説明

インクジェットヘッドの駆動方法

【課題】簡単な制御で、インクジェットヘッドの温度を制御することができると共に、吐出ノズル相互間の温度を均一にすることができるインクジェットヘッドの駆動方法を提供する。
【解決手段】画像データに基づいて、インクを吐出する吐出ノズル32に対応する圧電素子43に吐出駆動波形PAを印加すると共に、これ以外の吐出ノズル32に対応する圧電素子43に、不吐出駆動波形PBを印加するインクジェットヘッド11の駆動方法であって、インクジェットヘッド11の温度を測定し、インクジェットヘッド11の適正駆動電圧Vに対する吐出駆動波形PAの吐出駆動電圧V1の出力比率を、測定した温度に基づいて可変とし、インクジェットヘッド11の適正駆動電圧Vに対する不吐出駆動波形PBの不吐出駆動電圧V2の出力比率を、常に一定とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像情報(描画データ)に基づいて、インクを吐出する吐出ノズルに対応する素子部に吐出駆動波形を印加すると共に、インクを吐出しない吐出ノズルに対応する素子部に不吐出駆動波形を印加するインクジェットヘッドの駆動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のインクジェットヘッドの駆動方法を実施するインクジェットプリンターとして、各吐出ノズルに対応するピエゾ素子に、インクを吐出するための駆動波形(吐出駆動波形)と、インクを吐出することなく加熱する加熱波形(不吐出駆動波形)と、を出力可能に構成されたものが知られている(特許文献1参照)。
このインクジェットプリンターでは、画像形成領域内においては、画像情報に基づいて、インクと吐出する吐出ノズルに対応するピエゾ素子に駆動波形が印加されて画像形成が行われる一方、画像形成領域外においては、全吐出ノズルに対応するピエゾ素子に加熱波形が印加されて、インクジェットヘッド(インク)の加熱が行われる。
画像形成領域内においてピエゾ素子に印加される駆動波形は、ピエゾ素子を伸縮させてインクを吐出させるための波形である。一方、画像形成領域外においてピエゾ素子に印加される加熱波形は、ピエゾ素子を伸縮させてインクを吐出することなく発熱させるための波形である。そして、画像形成領域外においては、インクジェットヘッドに設けたサーミスタの測定温度に基づいて、加熱波形の振幅(電圧)や周波数を連続的に可変させて、インクジェットヘッドが所定の温度となるように制御している。また、画像形成領域内において、インクを吐出しない吐出ノズルに対して、同様に温度制御を行うことも可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−138798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、従来のインクジェットヘッドの駆動方法では、インクジェットヘッドが所定の温度となるように、加熱波形の振幅(電圧)や周波数を連続的に可変させるようにしているため、制御が極めて複雑になる問題があった。このため、画像形成領域内において、加熱波形の制御を行う場合には、温度に追従し切れなくなる問題がある。また、画像形成領域外において、加熱波形の制御を行う場合には、画像形成領域内におけるインクジェットヘッドが周囲温度の影響を受けるため、吐出ノズル相互間の温度が均一にならなくなる問題がある。
【0005】
本発明は、簡単な制御で、インクジェットヘッドの温度を制御することができると共に、吐出ノズル相互間の温度を均一にすることができるインクジェットヘッドの駆動方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のインクジェットヘッドの駆動方法は、描画対象物に描画を行なうための画像情報に基づいて、インクを吐出する吐出ノズルに対応する素子部に吐出駆動波形を印加すると共に、インクを吐出する吐出ノズル以外の吐出ノズルに対応する素子部に、インクを吐出しない駆動波形である不吐出駆動波形を印加するインクジェットヘッドの駆動方法であって、インクジェットヘッドの温度を測定し、インクジェットヘッドの適正駆動電圧に対する吐出駆動波形の吐出駆動電圧の出力比率を、測定した温度に基づいて可変とし、インクジェットヘッドの適正駆動電圧に対する不吐出駆動波形の不吐出駆動電圧の出力比率を、常に一定とすることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、インクジェットヘッドの温度変化に基づいて、インクジェットヘッドの適正駆動電圧に対する吐出駆動波形の吐出駆動電圧の出力比率のみを可変させる構成であるため、インクジェットヘッドの制御を極めて簡単に行うことができる。また、画像情報に基づくインクを吐出しない吐出ノズルの素子部には、インクジェットヘッドの適正駆動電圧に対する不吐出駆動波形の不吐出駆動電圧の出力比率を、常に一定とした不吐出駆動波形を印加するようにしているため、インクジェットヘッドにおける吐出ノズル相互間の温度を均一にすることができる。
【0008】
この場合、インクの粘度に対応して、インクジェットヘッドの目標温度が設定され、測定した温度が目標温度以下の場合、吐出駆動電圧の出力比率を適正駆動電圧の100%以上とし、測定した温度が目標温度を越える場合、吐出駆動電圧の出力比率を、適正駆動電圧の100%未満とすることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、インクジェットヘッドの温度に合わせた吐出駆動電圧を選択できるため、インクジェットヘッドが目標温度になるように、インクを吐出する吐出ノズルの素子部を、効率良く駆動することができる。また、インクの粘度を適切な粘度に近づけた状態で、吐出することができる。
【0010】
この場合、目標温度は、描画対象物への描画品質が保証される最低環境温度下において、適正駆動電圧に対する吐出駆動波形の吐出駆動電圧の出力比率を100%として全ての素子部を連続駆動した状態で、インクジェットヘッドの発熱量と放熱量とが均衡したときのインクジェットヘッドの温度であることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、描画対象物への描画品質が保証した状態で、インクジェットヘッドの環境温度とインクジェットヘッドの最大発熱量とを加味して目標温度を設定するようにしているため、環境温度(現時点の温度)に応じて、インクジェットヘッドの駆動を無理なく制御することができる。
【0012】
この場合、インクジェットヘッドは、最低環境温度に管理された雰囲気中で駆動することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、主として、インクジェットヘッドの最大発熱量に基づいて目標温度が定まるため、個体差を加味してインクジェットヘッドを効率良く駆動することができる。
【0014】
一方、不吐出駆動波形は、不吐出駆動電圧の出力比率を適正駆動電圧の50%以下とした複数の駆動パルスで構成されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、インクの不吐出を維持しつつ、吐出駆動波形を印加した時の発熱量とほぼ同一の発熱量を得ることができ、インクジェットヘッドにおける吐出ノズル相互間の温度を均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係るインクジェット記録装置の外観斜視図である。
【図2】実施形態に係るインクジェットヘッドの側面図である。
【図3】インクジェットヘッドのヘッド本体の構造図である。
【図4】インクジェットヘッドに印加される吐出駆動波形(a)および不吐出駆動波形(b)の波形図である。
【図5】インクジェットヘッドの駆動制御系のブロック図である。
【図6】インクジェットヘッドの駆動方法において、ヘッド温度が低め(a)、中間(b)、高め(c)のときの駆動波形の波形図である。
【図7】インクジェットヘッドの駆動方法を表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドの駆動方法を適用したインクジェット記録装置について説明する。このインクジェット記録装置は、高粘性のインク(例えば、紫外線硬化型インク)を導入し、記録媒体にインクジェット方式で描画を実施するものであり、インクジェットヘッドが駆動により発熱することに着眼し、熱によりインクの粘度を下げてインク吐出を行うようにしている。
【0018】
図1は、インクジェット記録装置1の全体斜視図であり、同図に示すように、インクジェット記録装置1は、装置本体2と、装置本体2を収容するチャンバー3とで構成されている。
装置本体2は、インクジェットヘッド11と、インクジェットヘッド11を保持するキャリッジ12と、キャリッジ12を介してインクジェットヘッド11をX軸方向に移動させるヘッド移動機構13と、インクジェットヘッド11に対峙する記録媒体14(描画対象物)をY軸方向に送る媒体送り機構15と、これら構成装置を統括制御する制御手段16(図5参照)と、備えている。また、インクジェットヘッド11には、図外のインクタンクからインクが供給される。
【0019】
制御手段16は、ヘッド移動機構13を駆動し、インクジェットヘッド11をX軸方向に往復動させながら、描画データ(画像情報)に基づいて、インクジェットヘッド11を駆動する(主走査)一方、媒体送り機構15を駆動し、記録媒体14をY軸方向に間欠送り(改行送り:副走査)する。これにより、記録媒体14に対し、描画データに基づくインクの吐出が行われ、すなわち所望の描画(印刷)が実施される。
【0020】
図示しないが、チャンバー3にはヒーターが内蔵されており、チャンバー3内の雰囲気は所定の温度に管理されている。本実施形態では、駆動により発熱するインクジェットヘッド11の発熱量で、インクを設定した目標温度に昇温するが、この昇温のための熱量を補うと共に、温度変化する周囲温度の影響を排除すべく、チャンバー3内の雰囲気は所定の温度に管理されている。また、この所定の温度は、描画品質を保証することができる最低温度(最低環境温度)ともなっている。
【0021】
詳細は後述するが、例えばチャンバー3内の雰囲気、すなわち上記の最低温度を40℃で管理し、インクジェットヘッド11の発熱による温度上昇を5℃と見込むと、インクの目標温度は45℃に設定され、この目標温度となるように、インクジェットヘッド11の駆動が制御される。このようにしてインクジェットヘッド11が昇温されと、インクの粘度は低下し(但し、一般的なインクより粘度は高い)、低下した状態で吐出される。そして、この温度管理による粘度調整と後述する駆動波形の調整とにより、本実施形態のインクジェット記録装置1では、粘度3mPa・sから50mPa・sのインクを使用可能に構成されている。
なお、インクジェットヘッド11を複数有し、インクジェット記録装置1が大型化する場合には、上記のチャンバー3に代えて、インクジェットヘッド11周り、すなわち複数のインクジェットヘッド11とキャリッジ12から成るキャリッジユニットを、小型のチャンバーで覆い、上記と同様の温度管理を行う構成としてもよい。
【0022】
図2は、インクジェットヘッド11の側面図であり、同図に示すように、インクジェットヘッド11は、いわゆる2連のインクジェットヘッド11であり、インクタンクに連なる2連の接続針22を有するインク導入部21と、インク導入部21に連なる2連のヘッド基板23と、ヘッド基板23の下方に連なりインクを吐出するヘッド本体24と、を備えている。ヘッド本体24の下面には、後述する複数の吐出ノズル32が列設された2列のノズル列が形成されている。この場合、2列のノズル列は相互に半ノズルピッチ分、位置ズレして配設されており、全体として1の描画ラインを構成している。また、ヘッド基板23の部分には、ヘッド本体24に接触して、インクジェットヘッド11の温度を測定する温度センサー25が設けられている。そして、温度センサー25の測定結果は、制御手段16に出力されるようになっている(図5参照)。
【0023】
図3は、インクジェットヘッド11のヘッド本体24の構造図である。図3に示すように、ヘッド本体24は、インクを吐出する複数の吐出ノズル32を有する流路ユニット31と、流路ユニット31を支持する基台33と、流路ユニット31に対峙するように基台33に内蔵されたアクチュエーター部34と、を備えている。流路ユニット31は、複数の吐出ノズル32を形成したノズルプレート36と、間隙を存してノズルプレート36に対面する振動板37と、ノズルプレート36と振動板37との間の間隙において、一対の共通室38と複数の圧力室39を区画する流路形成板40と、を有している。一対の共通室38と各圧力室39とは、連通しており、複数の圧力室39は、複数の吐出ノズル32に対応して配置されている。また、振動板37は、薄い弾性材料で構成され、複数の吐出ノズル32に対応する複数のアイランド部41を有している。
【0024】
アクチュエーター部34は、ピエゾ素子等で構成された複数の圧電素子43(素子部)と、複数の圧電素子43を支持する固定基板44とを有している。複数の圧電素子43は、複数のアイランド部41に対応し、且つ、複数の吐出ノズル32に対応しており、各圧電素子43は、その一方の端部を対応するアイランド部41に当接するように、配設されている。
圧電素子43に後述する駆動波形を印加すると、圧電素子43が変形(長辺方向で収縮、短辺方向で膨張)し、アイランド部41を介して圧力室39が負圧になる。圧力室39が負圧になると、共通室38から圧力室39にインクが流入する。続いて、駆動波形の印加が解除されると、アイランド部41が元の状態に復帰し、圧力室39が正圧になって吐出ノズル32からインクが吐出される。
【0025】
このようにして、吐出ノズル32からインクが吐出されるが、インク吐出のために圧電素子43に加えたエネルギーは、圧電素子43を変形させる運動エネルギーの他、圧電素子43を発熱させる熱エネルギーとしても消費される。すなわち、圧電素子43に駆動波形を印加すると、圧電素子43は僅かに発熱する。圧電素子43で発生した熱は、アイランド部41から圧力室39のインクに熱伝導し、圧力室39のインクを昇温させ、その粘度を低下させる。
【0026】
一方、実際の描画動作では、インクジェットヘッド11の複数の吐出ノズル32は、描画データに基づいて選択的に吐出駆動されるため、インクが吐出される吐出ノズル32とされない吐出ノズル32との間には、温度差が生じ、インク粘度の差に伴うインク吐出量の差が生ずる。そこで、本実施形態では、描画データに基づいて、インクが吐出される吐出ノズル32に対応する圧電素子43には、吐出駆動波形PAを印加する一方、その他のインクが吐出されない吐出ノズル32に対応する圧電素子43には、インク吐出を伴わない不吐出駆動波形PB(微振動波形)を印加するようにしている(図4参照)。
【0027】
次に、図4を参照して、吐出駆動波形PA(同図(a)参照)および不吐出駆動波形PB(同図(b)参照)について説明する。
図4(a)の吐出駆動波形PAは、台形形状を為し、昇温後のインク粘度において所定のインク吐出量を得られるように、吐出駆動電圧V1、立上り時間T1、持続時間T2、立下り時間T3のパラメーターにより規定されている。この内、吐出駆動電圧V1と立上り時間T1とで規定される吐出駆動波形PAの立上り部分は、圧電素子43の収縮動作に対応している。また、持続時間T2で規定される電圧維持部分は、圧力室39へのインクの流入動作に対応し、さらに吐出駆動電圧V1と立下り時間T3とで規定される立下り部分は、圧電素子43の復帰動作であってインクの吐出動作に対応している。
【0028】
また、図4(b)の不吐出駆動波形PBは、複数の駆動パルスPB1連ねて構成されており、各駆動パルスPB1は、吐出駆動波形PAより小さい台形形状を為している。この場合も、各駆動パルスPB1は、不吐出駆動電圧V2、立上り時間T4、持続時間T5、立下り時間T6のパラメーターにより規定されている。不吐出駆動電圧V2は、発熱を目的とし、インクが確実に吐出しないように圧電素子43を小さく収縮動作させるものである。また、駆動パルスPB1の数は、不吐出駆動波形PBの印加と吐出駆動波形PAを印加との間で、圧電素子43の発熱量を略同一となるように設定されている。
【0029】
図5は、上記制御手段16におけるインクジェットヘッド11の駆動制御系のブロック図であり、同図に示すように、この駆動制御系は、制御部51と、駆動波形生成部52と、ヘッド選択部53と、電源に接続されたヘッド駆動部54と、複数の圧電素子43と、を備えている。また、制御部51には、上記の温度センサー25を有する温度検出部55が接続されている。
制御部51は、CPU56と、ROM、RAM等の記憶部57とからなり、記憶部57に記憶されている描画データやインクジェットヘッド11個別の適正駆動電圧データ等に基づいて各部(各圧電素子43)を制御する。駆動波形生成部52は、制御部51を介して入力された適正駆動電圧データおよび温度センサー25の検出結果等に基づいて、吐出駆動波形PAおよび不吐出駆動波形PBを生成する(詳細は後述する)。
【0030】
ヘッド選択部53は、描画データに基づいて、インク吐出する吐出ノズル32に対応する圧電素子43(素子部)を選択する。言い換えれば、インク吐出する吐出ノズル32に対応する圧電素子43と、これ以外のインク吐出しない吐出ノズル32に対応する圧電素子43と、を区分けする。ヘッド駆動部54は、描画データに基づいて、インク吐出する吐出ノズル32に対応する圧電素子43に吐出駆動波形PAを印加し、インク吐出しない吐出ノズル32に対応する圧電素子43に不吐出駆動波形PBを印加する。
【0031】
本実施形態では、インクジェットヘッド11の駆動制御において、使用するインクジェットヘッド11の適正駆動電圧Vに対する出力比率で、吐出駆動波形PAの吐出駆動電圧V1および不吐出駆動波形PBの不吐出駆動電圧V2を設定している。この場合、適正駆動電圧Vとは、常温(例えば23℃)下において、インクジェットヘッド11が設計上の吐出量を吐出するときの最適電圧(実験値:許容吐出量範囲の中間値の電圧)であり、インクジェットヘッド11固有の値である。適正駆動電圧Vは、個々のインクジェットヘッド11が、そのIDと紐付けたスペックとして有しているものであり、図外の入力部から上記の制御部51に入力される。
【0032】
図6に示すように、吐出駆動波形PAの吐出駆動電圧V1は、インクジェットヘッド11の温度に基づいて、適正駆動電圧Vに対する出力比率が可変され、不吐出駆動波形PBの不吐出駆動電圧V2は、インクジェットヘッド11の温度に関わらず、適正駆動電圧Vに対する出力比率を一定としている。
【0033】
吐出駆動波形PAにおいては、温度センサー25により測定した温度(インクジェットヘッド11の温度)が目標温度以下の場合、吐出駆動電圧V1の出力比率を適正駆動電圧Vの100%以上とし、目標温度を越える場合、吐出駆動電圧V1の出力比率を、適正駆動電圧Vの100%未満としている。但し、吐出駆動電圧V1によりインクを適量吐出する必要があるため、このパーセンテージの下限は、上記のスペック(許容吐出量範囲の下限)から算定される(例えば、適正駆動電圧Vの70%以上)。実施形態のものは、インクジェットヘッド11の測定温度を「低め」、「中間」、「高め」の3段階とし、「低め」の吐出駆動電圧V1は適正駆動電圧Vの100%(同図(a)参照)、「中間」の吐出駆動電圧V1は適正駆動電圧Vの90%(同図(b)参照)、「高め」の吐出駆動電圧V1は適正駆動電圧Vの80%としている(同図(c)参照)。そして、この3段階の吐出駆動電圧V1は、制御を容易にすべく、上記制御手段16において制御テーブルとして用意されている。
【0034】
一方、不吐出駆動波形PBにおいては、不吐出駆動電圧V2の出力比率を適正駆動電圧Vの50%以下としている。但し、1駆動周期における駆動パルスPB1のパルス数には限界があるため、このパーセンテージの下限にも限界がある(例えば、適正駆動電圧Vの20%以上)。そして、実施形態の不吐出駆動電圧V2は、常に適正駆動電圧Vの30%とし、駆動パルスPB1のパルス数を3または4としている。
このように、本実施形態では、描画データに基づく描画動作において、インク吐出を行なう吐出ノズル32の(対応する)圧電素子43に、吐出駆動波形PAが印加され、それ以外の不吐出の吐出ノズル32に、不吐出駆動波形PBが印加される。また、インクジェットヘッド11の温度に基づいて、インク吐出を行なう吐出ノズル32の吐出駆動電圧V1が段階的に制御されるようになっている。
【0035】
次に、制御部51によるインクジェットヘッド11の駆動方法について説明する。
この駆動方法では、先ず上記の目標温度を求める。具体的には、上記のチャンバー3内の管理された雰囲気温度下において、適正駆動電圧Vに対する吐出駆動波形PAの吐出駆動電圧V1の出力比率を100%とし、全ての圧電素子43を連続駆動した状態でインクジェットヘッド11の発熱量と放熱量とが均衡したときのインクジェットヘッド11の温度を計測する。
【0036】
すなわち、インクジェットヘッド11をフルデューティーで駆動すると、全の吐出ノズル32からインクが吐出されると共に全の圧電素子43が発熱し、インクジェットヘッド11は昇温してゆく(温度センサー25で検出)。一方、この昇温によりインクジェットヘッド11と、チャンバー3内の雰囲気との間に温度差が生じ、この温度差によりインクジェットヘッド11から雰囲気に熱が逃げる(伝熱)。結果、全の圧電素子43から供給される熱量(発熱量)と、インクジェットヘッド11から雰囲気に伝熱される熱量(放熱量)が釣り合って、やがてインクジェットヘッド11の温度が一定値に落ち着く(サチュレーション)。ここで、温度センサー25により測定される、この一定値となったインクジェットヘッド11の温度を目標温度とし設定する。なお、この目標温度の設定は、例えばインクジェットヘッド11の交換時、インクジェット記録装置1の稼働開始 時、記録媒体14の変更時、描画データの変更時等に実施することが好ましい。
【0037】
次に、描画動作である描画データに基づくインクジェットヘッド11の駆動において、吐出駆動の圧電素子43に吐出駆動波形PAを印加し、不吐出駆動の圧電素子43に不吐出駆動波形PBを印加して、描画動作が実施される。このとき、温度センサー25によりインクジェットヘッド11の温度を測定し、その測定結果に基づいて、吐出駆動波形PAの吐出駆動電圧V1が可変される。一方、不吐出駆動波形PBの不吐出駆動電圧V2は一定値を維持する。すなわち、描画動作において、インクジェットヘッド11が目標温度となるように、吐出駆動波形PAの吐出駆動電圧V1のみがフィードバック制御される。なお、吐出駆動電圧V1の可変は、リアルタイムで行ってもよいが、改行時(非描画時)に行うことが好ましい。
【0038】
ここで、図6の駆動波形の波形図、および図7のフローチャートを参照して、吐出駆動波形PAの吐出駆動電圧V1等の設定方法について説明する。
先ず、インクジェットヘッド11をフルデューティーで駆動し(S01)、発熱量と放熱量とが釣り合って落ち着いた状態のインクジェットヘッド11の温度を測定する。そして、この温度を目標温度として設定する(S02)。
【0039】
続いて、描画動作に移行し、先ず不吐出駆動電圧V2を適正駆動電圧Vの30%に設定する(S03)。また、インクジェットヘッド11の温度を測定(検出)する(S04)。ここで、測定した温度が「低め」の温度範囲に該当するか否かを判定し(S05)、該当する場合には(S05:YES)、吐出駆動電圧V1を適正駆動電圧Vの100%に設定する(S06)。一方、「低め」の温度範囲に該当しない場合には(S05:NO)、さらに「中間」の温度範囲に該当するか否かを判定し(S07)、該当する場合には(S07:YES)、吐出駆動電圧V1を適正駆動電圧Vの90%に設定する(S08)。同様に、「中間」の温度範囲に該当しない場合には(S07:NO)、さらに「高め」の温度範囲に該当するか否かを判定し(S09)、該当する場合には(S09:YES)、吐出駆動電圧V1を適正駆動電圧Vの80%に設定する(S10)。一方、「高め」の温度範囲に該当しない場合には(S09:NO)、その旨報知する(S11)。
【0040】
以上のように、本実施形態では、インクジェットヘッド11の温度変化に基づいて、インクジェットヘッド11の適正駆動電圧Vに対する吐出駆動波形PAの吐出駆動電圧V1の出力比率のみを、3段階で可変させるようにしているため、インクジェットヘッド11の制御を極めて簡単に行うことができる。一方、吐出しない吐出ノズル32の圧電素子43には、インクジェットヘッド11の適正駆動電圧Vに対する不吐出駆動波形PBの不吐出駆動電圧V2の出力比率、および駆動パルスPB1の数を、常に一定とした不吐出駆動波形PBを印加するようにしているため、インクジェットヘッド11における吐出ノズル32相互間の温度を均一にすることができる。
【0041】
しかも、チャンバー3により温度管理された環境下で描画を実施することができるため、目標温度を略一定とすることができ、インクジェットヘッド11を介して、吐出するインクを一定の温度、すなわちインクを一定の粘度で吐出することができる。また、吐出駆動電圧V1を、適正駆動電圧Vに対する出力比率で設定するようにしているため、インクジェットヘッド11個々のスペックを考慮して、その駆動制御を行うことができる。したがって、粘度の高いインクを用いても、高い描画品質を維持することができる。
【0042】
なお、本発明は、上記のようなチャンバー3を有しないインクジェット記録装置1にも適用可能である。かかる場合には、環境温度で目標温度が変わることになり、いわゆる「成行き温度」で制御が実施されることになる。また、複数のインクジェットヘッド11をキャリッジ12に搭載したインクジェット記録装置1にも適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 インクジェット記録装置、2 装置本体、3 チャンバー、11 インクジェットヘッド、13 ヘッド移動機構、14 記録媒体、24 ヘッド本体、25 温度センサー、32 吐出ノズル、34 アクチュエーター部、43 圧電素子、51 制御部、52 駆動波形生成部、53 ヘッド選択部、54 ヘッド駆動部、55 温度検出部、PA 吐出駆動波形、PB 不吐出駆動波形、PB1 駆動パルス、V 適正駆動電圧、V1 吐出駆動電圧、V2 不吐出駆動電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
描画対象物に描画を行なうための画像情報に基づいて、
インクを吐出する吐出ノズルに対応する素子部に吐出駆動波形を印加すると共に、インクを吐出する前記吐出ノズル以外の吐出ノズルに対応する素子部に、インクを吐出しない駆動波形である不吐出駆動波形を印加するインクジェットヘッドの駆動方法であって、
前記インクジェットヘッドの温度を測定し、
前記インクジェットヘッドの適正駆動電圧に対する前記吐出駆動波形の吐出駆動電圧の出力比率を、測定した前記温度に基づいて可変とし、
前記インクジェットヘッドの適正駆動電圧に対する前記不吐出駆動波形の不吐出駆動電圧の出力比率を、常に一定とすることを特徴とするインクジェットヘッドの駆動方法。
【請求項2】
前記インクの粘度に対応して、前記インクジェットヘッドの目標温度が設定され、
測定した前記温度が前記目標温度以下の場合、前記吐出駆動電圧の出力比率を前記適正駆動電圧の100%以上とし、
測定した前記温度が前記目標温度を越える場合、前記吐出駆動電圧の出力比率を、前記適正駆動電圧の100%未満とすることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッドの駆動方法。
【請求項3】
前記目標温度は、
前記描画対象物への描画品質が保証される最低環境温度下において、
前記適正駆動電圧に対する前記吐出駆動波形の吐出駆動電圧の出力比率を100%として全ての前記素子部を連続駆動した状態で、前記インクジェットヘッドの発熱量と放熱量とが均衡したときの前記インクジェットヘッドの温度であることを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッドの駆動方法。
【請求項4】
前記インクジェットヘッドは、前記最低環境温度に管理された雰囲気中で駆動することを特徴とする請求項3に記載のインクジェットヘッドの駆動方法。
【請求項5】
前記不吐出駆動波形は、前記不吐出駆動電圧の出力比率を前記適正駆動電圧の50%以下とした複数の駆動パルスで構成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のインクジェットヘッドの駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−107303(P2013−107303A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254701(P2011−254701)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】