説明

イリノテカンの副作用の発生危険度を判定する方法及びそのためのキット

【課題】グルクロン酸抱合酵素遺伝子の多型を検出することによりイリノテカンによる副作用の発生危険度を判定するに際して、より高精度に判定する。
【解決手段】グルクロン酸抱合酵素遺伝子における以下の遺伝子多型:UGT1A1*28;UGT1A1*6;UGT1A1*27;UGT1A1*60の野生型及び変異型を判定する一対の核酸プローブと、被検者の生体試料由来のゲノムDNAを鋳型とする増幅反応によって得られた増幅核酸とのハイブリダイゼーション法により、上記被検者における上記各遺伝子多型が正常型、ヘテロ型及び変異型のいずれであるか判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イリノテカンの副作用の発生危険度を判定する方法及びそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
イリノテカン(CPT-11)は、カンレンボク由来の抗腫瘍性アルカロイドであるカンプトテシンから合成された抗癌剤であり、肺癌や転移性大腸癌などの癌を治療するのに有用であることが知られている。イリノテカンは、DNA複製を促進する酵素トポイソメラーゼを阻害することにより優れた抗癌作用を示すが、副作用として、白血球減少及び下痢という大きな毒性を有することも報告されている。
【0003】
グルクロン酸抱合酵素(UDP-glucuronosyltransferase: UGT)は、薬物、異物または内在性物質であるビリルビン、ステロイドホルモン、胆汁酸などにグルクロン酸を付加する反応を触媒する酵素であり、その酵素をコードする遺伝子のひとつであるUGT1A1には遺伝子多型が存在することが知られている。
【0004】
そして、UGT1A1遺伝子多型は、抗癌剤としてのイリノテカン(CPT-11)の副作用の発現に関与していることが報告されている。すなわち、UGT活性の低下をきたすUGT1A1遺伝子多型をもつ人は、白血球減少や激しい下痢など重篤な副作用リスクが高まることが報告されている。UGT1A1遺伝子多型の1つであるUGT1A1*28は、プロモーター領域TATAボックスにおけるTA配列の繰り返しが、多数を占める野生型(UGT1A1*1)では6回であるのに対し、7回の繰り返しになっている遺伝子多型であり、このTA2塩基挿入という違いにより遺伝子の発現量が低下し、結果としてUGT活性が低下する。
【0005】
また、UGT1A1遺伝子には、UGT1A1、UGT1A3〜UGT1A10の少なくとも9個のアイソフォームが存在する。各アイソフォームについても、上述したUGT1A1遺伝子と同様に、各種の遺伝子多型が知られている。これら遺伝子多型の中には、UGTの酵素活性や遺伝子の発現量などに影響しているものがあり、イリノテカンの副作用の発現に関与することが報告されているものもある。
【0006】
一方、イリノテカンの副作用を診断することを目的として、Invader法によるUGT1A1遺伝子多型診断キット(米国TWT社)が診断薬として実用化されている。しかし、これらの方法は、判別精度が低いことや、解析コストが高いという問題があった。また、特許文献1には、UGT1A1遺伝子における上記UGT1A1*28多型に対応した核酸プローブを用いたハイブリダイゼーション法により、このUGT1A1*28多型を効率的に判定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-072913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、グルクロン酸抱合酵素遺伝子の多型を解析することによりイリノテカンによる副作用の発生危険度を判定するに際して、より高精度に判定することができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、グルクロン酸抱合酵素遺伝子の種々の多型のうち、特定の多型を組み合せることによりイリノテカンによる副作用の発生危険度をより高精度に判定できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は以下を包含する。
【0010】
(1)グルクロン酸抱合酵素遺伝子における以下の遺伝子多型
UGT1A1*28
UGT1A1*6
UGT1A1*27
UGT1A1*60
及びこれらの野生型を判定する一対の核酸プローブと、被検者の生体試料由来のゲノムDNAを鋳型とする増幅反応によって得られた増幅核酸とのハイブリダイゼーション法により、上記被検者における上記各遺伝子多型が正常型、ヘテロ型及び変異型のいずれであるか判定し、当該判定結果に基づいてイリノテカンによる副作用の発生危険度を判別する方法。
【0011】
(2)グルクロン酸抱合酵素遺伝子における以下の遺伝子多型
UGT1A7*12(-57)
UGT1A7*2
UGT1A9*1b
及びこれらの野生型に対応する一対の核酸プローブを更に使用し、これら各遺伝子多型が正常型、ヘテロ型及び変異型のいずれであるか更に判定し、当該判定結果に基づいてイリノテカンによる副作用の発生危険度を判別する(1)記載の方法。
【0012】
(3)変異型に対応する核酸プローブと増幅核酸とのハイブリダイズ及び野生型に対応する核酸プローブと増幅核酸とのハイブリダイズを、増幅核酸に取り込んだ標識の強度値で測定することを特徴とする(1)又は(2)記載の方法。
【0013】
(4)上記変異型に対応する核酸プローブにハイブリダイズした増幅核酸に由来する強度値を、上記変異型に対応する核酸プローブにハイブリダイズした増幅核酸に由来する強度値及び上記野生型に対応する核酸プローブにハイブリダイズした増幅核酸に由来する強度値の平均値で除算して判定値を算出し、予め規定した閾値A及び閾値B(閾値A>閾値B)と当該判定値を比較して、当該判定値が閾値Aを超えると変異型、当該判定値が閾値A以下であり閾値Bを超えるとヘテロ型、当該判定値が閾値B以下であると野生型と判定することを特徴とする(3)記載の方法。
【0014】
(5)UGT1A1*28を含む領域を増幅するための一対のプライマーの濃度がそれぞれ0.06〜1.5μmol/lであり、
UGT1A1*6を含む領域を増幅するための一対のプライマーの濃度がそれぞれ0.06〜1.5μmol/lであり、
UGT1A1*27を含む領域を増幅するための一対のプライマーの濃度がそれぞれ0.01〜0.35μmol/lであり、
UGT1A1*60を含む領域を増幅するための一対のプライマーの濃度がそれぞれ0.01〜0.35μmol/lであることを特徴とする(1)記載の方法。
【0015】
(6)UGT1A7*12(-57) を含む領域を増幅するための一対のプライマーの濃度がそれぞれ0.08〜2.00μmol/lであり、
UGT1A7*2を含む領域を増幅するための一対のプライマーの濃度がそれぞれ0.08〜2.00μmol/lであり、
UGT1A9*1bを含む領域を増幅するための一対のプライマーの濃度がそれぞれ0.12〜3.00μmol/lであることを特徴とする(2)記載の方法。
【0016】
(7)上記増幅反応における鋳型となるゲノムDNAの濃度が50〜500pg/μlであることを特徴とする(1)又は(2)記載の方法。
【0017】
(8)上記ハイブリダイゼーションの液の温度が、52〜56℃であることを特徴とする(1)又は(2)記載の方法。
【0018】
(9)上記標識が蛍光物質であることを特徴とする(3)記載の方法。
【0019】
(10)上記蛍光物質は、上記増幅反応における基質のうちの1種類の塩基に結合されており、上記蛍光物質が結合した塩基の存在量は他の3種類の塩基のうち最も多いものに比べて、1/25〜2/5であることを特徴とする(9)記載の方法。
【0020】
(11)グルクロン酸抱合酵素遺伝子における以下の遺伝子多型
UGT1A1*28
UGT1A1*6
UGT1A1*27
UGT1A1*60
及びこれらの野生型を判定する一対の核酸プローブを備える、イリノテカンによる副作用の発生危険度を判別するキット。
【0021】
(12)グルクロン酸抱合酵素遺伝子における以下の遺伝子多型
UGT1A7*12(-57)
UGT1A7*2
UGT1A9*1b
及びこれらの野生型に対応する一対の核酸プローブを更に備える(11)記載のキット。
【0022】
(13)上記一対の核酸プローブを基板上に固定したDNAチップから構成される(11)又は(12)記載のキット。
【0023】
なお、本発明に係るイリノテカンによる副作用の発生危険度を判別するキットは、検体に含まれる検出対象のDNAを増幅させるプライマーを含む構成であっても良い。すなわち、本発明に係るキットは、検体に含まれる検出対象のDNAを特異的に増幅させるプライマーと、その増幅されたDNAと特異的にハイブリダイズする上記核酸プローブを含むものであってもよい。また、本発明に係るキットは、DNAを増幅させる際に必要な各種試薬及び/又は増幅されたDNAと上記核酸プローブとを特異的にハイブリダイズさせる際に必要な各種試薬を含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、グルクロン酸抱合酵素遺伝子の多型のうち所定の多型を高精度に特定することができ、イリノテカンによる副作用の発生危険度をより高精度に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】DNAチップに搭載した核酸プローブの位置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、グルクロン酸抱合酵素遺伝子における所定の遺伝子多型を特定することにより、イリノテカンによる副作用の発生危険度を高精度に判定する方法である。ここで、遺伝子多型とは、タンパク質をコードする領域に存在する多型、遺伝子の発現制御領域に存在する多型の両方を意味する。
【0027】
イリノテカン(CPT-11)、1,4'-ビピペリジン-1'-カルボン酸 (S)-4,11-ジエチル-3,4,12,14-テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-3,14-ジオキソ-1H-ピラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-9-イルエステル(CAS NO:97682-44-5)は、カンレンボク由来の抗腫瘍性アルカロイドであるカンプトテシンから合成された化合物である。本発明において、イリノテカンには、その塩及びそれらの溶媒和物、特に水和物(例えば、CAS NO:136572-09-3)も包含される。イリノテカンの塩としては、薬学的に許容される酸を作用させた酸付加塩が抗癌剤として好ましく用いられる。そのような酸付加塩としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸等の無機酸との塩;シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸との塩が挙げられ、特に塩酸塩(塩酸イリノテカン;CAS NO:136572-09-3)が好ましく用いられる。
【0028】
イリノテカンは、生体内投与後にカルボキシルエステラーゼによって活性代謝物SN-38に変換される。SN-38は肝臓でグルクロン酸抱合酵素(UDP-グルクロン酸転移酵素; UGT)による抱合反応を受けて解毒されたのち、腸管に排泄される。そして、SN-38の解毒にかかわるUGT活性の相対的なバランスが、生体内のSN-38量に影響を及ぼし、その結果生体が受けるSN-38暴露量の大小によって副作用の個体間差が引き起こされると考えられている。SN-38の解毒過程であるグルクロン酸抱合反応は、主にUGTの一分子種であるUGT1A1によって触媒されることが明らかにされている。UGT1A1の発現量若しくは酵素活性を低下させるUGT1A1の遺伝子多型を有する患者がイリノテカンの投与を受けた場合、UGT活性が低下しているために投与後にSN-38の解毒が遅延し、重度の副作用が引き起こされる可能性が高くなる。
【0029】
UGT1A1の遺伝子多型の1つであるUGT1A1*28はプロモーター領域のTATAボックスにおけるTA配列の繰り返しが、多数を占める野生型(UGT1A1*1)では6回であるのに対し、7回の繰り返しになっている遺伝子多型であり、このTA2塩基挿入という違いにより遺伝子の発現量が低下し、結果としてUGT活性が低下する。
【0030】
また、UGT1A1の遺伝子多型の1つであるUGT1A1*60はプロモーター領域の-3279番目が、多数を占める野生型(UGT1A1*1)ではチミン(T)であるのに対し、グアニン(G)になっている遺伝子多型であり、この1塩基の相違により遺伝子の発現量が低下し、結果としてUGT活性が低下する。
【0031】
さらに、UGT1A1の遺伝子多型の1つであるUGT1A1*6は、エキソン1に含まれる211番目が、多数を占める野生型(UGT1A1*1)ではグアニン(G)であるのに対し、アデニン(A)になっている遺伝子多型である。この1塩基の相違によりUGT1A1タンパク質における71番目のアミノ酸がグリシンからアルギニンに変異し、変異型のUGT1A1酵素は、野生型と比較して酵素活性が低下することとなる。
【0032】
さらにまた、UGT1A1の遺伝子多型の1つであるUGT1A1*27は、エキソン1に含まれる686番目が、多数を占める野生型(UGT1A1*1)ではシトシン(C)であるのに対し、アデニン(A)になっている遺伝子多型である。この1塩基の相違によりUGT1A1タンパク質における229番目のアミノ酸がプロリンからグルタミンに変異し、変異型のUGT1A1酵素は、野生型と比較して酵素活性が低下することとなる。
【0033】
これらUGT1A1*28、UGT1A1*60、UGT1A1*6及びUGT1A1*27の4種類の遺伝子多型を含む領域の塩基配列(野生型)を配列番号1に示す。配列番号1に示す塩基配列において、UGT1A1*28は、5390〜5401番目に位置するTA配列の繰り返し回数が6回が7回になる多型である。また、配列番号1に示す塩基配列において、UGT1A1*60は、2164番目のTがGとなる多型である。さらに、配列番号1に示す塩基配列において、UGT1A1*6は、5653番目のGがAとなる多型である。さらにまた、配列番号1に示す塩基配列において、UGT1A1*27は、6128番目のCがAとなる多型である。
【0034】
一方、UGTの一分子種であるUGT1A7についても、UGT1A1と同様に、生体異物の排出に関与していることが知られており、SN-38の不活性化(SN-38Gの生成活性)に関与することが指摘されている。
【0035】
UGT1A7の遺伝子多型の1つであるUGT1A7*2は、エキソン1に含まれる387番目、391番目及び392番目が、多数を占める野生型(UGT1A7*1)ではそれぞれチミン、シトシン及びグアニンであるのに対し、それぞれグアニン、アラニン及びアラニンになっている遺伝子多型である。この3塩基の相違によりUGT1A7タンパク質における129番目のアミノ酸がアスパラギンからリシンに変異し、且つ、131番のアミノ酸がアルギニンからリシンに変異することとなる。この変異型のUGT1A7酵素は、野生型と比較して酵素活性が上昇することとなる。しかしながら、UGT1A7*2アレルに加えて例えばUGT1A7 (622T>C)アレルを有するUGT1A7*3等では野生型と比較して酵素活性が低下することとなる。
【0036】
また、UGT1A7の遺伝子多型の1つであるUGT1A7*12は、プロモーター領域の-57番目、コーディング領域の622番目及び760番目が、多数を占める野生型(UGT1A7*1)ではそれぞれチミン、チミン及びシトシンであるのに対し、それぞれグアニン、シトシン及びチミンになっている遺伝子多型である。プロモーター領域の1塩基の相違により遺伝子の発現量が低下し、また、コーディング領域の2塩基の相違によりUGT1A7タンパク質における208番目のアミノ酸がトリプトファンからアルギニンに変異し、且つ、254番のアミノ酸がアルギニンからストップコドンに変異することとなる。この変異型のUGT1A7酵素は、野生型と比較して発現量及び酵素活性がともに低下することとなる。なお、以下の説明において、UGT1A7*12のうち、プロモーター領域の-57番目に位置する多型についてはUGT1A7*12(-57)と称する。
【0037】
これらUGT1A7*2及びUGT1A7*12(-57)の2種類の遺伝子多型を含む領域の塩基配列(野生型)を配列番号2に示す。配列番号2に示す塩基配列においてUGT1A7*2は、2938番目のTがGとなり、2942番目のCがAとなり、2943番目のGがAとなる多型である。また、配列番号2に示す塩基配列においてUGT1A7*12(-57)は、2495番目のTがGとなる多型である。
【0038】
一方、UGTの一分子種であるUGT1A9についても、UGT1A1やUGT1A7と同様に、生体異物の排出に関与していることが知られており、SN-38の不活性化(SN-38Gの生成活性)に関与することが指摘されている。
【0039】
UGT1A9の遺伝子多型の1つであるUGT1A9*1bはプロモーター領域の-118番目から始まる(dT)が、野生型が9回((dT)9)であるのに対し、10回になっている遺伝子多型((dT)10)であり、このチミンの1塩基挿入という違いにより遺伝子の発現量が上昇し、結果としてUGT活性が上昇する。
【0040】
このUGT1A9*1bの遺伝子多型を含む領域の塩基配列(野生型)を配列番号3に示す。配列番号3に示す塩基配列においてUGT1A9*1bは、2017〜2025番目に位置する9個のTが10個のTとなる多型である。
【0041】
本発明において、イリノテカンによる副作用は、イリノテカンを投与した患者において発生する副作用を指し、グルクロン酸抱合酵素遺伝子に変異を有する被検者において発生危険度が高まるものであれば特に制限されない。好ましくはUGT1A1遺伝子の多型、特にUGT1A1*28、UGT1A1*60、UGT1A1*6及びUGT1A1*27の4種類の多型、好ましくはUGT1A1遺伝子の多型に加えてUGT1A7遺伝子の多型、特にUGT1A7*2及びUGT1A7*12(-57)の2種類の多型、さらに好ましくはUGT1A1遺伝子の多型に加えてUGT1A9遺伝子の多型、特にUGT1A9*1bの1種類の多型のうちいずれかを有する患者において発生危険度が高まる副作用をさす。換言すれば、イリノテカンによる副作用は、グルクロン酸抱合酵素遺伝子の発現量の低下及び/またはグルクロン酸抱合酵素の活性低下より発生危険度が高まる副作用をさす。イリノテカンによる副作用として、より具体的には、白血球減少などの骨髄毒性、下痢、嘔吐、全身倦怠感、食欲不振、脱毛が挙げられる。
【0042】
グルクロン酸抱合酵素(UDP-グルクロン酸転移酵素; UGT)は、主に肝臓小胞体に局在する膜酵素であり、生体内外の異物(薬物や環境汚染物質、食品添加物など)である脂溶性化合物にグルクロン酸を転移するグルクロン酸抱合を触媒する活性を有するタンパク質をさす。グルクロン酸抱合酵素(UGT)の一分子種であるUGT1A1のアミノ酸配列及び該酵素遺伝子の塩基配列は、公開されたデータベース(GenBank、EMBL、DDBJ)においてAccession No:NM_000463として登録されている。グルクロン酸抱合酵素遺伝子のプロモーター領域の塩基配列であって、TATAボックスにおけるTA配列の繰り返しが6回である野生型の塩基配列は、公開されたデータベース(GenBank、EMBL、DDBJ)においてAccession No:AY533179として登録されている。グルクロン酸抱合酵素遺伝子のプロモーター領域の塩基配列であって、TATAボックスにおけるTA配列の繰り返しが7回である変異型の塩基配列は、公開されたデータベース(GenBank、EMBL、DDBJ)においてAccession No:AY533180として登録されている。各配列は、例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/から入手できる。
【0043】
また、グルクロン酸抱合酵素(UGT)の一分子種であるUGT1A7及びUGT1A9のアミノ酸配列及び該酵素遺伝子の塩基配列についても、公開されたデータベース(GenBank、EMBL、DDBJ)において特定することができる。
【0044】
本発明のイリノテカンによる副作用の発生危険度を判定する方法は、上述したUGT1A1*28、UGT1A1*60、UGT1A1*6及びUGT1A1*27の4種類の遺伝子多型を測定して、その結果に基づいて判定することができる。特に、これら4種類の遺伝子多型に加えて、UGT1A7*2、UGT1A7*12及びUGT1A9*1bの3種類の多型を測定し、合計7種類の遺伝子多型の測定結果に基づいてイリノテカンによる副作用の発生危険度を判定することがより好ましい。
【0045】
これら多型を測定する際には、例えば、各多型について野生型と変異型に対応する一対の核酸プローブを使用する方法を使用することができる。核酸プローブは、上述した変異箇所を含む塩基配列として設計することができる。すなわち、一対の核酸プローブとしては、上述した変異箇所を野生型とした野生型検出用の核酸プローブと、当該変異箇所を変異型とした変異型検出用の核酸プローブとを設計することができる。核酸プローブの長さとしては、特に限定されないが、例えば15〜40塩基長とすることができ、19〜35塩基長とすることが好ましく、25〜35塩基長とすることがより好ましい。本発明において核酸には、DNA及びRNAが包含され、DNAには一本鎖DNA及び二本鎖DNAが包含される。核酸プローブは、好ましくはDNAである。
【0046】
なお、上述した7種類の遺伝子多型の変異型及び野生型に対応する核酸プローブとしては、例えば、下記表1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを挙げることができる。下記表1におけるNo.1〜14のプローブ配列を配列番号4〜17に示した。
【0047】
【表1】

【0048】
なお、これら核酸プローブは、配列番号1〜3に示したUGT1A1遺伝子、UGT1A7遺伝子及びUGT1A9遺伝子の塩基配列及び遺伝子多型の部位並びに変異後の塩基に基づいて設計することができる。ただし、UGT1A9*1bの変異型に対応する核酸プローブは、上述した (dT)10の塩基配列と異なり、(dT)11を含むように設計した。これは、(dT)10を含む核酸プローブでは、(dT)9の野生型を誤って検出する可能性があるためである。(dT)11を含む核酸プローブとすることによって、(dT)9の野生型とハイブリダイズすることを防止でき、(dT)10の変異型を高精度に検出することができる。
【0049】
このように設計された核酸プローブは、例えば、核酸合成装置によって化学的に合成することで取得することができる。核酸合成装置としては、DNAシンセサイザー、全自動核酸合成装置、核酸自動合成装置等と呼ばれる装置を使用することができる。
【0050】
多型について野生型と変異型に対応する一対の核酸プローブを使用する方法とは、具体的には、被検者(通常、ヒト被検者をさす)の生体試料由来のゲノムDNAを鋳型とする増幅反応によって測定対象の多型部位を含む核酸断片を増幅し、得られた核酸断片とこれら一対の核酸プローブとのハイブリダイゼーションを検出する方法を挙げることができる。すなわち、野生型を検出する核酸プローブにハイブリダイズした核酸断片と、変異型を検出する核酸プローブにハイブリダイズした核酸断片との比を測定し、被検者が当該遺伝子多型について野生型をホモで有しているか、野生型と変異型とをヘテロで有しているか、変異型をホモで有しているか判定することができる。換言すれば、一対の核酸プローブに対する核酸断片のハイブリダイズを測定することによって、当該遺伝子多型について被検者の遺伝子型を判定することができる。
【0051】
ここで、被検者から採取する生体試料は、ゲノムDNAを含むものであれば特に制限されない。例えば、血液及びこれに由来する血液関連試料(血液、血清及び血漿など)、リンパ液、汗、涙、唾液、尿、糞便、腹水及び髄液等の体液、ならびに細胞、組織または臓器の破砕物及び抽出液などが挙げられる。本発明においては、好ましくは、血液関連試料を用いる。
【0052】
被検者から採取した生体試料からゲノムDNAを抽出する抽出手段としては、特に限定されないが、前記生体試料から直接的にDNA成分を分離し、精製して回収できる手段であることが好ましい。得られたゲノムDNAを鋳型として用いて核酸増幅反応を行い、測定対象の遺伝子多型を含む領域を増幅させる。核酸増幅反応としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)等を適用することができる。
【0053】
また、検出対象領域を増幅させる際には、増幅後の領域を識別できるように標識を付加することが望ましい。このとき、増幅された核酸を標識する方法としては、特に限定されないが、例えば核酸増幅反応に使用するプライマーをあらかじめ標識しておく方法を使用してもよいし、核酸増幅反応に標識ヌクレオチドを基質として使用する方法を使用してもよい。標識物質としては、特に限定されないが、放射性同位元素や蛍光色素、あるいはジゴキシゲニン(DIG)やビオチンなどの有機化合物などを使用することができる。
【0054】
また、この反応系は、一例として、核酸増幅・標識に必要な緩衝剤、耐熱性DNAポリメラーゼ、検出対象領域特異的プライマー、標識ヌクレオチド三燐酸(具体的には蛍光標識等を付加したヌクレオチド三燐酸)、ヌクレオチド三燐酸及び塩化マグネシウム等を含む反応系を使用することができる。例えば、増幅する核酸分子に蛍光物質を標識として取り込ませるには、増幅反応における基質(4種類の塩基)のうちの1種類の塩基に蛍光色素を結合させ、蛍光物質が結合した塩基の存在量を他の3種類の塩基のうち最も多いものに比べて1/25〜2/5とすることが好ましい。
【0055】
具体的に核酸増幅反応に使用するプライマーとしては、下記表2に示す一対のオリゴヌクレオチドを使用することができる。
【0056】
【表2】

【0057】
表2に示したUGT1A1*6-S及びUGT1A1*6-ASといったUGT1A1*6を増幅させるプライマーは、反応液中の濃度をそれぞれ0.06〜1.5μmol/lとすることが好ましく、0.30μmol/lとすることがより好ましい。また、表2に示したUGT1A1*27-S及びUGT1A1*27-ASといったUGT1A1*27を増幅させるプライマーは、反応液中の濃度をそれぞれ0.01〜0.35μmol/lとすることが好ましく、0.07μmol/lとすることがより好ましい。さらに、表2に示したUGT1A1*28-S及びUGT1A1*28-ASといったUGT1A1*28を増幅させるプライマーは、反応液中の濃度をそれぞれ0.06〜1.5μmol/lとすることが好ましく、0.30μmol/lとすることがより好ましい。さらにまた、表2に示したUGT1A1*60-S及びUGT1A1*60-ASといったUGT1A1*60を増幅させるプライマーは、反応液中の濃度をそれぞれ0.01〜0.35μmol/lとすることが好ましく、0.07μmol/lとすることがより好ましい。さらにまた、表2に示したUGT1A7*12(-57)-S及びUGT1A7*12(-57)-ASといったUGT1A7*12(-57)を増幅させるプライマーは、反応液中の濃度をそれぞれ0.08〜2.00μmol/lとすることが好ましく、0.40μmol/lとすることがより好ましい。さらにまた、表2に示したUGT1A7*2-S及びUGT1A7*2-ASといったUGT1A7*2を増幅させるプライマーは、反応液中の濃度をそれぞれ0.08〜2.00μmol/lとすることが好ましく、0.40μmol/lとすることがより好ましい。さらにまた、表2に示したUGT1A9*1b-S及びUGT1A9*1b -ASといったUGT1A9*1bを増幅させるプライマーは、反応液中の濃度をそれぞれ0.12〜3.00μmol/lとすることが好ましく、0.60μmol/lとすることがより好ましい。
【0058】
増幅した核酸断片が標識を有する場合、標識を検出することで一対の核酸プローブに対する核酸断片のハイブリダイズを測定することができる。例えば、蛍光色素を標識として使用した場合には、当該蛍光色素に由来する蛍光強度を測定することによって、核酸プローブにハイブリダイズした核酸断片を測定することができる。具体的に、上述したように、野生型を検出する核酸プローブにハイブリダイズした核酸断片と、変異型を検出する核酸プローブにハイブリダイズした核酸断片との比を算出するには、野生型を検出する核酸プローブにおける標識を検出したときの出力値と、変異型を検出する核酸プローブにおける標識を検出したときの出力値とから算出することができる。
【0059】
より具体的に、変異型に対応する核酸プローブにハイブリダイズした増幅核酸に由来する強度値を、変異型に対応する核酸プローブにハイブリダイズした増幅核酸に由来する強度値及び野生型に対応する核酸プローブにハイブリダイズした増幅核酸に由来する強度値の平均値で除算することで判定値を算出することができる。この判定値は、増幅核酸に含まれる変異型の存在量を正規化した値に近似する。よって、当該判定値の高さによって、被検者における遺伝子多型が変異型をホモで有するか、変異型と野生型をヘテロで有するか、野生型をホモで有するか判別することができる。
【0060】
当該判定値を使用する場合、被検者における遺伝子多型が変異型をホモで有するか、変異型と野生型をヘテロで有するか、野生型をホモで有するか判別するため、予め二段階の閾値(閾値A及び閾値B)を設定することが好ましい。なお、ここで、閾値A及び閾値Bは、(閾値A>閾値B)の関係を有しているものとする。すなわち、上述のように算出された判定値が閾値Aを超えると変異型をホモで有すると判断し、当該判定値が閾値A以下であり閾値Bを超えると変異型と野生型のヘテロ型であると判断し、当該判定値が閾値B以下であると野生型をホモで有すると判断する。
【0061】
これら閾値A及び閾値Bは、上述した7種類の遺伝子多型のそれぞれについて設定する。閾値A及び閾値Bの設定方法としては、特に限定されないが、予め遺伝子型が判別している試料を用いて上述のように判定値を算出し、上記変異型、上記ヘテロ型及び上記野生型についてそれぞれ確率密度を正規分布として算出する方法を挙げることができる。このとき、確率密度が互いに重なる交点(確率密度の大小が入れ替わる位置で、それぞれの極大値の間)を求め、また、上記変異型、上記ヘテロ型及び上記野生型それぞれ平均値を求める。そして、変異型とヘテロ型の閾値としては、(変異型の平均値とヘテロ型の平均値)の平均値と交点の平均値として算出することができる。同様にヘテロ型と野生型の閾値としては、(ヘテロ型の平均値と野生型の平均値)の平均値と交点の平均値として算出することができる。
【0062】
以上のようにして、被検者における上述した遺伝子多型について遺伝子型を判定し、判定した遺伝子型の全てがイリノテカン副作用危険遺伝子型である場合には、イリノテカンによる副作用の発生危険度が高いと判定・診断される。具体的に、イリノテカンによる副作用の発生危険度を判定するには、上述したUGT1A1*28、UGT1A1*60、UGT1A1*6及びUGT1A1*27の4種類の遺伝子多型を測定して、これら遺伝子多型の全てがイリノテカン副作用危険遺伝子型である場合に発生危険度が高いと判定・診断することができる。特に、これら4種類の遺伝子多型に加えて、UGT1A7*2、UGT1A7*12及びUGT1A9*1bの3種類の遺伝子多型を測定し、これら7種類の遺伝子多型の全てがイリノテカン副作用危険遺伝子型である場合に発生危険度が高いと判定・診断することができる。特に上述した合計7種類の遺伝子多型の測定結果を利用することで、イリノテカンによる副作用の発生危険度をより高精度に判定・診断することができる。
【0063】
一方、本発明に係るイリノテカンによる副作用の発生危険度を判定するキットは、上述した核酸プローブを含むものである。すなわち、本発明に係るキットは、上述した核酸プローブを含む限り、その他の構成は特に限定されない。一例として、本発明に係るキットにおいて上述した核酸プローブは、所定の形状の担体上に固定することができる。ここで、担体としては、平面状の基板やビーズ状の球状担体を挙げることができる。
【0064】
また、本発明に係るキットは、上述した核酸プローブに加えて、上述した増幅反応に使用するプライマーを含む構成であってもよい。プライマーとしては、例えば配列番号18〜31に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを挙げることができる。プライマーは、所定の濃度となるように溶液として提供することができる。この場合、複数のプライマーを単一の溶液に溶解していても良いが、複数のプライマーをそれぞれ個別の溶液として提供しても良い。
【0065】
さらに、本発明に係るキットは、上述した増幅反応に必要な各種試薬(酵素、dNTP(蛍光標識を有する基質を含む)、所定の塩濃度の溶液等)を含む構成であっても良いし、増幅されたDNAと上記核酸プローブとを特異的にハイブリダイズさせる際に必要な各種試薬を含む構成であっても良い。
【0066】
一方、上述した増幅核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーション反応は、核酸プローブが担体上に固定化されたマイクロアレイを用い、該マイクロアレイに増幅核酸を作用させる方法を適用することが好ましい。その場合、本発明の核酸プローブは、同一の担体に固定化されていてもよいし、異なる担体に固定化されていてもよい。
【0067】
マイクロアレイにおける担体の材料としては、当技術分野で公知のものを使用でき、特に制限されない。例えば、白金、白金黒、金、パラジウム、ロジウム、銀、水銀、タングステン及びそれらの化合物などの貴金属、及びグラファイト、カーボンファイバーに代表される炭素などの導電体材料;単結晶シリコン、アモルファスシリコン、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素などに代表されるシリコン材料、SOI(シリコン・オン・インシュレータ)などに代表されるこれらシリコン材料の複合素材;ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、セラミクス、フォルステライト、感光性ガラスなどの無機材料;ポリエチレン、エチレン、ポリプロビレン、環状ポリオレフィン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエンスチレン共重合体、ポリフェニレンオキサイド及びポリスルホンなどの有機材料等が挙げられる。担体の形状も特に制限されないが、好ましくは平板状である。
【0068】
本発明においては、担体として、好ましくは表面にカーボン層と化学修飾基とを有する担体を用いる。表面にカーボン層と化学修飾基とを有する担体には、基板の表面にカーボン層と化学修飾基とを有するもの、及びカーボン層からなる基板の表面に化学修飾基を有するものが包含される。基板の材料としては、当技術分野で公知のものを使用でき、特に制限されず、上述の担体材料と同様のものを使用できる。
【0069】
本発明は、微細な平板状の構造を有する担体に対し好適に用いられる。形状は、長方形、正方形及び円形など限定されないが、通常、1〜75mm四方のもの、好ましくは1〜10mm四方のもの、より好ましくは3〜5mm四方のものを用いる。微細な平板状の構造の担体を製造しやすいことから、シリコン材料や樹脂材料からなる基板を用いるのが好ましく、特に単結晶シリコンからなる基板の表面にカーボン層及び化学修飾基を有する担体がより好ましい。単結晶シリコンには、部分部分でごくわずかに結晶軸の向きが変わっているものや(モザイク結晶と称される場合もある)、原子的尺度での乱れ(格子欠陥)が含まれているものも包含される。
【0070】
本発明において基板上に形成させるカーボン層としては、特に制限されないが、合成ダイヤモンド、高圧合成ダイヤモンド、天然ダイヤモンド、軟ダイヤモンド(例えば、ダイヤモンドライクカーボン)、アモルファスカーボン、炭素系物質(例えば、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ)のいずれか、それらの混合物、またはそれらを積層させたものを用いることが好ましい。また、炭化ハフニウム、炭化ニオブ、炭化珪素、炭化タンタル、炭化トリウム、炭化チタン、炭化ウラン、炭化タングステン、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、炭化クロム、炭化バナジウム等の炭化物を用いてもよい。ここで、軟ダイヤモンドとは、いわゆるダイヤモンドライクカーボン(DLC:Diamond Like Carbon)等の、ダイヤモンドとカーボンとの混合体である不完全ダイヤモンド構造体を総称し、その混合割合は、特に限定されない。カーボン層は、化学的安定性に優れておりその後の化学修飾基の導入や分析対象物質との結合における反応に耐えることができる点、分析対象物質と静電結合によって結合するためその結合が柔軟性を持っている点、UV吸収がないため検出系UVに対して透明性である点、及びエレクトロブロッティングの際に通電可能な点において有利である。また、分析対象物質との結合反応において、非特異的吸着が少ない点においても有利である。前記のとおり基板自体がカーボン層からなる担体を用いてもよい。
【0071】
本発明においてカーボン層の形成は公知の方法で行うことができる。例えば、マイクロ波プラズマCVD(Chemical vapor deposit)法、ECRCVD(Electric cyclotron resonance chemical vapor deposit)法、ICP(Inductive coupled plasma)法、直流スパッタリング法、ECR(Electric cyclotron resonance)スパッタリング法、イオン化蒸着法、アーク式蒸着法、レーザ蒸着法、EB(Electron beam)蒸着法、抵抗加熱蒸着法などが挙げられる。
【0072】
高周波プラズマCVD法では、高周波によって電極間に生じるグロー放電により原料ガス(メタン)を分解し、基板上にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)層を合成する。イオン化蒸着法では、タングステンフィラメントで生成される熱電子を利用して、原料ガス(ベンゼン)を分解・イオン化し、バイアス電圧によって基板上にカーボン層を形成する。水素ガス1〜99体積%と残りメタンガス99〜1体積%からなる混合ガス中で、イオン化蒸着法によりDLC層を形成してもよい。
【0073】
アーク式蒸着法では、固体のグラファイト材料(陰極蒸発源)と真空容器(陽極)の間に直流電圧を印加することにより真空中でアーク放電を起こして陰極から炭素原子のプラズマを発生させ蒸発源よりもさらに負のバイアス電圧を基板に印加することにより基板に向かってプラズマ中の炭素イオンを加速しカーボン層を形成することができる。
【0074】
レーザ蒸着法では、例えばNd:YAGレーザ(パルス発振)光をグラファイトのターゲット板に照射して溶融させ、ガラス基板上に炭素原子を堆積させることによりカーボン層を形成することができる。
【0075】
基板の表面にカーボン層を形成する場合、カーボン層の厚さは、通常、単分子層〜100μm程度であり、薄すぎると下地基板の表面が局部的に露出する可能性があり、逆に厚くなると生産性が悪くなるので、好ましくは2nm〜1μm、より好ましくは5nm〜500nmである。
【0076】
カーボン層が形成された基板の表面に化学修飾基を導入することにより、核酸プローブを担体に強固に固定化できる。導入する化学修飾基は、当業者であれば適宜選択することができ、特に制限されないが、例えば、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ホルミル基、ヒドロキシル基及び活性エステル基が挙げられる。
【0077】
アミノ基の導入は、例えば、カーボン層をアンモニアガス中で紫外線照射することによりまたはプラズマ処理することにより実施できる。または、カーボン層を塩素ガス中で紫外線を照射して塩素化し、さらにアンモニアガス中で紫外線照射することにより実施できる。または、メチレンジアミン、エチレンジアミンで等の多価アミン類ガス中を、塩素化したカーボン層と反応させることによって実施することもできる。
【0078】
カルボキシル基の導入は、例えば、前記のようにアミノ化したカーボン層に適当な化合物を反応させることにより実施できる。カルボキシル基を導入するために用いられる化合物としては、例えば、式:X-R1-COOH(式中、Xはハロゲン原子、R1は炭素数10〜12の2価の炭化水素基を表す。)で示されるハロカルボン酸、例えばクロロ酢酸、フルオロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、2-クロロプロピオン酸、3-クロロプロピオン酸、3-クロロアクリル酸、4-クロロ安息香酸;式:HOOC-R2-COOH(式中、R2は単結合または炭素数1〜12の2価の炭化水素基を表す。)で示されるジカルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、トリメリット酸、ブタンテトラカルボン酸などの多価カルボン酸;式:R3-CO-R4-COOH(式中、R3は水素原子または炭素数1〜12の2価の炭化水素基、R4は炭素数1〜12の2価の炭化水素基を表す。)で示されるケト酸またはアルデヒド酸;式:X-OC-R5-COOH(式中、Xはハロゲン原子、R5は単結合または炭素数1〜12の2価の炭化水素基を表す。)で示されるジカルボン酸のモノハライド、例えばコハク酸モノクロリド、マロン酸モノクロリド;無水フタル酸、無水コハク酸、無水シュウ酸、無水マレイン酸、無水ブタンテトラカルボン酸などの酸無水物が挙げられる。
【0079】
エポキシ基の導入は、例えば、前記のようにアミノ化したカーボン層に適当な多価エポキシ化合物を反応させることによって実施できる。あるいは、カーボン層が含有する炭素=炭素2重結合に有機過酸を反応させることにより得ることができる。有機過酸としては、過酢酸、過安息香酸、ジペルオキシフタル酸、過ギ酸、トリフルオロ過酢酸などが挙げられる。
【0080】
ホルミル基の導入は、例えば、前記のようにアミノ化したカーボン層に、グルタルアルデヒドを反応させることにより実施できる。
【0081】
ヒドロキシル基の導入は、例えば、前記のように塩素化したカーボン層に、水を反応させることにより実施できる。
【0082】
活性エステル基は、エステル基のアルコール側に酸性度の高い電子求引性基を有して求核反応を活性化するエステル群、すなわち反応活性の高いエステル基を意味する。エステル基のアルコール側に、電子求引性の基を有し、アルキルエステルよりも活性化されたエステル基である。活性エステル基は、アミノ基、チオール基、水酸基等の基に対する反応性を有する。さらに具体的には、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、シアノメチルエステル、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等がアルキルエステル等に比べてはるかに高い活性を有する活性エステル基として知られている。より具体的には、活性エステル基としては、たとえばp-ニトロフェニル基、N−ヒドロキシスクシンイミド基、コハク酸イミド基、フタル酸イミド基、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド基等が挙げられ、特に、N-ヒドロキシスクシンイミド基が好ましく用いられる。
【0083】
活性エステル基の導入は、例えば、前記のように導入したカルボキシル基を、シアナミドやカルボジイミド(例えば、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド)などの脱水縮合剤とN-ヒドロキシスクシンイミドなどの化合物で活性エステル化することにより実施できる。この処理により、アミド結合を介して炭化水素基の末端に、N-ヒドロキシスクシンイミド基等の活性エステル基が結合した基を形成することができる(特開2001-139532)。
【0084】
本発明の核酸プローブを、スポッティング用バッファーに溶解してスポッティング用溶液を調製し、これを96穴もしくは384穴プラスチックプレートに分注し、分注した溶液をスポッター装置等によって担体上にスポッティングすることにより、核酸プローブが担体に固定化されたマイクロアレイを製造することができる。または、スポッティング溶液をマイクロピペッターにて手動でスポッティングしてもよい。
【0085】
スポッティング後、核酸プローブが担体に結合する反応を進行させるため、インキュベーションを行うことが好ましい。インキュベーションは、通常−20〜100℃、好ましくは0〜90℃の温度で、通常0.5〜16時間、好ましくは1〜2時間にわたって行う。インキュベーションは、高湿度の雰囲気下、例えば、湿度50〜90%の条件で行うのが望ましい。インキュベーションに続き、担体に結合していない核酸を除去するため、洗浄液(例えば、50mM TBS/0.05% Tween20)を用いて洗浄を行うことが好ましい。
【0086】
さらに、核酸プローブは、固定化量を段階的に変化させた複数のスポットとして固定されていてもよい。例えば、個々の核酸プローブについて、DNA量を1ngとしたスポット、100pgとしたスポット及び10pgとしたスポットというように複数のスポットを形成してもよい。これにより、検出対象領域を半定量することができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
〔実施例1〕
本実施例では、UGT1A1*28、UGT1A1*60、UGT1A1*6、UGT1A1*27、UGT1A7*2、UGT1A7*12及びUGT1A9*1bからなる7種類の遺伝子多型の遺伝子型を判別するための一対の核酸プローブを有するDNAチップを作製した。DNAチップに搭載した核酸プローブの一覧を表3に示した。また、DNAチップに搭載した核酸プローブの位置を図1に模式的に示した。
【0089】
【表3】

【0090】
本実施例では、以上のように作製したDNAチップに対して、PCR法により上記遺伝子多型を含む核酸断片を増幅し、得られた核酸断片をDNAチップに作用させ、核酸断片と核酸プローブとのハイブリダイズを検出した。具体的にPCR法は、表4に示す組成の反応液を調整し、サーマルサイクラー(Eppendorf社製、型式:MasterCycler ep gradient pro S)を使用した。
【0091】
【表4】

【0092】
なお、dNTP は、0.5mM dATP、0.5mM dGTP、0.5mM dTTP、0.4mM dCTP及び0.1mM Cy5-dCTPの混合溶液を使用した。また、プライマーセットは、表5に示すオリゴヌクレオチドを混合して使用した。
【0093】
【表5】

【0094】
このとき、UGT1A1*6-S及びUGT1A1*6-ASの濃度はそれぞれ0.30μmol/lとした。UGT1A1*27-S及びUGT1A1*27-ASの濃度はそれぞれ0.07μmol/lとしたUGT1A1*28-S及びUGT1A1*28-ASの濃度はそれぞれ0.30μmol/lとした。UGT1A1*60-S及びUGT1A1*60-ASの濃度はそれぞれ0.07μmol/lとした。UGT1A7*12(-57)-S及びUGT1A7*12(-57)-ASの濃度はそれぞれ0.40μmol/lとした。UGT1A7*2-S及びUGT1A7*2-ASの濃度はそれぞれ0.40μmol/lとした。UGT1A9*1b-S及びUGT1A9*1b -ASの濃度はそれぞれ0.60μmol/lとした。
また、表6に示す温度プログラムをサーマルサイクラーに設定した。
【0095】
【表6】

【0096】
以上のようにして得られた増幅断片をDNAチップにハイブリダイズさせる際には、先ず、54℃に設定したチャンバー内に湿箱を載置し、十分余熱しておいた。新しいサンプルチューブにハイブリダイズバッファー(組成:3×SSC/0.3×SDS)を1.5μLとPCR産物を3μL入れ、混合した。混合液のうち3μLをDNAチップ上に滴下し、カバーをかけ、十分に予熱しておいた湿箱に入れ、湿箱毎、チャンパー内に載置した。その後、54℃で1時間静置した。
【0097】
その後、洗浄を行った。洗浄には、洗浄液A(10×SSC/1%SDS溶液)、洗浄液B(20×SSC)及び洗浄液C(5×SSC)を準備した。そして、洗浄液Aを10倍希釈した溶液を調製した。この希釈液は、染色ビンに入れ、インキュベーターで48℃になるように加温した。また、洗浄液Bを10倍希釈した溶液を調製した。さらに、洗浄液C(5×SSC)を10倍希釈した溶液を調製した。
【0098】
ハイブリダイズが終了したら直ちにDNAチップチップのカバーを外し、48℃に加温された洗浄液A希釈液に入れた。DNAチップが48℃の洗浄液A希釈液に浸された状態で、10回振とうし、5分間静置した。その後、DNAチップを室温の洗浄液A希釈液に浸し、10回振とうし、5分間静置した。次に、DNAチップを洗浄液B希釈液に浸し、10回振とうし、3分間静置した。次に、DNAチップを48℃の洗浄液A希釈液に浸し、10回振とうした。その後、DNAチップを室温の洗浄液A希釈液に浸し、10回振とうした。次に、DNAチップを洗浄液B希釈液に浸し、10回振とうした。次に、DNAチップ洗浄液C希釈液に浸し、10回振とうした。その後、DNAチップを洗浄液B希釈液に浸し、反応部位にカバーグラスをかぶせた。
【0099】
ハイブリダイズの検出には、BIOSHOT(東洋鋼鈑製)を使用した。このとき、スポット径は16ピクセル(約200μm)に設定し、露光時間を20秒に設定した。また、各スポット径内の画素の数値から、中央値を求めた。同じプローブスポットは中央値の平均を求め、各スポットの出力値とした。
【0100】
以上のようにハイブリダイズを検出した出力値を用いて、以下のように検体における上記7種類の遺伝子多型に関する遺伝子型を判定することができる。遺伝子型を判定する際には、以下の判定値を算出した。
【0101】
判定値=[Variant]/{Average[Wild];[Variant]}
【0102】
上記式において[Variant]は変異型に対応する核酸プローブのスポットからの出力値であり、{Average[Wild];[Variant]}は、変異型に対応する核酸プローブのスポットからの出力値と野生型に対応する核酸プローブのスポットからの出力値の平均値である。算出した判定値を、多型ごとに定められた閾値A及び閾値Bと比較することで、検体の遺伝子型を判別した。すなわち、判定値<閾値Bである場合には野生型のホモであり、閾値B<判定値<閾値Aである場合には野生型と変異型のヘテロであり、閾値A>判定値である場合には変異型のホモであると判別した。各遺伝子多型について規定した閾値A及びBを表7にまとめた。
【0103】
【表7】

【0104】
〔実施例2〕
本実施例では、全ての遺伝子多型で野生型となる標準核酸(サンプルA)、全ての遺伝子多型でヘテロとなる標準核酸(サンプルB)及び全ての遺伝子多型で変異型となる標準核酸(サンプルC)を用い、実施例1におけるハイブリダイズ温度を変更して、ハイブリダイズ温度と検出感度との関係を検討した。
【0105】
本実施例では、ハイブリダイズの温度を50℃、52℃、54℃、56℃及び58℃とした以外は実施例1と同様にして7種類の遺伝子多型に関して遺伝子型を判別した。サンプルA〜Cに関して判定値を算出した結果を表8に示す。また、表8に示した判定値と表7に示した閾値A及びBとを比較して遺伝子型を判別した結果を表9に示す。
【0106】
【表8】

【0107】
【表9】

【0108】
表9から判るように、ハイブリダイズ温度が58℃の場合には、複数の遺伝子多型について誤判していることがわかる。また表8において、50℃の場合には、サンプルAの1*6の判定値が0.569と52℃以上の判定値と比較して極端に高く、閾値Bに近くなっているため、誤判の危険性がある。したがって、本実施例より、実施例1で作製したDNAチップ及び遺伝子型判別のプロトコールにおいては、52〜56℃の範囲でハイブリダイズを行うことが好ましいことが明らかとなった。
【0109】
〔実施例3〕
本実施例では、全ての遺伝子多型が既知である4種類のサンプル(サンプルD〜G)を用い、実施例1におけるPCRにおいて使用する検体量(鋳型DNA)を変更して、検体量と検出感度との関係を検討した。
【0110】
本実施例では、検体量を0.5pg/μl、5 pg/μl、50 pg/μl 及び500 pg/μlとした以外は実施例1と同様にして7種類の遺伝子多型に関して遺伝子型を判別した。サンプルD〜Gに関して判定値を算出した結果を表10に示す。また、表10に示した判定値と表7に示した閾値A及びBとを比較して遺伝子型を判別した結果を表11に示す。
【0111】
【表10】

【0112】
【表11】

【0113】
表11から判るように、検体量が50pg/μl未満の場合には、複数の遺伝子多型について誤判していることがわかる。したがって、本実施例より、実施例1で作製したDNAチップ及び遺伝子型判別のプロトコールにおいては、50pg/μl以上でPCRを行うことが好ましいことが明らかとなった。
【0114】
〔実施例4〕
本実施例では、実際にイリノテカンを投与された患者由来のゲノムDNAサンプルを用い、副作用の発生危険度を高精度に予測できることを実証した。なお、各患者については、副作用の有無を特定した。本実施例では、比較としてUGT1A1*28及びUGT1A1*6についてそれぞれ単独で遺伝子型を判定し、判定結果から副作用の発生を予測できるか検討した。
【0115】
UGT1A1*28を有さない野生型ホモであれば副作用なしと予測される。UGT1A1*28を有さない野生型ホモであった患者数は52例あり、その中で副作用がなかった患者は27例であった。すなわち、UGT1A1*28を有さない野生型ホモであるという検査結果から、副作用なしと正しく診断された割合は51.9%にとどまった。また、UGT1A1*28が変異型ホモであれば副作用ありと予測される。UGT1A1*28が変異型ホモでであった患者数は16例あり、その中で副作用があった患者は8例であった。すなわち、UGT1A1*28が変異型ホモであるという検査結果から、副作用ありと正しく診断された割合は50%にとどまった。
【0116】
また、UGT1A1*6を有さない野生型ホモであれば副作用なしと予測される。UGT1A1*6を有さない野生型ホモでであった患者数は45例あり、その中で副作用がなかった患者は27例であった。すなわち、UGT1A1*6を有さない野生型ホモであるという検査結果から、副作用なしと正しく診断された割合は60%にとどまった。また、UGT1A1*6が変異型ホモであれば副作用ありと予測される。UGT1A1*6が変異型ホモでであった患者数は23例あり、その中で副作用があった患者は15例であった。すなわち、UGT1A1*6が変異型ホモであるという検査結果から、副作用ありと正しく診断された割合は65.2%にとどまった。
【0117】
以上のように、UGT1A1*28又はUGT1A1*6の遺伝子型からは、イリノテカンの副作用の発生危険度を十分に判断することは困難であることが判った。
【0118】
そこで、本実施例では、これらUGT1A1*28及びUGT1A1*6の遺伝子型に加えて、UGT1A9*1b、UGT1A7*12(-57)及びUGT1A1*60の遺伝子型を併せて考慮した。すなわち、UGT1A1*28及びUGT1A9*1bをともに有さない野生型ホモである患者群、UGT1A1*28がヘテロでUGT1A7*12(-57)の遺伝子型を有さない野生型ホモである患者群、UGT1A1*6及びUGT1A1*60をともに有さない野生型ホモである患者群を合計すると、29例となるが、このうち22例が副作用なしであった。すなわち、これらUGT1A9*1bやUGT1A7*12(-57)、UGT1A1*60の遺伝子型を加えて考慮することによって、副作用なしと正しく診断された割合は75.8%となった。
【0119】
また、UGT1A1*28を有さない野生型ホモでUGT1A9*1bが変異型ホモである患者群、UGT1A1*28がヘテロでUGT1A7*12(-57)の遺伝子型がヘテロである患者群を合計すると、16例となるが、このうち12例が副作用ありであった。すなわち、これらUGT1A9*1bやUGT1A7*12(-57)の遺伝子型を加えて考慮することによって、副作用ありと正しく診断された割合は75%となった。
【0120】
以上のように、本実施例によれば、UGT1A1*28及びUGT1A1*6といった遺伝子多型に併せてUGT1A9*1bやUGT1A7*12(-57)、UGT1A1*60の遺伝子型を加えて考慮することによって、イリノテカンの副作用の発生危険度を非常に高精度に判別できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルクロン酸抱合酵素遺伝子における以下の遺伝子多型
UGT1A1*28
UGT1A1*6
UGT1A1*27
UGT1A1*60
及びこれらの野生型を判定する一対の核酸プローブと、被検者の生体試料由来のゲノムDNAを鋳型とする増幅反応によって得られた増幅核酸とのハイブリダイゼーション法により、上記被検者における上記各遺伝子多型が正常型、ヘテロ型及び変異型のいずれであるか判定し、当該判定結果に基づいてイリノテカンによる副作用の発生危険度を判別する方法。
【請求項2】
グルクロン酸抱合酵素遺伝子における以下の遺伝子多型
UGT1A7*12(-57)
UGT1A7*2
UGT1A9*1b
及びこれらの野生型に対応する一対の核酸プローブを更に使用し、これら各遺伝子多型が正常型、ヘテロ型及び変異型のいずれであるか更に判定し、当該判定結果に基づいてイリノテカンによる副作用の発生危険度を判別する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
変異型に対応する核酸プローブと増幅核酸とのハイブリダイズ及び野生型に対応する核酸プローブと増幅核酸とのハイブリダイズを、増幅核酸に取り込んだ標識の強度値で測定することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
上記変異型に対応する核酸プローブにハイブリダイズした増幅核酸に由来する強度値を、上記変異型に対応する核酸プローブにハイブリダイズした増幅核酸に由来する強度値及び上記野生型に対応する核酸プローブにハイブリダイズした増幅核酸に由来する強度値の平均値で除算して判定値を算出し、予め規定した閾値A及び閾値B(閾値A>閾値B)と当該判定値を比較して、当該判定値が閾値Aを超えると変異型、当該判定値が閾値A以下であり閾値Bを超えるとヘテロ型、当該判定値が閾値B以下であると野生型と判定することを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
UGT1A1*28を含む領域を増幅するための一対のプライマーの濃度がそれぞれ0.06〜1.5μmol/lであり、
UGT1A1*6を含む領域を増幅するための一対のプライマーの濃度がそれぞれ0.06〜1.5μmol/lであり、
UGT1A1*27を含む領域を増幅するための一対のプライマーの濃度がそれぞれ0.01〜0.35μmol/lであり、
UGT1A1*60を含む領域を増幅するための一対のプライマーの濃度がそれぞれ0.01〜0.35μmol/lであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
UGT1A7*12(-57) を含む領域を増幅するための一対のプライマーの濃度がそれぞれ0.08〜2.00μmol/lであり、
UGT1A7*2を含む領域を増幅するための一対のプライマーの濃度がそれぞれ0.08〜2.00μmol/lであり
UGT1A9*1bを含む領域を増幅するための一対のプライマーの濃度がそれぞれ0.12〜3.00μmol/lであることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項7】
上記増幅反応における鋳型となるゲノムDNAの濃度が50〜500pg/μlであることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項8】
上記ハイブリダイゼーションの液の温度が、52〜56℃であることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項9】
上記標識が蛍光物質であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項10】
上記蛍光物質は、上記増幅反応における基質のうちの1種類の塩基に結合されており、
上記蛍光物質が結合した塩基の存在量は他の3種類の塩基のうち最も多いものに比べて、1/25〜2/5であることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
グルクロン酸抱合酵素遺伝子における以下の遺伝子多型
UGT1A1*28
UGT1A1*6
UGT1A1*27
UGT1A1*60
及びこれらの野生型を判定する一対の核酸プローブを備える、イリノテカンによる副作用の発生危険度を判別するキット。
【請求項12】
グルクロン酸抱合酵素遺伝子における以下の遺伝子多型
UGT1A7*12(-57)
UGT1A7*2
UGT1A9*1b
及びこれらの野生型に対応する一対の核酸プローブを更に備える、請求項11記載のキット。
【請求項13】
上記一対の核酸プローブを基板上に固定したDNAチップから構成される請求項11又は12記載のキット。

【図1】
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【公開番号】特開2011−250726(P2011−250726A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125720(P2010−125720)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】