説明

インクジェット印字装置

【課題】印字方向に複数のラインヘッドを配置してなるインクジェット印字装置において、ラインヘッドを取り替えることなく、ノズル列方向の印字密度を高密度にすることができるようにする。
【解決手段】複数のラインヘッド3のうち、少なくとも1個を除く他のラインヘッドをノズル列方向へ、このノズル列のノズルピッチの複数分の1ずつにわたって移動可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印字方向に複数のラインヘッドを並列に配設してなるインクジェット印字装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラインヘッドを用いたインクジェット印字装置において高速印字する場合、印字方向の移動速度を大きく、かつインクの噴射間隔を短くすることは印字噴射用の信号電圧の周波数の点から限界があるため、印字方向にラインヘッドを複数並べて配置し、この各ラインヘッドにて相互に補完する状態で印字を行い、例えば用紙の移動方向の印字密度を600dpiなど一定に保って高速で印字するようにしたものが引用文献1として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2644064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術にあっては、2列並べて配置されるラインヘッドの一方のラインヘッドで最高速度でピッチ300dpiにて粗く噴射しても、他方のラインヘッドでこれと同様に300dpiで噴射することにより、印字方向の密度は倍の600dpiになって高密度となる。このときにおいて、噴射間隔を最短に維持して印字速度を1/2に落せば、さらに印字方向に対して高密度緒1200dpiになる。しかしながら、印字方向と直交する方向(紙幅方向)は、上記ノズルピッチ(例えば600dpi=0.042mm)で固定されているため、上記したように印字方向に1200dpiの高密度にしても、ノズル列方向には600dpiのままで高密度にすることはできない。このため、1200dpi×1200dpiの高密度印字を行うには、別に用意された1200dpiノズルピッチを有するヘッドに取り換える必要があるが、この場合、ヘッド交換後の精度維持がむずかしく、これの調整に時間と労力を要するという問題があった。
【0005】
本発明は上記のことに鑑みなされたもので、印字方向に複数のラインヘッドを配置してなるインクジェット印字装置において、印字速度を遅くして印字方向に高精細の印字を行う場合において、ヘッドの取り換えを行うことなく、簡単な操作でもってノズル列方向の印字密度を高密度にすることができるようにしたインクジェット印字装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るインクジェット印字装置は、多数のインクジェットノズルを列状に設けたラインヘッドを印字方向に複数配置してなるインクジェット印字装置において、上記複数のラインヘッドのうち、少なくとも1個を除く他のラインヘッドをノズル列方向へ、このノズル列のノズルピッチの複数分の1ずつにわたって移動可能にした構成になっている。
【0007】
そして上記構成のインクジェット印字装置において、印字速度を遅くした高精細モード時に、複数のラインヘッドの相互を、インクノズルのノズルピッチの複数分の1ずつノズル列方向に順次ずらせてノズル列方向の印字ピッチを細かくするようにした。
【0008】
また、上記構成のインクジェット印字装置は、ノズル列方向に移動可能にするラインヘッドのノズル列方向の一側部に、ノズル列方向外側へ向けたV字溝を有するV形フランジを設け、このV形フランジのV字溝に、位置決めブロックに固着した位置決めピンを係合し、上記位置決めブロックを、ラインブロックフレームに回転可能に支持された偏心ピンの偏心軸部に嵌合支持し、偏心ピンの回転による偏心軸部の回転作用により、上記位置決めピンをノズル列方向に移動してV形フランジを介してラインヘッドをノズル列方向に移動するようにした構成になっている。そしてこのインクジェット印字装置において、偏心ピンをラインブロックフレームの下側から操作可能にした構成になっている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るインクジェット印字装置によれば、印字方向に複数のラインヘッドを配置してなるインクジェット印字装置において、印字速度を遅くして印字方向に高密度の印字を行う場合に、複数のラインヘッドのうち、基準となるラインヘッドに対して、他のラインヘッドをノズル列方向へノズル列のノズルピッチの複数分の1にわたってずらせることにより、ラインヘッドブロックを取り換えることなく、ノズル列方向の印字密度を簡単な操作で上記印字方向の印字密度と同等の高密度にすることができる。
【0010】
そして本発明に係るインクジェット印字装置によれば、印字方向への印字を高精細にするときに、複数のラインヘッドの相互を、インクノズルのノズルピッチの複数分の1ずつノズル列方向に順次ずらすことにより、ノズル列方向の印字に対しても高精細にすることができる。
【0011】
また、上記各ラインヘッドのノズルピッチ方向の移動を、偏心ピンの回動によって簡単に、かつ微細な寸法間隔で行うことができ、しかもこの偏心ピンをラインブロックの下側から簡単に操作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を実施しようとするインクジェット印字装置を概略的に示す平面図である。
【図2】本発明の要部を拡大して示す平面図である。
【図3】本発明の要部を拡大して示す断面図である。
【図4】ばねピンと支持ピンの関係を示す説明図である。
【図5】(a)は2個のラインヘッドが印字方向に同一位置の場合のインクノズルの配置図、(b)は2個のラインヘッドがノズルピッチの1/2にわたってノズル列方向へずれた状態を示す模式図である。
【図6】偏心ピンの作用説明図である。
【図7】偏心ピンの回転作用部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は本発明を実施しようとするインクジェット印字装置のラインヘッド部1を示すもので、このラインヘッド部1には、ラインブロックフレーム2にノズル面にインクノズルを印字方向と直交する方向にライン状に多数個設けてなるラインヘッド3が、用紙の印字面の幅方向全面をカバーする数にわたって設けられている。
【0015】
この実施の形態では、2個のラインヘッド3,3を印字方向(用紙の走行方向)に並べて1組としたヘッドブロックA,B,C,D,Eとし、3組のヘッドブロックA,B,Cが印字方向と直行する方向、すなわちノズル列方向に所定の間隔をあけて配列してあり、この3組のヘッドブロックA〜Cの間をカバーするようにして、他のヘッドブロックD,Eが印字方向にずれた位置に配列されている。
【0016】
上記2個のラインヘッドで1組とする各組のヘッドブロックを構成する各ラインヘッド3は、この各ラインヘッド3のノズルピッチPの1/2のストロークで印字方向と直交する方向(ノズル列方向)に移動できるようにしてラインヘッドフレーム2に取り付けられている。
【0017】
上記ラインヘッド3の取り付け構造は、図2、図3に示すようになっている。
【0018】
ラインヘッド3のノズル列方向の一側部に、ノズル列方向外側へ向けて開口したV字溝4を設けたV形フランジ5が、また他側部にL字切り欠き6を設けたL形フランジ7が設けてある。そしてこの両フランジ5,7がラインヘッドフレーム2に支持台8を介して載置されるようになっている。
【0019】
そして上記V形フランジ5のV字溝4には、第1位置決めピン9がノズル列方向の外側から係合されている。この第1位置決めピン9は、ラインヘッドフレーム2上にノズル列方向に移動可能に載置されている位置決めブロック10に固着されている。そしてこの位置のブロック10は、ラインヘッドフレーム2に回転可能に立設された偏心ピン11の偏心軸部11aに嵌合されていて、この偏心ピン11をこれの下端に設けたドライバ溝11bにドライバを係合して回転することにより、上記偏心軸部11aの偏心回転により、この位置決めブロック10がノズル列方向に移動するようになっている。なお、上記偏心軸部11aは、位置決めブロック10に対して印字方向に若干移動できるようになっている。
【0020】
上記位置決めブロック10の印字方向の一側面は2本の支持ピン12,12に当接され、また他側面には位置決めブロック10を上記支持ピン12,12側へ付勢するばねピン13が当接されていて、この両ピン12,13にて図4に示すように位置決めブロック10が印字方向に位置決めされるようになっている。
【0021】
一方、ラインヘッド3のL形フランジ7のL字切り欠き6には、第2位置決めピン14がラインヘッド3の印字方向の一方に対向して係合されている。この第2位置のピン14は、ラインヘッドフレーム2に立設されている。また、上記L形フランジ7の上記第2位置決めピン14が当接する面と反対側の側面には、L形フランジ7を上記位置決めピン14側へ付勢するばねピン15がラインヘッドフレーム2に立設して設けてある。また、このL形フランジ7の先端は、ラインヘッドフレーム2に立設したばねピン16が当接するようになっていて、このばねピン16にて上記第1位置決めピン9によるラインヘッド3のノズル列方向の移動を弾性支持するようになっている。
【0022】
ラインヘッド3のノズル列方向の両側には、上記したように、第1・第2の位置決めピン9,14にて位置決めされた状態のラインヘッド3の両側のフランジ5,7の上面を押さえて、これを固定する第1・第2の固定ピン17,18が設けてある。この各固定ピン17,18はそれぞれブラケット19,20に固着してあり、この各ブラケット19,20を固定ボルト21,22にてラインヘッドフレーム2に固定することにより、上記各固定ピン17,18にて各フランジ5,7がラインブロックフレーム2側に固定されるようになっている。
【0023】
上記構成において、各組のヘッドブロックA〜Eのラインヘッド3,3は、上記したようにノズル列方向に平行にして印字方向に並設されており、通常の場合、図5(a)に示すように両ラインヘッド3,3のインクノズル23が印字方向に同一位置となるようにしてある。そしてこのノズルピッチは例えば0.042mmで、用紙の所定の走行速度でもって600dpiの密度で印字されるようになっている。
【0024】
このときにおいて、用紙の走行速度を半分に落とせば印字方向の密度は2倍の1200dpiとなるが、ノズル列方向の印字密度は、上記ノズルピッチが不変のため600dpiのままで、このノズル列方向の密度を印字方向に合わせて高密度にはできない。
【0025】
そこで本発明においては、高精細の印字を行う場合に、各組のヘッドブロックA〜Eを構成する2個のラインヘッド3,3の一方を図5(b)に示すように、ノズルピッチの1/2にわたってノズル列方向に移動する。このとき各組とも指定した一方のラインヘッドに対して他方のラインヘッドの移動を行う。
【0026】
これにより2個のラインヘッド3,3による印字密度は、印字方向と同様に2倍になり、上記用紙の走行速度を半分に落としての印字は、1200dpi×1200dpiの高精細の印字が行われることになる。なお、このラインヘッド3のノズル列方向への移動は高精細のときだけではなく、機械温度、雰囲気温度の変化によるノズル列方向の印字位置のズレを補正する場合にも行う。
【0027】
上記ラインヘッド3の移動操作を以下に説明する。
【0028】
まず、インクジェット印字装置をメンテナンスポジションに移動してから、ノズル列方向両側の固定ボルト21,22を装置の下側からゆるめて、第1・第2の固定ピン17,18による両フランジ5,7の押さえ付けを解除する。ついで偏心ピン11を同様に装置の下側からこれのドライバ溝11bにドライバを係合してこれを回転する。
【0029】
これにより、偏心軸部11aの偏心回転で位置決めブロック10が移動し、したがってこれに固着されている位置決めピン9によりV形フランジ5が押されて、ラインヘッド3がノズル列方向へ移動される。そしてこのときの移動量を上記ノズルピッチの1/2、すなわち0.021mmに設定する。
【0030】
偏心ピン11の偏心軸部11aの偏心量r、回転角θ、移動量xの関係を図6を参照して説明する。
【0031】
図6において偏心ピン11に対する偏心軸部11aの偏心量rが0.1mmとすると、偏心軸部11aによる移動量xは(0.1×sinθ)であるから、この移動量として上記した0.021mmを得るために偏心ピン11の回転角θは約12度である。したがって、ラインヘッド3をノズル列方向へ0.021mm移動するには偏心ピン11を12度、偏心軸部11aがノズル列方向へ移動する方向へ回転する。
【0032】
上記説明では、各組のヘッドブロックのラインヘッド3の数を2個の場合について説明したが、ヘッドライン3を印字方向に3個以上配置して高精細の印字を行うようにしたインクジェット印字装置にあっては、基準となる1組のラインヘッドに対して他のラインヘッドをノズルピッチの1/n(nはラインヘッドの数)ずつにわたって順次ノズル列方向にずらせて配置することにより、ラインヘッドの個数に応じた密度の印字を行うことができる。
【0033】
例えば、ラインヘッド3を3個並べて配置した装置にあっては、各ラインヘッド3の相互のノズル間隔をノズル間隔の1/3の0.014mmにする。上記偏心ピン11の場合、0.014mm移動するための回転角θは8度である。したがって、基準となるラインヘッドに対して1個目のラインヘッド3の偏心ピン11を8度、2個目のラインヘッド3の偏心ピン11を16度回転することにより、印字方向のノズルピッチは1個の場合の1/3の0.014mmとなって高精細の印字が行われる。
【0034】
上記偏心ピン11の操作は上記したように装置の下側から、これのドライバ溝12にドライバを係合して行われるが、このときの回転の目安として図7に示すように、偏心ピン11が嵌合するラインヘッドフレーム2の穴の周囲に回転目盛を設けておけば便利である。
【0035】
なお上記ラインヘッド3の移動量の認識は、上記したように偏心ピン11の回転角によってもよいが、ラインヘッド3の周囲にダイヤルゲージ等の移動量検出手段を設け、これの目盛を読むようにしてもよい。
【0036】
また、上記実施の形態では印字方向へ複数配置した各ラインヘッドをノズル列方向へ移動するようにしたが、この複数のラインヘッドのうち、基準となる1個のラインヘッドは移動できない構成であってもよい。
【符号の説明】
【0037】
1…ラインヘッド部、2…ラインブロックフレーム、3…ラインヘッド、4…V字溝、5…V形フランジ、6…L字切り欠き、7…L形フランジ、8…支持台、9…第1位置決めピン、10…位置決めブロック、11…偏心ピン、11a…偏心軸部、11b…ドライバ溝、12…支持ピン、13,15,16…ばねピン、14…第2位置決めピン、17,18…第1・第2の固定ピン、19,20…ブラケット、21,22…固定ボルト、23…インクノズル、A,B,C,D,E…ヘッドブロック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のインクジェットノズルを列状に設けたラインヘッドを印字方向に複数配置してなるインクジェット印字装置において、
上記複数のラインヘッドのうち、少なくとも1個を除く他のラインヘッドをノズル列方向へ、このノズル列のノズルピッチの複数分の1ずつにわたって移動可能にした
ことを特徴とするインクジェット印字装置。
【請求項2】
印字速度を遅くした高精細モード時に、複数のラインヘッドの相互を、インクノズルのノズルピッチの複数分の1ずつノズル列方向に順次ずらせてノズル列方向の印字ピッチを細かくするようにしたことを特徴とする請求項1記載のインクジェット印字装置。
【請求項3】
ノズル列方向に移動可能にするラインヘッドのノズル列方向の一側部に、ノズル列方向外側へ向けたV字溝を有するV形フランジを設け、
このV形フランジのV字溝に、位置決めブロックに固着した位置決めピンを係合し、
上記位置決めブロックを、ラインブロックフレームに回転可能に支持された偏心ピンの偏心軸部に嵌合支持し、
偏心ピンの回転により偏心軸部の回転作用により、上記位置決めピンをノズル列方向に移動してV形フランジを介してラインヘッドをノズル列方向に移動するようにした
ことを特徴とする請求項1記載のインクジェット印字装置。
【請求項4】
請求項3記載のインクジェット印字装置において、
偏心ピンをラインブロックフレームの下側から操作可能にしたことを特徴とするインクジェット印字装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−152708(P2011−152708A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15673(P2010−15673)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000161057)株式会社ミヤコシ (122)
【Fターム(参考)】