説明

インクジェットヘッド用の流体放出装置

インクジェットヘッドのために使用されることができる流体放出装置が記述される。小さいストロークを有する大きいアクチュエータは、本質的に相対的に非圧縮性の流体による液圧伝達と組み合わされて、小さいメンブレンの大きいストロークを生成するために使用される。更に、インクは、アクチュエータの駆動フェーズの間、放出され、それにより液滴挙動のより良好な制御を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドのための流体放出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドのための流体放出装置は、欧州特許出願公開第1208982号明細書に記述されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
流体放出器は、封止されたデュアルダイアフラム機構、封止されたダイアフラムと平行であり対向する電極機構、及び放出されるべき流体を含む構造を有する。相対的に非圧縮性の流体を含むダイアフラム室が、ダイアフラムの後部に位置し、ダイアフラムによって封止される。少なくとも1つのノズル孔が、ダイアフラムの1つの上の、放出器の表面プレートに形成される。駆動信号が、電極とダイアフラムの第1のものとの間に静電界を生成するために、電極機構の少なくとも1つの電極に印加される。第1のダイアフラムは、静電界のために、静電力により電極の方へ引き寄せられ、変形した形状になる。変形するとすぐに、圧力が、封止されたダイアフラムの第2のものに伝えられる。伝えられた圧力及び封止されたダイアフラム室内に収容された流体の相対的に非圧縮性の性質により、第2のダイアフラムは、少なくとも1つのノズル孔の少なくとも1つに流体を通すように反対方向に歪む。液滴が放出されたあと、変形されたダイアフラムの通常の弾性の元に戻ろうとする動作及び/又は他の電極によって生成される適用される力を通じて、動きは逆転する。ダイアフラム機構は、放出されるべき流体を収容する構造内に配置される。1つのダイアフラムは、上に歪み、他方のダイアフラムは、封止されたダイアフラム室内の相対的に非圧縮性の流体による圧力の伝達により、下に歪む。2つのダイアフラムの反対方向の作用は、負の干渉を引き起こし、結果的に、液滴挙動の制御の制限をもたらす。
【0004】
本発明の目的は、液滴挙動の改善された制御を有する流体放出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的は、放出室の少なくとも1つの側面に少なくとも1つの開口部を有し、放出室の別の側面を覆う第1のメンブレンを有する放出室と、放出室から分離されており、第2のメンブレンで1つの側面を覆われるデカップリング室と、放出室及びデカップリング室から分離されており、第1のメンブレン及び第2のメンブレンによって部分的に境界付けられる伝達室であって、相対的に非圧縮性の流体で満たされている伝達室と、第1のメンブレン及び/又は第2のメンブレンに力を加える手段と、を有する流体放出装置によって達成される。力が、例えば第2のメンブレンに加えられる場合、第2のメンブレンは歪み、非圧縮性流体に圧力を及ぼす。非圧縮性流体は、圧力を第1のメンブレンに伝える。第1のメンブレンは、第2のメンブレンと反対方向に歪み、これは、第2のメンブレンが、伝達室のボリューム内に歪む場合に、第1のメンブレンが、伝達室のボリュームに対して外側に歪むことを意味する。放出室が流体で満たされる場合、第1のメンブレンは、放出室内の流体に圧力を及ぼし、それによって、少なくとも1つの開口部を介して流体の放出を引き起こす。第2のメンブレンは、放出室と共通の境界を有しないので、第2のメンブレンの歪みは、伝達室内の流体及び第1のメンブレンのみを介して、放出室内の流体に影響を及ぼす。従来技術のように、流体の挙動を妨げる、注入されるべき流体との第2のメンブレンの直接的な相互作用は、起こらない。第2のメンブレンに加えられる力の特性(パルスの形状)による放出挙動の優れた制御が、可能である。力が、第2のメンブレンに加えられず、それにより、伝達室内の非圧縮性流体及び第1のメンブレンを介した放出室内の膨張不足を引き起こす場合、第1のメンブレン及び第2のメンブレンを構成する1又は複数の材料の弾性的な性質は、引き戻し力を生じさせる。膨張不足は、第2の開口部を介して放出室に接続される供給チューブよって、放出されるべき流体で放出室を再び満たすために使用されることができ、供給チューブは更に、放出されるべき流体で満たされたリザーバと接続される。更に、第2のメンブレンに加えられる力が、第2のメンブレンの領域のサイズとともにスケールする場合、第1のメンブレンの大きいストロークが、達成されることができる。大きい第2のメンブレンの小さいストロークは、第1のメンブレンの大きいストロークを引き起こす。付加的に、第1のメンブレンに力を加える手段が設けられることができる。第1及び第2のメンブレンに力を加える手段は、伝達室の内部に対する第1及び第2のメンブレンの内方及び外方への動きが、刺激されることができるような態様であり、これは、流体放出中の流体挙動の制御を更に改善する。前記手段は、放出のために静電力を使用するために電圧源に接触される電極、電磁力を使用するために電力源に接続されるコイル、メンブレンに取り付けられる薄いピエゾ層、又は熱のバイモルフ、でありえる。デカップリング室の充填物は、高度に圧縮可能であるべきであり、又はデカップリング室は、第2のメンブレンの大きい歪みを可能にするために、大気圧に接続されるべきである。流体がデカップリング室内にある場合、デカップリング室は、圧縮可能なボリュームを有する圧力平衡室に接続されなければならない。
【0006】
本発明の一実施例において、放出室は、少なくとも2つの開口部を有し、第1の開口部は、放出室から流体を放出し又はポンピングするためであり、第2の開口部は、流体で放出室を再び満たすための供給チューブに接続される。少なくとも1つの第2の開口部が、供給チューブによって流体リザーバに接続されることができる。放出室内の流体が放出される場合、少なくとも1つの第1の開口部は、好適にはノズルである。放出室の流体がポンピングされる場合、少なくとも1つの第1の開口部は、好適にはチューブに接続される。バルブが、開口部を通じてフローを制御するために、開口部に取り付けられることができる。
【0007】
本発明の他の実施例において、少なくとも1つの第1の電極が、第2のメンブレンに取り付けられ、少なくとも1つの第2の電極が、伝達室の境界に取り付けられ、それにより、電極に接続される電圧源によって、第2のメンブレンに取り付けられる第1の電極に静電力を印加する。電極及び電圧源は、第2のメンブレンに力を加える手段を形成する。第1及び第2の電極の間の静電力は、第2のメンブレンを駆動させ、上述したように、非圧縮性の流体及び第1のメンブレンを介して、放出されるべき流体の放出を引き起こす。第2のメンブレンに取り付けられる第1の電極は、第2のメンブレンの面の一方において導電性の構造でありえ、又は第2のメンブレンに取り付けられる第1の電極が、第1のメンブレン自体を形成することができる。この場合、第1のメンブレンは、導電材料の層によって構成される。第2のメンブレンに取り付けられる第1の電極及び/又は第2の電極は、短絡を防ぎ、電極に印加されうる最高電圧を大きくするために、絶縁材料によって覆われることができる。第2の電極は、好適には、両方の電極に印加される所与の電圧において最大静電駆動を生じさせるように、第1の電極に対向している。
【0008】
本発明の他の実施例において、第3の電極が、第1のメンブレンに対向して伝達室の境界に取り付けられ、第2の電極は、第2のメンブレンに対向し、第1の電極は、第2の電極及び第3の電極に対向して第1のメンブレン及び第2のメンブレン全体に延在し、静電力が、第1のメンブレンに印加されることができる。電圧が、第1の電極及び第2の電極の間に印加される場合、第3の電極は、本質的に第1の電極と同じ電位にあり、さもなければ、両方のメンブレンの同時の駆動は、互いに反対に作用する。第2のメンブレンは、上述したように伝達室内の非圧縮性の流体及び第1のメンブレンを介して、引き寄せられ、放出されるべき流体の放出を引き起こす。次のステップにおいて、電圧が、第1の電極と第3の電極との間に印加され、この場合、第2の電極の電位は、第1の電極の電位と本質的に同じである。第1のメンブレンは、引き寄せられ、流体放出装置のより短い駆動周期を可能にするために、第2のメンブレンの引き戻しを能動的に支援する。
【0009】
本発明の他の実施例において、第3の電極は、第1のメンブレンに取り付けられ、第2の電極は、第1のメンブレン及び第2のメンブレンに対向する。ここでも、両方のメンブレンは、上述したように電極に接続される電圧源によって独立して駆動されることができる。
【0010】
本発明の他の実施例において、第3の電極は、第1のメンブレンに対向して伝達室の境界に取り付けられ、第4の電極は、第1のメンブレンに取り付けられ、第2の電極は、第2のメンブレンに対向する。ここでも、両方のメンブレンは、上述したように電極に接続される電圧源によって独立して駆動されることができる。
【0011】
メンブレンの性質、電極の絶縁、及び伝達室内の非圧縮性流体の特性に関する上述のすべての記述は、これらの実施例にも適用できる。
【0012】
他の実施例において、少なくとも1つの引き戻し電極が、第2のメンブレンに取り付けられる第1の電極に加えて設けられる。引き戻し電極は、デカップリング室の境界の一側面に取り付けられ、電圧源が、第2のメンブレンに取り付けられる第1の電極と引き戻し電極との間に電圧を印加するために設けられ、それにより、引き戻し静電力が、第2のメンブレンに印加されることができる。第2のメンブレンに取り付けられる第1の電極と、第1の電極に対向して伝達室の境界に取り付けられる第2の電極との間の電圧により、第2のメンブレンが引き寄せられて、放出されるべき流体が放出したのち、引き戻し電極と、第2のメンブレンに取り付けられる第1の電極との間の静電力が、第2のメンブレンを引き戻し、それにより、流体放出装置のより良好な制御及びより高速のデューティサイクルを可能にする。第2のメンブレンの引き戻しの間、第1及び第2の電極の間の電圧は、好適にはゼロにセットされ、最大の引き戻し力を生成するために、電圧が第1の電極と引き戻し電極との間に印加される。
【0013】
ここでも、メンブレンの性質、電極の絶縁、及び伝達室内の非圧縮性流体の特性に関する上述のすべての記述が、この実施例にも適用できる。
【0014】
本発明の別の実施例において、少なくとも1つの電極が、伝達室の境界における少なくとも3つの電極に加えて、放出室及び/又はデカップリング室の境界の一側面に取り付けられる。放出室及び/又はデカップリング室の境界の一側面に取り付けられる少なくとも1つの電極は、第1のメンブレン及び/又は第2のメンブレンに取り付けられる1又は複数の電極に対向する。少なくとも1つの電極が、第2のメンブレンに取り付けられる電極に対向してデカップリング室の境界に取り付けられる場合、これは、上述したように放出後の第2のメンブレンの引き戻しを可能にするが、放出プロセスの制御を改善するために第1のメンブレンの駆動の支援をともなう。少なくとも1つの電極が、第1のメンブレンに取り付けられる電極に対向して放出室の境界に取り付けられる場合、放出室の境界に取り付けられる電極は、放出を増幅するために使用されることができる。放出室の境界に取り付けられる電極及び第1のメンブレンに取り付けられる電極の間に電圧を印加するために電圧源を設けることによって生じる第1のメンブレンの付加の引力が、第2のメンブレンに取り付けられる電極と、第2のメンブレンに取り付けられる電極に対向して伝達室の境界に取り付けられる電極との間に電圧を印加して、非圧縮性流体を介して第1のメンブレンに圧力を伝えることによって第2のメンブレンが駆動されることによりもたらされる第1のメンブレンの押力に加わる。第1のメンブレン上の電極に対向して伝達室の境界に取り付けられる電極は、放出されるべき流体の放出中、第1のメンブレン上の電極と同じ電位である。更なるオプションは、少なくとも1つの他の第4の電極が、第1のメンブレンに取り付けられる第3の電極及び第2のメンブレンに取り付けられる第1の電極である2つの別個の電極に対向して、放出室及びデカップリング室全体に延在し、他方、第3の電極及び第1の電極は、伝達室の境界に取り付けられる1つの第2の電極に対向することである。放出室及びデカップリング室の境界に取り付ける第4の電極及び伝達室の境界に取り付けられる第2の電極が、それぞれ異なる電位であり、第1のメンブレンに取り付けられる第3の電極が、伝達室の境界に取り付けられる第2の電極と同じ電位であり、第2のメンブレンに取り付けられる第1の電極が、第1の及びデカップリング室の境界に取り付けられる第4の電極と同じ電位である場合、放出されるべき流体の放出は、増幅されることができる。放出及び引き戻しの間の切り替えは、第1のメンブレンに取り付けられる第3の電極及び第2のメンブレンに取り付けられる第1の電極の電位のバリエーションによって、又は代替として、第1及びデカップリング室の境界に取り付けられる第4の電極及び伝達室の境界に取り付けられる第2の電極の電位のバリエーションによって、制御される。適応された電圧駆動により匹敵する放出プロセスをもたらす他の電極構成は、以下の通りである:
【0015】
a)伝達室の境界に取り付けられている第2の電極及び第3の電極は、第2のメンブレン及び第1のメンブレンに取り付けられる第1の電極に対向し、第2のメンブレン及び第1のメンブレンに取り付けられる第1の電極は、放出室の境界に取り付けられる第4の電極及びデカップリング室の境界に取り付けられる別の引き戻し電極に対向する。
【0016】
b)第2の電極及び第3の電極が、伝達室の境界に取り付けられる。第2の電極は、第2のメンブレンにのみ取り付けられる第1の電極に対向し、伝達室の境界に取り付けられる第3の電極は、第1のメンブレンにのみ取り付けられる第4の電極に対向し、第1のメンブレンにのみ取り付けられる第4の電極は、ここでも、放出室の境界にのみ取り付けられる第5の電極に対向し、第2のメンブレンにのみ取り付けられる第1の電極は、ここでも、デカップリング室の境界にのみ取り付けられる別の引き戻し電極に対向する。
【0017】
ここでも、メンブレンの性質、電極の絶縁、及び伝達室内の非圧縮性流体の特性に関して上述されるすべての記述は、この実施例にも適用できる。
【0018】
伝達室に満たされる非圧縮性流体は、第2のメンブレンの静電駆動によって伝達室内の非圧縮性流体に加えられうる圧力を大きくするために、高い誘電率を有することができる。更に、特に、電極及び非圧縮性流体の間に他の絶縁がない場合、非圧縮性流体は、低い導電率を有するべきである。このために使用されることができる材料は、約78の誘電率及び10−6S/mの低い導電率を有する蒸留水である。短絡に対する付加的な保護は、電極の各々の対の間の少なくとも1つの絶縁層である。
【0019】
それぞれ異なる実施例における電極の電位は、説明の目的のためだけにある。より洗練された電圧パルスが、放出の挙動を最適化するために電極に印加されることができる。
【0020】
本発明の他の目的は、放出されるインクの液滴挙動の改善された制御を有する流体放出装置を有する印刷システムを提供することである。
【0021】
印刷システムは、本発明による流体放出装置を有する。流体放出装置は、インクを放出するために印刷システムの印刷ヘッドにおいて実現される。
【0022】
本発明の他の目的は、液滴挙動の改善された制御を有する流体放出装置を駆動する方法を提供することである。
【0023】
流体放出装置は、放出室と、デカップリング室及び伝達室と、伝達室及び放出室を部分的に境界付ける第1のメンブレンと、デカップリング室及び伝達室を部分的に境界付ける第2のメンブレンと、伝達室内に満たされる本質的に非圧縮性の液体と、を有し、流体放出装置を駆動する方法は、第2のメンブレンに力を加えるステップと、第2のメンブレンを加えられた力を、伝達室内の本質的に非圧縮性の液体を介して、第1のメンブレンに伝えるステップと、第1のメンブレンによって、放出室内に満たされている放出されるべき流体に力を加えるステップと、開口部を通じて、放出室内に満たされている放出されるべき流体を放出するステップと、を含む。
【0024】
力は、第1のメンブレンに位置する駆動手段によって直接的に、又は第2のメンブレンに加えられる力及びこの力の本質的に非圧縮性の液体を介した伝達によって間接的に、第1のメンブレンに加えられることができる。第1のメンブレン及び第2のメンブレンに力が加えられない場合、及び第1のメンブレン及び/又は第2のメンブレンに加えられる力が、放出されるべき流体の放出の間のように、反対方向である場合、放出室は、第1のメンブレン及び第2のメンブレンの弾性的な特性によって引き起こされる放出室内の膨張不足によって、放出されるべき流体で再び満たされる。
【0025】
本発明の他の目的は、液滴挙動の改善された制御を有する静電的、電磁気的又は熱的に駆動される放出装置を提供することである。
【0026】
放出装置は、放出室の少なくとも1つの開口部を通じて流体を放出するために使用されることができる。放出室は、流体で満たされるリザーバから到来し、放出のために使用されない放出室の第2の開口部に接続される供給パイプによって、流体で満たされることができる。放出室が、流体で満たされたのち、電圧が、駆動電極及び可動電極に印加され、力が、可撓性メンブレンに及ぼされ、それにより、放出室内の流体の圧力を高め、最終的に、放出室の少なくとも1つの開口部を通じて、放出されるべき流体の放出を生じさせる。この場合、開口部は、好適にはノズルである。放出室は、流体リザーバに加えられる圧力と任意に組み合わされる可撓性メンブレンの引き戻しを使用して、供給パイプ及び第2の開口部を通じて再び満たされることができる。更に、放出室が再び満たされる間、流体が放出される開口部を閉じるために、バルブのような手段が、別に設けられることができる。放出装置は、経皮的なドラッグデリバリ、回路の印刷又はpolyLEDの印刷のために使用されることができる。放出室の少なくとも1つの開口部は、ノズルであることによって特徴付けられ、流体は、薬剤、薬剤を有する液体溶剤、液体導体又はポリマである。放出装置は、印刷システムにおいて、インクを放出するために使用されることもできる。ここでも、放出室の少なくとも1つの開口部は、ノズルであることによって特徴付けられ、流体は、インクである。更に、放出装置は、ポンプとして使用されることができる。この場合、少なくとも2つの開口部があり、1つは、流体が流入するためのものであり、1つは、流体が流出するためのものである。バルブのような付加の手段は、流体が流入する開口部が開いている限り、流体が流出する開口部を閉じることができ、その逆も可能である。他のチューブが、流体をポンピングするために開口部に接続されることができる。
【0027】
本発明は、図面を参照して更に詳しく説明され、同様の部分は、同じ参照符号によって示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1a及び図1bは、本発明の第1の実施例の断面図であり、液圧伝達の概念を示している。図1aにおいて、放出されるべき流体は、放出室に接続される供給チューブ110を介して、放出室100に満たされる。供給チューブ及び放出室は、両方とも、第2の基板20内の凹部及び第1の基板10によって構成される。供給チューブ110は、流体リザーバ(図示せず)と接続される。放出室100は、第1の基板10にエッチングされた又は穿設された開口部又はノズル120を有し、開口部120に対向する第1のメンブレン310によって片側を境界付けられている。更に、第2の基板20の凹部によって構成され、例えば空気(真空でも可)のような圧縮性のガスで満たされるデカップリング室200もある。デカップリング室200は、セパレータ25によって放出室から分離されており、一方の側を第2のメンブレン420によって境界付けられ、第2のメンブレンに対向する他方の側を第1の基板10によって境界付けられる。第2のメンブレン420は、導電材料又は1若しくは複数の電気的絶縁層の組み合わせからなり、少なくとも1つの導電層が、第1の電極を構成する。伝達室300は、第3の基板30の凹部によって構成され、第1のメンブレン310及び第2のメンブレン420は、伝達室300の境界の一部である。伝達室300は、好適には高い誘電率を有する相対的に非圧縮性の流体、例えば蒸留水で満たされる。第2の電極410は、第2のメンブレンに対向して伝達室の境界に取り付けられる。図1bにおいて、第1の電極を構成する第2のメンブレン420の一部と、第2のメンブレン420に対向する第2の電極410との間に電圧が印加される。第2のメンブレン420は、第1及び第2の電極の間の静電力によって、電極410の方へ引き寄せられ、圧力が、伝達室300内の非圧縮性流体に及ぼされる。圧力は、非圧縮性流体によって、第1のメンブレン310に伝えられる。第1のメンブレン310は、放出室100のボリュームの内方に歪み、それにより、放出室100内の放出されるべき流体に圧力を及ぼし、結果的に、放出されるべき流体の液滴500の開口部120からの放出を生じさせる。液滴500の放出後、第2のメンブレン420及び電極410の間の電圧は、オフに切り替えられ、第2のメンブレン420は、第2のメンブレン420の機械的特性及び/又は伝達室300と比較してデカップリング室200の膨張不足により、歪んで本質的に図1aに示される位置に戻る。第2のメンブレン420の動きは、伝達室300内の非圧縮性流体を介して、再び第1のメンブレン310へ伝えられ、放出室100は、供給チューブ110を介して、放出されるべき流体で再び満たされる。放出及び補充プロシージャは、供給チューブ110を開閉するバルブ(図示せず)及び/又は流体リザーバの或る正の動作圧力によって、支援されることができる。
【0029】
図2は、本発明の第2の実施例の断面図を示している。デカップリング室200の境界に取り付けられる他の引き戻し電極430がある。液滴が放出されたのち、電圧が、引き戻し電極430と、第1の電極を構成する第2のメンブレン420の導電部分との間に印加され、第2の電極410と、第1の電極を構成する第2のメンブレン420の導電部分との間の電圧が、オフに切り替えられ又は低減される(放出中、引き戻し電極430と第1の電極を構成する第2のメンブレン420の導電部分との間には、より少ない電圧があり、又は電圧がない)。引き戻し電極430と、第1の電極を構成する第2のメンブレン420の導電部分との間の静電界は、第2のメンブレン420の戻りの歪みを支援し、放出装置の流体挙動のより良好な制御及びより高速なデューティサイクルを可能にする。
【0030】
図3には、本発明の第3の実施例の断面図が示されており、第4の電極を構成する第1のメンブレン310の導電部分が、第3の電極440に対向する。流体が放出されたのち、第2のメンブレン420の戻りの歪みは、第4の電極を構成する第1のメンブレン310の導電部分と、第3の電極440との間に印加される電圧によって支援されることができ、第2の電極410と、第1の電極を構成する第2のメンブレン420の導電部分との間の電圧は、オフに切り替えられる(放出中、第3の電極440と、第4の電極を構成する第1のメンブレン310の導電部分との間には、電圧がなく又は低減された電圧がある)。第4の電極を構成する第1のメンブレン310の導電部分は、第3の電極440の方へ引き寄せられ、それにより、伝達室300内の流体に圧力を及ぼす。圧力は、第2のメンブレン420に伝えられ、それにより、第2のメンブレン420の戻りの歪みを加速し、結果的に、放出装置の流体挙動のより良好な制御及びより高速なデューティサイクルを可能にする。
【0031】
図4は、図3に示される実施例の特別な実現例の断面図を示している。第1の電極を構成する導電層460は、第2の基板20と第3の基板30との間に位置する。導電層460の一部は、第1のメンブレン310及び第2のメンブレン420を構成する。動作原理は、図3に記載のものと同じであるが、第1の電極を構成する導電層460は、1つの電位、例えばグラウンド、に固定されることができ、第1の電極を構成する導電層460に対向する第2の電極410及び第3の電極440は、第1の電極を構成する導電層460の電位と、別の電位との間で切り替えられ、結果的に、放出されるべき流体の放出を生じさせ、又は放出室100の補充を生じさせる。
【0032】
図5は、本発明の図4に示される第4の実施例及び図2に示される第2の実施例の組み合わせの断面図を示している。第1の電極を構成する導電層460の電位(及び第2の電極410の電位)が、第3の電極440及び引き戻し電極430の電位と異なる場合、付加の引き戻し電極430が、第1の電極を構成する導電層460の一部である第2のメンブレン420の戻りの歪みを支援する。
【0033】
図6は、本発明の第6の実施例の断面図を示している。第4の電極470が、第3の電極を構成する導電性の第1のメンブレン310に対向し、第1の電極を構成する導電性の第2のメンブレン420に対向して、放出室100及びデカップリング室200の境界全体に延在する。第3の電極を構成する導電性の第1のメンブレン310及び第1の電極を構成する導電性の第2のメンブレン420は、伝達室300の境界に取り付けられる第2の電極490に対向する。第3の電極を構成する導電性の第1のメンブレン310が、第2の電極490と同じ電位を有するが、第4の電極470及び第1の電極を構成する導電性の第2のメンブレン420と異なる電位を有する場合、第1のメンブレンは、第1の電極を構成する導電性の第2のメンブレン420の静電引力によって引き起こされる圧力が、伝達室300の非圧縮性流体によって伝えられることによって、放出室100のボリューム内方へ押され、更に、第1のメンブレンは、第4の電極470の方へ静電的に引き寄せられて、第1のメンブレン310に及ぼされる力を増大させ、従って、放出室100内の注入されるべき流体に及ぼされる圧力を増大させ、結果的に、より高い放出速度を生じさせる。第3の電極を構成する導電性の第1のメンブレン310、及び第1の電極を構成する導電性の第2のメンブレン420の電位を切り替えることにより、第3の電極を構成する導電性の第1のメンブレン310が、第2の電極490の方へ引き寄せられ、第1の電極を構成する導電性の第2のメンブレン420が、第4の電極470の方へ引き寄せられ、結果的に、図5によって表される第5の実施例に説明したように放出室100の補充が行われる。代替例として、第2の電極490及び第4の電極470の電位が、切り替えられることができる。
【0034】
図7a−図7dは、流体放出装置をプロセスする1つ例を示している。図7aにおいて、例えばシリコン、パイレックス(登録商標)ガラス又は石英からなる第3の基板30は、凹部305及びチューブ111を得るためにエッチングされ、クロムが、堆積され、構造化されて、導電接続445及び415を有する第3の電極440及び第2の電極410を生じさせる。導電構造410、415、440及び445は、誘電SiO層600の堆積によって絶縁される。プロセスされた第3の基板30は、数字3を付されている。第2の基板20に、Si、Si、SiO、ポリイミド又はシリコンラバーからなるメンブレン層700、及び例えばクロムからなる導電層465が、堆積される。導電層465、メンブレン層700及び第2の基板20は、図7bに示されるように、チューブ112、第1の電極460及び凹部105及び205が形成され、凹部105及び205が、メンブレン層700によって1つの側面を境界付けられるように、エッチングされる。プロセスされた第2の基板20には、数字2が付されている。図7cにおいて、第1の基板10は、開口部120及び開口部120に接続される凹部113を形成するために、エッチングされる。プロセスされた第1の基板10には、数字1が付されている。図7dは、3つのプロセスされた基板1、2及び3のアセンブリを示している。最終の装置は、付加の絶縁誘電SiO層600、付加のメンブレン層700を有する図4に示される第4の実施例に匹敵する。プロセスされた基板3によって境界付けられる凹部105及び205は、放出室100及びデカップリング室200を構成する。プロセスされた基板2によって境界付けられる凹部305は、非圧縮性流体による充填及びシーリングののち、伝達室300を構成する。供給チューブ110は、チューブ111、112及び凹部113の一部によって構成される。
【0035】
本発明は、具体例に関して及び特定の図面を参照して記述されているが、本発明は、それらに限定されず、請求項によってのみ制限される。請求項におけるいかなる参照符号も、請求項の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。記述される図面は、概略的であり、非制限的なものにすぎない。図面において、構成要素のいくつかの大きさは、説明の便宜上、誇張されていることがあり、一定の縮尺で描かれていない。「有する、含む」なる語が、本説明及び請求項において使用されているが、それは、他の構成要素又はステップを除外しない。単数名詞に言及するとき「a」、「an」、「the」のような不定冠詞又は定冠詞が使用されているが、これは、特記されていない限り、その名詞の複数を含む。
【0036】
更に、本説明及び請求項における第1、第2、第3等の語は、同様の構成要素の間の区別のために使用されており、必ずしも逐次的又は時間的な順序を記述するために使用されているのではない。このように使用される語は、適当な環境下で入れ替え可能であり、ここに記述される本発明の実施例は、ここに記述され又は図示されるもの以外のシーケンスで実施できることを理解すべきである。
【0037】
更に、本説明及び請求項における上、下、第1及び第2等の語は、説明の目的で使用されており、必ずしも相対的な位置を記述するために使用されているのではない。このように使用される語は、適当な環境下で入れ替え可能であり、ここに記述される本発明の実施例は、ここに記述され又は図示されるもの以外の向きで実施できることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1a】本発明による放出装置の一実施例を示す図。
【図1b】本発明による放出装置の一実施例を示す図。
【図2】本発明の第2の実施例を示す図。
【図3】本発明の第3の実施例を示す図。
【図4】本発明の第4の実施例を示す図。
【図5】本発明の第5の実施例を示す図。
【図6】本発明の第6の実施例を示す図。
【図7a】本発明の一実施例のプロセスを示す図。
【図7b】本発明の一実施例のプロセスを示す図。
【図7c】本発明の一実施例のプロセスを示す図。
【図8】本発明の一実施例のプロセスを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放出室の少なくとも1つの側面に少なくとも1つの開口部を有するとともに、該放出室の別の側面を覆う第1のメンブレンを有する放出室と、
前記放出室から分離され、1つの側面を第2のメンブレンで覆われるデカップリング室と、
前記放出室及び前記デカップリング室から分離され、前記第1のメンブレン及び前記第2のメンブレンによって部分的に境界付けられ、相対的に非圧縮性の流体で満たされる伝達室と、
前記第1のメンブレン及び/又は前記第2のメンブレンに力を加える手段と、
を有する、流体放出装置。
【請求項2】
前記放出室は、前記放出室から流体を放出し又はポンピングするための第1の開口部及び流体で前記放出室を再び満たすために供給チューブに接続される第2の開口部を含む少なくとも2つの開口部を有する、請求項1に記載の流体放出装置。
【請求項3】
少なくとも1つの第1の電極が、前記第2のメンブレンに取り付けられ、少なくとも1つの第2の電極が、前記伝達室の境界に取り付けられる、請求項1又は2に記載の流体放出装置。
【請求項4】
第3の電極が、前記第1のメンブレンに取り付けられ、前記第2の電極が、前記第1のメンブレン及び前記第2のメンブレンに対向する、請求項3に記載の流体放出装置。
【請求項5】
第3の電極が、前記第1のメンブレンに対向して前記伝達室の境界に取り付けられ、前記第2の電極が、前記第2のメンブレンに対向し、前記第1の電極が、前記第2の電極及び前記第3の電極に対向して前記第1のメンブレン及び前記第2のメンブレン全体に延在する、請求項3に記載の流体放出装置。
【請求項6】
第3の電極が、前記第1のメンブレンに対向して前記伝達室の境界に取り付けられ、第4の電極が、前記第1のメンブレンに取り付けられ、前記第2の電極が、前記第2のメンブレンに対向する、請求項3に記載の流体放出装置。
【請求項7】
少なくとも1つの引き戻し電極が、前記デカップリング室の境界の一側面に取り付けられ、
引き戻し静電力が、前記第2のメンブレンに加えられることができるように、前記第2のメンブレンに取り付けられる前記第1の電極と前記引き戻し電極との間に電圧を印加するために、電圧源が設けられる、請求項3に記載の流体放出装置。
【請求項8】
少なくとも1つの電極が、前記放出室及び/又は前記デカップリング室の境界の一側面に取り付けられ、前記第1のメンブレン及び/又は第2のメンブレンに取り付けられる1又は複数の電極に対向し、
電圧源が、前記第1のメンブレンに取り付けられる電極と、前記放出室及び/又は前記デカップリング室の境界の前記一側面に取り付けられる前記少なくとも1つの電極との間に、及び/又は前記第2のメンブレンに取り付けられる電極と、前記放出室及び/又は前記デカップリング室の境界の前記一側面に取り付けられる前記少なくとも1つの電極との間に、電圧を印加するために設けられ、
少なくとも1つの他の静電力が、前記第1のメンブレン及び/又は前記第2のメンブレンに印加されることができる、請求項4、5又は6に記載の流体放出装置。
【請求項9】
前記伝達室内に満たされる前記相対的に非圧縮性の流体が、高い誘電率を有する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の流体放出装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の流体放出装置を有する印刷システム。
【請求項11】
放出室と、
デカップリング室及び伝達室と、
前記伝達室及び前記放出室を部分的に境界付ける第1のメンブレンと、
前記デカップリング室及び前記伝達室を部分的に境界付ける第2のメンブレンと、
前記伝達室内に満たされる本質的に非圧縮性の液体と、
を有する流体放出装置を駆動する方法であって、
前記第2のメンブレンに力を加えるステップと、
前記第2のメンブレンに加えられる力を、前記伝達室内の前記本質的に非圧縮性の液体を介して、前記第1のメンブレンに伝えるステップと、
前記第1のメンブレンによって、前記放出室内に満たされている放出されるべき流体に力を加えるステップと、
開口部を通じて、前記放出室内に満たされている前記放出されるべき流体を放出するステップと、
を含む方法。
【請求項12】
前記放出室の前記少なくとも1つの開口部を通じて流体を放出するための、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の流体放出装置の使用であって、前記流体が、注射システムにおいて使用される液状薬剤である、使用。
【請求項13】
前記放出室の前記少なくとも1つの開口部を通じて流体を放出するための、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の流体放出装置の使用であって、前記流体が、印刷システムにおいて使用されるインクである、使用。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−534217(P2009−534217A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506002(P2009−506002)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【国際出願番号】PCT/IB2007/051269
【国際公開番号】WO2007/122529
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】