説明

インクジェットヘッドユニット

【課題】フィルタの目詰まりによって流抵抗が変化した場合でも、吐出ノズル部での圧力を適切な圧力に保つとともに、フィルタと吐出ノズルとの間の流路でのごみの発生を低減したインクジェットヘッドユニットを提供する。
【解決手段】インクジェットヘッドユニットは、液室4およびノズル5を有するインクジェットヘッド6と、液室4に連通するインク流路と、該インク流路に設けられたフィルタ3とを具備している。そのインク流路は、大気と液室4内との圧力差を検出する圧力検出部10、弁部8、圧力検出部10で検出された圧力差に基づいて弁部8の開度を調節する調節部9、からなる圧力調整機構Mを有する。弁部8とフィルタ3と圧力検出部10とノズル5はインクの流れに沿って、この順、あるいは、ノズル5、圧力検出部10、フィルタ3、弁部8の順で配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッドを備えたインクジェットヘッドユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なインクジェット装置では、用紙などの記録媒体上を往復動するキャリッジに搭載されるインクジェットヘッドが利用される。このようなインクジェット装置では、キャリッジの往復動に連動した制御の下に、インクジェットヘッドの吐出ノズルからインク滴を吐出させることによって記録媒体上に画像(文字などを含む)を形成する。インクジェットヘッドにはインク補給容器(以下、「インクタンク」という)から適宜インクが補給される。インクジェット装置では、取り替えることが可能なインクタンクがインクジェット装置本体に収容され、インクタンクは柔軟な素材で中空に形成された流体導管によってインクジェットヘッドに接続される。
【0003】
インクジェットヘッドは、吐出ノズル内のインクが外気との境界に良好なメニスカスを形成している状態で、良好なインク滴を吐出することが可能である。吐出ノズル内のインクに良好なメニスカスを形成させることは、たとえばインクジェットヘッド内を所定の微負圧に維持することにより実現できる。通常、インクジェットヘッド内のインクの負圧は、大気圧に対して1kPa程度低い圧力(微負圧)にするのが適当である。上記微負圧を一定値に維持しながらインク滴を記録媒体に吐出させることでインク滴の液滴量と飛翔方向を安定させることができる。そのため、インクジェット装置には、インクジェットヘッド内を微負圧にするための圧力調整機構が設けられているものがある。
【0004】
一方で、インクジェットヘッドの吐出ノズルでの目詰まりを防ぐため、インクタンクから吐出ノズルまでの流路の間にはフィルタが設けられることが多い。特許文献1においては、フィルタを圧力調整手段の下流に設けている。一方、特許文献2においては、フィルタを圧力調整手段の上流に設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−12657号公報
【特許文献2】特登録4032953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記流路中に設けられたフィルタは、ゴミや泡が詰まったりすることで、流抵抗が変化する。従って、特許文献1に記載されるように圧力調整手段をフィルタの上流に設けた場合、調整後の圧力がフィルタの流抵抗の変化によって変動してしまい、吐出ノズルでの圧力を適切に保つことが難しいという課題があった。
【0007】
一方、特許文献2に記載されるように圧力調整手段をフィルタの下流に設けた場合、フィルタの流抵抗の変化に影響されずに吐出ノズルでの圧力を一定に保つことができる。ところが、特許文献2に記載されるように、一般に圧力調整手段は開閉可能な弁が内蔵されている。従って、弁の開閉に伴い部材の衝突やこすれが生じることで、弁からごみが発生し、吐出ノズルの目詰まりを起こす恐れがあった。
【0008】
そこで、フィルタの目詰まりによって流抵抗が変化した場合でも、吐出ノズル部での圧力を適切に保つとともに、フィルタと吐出ノズルとの間の流路でのごみの発生を低減したインクジェットヘッドユニットが望まれる。
【0009】
本発明の目的は、上述した課題に鑑み、吐出ノズルでの圧力を適切に保つとともに吐出ノズルのごみ詰まりを防いで、安定したインクの吐出を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、液室およびノズルを有するインクジェットヘッドと、該液室に連通するインク流路と、該インク流路に設けられたフィルタとを具備したインクジェットヘッドユニットであって、前記インク流路は、大気と該液室との圧力差を検出する圧力検出部、弁部、該圧力検出部で検出された圧力差に基づいて該弁部の開度を調節する調節部、からなる圧力調整機構を有し、該弁部と該フィルタと該圧力検出部と該インクジェットヘッドはインクの流れに沿って、この順、あるいは、該インクジェットヘッド、該圧力検出部、該フィルタ、該弁部の順で配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フィルタの流抵抗の変化による吐出ノズルでの圧力変動を抑制し、良好なメニスカスを保持できるため、安定したインクの吐出が可能になる。さらに、本発明によれば、フィルタと吐出ノズルとの間の流路にごみの発生源となる弁がないため、吐出ノズルのごみ詰まりを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のインクジェット装置の概要図。
【図2】本発明のインクジェットヘッドユニットの概要図。
【図3】本発明の第2の実施例における圧力調整機構の断面図。
【図4】本発明の第2の実施例における圧力調整機構の各部のパラメータを表わす図。
【図5】本発明の第3の実施例における圧力調整機構の断面図。
【図6】本発明の第5の実施例における圧力調整機構の断面図。
【図7】本発明の第5の実施例における別の圧力調整機構の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態について説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1(a)は本発明の第1の実施形態を表わすインクジェット装置の概要図である。インクタンク1に蓄えられたインクは流路を通じてインクジェットヘッドユニット(以下、ヘッドユニットと略す)2に供給される。ヘッドユニット2では、流路中にフィルタ3が設けられ、さらにその下流には、流路に連通した液室4とノズル5とからなるインクジェットヘッド(以下、ヘッドと略す)6が設けられている。
【0015】
ヘッドユニット2をより詳しく説明した図を図2(a)に示す。フィルタ3の上流側には弁部8が配置され、フィルタ3とヘッド6の間の流路には圧力検出部10が設けられている。圧力検出部10と弁部8との間には調節部9が設けられ、圧力検出部10の圧力値が設定値に保たれるように弁部8の開度を調整する。つまり、弁部8と調節部9と圧力検出部10によって本発明の圧力調整機構Mが構成される。具体的には、フィルタ3のごみ詰まりなどによって圧力検出部10の圧力が低下すると、弁部8の開度を大きくする。フィルタ3の下流側の圧力検出部10には、インクの流れの変化によって部品同士が衝突したり、こすれたりする箇所はない。
【0016】
上記のような構成とすることで、フィルタ3の目詰まりによって流抵抗が変化した場合でも、吐出ノズル部での圧力を設定値(所定の微負圧、例えば大気圧に対して1kPa程度低い圧力)に保つとともに、フィルタ3とノズル5との間の流路でのごみの発生を低減することができる。
【0017】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、ヘッドユニット2の流路はヘッド6内で終端となるいわゆる「デッドエンド型」の構成を用いて説明していたが、インク流路を循環させる「スルーフロー型(印刷中循環型)」にも同様に適用することができる。スルーフローは、インク流路中の微細な気泡やゴミが吐出ノズルで目詰まりする現象の防止に有効であることが知られている。また、印刷動作が行なわれない場合に吐出ノズル内のインクの溶媒が大気へ蒸発し、吐出ノズル先端(いわゆるオリフィス)のインクの粘度が上昇し目詰まりが生じる現象の防止にも有効であることが知られている。一方、インクを循環させながら、ノズル5での負圧を適切に保つ必要があるため、デッドエンド型よりも高度な圧力調整が要求される。
【0018】
スルーフロー型でのインクジェット装置の概要を図1(b)に示す。メインインクタンク101から供給されたインクは一度サブインクタンク102に蓄えられる。サブインクタンク102のインクは、ヘッドユニット2に供給され、一部はノズル5から吐出されるとともに、残りは回収タンク103に回収される。回収タンク103に回収されたインクは再びサブインクタンク102に循環され、再びヘッドユニット2に供給される。循環流量、および、ヘッド6での圧力を適切に保つため、サブインクタンク102や回収タンク103の圧力は、水頭差による重力を利用したり、配管中にポンプを設けたりして一定に保たれている。
【0019】
図2(b)はスルーフロー型のヘッドユニットにおける本発明の圧力調整機構Mを具備した構成例である。実施形態1と同様、ヘッド6の上流側にフィルタ3が設けられ、さらにフィルタ3の上流側には弁部8が設けられ、フィルタ3とヘッド6の間の流路には圧力検出部10が設けられている。圧力検出部10と弁部8との間には調節部9が設けられ、圧力検出部10の圧力値が設定値に保たれるように弁部8の開度を調整する。具体的には、フィルタ3のごみ詰まりなどによって圧力検出部10の圧力が低下すると、弁部8の開度を大きくする。フィルタ3の下流側の圧力検出部10には、インクの流れの変化によって部品同士が衝突したり、こすれたりする箇所はない。このように、スルーフロー型のヘッドユニットにおいても、フィルタ3の目詰まりによって流抵抗が変化した場合に、吐出ノズル部での圧力を設定値(所定の微負圧、例えば大気圧に対して1kPa程度低い圧力)に保つとともに、フィルタ3とノズル5との間の流路でのごみの発生を低減することができる。
【0020】
(第3の実施形態)
次に本発明の第3の実施形態を述べる。本実施形態のインクジェット装置は、第2の実施形態で述べた図1(b)で示されるスルーフロー型の構成である。ただし、第2の実施形態ではヘッド6の上流側に圧力調整機構Mを有しているのに対し、本実施形態では、ヘッド6の下流側に圧力調整機構Mを備える。
【0021】
本実施形態によるヘッドユニット2の概要を図2(c)に示す。ヘッドユニット2はヘッド6の上流側のフィルタ3だけでなく、ヘッド6の下流側にも第2のフィルタ7を備える。第2のフィルタ7はヘッドの故障時などにヘッドの交換を行う際、インクを排出する排出流路からヘッド6内へのごみの侵入を防ぐ働きがある。
【0022】
本実施形態では、ヘッド6内の圧力調整をヘッド6の下流側の圧力調整機構Mで行う。圧力調整機構Mは、第2のフィルタ7の下流側に弁部8が設けられ、第2のフィルタ7とヘッド6の間の流路には圧力検出部10が設けられることで実現される。圧力検出部10と弁部8との間には調節部9が設けられ、圧力検出部10の圧力値が設定値に保たれるように弁部8の開度を調整する。具体的には、第2のフィルタ7のごみ詰まりなどによって圧力検出部10の圧力が増加すると、弁部8の開度を大きくすることで圧力を下げる。ヘッド6と第2のフィルタ7の間の圧力検出部10には、インクの流れの変化によって部品同士が衝突したり、こすれたりする箇所はない。本実施形態の圧力調整機構Mは、ヘッド6に対して下流にあるため、通常の運転中は圧力調整機構Mで発生したごみがヘッド6内に侵入する可能性は低い。しかしながら、運転停止中など流れが止まっている際に、振動などでごみがヘッド6内に入ってしまう恐れがあり、そのような場合でも圧力調整機構Mは、圧力検出部10がヘッド6と第2のフィルタ7の間でごみを発生させないため、安定性に優れている。
【実施例】
【0023】
これまでに述べた実施形態の具体例を以下に示す。
【0024】
(第1の実施例)
本発明の第1の実施例を説明する。本実施例は上述した第1の実施形態のより具体的な構成例である。本実施例では、図2(a)に示す構成において、圧力検出部10に圧力センサ、弁部8にアクティブ弁を適用する。その圧力センサとしては、1kPa程度の大気圧との微小な差圧を検出する必要があり、例えばSensirion社の微差圧計などが使いやすい。本センサは、可動部が無くごみを出す心配が少ないうえ、小型であるため内部に泡が滞留しにくい構成となっている。一方、アクティブな弁には、電磁弁、静電力弁、形状記憶合金弁などがある。調節部9は制御回路を含む電気接続で、圧力検出部10(圧力センサ)の値を受信し、設定値と比較して、弁部8の開度を変化させる信号を送信する。
【0025】
(第2の実施例)
本発明の第2の実施例を説明する。本実施例は上述した第1の実施形態のより具体的な構成例である。本実施例の構成の断面図を図3に示す。本実施例の圧力調整機構は、弁部8、フィルタ3、圧力検出部10として第1のダイヤフラム13、調節部として第2のダイヤフラム14、第1の伝達機構(ピストン)15、第2の伝達機構(ピストン)16等から構成されている。
【0026】
第1のダイヤフラム13の一方の面は大気に面しており、もう一方の面側の流路はヘッド6の液室4へとつながっている。第2のダイヤフラム14の一方の面はフィルタ3と弁部8の間の流路に面しており、もう一方の面側の流路はヘッド6の液室4へとつながっている。第1のダイヤフラム13と第2のダイヤフラム14は対向して、第1の伝達機構15によって接続されている。一方、第2のダイヤフラム14と弁部8は対向して第2の伝達機構16によって接続されている。
【0027】
次に、本実施例の圧力調整機構の動作を説明する。印刷停止中は、図3(b)に示すように弁体11と弁座12からなる弁部8が閉じた状態となっている。印刷が開始され、インクが消費されると、ヘッド6の液室4内部の圧力P3が低下する。これにより第1のダイヤフラム13には、大気圧P0と圧力P3との圧力差により、上向き(第2のダイヤフラム14の側)の力が働く。第1のダイヤフラム13の変位は第1の伝達機構15を移動させて第2のダイヤフラム14を押し上げるように変形させ、さらに第2のダイヤフラム14の変位は、第2の伝達機構16を移動させて、弁部8を開かせる。弁部8が開くことにより、液室4に向かう液体の流量Qが増加し、圧力P3が増加する。定常状態では、圧力P3がある一定の値に保たれるように、弁部8の開度がバランスされた状態に保たれる(図3(a))。
【0028】
弁部8が開く条件は、図4に基づいて、以下のように計算することができる。弁部8の上流側のインク供給圧力をP1、弁部8とフィルタ3の間の流路の圧力をP2、フィルタ3とヘッド6の間の圧力をP3、大気圧をP0とする。また、弁体11の断面積をSV、第1および第2のダイヤフラム13,14の断面積をSd1,Sd2、第1および第2の伝達機構(ピストン)15,16の断面積をSp1,Sp2とする。さらに、第1および第2のダイヤフラム13,14のたわみ、および、弁支持部17のたわみによるばね力をF1,F2,F3とすると、弁体11にかかる力のバランスから、弁部8が開く条件は、以下のようになる。
【0029】
【数1】

【0030】
上式を整理すると、ヘッド6の液室4内の圧力は、
【0031】
【数2】

【0032】
に調整される。
【0033】
特に、第1のダイヤフラム13の断面積Sd1に比べ、第2のダイヤフラム14および弁体11の断面積Sd2,SVが十分に小さい場合は、圧力P3は圧力P1と圧力P2にほとんど影響されなくなる。ごみ詰まりなどによりフィルタ3の流抵抗が変化した場合、圧力P2は変化するが、圧力P3はほとんど変化しない。
【0034】
ここで、インク流量をQ、フィルタの流抵抗をRとすると、P2=P3+QRが成り立つ。
これを代入すると、以下のようになる。
【0035】
【数3】

【0036】
したがって、第2のダイヤフラム14の断面積が第1のダイヤフラム13の断面積に対して十分に小さければ、流抵抗Rが変化しても圧力P3はほとんど一定である。
【0037】
例えば、円柱の弁体11の軸径をφ1mm、円形の第1のダイヤフラム13の直径をφ6mm、円形の第2のダイヤフラム14の直径をφ2mm、第1および第2の伝達機構15,16のピストン直径を共にφ0.8mmとし、通常のフィルタでの圧力損失を100kPaとする。ごみ詰まりによって流抵抗Rが2%増加したとすると、これによるヘッド内圧力P3の変化は圧力調整機構が無いと2kPaの変化量であるのに対し、0.17kPa程度である。通常、ヘッド内圧力P3は−1kPa(G)であるので、圧力調整機構が無いと圧力は1kPa(G)になってしまい、適切な負圧を保つことができないが、本圧力調整機構があれば−0.83kPa(G)となり、ヘッド内は十分に安定吐出可能な圧力に保たれる。第1および第2のダイヤフラム13,14の断面積比をより大きくとれば、流抵抗の影響はさらに小さくなる。
【0038】
圧力調整機構全体として見ると、フィルタ3での流抵抗の増加を弁部8での流抵抗の低減により補うので、トータルでの流抵抗の低下も少なく、流量もほぼ一定に保たれる。また、弁部8の開閉圧力は、ばね力F1,F2,F3を適切な値に設計する他、第1のダイヤフラム13の大気側や弁部8の上流側にさらに付勢用のばねを取り付けることによって、所望の圧力に設定することができる。
【0039】
このように、本実施例の圧力調整機構は、電気制御回路を含まないため、第1の実施例の構成に比べて、低消費電力で、また、低コスト化および小型化を図りやすい構成となっている。また、ヘッドユニット2に供給されたインクはすべてフィルタ3を介してノズル5に供給されるため、フィルタ上流から来るフィルタ径よりも大きなごみはすべて除去することができる。さらに、第1のダイヤフラム13と第1の伝達機構15と第2のダイヤフラム14は連結されており、ダイヤフラムの変位によって、衝突したり、こすれたりすることがないので、フィルタ3の下流でごみが発生しにくい構成となっている。
【0040】
(第3の実施例)
本発明の第3の実施例を説明する。本実施例は第1の実施形態のより具体的な構成例である。本実施例の構成の断面図を図5に示す。図5(a)は弁開状態、図5(b)は弁閉状態を表す。第2の実施例と同様に、圧力調整機構は、弁部8、フィルタ3、圧力検出部10として第1のダイヤフラム13、調節部として第2のダイヤフラム14、第1の伝達機構(ピストン)15、第2の伝達機構(ピストン)16等から構成されている。ただし、第2の伝達機構16と弁体11とが一体化された構成となっている。図3に示される第2の実施例の圧力調整機構との大きな違いは、第2のダイヤフラム14の片側が大気に接しており、大気中で第1の伝達機構15が第1のダイヤフラム13、および、第2のダイヤフラム14とを連結している点である。
【0041】
本実施例の圧力調整機構の動作を説明する。印刷停止中は図5(b)に示すように、弁部8は閉じた状態となっている。印刷が開始され、インクが消費されると、ヘッド6の液室4内の圧力P3が低下する。第1のダイヤフラム13には、大気圧P0と圧力P3との圧力差により、下向き(第2のダイヤフラム14の側とは反対側)の力が働く。第1のダイヤフラム13の変位は第1の伝達機構15を移動させて第2のダイヤフラム14を押し下げるように変形させ、さらに第2のダイヤフラム14の変位は、第2の伝達機構16を移動させて、弁部8を開かせる。弁部8が開くことにより、液室4に向かう液体の流量Qが増加し、圧力P3が増加する。定常状態では、圧力P3がある一定の値に保たれるように、弁部8の開度がバランスされた状態に保たれる(図5(a))。弁部8が開く数値的な条件は、実施例2で述べたものと同様の計算が成り立つ。
【0042】
本実施例の構成も第2の実施例と比べて、電気制御回路を含まないため、第1の実施例の構成に比べて、低消費電力で、また、低コスト化および小型化を図りやすい構成となっている。また、ヘッドユニット2に供給されたインクはすべてフィルタ3を介してノズル5に供給されるため、フィルタ上流から来るフィルタ径よりも大きなごみはすべて除去することができる。
【0043】
さらに、第2の実施例と比べて、フィルタ3の下流の流路に第1の伝達機構15が無いため、さらにごみを出しにくく、第1の伝達機構15周辺での流れのヨレや泡の滞留などが起きにくいという利点がある。また、構成がより単純になるため、低コスト化が可能である。
【0044】
(第4の実施例)
本実施例では、インクを印刷中に循環させるスルーフロー型の流路構成での適用例について述べる。ヘッドユニットは上述した第2の実施形態で述べた図2(b)の構成である。本実施例では、ヘッド6の上流側に圧力調整機構を有する。圧力調整機構の具体的な構成は、第1、第2および第3の実施例で述べたようなものが使えるが、ここでは、第2の実施例の圧力調整機構(図3)を具備した場合について説明する。
【0045】
第2の実施例の場合と同様に、フィルタ3に目詰まりが生じて圧力損失が変化した場合でも、圧力調整機構は、ヘッド6の液室4内の圧力P3が一定に保たれるように動作する。さらに、ヘッド6の下流側の第2のフィルタ7の目詰まりなどにより、ヘッド6の液室4の下流での圧力損失が増加した場合にも、圧力調整機構は液室4内の圧力P3が一定に保たれるように動作する。ただし、第2のフィルタ7の目詰まりに対しては、液室4内の圧力は保持されるが、系全体の流抵抗は増加するので、ヘッド6へ供給される液体の流量は低下する。
【0046】
(第5の実施例)
本実施例では、第3の実施形態で述べたインクを印刷中に循環させるスルーフロー型の流路構成において、圧力調整機構を液室4の下流側に設けた場合について述べる。つまり本実施例のヘッドユニットの構成は図2(c)のようになっている。第1の実施例で述べたように、圧力検出部10に圧力センサ、弁部8にはアクティブ弁を適用し、圧力センサからの信号をもとにアクティブ弁を制御するコントローラを含む調節部によって本発明の圧力調整機構を構成することもできる。しかしながら、ここでは一例として、機構的な実現方法について具体的に説明する。
【0047】
図6は、ヘッド6の下流側に設けられる本実施例の圧力調整機構の断面の概要を表す。圧力調整機構は、弁部8、第2のフィルタ7、圧力検出部10として第1のダイヤフラム13、調節部として第2のダイヤフラム14、第1の伝達機構(ピストン)15、第2の伝達機構(ピストン)16等から構成されている。
【0048】
第1のダイヤフラム13の一方の面は大気に面しており、もう一方の面側の流路はヘッド6の液室4へとつながっている。第2のダイヤフラム014の一方の面は第2のフィルタ7と弁部8の間の流路に面しており、もう一方の面側の流路はヘッド6の液室4へとつながっている。第1のダイヤフラム13と第2のダイヤフラム14は対向して、第1の伝達機構15によって接続されている。一方、第2のダイヤフラム14と弁部8は対向して第2の伝達機構16によって接続されている。
【0049】
本実施例の圧力調整機構の動作を説明する。印刷停止中は図6(b)に示すように、弁部8は閉じた状態となっている。スルーフロー系においては、第2のフィルタ7の目詰まりにより、流抵抗が増大すると、ヘッド6の液室4内の圧力P3が増加する。第1のダイヤフラム13には、大気圧P0と圧力P3との圧力差により、下向き(第2のダイヤフラム14の側とは反対側)の力が働く。第1のダイヤフラム13の変位は第1の伝達機構15を移動させて第2のダイヤフラム14を押し下げるように変形させ、さらに第2のダイヤフラム14の変位は、第2の伝達機構16を移動させて、弁部8を開かせる。弁部8が開くことにより、ヘッド6から送出される液体の流量Qが増加し、圧力P3が低下する。定常状態では、圧力P3がある一定の値に保たれるように、弁部8の開度がバランスされた状態に保たれる(図6(a))。
【0050】
弁部8が開く数値的な条件は、第2の実施例で述べたものと同様の計算が成り立つ。圧力調整機構全体として見ると、第2のフィルタ7での流抵抗の増加を弁部8での流抵抗の低減により補うので、トータルでの流抵抗の低下も少なく、流量もほぼ一定に保たれる。特に、このようなメカニカルな構成であれば、電気制御回路を含まないため、先に述べたセンサを用いた構成に比べて、低消費電力で、また、低コスト化および小型化を図りやすい。
【0051】
また、別の構成例としては、図7に示す構成も考えられる。第2の実施例に対する第3の実施例の場合と同様に、本構成と図6の構成との違いは、第2のダイヤフラム14の片側が大気に接しており、大気中で第1の伝達機構15が第1のダイヤフラム13、および、第2のダイヤフラム14とを連結している点である。
【0052】
この別の構成例の動作を説明する。印刷停止中は図7(b)に示すように、弁部8は閉じた状態となっている。一方、第2のフィルタ7の目詰まりにより、流抵抗が増大すると、ヘッド6の液室4内の圧力P3が増加する。第1のダイヤフラム13には、大気圧P0と圧力P3との圧力差により、上向き(第2のダイヤフラム14の側)の力が働く。第1のダイヤフラム13の変位は第1の伝達機構15を移動させて第2のダイヤフラム14を押し上げるように変形させ、さらに第2のダイヤフラム14の変位は、第2の伝達機構16を移動させて、弁部8を開かせる。弁部8が開くことにより、ヘッド6からの液体の流量Qが増加し、圧力P3が低下する。定常状態では、圧力P3がある一定の値に保たれるように、弁部8の開度がバランスされた状態に保たれる(図7(a))。この構成は第2のフィルタ7と液室4との間の流路に第1の伝達機構15が無いため、さらにごみを出しにくく、第1の伝達機構15周辺での流れのヨレや泡の滞留などが起きにくいという利点がある。
【0053】
一方、ヘッド6の上流側のフィルタ3に目詰まりが起こった場合には、ヘッド6の液室4内の圧力P3が低下する。これに対し、これまで述べた動きと逆の動きが起こることにより、弁部8が閉まる方向に動き、流量Qを減少させることで、ヘッド6の液室4内の圧力P3を適切に保つことができる(スルーフローの全体流量は低下する)。
【0054】
(産業上の利用可能性)
本発明のインクジェットヘッドユニットは、印刷動作中のインクジェットヘッド内のインクの負圧を一定に保ちながら、吐出ノズルのごみ詰まりを低減することが可能であり、高い吐出安定性を求められるシリアル方式やラインヘッドによるインクジェット装置に適用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 インクタンク
2 ヘッドユニット
3 (第1の)フィルタ
4 液室
5 ノズル
6 ヘッド
7 第2のフィルタ
8 弁
9 調節部
10 圧力検出部
11 弁体
12 弁座
13 第1のダイヤフラム
14 第2のダイヤフラム
15 第1の伝達機構
16 第2の伝達機構
17 弁支持部
101 メインインクタンク
102 サブインクタンク
103 回収タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液室およびノズルを有するインクジェットヘッドと、該液室に連通するインク流路と、該インク流路に設けられたフィルタとを具備したインクジェットヘッドユニットであって、前記インク流路は、大気と該液室の内部との圧力差を検出する圧力検出部、弁部、該圧力検出部で検出された圧力差に基づいて該弁部の開度を調節する調節部、からなる圧力調整機構を有し、該弁部と該フィルタと該圧力検出部と該インクジェットヘッドはインクの流れに沿って、この順、あるいは、該インクジェットヘッド、該圧力検出部、該フィルタ、該弁部の順で配置されていることを特徴とするインクジェットヘッドユニット。
【請求項2】
前記フィルタと前記液室の間の流路に設けられた大気と該流路を隔てる第1のダイヤフラムと、前記フィルタに対し、該第1のダイヤフラムと反対側の流路に設けられた弁体および弁座からなる前記弁部と、前記フィルタと該弁部の間の流路と大気あるいは前記液室を隔てる第2のダイヤフラムと、該第1のダイヤフラムと該第2のダイヤフラムを連結する第1の伝達機構と、該第2のダイヤフラムと該弁部を連結する第2の伝達機構と、を有し、
大気と前記液室の内部との差圧によって前記第1のダイヤフラムが変形し、該変形により前記第1の伝達機構が移動することで、前記第2のダイヤフラムが変形し、該第2のダイヤフラムの変形により前記第2の伝達機構が移動することで、前記弁部の開度が変化することにより前記液室の内部の圧力を一定に保つことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッドユニット。
【請求項3】
前記液室へインクを供給する流路に、前記弁部と前記フィルタと前記圧力検出部がインクの流れに沿ってこの順で配置されており、前記圧力調整機構は前記液室の内部の圧力が低下すると前記弁部の開度を大きくするように動作することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッドユニット。
【請求項4】
前記インクジェットヘッドユニットが、前記液室へインクを供給する流路と前記液室から該インクを排出する排出流路とを有し、該排出流路に、前記圧力検出部と前記フィルタと前記弁部がインクの流れに沿ってこの順で配置されており、前記圧力調整機構は前記液室の内部の圧力が増加すると前記弁部の開度を大きくするように動作することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッドユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−86417(P2013−86417A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230662(P2011−230662)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】