説明

インクジェットヘッド及び記録装置

【課題】液室密度の高密度化と、それに伴う隣接する個別液室間の相互干渉を緩和し、且つ保持基板との接合領域を低減させて小型化に貢献する。
【解決手段】アクチュエータに対向する位置に、保持基板隔壁により区画された凹状の振動室が形成されており、保持基板隔壁が配線層を含む積層膜を介して液室隔壁に接合される保持基板を有し、短手方向における保持基板隔壁の幅は、短手方向における液室隔壁の幅より狭く、配線層パターンの幅よりも広くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個別液室に圧力変動を発生させ、個別液室に形成された微小ノズルから液体を噴射させるインクジェットヘッド及びインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドを有する記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、個別液室に圧力変動を発生させ、個別液室に形成された微小ノズルから液体を噴射させるインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドを搭載する記録装置が知られている。またインクジェットヘッドの個別液室に圧力変動を発生する方式は、複数のものが実用化・製品化されている。
【0003】
例えば個別液室内にヒータを設置することで液体を気化させ、圧力変動を利用するサーマルインクジェット方式や個別液室にアクチュエータを設置する方式が挙げられ、アクチュエータを用いる方式では、さらにアクチュエータの種類により圧電素子方式,静電方式などが知られている。
【0004】
アクチュエータを用いた方式では幅広い物性のインクに対応可能である反面、液室配列の高密度化・ヘッドの小型化が困難とされているが、いわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)プロセスを用いることで高密度化する技術が確立されつつある。
【0005】
例えば個別液室に薄膜形成技術を用いて振動板,電極,圧電体等を積層し、半導体デバイス製造プロセス(フォトリソグラフィ)を用いて個別の圧電素子と配線をパターニングすることで高密度化が可能である。例えば特許文献1には、配線層をパターニングする技術が開示されている。
【0006】
また、薄膜プロセスで形成した圧電素子を用いた場合、振動板が数マイクロメートルの薄膜構成となるため、圧電素子を積層した場合の残留応力により振動板が変形しやすくなる。また流路を形成する基板厚さが薄くなるため強度確保と製造プロセスでの加工精度の向上が望まれる。これらに対する対策として、保持基板を用いる手法が特許文献2及び3に開示されている。各々の圧電素子の間に隔壁を設け、保持基板と接合することで振動板端を補強し、流路基板の剛性を高めている。すなわち高密度化の際に生じるクロストークを低減できると同時に製造プロセスでのハンドリングが向上し量産性を高めている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
保持基板を流路基板に接合する構造の場合、上部電極及び下部電極から配線層のパターニングで引き出される個別電極及び共通電極は、駆動回路と接続するために保持基板と流路基板とが接合されている接合部の外部に引き出すことが必要となる。接合部による保持基板と流路基板との接合信頼性を高めるためには、接合部の高さと層構成を同一とすることが必要となる。
【0008】
特許文献1では、保持基板の隔壁幅を流路基板上の隔壁幅上に形成される圧電体または上部電極を含む積層膜の幅よりも狭くすることで、保持基板の位置ずれによる吐出性能への影響を緩和している。しかし、保持基板の隔壁部の層構成と接合部の層構成が大きく異なる。
【0009】
また特許文献2では、層構成のちがいによる接合部の高さの差異に樹脂材料等を充填することで対応しているが、保持基板と流路基板の接合強度及び接合信頼性を考慮した場合は、十分とはいえない。そのため、流路基板全体がたわむような変位が発生した場合に、各個別液室間の相互干渉の影響が大きくなる。また保持基板と流路基板との接合信頼性が十分に確保できない場合は、保持基板と流路基板の接合部の幅を広くとることになり、インクジェットヘッドの小型化が困難となる。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてこれを解決すべくなされたものであり、流路基板と保持基板の接合信頼性を高め、且つ小型化に貢献するインクジェットヘッド及び記録装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成すべく、以下の如き構成を採用した。
【0012】
本発明のインクジェットヘッドは、液室隔壁によって区画されておりインク供給口と連通した個別液室が短手方向に配列された流路基板と、前記個別液室に設けられたノズル開口と対向する面に形成された振動板と、前記振動板上に下部電極、圧電素子、上部電極を積層して形成されたアクチュエータと、を有し、前記アクチュエータに駆動信号を供給する個別電極及び共通電極を前記上部電極と接続する配線層パターンが前記液室隔壁上に形成されたインクジェットヘッドであって、前記アクチュエータに対向する位置に、保持基板隔壁により区画された凹状の振動室が形成されており、前記保持基板隔壁が前記配線層を含む積層膜を介して前記液室隔壁に接合される保持基板を有し、前記短手方向における前記保持基板隔壁の幅は、前記短手方向における液室隔壁の幅より狭く、前記配線層パターンの幅よりも広くした。
【0013】
本発明の記録装置は、液室隔壁によって区画されておりインク供給口と連通した個別液室が短手方向に配列された流路基板と、前記個別液室に設けられたノズル開口と対向する面に形成された振動板と、前記振動板上に下部電極、圧電素子、上部電極を積層して形成されたアクチュエータと、を有し、前記アクチュエータに駆動信号を供給する個別電極及び共通電極を前記上部電極と接続する配線層パターンが前記液室隔壁上に形成されたインクジェットヘッドを有する記録装置であって、前記インクジェットヘッドは、前記アクチュエータに対向する位置に、保持基板隔壁により区画された凹状の振動室が形成されており、前記保持基板隔壁が前記配線層を含む積層膜を介して前記液室隔壁に接合される保持基板を有し、前記短手方向における前記保持基板隔壁の幅は、前記短手方向における液室隔壁の幅より狭く、前記配線層パターンの幅よりも広くした。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、流路基板と保持基板の接合信頼性を高め、且つ小型化に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第一の実施形態の記録装置の概要を示す斜視図である。
【図2】第一の実施形態の記録装置の断面図である。
【図3】インクジェットヘッドの上面図である。
【図4】インクジェットヘッドのA−A断面図である。
【図5】インクジェットヘッドのB−B断面図である。
【図6】流路基板と保持基板との接合部を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第一の実施形態)
以下に図1、図2を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0017】
図1は、第一の実施形態の記録装置の概要を示す斜視図であり、図2は第一の実施形態の記録装置の断面図である。本実施形態の記録装置100は、インクジェットヘッドを搭載したインクジェット式画像形成装置である。
【0018】
本実施形態の記録装置100は、内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ110、キャリッジ110に搭載されたインクジェットヘッド200、インクジェットヘッド200へインクを供給するインクカートリッジ120等で構成される印字機構部130等を有する。また記録装置100の下方部には前方側から多数枚の用紙140を積載可能な給紙カセット(給紙トレイ)150を抜き差し自在に装着される。
【0019】
また記録装置100では、用紙140を手差しで給紙するための手差しトレイ155を開倒することができ、給紙カセット150或いは手差しトレイ155から給送される用紙140を取り込み、印字機構部120によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ160に排紙する。
【0020】
印字機構部120は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド161と従ガイドロッド162とでキャリッジ110を主走査方向に摺動自在に保持する。キャリッジ110は、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出するインクジェットヘッド200を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0021】
キャリッジ110にはインクジェットヘッド200に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ120を交換可能に装着している。
【0022】
インクカートリッジ120は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッド200へインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッド200へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。尚本実施形態では、各色のインクジェットヘッド200を用いるが、インクジェットヘッド200は各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0023】
キャリッジ110は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド161に摺動自在に嵌めて装着され、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド162に摺動自在に載置されている。
【0024】
キャリッジ110を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ167で回転駆動される駆動プーリ168と従動プーリ169との間にタイミングベルト170を掛け回し、タイミングベルト170をキャリッジ110に固定している。主走査モータ167の正逆回転によりキャリッジ110が往復駆動される。
【0025】
また記録装置100は、給紙カセット150にセットした用紙140をインクジェットヘッド200の下方側に搬送するために、給紙カセット150から用紙140を分離給紙する給紙ローラ171及びフリクションパッド172と、用紙140を案内するガイド部材173と、給紙された用紙140を反転させて搬送する搬送ローラ174と、を有する。また記録装置100は、搬送ローラ174の周面に押し付けられる搬送コロ175及び搬送ローラ174からの用紙140の送り出し角度を規定する先端コロ176を有する。搬送ローラ174は副走査モータ177によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0026】
また記録装置100はキャリッジ110の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ174から送り出された用紙140をインクジェットヘッド200の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材179を有する。記録装置100において、印写受け部材179の用紙搬送方向下流側には、用紙140を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ181、拍車182が設けられている。記録装置100には、さらに用紙140を排紙トレイ160に送り出す排紙ローラ183及び拍車184と、排紙経路を形成するガイド部材185,186とが配設されている。
【0027】
記録装置100は、記録時には、キャリッジ110を移動させながら画像信号に応じてインクジェットヘッド200を駆動することにより、停止している用紙140にインクを吐出して1行分を記録し、用紙140を所定量搬送後次の行の記録を行う。
【0028】
記録終了信号または、用紙140の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙140を排紙する。
【0029】
キャリッジ110の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、インクジェットヘッド200の吐出不良を回復するための回復装置187を配置している。回復装置187はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ110は印字待機中にはこの回復装置187側に移動されてキャッピング手段でインクジェットヘッド200をキャッピングし、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。
【0030】
また記録装置100は、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0031】
また記録装置100において、吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でインクジェットヘッド200の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクと共に気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去されて吐出不良が回復される。
【0032】
また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0033】
このように、本実施形態の記録装置100では、耐熱性密着層を用いることで、電極層の剥離が生じないため、駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像の抜け等もなく画像品質が向上する。
【0034】
次に、図3乃至図5を参照して本実施形態のインクジェットヘッド200について説明する。図3はインクジェットヘッドの上面図であり、図4はインクジェットヘッドのA−A断面図である。図5はインクジェットヘッドのB−B断面図である。
【0035】
本実施形態のインクジェットヘッド200は、少なくとも流路基板10、ノズル板11、保持基板12を含んで構成される。
【0036】
保持基板12には、複数の保持基板隔壁13により区画された振動室14がその幅方向に並設されている(図5参照)。流路基板10は、インク供給口15から供給されたインク又は液体を、流体抵抗部16を経由して個別液室17に接続する流路を形成する。流体抵抗部16は、振動室14毎に振動室14よりも狭い幅で形成されており、インク供給口15から振動室14へ流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0037】
流路基板10の下方にはノズル18が形成されたノズル板11が接合されている。インクジェットヘッド200では、個別液室17の上部に形成された振動板20を変位させて個別液室17に圧力変動を発生させ、ノズル18からインク液滴を噴射する。振動板20上には、振動板20を変位させるアクチュエータ19が形成されている。
【0038】
本実施形態のアクチュエータ19は、圧電素子21を用いたものとした。圧電素子21の振動室14側には上部電極22が形成されており、圧電素子21と振動板20との間には下部電極23が形成されている。上部電極22からは、圧電素子21毎に個別の信号を供給するための個別電極24が引き出される。下部電極23からは、圧電素子21毎に共通の信号を供給するための共通電極25が引き出される。個別電極24及び共通電極25は、後述する配線層に形成されている。
【0039】
本実施形態では、個別電極24及び共通電極25を介して、上部電極22及び下部電極23に駆動信号を入力することでアクチュエータ19を駆動しインク液滴を吐出することが可能となる。
【0040】
駆動信号は、個別電極24と共通電極25と適切な方法で接続された駆動回路から入力される。個別液室17は、流路基板10の短手方向に配列する構造をとり、各個別液室17は液室隔壁26によって区画されている。それぞれの個別液室17毎にインク供給口15、流体抵抗部16、ノズル18が形成されている。
【0041】
インクはインク供給口15を介して保持基板12に形成されたインク供給路27から供給される。インク供給路27へは任意の供給経路でインクが供給される。上記の基本的な液室、電極構成は圧電素子を用いたインクジェットヘッドとして公知のものとなっている。
【0042】
以下に本実施形態のインクジェットヘッド200について、さらに詳細に説明する。
【0043】
本実施形態のインクジェットヘッド200において、ノズル18はノズルプレート11上にアレイ状またはマトリクス状に配置されている。図4の例では奥行き方向にノズル18を列上に配置することでアレイ状とすることができる。またアレイ状としてノズル18を水平方向に並べることでマトリクス状のノズル配置とすることができる。
【0044】
ノズルプレート11の材質は、加工精度及び組立性(量産性)から適切なものを選ぶことができる。ノズルプレート11の材料の例としては、金属または合金、Si,ガラス等の無機材料、樹脂材料等が挙げられる。ノズル18の加工方法は、材料に適したものを使用することができ、プレス加工等の機械加工、レーザー加工、電鋳加工、エッチング等の既存の加工方法を用いることができる。ノズル径は、吐出するインクの物性や、ノズル配列密度、必要とされる吐出性能に応じて任意に設計することができる。本実施形態ではノズル加工の均一性から、SUS基板上のプレス加工を用いることが好ましい。プレス加工を用いる場合、同一の金型で各ノズルを加工するため加工の安定性が高くすることができる。
【0045】
また本実施形態では、ノズルプレート11の吐出側に撥水処理等を行い、吐出性能の安定化等を図ってもよい。ノズルプレート11と流路基板10との接合は任意の手法を用いることができ、既存の接着技術等を流用することができる。
【0046】
流路基板10上にはノズル18と連通する個別液室17が形成されている。個別液室17はノズル18毎に形成されており、個別液室17毎にアクチュエータ19と振動板20を介して圧力変動させることでノズル18から液滴を吐出する。個別液室17は図4に示す流体抵抗部16を形成する流路を介して、インク供給口15に接続される。インクは、インク供給口15の上部のインク供給路27を介して個別液室17に供給される。個別液室17、流体抵抗部16を含むインク流路はノズル18と同様に図4の奥行き方向に配列することで、アレイ化することができる。
【0047】
流路基板10の材質は、任意の材料を用いることができるが、本実施形態では、高密度化を考慮して微細加工可能な材料を選定することが好ましい。個別液室17の配列ピッチは100um以下とし、流路の加工ばらつきをマイクロメータの単位とするためには、半導体工法を用いることが好ましい。流路基板10の材料としては、Siウェハを用いることが好ましい。
【0048】
個別液室17を含むインク流路の加工方法は、Siウェハを用いる場合は、フォトリソグラフィを用いることが好ましく、エッチング方法としてはアルカリ性のエッチング液を用いたウェットエッチング法や、プラズマプロセスを用いたドライエッチング法を選ぶことができる。流路基板10の厚さは、吐出性能及び加工性から任意の厚さを選定できるが、30〜200μmの範囲さらに好ましくは30〜100μmの範囲とすることが好ましい。上記の範囲とすることで、100μm以下のノズル配列ピッチにおいても、良好な吐出性能を得ることが可能となる。
【0049】
本実施形態のインクジェットヘッド200は、図5に示すように、各個別液室17は液室隔壁26により区画されている。液室隔壁26の幅は、加工精度や剛性を確保できる幅に設定されることが好ましい。本実施形態において、液室隔壁26の幅は、流路基板10の厚さに対して1/4以上が好ましく、さらに好ましくは1/3以上である。液室隔壁26の幅が細すぎる場合、撓みにより隣接する個別液室17同士の相互干渉が発生する。液室隔壁26の幅が広すぎる場合、ノズル配列密度が低下する。
【0050】
個別液室17の長さ、すなわち図4の個別液室17のB−B断面幅は、吐出性能に応じて最適な形状を選定できる。個別液室17の長さを長くした場合、アクチュエータ19を駆動した際の排除体積を大きくすることができ、大きな液滴を吐出することができる。その反面、個別液室17のインク及び構造体の共振周波数が低下するため、駆動周波数が低下する。したがって個別液室17のB−B断面幅の適切な幅は30〜150μmの範囲が好ましく、長さは600〜1500μmの範囲が好ましい。
【0051】
図4の個別液室17において、インク供給口15側に形成される流体抵抗部16は、個別液室17を加圧した際のインク供給口15側へのインクの逆流を低減する機能と、インク吐出後に減圧状態になった個別液室17にインクを供給する機能とを有する。形状はノズル18側の流体抵抗部16より流体抵抗の値が高いことが必要であり、インク供給量を維持するための流体抵抗の値及びインダクタンス(インクの慣性)を適切な範囲とする必要がある。形状としては、個別液室17より幅又は深さ(もしくは双方)を狭くし、長さを調整することで所望の特性とすることができる。
【0052】
また本実施形態のインクジェットヘッド200では、流路基板10の上方に振動板20を形成する。振動板20は圧電素子21による応力により撓みを発生し、個別液室17の体積を変化させることで個別液室17内のインク圧力を変動させる。このため、弾性変形する薄膜である必要がある。振動板20の材料としては、圧電素子21による応力で弾性変形することが必要であり、金属・合金や無機材料、樹脂などの有機材料から選ぶことができる。本実施形態のインクジェットヘッド200では、ノズルの高密度化、圧電素子21の高集積化を目的としているため、液室加工方法と整合可能な材料、工法を選定することが好ましい。
【0053】
振動板20の材料としては任意の金属,合金,誘電体,半導体を用いることができるが、本実施形態では高い剛性と加工性から誘電体,半導体もしくはこれらの積層構造体とすることが好ましい。誘電体材料としては、Al2O3,ZrO2,TiO2,SiO2,Y2O3などの酸化物,SiN,TiN,AlNなどの窒化物,TiC,SiCなどの炭化物が例として挙げられ、半導体としてはシリコン,ポリシリコン,アモルファスシリコンが挙げられる。これらの誘電体材料、半導体材料の複合化合物としてもよく、また積層構造体としても良い。
【0054】
振動板20の厚さは、吐出特性から最適化する必要があるが、0.5μmから5μmの範囲とすることが好ましい。硬すぎる振動板20は高い駆動電力を必要とし、柔らかい振動板20はコンプライアンスが高くなり吐出効率の低下や共振等の影響を受けやすくなる。
【0055】
振動板20上にはアクチュエータ19が形成される。アクチュエータ19は下部電極23,圧電素子21,上部電極22を積層した構成とするのが一般的である。電極材料には任意の金属・導電体を用いることができるが、圧電素子21に接触する材料には導電性酸化物材料を用いることが好ましい。電極材料は圧電素子21の物性・構造・構成元素に合わせて最適なものを選定することが好ましい。材料の例としては、酸化イリジウム,酸化パラジウムなどの白金族酸化物及びその複合酸化物やNi,Zn,Sn,Ti,Ta,Nb,Mn,Sb,Bi,Sbなどの金属酸化物及び複合酸化物が例として挙げられる。圧電素子21には任意のものを用いることが可能であるが、圧電性能,温度安定性からチタン酸ジルコン酸鉛を用いることが好ましい。圧電素子21の成膜には既存の手法を用いることができるが、スパッタリング等の真空成膜法と有機金属化合物の溶液を用いる液相法が例として挙げられる。スパッタリング法では成膜レートが低いことと組成安定性が困難であると同時に量産性が悪化する。それと比較して有機金属化合物をスピンコート等で塗布し熱処理することで所望の材料組成を有する圧電体を得る液相法のほうが量産性及び組成安定性から好ましい。いずれの成膜手法においても、高い圧電性能を発現するためには結晶化させる必要がある。結晶化温度は成膜方法や材料組成に依存するが、500℃〜1000℃の範囲となるため、電極材料には耐熱性の高い金属または導電性材料を用いることが好ましい。これらの材料として高融点かつ反応性の低い材料が適しており、Pt,Ir,Pd等の白金族及びその化合物・合金が好ましい。また圧電素子21の鉛や酸素が熱処理中に電極中に拡散することや、電極材料が圧電材料中に拡散することを防止するために、上部電極22、下部電極23の圧電体界面に拡散防止層を入れてもよい。拡散防止層としては、導電性酸化物を用いることが好ましく、前述の金属材料を複合酸化物とするのが良い。
【0056】
尚図示していないが、アクチュエータ19の端部及び表面に保護膜を形成してもよい。保護膜を形成することにより、アクチュエータ19周辺の空気に含まれる酸素や水分が圧電材料と反応することを防止し、耐久性を高めることができる。保護膜としては任意の樹脂・絶縁体を選ぶことができるが、水分や酸素の透過率を考慮すると、無機材料であることが好ましい。無機材料としてはAl,Zr,Si,Ti,Ta等の酸化物,窒化物,炭化物が好ましい。膜厚としては、水分・酸素透過率を確保できる膜厚が必要であると同時に、振動板の変位を阻害しない厚さとする必要があり、前述の無機材料を用いた場合20〜100nmの範囲とすることが好ましい。
【0057】
アクチュエータ19の上部電極22と下部電極23間に電圧を印可することにより、振動板20上の圧電素子21に応力が発生し、振動板20が撓むことで個別液室17に圧力変化を発生させる。アクチュエータ19への電圧印可は、図示しない駆動回路から供給される。本実施形態では、駆動回路との接続のために上部電極22と接続した個別電極24と、下部電極23と接続した共通電極25に同一の配線層をパターニングし、駆動回路との接続部まで引き出している。本実施形態では、これにより一度のパターニング工程(成膜・フォトリソグラフィ・エッチング)にて、個別電極24と共通電極25を形成することが可能となる。
【0058】
配線層の材料としては、任意の導電性材料を用いることが可能であるが、抵抗値を考慮して金属または合金を用いることが好ましい。金属としては、Al,Au,Pt,Ag,Cu,Pd,Ir,W,Ni,Ta,Ti,Cr,Mn等及びこれらの元素または任意の元素との合金や金属化合物を用いることができる。一般的な半導体の電極材料に用いられるAl,Cu等の合金を用いることが、量産工法が確立されているため好ましい。
【0059】
本実施形態では、個別電極24は個別電極-上部電極接続部28を介して上部電極22と電気的に接続される。図4の例のように、個別電極24を下部電極23の形成領域上を介して引き回すためには、層間絶縁膜として絶縁膜30を配することが必要である。これにより、下部電極23と個別電極24間を絶縁することが可能となる。絶縁膜30の材料としては、半導体で一般的に用いられる絶縁膜材料を用いることができ、半導体で一般的に用いられる材料としては、SiO2,Si3N4等が挙げられる。また絶縁膜30は、複数の絶縁材料の積層構造とされても良い。
【0060】
絶縁膜30を形成した場合、個別電極24と同様に共通電極25も層間絶縁膜上に形成される。共通電極25と下部電極23は共通接続部を介して接続されている。共通電極25も個別電極24と同様に駆動回路の接続部まで引き出される。個別電極接続部及び共通電極接続部は絶縁膜30に形成されたコンタクトホール41を介して、電気的に接続される。
【0061】
配線材料にAlやCuなどの半導体デバイスで用いられる一般的な配線材料を用いた場合、配線材料の腐食等を防止するために、配線保護する絶縁膜32が必要となる。絶縁膜32は駆動回路との接続部を除く配線層形成領域を被覆するものである。絶縁膜32は、任意の材料(有機物・無機物)を用いることができるが、水分、酸素等の透過率が十分に低い材料を選定する必要がある。これらの材料としては無機絶縁材料を用いることが好ましい。例えば金属酸化物,窒化物,炭化物及びこれらの複合化合物を用いることが好ましく、例えばSi,Al,Ti,Ta等の酸化物,窒化物,炭化物が好ましい。特にAl又はAlを主成分とする合金材料を用いた場合、Si3N4を用いる一般的な手法を用いることができる。また、圧電素子21が形成されている領域では絶縁膜32を除去することで振動板20の変位阻害を低減できる。
【0062】
また本実施形態のインクジェットヘッド200において、流路基板10は、保持基板12と接合される。保持基板12は流路基板10の強度を保持する機能を有する。図5に示すとおり、個別液室17を区画する液室隔壁26と対向する部分を保持基板隔壁33にて支持することにより、隣接する圧電素子21を駆動した際に振動板20を介して発生する隣接相互干渉を低減することができる。
【0063】
保持基板12の材質は、強度及び加工性から適した材料を選定することができ、任意の金属、無機材料、有機材料等が利用できる。ただし、高い剛性と微細加工性を考慮すると、Si基板を用いることが好ましい。Si基板を用いた場合、半導体製造工程(フォトリソグラフィ、エッチング)を用いて保持基板隔壁33を高精度かつ微細に形成することができる。
【0064】
保持基板12では、振動板20上のアクチュエータ19が形成される領域を含むように凹加工されて、振動室14とされる。振動室14を設けることにより、圧電素子21を駆動し振動板20を変位させた際に、変位を阻害することはない。
【0065】
保持基板12と流路基板10との接合部は任意の手法で接合することが、接着剤を用いた接合方法をとることが好ましい。接着剤を用いた接合工法では、接着剤種を適切なものとすることで、幅広い材料種に対応することができる。接着剤としては樹脂材料を用いることが一般的であり、既存の接着技術を利用することができる。
【0066】
保持基板12は少なくとも駆動回路との接続部を開口し、外部の駆動信号源と接続できる形態とする必要がある。そのため、保持基板12の振動室14を区画する保持基板隔壁部13と流路基板10との接合部も個別電極24を引き出す必要がある。
【0067】
従って、保持基板12と流路基板10との接合部の層構成は、振動板20,下部電極23,絶縁膜30(層間絶縁膜),個別電極24(配線層),絶縁膜32(配線保護層)の構成となっている。この構成の中で本実施形態のインクジェットヘッド200で必要な構成は、配線層で形成された個別電極24の配線と振動板20である。その他の層は、各層の材料や電極の配置で省略することも可能であるが、個別電極24、共通電極25の配線層は外部への電気接続のため必須の層構成となっている。よって保持基板12と流路基板10の接合部には、配線層(個別電極24と共通電極25と同一の層)で形成されたパターンが配置される。
【0068】
本実施形態のインクジェットヘッド200では、保持基板12と流路基板10とを接合する際に、個別液室17を区画する液室隔壁26と保持基板隔壁13とを接合することで、隣接する個別液室17間の相互干渉を低減する。相互干渉を低減させるためには、保持基板隔壁13と流路基板10の接合強度及び接合精度が重要となってくる。
【0069】
本実施形態では、保持基板12と流路基板10との接合部の層構造に含まれる個別電極24と共通電極25を形成する配線層を保持基板12の開口部に引き出す。保持基板隔壁13と流路基板10との接合も同様の構成とする。これにより、保持基板12と流路基板10との接合部の層構成を同一とすることができ、接合信頼性及び強度を高めることが可能となる。
【0070】
以下に図6を参照して本実施形態のインクジェットヘッド200における流路基板10と保持基板12との接合部について説明する。図6は、流路基板と保持基板との接合部を説明する図である。
【0071】
本実施形態では、液室隔壁26の幅を幅W0、保持基板隔壁13の幅を幅W1、配線層40のパターン幅を幅W2としたとき、W0>W1>W2とした。本実施形態の流路基板10の個別液室17の加工は前述の通り、フォトリソとエッチングで微細加工することで形成されるが、深堀加工となるため加工精度にバラツキが生じる可能性がある。具体的には、振動板20との界面部にサイドエッチングが入り振動板20側での液室隔壁26の幅0がばらつく傾向にある。
【0072】
保持基板12と流路基板10との接合部50において、接合信頼性が液室隔壁26の幅W0に依存しないようにするためには、配線層40のパターン幅W2を液室隔壁26の幅W0よりも狭くすれば良い。さらに保持基板隔壁13の幅W1を配線層40のパターン幅W2より広くすることで、保持基板12と流路基板10との接合部50の幅及び接合部50の位置を配線層40のパターン精度で決めることができる。
【0073】
配線層40のパターニングは、半導体製造構成で一般的に用いられる配線材料(薄膜)のフォトリソグラフィで形成されるため、パターニング精度は非常に高く、1μm以下の精度で形成可能である。それに対して、保持基板10の振動室14の加工(=保持基板隔壁13の加工)や個別液室17の加工(=流路隔壁26の加工)は、深さと幅のアスペクトが近い加工方式となり、エッチング加工精度が薄膜の場合と比較して悪化する傾向にある。
【0074】
さらに、保持基板12と流路基板10の接合精度は機械的に接着させる工程であるため、個々の部品の加工精度と位置あわせ精度、接合時の加圧や加熱による位置ずれ等が生じる。このため保持基板12と流路基板10の位置あわせ精度が悪く、既存の接合設備を用いる場合には数μmの位置ずれが発生していた。
【0075】
本実施形態では、上記のように位置精度が最も高い配線層40のパターン幅W2を最も狭くすることで流路隔壁26と保持基板隔壁13との接合部50における位置ずれを低減させ、接合の精度を向上させる。
【0076】
例えば本実施形態では、保持基板12の接合の際に保持基板12が位置ずれした場合、位置ずれ量が(W2−W1)/2の範囲であれば、接合部50の接合面Sの面積の変動及び接合部50の中心の位置ずれは発生しない。従ってW2<W1とすることが好ましい。
【0077】
また本実施形態では、保持基板隔壁13の幅W1を液室隔壁26の幅W0よりも狭くすることで、保持基板12が位置ずれした場合でも、位置ずれ量が(W0−W1)/2の範囲であれば、保持基板隔壁13が液室隔壁26に重なることはなく、有効な振動室14の幅を確保することができる。
【0078】
液室隔壁26の幅W0を保持基板隔壁13の幅W1よりも狭くした場合、接合部50における保持基板12の位置ずれが発生したとき、振動室14の領域が減少することになり、圧電素子との干渉が懸念される。
【0079】
以上から本実施形態では、幅W0、幅W1、幅W2の関係は、W0>W1>W2とすることで、保持基板12の接合幅、保持基板隔壁13の接合中心位置、振動室14の幅を保持基板12の接合位置の精度によらず確保することが可能となる。さらに、接合部50の層構成に配線層40を含むことで接合部50の層構成をそろえることができるため、接合信頼性を高めることができる。また本実施形態では、液室密度の高密度化と、それに伴う隣接する個別液室間の相互干渉を緩和することができる。
【0080】
(第二の実施形態)
以下に本発明の第二の実施形態について説明する。本発明の第二の実施形態では、第一の実施形態にさらなる条件を加えたものである。よって以下の本発明の第二の実施形態では、第一の実施形態との相違点についてのみ説明し、第一の実施形態と同様の機能構成を有するものには第一の実施形態の説明で用いた符号を付与し、その説明を省略する。
【0081】
本実施形態では、配線層40上の保護膜として形成した絶縁膜32と、下部電極23と配線層40の間に層間絶縁膜として形成した絶縁膜30について説明する。
【0082】
本実施形態の絶縁層30は、下部電極23を介して個別電極24を引き回す場合の層間絶縁膜として、配線層40の下に形成されている。また絶縁膜32は、配線層40の保護膜として、駆動回路との接続部以外の領域の配線上に形成されている。
【0083】
絶縁膜30の材料としては、前述の通り任意の絶縁材料を使用することができるが、半導体デバイスで一般的に用いられる絶縁材料であるSio2を用いることが好ましい。また絶縁膜30は、複数の絶縁層を積層して密着性向上等を図っても良い。
【0084】
絶縁膜32の材料としては、配線層40に一般的なAlまたはAl合金を用いた場合、Si3N4を配することが好ましい。
【0085】
絶縁膜30と絶縁膜32が設けられた場合、図6に示すように、液室隔壁26と保持基板隔壁13を接合する層構成は振動板20、下部電極23、絶縁膜30、配線層40、絶縁膜32の構成となる。
【0086】
この構成の場合、配線層40及び絶縁膜30、絶縁膜32が必須の構成となる。それにより、接合部50が電極を引き出す部分と同一の層構成となり可能となり、接合信頼性を高めることが可能となる。
【0087】
さらに絶縁膜30及び絶縁膜32も、配線層40と同様にパターニングすることが必要である。本実施形態では、絶縁膜30及び絶縁膜32のパターン幅を幅W3とした場合、幅W3>幅W2とした。上記の構成とすることで配線層40のパターンの端部を絶縁膜30及び絶縁膜32で被覆することができ、下部電極23との絶縁性と配線保護を確実にすることが可能となる。
【0088】
さらに本実施形態では、幅W3<幅W0とした。これにより絶縁膜30及び絶縁膜32が個別液室17の形成領域に入ることがなく、振動変位を阻害することはない。また、個別液室17の加工精度が悪化した場合でも(W0−W3)/W2までの位置ずれ等を許容することができる。
【0089】
以上から絶縁膜30及び絶縁膜32の液室隔壁26上のパターン幅W3をW2<W3<W0とすることで、第一の実施形態の効果を奏しつつ、絶縁膜30、32により個別電極24の配置の自由度と、配線保護による配線材料の自由度を広げることができる。よって本実施形態によれば、高集積化によるインクジェットヘッド200の小型化と量産性を確保することができる。
【0090】
(第三の実施形態)
以下に本発明の第三の実施形態について説明する。本発明の第三の実施形態では、第一の実施形態及び第二の実施形態にさらなる条件を加えたものである。よって以下の本発明の第三の実施形態では、第一の実施形態との相違点についてのみ説明し、第一の実施形態と同様の機能構成を有するものには第一の実施形態の説明で用いた符号を付与し、その説明を省略する。
【0091】
本実施形態では、流路基板10と保持基板12とを接着剤51により接合する場合を想定したものである。接着剤接合を行う場合、絶縁膜30及び絶縁膜32のパターン幅W3と保持基板12の幅W2の関係をW3>W1とすることが好ましい。
【0092】
本実施形態のインクジェットヘッド200において、もっとも位置精度が悪い(位置ずれが発生し易い)部分は、保持基板12と流路基板10の位置決めである。また接着剤51を用いた場合は、硬化前に流動性のある接着剤を加圧した際に接合部50から押し出された接着剤が流路基板10上を流動する。
【0093】
本実施形態では、絶縁膜30及び絶縁膜32をパターニングしたエッジ部の表面張力により、接着剤51の流動を防止する。しかし、幅W1>幅W3とした場合は、絶縁膜30と保持基板隔壁13との隙間が接着剤51の厚さ+配線層40の厚さとなるため、数μmとなる。この場合、流動性のある接着剤51は毛管力で拡散するため、保持基板12が位置ずれした場合に絶縁膜30及び絶縁層32のパターンを超えて圧電素子21側に流動してしまう。圧電素子21側に接着剤51が流動した場合は、振動板20上に変位を阻害する膜が形成されることになり、吐出特性が低下する。
【0094】
そこで本実施形態では、絶縁層30及び絶縁膜32のパターンの幅W3を保持基板隔壁13の幅W1に対して、W3>W1とすることにより、保持基板12の位置ずれが吐出性能に影響しない構造とすることができる。
【0095】
(第四の実施形態)
以下に本発明の第四の実施形態について説明する。本発明の第四の実施形態では、インク供給27を保持基板12に設けたものである。本発明の第四の実施形態では、第一の実施形態との相違点についてのみ説明し、第一の実施形態と同様の機能構成を有するものには第一の実施形態の説明で用いた符号を付与し、その説明を省略する。
【0096】
本実施形態では、個別液室17にインクを供給するインク供給路27を保持基板12に設けた。その場合、振動板20上にインク供給口27を貫通口として形成することになる。本実施形態の場合、インク供給口27の周辺の保持基板12と流路基板10の接合部53がインクに接触するため、インク封止できる層構成とする必要がある。
【0097】
そこで本実施形態では、図4に示すように、インク供給口27を包含する配線パターン29をインク供給口27の周りにパターニングすることで、接合部53の層構成を他の領域と同一とすることができるため、インク封止性能を高めることが可能となる。この構成により、インク供給路27を立体的に配置することができるため、インクジェットヘッド200を小型化することができる。
【0098】
以上、各実施形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施形態に示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができ、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0099】
10 流路基板
11 ノズル板
12 保持基板
14 振動室
13 保持基板隔壁
17 個別液室
18 ノズル
20 振動板
21 圧電素子
22 上部電極
23 下部電極
26 液室隔壁
100 記録装置
200 インクジェットヘッド
【先行技術文献】
【特許文献】
【0100】
【特許文献1】特開2005−144847号公報
【特許文献2】特開2004−082623号公報
【特許文献3】特開平11−291497号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液室隔壁によって区画されておりインク供給口と連通した個別液室が短手方向に配列された流路基板と、前記個別液室に設けられたノズル開口と対向する面に形成された振動板と、前記振動板上に下部電極、圧電素子、上部電極を積層して形成されたアクチュエータと、を有し、前記アクチュエータに駆動信号を供給する個別電極及び共通電極を前記上部電極と接続する配線層パターンが前記液室隔壁上に形成されたインクジェットヘッドであって、
前記アクチュエータに対向する位置に、保持基板隔壁により区画された凹状の振動室が形成されており、前記保持基板隔壁が前記配線層を含む積層膜を介して前記液室隔壁に接合される保持基板を有し、
前記短手方向における前記保持基板隔壁の幅は、前記短手方向における液室隔壁の幅より狭く、前記配線層パターンの幅よりも広いインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記積層膜は、前記配線層パターンの下方に形成された第1の絶縁膜と、前記配線層パターンの上方に形成された第2の絶縁膜とを含み、前記配線層パターンを包括するように前記第1の絶縁膜と前記第2の絶縁膜とがパターニングされており、
前記第1の絶縁膜及び前記第2の絶縁膜のパターン幅は、前記配線層パターンの幅より広く且つ前記液室隔壁の幅よりも狭い請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記第1の絶縁膜及び前記第2の絶縁膜のパターン幅は、前記保持基板隔壁の幅よりも広い請求項2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記インク供給口は、前記振動板上を貫通する貫通口として形成されており、前記インク供給口の周辺部は、前記保持基板が前記配線層を含む積層膜を介して前記流路基板と接合されている請求項1ないし3の何れか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
液室隔壁によって区画されておりインク供給口と連通した個別液室が短手方向に配列された流路基板と、前記個別液室に設けられたノズル開口と対向する面に形成された振動板と、前記振動板上に下部電極、圧電素子、上部電極を積層して形成されたアクチュエータと、を有し、前記アクチュエータに駆動信号を供給する個別電極及び共通電極を前記上部電極と接続する配線層パターンが前記液室隔壁上に形成されたインクジェットヘッドを有する記録装置であって、
前記インクジェットヘッドは、
前記アクチュエータに対向する位置に、保持基板隔壁により区画された凹状の振動室が形成されており、前記保持基板隔壁が前記配線層を含む積層膜を介して前記液室隔壁に接合される保持基板を有し、
前記短手方向における前記保持基板隔壁の幅は、前記短手方向における液室隔壁の幅より狭く、前記配線層パターンの幅よりも広い記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−49191(P2013−49191A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188339(P2011−188339)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】