説明

インクジェット装置および該装置に用いられるインクジェットヘッドの吐出不良検出方法

【課題】複数のノズルを有するインクジェットヘッドを用いるインクジェット装置の吐出不良検出において、ノズルについて必要十分な検出周期を設定し、インクジェットヘッドの全体的な吐出不良発生の有無の検出時間を短縮し、かつその検出精度を向上する。
【解決手段】発光素子と受光素子とを有し、複数のノズルのそれぞれから吐出されるインク滴が受発光素子間の光路を通過することにより生じる遮光の有無によってノズルの吐出不良の発生の有無を検出する手段と、当該検出に先立ち、複数のノズルのうちの吐出状態の最も劣るノズルについてインク滴の吐出を行わせ、当該吐出が開始されてから受光素子の受光量が吐出前の状態に戻るまでの時間である検出周期を測定する手段と、当該測定された検出周期に基づき、複数のノズルについて前記検出手段による検出を行う際の検出周期を変更設定する処理を行うことが可能な手段と、を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット装置および該装置に用いられるインクジェットヘッドの吐出不良検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドにおいては、記録の高速化や高解像化の目的で複数のノズルが配列されるのが一般的であるが、入力画像データによっては記録中にインク吐出に用いられないノズルが生じることがある。そのようなノズルでは、吐出口からのインク溶剤の蒸発が生じ、これに伴いノズル内のインク粘度が増加する。従ってその後、そのノズルを使用するに際して、通常のインク吐出用のエネルギが付与されても安定したインク吐出が行えなくなったり、甚だしい場合にはインクが吐出されなくなったりするなどの吐出不良が生じる。また、インクを吐出する際に記録に関与する主なインクの他に微小なインク滴(サテライト)が吐出されて雰囲気中に漂い、これらがインクミストとなって、ノズルのインク吐出口の周りに付着することがある。さらに、空気中を漂っていた塵埃などが吐出される主インク滴に付着することもある。すると、吐出される主インク滴をこれらの付着物が引っ張ることで、インク吐出方向がよれるなどの吐出不良が生じることもある。
【0003】
従って、これらのような吐出不良を解消するクリーニング技術は、インクジェット装置の信頼性の観点から重要な要素となっている。そのための動作としては、例えばインクジェットヘッドの吐出口が形成されている面を掃くことで付着物を除去するワイピング動作や、例えばポンプを用いて吐出口からインクを強制排出する動作などが採用される。しかしこれらのクリーニングを行う前提として、インクジェットヘッドに配列されるノズルの吐出不良の発生の有無を正確に検出する技術が重要な課題となっている。検出方法としては、ノズル配列方向の両端部付近に発光素子および受光素子を配置し、各ノズルから順次に吐出動作を行わせる一方、発光素子から受光素子に向う光をインクが遮ったか否かに基づいて吐出不良発生の有無を検出する方法がある。インク滴が正常に吐出されて光路を遮った場合には受光素子の受光量が減少するが、吐出不良により遮光が生じなかった場合には受光量が減少しない(または減少量が小さくなる)ため、受光量変化を観測することで吐出不良発生の有無を検出することができる。そして、この検出結果に基づいて、従来は、クリーニング時間の変更等の処理を行っていた。
【0004】
特許文献1には、各ノズルについて1以上のインク滴を吐出させ、受光量変化の最小値と最大値(遮光が生じないときの受光量)との差(ピークピーク振幅等と称されている)に基づいて精度良く吐出不良の発生の有無を検出する技術が開示されている。
【0005】
しかし実際には、インクジェットヘッドに配列されるノズルには製造上のばらつきによる個体差がある。従って、吐出状態のよいもの(インクの飛翔速度や直進性の高いもの、あるいはインク吐出時にサテライトの発生の少ないものなど)と、これが劣るものとが混在しているのが一般的である。また、吐出状態の良否は環境条件や使用条件によっても変化する。従って、吐出不良の発生の有無を検出する際には、ノズル毎の個体差あるいは環境条件などを考慮し、ノズル毎に必要十分なマージンを取った検出周期(インクの吐出開始から受光量が完全に吐出前の状態に戻るまでの時間)の設定を行うことが強く望ましい。例えば、ノズルの検出周期が必要以上に長く設定されていると全体的な検出時間が長くなってしまう一方、ノズルの検出周期が不十分であれば、あるノズルについての検出時に、先に検出を行ったノズルからのミストが影響し、検出の精度が低下するからである。かかる問題に対して、上記特許文献1には何らの認識もなく、これを解決するための技術も開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−233520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって本発明は、ノズル毎の個体差さらには環境条件などを考慮し、必要十分な検出周期の設定を行うことで、インクジェットヘッドの全体的な吐出不良発生の有無の検出時間を短縮し、かつその検出精度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために、本発明は、複数のノズルを有するインクジェットヘッドを用いるインクジェット装置であって、
発光素子と受光素子とを有し、前記複数のノズルのそれぞれから吐出されるインク滴が前記発光素子と前記受光素子との間の光路を通過することにより生じる遮光の有無によって前記ノズルの吐出不良の発生の有無を検出する検出手段と、
該検出手段による検出に先立ち、前記複数のノズルのうちの所定のノズルについて前記インク滴の吐出を行わせ、当該吐出が開始されてから前記受光素子の受光量が吐出前の状態に戻るまでの時間である検出周期を測定する測定手段と、
当該測定された検出周期に基づき、前記複数のノズルについて前記検出手段による検出を行う際の検出周期を変更設定する処理を行うことが可能な検出周期設定手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、複数のノズルを有するインクジェットヘッドを用いるインクジェット装置の吐出不良検出方法であって、
発光素子と受光素子とを有する検出手段を用い、前記複数のノズルのそれぞれから吐出されるインク滴が前記発光素子と前記受光素子との間の光路を通過することにより生じる遮光の有無によって前記ノズルの吐出不良の発生の有無を検出する検出工程と、
該検出工程に先立ち、前記複数のノズルのうちの所定のノズルについて前記インク滴の吐出を行わせ、当該吐出が開始されてから前記受光素子の受光量が吐出前の状態に戻るまでの時間である検出周期を測定する測定工程と、
当該測定された検出周期に基づき、前記複数のノズルについて前記検出手段による検出を行う際の検出周期を変更設定する処理を行うことが可能な検出周期設定工程と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ノズル毎の個体差、さらには環境条件やインクジェットヘッドの使用条件を考慮し、必要十分な検出周期の設定を行うことで、インクジェットヘッドの全体的な吐出不良発生の有無の検出時間を短縮し、かつその検出精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用可能なインクジェット装置の概略構成例を示す概念図である。
【図2】吐出不良ノズルの検出センサを模式的に示す図である。
【図3】(a)および(b)は、吐出不良発生の有無の検出時において、それぞれ、吐出状態がよいノズルおよび吐出状態が劣るノズルからインク吐出が正常に行われたときの受光素子からの出力信号の時間的変化を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る吐出不良発生の有無の検出処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明インクジェット装置ないしはその吐出不良検出方法の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明を適用可能なインクジェット装置の概略構成例を示す概念図である。符号107で示すものはインクジェット装置であり、ホストコンピュータ106と通信ケーブル108を介して接続されて、種々データの授受を行う。すなわち、ホストコンピュータ106にて処理された画像データその他の各種データをインクジェット装置107へと送信することにより、インクジェット装置107において記録動作やその他の動作が行われる。また、インクジェット装置107のエラー情報などのプリンタステータスをホストコンピュータ106に送信することにより、ホストコンピュータ106にてインクジェット装置の状態を認識できるように構成されている。
【0014】
符号101で示すものはインクジェットヘッド(以下、単にヘッドとも言う)であり、例えば、搬送される記録媒体の幅に対応した範囲にわたってノズルを配列してなる長尺のラインヘッド形態のものとすることができる。この場合、インクジェット装置107は、記録媒体(不図示)の搬送を行いながらノズルからインクを吐出することで記録を行うラインプリンタ型のものとして構成される。また、インクジェットヘッド101は、記録媒体の搬送方向にノズルを配列してなるものとし、キャリッジ等に搭載されて記録媒体の搬送方向と交差する方向に移動可能な形態のものとすることもできる。この場合、インクジェット装置107は、当該インクジェットヘッドの移動と記録媒体の搬送とを交互に行いながら記録を行うシリアルプリンタ型のものとして構成される。なお、図1においては1つのインクジェットヘッド101のみが示されているが、インクの色調(色,濃度)の数などに応じて複数設けることができる。また、インクジェットヘッド101としては、例えば、インクを吐出するために利用されるエネルギとして、通電に応じインクに膜沸騰を生じさせる熱エネルギを発生する電気熱変換素子(吐出ヒータ)を用いたものとすることができる。
【0015】
ノズルが配列されたインクジェットヘッド101の一側部および他側部には、それぞれ、発光素子112および受光素子113が設けられ、これらは吐出不良ノズルの検出センサを構成している。発光素子112は、インクジェットヘッド101の下面においてノズルの配列に沿った方向に投光し、受光素子113がこの光を受けることができるように配置され、後述するような検出動作によって吐出不良発生の有無を判定することができる。さらに、吐出不良が検出された場合には、インク吐出性能を良好な状態にするために、上述したようなクリーニング動作を行うことが可能である。
【0016】
図1において、制御部201は、CPU202、ROM203、RAM204、通信コントローラ208、イメージメモリ205、ヘッド駆動回路209、モータドライバ210、入出力部(I/O)211および制御回路212等を有している。
【0017】
CPU202は、図4に示す処理の手順を含め、記録動作等に必要な処理手順等に従って種々の演算、判定および制御などの処理を行う。ROM203は、CPU202が実行する処理手順に対応した制御プログラムその他の固定データを格納している。RAM204は、CPU202による各種データ処理時のワークエリアや、送受信バッファとして使用される領域を有している。通信コントローラ208は通信ケーブル108を介しホストコンピュータ106とインクジェット装置107との間で所要のデータを送受信するものであり、例えばUSBコントローラが用いられる。
【0018】
イメージメモリ205は、記録(印刷)すべき画像データの展開部として使用される。ヘッド駆動回路209は、画像データに従い、記録媒体搬送時の規定のタイミングでインクジェットヘッド101の電気熱変換素子を駆動する。モータドライバ210は、インクジェットヘッド101に対するクリーニング動作や、記録動作に要する所要の駆動を行うための駆動源をなす各種モータ206を駆動する。I/O211は、記録媒体の送給および搬送を行う搬送ユニット(不図示)に対するインターフェース(I/F)制御部207に接続される。
【0019】
符号220は環境条件センサであり、温度や湿度などの環境条件を検出する。また、符号222は、記録媒体の厚みなどに応じてインクジェットヘッドと記録媒体との間隔を調整するために、インクジェットヘッド101の位置を複数段階に変更設定することが可能なヘッド位置調整機構である。なお、本実施形態では、インクジェットヘッド101は鉛直方向下方に向けてインクを吐出するものとし、以下ではインクジェットヘッド101の位置をヘッド高さ、ヘッド位置調整機構を昇降機構として説明する。これらの環境条件やヘッド高さは吐出不良の検出精度にも影響を与えるものである。例えば環境条件によってノズルの吐出状態(インク滴の吐出ないし飛翔速度)が変化したり、ヘッド高さによって受発光素子間の光路とノズルとの距離が変化したりすることで、光路をインク滴が通過するタイミングが変化するからである。よって本実施形態では、後述するように、ノズルの個体差だけでなく、これら環境条件や使用条件をも勘案してノズルに対する吐出不良の検出周期を適切に設定する。
【0020】
制御回路212は、イメージメモリ205、ヘッド駆動回路209、モータドライバ210、I/O211、吐出不良ノズルの検出センサを構成する発光素子112および受光素子113、インクジェットヘッドの昇降機構222の動作を制御する。また、制御回路212は、ユーザに対しインクジェット装置107のステータスやエラーの報知を行うべく配置される表示部213を制御する。
【0021】
図2は、吐出不良ノズルの検出センサを模式的に示す図である。ここで、LEDなどの発光素子112より放射された光は発光素子112に正対して置かれたフォトダイオードなどの受光素子113に入射する。両素子はインクジェットヘッド101に配列されたノズル101Aからのインク滴4の飛翔経路を挟むように配置され、図示の例では光路3とノズル101Aの配列方向とが平行となっている。そして、吐出不良の検出動作に際しては、例えばインクジェットヘッドの一側部に位置するノズルから他側部に位置するノズルまで、順次に1回以上のインク滴4の吐出動作を行わせる。そして、検出センサの出力結果によりCPU202は吐出不良発生の有無を検出する。すなわち、光路3上にインク滴4が存在しない場合は発光素子112から発せられた光はそのまま受光素子113へ到達する一方、インク滴4が光路3を遮ると、受光素子113の受光量が低下し、受光素子113からの出力信号レベルが低下するからである。
【0022】
なお、ノズル101Aの配列方向に対し光路3が交差するように発光素子112および受光素子113を配置し、インクジェットヘッド101と吐出不良ノズルの検出センサとを相対的に移動させながら検出を行う構成としてもよい。また、インクジェットヘッドが複数設けられる場合には、それぞれに吐出不良ノズルの検出センサを設けることができる。あるいは、吐出不良ノズル検出センサを一組のみ設け、1つのヘッドに対する検出動作が終了したら、他のヘッドに対する検出動作が行われるよう、インクジェットヘッドと吐出不良ノズルの検出センサとを相対的に移動させるようにすることもできる。
【0023】
図3(a)および(b)は、吐出不良発生の有無の検出時において、インク吐出が正常に行われたとき(すなわち吐出不良が発生していない状態)の受光素子113からの出力信号6の時間的変化を示す図である。出力信号6は発光素子112と受光素子113との間の光路を横切るインク滴4により生成される。図に示すように、出力信号6は光路3上に遮光物が無い状態では一定のレベルを保持しているが、ノズル101Aからインク滴が吐出されて光路3に向かって進み、光路3にインク滴4が入ることで受光素子113側の出力が低下する。その後、インク滴4が光路3から出て行くことで受光素子113の出力が発光素子112の入力電流の増大に応じて増大する。この入力電流の増大は受光素子113の出力電流の低下に起因するものである。
【0024】
前述したように、インクジェットヘッドに配列されるノズルには製造上のばらつきによる個体差があり、吐出状態のよいものと、これが劣るものとが混在しているのが一般的である。図3(a)は吐出状態がよい(飛翔速度および直進性が高い)ノズルについての出力信号6の時間的変化場合を示している。この場合、インク滴4が吐出されてから光路3に到達および光路3を通過する時間が短く、従って受光素子113の出力電流も速やかに低下し、全体的な検出周期は短くなる。一方、図3(b)は吐出状態が劣る(飛翔速度や直進性が劣る)ノズルについての出力信号6の時間的変化場合を示している。この場合、インク滴4が吐出されてから光路3に到達および光路3を通過する時間が長く、従って受光素子113の出力電流も速やかには低下せず、全体的な検出周期は長くなる。つまり、吐出状態がよいノズルによるインク滴を検出するために必要な時間と、吐出状態が劣るノズルによるインク滴を検出するために必要な時間とでは、後者の時間が長くなる。
【0025】
従って、そのような個体差を考慮して検出周期(インクの吐出開始から受光量が完全に吐出前の状態に戻るまでの時間)の設定を行うことが強く望ましい。本実施形態においては、例えば、インクジェットヘッドの製造時ないし出荷前の検査において吐出状態が最も劣るノズルを特定しておき、そのノズルの情報をRAM24に記憶させておく。それとともに、このノズルについて検出周期を測定し、当該測定された検出周期を各ノズルについてのイニシャルの検出周期として定めRAM24に記憶させる。これにより、各ノズルの検出周期ないしは全体的な検出時間を必要十分な時間とすることが可能となる。また、吐出状態の良否は環境条件(温度、湿度など)や使用条件(インクジェットヘッドと光路との相対的な距離など)によっても変化するので、本実施形態においては、これらをも考慮した処理を行うものとする。
【0026】
図4は、本実施形態に係る吐出不良発生の有無の検出処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0027】
ステップS1では、CPU202は、まず環境条件センサ220の検出に基づき、温度や湿度などの環境条件の変化があったか否かを検出する。本実施形態において、CPU202は、環境条件センサ220により検出された温度が所定の温度範囲であり、かつ、環境条件センサ220により検出された湿度が所定の湿度範囲である場合は環境条件の変化が無いと判定する。さらに、CPU202は、環境条件センサ220により検出された温度が所定の温度範囲では無く、または、環境条件センサ220により検出された湿度が所定の湿度範囲では無い場合は環境条件の変化があったと判定する。当該変化が検出された場合にはステップS3に進み、所定ノズル(本実施形態では吐出状態が最も劣るノズル)にインク吐出を行わせ、検出周期(インクの吐出開始から受光量が完全に吐出前の状態に戻るまでの時間)を測定する。そして、ステップS4にて、その測定された検出周期にマージンを加えたものを1ノズルあたりの検出周期として定める(このステップS4が本発明の検出周期設定手段ないし工程に対応する)。このように定められた検出周期は、例えば図1のRAM204に格納しておくこともできるし、あるいは、装置電源オフ時にも設定内容が失われないよう、別途設けたEEPROM(不図示)に格納しておくこともできる。なお、上記ステップS3が本発明の測定手段ないし工程に対応し、ステップS4が検出周期設定手段ないし工程に対応する。
【0028】
ステップS1で温度や湿度などの環境条件の変化が検出されなかった場合にはステップS2に進み、インクジェットヘッドの使用条件すなわちヘッド高さが変更されたか否かを検出する。ここで肯定判定された場合にはステップS5に進み、このように段階的に変更される条件に関しては、所定のヘッド高さについて定められたイニシャル検出周期に対し、変更されたヘッド高さに応じた補正係数Kを乗じる。そして、ステップS4にてそのヘッド高さでの1ノズルあたりの検出周期を定める。一方、ステップS2にて否定判定された場合、すなわち環境条件の変化がなく、かつヘッド高さの変更設定もなかった場合には、そのままステップS6に移行し、イニシャル検出周期にて吐出不良検出処理を行う。
【0029】
以上の手順終了後は、上述の如く定められた検出周期(または、環境条件の変化がなく、かつヘッド高さの変更設定もなかった場合には、以前に定められているイニシャル検出周期)にて、全ノズルの各々について吐出不良発生の有無の検出を行う(ステップS6)。本実施形態によれば、ノズル毎の個体差、さらには環境条件やヘッド高さなどの使用条件を考慮し、必要十分な検出周期の設定を行うことで、インクジェットヘッドの全体的な吐出不良発生の有無の検出時間を短縮し、かつその検出精度を向上することができる。
【0030】
なお、以上の実施形態では、環境条件が変化した場合およびヘッド高さが変更された場合に検出周期の変更設定が行われるようにしたが、これらは必須のものではない。例えば、安定した環境条件下に装置が設置されて使用されるような場合であれば、ステップS1の判定処理は不要となるし、また、ヘッド高さが変更されない装置であれば、ステップS1の判定処理およびステップS5の補正係数乗算処理は不要となる。環境条件の変化およびヘッド高さの変更をともに考慮しない場合には、検査周期の設定は最初の吐出不良発生の有無の検出処理に先立って1回のみ行われるものでもよい。あるいは、インクジェットヘッドの経時変化を考慮し、複数回の吐出不良発生の有無の検出処理に際して1回行われるものでもよい。つまり、検出周期の変更設定は、環境条件が変化した場合およびヘッド高さが変更された場合の少なくとも一方について行われるものでもよく、不要であれば双方ともを考慮しなくてもよい。
【0031】
また、上記実施形態では、環境条件が変化した場合にステップS3に移行して所定のノズルについて検出周期の測定を行うようにした。しかし環境条件の変化と検出周期の変化との間に対応関係があれば、所定の環境条件で定められた検出周期に対し、環境変化に応じた補正係数を乗じて検出周期を定めるようにすることもできる。さらに、ヘッド高さは段階的に変更されるものであるので、上記実施形態では、所定のヘッド高さについて定められた検出周期に対し、変更設定されたヘッド高さに応じた補正係数Kを乗じ、そのヘッド高さでの1ノズルあたりの検出周期を定めるようにした。しかし環境条件が変化した場合と同様、ステップ3に移行して所定のノズルについて検出周期の測定を行うようにしてもよい。
【0032】
また、上記施形態では、CPU202は、環境条件センサ220により検出された温度が所定の温度範囲であり、かつ、環境条件センサ220により検出された湿度が所定の湿度範囲である場合は環境条件の変化が無いと判定した。さらに、上記施形態では、CPU202は、環境条件センサ220により検出された温度が所定の温度範囲では無く、または、環境条件センサ220により検出された湿度が所定の湿度範囲では無い場合は環境条件の変化があったと判定した。しかし、温度か湿度のどちらか一方が所定範囲であれば環境変化が無いとCPU202が判定し、温度と湿度の両方が所定範囲外であったときに環境変化があったとCPU202が判定するようにしてもよい。
【0033】
加えて、上記実施形態では、吐出状態が最も劣るものを所定のノズルとした。しかしインクジェットヘッドでは、個体差があるといっても各ノズルは吐出状態が所定の公差内にあるように製造され、これが出荷される。従って、例えば次のように処理を行うことができる。まず、吐出状態が最も劣るノズルとその他の所定のノズルとの吐出周期の差もしくは比を出荷前の検査で求めておく。そして、検出周期を設定する処理においては当該所定のノズルについての検出周期を測定し、これに上記差もしくは比に見合った補正を行うことで、全ノズルについての検出周期を定めるようすることができる。
【符号の説明】
【0034】
101 インクジェットヘッド
101A ノズル
112 発光素子
113 受光素子
120 環境センサ
222 ヘッド昇降機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルを有するインクジェットヘッドを用いるインクジェット装置であって、
発光素子と受光素子とを有し、前記複数のノズルのそれぞれから吐出されるインク滴が前記発光素子と前記受光素子との間の光路を通過することにより生じる遮光の有無によって前記ノズルの吐出不良の発生の有無を検出する検出手段と、
該検出手段による検出に先立ち、前記複数のノズルのうちの所定のノズルについて前記インク滴の吐出を行わせ、当該吐出が開始されてから前記受光素子の受光量が吐出前の状態に戻るまでの時間である検出周期を測定する測定手段と、
当該測定された検出周期に基づき、前記複数のノズルについて前記検出手段による検出を行う際の検出周期を変更設定する処理を行うことが可能な検出周期設定手段と、
を備えたことを特徴とするインクジェット装置。
【請求項2】
前記所定のノズルは、前記複数のノズルのうち前記インクの吐出状態が最も劣るノズルであり、該ノズルについて測定された前記検出周期を、前記検出周期設定手段が前記複数のノズルについて前記検出手段による検出を行う際の検出周期として設定することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット装置。
【請求項3】
環境条件の変化と、記録媒体と前記インクジェットヘッドとの距離を調整するために行われる前記インクジェットヘッドの位置の変更と、の少なくとも一方が生じたときに、前記検出手段による検出を行う際の検出周期を変更設定する処理が行われることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット装置。
【請求項4】
前記環境条件の変化が生じた場合には、前記測定手段による測定を行った上で、前記検出周期設定手段による前記処理が行われるようにしたことを特徴とする請求項3に記載のインクジェット装置。
【請求項5】
前記インクジェットヘッドの位置は複数段階に変更が可能であり、当該変更が生じた場合には、所定の前記インクジェットヘッドの位置について前記測定手段により測定された検出周期に、変更された前記インクジェットヘッドの位置に応じた係数を乗じた上で、前記検出周期設定手段による前記処理が行われるようにしたことを特徴とする請求項3に記載のインクジェット装置。
【請求項6】
複数のノズルを有するインクジェットヘッドを用いるインクジェット装置の吐出不良検出方法であって、
発光素子と受光素子とを有する検出手段を用い、前記複数のノズルのそれぞれから吐出されるインク滴が前記発光素子と前記受光素子との間の光路を通過することにより生じる遮光の有無によって前記ノズルの吐出不良の発生の有無を検出する検出工程と、
該検出工程に先立ち、前記複数のノズルのうちの所定のノズルについて前記インク滴の吐出を行わせ、当該吐出が開始されてから前記受光素子の受光量が吐出前の状態に戻るまでの時間である検出周期を測定する測定工程と、
当該測定された検出周期に基づき、前記複数のノズルについて前記検出手段による検出を行う際の検出周期を変更設定する処理を行うことが可能な検出周期設定工程と、
を備えたことを特徴とするインクジェット装置の吐出不良検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−56135(P2012−56135A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199928(P2010−199928)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】