説明

イブプロフェンの昇華が抑制されたイブプロフェン含有製剤

【課題】イブプロフェンの昇華が抑制された、イブプロフェン、特にイブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤を提供すること。
【解決手段】イブプロフェン、好ましくはイブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤に、亜硫酸水素ナトリウムを含有させることにより、イブプロフェンの昇華を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イブプロフェン、特にイブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤であって、イブプロフェンの昇華が抑制された固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
イブプロフェンは、慢性関節リウマチ、関節痛及び関節炎、神経痛及び神経炎、脊腰痛等への消炎、鎮痛に有効なほか、風邪症侯群、急性気管支炎、慢性気管支炎の急性増悪期の消炎、解熱などにも有効な非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)として広く使用されている薬物である。しかしながら、イブプロフェンは昇華性であるため、ガラス瓶等の密閉容器に保存した場合、経時的に内壁に曇りを生じることが知られており、いろいろな防止方法が検討されている(特許文献1−5)。
【0003】
またトラネキサム酸は、抗プラスミン作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用などを有する薬物として広く使用されており、特にイブプロフェンと併用すると解熱鎮痛の効果を増強することが知られている(特許文献6)。
【0004】
また、イブプロフェンと亜硫酸水素ナトリウムを含む錠剤が開示されている(特許文献7)。しかし、この錠剤は、有効成分であるメキタジンに亜硫酸水素塩等の安定化剤を配合することによって、メキタジンの生物学的利用能の低下を防止するものであって、イブプロフェンの昇華については検討されていない。
【特許文献1】特開平8−193027号
【特許文献2】特開平8−333247号
【特許文献3】特開2002−179559号
【特許文献4】特開2002−241275号
【特許文献5】特開2005−162619号
【特許文献6】特開平9−48728号
【特許文献7】特開平11−209305号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、イブプロフェンの昇華が抑制された、イブプロフェン、特にイブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、イブプロフェンとトラネキサム酸を含む解熱鎮痛剤について種々検討している際に、イブプロフェンにトラネキサム酸を混合すると、イブプロフェン単独に比べてイブプロフェンの昇華が著しく増大することに気づいた。そして、イブプロフェン、特にイブプロフェン及びトラネキサム酸を含む製剤におけるイブプロフェンの昇華が、製剤に亜硫酸水素ナトリウムを含有させることにより抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤であって、亜硫酸水素ナトリウムを含有することを特徴とする固形製剤である。
また、本発明は、イブプロフェンを含有する固形製剤におけるイブプロフェンの昇華を抑制する方法であって、固形製剤に亜硫酸水素ナトリウムを含有させることを特徴とする方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、昇華を抑制したイブプロフェン、又はイブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で用いる亜硫酸水素ナトリウムは、一般的に安定化剤や抗酸化剤として汎用されているが、これまでにイブプロフェンの昇華の抑制を目的として使用されたことは知られていない。
【0010】
本発明の製剤はイブプロフェンを含む固形製剤である。本発明の製剤の好ましい形態は、さらにトラネキサム酸を含む固形製剤である。本発明の製剤は、これらのイブプロフェン、又はイブプロフェン及びトラネキサム酸を含む固形製剤であって、亜硫酸水素ナトリウムを含有することを特徴とする。
【0011】
従来の処方では、イブプロフェンが昇華して、瓶の内壁に曇りが生じることがあるが、亜硫酸水素ナトリウムを製剤に含有させることにより、イブプロフェンの昇華を抑制することができる。昇華とは、固体から気体、または気体から固体へと、液体を経ずに相転移する現象であるが、本発明においては、固体から気体、又は気体から固体への相変化のいずれの抑制であるかにかかわらず、ウィスカーの発生、及び/又は、瓶の内壁の曇りが抑制されれば、「イブプロフェンの昇華の抑制」に含まれる。
【0012】
イブプロフェン自体昇華しやすい薬剤であるが、イブプロフェンとトラネキサム酸の両方が製剤に含まれると、イブプロフェンはより昇華しやすくなる。亜硫酸水素ナトリウムを製剤に含有させると、イブプロフェンの昇華は抑制されるが、特にイブプロフェンとトラネキサム酸の両方を含む製剤においては、昇華の抑制効果が顕著である。本発明の固形製剤は、通常、瓶などの容器に充填される。容器は、不透明、半透明、又は透明のいずれでもよいが、特に半透明又は透明の容器の場合には、瓶の内壁の曇りを防止する効果が高い。容器の素材としては、ガラス又はプラスチチック等が挙げられる。
【0013】
本発明における亜硫酸水素ナトリウムの含有量は、固形製剤全体に対して0.1〜40質量%が好ましく、1〜20質量%が更に好ましく、5〜10質量%が特に好ましい。
本発明におけるイブプロフェンの含有量は、固形製剤全体に対して1〜70質量%が好ましく、5〜60質量%が更に好ましく、7〜50質量%が特に好ましい。
【0014】
本発明におけるトラネキサム酸の含有量は、固形製剤全体に対して1〜70質量%が好ましく、5〜60質量%が更に好ましく、7〜50質量%が特に好ましい。
イブプロフェンの他に昇華性のある薬剤として、例えば、カフェイン、エテンザミド、カルバマゼピン、サリチル酸、バルプロ酸ナトリウムなどが知られているが、本発明を用いればこれらの薬剤に対しても昇華の抑制は可能であることが期待される。
【0015】
本発明の固形製剤には、イブプロフェンの昇華の抑制を妨げない限り、イブプロフェンとトラネキサム酸以外の薬物、例えば、解熱鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳剤、ノスカピン類、気管支拡張剤、去痰剤、催眠鎮静剤、ビタミン類、抗炎症剤、胃粘膜保護剤、生薬類、漢方処方、カフェイン類等からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含んでいても良い。
【0016】
解熱鎮痛剤としては、例えば、アスピリン、アスピリンアルミニウム、アセトアミノフェン、エテンザミド、サザピリン、サリチルアミド、ラクチルフェネチジン、サリチル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0017】
抗ヒスタミン剤としては、例えば、塩酸イソチペンジル、塩酸ジフェニルピラリン、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェテロール、塩酸トリプロリジン、塩酸トリペレナミン、塩酸トンジルアミン、塩酸フェネタジン、塩酸メトジラジン、サリチル酸ジフェンヒドラミン、ジフェニルジスルホン酸カルビノキサミン、酒石酸アリメマジン、タンニン酸ジフェンヒドラミン、テオクル酸ジフェニルピラリン、ナパジシル酸メブヒドロリン、プロメタジンメチレン二サリチル酸塩、マレイン酸カルビノキサミン、 dl−マレイン酸クロルフェニラミン、d−マレイン酸クロルフェニラミン、リン酸ジフェテロール等が挙げられる。
【0018】
鎮咳剤としては、例えば、塩酸アロクラミド、塩酸クロペラスチン、クエン酸カルベタペンタン、クエン酸チペピジン、ジブナートナトリウム、臭化水素酸デキストロメトルファン、デキストロメトルファン・フェノールフタリン塩、ヒベンズ酸チペピジン、フェンジゾ酸クロペラスチン、リン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデイン等が挙げられる。
【0019】
ノスカピン類としては、例えば、塩酸ノスカピン、ノスカピン等が挙げられる。
【0020】
気管支拡張剤としては、例えば、dl−塩酸メチルエフェドリンや、 dl−メチルエフェドリンサッカリン塩等が挙げられる。
【0021】
去痰剤としては、例えば、グアヤコールスルホン酸カリウム、グアイフェネシン等が挙げられる。
【0022】
催眠鎮静剤としては、ブロムワレリル尿素やアリルイソプロピルアセチル尿素等が挙げられる。
【0023】
ビタミン類としては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、ヘスペリジン及びその誘導体並びにそれらの塩類等が挙げられる。
【0024】
抗炎症剤としては、グリチルリチン酸及びその類縁物質等が挙げられる。
【0025】
胃粘膜保護剤としては、アミノ酢酸、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、ジヒドロキシアルミニウム・アミノ酢酸塩(アルミニウムグリシネート)、水酸化アルミニウムゲル、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム混合乾燥ゲル、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウムの共沈生成物、水酸化アルミニウム・炭酸カルシウム・炭酸マグネシウムの共沈生成物、水酸化マグネシウム・硫酸アルミニウムカリウムの共沈生成物、炭酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる.
【0026】
生薬類としては、オキソアミヂン、マオウ、ナンテンジツ、オウヒ、オンジ、カンゾウ、キキョウ、シャゼンシ、シャゼンソウ、石蒜、セネガ、バイモ、ウイキョウ、オウバク、オウレン、ガジュツ、カミツレ、ケイヒ、ゲンチアナ、ゴオウ、獣胆(ユウタンを含む)、シャジン、ショウキョウ、ソウジュツ、チョウジ、チンピ、ビャクジュツ、地竜、チクセツニンジン、ニンジン等が挙げられる。
【0027】
漢方処方としては、葛根湯、桂枝湯、香蘇散、柴胡桂枝湯、小柴胡湯、小青竜湯、麦門冬湯、半夏厚朴湯、麻黄湯等が挙げられる。
【0028】
カフェイン類としては、例えば、無水カフェインや、カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェイン等が挙げられる。
【0029】
更に本発明の固形製剤には、添加物として、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を含んでいても良い。
【0030】
賦形剤としては、乳糖、デンプン類、結晶セルロース、蔗糖、マンニトール等が挙げられる。結合剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、プルラン等が挙げられる。崩壊剤としては、カルメロース、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム等が挙げられる。滑沢剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、ステアリン酸、タルク等が挙げられる。
【0031】
本発明の固形製剤としては、例えば、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、散剤等が挙げられ、特に錠剤が好ましい。前記固形製剤は糖衣やフィルムコーティング等により被覆されていても良い。
【0032】
本発明の固形製剤は、常法に従って製造することができる。例えば、固形製剤が錠剤である場合、イブプロフェン、トラネキサム酸、亜硫酸水素ナトリウムに必要に応じて各種薬物や各種添加物を加えて湿式造粒した後、得られた顆粒に滑沢剤を混合して打錠することで出来上がる。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
〔試験例1〕
ガラス瓶(10K規格)にシリカゲル(2g)と下記試料1と2をそれぞれ充填し密栓した後、60℃の条件下で保存した。保存から1週、2週、3週後の各時点でシリカゲルを取り出して重量を測定し、シリカゲルに吸着されたイブプロフェン重量のシリカゲル重量に対する相対値を算出した。結果を表1に示す。
【0035】
試料1:イブプロフェン 1g
試料2:イブプロフェン 1g+トラネキサム酸1g
【0036】
重量変化(%)=(B−A)×100/A
A:保存開始時のシリカゲル重量
B:保存後のシリカゲル重量
【0037】
【表1】

【0038】
表1より、イブプロフェン単独に比べて、イブプロフェンにトラネキサム酸を混合した場合は、イブプロフェンの昇華量が著しく大きいことが判明した。
【0039】
〔実施例1〕
イブプロフェン900g(米沢浜理製:商品名 日本薬局方イブプロフェン)、トラネキサム酸1500g(第一ファルマテック製:商品名 日本薬局方トラネキサム酸)、亜硫酸水素ナトリウム320g(片山化学工業製:商品名 亜硫酸水素ナトリウム)、ヒドロキシプロピルセルロース106g、結晶セルロース1474g、クロスカルメロースナトリウム360gを高速攪拌造粒機(深江工業製:FS−10型)に投入して混合後、精製水466gを添加して練合した。この造粒物を流動層乾燥機(フロイント産業製:FLO−5型)に投入して乾燥後、整粒機(岡田精工製:ND−10型)を用いて整粒した。この整粒物4660g及びタルク200gを混合機(コトブキ製:PM50型)に投入して混合した後、直径8.5mmの杵を取り付けた打錠機(畑鉄工所製:HT−AP18SS型)を用いて打錠し、1錠の質量が270mgの錠剤18000錠を得た。
【0040】
〔比較例1〕
実施例1の亜硫酸水素ナトリウムに代わりに結晶セルロース320gを添加し、その他は実施例1と同様にして錠剤を得た。
【0041】
〔昇華抑制の評価〕
実施例1及び比較例1で得た錠剤を、各1錠ずつガラス瓶(2K規格)に入れ、密栓した後、40℃で3箇月保存した。該保存期間経過後、目視によって、ビン内壁の曇りの有無を以下の基準により判定した。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2より、比較例1では、ビン内壁の曇りが認められた。一方、亜硫酸水素ナトリウムを配合した実施例1では、ビン内壁の曇りは全く認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤であって、亜硫酸水素ナトリウムを含有することを特徴とする固形製剤。
【請求項2】
イブプロフェンを含有する固形製剤におけるイブプロフェンの昇華を抑制する方法であって、固形製剤に亜硫酸水素ナトリウムを含有させることを特徴とする方法。
【請求項3】
前記固形製剤が、トラネキサム酸を含有することを特徴とする請求項2に記載の方法。

【公開番号】特開2008−201738(P2008−201738A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40936(P2007−40936)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】