説明

インクジェットプリントヘッドの前面のための、熱に安定な撥油性低接着性コーティング

【課題】既知の撥油性低接着性プリントヘッド前面コーティングに特徴的な表面特性は、プリントヘッド加工プロセス中に加えられる典型的な温度まで加熱すると、インクジェットプリントヘッド前面の汚れを可能な限り減らすのには足りない状態まで低下する。
【解決手段】撥油性低接着性コーティングが、インクジェットプリントヘッド前面の表面に配置される場合、紫外線ゲルインクの液滴、または固体インクの液滴は、45°よりも大きな接触角と、約30°よりも小さな低い滑り角を示す。前記撥油性低接着性コーティングは、熱に安定であり、表面の接触角および滑り角は、プリントヘッドの加工および製造中に、コーティングを180℃〜320℃の範囲または略この範囲の高温、および100psi〜400psiの範囲または略この範囲の高圧にさらした後、ほとんど分解していないことを示す。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
インクジェットプリンタは、インクジェットプリントヘッドから記録基板(例えば、紙)に対し、液体インクの液滴を吐出するか、または放出することによって画像を作成する。プリントヘッドは、典型的には、ヘッド内に形成されているノズル開口部を有する前面を有しており、このノズル開口部から、液体インクが、記録基板に向けて液滴として放出される。
【0002】
インクジェットプリントヘッドの前面は、インクで濡れるか、またはインクが垂れることによって汚れることがある。このような汚染によって、インクジェットプリントヘッド前面にあるノズル開口部が部分的または完全にふさがってしまう原因となるか、または原因のひとつとなることがある。このように開口部がふさがると、インク液滴がインクジェットプリントヘッドから放出される際の妨げとなり、インクジェットプリントヘッドから放出されるインク液滴の大きさが小さくなり過ぎるか、または大きくなり過ぎ、記録基板などに放出されたインク液滴の跡が所定量から変化し、このようなことから、インクジェットプリンタの印刷品質が悪化する。
【0003】
インクジェットプリントヘッドの前面は、典型的には、この事象を防ぐために、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(例えば、Teflon(登録商標))またはペルフルオロアルコキシ(PFA)のような材料でコーティングされている。Maverickのような現行のプリントヘッドは、Xerox固体インクとともに用いると、初期は良好な性能を示す。しかし、稼働寿命を過ぎると、性能が低下し、インクは、典型的なインク放出温度で、プリントヘッド前面コーティングから容易には滑り出てこなくなる。というよりも、インクは、プリントヘッド前面コーティングに付着し、コーティングに沿って流れ出て、インクが膜状になって残り、インクジェットプリントヘッド前面にあるノズル開口部を部分的または完全にふさいでしまうことがある。この問題は、UVゲルインクの場合にはもっと深刻であり、インクが垂れる原因となるプリントヘッドの欠陥が、初期段階で発生することがある。図1は、印刷操作後のインクジェットプリントヘッド前面の写真であり、ノズル開口部周囲の前面領域のほとんどがUV硬化性インクで濡れ、汚れていることを示している。したがって、堅牢性および信頼性を向上させ、将来的に、UVゲルインクを新しい市場に浸透させていくことを可能にするために、液垂れの問題が起こりにくい撥油性低接着性コーティングが重要である。
【0004】
インクジェットプリントヘッド前面の汚染は、パージ手順および/または拭き取り手順を行うことによって、ある程度は減らすことができる。しかし、これらの手順は、望ましくないほど時間がかかることがあり、および/または過剰量のインクを使用してしまうことがあり、そのため、インクジェットプリントヘッドの耐用期間を短くしてしまうことがある。また、インクジェットプリントヘッド前面の汚染は、プリントヘッドのノズル開口部から放出されるインクに対する濡れ性が大きくない撥油性低接着性プリントヘッド前面コーティングを施すことによっても、ある程度は減らすことができる。しかし、プリントヘッド加工プロセス中に加えられる典型的な温度まで加熱すると、既知の撥油性低接着性プリントヘッド前面コーティングに特徴的な表面特性は、インクジェットプリントヘッド前面の汚れを可能な限り減らすのには足りない状態まで低下してしまう。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】印刷操作後に、ポリテトラフルオロエチレンでコーティングされているプリントヘッド前面のノズル領域がUVゲルインクで汚れていることを示す写真である。
【図2】本発明のある実施形態にかかるインクジェットプリントヘッドの断面図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる、図2に示されたインクジェットプリントヘッドを作成するプロセスを示す。
【図4】本発明の一実施形態にかかる、図2に示されたインクジェットプリントヘッドを作成するプロセスを示す。
【図5】本発明の一実施形態にかかる、図2に示されたインクジェットプリントヘッドを作成するプロセスを示す。
【図6】撥油性低接着性コーティングに関し、重量減少% 対 温度のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
インクジェットプリントヘッド前面のための、撥油性低接着性ポリマー材料を含む撥油性低接着性表面コーティングが記載されている。インクジェットプリントヘッド前面表面に表面コーティングが施されている場合、紫外線(UV)ゲルインク(本明細書では、「UVインク」とも呼ばれる)の吐出された液滴、または固体インクの吐出された液滴は、表面コーティングに対し、低い接着性を示す。表面に対するインク滴の接着性は、インク滴の滑り角(すなわち、インク滴が、残留分を残さず、または染みを残さない状態で表面を滑り始めるときの、表面が水平面に対して傾いている角度)を測定することによって決定することができる。滑り角が小さいほど、インク滴と表面との接着性が低い。本明細書で使用される場合、用語「低接着性」は、紫外線硬化性ゲルインクまたは固体インクを用いて測定した場合、プリントヘッド前面表面に対する滑り角が、約30°未満と小さいことを意味する。ある実施形態では、紫外線硬化性ゲルインクまたは固体インクを用いて測定した場合、プリントヘッド前面表面に対する滑り角が、約25°未満と小さい。ある実施形態では、紫外線硬化性ゲルインクまたは固体インクを用いて測定した場合、プリントヘッド前面表面に対する滑り角が、約20°未満と小さい。ある実施形態では、紫外線硬化性ゲルインクまたは固体インクを用いて測定した場合、プリントヘッド前面表面に対する滑り角が、1°より大きい(または、約1°より大きい)。本明細書で使用される場合、撥油性低接着性表面コーティングは、紫外線ゲルインクまたは固体インクの液滴が、表面コーティングを、高温(例えば、180℃〜325℃の範囲の温度、または約180℃〜約325℃の範囲の温度)、高圧(例えば、100psi〜400psiの範囲の圧力、または約100psi〜約400psiの範囲の圧力)に所定時間(例えば、10分〜2時間の範囲の時間、または約10分〜約2時間の範囲の時間)さらした後にも、表面コーティングに対して低接着性を示すとき、「熱に安定」である。一実施形態では、表面コーティングは、表面コーティングを、290℃(または約290℃)の温度、300psi(または約300psi)の圧力に30分(または約30分)さらした後に、熱に安定である。したがって、表面コーティングを、なんら変性することなく、高温高圧でステンレス鋼開口留め具に結合することができる。その結果、得られたプリントヘッドは、インク液滴が、プリントヘッド前面から残留物を残さずに出て行くため、インクによる汚れを防ぐことができる。
【0007】
ある実施形態では、印刷装置は、前面と、この前面の表面に配置されている撥油性低接着性表面コーティングとを有するインクジェットプリントヘッドを備えている。撥油性低接着性表面コーティングは、紫外線ゲルインクの吐出された液滴、または固体インクの吐出された液滴が、45°より大きい(または、約45°より大きい)接触角を示すような構成の撥油性低接着性ポリマー材料を含んでいる。一実施形態では、紫外線ゲルインクの吐出された液滴、または固体インクの吐出された液滴が、55°より大きい(または、約55°より大きい)接触角を示す。別の実施形態では、紫外線ゲルインクの吐出された液滴、または固体インクの吐出された液滴が、65°より大きい(または、約65°より大きい)接触角を示す。一実施形態では、紫外線ゲルインクの吐出された液滴、または固体インクの吐出された液滴と、表面コーティングとの間で示される接触角には上限値はない。別の実施形態では、紫外線ゲルインクの吐出された液滴、または固体インクの吐出された液滴は、150°より小さい(または、約150°より小さい)接触角を示す。さらに別の実施形態では、紫外線ゲルインクの吐出された液滴、または固体インクの吐出された液滴は、90°より小さい(または、約90°より小さい)接触角を示す。プリントヘッドがインクで満たされたら、インクが放出されるときまで、インクがノズル内に保持されていることが望ましい。一般的に、インク接触角が大きいほど、液垂れ圧が良くなる(高くなる)。液垂れ圧は、インク槽(容器)の圧力が増したときに、開口板が、ノズル開口部からインクが流れ出るのを防ぐ能力に関連する。ある実施形態では、コーティングは、熱に安定であり、高温(例えば、180℃〜325℃の範囲の温度、または約180℃〜約325℃の範囲の温度)、高圧(例えば、100psi〜400psiの範囲の圧力、または約100psi〜約400psi)の範囲の圧力に、所定時間(例えば、10分〜2時間の範囲の時間、または約10分〜約2時間の範囲の時間)さらした後にも、この性質を保持しており、これにより、高い液垂れ圧を維持している。一実施形態では、コーティングは、熱に安定であり、290℃(または約290℃)の温度、300psiの圧力(または約300psiの圧力)に30分(または約30分)さらした後にも、この性質を保持しており、これにより、高い液垂れ圧を維持している。有益なことに、本明細書に記載されている撥油性低接着性表面コーティングは、紫外線硬化性ゲルインクおよび固体インクに対して接着性が低く、接触角が大きいのに加え、液垂れ圧が向上し、ノズルからインクが流れ出るのを減らすか、または完全になくす。
【0008】
ある実施形態では、撥油性低接着性表面コーティングは、少なくとも1つのイソシアネートと、ヒドロキシル(例えば、アルコール)で官能化されたフルオロ架橋材料とを含む、反応剤混合物の反応生成物である。一実施形態では、ヒドロキシルで官能化されたフルオロ架橋材料は、反応剤混合物中に、約30重量%(または約30重量%)〜90重量%(または約90重量%)の量で存在する。アルコールとイソシアネートとの反応生成物は、ウレタンを含んでいてもよい(例えば、ポリウレタンポリマー)。一実施形態では、ヒドロキシルで官能化されたフルオロ架橋材料は、少なくとも1つのペルフルオロポリエーテル化合物を含む。
【0009】
適切なイソシアネートとしては、イソシアネートのモノマー、オリゴマー、ポリマーがあげられ、(限定されないが)一般式R−(NCO)のものを含み、式中、Rは、アルキル基、アルキレン基、アリール基、アリーレン基、アリールアルキル基、アリールアルキレン基、アルキルアリール基、またはアルキルアリーレン基である。
【0010】
一実施形態では、Rは、アルキル基またはアルキレン基である(直鎖であり、分枝鎖であり、飽和であり、不飽和であり、環状であり、非環状であり、置換されており、置換されていないアルキル基およびアルキレン基を含み、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リンなどのようなヘテロ原子が、アルキル基またはアルキレン基に存在していてもよく、存在していなくてもよい)。一実施形態では、アルキル基またはアルキレン基は、少なくとも約8個の炭素原子を含む。別の実施形態では、アルキル基またはアルキレン基は、少なくとも約10個の炭素原子を含む。別の実施形態では、アルキル基またはアルキレン基は、少なくとも約12個の炭素原子を含む。一実施形態では、アルキル基またはアルキレン基は、約60個以下の炭素原子を含む。別の実施形態では、アルキル基またはアルキレン基は、約50個以下の炭素原子を含む。さらに別の実施形態では、アルキル基またはアルキレン基は、約40個以下の炭素原子を含む。しかし、炭素原子の数が、これらの範囲から外れていてもよいことが理解されるであろう。
【0011】
一実施形態では、Rは、アリール基またはアリーレン基である(置換されており、置換されていないアリール基およびアリーレン基を含み、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リンなどのようなヘテロ原子が、アリール基またはアリーレン基に存在していてもよく、存在していなくてもよい)。一実施形態では、アリール基またはアリーレン基は、少なくとも約5個の炭素原子を含む。別の実施形態では、アリール基またはアリーレン基は、少なくとも約6個の炭素原子を含む。一実施形態では、アリール基またはアリーレン基は、約50個以下の炭素原子を含む。別の実施形態では、アリール基またはアリーレン基は、約25個以下の炭素原子を含む。さらに別の実施形態では、アリール基またはアリーレン基は、約12個以下の炭素原子を含む。しかし、炭素原子の数が、これらの範囲から外れていてもよいことが理解されるであろう。
【0012】
一実施形態では、Rは、アリールアルキル基またはアリールアルキレン基である(置換されており、置換されていないアリールアルキル基およびアリールアルキレン基を含み、アリールアルキル基またはアリールアルキレン基のアルキル部分は、直鎖であるか、または分枝鎖であってもよく、飽和であるか、または不飽和であってもよく、環状であるか、または非環状であってもよく、置換されているか、または置換されていなくてもよく、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リンなどのようなヘテロ原子が、アリールアルキル基またはアリールアルキレン基のアリール部分またはアルキル部分のいずれかに存在していてもよく、存在していなくてもよい)。一実施形態では、アリールアルキル基またはアリールアルキレン基は、少なくとも約6個の炭素原子を含む。別の実施形態では、アリールアルキル基またはアリールアルキレン基は、少なくとも約7個の炭素原子を含む。一実施形態では、アリールアルキル基またはアリールアルキレン基は、約60個以下の炭素原子を含む。別の実施形態では、アリールアルキル基またはアリールアルキレン基は、約40個以下の炭素原子を含む。さらに別の実施形態では、アリールアルキル基またはアリールアルキレン基は、約30個以下の炭素原子を含む。しかし、炭素原子の数が、これらの範囲から外れていてもよいことが理解されるであろう。
【0013】
置換されたアルキル基、アルキレン基、アリール基、アリーレン基、アリールアルキル基、アリールアルキレン基、アルキルアリール基、アルキルアリーレン基の置換基は、(限定されないが)ハロゲン原子、イミン基、アンモニウム基、シアノ基、ピリジン基、ピリジニウム基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、エステル基、アミド基、カルボニル基、チオカルボニル基、サルフェート基、スルホネート基、スルフィド基、スルホキシド基、ホスフィン基、ホスホニウム基、ホスフェート基、ニトリル基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホン基、アシル基、酸無水物基、アジド基、アゾ基、シアネート基、イソシアネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、カルボキシレート基、これらの混合物などであってもよく、2個以上の置換基があわさって、環を形成していてもよく、nは、イソシアネート基の数をあらわす整数であり、例えば、イソシアネートモノマーの場合には1、2、3などであり、イソシアネートポリマーの場合には、必須の上限値はない。
【0014】
ジイソシアネートの例としては、以下の式を有するイソホロンジイソシアネート(IPDI)
【化1】


2,4−トルエンジイソシアネート(TDI);ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI);水素化ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(H12MDI);テトラ−メチルキシレンジイソシアネート(TMXDI);以下の式を有するヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート(HDI)
【化2】


ナフタレン−1,5−ジイソシアネート;3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニルジイソシアネート;3,3’−ジメチル−4,4’−ビメチル−4,4’−ビフェニルジイソシアネート;フェニレンジイソシアネート;4,4’−ビフェニルジイソシアネート;以下の式を有する2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートおよび2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート
【化3】


テトラメチレンキシレンジイソシアネート;4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルフェニルイソシアネート);1,12−ジイソシアネートドデカン;1,5−ジイソシアネート−2−メチルペンタン;1,4−ジイソシアネートブタン;ダイマージイソシアネートおよびシクロヘキシレンジイソシアネート、これらの異性体;HDIのウレチジオンダイマーなど、およびこれらの混合物があげられる。トリイソシアネートまたはその等価物の例としては、トリフェニルメタン−4,4’,4”−トリイソシアネート;トリス(p−イソシアナートフェニル)チオホスフェート;TDIなどのトリメチロールプロパントリマー、TDI、HDI、IPDIなどのイソシアヌレートトリマー、TDI、HDI、IPDIなどのビウレットトリマー、およびこれらの混合物が挙げられる。イソシアネート官能性がもっと高い例としては、TDI/HDIなどのコポリマー、MDIオリゴマー、およびこれらの混合物が挙げられる。ある実施形態では、イソシアネート部分は、アロファン酸で改変されたMDI、またはアロファン酸で改変されたMDIのポリマーであってもよい。ある実施形態では、イソシアネート部分は、従来技術に記載されており(米国特許第4,863,986号;米国特許第4,704,420号;米国特許第6,071,564号)、Fluorobase−Zとしてすでに市販されているような、ポリイソシアン酸官能基を有する(ペル)フルオロポリエーテル系プレポリマーであってもよい。ある実施形態では、適切なイソシアネートは、Desmodur(登録商標)、Mondur(登録商標)またはImpranil(登録商標)の名称で得られてもよく、例えば、Bayer Materials Scienceから入手可能なDesmodur N 3300(登録商標)、Desmodur N 3790(登録商標)など、またはこれらの混合物で得られてもよい。
【0015】
適切なペルフルオロポリエーテル化合物としては、ヒドロキシルで一官能化または二官能化されたモノマー、オリゴマー、ポリマーのペルフルオロポリエーテル化合物が挙げられる。ヒドロキシルで二官能化された適切なペルフルオロポリエーテル化合物の例としては、(限定されないが)一般式
【化4】


を有するものが挙げられ、式中、aは、0〜20の範囲の整数であり、bおよびcは、0〜50の範囲の整数であり、但し、bおよびcの少なくとも1つはゼロではない。一実施形態では、適切な二官能ペルフルオロポリエーテル化合物は、以下の式によってあらわすことができる。
HOCHCFO(CFCFO)(CFO)CFCHOH
【0016】
ある実施形態では、ヒドロキシルで二官能化された適切なペルフルオロポリエーテル化合物は、Solvay Solexisから入手可能なFluorolink(登録商標)、例えば、Fluorolink D(登録商標)、Fluorolink D10(登録商標)、Fluorolink D10H(登録商標)、Fluorolink E10(登録商標)、Fluorolink E10H(登録商標)などの名称で得られてもよく、またはこれらの混合物であってもよい。
【0017】
1つ以上のペルフルオロポリエーテル化合物と、1つ以上のイソシアネートと縮合させることによる、ウレタン化合物など、またはこれらの混合物を製造するための任意の適切な反応条件を用い、撥油性低接着性プリントヘッド前面コーティングのポリマーを調製してもよい。典型的には(必須ではないが)、任意の反応触媒(例えば、ジブチルスズジラウレート、ビスマストリス−ネオデカノエート、コバルトベンゾエート、リチウムアセテート、オクタン酸スズ、トリエチルアミンなど)が存在する条件で、反応を種々の温度(例えば、約25℃〜約160℃)で行ってもよい。他の例示的な触媒としては、Rheine Chemie製のRC触媒が挙げられる。
【0018】
反応剤のモル比を、わずかにモル過剰のアルコールを用いた反応において、イソシアネート官能基が完全に消費されるように調節することができる。反応剤を任意の順序で加えてもよく、および/または物理的な混合物として反応物に加えてもよい。所望な場合、いくつかの理由で、反応条件、反応剤を加える順序を制御し、発熱反応を制御し、ジイソシアネートとアルコール混合物などとを反応させるときの分子分布を調節してもよい。
【0019】
これらの調節を行なうとき、アルコールとアミンが、イソシアネートに対して反応性が異なることを用いてもよく、イソホロンジイソシアネートのようなジイソシアネートの2個の別個のイソシアネート基の反応性が異なることを用いてもよい。例えば、この化学のさらなる説明は、Interscience of New York,N.Y.によって1962に公開されたJ.H.SaundersおよびK.C.Frisch’s「Polyurethanes Part I,Chemistry」、およびOlin Chemicals’ LUXATE(登録商標)IM isophorone diisocyanate technical product information sheetを参照(これらの開示内容は、その全体が参考として本明細書に組み込まれる)。分子分布を調節することによって、特定の用途に向けて設計された、制御された粘度を有し、制御されたガラス転移点および/または融点を有し、バッチごとに一貫性のある性質などを有する最終生成物を制御することができる。
【0020】
一実施形態では、反応生成物の酸化または黄変を防ぎ、水分による望ましくない副反応を防ぐために、不活性雰囲気(例えば、アルゴンガスまたは窒素ガスまたは他の適切なガス)で反応条件を実施してもよい。反応は、ニートで(すなわち、無溶媒で)行ってもよく、場合により、望ましい溶媒または有効な溶媒を用いてもよい。適切な溶媒の例としては、キシレン、トルエン、ベンゼン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、ジクロロベンゼン、N−メチルピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、酢酸ブチル、酢酸アミル、HFE 7200(3M)、HFE 7500(3M)、Solvosol(Dow)など、およびこれらの混合物が挙げられる。使用可能な別の例示的な溶媒は、Cytonix LLCから入手可能なFCL 52溶媒である。
【0021】
イソシアネートを、アルコールのような化合物と反応させる反応は、例えば、米国特許公開第2004/0077887号、米国特許第6,821,327号、米国特許公開第2004/0082801号、米国特許公開第2004/0167249号、米国第10/918,053号、第10/918,619号にも開示されており、これらの開示内容は、その全体が本明細書に参考として組み込まれる。
【0022】
本明細書に開示されている撥油性低接着性表面コーティングを、記録基板に対してインクを放出するように構成された、インクジェットプリントヘッドのための濡れ防止性プリントヘッド前面コーティングとして使用することができる。普通紙、例えば、XEROX(登録商標)4024紙、XEROX(登録商標)Image Series紙、Courtland 4024 DP紙、罫線付きノート紙、ボンド紙、シリカでコーティングされた紙、例えば、Sharp Companyのシリカでコーティングされた紙、JuJo紙、Hammermill Laserprint紙など、透明材料、布地、繊維製品、プラスチック、ポリマー膜、無機基板(例えば、金属および木材)などを含む、任意の適切な記録基板を用いてもよい。
【0023】
ある実施形態では、プリントヘッドは、プリントヘッドの表面に配置される前面と、撥油性低接着性ポリマー材料を含む撥油性低接着性コーティングとを含み、紫外線ゲルインクの吐出された液滴、または固体インクの吐出された液滴は、表面コーティングに対する接触角が、45°より大きい(または、約45°より大きい)。ある実施形態では、接触角が55°より大きい(または、約55°より大きい)。ある実施形態では、接触角が65°より大きい(または、約65°より大きい)。一実施形態では、紫外線ゲルインクの吐出された液滴、または固体インクの吐出された液滴と、表面コーティングとの間で示される接触角には上限値はない。別の実施形態では、接触角は、150°より小さい(または、約150°より小さい)。別の実施形態では、接触角は、90°より小さい(または、約90°より小さい)。インク接触角が大きいほど、液垂れ圧が高くなる。液垂れ圧は、インク槽(容器)の圧力が増したときに、開口板が、ノズルからインクが流れ出るのを防ぐ能力に関連する。ある実施形態では、コーティングは、紫外線硬化性ゲルインクおよび固体インクに対し、接着性が低く、接触角が大きいとともに、有益なことに、液垂れ圧に影響を与える。ある実施形態では、本明細書のコーティングは、30°より小さい(または、約30°より小さい)低い滑り角を有する。ある実施形態では、滑り角は、25°より小さい(または、約25°より小さい)。ある実施形態では、滑り角は、1°より大きい(または、約1°より大きい)。接触角は、液滴の大きさにあまり影響を与えない。しかし、5〜10μリットルのUVインクまたは固体インクの液滴を表面コーティングに置いて、接触角を測定してもよい。7〜12μリットルのUVインクまたは固体インク液滴を表面コーティングに置いて、滑り角を測定してもよい。
【0024】
本明細書に記載される実施形態では、撥油性低接着性コーティングは、熱に安定であり、それにより、高温(例えば、180℃〜325℃の範囲の温度、または約180℃〜約325℃の範囲の温度)、高圧(例えば、100psi〜400psiの範囲の圧力、または約100psi〜約400psi)の範囲の圧力に、所定時間(例えば、10分〜2時間の範囲の時間、または約10分〜約2時間の範囲の時間)さらした後にも、1°〜30°の範囲の(または、約1°〜30°の範囲の)低い滑り角と、45°〜150°の範囲の(または、約45°〜約150°の範囲の)高い接触角を有する。一実施形態では、撥油性低接着性コーティングは、290℃(または約290℃)の温度、300psi(または約300psi)の圧力に30分(または約30分)さらした後にも、熱に安定である。高密度Piezoプリントヘッドの加工は、高温高圧の接着結合工程を必要とする。したがって、前面コーティングが、これらの高温高圧条件に耐えることが望ましいだろう。本明細書に記載されている撥油性低接着性表面コーティングの高温高圧での安定性は、現行のプリントヘッド製造プロセスにふさわしい。
【0025】
インクジェットプリントヘッドの前面にコーティングされる場合、撥油性低接着性表面コーティングは、撥油性低接着性コーティングの表面に残るインク液滴が、単純な自己洗浄様式でプリントヘッドを滑り落ちるように、インクジェットプリントヘッドから放出されるインクに対して十分に低い接着性を示す。インクジェットプリントヘッドの前面に時折みられるような塵、紙粒子などの汚れ物質は、インク液滴を滑らすことによって、インクジェットプリントヘッド前面から離してもよい。したがって、撥油性低接着性プリントヘッド前面コーティングは、自己洗浄性であり、汚れ物質を含まないインクジェットプリントヘッドを与えてもよい。
【0026】
本明細書で使用される場合、撥油性低接着性コーティングは、インクジェットプリントヘッドから放出されるインクに対し、「十分に低い濡れ性」を示してもよく、インクと撥油性低接着性コーティングとの接触角は、一実施形態では、45°より大きく、別の実施形態では、約55°より大きい。
【0027】
本明細書に開示されている撥油性低接着性コーティングは、任意の適切なインクジェットプリンタ(例えば、連続式インクジェットプリンタ、サーマルドロップオンデマンド(DOD)インクジェットプリンタ、ピエゾ式DODインクジェットプリンタ)のインクジェットプリントヘッドのための撥油性低接着性プリントヘッド前面コーティングとして利用されてもよい。本明細書で使用される場合、用語「プリンタ」は、任意の目的のための印刷出力機能を発揮するデジタル複写機、製本機、ファクシミリ機、多機能機などの任意の装置を包含する。
【0028】
本明細書に開示されている撥油性低接着性コーティングを、任意の適切なインク(例えば、水系インク、溶媒インク、UV硬化性インク、昇華染料インク、固体インクなど)を放出する構成になっているインクジェットプリントヘッドのための撥油性低接着性プリントヘッド前面コーティングとして用いてもよい。本明細書に開示されている撥油性低接着性コーティングで使用するのに適した、例示的なインクジェットプリントヘッドを、図2によって記載している。
【0029】
図2を参照し、本発明の一実施形態にかかるインクジェットプリントヘッド20は、支持具22と、支持具22に結合したノズル板24と、撥油性低接着性コーティング(例えば、撥油性低接着性コーティング26)とを含んでいる。
【0030】
支持具22は、ステンレス鋼のような任意の適切な材料で作られており、この支持具に形成されている開口部22aを備えている。開口部22aは、インク源(示されていない)とつながっていてもよい。ノズル板24は、ポリイミドのような任意の適切な材料で作られており、この板に形成されているノズル24aを備えている。ノズル24aは、インク源からのインクを、プリントヘッド20からノズル24aを経て記録基板に吐出することができるように、開口部22aによってインク源とつながっていてもよい。
【0031】
図示されている実施形態では、ノズル板24は、間に挟まった接着性材料28によって、支持具22に結合している。接着性材料28は、熱可塑性接着剤として与えられてもよく、ノズル板24を支持具22に結合する結合プロセス中に溶融させてもよい。典型的には、ノズル板24および撥油性低接着性コーティング26も、結合プロセス中に加熱される。熱可塑性接着剤を形成させる材料に依存して、結合温度は、180℃〜325℃の範囲(または約180℃〜約325℃の範囲)であってもよい。
【0032】
従来の撥油性低接着性コーティングは、典型的な結合プロセスまたはインクジェットプリントヘッド加工中に直面する他の高温高圧プロセス中に直面する温度にさらされると、分解する傾向がある。しかし、本明細書に開示されている撥油性低接着性コーティング26は、結合温度まで加熱した後のインクに対し、十分に低い接着性(低い滑り角で示される)と、高い接触角とを示す。したがって、撥油性低接着性コーティング26は、自己洗浄性であり、汚れ物質を含まず、液垂れ圧が高いインクジェットプリントヘッド20を与えてもよい。撥油性低接着性コーティング26が、高温にさらされたときに、望ましい表面特性(例えば、低い滑り角および高い接触角を含む)が実質的に低下しない能力によって、高い液垂れ圧を維持しつつ、自己洗浄性を有するインクジェットプリントヘッドを、高温高圧プロセスを用いて加工することができる。インクジェットプリントヘッドを作成する例示的なプロセスは、図2〜5に記載されている。
【0033】
図3を参照すると、インクジェットプリントヘッド(例えば、インクジェットプリントヘッド20)は、撥油性低接着性コーティング(例えば、撥油性低接着性コーティング26)を基板32の上に作成することによって作られてもよい。基板32は、ポリイミドのような任意の適切な材料によって作られてもよい。
【0034】
一実施形態では、撥油性低接着性コーティング26は、まず、上述のように、少なくとも1つのイソシアネートおよび少なくとも1つのペルフルオロポリエーテル化合物を含む反応混合物を塗布することによって、基板32の上に作られてもよい。反応剤混合物を基板32に塗布した後、反応剤を反応させ、撥油性低接着性コーティング26を作成する。反応剤は、例えば、反応剤混合物を硬化させることによって反応させることができる。一実施形態では、反応剤混合物を、最初に約130℃の温度で約30分〜2時間加熱し、次いで、約290℃の高温で約30分〜2時間、後硬化させる。
【0035】
一実施形態では、ダイ押出コーティング、浸漬コーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スタンプ印刷、ブレード技術のような任意の適切な方法を用い、反応剤混合物を基板32に塗布してもよい。空気噴霧デバイス(例えば、エアブラシまたは自動空気/液体スプレー)を用い、反応剤混合物を噴霧してもよい。空気噴霧デバイスを、均一な(または実質的に均一な)量の反応剤混合物で基板32の表面を覆う均一なパターンを作るように動く自動レシプロケータに取り付けてもよい。ドクターブレードを用いるのは、反応剤混合物を塗布するのに使用可能な別の技術である。フローコーティングにおいて、プログラミング可能なディスペンサーを用い、反応剤混合物を塗布する。
【0036】
図4を参照すると、基板32を接着性材料28によって開口具22に結合し、図5に示されている構造を得る。一実施形態では、接着性材料28は、基板32に結合する前に、開口具22に結合する。別の実施形態では、接着性材料28は、開口具22に結合する前に、基板32に結合する。さらに別の実施形態では、接着性材料28は、基板32と開口具22に同時に結合する。
【0037】
接着性材料28が熱可塑性接着剤として提供される実施形態では、接着性材料28は、熱可塑性接着剤を結合温度および結合圧力で溶融し、撥油性低接着性コーティング26を結合温度および結合圧力にすることによって、基板32と開口具22に結合する。一実施形態では、結合温度は、少なくとも約290℃である。一実施形態では、結合温度は、少なくとも約310℃であってもよい。別の実施形態では、結合温度は、少なくとも約325℃であってもよい。一実施形態では、結合圧力は、少なくとも約100psiである。一実施形態では、結合圧力は、少なくとも約300psiであってもよい。
【0038】
図2に示されるように、基板32を開口具22に結合した後、接着性材料28内に開口部22aを広げていく1つ以上のパターン化プロセス中、開口具22をマスクとして使用してもよい。また、基板32内にノズル24aを作成する1つ以上のパターン化プロセス中、開口具22をマスクとして使用してもよく、それによって、図2に示されるようなノズル板24が得られる。また、ノズル24aを作成するために使用される1つ以上のパターン化プロセスを適用し、撥油性低接着性コーティング26の中にノズル開口部26aを作成してもよく、ここで、ノズル開口部26aは、ノズル24aとつながっている。一実施形態では、レーザーアブレーションパターン化プロセスなどによって接着性材料28の中に開口部22aを広げてもよい。一実施形態では、ノズル24aおよびノズル開口部26aを、それぞれ、レーザーアブレーションパターン化プロセスなどによって基板32および撥油性低接着性コーティング26の中に作成してもよい。
【0039】
以下、特定の実施形態を詳細に記載する。これらの実施例は、例示を意図しており、特許請求の範囲は、これらの実施形態に記載されている材料、条件またはプロセスパラメータに限定されない。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
5.5gのFluorolink−D(Solvay−Solexis製)、1.5gのDesmodur 3300、1.0gのDesmodur 3790(Bayer製)、0.05gのRC触媒、85mLのFCL52溶媒(Cytonix製)をビーカーで混合した。内容物を25℃で30分間撹拌し、次いで、ドローバーコーターを用い、ポリイミド基板表面をコーティングした。このコーティングに対し、オーブン中、130℃の温度で30分間、第1の硬化処理を行った。次いで、コーティングに対し、炉中、温度を5℃/分で室温から290℃まで上げていき、次いで290℃に30分間維持することによって、第2の硬化処理を行ない、コーティング1を作成した。このコーティングの接触角および滑り角を、コンピュータ制御された自動液体堆積システム、コンピュータ制御された傾斜ベースユニット(TBU90E)、コンピュータによる画像処理システムから構成されるDataphysics製OCA20ゴニオメータで決定した。
【0041】
典型的な静的接触角測定において、約5μLのヘキサデカンまたは約3μLのUVインク(典型的なインク吐出温度80℃で)、1μLの固体インク(典型的なインク吐出温度115℃で)を、コーティング表面に穏やかに堆積させ、コンピュータソフトウェア(SCA20)を用いて静的接触角を決定し、それぞれの報告されているデータは、5個より多い個々の測定値の平均である。
【0042】
滑り角の測定は、ヘキサデカン、UVインク(典型的なインク吐出温度80℃で)、固体インク(典型的なインク吐出温度115℃で)の約10μLの液滴を用い、傾斜ベースユニットTBU90Eを用い、ベースユニットを1°/秒の速度で傾けることによって行った。滑り角は、試験液滴(ヘキサデカン、UVインク、または固体インク)が、残留分を残さず、または染みを残さない状態で、コーティングされたポリイミド基板を滑り始めるような、コーティングされたポリイミド基板の傾いた角度であると定義される。
【0043】
以下の表1は、実施例1にしたがって調製されたコーティングについて、接触角および滑り角をまとめたものである。
【表1】

【0044】
(実施例2)
4.5gのFluorolink−D(Solvay−Solexis製)、1.5gのDesmodur 3300、1.0gのDesmodur 3790(Bayer製)、0.05gのRC触媒、85mLのFCL52溶媒(Cytonix製)をビーカーで混合した。内容物を25℃で30分間撹拌し、次いで、ドローバーコーターを用い、ポリイミド基板表面をコーティングした。まず、コーティングに対し、実施例1に記載した第1の硬化処理および第2の硬化処理を行ない、コーティング2を作成した。コーティングされた膜の接触角および滑り角を、これもまた実施例1に記載の手順を用いて決定した。以下の表2は、実施例2にしたがって調製されたコーティングについて、接触角および滑り角をまとめたものである。
【表2】

【0045】
(実施例3)
6.5gのFluorolink−D(Solvay−Solexis製)、1.5gのDesmodur 3300、1.0gのDesmodur 3790(Bayer製)、0.05gのRC触媒、85mLのFCL52溶媒(Cytonix製)をビーカーで混合した。内容物を25℃で30分間撹拌し、次いで、ドローバーコーターを用い、ポリイミド基板表面をコーティングした。まず、コーティングに対し、実施例1に記載した第1の硬化処理および第2の硬化処理を行ない、コーティング3を作成した。このコーティングの接触角および滑り角を、これもまた実施例1に記載の手順を用いて決定した。以下の表3は、実施例3にしたがって調製されたコーティングについて、接触角および滑り角をまとめたものである。
【表3】

【0046】
(実施例4)
実施例4において、コーティング4を実施例1に記載の手順にしたがって調製し、コーティング5を実施例2に記載の手順にしたがって調製し、コーティング6を実施例3に記載の手順にしたがって調製した。しかし、コーティング4、5、6については、実施例1に記載の第1の硬化処理のみを行なった。コーティング4、5、6の表面特性を、実施例1に記載の手順にしたがった接触角測定によって決定した。以下の表4は、実施例4にしたがって調製されたコーティングについて、接触角および滑り角をまとめたものである。
【表4】

【0047】
(実施例5(比較例))
ステンレス鋼プリントヘッドを、米国特許第5,867,189号に記載のプロセスを用いて調製した。開口板を、E−Beamスパッタリング技術を用いてPFAでコーティングし、それによってコーティング7を作成した。コーティング7に対する接触角および滑り角を実施例1に記載の手順を用いて決定し、データを表5にまとめている。相対的に、コーティング7に対する接触角は、コーティング1〜3に対する接触角と同様であるが、コーティング7に対する滑り角は、コーティング1〜3に対する滑り角よりもかなり大きい。滑り角が小さいことは、インク滴とコーティング表面との間の接着性が低いということであり、一方、滑り角がどの程度であるかは、インク滴とコーティング表面との間の接着性が高いということである。
【表5】

【0048】
(実施例6)
コーティング1およびコーティング4を、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの溶融したインク混合物に140℃で2日間浸すことによって、インク老化実験を行った。インクを老化させる前後の接触角および滑り角を測定した。接触角および滑り角のデータを表6にまとめている。このデータは、実施例1の手順で加工されたコーティングが、インクの老化に対し、堅牢性が高いことを示している。実施例1において、コーティング1を290℃で30分〜2時間、後硬化したが、一方、コーティング4は、130℃で30分間硬化させただけであった。
【表6】

【0049】
(実施例7)
コーティング1および4について、熱重量分析(TGA)を行なった。コーティング1および4を、風袋を測定した白金皿に入れて秤量し、TA TGA Q500装置を用い、酸化(空気)環境で試験した。サンプルを45℃で10分間かけて平衡状態にし、次いで、25ml/分の空気流を流しつつ、毎分10℃で加熱した。重量減少プロフィール 対 温度を記録し、図6に示されているグラフの形で与えている。図6に示されるように、コーティング1は、分解発生温度が315℃であり、30〜300℃では、重量減少はほんの2%であった。このことは、コーティング1が良好な熱安定性を有していることを示していた。対照的に、コーティング4は、分解発生温度が200℃であり、30〜300℃で重量減少が47%であり、このことは、熱安定性が悪いことを示している。
【0050】
(実施例8)
プリントヘッドを加工する接着剤の結合を模倣するオフライン試験において、コーティング1および4について、高温高圧の結合工程を行なった(例えば、290℃、300psiで30分間)。接触角および滑り角を結合工程前後に測定した。接触角および滑り角のデータを表8にまとめている。コーティング1の接触角および滑り角は、変化していないことがわかり、コーティング4では分解が観察された。
【表7】

【0051】
(実施例9(本明細書に開示されている実施形態にしたがう、撥油性低接着性コーティングを用いたプリントヘッドの加工))
まず、ノズルのアレイを、レーザーアブレーション技術によって、低接着性コーティングでコーティングされたポリイミド膜(例えば、実施例1のコーティング1)で加工した。次いで、ポリイミド膜をステンレス鋼開口具に整列させ、高温接着剤を用い、290℃、300psiで30分かけて結合させた。次いで、低接着性コーティング(コーティング1)を有する開口板を含む、得られた開口アセンブリを接着し、ジェットスタック/PZTアセンブリおよびマニホルドに結合し、プリントヘッドを得た。得られたプリントヘッドの前面は、コーティング1と同じ表面特性を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットプリントヘッド前面のためのコーティングであって、このコーティングが、
撥油性低接着性コーティングを含み、紫外線(UV)ゲルインクの液滴、または固体インクの液滴が、このコーティングを少なくとも200℃の温度に少なくとも30分間さらした後に、コーティング表面に対し、約30°未満の滑り角を示する、コーティング。
【請求項2】
前記撥油性低接着性コーティングが、
第1のイソシアネート化合物と;
ヒドロキシルで官能化されたフルオロ架橋材料とを含む、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
前記第1のイソシアネート化合物が、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素化MDI、テトラ−メチルキシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナートシクロヘキシル)メタン、HDI、IPDI、TDIおよびMDIのうち1つ以上のジイソシアン酸モノマーのウレチジオンダイマー、HDI、IPDIおよびTDIのうち1つ以上のジイソシアン酸モノマーが環化三量化したイソシアン酸化合物、イソシアネート(−NCO)官能基を含む適切なオリゴマー、ポリマーまたはコポリマー、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項2に記載のコーティング。
【請求項4】
前記ヒドロキシルで官能化されたフルオロ架橋材料が、少なくとも1つのジヒドロキシペルフルオロポリエーテル化合物を含む、請求項2に記載のコーティング。
【請求項5】
前記撥油性低接着性コーティングが、前記第1のイソシアネート化合物とは異なる第2のイソシアネート化合物をさらに含む、請求項2に記載のコーティング。
【請求項6】
前記第2のイソシアネート化合物が、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素化MDI、テトラ−メチルキシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナートシクロヘキシル)メタン、HDI、IPDI、TDIおよびMDIのうち1つ以上のジイソシアン酸モノマーのウレチジオンダイマー、HDI、IPDIおよびTDIのうち1つ以上のジイソシアン酸モノマーが環化三量化したイソシアン酸化合物、イソシアネート(−NCO)官能基を含む適切なオリゴマー、ポリマーまたはコポリマー、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項5に記載のコーティング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−40876(P2012−40876A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175541(P2011−175541)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】