説明

インクジェット印刷インク用バインダーの製造方法、インクジェット印刷用インク及び印刷物

【課題】優れたインク吐出性と配合安定性とを両立でき、かつ、耐擦過性及び耐アルカリ性に優れた印刷物を形成可能なインクジェット印刷インクの製造に使用するインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)等を含有するポリオール(A)、ならびに、ポリイソシアネート(B)を反応させることによって得られる、側鎖にビニル重合体(a1)由来の構造を有するポリウレタン(C)と、アセチレン化合物(D)と、水系媒体(E)とを含有するインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット印刷用インクに使用するバインダーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、成長が著しいインクジェット印刷関連業界では、インクジェットプリンターの高性能化やインクの改良等が飛躍的に進み、一般家庭でも容易に銀塩写真並みの高光沢で高精細な画像を得ることが可能となりつつある。
【0003】
なかでもインクについては、従来の染料インクから顔料インクへの移行や、溶剤系から水系への移行等の、高画質化や環境負荷低減を目的とした改良が急速に進められており、現在は、水系の顔料インクをベースとした開発が積極的に行われている。
【0004】
また、前記インクには、インクジェットプリンター等の高性能化に伴って、年々、様々な性能が要求されるようになっている。例えば、インクジェットプリンターを構成するインク吐出ノズルの経時的な詰まりを引き起こすことなく、長期間にわたりインクの吐出不良や吐出方向の異常を引き起こさないインクの吐出安定性や、バインダー樹脂に、顔料または染料や、その他の添加剤を混合し製造して得られるインクの、経時的な分離や凝集を引き起こさない配合安定性が挙げられる。
【0005】
前記インク吐出性や配合安定性に優れたインクジェット印刷用インクとしては、例えば顔料と、水と、該顔料を包含しかつ該顔料をインク組成物中に分散可能とする水不溶性ビニルポリマーのポリマー粒子と、ウレタン樹脂とを少なくとも含むインク組成物が知られており、前記インク組成物と、界面活性剤であるアセチレングリコール類とを混合したものを使用できることが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、前記インク組成物であっても、産業界から求められる非常に高いレベルの吐出性や配合安定性には、あと一歩及ぶものではなく、長期間にわたって使用した場合に経時的なインク吐出ノズルの詰まり等を引き起こす場合があった。
一方、インクジェット印刷物の使用分野が広範となるのに伴い、より一層の高いレベルの耐擦過性が求められるなかで、前記文献1に記載されたようなインク組成物では、例えば極所的に強い外力が加わった場合等に、依然として顔料の脱落等に起因した印刷画像の色落ちや劣化や損傷を引き起こす場合があった。また、前記インク組成物を用いて印刷して得られた印刷物は、その表面に、例えばアルカリ性洗浄剤等が付着した場合に、印字表面に浮きやにじみが発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−282760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、非常に優れたインク吐出性と配合安定性とを両立でき、かつ、耐擦過性及び耐アルカリ性に優れた印刷物を形成可能なインクジェット印刷インクの製造に使用するインクジェット印刷インク用バインダー及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、インクの吐出安定性や配合安定性の向上には、インクの構成成分の相溶性を向上させることが重要ではないかと考え、従来からインクに使用されている界面活性剤や消泡剤等の使用量を増加させることを検討した。
【0009】
しかし、界面活性剤を過剰に使用したインクは、吐出安定性及び配合安定性ともに悪化し、インク構成成分の凝集や、インク吐出ノズルの経時的な詰まりを引き起こす場合があった。
【0010】
また、前記界面活性剤として様々な種類のものを検討し、例えば、一般に消泡剤として知られているシリコーン系鉱物油等を使用したインクを検討したが、やはり、インク構成成分の凝集等や、インク吐出ノズルの経時的な詰まりを引き起こす場合があった。
【0011】
本発明者等は、前記課題を解決するためには、界面活性剤の種類とともに、前記界面活性剤を使用する時期が、インクの構成成分の相溶性を向上するうえで有効であり、最終的に得られるインクジェット印刷用インクの吐出安定性や配合安定性を向上できるのではないかと考え検討した。
【0012】
その結果、界面活性剤としてアセチレン化合物を使用し、該アセチレン化合物を、インクのバインダーとなりうるポリウレタンの有機溶剤溶液中から、該有機溶剤の一部または全部を除去し水性化する前までの間に、予め混合することによって、吐出安定性や配合安定性に優れたインクジェット印刷用インクを製造可能なインクジェット印刷インク用バインダーが得られることを見出した。
また、前記製造方法を採用するとともに、バインダーとして、片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)と、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオール(a2)とを含有するポリオール(A)、ならびに、ポリイソシアネート(B)を反応させることによって得られる、側鎖にビニル重合体(a1)由来の構造を有するポリウレタン(C)が水系媒体に分散したインクジェット印刷インク用バインダーを用いた場合に、インクの良好な吐出安定性や配合安定性を損なうことなく、耐擦過性や耐アルカリ性を向上できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)と、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオール(a2)とを含有するポリオール(A)、ならびに、ポリイソシアネート(B)を反応させることによって得られる、側鎖にビニル重合体(a1)由来の構造を有するポリウレタン(C)と、アセチレン化合物(D)と、水系媒体(E)とを含有するインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法であって、前記製造方法が、
片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)と、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオール(a2)とを含有するポリオール(A)、ならびに、ポリイソシアネート(B)を有機溶剤(F)中または無溶剤下で反応させることによって、側鎖にビニル重合体(a1)由来の構造を有するポリウレタン(C)を得、必要に応じ有機溶剤(F)を供給することによって前記ポリウレタン(C)の有機溶剤(F)溶液[I]を製造する工程(1)、
前記有機溶剤(F)溶液[I]と、前記アセチレン化合物(D)と前記水系媒体(E)とを混合することによって、前記ポリウレタン(C)を含む混合物[II]を製造する工程(2)、及び、
前記混合物[II]中に含まれる有機溶剤(F)の一部または全部を除去する工程(3)を含むことを特徴とするインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法に関するものである。
【0014】
また、本発明は、前記インクジェット印刷インク用バインダーと、顔料または染料とを含有してなるインクジェット印刷用インク、及び、それを用いて印刷の施された印刷物に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、優れたインク吐出性と配合安定性とを有し、かつ、耐擦過性及び耐アルカリ性に優れた印刷画像を形成可能なインクジェット印刷用インクの製造に使用可能なインクジェット印刷インク用バインダーを得ることができる。
【0016】
また、本発明の製造方法によって得られたインクジェット印刷インク用バインダーは、インクの乾燥性にも優れることから、例えば産業用ワイドフォーマットプリンター等のインク吐出量の多いプリンターを用いた場合であっても、その生産効率を低下させることなく、高鮮明で耐擦過性及び耐アルカリ性等に優れた印刷画像を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)と、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオール(a2)とを含有するポリオール(A)、ならびに、ポリイソシアネート(B)を反応させることによって得られる、側鎖にビニル重合体(a1)由来の構造を有するポリウレタン(C)と、アセチレン化合物(D)と、水系媒体(E)と、必要に応じてその他の添加剤を含有するインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法である。
【0018】
本発明の製造方法は、具体的には、以下の工程(1)〜工程(3)を経る方法である。以下、各工程についてそれぞれ詳細に説明する。
前記工程(1)は、片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)と、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオール(a2)とを含有するポリオール(A)、ならびに、ポリイソシアネート(B)を有機溶剤(F)中または無溶剤下で反応させポリウレタン(C)を得、必要に応じ有機溶剤(F)を供給することによってポリウレタン(C)の有機溶剤(F)溶液[I]を製造する工程である。
【0019】
前記ポリウレタン(C)の有機溶剤(F)溶液[I]の具体的な製造方法としては、例えば前記ポリオール(A)と前記ポリイソシアネート(B)とを、予め30℃〜150℃に調整した有機溶剤(F)中に一括または逐次供給し、70℃〜150℃で3時間〜30時間程度反応させる方法が挙げられる。前記反応は、前記ポリオール(A)及び前記ポリイソシアネート(B)の合計量に対して5質量%〜300質量%の有機溶剤(F)の存在下で行うことが好適であり、前記反応終了後、必要に応じて前記有機溶剤(F)を更に供給してもよい。
【0020】
また、前記ポリウレタン(C)の有機溶剤(F)溶液[I]は、例えば前記ポリオール(A)と前記ポリイソシアネート(B)とを無溶剤下で混合し、60℃〜200℃で0.5時間〜10時間程度反応させ、その反応途中または反応終了後に、有機溶剤(F)を供給し混合することによって製造することができる。
【0021】
前記ポリウレタン(C)の有機溶剤(F)溶液[I]の製造に使用するポリオール(A)としては、片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)と、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオール(a2)とを必須とし、必要に応じて親水性基含有ポリオール(a3−1)等のその他のポリオール(a3)等を組み合わせ使用することができる。前記ポリオール(A)は、複数の種類のものが予め混合されていてもよく、別々に反応容器中に供給してもよい。
【0022】
前記親水性基含有ポリオール(a3−1)を使用する場合、例えば前記親水性基含有ポリオール(a3−1)と前記ポリイソシアネート(B)とを有機溶剤(F)中で反応させることによってウレタンプレポリマー(C−1)の有機溶剤(F)溶液を製造し、次いで、前記ウレタンプレポリマー(C−1)の有機溶剤(F)溶液と、片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)と、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオール(a2)とを混合し反応させることによって、ポリウレタン(C)の有機溶剤(F)溶液[I]を製造することもできる。
また、前記ポリオール(A)と前記ポリイソシアネート(B)とを無溶剤下で反応させることによってウレタンプレポリマー(C−1)を製造し、次いで、前記ウレタンプレポリマー(C−1)と、必要に応じて前記その他のポリオール(a3)や有機溶剤(F)を含む混合物とを混合し反応させることによってポリウレタン(C)の有機溶剤(F)溶液[I]を製造することもできる。
【0023】
また、前記ポリオール(A)は、例えば前記親水性基含有ポリオール(a3−1)の一部と前記ポリイソシアネート(a2)とを有機溶剤(F)中で反応させることによってウレタンプレポリマー(C−1)の有機溶剤(F)溶液を製造し、次いで前記ウレタンプレポリマー(C−1)の有機溶剤(F)溶液と、前記親水性基含有ポリオール(a3−1)を含むポリオール(A)とを一括または別々に供給し反応させることによって、ポリウレタン(C)の有機溶剤(F)溶液[I]を製造することが、吐出安定性や配合安定性に優れたインクジェット印刷用インクを製造するうえで好ましい。この場合、前記ポリウレタン(C)の製造に使用する親水性基含有ポリオール(a3−1)の全量の40質量%〜80質量%を前記ウレタンプレポリマー(C−1)の有機溶剤(F)溶液を製造する際に使用し、残りの20質量%〜60質量%を前記ウレタンプレポリマー(C−1)との反応に使用することが、吐出安定性や配合安定性に優れたインクジェット印刷用インクを製造するうえで好ましい。
【0024】
前記ポリオール(A)と前記ポリイソシアネート(B)との反応は、例えば前記ポリオール(A)の有する水酸基に対する、前記ポリイソシアネート(B)の有するイソシアネート基の当量割合[前記イソシアネート基/前記水酸基]が、0.8〜2.5の範囲で行うことが好ましく、0.9〜1.5の範囲で行うことがより好ましい。また、後述する鎖伸長剤を使用する場合には、前記当量割合が1.1〜1.5の範囲であることが好ましい。
【0025】
前記ポリウレタン(C)の製造に使用する前記ポリオール(A)としては、主鎖としてのポリウレタン構造の側鎖にビニル重合体構造を導入することを目的として片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)を使用し、かつ、形成する印刷物に優れた耐擦過性を付与することを目的として、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオール(a2)を使用することが重要である。
【0026】
前記ポリウレタン(C)の製造に使用する片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)としては、例えば2個の水酸基を有する連鎖移動剤の存在下で各種ビニル単量体を重合することによって得られるものを使用することができる。具体的には、2個の水酸基とメルカプト基等を有する連鎖移動剤の存在下でビニル単量体のラジカル重合を行い、前記メルカプト基を起点として前記ビニル単量体が重合したものが挙げられる。
【0027】
また、前記片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)としては、例えばカルボキシル基及びメルカプト基を有する連鎖移動剤の存在下でビニル単量体のラジカル重合を行い、前記メルカプト基を起点として前記ビニル単量体が重合したものと、水酸基及びグリシジル基を有する化合物とを反応させることによって得られたものを使用することもできる。
【0028】
得られたビニル重合体(a1)は、前記連鎖移動剤由来の2個の水酸基を片末端に有するため、この2個の水酸基と後述するポリイソシアネート(B)の有するイソシアネート基とを反応することによってウレタン結合を形成することができる。
【0029】
前記片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)としては、前記ポリイソシアネート(B)と反応させる際の粘度制御を容易にし、本発明のインクジェット印刷インク用バインダーの生産効率の向上やインクの吐出安定性の向上を図る観点から、500〜10000の数平均分子量を有するものを使用することが好ましく、1000〜5000の数平均分子量を有するものを使用することがより好ましい。
【0030】
また、前記ビニル重合体(a1)としては、得られるポリウレタン(C)に親水性基を付与し、本発明のインクジェット印刷インク用バインダーに優れた保存安定性を付与する観点から親水性基含有ビニル重合体を使用することもできる。
【0031】
前記親水性基としては、アニオン性基、カチオン性基、及びノニオン性基を使用できるが、前記ビニル重合体(a1)中に存在しうる親水性基としては、アニオン性基及びカチオン性基のいずれか一方または両方の組み合わせであることが好ましく、カチオン性基であることがより好ましい。
【0032】
前記アニオン性基としては、例えばカルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基等を使用することができ、なかでも、前記カルボキシル基やスルホン酸基の一部または全部が塩基性化合物等によって中和されたカルボキシレート基やスルホネート基を使用することが、良好な水分散安定性を付与するうえで好ましい。また、前記カチオン性基としては、例えば3級アミノ基等を使用することができ、前記ノニオン性基としては、例えばポリエチレンオキサイド鎖等を使用することができる。
【0033】
また、前記ビニル重合体(a1)は、前記ビニル重合体(a1)由来のビニル重合体構造を、ポリウレタン(C)の側鎖に存在させる観点から、前記片末端の2個の水酸基以外の、他の水酸基を有さないものであることが好ましい。具体的には、前記ビニル重合体(a1)の製造に使用可能なビニル単量体として、水酸基含有ビニル単量体を使用しないことが好ましい。
【0034】
前記片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)の製造に使用可能な連鎖移動剤としては、例えば2個の水酸基とメルカプト基等を有する連鎖移動剤や、カルボキシル基とメルカプト基とを有する連鎖移動剤等を使用することができる。なかでも、2個の水酸基とメルカプト基等を有する連鎖移動剤を使用することが、製造が簡便であるため好ましい。
【0035】
前記2個の水酸基とメルカプト基等を有する連鎖移動剤としては、例えば3−メルカプト−1,2−プロパンジオール(チオグリセリン)、1−メルカプト−1,1−メタンジオール、1−メルカプト−1,1−エタンジオール、2−メルカプト−1,3−プロパンジオール、2−メルカプト−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メルカプト−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1−メルカプト−2,3−プロパンジオール、2−メルカプトエチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メルカプトエチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール等を使用することができる。なかでも3−メルカプト−1,2−プロパンジオールを使用することが、臭気が少なく作業性や安全性の点で優れ、かつ汎用であるため好ましい。
【0036】
また、前記ビニル重合体(a1)の製造に使用するビニル単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸β−カルボキシエチル、2−(メタ)アクリロイルプロピオン酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸基または酸無水基含有ビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、N−モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド;2−アジリジニルエチル(メタ)アクリレート;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N−〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ピペリジン、N−〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ピロリジン、N−〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕モルホリン、4−〔N,N−ジメチルアミノ〕スチレン、4−〔N,N−ジエチルアミノ〕スチレン、2−ビニルピリジン;N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート;アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、アミノ−n−ブチル(メタ)アクリレート、ブチルビニルベンジルアミン、ビニルフェニルアミン、p−アミノスチレン等の窒素原子含有ビニル単量体;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和カルボン酸のニトリル類;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のフッ素含有ビニル単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルスチレン等の芳香族環を有するビニル化合物;イソプレン、クロロプレン、ブタジエン、エチレン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、N−ビニルピロリドン;ポリオキシエチレンモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンモノエチルエーテル(メタ)アクリレート等のポリオキシエチレン基含有ビニル重合体等を使用することができる。
【0037】
ビニル単量体としては、前記(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群より選ばれる1種以上を含むものを使用することが、前記連鎖移動剤との反応を制御しやすく、生産効率を向上できるため好ましい。
【0038】
前記2個の水酸基とメルカプト基を有する連鎖移動剤と前記ビニル単量体との重合反応は、例えば50℃〜100℃程度の温度に調整したトルエンやメチルエチルケトン等の溶剤下、前記連鎖移動剤と前記ビニル単量体を一括または逐次供給し、ラジカル重合させることで進行することができる。これにより、連鎖移動剤のメルカプト基等を起点として前記ビニル単量体のラジカル重合が進行し、片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)を製造することができる。前記方法で片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)を製造する際には、必要に応じて従来知られる重合開始剤を使用しても良い。
【0039】
前記方法で得られる片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)は、前記ポリウレタン(C)の製造に使用する原料の合計質量に対して1質量%〜70質量%の範囲で使用することが好ましく、5質量%〜50質量%の範囲で使用することが、耐アルカリ性、耐水性に優れた印刷物を形成するうえで好ましい。なお、前記ポリウレタン(C)の製造に使用する原料とは、前記ビニル重合体(a1)や前記ポリオール(a2)や必要に応じて使用可能なその他のポリオール(a3)を含むポリオール(A)と前記ポリイソシアネート(B)の合計質量であり、更に鎖伸長剤を使用した場合には、前記ポリオール(A)と前記ポリイソシアネート(B)と鎖伸長剤との合計質量を示す。以下、同様である。
【0040】
また、前記ポリウレタン(C)の製造に使用するポリオール(a2)は、耐擦過性に優れた印刷物を得るうえで必須成分である。ここで、前記ポリウレタン(C)の代わりに、
前記ポリオール(a2)を使用せず片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)及びポリイソシアネート(B)を反応させることによって得られる、側鎖にビニル重合体(a1)由来の構造を有するポリウレタンを使用したインクジェット印刷インク用バインダーでは、耐擦過性に優れた印刷物を形成できない場合がある。
【0041】
前記ポリオール(a2)としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上を使用する。なかでも、インクの保存安定性や得られる印刷物の耐水性等を向上する観点から、ポリエーテルポリオールを使用することが好ましい。
【0042】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば活性水素原子を2個以上有する化合物の1種または2種以上を開始剤として、アルキレンオキサイドを付加重合させたものを使用することができる。
【0043】
前記開始剤としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等を使用することができる。
【0044】
また、前記アルキレンオキサイドとしては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン等を使用することができる。
【0045】
前記ポリエーテルポリオールとしては、具体的には、ポリオキシテトラメチレングリコールやポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールを使用することが、インクの吐出安定性を向上するうえで好ましい。また、前記ポリエーテルポリオールとしては、1000〜3000の数平均分子量のものを使用することが、印刷表面のタック感を抑制し耐水性に優れた印刷物をえるうえでより好ましい。
【0046】
また、前記ポリエステルポリオールとしては、例えば低分子量のポリオールとポリカルボン酸とをエステル化反応して得られる脂肪族ポリエステルポリオールや芳香族ポリエステルポリオール、ε−カプロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステルや、これらの共重合ポリエステル等を使用することができる。
【0047】
前記低分子量のポリオールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコ−ル等を使用することができる。
【0048】
また、前記ポリカルボン酸としては、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、及びこれらの無水物またはエステル形成性誘導体などを使用することができる。
【0049】
また、前記ポリエステルエーテルポリオールとしては、例えば前記開始剤に前記アルキレンオキサイドが付加したポリエーテルポリオールと、ポリカルボン酸とが反応したものを使用することができる。前記開始剤や前記アルキレンオキサイドとしては、前記ポリエーテルポリオールを製造する際に使用可能なものとして例示したものと同様のものを使用することができる。また、前記ポリカルボン酸としては、前記ポリエステルポリオールを製造する際に使用可能なものとして例示したものと同様のものを使用することができる。
【0050】
また、前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば炭酸エステルとポリオールとを反応させて得られるものや、ホスゲンとビスフェノールA等とを反応させて得られるものを使用することができる。
【0051】
前記炭酸エステルとしては、メチルカーボネートや、ジメチルカーボネート、エチルカーボネート、ジエチルカーボネート、シクロカーボネート、ジフェニルカーボネ−ト等を使用することできる。
【0052】
前記炭酸エステルと反応しうるポリオールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−ブチル−2−エチルプロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノール−A、ビスフェノール−F、4,4’−ビフェノール等の比較的低分子量のジヒドロキシ化合物や、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールや、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリカプロラクトン等のポリエステルポリオール等を使用することができる。
【0053】
前記ポリオール(a2)としては、耐久性に優れた印刷物を得る観点から、500〜10000の重量平均分子量を有するものが好ましく、1000〜3000の範囲の数平均分子量を有するものを使用することがより好ましい。
【0054】
前記ポリオール(a2)は、前記ポリウレタン(C)の製造に使用する原料の合計質量に対して5質量%〜80質量%の範囲で使用することが好ましい。さらに15質量%〜80質量%の範囲で使用することが、耐擦過性に優れた印刷物を形成するうえで好ましい。
【0055】
また、前記ポリオール(a2)は、前記ビニル重合体(a1)と特定範囲で組み合わせ使用することが、耐擦過性等に優れた印刷物を形成するうえで好ましく、例えば[(a1)/(a2)]=1/20〜20/1の範囲で使用することが好ましく、1/10〜10/1の範囲で使用することがより好ましい。
【0056】
また、前記ポリウレタン(C)の製造に使用するポリオール(A)としては、前記したものの他に、必要に応じてその他のポリオール(a3)を使用することができる。
【0057】
前記その他のポリオール(a3)としては、例えば親水性基含有ポリオール(a3−1)を使用することができる。とりわけ、前記ビニル重合体(a1)として親水性基を有さないものを使用する場合には、得られるポリウレタン(C)に水分散性を付与し、保存安定性に優れたインクジェット印刷インク用バインダーを得る観点から、前記親水性基含有ポリオール(a3−1)を使用することが好ましい。
【0058】
前記親水性基含有ポリオール(a3−1)としては、親水性基を有するものを使用することができ、例えば、アニオン性基含有ポリオール、カチオン性基含有ポリオール、及びノニオン性基含有ポリオールを使用することができ、なかでもアニオン性基含有ポリオールまたはカチオン性基含有ポリオールを使用することが好ましい。
【0059】
前記アニオン性基含有ポリオールとしては、例えばカルボキシル基含有ポリオールや、スルホン酸基含有ポリオールを使用することができる。
【0060】
前記カルボキシル基含有ポリオールとしては、例えば2,2’−ジメチロールプロピオン酸、2,2’−ジメチロールブタン酸、2,2’−ジメチロール酪酸、2,2’−ジメチロール吉草酸等を使用することができ、なかでも2,2’−ジメチロールプロピオン酸を使用することが好ましい。また、前記カルボキシル基含有ポリオールと各種ポリカルボン酸とを反応させて得られるカルボキシル基含有ポリエステルポリオールも使用することもできる。
【0061】
前記スルホン酸基含有ポリオールとしては、例えば5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸、5[4−スルホフェノキシ]イソフタル酸等のジカルボン酸、及びそれらの塩と、前記低分子量ポリオールとを反応させて得られるポリエステルポリオールを使用することができる。
【0062】
前記カルボキシル基含有ポリオールやスルホン酸基含有ポリオールは、前記ポリウレタン(C)の酸価が10〜70となる範囲で使用することが好ましく、10〜60となる範囲で使用することがより好ましく、20〜60が特に好ましい。なお、本発明で言う酸価は、前記ポリウレタン(C)の製造に使用したカルボキシル基含有ポリオール等の酸基含有化合物の使用量に基づいて算出した理論値である。
【0063】
前記アニオン性基は、それらの一部または全部が塩基性化合物等によって中和されていることが、良好な水分散性を発現するうえで好ましい。
【0064】
前記アニオン性基を中和する際に使用可能な塩基性化合物としては、例えばアンモニア、トリエチルアミン、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等の沸点が200℃以上の有機アミンや、NaOH、KOH、LiOH等を含む金属水酸化物等を使用することができる。前記塩基性化合物は、得られるコーティング剤の水分散安定性を向上させる観点から、塩基性化合物/アニオン性基=0.5〜3.0(モル比)となる範囲で使用することが好ましく、0.9〜2.0(モル比)となる範囲で使用することがより好ましい。
【0065】
また、前記カチオン性基含有ポリオールとしては、例えば3級アミノ基含有ポリオールを使用することができ、具体的にはN−メチル−ジエタノールアミンや、1分子中にエポキシを2個有する化合物と2級アミンとを反応させて得られるポリオールなどを使用することができる。
【0066】
前記カチオン性基は、その一部または全部が、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グルタル酸、酒石酸、アジピン酸等の酸性化合物で中和されていることが好ましい。
【0067】
また、前記カチオン性基としての3級アミノ基は、その一部または全部が4級化されていることが好ましい。前記4級化剤としては、例えばジメチル硫酸、ジエチル硫酸、メチルクロライド、エチルクロライド等を使用することができ、ジメチル硫酸を使用することが好ましい。
【0068】
また、前記ノニオン性基含有ポリオールとしては、エチレンオキサイド由来の構造単位を有するポリアルキレングリコール等を使用することができる。
【0069】
前記親水性基含有ポリオール(a3−1)は、前記ポリウレタン(C)の製造に使用する原料の合計質量に対して、1質量%〜45質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0070】
また、前記工程(1)で使用するポリイソシアネート(B)としては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、クルードジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネートあるいは脂環式構造を有するポリイソシアネートを使用することができる。なかでも、黄変色を防止する観点では脂肪族ポリイソシアネートを使用することが好ましく、前記変色防止とともに、耐擦過性や耐アルカリ性のより一層の向上を図る観点では、脂肪族環式構造含有ポリイソシアネートを使用することが好ましい。
【0071】
また、前記ポリウレタン(C)の製造工程(1)で使用する有機溶剤(F)としては、例えばアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、テトラヒドラフランに代表される水系媒体より低沸点である溶剤を、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類を使用することが、インクジェット印刷インク用バインダーの製造工程における凝集等を防止し、安定して製造を行うことができるため好ましい。
【0072】
また、前記有機溶剤(F)としては、前記水系媒体より低沸点の溶剤のほかに、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等のモノアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のポリオール化合物、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類等のより親水性の高い有機溶剤を、本発明の効果を損なわない範囲で併用することができる。前記親水性の高い有機溶剤は、前記工程(3)の前後で使用することが好ましい。
【0073】
また、前記ポリウレタン(C)としては、耐擦過性に優れた印刷画像を形成可能なインクジェット印刷用インクを得る観点から、ウレア結合を有するものを使用することが好ましい。前記耐擦過性は、印刷画像表面に摩擦等の外力が加わった場合に生じうる顔料等の欠落に起因した印刷画像の劣化等を防止可能な特性を指す。
【0074】
前記ウレア結合を有するポリウレタン(C)は、例えば、前記ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とを有機溶剤(F)中または無溶剤下で反応させ、必要に応じ有機溶剤(F)を供給することによって分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(C−1)の有機溶剤(F)溶液を製造し、次いで該有機溶剤(F)溶液とアミノ基含有化合物とを混合し、前記ウレタンプレポリマー(C−1)が有するイソシアネート基とアミノ基含有化合物とを反応させることによって製造することができる。
【0075】
前記アミノ基含有化合物としては、例えばエチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジソプロパノールアミン等の活性水素を1つ以上有するモノアミンを使用することができる。
【0076】
前記ポリウレタン(C)としては、3000〜200000の重量平均分子量を有するものを使用することが好ましく、10000〜80000の重量平均分子量を有するものを使用することがより好ましく、20000〜65000の重量平均分子量を有するものを使用することが、インクジェット印刷用インクの非常に優れた吐出安定性及び非常に優れた配合安定性を両立できるため好ましい。また、本発明で得られるインクジェット印刷用インクに優れた耐擦過性を付与する場合には、前記ポリウレタン(C)としては、重量平均分子量50000超えて200000以下の高分子量体を使用することもできる。
【0077】
前記高分子量のポリウレタン(C)を製造する場合には、必要に応じて鎖伸長剤を使用することができる。具体的には、前記ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とを10℃〜60℃に調整した有機溶剤(F)中に一括または逐次供給し、10℃〜60℃で0.1時間〜5.0時間程度反応させることによってウレタンプレポリマー(C−1)の有機溶剤(F)溶液を製造し、次いで、前記有機溶剤(F)溶液と鎖伸長剤とを混合し反応させる方法が挙げられる。
【0078】
また、前記ポリウレタン(C)を製造する際に使用できる鎖伸長剤としては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等のジアミン類;N−ヒドロキシメチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシプロピルアミノプロピルアミン、N−エチルアミノエチルアミン、N−メチルアミノプロピルアミン等の1個の1級アミノ基と1個の2級アミノ基を含有するジアミン類;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミン類;ヒドラジン、N,N’−ジメチルヒドラジン、1,6−ヘキサメチレンビスヒドラジン等のヒドラジン類;コハク酸ジヒドラジッド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のジヒドラジド類;β−セミカルバジドプロピオン酸ヒドラジド、3−セミカルバジッド−プロピル−カルバジン酸エステル、セミカルバジッド−3−セミカルバジドメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン等のセミカルバジド類等のポリアミン、エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等のグリコール類;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等のフェノール類、及び水等を使用することができる。
【0079】
前記鎖伸長剤を使用する場合には、例えば前記ポリアミンが有するアミノ基と、前記ウレタンプレポリマーが有するイソシアネート基との当量比[アミノ基/イソシアネート基]が、1.9以下(当量比)となる範囲で使用することが好ましく、0.3〜1.0(当量比)の範囲で使用することがより好ましい。
【0080】
前記工程(1)で得られたポリウレタン(C)の有機溶剤(F)溶液[I]は、該溶液[I]の全量に対して、前記ポリウレタン(C)を15質量%〜85質量%含むものであることが好ましい。
【0081】
次に、本発明のインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法を構成する前記工程(2)について説明する。
前記工程(2)は、前記工程(1)で得られたポリウレタン(C)の有機溶剤(F)溶液[I]と、前記アセチレン化合物(D)と前記水系媒体(E)と、必要に応じてその他の添加剤とを混合することによって、前記ポリウレタン(C)を含む混合物[II]を製造する工程である。
【0082】
本発明の製造方法では、後述する工程(3)を開始する前に、予め前記有機溶剤(F)溶液[I]とアセチレン化合物(D)と水系媒体(E)とを混合し、混合物[II]を製造する工程(2)を経ることが重要である。これにより、インクジェットプリンターを構成するインク吐出ノズルの経時的な詰まりや吐出方向の異常を引き起こすことなく、長期間にわたるインクの吐出安定性と、インクジェット印刷用インクの配合安定性とを備えたインクジェット印刷用インクの製造に使用可能なインクジェット印刷インク用バインダーを得ることができる。
ここで、前記アセチレン化合物(D)を前記工程(2)で使用せず、その全量を、従来技術のように、インクジェット印刷インク用バインダーと顔料等とを混合しインクを製造する際に混合、使用して得られたインクジェット印刷用インクは、本願発明の製造方法で得られたインクジェット印刷インク用バインダーを用いて得られたインクジェット印刷用インクと比較して、長期間の保存によって分離を引き起こしたり、長期間の印刷によってインク吐出ノズルの詰まりやインク吐出方向の異常を引き起こす場合がある。
【0083】
したがって、本願発明では、前記工程(2)においてアセチレン化合物(D)を使用することが必須である。但し、本願発明は、従来技術のように、アセチレン化合物を、インクジェット印刷インク用バインダーと顔料等とを混合、配合しインクを製造する際に使用することを排除するものではない。
【0084】
前記ポリウレタン(C)の有機溶剤(F)溶液[I]とアセチレン化合物(D)と水系媒体(E)とを混合する方法としては、20℃〜80℃の条件下、それらを一括または逐次供給し混合する方法等が挙げられる。
【0085】
なかでも、20℃〜80℃の条件下で、前記溶液[I]と前記水系媒体(E)とを混合し、攪拌することによって、前記ポリウレタン(C)と有機溶剤(F)と水系媒体(E)との混合物[II’]を製造し、次いで、該混合物[II’]と前記アセチレン化合物(D)とを混合することによって前記混合物[II]を製造する方法が、ポリウレタン(C)とアセチレン化合物(D)と水系媒体(E)等との相溶性が増し、インクジェット印刷インク用バインダーの安定性やその生産効率を向上できるため好ましい。前記アセチレン化合物(D)の前記混合物[II’]への供給は、一括または逐次供給のいずれでも良い。
【0086】
前記混合方法を採用する場合には、前記工程(2)を開始する前に、前記溶液[I]中のポリウレタン(C)が有する親水基の一部または全部を、塩基性化合物等を用いて予め中和することが、前記ポリウレタン(C)の前記水系媒体(E)中における良好な分散安定性を維持するうえで好ましい。なお、前記親水性基の中和は必ずしも必須ではなく、また、前記ポリウレタン(C)の製造に使用可能な前記親水性基含有ポリオール(a3−1)の一部または全部が予め中和され、例えばカルボキシレート基やスルホネート基を有するものである場合には、前記工程(2)の開始前に、再度、中和の工程を経る必要はない。
【0087】
前記工程(2)及び必要に応じて工程(3)で使用する前記アセチレン化合物(D)は、前記ポリウレタン(C)100質量部に対して0.001質量部〜0.5質量部の範囲で使用することが好ましく、0.005質量部〜0.1質量部の範囲であることが、インクの優れた吐出安定性と保存安定性とを維持するうえでより好ましい。
【0088】
本発明では、前記アセチレン化合物(D)の全量を、工程(2)で使用してもよいが、必須ではない。具体的には、前記アセチレン化合物(D)の好ましくは60質量%〜100質量%、より好ましくは60質量%〜90質量%を、前記有機溶剤(F)溶液[I]と前記水系媒体(E)等と混合し、好ましくは残りの40質量%〜0質量%、より好ましくは40〜10質量%のアセチレン化合物を、後述する工程(3)で使用することが、製造過程における泡の発生を抑制し、インクジェット印刷インク用バインダーの生産効率を向上するうえで好ましい。
【0089】
前記アセチレン化合物(D)としては、例えばアセチレンモノアルコールやアセチレングリコール等を単独または併用して使用することができる。
前記アセチレンモノアルコールは、アセチレン基と1個の水酸基を有する化合物であって、例えば下記一般式(3)で示される構造を有する化合物を使用することができる。
前記アセチレングリコールは、アセチレン基と2個の水酸基を有する化合物であって、例えば下記一般式(1)や(2)で示される化合物を使用することができる。
前記したなかでも、アセチレングリコールを使用することが、インクの優れた配合安定性、及びインクの優れた吐出安定性を長期間維持できるため好ましい。
【0090】
【化1】

(一般式(1)中のR及びRは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基である。R及びRは、それぞれ独立してメチル基またはエチル基である。)
【0091】
【化2】

(一般式(2)中のR及びRは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基である。R及びRは、それぞれ独立してメチル基またはエチル基である。m及びnは、1〜60の整数である。)
【0092】
【化3】

(一般式(3)中のR及びRは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基である。)
【0093】
前記アセチレン化合物(D)としては、具体的には、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールおよび2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオール、2,4,4,7,9−ペンタメチル−5−デシン−7−オールや、それらのアルキレンオキサイド付加物を使用することができる。
【0094】
前記アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドや、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイド等との共重合体が挙げられるが、エチレンオキサイドであることが好ましい。
【0095】
また、前記アセチレン化合物(D)としては、前記一般式(1)で表されるアセチレングリコールを含むものとして市販されるサーフィノール104シリーズや、前記一般式(2)で表されるアセチレングリコールを含むものとして市販されるサーフィノール400シリーズ、前記一般式(3)で表されるアセチレンモノアルコールを含むものとして市販されるサーフィノール500シリーズ(いずれもエアープロダクツ社製)を使用することができ、なかでも前記サーフィノール104シリーズやサーフィノール400シリーズ、及びそれらを溶剤等で希釈したものを使用することが好ましい。
【0096】
また、前記水系媒体(E)としては、水や、水及びそれと混和する有機溶剤の混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−及びイソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル類;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム類、等が挙げられる。本発明では、環境に対する負荷を低減する観点から、水のみを使用することが特に好ましい。
【0097】
前記水系媒体(E)は、前記工程(2)において、前記ポリウレタン(C)の全量に対して100質量%〜700質量%の範囲となるよう使用することが好ましく、300質量%〜500質量%の範囲で使用することがより好ましい。
【0098】
次に、本発明のインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法を構成する前記工程(3)について説明する。
前記工程(3)は、前記工程(1)及び(2)を経ることで得られた前記混合物[II]中に含まれる有機溶剤(F)の一部または全部を除去する工程である。
【0099】
前記有機溶剤(F)が多量に残留したインクジェット印刷インク用バインダーを用いて得られたインクジェット印刷用インクは、VOC規制や環境調和型製品を提供するうえで好ましくない。したがって、本工程(3)により、混合物[II]中に含まれる有機溶剤(F)の好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上、特に好ましくは有機溶剤(F)の全てを除去することによって、ポリウレタン(C)が水系媒体(E)中に安定して分散または溶解した組成物からなるインクジェット印刷インク用バインダーを製造することが好ましい。
【0100】
前記有機溶剤(F)の除去方法としては、例えば蒸留法や還流法等が挙げられる。なかでも、蒸留法を採用することが好ましく、減圧下で蒸留を行う減圧蒸留法を採用することが、インクジェット印刷インク用バインダー中の有機溶剤(F)を効率よく除去するうえで好ましい。
【0101】
前記減圧蒸留法は、例えば、反応容器中の前記混合物[II]を、常圧(100kPa)に対して1KPa〜50KPaの範囲で、0.5時間〜5.0時間かけて減圧し、その後、前記と同様の減圧条件下で3時間〜30時間程度蒸留を実施する。前記減圧蒸留途中における前記混合物[II]中の有機溶剤(F)の量は、流量計により適宜確認することができる。
【0102】
前記蒸留法によって有機溶剤(F)を除去する場合には、通常、有機溶剤(F)の沸点が水系媒体(E)の沸点よりも低いため、蒸留によって有機溶剤(F)が優先的に除去されるが、水系媒体(E)の一部も併せて除去される。
【0103】
本発明では、前記混合物[II]中に含まれる有機溶剤(F)の全質量の50質量%〜300質量%と同質量の水系媒体(E)が、前記混合物[II]中から除去されるまで蒸留を継続することが好ましく、50質量%〜150質量%と同質量の水系媒体(E)が、前記混合物[II]中から除去されるまで蒸留を継続することが好ましい。
【0104】
具体的には、前記混合物[II]中に有機溶剤(F)が10質量部含まれていた場合、その50質量%〜300質量%である5質量部〜30質量部の水系媒体(E)が、混合物[II]中から除去されるまで蒸留を継続することが好ましい。
これにより、前記混合物[II]中に含まれる有機溶剤(F)を、より好ましくは99質量%以上を、特に好ましくは実質的に全て除去することが可能となる。
【0105】
また、本工程(3)では、前記工程(2)と同様にアセチレン化合物(D)を使用してもよい。具体的には、工程(3)を開始する前の工程(2)でアセチレン化合物(D)の全量を使用せず、その全量の好ましくは60質量%〜90質量%、より好ましくは60質量%〜85質量%を使用し、残りの40質量%〜10質量%のアセチレン化合物(D)を、本工程(3)で使用することができる。
【0106】
前記残りの40質量%〜10質量%のアセチレン化合物(D)は、本工程(3)の過程であればいずれの時期に使用しても良いが、前記混合物[II]中に含まれる有機溶剤(F)の全量の80質量%以上が前記混合物[II]から除去された後、前記混合物[II]中に含まれる前記有機溶剤(F)の全量の10質量%と同質量の水系媒体(E)が除去されるまでの間に、供給し混合することが好ましい。
【0107】
具体的には、前記混合物[II]中に有機溶剤(F)が10質量部含まれていた場合、その80質量%に相当する8質量部以上の有機溶剤(F)が混合物[II]から除去された後に、前記アセチレン化合物(D)を供給することが好ましい。また、前記供給は、前記有機溶剤(F)の全量の10質量%に相当する1重量部の水系媒体(E)が、前記混合物[II]から除去されるまでに行うことが好ましい。これにより、インクジェット印刷インク用バインダーの製造途中に生じうる発泡を抑制し、その生産効率を向上することが可能となる。前記アセチレン化合物(D)の前記混合物[II]への供給は、一括または逐次供給のいずれでも良い。
【0108】
なお、本工程(3)で前記アセチレン化合物(D)を供給する場合であっても、最終的に得られるインクジェット印刷インク用バインダーの全量中に含まれる前記アセチレン化合物(D)の量は、前記したとおり、前記ポリウレタン(C)100質量部に対して0.001質量部〜0.5質量部の範囲であることが好ましく、0.005質量部〜0.1質量部の範囲であることがより好ましい。
【0109】
前記工程(1)〜(3)によって得られたインクジェット印刷インク用バインダーは、優れたインク吐出安定性と配合安定性とを維持する観点から、好ましくは10nm〜350nm程度の平均粒子径を有するポリウレタン(C)が、前記水系媒体(E)中に安定して分散または溶解したものであることが好ましい。
【0110】
前記で得られたポリウレタン(C)は、主鎖としてのポリウレタン構造の側鎖に、ビニル重合体構造がグラフトしたものである。具体的には、前記ポリウレタン(C)としては、片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)と、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオール(a2)とを含有するポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、ならびに、必要に応じて鎖伸長剤を反応させて得られるものを使用する。
【0111】
ここで、前記ポリウレタン(C)の代わりに、前記ビニル重合体(a1)由来のビニル重合体構造を側鎖に有さないポリウレタンを使用して得たインクジェット印刷用インクでは、耐アルカリ性や耐水性等の耐久性に優れた印刷物を形成できない場合がある。
【0112】
また、前記ポリウレタン(C)の代わりに、主鎖中にビニル重合体構造を有するポリウレタンを使用して得たインクジェット印刷用インクでは、インクの吐出安定性の著しい低下を引き起こす場合がある。
【0113】
したがって、耐アルカリ性等の耐久性と、優れたインクの吐出安定性とを両立するためには、前記ビニル重合体(a1)由来の構造を側鎖に有するポリウレタン(C)を使用することが重要であり、前記ポリウレタン(C)は、前記ポリウレタン(C)の全量に対して前記ビニル重合体(a1)由来の構造を1質量%〜70質量%含むものを使用することが好ましく、5質量%〜50質量%含むものを使用することが、耐アルカリ性や耐水性等の耐久性を付与するうえでより好ましい。
【0114】
また、前記ポリウレタン(C)としては、インクの良好な吐出安定性を維持する観点から10000〜150000の範囲の重量平均分子量を有するものを使用することが好ましく、10000〜50000のものを使用することがより好ましい。
【0115】
また、前記ポリウレタン(C)は、水系媒体(E)中に分散した状態で存在しうるものであることが好ましい。前記ポリウレタン(C)を水系媒体(E)中に分散する方法としては、界面活性剤を使用する方法や、前記ポリウレタン(C)として親水性基を有するものを使用する方法が挙げられる。
【0116】
前記親水性基は、例えば前記親水性基含有ポリオール(a3−1)を使用することによってポリウレタン(C)中に導入することができ、例えばアニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基を使用できる。なかでもアニオン性基及びカチオン性基のいずれか一方または両方を組み合わせ使用することがより好ましく、アニオン性基を使用することが特に好ましい。
【0117】
前記アニオン性基としては、例えばカルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基等を使用することができ、なかでも、前記カルボキシル基やスルホン酸基の一部または全部が塩基性化合物等によって中和されたカルボキシレート基やスルホネート基を使用することが、良好な水分散安定性を付与するうえで好ましい。また、前記カチオン性基としては、例えば3級アミノ基等を使用することができる。また、前記ノニオン性基としては、ポリオキシエチレン構造等が挙げられる。
【0118】
前記親水性基は、前記ポリウレタン(C)全体に対して15mmol/kg〜2000mmol/kgの範囲で存在することが好ましく、15mmol/kg〜1500mmol/kgの範囲であることが良好な保存安定性や吐出安定性を備えたインクジェット印刷インク用バインダーを得るうえでより好ましい。
【0119】
また、本発明は、単に、前記ビニル重合体(a1)由来のビニル重合体構造を側鎖に有するポリウレタンを使用すれば、耐擦過性や耐久性に優れた印刷画像を形成可能なインクジェット印刷用インクが得られるものではなく、前記ビニル重合体構造からなる側鎖とともに、前記ポリウレタン(C)の主鎖中にポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオール(a2)由来の構造を有することが重要である。かかる特定構造を組み合わせることによって、はじめて、前記課題を解決可能なインクジェット印刷インク用バインダーを得ることが可能となる。
前記ポリオール(a2)由来の構造としては、具体的にはポリエーテル構造、ポリエステル構造、ポリエーテルエステル構造、ポリカーボネート構造が挙げられる。
【0120】
ここで、前記ポリウレタン(C)の代わりに、前記ポリオール(a2)由来の構造を有さないポリウレタンを使用したインクジェット印刷インク用バインダーでは、耐擦過性に優れた印刷物を形成できない場合がある。
【0121】
前記ポリオール(a2)由来の構造は、前記ポリウレタン(C)の全量に対して5質量%〜80質量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0122】
また、前記ポリウレタン(C)は、良好な保存安定性と吐出安定性とを維持する観点から、10nm〜1000nmの範囲の平均粒子径を有するものであることが好ましく、10nm〜300nmの平均粒子径を有するものであることがより好ましい。なお、前記平均粒子径は、後述する実施例でも述べるが、動的光散乱法により測定した体積基準での平均粒子径を指す。
【0123】
また、前記ポリウレタン(C)としては、良好な保存安定性や吐出安定性を保持する観点から1mgKOH/g〜50mgKOH/gの酸価を有するものを使用することが好ましい。とりわけ、良好な保存安定性や吐出安定性を保持し、かつ耐アルカリ性を向上する観点から、1mgKOH/g〜35mgKOH/gの酸価を有するものを使用することがより好ましい。なお、前記酸価は、ポリウレタン(C)が有する酸基に由来するものであることが好ましい。
【0124】
また、前記インクジェット印刷インク用バインダーは、前記ポリウレタン(C)を、前記インクジェット印刷インク用バインダーの全量に対して5質量%〜40質量%含むことが好ましく、10質量%〜30質量%含むことが好ましい。また、前記インクジェット印刷インク用バインダーは、前記水系媒体(E)を、前記インクジェット印刷インク用バインダーの全量に対して60質量%〜95質量%含むものであることが好ましく、70質量%〜90質量%含むものであることがより好ましい。
【0125】
次に、本発明のインクジェット印刷用インクについて説明する。
本発明の製造方法によって得られたインクジェット印刷インク用バインダーは、インクの吐出安定性や配合安定性に優れたインクジェット印刷用インクの製造に使用することができる。
【0126】
本発明のインクジェット印刷用インクは、前記インクジェット印刷インク用バインダーの他に、顔料や染料、その他必要に応じて各種の添加剤を含有するものである。
【0127】
前記顔料としては、公知慣用の無機顔料や有機顔料を使用することができる。
前記無機顔料としては、例えば酸化チタン、アンチモンレッド、ベンガラ、カドミウムレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛等を使用することができる。
【0128】
前記有機顔料としては、例えば、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、アゾ系顔料等の有機顔料を使用することができる。
【0129】
これらの顔料は2種類以上のものを併用することができる。また、これらの顔料が表面処理されており,水系媒体に対して自己分散能を有しているものであっても良い。
【0130】
また、前記染料としては、例えばモノアゾ・ジスアゾ等のアゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノイミン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ペリノン染料、フタロシアニン染料、トリアリルメタン系等を使用することができる。
【0131】
また、前記添加剤としては、例えば高分子分散剤や粘度調整剤、湿潤剤、消泡剤、界面活性剤、防腐剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤をはじめ、従来のインクジェット印刷用インクのバインダーに使用されていたアクリル樹脂等を使用することができる。
【0132】
前記高分子分散剤としては、例えばアクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂等を使用することができ、それらはランダム型、ブロック型、グラフト型のいずれのものも使用することができる。前記高分子分散剤を使用する際には、高分子分散剤を中和するために酸または塩基を併用しても良い。
【0133】
本発明のインクジェット印刷用インクを製造する際には、従来技術と同様に、インクバインダーと顔料または染料などとを混合しインクを配合する段階において、前記添加剤としてアセチレン化合物等の界面活性剤を使用してもよい。但し、前記アセチレン化合物は、インクの良好な吐出安定性や配合安定性等を維持する観点から、前記工程(2)の段階で使用することが必須である。
【0134】
前記インクジェット印刷用インクは、例えば以下の製造方法によって調製することができる。
【0135】
(V)前記顔料または染料と前記水系媒体と前記インクジェットインク用バインダーと必要に応じて前記添加剤とを、各種の分散装置を用いて一括して混合しインクを調製する方法。
【0136】
(W)前記顔料または染料と前記水系媒体と必要に応じて前記添加物とを、各種の分散装置を用いて混合することで顔料または染料の水系分散体からなるインク前駆体を調製し、次いで、前記顔料または染料の水系分散体からなるインク前駆体と前記インクジェット印刷インク用バインダーと、必要に応じて水系媒体と添加物とを、各種の分散装置を用いて混合しインクを調製する方法。
【0137】
上記(W)に記載したインクの製造方法で使用可能な顔料を含むインク前駆体は、例えば以下の方法によって調製することができる。
(w1)顔料及び高分子分散剤等の添加剤を2本ロールやミキサー等を用いて予備混練して得られた混練物と、水系媒体とを各種の分散装置を用いて混合することによって顔料を含む水系分散体からなるインク前駆体を調製する方法。
(w2)顔料と高分子分散剤を各種の分散装置を用いて混合した後、前記高分子分散剤の溶解性をコントロールすることによって該高分子分散剤を前記顔料の表面に堆積させ、更に分散装置を用いてそれらを混合することで顔料を含む水系分散体からなるインク前駆体を調製する方法。
(w3)顔料と前記添加物とを各種の分散装置を用いて混合し、次いで前記混合物と樹脂エマルジョンとを分散装置を用いて混合することによって顔料を含む水系分散体からなるインク前駆体を調製する方法。
【0138】
前記インクジェット印刷用インクの製造に使用可能な分散装置としては、例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザーなどを、単独または、2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0139】
前記方法で得られたインクジェット印刷用インク中には、概ね250nm以上の粒子径を有する粗大粒子が存在する場合がある。前記粗大粒子は、プリンターノズルの詰まり等を引き起こし、インク吐出特性を劣化させる場合があるため、前記顔料の水系分散体の調製後、またはインクの調製後に遠心分離又は濾過処理等の方法によって、粗大粒子を除去することが好ましい。
【0140】
前記で得たインクジェット印刷用インクは、200nm以下の体積平均粒子径を有するものを使用することが好ましく、特に写真画質のようにより一層高光沢の画像を形成する場合には、80nm〜120nmの範囲であることがより好ましい。
【0141】
また、前記インクジェット印刷用インクは、保存安定性やインク吐出性を低下させない範囲で、必要に応じて硬化剤や硬化触媒を併用しても良い。
【0142】
前記硬化剤としては、例えばシラノール基及び/または加水分解性シリル基を有する化合物、ポリエポキシ化合物、ポリオキサゾリン化合物、ポリイソシアネート等を使用することができ、前記硬化触媒としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸カリウム等を使用することができる。
【0143】
また、前記インクジェット印刷用インクは、インクジェット印刷用インク全体に対して、前記ポリウレタン(C)を0.1質量%〜10質量%含有することが、該インクによって形成される印刷画像の速乾性と耐久性とを両立するうえで好ましく、更に水系媒体(E)を50質量%〜95質量%、顔料を0.5質量%〜15質量%含有することが好ましい。
【0144】
前記方法で得られた本発明のインクジェット印刷用インクは、もっぱらインクジェットプリンターを用いたインクジェット印刷に使用することができ、例えば紙やプラスチックフィルム、金属フィルムまたはシート等の基材に対するインクジェット印刷に使用することができる。本発明のインクジェット印刷用インクであれば、前記基材表面に、鮮明な文字や写真画像を形成することができる。
【0145】
また、本発明のインクジェット印刷用インクは、前記文字や写真等を形成するだけでなく、透明プラスチック基材上に印刷することで液晶ディスプレイに使用するカラーフィルターの製造にも使用することができる。
【0146】
前記方法で得られた本発明のインクジェット印刷用インクは、もっぱらインクジェットプリンターを用いたインクジェット印刷に使用することができ、例えば紙やプラスチックフィルム、金属フィルムまたはシート等の基材に対するインクジェット印刷に使用することができる。インクジェットの方式は特に限定するものではないが、連続噴射型(荷電制御型、スプレー型など)、オンデマンド型(ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式など)などの公知の方式を適用することができる。
【0147】
本発明のインクジェット印刷用インクを用いて印刷された印刷物は、優れた耐擦過性を有することから顔料等の欠落に起因した印刷画像の劣化等を引き起こしにくく、また優れた耐アルカリ性を有することから、アルカリ性洗浄剤等の印刷画像表面への付着によるにじみ等の発生を防止でき、かつ高発色濃度の画像を有するものであるから、例えばインクジェット印刷による写真印刷や、インクジェット印刷による高速印刷によって得られた印刷物など様々な用途に使用することができる。
【実施例】
【0148】
以下、本発明を実施例と比較例により、一層、具体的に説明する。
【0149】
[調製例1]片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1−1)の調製
温度計、攪拌装置、還流冷却管及び窒素導入管を備えた4ッ口フラスコに、メチルエチルケトン 700質量部を仕込み、次いで前記反応容器中にメチル(メタ)アクリレート 291質量部と3−メルカプト−1,2−プロパンジオール 8.7質量部と2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル) 0.15質量部を供給し、反応させることによって、数平均分子量3000の片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1−1)の溶剤溶液を得た。
【0150】
[実施例1]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、前記調製例1で得たビニル重合体(a1−1)の溶剤溶液285.7質量部と、ポリオキシテトラメチレングリコール(数平均分子量2000)92.9質量部、2,2―ジメチロールプロピオン酸34.8質量部及びイソホロンジイソシアネート 72.3質量部を、有機溶剤としてのメチルエチルケトン 85.7質量部の存在下、80℃で10時間反応させたあと、重量平均分子量が10000から40000のポリウレタンの有機溶剤溶液を得た。
【0151】
前記ポリウレタンの有機溶剤溶液に48質量%水酸化カリウム水溶液29.8質量部を加えることによって、前記ポリウレタンが有するカルボキシル基の一部または全部を中和し、次いで水970.1質量部を加え十分に攪拌することによって、ポリウレタンとメチルエチルケトンと水とを含み、前記ポリウレタンが前記水中に分散又は溶解した混合物(II’−1)を得た。
【0152】
次いで、前記混合物(II’−1)を約2時間エージングした後、前記混合物(II’−1)中にサーフィノール440(エアープロダクツ社製、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、不揮発分100質量%)0.100質量部を加え、約20分攪拌することにより混合物(II−1)を得、該混合物(II−1)を約1kPa〜50kPaの減圧条件下で蒸留した。
【0153】
前記混合物(II−1)中に含まれるメチルエチルケトンの285.7質量部を除去したことを確認した後、減圧下でサーフィノール440(エアープロダクツ社製)0.043質量部を追加し、減圧蒸留を継続した。次いで、前記混合物(II−1)中に含まれる水の285.7質量部を脱水したことを確認し、前記減圧蒸留を終了した。
次いで、水を加えることによって不揮発分を調整することにより、不揮発分25質量%のインクジェット印刷インク用バインダー(III−1)1000質量部を得た。
【0154】
[実施例2]
前記実施例1で得た混合物(II’−1)を、約2時間エージングした後、前記混合物(II’−1)中にサーフィノール440(エアープロダクツ社製)0.100質量部を加え、約20分攪拌することにより混合物(II−2)を得、該混合物(II−2)を約1〜50kPaの減圧条件下で蒸留した。
【0155】
前記混合物(II−2)中に含まれるメチルエチルケトンの285.7質量部を除去したことを確認した後、減圧下でサーフィノール440(エアープロダクツ社製)0.043質量部を追加し、減圧蒸留を継続した。次いで、前記混合物(II−2)中に含まれる水の171.4質量部を脱水したことを確認し、前記減圧蒸留を終了した。
【0156】
次いで、水を加えることによって不揮発分を調整することにより、不揮発分25質量%のインクジェット印刷インク用バインダー(III−2)1000質量部を得た。
【0157】
[実施例3]
前記実施例1で得た混合物(II’−1)を、約2時間エージングした後、前記混合物(II’−1)中にサーフィノール440(エアープロダクツ社製)0.043質量部を加え、約20分攪拌することにより混合物(II−3)を得、該混合物(II−3)を約1〜50kPaの減圧条件下で蒸留した。
【0158】
前記混合物(II−3)中に含まれるメチルエチルケトンの285.7質量部を除去したことを確認した後、減圧下でサーフィノール440(エアープロダクツ社製)0.100質量部を追加し、減圧蒸留を継続した。次いで、前記混合物(II−3)中に含まれる水の285.7質量部を脱水したことを確認し、前記減圧蒸留を終了した。
【0159】
次いで、水を加えることによって不揮発分を調整することにより、不揮発分25質量%のインクジェット印刷インク用バインダー(III−3)1000質量部を得た。
【0160】
[実施例4]
前記実施例1で得た混合物(II’−1)を、約2時間エージングした後、前記混合物(II’−1)中にサーフィノール440(エアープロダクツ社製)0.143質量部を加え、約20分攪拌することにより混合物(II−4)を得、該混合物(II−4)を約1〜50kPaの減圧条件下で蒸留した。
【0161】
前記混合物(II−4)中に含まれるメチルエチルケトンの285.7質量部と、前記混合物(II−4)中に含まれる水の285.7質量部とを除去したことを確認し、前記減圧蒸留を終了した。
【0162】
次いで、水を加えることによって不揮発分を調整することにより、不揮発分25質量%のインクジェット印刷インク用バインダー(III−4)1000質量部を得た。
【0163】
[比較例1]
温度計、窒素ガス導入管及び攪拌機を備えた窒素置換された容器中にメチルエチルケトン64.1質量部を加え、該メチルエチルケトン中で、2,2−ジメチロールプロピオン酸18.4質量部及びイソホロンジイソシアネート33.9質量部を混合し、80℃で4時間反応させた。4時間後、メチルエチルケトンを更に38.2質量部を供給し、60℃以下に冷却した後、ポリエーテルポリオール(「PTMG2000」三菱化学株式会社製のポリテトラメチレングリコール、数平均分子量1000)140.1質量部を80℃で反応を継続させた。
反応物の重量平均分子量が20000から50000の範囲に達したことを確認した後、メタノール1.3質量部を投入することによって反応を終了した。次いで、メチルエチルケトン41.6質量部を追加することによってウレタン樹脂の有機溶剤溶液を得た。
【0164】
前記ウレタン樹脂の有機溶剤溶液に50質量%水酸化カリウム水溶液15.1質量部を加えることによって、前記ウレタン樹脂が有するカルボキシル基の一部または全部を中和し、次いで水848.5質量部を加え十分に攪拌することによって、ウレタン樹脂とメチルエチルケトンと水とを含み、前記ウレタン樹脂が前記水中に分散又は溶解した混合物(II’−1)を得た。
次いで、混合物(II’−1)を約2時間エージングした後、約20分攪拌し、該混合物(II’−1)を約1〜50kPaの減圧条件下で蒸留した。
前記混合物(II’−1)中に含まれるメチルエチルケトンの144質量部と、前記混合物(II’−1)中に含まれる水の147質量部とを除去したことを確認し、前記減圧蒸留を終了した。
次いで、水を加えることによって不揮発分を調整することにより、不揮発分25質量%のインクジェット印刷インク用バインダー(III’−1)1000質量部を得た。
【0165】
[比較例2]
前記混合物(II’−2)を約2時間エージングした後、前記混合物(II’−2)中にノプコ8034L(サンノプコ製:シリコーン鉱物油系消泡剤)0.100質量部を加え、約20分攪拌することにより混合物(II’−2)を得、該混合物(II’−2)を約1〜50kPaの減圧条件下で蒸留した。
前記混合物(II’−2)中に含まれるメチルエチルケトンの285.7質量部を除去したことを確認した後、減圧下でノプコ8034L(サンノプコ製:シリコーン鉱物油系消泡剤)0.043質量部を追加し、減圧蒸留を継続した。前記混合物(II’−2)中に含まれる水の285.7質量部を除去できたことを確認し、減圧蒸留を終了した。
次いで、水を加えることによって不揮発分を調整することにより、不揮発分25質量%のインクジェット印刷インク用バインダー(III’−2)1000質量部を得た。
【0166】
[残留有機溶剤の測定方法]
前記で得たインクジェット印刷インク用バインダー中の残留しうる溶剤(メチルエチルケトン)の量は、ガスクロマトグラフ(株式会社 島津製作所製の「GC−2014」)を用いて測定した。
【0167】
[生産性の判定基準]
○:残留有機溶剤量が100ppm未満で、かつ減圧蒸留時間が5時間以内であったもの。
△:残留有機溶剤量が100ppm未満または減圧蒸留時間が5時間以内であったもの。
×:残留有機溶剤量が100ppm以上で、かつ、減圧蒸留時間が5時間を越えたもの。
【0168】
【表1】

【0169】
【表2】

【0170】
調製例3(キナクリドン系顔料の水系分散体)
ビニル重合体(スチレン/アクリル酸/メタクリル酸=77/10/13(質量比)であり、重量平均分子量が11000、酸価156mgKOH/g)を1500g、キナクリドン系顔料(クロモフタールジェットマジェンタDMQ、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を4630g、フタルイミドメチル化3,10−ジクロロキナクリドン(1分子あたりの平均フタルイミドメチル基数が1.4)を380g、ジエチレングリコールを2600g、及び34質量%水酸化カリウム水溶液688gを、容量50LのプラネタリーミキサーPLM−V−50V(株式会社井上製作所製)に仕込み、ジャケットを加温し、内容物温度が60℃になるまで低速(自転回転数:21回転/分,公転回転数:14回転/分)で混練を行い、内容物温度が60℃に達した後、高速(自転回転数:35回転/分,公転回転数:24回転/分)に切り替え、4時間、混練を継続した。
【0171】
前記混練物に、2時間で総量8000gの60℃に加温したイオン交換水を加え、不揮発分が37.9質量%の着色樹脂組成物を得た。
【0172】
前記方法で得た着色樹脂組成物の12kgに、ジエチレングリコール744gと、イオン交換水7380gとを少量ずつ添加しながら分散撹拌機で撹拌し、水系顔料分散液の前駆体(分散処理前の水系顔料分散液)を得た。
【0173】
次いで、この水系顔料分散液前駆体の18kgを、ビーズミル(浅田鉄工(株)製ナノミルNM−G2L、ビーズφ;0.3mmのジルコニアビーズ、ビーズ充填量;85%、冷却水温度;10℃、回転数;2660回転/分(ディスク周速:12.5m/sec)、送液量;200g/10秒)を用いて処理し、前記ビーズミルの通過液を13000G×10分の遠心処理した後、有効孔径0.5μmのフィルターにより濾過処理を行うことによってキナクリドン系顔料の水系顔料分散液を得た。この水系顔料分散体中のキナクリドン系顔料濃度は14.9質量%であった。
【0174】
[インクジェット印刷用インクの調製例]
インクジェット印刷用インクの全量に対してキナクリドン系顔料の濃度が4質量%で、かつポリウレタン(C)の濃度が1質量%となるよう、前記実施例1〜4及び比較例1〜2で得たインクジェット印刷インク用バインダー(III−1)〜(III−4)、(III’−1)〜(III’−2)のいずれかと、調製例1で得たキナクリドン系水系顔料分散体と、2−ピロリジノンと、トリエチレングリコールモノブチルエーテルと、グリセリンと、界面活性剤(サーフィノール440、エアープロダクツ社製)とイオン交換水とを、下記配合割合にしたがって混合、攪拌することによって、それぞれインクジェット印刷用インク(IV−1)〜(IV−4)、(IV’−1)〜(IV’−2)を調製した。
【0175】
(インクジェット印刷用顔料インクの配合割合)
・調製例3で得たキナクリドン系水系顔料分散体(顔料濃度14.9質量%);26.8g
・2−ピロリジノン;8.0g
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル;8.0g
・グリセリン;3.0g
・界面活性剤(サーフィノール440、エアープロダクツ社製);0.5g
・イオン交換水;48.7g
・前記実施例1〜4及び比較例1〜2で得たインクジェット印刷インク用バインダー;4.0g
【0176】
〔インクの配合安定性の評価〕
インクの配合安定性は、前記で得たインクジェット印刷用インクの粘度と、該インク中の分散粒子の粒子径に基づいて評価した。
【0177】
[粘度に基づくインクの配合安定性(I)の評価方法]
前記で得たインクジェット印刷用インクの初期粘度を、東機産業(株)製のVISCOMETER TV−22を用いて測定した。次いで、前記インクをスクリュー管等のガラス容器に密栓し、70℃の恒温器で6週間の加熱試験を行った後の前記インクの粘度を、前記と同様の方法で測定した。
前記加熱試験前後のインクの粘度変化を、下記式(I)により算出し評価した。
【0178】
(式I)
[{(加熱試験後のインクの粘度)−(加熱試験前のインクの粘度)}/(加熱試験前のインクの粘度)]×100
【0179】
[判定基準]
○: 粘度の変化の割合が、2%未満
△: 粘度の変化の割合が、2%以上5%未満
×: 粘度の変化の割合が、5%以上
【0180】
[粒子径に基づくインクの配合安定性(II)の評価方法]
前記で得たインクジェット印刷用インク中に含まれる分散粒子の粒子径を、日機装(株)社製のマイクロトラック UPA EX150を用いて測定した。次いで、前記インクをスクリュー管等のガラス容器に密栓し、70℃の恒温器で6週間の加熱試験を行った後の前記インク中に含まれる分散粒子の粒子径を、前記と同様の方法で測定した。
前記加熱試験前後のインク中に含まれる分散粒子の粒子径変化を、下記式(II)により算出し評価した。
【0181】
(式II)
[{(加熱試験後のインク中の分散粒子の粒子径)−(加熱試験前のインク中の分散粒子の粒子径)}/(加熱試験前のインク中の分散粒子の粒子径)]×100
【0182】
[判定基準]
○: 粒子径の変化の割合が、3%未満
△: 粒子径の変化の割合が、3%以上10%未満
×: 粒子径の変化の割合が、10%以上
【0183】
〔インクの吐出安定性の評価〕
前記のインクジェット印刷用インクを黒色インクカートリッジに充填したPhotosmart D5360(ヒューレットパッカード社製)にて、診断ページを印刷しノズルの状態を確認した。1ページあたり18cm×25cmの領域の印字濃度設定100%のベタ印刷を連続で20ページ実施した後、再度診断ページを印刷しノズルの状態を確認した。連続ベタ印刷の前後でのノズルの状態変化をインク吐出安定性として評価した。評価基準を以下に記す。
【0184】
[判定基準]
◎:ノズルの状態に変化がなく、吐出異常が発生していないもの
○:ノズルへの若干のインクの付着が確認されたものの、インクの吐出方向の異常は発生していないもの
△:前記ベタ印刷を連続で20ページ実施した後に、インクの吐出方向の異常やインクの不吐出が生じたもの
×:印刷途中でインクの吐出方向の異常やインクの不吐出が生じ、連続して500ページの印刷を完了できなかったもの
【0185】
【表3】

【0186】
【表4】

【0187】
〔インクジェット印刷用インクの印刷性能評価〕
(耐擦過性)
写真印刷用紙(光沢)[HPアドバンスフォト用紙 ヒューレットパッカード社製]の印刷面に、市販のサーマルジェット方式インクジュットプリンター(Photosmart D5360;ヒューレットパッカード社製)を用い、前記インクを黒色インクカートリッジに充填し、印字濃度設定100%のベタ印刷を行うことで評価用印刷物を得た。
【0188】
前記評価用印刷物を常温下で10分間乾燥した後、該印刷面を、約5kgの荷重をかけて爪で擦過し、該印刷面の色等のこすれ具合を下記評価基準にしたがって目視で評価した。なお、インクの吐出安定性が不十分であるため、前記評価用印刷物が得られず、本評価を行うことができなかったものについては表中に「−」と記した。
【0189】
[判定基準]
A: 印刷面に傷は全くなく、印材の剥離等もみられなかった。
B: 印刷面に若干の傷が発生したものの実用上問題ない程度であり、色材の剥離等もみられなかった。
C: 印刷面に若干の傷が発生し、かつ、色材の剥離等もみられた。
D: 印刷面の約50%以上の範囲で著しい傷が発生し、かつ、色材の剥離等もみられた。
【0190】
[耐薬品性]
(耐アルカリ性)
前記評価用印刷物を常温下で10分間乾燥した後、印刷面に、0.5質量%KOH水溶液をスポイトで3滴滴下し、10秒後に印刷面を指で擦過し、該印刷面の表面状態を目視で評価した。評価基準を以下に記す。なお、インクの吐出安定性が不十分であるため、前記評価用印刷物が得られず、本評価を行うことができなかったものについては表中に「−」と記した。
【0191】
[判定基準]
A: 印刷面に色材等の剥がれは全くみられず、印刷面の変色もみられなかった。
B: 印刷面に色材等の剥がれはみられなかったが、印刷面の変色が僅かに発生した。
C: 印刷面に色材等の若干の剥がれが発生し、かつ、印刷面の変色も発生した。
D: 印刷表面の約50%以上の範囲にわたって色材等の著しい剥がれが発生し、かつ、印刷面の変色も発生した。
【0192】
(耐アルコール性)
前記評価用印刷物を常温下で10分間乾燥した後、印刷面に、5質量%エタノール水溶液をスポイトで3滴滴下し、10秒後に印刷面を指で擦過し、該印刷面の表面状態を目視で評価した。評価基準を以下に記す。なお、インクの吐出安定性が不十分であるため、前記評価用印刷物が得られず、本評価を行うことができなかったものについては表中に「−」と記した。
【0193】
[判定基準]
A: 印刷面に色材等の剥がれは全くみられず、印刷面の変色もみられなかった。
B: 印刷面に色材等の剥がれはみられなかったが、印刷面の変色が僅かに発生した。
C: 印刷面に色材等の若干の剥がれが発生し、かつ、印刷面の変色も発生した。
D: 印刷表面の約50%以上の範囲にわたって色材等の著しい剥がれが発生し、かつ、印刷面の変色も発生した。
【0194】
【表5】

【0195】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)と、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオール(a2)とを含有するポリオール(A)、ならびに、ポリイソシアネート(B)を反応させることによって得られる、側鎖にビニル重合体(a1)由来の構造を有するポリウレタン(C)と、アセチレン化合物(D)と、水系媒体(E)とを含有するインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法であって、前記製造方法が、
片末端に2個の水酸基を有するビニル重合体(a1)と、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオール(a2)とを含有するポリオール(A)、ならびに、ポリイソシアネート(B)を有機溶剤(F)中または無溶剤下で反応させることによって側鎖にビニル重合体(a1)由来の構造を有するポリウレタン(C)を得、必要に応じ有機溶剤(F)を供給することによって前記ポリウレタン(C)の有機溶剤(F)溶液[I]を製造する工程(1)、
前記有機溶剤(F)溶液[I]と、前記アセチレン化合物(D)と前記水系媒体(E)とを混合することによって、前記ポリウレタン(C)を含む混合物[II]を製造する工程(2)、及び、
前記混合物[II]中に含まれる有機溶剤(F)の一部または全部を除去する工程(3)を含むことを特徴とするインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法。
【請求項2】
前記工程(3)が、前記混合物[II]中に含まれる有機溶剤(F)の一部または全部とともに、前記水系媒体(E)の一部を除去する工程であって、除去される前記水系媒体(E)の質量が、前記混合物[II]中に含まれる前記有機溶剤(F)の全質量の50質量%〜300質量%と同質量である、請求項1に記載のインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法。
【請求項3】
前記アセチレン化合物(D)の使用量が、前記ポリウレタン(C)100質量部に対して0.001質量部〜0.5質量部である、請求項1に記載のインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法。
【請求項4】
前記アセチレン化合物(D)の60質量%〜90質量%が前記工程(3)の開始前に使用され、残りの40質量%〜10質量%のアセチレン化合物(D)が、前記工程(3)で使用される、請求項3に記載のインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法。
【請求項5】
前記工程(3)で使用される前記アセチレン化合物(D)の40質量%〜10質量%が、前記混合物[II]中に含まれる前記有機溶剤(F)の全量の80質量%以上が前記混合物[II]から除去された後、前記混合物[II]中に含まれる前記有機溶剤(F)の全量の10質量%と同質量の水系媒体(E)が除去されるまでに、前記混合物[II]中に供給される、請求項4に記載のインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)が、前記ポリウレタン(C)の有機溶剤(F)溶液[I]と前記水系媒体(E)とを混合することによって、ポリウレタン(C)と有機溶剤(F)と前記水系媒体(E)を含み前記ポリウレタン(C)が前記水系媒体(E)中に分散または溶解した混合物[II’]を得、次いで、前記混合物[II’]と前記アセチレン化合物(D)とを混合することによって、前記ポリウレタン(C)、前記アセチレン化合物(D)及び前記水系媒体(E)を含む混合物[II]を製造する工程である、請求項1に記載のインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法。
【請求項7】
前記有機溶剤(F)及び/または前記水系媒体(E)の一部を除去する方法が減圧蒸留法である、請求項1に記載のインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法。
【請求項8】
前記ポリウレタン(C)が、親水性基としてカチオン性基またはアニオン性基を有するものである、請求項1に記載のインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法。
【請求項9】
前記アニオン性基が、カルボキシル基及びカルボキシレート基からなる群より選ばれる1種以上である、請求項8に記載のインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法。
【請求項10】
前記アセチレン化合物(D)が、アセチレンモノアルコール及びアセチレングリコールからなる群より選ばれる1種以上を含むものである、請求項1に記載のインクジェット印刷インク用バインダーの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法によって得られたインクジェット印刷インク用バインダーと、顔料または染料とを含有するインクジェット印刷用インク。
【請求項12】
前記ポリウレタン(C)が、前記インクジェット印刷インクの全量に対して0.1質量%〜10質量%含まれ、かつ、前記水系媒体(E)が、前記インクジェット印刷インクの全量に対して0.1質量%〜50質量%含まれるものである、請求項11に記載のインクジェット印刷用インク。
【請求項13】
請求項11に記載のインクジェット印刷用インクによって印刷の施された印刷物。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたインクジェット印刷インク用バインダーと、顔料または染料とを含有するカラーフィルタ製造用インクジェット印刷インク。
【請求項15】
透明プラスチック基材上に、請求項14記載のカラーフィルタ製造用インクジェット印刷インクによって印刷の施されたカラーフィルター。

【公開番号】特開2013−82878(P2013−82878A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−69273(P2012−69273)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】