説明

インクジェット用光沢記録紙、並びにその製造方法

【課題】 キャストコート方式によらないで、光沢性とインク吸収性を両立できるインクジェット用記録紙を製造する。
【解決手段】 基紙上に微粒シリカ、微粒炭酸カルシウムよりなる顔料と親水性バインダーを主成分とするインク受容層を設け、基紙の最外層にインク透過性ポリマー分散物を塗工し、乾燥と熱カレンダー仕上げを施したものであり、且つ、インク透過性ポリマー分散物が、単量体成分として(メタ)アクリルアミドを含む条件で共重合反応させたスチレン・アクリル系ポリマー分散物よりなるインクジェット用光沢記録紙である。所定のインク受容層上に(メタ)アクリルアミドを含むスチレン・アクリル系ポリマー分散物層を塗工し、熱カレンダー処理するため、光沢性とインク吸収性を兼備した記録紙が得られる。また、水溶性連鎖移動剤を使用して乳化重合すると、ポリマー分散物を円滑に合成できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はインクジェット用光沢記録紙、並びにその製造方法に関して、優れた光沢性とインク吸収性(印刷適性)を兼備できるものを提供する。
【0002】
【発明の背景】従来、インクジェット用記録紙としては、次のものなどが知られている。
(a)パルプを主成分とした一般の紙に澱粉等と表面サイズ剤を混合したものやカチオン性薬剤を塗工したもの。
(b)一般の上質紙等の基紙上に、多孔質の顔料を用いてインク吸収層を設けたもの。
(c)合成樹脂フィルム又はフィルムと紙を貼り合わせたものにインク吸収性の親水性樹脂や多孔質顔料のインク吸収層を設けたもの。
【0003】近年、記録の多色化、或は写真画像の印字(即ち、微妙な中間階調を有する印字)に伴い、インクジェット用記録媒体においても、より高度の特性が要請され、特に、表面光沢のある記録媒体への要求が高まっている。しかし、上記(a)〜(c)に示した記録紙などでは、紙の表面がインク吸収性の多孔質表面であるために、空隙の多い表面で入射光が散乱されてしまって、全く光沢のない艶消しの表面しか得られない。
【0004】
【従来の技術】そこで、光沢性を付与する目的のインクジェット用記録紙の従来技術を挙げると、次のものなどがある。
(1)合成樹脂フィルムに親水性樹脂を塗布したもの。
(2)特開昭63−265680号公報、特開平2−113986号公報、特開平6−305237号公報等に示すように、上質紙等に特別な配合の顔料とバインダの塗工液を塗布し、この塗工液が湿潤状態にあるうちに加熱ドライヤー鏡面に貼って乾燥させ、鏡面の平滑性を塗工層表面に写し取る、いわゆるキャストコート方式で製造したインクジェット用記録紙。
【0005】(3)特開平11−48604号公報、特開平11−268405号公報に示すように、最上層に白色顔料や顔料シリカの微粒子含有塗工層を設け、熱カレンダー処理によって製造したインクジェット記録紙。これらの従来技術は、キャストドラムに圧着して鏡面仕上げを行い、或は、熱カレンダーとキャストコート処理を併用する方式であるため(例えば、両者の各実施例1を参照)、本記録紙は実質的にキャストコート紙である。このキャストコート紙は、油性インキを用いたオフセット印刷やグラビア印刷では、最高の光沢を得るものとして一般的に用いられている。
【0006】(4)特開平7−101142号公報に示すように、シリカ、アルミナ微粒子、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体などのコロイド微粒子とラテックスからなる光沢発現層を最表層に塗工し、熱カレンダー処理により製造した記録紙。
【0007】(5)特開平7−25134号公報、特開平7−47761号公報に示すように、記録紙の最外層に熱可塑性微粒子又は熱可塑性の多層微粒子を含有するインク受容層を設け、これらの粒子を部分融着させてインク吸収性を調整した記録紙。また、特開平7−25135号公報に示すように、記録紙の最外層に官能基を有する微粒子の塗工層を形成した後、架橋剤又は電子線などで粒子同士を架橋した記録紙。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記(1)に示すフィルムを用いたものは紙のようには再利用できず、これからの環境問題に対応できないものである。上記(2)の上質紙等にキャストコート方式でインク吸収層を設けたものでは、高光沢は得られるが、その反面、平滑・緻密で分厚い表面層のために、油性インクを用いた印刷には適用できても、水性インクを基本とするインクジェット印字に用いると、表面層の分厚さに阻止されて水性インクの吸収が遅くなりがちである。ちなみに、インクジェット印字では、高速でノズルから噴出する水性インクを記録紙が遅れず迅速に吸収しなければ、インク滲みや画像不良が発生してしまうため、速いインク吸収性はインクジェット用記録紙には重要な要件である。また、鏡面ドライヤーから鏡面の平滑性を塗工層表面に写し取りながら乾燥するため、乾燥速度を上げることができず、生産性が悪く、コスト高でもある。一方、上記(3)の記録紙もこれらの弊害を免れない。
【0009】上記(4)の記録紙では、無機のコロイド微粒子の比率が多いと親水性が高いために印字の滲みが起こり易く、逆に、ラテックスなどのバインダの比率が増すと、インクジェットの水性インクがバインダ皮膜を通過する吸収速度が遅くなり、印字汚れやフルカラーでの境界滲みなどのトラブルを起こし易い。
【0010】上記(5)の部分融着した記録紙では、微粒子を部分融着するのに狭い温度幅に乾燥条件を調整する必要があり、実際の乾燥条件では、乾燥装置の温度分布が必ず起こることから、一定のインク吸収性を備えた記録紙を生産するのは非常に困難である。また、(5)の架橋方式の記録紙では、後架橋の工程が煩雑になりがちである。ちなみに、(5)の記録紙は、いずれも多層構造の微粒子を相互連結してインク受容層を形成し、耐水性、インク乾燥性、ドット再現性、印字の鮮明性などを発明の目的としているため、記録紙の光沢向上は望めない。
【0011】一方、インクジェット記録媒体に光沢を付与する方法としては、単純にスーパーカレンダーやグロスカレンダー方式により、圧力や温度をかけたロールに通紙することが考えられるが、この方式では、表面の平滑化に伴って光沢は向上しても塗工層の空隙が減少してインク吸収性が遅くなり、逆に、速いインク吸収性を確保しようとすると、空隙が多くなって光沢が低下する。以上の理由から、キャストコート以外の方法で、記録紙のインク吸収性と光沢性を両立させることは、従来ではきわめて困難であった。本発明は、キャストコート方式によらないで、光沢性とインク吸収性を両立できるインクジェット用記録紙を製造することを技術的課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】本出願人は、先に、特開平4−272297号公報(以下、先行技術1という)で、スチレン及び/又はメタクリル酸メチル系等の単量体などをアニオン性乳化剤の存在下に重合した、ガラス転移温度80℃以上の共重合体エマルションの紙表面加工剤を提案した。しかしながら、上記先行技術1の加工剤は、基紙の下塗り塗工液に親油性のスチレンブタジエンゴムラテックスなどを使用していることからも判るように(同公報の段落42参照)、オフセット印刷等の油性インキによる高光沢印刷に適したものであり、インクジェット印刷の水性インクに適用すると、疎水性が強過ぎるため、インク吸収性が遅くなり、印字汚れやフルカラーでの境界滲みを起こす恐れがある。
【0013】本発明者らは、上記従来技術2を出発点として、鋭意研究を重ねた結果、基紙上に設けたインク受容層にスチレン・アクリル系ポリマー分散物を積層し、このインク透過性ポリマー分散物に単量体成分として(メタ)アクリルアミドを含むとともに、塗工紙を高コストのキャストコート方式ではなく、簡便な熱カレンダー処理で平滑仕上げをすると、光沢性とインク吸収性をバランス良く兼備できること、さらには、反応速度が速いアクリルアミドを含むスチレン・アクリル系ポリマーの乳化重合反応では、水溶性連鎖移動剤の使用が適正なポリマー分散物の生成に大きく寄与することなどを見い出して、本発明を完成した。
【0014】即ち、本発明1は、基紙上に微粒シリカ及び/又は平均粒径0.5μm以下の微粒炭酸カルシウムよりなる顔料と親水性バインダを主成分とするインク受容層を設け、基紙の最外層にインク透過性ポリマー分散物を塗工し、乾燥と熱カレンダー仕上げを施したインクジェット用記録紙であり、上記インク透過性ポリマー分散物が、単量体成分として(メタ)アクリルアミドを含む条件で共重合反応させたスチレン・アクリル系ポリマー分散物であることを特徴とするインクジェット用光沢記録紙である。
【0015】本発明2は、基紙上に親水性ポリマー層を塗工し、基紙の最外層にインク透過性ポリマー分散物を塗工し、乾燥と熱カレンダー仕上げを施したインクジェット用記録紙であり、上記インク透過性ポリマー分散物が、単量体成分として(メタ)アクリルアミドを含む条件で共重合反応させたスチレン・アクリル系ポリマー分散物であることを特徴とするインクジェット用光沢記録紙である。
【0016】本発明3は、上記本発明2の親水性ポリマーが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、カチオン性ポリアクリルアミド、水溶性のカチオン性ポリアクリレート、カチオン性ポリアクリレート分散物よりなる群から選ばれたポリマーの少なくとも一種であることを特徴とするインクジェット用光沢記録紙である。
【0017】本発明4は、上記本発明1〜3のいずれかにおいて、(メタ)アクリルアミドを含むスチレン・アクリル系ポリマー分散物が、水溶性連鎖移動剤の存在下に乳化重合したものであることを特徴とするインクジェット用光沢記録紙である。
【0018】本発明5は、上記本発明1〜4のいずれかにおいて、スチレン・アクリル系ポリマー分散物が、(メタ)アクリルアミドを単量体成分として2〜15重量%含有する乳化重合物であることを特徴とするインクジェット用光沢記録紙である。
【0019】本発明6は、上記本発明5において、(メタ)アクリルアミドを含むスチレン・アクリル系ポリマー分散物が、(a)(メタ)アクリルアミド 2〜15重量%(b)スチレン 35〜60重量%(c)メタクリル酸メチル 30〜60重量%(d)その他のエチレン性単量体 20重量%以下の乳化重合物であることを特徴とするインクジェット用光沢記録紙である。
【0020】本発明7は、上記本発明1〜6のいずれかにおいて、(メタ)アクリルアミドを含むスチレン・アクリル系ポリマー分散物が、反応性乳化剤の存在下に乳化重合したものであることを特徴とするインクジェット用光沢記録紙である。
【0021】本発明8は、上記本発明1〜7のいずれかにおいて、(メタ)アクリルアミドを含むスチレン・アクリル系ポリマー分散物の平均粒子径が40〜150nmであることを特徴とするインクジェット用光沢記録紙である。
【0022】本発明9は、基紙上に上記本発明1、4〜8のいずれかのインク受容層とインク透過性ポリマー分散層とを積層状に塗工し、乾燥した後、熱カレンダー処理を施すことを特徴とするインクジェット用光沢記録紙の製造方法である。
【0023】本発明10は、基紙上に上記本発明2〜8のいずれかの親水性ポリマー層とインク透過性ポリマー分散層とを積層状に塗工し、乾燥した後、熱カレンダー処理を施すことを特徴とするインクジェット用光沢記録紙の製造方法である。
【0024】
【発明の実施の形態】本発明は、インクを受容し、微細な凹凸のある基紙表面を平滑にするクッションの役割を果すインク受容層、或は親水性ポリマー塗工層を基紙の上に設け、さらにインク透過性ポリマー分散物を積層したインクジェット用記録紙である。上記記録紙の基紙としては、化学パルプ、機械パルプ、或は古紙パルプなどのセルロースパルプを主とする一般の酸性紙、中性紙、合成紙などが使用でき、不透明性の付与やインク吸収性の調整などの見地から、無機、有機填料を任意に含有させることができる。また、基紙の強度調整、或はインク吸収性や塗工液吸収性の調整のために、ポリアクリルアミドやデンプン系の紙力増強剤と共に、ロジン系、アルキルケテンダイマー系、アルケニルコハク酸無水物系、カチオン性高分子系などの各種サイズ剤を併用することが望ましい。
【0025】さらに、基紙の製造においては、通常の上質紙やコート原紙のように、澱粉、ポリビニルアルコールやポリアクリルアミド系表面紙力剤などと共に、アニオン性、ノニオン性、カチオン性ポリマーなどの表面サイズ剤をサイズプレスやゲートロールコーターなどの塗工機によって予め塗工し、表面強度やサイズ度を調整しておくこともできる。
【0026】本発明1の記録紙において、基紙表面に設けるインク受容層には顔料と親水性バインダを含有する。上記顔料には、微粒シリカ及び/又は平均粒径0.5μm以下の微粒炭酸カルシウムを使用する。上記微粒シリカとしては、一般に用いられている合成シリカを使用でき、代表的には平均二次粒子径1.5〜5μmで、BET比表面積200〜500m2/gのシリカなどが好ましい。上記微粒炭酸カルシウムとしては、平均粒子径0.07〜0.5μmの立方体合成炭酸カルシウムが好ましい。本発明のインク透過性ポリマー層はきわめて薄く塗工するのが好ましく、このため、上記微粒シリカ又は炭酸カルシウムの粒子径が大きいと、インク吸収性は増すが、その反面、下塗りインク受容層としての表面平滑度が低下して、塗工量の少ないインク透過性ポリマー層を積層した場合に、下塗り層の凹凸形状がこの最外層にまで及んで、光沢向上に至らない恐れがある。
【0027】上記顔料を結合するための親水性バインダとしては、ポリビニルアルコールやカチオン変性ポリビニルアルコールやシリル変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類、変性デンプン類、ポリビニルピロリドン、カゼイン、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロースなどのセルロース誘導体などが挙げられる。また、当該バインダは親水性であって、スチレンブタジエンゴムラテッスなどのような親油性バインダは当然に排除される。但し、親水性調整のためにスチレン・ブタジエン共重合体エマルション、アクリル系共重合体エマルション、或はエチレン・酢酸ビニル共重合体エマルションなどを併用してもよい。上記インク受容層には、顔料と親水性バインダの他に、印字耐水性を向上するためにカチオン性化合物を配合することもできる。また、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、浸透剤、蛍光白色剤、紫外線吸収剤、防腐剤などの公知の添加剤を必要に応じて配合しても良い。
【0028】上記インク受容層の塗工方法を述べると、顔料と親水性バインダを配合した塗料、さらには、必要に応じて疎水性バインダ、或はカチオン化合物などを追加配合した塗料を、一般的には固形分濃度5〜50重量%に調整した後、基紙上に乾燥重量で1〜15g/m2程度、好ましくは2〜10g/m2程度の条件で塗工するのである。塗工は、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、その他各種の公知の塗工機などを用いて実施される。必要に応じて、片面塗工又は両面塗工された後、乾燥される。さらに必要に応じて、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー装置を用いて平滑化処理をすることもできる。
【0029】一方、本発明2の記録紙の親水性ポリマーは、前述したように、第一に、インクを受容する役目を果す。第二に、塗工量の少ないインク透過ポリマー層だけを基紙上に塗工したのでは、基紙の表面の微細凹凸が最外層にまで及ぶ恐れがあるので、これを回避するために、基紙表面を平滑にするクッションの役割をこの親水性ポリマー層に負わせているのである。当該親水性ポリマー塗工層には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、カチオン性ポリアクリルアミド、水溶性のカチオン性ポリアクリレート、カチオン性ポリアクリレート分散物よりなる群から選ばれたポリマーの少なくとも一種を用いることができる。この親水性ポリマー塗工層には、必要に応じて、印字耐水性のためにカチオン性化合物を添加することもできる。上記親水性ポリマーの塗工液は、固形分濃度1〜20重量%に調整して、基紙上に片面当たり0.5〜2g/m2の乾燥重量で塗工するのが良い。親水性ポリマーの塗工量が少ないと光沢の向上が少なかったり、最外層のインク透過性ポリマー分散物の付着が弱くなって、はげ落ちる恐れがある。逆に、上記塗工量が多過ぎるとインクの吸収性が遅くなり、画像の汚れやフルカラーの境界滲みを起こす恐れがある。塗工はロールコーター、バーコーター、その他各種の塗工機を用いて行われるが、サイズプレスやゲートロール塗工機等のような一般のオンマシン塗工機などでも塗工でき、塗工後に乾燥される。通常は両面塗工であるが、必要に応じて片面塗工しても良い。尚、上記水溶性ポリマー層には、前記インク受容層に配合可能な各種の添加剤を適宜加えても良い。
【0030】本発明のインクジェット用記録紙において、最外層に塗工されるインク透過性ポリマー分散物は、(メタ)アクリルアミドを単量体成分として2〜15重量%含有する乳化重合物であり(本発明5参照)、好ましくは、単量体成分が下記の含有量からなる乳化重合物である(本発明6参照)。
(a)(メタ)アクリルアミド 2〜15重量%(b)スチレン 35〜60重量%(c)メタクリル酸メチル 30〜60重量%(d)その他のエチレン性単量体 0〜20重量%但し、上記(a)〜(d)に示す含有率は、各化合物が個別にとり得る仕込み量の範囲を表したもので、実際の共重合反応では、(a)〜(d)の化合物の合計含有量が100重量%になるように、(a)〜(d)の各含有量は適宜調整される。また、(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミドとメタクリルアミドの両方を包含する概念である。
【0031】(メタ)アクリルアミドが2重量%より少ないと光沢向上効果が低減し、15重量%以上ではインクの吸収性が低減したり、インク透過性ポリマー分散物の粘度が高くなり過ぎて塗工性が低下する恐れがある。また、上記スチレンとメタクリル酸メチルにおいては、スチレンが多すぎるとインクの吸収性が低下し、少ないと光沢向上効果が減少する恐れがある。メタクリル酸メチルが多すぎると光沢向上効果が減少し、少ないとインク吸収性が低下し、熱カレンダー処理後のロールからの剥離性が低下する恐れがある。即ち、上記インク透過性ポリマー分散物においては、スチレンとメタクリル酸メチルの組み合わせ含有量、或はアクリルアミドの含有量により、インク吸収性と光沢向上性とのバランスを調整しているのであり、これらの量比にはおのずから好ましい範囲がある。
【0032】上述のその他のエチレン性単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ターシャリーブチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ターシャリーブチルなどのメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などのカルボキシル基含有単量体、スチレンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸基含有単量体、α−メチルスチレンなどのスチレン誘導体などが挙げられる。これらの単量体はインク透過性の性能を損なわない程度に共重合させることができる。但し、架橋性単量体については、架橋によって皮膜が硬くなり過ぎて、粒子表面に収縮などの変形が起こり、光沢が低下する恐れがあるために、その使用は好ましくない。
【0033】また、(メタ)アクリルアミドを含む共重合スチレン・アクリル系ポリマー分散物は、アクリルアミドの反応速度が速く、これを制御するために、本発明4に示すように、乳化重合に際して、水溶性連鎖移動剤の存在下に重合反応するのが好ましい。上記水溶性連鎖移動剤としては、チオグリコール酸、チオグリセロール、エチレングリコールジチオグリコレート、アリルスルホン酸ナトリウム、或はこれらと類似の構造の化合物が利用できる。水溶性連鎖移動剤なしで重合反応すると、上述のように、アクリルアミドの反応速度が速いことなどにより、粒子表面の水溶性単量体の分子量が高くなりすぎて、高粘度、或はゲル状になる問題がある。水溶性連鎖移動剤を用いると、低粘度のポリマー分散物を調製できるため、塗工液の作業性も良く、均一の塗工層が形成できる。また、油溶性連鎖移動剤を用いると、上記水溶性連鎖移動剤なしの場合と同様の弊害がある。
【0034】さらに、(メタ)アクリルアミドを含む共重合スチレン・アクリル系ポリマー分散物は、本発明7に示すように、反応性乳化剤の存在下に乳化重合したものが好ましい。アニオン性の反応性乳化剤としては、アリルノニルフェノールポリエチレンオキシド付加体硫酸エステルアンモニウム(アクアロンHS、BCシリーズ;第一工業製薬社製)、ノニルフェノールプロピレンオキシド付加プロペニルポリエチレンオキシド付加体硫酸エステルアンモニウム(アデカリソープSEシリーズ;旭電化工業社製)、その他類似のアクリルエステル基含有反応性乳化剤(例えば、ラテムルSシリーズ;花王社製)などが挙げられる。
【0035】乳化重合物である(メタ)アクリルアミドを含む共重合スチレン・アクリル系ポリマー粒子は高い二次ガラス転移温度を有するが、反応性乳化剤を用いて乳化重合すると、このポリマー粒子が融着しない温度や圧力のロールに通して塗工した場合においても、粒子表面に共重合して付着した乳化剤樹脂同士の付着によると考えられる強固な粒子同士の付着力が生じて、粒子の剥落が有効に防止されるという効果がある。この場合、ポリマー粒子は、表面の一部のみの付着によって粒子間の空隙を保ちながら最密充填状に並ぶために、規則正しい光の反射に起因して優れた白紙光沢を持つとともに、高いインク吸収性をも兼備させることができるのである。これに対して、一般の他の非反応性の乳化剤を用いたポリマー粒子では、溶融付着するほどの高温ロール処理を施さなければ粒子付着が可能でない。また、一部だけ融着させるには精密な温度コントロールが必要である。しかしながら、実際の乾燥機や加熱ロールでは温度分布がどうしても起こるために、一定の融着度を実現するのは事実上困難である。しかも、融着を起こさない程度の温度条件では、乳化剤は弱い力で粒子表面に吸着しているだけで、乳化剤の強度も弱いために、手で摺擦する程度でも容易に粒子が剥落してしまう。
【0036】(メタ)アクリルアミドを含む共重合スチレン・アクリル系ポリマー分散物の乳化重合は、基本的に、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩、レドックス開始剤、或はアゾ系開始剤などの水溶性重合開始剤と乳化剤の存在下で行う。好ましくは、水溶性連鎖移動剤、反応性乳化剤を添加した加熱水媒体中に水溶性開始剤と単量体混合物を別々に滴下して重合する滴下乳化重合法で行う。但し、水媒体中に水溶性連鎖移動剤と反応性乳化剤の存在下で単量体混合物を一括混合し、加熱した後、さらに上述の水溶性重合開始剤を添加する一括乳化重合法、その他の公知の乳化重合法などで重合しても良いことは言うまでもない。乳化重合で得られたポリマー分散物には、必要に応じてアンモニア水などのpH調整剤、消泡剤、防腐剤、その他の添加剤を混合することができる。
【0037】本発明7に示すように、上記(メタ)アクリルアミドを含む共重合スチレン・アクリル系ポリマー分散物の平均粒子径は40〜150nm、好ましくは、50〜120nmである。ちなみに、可視光線の波長は400〜700nmであり、これに比べて分散物の平均粒子径はかなり微細である。平均粒子径の下限は、製造技術の面で40nm程度であり、平均粒子径が150nmを越えると熱カレンダー仕上げを行った場合の粒子同士の密着性が良好でなく、紙表面の不透明性が増して光沢性が減じる恐れがある。
【0038】上記インク透過性ポリマー分散物を用いてインクジェット用光沢記録紙を製造するには、本発明1に示すように、前記基紙上に微粒シリカ又は微粒炭酸カルシウム含有の顔料と親水性バインダを塗工し、乾燥した下塗り紙を調製するか、或は、本発明2に示すように、前記基紙上に親水性ポリマー塗工層を設ける。次いで、(メタ)アクリルアミドを含む共重合スチレン・アクリル系ポリマーの乳化重合物、或は、さらに必要なら、ステアリン酸カルシウムエマルション、ラウリルリン酸エステル塩水分散液、ポリエチレンワックスエマルションなどの離型剤を3〜10重量%(対固形分換算)の割合で混合した液を、濃度10〜30重量%に希釈して、この希釈液を前記下塗り紙又は親水性ポリマー塗工紙の表面に塗工するのである。
【0039】上記希釈液の塗工は、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーターなどの塗工機などを用いて、片面当たりの塗布量が固形分0.3〜2.0g/m2程度の条件で塗工し、乾燥して行われる。均一に塗工した場合には、塗工量が少なくても光沢は向上するが、0.3g/m2程度以下では均一ポリマー粒子層が形成できない恐れがあり、逆に、塗工量が多過ぎるとインク吸収性が減少する。本発明9〜10に示すように、乾燥した塗工紙は、前記従来技術が主に採用しているキャストコート方式とは異なり、スーパーカレンダー、ソフトカレンダーなどの通常の熱カレンダー処理で平滑仕上げされる。即ち、圧力や温度をかけたロール間に通紙(例えば、ロール温度60℃以下、高線圧条件で通紙)することにより、本発明のインクジェット用光沢記録紙が得られる。
【0040】
【作用】本発明のインク透過性ポリマーでは、ポリマーを構成する基本単量体成分がスチレンとアクリル系単量体(例えば、メタクリル酸メチル)であるため、適度の硬さの非造膜性ポリマー微粒子となり、また、水溶性の(メタ)アクリルアミドを単量体成分に含むため、このインク透過層の乾燥に際して膨潤からの水分喪失過程でレベリング効果が期待できることから、ポリマーの微粒子が比較的平滑な下塗り塗工表面上に最密充填状に均一に並ぶものと推定できる。この一定にそろった微粒子が規則正しく並んでいる最表面においては、可視光線の波長400〜700nmよりはるかに小さいサイズの粒子の繰り返し凹凸層を形成するため、光線は散乱しないで平行光線で反射する。このため、粒子状の表面でありながら、光沢感を感じるのである。また、この最表面のインク透過性ポリマー分散層は単量体成分に(メタ)アクリルアミドを含む親水層であるため、粒子間の空隙にインクジェット用水性インクが浸透するのを妨げない。
【0041】一方、乳化重合に際して水溶性連鎖移動剤を使用することで、反応速度の速いアクリルアミドの分子量が増大するのを抑制し、適正な粘度を有するスチレン・アクリル系ポリマーの微粒子を円滑に調製できる。しかも、重合に反応性乳化剤を用いると、最外層の粒子表面、粒子間はアクリルアミドを含むスチレン・アクリル系ポリマー層に加えて、さらに強固な結合の乳化剤鎖で被覆されるため、カレンダーロールの弱い加熱と線圧により強固に粒子表面の一部で密着することができ、手でこすった程度では粒子の剥落がない強固な微粒子分散層を形成できる。
【0042】
【発明の効果】(1)本発明のインクジェット用記録紙は、キャストコート方式以外ではこれまで達成できなかった30%以上の白紙光沢と、キャストコート紙では実現が容易でなかった円滑なインク吸収性とを良好に両立することができる。即ち、後述の試験例に示すように、市販のインクジェット専用紙やPPC・インクジェット共用紙の光沢度4〜5%に比べて、本発明の記録紙の光沢水準はかなり高く、画像濃度も高いなどの優れた特性を備えている。また、本発明の記録紙は熱カレンダー法で仕上げ処理した紙であり、冒述の従来技術のキャストコート紙とは異なり、鏡面への圧着で微粒子間の空隙が潰れ、インク吸収性が遅くなるなどの弊害はなく、迅速なインク吸収性が要求されるインクジェット用記録紙に好適であり、生産効率も高い。
【0043】(2)本発明4では、アクリルアミドを含むスチレン・アクリル系ポリマー分散物を水溶性の連鎖移動剤の存在下に乳化重合するため、反応速度の速いアクリルアミドの過剰重合などを抑制し、適正な粘度を有するスチレン・アクリル系ポリマー微粒子を有効に調製でき、光沢性とインク吸収性の両立可能な記録紙を円滑に製造することができる。
【0044】
【実施例】以下、インク透過性ポリマー分散物の製造例、インクジェット用光沢記録紙の製造実施例を順次述べるととともに、得られた記録紙の白色光沢、インク吸収性などの各種試験例を説明する。また、実施例、試験例中に示される「部」及び「%」は、全て「重量部」及び「重量%」を意味する。尚、本発明は下記の実施例、試験例などに拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0045】《インク透過性ポリマー分散物の合成例》そこで、先ず、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル及び(メタ)アクリルアミドなどを単量体成分とする乳化重合反応により製造したアクリルアミドを含む共重合スチレン・アクリル系ポリマーの合成例1〜3並びに比較合成例1〜5を述べる。ちなみに、上記合成例1〜3及び比較合成例1〜5のうち、合成例1〜3はアクリルアミドを含む単量体種、水溶性連鎖移動剤種、反応性乳化剤種などを変化させた例である。比較合成例1はアクリルアミド及び連鎖移動剤を使用せず、非反応性乳化剤を使用した例、比較合成例2はアクリルアミド及び連鎖移動剤を使用せず、反応性乳化剤を使用した例、比較合成例3は連鎖移動剤を使用せず、単量体種を冒述の先行技術1に記載された比較例3に類似させた例、比較合成例4は水溶性連鎖移動剤の存在下にアクリルアミドを15%以上に増量した例、比較合成例5は油性連鎖移動剤の使用例である。
【0046】(1)合成例1撹拌機、滴下槽及び温度計を具備した反応容器に、水300gと、反応性乳化剤としてアリルノニルフェノールポリオキシエチレンオキシド(EO付加10モル)付加体硫酸エステルアンモニウム(アクアロンHS−10;第一工業製薬社製)9部と、50%アクリルアミド水溶液26部と、水溶性連鎖移動剤としてチオグリコール酸1部を仕込み混合した後、窒素ガスを吹き込みながら75℃に昇温して、スチレン145.6部、メタクリル酸メチル89.7部、アクリル酸エチル10.4部、アクリル酸1.3部の混合物244.4部を2時間かけて滴下仕込みした。同時に、2%過硫酸アンモニウム水溶液25部を2時間15分かけて滴下仕込みした。次いで、85℃で2時間保持して重合を終了し、アンモニア水を加えてpH8.0に中和し、固形分濃度38%、粘度110mPa・sのインク透過性ポリマー分散物を得た。
【0047】(2)合成例2撹拌機、滴下槽及び温度計を具備した反応容器に、水300gと、反応性乳化剤としてノニルフェノールプロピレンオキシド付加プロペニルポリエチレンオキシド付加体硫酸エステルアンモニウム(アデカリソープSE−10N;旭電化工業社製)6.5部と、50%アクリルアミド水溶液57.2部と、水溶性連鎖移動剤としてチオグリセロール1.5部を仕込み混合し、窒素ガスを吹き込みながら75℃に昇温して、スチレン124.8部、メタクリル酸メチル104部、アクリル酸2.6部の混合物231.4部を2時間かけて滴下仕込みした。同時に、2%過硫酸アンモニウム水溶液25部を2時間15分かけて滴下仕込みした。次いで、85℃で2時間保持して重合を終了し、アンモニア水を加えてpH8.0に中和して、固形分濃度35%、粘度160mPa・sのインク透過性ポリマー分散物を得た。
【0048】(3)合成例3上記合成例1を基本としながら、50%アクリルアミドを15.6部、スチレンを117部、メタクリル酸メチルを133.9部、アクリル酸エチルを0部、アクリル酸を1.3部に変更して、それ以外は合成例1と同様の条件で合成して、固形分濃度40%、粘度105mPa・sのインク透過性ポリマー分散物を得た。
【0049】(4)比較合成例1撹拌機、滴下槽及び温度計を具備した反応容器に、水300gと、非反応性乳化剤としてノニルジフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム50%水溶液(ペレックスSS−H;花王社製)14部を仕込み混合し、窒素ガスを吹き込みながら75℃に昇温して、スチレン176.8部、メタクリル酸メチル75.4部、アクリル酸7.8部の混合物260部を2時間かけて滴下仕込みした。同時に、2%過硫酸アンモニウム水溶液25部を2時間15分かけて滴下仕込みした。次いで、85℃で2時間保持して重合を終了し、アンモニア水を加えてpH8.0に中和し、固形分濃度40%、粘度30mPa・sのポリマー分散物を得た。
【0050】(5)比較合成例2上記比較合成例1を基本としながら、非反応性乳化剤に替えて反応性乳化剤のアリルノニルフェノールポリオキシエチレンオキシド(EO付加10モル)付加体硫酸エステルアンモニウム(アクアロンHS−10;第一工業製薬製)を9部とし、スチレンを156部、メタクリル酸メチルを98.8部、アクリル酸を5.2部として、それ以外は上記合成例4と同様の条件で合成し、固形分濃度39%、粘度21mPa・sのポリマー分散物を得た。
【0051】(6)比較合成例3撹拌機、滴下槽及び温度計を具備した反応容器に、水300gと、反応性乳化剤としてノニルフェノールプロピレンオキシド付加プロペニルポリエチレンオキシド付加体硫酸エステルアンモニウム(アデカリソープSE−10N;旭電化工業社製)6.5部と、50%アクリルアミド水溶液52部を仕込み混合し、水溶性連鎖移動剤は添加しなかった。そして、窒素ガスを吹き込みながら75℃に昇温して、スチレン130部、メタクリル酸メチル78部、メタクリル酸エチル13部、メタクリル酸13部の混合物234部を2時間かけて滴下仕込みした。同時に、2%過硫酸アンモニウム水溶液25部を2時間15分かけて滴下仕込みした。その結果、滴下1時間40分後に重合物全体が増粘ゲル状になり、合成を中止した。
【0052】(7)比較合成例4撹拌機、滴下槽及び温度計を具備した反応容器に、水370gと、反応性乳化剤としてアリルノニルフェノールポリオキシエチレンオキシド(EO付加10モル)付加体硫酸エステルアンモニウム(アクアロンHS−10;第一工業製薬社製)6.3部と、50%アクリルアミド水溶液72.8部と、水溶性連鎖移動剤としてチオグリセロール1.5部を仕込み混合し、窒素ガスを吹き込みながら75℃に昇温して、スチレン89.2部、メタクリル酸メチル54.6部、アクリル酸1.8部の混合物145.6部を2時間かけて滴下仕込みした。同時に、2%過硫酸アンモニウム水溶液18部を2時間15分かけて滴下仕込みした。次いで、85℃で2時間保持して重合を終了し、アンモニア水を加えてpH8.0に中和して、固形分濃度22%、粘度370mPa・sのインク透過性ポリマー分散物を得た。
【0053】(8)比較合成例5撹拌機、滴下槽及び温度計を具備した反応容器に、水300gと、反応性乳化剤としてノニルフェノールプロピレンオキシド付加プロペニルポリエチレンオキシド付加体硫酸エステルアンモニウム(アデカリソープSE−10N;旭電化工業社製)8部と、50%アクリルアミド水溶液36.4部を仕込み混合し、水溶性連鎖移動剤は添加しなかった。そして、窒素ガスを吹き込みながら75℃に昇温し、スチレン130部、メタクリル酸メチル106.6部、アクリル酸5.2部、油性連鎖移動剤としてN−ドデシルメルカプタン2部の混合物243.8部を2時間かけて滴下仕込みした。同時に、2%過硫酸アンモニウム水溶液25部を2時間15分かけて滴下仕込みした。その結果、滴下1時間20分後に重合物全体が増粘ゲル状になり、合成を中止した。尚、合成例1〜3及び比較合成例1〜5の単量体組成、連鎖移動剤種、乳化剤種、ポリマー分散物の性状などを図1にまとめた。
【0054】そこで、セルロースパルプから抄造した基紙上にインク受容層又は親水性ポリマー層を下塗り塗工した後、この下塗り塗工基紙に上記合成例1〜3及び比較合成例1、2、4で得られた各インク透過性ポリマー分散物を積層状に塗工し、乾燥し、熱カレンダー処理を施すことによりインクジェット用記録紙を製造するとともに、各記録紙について、白紙光沢性、インク吸収性、表面剥離性、印字濃度の各種試験を実施した。但し、以下に使用する「部」、「%」は特に限定しない限り、「絶乾重量部」、「絶乾重量%」を表す。
【0055】《実施例1》
(1)基紙の抄造LBKPパルプ(CFS:450ml)100部に対して、軽質炭酸カルシウム15部、中性ロジンサイズ0.4部、カチオン性ポリアクリルアミド(歩留まり剤)0.03部、カチオンデンプン0.5部、硫酸バンド1.0部を添加・調製した後、自動抄紙機を用いて坪量75g/m2の基紙を抄造した。
(2)インク受容層の塗工微粒シリカ(ファインシールX37B;トクヤマ社製、二次凝集平均粒子径3.7μm、比表面積277m3/g)100部、ポリビニルアルコール(PVA117;クラレ社製)60部、カチオン性染料定着剤(CP−4;ハリマ化成社製)20部を用いて、顔料と親水性バインダよりなる塗料組成物(固形分13%)を調製し、基紙上にこの塗料組成物をバーコーターで乾燥塗工量6g/m2になるように塗工し、乾燥した後、室温で線圧20kg/cmの条件でカレンダー処理を行った。
(3)インク透過性ポリマー分散物の塗工前記合成例1のインク透過性ポリマー分散物97部と離型剤としてラウリルリン酸エステルカリウム塩3部を混合し、固形分20%に調整した塗工液を調製し、この塗工液を上記インク受容層が形成された基紙上に、バーコーターを用いて乾燥塗工量0.7g/m2になるように塗工した。この塗工紙を乾燥した後、ミニスーパーカレンダーでロール温度50℃、線圧100kg/cmの条件で2回通しを行って、インクジェット用記録紙を得た。
【0056】《実施例2》
(1)インク受容層の塗工微粒炭酸カルシウム(Brilliant−15;白石工業社製、平均粒径0.15μm)100部、カチオン変性デンプン(Cato102;日本エヌエスシー社製)30部、ポリビニルアルコール(PVA117;クラレ社製)30部、カチオン性染料定着剤(ハリコートCP-4;ハリマ化成社製)15部を用いて、顔料と親水性バインダよりなる塗料組成物(固形分12%)を調製し、この塗料組成物を上記実施例1と同じ基紙上にバーコーターで乾燥塗工量6g/m2になるように塗工し、乾燥した後、室温、線圧20kg/cmでカレンダー処理を行った。
【0057】(2)インク透過性ポリマー分散物の塗工前記合成例2のインク透過性ポリマー97部と、離型剤としてステアリン酸カルシウムエマルション(ノプコートC−104;サンノプコ社製)3部を混合し、固形分20%にした塗工液を調製し、この塗工液をインク受容層が形成された基紙上に、バーコーターを用いて乾燥塗工量1.2g/m2になるように塗工した。この塗工紙を乾燥した後、ミニスーパーカレンダーによりロール温度50℃、線圧100kg/cmで1回通しを行って、インクジェット用記録紙を得た。
【0058】《実施例3》上記実施例1を基本としながら、前記合成例1を合成例3のインク透過性ポリマー分散物に変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で製造して、インクジェット用記録紙を得た。
【0059】《実施例4》
(1)親水性ポリマーの塗工上記実施例1の基紙にポリビニルアルコール(PVA117;クラレ社製)の固形分3%水溶液をバーコーターで乾燥塗工量0.7g/m2になるように塗工し、乾燥した。
(2)インク透過性ポリマーの塗工前記合成例1のインク透過性ポリマー97部と離型剤としてラウリルリン酸エステルカリウム塩3部を混合し、固形分20%にした塗工液を調製した。そして、この塗工液を上記親水性ポリマーが塗工された基紙に、バーコーターを用いて乾燥塗工量0.8g/m2になるよう塗工した。この塗工紙を乾燥した後、ミニスーパーカレンダーによりロール温度50℃、線圧50kg/cmで1回通しを行って、インクジェット用記録紙を得た。
【0060】《実施例5》
(1)親水性ポリマーの塗工上記実施例1の基紙にカチオン性ポリアクリレート分散物(ハリコートAE−4;ハリマ化成社製)90部、ポリエチレンオキシド(アルコックスR−400;明成化学工業社製)10部を用いて固形分5%の塗工液を調製し、この塗工液をバーコーターで乾燥塗工量0.7g/m2になるように塗工し、乾燥した。
(2)インク透過性ポリマーの塗工前記合成例3のインク透過性ポリマー分散物を希釈し、固形分15%にした塗工液を調製した。そして、この塗工液を親水性ポリマーが塗工された基紙に、バーコーターを用いて乾燥塗工量1.0g/m2になるように塗工した。この塗工紙を乾燥した後、ミニスーパーカレンダーによりロール温度50℃、線圧50kg/cmで2回通しを行って、インクジェット用記録紙を得た。
【0061】《比較例1》上記実施例1を基本としながら、合成例1を比較合成例1のポリマー分散物に変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で製造して、基紙上にインク受容層とポリマー分散層を積層したインクジェット用記録紙を得た。
【0062】《比較例2》上記実施例1を基本としながら、合成例1を比較合成例2のポリマー分散物に変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で製造して、インク受容層とポリマー分散層を積層したインクジェット用記録紙を得た。
【0063】《比較例3》上記実施例4を基本としながら、合成例1を比較合成例2のインク透過性ポリマーに変更し、それ以外は実施例4と同様の条件で製造して、親水性ポリマー塗工層とインク透過性ポリマー層を積層したインクジェット用記録紙を得た。
【0064】《比較例4》上記実施例1を基本としながら、合成例1を比較合成例4のインク透過性ポリマーに変更し、それ以外は実施例1と同様の条件で製造して、インク受容層とインク透過性ポリマー層を積層したインクジェット用記録紙を得た。
【0065】《比較例5》上記実施例1の基紙にポリビニルアルコール(PVA117;クラレ社製)の固形分3%水溶液をバーコーターで乾燥塗工量1.0g/m2になるように塗工した。この塗工紙を乾燥した後、ミニスーパーカレンダーによりロール温度50℃、線圧100kg/cmで1回通しを行って、親水性ポリマー塗工層のみを有するインクジェット用記録紙を得た。
【0066】《比較例6》市販のインクジェット高品位専用紙(HR−101;キヤノン社製)をそのまま試験に供した。
【0067】《比較例7》市販のPPC・インクジェット共用紙(キヤノン社製)をそのまま試験に供した。
【0068】《インクジェット用記録紙の各種試験例》前述したように、上記実施例1〜5及び比較例1〜7の各インクジェット用記録紙について、白紙光沢、インク吸収性、表面剥離性、印字濃度の各種試験を行った。
(1)白紙光沢JIS P−8142(75°反射法)に準拠して、鏡面光沢度測定装置を用いて各記録紙の表面を測定した。
(2)インク吸収性各記録紙に市販のインクジェットプリンター(BJF−600;キヤノン社製)を用いて印字し、インクの吸収性、境界滲みの有無を目視観察した。その評価基準は次の通りである。
○:PPC・インクジェット共用紙と同程度のインク吸収スピードで、境界滲みも殆どなかった。
◇:PPC・インクジェット共用紙よりインク吸収性がやや遅く、境界滲みは僅かであった。
△:PPC・インクジェット共用紙よりインク吸収性が遅く、境界滲みが少しあった。
×:PPC・インクジェット共用紙よりインク吸収性が大幅に遅く、境界滲みが多かった。
【0069】(3)表面剥離性各記録紙の上にセロテープ(登録商標)を貼り付けた後に剥離し、塗工層の剥離の有無を観察した。その評価基準は次の通りである。
○:塗工層は剥離せず。
×:塗工層の剥離が見られた。
(4)印字濃度市販のインクジェットプリンター(BJF−600;キヤノン社製)を用いて各記録紙に印字し、黒とマゼンタのベタ印字部のマクベス濃度(マクベスRD−920)を測定した。
【0070】図2はその試験結果である。
(1)光沢性とインク吸収性インク受容層/インク透過性ポリマー層の積層型、或は、親水性ポリマー塗工層/インク透過性ポリマー層の積層型の記録紙である実施例1〜5では、白紙光沢は42〜60%の高水準にあり、インク吸収性も吸収速度やインク滲みの点で実用水準以上を示して、光沢性とインク吸収性を有効に両立できることが確認できた。ちなみに、市販キャストコート紙では75%以上の白紙光沢があるが、市販のインクジェット専用紙やPPC共用紙では4〜5%程度の白紙光沢しかなく、これらの専用紙又は共用紙の水準に比べると、実施例1〜5は優れた光沢性を具備していることが判る。
【0071】これに対して、インク受容層/ポリマー分散層の積層型記録紙であり、ポリマー分散層が、連鎖移動剤なしの乳化重合で得られたアクリルアミドを含まない共重合スチレン・アクリル系ポリマーである比較例1〜2(比較例1は非反応性乳化剤、比較例2は反応性乳化剤を夫々使用)では、白色光沢は33〜24%であったが、インク吸収速度が遅く、インクの境界滲みも少しあった。また、親水性ポリマー層/ポリマー分散層の積層型記録紙であり、ポリマー分散層が、連鎖移動剤なしの乳化重合で得られたアクリルアミドを含まない共重合スチレン・アクリル系ポリマーである比較例3では、白色光沢は27%であり、インク吸収速度はきわめて遅く、インクの境界滲みも多かった。さらに、インク受容層/インク透過性ポリマー層の積層型であり、インク透過性ポリマーがアクリルアミドを20%の高率で含有し、水溶性連鎖移動剤を使用した乳化重合で得られた共重合スチレン・アクリル系ポリマーである比較例4では、白色光沢は46%であったが、インク吸収速度はきわめて遅く、インクの境界滲みも多かった。一方、親水性ポリマー塗工層だけを設けた比較例5ではインク吸収性に劣り、市販のインクジェット専用紙(比較例6)やPPC・インクジェット共用紙(比較例7)では光沢性に劣った。
【0072】(2)表面剥離性と印字濃度実施例1〜5では、表面剥離性は良好であり、印字濃度も黒、マゼンタ共に実用水準以上を示した。ちなみに、例えば、黒の印字濃度は概ね1.2以上であれば実用水準である。これに対して、比較例1〜7では、表面剥離性に劣る例があり、黒の印字濃度も概して実施例1〜5より低かった。
【0073】(3)総合評価実施例1〜5と比較例1〜3を対比すると、インクジェット用記録紙の光沢性とインク吸収性を両立される点で、スチレン・アクリル系ポリマーに単量体成分としてアクリルアミドを含むことの優位性が確認できる。また、比較例1では、非反応性乳化剤を使用した点もインク吸収性の低減に影響しているものと思われる。さらに、比較例4によると、上記アクリルアミドの含有率が多過ぎる場合、インク吸収性を低減させる弊害があることが判る。一方、冒述の先行技術1に類した前記比較合成例3によると、アクリルアミド10%、スチレン50%、メタクリル酸メチル30%、メタクリル酸エチル5%、メタクリル酸5%を単量体組成として、水溶性連鎖移動剤なしで乳化重合すると、反応途中に増粘ゲル状を呈して、スチレン・アクリル系ポリマー分散物自体が得られないことから、反応速度の速いアクリルアミドが存在する乳化重合に際しては、連鎖移動剤の存在が重要であることが判る。また、前記比較合成例4によると、スチレン・アクリル系ポリマー分散物の乳化重合に際して、連鎖移動剤の種類を油溶性にすると、上記比較合成例3と同様に増粘を起こし、ポリマー分散物自体が得られないことから、連鎖移動剤の種類を水溶性にすることの重要性が認められる。
【図面の簡単な説明】
【図1】合成例1〜3及び比較合成例1〜5の各インク透過性ポリマー分散物の単量体組成、連鎖移動剤種、乳化剤種、ポリマー分散物の性状などをまとめた図表である。
【図2】実施例1〜5及び比較例1〜7の各インクジェット用記録紙の白色光沢、インク吸収性、表面剥離性、印字濃度の各種試験結果を示す図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基紙上に微粒シリカ及び/又は平均粒径0.5μm以下の微粒炭酸カルシウムよりなる顔料と親水性バインダを主成分とするインク受容層を設け、基紙の最外層にインク透過性ポリマー分散物を塗工し、乾燥と熱カレンダー仕上げを施したインクジェット用記録紙であり、上記インク透過性ポリマー分散物が、単量体成分として(メタ)アクリルアミドを含む条件で共重合反応させたスチレン・アクリル系ポリマー分散物であることを特徴とするインクジェット用光沢記録紙。
【請求項2】 基紙上に親水性ポリマー層を塗工し、基紙の最外層にインク透過性ポリマー分散物を塗工し、乾燥と熱カレンダー仕上げを施したインクジェット用記録紙であり、上記インク透過性ポリマー分散物が、単量体成分として(メタ)アクリルアミドを含む条件で共重合反応させたスチレン・アクリル系ポリマー分散物であることを特徴とするインクジェット用光沢記録紙。
【請求項3】 請求項2の親水性ポリマーが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、カチオン性ポリアクリルアミド、水溶性のカチオン性ポリアクリレート、カチオン性ポリアクリレート分散物よりなる群から選ばれたポリマーの少なくとも一種であることを特徴とするインクジェット用光沢記録紙。
【請求項4】 (メタ)アクリルアミドを含むスチレン・アクリル系ポリマー分散物が、水溶性連鎖移動剤の存在下に乳化重合したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット用光沢記録紙。
【請求項5】 スチレン・アクリル系ポリマー分散物が、(メタ)アクリルアミドを単量体成分として2〜15重量%含有する乳化重合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット用光沢記録紙。
【請求項6】 (メタ)アクリルアミドを含むスチレン・アクリル系ポリマー分散物が、(a)(メタ)アクリルアミド 2〜15重量%(b)スチレン 35〜60重量%(c)メタクリル酸メチル 30〜60重量%(d)その他のエチレン性単量体 20重量%以下の乳化重合物であることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット用光沢記録紙。
【請求項7】 (メタ)アクリルアミドを含むスチレン・アクリル系ポリマー分散物が、反応性乳化剤の存在下に乳化重合したものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット用光沢記録紙。
【請求項8】 (メタ)アクリルアミドを含むスチレン・アクリル系ポリマー分散物の平均粒子径が40〜150nmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット用光沢記録紙。
【請求項9】 基紙上に請求項1、4〜8のいずれか1項に記載のインク受容層とインク透過性ポリマー分散層とを積層状に塗工し、乾燥した後、熱カレンダー処理を施すことを特徴とするインクジェット用光沢記録紙の製造方法。
【請求項10】 基紙上に請求項2〜8のいずれか1項に記載の親水性ポリマー層とインク透過性ポリマー分散層とを積層状に塗工し、乾燥した後、熱カレンダー処理を施すことを特徴とするインクジェット用光沢記録紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2001−277704(P2001−277704A)
【公開日】平成13年10月10日(2001.10.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−93096(P2000−93096)
【出願日】平成12年3月30日(2000.3.30)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)
【Fターム(参考)】