説明

インクジェット用硬化性組成物及び電子部品の製造方法

【課題】比較的低温で熱硬化させることができるインクジェット用硬化性組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、インクジェット方式により塗工され、かつ熱の付与により硬化するインクジェット用硬化性組成物に関する。本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、環状エーテル基を有する化合物と、熱硬化剤と、顔料とを含む。上記顔料は、該顔料5gを純水100mLに加えた液を加熱し、5分間沸騰させた後、23℃に達するまで静置し、沸騰処理液を得、次に得られた沸騰処理液に、沸騰により蒸発した水量の水を加えて水量を100mLとした液のpHを測定したとき、pH6.3以上、12.0以下の値を示す顔料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式により塗工されるインクジェット用硬化性組成物に関し、基板上にレジストパターンなどの硬化物層を形成するために好適に用いられるインクジェット用硬化性組成物、並びに該インクジェット用硬化性組成物により形成された硬化物層を有する電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配線が上面に設けられた基板上に、パターン状のソルダーレジスト膜であるソルダーレジストパターンが形成されたプリント配線板が多く用いられている。電子機器の小型化及び高密度化に伴い、プリント配線板では、より一層微細なソルダーレジストパターンが求められている。
【0003】
微細なソルダーレジストパターンを形成する方法として、インクジェット方式によりソルダーレジスト用組成物を塗工する方法が提案されている。インクジェット方式では、スクリーン印刷方式によりソルダーレジストパターンを形成する場合よりも、工程数が少なくなる。このため、インクジェット方式では、ソルダーレジストパターンを容易にかつ効率的に形成することができる。
【0004】
インクジェット方式によりソルダーレジスト用組成物を塗工する場合、塗工時の粘度がある程度低いことが要求される。一方で、近年、50℃以上に加温して印刷することが可能なインクジェット装置が開発されている。インクジェット装置内でソルダーレジスト用組成物を50℃以上に加温することにより、ソルダーレジスト用組成物の粘度が比較的低くなり、インクジェット装置を用いたソルダーレジスト用組成物の吐出性をより一層高めることができる。
【0005】
また、インクジェット方式により塗工可能なソルダーレジスト用組成物が、下記の特許文献1に開示されている。下記の特許文献1には、(メタ)アクリロイル基と熱硬化性官能基とを有するモノマーと、重量平均分子量が700以下である光反応性希釈剤と、光重合開始剤とを含むインクジェット用硬化性組成物が開示されている。このインクジェット用硬化性組成物の25℃での粘度は、150mPa・s以下である。
【0006】
また、特許文献1には、フタロシアニングリーン顔料などの着色剤を含んでいてもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2004/099272A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のインクジェット用硬化性組成物の粘度は比較的低い。このため、特許文献1に記載のインクジェット用硬化性組成物は、インクジェット方式にて基板上に塗工することが可能である。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のインクジェット用硬化性組成物では、基板上にインクジェット方式で塗工した後に、低温では硬化性組成物が速やかに硬化しないことがある。このため、硬化性組成物が硬化するまでの間に、組成物が濡れ拡がるという問題がある。従って、基板上に、微細なレジストパターンを高精度に形成することが困難であるという問題がある。一方で、硬化性組成物の硬化速度を速くするために、高温で硬化性組成物を硬化させると、ソルダーレジストパターンを形成する際の熱の影響で、得られるプリント配線板が劣化しており、プリント配線板の信頼性が低いことがある。プリント配線板の熱劣化を抑制するためには、また硬化時の電力などの消費量を少なくするためには、インクジェット用硬化性組成物を硬化させる際の温度は低いほどよい。
【0010】
本発明の目的は、インクジェット方式により塗工される硬化性組成物であって、比較的低温で熱硬化させることができるインクジェット用硬化性組成物、並びに該インクジェット用硬化性組成物を用いた電子部品の製造方法を提供することである。
【0011】
本発明の限定的な目的は、硬化後の硬化物の耐熱性及び絶縁信頼性を高めることができるインクジェット用硬化性組成物、並びに該インクジェット用硬化性組成物を用いた電子部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の広い局面によれば、インクジェット方式により塗工され、かつ熱の付与により硬化するインクジェット用硬化性組成物であって、環状エーテル基を有する化合物と、熱硬化剤と、顔料とを含み、該顔料が、該顔料5gを純水100mLに加えた液を加熱し、5分間沸騰させた後、23℃に達するまで静置し、沸騰処理液を得、次に得られた沸騰処理液に、沸騰により蒸発した水量の水を加えて水量を100mLとした液のpHを測定したとき、pH6.3以上、12.0以下の値を示す顔料である、インクジェット用硬化性組成物が提供される。
【0013】
なお、本明細書では、顔料5gを純水100mLに加えた液を加熱し、5分間沸騰させた後、23℃に達するまで静置し、沸騰処理液を得、次に得られた沸騰処理液に、沸騰により蒸発した水量の水を加えて水量を100mLとした液のpHを測定する方法を、煮沸法と呼ぶことがある。
【0014】
上記顔料は、該顔料5gを純水100mLに加えた液を加熱し、5分間沸騰させた後、23℃に達するまで静置し、沸騰処理液を得、次に得られた沸騰処理液に、沸騰により蒸発した水量の水を加えて水量を100mLとした液のpHを測定したとき、pH7.3以上、12.0以下の値を示す顔料であることが好ましい。すなわち、上記顔料は、上記煮沸法によるpHが7.3以上、12.0以下の値を示す顔料であることが好ましい。
【0015】
本発明に係るインクジェット用硬化性組成物のある特定の局面では、上記熱硬化剤は、ジシアンジアミド、イミダゾール化合物及びトリアジン環を有する化合物からなる群から選択された少なくとも1種である。
【0016】
本発明に係るインクジェット用硬化性組成物の他の特定の局面では、上記顔料は、フタロシアニン顔料又はカーボンブラック顔料である。
【0017】
本発明に係るインクジェット用硬化性組成物の他の特定の局面では、インクジェット方式により塗工され、かつ光の照射と熱の付与とにより硬化可能であるインクジェット用硬化性組成物であって、(メタ)アクリロイル基を有する化合物と、光重合開始剤とがさらに含まれる。
【0018】
本発明に係るインクジェット用硬化性組成物では、JIS K2283に準拠して測定された25℃での粘度が160mPa・s以上、1200mPa・s以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の広い局面によれば、本発明に従って構成されたインクジェット用硬化性組成物を、インクジェット方式にて塗工し、パターン状に描画する工程と、パターン状に描画された上記インクジェット用硬化性組成物に熱を付与し、硬化させて、硬化物層を形成する工程とを備える、電子部品の製造方法が提供される。
【0020】
本発明に係る電子部品の製造方法のある特定の局面では、レジストパターンを有する電子部品であるプリント配線板の製造方法であって、上記インクジェット用硬化性組成物を、インクジェット方式にて塗工し、パターン状に描画し、パターン状に描画された上記インクジェット用硬化性組成物に熱を付与し、硬化させて、レジストパターンを形成する。
【0021】
本発明に係る電子部品の製造方法の他の特定の局面では、上記インクジェット用硬化性組成物として、(メタ)アクリロイル基を有する化合物と、光重合開始剤とを含むインクジェット用硬化性組成物を用いて、上記硬化物層を形成する工程において、パターン状に描画された上記インクジェット用硬化性組成物に光を照射及び熱を付与し、硬化させて、硬化物層を形成する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、環状エーテル基を有する化合物と、熱硬化剤と、顔料とを含み、更に上記顔料の煮沸法によるpHが6.3以上、12.0以下であるので、比較的低温でもインクジェット用硬化性組成物を熱硬化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0024】
(インクジェット用硬化性組成物)
本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、インクジェット方式により塗工され、かつ熱の付与により硬化するインクジェット用硬化性組成物である。本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、環状エーテル基を有する化合物(A)と、熱硬化剤(B)と、顔料(C)とを含む。本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、熱硬化性組成物である。
【0025】
顔料(C)は、該顔料(C)5gを純水100mLに加えた液を加熱し、5分間沸騰させた後、23℃に達するまで静置し、沸騰処理液を得、次に得られた沸騰処理液に、沸騰により蒸発した水量の水を加えて水量を100mLとした液のpH(煮沸法によるpH)を測定したとき、pH6.3以上、12.0以下の値を示す顔料である。
【0026】
上記組成を有するインクジェット用硬化性組成物は、比較的低温で硬化させることができる。本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、180℃以下でも、更に160℃以下でも十分に硬化させることができる。このため、プリント配線板の熱劣化を抑制して、プリント配線板の信頼性を高めることができ、更に硬化に必要な電力などを低減することができる。上記煮沸法によるpHが6.3以上、12.0以下である顔料(C)は、環状エーテル基を有する化合物(A)を低温で硬化させるのに大きく寄与する。
【0027】
また、本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、上記組成を有し、特に環状エーテル基を有する化合物(A)を含むため、硬化後の硬化物の耐熱性を高めることができる。さらに、本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、上記組成を有するので、硬化後の硬化物による絶縁信頼性を高めることもできる。
【0028】
本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、インクジェット方式により塗工され、かつ光の照射と熱の付与とにより硬化するインクジェット用硬化性組成物であることが好ましい。本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、光の照射によっても硬化可能であるように、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(D)と光重合開始剤(E)とを更に含むことが好ましく、インクジェット用光及び熱硬化性組成物であることが好ましい。この場合には、本発明に係るインクジェット用硬化性組成物を用いてレジストパターンなどの硬化物層を得る際に、光の照射により一次硬化物を得た後、一次硬化物に熱を付与することにより本硬化させ、硬化物であるレジストパターンなどの硬化物層を得ることができる。このように、光の照射により一次硬化を行うことで、基板等の塗工対象部材上に塗工されたインクジェット用硬化性組成物の濡れ拡がりを抑制することができる。従って、微細なレジストパターンなどの硬化物層をより一層高精度に形成することができる。
【0029】
以下、本発明に係るインクジェット用硬化性組成物に含まれている各成分の詳細を説明する。
【0030】
[環状エーテル基を有する化合物(A)]
本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、熱の付与によって硬化可能であるように、環状エーテル基を有する化合物(A)を含む。化合物(A)の使用により、熱の付与により硬化性組成物又は該硬化性組成物の一次硬化物をさらに硬化させることができる。このため、化合物(A)の使用により、レジストパターンを効率的にかつ精度よく形成することができ、更に硬化物の耐熱性及び硬化物層による絶縁信頼性を高めることができる。環状エーテル基を有する化合物(A)は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0031】
環状エーテル基を有する化合物(A)は、環状エーテル基を有していれば特に限定されない。化合物(A)における環状エーテル基としては、エポキシ基及びオキセタニル基等が挙げられる。なかでも、硬化性を高め、かつ耐熱性により一層優れた硬化物を得る観点並びに硬化物による絶縁信頼性をより一層高める観点からは、上記環状エーテル基はエポキシ基であることが好ましい。環状エーテル基を有する化合物(A)は、環状エーテル基を2個以上有することが好ましい。
【0032】
エポキシ基を有する化合物の具体例としては、ビスフェノールS型エポキシ化合物、ジグリシジルフタレート化合物、トリグリシジルイソシアヌレートなどの複素環式エポキシ化合物、ビキシレノール型エポキシ化合物、ビフェノール型エポキシ化合物、テトラグリシジルキシレノイルエタン化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、ビスフェノールAのノボラック型エポキシ化合物、キレート型エポキシ化合物、グリオキザール型エポキシ化合物、アミノ基含有エポキシ化合物、ゴム変性エポキシ化合物、ジシクロペンタジエンフェノリック型エポキシ化合物、シリコーン変性エポキシ化合物及びε−カプロラクトン変性エポキシ化合物等が挙げられる。
【0033】
オキセタニル基を有する化合物は、例えば、特許第3074086号公報に例示されている。
【0034】
上記環状エーテル基を有する化合物(A)は、芳香族骨格を有することが好ましい。芳香族骨格及び環状エーテル基を有する化合物の使用により、上記硬化性組成物の保管時及び吐出時の熱安定性がより一層良好になり、上記硬化性組成物の保管時にゲル化がより一層生じ難くなる。また、芳香族骨格及び環状エーテル基を有する化合物は、芳香族骨格を有さずかつ環状エーテル基を有する化合物と比べて、他の成分との相溶性に優れている。このため、芳香族骨格及び環状エーテル基を有する化合物の使用により、絶縁信頼瀬性がより一層良好になる。
【0035】
環状エーテル基を有する化合物(A)は25℃で液状であることが好ましい。環状エーテル基を有する化合物(A)の25℃での粘度は、300mPa・sを超えることが好ましい。環状エーテル基を有する化合物(A)の25℃での粘度は、80Pa・s以下であることが好ましい。環状エーテル基を有する化合物(A)の粘度が上記下限以上であると、硬化物層を形成する際の解像度がより一層良好になる。環状エーテル基を有する化合物(A)の粘度が上記上限以下であると、上記硬化性組成物の吐出性がより一層良好になるとともに、環状エーテル基を有する化合物(A)と他の成分との相溶性がより一層高くなり、絶縁信頼性がより一層向上する。
【0036】
環状エーテル基を有する化合物(A)の配合量は、熱の付与により適度に硬化するように適宜調整され、特に限定されない。インクジェット用硬化性組成物100重量%中、環状エーテル基を有する化合物(A)の含有量は好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上、更に好ましくは10重量%以上、好ましくは99重量%以下、より好ましくは95重量%以下、更に好ましくは80重量%以下である。化合物(D)及び光重合開始剤(E)が用いられる場合には、インクジェット用硬化性組成物100重量%中、環状エーテル基を有する化合物(A)の含有量は、特に好ましくは50重量%以下、最も好ましくは40重量%以下である。化合物(A)の含有量が上記下限以上であると、熱の付与により硬化性組成物をより一層効果的に硬化させることができる。化合物(A)の含有量が上記上限以下であると、硬化物の耐熱性がより一層高くなる。
【0037】
[熱硬化剤(B)]
本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、熱の付与によって効率的に硬化可能にするために、熱硬化剤(B)を含む。熱硬化剤(B)は、環状エーテル基を有する化合物(A)を硬化させる。熱硬化剤(B)は特に限定されない。熱硬化剤(B)として、従来公知の熱硬化剤を用いることができる。熱硬化剤(B)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。インクジェット用硬化性組成物のポットライフを長くする観点からは、熱硬化剤(B)は、潜在性熱硬化剤であることが好ましい。
【0038】
熱硬化剤(B)としては、ジシアンジアミド、ヒドラジド化合物、イミダゾール化合物、トリアジン環を有する化合物、メチル(メタ)アクリレート樹脂又はスチレン樹脂等により形成されたシェルにより、トリフェニルホスフィン(熱硬化剤)が被覆されている潜在性熱硬化剤(例えば、日本化薬社製「EPCAT−P」及び「EPCAT−PS」)、ポリウレア系重合体又はラジカル重合体により形成されたシェルにより、アミンなどの熱硬化剤が被覆されている潜在性熱硬化剤(特許第3031897号公報及び特許第3199818号公報に記載)、変性イミダゾールなどの熱硬化剤をエポキシ樹脂中に分散させて閉じ込め、粉砕することにより得られた潜在性熱硬化剤(旭化成イーマテリアルズ社製「ノバキュアHXA3792」及び「HXA3932HP」)、熱可塑性高分子内に熱硬化剤を分散させ、含有させた潜在性熱硬化剤(特許第3098061号公報に記載)、並びにテトラキスフェノール類化合物などにより被覆されたイミダゾール潜在性熱硬化剤(例えば、日本曹達製「TEP−2E4MZ」及び「HIPA−2E4MZ」)等が挙げられる。これら以外の熱硬化剤(B)を用いてもよい。
【0039】
加温された際の粘度変化をより一層小さくし、ポットライフをより一層長くする観点からは、熱硬化剤(B)はジシアンジアミド、イミダゾール化合物及びトリアジン環を有する化合物からなる群から選択された少なくとも1種であるであることが好ましい。
【0040】
上記イミダゾール化合物の具体例としては、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール及び2−フェニル−4−メチル−5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
【0041】
上記トリアジン環を有する化合物の具体例としては、メラミン、メラミンシアヌレート、TEPIC−S(日産化学工業社製)及び2,4,6−トリ(6’−ヒドロキシ−1’−ヘキシルアミノ)トリアジン等が挙げられる。
【0042】
ジシアンジアミド粒子の沈降やノズル詰まりを防止するため、ジシアンジアミドをあらかじめ環状エーテル基を有する化合物と反応させ、組成物中に溶解させてもよい。この場合でも、組成物のポットライフは良好である。
【0043】
ジシアンジアミドと反応させる環状エーテル基を有する化合物は、環状エーテル基を1個有する化合物であることが好ましい。
【0044】
上記ジシアンジアミドと反応させる環状エーテル基を有する化合物の具体例としては、フェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、オルトクレジルグリシジルエーテル、メタクレジルグリシジルエーテル、パラクレジルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、パラt−ブチルフェニルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類や、グリシジル(メタ)アクリレート、及び3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0045】
ジシアンジアミドと環状エーテル基を有する化合物との反応において、ジシアンジアミド1モルに対し、環状エーテル基を有する化合物を0.2モル以上、4モル以下反応させることが好ましい。この反応では、必要に応じて溶媒や反応促進剤の存在下、60℃から140℃で反応させることが好ましい。
【0046】
環状エーテル基を有する化合物が0.2モル未満であると、未反応のジシアンジアミドが析出するおそれがある。環状エーテル基を有する化合物が4モル以下であると、硬化性組成物のポットライフがより一層良好になる。
【0047】
ジシアンジアミドを溶解させるために溶剤を用いてもよい。該溶剤は、ジシアンジアミドを溶解させることが可能な溶剤であればよい。使用可能な溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド及びメチルセロソルブ等が挙げられる。
【0048】
ジシアンジアミドと環状エーテル基を有する化合物との反応を促進するため、反応促進剤を用いてもよい。反応促進剤として、フェノール類、アミン類、イミダゾール類及びトリフェニルフォスフィンなどの公知慣用の反応促進剤を使用できる。
【0049】
環状エーテル基を有する化合物(A)と熱硬化剤(B)との配合比率は特に限定されない。環状エーテル基を有する化合物(A)100重量部に対して、熱硬化剤(B)の含有量は、好ましくは1重量部以上、より好ましくは3重量部以上、更に好ましくは5重量部以上、特に好ましくは10重量部以上、好ましくは60重量部以下、より好ましくは50重量部以下、更に好ましくは40重量部以下である。
【0050】
[顔料(C)]
本発明に係るインクジェット用硬化性組成物に含まれている顔料(C)は、上記煮沸法によるpHが6.3以上、12.0以下である。pHがこの範囲内にあれば、インクジェット用硬化性組成物を低温で硬化させることが可能になる。この特定の顔料(C)の使用は、インクジェット用硬化性組成物を低温で硬化させることに大きく寄与する。
【0051】
上記煮沸法とは、顔料(C)5gを純水100mLに加えた液を加熱し、5分間沸騰させた後、23℃に達するまで静置し、沸騰処理液を得、次に、得られた沸騰処理液に、沸騰に際し蒸発した量の水を加えて、全量を100mLとして得られた液のpHを測定する方法である。
【0052】
上記煮沸法では、具体的には、顔料(C)5gを純水100mLに加えた液を、開口を有する容器内に入れる。上記容器を加熱することにより容器内の液を加熱し、容器内の液を沸騰させる。沸騰し始めてから5分間、沸騰状態を維持する。その後、容器の開口に栓体を取り付けて、23℃に達するまで静置し、沸騰処理液を得る。容器の開口から栓を取り外して、得られた沸騰処理液に、沸騰により蒸発した水量の水を加えて、水量を100mLとする。容器の開口に栓体を取り付けて、1分間振り混ぜた後、5分間静置する。このようにして、測定液を得る。得られた測定液のpHは、JIS Z8802の7.に記載された操作に準拠して測定できる。
【0053】
インクジェット用硬化性組成物をより一層低温で効果的に硬化させる観点からは、上記顔料(C)の上記煮沸法によるpHは、7.3以上、12.0以下であることが好ましい。また、上記顔料(C)の上記煮沸法によるpHは、7.3以上、12.0以下であれば、インクジェット吐出時の硬化性組成物の飛行曲りがより一層抑えられる。
【0054】
顔料(C)の具体例としては、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック及びナフタレンブラック等が挙げられる。顔料(C)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0055】
インクジェット用硬化性組成物をより一層低温で硬化させる観点からは、顔料(C)は、フタロシアニン顔料又はカーボンブラック顔料であることが好ましい。顔料(C)がフタロシアニン顔料又はカーボンブラック顔料であり、かつフタロシアニン顔料又はカーボンブラック顔料の上記煮沸法によるpHが6.3以上、12.0以下である場合には、顔料(C)がフタロシアニン顔料及びカーボンブラック顔料とは異なる他の顔料であり、かつ該他の顔料の上記煮沸法によるpHが6.3以上、12.0以下である場合と比べて、インクジェット吐出時の硬化性組成物の飛行曲りがより一層良好になる。
【0056】
顔料(C)の配合量は、硬化物が所望の色を示すように、又は組成物の硬化性を考慮して適宜調整され、特に限定されない。顔料(C)の配合量の一例を示すと、インクジェット用硬化性組成物100重量%中、顔料(C)の含有量は、好ましくは0.01重量%以上、好ましくは3重量%以下である。
【0057】
[(メタ)アクリロイル基を有する化合物(D)]
光の照射により硬化性組成物を硬化させるために、本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(D)を含むことが好ましい。化合物(D)は、(メタ)アクリロイル基を有していれば特に限定されない。化合物(D)として、(メタ)アクリロイル基を有する従来公知の化合物を用いることができる。化合物(D)は、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能化合物であることが好ましい。該多官能化合物は、(メタ)アクリロイル基を2個以上有するため、光の照射により重合が効果的に進行し、硬化する。このため、硬化性組成物を塗工した後に光を照射することにより硬化を進行させることができ、塗工された形状を保持することができ、光が照射された硬化性組成物の一次硬化物及び硬化物が過度に濡れ拡がるのを効果的に抑制することができる。化合物(D)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0058】
化合物(D)としては、多価アルコールの(メタ)アクリル酸付加物、多価アルコールのアルキレンオキサイド変性物の(メタ)アクリル酸付加物、ウレタン(メタ)アクリレート類、及びポリエステル(メタ)アクリレート類等が挙げられる。上記多価アルコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物、及びペンタエリスリトール等が挙げられる。上記「(メタ)アクリレート」の用語は、アクリレートとメタクリレートとを示す。上記「(メタ)アクリル」の用語は、アクリルとメタクリルとを示す。
【0059】
化合物(D)の配合量は、光の照射により適度に硬化するように適宜調整され、特に限定されない。化合物(D)の配合量の一例を示すと、インクジェット用硬化性組成物100重量%中、化合物(D)の含有量は、0重量%以上、好ましくは40重量%以上、より好ましくは60重量%以上、好ましくは95重量%以下、より好ましくは90重量%以下である。インクジェット用硬化性組成物100重量%中、化合物(D)の含有量の上限は、成分(A)〜(C),(E)及び他の成分の含有量などにより適宜調整される。
【0060】
[光重合開始剤(E)]
光の照射により硬化性組成物を硬化させるために、本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、化合物(D)とともに、光重合開始剤(E)を含むことが好ましい。光重合開始剤(E)としては、光ラジカル重合開始剤及び光カチオン重合開始剤等が挙げられる。光重合開始剤(E)は、光ラジカル重合開始剤であることが好ましい。光重合開始剤(E)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0061】
上記光ラジカル重合開始剤は特に限定されない。上記光ラジカル重合開始剤は、光の照射によりラジカルを発生し、ラジカル重合反応を開始するための化合物である。上記光ラジカル重合開始剤の具体例としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル類、アセトフェノン類、アミノアセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ケタール類、2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体、リボフラビンテトラブチレート、チオール化合物、2,4,6−トリス−s−トリアジン、有機ハロゲン化合物、ベンゾフェノン類、キサントン類及び2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。上記光ラジカル重合開始剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0062】
上記ベンゾインアルキルエーテル類としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル及びベンゾインイソプロピルエーテル等が挙げられる。上記アセトフェノン類としては、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン及び1,1−ジクロロアセトフェノン等が挙げられる。上記アミノアセトフェノン類としては、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン及びN,N−ジメチルアミノアセトフェン等が挙げられる。上記アントラキノン類としては、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン及び1−クロロアントラキノン等が挙げられる。上記チオキサントン類としては、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン及び2,4−ジイソプロピルチオキサントン等が挙げられる。上記ケタール類としては、アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等が挙げられる。上記チオール化合物としては、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール及び2−メルカプトベンゾチアゾール等が挙げられる。上記有機ハロゲン化合物としては、2,2,2−トリブロモエタノール及びトリブロモメチルフェニルスルホン等が挙げられる。上記ベンゾフェノン類としては、ベンゾフェノン及び4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン等が挙げられる。
【0063】
上記光ラジカル重合開始剤は、α−アミノアルキルフェノン型光ラジカル重合開始剤であることが好ましい。この特定の光ラジカル重合開始剤の使用により、露光量が少なくても、インクジェット用硬化性組成物を効率的に光硬化させることが可能になる。このため、光の照射によって、塗工されたインクジェット用硬化性組成物が濡れ拡がるのを効果的に抑制でき、微細なレジストパターンを高精度に形成することができる。
【0064】
上記α−アミノアルキルフェノン型光ラジカル重合開始剤の具体例としては、BASF社製のイルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379及びイルガキュア379EG等が挙げられる。これら以外のα−アミノアルキルフェノン型光重合開始剤を用いてもよい。
【0065】
上記光ラジカル重合開始剤とともに、光重合開始助剤を用いてもよい。該光重合開始助剤としては、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、ペンチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、トリエチルアミン及びトリエタノールアミン等が挙げられる。これら以外の光重合開始助剤を用いてもよい。上記光重合開始助剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0066】
また、可視光領域に吸収があるCGI−784等(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)のチタノセン化合物などを、光反応を促進するために用いてもよい。
【0067】
上記光カチオン重合開始剤としては特に限定されず、例えば、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、メタロセン化合物及びベンゾイントシレート等が挙げられる。上記光カチオン重合開始剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0068】
化合物(D)100重量部に対して、光重合開始剤(E)の含有量は、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上、更に好ましくは3重量部以上、好ましくは30重量部以下、より好ましくは15重量部以下、更に好ましくは10重量部以下である。光重合開始剤(E)の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、光の照射により硬化性組成物がより一層効果的に硬化する。
【0069】
[他の成分]
本発明に係るインクジェット用硬化性組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で種々の添加剤を配合してもよい。該添加剤としては特に限定されず、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤及び密着性付与剤等が挙げられる。
【0070】
上記重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、tert−ブチルカテコール、ピロガロール及びフェノチアジン等が挙げられる。上記消泡剤としては、シリコーン系消泡剤、フッ素系消泡剤及び高分子系消泡剤等が挙げられる。上記レベリング剤としては、シリコーン系レベリング剤、フッ素系レベリング剤及び高分子系レベリング剤等が挙げられる。上記密着性付与剤としては、イミダゾール系密着性付与剤、チアゾール系密着性付与剤、トリアゾール系密着性付与剤及びシランカップリング剤が挙げられる。
【0071】
本発明に係るインクジェット用硬化性組成物においては、JIS K2283に準拠して測定された25℃での粘度が160mPa・s以上、1200mPa・s以下であることが好ましい。インクジェット用硬化性組成物の粘度が上記下限以上及び上記上限以下であると、インクジェット用硬化性組成物をインクジェットヘッドから容易にかつ精度よく吐出できる。さらに、インクジェット用硬化性組成物が50℃以上に加温されても、該組成物をインクジェットヘッドから容易にかつ精度よく吐出できる。
【0072】
上記粘度は、好ましくは1000mPa・s以下、より好ましくは500mPa・s以下である。上記粘度が好ましい上記上限を満足すると、上記硬化性組成物をヘッドから連続吐出したときに、吐出性がより一層良好になる。また、上記硬化性組成物の濡れ拡がりをより一層抑制し、硬化物層を形成する際の解像度をより一層高める観点からは、上記粘度は500mPa・sを超えることが好ましい。
【0073】
本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、有機溶剤を含まないか、又は有機溶剤を含みかつ上記硬化性組成物100重量%中の上記有機溶剤の含有量は50重量%以下であることが好ましい。上記硬化性組成物100重量%中、上記有機溶剤の含有量はより好ましくは20重量%以下、更に好ましくは10重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。上記有機溶剤の含有量が少ないほど、硬化物層を形成する際の解像度がより一層良好になる。
【0074】
(電子部品の製造方法)
次に、本発明に係る電子部品の製造方法について説明する。
【0075】
本発明に係る電子部品の製造方法は、上述のインクジェット用硬化性組成物を用いることを特徴とする。すなわち、本発明に係る電子部品の製造方法では、先ず、上記インクジェット用硬化性組成物を、インクジェット方式にて塗工し、パターンを描画する。このとき、上記インクジェット用硬化性組成物を直接描画することが特に好ましい。「直接描画する」とは、マスクを用いずに描画することを意味する。上記電子部品としては、プリント配線板及びタッチパネル部品等が挙げられる。上記電子部品は、配線板であることが好ましく、プリント配線板であることがより好ましい。
【0076】
上記インクジェット用硬化性組成物の塗工には、インクジェットプリンタが用いられる。該インクジェットプリンタは、インクジェットヘッドを有する。インクジェットヘッドはノズルを有する。インクジェット装置は、インクジェット装置内又はインクジェットヘッド内の温度を50℃以上に加温するための加温部を備えることが好ましい。上記インクジェット用硬化性組成物は、塗工対象部材上に塗工されることが好ましい。上記塗工対象部材としては、基板等が挙げられる。該基板としは、プリント基板及びガラス基板等が挙げ挙げられる。また、該基板としては、配線等が上面に設けられた基板等が挙げられる。上記インクジェット用硬化性組成物は、プリント基板上に塗工されることが好ましい。
【0077】
また、本発明に係る電子部品の製造方法により、基板をガラスを主体とする部材に変えることが可能であり、液晶表示装置等の表示装置用のガラス基板を作製することも可能である。具体的には、ガラスの上に、蒸着等の方法によりITO等の導電パターンを設け、この導電パターン上に本発明に係る電子部品の製造方法により、インクジェット方式で硬化物層を形成してもよい。この硬化物層上に、導電インク等でパターンを設ければ、硬化物層が絶縁膜となり、ガラス上の導電パターンの中で、所定のパターン間にて電気的接続が得られる。
【0078】
次に、パターン状に描画されたインクジェット用硬化性組成物に熱を付与し、硬化させて、硬化物層を形成する。また、インクジェット用硬化性組成物として(メタ)アクリロイル基を有する化合物(D)と光重合開始剤(E)とを含むインクジェット用硬化性組成物を用いる場合には、パターン状に描画されたインクジェット用硬化性組成物に光を照射及び熱を付与し、硬化させて、硬化物層を形成する。このようにして、硬化物層を有する電子部品を得ることができる。該硬化物層は、絶縁膜であってもよく、レジストパターンであってもよい。該絶縁膜は、パターン状の絶縁膜であってもよい。該硬化物層はレジストパターンであることが好ましい。上記レジストパターンはソルダーレジストパターンであることが好ましい。
【0079】
本発明に係る電子部品の製造方法は、レジストパターンを有するプリント配線板の製造方法であることが好ましい。上記インクジェット用硬化性組成物を、インクジェット方式にて塗工し、パターン状に描画し、パターン状に描画された上記インクジェット用硬化性組成物に光を照射及び熱を付与し、硬化させて、レジストパターンを形成することが好ましい。
【0080】
パターン状に描画された上記インクジェット用硬化性組成物に、光を照射することにより一次硬化させ、一次硬化物を得てもよい。これにより描画されたインクジェット用硬化性組成物の濡れ拡がりを抑制することができ、高精度なレジストパターンが形成可能となる。また、光の照射により一次硬化物を得た場合には、一次硬化物に熱を付与することにより本硬化させ、硬化物を得、レジストパターンなどの硬化物層を形成してもよい。本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、光の照射及び熱の付与により硬化可能である。光硬化と熱硬化とを併用した場合には、耐熱性により一層優れたレジストパターンなどの硬化物層を形成することができる。
【0081】
熱の付与により硬化させる際の加熱温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは180℃以下、特に好ましくは170℃以下、最も好ましくは160℃以下である。本発明に係るインクジェット用硬化性組成物の使用により、180℃以下であっても、更に160℃以下であっても、硬化性組成物を十分に硬化させることが可能である。本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、180℃以下で加熱されるインクジェット用硬化性組成物であることが好ましい。本発明に係るプリント配線板の製造方法では、インクジェット用硬化性組成物を180℃以下で加熱することが好ましい。加熱温度が低いほど、プリント配線板の熱劣化を抑制することができ、また硬化時の電力などの消費量を少なくすることができる。
【0082】
上記光の照射は、描画の後に行われてもよく、描画と同時に行われてもよい。例えば、硬化性組成物の吐出と同時又は吐出の直後に光を照射してもよい。このように、描画と同時に光を照射するために、インクジェットヘッドによる描画位置に光照射部分が位置するように光源を配置してもよい。
【0083】
光を照射するための光源は、照射する光に応じて適宜選択される。該光源としては、UV−LED、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ及びメタルハライドランプ等が挙げられる。照射される光は、一般に紫外線であり、電子線、α線、β線、γ線、X線及び中性子線等であってもよい。
【0084】
インクジェット用硬化性組成物の塗工時における温度は、インクジェット用硬化性組成物がインクジェットヘッドから吐出できる粘度となる温度であれば特に限定されない。インクジェット用硬化性組成物の塗工時における温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、好ましくは100℃以下である。塗工時におけるインクジェット用硬化性組成物の粘度は、インクジェットヘッドから吐出できる範囲であれば特に限定されない。
【0085】
本発明に係るインクジェット用硬化性組成物は、特定の上記組成を有するので、例えば、低温で硬化可能である。従って、硬化性組成物を硬化させる際の熱による得られるプリント配線板などの電子部品の劣化を抑制できる。
【0086】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0087】
実施例及び比較例では、以下の顔料(c)を用いた。また、顔料(c)の上記煮沸法により測定したpHも記載した。
【0088】
シアニンブルー4930(大日精化社製、フタロシアニン顔料、無処理、煮沸法によるpH=6.5)
シアニンブルー4966(大日精化社製、フタロシアニン顔料、酸性処理、煮沸法によるpH=5.2)
シアニンブルー4940(大日精化社製、フタロシアニン顔料、塩基性処理、煮沸法によるpH=7.5)
トーカブラック#8500/F(東海カーボン社製、カーボンブラック顔料、煮沸法によるpH=5.5)
トーカブラック#7400/F(東海カーボン社製、カーボンブラック顔料、煮沸法によるpH=7.0)
トーカブラック#7360SB(東海カーボン社製、カーボンブラック顔料、煮沸法によるpH=7.5)
Palliogen Red L3885(BASF社製、ペリレン顔料、煮沸法によるpH=7.0)
【0089】
(実施例1)
環状エーテル基を有する化合物(A)に相当するビスフェノールA型エポキシ樹脂(新日鐵化学社製「YD−127」)20重量部と、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(D)に相当するトリメチロールプロパントリアクリレート(ダイセルサイテック社製「TMPTA」)80重量部と、光重合開始剤(E)に相当するα−アミノアセトフェノン型光ラジカル重合開始剤(BASF社製「イルガキュア 907」)5重量部と、熱硬化剤(B)に相当する2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成社製「2E4MZ」)1重量部と、シアニンブルー4930(大日精化社製、フタロシアニン顔料、無処理、煮沸法によるpH=6.5)0.2重量部とを混合し、インクジェット用硬化性組成物を得た。
【0090】
(実施例2〜12及び比較例1〜2)
配合成分の種類及び含有量を下記の表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、インクジェット用硬化性組成物を得た。
【0091】
(評価)
(1)粘度
JIS K2283に準拠して、粘度計(東機産業社製「TVE22L」)を用いて、得られたインクジェット用硬化性組成物の25℃での粘度を測定した。インクジェット用硬化性組成物の粘度を下記の判定基準で判定した。
【0092】
[粘度の判定基準]
A:粘度が1200mPa・sを超える
B:粘度が1000mPa・sを超え、1200mPa・s以下
C:粘度が500mPa・sを超え、1000mPa・s以下
D:粘度が160mPa・s以上、500mPa・s以下
E:粘度が160mPa・s未満
【0093】
(2)インクジェット吐出性
紫外線照射装置付きピエゾ方式インクジェットプリンタのインクジェットヘッドから、得られたインクジェット用硬化性組成物の吐出試験を行い、下記の判断基準で評価した。なお、粘度が500mPa・s以下である硬化性組成物の吐出試験時には、ヘッド温度を80℃とし、粘度が500mPa・sを超える硬化性組成物の吐出試験時には、ヘッド温度を95℃とした。
【0094】
[インクジェット吐出性の判断基準]
○○:硬化性組成物をヘッドから10時間以上連続して吐出可能であった
○:硬化性組成物をヘッドから10時間以上連続して吐出可能であるが、10時間の連続吐出の間にわずかに吐出むらが生じる
△:硬化性組成物をヘッドから連続して吐出可能であるが、10時間以上連続して吐出不可能であった
×:硬化性組成物をヘッドから吐出の初期段階で吐出不可能であった
【0095】
(3)インクジェット吐出時の飛行曲り
上記インクジェット吐出性の評価において、初期段階で吐出可能であった場合において、インクジェット初期吐出時に、硬化性組成物が狙いの位置に吐出されずに飛行曲りが生じているか否かを評価した。飛行曲りを下記の基準で判定した。
【0096】
[飛行曲りの判定基準]
○○:飛行曲りがなく、狙いの位置に吐出される
○:飛行曲りがわずかに生じることがあるものの、曲りの程度が小さく、ほぼ狙いの位置に吐出される
△:飛行曲りがわずかに生じることがあり、狙いの位置からはみ出すことがある
×:飛行曲りが生じ、飛行曲りにより汚染が生じる
【0097】
(4)濡れ拡がり
銅箔が上面に貼り付けられている銅箔付きFR−4基板を用意した。この基板上に銅箔の表面の全体を覆うようにインクジェット用硬化性組成物を、紫外線照射装置付きピエゾ方式インクジェットプリンタのインクジェットヘッドから、ラインの幅80μmでライン間の間隔が80μmとなるように吐出して塗工し、パターン状に描画した。なお、粘度が500mPa・s以下であるインクジェット用硬化性組成物の吐出試験時には、ヘッド温度を80℃とし、粘度が500mPa・sを超えるインクジェット用硬化性組成物の吐出試験時には、ヘッド温度を95℃とした。
【0098】
基板上に塗工されたインクジェット用硬化性組成物(厚み20μm)に波長365nmの紫外線を、照射エネルギーが1000mJ/cmとなるように照射した。紫外線を照射して5分後に、パターンの濡れ拡がりを目視により観察し、濡れ拡がりを下記の基準で判定した。
【0099】
[濡れ拡がりの判定基準]
○○:濡れ拡がりの状態が、狙いのライン幅+40μm以下
○:濡れ拡がりの状態が、狙いのライン幅+40μmを超え、+75μm以下
×:描画部分から組成物層が濡れ拡がっており、ライン間の間隔が無くなっているか、又は濡れ拡がりの状態が、狙いのライン幅+75μmを超える
【0100】
(5)耐熱性
銅箔が上面に貼り付けられている銅箔付きFR−4基板を用意した。基板上の銅箔上に、インクジェット用硬化性組成物を、紫外線照射装置付きピエゾ方式インクジェットプリンタのインクジェットヘッドから、ラインの幅80μmでライン間の間隔が80μmとなるように吐出して塗工し、パターン状に描画した。なお、粘度が500mPa・s以下である硬化性組成物の吐出試験時には、ヘッド温度を80℃とし、粘度が500mPa・sを超える硬化性組成物の吐出試験時には、ヘッド温度を95℃とした。
【0101】
パターン状に描画されたインクジェット用硬化性組成物(厚み20μm)に波長365nmの紫外線を、照射エネルギーが1000mJ/cmとなるように照射し、一次硬化物を得た。次に、一次硬化物を140℃で60分間加熱し、本硬化させ、硬化物であるレジストパターンを得た。
【0102】
得られた基板とレジストパターンとの積層体を270℃のオーブン内で5分間加熱した後、加熱後のレジストパターンの外観を目視で検査した。さらに、加熱後のレジストパターンにセロハンテープを貼り付けて、90度方向にセロハンテープを剥離した。外観検査及び剥離試験により、耐熱性を下記の判定基準で判定した。
【0103】
[耐熱性の判定基準]
○○:外観検査において加熱前後でレジストパターンに変化がなく、かつ剥離試験においてレジストパターンが基板から剥離しなかった
○:外観検査において加熱前後でレジストパターンに変化がないものの、剥離試験においてレジストパターンが基板から一部剥離した
×:外観検査においてレジストパターンにクラック、剥離及び膨れの内の少なくとも1つがあるか、又は剥離試験においてレジストパターンが基板から剥離した
【0104】
(6)絶縁信頼性(耐マイグレーション性)
IPC−B−25のくし型テストパターンBを用意した。くし型テストパターンBの表面の全体を覆うようにインクジェット用硬化性組成物を、紫外線照射装置付きピエゾ方式インクジェットプリンタのインクジェットヘッドから、吐出して塗工した。なお、粘度が500mPa・s以下である硬化性組成物の吐出試験時には、ヘッド温度を80℃とし、粘度が500mPa・sを超える硬化性組成物の吐出試験時には、ヘッド温度を95℃とした。
【0105】
塗工されたインクジェット用硬化性組成物(厚み20μm)に波長365nmの紫外線を、照射エネルギーが1000mJ/cmとなるように照射し、一次硬化物を得た。次に、一次硬化物を140℃で60分間加熱し、本硬化させ、硬化物であるレジストパターンを形成し、テストピースを得た。
【0106】
得られたテストピースを、85℃及び相対湿度85%及び直流50Vを印加した条件で、500時間加湿試験を行った。加湿試験後の絶縁抵抗を測定した。
【0107】
(7)硬化物の着色均一性
上記(5)耐熱性の評価で270℃のオーブン内で5分間処理する前の得られた基板上のレジストパターン(硬化物)を目視で確認することにより、硬化物の着色均一性を評価し、下記の基準で判定した。
【0108】
[硬化物の着色均一性の判定基準]
○:色むらがない
△:目視で色むらが確認される
×:着色部と非着色部が明確に確認される
【0109】
結果を下記の表1に示す。なお、下記の表1において、※1は、絶縁抵抗が1×10以上、3×1010未満であることを示す。
【0110】
【表1】

【0111】
なお、実施例1〜12のインクジェット用硬化性組成物を用いた場合には、比較例1〜2のインクジェット用硬化性組成物を用いた場合と比較して、上記(5)耐熱性及び上記(6)絶縁信頼性の評価で形成した熱硬化後のレジストパターンにおいて、熱硬化が十分に進行していた。
【0112】
顔料(C)がフタロシアニン顔料又はカーボンブラック顔料であり、かつフタロシアニン顔料又はカーボンブラック顔料の上記煮沸法によるpHが6.3以上、12.0以下である実施例1〜8及び実施例10〜12では、顔料(C)がフタロシアニン顔料及びカーボンブラック顔料とは異なる他の顔料であり、かつ該他の顔料の上記煮沸法によるpHが6.3以上、12.0以下である実施例9と比べて、インクジェット吐出時の飛行曲がりがより一層良好であった。
【0113】
また、α−アミノアセトフェノン型光重合開始剤を用いた実施例1〜4,6〜10の硬化性組成物では、α−アミノアセトフェノン型光重合開始剤とは異なる他の光重合開始剤を用いた実施例11,12の硬化性組成物と比べて、光照射後かつ熱硬化前の一次硬化物の表面のべたつきが少なく、熱硬化時の熱硬化性にも優れており、更に絶縁信頼性の評価結果も良好であることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式により塗工され、かつ熱の付与により硬化するインクジェット用硬化性組成物であって、
環状エーテル基を有する化合物と、熱硬化剤と、顔料とを含み、
前記顔料が、該顔料5gを純水100mLに加えた液を加熱し、5分間沸騰させた後、23℃に達するまで静置し、沸騰処理液を得、次に得られた沸騰処理液に、沸騰により蒸発した水量の水を加えて水量を100mLとした液のpHを測定したとき、pH6.3以上、12.0以下の値を示す顔料である、インクジェット用硬化性組成物。
【請求項2】
前記顔料が、該顔料5gを純水100mLに加えた液を加熱し、5分間沸騰させた後、23℃に達するまで静置し、沸騰処理液を得、次に得られた沸騰処理液に、沸騰により蒸発した水量の水を加えて水量を100mLとした液のpHを測定したとき、pH7.3以上、12.0以下の値を示す顔料である、請求項1に記載のインクジェット用硬化性組成物。
【請求項3】
前記熱硬化剤が、ジシアンジアミド、イミダゾール化合物及びトリアジン環を有する化合物からなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のインクジェット用硬化性組成物。
【請求項4】
前記顔料が、フタロシアニン顔料又はカーボンブラック顔料である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット用硬化性組成物。
【請求項5】
インクジェット方式により塗工され、かつ光の照射と熱の付与とにより硬化可能であるインクジェット用硬化性組成物であって、
(メタ)アクリロイル基を有する化合物と光重合開始剤とをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット用硬化性組成物。
【請求項6】
JIS K2283に準拠して測定された25℃での粘度が160mPa・s以上、1200mPa・s以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット用硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット用硬化性組成物を、インクジェット方式にて塗工し、パターン状に描画する工程と、
パターン状に描画された前記インクジェット用硬化性組成物に熱を付与し、硬化させて、硬化物層を形成する工程とを備える、電子部品の製造方法。
【請求項8】
レジストパターンを有する電子部品であるプリント配線板の製造方法であって、
前記インクジェット用硬化性組成物を、インクジェット方式にて塗工し、パターン状に描画し、パターン状に描画された前記インクジェット用硬化性組成物に熱を付与し、硬化させて、レジストパターンを形成する、請求項7に記載の電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記インクジェット用硬化性組成物として、(メタ)アクリロイル基を有する化合物と、光重合開始剤とを含むインクジェット用硬化性組成物を用いて、
前記硬化物層を形成する工程において、パターン状に描画された前記インクジェット用硬化性組成物に光を照射及び熱を付与し、硬化させて、硬化物層を形成する、請求項7又は8に記載の電子部品の製造方法。

【公開番号】特開2012−184412(P2012−184412A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−29425(P2012−29425)
【出願日】平成24年2月14日(2012.2.14)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】