説明

インクジェット用インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置

【課題】記録された画像が耐光性に優れており、インクの耐固着性や間欠吐出安定性にも優れるインクジェット用インクを提供する。さらには、熱エネルギーの作用によりインクを吐出するインクジェット記録方式に適用した場合にも、記録耐久性に優れ、また、マゼンタインクとしての好ましい色調を有するインクジェット用インクを提供する。また、前記インクジェット用インクを用いることで、耐光性に優れる保存性の高い画像が安定して得られるインクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】少なくとも下記一般式(I)で表される化合物及び下記一般式(II)で表される化合物を含有することを特徴とするインクジェット用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インク小滴を普通紙や光沢メディアなどの記録媒体に付与して画像を形成する記録方法であり、その低価格化、記録速度の向上により、急速に普及が進んでいる。また、インクジェット記録方法は、得られる画像の高画質化が進んだことに加えて、デジタルカメラの急速な普及に伴い、銀塩写真に匹敵する画像の出力方法として広く一般的になっている。
【0003】
近年、インクジェット方式により吐出されるインク滴の極小化や、多色インクの導入に伴う色域の向上などにより、インクジェット記録方法により得られる画像においては今まで以上に高画質化が進んでいる。しかしその反面、色材やインクに対する要求はより大きくなり、発色性の向上や、目詰まり、吐出安定性などの信頼性において、より厳しい特性が要求されている。特に、熱エネルギーの作用によりインクを記録ヘッドから吐出させて記録を行うインクジェット記録方式に適用するインクには、下記の特性が求められている。すなわち、この場合は、所定回数の電気パルスを付与しても、記録ヘッドにおけるコゲーションやヒーターの断線などが発生しないような特性、つまり記録耐久性に優れることが要求される。
【0004】
また、インクジェット記録方法の問題点として、得られた画像の堅牢性(画像保存性)が十分でないことが挙げられる。一般に、インクジェット記録方法で得られた画像は、銀塩写真と比較してその画像保存性が低い場合がある。具体的には、記録物が、光、湿度、熱、空気中に存在する環境ガスなどに長時間さらされると、画像上の色材が劣化して、画像の色調変化や褪色が発生しやすいという問題がある。特に、色材として染料を含有するインクを用いて記録した画像の堅牢性、中でも耐光性の観点では、色材に特有の化学反応に起因する耐光性の低さが課題となっている。インクジェット記録方法に多用される、シアン、マゼンタ、イエローの各カラーインクの中でも画像の堅牢性が低い傾向があるマゼンタインクに関しては、染料についての検討が多くなされている。
【0005】
この耐光性の問題を解決し、画像の耐光性を向上させるために、従来から数多くの提案がなされている。例えば、高い堅牢性と発色性を兼ね備えた、特定のアゾ構造を有するマゼンタ染料に関する提案がある(特許文献1参照)。
【0006】
また、インクジェット記録方法に適用するインクの信頼性を向上させることを目的として、インク中にビス(2−ヒドロキシエチル)スルホンを含有させる提案がある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−143989号公報
【特許文献2】特開平10−60347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インクジェット記録画像の高画質化に伴い、画像の堅牢性に求められる水準も高まっている。そこで、本発明者らは、上記で挙げた特許文献1に記載されたマゼンタ染料を含有するインクについて検討を行った。しかし、この場合に得られる画像の堅牢性は、近年求められるレベルには達していないことがわかった。さらに、本発明者らは、画像の堅牢性を向上できることが従来から知られている化合物などを用いることによって、上記マゼンタ染料を含有するインクを用いて記録した画像の堅牢性を向上させることについての検討も行った。しかし、このような化合物を上記マゼンタ染料と併用することによって、以下のような新たな課題が発生することがわかった。
【0009】
先ず、記録ヘッドの吐出口におけるインクの目詰まりが発生する、すなわちインクの耐固着性が十分でないという課題が発生することがわかった。また、一定時間インクを吐出しない状態でインクジェット記録装置を放置すると、吐出口からインク中の水分などが蒸発することにより、正常なインクの吐出が行われない、すなわち、間欠吐出安定性が十分でないという課題が発生することがわかった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、記録された画像が耐光性に優れており、インクの耐固着性や間欠吐出安定性にも優れるインクジェット用インクを提供することにある。さらには、熱エネルギーの作用によりインクを吐出するインクジェット記録方式に適用した場合にも、記録耐久性に優れ、また、マゼンタインクとしての好ましい色調を有するインクジェット用インクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記インクジェット用インクを用いることで、耐光性に優れる保存性の高い画像が安定して得られるインクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクジェット用インクは、少なくとも下記一般式(I)で表される化合物及び下記一般式(II)で表される化合物を含有してなることを特徴とする。

(一般式(I)中、[A]は5員複素環基であり、[B]及び[C]は、CR1及びCR2であるか、又は、一方が窒素原子で他方がCR1であり、R5及びR6はそれぞれ独立に、水素原子又は下記に挙げる群から選ばれるいずれかの置換基である。該置換基の群は、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、及びスルファモイル基からなり、該置換基の水素原子は置換されていてもよい。また、式中の[D]、並びに、[B]及び[C]の一部を構成し得る上記のR1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子又は下記に挙げる群から選ばれるいずれかの置換基である。該置換基の群は、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、複素環オキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、複素環スルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、複素環スルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、複素環スルフィニル基、スルファモイル基、及びスルホン酸基からなり、該置換基の水素原子は置換されていてもよく、R1及びR5、又はR5及びR6が結合して、5員環又は6員環を形成してもよい。)

(一般式(II)中、−[E]−は、−S(=O)2−であり、Rx及びRyは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルケニル基、アシル基、カルバモイル基、カルボキシ基、及びスルホニル基のいずれかである。ただし、Rx及びRyが同時に水素原子及び/又はヒドロキシ基となることはない。)
【0012】
また、本発明の別の実施態様にかかるインクジェット記録方法は、インクをインクジェット方式で吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、前記インクが上記構成のインクジェット用インクであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の別の実施態様にかかるインクカートリッジは、インクを収容してなるインク収容部を備えたインクカートリッジであって、前記インクが上記構成のインクジェット用インクであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の別の実施態様にかかる記録ユニットは、インクを収容してなるインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えた記録ユニットであって、前記インクが上記構成のインクジェット用インクであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の別の実施態様にかかるインクジェット記録装置は、インクを収容してなるインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置であって、前記インクが上記構成のインクジェット用インクであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、画像の耐光性に優れ、インクの耐固着性や間欠吐出安定性に優れるインクジェット用インクを提供することができる。さらに本発明の別の実施態様によれば、熱エネルギーの作用によりインクを吐出するインクジェット記録方式に適用しても、記録耐久性に優れ、また、マゼンタインクとして好ましい色調を有するインクジェット用インクを提供することができる。また、本発明の別の実施態様によれば、前記インクジェット用インクを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】インクジェット記録装置の斜視図である。
【図2】インクジェット記録装置の機構部の斜視図である。
【図3】インクジェット記録装置の断面図である。
【図4】ヘッドカートリッジにインクカートリッジを装着する状態を示す斜視図である。
【図5】ヘッドカートリッジの分解斜視図である。
【図6】ヘッドカートリッジにおける記録素子基板を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、詳細に説明する。なお、本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩の少なくとも一部はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、以下の記載において、一般式(I)乃至(III)で表される化合物はそれぞれ、「一般式(I)の化合物」、「一般式(II)の化合物」、及び「一般式(III)の化合物」と記載することがある。
【0019】
<インク>
以下、本発明にかかるインクジェット用インク(以下、単にインクと呼ぶこともある)を構成する成分や、インクの物性などについて詳細に述べる。
本発明者らの検討の結果、特定のアゾ系染料と特定の化合物とを併用するという構成のインクにより、該インクを用いて記録した画像は優れた耐光性を有し、さらにインクの耐固着性や間欠吐出安定性にも優れるという知見を得た。本発明はかかる知見に基づいてなされたものであり、その特徴の一つは、アゾ系の染料及び特定の化合物を併用することにある。
【0020】
(一般式(I)で表される化合物)
本発明のインクは、色材として下記一般式(I)の化合物を含有することが必要である。
【0021】

(一般式(I)中、[A]は5員複素環基であり、[B]及び[C]は、CR1及びCR2であるか、又は、一方が窒素原子で他方がCR1であり、R5及びR6はそれぞれ独立に、水素原子又は下記に挙げる群から選ばれるいずれかの置換基である。該置換基の群は、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、及びスルファモイル基からなり、該置換基の水素原子は置換されていてもよい。また、式中の[D]、並びに、[B]及び[C]の一部を構成し得る上記のR1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子又は下記に挙げる群から選ばれるいずれかの置換基を表す。該置換基の群は、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基。アリールオキシ基、複素環オキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基。スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、複素環スルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基。アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、複素環スルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、複素環スルフィニル基、スルファモイル基、及びスルホン酸基からなり、これらの置換基の水素原子は置換されていてもよい。式中の、R1及びR5、又はR5及びR6は、結合して5員環又は6員環を形成してもよい。)
【0022】
一般式(I)における[A]は、5員複素環ジアゾ成分[A]−NH2の残基である。複素環を構成するヘテロ原子は、具体的には、N、O、及びSなどが挙げられる。中でも、含窒素5員複素環であることが好ましい。なお、複素環には、脂肪族環、芳香族環、又は他の複素環が縮合していてもよい。複素環は、ピラゾール環、イミダゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、及びベンゾイソチアゾール環が挙げられる。複素環基はさらに置換基を有していてもよい。中でも、下記一般式(1)乃至(6)で表される、ピラゾール環、イミダゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環、又はベンゾチアゾール環が好ましい。
【0023】

【0024】
一般式(1)乃至(6)中のR7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19及びR20は、先に説明した一般式(I)の一部を構成する[D]、R1及びR2として選択できるものと同様のものを示す。一般式(1)乃至(6)の中でも、一般式(1)又は一般式(2)で表されるピラゾール環又はイソチアゾール環が好ましく、特には、一般式(1)で表されるピラゾール環が好ましい。
【0025】
一般式(I)における[B]及び[C]は、CR1及びCR2であるか、又は、一方が窒素原子で他方がCR1であり、R5及びR6はそれぞれ独立に、水素原子又は下記に挙げる群から選ばれるいずれかの置換基である。該置換基の群は、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、及びスルファモイル基からなり、該置換基の水素原子は置換されていてもよい。R5及びR6は、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルキルスルホニル基、及びアリールスルホニル基のいずれかであることが好ましい。中でも、水素原子、芳香族基、複素環基、アルキルスルホニル基、又はアリールスルホニル基であることが好ましく、特には、水素原子、アリール基、又は複素環基であることが好ましい。ただし、R5及びR6が同時に水素原子となることはない。また、各置換基はさらに置換基を有していてもよい。
【0026】
一般式(I)における[D]、並びに、[B]及び[C]の一部を構成し得るR1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子又は下記に挙げる群から選ばれるいずれかの置換基を表す。該置換基の群は、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基。アリールオキシ基、複素環オキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基。スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、複素環スルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基。アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、複素環スルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、複素環スルフィニル基、スルファモイル基、及びスルホン酸基からなり、これらの置換基の水素原子は置換されていてもよい。
【0027】
[D]としては、特に下記に挙げるいずれかであることが好ましい。水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、複素環オキシ基。また、アミノ基、アシルアミノ基、アリールアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、又は複素環チオ基が好ましい。中でも、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、又はアシルアミノ基が好ましく、特には、水素原子、アリールアミノ基、アシルアミノ基が好ましい。これらの置換基はさらに置換基を有していてもよい。
【0028】
また、R1及びR2としては、特に下記に挙げるいずれかであることが好ましい。水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、及びシアノ基が好ましいが、これらの置換基はさらに置換基を有していてもよい。R1及びR5、又はR5及びR6が結合して、5員環又は6員環を形成してもよい。
【0029】
一般式(I)における[A]、R1、R2、R5、R6、及び[D]がさらに置換基を有する場合、該置換基としては、先に、[D]、並びに、[B]及び[C]の一部を構成し得るR1及びR2として選択できるものとして説明したものにすることができる。
【0030】
一般式(I)の化合物が水溶性である場合には、[A]、R1、R2、R5、R6、及び[D]上のいずれかの位置に置換基として、さらにイオン性親水性基を有することが好ましい。置換基としてのイオン性親水性基の具体例としては、スルホン酸基、カルボキシ基、ホスホノ基、及び4級アンモニウム基などが挙げられる。前記イオン性親水性基の中でも、カルボキシ基、ホスホノ基、又はスルホン酸基が好ましく、特に、カルボキシ基、又はスルホン酸基が好ましい。カルボキシ基、ホスホノ基、及びスルホン酸基は塩の形態であってもよい。また、塩を形成する対イオンとしては、アンモニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、及びカリウムイオンなどのアルカリ金属イオンや、テトラメチルアンモニウムイオン、及びテトラメチルグアニジニウムイオンなどの有機カチオンが挙げられる。
【0031】
以下、それぞれの置換基についてさらに詳しく説明する。本発明において、脂肪族基とは、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、アラルキル基、及び置換アラルキル基を意味する。脂肪族基は分岐を有していてもよく、又は環を形成していてもよい。脂肪族基の炭素原子数は1乃至20であることが好ましく、さらには1乃至16であることが好ましい。アラルキル基及び置換アラルキル基のアリール部分はフェニル又はナフチルであることが好ましく、フェニルであることが特に好ましい。脂肪族基の好適な具体例としては、下記のものが挙げられる。メチル基、エチル基、ブチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ヒドロキシエチル基、メトキシエチル基、シアノエチル基。トリフルオロメチル基、3−スルホプロピル基、4−スルホブチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、2−フェネチル基、ビニル基、及びアリル基などである。
【0032】
本発明において、芳香族基とは、アリール基、及び置換アリール基を意味する。アリール基は、フェニル又はナフチルであることが好ましく、フェニルであることが特に好ましい。芳香族基の炭素原子数は6乃至20であることが好ましく、さらには6乃至16であることが好ましい。芳香族基の好適な具体例としては、フェニル基、p−トリル基、p−メトキシフェニル基、o−クロロフェニル基、及びm−(3−スルホプロピルアミノ)フェニル基が挙げられる。
【0033】
複素環基としては、置換基を有する複素環基、及び無置換の複素環基が挙げられる。複素環に脂肪族環、芳香族環、又は他の複素環が縮合していてもよい。複素環基としては、5員環又は6員環の複素環基であることが好ましい。この場合における置換基の具体例としては、脂肪族基、ハロゲン原子、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アシル基、アシルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、イオン性親水性基などが挙げられる。また、複素環基の好適な具体例としては、2−ピリジル基、2−チエニル基、2−チアゾリル基、2−ベンゾチアゾリル基、2−ベンゾオキサゾリル基、及び2−フリル基などが挙げられる。
【0034】
アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基としては、置換基を有するアルキルスルホニル基若しくは置換基を有するアリールスルホニル基、無置換のアルキルスルホニル基若しくは無置換のアリールスルホニル基が挙げられる。アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基の好適な具体例としては、メチルスルホニル基及びフェニルスルホニル基が挙げられる。
【0035】
アルキルスルフィニル基又はアリールスルフィニル基としては、置換基を有するアルキルスルフィニル基若しくは置換基を有するアリールスルフィニル基、無置換のアルキルスルフィニル基若しくは無置換のアリールスルフィニル基が挙げられる。アルキルスルフィニル基又はアリールスルフィニル基の好適な具体例としては、メチルスルフィニル基及びフェニルスルフィニル基が挙げられる。
【0036】
アシル基としては、置換基を有するアシル基及び無置換のアシル基が挙げられる。前記アシル基としては、炭素原子数が1乃至12のアシル基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、イオン性親水性基が挙げられる。前記アシル基の好適な具体例としては、アセチル基及びベンゾイル基が挙げられる。
【0037】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子が挙げられる。
【0038】
アミノ基としては、アルキル基、アリール基及び/又は複素環基で置換されたアミノ基が挙げられ、アルキル基、アリール基及び複素環基は、さらに置換基を有していてもよい。
【0039】
アルキルアミノ基としては、炭素原子数1乃至6のアルキルアミノ基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、イオン性親水性基が挙げられる。前記アルキルアミノ基の好適な具体例としては、メチルアミノ基及びジエチルアミノ基が挙げられる。アリールアミノ基としては、置換基を有するアリールアミノ基及び無置換のアリールアミノ基が挙げられる。前記アリールアミノ基としては、炭素原子数が6乃至12のアリールアミノ基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、ハロゲン原子、及びイオン性親水性基が挙げられる。前記アリールアミノ基の好適な具体例としては、フェニルアミノ基及び2−クロロフェニルアミノ基が挙げられる。
【0040】
アルコキシ基としては、置換基を有するアルコキシ基及び無置換のアルコキシ基が挙げられる。前記アルコキシ基としては、炭素原子数が1乃至12のアルコキシ基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、アルコキシ基、ヒドロキシ基、及びイオン性親水性基が挙げられる。前記アルコキシ基の好適な具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、メトキシエトキシ基、ヒドロキシエトキシ基及び3−カルボキシプロポキシ基が挙げられる。
【0041】
アリールオキシ基としては、置換基を有するアリールオキシ基及び無置換のアリールオキシ基が挙げられる。前記アリールオキシ基としては、炭素原子数が6乃至12のアリールオキシ基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、アルコキシ基、及びイオン性親水性基が挙げられる。前記アリールオキシ基の好適な具体例としては、フェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基及びo−メトキシフェノキシ基が挙げられる。
【0042】
アシルアミノ基としては、置換基を有するアシルアミノ基及び無置換のアシルアミノ基が挙げられる。前記アシルアミノ基としては、炭素原子数が2乃至12のアシルアミノ基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、イオン性親水性基が挙げられる。前記アシルアミノ基の好適な具体例としては、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、N−フェニルアセチルアミノ基及び3,5−ジスルホベンゾイルアミノ基が挙げられる。
【0043】
ウレイド基としては、置換基を有するウレイド基及び無置換のウレイド基が挙げられる。前記ウレイド基としては、炭素原子数が1乃至12のウレイド基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、アルキル基及びアリール基が挙げられる。前記ウレイド基の好適な具体例としては、3−メチルウレイド基、3,3−ジメチルウレイド基、及び3−フェニルウレイド基が挙げられる。
【0044】
スルファモイルアミノ基としては、置換基を有するスルファモイルアミノ基及び無置換のスルファモイルアミノ基が挙げられる。この場合の置換基の具体例としては、アルキル基が挙げられる。前記スルファモイルアミノ基の好適な具体例としては、N,N−ジプロピルスルファモイルアミノが挙げられる。
【0045】
アルコキシカルボニルアミノ基としては、置換基を有するアルコキシカルボニルアミノ基及び無置換のアルコキシカルボニルアミノ基が挙げられる。前記アルコキシカルボニルアミノ基としては、炭素原子数が2乃至12のアルコキシカルボニルアミノ基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、イオン性親水性基が挙げられる。前記アルコキシカルボニルアミノ基の好適な具体例としては、エトキシカルボニルアミノ基が挙げられる。
【0046】
アルキルスルホニルアミノ基及びアリールスルホニルアミノ基としては、下記のものが挙げられる。置換基を有するアルキルスルホニルアミノ基及び置換基を有するアリールスルホニルアミノ基、及び無置換のアルキルスルホニルアミノ基及び無置換のアリールスルホニルアミノ基が含まれる。前記スルホニルアミノ基としては、炭素原子数が1乃至12のスルホニルアミノ基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、イオン性親水性基が挙げられる。前記アルキルスルホニルアミノ基及びアリールスルホニルアミノ基の好適な具体例としては、メチルスルホニルアミノ基、N−フェニルメチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、及び3−カルボキシフェニルスルホニルアミノ基が挙げられる。
【0047】
カルバモイル基としては、置換基を有するカルバモイル基及び無置換のカルバモイル基が挙げられる。この場合の置換基の具体例としては、アルキル基が挙げられる。前記カルバモイル基の好適な具体例としては、メチルカルバモイル基及びジメチルカルバモイル基が挙げられる。
【0048】
スルファモイル基としては、置換基を有するスルファモイル基及び無置換のスルファモイル基が挙げられる。この場合の置換基の具体例としては、アルキル基が挙げられる。前記スルファモイル基の好適な具体例としては、ジメチルスルファモイル基及びジ−(2−ヒドロキシエチル)スルファモイル基が挙げられる。
【0049】
アルコキシカルボニル基としては、置換基を有するアルコキシカルボニル基及び無置換のアルコキシカルボニル基が挙げられる。前記アルコキシカルボニル基としては、炭素原子数が2乃至12のアルコキシカルボニル基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、イオン性親水性基が挙げられる。前記アルコキシカルボニル基の好適な具体例としては、メトキシカルボニル基及びエトキシカルボニル基が挙げられる。
【0050】
アシルオキシ基としては、置換基を有するアシルオキシ基及び無置換のアシルオキシ基が挙げられる。前記アシルオキシ基としては、炭素原子数1乃至12のアシルオキシ基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、イオン性親水性基が挙げられる。前記アシルオキシ基の好適な具体例としては、アセトキシ基及びベンゾイルオキシ基が挙げられる。
【0051】
カルバモイルオキシ基としては、置換基を有するカルバモイルオキシ基及び無置換のカルバモイルオキシ基が挙げられる。この場合の置換基の具体例としては、アルキル基が挙げられる。前記カルバモイルオキシ基の好適な具体例としては、N−メチルカルバモイルオキシ基が挙げられる。
【0052】
アリールオキシカルボニル基としては、置換基を有するアリールオキシカルボニル基及び無置換のアリールオキシカルボニル基が挙げられる。前記アリールオキシカルボニル基としては、炭素原子数が7乃至12のアリールオキシカルボニル基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、イオン性親水性基が挙げられる。前記アリールオキシカルボニル基の好適な具体例としては、フェノキシカルボニル基が挙げられる。
【0053】
アリールオキシカルボニルアミノ基としては、置換基を有するアリールオキシカルボニルアミノ基及び無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基が挙げられる。前記アリールオキシカルボニルアミノ基としては、炭素原子数が7乃至12のアリールオキシカルボニルアミノ基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、イオン性親水性基が挙げられる。前記アリールオキシカルボニルアミノ基の好適な具体例としては、フェノキシカルボニルアミノ基が挙げられる。
【0054】
アルキルチオ基、アリールチオ基、及び複素環チオ基としては、置換基を有する、アルキルチオ基、アリールチオ基、及び複素環チオ基と、無置換の、アルキルチオ基、アリールチオ基、及び複素環チオ基が挙げられる。前記アルキルチオ基、アリールチオ基、及び複素環チオ基としては、炭素原子数が1乃至12のものが好ましい。この場合の置換基の具体例としては、イオン性親水性基が挙げられる。前記アルキルチオ基、アリールチオ基、及び複素環チオ基の好適な具体例としては、メチルチオ基、フェニルチオ基、及び2−ピリジルチオ基が挙げられる。
【0055】
シリルオキシ基としては、炭素数が1乃至12の脂肪族基又は芳香族基が置換したシリルオキシ基が好ましい。前記シリルオキシ基の好適な具体例としては、トリメチルシリルオキシ基、ジフェニルメチルシリルオキシ基が挙げられる。
【0056】
複素環オキシ基としては、置換基を有する複素環オキシ基及び無置換の複素環オキシ基が挙げられる。複素環オキシ基としては炭素数2乃至12の複素環オキシ基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、アルキル基、アルコキシ基、及びイオン性水酸基が挙げられる。複素環オキシ基の好適な具体例としては、3−ピリジルオキシ基、及び3−チエニルオキシ基が挙げられる。
【0057】
アルコキシカルボニルオキシ基としては、置換基を有するアルコキシカルボニルオキシ基及び無置換のアルコキシカルボニルオキシ基が挙げられる。アルコキシカルボニルオキシ基としては、炭素数2乃至12のアルコキシカルボニル基が好ましい。アルコキシカルボニルオキシ基の好適な具体例としては、メトキシカルボニルオキシ基、及びイソプロポキシカルボニルオキシ基が挙げられる。
【0058】
アリールオキシカルボニルオキシ基としては、置換基を有するアリールオキシカルボニルオキシ基及び無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基が挙げられる。アリールオキシカルボニルオキシ基としては、炭素数7乃至12のアリールオキシカルボニルオキシ基が好ましい。アリールオキシカルボニルオキシ基の好適な具体例としては、フェノキシカルボニルオキシ基が挙げられる。
【0059】
複素環オキシカルボニル基としては、置換基を有する複素環オキシカルボニル基及び無置換の複素環オキシカルボニル基が挙げられる。前記複素環オキシカルボニル基としては、炭素数が2乃至12の複素環オキシカルボニル基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、イオン性親水性基が挙げられる。前記複素環オキシカルボニル基の好適な具体例としては、2−ピリジルオキシカルボニル基が挙げられる。
【0060】
複素環スルホニルアミノ基としては、置換基を有する複素環スルホニルアミノ基及び無置換の複素環スルホニルアミノ基が挙げられる。前記複素環スルホニルアミノ基としては、炭素数が1乃至12の複素環スルホニルアミノ基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、イオン性親水性基が挙げられる。前記複素環スルホニルアミノ基の好適な具体例としては、2−チオフェンスルホニルアミノ基、3−ピリジンスルホニルアミノ基が挙げられる。
【0061】
複素環スルホニル基としては、置換基を有する複素環スルホニル基及び無置換の複素環スルホニル基が挙げられる。前記複素環スルホニル基としては、炭素数が1乃至12の複素環スルホニル基が好ましい。この場合の置換基の具体例としては、イオン性親水性基が挙げられる。前記複素環スルホニル基の好適な具体例としては、2−チオフェンスルホニル基、及び3−ピリジンスルホニル基が挙げられる。
【0062】
複素環スルフィニル基としては、置換基を有する複素環スルフィニル基及び無置換の複素環スルフィニル基が挙げられる。前記複素環スルフィニル基としては、炭素数が1乃至12の複素環スルフィニル基が好ましい。前記複素環スルフィニル基の好適な具体例としては、4−ピリジンスルフィニル基が挙げられる。
【0063】
本発明においては、一般式(I)の化合物が、下記一般式(I−2)で表される化合物(以下、一般式(I−2)の化合物と呼ぶことがある)であることがより好ましい。
【0064】

(一般式(I−2)中、Z1はハメットのσp値が0.20以上の電子吸引性基であり、Z2は水素原子、脂肪族基、芳香族基、又は複素環基であり、R1、及びR2はそれぞれ独立に、水素原子又は下記に挙げる群から選ばれるいずれかの置換基である。該置換基の群は、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基。アルコキシ基、アリールオキシ基、複素環オキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基。アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、複素環スルホニルアミノ基。ニトロ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、複素環スルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、複素環スルフィニル基、スルファモイル基、及びスルホン酸基からなる。これらの置換基の水素原子は置換されていてもよい。R3及びR4はそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、及びスルファモイル基のいずれかである。R5及びR6はそれぞれ独立に、水素原子又は下記に挙げる群から選ばれるいずれかの置換基である。該置換基の群は、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、及びスルファモイル基からなる。これらの置換基の水素原子は置換されていてもよい。式中の[G]は、水素原子、脂肪族基、芳香族基、及び複素環基のいずれかである。)
【0065】
一般式(I−2)中におけるZ1は、ハメットのσp値が0.20以上の電子吸引性基である。Z1は、ハメットのσp値0.20以上の電子吸引性基であるが、本発明においては、前記ハメットのσp値が、0.30以上、さらには0.45以上、特には0.60以上であることが好ましく、一方で、1.0を超えないことが好ましい。
【0066】
ここで、Z1に関連して、ハメット則及びハメットの置換基定数σp値(以下、「ハメットのσp値」と呼ぶ)について説明する。ハメット則は、ベンゼン誘導体の反応や平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために、1935年にL.P.Hammettにより提唱された経験則であり、今日では広く妥当性が認められている。ハメット則により求められる置換基定数にはσp値とσm値があり、これらの値は多くの一般的な成書に記載がある。例えば、J.A.Dean編、Lange s Handbook of Chemistry 第12版、1979年、McGraw−Hillや、化学の領域、増刊、122号、96〜103頁、1979年、南光堂に詳細な記載がある。
【0067】
なお、本発明においては、一般式(I−2)中における置換基Z1をハメットのσp値により規定しているが、本発明は、上記したような文献に具体的にσp値が記載された置換基のみに限定されるものではない。本発明は、上記したような文献にσp値が記載されていない置換基であっても、ハメット則に基づいてσp値を算出した場合に、その範囲内に含まれるであろう置換基をも含むことはいうまでもない。一般式(I)の化合物及び一般式(I−2)の化合物にはベンゼン誘導体ではないもの含まれるが、本発明においては、置換基の電子効果を示す尺度として、置換位置に関係なくσp値を用いるものとする。以下に、本発明に用いる一般式(I)の化合物又は一般式(I−2)の化合物の有する置換基において、ハメットのσp値が0.20以上の電子吸引性基として用いることができる置換基の具体例を、ハメットのσp値の範囲ごとに列挙する。
【0068】
ハメットのσp値が0.60以上の電子吸引性基としては、以下のものが該当する。シアノ基、ニトロ基、アルキルスルホニル基(例えば、メタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基などのアリールスルホニル基)が該当する。
【0069】
ハメットのσp値が0.45以上の電子吸引性基としては、上記に加えて、以下のものが該当する。アシル基(例えば、アセチル基)、アルコキシカルボニル基(例えば、ドデシルオキシカルボニル基)、アリールオキシカルボニル基(例えば、m−クロロフェノキシカルボニル基)。アルキルスルフィニル基(例えば、n−プロピルスルフィニル基)、アリールスルフィニル基(例えば、フェニルスルフィニル基)。スルファモイル基(例えば、N−エチルスルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基)、ハロゲン化アルキル基(例えば、トリフロロメチル基)。
【0070】
ハメットのσp値が0.30以上の電子吸引性基としては、上記に加えて、以下のものが該当する。アシルオキシ基(例えば、アセトキシ基)、カルバモイル基(例えば、N−エチルカルバモイル基、N,N−ジブチルカルバモイル基)。ハロゲン化アルコキシ基(例えば、トリフロロメチルオキシ基)、ハロゲン化アリールオキシ基(例えば、ペンタフロロフェニルオキシ基)。スルホニルオキシ基(例えば、メチルスルホニルオキシ基)、ハロゲン化アルキルチオ基(例えば、ジフロロメチルチオ基)。2つ以上のσp値が0.15以上の電子吸引性基で置換されたアリール基(例えば、2,4−ジニトロフェニル基、ペンタクロロフェニル基)。複素環(例えば、2−ベンゾオキサゾリル基、2−ベンゾチアゾリル基、1−フェニル−2−ベンズイミダゾリル基)。
【0071】
ハメットのσp値が0.20以上の電子吸引性基としては、上記に加えて、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素)などが該当する。
【0072】
本発明において使用する化合物としては、一般式(I−2)におけるZ1が、下記に挙げるいずれかの基であることが好ましい。すなわち、炭素数2乃至12のアシル基、炭素数2乃至12のアルキルオキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基。また、炭素数1乃至12のアルキルスルホニル基、炭素数6乃至18のアリールスルホニル基、炭素数1乃至12のカルバモイル基、又は炭素数1乃至12のハロゲン化アルキル基であることが好ましい。さらには、シアノ基、炭素数1乃至12のアルキルスルホニル基、又は炭素数6乃至18のアリールスルホニル基であることが好ましく、特には、シアノ基であることが好ましい。
【0073】
先に記載した一般式(I−2)中におけるR1、R2、R5、及びR6は、一般式(I)において説明したものと同義である。一般式(I−2)におけるR3及びR4はそれぞれ独立に、下記の群から選ばれる。すなわち、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、及びスルファモイル基のいずれかである。中でも、水素原子、芳香族基、複素環基、アシル基、アルキルスルホニル基、又はアリールスルホニル基であることが好ましく、さらには、水素原子、芳香族基、又は複素環基であることが好ましい。また、一般式(I−2)におけるZ2は、水素原子、脂肪族基、芳香族基、及び複素環基のいずれかである。
【0074】
先に記載した一般式(I−2)中における[G]は、水素原子、脂肪族基、芳香族基、及び複素環基のいずれかである。中でも、5員環乃至8員環を形成するのに必要な非金属原子で構成される基であることが好ましい。これらの5員環乃至8員環は置換されていてもよく、また、飽和環であっても不飽和結合を有していてもよい。中でも特に、芳香族基、又は複素環基であることが好ましい。前記非金属原子としては、窒素原子、酸素原子、イオウ原子、及び炭素原子が挙げられる。環構造の具体例としては、下記のものが挙げられる。すなわち、ベンゼン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、シクロヘキセン環。ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、トリアジン環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサン環、スルホラン環、及びチアン環などが挙げられる。
【0075】
一般式(I−2)を構成するものとして説明した各置換基は、さらに置換基を有していてもよい。これらの各置換基がさらに置換基を有する場合の置換基としては、一般式(I)で説明した置換基や、一般式(I)を構成する[D]或いはR1及びR2として挙げた置換基や、イオン性親水性基が挙げられる。
【0076】
以下に、本発明における、先に記載した一般式(I)の化合物として特に好適な構成について説明する。先ず、一般式(I)の化合物におけるR5及びR6の組み合わせが、以下の基からなる群から選ばれることが特に好ましい。具体的には、R5及びR6の組み合わせが、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基、スルホニル基、及びアシル基からなる群から選ばれることが好ましい。さらには、R5及びR6の組み合わせが、水素原子、アリール基、複素環基、及びスルホニル基からなる群から選ばれることが好ましい。特には、R5及びR6の組み合わせが、水素原子、アリール基、及び複素環基からなる群から選ばれることが好ましい。ただし、R5及びR6が同時に水素原子となることはない。
【0077】
また、本発明においては、一般式(I)の化合物における[D]が、特に下記に挙げるいずれかであることが好ましい。水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、複素環オキシ基。また、アミノ基、アシルアミノ基、アリールアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、又は複素環チオ基が好ましい。中でも、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、又はアシルアミノ基が好ましく、特には、水素原子、アリールアミノ基、アシルアミノ基が好ましい。これらの置換基はさらに置換基を有していてもよい。
【0078】
また、本発明においては、一般式(I)の化合物における[A]が、以下の基であることが好ましい。具体的には、ピラゾール環、イミダゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環、又はベンゾチアゾール環であることが好ましく、さらにはピラゾール環、又はイソチアゾール環であることが好ましい。特には、ピラゾール環であることが好ましい。
【0079】
また、本発明においては、一般式(I)の化合物における[B]及び[C]が、それぞれCR1及びCR2であることが好ましい。さらに、R1及びR2がそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルバモイル基、カルボキシ基、アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、又はアルコキシカルボニル基であることが好ましい。特には、水素原子、アルキル基、カルボキシ基、シアノ基、又はカルバモイル基であることが好ましい。
【0080】
なお、一般式(I)の化合物を構成する好ましい置換基の組み合わせについては、置換基の少なくとも1つが上述の好ましい基であることが好ましく、より多くの置換基が上述の好ましい基であることがより好ましい。特には、全ての置換基が上述の好ましい基であることが最も好ましい。
【0081】
前記一般式(I)の化合物又は一般式(I−2)の化合物の好ましい具体例としては、下記の例示化合物I−1〜I−44が挙げられる。勿論、本発明は、前記一般式(I)又は一般式(I−2)の構造及びその定義に包含されるものであれば、下記の例示化合物に限られるものではない。
【0082】



【0083】


【0084】




【0085】



【0086】



【0087】


【0088】



【0089】



【0090】
本発明においては、一般式(I)の化合物が、下記一般式(I−3)で表される化合物(以下、一般式(I−3)の化合物と呼ぶことがある)であることが特に好ましい。
【0091】

(一般式(I−3)中、R62、R63、R64、及びR65はそれぞれ独立にアルキル基であり、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、及び有機アンモニウムのいずれかである。)
【0092】
一般式(I−3)におけるR62、R63、R64、及びR65はそれぞれ独立にアルキル基である。前記アルキル基は、インクを構成する水性媒体への溶解性の観点から、炭素数1乃至3であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、第1級プロピル基、及び第2級プロピル基が挙げられる。なお、アルキル基の炭素数が4以上であると、色材の疎水性が大きくなり、色材がインクを構成する水性媒体に溶解しない場合がある。
【0093】
一般式(I−3)におけるMはそれぞれ独立に、アルカリ金属、アンモニウム、及び有機アンモニウムのいずれかである。前記アルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウムなどが挙げられる。前記有機アンモニウムは、例えば、アセトアミド、ベンズアミド、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、フェニルアミノ、及びトリエタノールアミノなどが挙げられる。
【0094】
一般式(I−3)の化合物の好ましい具体例は、下記の例示化合物I−45〜I−47が挙げられる。なお、下記の例示化合物は遊離酸の形で記載する。勿論、本発明は、前記一般式(I−3)の構造及びその定義に包含されるものであれば、下記の例示化合物に限られるものではない。本発明においては、下記の例示化合物の中でも、例示化合物I−46を用いることが特に好ましい。
【0095】

【0096】

【0097】

【0098】
(一般式(II)で表される化合物)
上述の通り、本発明者らは、上記一般式(I)の化合物を含有するインクを用いて記録した画像の耐光性をさらに向上させるために、インクの処方について様々な検討を行った。具体的には、画像の堅牢性を向上できることが従来から知られている化合物などを用いることによって、上記一般式(I)の化合物を含有するインクを用いて記録した画像の堅牢性を向上させることについての検討を行った。しかし、このような化合物を上記一般式(I)の化合物と併用した場合には、インクの耐固着性や間欠吐出安定性が低下するという別の課題が発生することがわかった。
【0099】
そこで、本発明者らは、上記一般式(I)の化合物と併用する化合物として、種々の水溶性有機溶剤や化合物を含めた幅広い材料について検討を行った。その結果、上記一般式(I)の化合物を含有するインクに、下記一般式(II)の化合物を含有させることで、該インクを用いて記録した画像の耐光性を飛躍的に向上させることができるという知見を得た。さらには、下記一般式(II)の化合物を用いることで、インクの耐固着性や間欠吐出安定性もが向上し、インクの信頼性と画像の耐光性とを高いレベルで両立できるという知見も得た。
【0100】

(一般式(II)中、−[E]−は、−S(=O)2−である。Rx及びRyは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルケニル基、アシル基、カルバモイル基、カルボキシ基、及びスルホニル基のいずれかである。ただし、Rx及びRyが同時に水素原子及び/又はヒドロキシ基となることはない。)
【0101】
一般式(II)におけるRx及びRyはそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルケニル基、アシル基、カルバモイル基、カルボキシ基、及びスルホニル基のいずれかである。アルキル基としては、炭素数1乃至4のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、及びiso−ブチル基などが挙げられる。前記ヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、及びヒドロキシブチル基などが挙げられる。前記アシル基としては、アセチル基及びベンゾイル基などが挙げられる。前記カルバモイル基としては、メチルカルバモイル基及びジメチルカルバモイル基などが挙げられる。
【0102】
本発明においては、上記一般式(II)中、「Rx及びRyが同時に水素原子及び/又はヒドロキシ基となることはない」ということは、以下のことを意味する。すなわち、一般式(II)において、Rx及びRyが共に水素原子である場合、Rx及びRyが共にヒドロキシ基である場合、並びに、Rx及びRyの一方が水素原子であり他方がヒドロキシ基である場合、を含まない。
【0103】
一般式(I)の化合物と一般式(II)の化合物とを含有するインクを用いて記録した画像の耐光性が向上するメカニズムは詳細には明らかではないが、本発明者らはこの理由を以下のように推測している。一般式(I)の化合物は、強い電子吸引基を有する。このため、インクが付与された記録媒体上では、一般式(II)の化合物における極性基、具体的には硫黄原子への置換基が、一般式(I)の化合物の電子密度が低い部分に選択的に吸着することで、一般式(I)の化合物を保護する作用がある。その結果、光、すなわち紫外線エネルギーによる一般式(I)の化合物の分解が抑制され、画像の耐光性が向上すると考えられる。
【0104】
前記一般式(II)の化合物の好ましい具体例としては、下記のようなものが挙げられる。スルフィン、スルフィン酸、ジメチルスルフィン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、(2−ヒドロキシエチル)メチルスルホン。また、チオジグリコール、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホキシド、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、及びビス(2−ヒドロキシエチル)スルホンなどが使用できる。なお、本発明は、前記一般式(II)の構造に包含されるものであれば、上記で挙げた化合物に限られるものではない。本発明においては、上記に列挙した化合物の中でも、特に、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホンを用いることが好ましい。
【0105】
インク中の一般式(II)の化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましい。一般式(II)の化合物の含有量が1.0質量%未満であると、画像の耐光性を向上する効果が十分に得られない場合がある。また、一般式(II)の化合物の含有量が30.0質量%を超えると、間欠吐出安定性が低下する場合がある。
【0106】
(グリセリン)
本発明者らは、上記一般式(I)の化合物を含有するインクを用いて記録した画像の耐光性とインクの信頼性とを、より高いレベルで両立させるためのさらなる検討を行った。その結果、前記した一般式(I)の化合物に併用させる化合物として、上記一般式(II)の化合物に加えてグリセリンを用いることで、これらの性能をより高いレベルで達成でき、さらには固着回復性がより向上することを見出した。より具体的には、グリセリンを併用する場合に、インク中のグリセリンの含有量(質量%)を、インク全質量を基準として、1.0質量%以上20.0質量%以下となるようにすることが好ましい。グリセリンの含有量が1.0質量%未満であると、耐固着性を向上する効果が十分に得られない場合があり、また、20.0質量%を超えると間欠吐出安定性を向上する効果が十分に得られない場合がある。
【0107】
さらに、本発明者らは、一般式(I)の化合物と併用して、上記一般式(II)の化合物とグリセリンとを用いた場合に、一般式(II)の化合物とグリセリンの含有量の合計を、下記の範囲とするとより好ましいことを見出した。すなわち、下記のように含有量を調整すると、画像の耐光性とインクの耐固着性を高いレベルで両立させることができ、さらに間欠吐出安定性もが向上することがわかった。具体的には、インク全質量を基準とした、一般式(II)の化合物の含有量(質量%)及びグリセリンの含有量(質量%)の合計が、8.0質量%以上23.0質量%以下であることが好ましい。これに反して、上記した化合物の含有量の合計が上記範囲を満たさないと、間欠吐出安定性が向上する効果が十分に得られない場合がある。
【0108】
また、本発明者らは、インク中の一般式(II)の化合物の含有量とグリセリンの含有量との質量比率を特定の範囲とすることで、さらなる効果が得られることを見出した。すなわち、このようにすれば、耐固着性や間欠吐出安定性がより向上し、さらには熱エネルギーの作用によりインクを吐出するインクジェット記録方式に適用しても、記録ヘッドのヒーターの断線がより効果的に抑制されたインクとなることがわかった。具体的には、インク全質量を基準とした、一般式(II)の化合物の含有量(質量%)及びグリセリンの含有量(質量)の質量比率、つまり(一般式(II)の化合物の含有量/グリセリンの含有量)の値が、0.40以上5.90以下となるようにするとよい。これに対して前記質量比率が0.40未満であると、耐固着性や間欠吐出安定性が向上する効果が十分に得られない場合がある。一方、前記質量比率が5.90を超えると、熱エネルギーの作用によりインクを吐出するインクジェット記録方式にインクを適用して、所定回数の電気パルスを付与すると、記録ヘッドのヒーターが断線する場合がある。つまり記録耐久性が低下する場合がある。
【0109】
(一般式(III)で表される化合物)
本発明のインクは色材として、先に説明した一般式(I)の化合物を含有してなるが、本発明者らの検討によれば、この色材に加えて、下記に説明するような化合物を併用することで、マゼンタインクとしてより好ましい色調の画像を得ることができるようになる。具体的には、アントラピリドン系染料である下記一般式(III)で表される化合物を、後述する特定の質量比率で併用することにより、マゼンタインクとしてより好ましい色調の画像が得られるインクとできる。
【0110】

(一般式(III)中、Rzはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、シクロヘキシル基、又はモノ若しくはジアルキルアミノアルキル基である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、及び有機アンモニウムのいずれかである。[F]は連結基である。)
【0111】
一般式(III)におけるRzはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、シクロヘキシル基、又はモノ若しくはジアルキルアミノアルキル基である。
【0112】
アルキル基としては、炭素数1乃至8のアルキル基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、iso−ブチル基、n−ペンチル基、n−へキシル基、n−へプチル基、及びn−オクチル基などが挙げられる。
【0113】
ヒドロキシアルキル基としては、炭素数1乃至4のヒドロキシアルキル基が挙げられる。具体的には、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基が挙げられる。ヒドロキシアルキル基におけるアルキルとしては、直鎖、分岐、及び環状のアルキルが挙げられるが、直鎖アルキルが特に好ましい。また、前記アルキルにおけるヒドロキシの置換位置はいずれの位置でもよいが、末端にヒドロキシが置換した、例えば、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、及び4−ヒドロキシブチル基が特に好ましい。
【0114】
モノアルキルアミノアルキル基としては、モノ−炭素数1乃至4アルキルアミノ−炭素数1乃至4アルキル基が挙げられる。具体的には、モノメチルアミノプロピル基、及びモノエチルアミノプロピル基などが挙げられる。
【0115】
ジアルキルアミノアルキル基としては、ジ−炭素数1乃至4アルキルアミノ−炭素数1乃至4アルキル基が挙げられる。具体的には、ジメチルアミノプロピル基、及びジエチルアミノエチル基などが挙げられる。
【0116】
本発明においては、Rzが、水素原子、アルキル基、又はシクロヘキシル基であることが好ましく、さらには水素原子又はアルキル基が好ましく、特にはメチル基が好ましい。
【0117】
一般式(III)における[F]は連結基である。前記連結基としては、例えば、以下の連結基1乃至7が挙げられる。連結基1乃至7において、「*」を付した結合手は、各窒素原子の結合手であり、各窒素原子と2つの異なるトリアジン環が直接結合する。下記の連結基の中でも、連結基1を用いることが特に好ましい。
【0118】

(連結基1中、nは2乃至8、好ましくは2乃至6、さらに好ましくは2であり、*はそれぞれ異なる2つのトリアジン環との結合部位である。)
【0119】

(連結基2中、Raはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、*はそれぞれ異なる2つのトリアジン環との結合部位である。)
【0120】

(連結基3中、*はそれぞれ異なる2つのトリアジン環との結合部位である。)
【0121】

(連結基4中、*はそれぞれ異なる2つのトリアジン環との結合部位である。)
【0122】

(連結基5中、*はそれぞれ異なる2つのトリアジン環との結合部位である。)
【0123】

(連結基6中、mは2乃至4であり、*はそれぞれ異なる2つのトリアジン環との結合部位である。)
【0124】

(連結基7中、*はそれぞれ異なる2つのトリアジン環との結合部位である。)
【0125】
一般式(III)におけるMはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、及び有機アンモニウムのいずれかである。前記アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウムなどが挙げられる。前記有機アンモニウムとしては、例えば、アセトアミド、ベンズアミド、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、トリエタノールアミノ、及びフェニルアミノなどが挙げられる。
【0126】
一般式(III)におけるアルキル基は、インクを構成する水性媒体への溶解性の観点から、炭素数1乃至3であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、第1級プロピル基、及び第2級プロピル基が挙げられる。なお、アルキル基の炭素数が4以上であると、色材の疎水性が大きくなり、色材がインクを構成する水性媒体に溶解しない場合がある。
【0127】
前記一般式(III)の化合物の好ましい具体例は、下記の例示化合物III−1及びIII−2が挙げられる。なお、下記の例示化合物は遊離酸の形で記載する。勿論、本発明は、前記一般式(III)の構造及びその定義に包含されるものであれば、下記の例示化合物に限られるものではない。本発明においては、下記の例示化合物の中でも、特に例示化合物III−1を用いることが好ましい。
【0128】

【0129】

【0130】
(インクの色調)
一般式(I)の化合物は黄味のマゼンタの色調を有し、かつ、画像の光学濃度が高いという特性を有する。一方で、一般式(III)の化合物は青味のマゼンタの色調を有し、かつ、画像の光学濃度が低いという特性を有する。本発明においては、前記したような特性を有する一般式(I)の化合物と一般式(III)の化合物とを特定の質量比率で組み合わせて用いることで、好ましいマゼンタの色調を得ることができる。
【0131】
本発明のインクはマゼンタの色調を有するインクであるが、本発明におけるマゼンタインクとして好ましい色調とは、具体的には、以下のことを意味する。インクを用いて記録デューティを100%として記録した画像について、CIE(国際照明委員会)により規定されたL***表示系におけるa*及びb*を測定する。そして、得られたa*及びb*の値から、下記式(A)に基づいて算出される色相角(H°)が、0以上5以下、又は350以上360以下であるインクを、本発明においてはマゼンタインクとして特に好ましい色調を有するインクであるとしている。さらには、下記式(A)に基づいて算出される色相角(H°)が、0以上5以下であることが特に好ましい。なお、前記a*及びb*の値は、例えば、分光光度計(商品名:Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用いて測定することができる。勿論、本発明はこれに限られるものではない。
【0132】
式(A)
*≧0、b*≧0(第一象現)では、H°=tan-1(b*/a*
*≦0、b*≧0(第二象現)では、H°=180+tan-1(b*/a*
*≦0、b*≦0(第三象現)では、H°=180+tan-1(b*/a*
*≧0、b*≦0(第四象現)では、H°=360+tan-1(b*/a*
【0133】
(色材の含有量)
本発明においては、インク中の一般式(I)の化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下、さらには0.5質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。また、上述した通り、色材として一般式(I)の化合物及び一般式(III)の化合物を併用した場合に、より優れた効果を得ることができる。そのためには、これらの化合物の含有量(質量%)の合計が、インク全質量を基準として、4.0質量%以上10.0質量%以下の範囲とすることが好ましい。これに対し、インク中における色材の含有量の合計が4.0質量%未満であると、画像濃度を十分に得ることができない場合があり、一方、含有量の合計が15.0質量%を超えると、耐固着性が十分に得られない場合がある。なお、インク中の一般式(III)の化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、2.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0134】
さらに、色材として一般式(I)の化合物及び一般式(III)の化合物を併用する場合には、上述の通りマゼンタインクとして特に好ましい色調の画像を与えるインクとするために、これらの化合物の質量比率を以下のようにすることが好ましい。具体的には、インク全質量を基準とした、一般式(III)の化合物の含有量(質量%)が、一般式(I)の化合物の含有量(質量%)に対して、質量比率で、2.5以上10.0以下であることが好ましい。すなわち、{(一般式(III)の化合物の含有量)/(一般式(I)の化合物の含有量)}=2.5以上10.0以下であることが好ましい。
【0135】
(色材の検証方法)
本発明で用いる色材がインク中に含まれているか否かの検証には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた下記(1)〜(3)の検証方法が適用できる。
(1)ピークの保持時間
(2)(1)のピークについての極大吸収波長
(3)(1)のピークについてのマススペクトルのM/Z(posi)、M/Z(nega)
【0136】
高速液体クロマトグラフィーの分析条件は、以下に示す通りである。先ず、純水で約1,000倍に希釈した液体(インク)を調製し、測定用サンプルとした。そして、下記の条件で高速液体クロマトグラフィーでの分析を行い、ピークの保持時間(retention time)、及び、ピークの極大吸収波長を測定した。
・カラム:SunFire C18(日本ウォーターズ製)2.1mm×150mm
・カラム温度:40℃
・流速:0.2mL/min
・PDA:200nm〜700nm
・移動相及びグラジエント条件:表1
【0137】

【0138】
また、マススペクトルの分析条件は以下に示す通りである。得られたピークについて、下記の条件でマススペクトルを測定し、最も強く検出されたM/Zをposi、negaそれぞれに対して測定する。
・イオン化法
・ESI
キャピラリ電圧:3.5kV
脱溶媒ガス:300℃
イオン源温度:120℃
・検出器
posi:40V 200〜1500amu/0.9sec
nega:40V 200〜1500amu/0.9sec
【0139】
上記した方法及び条件下で、それぞれの色材の代表例として、一般式(I)の化合物の具体例である例示化合物I−46、及び一般式(III)の化合物の具体例である例示化合物III−1について測定を行った。その結果、得られた保持時間、極大吸収波長、M/Z(posi)、M/Z(nega)の値を表2に示した。上記のことは、未知のインクについて、上記したと同様の方法及び条件下で測定を行って、表2に示した分析結果に該当する場合に、本発明において規定する化合物に該当する化合物を含有したインクであると判断できることを意味している。
【0140】

【0141】
(水性媒体)
本発明のインクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。水は、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、10.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。
【0142】
水溶性有機溶剤は、水溶性であれば特に制限はなく、アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、グリコールエーテル、含窒素極性溶媒、含硫黄極性溶媒などを用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、5.0質量%以上90.0質量%以下、さらには10.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤の含有量が上記した範囲より少ないと、インクをインクジェット記録装置に用いる場合に吐出安定性などの信頼性が得られない場合がある。また、水溶性有機溶剤の含有量が上記した範囲より多いと、インクの粘度が上昇してインクの供給不良が起きる場合がある。なお、この水溶性有機溶剤の含有量は、一般式(II)の化合物やグリセリンを含むものである。
【0143】
水溶性有機溶剤は、具体的には、例えば、以下に挙げるものを用いることができる。メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどの炭素数1乃至4のアルキルアルコール類。ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類。アセトン、ジアセトンアルコールなどのケトン又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類。重量平均分子量200乃至1,000程度の、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類。エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコールなどのグリコール類。1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオールなどのアルキレン基が2乃至6個の炭素原子を持つアルキレングリコール類。ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのアルキルエーテルアセテート類。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテル類。N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなど。勿論、本発明はこれらに限られるものではない。これらの水溶性有機溶剤は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。
【0144】
(その他の添加剤)
本発明のインクは、上記した成分以外にも必要に応じて、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類や、尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体などの、常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。さらに、本発明のインクは必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及び水溶性ポリマーなど、種々の添加剤を含有してもよい。
【0145】
<その他のインク>
また、フルカラーの画像などを記録するために、本発明のインクを、本発明のインクとは別の色調を有するインクと組み合わせて用いることができる。本発明のインクは、例えば、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、レッドインク、グリーンインク、及びブルーインクなどから選ばれる少なくともいずれか1種のインクと共に用いることが好ましい。また、これらのインクと実質的に同じ色調を有する、所謂淡インクをさらに組み合わせて用いることもできる。これらのインク又は淡インクの色材は、公知の染料であっても、新規に合成された色材であっても用いることができる。
【0146】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、インクをインクジェット方式で吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、該インクが、上記で説明した本発明のインクジェット用インクであることを特徴とする。本発明のインクジェット記録方法は、インクに力学的エネルギーを作用することによりインクを吐出する記録方法や、インクに熱エネルギーを作用することによりインクを吐出する記録方法などに適用できる。特に、本発明は、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法を適用することが好ましい。
【0147】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクを収容してなるインク収容部を備えたインクカートリッジであって、収容されているインクが、上記で説明した本発明のインクジェット用インクであることを特徴とする。
【0148】
<記録ユニット>
本発明の記録ユニットは、インクを収容してなるインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えた記録ユニットであって、収容されているインクが、上記で説明した本発明のインクジェット用インクであることを特徴とする。本発明の記録ユニットの好適なものとしては、特に、前記記録ヘッドが、記録信号に対応した熱エネルギーをインクに作用することによりインクを吐出する方式であるものを挙げることができる。さらに、本発明においては、金属及び/又は金属酸化物を含有する発熱部接液面を有する記録ヘッドである場合に、より好ましい効果が得られる。前記発熱部接液面を構成する金属及び/又は金属酸化物の具体例としては、例えば、Ta、Zr、Ti、Ni、若しくはAlなどの金属、又はこれらの金属の酸化物などが挙げられる。
【0149】
<インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録装置は、インクを収容してなるインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置であって、収容されているインクが、上記で説明した本発明のインクジェット用インクであることを特徴とする。本発明のインクジェット記録装置の好適なものとしては、特に、前記記録ヘッドが、記録信号に対応した熱エネルギーをインクに作用することによりインクを吐出する方式であるものを挙げることができる。
【0150】
以下に、本発明の一例のインクジェット記録装置について、機構部の概略構成を説明する。インクジェット記録装置は、各機構の役割から、給紙部、搬送部、キャリッジ部、排紙部、クリーニング部、及びこれらを保護し、意匠性を持たせる外装部などで構成される。
【0151】
図1は、インクジェット記録装置の斜視図である。また、図2及び図3は、インクジェット記録装置の内部機構を説明する図であり、図2は右上部からの斜視図、図3はインクジェット記録装置の側断面図をそれぞれ示す。
【0152】
給紙を行う際には、給紙トレイM2060を含む給紙部において、記録媒体の所定枚数のみが給紙ローラM2080と分離ローラM2041から構成されるニップ部に送られる。記録媒体はニップ部で分離され、最上位の記録媒体のみが搬送される。搬送部に搬送された記録媒体は、ピンチローラホルダM3000及びペーパーガイドフラッパーM3030に案内されて、搬送ローラM3060とピンチローラM3070とのローラ対に搬送される。搬送ローラM3060とピンチローラM3070とのローラ対は、LFモータE0002の駆動により回転し、この回転により記録媒体がプラテンM3040上を搬送される。
【0153】
記録媒体に画像を記録する際には、キャリッジ部は、記録ヘッドH1001(図4;詳細な構成は後述する)を目的の画像を記録する位置に配置して、電気基板E0014からの信号にしたがって記録媒体にインクを吐出する。記録ヘッドH1001により記録を行いながらキャリッジM4000が列方向に走査する主走査と、搬送ローラM3060により記録媒体を行方向に搬送する副走査とを交互に繰り返すことにより、記録媒体に画像を記録する。画像が記録された記録媒体は、排紙部において、第1の排紙ローラM3110と拍車M3120とのニップに挟まれた状態で搬送されて、排紙トレイM3160に排出される。
【0154】
なお、クリーニング部は、画像を記録する前後の記録ヘッドH1001をクリーニングする。キャップM5010で記録ヘッドH1001の吐出口をキャッピングした状態で、ポンプM5000を作動すると、記録ヘッドH1001の吐出口から不要なインクなどが吸引されるようになっている。また、キャップM5010を開いた状態で、キャップM5010の内部に残っているインクなどを吸引することにより、残インクによる固着やその他の弊害が起こらないようになっている。
【0155】
(記録ヘッドの構成)
ヘッドカートリッジH1000の構成について説明する。ヘッドカートリッジH1000は、記録ヘッドH1001と、インクカートリッジH1900を搭載する手段、及びインクカートリッジH1900から記録ヘッドにインクを供給する手段を有しており、キャリッジM4000に対して着脱可能に搭載される。
【0156】
図4は、ヘッドカートリッジH1000に、インクカートリッジH1900を装着する様子を示した図である。インクジェット記録装置は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、淡マゼンタ、淡シアン、及びグリーンの各インクで画像を記録する。したがって、インクカートリッジH1900も7色分が独立に用意されている。なお、上記において、少なくとも一つのインクに、本発明のインクを用いる。そして、図4に示すように、それぞれのインクカートリッジが、ヘッドカートリッジH1000に対して着脱可能となっている。なお、インクカートリッジH1900の着脱は、キャリッジM4000にヘッドカートリッジH1000を搭載した状態でも行うことができる。
【0157】
図5は、ヘッドカートリッジH1000の分解斜視図である。ヘッドカートリッジH1000は、記録素子基板、プレート、電気配線基板H1300、カートリッジホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700、シールゴムH1800などで構成される。記録素子基板は第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101で構成され、プレートは第1のプレートH1200及び第2のプレートH1400で構成される。
【0158】
第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101はSi基板であり、その片面にインクを吐出するための複数の記録素子(ノズル)がフォトリソグラフィ技術により形成されている。各記録素子に電力を供給するAlなどの電気配線は成膜技術により形成されており、個々の記録素子に対応した複数のインク流路はフォトリソグラフィ技術により形成されている。さらに、複数のインク流路にインクを供給するためのインク供給口が裏面に開口するように形成されている。
【0159】
図6は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101の構成を説明する正面拡大図である。H2000〜H2600は、それぞれ異なるインク色に対応する記録素子の列(以下、ノズル列ともいう)である。第1の記録素子基板H1100には、イエローインクのノズル列H2000、マゼンタインクのノズル列H2100、及びシアンインクのノズル列H2200の3色分のノズル列が形成されている。第2の記録素子基板H1101には、淡シアンインクのノズル列H2300、ブラックインクのノズル列H2400、グリーンインクのノズル列H2500、及び淡マゼンタインクのノズル列H2600の4色分のノズル列が形成されている。
【0160】
各ノズル列は、記録媒体の搬送方向(副走査方向)に1,200dpi(dot/inch;参考値)の間隔で並ぶ768個のノズルによって構成され、約2ピコリットルのインクを吐出する。各吐出口における開口面積は、およそ100μm2に設定されている。本発明においては、フォト画質の観点から、吐出体積が5pL以下、さらには2pL以下の小液滴のインクを吐出するためのノズルが好ましい。また、吐出口は10μm未満であることが好ましい。また、フォト画質と高速記録の両立の観点から複数の吐出体積のインクを吐出させるために複数のノズル(例えば5pL、2pL、1pL)を併用させるのも好ましい。
【0161】
以下、図4及び図5を参照して説明する。第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101は第1のプレートH1200に接着固定されている。ここには、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101にインクを供給するためのインク供給口H1201が形成されている。さらに、第1のプレートH1200には、開口部を有する第2のプレートH1400が接着固定されている。この第2のプレートH1400は、電気配線基板H1300と第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101とが電気的に接続されるように、電気配線基板H1300を保持する。
【0162】
電気配線基板H1300は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101に形成されている各ノズルからインクを吐出するための電気信号を印加する。この電気配線基板H1300は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101に対応する電気配線と、この電気配線端部に位置し、インクジェット記録装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1301とを有する。外部信号入力端子H1301は、カートリッジホルダーH1500の背面側に位置決め固定されている。
【0163】
インクカートリッジH1900を保持するカートリッジホルダーH1500には、流路形成部材H1600が、例えば、超音波溶着により固定され、インクカートリッジH1900から第1のプレートH1200に通じるインク流路H1501を形成する。インクカートリッジH1900と係合するインク流路H1501のインクカートリッジ側端部には、フィルターH1700が設けられており、外部からの塵埃の侵入を防止し得るようになっている。また、インクカートリッジH1900との係合部にはシールゴムH1800が装着され、係合部からのインクの蒸発を防止し得るようになっている。
【0164】
さらに、上記したように、カートリッジホルダー部と記録ヘッド部H1001とを接着などで結合することで、ヘッドカートリッジH1000が構成される。なお、カートリッジホルダー部は、カートリッジホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700、及びシールゴムH1800から構成される。また、記録ヘッド部H1001は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101、第1のプレートH1200、電気配線基板H1300及び第2のプレートH1400から構成される。
【0165】
なお、ここでは記録ヘッドの一形態として、電気信号に応じた膜沸騰をインクに生じさせるための熱エネルギーを生成する電気熱変換体(記録素子)を用いて記録を行うサーマルインクジェット方式の記録ヘッドについて述べた。この代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は、所謂、オンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用することができる。
【0166】
サーマルインクジェット方式は、オンデマンド型に適用することが特に有効である。オンデマンド型の場合には、インクを保持する液流路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加する。このことによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、インクに膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応したインク内の気泡を形成できる。この気泡の成長及び収縮により吐出口を介してインクを吐出することで、少なくとも一つの滴を形成する。駆動信号をパルス形状とすると、即時、適切に気泡の成長及び収縮が行われるので、特に応答性に優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。
【0167】
また、本発明のインクは、前記のサーマルインクジェット方式に限らず、下記に述べるような、力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置においても好ましく用いることができる。かかる形態のインクジェット記録装置は、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備えてなる。そして、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクをノズルから吐出する。
【0168】
インクジェット記録装置は、上記したように、記録ヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、それらが分離不能に一体になったものを用いてもよい。さらに、インクカートリッジは、記録ヘッドに対して分離可能又は分離不能に一体化されてキャリッジに搭載されるもの、また、インクジェット記録装置の固定部位に設けられて、チューブなどのインク供給部材を介して記録ヘッドにインクを供給するものでもよい。また、記録ヘッドに対して、好ましい負圧を作用させるための構成をインクカートリッジに設ける場合には、以下の構成とすることができる。すなわち、インクカートリッジのインク収容部に吸収体を配置した形態、又は可撓性のインク収容袋とこれに対してその内容積を拡張する方向の付勢力を作用するばね部とを有した形態などとすることができる。また、インクジェット記録装置は、上記したようなシリアル型の記録方式を採るもののほか、記録媒体の全幅に対応した範囲にわたって記録素子を整列させてなるラインプリンタの形態をとるものであってもよい。
【実施例】
【0169】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、特に指定のない限り、実施例、比較例のインク成分は「質量部」を意味する。また、文中の記載で「部」及び「%」とあるものは特に断りのない限り質量基準である。
【0170】
<色材の調製>
(例示化合物I−46の合成)
例示化合物I−46としては、特許文献1(特開2006−143989号公報)の実施例1に記載の方法で合成された染料(リチウム塩型)を用いた。
【0171】
(例示化合物III−1の合成)
(A)キシレン360部中に、下記式(1)の化合物94.8部、炭酸ナトリウム3.0部、ベンゾイル酢酸エチルエステル144.0部を撹拌下で順次添加し、液体の温度を140〜150℃に昇温して8時間反応させた。その間、反応で生成したエタノール及び水をキシレンと共沸させながら系外へ留出して、反応を完結した。反応液を温度30℃に冷却し、メタノール240部を添加して30分撹拌した。その後、析出した固体を濾取した。得られた固体をメタノール360部で洗浄した後、乾燥して、下記式(2)の化合物124.8部を淡黄色針状結晶として得た。
【0172】

【0173】

【0174】
(B)N,N−ジメチルホルムアミド300.0部中に、上記で得られた式(2)の化合物88.8部、メタアミノアセトアニリド75.0部、酢酸銅1水和物24.0部、及び炭酸ナトリウム12.8部を撹拌下で順次添加した。そして、液体の温度を120〜130℃に昇温して3時間反応させた。反応液を約50℃に冷却し、メタノール120部を添加して30分撹拌した。その後、析出した固体を濾取した。得られた固体をメタノール500部、次いで80℃の温水で洗浄した後、乾燥して、下記式(3)の化合物79.2部を青味の赤色結晶として得た。
【0175】

【0176】
(C)98%の硫酸130部に、水冷しながら、28%の発煙硫酸170部を撹拌下で添加して、12%の発煙硫酸300部を調製した。水冷しながら、上記で得られた式(3)の化合物51.3部を温度50℃以下で添加した後、液体の温度を85〜90℃に昇温して4時間反応させた。600部の氷水中に反応液を添加し、その間氷を加えながら発熱による液温の上昇を抑え、液温を40℃以下に保った。さらに、水を加えて反応液の液量を1,000部とした後、ろ過を行い、非溶解物を除去した。得られた母液に温水を加えて1,500部とし、液温を60〜65℃に保ちながら、塩化ナトリウム300部を添加して2時間撹拌し、析出した結晶を濾取した。得られた結晶を20%塩化ナトリウム水溶液300部で洗浄し、よく水分を絞って、下記式(4)の化合物59.2部を含むウェットケーキ100.3部を赤色結晶として得た。
【0177】

【0178】
(D)水60部中に、上記で得られた式(4)の化合物のウェットケーキ67.7部を添加した。次いで、これに25%の水酸化ナトリウム水溶液24部を添加して撹拌し、さらに、25%の水酸化ナトリウム水溶液を加えて液体のpHを3〜4に調整しながら溶解した。一方、60部の氷水に、リパールOH(商品名、アニオン界面活性剤;ライオン製)0.4部を添加し、これにシアヌルクロライド8.9部を添加して30分撹拌して懸濁液を得た。得られた懸濁液を、上記で得られた式(4)を含む溶液中に添加した。そして、10%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、液体のpHを2.7〜3.0に保ちながら、温度25〜30℃で4時間反応を行うことにより、下記式(5)の化合物を含む反応液を得た。
【0179】

【0180】
(E)上記で得られた式(5)の化合物を含む反応液中に、p−フェノールスルホン酸ナトリウム2水和物9.5部を添加した。次いで、これに25%の水酸化ナトリウム水溶液を加えて、液体のpHを6.5±0.3に保ちながら、液体の温度を50〜55℃に昇温して、その温度で1時間反応を行うことにより、下記式(6)の化合物を含む反応液を得た。
【0181】

【0182】
(F)上記で得られた式(6)の化合物を含む反応液中に、エチレンジアミン1.2部を添加した。次いで、これに25%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して、液体のpHを7.8〜8.2に保ちながら、液体の温度を78〜82℃に昇温して、その温度で1時間反応させた。その後、水を加えて液量を約350部にした後、ろ過を行い、非溶解物を除去した。得られた母液に水を加えて液量を400部とした後、液体の温度を55±2℃に保ちながら、濃塩酸を添加して、液体のpHを3に調整した。次いで、この液体に、塩化ナトリウム40部を15分かけて添加し、30分間撹拌して、さらに濃塩酸を添加して、液体のpHを2に調整した。得られた酸性の水溶液を1時間撹拌して、析出した結晶を濾取し、得られた結晶を20%の塩化ナトリウム水溶液100部で洗浄することにより、前記した例示化合物III−1を含む赤色のウェットケーキを得た。
【0183】
(G)上記で得られたウェットケーキをメタノール500部中に添加して、液体の温度を60〜65℃に昇温して、1時間撹拌した。析出した結晶を濾取してメタノールで洗浄した後、乾燥することにより遊離酸の形の前記例示化合物III−1を得た。得られた遊離酸の形の例示化合物III−1を通常のイオン交換法によりナトリウム塩型とした。
【0184】
<インクの調製>
上記で得られた色材である例示化合物I−46、及びIII−1、及びC.I.ダイレクトレッド227、C.I.ダイレクトレッド52、C.I.ダイレクトブルー199、C.I.アシッドイエロー23を用い、下記のようにしてインクをそれぞれ調製した。先ず、下記表3及び4の上段に示した各成分をそれぞれ混合して、十分撹拌した。その後、ポアサイズ0.2μmのフィルターにて加圧ろ過を行い、実施例及び比較例の各インクを調製した。なお、表3及び4の下段には、各インクの主特性を併せて示した。
【0185】

【0186】

【0187】

【0188】

【0189】

【0190】

【0191】
<評価>
(1)色調
上記で得られた各インクをそれぞれ、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置(商品名:PIXUS iP8600;キヤノン製)に搭載した。記録条件は、温度23℃、相対湿度55%、記録密度2,400dpi×1,200dpi、吐出量2.5pLとした。記録媒体(商品名:PR−101;キヤノン製)に記録デューティを0%から100%まで10%刻みで変化させた画像を記録して、画像を温度23℃、相対湿度55%で24時間自然乾燥した。このようにして得られた記録物における記録デューティが100%の画像の部分について、CIE(国際照明委員会)により規定されたL***表示系におけるa*及びb*を測定して、色調の評価を行った。なお、a*及びb*は、分光光度計(Spectorolino;Gretag Macbeth製)を用いて、光源:D50、視野:2°の条件で測定した。得られたa*及びb*の値から、下記式(A)に基づいて色相角(H°)をそれぞれ算出して、色調(色相角)の評価を行った。色調(色相角)の評価基準は以下の通りである。評価結果を表5に示した。本発明においては、下記の評価基準でBが好ましいマゼンタの色調を有するインク、Aが特に好ましいマゼンタの色調を有するインクであり、Cがマゼンタの色調として許容できないインクであるとしている。
式(A)
*≧0、b*≧0(第一象現)では、H°=tan-1(b*/a*
*≦0、b*≧0(第二象現)では、H°=180+tan-1(b*/a*
*≦0、b*≦0(第三象現)では、H°=180+tan-1(b*/a*
*≧0、b*≦0(第四象現)では、H°=360+tan-1(b*/a*
A:H°が0以上5以下。
B:H°が5を超えて50以下、又は、350以上360未満。
C:H°が50を超えて350未満。
【0192】
(2)耐光性
上記で得られた各インクをそれぞれ、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置(商品名:PIXUS iP8600;キヤノン製)に搭載した。記録条件を、温度23℃、相対湿度55%、記録密度2,400dpi×1,200dpi、吐出量2.5pLとした。記録媒体(商品名:PR−101;キヤノン製)に記録デューティを0%から100%まで10%刻みで変化させた画像を形成して、画像を温度23℃、相対湿度55%で24時間自然乾燥した。このようにして得られた記録物における記録デューティが100%の画像の部分について光学濃度を測定した(「試験前の光学濃度」とする)。さらに、この記録物に、スーパーキセノン試験機(商品名:SX−75;スガ試験機製)を用いて、照射強度100キロルクス、槽内温度24℃、相対湿度60%で168時間曝露した。その後、記録物の画像における記録デューティ100%の部分の部分について光学濃度を測定した(「試験後の光学濃度」とする)。なお、光学濃度は、分光光度計(Spectorolino;Gretag Macbeth製)を用いて、光源:D50、視野:2°の条件で測定した。得られた試験前の光学濃度及び試験後の光学濃度の各値から、下記式に基づいて光学濃度の残存率を算出して、耐光性の評価を行った。耐光性の評価基準は以下の通りである。評価結果を表5に示した。本発明においては、下記の評価基準でBが許容できるレベル、Aが優れているレベルであり、Cが耐光性試験後における画像の褪色の度合いが大きく、許容できないレベルであるとしている。

A:光学濃度の残存率が80%以上。
B:光学濃度の残存率が70%以上、80%未満。
C:光学濃度の残存率が70%未満。
【0193】
(3)間欠吐出安定性
上記で得られた各インクをそれぞれ、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置(商品名:PIXUS iP8600;キヤノン製)に搭載した。このインクジェット記録装置を、温度15℃、湿度10%RHの環境で5時間以上放置した後、同様の環境において、所定のノズルからインクを吐出させた。その後、一定時間前記所定のノズルを使用せず、再度前記所定のノズルからインクを吐出させ、記録媒体(商品名:HR−101;キヤノン製)に記録を行った。このようにして得られた画像を目視で確認して、間欠吐出安定性の評価を行った。間欠吐出安定性の評価基準は以下の通りである。評価結果を表5に示した。本発明においては、下記の評価基準でC以上である場合を間欠吐出安定性が十分であるもの、Bである場合を間欠吐出安定性が優れているもの、Aである場合を間欠吐出安定性が特に優れているもの、Dが許容できないレベルとしている。
A:5秒間ノズルを使用しなかった後でも、正常に記録できた。
B:3秒間ノズルを使用しなかった後でも、正常に記録できた。
C:3秒間ノズルを使用しなかった後に若干の記録品位の低下があったが、問題のないレベルであった。
D:3秒間ノズルを使用しなかった後に、不吐出又は記録の乱れがあった。
【0194】
(4)耐固着性
上記で得られた各インクをそれぞれ、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置(商品名:PIXUS iP8600;キヤノン製)に搭載した。前記インクジェット記録装置について、予め回復動作(クリーニング)を行った後、PIXUS iP8600のノズルチェックパターンを記録した。その後、キャリッジが動作している途中で電源ケーブルを引き抜くことにより、記録ヘッドにキャッピングが行われていない状態として、この状態のまま、インクジェット記録装置を温度30℃、湿度10%RHの環境で14日間放置した。その後、このインクジェット記録装置を温度25℃の環境に6時間放置して常温に戻した後、インクジェット記録装置を用いて、回復動作をしながら記録を行って、耐固着性の評価を行った。耐固着性の評価基準は以下の通りである。評価結果を表5に示した。本発明においては、下記の評価基準でB以上である場合を耐固着性が十分であるもの、Aである場合を耐固着性が特に優れているもの、Cが許容できないレベルとしている。
A:回復動作を1回乃至2回行うことで、正常に記録できた。
B:回復動作を3回乃至10回行うことで、正常に記録できた。
C:10回以下の回復動作では正常に記録できなかった。
【0195】
(5)記録耐久性
上記で得られた各インクをそれぞれ、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置(商品名:PIXUS iP3100;キヤノン製)に搭載した。記録ヘッドのヒーターに所定数の電気パルスを付与した後に、PIXUS iP3100のノズルチェックパターンを記録して、得られたノズルチェックパターンを目視で確認することにより、記録耐久性の評価を行った。なお、所定数の電気パルスを付与した後に得られるノズルチェックパターンが正常に記録されていれば、ヒーターの断線が発生していないことになる。ヒーター耐久性の評価基準は以下の通りである。評価結果を表5に示した。本発明においては、下記の評価基準でB以上である場合を記録耐久性が十分であるもの、Aである場合を記録耐久性が特に優れているもの、Cが許容できないレベルとしている。
A:2.0×108パルスを付与しても、ヒーターの断線が発生しなかった。
B:1.5×108パルス以上2.0×108パルス以下でヒーターの断線が発生した。
C:1.5×108パルス未満でヒーターの断線が発生した。
【0196】

【0197】

【符号の説明】
【0198】
M2041:分離ローラ
M2060:給紙トレイ
M2080:給紙ローラ
M3000:ピンチローラホルダ
M3030:ペーパーガイドフラッパー
M3040:プラテン
M3060:搬送ローラ
M3070:ピンチローラ
M3110:排紙ローラ
M3120:拍車
M3160:排紙トレイ
M4000:キャリッジ
M5000:ポンプ
M5010:キャップ
M7030:アクセスカバー
E0002:LFモータ
E0014:電気基板
H1000:ヘッドカートリッジ
H1001:記録ヘッド
H1100:第1の記録素子基板
H1101:第2の記録素子基板
H1200:第1のプレート
H1201:インク供給口
H1300:電気配線基板
H1301:外部信号入力端子
H1400:第2のプレート
H1500:タンクホルダー(カートリッジホルダー)
H1501:インク流路
H1600:流路形成部材
H1700:フィルター
H1800:シールゴム
H1900:インクカートリッジ
H2000:イエローノズル列
H2100:マゼンタノズル列
H2200:シアンノズル列
H2300:淡シアンノズル列
H2400:ブラックノズル列
H2500:グリーンノズル列
H2600:淡マゼンタノズル列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記一般式(I)で表される化合物及び下記一般式(II)で表される化合物を含有してなることを特徴とするインクジェット用インク。

(一般式(I)中、[A]は5員複素環基であり、[B]及び[C]は、CR1及びCR2であるか、又は、一方が窒素原子で他方がCR1であり、R5及びR6はそれぞれ独立に、水素原子又は下記に挙げる群から選ばれるいずれかの置換基である。該置換基の群は、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、及びスルファモイル基からなり、該置換基の水素原子は置換されていてもよい。また、式中の[D]、並びに、[B]及び[C]の一部を構成し得る上記のR1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子又は下記に挙げる群から選ばれるいずれかの置換基である。該置換基の群は、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、複素環オキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、複素環スルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、複素環スルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、複素環スルフィニル基、スルファモイル基、及びスルホン酸基からなり、該置換基の水素原子は置換されていてもよく、R1及びR5、又はR5及びR6が結合して、5員環又は6員環を形成してもよい。)

(一般式(II)中、−[E]−は、−S(=O)2−であり、Rx及びRyは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルケニル基、アシル基、カルバモイル基、カルボキシ基、及びスルホニル基のいずれかである。ただし、Rx及びRyが同時に水素原子及び/又はヒドロキシ基となることはない。)
【請求項2】
インク中の一般式(II)で表される化合物の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として1.0質量%以上30.0質量%以下である請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
前記一般式(II)で表される化合物が、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホンである請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
【請求項4】
さらにグリセリンを含有してなる請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項5】
インク全質量を基準とした、前記一般式(II)で表される化合物の含有量(質量%)及びグリセリンの含有量(質量%)の合計が、8.0質量%以上23.0質量%以下である請求項4に記載のインクジェット用インク。
【請求項6】
インク全質量を基準とした、前記一般式(II)で表される化合物の含有量(質量%)が、グリセリンの含有量(質量%)に対して、質量比率で、0.40以上5.90以下である請求項4又は5に記載のインクジェット用インク。
【請求項7】
さらに、下記一般式(III)で表される化合物を含有してなり、インク全質量を基準とした、下記一般式(III)で表される化合物の含有量(質量%)が、前記一般式(I)で表される化合物の含有量(質量%)に対して、質量比率で、2.5以上10.0以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。

(一般式(III)中、Rzはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、シクロヘキシル基、又はモノ若しくはジアルキルアミノアルキル基であり、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、及び有機アンモニウムのいずれかであり、[F]は連結基である。)
【請求項8】
インクをインクジェット方式で吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、前記インクが、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインクジェット用インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項9】
インクを収容してなるインク収容部を備えたインクカートリッジであって、前記インクが、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインクジェット用インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項10】
インクを収容してなるインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えた記録ユニットであって、前記インクが、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインクジェット用インクであることを特徴とする記録ユニット。
【請求項11】
インクを収容してなるインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置であって、前記インクが、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインクジェット用インクであることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−52118(P2012−52118A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200311(P2011−200311)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【分割の表示】特願2009−30608(P2009−30608)の分割
【原出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】