説明

インクジェットヘッド

【課題】インクジェットヘッドを構成する基板、圧電部材、枠部材をそれぞれ作成して接着する構成では、部品点数が増え、製造工数も増えてしまう。結果として製造原価が高くなっている。
【解決手段】
少なくとも一部が圧電部材よりなる基板と、基板の一面に形成された共通流路と、第1の開口部を通して共通流路に連通する圧力室と、圧力室に流体的に接続するノズルと、圧力室の内面に形成され駆動回路に接続する電極と、基板に設けられ共通流路を挟んで第1の開口部に対向する位置に第2の開口部を有し共通流路に接続する溝と、その溝の少なくとも一部を封止する封止材料と、を有するインクジェットヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクジェット記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体のせん断変形を利用してインクを吐出させるインクジェットヘッドが知られている。そのインクジェットヘッドは、基板、基板上に設けられたせん断変形を起こす圧電部材による圧力室、圧力室にインクを供給する共通液室を構成する為の枠部材、インクを吐出させるノズルプレートによって構成されている。インクジェットヘッドは圧電部材と基板の接着、溝加工、電極形成、ノズルプレートの接着、といった加工プロセスで作られている。具体的には、基板上に板状に形成された分極方向が異なる2枚の圧電部材を基板上に接着する。接着された圧電部材に圧力室となる溝を複数形成し、溝の内壁に電極を形成し、合わせてその電極に接続する配線電極を形成する。圧力室を形成する圧電部材を囲み共通流路を形成する枠部材を接着する。枠部材と圧電部材の上面を覆うようにノズルプレートを接着する。ノズルプレートに圧力室に対応してノズルが形成され、インクジェットヘッドとなる。
【0003】
このインクジェットヘッドの配線電極に電圧を印加すると、圧電部材が変形し圧力室内のインクに圧力を発生させる。発生した圧力によりインクはノズルから吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−143171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧電部材と枠部材をそれぞれ作成して接着する構成では、部品点数が増え、製造工数も増えてしまう。結果として製造原価が高くなっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の請求項に係るインクジェットヘッドは、少なくとも一部が圧電部材よりなる基板と、前記基板の一面に形成された共通流路と、第1の開口部を通して前記共通流路に連通する圧力室と、前記圧力室に流体的に接続するノズルと、前記圧力室の内面に形成され駆動回路に接続する電極と、前記基板に設けられ、前記共通流路を挟んで前記第1の開口部に対向する位置に第2の開口部を有し前記共通流路に接続する溝と、前記溝の少なくとも一部を封止する封止部材とを有している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるインクジェットヘッドの製造工程を示す縦断面図。
【図2】本発明の第1の実施形態の圧電体基板の平面図。
【図3】本発明の第1の実施形態のインクジェットヘッド主要部の平面図。
【図4】本発明の第1の実施形態のインクジェットヘッドの組立図。
【図5】本発明の第1の実施形態のインクジェットヘッドを動作させる駆動回路。
【図6】本発明の第1の実施形態の動作を示す横断面図。
【図7】本発明の第2の実施形態におけるインクジェットヘッドの製造工程を示す縦断面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
第1の実施形態のインクジェットヘッドを説明する。
【0009】
このインクジェットヘッドは図1および図4に示す工程によって製造している。図2はインクジェットヘッドのノズルプレートを除き、圧力室構成を示す平面図である。図3はインクジェットヘッドの主要部をノズルプレート側から見た平面図を示している。
【0010】
図1(a)〜図1(f)は、インクジェットヘッドの製造工程順に示している。
【0011】
図1(a)は圧電体基板1を示している。圧電体基板1は圧電体基板1a、1bの積層体となっている。圧電体基板1a、1bは板圧方向に分極され、その分極方向を逆にして、エポキシ接着剤で積層接着されている。圧電体基板1aはPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)で厚さ2mm、長さ64mm、幅16mmの板である。圧電体基板1bはPZTで厚さ0.2mm、長さ64mm、幅16mmの板で、圧電体基板1aに比べ薄い板となっている。圧電体基板1aと1bを接着後、圧電体基板1bの厚さが0.15mmになるよう研磨した。
【0012】
製造性を考慮して、圧電体基板1(圧電体基板1aと1bの積層体)は64mm角の正方形のPZTとした。64m角の正方形圧電体基板1から4個のインクジェットヘッドを作成するようにした。なお、64mm角の正方形基板は切断する為の研削歯の厚さを考慮して、必要な大きさとした。
【0013】
図1(b)は圧電体基板1に形成されるインク供給路2(2a、2b)、インク排出流路3、圧力室を構成する圧電体18a,18b(アクチュエータ)、および実装面4a、4bを示している。
【0014】
圧電体基板1の上面(圧電体基板1bの1aと反対側の面)に、インク供給路2(インク供給路2a、2b)、インク排出路3、実装面4(実装面4a、4b)が形成されている。圧電体基板1の上面から研削加工によって溝を形成することで、インク供給路2a、2b、インク排出路3を形成する。実装面4a、4bも研削加工によって形成している。研削加工は歯先がインク供給路2a、2b、インク排出路3の形状に合うダイヤモンドブレードを用いている。インク供給路2a、2b、インク排出路3に相当する溝は、上面側の幅が溝底の幅より広い、台形状の断面となっている。インク供給路2a、2b、インク排出路3の台形状の溝は、溝底から上面にかけて傾斜面を有し、その傾斜角は上面から45度になっている。インク供給路2a、2b、インク排出路3の溝の深さ(D1)は上面から1mmとなっている。溝に傾斜面を設けたのは、後述する電極パターンを断線せずに形成するためである。インク供給路2a、2bおよびインク排出路3は圧電体基板1の長手方向に直線状に形成され、かつ圧電体基板1の端部に平行に配置されている。
【0015】
インク排出路3の溝を圧電体基板1のほぼ中央部に1つ形成し、インク排出路3の溝とインク供給路2aの溝で圧電体基板1の圧電体18aを挟むようにインク供給路2aの溝を形成している。インク排出路3の溝とインク供給路2aの溝で挟まれた圧電体18aには後述する圧力室5aを形成する。インク排出路3の溝とインク供給路2bの溝で圧電体基板1の圧電体18bを挟むようにインク供給路2bの溝を形成している。インク排出路3の溝とインク供給路2bの溝で挟まれた圧電体18bには後述する圧力室5bを形成する。図1(a)〜(f)におけるインクジェットヘッド断面において、インク供給路2(インク供給路2a、2b)、インク排出路3、実装面4(実装面4a、4b)は、インク排出路3を中心として左右対称の構成になっている。
【0016】
実装面4aは圧電体基板1の端部にその上面から圧電体基板1を研削加工によって形成されている。圧電体基板1に形成される実装面4aの圧電体18a側の端部と圧電体基板1の上面とは傾斜面で繋がり、傾斜面は上面に対して45度となっている。実装面4aと圧電体基板1の上面との距離(D2)は0.8mmになっている。
【0017】
実装面4aとインク供給路2aの溝との間の圧電体基板1はインク供給路2a内のインクが外部へ漏れないための土手19aとして機能する。つまり、土手19aはインクで満たされるインクジェットヘッドの内部と外部との境界をなす。
【0018】
実装面4aには後述する電極パターンが形成される。その電極パターンは異方性導電膜を介してFPC(Flexible Printed Circuit )に形成された配線パターンに接続され、FPCの配線パターンはインクジェットヘッドの駆動回路10に繋がっている。
【0019】
なお、このインクジェットヘッドはインク排出路3を中心として左右対称の構成になっているので、圧力室5b、インク供給路2b、土手19b、実装面4bも上述の圧力室5a、インク供給路2a、土手19a、実装面4aと同様な構成になっている。
【0020】
土手19a、19b形成後、圧電体基板1の上面、インク排出路3の内面、インク供給路2a、2bの内面、実装面4a、4bに、スプレー法によって、感光性レジスト膜を塗布する。後述する電極パターンを形成する部分の感光性レジスト膜を除去し、電極パターンが形成されない部分に感光性レジスト膜が残るように、露光、現像を行って感光性レジストパターンを形成する。
【0021】
図1(c)は圧力室5a、5b、捨て溝6a、6bを示している。
【0022】
圧力室5a、5b、捨て溝6a、6bを圧電体基板1に形成する。図1(b)で示す圧電体基板1のインク供給路2aとインク排出路3で挟まれる圧電体18aに研削加工で第1の溝を形成する。第1の溝はインク供給路2aからインク排出路3まで連続した溝になっている。形成された第1の溝が圧力室5aになる。同様に、圧電体基板1のインク供給路2bとインク排出路3で挟まれる圧電体18bに研削加工で第2の溝を形成する。形成された第2の溝が圧力室5bになる。第1の溝、第2の溝、および捨て溝6a、6bは、直径80mm歯幅80μmの円盤状のダイヤモンドブレードによる研削で、土手19a、圧電体18a、圧電体18b、土手19bの順に連続的に加工される。捨て溝6a、6b、第1の溝および第2の溝は圧電体基板1の上面から深さ300μm、幅80μmである。
【0023】
土手19aに形成される捨て溝6aは実装面4aの捨て溝6a側端部からインク供給路2aまで連続し、実装面4a側に第1の開口部21、インク供給路2a側に第2の開口部22を形成する。第1の開口部21は実装面4a端部から圧電体基板1の上面にかけての斜面に形成されるため、第1の開口部21は傾斜した開口となっている。同様に、第2の開口部22はインク供給路2aの圧電体基板1からインク供給路2aの底部にかけての斜面に形成されるため、第2の開口部22は傾斜した開口となっている。
【0024】
第1の溝はインク供給路2aからインク排出路3まで連続し、インク供給路2a側に第3の開口部23、インク排出路3側に第4の開口部24を形成する。第3の開口部23およびは第4の開口部24は圧電体18aの傾斜面で開口している。
【0025】
第2の溝はインク排出路3からインク供給路2bまで連続し、インク排出路3側に第5の開口部25、インク供給路2b側に第6の開口部26を形成する。第5の開口部25およびは第6の開口部26は圧電体18bの傾斜面で開口している。
【0026】
土手19bに形成される捨て溝6bはインク供給路2bから実装面4bの捨て溝6b側の端部まで連続し、インク供給路2bに第7の開口部27、実装面4b側に第8の開口部28、を形成する。第7の開口部27はインク供給路2bの圧電体基板1からインク供給路2b底部にかけての斜面に形成されるため、第7の開口部27は傾斜した開口となっている。同様に、第8の開口部28は実装面4bの捨て溝6b側の端部から圧電体基板1の上面にかけての斜面に形成されるため、第8の開口部28も傾斜した開口となっている。
【0027】
なお、第1の開口部21は、圧電体基板1の上面にノズルプレート8を接着したときに、捨て溝6aはノズルプレート8によって圧電体基板1側の上面が覆われる。第1の開口部21は捨て溝6aを構成する圧電体基板1の側壁とノズルプレート8で囲まれ、実装面4a側に開口している。第2開口部22から第8開口部28も同様にノズルプレートと第1、第2の溝、捨て溝6bを構成する側壁で囲まれ、開口している。
【0028】
溝形成は、円盤状のダイヤモンドブレードで土手19a、圧電体18a、圧電体18b、土手19bの順に連続的に行うため、インク供給路2aに向かう第2の開口部22と第3の開口部23は対向した位置に形成され、インク排出路3に向かう第4の開口部24と第5の開口部25は対向した位置に形成され、インク供給路2bに向かう第6の開口部26と第7の開口部27は対向した位置に形成される。連続して研削しているので、捨て溝6a、第1の溝、第2の溝、捨て溝6bは一直線上に並んだ溝となる。
【0029】
一直線上に並ぶ捨て溝6a、第1の溝、第2の溝、捨て溝6bは、圧電体基板1の長さ方向に複数平行に設けられている。図2は一直線上に並ぶ複数の溝の平面図を示している。一直線上に並ぶ溝と溝との圧電体基板1の長さ方向における間隔は169μmピッチとし、溝は340本形成した。第1の溝および第2の溝はインク供給路2a、2bおよびインク排出路3に対して略直交して設けられている。
【0030】
一直線上に並ぶ溝はインク供給路2a、2b、インク排出路3に対してわずかに傾斜するように溝が配置されているので、各溝はインク供給路2a、2b、インク排出路3に対して略直交する。圧力室5aとなる第1の溝の中央部で、インク吐出用の第1のノズルがノズルプレートに形成され、圧力室5bとなる第2の溝の中央部で、インク吐出用の第2のノズルがノズルプレートに形成される。第1のノズルと第のノズルは、圧電体基板1の長さ方向において84μm(半ピッチ)ずれて配置されるように、一直線上に並ぶ溝はインク供給路2a、2b、インク排出路3に対してわずかに傾斜している。この傾斜させて圧力室5a、5bを配置することで、インク供給路2a、2b、インク排出路3に対して一直線上に並ぶ溝を直交させる構成の2倍の解像度で印字することが可能になる。直交させた場合には、圧力室が一列構成に比べて同一の画素に2倍のインクを付着させることが出来、画素の濃度を上げることができる。
【0031】
圧電体基板1の長さ方向に設けられた複数の平行な溝によって、圧力室5a、5bは長さ方向に複数形成される。圧力室5aに隣接する圧力室5aとの間に残る圧電体18aは、圧力室5a中のインクに吐出圧力を発生させるアクチュエータとなる。圧力室5aを挟む二つの圧電体18a(二つのアクチュエータ)によって、圧力室5a内のインクに圧力を加えて、ノズルからインクを吐出させる。
【0032】
複数の第1の溝がインク供給路2aに連通するので、インク供給路2aは共通流路となる。複数の捨て溝6aもインク供給路2a、すなわち共通流路に連通する。そのため、第1の溝にできる第3の開口部23と捨て溝6aにできる第2の開口部22は共通流路を挟んで対向する。
【0033】
同様に、複数の第2の溝がインク供給路2bに連通するので、インク供給路2bは共通流路となる。複数の捨て溝6bもインク供給路2b、すなわち共通流路に連通する。そのため、第2の溝にできる第6の開口部26と捨て溝6bにできる第7の開口部27は共通流路を挟んで対向する。
【0034】
実装面4a、4b、インク供給路2a、2b、インク排出路3、圧電体18a、18bの幅を示す。図2に示す、W1は2mm、W2は1mm、W3からW7はそれぞれ2mm、W8は1mm、W9は2mmとなっている。
【0035】
図1(d)は第1の溝、第2の溝内に形成された電極7a、7bを示している。
【0036】
電極は無電解ニッケルメッキと電界金メッキを組み合わせて形成している。初めに、前述した感光性レジストが無い部分に無電解ニッケルメッキを施す。ニッケルメッキ後、感光性レジストを除去液によって剥離する。ニッケルメッキのパターン上に金の電界メッキを成膜する。ニッケルと金の2層膜(電極膜)により、低抵抗な電極パターンを形成している。
【0037】
電極7aは電極膜7a1、7a2、7a3、7a4の4つの部分で構成されている。図2を参照。電極膜7a1、7a2、7a3、7a4は連続して繋がっている。電極膜7a1は第1の溝内の内壁に形成され、第3の開口部23から傾斜面に繋がっている。電極膜7a2は第3の開口部23から傾斜面、インク供給路2aの底部、第2の開口部22に繋がる傾斜面に形成され、電極幅80μmで形成されている。電極膜7a3は捨て溝7a内の内壁に形成され、第1の開口部21から傾斜面に繋がっている。電極膜7a4は第1の開口部21から傾斜面、実装面4aに形成され、電極幅80μmで形成されている。実装面4a上に形成される電極膜7a4が圧力室7aとなる第1の溝内の電極膜7a1に接続される。実装面4a上に形成される7a4にFPCを通して外部駆動回路から圧力室5aのアクチュエータの駆動電圧が印加される。電極7bは7aと同様に7b1、7b2、7b3、7b4の4つの部分で形成されている。
【0038】
このインクジェットヘッド製造の方法では、圧電体基板1は64mm角の基板を用い、4個取りとなっている。1個のインクジェットヘッド上で一直線上に並ぶ溝は、4個取りの圧電体基板1上でも4個分一直線上に並ぶように溝を形成している。4個分の電極膜も形成している。4個分の電極7a、7bを形成後、研削によって4個のインクジェットヘッドに分割している。
【0039】
インク供給路2a、2b、インク排出路3の圧電体基板1の上面からの深さ(D1)と、実装面4a、4bの圧電体基板1の上面からの距離(D2)の関係について、説明する。このインクジェットヘッドでは深さD1が距離D2より大きくなっている。インク供給路2a、2b、から複数の圧力室5a、5bにインクが供給され、ノズルから吐出されずに残ったインクはインク排出路3を通って回収される。そのため、インク供給路2a、2b、インク排出路3の流体抵抗は可能な限り小さくする必要がある。実装面4aは土手19aの傾斜面と繋がっているため、実装面4aと圧電体基板1の上面との距離D2が大きくなればなるほど、実装面4aの傾斜面が多くなり平坦部分の幅(W1)が狭くなる。実装面4aの幅が狭くなると、FPCとの接続幅が短くなるためその接続部での抵抗が高くなる。このため、距離D2が大きくなることは好ましくはない。そのため捨て溝の深さ以上であり、FPCを接続できる程度の距離D2としている。そのため、D2に比べD1が大きな値となっている。
【0040】
図1(e)はノズルプレート8の接着を示している。4分割された圧電体基板1にノズルプレート8をエポキシ接着剤で接着する。同時に捨て溝6a、6bの上部でノズルプレートと接着され、インク漏れを防止する。
【0041】
ノズルプレート8は圧電体18a、18bの上面、および捨て溝6aと隣接する捨て溝6a間に残る圧電体基板1の部分の上面で接着される。圧電体18aにノズルプレートを接着すると、第1の溝は第3の開口部23および第4の開口部24を有し、圧電体18aの溝内壁とノズルプレート8で囲まれた領域が圧力室5aとなる。同様に、圧電体18bにノズルプレートが接着され、第2の溝は第5の開口部25および第6の開口部26を有し、圧電体18bとノズルプレート8で囲まれた領域が圧力室5bとなる。
【0042】
ノズルプレート8は厚さ50μmのポリイミドフィルムを用いている。ノズルが形成されていないポリイミドフィルムを圧電体基板1の表面に接着した後、レーザー加工によって圧力室5a、5bのほぼ中央にノズル9a、9bを形成する。ノズル9a、9bの位置は前述したように、圧電体基板1の長さ方向に84μmずれた位置に形成する。ノズルプレート上のノズル配置は図3に示している。複数の圧力室5a内で3分割駆動しているため、ノズル9aは3個おきに圧電体基板1の幅方向にずれた位置に配されている。
【0043】
図1(f)は電極7a、7bと駆動回路10との接続を示している。実装面4a上の電極膜7a4に駆動回路10を搭載したFPCの配線を、異方性導電フィルム(ACF(Anisotropic Contact Film))を介して接続させている。FPCの配線パターンは各圧力室を駆動する為の駆動波形を発生させる駆動回路10(駆動IC)に接続されている。
【0044】
ACFを介してFPCを電極膜7a4に接続した後、FPCを固定する。捨て溝6aに封止部材11を充填するときに合わせて、封止部材11でFPCを固定した。封止部材11はエポキシ接着剤であるため、FPCの固定と捨て溝6aの充填をあわせておこなうことが出来る。封止部材11は一般に硬化に伴う応力が発生する。そのため、エポキシ接着剤のなかでも、硬化後の弾性率が低い材料を選択した。さらに、捨て溝6aは第2の開口部22を通してインク供給路2aと連通するため、封止部材11はインクと接液する。そのため、インクに長期間接しても劣化しないエポキシ接着剤を選んだ。捨て溝6bについても同様である。
【0045】
捨て溝6a,6bに対する封止部材11の充填は、ノズルプレート8の接着する前に行うこともできる。この場合、封止部材11はノズルプレート8を接着するためのエポキシ接着剤を利用する。捨て溝6a、6bに封止部材11を充填することで、インク供給路2a、2bからインクが外部へ漏れるのを防止する。
【0046】
図4に、インク供給手段を含むインクジェットヘッド構造体12を示す。
【0047】
インクジェットヘッドのノズルプレート8上にマスクプレート16を接着している。マスクプレート16はインクを吐出するノズル部分では開口しノズルプレート8の端部を覆う形状になっている。マスクプレート16はノズルプレート8上に形成された撥水膜およびノズルプレート8を保護し、またインク供給路2a、2bおよびインク排出路3の端部からインクが漏れないようにインク供給路2a、2bおよびインク排出路3の端部を覆っている。インク供給手段13はインク供給管13a、インク排出管13bを備えている。インク供給管13aはインク供給ポート14aおよびインク供給ポート14bにインク供給手段の内部で連通している。インクジェットヘッドをインク供給手段13に嵌めると、インク供給ポート14aはインクジェットヘッドのインク供給路2aに嵌って接続し、インク供給ポート14bはインクジェットヘッドのインク供給路2bに嵌って接続するようになっている。インク供給路2aには両端にノズルプレート8と圧電体基板1で囲まれるインク供給路開口ができる。この二つのインク供給路開口が、インク供給手段13に設けられた二つのインク供給ポート14aに繋がる。インク供給路2bにも同様に二つのインク供給路開口ができ二つのインク供給ポート14bに繋がっている。インク排出管13bはインク供給手段13内部でインク排出ポート15に流体的に連通している。インクジェットヘッドをインク供給手段13に嵌めたときに、インク排出ポート15とインク排出路3が繋がる。そして、マスクプレート16によって、インク供給路2a、2b、インク排出路3は覆われ、インクが漏れないようになる。
【0048】
図5はインクジェットヘッドの駆動回路10を示す。ヘッド駆動回路10は、メモリ31、制御回路32、シフトレジスタ33、ラッチ回路34と、波形発生手段35で構成されている。メモリ31に記憶されている画像データは制御回路31を介してシフトレジスタ33に転送される。転送されたデータはラッチ回路34でラッチされ、波形発生手段35で画像データに合わせてアクチュエータを駆動させる駆動パルスを生成する。
【0049】
図6はインクジェットヘッド構造体12の動作を示す。インクはインク供給管13aからインク供給手段13に供給され、インク供給ポート14a、14bからインク供給路2a、2bを経て圧力室5a、5b、ノズル9a、9bに充填される。さらに、インク排出路3とインク排出ポート15を経て、インク供給手段13のインク排出管13bにインクは排出される。
【0050】
駆動回路10で生成した駆動信号が圧力室5a、5bの内面に形成された電極7a1、7b1に伝達されると、圧電体18a、18b(アクチュエータ)には分極方向に直交する方向に電界が発生する。圧電体基板1a1bは逆向きに分極されているので、圧電体18a、18bは「く」の字形にせん断変形する。その結果、圧力室5a、5b内のインクに圧力振動が発生し、ノズル9a、8bからインク滴が吐出する。
【0051】
従来のインクジェットヘッドでは、基板上に接着された圧電部材と基板上に接着された枠部材とは異なる部材となっている。そのため二つの部材の高さがわずかに異なると、ノズルプレートを接着した時に圧電部材とノズルプレート間または枠部材とノズルプレート間で接着しない部分が発生することがある。また、その高さの違いによって、ノズルプレートが変形し、インクの吐出方向がばらつくことがある。
【0052】
これに対して、本実施形態では、枠部材を用いていないため、ノズルプレートの変形が抑制され、インク吐出方向のばらつきを減少させることが可能になった。
【0053】
また、枠部材が不要になったので、部品点数と組立工数を削減できた。結果として、製造原価を低減することが可能になった。
【0054】
なお、上記した部材や製法は以下に示すような、他の材料製法で適宜置き換えることも可能である。
【0055】
圧電体基板の材料として、上記インクジェットヘッドではPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を用いた。他の材料として、PTO(PbTiO:チタン酸鉛)PMNT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O−PbTiO)、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O−PbTiO)、などを用いることも可能である。
【0056】
電極7a、7bの形成方法として、電極を形成する部分にのみニッケルメッキと金メッキを成膜するアディティブ法を用いている。アディティブ法に替えて、サブトラクティブ法で電極7a、7bを形成することも可能である。サブトラクティブ法では、圧電体基板1上にインク供給路2a、2b、インク排出路3、実装面4a、4b、第1第2の溝、捨て溝6a、6bを加工した後、全面に無電解ニッケルメッキと電界金メッキを施す。メッキ後、電極7a、7bとなる部分以外のメッキを除去する。除去する方法は、感光性レジストでメッキ膜を残す部分を被覆し、それ以外を金とニッケルの溶解液で溶かし取る。その後レジストを剥離して、電極7a7bを形成する。感光性レジストでパターニングする代わりに、電着レジストを利用してパターニングすることも可能である。また、レジストを使わず、レーザーパターニングで不要なメッキ膜を除去する方法でも、電極形成できる。
【0057】
無電解ニッケルメッキ、電界金メッキの2層膜に替えて、金、ニッケル、銅といった低抵抗電極材を単独または積層膜とすることもできる。また、成膜法は真空蒸着やスパッタリングを適用することも可能である。
【0058】
このインクジェットヘッドは2列の圧力室5a、5bの外側にインク供給路2a、2bを配置し、内側にインク排出路3を配置した構成となっている。この構成に替えて、インク供給路2a、2bをインク排出路とし、インク排出路3をインク供給路として用いることも可能である。
【0059】
ポリイミドのノズルプレート8の替りに、予めノズル9を形成したニッケル、ステンレスや単結晶シリコンのノズルプレートを用いることも可能である。
【0060】
実装面4a上の電極膜と駆動回路10はACFを介して結線しているが、これに替えて、ワイヤボンディングを利用することも可能である。
【0061】
第2の実施形態のインクジェットヘッドを説明する。
【0062】
第7図は圧力室を構成する圧電体と、その圧電体を埋め込んだセラミックス基板との組合せによる、インクジェットヘッドを示している。第1の実施形態と同じ部分は同じ番号を付している。
【0063】
圧力室5a、5bおよびアクチュエータ(圧電体18a、18b)を構成する圧電体基板1は圧電体基板1a、1bの積層体となっている。圧電体基板1a、1bは板圧方向に分極され、その分極方向を逆にして、エポキシ接着剤で積層接着されている。圧電体基板1aはPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)で厚さ1mm、長さ64mm、幅8mmの板である。圧電体基板1bはPZTで厚さ0.2mm、長さ64mm、幅8mmの板で、圧電体基板1aに比べ薄い板となっている。
【0064】
積層された圧電体基板1a、1bを酸化アルミニウム基板1c(アルミナ基板1c)内に埋め込んでいる。アルミナ基板1cは厚さ2.2mm、長さ64mm、幅16mmの板であり、中央に上面から深さ1.2mm、長さ64mm、幅8mmの凹部が形成されている。アルミナ基板1cの凹部に圧電体基板1a、1bをエポキシ接着剤で埋め込んでいる。
【0065】
積層された圧電体基板1a、1bをアルミナ基板1cの凹部に埋め込んだ後、圧電体基板1aと1bとアルミナとの段差をなくすように、圧電体基板1bの表面とアルミナ基板表面を同時研磨する。圧電体基板1bの厚さが0.15mmになるよう研磨した。
【0066】
製造性を考慮して、第1の実施形態と同様、アルミナ基板は64mm角の正方形の基板を用いた。アルミナ基板表面に幅8mm長さ64mmの前述した積層圧電体基板1a、1bを4個、16mm間隔で埋め込んだ。64m角の正方形の基板からインクジェットヘッドを4個できるようにした。なお、64mm角の正方形基板は切断する為の研削歯の厚さを考慮して、必要な大きさとした。
【0067】
アルミナ基板に圧電体基板1a、1bを埋め込んだ後、第1の実施形態と同じ加工プロセスでインクジェットヘッドを製造した。
【0068】
基板1cとしては、窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、等を用いることもできる。
【0069】
この構成においても、枠部材が不要になったので、部品点数と組立工数を削減できた。結果として、製造原価を低減することが可能になった。
【0070】
近年、鉛の使用量を減らすことが望まれている。PZTには構成元素として鉛が含まれている。第2の実施形態のようにPZTをアクチュエータとなる部分に限定することで、鉛使用量を低減することが可能になる。
【0071】
また、捨て溝6aの内壁に電極が形成されている。そのため、隣接する2個の捨て溝6a間で静電容量を有することになる。PZTに比べアルミナにすることで誘電率が下がり、電気的な損失を低減することもできる。
【符号の説明】
【0072】
1 圧電体基板
2a、2b インク供給路
3 インク排出路
4a、4b 実装面
5a、5b 圧力室
6a、6b 捨て溝
7a、7b 電極
8 ノズルプレート
9a、9b ノズル
10 駆動回路
11 封止部材
12 ヘッド構造体
13 インク供給手段
14a、14b インク供給ポート
15 インク排出ポート
16 マスクプレート
18a、18b アクチュエータ
19a、19b 土手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が圧電部材よりなる基板と、
前記基板の一面に形成された共通流路と、
第1の開口部を通して前記共通流路に連通する圧力室と、
前記圧力室に流体的に接続するノズルと、
前記圧力室の内面に形成され駆動回路に接続する電極と、
前記基板に設けられ、前記共通流路を挟んで前記第1の開口部に対向する位置に第2の開口部を有し前記共通流路に接続する溝と、
前記溝の少なくとも一部を封止する封止材料と、を有するインクジェットヘッド。
【請求項2】
基板と、
圧電部材よりなるアクチュエータと
前記基板の一面に形成された共通流路と、
前記アクチュエータを備え第1の開口部を通して前記共通流路に連通する圧力室と、
前記圧力室に流体的に接続するノズルと、
前記圧力室の内面に形成され駆動回路に接続する電極と、
前記基板に設けられ、前記共通流路を挟んで前記第1の開口部に対向する位置に第2の開口部を有し前記共通流路に接続する溝と、
前記溝の少なくとも一部を封止する封止部材と、を有するインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記圧力室は前記基板上に複数形成され、各圧力室は互いに平行に形成されている請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記各溝は前記基板上に複数形成され、各溝は互いに平行に形成されている請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記圧力室は前記共通流路に略直交して形成されている請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
複数の前記圧力室は圧電部材に形成された複数の溝で構成されている請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記溝の内面に導電性膜が形成され、前記電極と電気的に接続され前記導電性膜を通して前記駆動回路に接続されている請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記溝の第2の開口部は前記基板に対して傾斜した面に設けられている請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記溝は前記封止材料によって封止された封止部を挟んで第2の開口部と反対側に第3の開口部を有し、前記第3の開口部は前記基板に対して傾斜した面に設けられている請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−18193(P2013−18193A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153426(P2011−153426)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】