説明

インクジェット用非水系インク組成物及びこれを含むインクの製造方法

【課題】インクジェット用非水系インク組成物及びこれを含むインクの製造方法が提供される。
【解決手段】本発明によるインクジェット用非水系インク組成物は、特定の化学式で表示されるグリコールエーテルアセテート系溶剤と、特定の化学式で表示されるポリプロピレングリコール系バインダーとを含む。本発明によるインクジェット用非水系インク組成物は、溶剤及びバインダー相互間の化学的相互作用によって得られる動的粘弾性を有し、印刷品質が優れて、高速印刷が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用非水系インク組成物及びこれを含むインクの製造方法に関し、さらに詳細には、印刷品質が高くて、高速印刷が可能なインクジェット用非水系インク組成物及びこれを含むインクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷方法のうち非接触式プリント方式は、連続インクジェット(continuous inkjet)方式とドロップオンデマンド(drop−on−demand:DOD)方式に区分される。
【0003】
前記連続インクジェット方式は、インクを連続的に噴射する途中、電磁場を変化させることによりインクの方向を調節してプリントする方式であり、DOD方式は、インクを微細な液滴別に噴射してプリントする方式である。
【0004】
DOD方式は、熱−バブルインクジェット(thermal−bubble inkjet)方式と圧電インクジェット(piezoelectric inkjet)方式に区分される。前記熱−バブルインクジェット(thermal−bubble inkjet)方式は、狭い流路でインクを加熱して発生するバブルの膨張による圧力を利用して噴射する。
【0005】
圧電インクジェット(piezoelectric inkjet)方式は、電気によって力学的に変形を起こす圧電板の圧力を利用してインクを噴射する。圧電インクジェット方式は、構造が比較的簡単で、且つ高精度の高品位画像形成が可能で、家庭用印刷装置を始め、さらに産業用印刷電子(printed electronics)分野に拡大適用されている。
【0006】
最近の圧電インクジェット印刷技術には、高精度だけでなく早い印刷速度による単位時間当り生産性増加の目的で、インクの高い周波数応答性能が要求されている。これによって、インクジェット装置の改善だけでなく、高速印刷具現に必須のヘッドの高い駆動周波数でも安定的な液滴吐出能力を有するインクジェット用インクが要求されている。
【0007】
特に、ヘッドの駆動周波数が高くなることによって、吐出された液滴は、サテライト(satellite)または曲がったリガメント(ligament)が発生しやすく、このような現象は、インク液滴の着弾地点以外の領域に印刷が行われて、高精度画像の形成に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0008】
このような理由から、高周波数でも吐出安全性が確保されるインク組成物の開発が進行され、様々な試みが行われている。
【0009】
高速印刷が可能なインクジェット用インクとして、グリコールエーテル系溶剤と1種の多価アルコールが適切に混合されたインクが特許文献1に提案されてあるが、その提案された組成物の場合、グリコールエーテル(glycol ether)系溶剤として、ジエチレングリコールエチルエーテル(diethylene glycol ethyl ether)やジエチレングリコールブチルエーテル(diethylene glycol butyl ether)、トリエチレングリコールエチルエーテル(triethylene glycol ethyl ether)またはトリエチレングリコールブチルエーテル(triethylene glycol butyl ether)などを多量使用しており、インク吐出時、インクで発生する悪臭が問題となっている。また、開示された1種の多価アルコールも、ヘッドの高速動作によって流路で受けるせん断力(shear force)による液滴の飛散によって、吐出周波数に対する応答性が低下する恐れがある。
【0010】
吐出安全性が向上した他の高速印刷用インク組成物として特定界面活性剤を使用したインクが特許文献2及び3に提案されてあるが、該当界面活性剤は、インクジェットヘッドの流路に汚染を誘発し、吐出駆動周波数が高くなることによって、液滴の飛散が増加し、ヘッドノズル面に過度な濡れ性を誘発する恐れがあるので、高速印刷用インクとしては問題がある。
【0011】
高速印刷が可能な熱−バブル式インクジェット用インクとしては、水を主成分としてノズル面におけるインク乾燥を抑制するための目的でグリコール系保湿剤(humectant)が混合されたインクが特許文献4及び5に提案されたが、最大吐出周波数が15kHz帯で、周波数応答特性が良くなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−266537号
【特許文献2】特開2008−184567号
【特許文献3】特開2007−197675号
【特許文献4】特開1996−157758号
【特許文献5】特開2004−300280号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、印刷品質が高くて、高速印刷が可能なインクジェット用非水系インク組成物及びこれを含むインクの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を達成するための手段として、本発明の一実施形態は、下記化学式(1)で表示されるグリコールエーテルアセテート系溶剤と、下記化学式(2)で表示されるポリプロピレングリコール系バインダーと、を含むインクジェット用非水系インク組成物を提供する。
【化1】

前記式において、
nは、1から2の整数であり、
は、炭素数1から7のアルキルまたはアリールであり、
は、水素またはメチルであり、
【化2】

前記式において、
nは、3以上の整数である。
【0015】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーは、分子量が互いに異なる2種以上を含んでもよい。
【0016】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーは、重量平均分子量が300から2000g/molであってもよい。
【0017】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーは、ヒドロキシル価(hydroxyl number)が60から300であってもよい。
【0018】
前記2種以上のポリプロピレングリコール系バインダーは、重量平均分子量の差が25から1700g/molであってもよい。
【0019】
前記2種以上のポリプロピレングリコール系バインダーは、混合粘度が85cP以下であり、平均ヒドロキシル価が230以上であってもよい。
【0020】
前記Rは、CH、CHCH、CH(CH、CH(CH、CH(CH、C(CHまたはCであってもよい。
【0021】
前記グリコールエーテルアセテート系溶剤は、エチレングリコールエーテルアセテート類及びポリプロピレングリコールエーテルアセテート類のうち選択される一つ以上であってもよい。
【0022】
前記グリコールエーテルアセテート系溶剤の含量は、全体組成物100重量部に対して30から70重量部であってもよい。
【0023】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーの含量は、全体組成物100重量部に対して40から70重量部であってもよい。
【0024】
前記インクジェット用非水系インク組成物は、下記化学式(3)で表示されるトリアリールメタン系染料を含んでもよい。
【化3】

前記式において、
は、炭素数1から3のアルキルまたはアリールであり、
及びRは、それぞれ独立的に水素または炭素数1から3のアルキルである。
【0025】
前記トリアリールメタン系染料は、全体組成物100重量部に対して0.1から1重量部であってもよい。
【0026】
前記インクジェット用非水系インク組成物は、酸化防止剤及び紫外線吸収剤のうち少なくとも一つを追加で含んでもよい。
【0027】
本発明の他の実施形態は、下記化学式(1)で表示されるグリコールエーテルアセテート系溶剤及び下記化学式(2)で表示されるポリプロピレングリコール系バインダーを溶解する段階と、前記溶解物に下記化学式(3)で表示されるトリアリールメタン系染料を入れて可溶化する段階と、前記染料を含む溶解物をフィルタで濾過する段階と、を含むインクジェット用非水系インクの製造方法を提供する。
【化4】

前記式において、
nは、1から2の整数であり、
は、炭素数1から7のアルキルまたはアリールであり、
は、水素またはメチルであり、
【化5】

前記式において、
nは、3以上の整数であり、
【化6】

前記式において、
は、炭素数1から3のアルキルまたはアリールであり、
及びRは、それぞれ独立的に水素または炭素数1から3のアルキルである。
【0028】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーは、分子量が互いに異なる2種以上を含んでもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によるインクジェット用非水系インク組成物は、特定の化学式で表示されるグリコールエーテルアセテート系溶剤及び特定の化学式で表示されるポリプロピレングリコール系バインダーを含んで、相互間の化学的相互作用によって得られる動的粘弾性によって、高速の吐出周波数でも液滴の飛散やサテライトを誘発しない。
【0030】
また、溶剤とバインダー間の化学構造的類似性によって気泡発生が非常に少なく、高い周波数帯域で吐出安全性が確保されて、高速及び高品位印刷品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1a】本発明の実施例1によって製造されたインクの周波数変化によって得られた吐出イメージである。
【図1b】本発明の実施例2によって製造されたインクの周波数変化によって得られた吐出イメージである。
【図1c】本発明の実施例3によって製造されたインクの周波数変化によって得られた吐出イメージである。
【図1d】本発明の実施例4によって製造されたインクの周波数変化によって得られた吐出イメージである。
【図2a】本発明の実施例5によって製造されたインクの周波数変化によって得られた吐出イメージである。
【図2b】本発明の実施例6によって製造されたインクの周波数変化によって得られた吐出イメージである。
【図2c】本発明の実施例7によって製造されたインクの周波数変化によって得られた吐出イメージである。
【図2d】本発明の実施例8によって製造されたインクの周波数変化によって得られた吐出イメージである。
【図3】本発明の実施例5によって製造されたインクの30kHz以上の高周波数帯域での吐出イメージである。
【図4】本発明の実施例5によって製造されたインクを用いてインクジェット用フォトペーパーに出力した印刷物のイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、インクジェット用非水系インク組成物に関し、下記化学式(1)で表示されるグリコールエーテルアセテート系溶剤及び下記化学式(2)で表示されるポリプロピレングリコール系バインダーを含む。
【化7】

前記式において、
nは、1から2の整数であり、
は、炭素数1から7のアルキルまたはアリールであり、
は、水素またはメチルである。
【化8】

前記式において、
nは、3以上の整数である。
【0033】
本発明によるインクジェット用非水系インク組成物は、相互間の化学的相互作用によって得られる動的粘弾性(dynamic viscoelasticity)によって、高い吐出周波数帯域でも液滴の飛散やサテライト(satellite)を誘発しない。
【0034】
また、別途の消泡剤を使用しなくても、インク内に発生した気泡が短時間内に脱泡されて、インク流路内の残存気泡量が非常に少なくなるので、インク吐出時、気泡によるヘッドノズルの抜け現象が減少することができる。
【0035】
以下、本発明のインクジェット用非水系インク組成物の各成分を、より具体的に説明する。
【0036】
本発明のインクジェット用非水系インク組成物は、溶剤として下記化学式(1)で表示されるグリコールエーテルアセテート系溶剤を含む。
【化9】

前記式において、
nは、1から2の整数であり、
は、炭素数1から7のアルキルまたはアリールであり、
は、水素またはメチルである。
【0037】
前記化学式(1)において、Rは、炭素数1から7のアルキルまたはアリールであって、これに限られるのではないが、例えば、CH、CHCH、CH(CH、CH(CH、CH(CH、C(CHまたはCなどがある。
【0038】
前記グリコールエーテルアセテート系溶剤は、多価アルコールとは異なって、分子間水素結合が困難で、溶剤自体の粘度が非常に低いので、インク組成物の粘度調節が容易である。
【0039】
前記グリコールエーテルアセテート系溶剤は、希釈剤としての役割だけでなく、相対的に低い表面張力を有する。これによって、界面活性剤と共にインクと記録媒体間の濡れ性を向上させ、ノズル内にインクがうまく湿潤されるようにして、ノズル別吐出均一性を向上させる。
【0040】
また、前記グリコールエーテルアセテート系溶剤は、バインダーや添加剤を溶解する可溶化能力が非常に高いので、本発明のインクジェット用非水系インク組成物に含まれるポリプロピレングリコール系バインダーを高濃度で含むことができる。これによって、インクジェット用非水系インク組成物の動的粘弾性付与に適合する。
【0041】
また、ポリプロピレングリコール系バインダーとの相溶性が高いので、インクジェットヘッドの高い吐出周波数帯域でも液滴の飛散を誘発せず、優れた吐出周波数応答特性を有する。
【0042】
また、上述したように、溶剤自体の表面張力が低いので、ポリプロピレングリコールバインダーとの造液時、吐出性要件に適合する水準の表面張力を具現することができる。
【0043】
前記グリコールエーテルアセテート系溶剤は、18から40℃で28から35mN/mの表面張力を有する。これによって、38mN/m水準の表面張力を有するポリプロピレングリコールバインダーとの造液時、30mN/m水準の表面張力を容易に具現する。これによって、別途の界面活性剤無しでも、高い吐出周波数帯域で吐出安全性を確保することができる。
【0044】
また、従来の溶剤として使用されたグリコールエーテル系溶剤に比べて悪臭が少なくて作業性が良い。
【0045】
前記グリコールエーテルアセテート系溶剤は、これに限られるのではないが、例えば、エチレングリコールエーテルアセテート類またはプロピレングリコールエーテルアセテート類などがあり、これらを単独でまたは混合して使用することができる。
【0046】
前記エチレングリコールエーテルアセテート類は、これに限られるのではないが、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートまたはジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどがある。
【0047】
また、前記プロピレングリコールエーテルアセテート類は、これに限られるのではないが、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートまたはジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどがある。
【0048】
前記グリコールエーテルアセテート系溶剤の含量は、全体組成物100重量部に対して30から70重量部であってもよい。前記含量が30重量部未満であれば、インク組成物の粘度が15cP以上に上昇する恐れがある。これによって、インク吐出時ヘッドの初期インクプライミング(priming)特性が低下し、液滴吐出速度が低下して、液滴の直進性に悪影響を及ぼす恐れがある。前記含量が70重量部を超過すると、粘度が低くなり過ぎて、これによって高い吐出周波数帯域で液滴の飛散を誘発する恐れがある。
【0049】
本発明のインクジェット用非水系インク組成物は、前記グリコールエーテルアセテート系溶剤と共に下記化学式(2)で表示されるポリプロピレングリコール系バインダーを含む。
【化10】

前記式において、
nは、3以上の整数である。
【0050】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーは、ノズルの目詰まりを抑制する湿潤添加剤としての役割だけでなく、インク組成物内で高周波数帯域で吐出安全性を向上させるための核心成分である。
【0051】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーは、バインダー相互間またはグリコールエーテルアセテート系溶剤との化学的相互作用(例えば、水素結合)をして、インク組成物に動的粘弾性(dynamic viscoelasticity)を付与することができ、これにより吐出周波数を著しく向上させることができる。
【0052】
また、溶剤に対して相対的に高い表面張力を有するので、溶剤との適切な造液時インクジェット用インクに適合する28から35mN/m程度の表面張力を容易に具現することができる。
【0053】
一般的に、ポリプロピレングリコールは、記録媒体表面でのインクの濡れ性を向上させるかノズルの目詰まりを抑制するために、水系またはインクジェット用非水系インク組成物に添加される。
【0054】
ポリプロピレングリコールは、水に対する溶解度が非常に高く、高温でも安全性が高い性質を有するが、添加量が増加するほど粘度が上昇するので、その使用量が制限される。
【0055】
しかし、本発明では、グリコールエーテルアセテート系溶剤と共に使用され、前記溶剤は、ポリプロピレングリコールに対する可溶化能力及び相溶性が高いので、ポリプロピレングリコール系バインダーを高濃度で含むことができる。これによって、インクジェット用非水系インク組成物の動的粘弾性を具現することができる。
【0056】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーは、分子量が互いに異なる2種以上を含むことができる。分子量が互いに異なる2種以上のポリプロピレングリコールを使用する場合、ポリプロピレングリコールバインダー相互間またはバインダーと溶剤間の化学的相互作用(例えば、水素結合)がより容易になることができる。これによって、20kHz以上の高周波数帯域でも液滴の吐出安全性を維持することができるので、高速印刷が可能である。
【0057】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーは、重量平均分子量300から2000g/molのものを使用することができ、ヒドロキシル価(hydroxyl number)60から300のものを使用することができる。
【0058】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーは、前記範囲で分子量が互いに異なる2種を選択することができ、分子量の差が小さいほど高い吐出周波数帯域でも液滴の吐出安定性を維持することができる。前記2種以上のポリプロピレングリコール系バインダー相互間の重量平均分子量の差は、25から1700g/molであることができる。
【0059】
また、分子量が互いに異なる2種以上のポリプロピレングリコール系バインダー混合物は、混合粘度が85cP(25℃)以下で、平均ヒドロキシル価が230以上であることができる。
【0060】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーの含量は、全体組成物100重量部に対して40から70重量部であることができる。前記含量が40重量部未満であれば、バインダー相互間及び溶剤との化学的相互作用が小さくなって、高い吐出周波数帯域でインクの飛散をもたらす恐れがある。前記含量が70重量部を超過すると、常温での粘度が高くなって、インク吐出時、ヘッドの初期インクプライミング(priming)特性が低下し、液滴吐出速度が著しく低下する恐れがある。
【0061】
本発明によるインクジェット用非水系インク組成物は、着色剤として、前記成分と共に下記化学式(3)で表示されるトリアリールメタン系染料を含むことができる。
【化11】

前記式において、
は、炭素数1から3のアルキルまたはアリール基であり、
及びRは、それぞれ独立的に水素または炭素数1から3のアルキルである。
【0062】
前記トリアリールメタン系染料は、ブルーを表す化合物であって、発色度が良い。本発明のインクジェット用非水系インク組成物に含まれるグリコールエーテルアセテート系溶剤及びポリプロピレングリコール系バインダーとの相溶性が高く、吸湿性が非常に低い特性を有する。
【0063】
また、前記トリアリールメタン系染料は、同量のフタロシアニン系染料に比べて高周波数帯域で液滴の飛散が少なくて、吐出安全性を向上させる。
【0064】
前記トリアリールメタン系染料は、550から650nmの波長で最大の吸収力を有するものを使用することができ、これに限られるのではないが、例えば、C.I.ベーシックブルー26またはC.I.ベーシックブルー7などを使用することができる。
【0065】
前記トリアリールメタン系染料の含量は、全体組成物100重量部に対して0.1から1重量部であることができる。前記含量が0.1重量部未満であれば印刷されたインクの濃度が低く、コントラストの低い画像が得られ、吐出周波数が低下する恐れがある。
【0066】
前記含量が1重量部を超過すると、染料の溶解に長時間が所要され、インク組成物の粘度が上昇し、吐出周波数が低下する恐れがある。
【0067】
また、本発明のインクジェット用非水系インク組成物は、付加的な機能を向上させるために、酸化防止剤または紫外線吸収剤などの添加剤を追加で含むことができる。
【0068】
前記酸化防止剤としては、ヒンダード(hindered)フェノール系を含むフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤またはリン系酸化防止剤などを使用することができる。
【0069】
前記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤またはニッケル錯塩系紫外線吸収剤などを使用することができる。
【0070】
本発明によるインクジェット用非水系インク組成物を含むインクは、次のように製造されることができる。
【0071】
前記化学式(1)で表示されるグリコールエーテルアセテート系溶剤及び前記化学式(2)で表示されるポリプロピレングリコール系バインダーを溶解する段階、前記溶解物に前記化学式(3)で表示されるトリアリールメタン系染料を入れて可溶化する段階、前記染料を含む溶解物をフィルタで濾過する段階を通じて製造されることができる。
【0072】
前記フィルタは、これに限られるのではないが、1から10ミクロンの空隙を有するものを使用することができる。
【0073】
前記化学式(1)で表示されるグリコールエーテルアセテート系溶剤、前記化学式(2)で表示されるポリプロピレングリコール系バインダー、前記化学式(3)で表示されるトリアリールメタン系染料の具体的な成分及び含量は上述した通りである。
【0074】
本発明によるインクジェット用非水系インクは、保存安全性が非常に高いので、40℃オーブンに12週間放置した後も、インクの粘度や表面張力に変化がなく、高周波数帯域での吐出安全性に変化が発生しない。
【0075】
(実施例)
以下、実施例を通じて本発明をより詳しく説明するが、これは発明の具体的な理解を容易にするためのものであって、本発明の範囲が実施例によって限定されるのではない。
【0076】
1.1種のポリプロピレングリコール系バインダーを含むインク
(実施例1)
ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DOW社、DOWANOL DPMA、49.9重量%)にポリプロピレングリコールA(SMC社、PPZ、MW=325、49.9重量%)バインダーを入れ、撹拌して溶解した。その後、C.I.ベーシックブルー7染料(0.2重量%)を添加して8時間完全に溶解した後、製造されたインクを1ミクロンテフロン(登録商標)膜フィルタで濾過して、インクを製造した。
【0077】
(実施例2)
ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DOW社、DOWANOL DPMA、49.9重量%)にポリプロピレングリコールB(SMC社、PPT、MW=450、49.9重量%)バインダーを入れ、撹拌して溶解させた。その後、C.I.ベーシックブルー7染料(0.2重量%)を添加して8時間完全に溶解した後、製造されたインクを1ミクロンテフロン膜フィルタで濾過してインクを製造した。
【0078】
(実施例3)
ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DOW社、DOWANOL DPMA、49.9重量%)にポリプロピレングリコールC(SMC社、PPF、MW=600、49.9重量%)バインダーを入れ、撹拌して溶解した。その後、C.I.ベーシックブルー7染料(0.2重量%)を添加して8時間完全に溶解した後、製造されたインクを1ミクロンテフロン膜フィルタで濾過してインクを製造した。
【0079】
(実施例4)
ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DOW社、DOWANOL DPMA、49.9重量%)にポリプロピレングリコールD(SMC社、PPS、MW=800、49.9重量%)バインダーを入れ、撹拌して溶解した後、C.I.ベーシックブルー7染料(0.2重量%)を添加して8時間完全に溶解した後、製造されたインクを1ミクロンテフロン膜フィルタで濾過してインクを製造した。
【0080】
(インク組成物の評価)
前記実施例1から4によって製造されたインク組成物の性能を下記のような性能評価方法で評価して表1に記載し、周波数変化によって得られたイメージを図1aから図1dにそれぞれ表した。
【0081】
1)吐出周波数測定
液滴観測装置(drop watcher)が搭載されており、インク吐出時、微細液滴の瞬間観察が可能なSemJetシステム(30ピコリットル級ヘッド装着、Samsung電気株式会社製造)を使用して、吐出周波数sweep条件(1〜30kHzまで順次に周波数上昇、同一吐出波形使用)で同一ノズルでの液滴の飛散や吐出異常が発生しない最大吐出周波数を測定した。
【0082】
2)粘度及び表面張力測定
粘度は、ブルックフィールド社(Brookfield Inc.)製DV−II+viscometerを使用し、表面張力はKRUSS社製のbubble pressure tensiometerを使用して25℃恒温条件で測定した。
【表1】

【0083】
前記表1を参照すると、実施例1及び4は、粘度が15cP以上に上昇せず、インクジェット用インクとしての吐出性要件に適合する30mN/m水準の表面張力を表した。
【0084】
また、添付の図1aから1dを参照すると、ポリプロピレングリコールバインダーの分子量によって最大吐出可能周波数帯域が変化することを確認でき、記録媒体との濡れ性が優れていることが分かる。
【0085】
2.2種のポリプロピレングリコール系バインダーを含むインク
(実施例5)
ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DOW社、DOWANOL DPMA、49.8重量%)にポリプロピレングリコールB(PPT、MW=450、30重量%)とポリプロピレングリコールC(PPF、MW=600、20重量%)をそれぞれ入れ、撹拌して溶解した。その後、C.I.ベーシックブルー7染料(0.2重量%)を添加して8時間完全に溶解した後、製造されたインクを1ミクロンテフロン膜フィルタで濾過してインクを製造した。
【0086】
(実施例6)
ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DOW社、DOWANOL DPMA、49.8重量%)にポリプロピレングリコールB(PPT、MW=450、25重量%)とポリプロピレングリコールC(PPF、MW=600、25重量%)をそれぞれ入れ、撹拌して溶解した。その後、C.I.ベーシックブルー7染料(0.2重量%)を添加して8時間完全に溶解した後、製造されたインクを1ミクロンテフロン膜フィルタで濾過してインクを製造した。
【0087】
(実施例7)
ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DOW社、DOWANOL DPMA、49.8重量%)にポリプロピレングリコールB(PPT、MW=450、20重量%)とポリプロピレングリコールC(PPF、MW=600、30重量%)をそれぞれ入れ、撹拌して溶解した。その後、C.I.ベーシックブルー7染料(0.2重量%)を添加して8時間完全に溶解した後、製造されたインクを1ミクロンテフロン膜フィルタで濾過してインクを製造した。
【0088】
(実施例8)
ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DOW社、DOWANOL DPMA、49.8重量%)にポリプロピレングリコールB(PPT、MW=450、15重量%)とポリプロピレングリコールC(PPF、MW=600、35重量%)をそれぞれ入れ、撹拌して溶解した。その後、C.I.ベーシックブルー7染料(0.2重量%)を添加して8時間完全に溶解した後、製造されたインクを1ミクロンテフロン膜フィルタで濾過してインクを製造した。
【0089】
前記実施例5から8によって製造されたインク組成物の性能は、前記実施例1から4と同じ方法で評価して表2に記載し、周波数変化によって得られたイメージを図2aから図2dにそれぞれ表した。
【0090】
【表2】

【0091】
前記表2を参照すると、実施例5及び8は、粘度が15cP以上に上昇せず、インクジェット用インクとしての吐出性要件に適合する30mN/m水準の表面張力を表した。
【0092】
また、添付の図2aから図2dを参照すると、液滴の形状と吐出周波数応答特性が著しく改善されることが分かる。
【0093】
前記実施例5のインクジェット用インク組成物に対して30kHz以上の高周波数帯域で吐出安全性を評価して図3に示し、インクジェット用フォトペーパーに出力した印刷物を図4に示した。
【0094】
本発明は、上述した実施形態及び添付の図面によって限定されるものではなく、添付の請求の範囲によって限定される。従って、請求の範囲に記載された本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で当技術分野における通常の知識を有する者であれば、様々な形態の置換、変形及び変更が可能であり、これも本発明の範囲に属するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表示されるグリコールエーテルアセテート系溶剤と、
下記化学式(2)で表示されるポリプロピレングリコール系バインダーと、を含むことを特徴とするインクジェット用非水系インク組成物:
【化1】

前記式において、
nは、1から2の整数であり、
は、炭素数1から7のアルキルまたはアリールであり、
は、水素またはメチルであり、
【化2】

前記式において、
nは、3以上の整数である。
【請求項2】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーは、分子量が互いに異なる2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用非水系インク組成物。
【請求項3】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーは、重量平均分子量が300から2000g/molであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用非水系インク組成物。
【請求項4】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーは、ヒドロキシル価(hydroxyl number)が60から300であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用非水系インク組成物。
【請求項5】
前記2種以上のポリプロピレングリコール系バインダーは、重量平均分子量の差が25から1700g/molであることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット用非水系インク組成物。
【請求項6】
前記2種以上のポリプロピレングリコール系バインダーは、混合粘度が85cP以下であり、平均ヒドロキシル価が230以上であることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット用非水系インク組成物。
【請求項7】
前記Rは、CH、CHCH、CH(CH、CH(CH、CH(CH、C(CHまたはCであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用非水系インク組成物。
【請求項8】
前記グリコールエーテルアセテート系溶剤は、エチレングリコールエーテルアセテート類及びポリプロピレングリコールエーテルアセテート類のうち選択される一つ以上であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用非水系インク組成物。
【請求項9】
前記グリコールエーテルアセテート系溶剤の含量は、全体組成物100重量部に対して30から70重量部であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用非水系インク組成物。
【請求項10】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーの含量は、全体組成物100重量部に対して40から70重量部であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用非水系インク組成物。
【請求項11】
下記化学式(3)で表示されるトリアリールメタン系染料を含むことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用非水系インク組成物:
【化3】

前記式において、
は、炭素数1から3のアルキルまたはアリールであり、
及びRは、それぞれ独立的に水素または炭素数1から3のアルキルである。
【請求項12】
前記トリアリールメタン系染料は、全体組成物100重量部に対して0.1から1重量部であることを特徴とする請求項11に記載のインクジェット用非水系インク組成物。
【請求項13】
酸化防止剤及び紫外線吸収剤のうち少なくとも一つを追加で含むことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用非水系インク組成物。
【請求項14】
下記化学式(1)で表示されるグリコールエーテルアセテート系溶剤及び下記化学式(2)で表示されるポリプロピレングリコール系バインダーを溶解する段階と、
前記溶解物に下記化学式(3)で表示されるトリアリールメタン系染料を入れて可溶化する段階と、
前記染料を含む溶解物をフィルタで濾過する段階と、を含むことを特徴とするインクジェット用非水系インクの製造方法:
【化4】

前記式において、
nは、1から2の整数であり、
は、炭素数1から7のアルキルまたはアリールであり、
は、水素またはメチルであり、
【化5】

前記式において、
nは、3以上の整数であり、
【化6】

前記式において、
は、炭素数1から3のアルキルまたはアリールであり、
及びRは、それぞれ独立的に水素または炭素数1から3のアルキルである。
【請求項15】
前記ポリプロピレングリコール系バインダーは、分子量が互いに異なる2種以上を含むことを特徴とする請求項14に記載のインクジェット用非水系インクの製造方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−63785(P2011−63785A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288084(P2009−288084)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(594023722)サムソン エレクトロ−メカニックス カンパニーリミテッド. (1,585)
【Fターム(参考)】