説明

インクジェットヘッド

【課題】圧電素子の上部電極(個別電極)の接続信頼性を改善し、且つ振動板端の剛性を向上させることが可能なインクジェットヘッドを提供することを目的としている。
【解決手段】液室隔壁によって区画されておりインク供給口と連通した個別液室を短手方向に配列した構成の流路基板と、前記流路基板において前記個別液室に設けられたノズル開口と対向する面に形成された振動板と、前記振動板上に下部電極、圧電素子、上部電極を積層して形成されたアクチュエータと、を有するインクジェットヘッドであって、前記上部電極と前記上部電極から引き出される個別電極配線とが前記個別液室の前記ノズル開口側と前記インク供給口側とで接続されおり、前記個別電極配線は、前記液室隔壁が形成される領域に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液室隔壁によって区画されておりインク供給口と連通した個別液室が短手方向に配列された流路基板と、前記個別液室に設けられたノズル開口と対向する面に形成された振動板と、前記振動板上に下部電極、圧電素子、上部電極を積層して形成されたアクチュエータと、を有するインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、個別液室に圧力変動を発生させ、個別液室に形成された微小ノズルから液体を噴射させるインクジェットヘッドおよびインクジェットヘッドを搭載する記録装置が知られている。
【0003】
インクジェットヘッドの個別液室に圧力変動を発生させる方式は、複数のものが実用化、製品化されている。例としては、個別液室内にヒータを設置することで液体を気化させるサーマルインクジェット方式、個別液室にアクチュエータを設けた方式が挙げられる。アクチュエータを設けた方式は、アクチュエータの種類により圧電素子方式、静電方式等が例としてあげられる。
【0004】
アクチュエータを用いた方式では幅広い物性のインクに対応可能である反面、個別液室の配列の高密度化、ヘッドの小型化が困難とされていたが、近年ではMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)プロセスを用いることで高密度化する技術が確立されつつある。すなわち、個別液室に薄膜形成技術を用いて振動板、電極、圧電体等を積層し、半導体デバイス製造プロセス(フォトリソグラフィ)を用いて個別の圧電素子と配線をパターニングすることで高密度化が可能となっている。
【0005】
圧電素子を構成する下部電極、圧電体、上部電極等は前述の薄膜形成プロセスを用いて形成されることから、5マイクロメートル以上の膜厚を積層することは困難となっており、プロセスコストの関係から電極材料を1μm以下とすることが必要となってくる。
【0006】
特に圧電体は、薄膜形成プロセスで成膜されるため、バルクと比較するとフォトリソグラフィのプロセス環境(温度、プロセスガスなど)による劣化や、駆動回数、温湿度での劣化等が顕著に発生する傾向にある。
【0007】
劣化の原因として、圧電体材料に広く用いられるペロブスカイト型酸化物の酸素欠損、Pb等の元素拡散等が要因とされている。この劣化に対する方策としては、電極材料に導電性酸化物材料等を用いることが有効とされているが、これらの酸化物材料は、電気抵抗の高さ、配線材料(金属)とのコンタクト(接続)抵抗が高いことが課題となっている。
【0008】
さらに上部電極と、圧電素子を個別に駆動させるために上部電極から引き出される個別電極配線とのコンタクト(接続)は、素子の高密度化に伴い困難になる。また同時に、薄膜化、微細化による上部電極の高抵抗化により上部電極内での電圧降下の影響が発生するため、圧電素子の均一駆動が課題となる。
【0009】
これらの対策として、上部電極に金属層を積層することが最も容易な対策となるが、プロセスコストの増加と前述の圧電体の劣化が課題となる。
【0010】
配線抵抗の低抵抗化については共通電極に関する技術が例えば特許文献1な開示されている。特許文献1には、引き出し配線のプロセスを用いて共通電極のコンタクト数の増加とバイパス配線を設けることで、各々の素子間の共通電極抵抗による電圧降下を抑制し、素子間のばらつきを低減することが記載されている。また特許文献2には、圧電素子の長手方向の両端から引き出し配線を形成するプロセスで配線を形成することが記載されている。
【0011】
また、薄膜プロセスで形成した圧電素子を用いた場合、振動板が数マイクロメートルの薄膜構成となるため、圧電素子を積層した場合の残留応力により振動板が変形しやすいという課題がある。さらに。流路を形成する基板厚さが薄くなるため強度確保と製造プロセスでの加工精度の向上が課題となっている。これらの課題への対策としては、特許文献3ないし5に記載される様に保持基板を用いる手法が開示されている。
【0012】
特許文献3、4には、隔壁に対向する領域に電極を含む積層構造をパターニングすることが記載されている。特許文献5には、保持基板に振動室を形成し、接合した後に流路板を研磨・液室エッチングすることで振動板のたわみを抑制することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記従来の技術では、各々の圧電素子の間に隔壁を設け、保持基板と接合することで振動板端を補強し、流路基板の剛性を高めることができるとしている。すなわち高密度化の際に生じるクロストークを低減できると同時に製造プロセスでのハンドリングが向上し量産性が高まるとし得る。しかしながら、上記の上部電極の接続信頼性・低抵抗化に対する施策については開示されていない。
【0014】
本発明は、上記事情を鑑みてこれを解決すべくなされたものであり、圧電素子の上部電極の接続信頼性を改善し、且つ振動板端の剛性を向上させることが可能なインクジェットヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の目的を達成するために、以下の如き構成を採用した。
【0016】
本発明は、液室隔壁によって区画されておりインク供給口と連通した個別液室が短手方向に配列された流路基板と、前記個別液室に設けられたノズル開口と対向する面に形成された振動板と、前記振動板上に下部電極、圧電素子、上部電極を積層して形成されたアクチュエータと、を有するインクジェットヘッドであって、前記上部電極と前記上部電極から引き出される個別電極配線とが前記個別液室に設けられた前記ノズル開口側と前記インク供給口側とで接続されており、前記個別電極配線は、前記液室隔壁が形成される領域に形成される。
【0017】
また本発明のインクジェットヘッドは、前記振動板が形成された領域を凹部とした振動室と、前記振動室を区画する隔壁とを有し、前記振動室と前記隔壁とを短手方向に配列させた保持基板を有し、前記保持基板の前記隔壁と、前記流路基板の前記液室隔壁とが前記個別電極配線を介して接合されている。
【0018】
また本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記保持基板は、前記保持基板と前記流路基板とが接着層を介して接されたとき、前記流路基板の前記インク供給口と連通するように形成された共通液室が形成されており、前記インク供給口を囲む領域に、前記個別電極配線と同一膜厚の配線パターンが含まれる。
【0019】
また本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記個別電極配線の幅は、前記液室隔壁が形成される領域の前記流路基板の短手方向の幅よりも細い。
【0020】
また本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記振動室を区画する前記隔壁の前記保持基板の短手方向の幅は、前記個別電極配線の幅より細い。
【0021】
また本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記個別電極配線の下に層間絶縁膜が形成されており、前記個別電極配線は、コンタクトホールを介して前記上部電極と接続されており、前記個別電極配線の上部に絶縁体からなる保護層が形成され、前記流路基板と前記保持基板とは、少なくとも前記層間絶縁膜、前記個別電極配線、前記保護層を介して接合されている。
【0022】
また本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記インク供給口を囲む領域に形成された配線パターンと、前記下部電極から引き出される共通電極配線とが電気的に接続されている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、圧電素子の上部電極(個別電極)の接続信頼性を改善し、且つ振動板端の剛性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第一の実施形態のインクジェットヘッドの構成例を示す第一の図である。
【図2】第一の実施形態のインクジェットヘッドの構成例を示す第二の図である。
【図3】配線層のパターンを説明する図である。
【図4】隔壁、液室隔壁、個別電極配線の幅を説明するための図である。
【図5】第一の実施形態のインクジェットヘッドの製造過程を示す図である。
【図6】本発明の第二の実施形態のインクジェットヘッドを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第一の実施形態)
以下に図面を参照して本発明の第一の実施形態について説明する。図1は、第一の実施形態のインクジェットヘッドの構成例を示す第一の図である。図1(A)はインクジェットヘッド100の上面図であり、図1(B)はインクジェットヘッド100のA−A断面図である。
【0026】
図2は第一の実施形態のインクジェットヘッドの構成例を示す第二の図であり、図2(A)はインクジェットヘッド100のB−B断面図であり、図2(B)はインクジェットヘッド100のC−C断面図である。尚図2は、本実施形態のインクジェットヘッドの概念的な図である。
【0027】
本実施形態のインクジェットヘッド100は、少なくとも流路基板10、ノズルプレート11、保持基板12を含んで構成される。
【0028】
保持基板12には、複数の隔壁13により区画された振動室14がその幅方向に並設されている(図2(B)参照)。流路基板10には、インク供給口15から供給されたインク又は液体を、流体抵抗部16を経由して個別液室17に接続する流路を形成する。流体抵抗部16は、振動室14毎に振動室14よりも狭い幅で形成されており、インク供給口15から振動室14へ流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0029】
流路基板10の下方にはノズル18が形成されたノズルプレート11が接合されている。インクジェットヘッド100では、個別液室17の上部に形成された振動板20を変位させて個別液室17に圧力変動を発生させ、ノズル18からインク液滴を噴射する。振動板20上には、振動板20を変位させるアクチュエータ19が形成されている。
【0030】
本実施形態のアクチュエータ19は、変位量を大きく取れる圧電素子21を用いたものとした。圧電素子21の振動室14側には上部電極22が形成されており、圧電素子21と振動板20との間には下部電極23が形成されている。上部電極22からは、圧電素子21毎に個別の信号を供給するための個別電極配線24が引き出される。下部電極23からは、圧電素子21毎に共通の信号を供給するための共通電極配線25が引き出される。
【0031】
本実施形態では、個別電極配線24及び共通電極配線25を介して、上部電極22及び下部電極23に駆動信号を入力することでアクチュエータ19を駆動しインク液滴を吐出することが可能となる。
【0032】
駆動信号は、個別電極配線24と共通電極配線25にFPC(Flexible printed circuits)やワイアボンディングを介して接合されたIC(Integrated Circuit)から入力される。個別液室17は、流路基板10の短手方向に配列する構造をとり、各個別液室17は液室隔壁26によって区画されている。それぞれの個別液室17毎にインク供給口15、流体抵抗部16、ノズル18が形成されている。
【0033】
インクはインク供給口15を介して保持基板12に形成された共通液室27から供給される。共通液室27へは任意の供給経路でインクを供給するが、例としてリザーバタンクからの供給が挙げられる。上記の基本的な液室、電極構成は圧電素子を用いたインクジェットヘッドとして公知のものとなっているが、本実施形態は個別電極配線24の形状、構成に特徴を有するものであり、その特徴と効果については後に詳述する。
【0034】
ノズルプレート11は各個別液室17に対応する位置にノズル18を形成した基板である。本発明では個別液室17毎にノズル1個が対応しており、個別液室17の配列方向に倣ってノズル18も配列される。
【0035】
ノズルプレート11の材料は任意のものを用いることができるが、加工性、材料物性(機械的特性)から適切な材料と厚さを選定する必要がある。材料の例としては、任意の金属または合金、誘電体、半導体、樹脂が挙げられるが、材料強度から金属、合金、誘電体、半導体から選定することが好ましい。樹脂を用いる場合は十分な剛性を確保するために厚くする必要があるため、ノズル形状の加工精度を維持するためにも好ましくない。
【0036】
ノズルプレート11の剛性が十分でない場合は個別液室17の流体コンプライアンスが高くなり、アクチュエータ19によって発生するエネルギーの損失が大きくなる。ノズルプレート11の材料を金属、合金、誘電体、半導体から選定する場合は、インク材料との適正を考慮する必要がある。すなわち、インクとの長時間の接触による腐食、溶解、変質が発生しない材料を選定するか、表面処理を施す必要がある。
【0037】
また、ノズル18の加工方法は任意の手法を用いることができる。ノズルプレート11の材料が金属、合金の場合は、加工方法としてプレス加工と研磨による手法、エッチング、レーザー加工が例として挙げられるが、ノズル径の均一性からプレス加工が好ましい。ノズルプレート11の材料が誘電体、半導体の場合は、加工方法としてレーザー加工、フォトリソグラフィを用いた手法(ドライエッチング、ウェットエッチング等)を用いることができる。上記の材料に合わせて量産性と精度の両立できる加工方法を選定する必要がある。
【0038】
ノズル18のノズル径はインク物性、個別液室17の配列の密度(解像度)、アクチュエータ19の性能から適正な形状を選定する必要がある。本実施形態のインクジェットヘッド100は1列あたり150〜600dpiの解像度を想定しているため、ノズル径としては12〜30μm程度が好ましく、断面形状は図1(B)に示すようなテーパー形状とすることが好ましい。
【0039】
ノズル18の形成においては、ノズル径、真円度、ノズル中心軸の傾きの精度を高くすることが重要であり、これらがばらついた場合は、吐出曲がり、液滴径ばらつき、吐出速度ばらつき等に影響するため、好ましくない。
【0040】
以上からインクに対する耐久性と加工精度、加工コストを考慮すると、本実施形態のノズルプレート11の材料としては、耐腐食性の高い合金(例えばSUS(Stainless Used Steel))をプレス・研磨加工したものが好ましい。ノズルプレート11は、例えば接着剤を用いた手法等の公知の技術により流路基板10と接合される。本実施形態では、ノズルプレート接着層46によりノズルプレート11と流路基板10とが接合されるものとした。
【0041】
本実施形態の流路基板10の材料は、金属、誘電体、半導体から任意の材料を選定することができるが、材料強度、加工性から適切な材料を選定する必要がある。半導体プロセス(フォトリソグラフィ)を用いてインク供給口15、流体抵抗部16、個別液室17を高密度に形成することを考慮すると、本実施形態では、流路基板10の材料をシリコンウェハとすることが好ましい。
【0042】
流路基板10上には、貫通口であるインク供給口15から流体抵抗部16を経由してノズル18に連通する個別液室17までの流路が形成されている必要がある。それぞれの形状はインク物性やアクチュエータ特性から最適値を選定する必要がある。300dpiに配列する個別液室17を例とすると、個別液室17の幅(短手方向)は50〜70μm、個別液室17の長さ(長手方向)は600〜1600μm、個別液室17の深さは50〜100μmである。各個別液室17を区画する液室隔壁26の幅は、40〜10μmの範囲とすることが好ましい。高密度化のためには液室隔壁26の幅を狭くする必要がある。しかし、液室隔壁26の幅を10μm以下とすると剛性が不十分となり、隣接する個別液室17間で圧力変動のクロストークが発生し、隣接する個別液室17を駆動した場合の吐出安定性に影響する。
【0043】
流路基板10に形成される個別液室17のノズル18に対向する面には、振動板20が形成される。振動板20の材料としては任意の金属、合金、誘電体、半導体を用いることができるが、本実施形態では高い剛性と加工性から誘電体、半導体もしくはこれらの積層構造体とすることが好ましい。
【0044】
誘電体材料としては、Al2O3,ZrO2,TiO2,SiO2,Y2O3等の酸化物,SiN,TiN,AlN等の窒化物,TiC,SiCなどの炭化物が例として挙げられ、半導体としてはシリコン,ポリシリコン,アモルファスシリコンが挙げられる。これらの誘電体材料、半導体材料の複合化合物としてもよく、また積層構造体としても良い。
【0045】
振動板20の厚さは、吐出特性から最適化する必要があるが、0.5μmから5μmの範囲とすることが好ましい。振動板20が硬い場合は大きな駆動電力を必要とし、柔らかい場合はコンプライアンスが高くなり吐出効率の低下や共振等の影響を受けやすくなる。
【0046】
振動板20上にはアクチュエータ19が形成される。アクチュエータ19は上部電極22、圧電素子21、下部電極23を積層した構成とするのが一般的である。電極材料には任意の金属、導電体を用いることがでるが、圧電素子21に接触する材料には導電性酸化物材料を用いることが好ましい。
【0047】
電極材料は圧電体の物性、構造、構成元素に合わせて最適なものを選定することが必要である。材料の例としては、酸化イリジウム,酸化パラジウム等の白金族酸化物およびその複合酸化物やNi、Zn、Sn、Ti、Ta、Nb、Mn、Sb、Bi等の金属酸化物および複合酸化物が例として挙げられる。
【0048】
これらの酸化物電極材料は、抵抗率が金属、合金と比較すると非常に高くなることと、金属配線材料とのコンタクト電気的接続の安定性に課題があり、コンタクト抵抗が高くなる傾向にある。そのため、これらの酸化物電極から引き出し配線をとる場合は接続信頼性を確保するために複数のコンタクトを形成する必要がある。
【0049】
特に個別液室17の高密度化とヘッド小型化のためには、振動板20の幅、上部電極22、下部電極23の幅ともに小さくなるため、限られた面積で複数のコンタクトを確保することが困難となる。また、振動板20の上に個別電極配線24などの厚い膜を形成することは、振動効率を低下させるため好ましくない。また、圧電素子21を振動板20の外に延ばし、コンタクト領域を確保することもできるが、振動板20のエッジの応力が集中する領域に圧電素子21が形成されるため、クラックによる絶縁破壊などの影響が懸念される。
【0050】
これらの状況から、本実施形態では、図1に示すように、個別電極配線24のコンタクトホール41を個別液室17の長手方向の両端部、すなわちインク供給口15側とノズル18側の双方でとることで対応している。本実施形態では、2つのコンタクトホール41を介して個別電極配線24が上部電極22へ接続される。尚2つのコンタクトホール41に接続された個別電極配線24同士は、互いに接続されている。
【0051】
また本実施形態では、にそれぞれの個別電極配線24を、個別液室17を区画する液室隔壁26上に形成して上部電極22と接続することで、振動板20上への配線を回避し、振動効率の低下を防いでいる。本実施形態では、上記の構成により、上部電極22と個別電極配線24との電気的接続信頼性を確保することが可能となる。
【0052】
また本実施形態では、個別電極配線24及び共通電極配線25が形成される配線層と上部電極22及び下部電極23との間に層間絶縁膜31を形成する。層間絶縁膜31は圧電素子21の保護及び厚手素子21と配線層との絶縁の機能を有する。層間絶縁膜31の材料は、任意の誘電体を利用できるが、SiO2、Al2O3等の酸化膜やSiN、TiN、AlN等の窒化物またはこれらの複合化合物を用いることが好ましい。
【0053】
個別電極配線24が形成された配線層と圧電素子21とは層間絶縁膜31に形成されるコンタクトホール41で電気的に接続される。共通電極配線25が形成された配線層と圧電素子21とは層間絶縁膜31に形成されるコンタクトホール42で電気的に接続される。配線層の上には配線保護のための保護層43が形成される。保護層43の材料は層間絶縁膜31と同様の誘電体材料を用いることができる。個別電極配線24、共通電極配線25の配線層、層間絶縁膜31、保護層43の膜厚は、配線抵抗、絶縁耐圧特性、透湿保護のためにそれぞれ0.5〜5μmの範囲とすることが必要である。さらに好ましくは0.5〜2μmの範囲である。また図1(B)に示すように、振動板20の上は振動効率を高めるために、層間絶縁膜31と保護層43は除去されることが好ましい。
【0054】
また本実施形態のインクジェットヘッド100には、前述の流路基板10上に共通液室27を形成した保持基板12を形成する。
【0055】
保持基板12には、インク供給口15に接続する共通液室27と、振動板20の可動領域を確保する振動室14が形成されている。振動室14は、共通液室27と流路基板10との接合面により分離されており、振動領域の確保と圧電素子21の保護の機能を有する。また本実施形態では、個別液室17の短手方向の断面形状に示すように、個別液室17の液室隔壁26に相当する箇所に振動室14の隔壁13を形成することにより、流路基板10の機械的強度を補強している。
【0056】
前述の通り流路基板10は、個別液室17を区画する液室隔壁26と振動板20からなる構造のため強度が弱い部材となる。また流路基板10の振動板20上には、積層構造体であるアクチュエータ19が形成されており残留応力があるため、流路基板10が反りやすい傾向がある。本実施形態では、保持基板12と流路基板10とを接合することで流路基板10の強度確保と反り低減が可能となる。
【0057】
保持基板12の材料は任意のものを使用することが可能であるが、強度、加工性から適切な材料を用いることが必要である。特に振動室14は、個別液室17の配列と同等の密度で配列させて液室隔壁26を形成する必要があるため、半導体プロセスで形成できるシリコンウェハを用いることが好ましい。振動室14の加工方法は任意の手法を用いることができるが、加工精度を確保するためには前述の半導体プロセス(フォトリソグラフィ)を用いることが好ましい。エッチングはドライエッチング、ウェットエッチングの任意の手法を用いることができるが、異方性ウェットエッチングを用いることで高精度の加工が可能となる。
【0058】
本実施形態の保持基板12は、流路基板10の補強、保護できる厚さが必要である。厚さは材料によって異なるが、Siを用いた場合0.3mm以上とすることが好ましい。また保持基板12は、必要な強度および共通液室27の体積を確保するために複数の部材の積層構造としても良い。積層構造とする場合は、流路基板10に隣接する部材のみ微細加工が必要であり、積層部材は金属、樹脂等を用いることも可能である。
【0059】
保持基板12に形成される共通液室27は保持基板12と流路基板10の接合により流路が封止される必要がある。保持基板12と流路基板10の接合は任意の手法を用いることができるが、接着剤での接合をすることができる。その場合、保持基板接着層44を介して保持基板12と流路基板10とを接合するが、接合面の高さを揃えることが必要となる。本実施形態では、接合面の高さが異なる場合は保持基板接着層44で高さの差異を補償する。そのためには保持基板接着層44を流動性のある材料で厚く塗布し、加圧することで均一接合することになるが、加圧時に流動するため振動室14の隔壁13の保持基板接着層44が振動板20上に流出し振動を阻害する不具合が発生する。
【0060】
そこで本実施形態では、保持基板12と流路基板10とを接合する際に封止される隔壁13周辺及び共通液室27周辺の封止領域を、層間絶縁膜31、個別電極配線24及び共通電極配線25が形成される配線層、保護層43、保持基板接着層44、供給口周辺配線層45が前述のとおり厚い膜であることを利用して接合面としている。
【0061】
すなわち本実施形態では、共通液室27の周囲の流路基板10と保持基板12との接合部は供給口周辺配線層45を形成する。さらに本実施形態では、隔壁13と液室隔壁26の接合領域には、個別電極配線24を配し、ヘッドエッジ部分には共通電極配線25を配する。本実施形態では、この構成により、インク封止と流路基板10の強度確保を両立することが可能である。
【0062】
次に図3を参照して本実施形態のインクジェットヘッド100の配線層のパターンを説明する。図3は、配線層のパターンを説明する図である。図3(A)は引き出し配線層のパターンを示し、図3(B)は保持基板の接合領域を示す。
【0063】
本実施形態では、配線層のパターンを利用することで流路基板10と保持基板12との封止性能と接合信頼性を高めることができる。その際、供給口周辺配線層45を個別電極配線24と電気的に分離させるため、共通液室27の周囲を囲うことが必要である。図2に示すように、隔壁13と共通液室27の周囲の層構成は略同一となっている。但し、隔壁13には層間絶縁膜31下に下部電極23が形成されているが、層間絶縁膜31、個別電極配線24、保護層43に対して十分に薄いため接合には影響しない。すなわち接着層の弾性変形により吸収できるため、接合信頼性に影響しない。
【0064】
次に図4を参照して本実施形態の隔壁13、液室隔壁26、個別電極配線24の幅について説明する。図4は、隔壁、液室隔壁、個別電極配線の幅を説明するための図であり、図4(A)は流路基板10と保持基板12との接合を説明する図であり、図4(B)は接合部分を拡大した図である。尚図4は、図2(B)に対応する断面図であり、より実形状に近いものである。
【0065】
本実施形態では、振動室14を区画する隔壁13の幅W2、液室隔壁26の幅W0、隔壁領域S1に形成される個別電極配線24の幅W1とした場合に、W2<W1<W0とすることが好ましい。幅W1と幅W0の関係は個別液室形成用のフォトマスクの位置あわせ精度と個別電極配線用のフォトマスクの位置あわせ精度によって決定される。
【0066】
すなわち位置あわせマージン相当分である幅W1を幅W0に対して細くする必要がある。W1>W0とした場合や、個別電極配線24の位置ずれにより個別電極配線24が隔壁領域S1からはみ出した場合は、振動板20上に厚い配線層が形成されることになり、振動特性を悪化させ、吐出性能が低下する。
【0067】
同様に保持基板12に形成される隔壁13の幅W2は、接合時の位置あわせ精度を加味して幅W1より狭くする必要がある。すなわちW1<W2とした場合、接合の位置ずれにより振動板20側に接合領域が重なってしまう。また、流動性や塑性変形する接着層を用いた場合、接合時の加圧により保持基板接着層44が振動板20上にはみ出し、振動を低下させてしまい、吐出性能および吐出均一性を悪化させる。
【0068】
本実施形態では、W1>W2とすることで、上記の保持基板12の接合位置ずれや、保持基板接着層44のはみ出しによる振動板20への影響を低減でき、吐出性能・吐出均一性を確保することができる。
【0069】
保持基板12は、前述の通り流路基板10を補強する機能をもつが、流路基板10の製造プロセスにおいても同様の機能を持たせることで、製造工程を安定させることができる。図5に第一の実施形態のインクジェットヘッドの製造過程を示す。
【0070】
図5(A)に示すとおりインク供給口15、個別液室17、流体抵抗部16の加工前の流路基板10上にアクチュエータ19(下部電極23、圧電素子21、上部電極22を順次積層、パターニング)を形成し層間絶縁膜31を形成しコンタクトホール41、42を形成する。その後配線層を成膜し、フォトリソグラフィにより個別電極配線24、共通電極配線25および供給口周辺配線層45をパターニングする。これらの配線層を同時に成膜・パターニングすることで均一膜厚とすることができ、流路基板10と保持基板12との接合面高さを均一にすることができる。次に保護層43を成膜し圧電素子21上部とインク供給口15となる部分を除去する。
【0071】
図5(B)において、流路基板10と保持基板12を接合する。保持基板12は、振動室14、インク供給口15が形成され、保持基板12の接合部に保持基板接着層44を塗布されて流路基板10と接合、加圧することで接合する。保持基板接着層44の材料は基板材料に合わせて任意の材料を用いることができるが、一般的なエポキシ樹脂、アクリレート樹脂等を利用することができる。
【0072】
図5(C)において、保持基板12の接合後に流路基板10を個別液室17の深さ相当の厚さまで機械研磨する。本実施形態のインクジェットヘッド100では、個別液室17は深さ50〜100μmが好ましい範囲である。
【0073】
保持基板12は研磨工程において流路基板10の研磨による薄片化工程で基板強度を確保すると同時に、振動室14の隔壁13とインク供給口15周辺部等の液室形成部およびその周辺領域を前述の配線パターンで均一接合できているため、液室形成部分の研磨厚さ、すなわち個別液室17の深さを均一にすることが可能となる。
【0074】
本実施形態では、図5(D)において、研磨後に個別液室17、流体抵抗部16、インク供給口15等の流路を形成することで流路基板10が完成する。流路基板10の加工はエッチングで行うが、振動板20を残して加工する必要がある。そのため、振動板20の個別液室側の面を酸化物や窒化物などのエッチングストップ層とすることで振動板50を残し個別液室17の深さを高精度かつ均一に形成することができる。
【0075】
形成した流路に図5(E)に示すとおり、ノズル18が形成されたノズルプレート11を接合する。ノズルプレート11の接合は接着剤を用いたノズルプレート接着層46により加圧接合するが、個別液室17の液室隔壁26を均一に接合する必要がある。液室隔壁26の接合不良は個別液室17間のリークパスとなり、隣接駆動の際のクロストーク等に影響する。
【0076】
本実施形態では保持基板12の振動室14を区画する隔壁13と流路基板10の液室隔壁26とが接合されている。したがって保持基板12を介して流路基板10とノズルプレート11を加圧した場合でも、薄い流路基板10が変形することがないため液室隔壁26を均一に加圧することができる。その結果、本実施形態では、液室隔壁26のノズルプレート11との接合信頼性が向上し、個別液室17間リークが無くクロストークが小さいインクジェットヘッドとすることが可能となる。
【0077】
(第二の実施形態)
以下に図面を参照して本発明の第二の実施形態について説明する。以下の本発明の第二の実施形態の説明では、第一の実施形態と同様の機能構成を有するものには第一の実施形態の説明で用いた符号と同様の符号を付与し、その説明を省略する。
【0078】
図6は、本発明の第二の実施形態のインクジェットヘッドを説明する図である。第二の実施形態のインクジェットヘッド100Aは、配線層の形状以外は第一の実施形態のインクジェットヘッド100と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0079】
図6に示すように、共通電極配線25と供給口周辺配線層45とを電気的に接続する接続部50を有する。本実施形態では、接続部50を有する構成により、供給口周辺配線層45と下部電極23とが同電位となるが、インク接触部は保護層43で保護されるため電気的影響は無い。さらに上部電極22のバイパス配線としてインク供給口15の封止領域を利用することができるため、共通電極配線25の電圧降下を低減でき、各ノズル毎のインク液滴の吐出均一性を高めることが可能となる。
【0080】
以上、各実施形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施形態に示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができ、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0081】
10 流路基板
11 ノズルプレート
12 保持基板
13 隔壁
14 振動室
15 インク供給口
16 流体抵抗部
17 個別液室
18 ノズル
19 アクチュエータ
20 振動板
21 圧電素子
22 上部電極
23 下部電極
24 個別電極配線
25 共通電極配線
26 液室隔壁
27 共通液室
31 層間絶縁膜
41、42 コンタクトホール
43 保護層
44 保持基板接着層
45 供給口周辺配線層
50 接続部
100、100A インクジェットヘッド
【先行技術文献】
【特許文献】
【0082】
【特許文献1】特開2007−118265号公報
【特許文献2】特開2004−154987号公報
【特許文献3】特開2004−082623号公報
【特許文献4】特開2005−144847号公報
【特許文献5】特開平11−291497号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液室隔壁によって区画されておりインク供給口と連通した個別液室が短手方向に配列された流路基板と、前記個別液室に設けられたノズル開口と対向する面に形成された振動板と、前記振動板上に下部電極、圧電素子、上部電極を積層して形成されたアクチュエータと、を有するインクジェットヘッドであって、
前記上部電極と前記上部電極から引き出される個別電極配線とが前記個別液室に設けられた前記ノズル開口側と前記インク供給口側とで接続されており、
前記個別電極配線は、前記液室隔壁が形成される領域に形成されるインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記振動板が形成された領域を凹部とした振動室と、前記振動室を区画する隔壁とを有し、前記振動室と前記隔壁とを短手方向に配列させた保持基板を有し、
前記保持基板の前記隔壁と、前記流路基板の前記液室隔壁とが前記個別電極配線を介して接合されている請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記保持基板は、
前記保持基板と前記流路基板とが接着層を介して接されたとき、前記流路基板の前記インク供給口と連通するように形成された共通液室が形成されており、
前記インク供給口を囲む領域に、前記個別電極配線と同一膜厚の配線パターンが含まれる請求項2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記個別電極配線の幅は、
前記液室隔壁が形成される領域の前記流路基板の短手方向の幅よりも細い請求項2又は3記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記振動室を区画する前記隔壁の前記保持基板の短手方向の幅は、
前記個別電極配線の幅より細い請求項2ないし4の何れか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記個別電極配線の下に層間絶縁膜が形成されており、
前記個別電極配線は、
コンタクトホールを介して前記上部電極と接続されており、前記個別電極配線の上部に絶縁体からなる保護層が形成され、
前記流路基板と前記保持基板とは、少なくとも前記層間絶縁膜、前記個別電極配線、前記保護層を介して接合されている請求項2ないし5の何れか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記インク供給口を囲む領域に形成された配線パターンと、前記下部電極から引き出される共通電極配線とが電気的に接続されている請求項3ないし6の何れか一項に記載のインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−61750(P2012−61750A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208206(P2010−208206)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】