説明

インクジェットインク及びそれを用いたインクジェット記録方法

【課題】 本発明の目的は、印字環境に関わらず、吐出安定性に優れ、かつ吸収しにくい記録媒体でも、高い耐擦過性を備えた画像、印刷物を得ることができるインクジェットインク及びそれを用いたインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも色材、水、水溶性溶媒及び高分子微粒子を含有するインクジェットインクにおいて、該高分子微粒子が、溶媒組成を水単独から水/水溶性溶媒の混合比が1/1の混合溶媒まで変化させたときに、固有粘度が可逆的に減じる領域を有することを特徴とするインクジェットインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のインクジェットインク及びそれを用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方法は簡便、安価に画像を作成できるため、写真、各種印刷、マーキング、カラーフィルター等の特殊印刷など、様々な印刷分野に応用されている。特に、微細なドットを出射、制御するインクジェット記録装置や、色再現域、耐久性、出射適性等を改善したインクジェットインク及びインクの吸収性、色材の発色性、表面光沢などを飛躍的に向上させた専用紙を用い、銀塩写真に匹敵する画質を得るまでに至っている。
【0003】
しかしながら、専用紙を必要とするインクジェット画像記録システムでは、用いることのできる記録媒体が制限されること、記録媒体のコストアップ等が問題となり、オフィスにおいては、記録媒体、例えば、普通紙、コート紙、アート紙、普通紙両面印刷等の制約を受けずに、高速でフルカラー印字が行えるシステムのニーズが益々高まりつつある。
【0004】
インクジェットインクの組成についても、これらのニーズを満たすため、ソルベント系インク、ホットメルトインク、光硬化型インク等が提案されており、その一部は実用化されているが、安全性に課題があったり、耐擦過性が悪かったり、画像部が盛り上がるなどの特性が問題となり、十分に満足できる性能には至っていないのが現状である。
【0005】
上記課題に対し、水系インクジェットインクに高分子微粒子を添加したラテックス含有インクが提案されている(例えば、特許文献1〜4参照。)。これらのラテックス含有インクは、安全性、耐擦過性も高く、更にインク中の固形分量を低く抑えることができるため、形成した文字、画像が記録媒体上で盛り上がることが少ない印刷物が得られる利点があり、ソルベント系インク、ホットメルトインク、光硬化型インクでは克服できなかった利点を有している。しかし、インク中に高分子成分を多量に存在させると、吐出安定性を低下する課題を抱えており、その対策として高分子成分を少なくすると耐擦過性の改良効果が低下するなど、吐出安定性と耐擦過性が両立できる方法は見出されていなかった。
【0006】
インクの吐出不良の原因の一つとして、吐出部におけるインクの乾燥による粘度上昇が挙げられる。この対策として、水溶性高沸点溶媒を用いてインクの乾燥を抑える方法が一般的には用いられている。しかしながら、高沸点溶媒を用いるため、記録媒体上に画像を形成した後にも高沸点溶媒が残留し、コート紙、アート紙、フィルム等のインク吸収能を持たない、あるいはインク級収能の低い記録媒体上では、滲み耐性や耐擦過性を損なう要因となっている。
【0007】
インクの吐出不良を改良する他の方法としては、水溶性高分子と水溶性溶媒の組み合わせで改善しようとする試みがある。例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリイソプロピルアクリルアミドなどの水溶性ポリマーと1価のアルコールを併用する方法が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。これらの水溶性高分子は、色材との相互作用を起こし、かつ水溶性高分子同士の相互作用は少ないため、粘度上昇が少なく、吐出安定性に優れているとされている。しかし、乾燥によりインクが濃縮したときに、疎水基同士の分子間での絡み合いを引き起こし、大きな粗大粒子が生じてしまい、逆にインクの吐出不良を助長しまう結果を引き起こすことが判明した。
【0008】
一方、水堅牢性を改良するために、コアシェル構造を有し、コア部に室温より低いガラス転移点を有するポリマーを用い、シェル部には室温より高いポリマーを用いたコアシェル高分子微粒子を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献6参照。)。また、シェル部には、具体的には、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートと同じようにポリビニルピロリドンも用いることができると記載されている。しかしながら、シェル部にポリスチレン、ポリメチルメタクリレートなどを用いることにより、乾燥によりインク中の固形物が析出して、ヘッドを目詰まらせてしまうため、インクの吐出不良を改良するまでには至ることができないことが判明した。
【特許文献1】特開平9−87560号公報
【特許文献2】特開平9−176533号公報
【特許文献3】特開平10−6035号公報
【特許文献4】特開2000−85238号公報
【特許文献5】特開平6−248208号公報
【特許文献6】特開平10−195362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、印字環境に関わらず、吐出安定性に優れ、かつ吸収しにくい記録媒体でも、高い耐擦過性を備えた画像、印刷物を得ることができるインクジェットインク及びそれを用いたインクジェット記録方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0011】
(請求項1)
少なくとも色材、水、水溶性溶媒及び高分子微粒子を含有するインクジェットインクにおいて、該高分子微粒子が、溶媒組成を水単独から水/水溶性溶媒の混合比が1/1の混合溶媒まで変化させたときに、固有粘度が可逆的に減じる領域を有することを特徴とするインクジェットインク。
【0012】
(請求項2)
溶媒組成を水単独から水/水溶性溶媒の混合比が1/1の混合溶媒まで変化させたときに、固有粘度が可逆的に減じる領域を有することを特徴とする請求項1記載のインクジェットインク。
【0013】
(請求項3)
前記高分子微粒子がコア部C及びシェル部Sを有し、該シェル部Sが水親和性ゲルを含有することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットインク。
【0014】
(請求項4)
前記コア部Cに対する前記シェル部Sの質量比率(S/C)が、0.5〜40であることを特徴とする請求項3記載のインクジェットインク。
【0015】
(請求項5)
前記高分子微粒子が、親水性部分架橋ゲル粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットインク。
【0016】
(請求項6)
前記親水性部分架橋ゲル粒子が、全質量に対し架橋用単量体量を0.05〜5.0質量%含有することを特徴とする請求項5記載のインクジェットインク。
【0017】
(請求項7)
前記色材が、顔料であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【0018】
(請求項8)
前記高分子微粒子と共に、少なくとも1種の他の高分子微粒子を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【0019】
(請求項9)
請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェットインクを、インクジェットヘッドを用いて、記録媒体に吐出して画像形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
【0020】
(請求項10)
前記記録媒体が、普通紙、アート紙及びコート紙から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項9記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、印字環境に関わらず、吐出安定性に優れ、かつ吸収しにくい記録媒体でも、高い耐擦過性を備えた画像、印刷物を得ることができるインクジェットインク及びそれを用いたインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0023】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、少なくとも色材、水、水溶性溶媒及び高分子微粒子を含有するインクジェットインクにおいて、該高分子微粒子が、溶媒組成を水単独から水/水溶性溶媒の混合比が1/1の混合溶媒まで変化させたときに、固有粘度が可逆的に減じる領域を有することを特徴とするインクジェットインクにより、印字環境に関わらず、吐出安定性に優れ、かつ吸収しにくい記録媒体でも、高い耐擦過性を備えた画像、印刷物を得ることができるインクジェットインクを実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0024】
本発明者らは、乾燥によりインク組成が変化した際、インク粘度が小さくなり粘度を下げる効果のある高分子微粒子を用いることにより、高分子微粒子が多い領域でも、decapも改善されるとの推測のもと、過去に検討がなされた各種文献を探索した結果、PENG WET,Donald H.Napper,J.Colloid & Interface Sci.,177,343,(1996)、H.M.Crowther,B Vincent,Collid.Polym Sci.,276,46(1998)において、ポリイソプロピルアクリルアミドの部分架橋ゲル、またはスチレンをコアにポリイソプロピルアクリルアミド、またはアクリルアミドをシェル部に有するコアシェル高分子微粒子は、水にアルコールを加えるとある領域で粘度粒径(Hydrodynamic radius)が、収縮することが記載されていた。また、反応機構としては、高分子微粒子のシェルにあるアミド基が水分子と水素結合を生じて安定化している時に、水分子と偽包接化合物を形成する水溶性溶媒(例えば、アルコール類、尿素類など)を加えると、シェル部と水素結合している水分子を、アルコールが搾取するために、シェル部が分子内結合で収縮し、粘度粒径が減少する現象があることが記載されている。
【0025】
このような特性を有する高分子微粒子をインクジェットインクに含有させることにより、デキャップといわれるインクジェットヘッドの目詰まりを防止し、高温低湿の乾燥しやすい環境から、低温高湿の乾燥しにくい環境まで、安定に出射できると考え、検討した結果、インクジェットに用いられている水溶性溶媒が、PENG WET,Donald H.Napper,J.Colloid & Interface Sci.,177,343,(1996)、H.M.Crowther,B Vincent,Collid.Polym Sci.,276,46(1998)に記載されているアルコール類、尿素類と同じ作用をすることを見出し、本発明に至った。
【0026】
本発明のインクジェットインクは、シリアルヘッド、ラインヘッドに限らず、広く適用できるが、特に目詰まりに対する要求が厳しいラインヘッドを有するインクジェットヘッドを用いたインクジェット記録方法に好ましくも用いることができる。
【0027】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0028】
本発明のインクジェットインク(以下、単にインクともいう)においては、溶媒組成を水単独から水/水溶性溶媒の混合比が1/1の混合溶媒まで変化させたときに、固有粘度が可逆的に減じる領域を有する高分子微粒子を含有することを特徴とする。
【0029】
本発明でいう可逆的とは、水と水溶性溶媒がある一定の組成比であるならば、その組成を変える順序を変えても、粘度粒径はある一定以内の範囲に留まり、変化しないことを意味している。
【0030】
具体的に、高分子微粒子が可逆的であるか否かを調べる方法としては、高分子微粒子固形分1g相当量をあらかじめ水100gに加えてから、水:水溶性溶媒(1:1)の混合溶液を100gを加えた場合の粘度ηAと、高分子微粒子をあらかじめ水:水溶性溶媒(1:1)の混合溶液を100gを加えた後に、水100gを加えた場合の粘度ηBの比(ηA/ηB)が0.7〜1/0.7の間に入っていることをいう。
【0031】
また、本発明に係る高分子微粒子の固有粘度とは、水と水溶性溶媒の組成比を100:0〜50:50まで5刻みで希釈したときの粘度を測定し、高分子微粒子の濃度が0になる無限希釈時の粘度/濃度を外挿して求め、これを高分子微粒子の固有粘度とした。
【0032】
すなわち、下式で極限粘度[η]が求められ、単位はdl/gである。
【0033】
[η]=lim(ηγ/c)=limηinh(c→0)
式中、ηγは濃度cにおける粘度、ηinhはインヘレント粘度をを表す。
【0034】
具体的には、例えば、各高分子微粒子を、水100%の溶液に、それぞれ濃度を2%、1%、0.5%、0.25%、0.1%と変化させた時の粘度を測定し、それぞれの粘度をη2、η1、η0.5、η0.25、η0.1とする。また、水100%の粘度を測定し、これをη0とする。次いで、X軸に高分子微粒子の濃度C、Y軸に(濃度Cにおける粘度−水100%の粘度)/濃度Cをプロットした特性カーブを作成し、濃度Cを0としたときのY軸の粘度を求め、これを溶媒が水100%における固有粘度[η]とした。
【0035】
次いで、溶媒組成を水と水溶性溶媒との組成比を95:5〜50:50まで5刻みで比率を変化させた溶液を用い、同様にして各溶媒組成における高分子微粒子の固有粘度[η]を測定する。
【0036】
粘度の測定方法としては、従来公知の粘度測定方法を適用することができ、例えば、Ubbelohde(Cannon−Ubbelohde)、Cannon−Fenske、Ostwald等を挙げることができる。
【0037】
また、ポリマーの極限粘度の測定に関しては、例えば、ASTM D2857−95、ASTM D5225−98、ASTM D445−97等で規定された方法に準じて求めることができる。
【0038】
以上により求めた溶媒組成比ごとの固有粘度[η]をY軸にとり、X軸に水100%〜水:水溶性溶媒=50:50までの溶媒組成比をとり、得られた特性曲線で水に対する水溶性溶媒比率が増えるに従って、固有粘度が減じている領域が存在するか否かを判定する。
【0039】
同様に、インク固有粘度についても、インクを水と水溶性溶媒の組成比を100:0〜50:50まで5刻みで希釈したときの粘度を測定し、固形分濃度を濃度として同様の方法でインクの固有粘度[η]とした。
【0040】
次いで、溶媒組成比ごとの固有粘度[η]をY軸にとり、X軸に水100%〜水:水溶性溶媒=50:50までの組成比をとり、得られた特性曲線で水に対する水溶性溶媒比率が増えるに従って、インクの固有粘度が減じている領域が存在するか否かを判定する。
【0041】
以上のような固有粘度が可逆的に減じる領域を有する高分子微粒子を含有する本発明のインク、あるいは固有粘度が可逆的に減じる領域を有する本発明のインクを用いることにより、高分子微粒子を高濃度で含有するインクジェットインクをインクジェットヘッドより出射して画像形成する際に、印字環境に影響されることなく、安定した出射が達成でき、更にはインクジェットインクの吸収能が低い記録媒体を用いた場合でも、耐擦過性に優れた画像を得ることができる。
【0042】
上記効果を達成するための主要手段である水単独系から水溶性溶媒との混合溶液(1:1)まで溶媒組成を変化させたときに、固有粘度が可逆的に減じる領域を有する本発明に係る高分子微粒子について説明する。
【0043】
高分子微粒子に固有粘度が可逆的に減じる領域を付与するためには、高分子微粒子内に水分子と水素結合を生じ、水溶性溶媒によって水を放出される基を有することが好ましく、それらの特性を有する基としては、具体的には、アミド基、ウレア基、ウレタン基が挙げられ、好ましくはアミド基、ウレア基である。
【0044】
本発明に係る高分子微粒子においては、水分子と水素結合を生じ、水溶性溶媒によって水を放出される基を有する単量体比率は、全単量体のモル数の少なくとも40モル%以上、好ましくは50モル%以上である。比率が40モル%未満では、収縮の程度が弱く、所望のdecap防止効果を得ることができない。
【0045】
従来よりインクジェットインクに適用されている高分子分散剤または界面活性剤を加えたスチレン−アクリル系エマルジョン、ポリエステル系などのエマルジョン、ソープフリーを呼ばれる表面にアクリル酸などのイオン性基を加えた高分子微粒子等は、構造中にカルボン酸、スルホン酸を有しているが、これらは塩として安定に存在しているために、水分子と偽包接化合物を形成する水溶性溶媒の濃度が高まっても、分子構造上の収縮を起こすことはなく、本願の目的効果を得ることはできない。
【0046】
また、共重合高分子微粒子を得る場合には、水分子と水素結合を生じ、水溶性溶媒によって水を放出される基が隣り合っている方が、得られる効果が大きい観点から好ましく、これらの共重合高分子微粒子は、例えば、カチオンリビング重合法、アニオンリビング重合などによるブロック化、またはグラフト重合法等により得ることができる。だだし、水分子と水素結合を生じ、水溶性溶媒によって水を放出される基を有する単量体のみの合成である場合には、通常用いられるラジカル重合を適用することができる。
【0047】
本発明に係る高分子微粒子においては、コアセル構造を有していることが好ましい。
【0048】
コア部を構成する高分子としては、特に限定されず、例えば、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリルエステル(例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリ 2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ポリステアリル(メタ)アクリレート)、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、またはそれらの共重合体などを用いることができる。
【0049】
シェル部は、水分子と水素結合を生じ、水溶性溶媒によって水を放出される基を有する水親和性ゲルで構成されていることが好ましく、水分子と水素結合を生じ、水溶性溶媒によって水を放出される基とは、アミド基、ウレア基、ウレタン基が挙げられ、好ましくはアミド基またはウレア基である。
【0050】
具体的な化合物を単量体の形で列挙すると、(メタ)アクリルアミド、N置換(メタ)アクリルアミド(N−エチルメタアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタアクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタアクリルアミド、N,N−ジエチルメタアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド)、N−ビニルアセトアミド、N−メチロールアクリルアミドまたは、それらの共重合体が挙げられ、好ましくはアクリルアミドまたはそれらのN−アルキル置換体である。
【0051】
本発明では、シェル部における水分子と水素結合を生じ、水溶性溶媒によって水を放出される基の比率としては、シェル部の全単量体のモル数の少なくとも40モル%以上、好ましくは50モル%以上であり、比率が40モル%未満である場合には、収縮の程度が弱く、所望のdecap防止効果を十分に得ることができない。
【0052】
シェル部の合成方法としては、特に制限はないが、共重合する場合には、水分子と水素結合を生じ、水溶性溶媒によって水を放出される基が隣り合っている方が、得られる効果が大きい観点から好ましく、これらの共重合高分子微粒子は、例えば、カチオンリビング重合法、アニオンリビング重合などによるブロック化、またはグラフト重合法等により得ることができる。だだし、水分子と水素結合を生じ、水溶性溶媒によって水を放出される基を有する単量体のみの合成である場合には、通常用いられるラジカル重合を適用することができる。
【0053】
シェル部の分子量は、重量平均分子量として2000以上、200000以下が好ましく、より好ましくは5000以上、70000以下である。シェル部の分子量が少ないと、decap防止効果が弱く、シェルの分子量が多すぎると、高分子微粒子自身の粘度が高くなりすぎ、安定した出射が難しくなる。
【0054】
本発明に係るコアシェル構造を有する高分子微粒子においては、コア部Cに対するシェル部Sの質量比率(S/C)としては、概ね0.2〜500であるが、本発明においては好ましくは0.5〜40である。S/Cが0.5未満では、収縮効果が少なく、所望のdecap防止効果が得られない。逆に40を超えると、収縮する際に粒子間で絡まってしまい、粗大粒子を形成する原因をなる。
【0055】
本発明に係るコアシェル構造を有する高分子微粒子の合成方法と具体的な高分子微粒子例としては、例えば、特開平7−331224号、特開2003−40916号に記載の(メタ)アクリル系重合体からなるコア部とN−アルキルアクリルアミド重合体よりなるシェル部を有するコアシェル構造の重合体微粒子等が挙げられる。
【0056】
また、本発明に係る高分子微粒子の好ましい形態の1つは、親水性部分架橋ゲル粒子である。
【0057】
親水性部分架橋ゲル粒子としては、コアシェル構造を有し、シェル部に用いている水親和性ゲルを架橋して、単独で架橋ゲルとして用いても良い。しかしながら、架橋が弱いと、高分子微粒子をして存在できず、ポリイソプロピルアクリルアミドゲルのように、収縮、膨潤が非可逆になってしまう欠点があり、逆に架橋が強すぎると、収縮、膨潤がしなくなり、効果を得る事ができない。従って、本発明に係る親水性部分架橋ゲル粒子においては、全質量に対し架橋用単量体量を概ね0.01質量%〜10.0質量%含有するが、本発明の目的効果をいかんなく発揮させる観点からは0.05〜5.0質量%含有することが好ましい。
【0058】
架橋剤としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールビスアクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有する単量体を用いることができる。
【0059】
本発明のインクにおいては、溶媒として、高分子微粒子から水分子を奪う溶媒を少なくとも1種含有していることが好ましい。
【0060】
このような溶媒としては、少なくとも1個の水酸基、アミド基またはウレア基が必要となる。具体的には、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール等)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等)、多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)が挙げられる。
【0061】
上述した溶媒の中でも、好ましくは沸点が100℃より高く、かつ水酸基を有する水溶性溶媒が好ましく、例えば、多価アルコール類、多価アルコールエーテル類等を好ましく用いることができる。
【0062】
また、本発明のインクには、pH調節を目的として、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等)を溶媒に添加することことができる。
【0063】
本発明のインクジェットインクにおいては、上記説明した本発明に係る固有粘度が可逆的に減じる領域を有する高分子微粒子と共に、印字後の定着性を向上させる目的で、水分子と水素結合を生じ、水溶性溶媒によって水を放出される基を有しない高分子微粒子を併用することが好ましい。本願では、これらの高分子微粒子を定着用高分子微粒子という。
【0064】
本発明で用いることのできる定着用高分子微粒子として、特に制限はないが、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル共重合体、ポリウレタン、シリコン−アクリル共重合体およびアクリル変性フッ素樹脂等のラテックスが挙げられる。ラテックスは、乳化剤を用いてポリマー粒子を分散させたものであっても、また乳化剤を用いないで分散させたものであってもよい。乳化剤としては界面活性剤が多く用いられるが、スルホン酸基、カルボン酸基等の水に可溶な基を有するポリマー(例えば、可溶化基がグラフト結合しているポリマー、可溶化基を持つ単量体と不溶性の部分を持つ単量体とから得られるポリマー)を用いることも好ましい。
【0065】
また、本発明のインクでは、ソープフリーラテックスを用いることができる。ソープフリーラテックスとは、乳化剤を使用していないラテックス、およびスルホン酸基、カルボン酸基等の水に可溶な基を有するポリマー(例えば、可溶化基がグラフト結合しているポリマー、可溶化基を持つ単量体と不溶性の部分を持つ単量体とから得られるポリマー)を乳化剤として用いたラテックスのことを指す。
【0066】
近年、ポリマー粒子として、粒子全体が均一であるポリマー粒子を分散したラテックス以外に、粒子の中心部と外縁部で組成を異にしたコア・シェルタイプのポリマー粒子を分散したラテックスも存在するが、このタイプのラテックスも好ましく用いることができる。
【0067】
本発明において、定着用高分子微粒子の平均粒径は光散乱により測定でき、10nm以上、300nm以下が好ましく、さらに好ましくは10nm以上、200nm以下である。定着用高分子微粒子の光散乱による平均粒径が300nmを越えると、画像の光沢劣化が起こり、10nm未満であると耐水性、耐擦過性が不十分となる。
【0068】
本発明に用いる定着用高分子微粒子は、ガラス転移点が−20℃以上、80℃以下、好ましくは−10℃以上、60℃以下である。ガラス転移点が低いほど耐擦過性は向上するが、逆に画像同士を重ねて放置すると、接着が起こり、画像部の剥がれが生じてしまう。また、ガラス転移点が高すぎると、耐擦過性が劣ってしまうためである。
【0069】
本発明のインク中における水分子と水素結合を生じ、水溶性溶媒によって水を放出される基を有する高分子微粒子と定着用高分子微粒子との合計量は、定着性の観点から、3〜30質量%の範囲であることが好ましい。3%未満では、耐擦過性が不十分で堅牢性の高い印刷物は得られなく、30質量%を超えると、乾燥前のインク粘度が高すぎて、インクジェットヘッドからの出射が困難になってしまう。
【0070】
本発明のインクで用いる色材としては、水溶性染料、例えば、酸性染料、直接染料、反応性染料、あるいは分散染料、顔料等を用いることができるが、着色剤として顔料インクを用いることが、画像保存性の観点から特に好ましい。
【0071】
水溶性染料としては、例えば、酸性染料、塩基性染料、反応性染料が挙げられる。特に好ましいものは、
C.I.ダイレクトレッド2、26、31、62、63、72、75、76、79、80、81、83、84、89、92、95、111、173、184、207、211、212、214、218、221、223、224、225、226、227、232、233、240、241、242、243、247、
C.I.ダイレクトバイオレット7、9、47、48、51、66、90、93、94、95、98、100、101、
C.I.ダイレクトイエロー8、9、11、12、27、28、29、33、35、39、41、44、50、53、58、59、68、86、87、93、95、96、98、100、106、108、109、110、130、132、142、144、161、163、
C.I.ダイレクトブルー1、10、15、22、25、55、67、68、71、76、77、78、80、84、86、87、90、98、106、108、109、151、156、158、159、160、168、189、192、193、194、199、200、201、202、203、207、211、213、214、218、225、229、236、237、244、248、249、251、252、264、270、280、288、289、291、
C.I.ダイレクトブラック9、17、19、22、32、51、56、62、69、77、80、91、94、97、108、112、113、114、117、118、121、122、125、132、146、154、166、168、173、199、
C.I.アシッドレッド35、42、52、57、62、80、82、111、114、118、119、127、128、131、143、151、154、158、249、254、257、261、263、266、289、299、301、305、336、337、361、396、397、
C.I.アシッドバイオレット5、34、43、47、48、90、103、126、
C.I.アシッドイエロー17、19、23、25、39、40、42、44、49、50、61、64、76、79、110、127、135、143、151、159、169、174、190、195、196、197、199、218、219、222、227、
C.I.アシッドブルー9、25、40、41、62、72、76、78、80、82、92、106、112、113、120、127:1、129、138、143、175、181、205、207、220、221、230、232、247、258、260、264、271、277、278、279、280、288、290、326、
C.I.アシッドブラック7、24、29、48、52:1、172、
C.I.リアクティブレッド3、13、17、19、21、22、23、24、29、35、37、40、41、43、45、49、55、
C.I.リアクティブバイオレット1、3、4、5、6、7、8、9、16、17、22、23、24、26、27、33、34、
C.I.リアクティブイエロー2、3、13、14、15、17、18、23、24、25、26、27、29、35、37、41、42、
C.I.リアクティブブルー2、3、5、8、10、13、14、15、17、18、19、21、25、26、27、28、29、38、
C.I.リアクティブブラック4、5、8、14、21、23、26、31、32、34、
C.I.ベーシックレッド12、13、14、15、18、22、23、24、25、27、29、35、36、38、39、45、46、
C.I.ベーシックバイオレット1、2、3、7、10、15、16、20、21、25、27、28、35、37、39、40、48、
C.I.ベーシックイエロー1、2、4、11、13、14、15、19、21、23、24、25、28、29、32、36、39、40、
C.I.ベーシックブルー1、3、5、7、9、22、26、41、45、46、47、54、57、60、62、65、66、69、71、
C.I.ベーシックブラック8
等が挙げられる。
【0072】
分散染料としては、
ディスパーズイエロー3、4、42、71、79、114、180、199、227、
ディスパーズオレンジ29、32、73、ディスパーズレッド11、58、73、180、184、283、
ディスパーズバイオレット1、26、48、ディスパーズブルー73、102、167、184
等を好ましく挙げることができる。
【0073】
一方、顔料としては、従来公知の有機及び無機顔料が使用でき、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料や、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料や、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキや、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料、カーボンブラック等の無機顔料が挙げられる。
【0074】
具体的な有機顔料を以下に例示する。
【0075】
マゼンタまたはレッド用の顔料としては、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222等が挙げられる。
【0076】
オレンジまたはイエロー用の顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、ピグメントイエロー180等が挙げられる。
【0077】
グリーンまたはシアン用の顔料としては、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる
本発明のインクにおける色材含有量としては、1〜20質量%で用いられる。
【0078】
本発明のインクで適用する顔料は、通常、分散剤を用いて公知の分散手段により分散されるが、適用可能な分散剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、または水溶性高分子分散剤を挙げることができる。
【0079】
また、本発明で用いることのできる分散手段としては、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー、高圧ホモジナイザー等の各種分散機を用いることができる。また、顔料分散体の粗粒分を除去する目的で、遠心分離装置を使用すること、フィルターを使用することも好ましい。
【0080】
また、本発明のインクにおいては、インクの表面張力を所望の条件に調整するため、界面活性剤を用いることが好ましい。
【0081】
界面活性剤として、特に制限はないが、例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。特にアニオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0082】
更に、高分子界面活性剤も用いることができ、例えば、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等を挙げることができる。
【0083】
本発明のインクでは、上記説明した以外に、必要に応じて、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防ばい剤、防錆剤等を適宜選択して用いることができ、例えば、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコンオイル等の油滴微粒子、特開昭57−74193号、同57−87988号及び同62−261476号に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号、同60−72785号、同61−146591号、特開平1−95091号及び同3−13376号等に記載されている退色防止剤、特開昭59−42993号、同59−52689号、同62−280069号、同61−242871号および特開平4−219266号等に記載されている蛍光増白剤等を挙げることができる。
【0084】
本発明のインクの粘度としては、3mPa.s以上、300mPa.s以下が好ましい。インクの粘度が3mPa.s未満ではインクジェット記録時のインク流動性が高すぎて、画像鮮鋭性が悪化してしまう。また、300mPa.sを超えると、インク粘度が高すぎて、ヘッドからの出射が困難になってしまう。
【0085】
本発明のインクジェット記録方法においては、本発明のインクジェットインクをインクジェットヘッドを用いて、記録媒体に吐出して画像形成することを特徴とする。
【0086】
本発明のインクジェット記録方法で使用するインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。また、印字方式としては、シリアルヘッド方式、ラインヘッド方式等で制限無く用いることができるが、その中でも、特に、目詰まりに対する要求が厳しいラインヘッド方式を有するインクジェットヘッドを用いたインクジェット記録方法に好ましくも用いることができる。
【0087】
また、本発明のインクジェット記録方法においては、記録媒体として、普通紙、アート紙及びコート紙から選ばれる少なくとも1種を用いることが、本発明のインクの効果をいかんなく発揮できる観点から好ましい。
【0088】
本発明のインクジェット記録方法で適用できる記録用紙としては、例えば、普通紙、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、光沢紙、インクジェット専用紙等が広く用いることができるが、その中でも吸収性支持体である普通紙、アート紙、コート紙を用いたインクジェット記録方法あることが、本発明のインクの持つ優れた特性をいかんなく発揮させることができ好ましい。
【0089】
紙には、塗工紙、非塗工紙があり、塗工紙としては、1m2あたりの塗工量が片面20g前後のアート紙、1m2あたりの塗工量が片面10g前後のコート紙、1m2あたりの塗工量が片面5g前後の軽量コート紙、微塗工紙、マット調仕上げのマットコート紙、ダル調仕上げのダルコート紙、新聞用紙などを挙げることが出来る。非塗工紙としては、化学パルプ100%使用の印刷用紙A、化学パルプ70%以上使用の印刷用紙B、化学パルプ40%以上70%未満使用の印刷用紙C、化学パルプ40%未満使用の印刷用紙D、機械パルプを含有しカレンダー処理を行ったグラビア用紙などを挙げることが出来る。更に詳しくは、『最新紙加工便覧』紙加工便覧編集委員会編、テックタイムス発行、『印刷工学便覧』日本印刷学会編、などに詳細に記載されている。
【0090】
普通紙とは、非塗工用紙、特殊印刷用紙及び情報用紙の一部に属す、80〜200μmの非コート紙が用いられる。本発明で用いられる普通紙としては、例えば、上級印刷紙、中級印刷紙、下級印刷紙、薄様印刷紙、微塗工印刷用紙、色上質紙等特殊印刷用紙、フォーム用紙、PPC用紙、その他情報用紙等があり、具体的には下記する用紙及びこれらを用いた各種の変性/加工用紙があるが、本発明は特にこれらに限定されるものではない。
【0091】
代表的な印刷用紙として、三菱製紙社製特菱アート、王子製紙社製OKトップコートN、大昭和製紙社製しらおい等がある。
【実施例】
【0092】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0093】
実施例1
《高分子微粒子の調製》
〔高分子微粒子1の調製〕
スチレン8部、ブチルメタクリレート5部、エチレングリコールジメタクリレート0.25部を混合したモノマー液を用意した。次いで、四つ口フラスコにドデシル硫酸塩0.3部とイオン交換水100部を加えて溶解した後、窒素置換した。この中に、モノマー液を3部添加し、攪拌しながら60℃に昇温した。昇温後、2%過硫酸アンモニウム水溶液の1部を滴下し、更に80℃に昇温し、残りのモノマー液と2%過硫酸アンモニウム水溶液の20部を3時間かけて滴下し、2時間熟成してコア部を調製した。
【0094】
この反応液を80℃に保ったまま、N−イソプロピルアクリルアミドの100部とイオン交換水の800部との混合液と、2.0%過硫酸アンモニウムの24部とを3時間かけて滴下して、4時間熟成した後、遠心分離装置を用いて粗大粒子を除き、水で固形分濃度が10%となるように調整して、平均粒径が153nmの高分子微粒子1を得た。
【0095】
〔高分子微粒子2の調製〕
上記高分子微粒子1の調製において、N−イソプロピルアクリルアミドに代えて、アクリルアミドを用いた以外は同様にして、コア部がスチレン、n−ブチルアクリレート共重合体、シェル部がアクリルアミドから構成されたコアシェル型の高分子微粒子2を得た。
【0096】
〔高分子微粒子3の調製〕
N−イソプロピルアクリルアミドの100部、エチレングリコールジメタクリレートの0.5部を混合して、モノマー液を用意した。次いで、四つ口フラスコにドデシル硫酸塩を0.5質量部とイオン交換水を100質量加えて溶解した後、窒素置換した。この中にモノマー液を3部加え、攪拌しながら60℃に昇温した。昇温後、2%過硫酸アンモニウム水溶液を1部滴下し、更に80℃に昇温し、残りのモノマー液と2%過硫酸アンモニウム水溶液の20部を3時間かけて滴下し、2時間熟成したのち、遠心分離装置を用いて粗大粒子を除いて、部分架橋した高分子微粒子3を調製した。
【0097】
〔高分子微粒子Aの調製:比較例〕
上記高分子微粒子1の調製において、N−イソプロピルアクリルアミドに代えて、スチレン−ブチルメタクリレート(1:1)を用いた以外は同様にして、比較の高分子微粒子Aを得た。
【0098】
〔高分子微粒子Bの調製:比較例〕
上記高分子微粒子3の調製において、エチレングリコールジメタクリレートを除いた以外は同様にして、比較の高分子微粒子Bを得た。
【0099】
《インクの調製》
〔顔料分散液の調製〕
(カーボンブラック分散液の調製)
カーボンブラック:トーカブラック #8500(東海カーボン社製) 120g
ジョンクリル62(ジョンソンポリマー株式会社製、固形分濃度34%) 59g
レベノールWX(花王株式会社製) 3g
ジエチレングリコール 100g
イオン交換水 300g
上記各添加物を混合し、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、遠心分離器で粗大粒子を除去した。次いで、カーボンブラック含有量が20質量%となるように、水で希釈してカーボンブラック顔料分散液を調製した。
【0100】
(マゼンタ分散液の調製)
上記カーボンブラック分散液の調製において、カーボンブラックに代えて、C.I.ピグメントレッド122を120g用いた以外は同様にして、マゼンタ分散液を調製した。
【0101】
〔インクの調製〕
(インク1の調製:本発明)
カーボンブラック分散液(カーボンブラック含有量:20%) 50部
高分子微粒子1(固形分濃度10%) 50部
エチレングリコール 10部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10部
オルフィンE1010(日信化学製 ノニオン系界面活性剤) 0.3部
プロキセルGXL(アビシア製) 0.1部
上記各添加剤を順次混合して、ブラック顔料インクであるインク1を調製した。
【0102】
(インク2の調製:本発明)
マゼンタ分散液(C.I.ピグメントレッド122含有量:20%) 50部
高分子微粒子2(固形分濃度10%) 50部
ジエチレングリコール 10部
1,2−ヘキサンジオール 10部
オルフィンE1010(日信化学製 ノニオン系界面活性剤) 0.3部
プロキセルGXL(アビシア製) 0.1部
上記各添加剤を順次混合して、マゼンタ顔料インクであるインク2を調製した。
【0103】
(インク3の調製:本発明)
カーボンブラック分散液(カーボンブラック含有量:20%) 50部
高分子微粒子3(固形分濃度10%) 50部
エチレングリコール 10部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10部
オルフィンE1010(日信化学製 ノニオン系界面活性剤) 0.3部
プロキセルGXL(アビシア製) 0.1部
上記各添加剤を順次混合して、ブラック顔料インクであるインク3を調製した。
【0104】
(インク4の調製:比較例)
カーボンブラック分散液(カーボンブラック含有量:20%) 50部
高分子微粒子A(固形分濃度10%) 50部
エチレングリコール 10部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10部
オルフィンE1010(日信化学製 ノニオン系界面活性剤) 0.3部
プロキセルGXL(アビシア製) 0.1部
上記各添加剤を順次混合して、ブラック顔料インクであるインク4を調製した。
【0105】
(インク5の調製:比較例)
カーボンブラック分散液(カーボンブラック含有量:20%) 50部
高分子微粒子B(固形分濃度10%) 50部
エチレングリコール 10部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10部
オルフィンE1010(日信化学製 ノニオン系界面活性剤) 0.3部
プロキセルGXL(アビシア製) 0.1部
上記各添加剤を順次混合して、ブラック顔料インクであるインク5を調製した。
【0106】
《高分子微粒子及びインクの特性評価》
〔高分子微粒子の固有粘度の測定〕
上記調製した高分子微粒子1〜3及び高分子微粒子A、Bについて、下記の方法に従って固有粘度の測定を行った。
【0107】
各高分子微粒子を、水100%の溶液に、それぞれ濃度を2%、1%、0.5%、0.25%、0.1%と変化させた時の粘度を測定し、それぞれの粘度をη2、η1、η0.5、η0.25、η0.1とした。また、水100%の粘度を測定し、これをη0とした。次いで、X軸に高分子微粒子の濃度C、Y軸に(濃度Cにおける粘度−水100%の粘度)/濃度Cをプロットした特性カーブを作成し、濃度Cを0としたときのY軸の粘度を求め、これを溶媒が水100%における固有粘度とした。
【0108】
次いで、溶媒組成を水と表1に記載の各水溶性溶媒との組成比を95:5〜50:50まで5刻みで比率を変化させた溶液を用い、同様にして各溶媒組成における高分子微粒子の固有粘度を測定した。表1には、各水溶性溶媒を用いた際の水100%における固有粘度に対する最小固有粘度値(固有粘度比)と、最小固有粘度が発現する時の水溶性溶媒比率を記載した。
【0109】
以上のようにして測定した各溶媒組成における固有粘度をX軸に、各溶媒組成をY軸にとり、水溶性溶媒比率の増加に対する固有粘度の減少領域の存在の有無を判定した。
【0110】
なお、表1に略称で記載した各水溶性溶媒の詳細は、以下の通りである。
【0111】
EG:エチレングリコール
DEG:ジエチレングリコール
Gly:グリセリン
1,2−HD:1,2−ヘキサンジオール
TEGBE:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
〔高分子微粒子の固有粘度可逆性の判定〕
各高分子微粒子1g相当量に、予め水100gに加えてから、水:ジエチレングリコール(1:1)の混合溶液を100gを加えた時の粘度を測定し、これを粘度ηAとした。次いで、各高分子微粒子1gに、予め水:ジエチレングリコール(1:1)の混合溶液を100gを加えた後に、水を100g加えた場合の粘度を測定し、これを粘度ηBとした。次いで、ηA/ηBの値を求め、この比が0.7〜1/0.7の間にあれば、可逆性を有していると判定し、それを超えている場合には可逆性を備えていないと判定した。
【0112】
以上により得られた結果を、表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
〔インクの固有粘度の測定〕
次いで、上記調製したインク1〜5についても、上記高分子微粒子の固有粘度測定方法と同様にして、溶媒組成を水:水溶性溶媒=100:0〜水:水溶性溶媒=50:50まで、5刻みで固有粘度を測定した後、インクの各溶媒組成における固有粘度をX軸に、各溶媒組成をY軸にとり、水溶性溶媒比率の増加に対するインクの固有粘度の減少領域の存在の有無を判定し、得られた代表的な結果を下記に示す。
【0115】
(インク1:本発明)
1)水溶性溶媒:エチレングリコール
水:水溶性溶媒=95:5〜60:40の領域で固有粘度が低下
2)水溶性溶媒:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
水:水溶性溶媒=95:5〜80:20の領域で固有粘度が低下
(インク2:本発明)
1)水溶性溶媒:ジエチレングリコール
水:水溶性溶媒=95:5〜60:40の領域で固有粘度が低下
2)水溶性溶媒:1,2−ヘキサンジオール
水:水溶性溶媒=95:5〜80:20の領域で固有粘度が低下
(インク3:本発明)
1)水溶性溶媒:エチレングリコール
水:水溶性溶媒=95:5〜55:45の領域で固有粘度が低下
2)水溶性溶媒:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
水:水溶性溶媒=95:5〜75:25の領域で固有粘度が低下
(インク4:比較例)
1)水溶性溶媒:エチレングリコール
固有粘度の低下領域が存在しない
2)水溶性溶媒:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
固有粘度の低下領域が存在しない
(インク5:比較例)
1)水溶性溶媒:エチレングリコール
固有粘度の低下領域が存在しない
2)水溶性溶媒:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
固有粘度の低下領域が存在しない
《画像印字及び特性評価》
〔出射安定性の評価〕
上記調製した各インクを、セイコーエプソン社製のインクジェットプリンター PXG−900に装填し、40℃、30%RHの印字環境及び20℃、70%RHの印字環境下で、アート紙(特菱アート、三菱製紙社製 坪量:127g/m2)上に出射し、線画、およびベタ画像を間隔を空けて、連続9枚プリントを行った。次いで、10分間同環境下で印字を停止した後、10枚目のプリントを行った。
【0116】
10枚目のプリント時におけるインクジェットノズルの出射状態を目視観察し、下記の基準に従って、出射安定性の評価を行った。
【0117】
◎:全ノズル共に、出射状態に変化が見られない。
【0118】
○:1、2個数%のノズルで斜め出射が見られるが、インク欠がない
△:インク欠が3個%以上、10個数%未満のノズルで発生
×:インク欠が10個数%以上のノズルで発生
〔耐擦過性の評価〕
上記出射安定性の評価で作成した各ベタ画像に対して、事務用消しゴム(MONO トンボ鉛筆社製)でその表面を5回の往復運動を行い、20人の一般評価者による残存濃度の目視評価を行い、以下の基準に従って耐擦過性の評価を行った。
【0119】
◎:ほぼ原画像の濃度が残存していると評価した人が16人以上
○:ほぼ原画像の濃度が残存していると評価した人が12人〜15人
△:ほぼ原画像の濃度が残存していると評価した人が8人〜11人
×:ほぼ原画像の濃度が残存していると評価した人が7人以下
以上により得られた結果を、表2に示す。
【0120】
【表2】

【0121】
表2に記載の結果より明らかなように、水100%から水:水溶性溶媒=50:50まで溶媒組成を変化させたときに、可逆的に固有粘度が減少する領域を有する高分子微粒子を含有した本発明のインクは、比較例に対し、吐出安定性と耐擦過性のいずれの特性においても優れた効果を発揮することを確認することができた。
【0122】
実施例2
《インクの調製》
〔インク1Aの調製〕
カーボンブラック分散液 50部
高分子微粒子1(固形分濃度10%) 10部
ジョンクリル450(定着用高分子微粒子 ジョンソンポリマー社製、固形分濃度42%) 17部
エチレングリコール 10部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10部
オルフィンE1010(日信化学製) 0.3部
プロキセルGXL(アビシア製) 0.1部
イオン交換水を加えて、全量を100部をして、2種の高分子微粒子を含有するインク1Aを調製した。
【0123】
〔インク2A〜5Aの調製〕
実施例1に記載のインク2〜インク5の調製において、各高分子微粒子の添加量を50部から10部に変更し、更にジョンクリル450(定着用高分子微粒子 ジョンソンポリマー社製)を17部添加し、イオン交換水でそれぞれ全量を100部に調整した以外は同様にして、インク2A〜5Aを調製した。
【0124】
《画像印字及び特性評価》
上記調製したインク1A〜5Aについて、実施例1に記載の方法と同様にして、吐出安定性及び耐擦過性の評価を行い、得られた結果を表3に示す。
【0125】
【表3】

【0126】
表3に記載の結果より明らかなように、水100%から水:水溶性溶媒=50:50まで溶媒組成を変化させたときに、可逆的に固有粘度が減少する領域を有する高分子微粒子と共に、定着用高分子微粒子を含有した本発明のインクは、吐出安定性及び耐擦過性が更に向上していることが分かる。
【0127】
実施例3
《高分子微粒子の調製》
実施例1に記載の高分子微粒子1の調製において、シェル形成時のN−イソプロピルアクリルアミドの添加量を、表4に記載のシェル質量となるように変更した以外は同様にして、高分子微粒子11〜16を調製した。
【0128】
《高分子微粒子の固有粘度の測定》
上記調製した高分子微粒子11〜16について、実施例1に記載の方法と同様にして、水:ジエチレングリコール=100:0〜水:ジエチレングリコール=50:50まで、5刻みで固有粘度を測定した後、固有粘度曲線を作成した結果、いずれの高分子微粒子も固有粘度が減ずる領域を有していることを確認した。
【0129】
《インクの調製》
実施例1に記載のインクAの調製において、高分子微粒子1に代えて、上記調製した高分子微粒子11〜16を用いた以外は同様にして、インク11〜16を調製した。
【0130】
《インクの固有粘度の測定》
上記調製したインク11〜16について、実施例1に記載の方法と同様にして、水:ジエチレングリコール=100:0〜水:ジエチレングリコール=50:50まで、5刻みで固有粘度を測定した後、固有粘度曲線を作成した結果、いずれのインクも固有粘度が減ずる領域を有していることを確認した。
【0131】
《画像印字及び特性評価》
上記調製したインク11〜16と、実施例1で調製したインク1について、実施例1に記載の方法と同様にして、吐出安定性及び耐擦過性の評価を行い、得られた結果を表4に示す。
【0132】
【表4】

【0133】
表4に記載の結果より明らかなように、水100%から水:水溶性溶媒=50:50まで溶媒組成を変化させたときに、可逆的に固有粘度が減少する領域を有し、かつコア/シェル比が1.5〜100の範囲にある高分子微粒子を含有した本発明のインクは、吐出安定性及び耐擦過性がより向上していることが分かる。
【0134】
実施例4
《高分子微粒子の調製》
実施例1に記載の高分子微粒子3の調製において、エチレングリコールジメタクリレートの添加量を表5に記載のように変更した以外は同様にして、水性部分架橋ゲルの架橋剤量を変化させた高分子微粒子21〜25を調製した。
【0135】
《高分子微粒子の固有粘度の測定》
上記調製した高分子微粒子21〜25について、実施例1に記載の方法と同様にして、水:ジエチレングリコール=100:0〜水:ジエチレングリコール=50:50まで、5刻みで固有粘度を測定した後、固有粘度曲線を作成した結果、いずれの高分子微粒子も固有粘度が減ずる領域を有していることを確認した。
【0136】
《インクの調製》
実施例1に記載のインク3の調製において、高分子微粒子3に代えて、上記調製した高分子微粒子21〜25を用いた以外は同様にして、インク21〜25を調製した。
【0137】
《インクの固有粘度の測定》
上記調製したインク21〜25について、実施例1に記載の方法と同様にして、水:ジエチレングリコール=100:0〜水:ジエチレングリコール=50:50まで、5刻みで固有粘度を測定した後、固有粘度曲線を作成した結果、いずれのインクも固有粘度が減ずる領域を有していることを確認した。
【0138】
《画像印字及び特性評価》
上記調製したインク21〜25と、実施例1で調製したインク5(エチレングリコールジメタクリレートの添加量が0である比較の高分子微粒子Bを含有)及び実施例1で調製したインク3について、実施例1に記載の方法と同様にして、吐出安定性及び耐擦過性の評価を行い、得られた結果を表5に示す。
【0139】
【表5】

【0140】
表5に記載の結果より明らかなように、水100%から水:水溶性溶媒=50:50まで溶媒組成を変化させたときに、可逆的に固有粘度が減少する領域を有し、かつ全質量に対する架橋用単量体量の比率を0.05〜5.0質量%とした高分子微粒子を含有した本発明のインクは、吐出安定性及び耐擦過性がより向上していることが分かる。
【0141】
実施例5
実施例1〜4において、色材をカーボンブラックからC.I.フードブラック2に、またC.I.ピグメントレッド122に代えてC.I.ダイレクトブルー199に変更した以外は同様にして各インクを調製し、実施例1〜4と同様の評価を行った結果、色材として染料を用いたインクにおいても、吐出安定性及び耐擦過性が共に改良されることを確認することができた。
【0142】
しかしながら、実施例1〜4の顔料インクを用いて形成した画像と、染料インクを用いて形成した画像に関し、Xeフェードメーター(7万lux)を用いて48時間曝射したときの耐光性を評価した結果、実施例1〜4の顔料インクを用いて形成した画像が選りすぐれた効果を示し、吐出安定性及び耐擦過性に加えて、優れた画像保存性を付与するには、色材として顔料を用いることがより好ましいことを確認することができた。
【0143】
実施例6
実施例1〜4において、記録媒体としてアート紙(特菱アート、三菱製紙社製 坪量:127g/m2)に代えて、普通紙として坪量が80g/m2のコニカミノルタビジネステクノロジー社製のファーストクラス普通紙及びコート紙として印刷用コート紙(アートポスト 米坪:256g 北越製紙製)を用いて同様に画像形成を行い、得られた画像の耐擦過性を同様に評価した結果、本発明のインクを用いて形成した画像は、アート紙を用いた場合と同様に、いずれの記録媒体においても優れた耐擦過性が得られることを確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも色材、水、水溶性溶媒及び高分子微粒子を含有するインクジェットインクにおいて、該高分子微粒子が、溶媒組成を水単独から水/水溶性溶媒の混合比が1/1の混合溶媒まで変化させたときに、固有粘度が可逆的に減じる領域を有することを特徴とするインクジェットインク。
【請求項2】
溶媒組成を水単独から水/水溶性溶媒の混合比が1/1の混合溶媒まで変化させたときに、固有粘度が可逆的に減じる領域を有することを特徴とする請求項1記載のインクジェットインク。
【請求項3】
前記高分子微粒子がコア部C及びシェル部Sを有し、該シェル部Sが水親和性ゲルを含有することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記コア部Cに対する前記シェル部Sの質量比率(S/C)が、0.5〜40であることを特徴とする請求項3記載のインクジェットインク。
【請求項5】
前記高分子微粒子が、親水性部分架橋ゲル粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットインク。
【請求項6】
前記親水性部分架橋ゲル粒子が、全質量に対し架橋用単量体量を0.05〜5.0質量%含有することを特徴とする請求項5記載のインクジェットインク。
【請求項7】
前記色材が、顔料であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項8】
前記高分子微粒子と共に、少なくとも1種の他の高分子微粒子を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェットインクを、インクジェットヘッドを用いて、記録媒体に吐出して画像形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記記録媒体が、普通紙、アート紙及びコート紙から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項9記載のインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2006−206664(P2006−206664A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17879(P2005−17879)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】