説明

インクジェット用インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、インクセット、及び画像形成方法

【課題】耐ブリーディング性が高く、且つブロンズ現象の発生が抑制された画像を形成することができるインクジェット用インクを提供する。
【解決手段】顔料インクと共に用いるインクジェット用インクであって、前記インクジェット用インクは、色材、多価金属及び水溶性有機溶剤を含有し、前記色材が少なくとも特定の銅フタロシアニンであり、前記多価金属の含有量(mol/g)が2.0×10−6mol/g以上4.0×10−4mol/g以下であり、前記水溶性有機溶剤の含有量の合計(質量%)が、インク全質量を基準として25.0質量%以上であり、且つ小角X線散乱法により得られた前記インクジェット用インクの色材濃度が0.5質量%になるように調製したインクにおいて、分子集合体の分散距離の分布の75%を占める分散距離d75値が12.60nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料インクと共に用いるインクジェット用インクに関する。特には、耐ブリーディング性に優れ、且つ、記録媒体に画像を形成した際の金属光沢、所謂ブロンズ現象の発生を抑制することができるインクジェット用インクに関する。又、本発明は、前記インクジェット用インクを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ、インクセット、及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シアンの色相を有するインクジェット用インクの色材には、耐光性に優れ、湿度や熱に対する堅牢性が高く、又、発色性が良好なことから、フタロシアニン骨格を有する染料が広く用いられている。
【0003】
しかし、フタロシアニン系染料の課題には、染料の凝集性の高さに起因する金属光沢、所謂ブロンズ現象が発生しやすいことが挙げられる。記録物においてブロンズ現象が発生した場合、その光学反射特性が変化し、画像の発色性、色相が著しく変化し、画像品位の著しい低下を引き起こす。この耐ブロンズ性を向上する方法として、以下の方法が知られている。例えば、N−ヒドロキシエチルモルホリンや、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンをインクに添加することや、記録媒体へのインクの浸透性を上げることが知られている。又、インクに塩基性アミノ酸を添加することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
又、フタロシアニン系染料は、空気中の環境ガス(オゾン、NO、SO)、特にオゾンガスに対する堅牢性が劣る傾向がある。特に、アルミナやシリカ等の無機物を含有するインク受容層を有する記録媒体に記録した記録物における堅牢性の低さは顕著であり、記録物を長時間室内に放置すると著しく褪色する。この耐オゾン性を向上することを目的として、フタロシアニン系染料の構造を工夫することに関する提案がある(例えば、特許文献2〜4参照)。
【0005】
一方、記録媒体上において、互いに異なる色の領域が隣接してなるフルカラーの画像を高品位なものとするために、各色の領域の境界、特にカラー画像とブラック画像との境界におけるブリーディング(混色)を有効に抑制することが課題とされている。この耐ブリーディング性を向上するために、これまでに種々の試みがなされている。例えば、色材として染料を用いたカラーインクに多価金属を添加することが知られている(例えば、特許文献5参照)。又、カラーインクのpHを酸性領域となるように調整することで、隣接して記録したブラックインクの色材(顔料)を凝集させることによりブリーディングを抑制する方法が知られている(例えば、特許文献6参照)。
【0006】
加えて、近年、インク滴の極小化に代表されるように、より高画質化が進んでいる。このため、インクには、記録ヘッドにおける目詰まりや吐出安定性等の信頼性について、更に厳しい特性が要求されている。
【特許文献1】特開平07−228810号公報
【特許文献2】特許第2942319号公報
【特許文献3】国際公開第2004/087815号パンフレット
【特許文献4】特開2004−323605号公報
【特許文献5】特開平06−106841号公報
【特許文献6】特開平05−208548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが、色材として、特許文献2〜4に記載の、耐候性の向上を目的として改良したフタロシアニン系染料を用い、更に、耐ブリーディング性の向上を目的としてインクに多価金属を含有させた場合、以下に述べるような課題があることがわかった。即ち、インク中において染料と多価金属が共存するため、染料の溶解性が低下することがわかった。特に、フタロシアニン系染料は染料そのものの凝集性が非常に高いため、フタロシアニン系染料を含有するインクに多価金属を添加することにより、更にその凝集性が高まり、記録物におけるブロンズ現象がより顕著になることがわかった。
【0008】
ブロンズ現象は、インクを記録媒体に付与した際に、染料そのものの凝集性の高さと、記録媒体へのインクの浸透性が低いこと等により、記録媒体の表面で染料が凝集するために発生すると考えられる。特に、耐オゾン性を高めるために、フタロシアニン系染料の分子にアミノ基等の特定の置換基を導入した場合や、水への溶解性が低い染料を用いたインクにおいて、ブロンズ現象の発生が顕著となる傾向がある。
【0009】
ブロンズ現象の発生を抑制するために、上記で述べたアルカノールアミンのような添加剤を用いると、その添加量が少量であっても、インクのpHが9以上と高くなる。このようにpHが高いインクは、インクが接触する記録ヘッドのノズル等が腐食する等の問題が起きる場合がある。又、インク中に多価金属イオンが存在すると、インクのpHが高くなった場合にヒドロゲル化が起きて、染料の凝集が生じるという問題もある。更に、アルカノールアミンをインクに添加することで、ブロンズ現象の発生を抑制する効果は得られるが、画像の耐水性が低下するという新たな問題が起きることがわかった。
【0010】
又、ブロンズ現象の発生を抑制するために、記録媒体へのインクの浸透性を高めると、耐ブリーディング性が低下する等、画像品位が低下する場合がある。更に、特許文献1に記載の塩基性アミノ酸をインクに添加する方法ではインクのpHはそれほど高くはならない。しかし、水溶性有機溶剤の種類によってはインクのpHが上昇して中性領域を越える場合や、ブロンズ現象の発生を抑制する効果が不十分となる場合があることが判明した。
【0011】
これまでに述べてきたように、従来の技術では、近年要求される高いレベルの耐ブリーディング性を得ながら、耐ブロンズ性をも得ることはできていなかった。
従って、本発明の第1の目的は、耐ブリーディング性が高く、且つ、ブロンズ現象の発生が抑制された画像を形成することができるインクジェット用インクを提供することにある。
【0012】
又、本発明の第2の目的は、耐ブリーディング性が高く、且つ、ブロンズ現象の発生が抑制された画像が得られ、更に、近年求められる高いレベルでの耐オゾン性をも得られるインクジェット用インクを提供することにある。
【0013】
又、本発明の第3の目的は、耐ブリーディング性が高く、且つ、ブロンズ現象の発生が抑制された画像が得られ、更に、吐出安定性等の信頼性にも優れたインクジェット用インクを提供することにある。
【0014】
更に、本発明の別の目的は、上記インクジェット用インクを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ、インクセット、及び画像形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らが検討を行った結果、インクが多価金属を含有することで、優れた耐ブリーディング性が得られ、又、画像の画質を高めることができることがわかった。更に、ブロンズ現象に関しては、インク中の水溶性有機溶剤の含有量、更にはその種類を特定することにより、色材の凝集性をコントロールすることができ、優れた耐ブリーディング性が得られることがわかった。これらのことにより、高いレベルで耐ブリーディング性とブロンズ現象の抑制を両立することが可能となる。
【0016】
本発明の第1の目的にかかるインクジェット用インクは、顔料インクと共に用いるインクジェット用インクであって、前記インクジェット用インクが、色材、多価金属、及び水溶性有機溶剤を含有し、前記色材が、少なくとも下記一般式(I)で表される化合物であり、前記多価金属の含有量(mol/g)が、2.0×10−6mol/g以上4.0×10−4mol/g以下であり、前記水溶性有機溶剤の含有量の合計(質量%)が、インク全質量を基準として、25.0質量%以上であり、且つ、小角X線散乱法により得られた、前記インクジェット用インクの色材濃度が0.5質量%になるように調製したインクにおける分子集合体の分散距離の分布の75%を占める分散距離d75値が、12.60nm以下であることを特徴とする。
【0017】
一般式(I)
【0018】
【化1】

【0019】
(一般式(I)中、Mはアルカリ金属又はアンモニウムであり、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、スルホン酸基、又はカルボキシル基(但し、R及びRが同時に水素原子となる場合を除く)であり、Yは塩素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、又はモノ若しくはジアルキルアミノ基であり、l、m、nはそれぞれ、l=0乃至2、m=1乃至3、n=1乃至3(但し、l+m+n=3乃至4)であり、置換基の置換位置は4位又は4’位である。)
【0020】
本発明の第2の目的にかかるインクジェット用インクは、顔料インクと共に用いるインクジェット用インクであって、前記インクジェット用インクが、色材、多価金属、及び水溶性有機溶剤を含有し、
前記色材が、下記一般式(I)で表される化合物であり、前記多価金属の含有量(mol/g)が、2.0×10−6mol/g以上4.0×10−4mol/g以下であり、前記水溶性有機溶剤の含有量の合計(質量%)が、インク全質量を基準として、15.0質量%以上であり、前記水溶性有機溶剤が、20℃における比誘電率が10.0以上30.0未満の水溶性有機溶剤を有し、前記20℃における比誘電率が10.0以上30.0未満の水溶性有機溶剤の含有量が、インク中の水溶性有機溶剤の含有量の合計に対して25.0質量%以上であり、且つ、小角X線散乱法により得られた、前記インクジェット用インクの色材濃度が0.5質量%になるように調製したインクにおける分子集合体の分散距離の分布の75%を占める分散距離d75値が、12.60nm以下であることを特徴とする。
【0021】
一般式(I)
【0022】
【化2】

【0023】
(一般式(I)中、Mはアルカリ金属又はアンモニウムであり、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、スルホン酸基、又はカルボキシル基(但し、R及びRが同時に水素原子となる場合を除く)であり、Yは塩素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、又はモノ若しくはジアルキルアミノ基であり、l、m、nはそれぞれ、l=0乃至2、m=1乃至3、n=1乃至3(但し、l+m+n=3乃至4)であり、置換基の置換位置は4位又は4’位である。)
【0024】
又、本発明の第3の目的にかかるインクジェット用インクは、上記構成のインクジェット用インクにおいて、前記水溶性有機溶剤の含有量の合計(質量%)が、インク全質量を基準として、50.0質量%以下であることを特徴とする。
【0025】
又、本発明の別の実施態様にかかるインクジェット記録方法は、インクをインクジェット方法で吐出して記録を行うインクジェット記録方法において、前記インクが、上記構成のインクジェット用インク及び顔料インクであることを特徴とする。
【0026】
又、本発明の別の実施態様にかかるインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、前記インクが、上記構成のインクジェット用インクであることを特徴とする。
【0027】
又、本発明の別の実施態様にかかるインクセットは、複数のインクで構成されるインクセットであって、前記インクセットが、少なくとも、顔料インク、及び前記顔料インクと反応するインクを含んでなり、前記顔料インクと反応するインクが、上記構成のインクジェット用インクであることを特徴とする。
【0028】
又、本発明の別の実施態様にかかる画像形成方法は、少なくとも、顔料インク及び前記顔料インクと反応するインクを用いて画像を形成する画像形成方法であって、前記顔料インクと反応するインクが、上記構成のインクジェット用インクであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明の第1の目的にかかる第1発明によれば、耐ブリーディング性が高く、且つ、ブロンズ現象の発生が抑制された画像が得られるインクジェット用インクを提供することができる。又、本発明の第2の目的にかかる第2発明によれば、耐ブリーディング性が高く、且つ、ブロンズ現象の発生が抑制された画像が得られ、更に、近年求められる高いレベルでの耐オゾン性をも得られるインクジェット用インクを提供することができる。又、本発明の第3の目的にかかる第3発明によれば、耐ブリーディング性が高く、且つ、ブロンズ現象の発生が抑制された画像が得られ、更に、吐出安定性等の信頼性にも優れたインクジェット用インクを提供することができる。更に、本発明の別の実施態様によれば、上記インクジェット用インクを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ、インクセット、及び画像形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、詳細に説明する。
【0031】
尚、本発明においては、色材が塩である場合は、インク中で塩は解離して、イオンとして存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。又、多価金属もインク中では解離して、イオンとして存在しているが、便宜上「多価金属を含有する」と表現する。
【0032】
<反応性インク>
本発明における反応性インクとは、記録媒体上において顔料インクと接触した際に、前記顔料インク中の顔料の分散状態を不安定化するインクジェット用インク(以下、インクと呼ぶ)のことである。以下に、反応性インクを構成する成分等について説明する。
【0033】
(色材)
〔一般式(I)で表される化合物〕
反応性インクは、色材として、少なくとも下記一般式(I)で表される化合物を含有することが必須である。下記一般式(I)で表される化合物又はその塩はシアンの色相を有し、耐オゾン性に優れるという特徴を持つフタロシアニン誘導体である。
【0034】
一般式(I)
【0035】
【化3】

【0036】
(一般式(I)中、Mはアルカリ金属又はアンモニウムであり、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、スルホン酸基、又はカルボキシル基(但し、R及びRが同時に水素原子となる場合を除く)であり、Yは塩素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、又はモノ若しくはジアルキルアミノ基であり、l、m、nはそれぞれ、l=0乃至2、m=1乃至3、n=1乃至3(但し、l+m+n=3乃至4)であり、置換基の置換位置は4位又は4’位である。)
【0037】
一般にフタロシアニン誘導体は、その合成時において不可避的に一般式(II)における置換基R(n:1〜16)の置換位置(R〜R16が結合しているベンゼン環上の炭素位置を、それぞれ1位〜16位と定義する)異性体を含むことが多い。しかし、これら置換位置異性体は、通常互いに区別することなく、同一の誘導体として見なされることが多い。
【0038】
一般式(II)
【0039】
【化4】

【0040】
本発明において用いる色材は、一般式(I)における4位及び4’位のみに選択的に、無置換スルファモイル基(−SONH)又は置換スルファモイル基(一般式(III)で表される基)を導入したフタロシアニン誘導体である。尚、一般式(I)における4位及び4’位とは、一般式(II)におけるR、R、R、R、R10、R11、R14、R15のことである。本発明者らは、かかる化合物を含有するインクを用いて得られた記録物が、極めて耐オゾン性に優れることを見出した。
【0041】
尚、本発明において用いる一般式(I)で表される化合物又はその塩の合成は、4−スルホフタル酸誘導体、又は、4−スルホフタル酸誘導体及び(無水)フタル酸誘導体を、金属化合物の存在下で反応させることで得られるフタロシアニン化合物を原料に用いる。更に、前記フタロシアニン化合物におけるスルホン酸基をクロロスルホン酸基に変換した後、有機アミンの存在下でアミノ化剤を反応させて得られる。
【0042】
一般式(III)
【0043】
【化5】

【0044】
一般式(III)で表される置換スルファモイル基の具体例を以下に示す。勿論、本発明に用いられる置換スルファモイル基は、これらに限られるものではない。尚、一般式(III)で表される置換スルファモイル基は、遊離酸の形で示す。
【0045】
【化6】

【0046】
中でも、上記例示置換基1が置換した化合物、即ち、下記一般式(IV)で表される化合物が、その発色性と耐オゾン性のバランスから最も好適な化合物である。
【0047】
一般式(IV)
【0048】
【化7】

【0049】
(一般式(IV)中、Mはアルカリ金属又はアンモニウムであり、l、m、nはそれぞれl=0乃至2、m=1乃至3、n=1乃至3(但し、l+m+n=3乃至4)であり、置換基の置換位置は4位又は4’位である。)
【0050】
反応性インク中の、一般式(I)で表される化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.5質量%以上であることが好ましい。更に、十分な発色性を得るためには、一般式(I)で表される化合物の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、3.0質量%以上であることが好ましい。又、吐出安定性等のインクジェット特性を優れたものとするためには、一般式(I)で表される化合物の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、10.0質量%以下であることが好ましい。特には、一般式(I)で表される化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0051】
〔小角X線散乱法〕
本発明において用いられる色材の凝集性の測定には、小角X線散乱法が適用できる。
小角X線散乱法は、コロイド溶液におけるコロイド粒子間の距離の算出に汎用に用いられてきた手法である。これは、「最新コロイド化学」(講談社サイエンティフィック 北原文雄、古澤邦夫)及び「表面状態とコロイド状態」(東京化学同人 中垣正幸)等に記載されていることからも、その汎用性がわかる。
【0052】
小角X線散乱装置の概要を、小角X線散乱法の測定原理図である図5を用いて説明する。X線源より発生したX線は、第1〜第3スリットを通る間に、数mm以下の程度まで焦点サイズを絞られ、試料溶液に照射される。試料溶液に照射されたX線は、試料溶液中の粒子によって散乱された後、イメージングプレート上で検出される。散乱したX線は、その光路差の違いによって干渉が起こるため、得られたθ値を用いて、粒子間の距離d値は、Braggの式(下記式(1))によって求められる。尚、ここで求められるd値は、一定間隔で配列している粒子の中心から中心の距離と考えられる。
【0053】
【数1】

【0054】
(式(1)中、λはX線の波長、dは粒子間の距離、θは散乱角である。)
一般に、試料溶液中の粒子が規則正しく配列していない場合、散乱角プロファイルにはピークが発生しない。本発明において用いられる色材(フタロシアニン系色材)の水溶液の場合、2θ=0°〜5°の範囲に最大値を持つ強いピークが検出され、フタロシアニン系色材分子の凝集により形成される粒子(分子集合体)が、ある一定の規則で配列していることが確認できる。図6に、下記化合物(1)で表される構造を有するトリフェニルメタン系色材、及び一般式(I)で表される構造を有するフタロシアニン系色材、それぞれの10質量%水溶液における散乱角プロファイルを示す。図6より、同じシアンの色相を有する色材においても、フタロシアニン系色材は特異的に散乱角ピークを有することがわかる。つまり、フタロシアニン系色材の場合、水溶液中ではフタロシアニン分子がいくつか凝集して分子集合体を形成する。そして、分子集合体間の距離は、散乱角プロファイルで示されるような一定の分布を有する。
【0055】
化合物(1)
【0056】
【化8】

【0057】
図7は、フタロシアニン系色材の分子集合体の分散距離の概念図である。図7に示すように、あるフタロシアニン系色材の分子集合体の半径をr、分子集合体間の距離をdとする。フタロシアニン系色材の構造が同一であるならばdは常に一定である、と仮定すると、フタロシアニン系色材が形成する分子集合体の半径がrからrと大きくなるのに従って、小角X線散乱法から測定されたd値もdからdへと大きくなると考えられる。そのため、前記方法で測定されるd値は、フタロシアニン系色材の分子集合体の大きさを表す指数であると考えられ、d値が大きいほど、色材分子が形成する分子集合体の大きさが大きくなっていると考えられる。
【0058】
フタロシアニン系色材を含有するインクにおけるd値とブロンズ現象の関係を調べたところ、同一の構造式で示されるフタロシアニン系色材の場合には、d値が大きいほどブロンズ現象が発生しやすい傾向があることがわかった。記録媒体上での色材分子の集合によってブロンズ現象が発生することを考慮すると、上述のd値と分子集合体の大きさに相関関係があることを裏付ける結果となった。
【0059】
散乱角プロファイルにおけるピーク形状は、分子集合体間の距離の分布、即ち、分子集合体の分散距離の分布を示している。上記で述べたように、この分散距離が分子集合体の大きさを表す指数であることを考えると、かかる散乱角プロファイルは、試料溶液中における分子集合体の大きさの分布を示していると考えることができる。つまり、散乱角プロファイルのピーク面積を、試料溶液中の分子集合体全体の大きさとすれば、d値が大きい、即ち、大きい分子集合体の頻度が高いほど、ブロンズ現象が発生しやすい傾向がある。従って、ブロンズ現象が発生しやすい、大きい分子集合体の頻度を低減させることで、ブロンズ現象の発生を抑制することができると考えられる。但し、著しく小さい分子集合体のみを含有するインクの場合、ブロンズ現象は発生しにくくなるものの、その耐オゾン性も低下してしまう。このため、ブロンズ現象の発生を抑制することができ、且つ、耐オゾン性を得るという観点からも、分子集合体の大きさ(d値の大きさ)を的確にコントロールすることが必要となる。
【0060】
一般に、色材分子の大きさがある頻度で分布を持つ場合、人間が目視で認識できる視覚限界のしきい値は、その全体量の1/4とされている。このことから、ブロンズ現象が発生しやすい大きな分子集合体が全体の1/4以下となる点、言い換えれば、ブロンズ現象が発生しにくい小さな分子集合体が全体の3/4以上となる点のd値を分散距離d75値とする。そして、前記d75値を特定の範囲にコントロールすることで、ブロンズ現象の発生が抑制され、高い耐オゾン性を有するインクを得ることが可能となる。
【0061】
実際に散乱角プロファイルにおける2θ値のピークから算出したdpeak値と上述のd75値とブロンズ現象の発生レベルの相関性を調査した。その結果、dpeak値よりも、分子集合体全体の大きさの分布因子を考慮したd75値の方がブロンズ現象との相関性が高いことが判明した。尚、2θ値を求める際のベースラインは、0.5°〜5°の範囲で引く。
【0062】
そこで、本発明者らは、フタロシアニン系染料である一般式(I)で表される化合物又はその塩において、置換基の数、種類及び置換位置を変化させた化合物、即ち、凝集性をコントロールした染料を用いて以下の実験を行った。前記染料を含有するインクを調製し、前記インクの散乱角プロファイルを測定し、d75値を算出した。次に、得られたd75値から、それぞれの色材の凝集性を評価した。その結果、前記d75値が、12.60nm以下である場合に、ブロンズ現象の発生が効果的に抑制され、特に高い耐オゾン性を有するインクとなることわかった。更には、前記d75値が、6.70nm以上である場合に、ブロンズ現象の発生が特に効果的に抑制され、高い耐オゾン性を有することがわかった。つまり、一般式(I)表される化合物を含有するインクにおいて、インクのd75値が上記範囲を取るように染料の凝集性がコントロールされている場合、ブロンズ現象の発生が抑制され、且つ、高い耐オゾン性を有することが見出された。
【0063】
75値をコントロールする方法は、例えば、一般式(I)で表される化合物の置換基を選択することが挙げられる。具体的には、一般式(I)における、l及びnの値が小さいほど、又、mの値が大きいほど、d75値は大きくなる傾向がある。更に、多価金属の種類やその含有量、水溶性有機溶剤の種類やその含有量も、d75値に影響を与え得る。
【0064】
尚、反応性インクについての、小角X線散乱法による測定条件は以下の通りである。
・装置:Nano Viewer(理学製)
・X線源:Cu−Kα
・出力:45kV−60mA
・実効焦点:0.3mmφ+Confocal Max−Flux Mirror
・1st Slit:0.5mm、2nd Slit:0.4mm、3rd Slit:0.8mm
・照射時間:240min
・ビームストッパー:3.0mmφ
・測定法:透過法
・検出器:Blue Imaging Plate。
【0065】
得られた散乱角プロファイルから、X線回折データ処理ソフトJADE(Material Data,Inc.)を用いて、バックグラウンドを除去したピーク面積、及び、同ピーク面積全体の75%以上が含まれる2θ値(2θ75値)を測定した。又、2θ75値から、下記式(2)に基づいてd75値を算出した。
【0066】
【数2】

【0067】
〔その他の色材〕
反応性インクには、前記一般式(I)で表される化合物の他に、調色等を目的として、その他の色材を用いることもできる。尚、その他の色材は公知のものであっても、新たに合成されたものであっても用いることができる。
【0068】
(多価金属)
反応性インクは、多価金属を含有し、前記多価金属の含有量(mol/g)が、2.0×10−6mol/g以上4.0×10−4mol/g以下であることが必須である。上記でも述べたように、反応性インクは、顔料インクと接触した際に、前記顔料インク中の顔料の分散状態を不安定化する。反応性インクが前記したような機能を有するものとするために、本発明においては、反応性インクが多価金属を含有してなるものであることが必要である。即ち、反応性インクが多価金属を含有することで、記録媒体上において前記反応性インク及び顔料インクが互いに接触して混合した際に、反応性インク中のカチオンが、顔料インク中の顔料のアニオン性基と反応する。その結果、顔料の分散破壊が起こり、顔料の凝集が促進され、又、顔料インクが増粘する。尚、本発明における「多価金属の含有量」は、フタロシアニン染料の中心金属である銅は含まないものとする。又、インク中で多価金属はイオンとして存在するが、本発明においてはこのことを「インクが多価金属を含有する」と表現し、「多価金属の含有量」の値はイオンの形態ではなく、金属原子として算出した値とする。
【0069】
反応性インクに用いることができる多価金属は、二価以上の多価金属イオンと、前記多価金属イオンに結合する陰イオンで構成され、反応性インク中には水に可溶な塩の形態で添加することが好ましい。多価金属イオンの具体例は、Mg2+、Ca2+、Cu2+、Co2+、Ni2+、Zn2+、及びBa2+等の二価の金属イオン、Al3+、Fe3+、Cr3+、及びY3+等の三価の金属イオン等が挙げられる。陰イオンは、SO2−、Cl、CO、NO、I、Br、ClO、CHCOO、及びHCOO等が挙げられる。本発明においては、反応性インクの保存安定性や、反応性インクと接触する部材(インクジェット記録装置を構成するインク流路等)を溶解しない等の観点から、上記した多価金属イオンの中でも特に、Mg2+を用いることが好ましい。又、溶解度の観点から、上記した陰イオンの中でも、NO、SO2−、Clを用いることが好ましく、水への溶解度が優れているため、NOを用いることが特に好ましい。
【0070】
反応性インク中の多価金属の含有量(mol/g)は、2.0×10−6mol/g以上4.0×10−4mol/g以下、更には、7.8×10−5mol/g以上4.0×10−4mol/g以下であることが好ましい。多価金属の含有量を上記した範囲とすることで、インクとしての安定性(色材の溶解性や吐出安定性等)、及び耐ブリーディング性向上の効果を十分に得ることができる。
【0071】
(水性媒体)
反応性インクは、上記で説明した色材を、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体に溶解することで得られる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、10.0質量%以上70.0質量%以下であることが好ましい。
【0072】
本発明の第1の実施態様においては、以下の構成とすることが必須である。反応性インクが水溶性有機溶剤を含有してなり、且つ、前記水溶性有機溶剤の含有量の合計(質量%)が、インク全質量を基準として、25.0質量%以上であることが必須である。又、前記水溶性有機溶剤の含有量の合計(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以下であることが好ましい。
【0073】
又、本発明の第2の実施態様においては、以下の構成とすることが必須である。反応性インクが水溶性有機溶剤を特定の含有量で含有してなり、前記水溶性有機溶剤が、後述する特定の比誘電率を有する水溶性有機溶剤を特定の割合で含んでなることが必要である。このとき、これらの水溶性有機溶剤の含有量が、以下の関係を満たすことが必要である。先ず、反応性インク中の水溶性有機溶剤の含有量の合計(質量%)が、インク全質量を基準として15.0質量%以上であることが必要である。更に、特定の比誘電率を有する水溶性有機溶剤の含有量が、インク中の水溶性有機溶剤の含有量の合計に対して、25.0%以上であることが必須である。又、インク中の水溶性有機溶剤の含有量の合計(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以下であることが好ましい。又、特定の比誘電率を有する水溶性有機溶剤の含有量が、インク中の水溶性有機溶剤の含有量の合計に対して、50.0%以下であることが好ましい。
【0074】
水溶性有機溶剤は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は、単独でも又は混合物としても用いることができる。
エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等の炭素数1乃至4のアルキルアルコール類。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール。テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル。グリセリン。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルキレングリコール類。1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等の多価アルコール類。アセチレングリコール誘導体。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールのアルキルエーテル類。2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルモルホリン等の複素環類。チオジグリコール、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物。尿素及びエチレン尿素等の尿素誘導体。トリメチロールエタン及びトリメチロールプロパン等。
【0075】
本発明における、特定の比誘電率を有する水溶性有機溶剤とは、20℃における比誘電率が10.0以上30.0未満である水溶性有機溶剤のことである。以下、比誘電率の値は特に断りがない限り、20℃における値とする。又、20℃で固体である化合物は、固体の状態では比誘電率を測定することができない。このため、本発明においては、20℃で固体である化合物は、「20℃における比誘電率が10.0以上30.0未満である水溶性有機溶剤」には該当しないものとする。比誘電率が30.0以上である水溶性有機溶剤は、ブロンズ現象を抑制する効果があまり発揮されない傾向がある。又、比誘電率が10.0未満である水溶性有機溶剤は、水溶性が低い場合があり、記録ヘッドにおける固着性が悪化する場合がある。このため、本発明の第2の実施態様においては、上記した特定の比誘電率を有する水溶性有機溶剤を、特定の含有量で含有するインクとすることで、下記に述べるメカニズムにより、ブロンズ現象の発生を顕著に抑制することができる。本発明で用いることができる、特定の比誘電率を有する水溶性有機溶剤は、比誘電率の値が上記した特定の範囲のものであれば限定されるものではない。本発明においては、比誘電率が10.0以上30.0未満である水溶性有機溶剤が、下記の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。即ち、イソプロピルアルコール、2−ピロリドン、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ポリエチレングリコール(平均分子量200)等であることが好ましい。上記した中でも、イソプロピルアルコール、2−ピロリドン、1,2,6−ヘキサントリオール、ポリエチレングリコール(平均分子量200)が特に好ましい。
【0076】
本発明の第1の実施態様にかかる反応性インク、又は、第2の実施態様にかかる反応性インクにおいては、それぞれインク中の水溶性有機溶剤の含有量を上記した構成とすることで、ブロンズ現象の発生を顕著に抑制することができる。このような効果が得られるメカニズムを、本発明者らは以下のように推測している。
【0077】
〔第1の実施態様による効果が得られるメカニズム〕
上記でも説明したように、本発明の第1の実施態様においては、以下の構成とすることが必須である。反応性インクが水溶性有機溶剤を含有してなり、且つ、前記水溶性有機溶剤の含有量の合計(質量%)が、インク全質量を基準として、25.0質量%以上であることが必須である。このように、インク中の水溶性有機溶剤の含有量の合計を多くすることで、フタロシアニン系染料や多価金属イオンに溶媒和する水溶性有機溶剤もそれぞれ増加する。このため、フタロシアニン系染料と多価金属イオンが近づきにくくなり、凝集が起こりにくくなる。又、インク中の水溶性有機溶剤の含有量の合計を多くすることで、フタロシアニン系染料と多価金属イオンが共存する場合に、フタロシアニン系染料の極性基のアニオンに多価金属イオンが吸着して、染料がある程度凝集して一次凝集体を形成する。その後、かかる一次凝集体に溶媒和する水溶性有機溶剤が増加する。このため、一次凝集体同士が近づきにくくなり、二次的な凝集が起こりにくくなる。このようなメカニズムにより、インク中の水溶性有機溶剤の含有量の合計を25.0質量%以上とすることで、ブロンズ現象の発生を顕著に抑制することができると考えられる。尚、第1の実施態様においては、インク中の水溶性有機溶剤の含有量の合計が25.0質量%未満であると、上記した効果が得られない場合がある。
【0078】
〔第2の実施態様による効果が得られるメカニズム〕
上記でも説明したように、本発明の第2の実施態様においては、以下の構成とすることが必須である。反応性インクが水溶性有機溶剤を特定の含有量で含有してなり、前記水溶性有機溶剤が、比誘電率が10.0以上30.0未満の水溶性有機溶剤を特定の割合で含んでなることが必要である。このとき、これらの水溶性有機溶剤の含有量が、以下の関係を満たすことが必要である。先ず、反応性インク中の水溶性有機溶剤の含有量の合計(質量%)が、インク全質量を基準として15.0質量%以上であることが必要である。更に、比誘電率が10.0以上30.0未満の水溶性有機溶剤の含有量が、インク中の水溶性有機溶剤の含有量の合計に対して、25.0%以上であることが必須である。即ち、水溶性有機溶剤の含有量の合計が15.0質量%以上であり、且つ、((比誘電率が10.0以上30.0未満の水溶性有機溶剤の含有量)/(水溶性有機溶剤の含有量の合計))が25.0%以上であることが必要である。
【0079】
フタロシアニン系染料の極性基のアニオンに多価金属イオンが吸着して、染料がある程度凝集して一次凝集体を形成すると、かかる一次凝集体のイオン性は低下する。又、フタロシアニン系染料はその分子骨格が嵩高いことから、分子として非極性に近い状態となる。更に、比誘電率が10.0以上30.0未満と低い水溶性有機溶剤は極性が低い。このため、比誘電率が低い水溶性有機溶剤を多く含有するインクは、インクの極性も低くなるため、一次凝集体の溶解性が高くなり、一次凝集体同士の会合を抑制できる。このようなメカニズムにより、インク中の水溶性有機溶剤の含有量の合計を15.0質量%以上として、且つ、特定の比誘電率を有する水溶性有機溶剤の割合を25.0%以上とすることで、ブロンズ現象の発生を顕著に抑制することができると考えられる。尚、第2の実施態様においては、水溶性有機溶剤の含有量の合計が15.0質量%未満であり、上記した特定の比誘電率を有する水溶性有機溶剤の含有量が、水溶性有機溶剤の含有量の合計に対して25.0%未満であると、上記した効果が得られない場合がある。
【0080】
一方、比誘電率が30.0以上と大きい水溶性有機溶剤は極性が高い。このため、比誘電率が高い水溶性有機溶剤を多く含有するインクは、インクの極性も高くなるため、一次凝集体の溶解性が低くなり、一次凝集体同士の会合が起こりやすいと考えられる。しかし、この場合には、上記した第1の実施態様において述べたように、インク中の水溶性有機溶剤の含有量の合計を25.0質量%以上と多くすることによって、ブロンズ現象の発生を抑制することができると考えられる。
【0081】
更に、反応性インクを記録媒体に付与して、記録媒体の受容層に前記反応性インク中の水溶性有機溶剤が浸透する際に、比誘電率が低い水溶性有機溶剤は極性が低いため、記録媒体の受容層の電荷を遮蔽しやすくなり、そのカチオン性が弱まる。その結果、記録媒体に付与された反応性インクは固液分離を起こしにくくなり、染料が記録媒体の深くまで浸透し、ブロンズ現象が発生しにくくなっていることも考えられる。これと同じ現象は、第1の実施態様における反応性インク中の水溶性有機溶剤の含有量の合計が多い場合にも同様に起きると考えられる。
【0082】
又、水溶性有機溶剤の分子構造が嵩高いほど立体障害が起きやすいため、フタロシアニン系染料と多価金属イオン、又は一次凝集体同士が近づきにくく、凝集が緩和されると考えられる。更に、反応性インクを記録媒体に付与した際に、記録媒体上で前記反応性インク中の水溶性有機溶剤の蒸発が起こる。このことから、これらの水溶性有機溶剤は、沸点が高いものや、常温で固体であるものは、記録媒体上で蒸発することがないため、フタロシアニン系染料や多価金属イオン、又は一次凝集体の近傍に留まるため、凝集を抑制できるとも考えられる。
【0083】
(添加剤)
反応性インクは、上記した成分以外に、界面活性剤、pH調整剤、キレート剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、消泡剤、及び、水溶性ポリマー等の種々の添加剤を含有しても良い。
【0084】
界面活性剤は、例えばアニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等が挙げられる。中でも、ノニオン性界面活性剤として、アセチレノール:EH、E100(川研ファインケミカル製)等、サーフィノール:104、82、465、オルフィンSTG(日信化学製)等を用いることが好ましい。
【0085】
pH調整剤は、インクのpHを6.0以上11.0以下の範囲に制御できるものであれば任意の物質を用いることができる。具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等のアルコールアミン化合物等。水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、又は炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等。
【0086】
上記したpH調製剤の中でも特に、ブロンズ現象の発生を抑制する効果を得ることができるため、以下のものを用いることが好ましい。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等のアルコールアミン化合物や、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等が好ましい。
【0087】
<顔料インク>
(色材)
〔カーボンブラック〕
顔料インクをブラックインクとして用いる場合、色材としてカーボンブラックを用いることが好ましい。顔料インク中におけるカーボンブラックの分散形態は、自己分散型、樹脂等を分散剤として用いた樹脂分散型、等の何れの形態であってもよい。
【0088】
自己分散型カーボンブラックは、少なくとも1つの親水性基(アニオン性基やカチオン性基)がカーボンブラック粒子の表面に直接又は他の原子団(−R−)を介して結合しているものが好ましい。かかる構成のカーボンブラックを用いることにより、カーボンブラックを水性媒体中に分散させるための分散剤の添加が不要となる、又は分散剤の添加量を少量とすることができる。アニオン性基がカーボンブラック粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合しているカーボンブラックの場合、アニオン性基は以下のものを用いることができる。例えば、−(COO(M))、−SO(M)、−POH(M)、−POH(M等が挙げられる。尚、式中「M」は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムであり、nは1以上である。中でも特に、カーボンブラック粒子の表面に、アニオン性基として−COO(M)又は−SO(M)を結合することで、アニオン性に帯電した自己分散型カーボンブラックは、顔料インク中における分散性が良好であるために、特に好ましい。又、前記他の原子団(−R−)は、アルキレン基又は芳香環が挙げられる。本発明におけるアルキレン基とは、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。又、本発明における芳香環とは、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられる。勿論、本発明はこれに限られるものではない。
【0089】
カーボンブラックの具体例は、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。具体的には、例えば、以下の市販品等を用いることができる。勿論、本発明はこれらに限られるものではない。
レイヴァン:7000、5750、5250、5000ULTRA、3500、2000、1500、1250、1200、1190ULTRA−II、1170、1255(以上、コロンビアンケミカル製)。ブラックパールズL、リーガル:330R、400R、660R、モウグルL、モナク:700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、2000、ヴァルカンXC−72R(以上、キャボット製)。カラーブラック:FW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリンテックス:35、U、V、140U、140V、スペシャルブラック:6、5、4A、4(以上、デグッサ製)。No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学製)。
【0090】
又、本発明のために別途新たに調製されたカーボンブラックを用いることもできる。又、カーボンブラックに限定されず、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子や、チタンブラック等を用いてもよい。
【0091】
〔有機顔料〕
ブラックインク以外の顔料インクに用いる色材は、各種の有機顔料が挙げられる。有機顔料は、以下のものを用いることができる。勿論、本発明はこれらに限られるものではない。
トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッド等の水不溶性アゾ顔料。リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の水溶性アゾ顔料。アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体。フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料。キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料。ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料。イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料。ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料。ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料。インジゴ系顔料。縮合アゾ系顔料。チオインジゴ系顔料。ジケトピロロピロール系顔料。フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等。
【0092】
又、本発明で用いることのできる有機顔料を、カラーインデックス(COLOUR INDEX)ナンバーで示すと、下記のものが挙げられる。
C.I.ピグメントイエロー:12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、97、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、180、185等。C.I.ピグメントオレンジ:16、36、43、51、55、59、61、71等。C.I.ピグメントレッド:9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192等。又、C.I.ピグメントレッド:215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272等。C.I.ピグメントバイオレット:19、23、29、30、37、40、50等。C.I.ピグメントブルー:15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64等。C.I.ピグメントグリーン:7、36等。C.I.ピグメントブラウン:23、25、26等。
【0093】
顔料インク中における、顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、更には、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0094】
(塩)
顔料インクが更に塩を含有することによって、記録媒体の種類により画像品位が大きく変化することなく、又、光学濃度が極めて高い画像を形成することができる。顔料インク中における塩の形態は、その一部が解離した状態、又は完全に解離した状態の何れの形態であってもよい。
【0095】
顔料インクに用いることができる塩の具体例は、例えば、以下のものが挙げられる。(M)NO、CHCOO(M)、CCOO(M)、C(COO(M))、C(COO(M))、(MSO等が挙げられる。尚、式中「M」はアルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。勿論、本発明はこれに限定されるものではない。
【0096】
顔料インク中における、塩の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。含有量が0.05質量%を下回る場合、上記した効果が得られない場合があり、10.0質量%を上回る場合、インクの保存安定性等が得られない場合がある。
【0097】
又、前記Mがアンモニウムである場合、より優れた耐水性が得られるために、好ましい。中でも特に、NHNO、C(COONH、C(COONH、(NHSO等は比較的短い時間で耐水性が発現するため、特に好ましい。又、塩が、C(COO(M))、C(COO(M))、(MSOである場合、保存時等に、インク中の水分が蒸発した際にも顔料の分散安定性がとりわけ優れているため、より好ましい。又、顔料粒子の表面に−R−(COO(M))基が結合している自己分散型顔料において、例えば、nが2の場合には、前記自己分散型顔料と組み合わせて用いる塩として2価の塩を用いることが好ましい。これは、即ち、顔料粒子表面の官能基の価数及び塩の価数が同じである場合、本発明の効果がより顕著に得られるため、特に好ましい。具体的には、顔料粒子表面に−R−(COO(M))基が結合している自己分散型顔料と、C(COO(M))、C(COO(M))、(MSOという塩の組み合わせ等が挙げられる。勿論、本発明はこれに限られるものではない。
【0098】
(水性媒体)
顔料インクは、上記で説明した色材を、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体に分散することで得られる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。顔料インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下とすることが好ましい。又、水溶性有機溶剤は、インクの乾燥を防止する効果を有するものが好ましい。顔料インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下とすることが好ましい。
【0099】
水溶性有機溶剤は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は、単独でも又は混合物としても用いることができる。
メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等の炭素数1乃至4のアルキルアルコール類。ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類。アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類。エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類。1,2,6−ヘキサントリオ−ル、チオジグリコール等のアルキレン基が2乃至6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類。ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアルキルエーテルアセテート類。グリセリン。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールのアルキルエーテル類。N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等。
【0100】
<その他のインク>
反応性インクは、上記で説明した顔料インクの他に、更にその他のインクと組み合わせて用いることができる。本発明におけるその他のインクとは、例えば、多価金属等を含有しない、即ち、顔料インクと反応しないインク(非反応性インク)を含む。前記非反応性インクは、通常のインクジェット用インクと同様の構成とすることができ、具体的には、少なくとも、色材、水及び水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。
【0101】
<インクジェット記録方法>
上記で説明した反応性インクや顔料インクは、インクをインクジェット方法で吐出して記録を行うインクジェット記録方法に適用することが特に好ましい。インクジェット記録方法は、インクに力学的エネルギーを作用させてインクを吐出する方法、及びインクに熱エネルギーを作用させてインクを吐出する方法等がある。特に、本発明においては、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法を好ましく用いることができる。
【0102】
<画像形成方法>
本発明にかかるインクは、上記で説明した反応性インクにより形成される画像、及び、上記で説明した顔料インクにより形成される画像、がそれぞれ隣接してなる画像を形成する画像形成方法に適用することが好ましい。特に、前記顔料インクを付与する前又は後に、前記顔料インクで画像を形成する領域に前記反応性インクを付与する構成を以下のようにすることが好ましい。即ち、前記顔料インク及び前記反応性インクとが記録媒体上において互いに接触して混合する際に、前記顔料インク中の顔料の分散状態を不安定化することが好ましい。
【0103】
<インクセット>
本発明にかかるインクは、複数のインクを有するインクセットに適用することが好ましい。特に、上記で説明した反応性インク及び顔料インクを有するインクセットとすることが好ましい。
【0104】
インクセットは、インクカートリッジが複数一体になったインクカートリッジ自体は勿論のこと、単独のインクカートリッジを複数組み合わせて用いる場合も含み、更に、前記インクカートリッジ及び記録ヘッドを一体としたものも含まれる。
【0105】
又、前記インクカートリッジを、以下のように組み合わせて用いる場合も、本発明のインクセットの一例として挙げられる。前記インクカートリッジを、更に別のブラックインクを収容するインクカートリッジと組み合わせて用いる場合。前記インクカートリッジを、更にブラックインク、淡シアンインク及び淡マゼンタインクをそれぞれ収容するインクカートリッジを一体にしたインクカートリッジと組み合わせて用いる場合。
【0106】
更に、インクセットにおいて、単独のインクカートリッジを複数組み合わせて用いる場合の具体例には、以下の形態のものが挙げられる。シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクをそれぞれ収容する独立したインクカートリッジと、更に別のブラックインクを収容するインクカートリッジとを組み合わせて用いる場合。ブラックインク、淡シアンインク、及び淡マゼンタインクをそれぞれ収容するインクカートリッジを組み合わせて用いる場合。レッドインクを収容する単独のインクカートリッジを追加して用いる場合。グリーンインクを収容する単独のインクカートリッジを追加して用いる場合。
【0107】
特に、単独のインクカートリッジと、更に別のブラックインクを収容するインクカートリッジと組み合わせて用いるインクセットの形態であることが好ましい。
【0108】
<インクカートリッジ>
上記で説明した反応性インクや顔料インクを用いてインクジェット記録を行うのに好適なインクカートリッジは、これらのインクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジが挙げられる。以下にインクカートリッジの具体例を示す。
【0109】
図1は、インクカートリッジの概略説明図である。図1において、インクカートリッジは、上部で大気連通口112を介して大気に連通し、下部でインク供給口に連通する。そして、前記インクカートリッジは、内部に負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室134、及び、液体のインクを収容する実質的に密閉された液体収容室136、を仕切壁138で仕切る構造を有する。負圧発生部材収容室134及び液体収容室136は、インクカートリッジの底部付近で仕切壁138に形成された連通孔140、及び液体供給動作時に液体収容室への大気の導入を促進するための大気導入溝(大気導入路)150を介してのみ連通されている。負圧発生部材収容室134を形成するインクカートリッジの上壁には、内部に突出する形態で複数個のリブが一体に成形され、負圧発生部材収容室134に圧縮状態で収容される負圧発生部材と当接している。このリブにより、上壁と負圧発生部材の上面との間にエアバッファ室が形成されている。又、液体供給口114を備えたインク供給筒には、負圧発生部材より毛管力が高く、且つ物理的強度が大きい圧接体146が設けられており、負圧発生部材と圧接している。
【0110】
負圧発生部材収容室134内には、負圧発生部材として、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂の繊維からなる第一の負圧発生部材132B及び第二の負圧発生部材132A、の2つの毛管力発生型負圧発生部材を収容している。132Cはこの2つの負圧発生部材の境界層であり、境界層132Cの仕切壁138との交差部分は、連通部を下方にしたインクカートリッジの使用時の姿勢において大気導入溝(大気導入路)150の上端部より上方に存在している。又、負圧発生部材内に収容されるインクは、インクの液面Lで示されるように、上記境界層132Cよりも上方まで存在している。
【0111】
ここで、第一の負圧発生部材132Bと第二の負圧発生部材132Aの境界層は圧接しており、負圧発生部材の境界層近傍は他の部位と比較して圧縮率が高く、毛管力が強い状態となっている。即ち、第一の負圧発生部材132Bの毛管力をP1、第二の負圧発生部材132Aの毛管力をP2、負圧発生部材同士の界面の持つ毛管力をPSとすると、P2<P1<PSとなっている。
【0112】
図2は、インクカートリッジの別の形態を示す概略説明図である。図2に示す形態のインクカートリッジは、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の3色のインクを収容する容器41と、容器41を覆う蓋部材42とを有する。インクカートリッジは、イエロー、マゼンタ、及びシアンの各インクについての、イエローインク供給口43Y、マゼンタインク供給口43M、及びシアンインク供給口43Cを有する。容器41の内部は、3色のインクを収容するために、互いに平行に配置された2つの仕切板411及び412により、容量がほぼ等しい3つの空間に仕切られる。これら3つの空間は、互いにインクカートリッジホルダへインクカートリッジを装着する際のインクカートリッジの挿入方向に沿って並んでいる。これらの空間にそれぞれ、イエローのインクを吸収して保持するインク吸収体44Y、マゼンタのインクを吸収して保持するインク吸収体44M、及びシアンのインクを吸収して保持するインク吸収体44Cが収容されている。又、インク供給口に各インクを供給するインク供給部材45Y、45M、45Cがインク吸収体の下部に接して収容されている。負圧発生部材であるインク吸収体44Y、44M、44C内に収容されているインクは、インクの液面Lで示されるように、それぞれのインク吸収体の上部まで存在している。
【0113】
図3は、記録ヘッドとインクカートリッジが一体構成となっている記録ヘッドの分解図である。前記記録ヘッドを用いる場合、インクセットを構成する各インクの各液室からの蒸発量の差が、実質的に等しいインクカートリッジを好ましく用いることができる。インクセットを構成する各インクの各液室からの蒸発量の差が実質的に等しいとは、例えば、各液室に水を含有させて各液室からの蒸発速度を測定した場合に、蒸発速度の差が1%程度以下となることをいう。
【0114】
図3に示される記録ヘッド1001は、インクジェット記録装置本体に載置されているキャリッジの位置決め手段及び電気的接点によって支持固定される。又、記録ヘッド1001は、キャリッジに対して着脱可能となっており、搭載したインクが消費されると交換される。
【0115】
記録ヘッド1001はインクを吐出させるためのものであり、インク供給口が並列して形成された記録素子基板1100、インクを吐出するための電気信号を印加する電気信号経路を形成する電気配線テープ1300を有する。更に、その内部は、樹脂成形により形成されたインク供給保持部材1400、インクを保持するための負圧を発生するインク吸収体1500、蓋部材1600から構成されている。
【0116】
インク供給保持部材1400は、インクカートリッジの機能、及び、インク供給機能とを備えている。即ち、内部にシアン、マゼンタ、イエローのインクを保持するための負圧を発生するための吸収体1500を保持するための空間を有することでインクカートリッジの機能を有する。更に、記録素子基板1100のインク供給口にインクを導くための独立したインク流路を形成することでインク供給機能を有する。インク流路の下流部には、記録素子基板1100にインクを供給するためのインク供給口1200が形成されている。そして、記録素子基板1100のインク供給口がインク供給保持部材1400のインク供給口1200に連通するよう、記録素子基板1100がインク供給保持部材1400に対して固定される。又、インク供給口1200付近周囲の平面には、電気配線テープ1300の一部の裏面が固定される。蓋部材1600は、インク供給保持部材1400の上部開口部に溶着されることで、インク供給保持部材1400内部の空間を閉塞するものである。蓋部材1600は記録ヘッドをインクジェット記録装置に固定するための係合部1700を有している。
【0117】
図4は、本発明に用いることができる別の一例である記録ヘッドの分解図である。図4に示される記録ヘッドは、図3の場合と同様に、インクカートリッジ一体構成となっている。記録ヘッド1001は、異なる複数の色のインク(例えば、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク)を搭載することができ、搭載したインクが消費されると交換される。
【0118】
記録ヘッド1001は異なる複数の色のインク(例えば、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク)を吐出するためのもので、シアン、マゼンタ、イエロー用のインク供給口が並列して形成された記録素子基板1100等から構成されている。インク供給保持部材1400は、インクカートリッジの機能、及び、インク供給機能とを備えている。即ち、内部にシアン、マゼンタ、イエローのインクを保持するための負圧を発生するための吸収体1501、1502、1503をそれぞれ独立して保持するための空間を有することでインクカートリッジの機能を有する。更に、記録素子基板1100のインク供給口にそれぞれのインクを導くための独立したインク流路を形成することでインク供給機能を有する。
【実施例】
【0119】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、特に指定のない限り、実施例、比較例のインク成分は「質量部」を意味する。
【0120】
<実施例1〜6及び比較例1〜4>
(色材Aの合成)
(1)銅フタロシアニンテトラスルホン酸テトラナトリウム塩(化合物(2))の合成
【0121】
化合物(2)
【0122】
【化9】

【0123】
スルホラン、4−スルホフタル酸モノナトリウム塩、塩化アンモニウム、尿素、モリブデン酸アンモニウム、塩化銅(II)を混合し、撹拌した後、メタノールで洗浄を行った。その後、水を加え、水酸化ナトリウム水溶液を用いて、溶液のpHを11に調整した。得られた溶液に撹拌下で塩酸水溶液を加え、更に塩化ナトリウムを徐々に加え、結晶を析出させた。得られた結晶を濾別したものを、20%塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、続いてメタノールを加え、析出した結晶を濾別した。そして、得られた結晶を70%メタノール水溶液で洗浄した後に乾燥させ、化合物(2)の銅フタロシアニンテトラスルホン酸テトラナトリウム塩を青色結晶として得た。
【0124】
(2)銅フタロシアニンテトラスルホン酸クロライド(化合物(3))の合成
【0125】
化合物(3)
【0126】
【化10】

【0127】
クロロスルホン酸中に、上記で得られた銅フタロシアニンテトラスルホン酸テトラナトリウム塩(化合物(2))を徐々に加え、更に、塩化チオニルを滴下し、反応を行った。その後、反応液を冷却し、析出した結晶をろ過し、銅フタロシアニンテトラスルホン酸クロライドのウェットケーキを得た。
【0128】
(3)下記化合物(4)で表される化合物の合成
化合物(4)は、一般式(III)において、Yがアミノ基、R及びRが2位及び5位に置換したスルホン酸基である化合物である。
【0129】
化合物(4)
【0130】
【化11】

【0131】
氷水中に、リパールOH、塩化シアヌル、アニリン−2,5−ジスルホン酸モノナトリウム塩を加え、水酸化ナトリウム水溶液を添加しながら反応を行った。次に、反応液に、水酸化ナトリウム水溶液を添加して、反応液のpHを10に調整した。この反応液に、28%アンモニア水、エチレンジアミンを加え、反応を行った。得られた反応液に、塩化ナトリウム、濃塩酸を滴下して、結晶を析出させた。析出した結晶をろ過分取し、20%塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキに、メタノール及び水を加え、更にろ過し、メタノールで洗浄を行った後、乾燥させて、化合物(4)で表される化合物を得た。
【0132】
(4)色材A〜Cの合成
氷水中に、(2)で得られた銅フタロシアニンテトラスルホン酸クロライド(化合物(3))のウェットケーキを加え、撹拌を行って懸濁させ、更に、アンモニア水、(3)で得られた化合物(4)を添加して、反応を行った。これに、水、塩化ナトリウムを加えて、結晶を析出させた。得られた結晶をろ過し、塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、再度ろ過を行った後、洗浄、乾燥して、青色結晶として色材Aを得た。上記反応から、この化合物は例示化合物1で示される色材であり、一般式(I)における置換基数の平均がl=1.0〜1.5、m=1.0〜1.5、n=2.0〜2.5の範囲で示される色材であると推定される。
【0133】
上記と同様の合成フローで、例示化合物1で表される化合物であり、一般式(I)における置換基数の平均がそれぞれ異なる色材B及びCを合成した。色材A〜Cにおける置換基数の平均を下記表1に示す。
【0134】
【表1】

【0135】
(水溶性有機溶剤の比誘電率の測定)
反応性インクの調製に用いる各種の水溶性有機溶剤の比誘電率を、ポータブル式誘電率測定器BI−870(Brookhaven製)を用いて、室温20℃、測定周波数10kHzの条件で測定を行った。結果を表2に示す。尚、エチレン尿素及び1,6−ヘキサンジオールは20℃で固体であるため、本発明における20℃における比誘電率が10.0以上30.0未満である水溶性有機溶剤には該当しない。
【0136】
【表2】

【0137】
(反応性インクの調製)
下記表3−1、表3−2、及び表3−3に示す各成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターにて加圧ろ過を行い、各反応性インクを調製した。
【0138】
(d75値の測定)
各反応性インクをそれぞれ色材濃度が0.5質量%になるように純水で希釈した後、小角X線散乱法によりd75値を測定した。d75値の測定条件は以下に示す通りである。
・装置:Nano Viewer(理学製)
・X線源:Cu−Kα
・出力:45kV−60mA
・実効焦点:0.3mmφ+Confocal Max−Flux Mirror
・1st slit:0.5mm、2nd Slit:0.4mm、3rd Slit:0.8mm
・照射時間:360min
・ビームストッパー:3.0mmφ
・測定法:透過法
・検出器:Blue Imaging Plate
【0139】
得られた散乱角プロファイルから、X線回折データ処理ソフトJADE(Material Data,Inc.)を用いて、バックグラウンドを除去したピーク面積、及び、同ピーク面積全体の75%以上が含まれる2θ値(2θ75値)を測定した。又、2θ75値から、下記式(2)に基づいてd75値を算出した。結果を表3−1、表3−2、及び表3−3に示す。
【0140】
【数3】

【0141】
【表3】

【0142】
【表4】

【0143】
【表5】

【0144】
(顔料分散液の調製)
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で4−アミノ−1,2−ベンゼンジカルボン酸1.5gを加えた。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かした溶液を加えた。この溶液を更に15分間撹拌後、比表面積が220m/gでDBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。その後、更に15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥して、自己分散型カーボンブラック1を調製した。更に、上記で得られた自己分散型カーボンブラック1に水を加えて顔料含有量が10質量%となるように分散させ、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−C−(COONa)基が導入されてなる自己分散型カーボンブラックが水中に分散された状態の顔料分散液1を得た。
【0145】
更に、上記で得られた顔料分散液1に対して、イオン交換法によりナトリウムイオンをアンモニウムイオンに置換して、自己分散型カーボンブラック2を調製した。更に、上記で得られた自己分散型カーボンブラック2に水を加えて顔料の含有量が10質量%となるように分散して、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−C−(COONH基が導入されてなる自己分散型カーボンブラックが水中に分散された状態の顔料分散液を得た。
【0146】
尚、上記で調製した自己分散型カーボンブラック2のイオン性基密度は、3.1μmol/mであった。この際に用いたイオン性基密度の測定方法は、上記で調製した顔料分散体中のアンモニウムイオン含有量をイオンメーター(東亜DKK製)を用いて測定し、その値から自己分散型カーボンブラックのイオン性基密度に換算した。
【0147】
(顔料インクの調製)
下記表4に示した各成分を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルターにて加圧ろ過を行い、顔料インクを調製した。
【0148】
【表6】

【0149】
(評価)
〔耐ブロンズ性〕
インクジェット記録装置(商品名:PIXUS950i;キヤノン製)用のインクカートリッジに、上記で得られた各反応性インクをそれぞれ充填した。得られたインクカートリッジを、インクジェット記録装置(商品名:PIXUS950i;キヤノン製)を改造したものに搭載した。そして、プロフェッショナルフォトペーパーPR−101(キヤノン製)に、記録デューティを10%〜100%の間で10%刻みに変化させた画像を形成した。得られた画像について、記録デューティが30%である部分におけるブロンズ現象の発生の程度を目視で確認した。耐ブロンズ性の基準は以下の通りである。評価結果を表5に示す。
AA:ブロンズ現象が発生していない
A:ブロンズ現象がほとんど発生していない
B:ブロンズ現象の発生が気になる
C:明らかにブロンズ現象が発生している
【0150】
〔耐ブリーディング性〕
インクジェット記録装置(商品名:iP3100;キヤノン製)用のインクカートリッジに、上記で得られた各反応性インク、及び顔料インクをそれぞれ充填した。得られたインクカートリッジを、インクジェット記録装置(商品名:iP3100;キヤノン製)を改造したものに、各反応性インク及び顔料インクを組み合わせて搭載した。そして、4024(ゼロックス製)に、反応性インクで形成したベタ画像及び顔料インクで形成したベタ画像が隣接する画像を形成した。得られた画像について、反応性インクで形成した画像及び顔料インクで形成した画像の境界部におけるブリーディングの程度を目視で観察した。耐ブリーディング性の基準は以下の通りである。評価結果を表5に示す。
AA:全ての境界部においてブリーディングが発生していない
A:ブリーディングがほとんど発生していない
B:わずかにブリーディングが発生しているが、実際の使用において問題のないレベルである
C:色の境界線がはっきりしないほどブリーディングが発生している
【0151】
【表7】

【0152】
<実施例6及び7>
(反応性インクの調製及びd75値の測定)
下記表6に示した各成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターにて加圧ろ過を行い、実施例6及び7の反応性インクを調製した。
【0153】
実施例6及び7の反応性インクを、色材濃度が0.5質量%となるように純水で希釈した後、上記と同様にして小角X線散乱法によりd75値を測定した。結果を表6に示す。
【0154】
【表8】

【0155】
(評価)
〔耐オゾン性〕
インクジェット記録装置(商品名:PIXUS950i;キヤノン製)用のインクカートリッジに、上記で得られた実施例6及び7の反応性インクをそれぞれ充填した。得られたインクカートリッジを、インクジェット記録装置(商品名:PIXUS950i;キヤノン製)を改造したものに搭載した。そして、プロフェッショナルフォトペーパーPR−101(キヤノン製)に、記録デューティを10%〜100%の間で10%刻みに変化させた画像を形成した。得られた画像について、記録デューティが50%である部分の光学濃度を測定した(初期の光学濃度とする)。更に、前記画像をオゾン試験装置(商品名:OMS−H;スガ試験機製)中に置き、槽内温度40℃、湿度55%、オゾンガス濃度3ppmの環境で20時間、オゾン暴露を行った。その後、オゾン暴露後の画像について、記録デューティが50%である部分の光学濃度を測定した(オゾン暴露後の光学濃度とする)。尚、光学濃度の測定には、Spectorino(Gretag Macbeth製)を用いた。初期及びオゾン暴露後の光学濃度の値から、下記式(3)に基づいて、濃度残存率を算出した。耐オゾン性の基準は以下の通りである。評価結果を表7に示す。尚、表7には、実施例1〜7、並びに参考例1、2、及び4の反応性インクを用いて耐オゾン性を同様に評価した結果、及び各反応性インクのd75値も示す。
【0156】
【数4】

【0157】
AA:濃度残存率が88%以上である
A:濃度残存率が83%以上88%未満である
B:濃度残存率が80%以上83%未満である
C:濃度残存率が80%未満である
〔耐ブロンズ性及び耐ブリーディング性〕
実施例6及び7の反応性インク、並びに顔料インクを用いて、上記と同様の方法及び基準で、耐ブロンズ性及び耐ブリーディング性の評価を行った。評価結果を表8に示す。
【0158】
【表9】

【0159】
【表10】

【0160】
<実施例8及び9>
(反応性インクの調製及びd75値の測定)
下記表9に示した各成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターにて加圧ろ過を行い、実施例8及び9の反応性インクを調製した。
【0161】
実施例8及び9の反応性インクを、色材濃度が0.5質量%となるように純水で希釈した後、上記と同様にして小角X線散乱法によりd75値を測定した。結果を表9に示す。
【0162】
【表11】

【0163】
(評価)
〔吐出安定性〕
インクジェット記録装置(商品名:PIXUS950i;キヤノン製)用のインクカートリッジに、上記で得られた実施例8及び9の反応性インクをそれぞれ充填した。得られたインクカートリッジを、インクジェット記録装置(商品名:PIXUS950i;キヤノン製)を改造したものに搭載した。そして、プロフェッショナルフォトペーパーPR−101(キヤノン製)に、記録デューティを10%〜100%の間で10%刻みに変化させた画像を形成した。
【0164】
その結果、実施例8の反応性インクを用いた場合、実施例1〜7の反応性インクを用いた場合と同様に、記録に乱れがなかった。一方、実施例9の反応性インクを用いた場合、記録に多少の乱れが見られた。
【0165】
〔耐ブロンズ性及び耐ブリーディング性〕
実施例8及び9の反応性インク、並びに顔料インクを用いて、上記と同様の方法及び基準で、耐ブロンズ性及び耐ブリーディング性の評価を行った。評価結果を表10に示す。
【0166】
【表12】

【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】インクカートリッジの概略説明図である。
【図2】インクカートリッジの概略説明図である。
【図3】記録ヘッドの分解図である。
【図4】記録ヘッドの分解図である。
【図5】小角X線散乱法の測定原理図である。
【図6】フタロシアニン系染料及びトリフェニルメタン系染料の小角X線散乱角プロファイルである。
【図7】フタロシアニン系染料の分子集合体の分散距離の概念図である。
【符号の説明】
【0168】
112 大気連通口
114 液体供給口
132A 第二の負圧発生部材
132B 第一の負圧発生部材
132C 第一の負圧発生部材と第二の負圧発生部材の境界層
134 負圧発生部材収容室
136 液体収容室
138 仕切壁
140 連通孔
146 圧接体
150 大気導入溝(大気導入路)
41 容器
42 蓋部材
43Y、43M、43C インク供給口
44Y、44M、44C インク吸収体
45Y、45M、45C インク供給部材
411、412 仕切板
L 液体−気体界面
1001 記録ヘッド
1100 記録素子基板
1200 インク供給口
1300 電気配線テープ
1400 インク供給部材
1500 インク吸収体
1501 インク吸収体
1502 インク吸収体
1503 インク吸収体
1600 蓋部材
1700 係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料インクと共に用いるインクジェット用インクであって、
前記インクジェット用インクが、色材、多価金属、及び水溶性有機溶剤を含有し、
前記色材が、少なくとも下記一般式(I)で表される化合物であり、
前記多価金属の含有量(mol/g)が、2.0×10−6mol/g以上4.0×10−4mol/g以下であり、
前記水溶性有機溶剤の含有量の合計(質量%)が、インク全質量を基準として、25.0質量%以上であり、
且つ、小角X線散乱法により得られた、前記インクジェット用インクの色材濃度が0.5質量%になるように調製したインクにおける分子集合体の分散距離の分布の75%を占める分散距離d75値が、12.60nm以下であることを特徴とするインクジェット用インク。
一般式(I)
【化1】

(一般式(I)中、Mはアルカリ金属又はアンモニウムであり、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、スルホン酸基、又はカルボキシル基(但し、R及びRが同時に水素原子となる場合を除く)であり、Yは塩素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、又はモノ若しくはジアルキルアミノ基であり、l、m、nはそれぞれ、l=0乃至2、m=1乃至3、n=1乃至3(但し、l+m+n=3乃至4)であり、置換基の置換位置は4位又は4’位である。)
【請求項2】
顔料インクと共に用いるインクジェット用インクであって、
前記インクジェット用インクが、色材、多価金属、及び水溶性有機溶剤を含有し、
前記色材が、下記一般式(I)で表される化合物であり、
前記多価金属の含有量(mol/g)が、2.0×10−6mol/g以上4.0×10−4mol/g以下であり、
前記水溶性有機溶剤の含有量の合計(質量%)が、インク全質量を基準として、15.0質量%以上であり、
前記水溶性有機溶剤が、20℃における比誘電率が10.0以上30.0未満の水溶性有機溶剤を有し、前記20℃における比誘電率が10.0以上30.0未満の水溶性有機溶剤の含有量が、インク中の水溶性有機溶剤の含有量の合計に対して25.0質量%以上であり、
且つ、小角X線散乱法により得られた、前記インクジェット用インクの色材濃度が0.5質量%になるように調製したインクにおける分子集合体の分散距離の分布の75%を占める分散距離d75値が、12.60nm以下であることを特徴とするインクジェット用インク。
一般式(I)
【化2】

(一般式(I)中、Mはアルカリ金属又はアンモニウムであり、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、スルホン酸基、又はカルボキシル基(但し、R及びRが同時に水素原子となる場合を除く)であり、Yは塩素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、又はモノ若しくはジアルキルアミノ基であり、l、m、nはそれぞれ、l=0乃至2、m=1乃至3、n=1乃至3(但し、l+m+n=3乃至4)であり、置換基の置換位置は4位又は4’位である。)
【請求項3】
前記20℃における比誘電率が10.0以上30.0未満である水溶性有機溶剤が、イソプロピルアルコール、2−ピロリドン、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、及びポリエチレングリコール(平均分子量200)からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載のインクジェット用インク。
【請求項4】
前記多価金属の含有量(mol/g)が、7.8×10−5mol/g以上4.0×10−4mol/g以下である請求項1乃至3の何れか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項5】
前記色材の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、3.0質量%以上10.0質量%以下である請求項1乃至4の何れか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項6】
前記d75値が、6.70nm以上である請求項1乃至5の何れか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項7】
前記水溶性有機溶剤の含有量の合計(質量%)が、インク全質量を基準として、50.0質量%以下である請求項1乃至6の何れか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項8】
インクをインクジェット方法で吐出して記録を行うインクジェット記録方法において、前記インクが、請求項1乃至7の何れか1項に記載のインクジェット用インク及び顔料インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項9】
インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、前記インクが、請求項1乃至7の何れか1項に記載のインクジェット用インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項10】
複数のインクで構成されるインクセットであって、
前記インクセットが、少なくとも、顔料インク、及び前記顔料インクと反応するインクを含んでなり、
前記顔料インクと反応するインクが、請求項1乃至7の何れか1項に記載のインクジェット用インクであることを特徴とするインクセット。
【請求項11】
少なくとも、顔料インク及び前記顔料インクと反応するインクを用いて画像を形成する画像形成方法であって、
前記顔料インクと反応するインクが、請求項1乃至7の何れか1項に記載のインクジェット用インクであることを特徴とする画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−270145(P2007−270145A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60361(P2007−60361)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】