説明

イムノクロマトグラフィー測定用キット

【課題】 検体を簡単に抽出溶剤と混合し、検体に含まれる分析対象物質とそれに免疫学的に結合される標識物質とを迅速かつ十分に混合して、迅速にイムノクロマト展開に供する。
【解決手段】 検体を展開溶媒と混合して該検体から分析対象物質を抽出するための抽出用容器と、この抽出された分析対象物質を該展開溶媒とともにクロマト展開せしめるための膜担体とを少なくとも有してなるイムノクロマトグラフィー測定用キットであって、前記膜担体は、前記分析対象物質と免疫学的に結合する第一の物質を固定化して形成された捕捉部位を少なくとも備え、前記抽出用容器は、前記分析対象物質と免疫学的に結合する第二の物質を前記分析対象物質と免疫学的に結合可能な状態で含んでなり、該第二の物質は標識物質で標識されていることを特徴とするイムノクロマトグラフィー測定用キット

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の鼻、喉、結膜等より採取した検体を簡単に展開溶媒と混合し、これを即座にイムノクロマトグラフィー測定用の膜担体にクロマト展開して分析対象物質の測定を行うことができるようにしたイムノクロマトグラフィー測定用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
イムノクロマトグラフィー測定用の被験試料は、被疑患者の涙、目脂、喀痰、唾液、大便などの生体試料や患部を清拭したガーゼ、綿棒などを、予め試験用チューブなどの容器に入れておいた抽出溶剤に浸漬して分析対象物質を分散又は溶解して抽出液として調製される。そして、測定は、この抽出液をピペットなどで吸い上げてから、イムノクロマトグラフィー測定用のテストストリップの試料注入部に注入してテストストリップに展開させることにより行われる。
【0003】
従来のイムノクロマトグラフィー測定用のテストストリップは、分析対象物質が抗原である場合、該抗原に対する第一の抗体を固定化して形成された捕捉部位を有する膜担体と、該抗原に対する第二の抗体を標識して含浸させた含浸部材とを備え、この含浸部材を試料注入部に隣接させて配置している。したがって、前記抽出液を試料注入部に注入すると、抽出液に含まれた抗原が含浸部材に浸透して、標識された前記第二の抗体と結合体を形成し、さらに当該結合体が膜担体をクロマト展開されて前記捕捉部位に捕捉されることにより、分析対象物質を検出するようにされている。
【0004】
【特許文献1】特開2003-344406号公報
【特許文献2】特開2004-271341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のような従来のイムノクロマトグラフィー測定用のテストストリップの構成では、抽出液は含浸部材を即座に通過して膜担体に移行してクロマト展開され、含浸部材において抽出液に含まれる抗原と第二の抗体とが接触する時間は必ずしも十分とは言えなかった。
【0006】
そこで、本発明は、患者から採取した検体を簡単に抽出溶剤と混合し、検体に含まれる分析対象物質とそれに免疫学的に結合される標識物質とを迅速かつ十分に混合して、迅速にイムノクロマト展開に供することができるようにしたイムノクロマトグラフィー測定用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、検体を展開溶媒と混合して該検体から分析対象物質を抽出するための抽出用容器と、この抽出された分析対象物質を該展開溶媒とともにクロマト展開せしめるための膜担体とを少なくとも有してなるイムノクロマトグラフィー測定用キットであって、前記膜担体は、前記分析対象物質と免疫学的に結合する第一の物質を固定化して形成された捕捉部位を少なくとも備え、前記抽出用容器は、前記分析対象物質と免疫学的に結合する第二の物質を前記分析対象物質と免疫学的に結合可能な状態で含んでなり、該第二の物質は標識物質で標識されていることを特徴とするイムノクロマトグラフィー測定用キットが提供される。
【0008】
さらに、分析対象物質と免疫学的に結合する第一の物質を固定化して形成された捕捉部位を少なくとも備えてなる膜担体にクロマト展開せしめるために、検体を展開溶媒と混合して該検体から分析対象物質を抽出するための抽出用容器であって、該抽出用容器は、前記分析対象物質と免疫学的に結合する第二の物質を前記分析対象物質と免疫学的に結合可能な状態で含んでなり、該第二の物質は標識物質で標識されていることを特徴とするイムノクロマトグラフィー測定用の抽出用容器が提供される。
【0009】
さらに、本発明によれば、上記抽出用容器から抽出された分析対象物質と上記第二の物質との免疫学的結合物をクロマト展開するために使用される膜担体であって、前記分析対象物質と免疫学的に結合する第一の物質を固定化して形成された捕捉部位を少なくとも備えてなることを特徴とするイムノクロマトグラフィー測定用の膜担体が提供される。
【0010】
本発明の膜担体としては、上記第一の物質を固定化可能であり、かつ、上記分析対象物質をクロマト展開させることができるものであれば特に限定されず、通常、展開溶媒を毛管現象によって浸透させることができる網目状又は多孔状の膜状部材が使用される。かかる膜担体の具体例としては、ニトロセルロース製メンブレンフィルター、その他のセルロース類膜、ナイロン膜、ガラス繊維膜などが挙げられ、このうち、ニトロセルロース製メンブレンフィルターが好ましく用いられる。膜担体の形状及び寸法は用途に応じて適宜選択できるが、通常、帯状片、すなわち、ストリップの形態で提供される。市販品では、この膜担体のストリップの一端に試料添加用部材を重ねて連接し、他端に吸収用部材を重ねて連接し、細長の容器に収容されたイムノクロマトグラフィー測定用ストリップとして提供される。
【0011】
本発明において、分析対象物質が抗原である場合は、第一の物質及び第二の物質の何れも、該抗原に対する抗体とされる。この場合、第一の物質と第二の物質は、該抗原の異なる部位に結合するものでなければならない。第一の物質及び第二の物質として用いる抗体は、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の点から、第一及び第二の物質の何れもがモノクローナル抗体であることが好ましい。
本発明において、分析対象物質が抗体である場合は、第一の物質として該抗体が特異的に結合する抗原が使用され、第二の物質として、該抗体に対する抗体が使用される。第二の物質として使用する抗体は、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の点から、モノクローナル抗体であることが好ましい。
【0012】
第一の物質は、上記膜担体に公知の手段によって固定され、分析対象物質の捕捉部位を形成する。捕捉部位の形状は特に制限されず、例えば、ストリップ状の膜担体の幅方向を横断するライン状や、スポット状とすることができる。
【0013】
第二の物質は、適当な標識物質で標識された状態で、分析対象物質と免疫学的に結合可能な状態で抽出用容器に含まれていればよい。この標識された第二の物質は、使用時に、抽出用容器内で展開溶媒と接触して、該展開溶媒に容易に溶解されるようにされていればよく、例えば、容器の内面に塗布しておいてもよく、または、適当な含浸部材に含浸させた状態で容器内に包入させておいてもよい。好ましい実施形態によれば、この標識された第二の物質を含浸した含浸部材を抽出用容器のノズルの排出経路中に配置し、容器の内容物がノズルを通過して排出される際に分析対象物質と含浸部材とが接触するように構成される。
【0014】
第二の物質の標識に用いる標識物質としては、当該物質を標識可能なものであればいかなる物質であってもよく、呈色標識物質、酵素標識物質、放射線標識物質などが挙げられる。このうち、捕捉部位での色の変化を肉眼で観察することにより迅速かつ簡便に判定できる点から、呈色標識物質を用いることが好ましい。呈色標識物質としては、金コロイド、白金コロイド等の金属コロイドの他、赤色および青色などのそれぞれの顔料で着色されたポリスチレンラテックスなどの合成ラテックスや、天然ゴムラテックスなどのラテックスが挙げられ、このうち金コロイドなどの金属コロイドが特に好ましい。
【0015】
上記含浸部材としては、標識された第二の物質を非固定状態で保持し、展開溶媒を浸透させ、分析対象物質と第二の物質との免疫学的結合物を該展開溶媒とともに通過させるものであれば特に制限はなく、例えば、フェルト、ガラスフィルター、ガラスファイバー等からなるガラス繊維不織布、セルロース類の布(濾紙、ニトロセルロース膜等)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔質プラスチック布類などを使用できる。標識された第二の物質は、その懸濁液を含浸部材に浸透せしめ、これを乾燥させることなどによって容易に含浸部材に保持させることができる。
【0016】
本発明で使用する展開溶媒としては、検体を溶解又は分散して分析対象物質を抽出できるものであれば特に宣言されず、例えば、pHが4〜10の緩衝液などが挙げられ、具体的には、生理食塩水、りん酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES(2−ヒドロキシピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸)緩衝液などから選択できるが、生理食塩水、りん酸緩衝液およびトリス緩衝液が好ましい。緩衝液は、展開溶媒としての性能を高めるために、特開2003-344406号公報に記載のような添加剤、すなわち、ホスホリルコリン基を含有するエチレン系不飽和単量体を構成単位として含有する重合体などの助剤を含有していてもよい。
【0017】
本発明で使用できる検体としては、尿、糞便、唾液、鼻汁、喀痰、血液、血清などの生体試料が挙げられ、これらを本発明の抽出用容器内で展開溶媒中に分散または溶解せしめるだけで、分析対象物質を均一に分散させた被験試料が得られる。例えば、咽頭などの患部を拭ったガーゼまたは綿棒などを展開溶媒中に浸漬又は振盪するだけで、被験試料を調製できる。
【0018】
分析対象物質は、イムノクロマトグラフィー法で検出可能なものであれば特に制限はなく、例えば、喀痰中に含まれる結核菌や便中に含まれるO−157等の病原菌、鼻腔ぬぐい液中に含まれるインフルエンザウイルス、咽頭ぬぐい液中に含まれるアデノウイルス等のウイルス、血液中に含まれるC反応性蛋白質などの抗原や各種抗体などの生体高分子の他、環境中に存在する環境ホルモン様物質などの微量物質が挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のイムノクロマトグラフィー測定用キットによれば、抽出用容器に展開溶媒を入れ、生体試料や患部を清拭した綿棒などを抽出用容器に入れて検体を展開溶媒に溶解又は分散させることにより、該抽出用容器の内部にて、標識物質で標識された第二の物質と分析対象物質とを免疫学的に結合させることができる。かくして、この免疫学的結合物を展開溶媒とともに該抽出用容器から膜担体に注入してクロマト展開させることにより、該免疫学的結合物は該膜担体の捕捉部位において第一の物質に捕捉されて集積するので、前記標識物質の集積度合いを測定することにより、分析対象物質の検出、半定量等の測定を行える。特に、複数の分析対象物を同時に測定する場合には、抽出用容器中に第二の物質が複数種含まれることがあるが、それぞれの分析対象物質が対応する第二の物質のそれぞれと良好に免疫学的に結合するので、膜担体にクロマト展開した場合にも良好な感度で測定を行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を図示の具体例に基づいて説明するが、本発明は該具体例のみに限定されるものではない。
【0021】
図1には、本発明に係る抽出用容器の一具体例の構成が示されており、数字1は容器本体、数字2はノズル、数字3はノズルの蓋体を示している。本体1は、概略チューブ状の形状を備え、その一端は開口端11とされ、他端は閉止端12とされている。図示のように、本体1は、その開口端11に隣接する側壁部分14が、本体1の閉止端12に隣接する側壁部分13よりも大径とされ、全体的には閉止端12に向けて先細りに形成されている。開口端11に隣接する側壁部分14を断面円形とし、閉止端12に隣接する側壁部分13を断面楕円形のような扁平な形状になるように形成することなどにより、後者の側壁部分13を手で変形させやすくして、抽出用容器から内容物を排出し易くしてもよい。本体1は、外から中を透視できるように、透明または半透明とすることが好ましい。
【0022】
図1から明らかなように、本体1の開口端11付近の側壁にはねじ切り部15が設けられて、ここに後述するノズル2又は蓋体2´を着脱自在に装着できるようにしている。
【0023】
本体1の内のり寸法は、生体試料や患部を清拭するために使用する綿棒の全体を収容し得る寸法に形成されることが好ましく、この場合、綿棒を容器に収容した状態で分析対象物質の抽出を行うことができ、使用後は、綿棒を収容した状態で容器を廃棄することもできる。本体1は、一般に、使用する展開溶媒に対して耐性のあるプラスチック材料を用いて射出成形、ブロー成形などの公知の成形方法で成形することによって作成することができる。プラスチック材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられるが、ポリエチレンを用いることが好ましい。
【0024】
本体1の閉止端12に隣接する側壁部分13は、本体1の開口端11に隣接する側壁部分よりも柔軟に形成することが好ましい。具体的には、該側壁部分13は手で押して形状を変形させることができるが、手を離した場合、元の形状に復帰する程度の柔軟性を備えることが好ましい。このために、例えば、ねじ切り部15から僅かに閉止端12寄りに位置する側壁部分14の箇所に、本体1の長手方向軸線と直交する方向に張り出した環状の鍔体141を本体1と一体に設けることができる。この場合、鍔体141によって側壁部分14が補強されるのに対し、閉止端12に隣接する側壁部分13は補強されないため側壁部分14よりも柔軟な状態になる。別法として、閉止端12に隣接する側壁部分13の肉厚を、それよりも開口端11側に位置する側壁部分14の肉厚よりも薄くしてもよい。このように構成することにより、抽出液をノズル2から滴下する際に使用者は側壁部分13を指で容易に押圧することができ、迅速に抽出液をノズル2から排出させることができるようになり好都合である。
【0025】
図1に示されるように、本体1の開口端11にはノズル2を着脱可能に取り付けることができる。ノズル2は、図示の例では、円筒部21を備え、その一端には鍔部22を備え、他端には該円筒部21よりも小径で先細りのノズル部23が円筒部21と連通して突出している。円筒部21の内周面には、本体1のねじ切り部15と螺合する雌ねじ部24が形成されている。円筒部21の外周面にはローレット加工が施されており、ノズル2の着脱を容易にしている。鍔部22は、本体1に取り付けたとき、本体1の鍔体141と密着するようにすることが好ましい。また、円筒部21の内部にパッキンやシール材を設けて本体1の開口端11との密着性を高めることもできる。そして、ノズル部23の外周面には、円筒部21に隣接する領域に雄ねじ状のねじ切り部25を備えている。このノズル2には、そのノズル部23を閉止するための蓋体3を着脱可能に取り付けることができる。図示の例では、蓋体3は、一端が閉止され他端が開口した略円錐台の形状を備え、その内周面にノズル2のねじ切り部25に螺合可能な雌ねじ部31を備えている。蓋体3の外周面には、その軸線方向に伸びる凸条が設けられており、使用者が容易に蓋体3を着脱できるようにしている。
【0026】
図示の例では、ノズル2の内部に、フィルター4´と、標識された第二の物質を含浸させた円盤状の含浸部材4が配置されている。具体的には、円筒部21の内径と略同一の直径を備えたフィルター4´を、円筒部21とノズル部23との境界を形成する段部26に当接させて配置し、さらに、このフィルター4´に重ねて、フィルター4´と同一形状の含浸部材4が配置されている。円筒部21の内面から内方に張り出した雌ねじ部24によって、通常、フィルター4´と含浸部材4はノズル2からの脱落が防止されるが、必要に応じて、フィルター4´を段部26に接着剤などで接着し、含浸部材4をフィルター4´に固定してもよい。かくして、含浸部材4はノズルの排出経路27中に配置しているので、容器の内容物がノズル2から排出される際に含浸部材4を経由して排出されることになり、分析対象物質と第二の物質との免疫学的結合が確実に行われる。なお、フィルター4´としては、分析対象物質と標識された第二の物質との結合体を通過させるものであれば特に限定されず、たとえば、含浸部材4と同様の材料を用いることができる。
【0027】
ノズル2および蓋体3のそれぞれは、本体1と同様に、プラスチック材料を用いて射出成形、ブロー成形などの公知の成形方法で成形することによって作成することができる。プラスチック材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられるが、本体1よりは硬質の材料を用いて、容易に変形しないように形成することが好ましく、特にポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0028】
なお、図示の例では、ノズル2と本体1とは螺合によって結合する形式とされているが、着脱可能に取り付けることができる限り、スナップ式に嵌合する形式などの他の各種の方法を採用することができる。同様に、ノズル2と蓋体3の結合形式も、着脱可能に取り付けることができる限り、スナップ式に嵌合する形式などの他の各種の方法を採用することができる。
【0029】
また、本発明の抽出用容器は、これに予め所定量の展開溶媒を収容させ、図1(c)に示されるような蓋2´で閉止した状態で提供してもよい。蓋2´は、ねじ切り部15に螺合するものであればよく、密閉性に優れたものであることがより好ましい。この場合、ノズル2は、抽出用容器の付属品として添付することができる。また、本発明の抽出用容器に綿棒などの検体採取用具を滅菌して付属品として添付してもよい。
【0030】
次に、図2を参照しつつ、本発明の膜担体の具体例について説明する。図示の例では、膜担体6は試料添加用部材7及び吸収用部材8と組み合わされて、所謂イムノクロマトグラフィー測定用テストストリップを構成しており、同時に2項目の分析対象物質を測定できるようにされている。
【0031】
図示の例では、膜担体6は、幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース製メンブレンフィルターからなり、同幅の粘着シート5の中ほどに貼り付けられている。該膜担体6には、そのクロマト展開始点側、すなわち図2の左方(以下「上流側」と記す。なお、その逆の側、すなわち図2におけるクロマト展開方向側は以下「下流側」と記す。)の末端から7.5mm及び10.5mmの位置に2種類の第一の物質がそれぞれ固定され、分析対象物質の捕捉部位61(61a及び61b)が形成されている。インフルエンザウイルスA型及びB型のそれぞれを同時に検出する場合、たとえば、捕捉部位61aにインフルエンザウイルスA型に反応するがB型には反応しない抗体を固定し、捕捉部位61bにインフルエンザウイルスB型に反応するがA型には反応しない抗体を固定することができる。さらに、該膜担体6の上流側の末端から15mmの位置に所謂コントロールライン62が設けられている。このコントロールラインは、分析対象物質の存否に係わらず反応が行われたことを確認するためのものであり、通常、前記第二の物質と免疫学的に特異的に結合する物質(分析対象物質を除く)を膜担体6に固定化することによって形成することができる。例えば、第二の物質としてマウス抗体を用いた場合は、該マウス抗体に対する抗体を用いることができる。
【0032】
なお、本発明では、図示の例に限らず、単一の分析対象物質を検出する場合は捕捉部位61は単一であってよく、また、単一の分析対象物質を半定量するためや、3以上の分析対象物質を同時に検出するために、捕捉部位61を3箇所以上設けてもよい。なお、上述のようにインフルエンザウイルスA型及びB型を同時に検出する場合、標識された第二の物質は、インフルエンザウイルスA型及びB型に交差反応する抗体のみから構成してもよく、または、インフルエンザウイルスA型に反応するがB型には反応しない抗体とインフルエンザウイルスB型に反応するがA型には反応しない抗体とから構成してもよく、後者の場合、それぞれの抗体を異なる色を呈する標識物質で標識すると、捕捉部位61aと捕捉部位61bが異なる色を呈するので識別しやすいので好都合である。
【0033】
膜担体6の上流側には、膜担体6と同幅の試料添加用部材7が、その下流側末端を膜担体6の上流側末端の上に重ねて連接された状態で配置されており、試料添加用部材7の残りの部分が粘着シート5に貼り付けられて固定されている。試料添加用部材7は、公知のイムノクロマトグラフィー測定用テストストリップに用いられているものと同様のものを使用することができ、例えば、多孔質ポリエチレン、多孔質ポリプロピレンなどのような多孔質合成樹脂のシートまたはフィルムの他、濾紙および綿布などのようなセルロース製の紙や、織布又は不織布などを用いることができる。
【0034】
膜担体6の下流側には、膜担体6と同幅の吸収用部材8が、その上流側の部分を膜担体6の下流側部分の上に重ねて連接された状態で配置されており、吸収用部材8の残りの部分は粘着シート5に貼り付けられて固定されている。吸収用部材8は、公知のイムノクロマトグラフィー測定用テストストリップに用いられているものと同様のものを使用することができ、液体をすみやかに吸収、保持できる材質のものであればよく、綿布、濾紙、およびポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質プラスチック不織布等を使用することができるが、特に濾紙が最適である。
【0035】
さらに、市販品の場合、図2のイムノクロマトグラフィー測定用テストストリップは、通常、図3(a)に示すように、プラスチック製ケース9内に収容されて提供される。該ケース9は、試料添加用部材7の上方と、捕捉部位61からコントロールライン62に至る領域の上方とに、それぞれ試料注入孔93と判定孔94とが開口されている。
【0036】
図3の例では、図3(b)に示すように、ケース9は蓋体91と本体92とからなっている。本体92内には図2に示されたテストストリップが載置されており、蓋体91には上記試料注入孔93と判定孔94とが穿設されている。また、蓋体91には、吸収用部材8の上方に、その吸収を促進するために、6個の通気孔95が穿設されている。
【0037】
以下、図示の具体例の使用方法を説明する。
まず、図1に示された容器のノズル2を本体1から取り外した状態で、本体1の開口端11から本体1の中に展開溶媒を必要量だけ入れる。その後、綿棒16で生体試料や患部を清拭した後、本体1の開口端11から綿棒16を本体1に入れ、ノズル2を、蓋体3でノズル部23を閉止した状態で本体1に取り付ける。そして、密閉された状態の容器を手で振とうすることにより、綿棒16の綿に付着した検体を展開溶媒に溶解又は分散させる。
【0038】
そして、蓋体3のみを取り外し、図3(a)に示されるように、ノズル2を下方に向け、抽出用容器の検体の抽出液を試料注入孔93に注入する。その際、抽出液は、ノズル3の排出経路27に配置された含浸部材4を通過してノズル3から排出され、この時、抽出液の分析対象物質と第二の物質とが接触して、両者の免疫学的結合体が形成される。使用済みの綿棒及び抽出液は、何れも、容器内に収容されているので、検体が感染性のものである場合でも、周囲を汚染する危険性が少なく、ノズル2を蓋体3で密閉した状態で容器ごと廃棄することができ、取り扱いが容易である。
【0039】
かくして試料注入孔93から試料添加用部材7に添加された抽出液は、膜担体7の上流側末端から下流側に向けてクロマト展開され、分析対象物質と第二の物質との結合体は捕捉部位61に集積し、分析対象物質と結合しなかった第二の物質はコントロールライン62に集積する。第二の物質の標識物質が金コロイドのような呈色標識物質である場合、分析対象物質が存在すれば捕捉部位61が呈色するので、その呈色度合いを測定することにより、分析対象物質の検出又は半定量を行える。コントロールラインは、分析対象物質の存否に係わらず第二の物質がクロマト展開された場合に常に呈色するので、クロマト展開が正常に行われたかどうかを確認することができる。
【0040】
図4は、本発明の抽出用容器の他の具体例を示す。図4において、図1と同一の要素に対しては同一の符号を付している。図4において、容器本体1は、概略円筒状の形状を備え、その一端は開口端11とされ、他端は閉止端12とされている。容器本体1の開口端11付近の内周面には、後述するノズル2と係合する環状の凸部15´が形成されている。
【0041】
図4のノズル2は、容器本体1の開口端11に挿入されて嵌合するやや先細りの円筒部21と、該円筒部21の一端からこれと連通して突出するノズル部23とを備えている。該ノズル部23は、円筒部21よりも小径で、該ノズル部23と該円筒部21との連接部の外面からは、円筒部21よりも大径の鍔部22が張り出している。円筒部21の鍔部22付近の外周面には、本体1の凸部15´と係合する凹部24´が形成されている。
【0042】
図4のノズル2内には、円筒部21の内径と略同一の直径を備えた含浸部材4が、円筒部21とノズル部23との境界を形成する段部26に当接させて配置されている。そして、円筒部21の内径とほぼ同様の外径を有する小円筒部材29を円筒部21の内部に挿入して嵌合させることより、該小円筒部材29と段部26との間に含浸部材4を挟みこむことによって、含浸部材4がノズル2からの脱落するのを防止している。かくして、含浸部材4はノズルの排出経路27中に配置しているので、容器の内容物がノズル2から排出される際に含浸部材4を経由して排出されることになり、分析対象物質と第二の物質との免疫学的結合が確実に行われる。
【0043】
以下、図4の具体例の使用方法を説明する。
まず、図4に示された容器のノズル2を本体1から取り外して図4(b)に示される状態とし、本体1の開口端11から本体1の中に展開溶媒を必要量だけ入れる。その後、綿棒で生体試料や患部を清拭した後、本体1の開口端11から綿棒を本体1に入れ、ノズル2の円筒部21を本体1の開口端11に挿入し、前者の凹部24´を後者の凸部15´にスナップ式に係合させることにより、図4(a)に示す状態にする。そして、容器を手で振とうすることにより、綿棒16の綿に付着した検体を展開溶媒に溶解又は分散させる。
【0044】
そして、図3(a)に示されると同様に、ノズル2を下方に向け、抽出用容器の検体の抽出液を試料注入孔93に注入する。その際、抽出液は、ノズル2の排出経路27に配置された含浸部材4を通過してノズル2から排出され、この時、抽出液の分析対象物質と第二の物質とが接触して、両者の免疫学的結合体が形成される。図1の抽出用容器の場合と同様に、使用済みの綿棒及び抽出液は、何れも、容器内に収容されているので、検体が感染性のものである場合でも、周囲を汚染する危険性が少なく、ノズル2の排出経路27を適当な手段で閉止した状態で容器ごと廃棄することができ、取り扱いが容易である。そして、試料注入孔93から試料添加用部材7に添加された抽出液は、図3と同様にクロマト展開され、イムノクロマトグラフィー測定を実施することができる。
【0045】
図5は、本発明の抽出用容器のさらに他の具体例を示す。図5において、図4と同一の要素に対しては同一の符号を付している。図5の抽出用容器は、図4の含浸部材4の代わりに、該含浸部材4と同形状のフィルター4´を配置し、ノズル2のノズル部23の内部に円筒状の含浸部材4を充填した以外、図4の抽出用容器と同様の構成を備えている。かくして、図5の抽出用容器は、図4と同様の方法で使用することができ、具体的には、容器内の抽出液は、ノズル2の排出経路27に配置されたフィルター4´と含浸部材4を通過してノズル2から排出され、この時、抽出液の分析対象物質と第二の物質とが接触して、両者の免疫学的結合体が形成され、イムノクロマトグラフィー測定に供することができる。図5の場合、含浸部材4としてはガラスフィルターまたはガラスファイバー等からなるガラス繊維不織布を使用することが好ましい。
【実施例1】
【0046】
インフルエンザウイルスA型及びB型を同時に検出するために、図2に示されるイムノクロマトグラフィー測定用テストストリップを作成した。膜担体6としてニトロセルロース製メンブレンフィルターを用い、試料添加用部材7として綿布を用い、吸収用部材として濾紙を用いた。ここにおいて、捕捉部位61aを構成する第一の物質としてインフルエンザウイルスA型核タンパク質に反応性を示すがインフルエンザウイルスB型には反応性を示さないモノクローナル抗体を用い、捕捉部位61bを構成する第一の物質としてインフルエンザウイルスB型核タンパク質に反応性を示すがインフルエンザウイルスA型には反応性を示さないモノクローナル抗体を用いた。
【0047】
上記イムノクロマトグラフィー測定用テストストリップと共に使用する抽出用容器として図4に示される抽出用容器を用意した。ここにおいて、含浸部材4に含浸させる第二の物質として、インフルエンザウイルスA型核タンパク質とB型核タンパク質の両者に交差反応性を示すモノクローナル抗体を用意し、これを常法により金コロイド標識して使用した。含浸部材4としては、約7.5mm角にカットした正方形の厚さ約4mmのフェルトを使用した。なお、この含浸部材4の同等品として、円盤状にカットした約0.5mmの厚さのガラス繊維不織布を用いることもできる。
【0048】
市販されているインフルエンザウイルスA型核タンパク質を展開溶媒(りん酸緩衝液)に1600倍、800倍、及び400倍に希釈し、検体希釈液とした。なお、ブランクとして展開溶媒のみを用意した。そして、各検体希釈液の所定量を上記抽出用容器の容器本体1に注入し、図4(a)に示されるようにノズル2を取り付け、ノズル2から検体希釈液約100μlを上記テストストリップの試料添加用部材7上に滴下し、15分後に捕捉部位61a(Aライン)及び捕捉部位61b(Bライン)における呈色を肉眼で評価し、結果を表1に示した。評価は以下の基準にて行った。
【0049】
++:強い呈色が認められた。
+:普通に呈色が認められた。
± : ごくわずかに呈色が認められた。
− : 呈色が認められなかった。
【0050】
対照として、市販されているインフルエンザウイルス抗原検出試薬「キャピリア Flu A+B」(商品名)を用い、前記検体希釈液100μlを滴下し、上記と同様の評価を行った。なお、この市販試薬で使用されている抗体は、上記モノクローナル抗体と同様である。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1から、本発明の測定法は市販品と同等かそれ以上の検出感度を有することがわかる。
【実施例2】
【0053】
インフルエンザウイルスA型核タンパク質の代わりに市販されているインフルエンザウイルスB型核タンパク質を用いて400倍、200倍、及び100倍に希釈した検体希釈液を得た以外、実施例1と同様の方法で測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2から、本発明の測定法は市販品と同等かそれ以上の検出感度を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、患者の鼻、喉、結膜等より採取した各種検体をイムノクロマトグラフィー測定するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】(a)は本発明の抽出用容器の具体例を分解して示す正面図であり、ノズルの蓋体の一部を断面で示すものであり、(b)は(a)に示されるノズルの縦断面図、(c)は(a)に示されるノズルに代えて容器本体に装着できる蓋体を示す。
【図2】(a)は本発明の膜担体を備えたイムノクロマトグラフィー測定用テストストリップの平面図、(b)は(a)の縦断面図である。
【図3】(a)は図2のイムノクロマトグラフィー測定用テストストリップと抽出用容器とを備えた本発明のキットの使用方法を示す斜視図であり、(b)は(a)のテストストリップのB−B線に沿った断面図である。
【図4】(a)は本発明の抽出用容器の他の具体例を示す縦断面図であり、(b)は(a)の抽出用容器を分解した状態で示す縦断面図である。
【図5】(a)は本発明の抽出用容器のさらに他の具体例を示す縦断面図であり、(b)は(a)の抽出用容器を分解した状態で示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1…容器本体、11…開口端、12…閉止端、13,14…側壁部分、141…鍔体、15…ねじ切り部、15´…凸部、16…綿棒、2…ノズル、2´…蓋体、21…円筒部、22…鍔部、23…ノズル部、24…雌ねじ部、24´…凹部、25…ねじ切り部、26…段部、27…排出経路、29…小円筒部材、3…蓋体、4…含浸部材、4´…フィルター、5…粘着シート、6…膜担体、61,61a,61b…捕捉部位、62…コントロールライン、7…試料添加用部材、8…吸収用部材、9…ケース、93…試料注入孔、94…判定孔。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を展開溶媒と混合して該検体から分析対象物質を抽出するための抽出用容器と、この抽出された分析対象物質を該展開溶媒とともにクロマト展開せしめるための膜担体とを少なくとも有してなるイムノクロマトグラフィー測定用キットであって、前記膜担体は、前記分析対象物質と免疫学的に結合する第一の物質を固定化して形成された捕捉部位を少なくとも備え、前記抽出用容器は、前記分析対象物質と免疫学的に結合する第二の物質を前記分析対象物質と免疫学的に結合可能な状態で含んでなり、該第二の物質は標識物質で標識されていることを特徴とするイムノクロマトグラフィー測定用キット。
【請求項2】
前記第二の物質は、含浸部材(4)に含浸された状態で前記抽出用容器に含まれてなる請求項1に記載のイムノクロマトグラフィー測定用キット。
【請求項3】
前記抽出用容器は、開口端(11)とそれに対向する閉止端(12)とを備えたチューブ状の本体(1)と、該本体(1)の開口端(11)に着脱可能に取り付けられるノズル(2)とを少なくとも備えてなり、前記含浸部材(4)は該ノズル(2)に収容されている請求項2に記載のイムノクロマトグラフィー測定用キット。
【請求項4】
前記含浸部材(4)は、前記展開溶媒、前記分析対象物及び前記第二の物質を通過させることができる多孔性材料からなり、これらが混合状態で前記容器から排出されるように、前記ノズル(2)の排出経路中に配置されている請求項3に記載のイムノクロマトグラフィー測定用キット。
【請求項5】
分析対象物質と免疫学的に結合する第一の物質を固定化して形成された捕捉部位(61)を少なくとも備えてなる膜担体(6)にクロマト展開せしめるために、検体を展開溶媒と混合して該検体から分析対象物質を抽出するための抽出用容器であって、該抽出用容器は、前記分析対象物質と免疫学的に結合する第二の物質を前記分析対象物質と免疫学的に結合可能な状態で含んでなり、該第二の物質は標識物質で標識されていることを特徴とするイムノクロマトグラフィー測定用の抽出用容器。
【請求項6】
請求項5の抽出用容器から抽出された分析対象物質と第二の物質との免疫学的結合物をクロマト展開するために使用される膜担体であって、前記分析対象物質と免疫学的に結合する第一の物質を固定化して形成された捕捉部位(61)を少なくとも備えてなることを特徴とするイムノクロマトグラフィー測定用の膜担体。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−46959(P2007−46959A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229947(P2005−229947)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(593025712)株式会社ビーエル (20)
【Fターム(参考)】