又は他の種類のタンパク性治療分子を含まない。
【0039】
驚いたことに、OVA試験されたマウスの気管支肺胞洗浄(BAL)の分析は、好酸球増加症に対してPIの強い抑制効果を示した(図7)。好酸球増加症は、異常に高い量の好酸球が血液中又は体内組織中のいずれかで見つけられる状態をいう。好酸球増加症は、アレルギー性疾患、例えば喘息、花粉症及び好酸球性食道炎を含む状態の広い範囲において生じる。それ故に、本発明はまた、好酸球増加症を予防し又は治療するための方法及び組成物に関する。
【0040】
世界的に、好酸球増加症の主要因は、寄生虫感染である。それはまた、共通の皮膚病、医薬品反応及び寄生虫感染に関して生じうる。好酸球の増加した数は、アレルギー性疾患又は寄生虫感染に関連付けられる。これは、アレルギー性疾患の場合だけでなく寄生虫感染と闘う際に有用である。なぜならば、それらが組織内に蓄積し且つ障害を生じるからである。例えば、喘息では、好酸球増加症は、肺の気管へ損害をもたらす。
【0041】
IPLがそれによって喘息マウスモデルにおけるその抑制効果を発揮する正確なメカニズムは、現在不明である。たぶん、それは、例えばMHC及びCD1分子によって抗原提示に対する及びTCRがどのように生じるかに関係なく下流TCRシグナリングそれ自体を阻止することに対する組み合わされた作用である。OVA抗原の吸入暴露によって試験された場合にCD1d又はNKT細胞欠損マウスが減少された免疫応答を示したので、CD1は喘息において重要な役割を果たすことが示されている(Akbari等. Nature Med. 2003年5月; 第9巻(第5号):第582-8頁)。しかしながら、本明細書で開示されるIPLの観察された抑制効果は、CD1d欠損マウスにおいて観察されたよりもはるかにより強い。これらデータは、イノシトールリン脂質の効果がCD1による機能障害脂質抗原提示によって(単独で)説明されることが出来ないが、それは作用のはるかに広いスペクトルを有することを示す。樹枝状細胞(DC)は、気管におけるアレルゲンの捕捉、並びに抗原提示及びT細胞活性化が生じる流出リンパ節に対して処理されたアレルゲンの往復の原因である主要な抗原提示細胞(APC)である。1つの実施態様では、本発明は、DCによる抗原提示の抑制のためにイノシトールリン脂質を使用する方法を提供する。
【0042】
イノシトールリン脂質又はその医薬的に許容される塩(例えば、ナトリウム又はアンモニウム)を含む医薬組成物は、カプセル、錠剤、トローチ剤、浣腸剤、糖衣錠、錠剤、液滴、坐薬、粉末、スプレー、ワクチン、軟膏、ペースト、クリーム、吸入剤、パッチ、エアロゾルなどの形態でありうる。本明細書において使用されうる医薬的に許容される塩は、例えば鉱酸塩、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、フォスフェート、サルフェートなど;及び有機酸の塩、例えばアセテート、プロピオネート、マロネート、ベンゾエートなどでありうる。医薬的に許容される賦形剤の徹底的な議論は、Remington's Pharmaceutical Sciences(MackPub. Co.,ニュージャージー州、1991年)において入手可能である。
【0043】
医薬的に許容される担体、何らかの溶媒、希釈剤若しくは他の液体溶媒、分散剤又は懸濁剤、界面活性剤、等張剤、濃厚剤若しくは乳化剤、保存剤、カプセル化剤、固体バインダー又は滑沢剤が使用されることができ、それは特定の投与形態のために最も適しており及びそれはイノシトールリン脂質と適合する。
【0044】
治療組成物中の医薬的に許容される担体は、液体、例えば水、食塩水、グリセロール及びエタノールを含みうる。食塩水が好ましい。さらに、補助物質、例えば湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝物質などが、そのような賦形剤中に存在しうる。典型的に、該治療組成物は、注射液(液体溶液又は懸濁液のいずれかとして)用意されうる;注射前の液体担体中の溶液又は懸濁液のために適している固形形態がまた調製されうる。
【0045】
治療的処理のために、イノシトールリン脂質が、その必要がある対象に適用される。イノシトールリン脂質は、何らかの適切な経路によって、好ましくはそのような経路に適合した医薬組成物の形態で、及び意図された治療に有効である投与量で対象に投与されうる。投与の粘膜経路、例えば直腸内又は気管内が好ましい。なぜならば、これは全身投与に比べて、望まれない副作用の危険を減少するからである。疾患の治療をするために、例えばヒト又は動物の対象の体における喘息、関節リウマチ、糖尿病及び炎症性腸疾患からなる群から選択される疾患の予防及び/又は治療をするために必要とされるイノシトールリン脂質の治療的に有効な量は、例えば動物モデルを使用することによって、当業者によって容易に決定されうる。もちろん、IPLはまた、副腎皮質ステロイド及び非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を含む、従来技術で知られている1以上の免疫抑制剤又は抗炎症剤(薬物)治療と組み合わせて使用されうる。
【0046】
本明細書において使用される場合、語「治療的に有効な量」は、望まれない又は過剰なT細胞活性化を減少し若しくは予防するための、又は、検出可能な治療的又は予防的効果を示すためのIPLの量をいう。該効果は、例えばサイトカイン生産の測定によって又は炎症性応答の進行又は重篤性を評価する何らかの他の適切な、当業者にそれ自体公知の方法によって検出されうる。対象について正確な有効量は、該対象のサイズ及び健康、状態の内容及び程度、並びに投与のために選択される治療又は治療の組み合わせに依存するだろう。すなわち、前もって正確な有効量を特定することは有用でない。しかしながら、与えられた状況についての有効量は、ルーチン実験によって決定されることができ、及び臨床医又は実験者の判断内である。具体的には、本発明の組成物は、喘息又は潰瘍性大腸炎(UC)及び/又は付随する生物学的又は物理的発現を減少し又は予防するために使用されうる。臨床医が初期投与量を確立することを許す方法は、従来技術で知られている。投与されるべき量は、安全且つ効果的でなければならない。
【0047】
本発明の目的のために、有効な1日量が、それが投与される個体において約0.01μg/kg〜1g/kg、及び好ましくは約0.5μg/kg〜約400 mg/kgのイノシトールリン脂質でありうる。
【0048】
さらに、他の代替的な実施態様では、本発明のイノシトールリン脂質又は組成物は、対象の体内に挿入される制御された又は持続された放出マトリックスから投与されうる。
【0049】
少なくとも1つのIPLが組成物の乾燥重量の50%未満、好ましくは30%未満、より好ましくは25%未満を成す組成物は、炎症性症状を減らし又は予防する際に有効であることが見つけられた。本明細書において開示される場合、イノシトールリン脂質の免疫調節効果の広域スペクトルが与えられるので、本発明はまた、IPLを含む食品、食品サプリメント又は食品添加物に関する。食品は、固体又は液体の食品製品でありうる。食品添加物は、(機能的)食品の製造のために使用されうる組成物として定義される。食品サプリメントは、通常の食品摂取に加えて消費されうる組成物であって、通常の食品中に存在しない又は少量のみ存在する要素又は成分を含み、その十分な又は増加された消費が望ましい組成物である。食品の組成物は、食品サプリメント又は食品添加物のそれと必ずしもあまり異ならない。
【0050】
本発明の食品組成物について、同じ嗜好がIPLの型に関して存在する。上記されたIPLが強化された食品又は食品サプリメントは、0.01〜99.9重量%のイノシトールリン脂質を適切に含みうる。好ましい実施態様では、そのような食品又は食品サプリメントは、0.01〜50重量%、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.01〜5重量%のイノシトールリン脂質又はその許容される塩を含む。
【0051】
ヒト又は動物消費のために適しており、高められた量のIPLを含む食品又は食品サプリメントを作るために、栄養価、テクスチャ、味又はにおいが、様々な化合物を該食品又は食品サプリメントに添加することによって改善されうる。当業者は、本発明に従う食品又は食品サプリメントにおいて使用されうるタンパク質、炭水化物及び脂肪の種々の起源、並びにありうる甘味料、ビタミン、ミネラル、電解質、着色剤、着臭剤、香料、香辛料、充填剤、乳化剤、安定剤、保存剤、抗酸化剤、食物繊維、及びその栄養価、味又はテクスチャを改善するために追加されうる、食品のための他の組成物に十分に気付く。そのような要素の選択は、処方、設計及び嗜好の問題である。添加されうるそのような要素及び物質の量は当業者に知られており、該選択は、例えば、子供及び大人並びに動物についての推奨一日許容投与量(RDA投与量)によって導かれる。
【0052】
食品又は食品サプリメントの摂取の一人分の量は、サイズによって変更されることができ、及び推奨投与量に対応する値に制限されない。語「食品サプリメント」は、本明細書において、特定の量又は投与量に制限されることを意図されない。
【0053】
上記された食品又は食品サプリメントの組成物は、原則として、ヒト又は動物による消費のために適した何らかの形態をとりうる。1つの実施態様では、該組成物は、水性溶液、例えば水、コーヒー、茶、乳、ヨーグルト、ブイヨン又はフルーツジュース及びアルコール飲料中に懸濁されうる、分散されうる、乳化されうる又は溶解されうる乾燥粉末の形態である。この目的のために、該粉末は、単位投与形態で用意されうる。
【0054】
代替の好ましい実施態様では、乾燥粉末の形態でIPL含有組成物が錠剤化される。その目的のために、本発明に従う食品サプリメントの組成物は、充填剤、例えば微結晶性セルロース(MCC)及びマンニトール、結合剤、例えばヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、及び滑沢剤、例えばステアリン酸、又は他の賦形剤とともに非常に適切に用意されうる。
【0055】
上記された食品又は食品サプリメントの組成物はまた、固体が水性溶液中に懸濁され、分散され又は乳化される液体調製物の形態で用意されうる。そのような組成物は、食品を介して直接的に混合されてもよく、又は、例えば、粒若しくは他の形に押し出されそして処理されてもよい。
【0056】
代替の実施態様では、食品又は食品サプリメントが、固体、半固体又は液食品、例えば、パン、バー、クッキー若しくはサンドイッチ、又はスプレッド、ソース、バター、マーガリン、乳製品などの形状をとりうる。好ましくは、IPLは、乳製品、例えばバター若しくはマーガリン、カスタード、ヨーグルト、チーズ、スプレッド、飲料、若しくはプディング、又は他のデザートに適用される。好ましくは、食品は飲料である。なぜならば、ヒトはこの方法で脂質の摂取を容易に見積もることができるからである。IPLはまた、揚げること又は焼くことのために使用されるバター又は脂肪において使用されうる。なぜならば、それらは高温での減成に対して比較的耐性であるからである。この特性はまた、低温殺菌又は殺菌処理を経験する食品又は食品サプリメントにおいてIPLの使用を可能にする。IPL含有食事又はダイエット商品はまた、本発明に従う食品又は食品サプリメントの好ましい実施態様を構成する。
【0057】
本発明に従う食品が動物食餌として使用される場合、該食品は、例えば、粉末、粒(grain)、ワッフル、粥、ブロック、パルプ、ペースト、フレーク、煮沸されたもの(cook)、懸濁物又はシロップの形態で用意されうる。
【0058】
ヒトに投与するために、本発明の食品は、食品サプリメントの形態で非常に適切に用意されうる。
【0059】
本発明はさらに、本発明に従う食品又は食物サプリメントの調製のための方法であって、イノシトールリン脂質、その前駆体又その許容される塩で食品又は食品サプリメントを強化することを含む方法に関する。
【0060】
1つの実施態様では、本発明は、IPLで強化された食品又は食品サプリメントの調製のための方法であって、食品又は食品サプリメント中に、好ましくは0.01〜99.9重量%の量に、より好ましくは0.01〜50重量%の量に、さらにより好ましくは0.01〜10重量%の量に、及び最も好ましくは0.01〜5重量%の量にイノシトールリン脂質を処理することを含む方法を提供する。本発明に従う食品中に取り込まれるIPLの実際の量は、脂質の型及びその使用に依存し、当業者は本明細書の文脈に照らして量を決定することができる。
【0061】
本発明に従う食品を調製するための方法では、食品は最初に個々に調製されてよく、次に、リン脂質が食品中に取り込まれる本発明に従い食品に提供されるようにIPLと組み合わされてもよい。該食品は、慣用の方法によって、例えば混合すること、焼くこと、揚げること、加熱すること、蒸すこと、又はゆでることによって、個々に調製されてもよく、及び、必要であれば、IPLと組み合わせられる前に冷やされてもよい。他の適切な実施態様によれば、IPLは、その調製の間に食品中に成分として取り込まれる。
【0062】
本発明に従う食品又は食品サプリメントは、機能性食品組成物として非常に適切に定義されうる。機能性食品は、重要な栄養素の総食事摂取を増加させることによって、食事を補うために使用される天然製品として定義されうる。この定義は、栄養補給剤、例えばビタミン、ミネラル、ハーブエキス、抗酸化剤、アミノ酸及びタンパク質サプリメントを含む。機能性食品製品は、1994年の栄養補助食品法においてF.D.A.によって制定された「栄養補助食品」の新しく作成された製品カテゴリーに入る。この法は、特に、ビタミン、ミネラル、ハーブ、又は他の植物性薬品、抗酸化剤、アミノ酸又は日常の総摂取を増加させることによって食品を補給するために使用される他の食品物質を含むように栄養補助食品を定義する。
【0063】
「機能性食品組成物」は、本明細書において、健康上の利益を生じることが可能な成分で強化された食品組成物として定義される。本発明の文脈においてそのような組成物はまた、特別の食事使用のための食品、医薬的食品及び栄養補助食品として示されうる。本発明の食品及び/又は食品サプリメントは、機能性食品組成物である。なぜならば、それは本発明に従うIPLで強化されており、及びそれは過剰な又は望まれないT細胞活性化に関連付けられた疾患又は状態を治療し又は予防することが可能であるからである。例えば、食品又は食品サプリメントは、炎症性状態、例えばアレルギー(例えば花粉症)などに関連付けられた症状を予防し又は減少することに役立ちうる。
【0064】
医薬組成物のように、食品又は食品添加物中のIPLの量は、幾つかの要因に依存するだろう。食品は、一般に、食品製品の習慣的な(例えば毎日の)部分を消費すると、有効な量の脂質を消費者に提供することが十分であるIPLの濃度を含む。例えば、食品は、イノシトールリン脂質が好ましくはリットル当たり0.0005〜2 mgの量で存在する一人分200 mlとして典型的に消費される飲料でありうる。他の実施態様では、本発明は、IPLを含むスプレッドを提供する。
【0065】
本明細書において記載される医薬組成物、食品又は食品サプリメントの治療的効果を達成するための最適な量及び個々の投与量の間隔は当業者によって容易に決定されうることが当業者によって認識されるだろう。それらは、治療される状態の内容及び程度によって、並びに投与の形態、経路及び部位、及び特段の個々の経験中の治療によって決定されるだろう。そして、そのような最適化は、慣用技術によって決定されうる。典型的に、治療は、24時間あたり、体重のキログラム当たり、およそ0.001〜1グラム、好ましくは0.005〜0.5グラム、より好ましくは0.01〜0.1グラムの量でイノシトールリン脂質の投与を含むだろう。最適な投与量計画、すなわち投与の数は、従来技術において知られている治療決定試験の慣用のコースを使用して確認されうることはまた当業者によって理解されるだろう。本発明者等は、静脈内に200μlのPI 2 mg/ml(すなわち400μg)を受けたマウスが投与後3時間の観察期間の間に何らかの症状又は不都合な兆候を示さなかったことを観察した。一般的に言えば、治療投与計画は、少なくとも1日に1回、好ましくは1日に1から4回、症状が治まるまで、イノシトールリン脂質を含む選択された投与処方、例えばPIエアロゾルスプレーの投与を含むだろう。あるいは、疾患の再発(悪化)を予防するために、寛解の回が与えられる。本発明の目的のために、有効な投与量は、それが投与されるヒトにおいて乾燥食事量の約0.01〜5%であり、それは大人のヒトにとって1日量が約0.04〜35グラムの間のイノシトールリン脂質であるだろう。
【0066】
好ましくは、医薬組成物はそれが必要である対象、例えば免疫疾患を患うヒト又は動物対象に局所的粘膜投与をするために適しているように処方される。薬物輸送の粘膜経路は、鼻、直腸、膣、目及び口腔の粘膜内層を含む。局所粘膜投与の部位は、気道通路(例えば、鼻又は気管内の輸送)及び胃腸管を含む。1つの実施態様では、本発明は、イノシトールリン脂質を含むスプレーを提供する。特に、本発明は、喘息に関連付けられる症状の治療又は予防のために、イノシトールリン脂質、例えばPIを含むエアロゾルスプレーを使用する方法を提供する。
【0067】
他の実施態様では、本発明は、イノシトールリン脂質を含む直腸浣腸又は坐薬を提供する。これらは、特に、炎症性腸疾患の治療又は制御において有用である。炎症性腸疾患の2つの主なカテゴリーは、潰瘍性大腸炎及びクローン病である。潰瘍性大腸炎は、腸感染に関係しない大腸の粘膜層の炎症の発現を再発することによって特徴付けられる。該炎症は、直腸に関与し及び連続的に近位に広がりうる。クローン病は、口から肛門までの腸の任意の部分の化膿性炎症の発現を再発することによって特徴付けられる。この炎症は、貫壁性であり且つ狭窄、微貫通(microperforations)及び瘻孔(fistulae)をもたらしうる。炎症は不連続であり、従って腸全体にわたってスキップ病変を生じうる。炎症性腸疾患の治療において使用するためのイノシトールリン脂質を含む本発明の組成部はまた、一般に使用される1以上の治療物質及び賦形剤をもちろん含みうる。例えば、それは、他の抗炎症性薬物、例えばアミノサリシレート(例えば5-ASA)又は(副腎皮質)ステロイド含みうる。また他の実施態様では、本発明は、IPLを含む軟膏を提供する。これらは、特に、皮膚の炎症性疾患、例えば乾癬の治療又は制御において有用である。
【0068】
対象への脂質の投与に関連する既知の問題は、それが食品中又は医薬品組成物中にある場合、それらが例えば一般的な又は特異的なリパーゼによって代謝されうることである。これは、特に、消化管におけるリン脂質の適用に関連する。また、本発明内において、対象に投与されたIPLの代謝(例えば、減成又は転化)は、脂質がその作用の部位、例えばAPC及び/又はT細胞に到達する時の前に生じうる。この問題は、IPL又はその医薬的に許容される塩を単独で又はもはや代謝されえない又は減少された率でのみ代謝されうる結果として或る置換物を含む所謂前駆体化合物と組み合わせて投与することによって解決されうる。IPLが特にそこでその作用を有するべきである場合に、その作用をこれら前駆体は、好ましくは、消化管の上部(例えば、口、胃)において加水分解に対して耐性であり、及び、消化管の下部(例えば、盲腸、結腸)において例えば比較的容易に分割される。好ましくは、前駆体の取り込みが経口経路である場合、そのままの又は代謝された前駆体が血流内に取り込まれ、そしてそれらがそれらの有利な効果を発揮するために活性化されうる標的部位に輸送される。すなわち、該化合物が消化管から吸収されている場合、活性化は、例えば血液又は肝臓中で生じることが可能である。その結果、化合物の量が、スフィンゴ脂質がその作用を有するそれらの場所で上昇される。例えば、対象においてT細胞活性化を抑制しうるIPLが遊離されるように、適切な酵素によってイン ビボ(in vivo)で分割され又は活性化されうるIPL前駆体が使用されうる。
【0069】
イノシトールリン脂質又はその前駆体若しくは医薬的に許容される塩は、予防的又は治療的理由のためにその必要がある対象に提供されうる。イノシトールリン脂質、その前駆体又はその医薬的に許容される塩は、食品又は食品サプリメントの形態で又は医薬的調製物の形態で、それが必要である対象に提供されてもよく、そのような全ての投与形態は、望まれないT細胞活性化の展開を予防し及び/又はその症状を軽減しうる。特に、喘息、糖尿病及び炎症性腸疾患の展開及び/又は重篤性が考慮される。
【0070】
IPL又はその前駆体若しくは医薬的に許容される塩は、食品又は食品サプリメントにおいて使用されうる。食品サプリメントは、通常の食品摂取に加えて消費されうる組成物であって、通常の食品中に存在しない又は少量のみ存在する要素又は成分を含み、その十分な又は増加された消費が望ましい組成物として定義される。食品の組成物は、食品サプリメントのそれと必ずしもあまり異ならない。
【0071】
本明細書において開示される食品又は食品サプリメントは、該食品又は食品サプリメントにおいて通常生じる若しくは見つけられる又はヒトの介在なしに生じる若しくは見つけられる量よりも高いイノシトールリン脂質の量を含む。イノシトールリン脂質のこの高められた量が、該高められた量でスフィンゴ脂質を通常含まない食品にスフィンゴ脂質の特別の添加を通じて、すなわち該スフィンゴ脂質で食品を強化することによって生じうる。代替的に、遺伝子エンジニアリングが、強化された量でIPLを含む食品を生成するために使用されうる。これは、例えば、食品の生産のために使用される植物若しくは酵母若しくは他の微生物中でそのようなIPLの生産のための生合成経路を、該有機体中でIPLが高められた量で生産されるようにエンジニアリングすることによってである。
【0072】
イノシトールリン脂質又はその前駆体若しくは誘導体の高められたレベルを有する食品又は食品サプリメントが、炎症性疾患、特にアレルギー性喘息又は潰瘍性大腸炎の予防及び/又は治療のために有利に使用される。食品又は食品サプリメントはまた、炎症性疾患、特にアレルギー性喘息又は潰瘍性大腸炎を治療し及び/又は予防するための食事におけるその使用を見つけた。すなわち、本発明は、高められたIPLレベル(例えば、外的に添加されたPI、好ましくは哺乳動物のPI、より好ましくはウシ肝臓PI、又はその合成類似物)を含む免疫抑制性の食品又は食品サプリメントを提供する。
【0073】
健康な対象において、炎症性疾患、特にアレルギー性喘息又は潰瘍性大腸炎の発生を予防する方法であって、該対象にイノシトールリン脂質又はその前駆体、誘導体若しくはその医薬的に許容される塩の高められたレベルを有する食品を提供することを含む方法がまた本明細書において提供される。代替的に又は追加的に、該対象は、本発明に従う医薬組成物を(例えば、粘膜経路を介して)投与されうる。本発明は更に、炎症性疾患、特にアレルギー性喘息又は炎症性腸疾患の予防及び/又は治療のために本発明に従う医薬組成物を使用する方法を提供する。
【0074】
更なる観点は、炎症性疾患、特にアレルギー性喘息又は炎症性腸疾患、例えば潰瘍性大腸炎を患う対象を治療するための方法であって、本発明に従う医薬組成物の治療的に有効な量をその必要がある対象に投与することを含む方法に関する。
【0075】
実験の部
下記実施例1及び2は、イン ビトロ(in vitro)条件下で、イノシトールリン脂質の免疫抑制効果を示し、一方、実施例3は、免疫障害用の動物モデルにおいてIPLのイン ビボ(in vivo)効果を記載する。全てのイン ビボ(in vivo)実験は、エラスムス大学(ロッテルダム、オランダ)の実験動物委員会によって、動物実験のための倫理規約に従って行なわれた。使用された物質は、シグマ社から入手されたホスファチジルイノシトール(PI)(ウシ肝臓PI;シグマ社カタログ番号P 8443)、ベクトン・ディッキンソンから入手されたI-イノシトール/ミオイノシトールを含む。
【実施例1】
【0076】
CD1d脂質抗原提示を介したNKT細胞活性化
0日目において、T84D細胞(CD1dで形質転換されたヒト上皮細胞株)が、aGalCer(10mg/ml)とともに一晩インキュベートされた。各種量のPIが、各時点でT84D細胞に添加された。次に、T84D細胞がPBSで1回洗浄され、そしてDN32細胞(ネズミの1.1倍陽性NKT細胞株)が添加され(T84D: DN32 = 1:10)、そして24時間共培養された。上清が集められ、そして(T細胞活性化を反映する)DN32によるIL-2サイトカイン生産が、ELISAによって決定された。該結果が、図1に示される。
【実施例2】
【0077】
粘膜的に投与されたイノシトールリン脂質のイン ビボ(in vivo)効果
PIの粘膜投与のための組成物の調製:
2mgのウシ肝臓PI(アヴァンティ・ポーラー・リピッズ;カタログ番号830042)が窒素の流下で乾燥され、そして上下に数回ピペッティングすることによって1 mlの生理食塩水(0.9% NaCl)中に懸濁された。2 mg/mlのこの貯蔵溶液が生理食塩水中に10倍に希釈されて、0.2 mg/mlの懸濁液を得た。
【0078】
実施例2A:大腸炎用動物モデル
0日目において、オスの7〜10週齢野生型black/6マウス(チャールス・リバー)が、100%エタノール中150μlの3% 4-エトキシメチレン-2-フェニルオキサゾリン-5-オン(オキサゾロン;シグマ社)で経皮的に感作された。5日目で、マウスは、ケタミン(80 mg/kg)及びキシラジン(10 mg/kg)の麻酔下で、水性エタノール(50%)中100μlの2%オキサゾロンの直腸投与によって試験された。試験20分前に、マウスが100μlの食塩水(対照)又はPI(2 mg/ml)で直腸内に処理された。3つの全ての群は、8匹のマウスを含んだ。マウスは、5、6、7及び8日目に体重測定され、そして8日目に犠牲にされた。
【0079】
結腸組織は、4%の天然の緩衝化されたホルマリン溶液で固定され、パラフィン中に埋め込まれ、5μの組織片に切断され、そしてヘマトキシロン及びエオシン(H&E)で染色された。オキサゾロン大腸炎のために上記されたスコアを使用して(REF)、該染色された片が大腸炎の証拠のために検査された。脾臓、わき下(axillary)リンパ節(ALN)、腸間膜(mesenteric)リンパ節(MLN)及び腸骨(iliacal)リンパ節(ILN)が単離され、そしてIMDM培地中、PBS(対照)又はaCD3/aCD28(2μg/mlのそれぞれ100μl)のいずれかでエクス ビボ(ex-vivo)で刺激された。48及び72時間後、IL-2の生産は、ELISA(ベクトン・ディッキンソン)によって測定された。
【0080】
結果:
マウスにおいてハプテン誘発された大腸炎の誘発前に結腸投与を介したPIでの局所処理は、減少した体重減少及び増加した生存を生じた。図5に示されているように、IPLでのマウスの直腸内処理は、腸のT細胞をエクス ビボ(ex-vivo)刺激するとIL-2生産を抑制した。これらのデータは、IPLがヒト炎症性腸疾患、例えば潰瘍性大腸炎の予防又は治療として使用されうることを示す。
【0081】
実施例2B:喘息用動物モデル
0日目において、8匹のオスの7〜10週齢野生型Blab/cマウス(チャールス・リバー)が、2.25 mgのミョウバン(AlumImuject;ピアス)中に乳化された20μgのOVA(シグマ社)の腹腔内(i.p.)注射によって感作された。15、16及び17日目において、マウスが落ち着かせられ、そしてPI(0μg/ml、200μg/ml又は200mg/ml)の3つの溶液のうちの1つの80μlを気管内に(i.t.)受け取った。引き続き、該マウスは、OVA(1%食塩水中)を含む60μlのエアロゾルに、20分の吸入暴露によって試験された。3つの全ての群は、8匹のマウスを含んだ。マウスは、18日目に犠牲にされた。
【0082】
肺が3 mlの食塩水で洗われ、そしてこの気管支肺胞洗浄(BAL; Broncho Alveolar Lavage)中の細胞が同定され、そしてFACS分析により計量された。引き続き、該肺は凍結固定され、5μmの組織片に切断され、そしてMay-Grunwald-Giemsa(MGG)で染色された。該染色された片が、炎症性細胞浸潤、例えば好酸球の存在について検査された。
【0083】
結果
気道過敏反応性のためのこのモデルは、PIでの気管内処理が喘息に関連付けられる好酸球の典型的な流入を強く阻害することを示す。該肺の分析は、PIがこのモデルに特徴的である組織病理学的変化を減らすことを裏付けた。これらのデータは、IPLがヒトの喘息の予防又は治療のために適切に使用されうることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分としてイノシトールリン脂質(IPL)、及び医薬的に許容される担体又は希釈剤を含む粘膜投与のために適合された医薬組成物。
【請求項2】
前記IPLのイノシトール頭部基が、リン酸基以外の残基に共役されていない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記IPLが天然起源である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記IPLがジアシルグリセロールホスファチジルイノシトールである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記IPL中に存在する飽和対不飽和脂肪酸の比が、少なくとも1.0、好ましくは少なくとも1.1である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記IPLが、哺乳動物組織、好ましくは肝臓、より好ましくはウシの肝臓から得られる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が非リポソーム組成物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1つのIPLが、生理学的に許容される水性担体中に、好ましくは生理食塩水中に、懸濁された形態で前記組成物中に存在する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1つのIPLが、前記組成物の乾燥重量の50%未満、好ましくは30%未満、より好ましくは25%未満を成す、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、直腸投与のために適合されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、例えばネブライザ又はエアロゾルの形態で、肺内投与のために適合されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
肺サーファクタントポリペプチドを含まない、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
活性成分として少なくとも1つのIPLを含む医薬組成物を調製するための方法であって、水性の生理学的に許容される担体中で、好ましくは食塩水中で前記少なくとも1つのIPLの非リポソーム懸濁液を調製することを含む、前記方法。
【請求項14】
哺乳動物における喘息状態の治療又は予防のための医薬品の製造のためにIPLを使用する方法。
【請求項15】
前記医薬品が肺サーファクタントポリペプチドを含まない、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
哺乳動物における炎症性腸疾患、好ましくは潰瘍性大腸炎の治療のための医薬品の製造のためにIPLを使用する方法。
【請求項17】
少なくとも1つのIPL、好ましくはPI、より好ましくはジアシルグリセロールPIを強化された食品又は食品サプリメント。
【請求項18】
炎症性疾患、特にアレルギー性喘息又は潰瘍性大腸炎を予防することが可能な食品又は食品サプリメントの製造のためにIPLを使用する方法。
【請求項19】
健康な対象において炎症性疾患、特にアレルギー性喘息又は潰瘍性大腸炎の発生を予防するための方法であって、IPL又はその前駆体、誘導体若しくは医薬的に許容されるその塩の高められたレベルを有する食事を前記対象に与えることを含む、前記方法。
【請求項20】
健康な対象において炎症性疾患、特にアレルギー性喘息又は潰瘍性大腸炎の発生を予防するための方法であって、請求項1〜12のいずれか1項に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項21】
炎症性疾患、特にアレルギー性喘息又は潰瘍性大腸炎を患う対象を治療するための方法であって、請求項1〜12のいずれか1項に記載の医薬組成物の治療的に有効な量をその必要がある対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項22】
炎症性疾患、特にアレルギー性喘息又は潰瘍性大腸炎の予防及び/又は治療のために、IPL又はその前駆体若しくは誘導体の高められた量を有する食品を使用する方法。
【請求項23】
炎症性疾患、特にアレルギー喘息又は潰瘍性大腸炎の治療及び/又は予防のための食品中にIPL又はその前駆体若しくは誘導体の高められた量を有する食品を使用する方法。
【請求項24】
炎症性疾患、特にアレルギー性喘息又は潰瘍性大腸炎の予防及び/又は治療のために、請求項1〜12のいずれか1項に記載に従う医薬組成物を使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−539826(P2009−539826A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514221(P2009−514221)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【国際出願番号】PCT/NL2006/000284
【国際公開番号】WO2007/142510
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(505055789)エラスムス ユニバーシティ メディカル センター ロッテルダム (6)
【Fターム(参考)】