説明

インク、インクカートリッジ、及びインクジェットプリント方法

【課題】 インクの長期保存安定性を満足し、かつ、従来と比較して高い耐光性を有する画像を与えることが可能なインクを提供すること。
【解決手段】 下記一般式(I)で表される顔料とポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有することを特徴とするインク。
【化1】


(一般式(I)中、R乃至Rはいずれか1つがハロゲン原子であり、残りは水素原子である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用にも好適なインク、かかるインクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェットプリント方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キノロノキノロン骨格を有する顔料は、イエロー顔料として、発色性に優れ、又、平面性の高い分子骨格を有するため、分子間力が強く、記録画像などのプリント画像の耐光性にも優れている。つまり、従来からイエローインクに一般的に使用されているアゾ系のイエロー顔料(C.I.ピグメントイエロー74、128及び213)に比べ、耐光性と発色性をバランス良く両立することができる。
【0003】
このキノロノキノロン骨格を有する顔料を含有させてイエローインクとする場合、イエローインクとして好ましい色調にするために、特許文献1には、アルキル基やハロゲン原子を置換基として複数導入した多置換キノロノキノロン顔料を含有するインクジェット用インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−130554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のインクは、耐光性の改善が図られているものの、近年要求されている高いレベルの耐光性を満足するまでには至っていない。しかも、高耐光性を維持しながら長期保存性に優れたキノロノキノロン顔料系のインクは、未だ実現しておらず、その優れた発色性が十分生かし切れていない。
【0006】
従って、本発明の目的の一つは、優れた発色性を維持しながら従来に比べ高い耐光性と長期保存安定性を有する画像を与えることが可能なキノロノキノロン顔料系のインクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記インクを収容したインクカートリッジを提供することにある。本発明の更にもう一つの目的は、そのインクを用いるインクジェットプリント方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明のインクは、下記一般式(I)で表される顔料とポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有することを特徴とする。
【0008】
【化1】


(一般式(I)中、R乃至Rはいずれか1つがハロゲン原子であり、残りは水素原子である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インクの長期保存安定性を満足し、かつ、従来と比較して高い耐光性を有する画像を与えることが可能なインクを提供することができる。また、本発明の別の実施態様によれば、前記インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェットプリント方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好適な実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。尚、本明細書の記載において、C.I.とは、カラーインデックスの略語である。
【0011】
本発明者らの検討によれば、多置換キノロノキノロン顔料のように複数の置換基を持つ構造は、置換基の立体障害の影響により分子間力が弱められるため、置換基の数が多くなる程、顔料粒子間の凝集力が小さくなり、得られる画像の耐光性が低くなる。一方、耐光性を向上するために置換基の数を少なくすると、分子間力が強くなるためインク中で顔料粒子の凝集が起きやすくなり、長期保存安定性が低下する。
【0012】
そこで本発明者らが種々の実験を重ね鋭意検討したところ、上記一般式(I)で表される顔料(以下、ハロゲン一置換キノロノキノロン顔料とも称する)とポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有する構成のインクとすることで、上記本発明の効果が得られることが判明した。このような効果が得られるメカニズムについて、推測の域をでないが、本発明者らは以下のように考えている。
【0013】
通常、顔料粒子の表面は疎水性であるため、水性媒体中に顔料を分散させる際には、顔料粒子の表面に親水性基を導入する方法や、界面活性剤や親水性基を有する樹脂を顔料粒子の表面に吸着させる方法、などにより、顔料表面を親水性処理する。しかし、これらの方法で顔料粒子の表面を親水性処理したとしても、実用的には顔料粒子の全表面が親水性処理されることはなく、疎水性の表面が一部露出している顔料粒子が存在する。このような顔料粒子が分散された液体においては、この露出した疎水性の表面間に分子間力が働くことで、顔料粒子の凝集が起こる場合がある。特にハロゲン一置換キノロノキノロン顔料は、置換基の立体障害の影響が小さく、平面性の高い構造を有するため、分子間力が強く、親水性処理を十分行ったとしても凝集を起こしやすい。しかし、驚くことであるが本発明者らの検討から、インク中に、ハロゲン一置換キノロノキノロン顔料とポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有させると、顔料粒子の凝集が抑制され、保存安定性が向上することが見出された。これは、露出したハロゲン一置換キノロノキノロン顔料粒子の表面に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが吸着することで、顔料粒子の表面の露出を抑制し、分子間力を弱められているためと本発明者らは推測している。特に、他の界面活性剤と比較して、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが、ハロゲン一置換キノロノキノロン顔料粒子の表面に対して優先的に吸着することが、保存安定性を向上する上でポイントになっていると考えている。
【0014】
上述の通り、ポリオキシエチレンアルキルエーテルをインクに含有させることで、ハロゲン一置換キノロノキノロン顔料粒子の凝集が効果的に抑制される効果がある。そのため、このようなインクをプリント媒体に付与すると、プリント媒体にインクが定着する際に、溶媒の蒸発による粘度上昇が緩やかになることにより、顔料粒子はより密にパッキングされる結果になるものと推測される。その結果、顔料粒子間の距離が小さくなるため、分子間力がより効果的に働き、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを使用しない場合に比べて、耐光性が格段に向上するものと考えられる。上述の通り、本発明のインクに用いるハロゲン一置換キノロノキノロン顔料は置換基の立体障害の影響が小さく、平面性の高い構造を有するため、分子間力が非常に強く、密にパッキングされた際の耐光性向上効果が充分に得られる。以上の理由から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを添加することで、ハロゲン一置換キノロノキノロン顔料の耐光性がさらに向上するものと考えられる。一方、多置換キノロノキノロン顔料のように、置換基の立体障害の影響が大きく、キノロノキノロン構造由来の平面性が失われた顔料を用いた場合には、耐光性向上効果は充分に得られない。
【0015】
本発明者らが一層の鋭意検討を進めた結果、上記一般式(I)で表されるハロゲン一置換キノロノキノロン顔料とポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有する構成のインクに、1,2−アルカンジオールを添加すると、インクの発色性の良さと長期保存安定性を低下させること無く高い耐光性を保って、光沢性を向上させることができることが判明した。このような効果が得られるメカニズムについて、本発明者らは以下のように考えている。
【0016】
一般的に、光沢性の高い画像を得るためには、プリント媒体の表面におけるドット間段差を抑えた平滑な表面を形成することが求められる。そのためには、プリントヘッドの吐出口からプリント媒体に向けて吐出されるインク滴と既にプリント媒体にインク滴が付与されて形成されたドットの間の相溶性や隣接したドット同士の相溶性が重要となる。一般に、1,2−アルカンジオールの様な有機溶剤は表面張力を下げる能力が非常に高く、インクに含有させるとインクの表面張力を速やかに低下させる。従って、インク滴をプリント媒体に付与してインクドットを形成し、そのドット中の色材をプリント媒体に定着させる際、インクを構成する水性媒体などの液体成分がプリント媒体に吸収される前に、ドットが速やかに濡れ拡がることができるために、ドット高さが抑えられる。その結果、プリント媒体上の非プリント部とプリント部(ドット形成部)の段差が抑えられ、画像の光沢性が向上する。しかしその一方、その濡れ拡がりの良さ故に、単位インク量あたりの光暴露面積が大きく、耐光性が低下しやすいという課題が存在する。ところが、本発明者らの多大な実験と検討の結果、1,2−アルカンジオールをハロゲン一置換キノロノキノロン顔料及びポリオキシエチレンアルキルエーテルと併用すると、従来までは、表面張力を下げる有機溶剤を使用するとトレードオフの関係にあるとされていた耐光性の向上と光沢性の向上が意外にも両立することが分かった。これは、以下の理由によるものと推測している。ポリオキシエチレンアルキルエーテルはノニオン性であるので、イオン性基を有する界面活性剤に比べ、水を抱き込みやすく、プリント媒体上へのドットの定着時間を若干長くすることができるため、プリント媒体上に形成されたドットとそのドットに接触するように吐出されるインク滴との間やドット間の相溶性が向上し、ドット間段差を抑えた平滑な表面を形成することができるのに加えて、1,2−アルカンジオールの作用によって、プリント媒体の非プリント部とプリント部の段差が抑えられることで、光沢性が相乗的に向上する。特にプリント媒体に光沢紙などの特殊紙を用いると、一段と優れた光沢性が得られる。一方、1,2−アルカンジオールの作用によって、上記の通り単位インク量あたりの光暴露面積が大きくなるが、ハロゲン一置換キノロノキノロン顔料及びポリオキシエチレンアルキルエーテルの相乗効果により、顔料粒子が密にパッキングされることで、高い耐光性も維持できるものと推察される。
【0017】
[インク]
以下、本発明のインクを構成する各成分について説明する。
【0018】
<一般式(I)で表される顔料>
本発明のインクに使用される顔料は、下記一般式(I)で表されるハロゲン一置換キノロノキノロン顔料である。
【0019】
【化2】


(一般式(I)中、R乃至Rはいずれか1つがハロゲン原子であり、残りは水素原子である。)
【0020】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。色彩特性や耐光性の観点から、R及びRのいずれかがハロゲン原子である2−フルオロキノロノキノロン(C.I.ピグメントイエロー220)、3−フルオロキノロノキノロン(C.I.ピグメントイエロー218)、2−クロロキノロノキノロン、3−クロロキノロノキノロンが好ましい。中でも特に、3−フルオロキノロノキノロン(C.I.ピグメントイエロー218)がより好ましい。インク中の一般式(I)で表される顔料の含有量(質量%)としては、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下が適しており、さらには1.0質量%以上10.0質量%以下とするのがより好ましい。
【0021】
本発明のインクに用いるキノロノキノロン顔料の平均一次粒子径としては、10nm以上300nm以下の範囲であることが好ましい。平均一次粒子径が10nmより小さい顔料を使用した場合、一次粒子同士の相互作用が強くなるため、充分な保存安定性が得られない場合がある。一方、平均一次粒子径が300nmより大きい顔料を使用した場合、顔料分散体の平均粒子径が大きく、充分な彩度や光沢性が得られない場合がある。
【0022】
本発明で使用するハロゲン一置換キノロノキノロン顔料は、分散剤として樹脂を用いる樹脂分散タイプ(高分子分散剤を使用した樹脂分散型顔料、顔料粒子の表面を樹脂で被覆したマイクロカプセル型顔料、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基が化学的に結合したポリマー結合型顔料)や顔料粒子の表面に官能基を導入した自己分散タイプ(自己分散型顔料)などの分散方式で用いることができる。
【0023】
本発明においては、プリントした画像の耐擦過性などの観点から、樹脂分散タイプの分散方式が特に好ましく、中でも高分子分散剤を使用した樹脂分散型顔料がより好ましい。この分散方式で使用する樹脂は、インクジェット用のインクに従来から用いられているものをいずれも好ましく使用することができる。中でも、アクリル系樹脂が特に好ましい。また、樹脂は、重量平均分子量が1,000乃至30,000の範囲のものが好ましく、特には3,000乃至15,000の範囲のものが好ましい。また、樹脂は、その酸価が50mgKOH/g以上300mgKOH/g以下の範囲のものが好ましい。特には、120mgKOH/g以上250mgKOH/g以下の範囲のものが好ましい。
【0024】
<ポリオキシエチレンアルキルエーテル>
本発明のインクに用いるポリオキシエチレンアルキルエーテルは、下記式で示される構造を有する。
R−O−(CHCHO)
(ただし、Rはアルキル基、nは整数である。)
上記式のRは直鎖型でも分岐型でもよい。直鎖型の方が、分子間のアルキル鎖同士の相互作用が強いため顔料への吸着力が高く、より好ましい。また、上記式のRは不飽和アルキル基でも飽和アルキル基でもよい。飽和アルキル基の方が、疎水基の疎水性が相対的に高く、顔料への吸着力が高く、より好ましい。
【0025】
上記式中、Rは、界面活性効果を持つような炭素数であればよいが、本発明においては、炭素数が12以上18以下であることが好ましい。炭素数が12より小さい場合、界面活性剤を構成する疎水部が小さく、親水性分子としての振る舞いが強くなり、保存安定性を充分に向上できない場合がある。一方、炭素数が18より大きい場合は、上述の顔料の凝集スピードを緩やかにする効果が小さくなるため、耐光性と光沢性を充分に向上できない場合がある。また、エチレンオキサイド数(n)は、10以上が好ましく、また、40以下が好ましい。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのグリフィン法により求められるHLB値が13以上20以下であることが好ましい。HLB値が13未満の場合、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの疎水性が強くなり、キノロノキノロン顔料の分散能が下がるため、保存安定性が充分でない場合がある。尚、グリフィン法により求められるHLB値の上限値は20である。
【0026】
本発明のインクに用いるポリオキシエチレンアルキルエーテルのインク全質量を基準とした含有量(質量%)が、前記一般式(I)で表される顔料のインク全質量を基準とした含有量(質量%)に対して、質量比率で0.1倍以上1.5倍以下であることが好ましい。上記質量比率が、0.1倍未満のときは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの顔料表面への吸着量が少なく、顔料の表面の露出を抑制する効果が小さくなるため、保存安定性が充分に向上できない場合がある。一方、上記質量比率が、1.5倍より大きいときは、顔料表面に吸着できない遊離ポリオキシエチレンアルキルエーテルの量が増える。これにより、ドットの定着時の水分蒸発による粘度上昇が大きくなるため、ドット間の相溶性が低下し、光沢性が充分に向上できない場合がある。
【0027】
さらに、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量(質量%)が、インク全質量を基準として0.1質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。含有量が0.1質量%未満のときは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの臨界ミセル濃度に満たないことから、顔料粒子表面にポリオキシエチレンアルキルエーテルが吸着しにくく、保存安定性が充分に向上できない場合がある。さらに、ポリオキシエチレンアルキルエーテルによるドット同士の相溶性向上効果が小さくなるため、耐光性及び光沢性が充分に向上できない場合がある。含有量が3.0質量%より大きいときは、顔料表面に吸着できない遊離ポリオキシエチレンアルキルエーテルの量が増える。これにより、ドットの定着時の水分蒸発による粘度上昇が大きくなるため、ドット間の相溶性が低下し、光沢性が充分に向上できない場合がある。
【0028】
<1,2−アルカンジオール>
本発明のインクに用いる1,2−アルカンジオールは、炭素数が5乃至8である1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールであることが特に好ましい。炭素数が4以下の場合、分子中での親疎水性のバランスが崩れ、充分に動的表面張力を低下できなくなるため、光沢性を向上させる作用が小さくなる場合がある。また、水溶性の観点から炭素数が8以下が好ましい。炭素数9以上の場合、それ自身ではほとんど水に溶解せず、水に溶解させるためには何らかの共溶媒が必要となる。また、1,2−アルカンジオールの含有量(質量%)が、インク全質量を基準として0.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。これは、上述の通りトレードオフの関係である耐光性と光沢性が、上記範囲の場合に、バランス良く共に良好となるためである。
【0029】
<水性媒体>
本発明のインクには、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。なお、この水溶性有機溶剤の含有量は上述の1,2−アルカンジオールの含有量を含む。水溶性有機溶剤としては、従来、インクジェット用のインクに一般的に用いられているものをいずれも用いることができる。例えば、炭素数1乃至4のアルキルアルコール類、アミド類、ケトン類、ケトアルコール類、エーテル類、ポリアルキレングリコール類、グリコール類、アルキレン基の炭素原子数が2乃至6のアルキレングリコール類、1,2−アルカンジオール以外の多価アルコール類、アルキルエーテルアセテート類、多価アルコールのアルキルエーテル類、含窒素化合物類などが挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0030】
<その他の成分>
本発明のインクは、保湿性維持のために、上記成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。上記常温で固体の水溶性有機化合物のインク中の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として0.1質量%以上20.0質量%以下の範囲とすることが好ましく、より好ましくは3.0質量%以上10.0質量%以下の範囲である。
【0031】
本発明のインクには、また、必要に応じて所望の物性値を有するインクとするために、その他の界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有してもよい。
【0032】
[インクカートリッジ]
本発明のインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部を有するインクカートリッジであり、上記で説明した本発明のインクを使用するものである。また、プリントヘッドに対して、好ましい負圧を作用させるための構成をインクカートリッジに設ける場合には、以下の構成とすることができる。即ち、インクカートリッジの収容部に吸収体を配置した形態、又は、可撓性の収容袋とこれに対してその内容積を拡張する方向の付勢力を作用するばね部材とを有した形態などとすることができる。
【0033】
[インクジェットプリント方法]
本発明のインクジェットプリント方法は、記録信号に応じて、インクジェット方式によりプリントヘッドの吐出口からインクを吐出させてプリント媒体に記録を行うインクジェットプリント方法であり、上記で説明した本発明のインクを使用するものである。本発明においては特に、インクに熱エネルギーを作用させてプリントヘッドの吐出口からインクを吐出させる方式のインクジェットプリント方法が好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、下記の評価基準において、AA〜Bが好ましいレベルとし、Cは許容できないレベルとした。また、以下の[顔料分散液の調製]及び[インクの調製]の記載中で「%」とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。
【0035】
[キノロノキノロン顔料の合成]
国際公報2007/047975パンフレットの実施例に記載の方法に準じて、それぞれ3−フルオロキノロノキノロン顔料(C.I.ピグメントイエロー218)、2−フルオロキノロノキノロン(C.I.ピグメントイエロー220)、3−クロロキノロノキノロン、2−クロロキノロノキノロンである顔料A〜Dを合成した。また、特開平10−17783の実施例1に記載の方法と同様にして、以下の式(1)で表される顔料Fを得た。
【0036】
【化3】

【0037】
[顔料分散液の調製]
以下に示す手順により、顔料分散液A〜Fを調製した。尚、以下の記載において、分散剤とは、酸価210mgKOH/g、重量平均分子量8,000のスチレン−アクリル酸共重合体を、10.0%水酸化ナトリウム水溶液で中和することにより得られた樹脂であり、水溶液の状態で使用した。尚、顔料Eとしては、Hansa yellow 5GXB(C.I.ピグメントイエロー74)(クラリアント社製)を用いた。
【0038】
顔料A10.0%、分散剤(水溶液)20.0%、イオン交換水70.0%を混合し、バッチ式縦型サンドミルを用いて3時間分散した。その後、遠心分離処理によって粗大粒子を除去した。さらに、ポアサイズ3.0μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過し、顔料の含有量(質量%)が10.0%である顔料分散液Aを得た。同様に顔料B〜Fを用いてイエロー顔料分散液B〜Fを得た。
【0039】
[インクの調製]
下記表2〜表5に示した組成の各成分を混合し、十分攪拌した。その後、ポアサイズ0.8μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過を行い、各インクを調製した。尚、インク中に添加したポリオキシエチレンアルキルエーテルについては、下記表1に示した。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【0045】
[長期保存安定性の評価]
上記で得られた各インクをテフロン(登録商標)製の容器に入れ、温度60℃で1ヶ月保存した。保存前後のインク中の顔料の平均粒径を、レーザーゼータ電位計(商品名:ELS8000;大塚電子製)を用いて測定した。保存安定性の評価基準は下記の通りである。結果を表2〜5に示した。
A:保存後の顔料の粒径が、保存前の顔料の粒径の1.1倍未満であった
B:保存後に顔料の凝集物は発生していなかったが、保存後の顔料の粒径が、保存前の顔料の粒径の1.1倍以上であった
C:保存後に、容器内に顔料の凝集物が発生した。
【0046】
[記録物の作製]
上記で得られた各インクをインクカートリッジに充填し、インクジェットプリント装置BJF−900(キヤノン製)のイエローインクのポジションに装着した。そして、キヤノン写真用紙 光沢ゴールド GL−101(キヤノン製)に対して、記録デューティを10%〜200%の間で10%刻みに変化させたベタ画像を印刷した。このときの、プリンタドライバは、プロフォトペーパーモードを選択し、印刷品質を「きれい」、色調整を「自動」に設定をした。尚、上記インクジェットプリント装置では、600dpi×600dpiに4.5pLの体積のインクを4滴付与する条件が、記録デューティが100%であると定義される。
【0047】
[耐光性の評価]
得られた記録物のうち、光学濃度が0.5±0.05である記録デューティのものを用いて評価を行った。尚、光学濃度は、分光光度計(商品名:Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用いて、光源:D50、視野:2°の条件で測定した。該当する記録物を24時間自然乾燥させた後、キセノンウエザオーメーターCi4000(アトラス製)の内部に置き、照射強度0.39W/m、槽内温度50℃、湿度70%の条件で100時間放置した。記録物を放置する前後におけるベタ画像の光学濃度を、分光光度計(Spectorolino;Gretag Macbeth製)を用いて測定し、得られた光学濃度から、下記式で定義される光学濃度の残存率を算出した。耐光性の評価基準は以下の通りである。評価結果を表2〜5に示した。
【0048】
【数1】

【0049】
AA:光学濃度の残存率が90%以上であった
A:光学濃度の残存率が80%以上90%未満であった
B:光学濃度の残存率が70%以上80%未満であった
C:光学濃度の残存率が70%未満であった。
【0050】
[光沢性の評価]
得られた記録物を24時間自然乾燥させた後、JIS K 5600−4−7に基づく20度鏡面光沢度を、マイクロヘイズメーター(BYKガードナー製)を用いて測定した。それぞれのインクについて、20度鏡面光沢度の10%〜200%の全記録デューティにおける平均値を算出した。光沢性の評価基準は以下の通りである。評価結果を表2〜5に示した。
AA:20度鏡面光沢度の平均値が、80%以上であった
A:20度鏡面光沢度の平均値が、70%以上80%未満であった
B:20度鏡面光沢度の平均値が、60%以上70%未満であった
C:20度鏡面光沢度の平均値が、60%未満であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される顔料とポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有することを特徴とするインク。
【化1】


(一般式(I)中、R乃至Rはいずれか1つがハロゲン原子であり、残りは水素原子である。)
【請求項2】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルのグリフィン法により求められるHLB値が、13以上20以下である請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルのアルキル基の炭素数が、12以上18以下である請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルのインク全質量を基準とした含有量(質量%)が、前記一般式(I)で表される顔料のインク全質量を基準とした含有量(質量%)に対して、質量比率で0.1倍以上1.5倍以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項5】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量(質量%)がインク全質量を基準として0.1質量%以上3.0質量%以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインク。
【請求項6】
さらに、1,2−アルカンジオールを含有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインク。
【請求項7】
前記1,2−アルカンジオールが、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール及び1,2−オクタンジオールからなる群から選択される少なくとも1種である請求項6に記載のインク。
【請求項8】
前記1,2−アルカンジオールの含有量(質量%)が、インク全質量を基準として0.5質量%以上10.0質量%以下である請求項6又は7に記載のインク。
【請求項9】
インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジであって、前記インクが請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項10】
インクをインクジェット方式で吐出する工程を有するインクジェットプリント方法であって、前記インクが請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェットプリント方法。

【公開番号】特開2011−105851(P2011−105851A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262078(P2009−262078)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】