説明

インクジェット式記録ヘッド

【課題】ボンディングワイヤによるフレキシブル基板と圧電素子との接続を確実にして、圧電素子を安定して駆動することにより良好な画像を安定して形成することができるインクジェット式記録ヘッドを提供する。
【解決手段】インクを吐出するノズル孔と、ノズル孔に連通する圧力発生室が形成されたノズル基板と、ノズル基板の一方の面に設けられ圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、を備えたインクジェット式記録ヘッドにおいて、ノズル基板に固定された補強板と、補強板に重ねて配置され、圧電素子に駆動信号を伝送するフレキシブル基板と、圧電素子とフレキシブル基板をワイヤボンディングにより電気的に接続する配線部材と、を備え、フレキシブル基板は、補強板との間に塗布された接着剤と、フレキシブル基板の縁を覆うように塗布された接着剤と、により補強板に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出法(インクジェット法)は、高精細な画像を形成することが可能なことから、その用途は拡大し、画像形成のみならずマイクロデバイスの製造等に用いることが提案されている。例えば、半導体デバイスにおける配線を形成する材料を含んだ機能液(インク)を液滴状にして液滴吐出ヘッド(インクジェット式記録ヘッド)より吐出し、基体上に所望の配線パターンを形成する方法がある。
【0003】
液滴吐出ヘッドは、機能液を吐出するノズル孔と、該ノズル孔に連通する圧力発生室及び該圧力発生室間を連続させる連通部(インク供給路)とを備えたノズル基板と、このノズル基板の一方の面側に設けられた圧電素子と、該圧電素子を駆動する信号を伝送するフレキシブル基板等から構成され、圧電素子とフレキシブル基板とはボンディングワイヤなどを用いて電気的に接続されたものがある。
【0004】
圧電素子のような電気素子とフレキシブル基板とをボンディングワイヤで接続されている例として、フレームに固定されたフレキシブル基板と半導体レーザ素子とをワイヤボンディングにより金属細線を介して電気的に接続されている光学デバイスがある(特許文献1参照)。フレキシブル基板は、フレームに接着固定されている。
【特許文献1】特開2007−318075号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット式記録ヘッドにおいて、ノズル基板に設けられた圧電素子にフレキシブル基板を接続する従来例を図5に示す。図5は、ノズル基板5に設けてある圧力発生室201や圧電素子70を含む位置におけるインクジェット式記録ヘッド1Aの側断面を模式的に示している。インクジェット式記録ヘッド1Aは、ノズル基板5、振動板30、補強板40、圧電素子70、フレキシブルプリント配線基板(以下、フレキシブル基板又はFPC(Flexible Printed Circuits)と称する。)60等から構成される。圧電素子70の上電極膜702とFPC60の接続端子601とは、ボンディングワイヤ705で接続されている。圧電素子70は、ノズル基板5に固定されており、FPC60は、ノズル基板5を補強するために固定されている補強板40に、特許文献1のフレキシブル基板がフレームに固定されているのと同じく、接着剤50を介して固定されている。
【0006】
しかし、図5に示すように、FPC60と補強板40との接着強度を十分に確保するために接着剤50の厚みを厚くすると、FPC60の接続端子601にボンディングワイヤ705が固定できなかったり、接続端子601からボンディングワイヤ705が容易に剥がれてしまうといった不具合が生じる場合があった。これは、FPC60が柔軟であると共に接着剤50の厚みが厚くなると接着剤50の弾力性が増すため、FPC60の接続端子601にボンディングワイヤ705を十分に押し付けることができず圧着が不十分となるためである。
【0007】
一方、圧着が十分にできるように、接着剤50の厚みを薄くして、接着剤50の下にある補強板40の剛性がボンディングワイヤ705の圧着に対して効くようにすると、FPC60と補強板40との接着強度が十分に得られない。このため、FPC60が補強板40から剥がれてしまい、FPC60と圧電素子70との接続が安定しないで圧電素子を良好に駆動することができなくなり、結果としてインクジェット式記録ヘッドによる画像形成が安定して良好にできないという課題があった。
【0008】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ボンディングワイヤによるフレキシブル基板と圧電素子との接続を確実にして、圧電素子を安定して駆動することにより良好な画像を安定して形成することができるインクジェット式記録ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は、以下の構成により解決される。
【0010】
1. インクを吐出するノズル孔と、該ノズル孔に連通する圧力発生室が形成されたノズル基板と、前記ノズル基板の一方の面に設けられ前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、を備えたインクジェット式記録ヘッドにおいて、
前記ノズル基板に固定された補強板と、
前記補強板に重ねて配置され、前記圧電素子に駆動信号を伝送するフレキシブル基板と、
前記圧電素子と前記フレキシブル基板をワイヤボンディングにより電気的に接続する配線部材と、を備え、
前記フレキシブル基板は、前記補強板との間に塗布された接着剤と、
前記フレキシブル基板の縁を覆うように塗布された接着剤と、により前記補強板に固定されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【0011】
2. 前記フレキシブル基板の縁には切り欠き部が設けられ、前記フレキシブル基板の縁を覆うように塗布された接着剤は該切り欠き部に塗布されていることを特徴とする1に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【0012】
3. 前記ノズル基板は、
インクを吐出するノズル孔が形成されたノズルプレートと、
前記圧力発生室と、該圧力発生室にインクを供給するインク供給路と、が形成されたボディプレートと、を有することを特徴とする1又は2に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインクジェット式記録ヘッドによれば、ボンディングワイヤによるフレキシブル基板と圧電素子との接続を確実にして、圧電素子を安定して駆動することにより良好な画像を安定して形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下図面に基づいて、本発明に係るインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッドと略称する。)の実施の形態を説明する。尚、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。
【0015】
記録ヘッドの構成の例を図1、図2を用いて説明する。図1は、記録ヘッド1をインクが吐出される側(下側とする。)から見た斜視図、図2は、図1におけるA−A′における側断面を上下反転させて示す図であり、記録ヘッド1の概略構成を示す。
【0016】
記録ヘッド1の要部は、図1、図2に示すように、ノズル基板5、振動板30、補強板40、圧電素子70、FPC(フレキシブル基板)60等から構成される。
【0017】
図示しない駆動回路から駆動信号がFPC60により伝送され圧電素子70に印加されると、圧電素子70は振動し、振動板30を励振する。振動板30が励振されると、この振動がノズル基板5を構成する後述のボディプレート20に形成されインクを収容する圧力発生室201の圧力を変化させ、ノズルプレート10に形成されたノズル孔101からインク滴を吐出させる。
【0018】
ノズル基板5は、ノズルプレート10、ボディプレート20等から構成される。ノズルプレート10には、インクを吐出する複数のノズル孔101が形成されている。
【0019】
図2に示すように、ノズルプレート10の上面側には、ボディプレート20が配置されている。ボディプレート20の下面とノズルプレート10とは、例えば接着剤や熱溶着フィルム等を介して固定されている。ボディプレート20は、シリコンやガラス、セラミックス材料等で構成することが可能であり、本実施形態の場合にはシリコンによって形成されている。
【0020】
ボディプレート20の内側には、ノズルプレート10や振動板30を接合することにより構成される、圧力発生室201、インク供給路202等が形成されている。圧力発生室201は、複数のノズル孔101に対応して形成されている。圧力発生室201は、インクを収容し、記録ヘッド1の動作時に印加される圧力によってノズルプレート10に形成された複数のノズル孔101からインクを吐出するようになっている。また、インク供給路202は、後述のインク供給パイプ90から供給されたインクを圧力発生室201に供給する。
【0021】
ボディプレート20の上面側には、振動板30が配置されている。この振動板30は、ボディプレート20側から順に弾性膜301と下電極膜302とを積層した構造となっている。ボディプレート20側に配される弾性膜301は、例えば厚みが1μm〜2μm程度の酸化シリコン膜からなるものであり、下電極膜302は、例えば厚みが0.2μm程度の金属膜からなるものである。本実施形態において、下電極膜302は、複数の圧電素子70の共通電極として機能するものとなっている。
【0022】
振動板30の上面側には、振動板30を変形させるための圧電素子70が配置されている。圧電素子70は、下電極膜302側から順に圧電体膜701と上電極膜702とを積層した構造となっている。圧電体膜701は、例えば厚みが1μm程度のPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)膜等からなるものであり、上電極膜702は、例えば厚みが0.1μm程度の金属膜からなるものである。また、上電極膜702の上面には、FPC60と接続するための、例えばAuなどからなるリード電極703が形成されている。
【0023】
尚、圧電素子70の概念としては、圧電体膜701及び上電極膜702に加えて、下電極膜302を含むものであってもよい。下電極膜302は、圧電素子70として機能する一方、振動板30としても機能するからである。本実施形態では、弾性膜301及び下電極膜302が振動板30として機能する構成を採用しているが、弾性膜301を省略して下電極膜302が弾性膜301を兼ねる構成とすることもできる。また、圧電素子70は、複数のノズル孔101及び圧力発生室201に対応するように複数設けられている。
【0024】
振動板30の上面側には、ノズル基板5を補強する補強板40が配置されている。補強板40の両側周縁には、外部の図示しない駆動回路から駆動信号を伝送するFPC60(配線基板)が配置されている。また、FPC60の上面には、圧電素子70と接続するための、接続端子601が形成されている。そして、FPC60の接続端子601と、圧電素子70のリード電極703との間は、ボンディングワイヤ705(配線部材)によって接続されている。
【0025】
FPC60は、補強板40の上に塗布された接着剤50に重ねて固定し、更にFPC60の両縁に設けられている切り欠き部603に接着剤を滴下等で塗布し、補強板40の面上でFPC60の縁を覆うに接着剤溜まり51を形成している(図4(a)、(b)参照)。接着剤溜まり51を形成することに関しては、以降で説明する。
【0026】
図3、図4を用いて本発明の実施形態に係る記録ヘッド1の製造工程を説明する。図3(a)乃至図3(d)及び図4(a)乃至図4(d)は、記録ヘッド1の製造工程を示す模式図であり、図3(a)乃至図3(d)及び図4(a)乃至図4(d)の各図中、紙面上図は平面図、紙面下図は、側断面図を示す。
【0027】
最初に、ガラスプレート15を挟んでノズルプレート10とボディプレート20を陽極接合し、ノズル基板5を形成する(図3(a))。尚、側断面図におけるノズルプレート10に形成されているノズル孔101やボディプレート20に形成されている圧力発生室201等は省略おり、以降も省略する。
【0028】
次に、ノズル基板5の上面側に、弾性膜301と下電極膜302とが積層された振動板30を接合する(図3(b))。
【0029】
次に、振動板30の上面側に、圧電体膜701と上電極膜702とが積層された圧電素子70を配置する(図3(c))。
【0030】
次に、振動板30の上面側に、補強板40を接合する(図3(d))。
【0031】
次に、補強板40の両側周縁に、接着剤50を介して両縁に切り欠き部603が設けてあるFPC60を重ねて固定する(図4(a))。更にFPC60の両縁に設けてある切り欠き部603に接着剤を滴下し、滴下した接着剤により補強板40の面上でFPC60の縁を覆うにして接着剤溜まり51を形成する(図4(b))。このように接着剤溜まり51を形成することにより、FPC60を補強板40に固定する必要強度を確保しつつ、FPC60と補強板40との間に設ける接着剤50の厚みを薄くすることができる。
【0032】
FPC60に切り欠き部603を設けないで、補強板40の面上でFPC60の縁付近に接着剤を滴下し、その縁を覆うにして接着剤溜まり51を形成しても良いが、滴下した接着剤が広がり過ぎることなく所望の位置に接着剤溜まりを形成することができることから、切り欠き部603を設けることが好ましい。
【0033】
この後、FPC60の接続端子601と、圧電素子70のリード電極703との間を、ボンディングワイヤ705によって接続する(図4(c))。FPC60の接続端子601にボンディングワイヤ705を固定する際、接着剤50の厚みを薄くしていることにより弾力性が少なくなって、接着剤50の下にある補強板40の剛性がボンディングワイヤ705の圧着に対して効くようになる。このため、FPC60の接続端子601にボンディングワイヤ705をより確実に圧着することができる。
【0034】
最後に、インク供給パイプ90を結合して、記録ヘッド1を完成する(図4(d))。
【0035】
このように記録ヘッド1においては、補強板40にFPC60を固定する方法として、補強板40とFPC60との間に接着剤50を設けると共に、FPC60の両縁に設けてある切り欠き部603に接着剤を滴下等により塗布して、補強板40の面上でFPC60の縁を覆うに接着剤溜まり51を形成して補強板40にFPC60を固定している。このように固定することにより、FPC60を補強板40に固定する必要強度を確保しつつ、FPC60と補強板40との間に塗布する接着剤50の厚みを薄くすることができる。
【0036】
接着剤50の厚みを薄くすることにより、FPC60の接続端子601にワイヤボンディングする際、接続端子601の剛性を高めることができるため、接続端子601にボンディングワイヤ705をより安定して強固に結合することができる。
【0037】
また、接着剤50の厚みを薄くすることができるため、圧電素子70とFPC60とを接続するボンディングワイヤ705の引っ張りによる圧電素子70への応力が抑制され、圧電素子70を安定に駆動することができる。更に、FPC60の両縁の切り欠き部603に接着剤を塗布して形成された接着剤溜まり51による接着剤質量の増加により、補強板40の共振周波数を低下させることができるため、圧電素子70をより高速駆動を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドを下側から見た斜視図である。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの側断面を示す図である。
【図3】インクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す図である。
【図4】インクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す図である。
【図5】従来のインクジェット式記録ヘッドの側断面を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1、1A インクジェット式記録ヘッド(記録ヘッド)
5 ノズル基板
10 ノズルプレート
101 ノズル孔
15 ガラスプレート
20 ボディプレート
201 圧力発生室
202 インク供給路
30 振動板
301 弾性膜
302 下電極膜
40 補強板
50 接着剤
51 接着剤溜まり
60 フレキシブルプリント配線基板(FPC)
601 接続端子
70 圧電素子
701 圧電体膜
702 上電極膜
703 リード電極
705 ボンディングワイヤ
90 インク供給パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズル孔と、該ノズル孔に連通する圧力発生室が形成されたノズル基板と、前記ノズル基板の一方の面に設けられ前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、を備えたインクジェット式記録ヘッドにおいて、
前記ノズル基板に固定された補強板と、
前記補強板に重ねて配置され、前記圧電素子に駆動信号を伝送するフレキシブル基板と、
前記圧電素子と前記フレキシブル基板をワイヤボンディングにより電気的に接続する配線部材と、を備え、
前記フレキシブル基板は、前記補強板との間に塗布された接着剤と、
前記フレキシブル基板の縁を覆うように塗布された接着剤と、により前記補強板に固定されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項2】
前記フレキシブル基板の縁には切り欠き部が設けられ、前記フレキシブル基板の縁を覆うように塗布された接着剤は該切り欠き部に塗布されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項3】
前記ノズル基板は、
インクを吐出するノズル孔が形成されたノズルプレートと、
前記圧力発生室と、該圧力発生室にインクを供給するインク供給路と、が形成されたボディプレートと、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット式記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−255444(P2009−255444A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108840(P2008−108840)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】