説明

インクジェット用記録紙

【課題】本発明の目的は、印刷前もしくは後、もしくは前後の両方にインク定着剤を記録紙に供給する形式のインクジェット用記録紙において、オフセット印刷用コート紙のような外観と優れたインクジェット適性の両方を提供し、特に印刷直後の印刷部の塗工層強度に優れたインクジェット用記録紙を提供することにある。
【解決手段】支持体の少なくとも片面に主に顔料と接着剤を含有する塗工層を設けたインクジェット用記録紙において、塗工層の顔料として炭酸カルシウムを塗工層の全顔料固形分100質量部に対して60質量部以上含み、接着剤として合成ゴムラテックスを3〜10質量部含み、更に変性澱粉、ポリビニルアルコールのいずれか単独もしくは両方を合計で3〜10質量部含むことを特徴とするインクジェット用記録紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式によって高速・連続印刷する印刷機に用いられるインクジェット用記録紙であって、特に印刷前または後あるいは前後の両方にインク定着剤を記録紙に供給する工程を有する印刷機に好適なインクジェット用記録紙に関するものである。更に詳しくは、オフセット印刷用コート紙のような外観と優れたインクジェット方式の印刷適性の両方を提供し、特に印刷後の印刷部の塗工層強度に優れたインクジェット用記録紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式を用いて印刷する用途は、端末PC用プリンター、ファックス、または複写機に留まらず、多品種小ロット印刷、可変情報印刷等を可能とする、いわゆるオンデマンド印刷分野でも実用化が進み、技術的進展が目覚ましい。近年では印刷速度と画質の向上に伴い、印刷部数が従来オフセット印刷やグラビア印刷等で行われていた領域でも利用が検討されている。
【0003】
インクジェット方式は、細かなインク滴を記録紙表面に噴出し、画像を形成する方式である。近年の技術進歩は目覚ましく、非常に高画質となり、弱点であった耐候性も顔料インクの出現により大幅に改善されてきた。しかし、インクジェット方式では比較的長い乾燥時間が必要となるという問題があった。
【0004】
今後実用化が進み、かつ用途が広まっていくと予想される技術としては、色材を含んだアニオン性のインクが着弾する予定の記録紙の部分に予めもしくはインク着弾後に、カチオン性のインク定着剤を供給して印刷する方式が挙げられ(例えば、特許文献1〜4参照)、インクのタイプとしては顔料インクが主流となると考えられる。また、高速化、高画質化への対応として、特に大量印刷の分野ではインクの乾燥機能を備えた印刷機が主流となると考えられる。記録紙としては既存のオフセット印刷用紙、電子写真用紙、インクジェット用紙の流用が考えられる。しかしながら、従来の記録紙ではインク定着剤とインクが供給された印刷部の塗工層強度が十分でなく、特に高速印刷での擦過や、印刷後に行われる加工での折り、裁断等により印刷部の塗工層が破壊されるという問題が生じることがあり、改善が求められている。
【0005】
印刷機から記録紙に供給されるインク定着剤やインクは、供給装置やインクノズルでの乾燥を防止することを主な目的として、媒体として水および水溶性の有機溶媒を併用する。その割合は印刷機の特性によって異なるが、水:有機溶媒=5:5〜9:1が一般的である。インク定着剤やインク中で色材はこの媒体(以下、「インク溶媒」と記載する。)に分散または溶解しており、その他に界面活性剤や接着剤を配合するのが一般的である。また、インク溶媒用の有機溶媒として選択されるものはアルコール類、エーテル類を始めとする水と親和性のある有機物でその構造は多様である。インクジェット用記録紙の塗工層は、このようなインク溶媒を吸収しやすいだけでなく、インクが吸収、保持、乾燥され、印刷物として使用される間、十分な塗工層強度を保つ必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−016376号公報
【特許文献2】特許第3973794号公報
【特許文献3】特開2002−029141号公報
【特許文献4】特開2003−048317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インクジェット方式によって高速・連続印刷する印刷機に用いられるインクはインク溶媒として水と水溶性の有機溶媒を含有する。本発明者は、この水と有機溶媒の混合するインク溶媒が塗工層に吸収されることによって、塗工層に含まれる接着剤間の相互作用や結合を低下させ、インク溶媒が乾燥した後も接着剤の相互作用が回復することなく、結果として塗工層強度が低下、すなわち耐インク溶媒性が低下することを発見した。
【0008】
本発明の目的は、インクジェット方式によって高速・連続印刷する印刷機に用いられるインクジェット用記録紙であって、特に印刷前または後あるいは前後の両方にインク定着剤を記録紙に供給する工程を有する印刷機に好適なインクジェット用記録紙に関するものである。更に詳しくは、オフセット印刷用コート紙のような外観と優れたインクジェット方式による印刷適性の両方を提供し、特にインク溶媒によって塗工層に含まれる接着剤間の相互作用や結合を低下させることなく耐インク溶媒性に優れ、印刷後の印刷部の塗工層強度に優れたインクジェット用記録紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の問題を解決すべく鋭意研究した結果、以下のようなインクジェット用記録紙を発明するに至った。すなわち、支持体の少なくとも片面に主に顔料と接着剤を含有する塗工層を設けたインクジェット用記録紙において、塗工層の顔料として、炭酸カルシウムを塗工層の全顔料固形分100質量部に対して60質量部以上含み、接着剤として合成ゴムラテックスを3〜10質量部含み、更に変性澱粉、ポリビニルアルコールのいずれか単独もしくは両方の合計で3〜10質量部含むことを特徴とするインクジェット用記録紙である。
【0010】
好ましくは、合成ゴムラテックスがスチレン−ブタジエン系ラテックスであり、ゴムのモノマー成分としてモル数換算で5〜50%のアクリルニトリルを含み、ゲル含有量が70%以上である。
【0011】
また好ましくは、変性澱粉がリン酸エステル化、もしくはヒドロキシエチルエーテル化されたコーン澱粉であり、クッキング後、固形分濃度30質量%、60℃におけるB型粘度が200mPa・s以下である。
【0012】
また好ましくは、ポリビニルアルコールがケン化度97%以上、重合度300〜1500である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、印刷前または後あるいは前後の両方にインク定着剤を記録紙に供給する手段を有するインクジェット方式の印刷機に好適な、オフセット印刷用コート紙のような外観を示し、かつ優れたインクジェット方式の印刷適性を示し、特に耐インク溶媒性に優れ、印刷後の印刷部の塗工層強度に優れる性質を有するインクジェット用記録紙を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のインクジェット用記録紙について詳細に説明する。インクジェット用記録紙は支持体の少なくとも片面に塗工層を設けたものである。
【0015】
<塗工層>
本発明において塗工層は、顔料として炭酸カルシウムを塗工層の全顔料固形分100質量部に対して60質量部以上含み、接着剤として合成ゴムラテックスを3〜10質量部含み、更に変性澱粉、ポリビニルアルコールのいずれか単独もしくは両方の合計で3〜10質量部含む。好ましくは合成ゴムラテックスが4〜8質量部含み、あるいは変性澱粉および/またはポリビニルアルコールが4〜8質量部である。
【0016】
また、合成ゴムラテックス、並びに変性澱粉および/またはポリビニルアルコールを合計した全接着剤の配合量は、全顔料固形分100質量部に対して6〜20質量部が好ましく、更には好ましくは8〜16質量部である。
【0017】
本発明において塗工層は、炭酸カルシウムと合成ゴムラテックスに加えて変性澱粉および/またはポリビニルアルコールを含有することにより、印刷部の優れた塗工層強度を発揮することができる。本発明において炭酸カルシウムの塗工層に含まれる含有量は、塗工層の全顔料固形分100質量部に対して60質量部以上、好ましくは70質量部以上である。
【0018】
本発明において塗工層に用いられる炭酸カルシウムは、天然に産出された石灰石原鉱を工業的に精製、加工したものであり、洗浄、粉砕、分級等の工程を経て製造されるいわゆる重質炭酸カルシウムが好適である。また、炭酸カルシウム成分が十分に含まれていれば天然の石灰石以外の原料から重質炭酸カルシウムと同様の工程を経て得られる炭酸カルシウムを使用することもできる。そのような原料の例としては水酸化カルシウムから合成された軽質炭酸カルシウム、生物ミネラル、都市や産業からの廃棄物等が挙げられる。平均粒径を制御する方法としては、湿式の媒体攪拌粉砕機による湿式粉砕法が最も適している。湿式粉砕機にはアイメックス社、アシザワ・ファインテック社、三井鉱山社、ホソカワミクロン社等の製品が挙げられ、竪型と横型がある。一方乾式粉砕法があるが、乾式粉砕法は湿式粉砕の前段階の粗粉砕として用いるのに適しており、乾式粉砕機にはジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、コーンクラッシャー、ローラーミル、ピンミル、ボールミル、ジェットミル等が挙げられる。
【0019】
炭酸カルシウムは湿式粉砕の粉砕時間、スラリー流量を制御することで平均粒径を調整することができ、好ましくは体積基準の粒度分布から求められる体積平均粒径が0.3〜3.0μm、更に好ましくは0.5〜2.5μmである。体積平均粒径が3.0μmより大きいとインクジェット用記録紙の表面平滑性やインク吸収性が劣る場合があり、0.3μmより小さいと炭酸カルシウムスラリーの粘度が上昇して、塗工機での操業性に劣る場合がある。
【0020】
炭酸カルシウムの粒度の測定はレーザー回折・散乱法の粒度分布測定装置を用いる。代表的には日機装社(Microtrac.Inc)製の装置が挙げられる。炭酸カルシウムの体積平均粒径はレーザー回折・散乱法の粒度分布測定装置によって求められる体積基準の粒度分布から算出される値である。
【0021】
本発明において、支持体上の塗工層に用いるその他の顔料としては、本発明における炭酸カルシウム以外に、カオリン、合成シリカ、コロイダルシリカ、タルク、サチンホワイト、リトポン、二酸化チタン、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、有機顔料、またはこれらをカチオン変性したもの、あるいはこれら二種以上の複合体が挙げられる。炭酸カルシウム以外の顔料の含有量は、特性を損なわないために塗工層の全顔料固形分100質量部に対して40質量部以下、更に望ましくは30質量部以下とすることが望ましい。
【0022】
本発明において塗工層は、全顔料固形分100質量部に対して接着剤として合成ゴムラテックスを3〜10質量部、並びに変性澱粉および/またはポリビニルアルコールを3〜10質量部を含有する。合成ゴムラテックスの耐水性と変性澱粉および/またはポリビニルアルコールの耐有機溶媒性を組み合わせることにより、塗工層の接着剤の耐インク溶媒性を得ることができる。合成ゴムラテックスや変性澱粉および/またはポリビニルアルコールの含有量が前記の範囲にない場合は、接着剤の耐インク溶媒性が得られず、塗工層強度が低下する。
【0023】
本発明において塗工層に用いられる合成ゴムラテックスとは、ポリブタジエン系、ニトリル系、クロロプレン系など付加重合または共重合によって得られる合成ゴムの分散体である。更には、ブタジエンに代表される脂肪族共役ジエン化合物を主体として、スチレンに代表される芳香族ビニル化合物、ビニル系不飽和カルボン酸エステル化合物、ビニル系不飽和カルボン酸、シアノ基を有するビニル化合物、その他ビニル化合物などを共重合して得られる分散体である。中でも好ましくはスチレン−ブタジエン系ラテックスである。
【0024】
本発明において塗工層に用いられるスチレン−ブタジエン系ラテックスは、合成ゴムのモノマー成分としてモル数換算で5〜50%のアクリルニトリルを含有し、ゲル含有量が70%以上であることが好ましい。更に好ましくはアクリルニトリルのモノマー成分がモル数換算で10〜40%またはゲル含有量が80%以上、あるいはその両方を満足するものである。モル数換算で5〜50%のアクリルニトリル成分を有することによって、またゲル含有量を70%以上にすることによって合成ゴムラテックスの耐インク溶媒性を高めることができる。結果このようなスチレン−ブタジエン系ラテックスによって、印刷後の印刷部の塗工層強度をより向上することができる。しかしながら、アクリルニトリル成分が50%を超えると塗工層強度をより向上することができない場合がある。
【0025】
本発明においてゲル含有量は、トルエンまたはベンゼンなどの有機溶媒に乾燥した合成ゴムラテックスを浸漬して十分に溶解させ、有機溶媒を除去して溶解しなかった残渣を取り出し、浸漬前の乾燥した合成ゴムラテックスの質量に対する残渣の質量の割合から求める値である。
【0026】
本発明において塗工層に用いられる変性澱粉とは、天然植物から精製した澱粉を加工した、ヒドロキシエチル化澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉、酵素変性澱粉や、それらをフラッシュドライして得られる冷水可溶性澱粉である。
【0027】
本発明において塗工層に用いられる変性澱粉は、好ましくはリン酸エステル化またはヒドロキシエチルエーテル化されたコーン澱粉であり、クッキング後、固形分濃度30質量%、60℃におけるB型粘度が200mPa・s以下であることが好ましい。更に好ましくはB型粘度が60mPa・s以下である。このような変性澱粉によって、印刷後の印刷部の塗工層強度をより向上することができる。なお、クッキングとは粒状の変性澱粉を水へ分散した後に加熱を始め、90℃以上望ましくは95℃以上の温度に保持しながら30分から1時間程、攪拌する処理のことである。
【0028】
変性澱粉がリン酸エステル化またはヒドロキシエチルエーテル化されたコーン澱粉であり、クッキング後、固形分濃度30質量%、60℃におけるB型粘度が200mPa・s以下であることによって接着剤として作用しつつ親水性が高く低粘度であり、塗工液状態における合成ゴムラテックスとの混和性に優れ、耐水性の合成ゴムラテックスと混和体を形成することによって耐インク溶媒性が向上し、優れた塗工層強度が得られると考えられる。
【0029】
本発明において塗工層に用いられるポリビニルアルコールとは、ポリ酢酸ビニルを水酸化ナトリウムで加水分解する、いわゆるケン化と呼ばれる工程によって製造される重合体であり、アセトアセチル化、カルボキシル化、スルフォニル化、カチオン化等の変性または機能化ポリビニルアルコールも含まれる。
【0030】
本発明において塗工層に用いられるポリビニルアルコールは、ケン化度97%以上、重合度300〜1500であることが好ましい。より好ましくはケン化度が98%以上または重合度が400〜1200、あるいはこれら両方を満足するものである。このようなポリビニルアルコールによって、印刷後の印刷部の塗工層強度をより向上することができる。
【0031】
本発明において塗工層に用いられるポリビニルアルコールがケン化度97%以上、重合度300〜1500であることによって接着剤として作用しつつ親水性が高く低粘度であり、塗工液状態における合成ゴムラテックスとの混和性に優れ、耐水性の合成ゴムラテックスと混和体を形成することによって耐インク溶媒性が向上し、より塗工層強度が得られると考えられる。
【0032】
本発明において塗工層は合成ゴムラテックス、変性澱粉およびポリビニルアルコール以外のその他接着剤を、本願発明の効果を損なわない程度に用いることができる。用いることができるその他接着剤としては、アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル等の各種共重合体ラテックス、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、ユリアまたはメラミン等のホルマリン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミドポリアミン、エピクロルヒドリン重縮合物等の水溶性合成樹脂が挙げられる。更には、デキストリン、マンナン、キトサン、アラビノガラクタン、グリコーゲン、イヌリン、ペクチン、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の天然多糖類およびそのオリゴマー、更にはその変性体が挙げられる。また、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、コラーゲン等の天然タンパク質およびその変性体、ポリ乳酸、ペプチド等の合成高分子やオリゴマーが挙げられる。これらは単独または組み合わせて使用することができる。また、これら接着剤はカチオン変性を施して使用することができる。
【0033】
本発明の塗工層には、必要に応じて、増粘剤、分散剤、消泡剤、界面活性剤、pH調整剤、耐水化剤、着色剤等の通常使用されている各種助剤を含有することができる。
【0034】
本発明において、塗工層を塗工する方法は特に限定されるものではなく、液だまりを有するサイズプレス、メタリングサイズプレス、ゲートロール、シムサイザー等の各種フィルムトランスファー、ロッド、ブレードコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、キャスト等の各方法を適宜使用する。塗工層は片面あたり3〜30g/m、好ましくは5〜25g/mである。
【0035】
<中間層>
本発明のインクジェット用記録紙は、支持体と塗工層の間に主に顔料と接着剤を含有する中間層を、記録紙の平滑性を高めたり、塗工性を改良したりすることを意図して、設けても良い。中間層は先の塗工層の項で挙げた素材と塗工方法を適宜選択し、片面当たり固形分として2〜30g/mであることが好ましい。
【0036】
<支持体>
本発明において支持体は、木材パルプ繊維をシート状にした紙が好ましい。その他として綿、麻、竹、サトウキビ、トウモロコシ、ケナフ等の植物繊維、羊毛、絹等の動物繊維、レーヨン、キュプラ、リヨセル等のセルロース再生繊維、アセテート等の半合成繊維、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリウレタン系繊維等の化学繊維、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維等の無機繊維をシート状にしたものを使用することもできる。
【0037】
また、これらの繊維には、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、シリカ、アルミナ、有機顔料等の各種填料、接着剤、サイズ剤、定着剤、歩留まり剤、紙力増強剤等の各種配合剤を各工程、各素材に合わせて好適に含有することができる。
【0038】
各繊維をシート状にする製法としては、一般的な抄紙工程が用いられる。その他として不織布、フィルターの分野で使用される、湿式法、乾式法、ケミカルボンド、サーマルボンド、スパンボンド、スパンレース、ウォータージェット、メルトブロー、ニードルパンチ、ステッチブロー、フラッシュ紡糸、トウ開維等の各工程も使用することができる。
【0039】
支持体は、必要とするサイズ性、表面強度、透気度を得るために表面サイズプレスを施すことが好ましい。表面サイズプレス液の成分としては、天然植物から精製した澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉、酵素変性澱粉やそれらをフラッシュドライして得られる冷水可溶性澱粉、アクリル、スチレン−アクリル、スチレン−マレイン酸、スチレン−オレフィン、アクリル−酢酸ビニル等のアクリル系表面サイズ剤、オレフィン−マレイン酸、ジイソブチレン−マレイン酸等のオレフィン系表面サイズ剤等が挙げられ、その他に前記塗工層に用いられる全ての材料が適宜使用できる。
【0040】
また、本発明においては、表面サイズプレス液の成分としてインクジェットインク耐水化剤、インクジェットインク定着剤、インクジェット印刷適性向上剤等のカチオン性ポリマー、オリゴマーや多価陽イオン塩を含有することができる。カチオン性ポリマー、カチオン性オリゴマーは、プロトンが配位しやすいアミン類が代表的であり、1級、2級または3級のアミノ基、あるいは4級アンモニウム塩を含むモノマーとその他モノマーの共重合体が挙げられる。多価陽イオンとしては例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ニッケル、亜鉛、銅、鉄、コバルト、スズ、マンガン等の二価陽イオン、アルミニウム、鉄、クロム等の三価陽イオン、チタン、ジルコニウムの四価陽イオンや、それらの錯イオンが挙げられる。
【0041】
表面サイズプレス液を塗布する方法としては液だまりを有するサイズプレス、メタリングサイズプレス、ゲートロール、シムサイザー等の各種フィルムトランスファーが挙げられる。カチオン性ポリマー、カチオン性オリゴマー、多価陽イオンの塗布量は片面当たり固形分として0.1〜5.0g/m、更に好ましくは0.5〜3.0g/mである。
【0042】
<カレンダー処理>
支持体、中間層を設けた支持体、中間層と塗工層を設けた支持体、塗工層を設けた支持体は、必要とする密度、平滑度、透気度、吸水性、外観、光沢度を得るためにカレンダー処理を施すことができる。装置としては硬質ロール同士、弾性ロール同士、硬質ロールと弾性ロールの対の組み合わせからなるものが好適に使用され、マシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー、マルチニップカレンダー等と呼ばれており、意図的に加熱をする場合もある。加熱する際のロールの温度は40℃程の中低温から250℃程の高温に達する場合もある。また、ベルトとロールの組み合わせからなる装置も使用することができ、シューカレンダー、メタルベルトカレンダー等と呼ばれており、この場合も同様に加熱を伴う場合がある。ロール表面の微視的な形状は特に限定されるものではなく、鏡面、艶消し、エンボス用等、本発明を損なわない範囲で平滑化または凹凸加工したものが使用できる。
【0043】
最終的に得られたインクジェット用記録紙は用途に合わせて、大小のシート状またはロール状に加工されて製品となる。保存の際は、吸湿を避けるために防湿の包装を施すのが好ましい。製品の坪量は特に限定されるものではないが40〜300g/m程度である。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」および「%」は、特に明示しない限り、質量部および質量%を示す。
【0045】
(実施例1)〜(実施例48)および(比較例1)〜(比較例20)
下記の内容に従って、インクジェット用記録紙を作製した。
【0046】
<表面サイズプレス液の調製>
酸化コーン澱粉を水に分散した後に加熱し、95℃以上の温度に保ちながら30分間攪拌した。水を添加して、最終的には液の固形分濃度を約5質量%とした。
【0047】
<パルプスラリーの調製>
LBKP(濾水度420mlcsf) 80部
NBKP(濾水度450mlcsf) 20部
軽質炭酸カルシウム填料(原紙中灰分で表示) 11部
カチオン化澱粉 0.50部
カチオン系ポリアクリルアミド歩留まり向上剤 0.01部
アルキルケテンダイマー系内添サイズ剤 0.05部
硫酸バンド 1部
<支持体の作製>
上記パルプ、内添薬品を上記の配合でパルプスラリーを調製し、長網抄紙機で70.0g/mの坪量で原紙を抄造した。なお、表面サイズプレス液の成分は固形分で両面2.0g/m塗布しており、支持体の坪量70.0g/mに含まれる。
【0048】
<塗工液の調製>
顔料 配合部数は表1、2、3に記載
合成ゴムラテックス 配合部数は表1、2、3に記載
ポリビニルアルコール 配合部数は表1、2、3に記載
変性澱粉 配合部数は表1、2、3に記載
ステアリン酸カルシウム系潤滑剤 0.30部
合成保水剤(アルカリ増粘タイプ) 0.10部
印刷適性向上剤(水溶性変性ポリアミン系樹脂) 0.10部
蛍光染料 0.50部
青顔料 0.04部
【0049】
上記、固形分質量部で配合し、pH10.0となるように水酸化ナトリウムで調整し、B型粘度500〜2000mPa・s程度になるように水で調整し、良く攪拌して塗工液とした。表1〜3中に略称で示した顔料は、
炭酸カルシウム :重質炭酸カルシウム:平均粒径0.8μm
カオリン :微粒カオリン:平均粒径0.4μm
中空顔料 :ポリスチレン系有機中空顔料:平均粒径1μm、中空率50体積%
である。また、略称で示した接着剤は、
合成ゴムラテックスA :スチレン−ブタジエン系ラテックス、アクリルニトリルモノ
マー10%、ゲル含有量80%
合成ゴムラテックスB :スチレン−ブタジエン系ラテックス、アクリルニトリルモノ
マー0%、ゲル含有量60%
合成ゴムラテックスC :スチレン−ブタジエン系ラテックス、アクリルニトリルモノ
マー40%、ゲル含有量80%
合成ゴムラテックスD :スチレン−ブタジエン系ラテックス、アクリルニトリルモノ
マー55%、ゲル含有量60%
合成ゴムラテックスE :スチレン−ブタジエン系ラテックス、アクリルニトリルモノ
マー5%、ゲル含有量70%
合成ゴムラテックスF :スチレン−ブタジエン系ラテックス、アクリルニトリルモノ
マー50%、ゲル含有量70%
ポリビニルアルコールA:ケン化度98.5%、重合度400
ポリビニルアルコールB:ケン化度95%、重合度250
ポリビニルアルコールC:ケン化度98.5%、重合度1100
ポリビニルアルコールD:ケン化度97%、重合度300
ポリビニルアルコールE:ケン化度97%、重合度1500
変性澱粉A :リン酸エステル化コーン澱粉、
固形分濃度30質量%時の60℃のB型粘度60mPa・s
変性澱粉B :酸化コーン澱粉、
固形分濃度30質量%時の60℃のB型粘度250mPa・

変性澱粉C :リン酸エステル化コーン澱粉、
固形分濃度30質量%時の60℃のB型粘度200mPa・

変性澱粉D :ヒドロキシエチルエーテル化コーン澱粉、
固形分濃度30質量%時の60℃のB型粘度60mPa・s
である。
【0050】
実施例1〜48および比較例1〜20についてブレード塗工方法にて両面を塗工、乾燥した後、平滑化のためのカレンダー処理を行った。塗工量は固形分として片面当たり15g/mとした。カレンダーは弾性ロールと金属ロールからなるスーパーカレンダー装置を用い、加温用金属ロールの温度は60℃とした。
【0051】
インクジェットプリンターとして、ヒューレット・パッカード社製「CM8060」を用い、各実施例および比較例で得られたインクジェット用記録紙について、インクジェット印刷後の印刷部の塗工層強度について評価を行った。
【0052】
<塗工層強度>
温度23℃、湿度50%RHの環境下でインクジェット印刷後のインクジェット用記録紙について、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックそれぞれのベタ部にセロハンテープを貼り、ゆっくりとテープをはがして、塗工層が壊れてセロハンテープへ転移した量を目視により0〜10点で評価した。点数が高い程良好であり、3以下では実用上問題である。
【0053】
結果を表1〜3に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
<評価結果>
実施例1〜48の全てにおいて、印刷後の印刷部の塗工層強度が優れていることが示された。特に実施例25〜41と45〜48については、好ましい接着剤を使用することで塗工層強度が更に向上した。その中でも、炭酸カルシウムを70部以上配合し、好ましい接着剤を使用した29〜31と39〜41は非常に優れた塗工層強度を示した。一方で、炭酸カルシウムの配合量や接着剤の配合量が適切でない比較例1〜20については優れた塗工層強度を発揮できなかった。比較例3〜8においては、好ましい接着剤を使用しているが接着剤の配合量が適切でないため、優れた塗工層強度を示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明におけるインクジェット用記録紙は、インクジェット用記録紙としての使用に留まらず、湿式および乾式電子写真、オフセット印刷、グラビア印刷、熱転写等の他の印刷方式に使用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の少なくとも片面に主に顔料と接着剤を含有する塗工層を設けたインクジェット用記録紙において、塗工層の顔料として炭酸カルシウムを塗工層の全顔料固形分100質量部に対して60質量部以上含み、接着剤として合成ゴムラテックスを3〜10質量部含み、更に変性澱粉、ポリビニルアルコールのいずれか単独もしくは両方を合計で3〜10質量部含むことを特徴とするインクジェット用記録紙。
【請求項2】
合成ゴムラテックスがスチレン−ブタジエン系ラテックスであり、合成ゴムのモノマー成分としてモル数換算で5〜50%のアクリルニトリルを含み、ゲル含有量が70%以上である請求項1に記載のインクジェット用記録紙。
【請求項3】
変性澱粉がリン酸エステル化、もしくはヒドロキシエチルエーテル化されたコーン澱粉であり、変性澱粉のクッキング後、固形分濃度30質量%、60℃におけるB型粘度が200mPa・s以下である請求項1に記載のインクジェット用記録紙。
【請求項4】
ポリビニルアルコールがケン化度97%以上、重合度300〜1500である請求項1に記載のインクジェット用記録紙。

【公開番号】特開2011−148194(P2011−148194A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11585(P2010−11585)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】