説明

インクカートリッジ

【課題】インク収容部をフィルムで溶着して形成されたインクカートリッジのフィルム表面の波打ちを解消し、プリンタでの印字の際、インクのカスレや外部機器との干渉によるフィルムの穴あきが防止されたインクカートリッジを提供する。
【解決手段】大気連通路42を含む大気孔5を有しインクを収納するインク室2と、インク室2のインクの通過を許容するための微細孔形成部12が配された区画室6と、外部にインクを供給するインク供給口4を有するインク供給室3とを備え、インク室2及び区画室6には補強のためのリブ18が複数設けられたインクカートリッジ1において、大気連通路42と区画室6は、インクカートリッジ1の表面に形成された凹部をフィルム31で覆いインクカートリッジ1の表面とフィルム31を溶着することによって形成され、溶着されたフィルム31の表面にラベル41が接着されたインクカートリッジ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタに搭載されるインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式記録装置にインクを供給するインクカートリッジのインクを収納するインク収容部において、上下のインクに濃度差があるという課題があった。特許文献1には、インク収容部内にインクを撹拌する撹拌移動体を投入しておいて、撹拌移動体による撹拌力で、インク収容部内の上下に分かれている濃いインクと薄いインクとを再混合させて、供給するインクの濃さを均一化する構成のインクカートリッジが提案されている。該文献の段落[0007]には、「ところが、インク収容部内に撹拌移動体を投入する従来のインクカートリッジは、インク収容部を区画形成する周壁が、合成樹脂製のカートリッジ本体及び蓋体に一体形成された剛性の高い隔壁又はリブによって提供されており、例えば、印字ヘッドの往復動動作に伴って撹拌移動体がインク収容部内を移動した時に、撹拌移動体がインク収容部を区画形成している隔壁等に衝突することで、騒音となる衝撃音が発生したり、或いは、衝突による振動がインク供給動作の精度に影響を及ぼす可能性があった。」と記載され、更に段落[0035]には、「これら大気側収容部270、供給側収容部290、大気弁室669、及び大気側通路、インク側通路は、それぞれを区画する隔壁にフィルム130、110を熱溶着などの方法で溶着することにより大気と隔離された領域となる。」と記載され、衝撃音や衝突による振動を防止するため、インクカートリッジのインク収容部を封止し且つ衝撃封止用のフィルムが溶着され更にその外側が蓋体で覆われ、取り扱い時にフィルムが外部の機器と干渉して破損することがなく、取り扱い性に優れることが開示されている。
【0003】
特許文献2の段落[0032]には、「…蓋6の角6aと爪6b、ケース4の穴部4dと凹部4eを廃止し、蓋6とケース4を嵌合させ、ラベル7のみにより蓋6を固定することも可能である。但し、ラベル7は穴部4dの面〜蓋6〜切り欠き部4fの面まで添付するというように、少なくとも2稜に渡って添付する必要がある。ラベル7のみで蓋6を固定することで、更に安価にインクカートリッジが構成でき、…」と記載され、少なくとも2稜に渡ってラベルを添付する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−1082号公報
【特許文献2】特開2007−307916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、インク収容部がフィルムで溶着して形成されたインクカートリッジにおいて、インク供給口からインクが漏れ出るという現象を発見した。この現象につき諸種実験検討した結果、フィルムの溶着によってインク収納室が形成されたインクカートリッジは上記溶着されたフィルム自体が膨らみや凹みを形成することがあり、その膨らみや凹みが原因で、そのインクカートリッジにインクが充填された時、インク供給口からインクが漏れるという現象が発生することがわかった。本発明はこの課題を解消したインクカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を達成するため鋭意検討を行い、使用途中の段階で放置されても、フィルムの変形によってインク供給口からインクが漏れ出ることがないインクカートリッジを完成するに至った。即ち、本発明は次のとおりである。
(1)大気と連通する大気連通路を含む大気孔を有しインクを収納するインク室と、前記インク室のインクの通過を許容するための微細孔形成部が配された区画室と、外部にインクを供給するインク供給口を有するインク供給室とを備え、前記インク室及び区画室には補強のためのリブが複数設けられたインクカートリッジにおいて、前記大気連通路と前記区画室は、前記インクカートリッジの表面に形成された凹部をフィルムで覆い前記インクカートリッジの表面と前記フィルムを溶着することによって形成され、前記溶着された前記フィルムの表面にラベルが接着されたことを特徴とするインクカートリッジ。
(2)前記フィルムは、厚みが50μm以上、300μm以下であること特徴とする上記(1)に記載のインクカートリッジ。
(3)前記ラベルは、少なくとも2つ以上の前記リブに渡って接着されていることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のインクカートリッジ。
(4)前記ラベルは、厚みが100μm以上、300μm以下であること特徴とする上記(1)及至(3)のいずれか1項に記載のインクカートリッジ。
【発明の効果】
【0007】
本発明(1)の、外壁の凹部にフィルムを溶着することによって大気連通溝や微細孔形成部が形成されたインクカートリッジは、該フィルムの表面に一定の厚みのラベルを接着することによって該フィルムの波うちを解消し、インクが充填された後温度や圧力などの環境条件が変動しても、インク供給口からのインク漏れが発生しないという効果がある。
【0008】
本発明(2)は、本発明(1)の効果に加えて、溶着するフィルムの厚みを50μm以上とすることによって溶着後の波うちを少なくし且つ容易には破れないよう一定の強度を保持できる効果がある。また300μm以下とすることによってインクカートリッジが周辺機器に接触しないよう不必要に厚くしないことに加えて、超音波溶着機によって溶着するときの溶着時間を不必要に長くしないという効果がある。
【0009】
本発明(3)は、本発明(1)又は(2)の効果に加えて、少なくとも2つ以上のリブに渡ってラベルを接着することによって、ラベルがリブの強度に支持された構成となり、またフィルムの波うちの解消がより確実となる効果を有する。
【0010】
本発明(4)は、本発明(1)及至(3)の効果に加えて、ラベルの厚みが100μm以上とすることによって容易には破れないよう一定の強度を保持できる効果がある。また、インクカートリッジはプリンタのキャリッジの狭い空間に挿入して装着するため、該表面に添付するものは、300μm以上にすると周辺機器と接触し易くなるので、300μm以下とすることが好ましい。これによって本発明のインクカートリッジは、一定の強度が保持され、周辺機器に接触して破れたりすることがない、取り扱い易いという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のインクカートリッジの左側面断面図である。
【図2】図1のA−A矢視図である。
【図3】図1のB−B矢視図である。
【図4】本発明のインクカートリッジの右側面断面図である。
【図5】図4の上面図である。
【図6】図4の底面図である。
【図7】図4の正面図である。
【図8】図4の背面図である。
【図9】本発明のインクカートリッジの、フィルムが溶着された右側面の透視模式図であって、溶着したフィルムの溶着端部(太線)を示す図である。
【図10】微細孔形成部周辺のリブを覆ってラベルが接着された状態の図である。
【図11】大気連通路周辺のリブを覆ってラベルが接着された状態を示す図である。
【図12】微細孔形成部周辺及び大気連通路周辺のリブを覆ってラベルが接着された状態を示す図である。
【図13】参考図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のインクカートリッジについて説明するが、本発明はこの事例に限られるものではない。
【0013】
図1は、本発明のインクカートリッジ1の右側面図である。図2は図1のA−A断面図、図3は図1のB−B断面図である。図7は本インクカートリッジの正面図である。図13はインクカートリッジ1の本体ケース43の左側面図である。インクカートリッジ1は、上面7、底面8、正面9、背面10およびこれらの面を繋ぐ2つの側面である右側面16と左側面17を主要面として構成され、突起部(不図示:参考図の170参照、以下同じ)が形成されたインクジェットプリンタのキャリッジに装着して使用されるインクカートリッジ1である。左側面17のリブ部18(図面指示以外のリブも含む。)には図9のように透明なフィルム(不図示)が溶着される。インクカートリッジ1は、大気と連通する大気孔5を有し、インクを収納するインク室2と、底面8に突状に形成されインクカートリッジ1の外部にインクを供給するインク供給口4と、インク室2と大気孔5を連通する凹部が形成されたインクカートリッジ1の右側面16のリブ18にフィルム31を溶着することによって凹部32が大気連通溝42として形成される。大気連通溝42のインク室2側の端部は、インク室2の最下部にあって、インク導入口37が設けられている。
【0014】
インクカートリッジ1はプリンタ(不図示、以下同じ)のキャリッジ(不図示、以下同じ)に装着されたとき底面8と平行な面14に該突起部の先端が当接し、平行な面14は底面8よりもインク室2側にキャリッジ側の該突起部の高さ分だけ窪んで形成され、フィルム31は右側面16からのはみ出しがないように形成される。
平行な面14は底面よりも該突起部の高さ分だけインク室側に窪んでいることによって、インクカートリッジ1がキャリッジに装着されたとき、該突起部の先端は平行な面14に当接するが、右側面に溶着されたフィルム31の溶着端部が右側面からはみ出していないので、該突起部の側面は開放されており、インクカートリッジ1を着脱するときには、フィルム31に引っかかり、フィルム31の溶着部をはがしたり、破ったりすることはなく、大気連通溝に穴をあけたり、フィルムに隣接インク室のインクが外に漏れたりすることはない。また、平行面14は底面からインク室側に窪んでいるが、正面支持台座19は底面8と同じ高さに形成されているので、インクカートリッジ1はキャリッジに安定的に装着できる。
【0015】
本体ケース43は、熱可塑性樹脂で形成される。熱可塑性樹脂としてはポリオレフィン、ポリスチレン、塩素化オレフィン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリエーテル、ナイロンなどが適切であるが、熱成型性、加工性、製造コストの観点から、ポリスチレン、ポリオレフィンが好ましい。本実施例のインクカートリッジ1はポリスチレン製である。またフィルム31の材質は、本体ケース43のリブ18と熱溶着可能な熱可塑性樹脂であって、本体ケースの材質と熱溶着可能な材質であればよい。本実施例1では溶着面がポリエチレン酢酸ビニル共重合体であって、最外表面がポリエチレンテレフタレート樹脂である厚み100μmの多層フィルムを使用した。ラベルの材質は、熱による物性変化、特に熱膨張率が本体ケースと同程度のものが適切であり、本実施例においては熱膨張率6.5×10−5/kのポリエチレンテレフタレートを主成分とするユポ紙を使用した。本体ケース43を構成するポリスチレンの熱膨張率は6×10−5/k〜8×10−5/kである。またラベルの外表面は諸種の印刷を施す必要があるので印刷適性が良好に構成されている。ラベルは、フィルムとの接着面全体に接着剤が塗布されており、該接着面をフィルム面に押圧して接着すると、フィルムの波うちがラベルの接着面に吸収されて解消される。
【0016】
本発明の、フィルムの溶着によって大気連通溝42と区画室6が形成され、大気導入口
37がインク室2の最下部近傍に設けられ、プリンタに装着して使用されている間はインクが満たされたインク供給室3を備えたインクカートリッジの、前記フィルム31の外面にラベル41が接着されたインクカートリッジ1を、プリンタに装着して、一日放置後に、インク供給口を見たカ゛、インク漏れという現象は発生していなかった。放置した間における最低気温は12℃、最高気温は25℃であった。
【0017】
(比較例)
インクカートリッジ1のラベル41を接着しない状態のインクカートリッジを作成した。該インクカートリッジのフィルム面には凹みがあった。このインクカートリッジにインクを充填しプリンタに装着して、一日放置後インク供給口のインク漏れが発生した。放置した間における最高気温は25℃、最低気温は12℃であった。該インクカートリッジ1は、気温が上昇したとき、インク室2の内部にある空気が膨張しフィルム31が膨らむことによってインク室内の空気の膨張分の容積が吸収されるが、その後、気温が低下する時、フィルム31は収縮するので、その収縮によってインク室2のインクがインク供給室3に押し込まれ、インク導入口37、区画室6、微細孔形成部12を経てインク供給口からインクが漏れるという現象が発生すると考えられた。
【0018】
また、フィルムにラベルを接着せず、フィルムに膨らみや凹みのあるインクカートリッジにインクを充填してプリンタで使った場合は、インク供給口からプリンタにインクを吸引するときに、フィルムの膨らみや凹みの部分がプリンタのインク吸引に呼応して動くために、プリンタへのインク供給が不安定になり印字カスレが起こるという現象が観察された。
【0019】
これに対して、本発明のインクカートリッジ1は、フィルムにラベルを接着したことによって、比較例のようなインク供給口からのインク漏れという課題を解決していることは明らかである。また、本発明のインクカートリッジ1は、プリンタへのインク供給が不安定になり印字カスレが起こるという課題を解決した。更に、本発明のインクカートリッジ1は、溶着されたフィルムの外面にラベルを接着することによって、インクカートリッジが一定の強度を得て、外部の機器などとの接触によるフィルムの破れなどの危険をも防止することができた。
【符号の説明】
【0020】
1 インクカートリッジ2 インク室3 インク供給室4 インク供給口5 大気孔6 区画室7 上面8 下面9 正面10 背面11 圧接体12 微細孔形成部13 インク再充填孔14 くぼみ部15 初期インク充填孔16 右側面17 左側面18 リブ(図面指示部の他も含む)19 正面支持台座20 ラッチレバー30 フィルム溶着端部31 フィルム32 シート33 膜34 止めピン35 台座36 台座開口37 インク導入口38 導入流路39 区画流路40 情報記憶媒体41 ラベル42 大気連通溝43 本体ケース44 フタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気と連通する大気連通路を含む大気孔を有しインクを収納するインク室と、前記インク室のインクの通過を許容するための微細孔形成部が配された区画室と、外部にインクを供給するインク供給口を有するインク供給室とを備え、前記インク室及び区画室には補強のためのリブが複数設けられたインクカートリッジにおいて、前記大気連通路と前記区画室は、前記インクカートリッジの表面に形成された凹部をフィルムで覆い前記インクカートリッジの表面と前記フィルムを溶着することによって形成され、前記溶着された前記フィルムの表面にラベルが接着されたことを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項2】
前記フィルムは、厚みが50μm以上、300μm以下であること特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項3】
前記ラベルは、少なくとも2つ以上の前記リブに渡って接着されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクカートリッジ。
【請求項4】
前記ラベルは、厚みが100μm以上、300μm以下であること特徴とする請求項1及至3のいずれか1項に記載のインクカートリッジ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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