説明

インクカートリッジ

【課題】インク流れの規制機構を収納する区域が形成されたインクカートリッジにおいて、環境変化によるインク供給口からのインク漏れを防止したインクカートリッジを提供する。
【解決手段】大気と連通する大気孔5を有しインクを収納するインク室2と、外部にインクを供給するインク供給口4と、インク室2のインクの通過を許容するための微細な隙間が底面より上方に形成された微細孔形成部12が配された区画室6であってインクを吸収しインクの蒸発を防止するための多孔質部材が挿填されたインク供給口2と、を備えたインクカートリッジ1において、上記区画室内のエアバッファーとなる位置の空間を上記区画室から分離したインクカートリッジ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタに搭載されるインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外部へ液体を供給するために負圧を利用する液体供給方法としては、例えばインクジェット記録装置分野では、インク吐出ヘッドに対して負圧を与えるインクカートリッジが提案されてきた。インクカートリッジに負圧を発生させるための最も容易な方法の一つとして、多孔質体の毛管力を利用する方法が挙げられる。この方法におけるインクタンクは、インクタンク内部全体にインク貯蔵を目的として収納、好ましくは圧縮収納されたスポンジ等の多孔質体と、印字中のインク供給を円滑にするためインク収納部に空気を取り入れ可能な大気連通口とを含む構成となる。


【0003】
多孔質部材をインク保持部材として使用する場合の課題として、上述のインクタンクは、インク収納室内のインクの導出に伴って気体がインク収納室内に収納される気液交換動作によってインク収納室から負圧発生部材収納室へのインク供給が行なわれるために、この気液交換動作中は、ほぼ一定の負圧条件下でインクを供給できる利点がある。


【0004】
特許文献1の段落[0031]には、「第2の構成体201は、インクを吸収し保持する第2の吸収体202を収容し、インクタンク100の構成部品となる。また、第2の構成体201は、第2の吸収体202から流出したインクを一時的に貯留するバッファー室204と、第2の構成体201の内部と外部の大気とを連通させる大気連通口205と、を有している。」と記載され、インクをインク供給口からインクタンクの外部に安定的に供給するためには空気を貯留するバッファー室が必要であることが開示されている。
【0005】
特許文献2の段落[0080]には、「このような動作の具体例については後述するが、本願構成においては、従来のインクタンク構成とは異なる(従来の気液交換とはタイミングの異なる)気液交換動作を行う場合があり、この気液交換時におけるインク収納部からのインク導出と、インク収納部への気体の導入の時間的ずれによって、例えば急激なインクの消費、環境変化、振動等の外的要因に対してもバッファー効果、タイミングのずれにより安定的なインク供給に対しての信頼性が増すことができる。…」と記載され、更に段落[0132]には、「この時点でインク収納室を交換した場合、一般的にインク収納室は初期において負圧は弱く、また正圧状態の場合もあるので、インク収納室を新たに装着した場合、インク収納室のインクが負圧発生部材に供給され、負圧発生部材収納室内の液面が上昇し、両者のバランスがとれた点で液面が安定する。この場合、負圧発生部材上部には前述したバッファー領域を有するため、液面が上昇したとしても大気連通口からのインクモレはない。」と記載され、インクをインク供給口からの漏れを防止し、またインクタンクの外部に安定的に供給するためには空気を貯留するバッファー室が必要であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−119703号公報
【特許文献2】特開平11−240172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インク室と区分された区画室を設けた場合、当然そのインク導入部である規制部はインクカートリッジの底部に対して上部になるので、従来技術に習い、その区画室内にエアー導入されることがあるため、インク供給性を上げるためにエアーバッファー部を設けることとした。ところが、インク流れの規制機構(例えば、インク供給口周辺の弁やインクの蒸発防止のための多孔質部材など)を介してインク室と区画室とを区分しているため、インク供給時に供給相手からの吸引力(インクジェットヘッドの場合のインク滴吐出で発生する微小な吸引力)に対して、インク供給を続けると、インク供給の応答性にバラツキが発生し、最後には、区画室内にインク切れが発生してインク供給が出来ないことがあった。特に、100μm以下の微細な隙間が多数形成された微細孔形成部で、この規制機構(規制部)を形成すると、インク室のインク消費もままならずにインクカートリッジのインク供給能力を失うことが、新たに見出された。
【0008】
そこで、原因を追究すると、インク室に多くのインクを収納せしめ、インク室に対して区画室を相対的に小さい空間にする構造を採用するためか、区画室内に内包された空気がインク供給に対して膨張収縮を行って、インク供給性能を阻害していることが判明した。特に、温度変化に対してはそのエアーが、膨張・収縮を行ってしまい、部分的には有効でも結果的には、インク供給部からインクが漏れてしまう問題も発生した。本発明の目的は、上記課題の少なくとも1つを解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来の技術指針に基づくのではなく逆に、上記のようなインク漏れをなくするため、エアー溜まりができないようその区域の上部の角を含む空間を前記区域から分離するという逆転の発想で、急激なインクの消費、環境変化、振動等の外的要因の変化があってもインク供給口からのインク漏れがなく、またプリンタへのインク供給が不安定にならないインクカートリッジを完成するに至った。即ち、本発明は次のとおりである。
(1)大気と連通する大気孔を有しインクを収納するインク室と、外部にインクを供給するインク供給口と、前記インク室のインクが進入することを規制する規制部を底面より上方の境界に備え前記インク室と区分された区画室と、前記区画室の下方にあってインクを供給する供給部と、を備えたインクカートリッジにおいて、前記区画室内のエアバッファーとなる位置の空間を前記区画室から分離したことを特徴とするインクカートリッジ。
(2)前記空間は、インクが少なくとも一時的に残留するインク溜まり部であって、そのインクをインク室の最下部に導く残液路が前記空間部に接続されていることを特徴とする上記(1)に記載のインクカートリッジ。
(3)前記空間は、インクが入らないデッドスペースとしたことを特徴とする上記1)に記載のインクカートリッジ。
(4)前記規制部は、100μm以下の微細な隙間が多数形成された微細孔形成部であることを特徴とする上記(1)及至(3)のいずれか1項に記載のインクカートリッジ。
【発明の効果】
【0010】
本発明(1)は、インク供給口周辺のインク流れの規制機構を含む区画室が形成されたインクカートリッジにおいて、該区画室内上部の空気溜まり部を除去したことによって、インク充填時に該区画室内に混入する空気を極小に抑制することができ、それによって、該区画室の空気の温度上昇によってもインク供給口からのインク漏れが発生しにくく、また、該区画室の空気が極小に抑制されたことによって、本カートリッジをプリンタに装着して印字する際に、インク切れが発生しない機能を備えたインクカートリッジである。
【0011】
本発明(2)は、上記(1)の効果に加えて、上記(1)において除去した空間に溜まるインクを、残液路を形成してインク室の最下部に流れるようにしたことによって、本発明のインクカートリッジの使用完了時のインク残量を一定の水準に維持でき、インクを有効に使用できるという効果がある。
【0012】
本発明(3)は、上記(1)の空気溜まり部を、デッドデッドスペースにとして除去したことによって、該区画室の空気の温度上昇によってもインク供給口からのインク漏れが発生しにくく、また、該区画室常の空気が極小に抑制されたことによって、本カートリッジをプリンタに装着して印字する際に、インク切れが発生しない機能を備えたインクカートリッジである。
【0013】
本発明(4)は、インク流れの規制機構が100μm以下の微細な隙間が多数形成されたことによって、インク室に存在する空気が環境温度の上昇によって膨張した場合であっても、インクが流れ難いので、インク供給口からのインク漏れは発生し難いという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のインクカートリッジの左側面断面図である。
【図2】図1のA−A矢視図である。
【図3】図1のB−B矢視図である。
【図4】本発明のインクカートリッジのフタとフィルムを取り外した本体ケースの右側面図である。
【図5】図4の上面図である。
【図6】図4の底面図である。
【図7】図4の正面図である。
【図8】図4の背面図である。
【図9】本発明のインクカートリッジの右側面にフィルムを溶着した状態を示す図である。(太線は溶着端部を示す。)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のインクカートリッジについて説明するが、本発明はこの事例に限られるものではない。
【0016】
図1は、本発明のインクカートリッジ1の右側面図である。図2は、図1のA−A断面図、図3は図1のB−B断面図である。図7は本インクカートリッジの正面図である。インクカートリッジ1は、本体ケース43と、左側面17側のリブ18への溶着によってインク室2及び区画室6が密封して形成するフタ44と、右側面16側のリブへの溶着によって大気連通溝42と微細孔形成部12を含む区画室6を密封して形成するフィルム31とからなる。インクカートリッジ1は熱可塑性の樹脂で形成され、上面7、底面8、正面9、背面10およびこれらの面を繋ぐ2つの側面である右側面16と左側面17を主要面として構成され、インクジェットプリンタのキャリッジに装着して使用される。インクカートリッジ1は、大気と連通する大気孔5を有しインクを収納するインク室2と、外部にインクを供給するインク供給口4と、インク室2のインクの通過を許容するための微細な隙間が形成された微細孔形成部12が配された区画室6を備えている。区画室6はインク室2に比べて容積は小さい。インク微細孔形成部12は、弾性部材で形成された円状の膜33の中央穴に樹脂製の止めピンを通して、そのピン先端を溶着することで、台座35に対して密着せしめることで、台座表面の微細凹凸(本例では75ミクロン±5ミクロン)を唯一のインク流通路の抵抗成分として持たせている。従って、区画室6は、インク室2に対して区分され、インクをインクカートリッジに初期充填する際には、区画室6内に最終的に充填するためには加圧充填しないと充填できないほどの規制力をこの微細孔形成部12が発揮する。台座35には、インク流路である台座開口36が形成されている。図2の微細孔形成部12において、インクは台座開口36から図2の矢印の方向に、台座35と膜33の上記微細な隙間を経てインク供給口4に至る経路を流れる。インク供給口4は底面8から筒状に突起して形成され、多孔質部材37はその突起部先端近傍からインク供給口4の区画室内部に延在して挿填されている。多孔質部材37の区画室6側の端部は、微細孔形成部12からの流路に連絡される。上面7には、インクカートリッジ1が空の状態でインクを充填するときのインク充填孔15と大気孔5が形成されている。正面9のラッチレバー20の下部に傾斜して情報記憶媒体40が装着されている。情報記憶媒体40は、インク室2に残すべきインク残量に対応した設定値が記憶されており、インク室2内のインク消費が進んで、その残量がこの設定値に達したとき、プリンタに印字を停止する指示信号が送られるよう設定されている。
【0017】
区画室6は、図4のように、空気の溜まり部をなくするため上部空間を極力小さく形成されている。また、区画室6は、多孔質部材37と微細孔形成部12を含むため流路抵抗が発生し、本インクカートリッジ1にインクを充填するときには加圧状態とする必要がある。
【0018】
インク室2の最下部近傍に形成されたインク導入口38と連通して区画室6へのインクの流路39が形成されている。また区画室6の微細孔形成部材の膜34側からインク供給口4の上部であって多孔質部材37の上部への流路が形成されている。多孔質部材37はインクを吸収しインク供給口4からのインクの蒸発を防止する。
【0019】
インクが充填されたインクカートリッジ1が上記の要領でインク室2にインクをわずかに残してプリンタで使用済みとなったとき、図1のC部にインクが残る場合に備えて、C部のようなインク溜まり部の下部からインクカートリッジ1の底面近傍への残液流路45が形成されている。残液路45によって、インクカートリッジ1に充填されたインクが効率よくプリンタで使用できる。
【0020】
上面7からインク室2の底部に向かって突出して圧力調整室48が形成される。圧力調整室48には、その底部から上部近傍にかけて多孔質である発泡ウレタンのような負圧発生部材46が挿填され、最下部には3mm×3mmの開口47が複数形成されている。この両端に形成された開口47は、他のインクタンク内の開口よりは大きいので、インク室内の圧力増加でインク室内の空気(インク消費に伴って導入される空気)が膨張した際に、圧力調整室48内にインク室のインクが簡単に浸入できるようにインク室2に連通している。大気孔5から導入された空気は圧力調整室48を経てインク室2に入る。この圧力調整室48は、インク室内の圧力変化を即座に吸収できるもので、区画室内への加圧状態を防止し、上記空間の機能をよりいっそう確実なものに出来る。
【0021】
(確認実験1)
本実施例のインクカートリッジ1にインクを充填しプリンタに装着し、インク室2のインクがほぼ半分なくなった時点でプリンタを停止してインクカートリッジ1をプリンタから脱着し、一日放置した後、インク供給口からのインク漏れの有無を確認したが、インク漏れはなかった。上記一日放置している間のインクカートリッジ1の環境温度は、最低12℃、最高25℃であった。
【0022】
(確認実験2)
本実施例のインクカートリッジ1にインクを充填しプリンタに装着し、インク室のインクがわずかに残る程度まで印字を継続したが、インク切れなどは発生せず、安定した印字を行うことができた。
【0023】
上記確認実験1及び2の結果から、本実施例のインクカートリッジ1は、インク室の空気が温度変動などによって膨張したときにおいてもインク供給口からのインク漏れが発生しにくく、またインクを消費するまで継続的に正常に印字できるインクカートリッジであることがわかる。逆に、上記空間をエアーバッファー部にして、区画室に組み込むと、インク充填時に加圧供給されたインクとともに、多くのエアー(0.5cc〜1CC)が蓄積されてしまい、インク漏れをもたらしてしまった。
【符号の説明】
【0024】
1 インクカートリッジ2 インク室4 インク供給口5 大気孔6 区画室7 上面8 下面9 正面10 背面11 圧接体12 微細孔形成部材13 インク再充填孔14 くぼみ部15 初期インク充填孔16 右側面17 左側面18 リブ(図面指示部の他も含む)19 正面支持台座20 ラッチレバー30 フィルム溶着端部31 フィルム32 シート33 膜34 止めピン35 台座36 台座開口37 インク導入口38 導入流路39 区画流路40 情報記憶媒体41 ラベル42 大気連通溝43 本体ケース44 フタ45 残液路46 負圧発生部材47 開口48 圧力調整室



【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気と連通する大気孔を有しインクを収納するインク室と、外部にインクを供給するインク供給口と、前記インク室のインクが進入することを規制する規制部を底面より上方の境界に備え前記インク室と区分された区画室と、前記区画室の下方にあってインクを供給する供給部と、を備えたインクカートリッジにおいて、前記区画室内のエアバッファーとなる位置の空間を前記区画室から分離したことを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項2】
前記空間は、インクが少なくとも一時的に残留するインク溜まり部であって、そのインクをインク室の最下部に導く残液路が前記空間部に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項3】
前記空間は、インクが入らないデッドスペースとしたことを特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項4】
前記規制部は、100μm以下の微細な隙間が多数形成された微細孔形成部であることを特徴とする請求項1及至3のいずれか1項に記載のインクカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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