説明

インクジェット記録ヘッド、及び、インクジェット記録装置

【課題】 簡易な構成で、かつ、リフィル速度の低下を抑制しつつ、インク滴吐出効率を向上させる。
【解決手段】 インク供給路18を構成する部分の、圧力室プレート32の下側、及びスループレート28の上側には、電極プレート38が配設されている。電極プレート38へ電圧が印加されると、インク供給路18内に電界が発生し、インク粘度が上昇する。電極プレート38への電圧印加を停止すると、インク供給路18内の電界は消滅し、インク粘度は通常時の粘度に低下する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク滴を吐出して画像記録を行なうインクジェット記録装置、及び、このインクジェット記録装置に適用されるインクジェット記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置には、インクジェット記録ヘッドの圧力室に充填されたインクに対し、いわゆるピエゾアクチュエータのたわみ変形によって圧力波を発生させ、インク滴を吐出させるものがある。このインクジェット記録装置では、一般的にインク滴吐出の動作は次のように行なわれる。まず、ピエゾアクチュエータを駆動させて圧力室内のインクに圧力波を発生させ、インク吐出ノズルからインク滴を吐出させる。そして、インク滴の吐出後は、メニスカスの表面張力によって、インクの貯留されているプール室から圧力室側へインクを引き込み(リフィル)、次のインク滴吐出に備える。
【0003】
ところで、インク滴吐出時に圧力室内のインクに発生させられる圧力波には、圧力室からインク吐出ノズル方向へと進行する成分(インク滴吐出に有効な成分)の他に、インク供給路を経てプール室に漏れる成分が存在する。この圧力波の漏れにより、インク滴吐出効率が低下するという不都合が生じていた。
【0004】
このインク滴吐出効率の低下を防止するために、プール室から圧力室へインクを供給するための供給路の流体抵抗増大を狙って長さを長くしたり、供給路の径を小さくしたりするなどの技術が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、プール室側への圧力波の進行成分(漏れ)を抑制できる反面、リフィル速度も遅くなってしまい、次のインク滴吐出まで長時間必要となり、インク滴吐出の周波数が低くなってしまうといった問題があった。
【0005】
また、プール室側への圧力波の進行成分(漏れ)を抑制するために、プール室から圧力室へインクを供給する供給路に機械的な可動弁を配設する技術も開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、可動弁を配設すると、製造工程が煩雑になり、さらには、可動弁の機械的信頼性を高くするのは難しいといった問題もあった。
【特許文献1】特開2003−211659号公報
【特許文献2】特開平6−198872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事実を考慮してなされたものであり、簡易な構成で、かつ、リフィル速度の低下を抑制しつつ、インク滴吐出効率を向上させることの可能なインクジェット記録ヘッドを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドは、インクを貯留するプール室と、インク滴を吐出させるインク吐出ノズルと、インクが充填されると共に前記インク吐出ノズル及び前記プール室に連通され、前記インク吐出ノズルからインク滴を吐出させるための圧力波が発生させられる圧力室と、前記プール室と前記圧力室との間に形成され、前記プール室から前記圧力室へインクを供給するインク供給路と、インク滴吐出時に前記インク供給路内のインクの粘度を上昇させ、インク滴吐出後のリフィル時に前記インク供給路内のインクの粘度をインク吐出時よりも低下させる粘度制御手段と、を含んで構成されている。
【0008】
本発明のインクジェット記録ヘッドでは、圧力室がインク吐出ノズル及びプール室に連通されている。また、圧力室とプール室との間には、インク供給路が形成されており、プール室に貯留されているインクは、インク供給路を経て圧力室へ供給される。インク供給路内のインクの粘度は、粘度制御手段によって、インク滴吐出時に粘度が上昇するように、インク滴吐出後のリフィル時にインク吐出時よりも粘度が低下するように、制御されている。ここで、リフィルとは、インク滴吐出後にプール室から圧力室側へインクを引き込んで次のインク滴吐出に備えるための動作をいう。
【0009】
上記構成によれば、インク滴吐出時には、インク供給路内のインク粘度上昇により、圧力室で発生させられた圧力波はプール室側へ進行しにくくなり、インク滴吐出効率を向上させることができる。また、インク滴吐出後のリフィル時には、インク供給路内のインク粘度低下により、プール室から圧力室へインクが通過しやすくなり、リフィル速度の低下を防止することができる。さらに、機械的動作を必要とせず、インクの粘度を制御するための簡易な構成とすることができる。
【0010】
なお、本発明のインクジェット記録ヘッドは、請求項2に記載のように、前記インクを、電界をあたえることにより粘度が上昇するER流体とし、前記粘度制御手段を、前記インク供給路を挟んだ両側に設けられ、電圧印加により前記インク供給路へ電界を発生させ、電圧印加を停止することにより前記インク供給路に発生した電界を解消させることの可能な電極を含んで構成することができる。
【0011】
ER(Electro Rheological)流体は、電界をあたえることにより、粘度が高くなる(粘度が高いような挙動をとる)性質を有する流体である。上記構成では、インク供給路を挟んだ両側に電極を設けている。この電極に電圧を印加してインク供給路に電界を発生させることにより、インク供給路内のインクの粘度を上昇させることができる。また、この電極に電圧を印加せず、インク供給路内を無電界とすることにより、上昇したインク供給路内のインクの粘度をインク吐出時よりも低下させる(元の粘度に戻す)ことができる。
【0012】
上記構成によれば、電極を配設するという簡単な構成で、また、電圧の印加という簡単な動作でインクの粘度を制御でき、機械的動作の必要な可動弁を使用した場合と比較して、簡単にインク滴吐出効率の低下を防止することができる。
【0013】
また、本発明のインクジェット記録ヘッドは、請求項3に記載のように、前記インクは、磁界をあたえることにより粘度が上昇するMR流体であり、前記粘度制御手段は、前記インク供給路の近傍に設けられ、磁場印加により前記インク供給路へ磁界を発生させ、磁場印加を停止することにより前記インク供給路に発生した磁界を解消することの可能な磁場発生デバイスを含んで構成することもできる。
【0014】
MR(Magneto Rheological)流体は、磁界をあたえることにより、粘度が高くなる(粘度が高いような挙動をとる)性質を有する流体である。上記構成では、インク供給路の近傍に磁場発生デバイスを設けている。この磁場発生デバイスに磁場を印加してインク供給路に磁界を発生させることにより、インク供給路内のインクの粘度を上昇させることができる。また、この磁場発生デバイスに磁場を印加せず、インク供給路内を無磁界とすることにより、上昇したインク供給路内のインクの粘度を低下させることができる。
【0015】
上記構成によれば、磁場発生デバイスを配設するという簡単な構成で、また、磁場の印加という簡単な動作でインクの粘度を制御でき、機械的動作の必要な可動弁を使用した場合と比較して、簡単にインク滴吐出効率の低下を防止することができる。
【0016】
なお、前記磁場発生デバイスは、請求項4に記載にように、電磁石で構成することができる。
【0017】
また、本発明のインクジェット記録ヘッドは、請求項5に記載のように、前記粘度制御手段が、インク滴吐出後のリフィル時以外には前記インク供給路内のインクの粘度を上昇させた状態で保持することを特徴とすることもできる。
【0018】
圧力室に充填されているインクは、隣接するインク吐出ノズルからインク滴の吐出があった場合、振動が伝達され、メニスカスが振動し、メニスカス位置によって吐出されるインク滴の大きさが変化してしまうことがある。そこで、上記のように、インク滴吐出後のリフィル時以外には前記インク供給路内のインクの粘度を上昇させた状態で保持する。これにより、隣接するインク吐出ノズルからの振動が伝達されにくくなり、メニスカスの振動が抑制され、吐出されるインク滴の大きさを一定にすることができる。
【0019】
また、本発明のインクジェット記録ヘッドは、請求項6に記載のように、前記粘度制御手段が、インク滴吐出後に前記圧力室内の残留圧力波を消去するように粘度制御を行なうことを特徴とすることもできる。
【0020】
インク滴の吐出後に、圧力室で発生させられた圧力波が残留すると、その影響でメニスカスが振動し、メニスカス位置によって吐出されるインク滴の大きさが変化してしまうことがある。そこで、上記のように、粘度制御手段で、インク滴吐出後に圧力室内の残留圧力波を消去するように粘度制御を行なう。これにより、圧力室内の残留圧力波が消去され、メニスカス位置を所定の位置に維持することができる。
【0021】
請求項6に記載のインクジェット記録装置は請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドを備えている。
【0022】
本発明によれば、インク滴吐出時には、インク供給路内のインク粘度上昇により、圧力室で発生させられた圧力波はプール室側へ進行しにくくなり、インク滴吐出効率を向上させることができる。また、インク滴吐出後のリフィル時には、インク供給路内のインク粘度低下により、プール室から圧力室へインクが通過しやすくなり、リフィル速度の低下を防止することができる。、
【発明の効果】
【0023】
以上、本発明によれば、簡易な構成で、かつ、リフィル速度の低下を抑制しつつ、インク滴吐出効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1に示すように、インクジェット記録装置102は、インクジェット記録ヘッド112が搭載されるキャリッジ104と、キャリッジ104を記録用紙Pの記録面に沿った所定の主走査方向方向に移動(主走査)させる主走査機構106、および、記録用紙Pを主走査方向と交差(好ましくは直交)する所定の副走査方向に搬送(副走査)させるための副走査機構108を含んで構成されている。なお、図面において主走査方向を矢印Mで、副走査方向を矢印Sでそれぞれ示す。
【0026】
インクジェット記録ヘッド112は、インク吐出ノズル10が形成されたノズル面(図1及び図2参照)が記録用紙Pと対向するようにキャリッジ104上に搭載されており、主走査機構106によって主走査方向に移動されながら記録用紙Pに対してインク滴を吐出することにより、一定のバンド領域BEに対して画像の記録を行う。主走査方向への1回の移動が終了すると、副走査機構108によって記録用紙Pが副走査方向に搬送され、再びキャリッジ104を主走査方向に移動させながら次のバンド領域を記録する。こうした動作を複数回繰り返すことにより、記録用紙Pの全面にわたって画像記録を行うことができる。
【0027】
図2及び図3に示すように、インクジェット記録ヘッド112は、ノズルプレート22、インクプールプレート24、26、スループレート28、インク供給路プレート30、圧力室プレート32、及び、振動板34を順番に積層して形成されている。ノズルプレート22には、インク吐出ノズル10が形成され、インクプールプレート24、26にはノズル連通室16とプール室14とが形成されている。ノズル連通室16は、インク吐出ノズル10の上部に構成されており、後述する圧力室12まで連通されている。プール室14の上壁はスループレート28で、下壁はノズルプレート22で構成されている。スループレート28には、ノズル連通室16、及び開口部20が形成されている。開口部20は、プール室14の上部に配置されている。圧力室プレート32には、圧力室12が形成されている。圧力室12の上壁は振動板34で、下壁はインク供給路プレート30で構成されている。インク供給路プレート30には、圧力室12とプール室14とを連通するインク供給路18が形成されている。インク供給路18の上壁は、圧力室プレート32で、下壁にはスループレート28で構成されている。プール室14に貯留されているインクは、インク供給路18を通って圧力室12へ供給される。
【0028】
インク供給路18を構成する部分の、圧力室プレート32の下側、及びスループレート28の上側には、電極プレート38が配設されている。電極プレート38は、図4に示すように、駆動回路40と接続されており、電圧印加のオン・オフが行なわれる。
【0029】
圧力室12の上面には振動板34が配置され、振動板34の上面には、圧電素子36が配置されている。圧電素子36は、図4に示すように、駆動回路40と接続されており、駆動回路40から印加される駆動パルスに応じて駆動される。
【0030】
上記構成のインクジェット記録ヘッド112からインク滴が吐出される際の動作について説明する。
【0031】
図7に示すように、インク滴を吐出する指示信号が駆動回路40へ入力されると、まず、駆動回路40から電極プレート38へ、電圧印加が行なわれる(1)。これにより、インク供給路18には電界が発生して、図5(A)に示すように離散していたインク粒子が、図5(B)に示すように繋がって鎖状構造が構成され、インク供給路18内のインクの粘度が上昇する。
【0032】
次に、駆動回路40から圧電素子36へ駆動パルスが印加され(2)、圧電素子36が駆動される。これにより、圧力室12に圧力波Pが発生する。インク供給路18内のインク粘度が高くなっているため、図6(A)に示すように、この圧力波Pは、プール室14側へは漏れにくい。一方、インク吐出ノズル10側へは、プール室14側への漏れがないため、効率よく圧力波Pが伝達され、インク吐出ノズル10からインク滴の吐出が行なわれる。
【0033】
インク滴の吐出後は、駆動回路40から電極プレート38への電圧印加が停止される(3)。これにより、インク供給路18内に発生していた電界は解消され、図5(B)に示すように鎖状構造を構成していたインク粒子は、図5(A)に示すように離散して、インク供給路18内のインク粘度が低下する。このため、インク滴吐出後のリフィル時には、インク供給路18を通って、プール室14から圧力室12へインクが通過しやすくなり(図6(B)参照)、リフィル速度の低下を防止することができる。
【0034】
リフィルの終了後は、再び駆動回路40から電極プレート38へ電圧印加を行なってもよいし(4)、次のインク滴吐出まで電圧印加を停止していてもよい。すなわち、図7のタイミングチャートの(A)に示すように、印刷実行中のリフィル時以外には、常時電極プレート38に電圧を印加してインク供給路18内のインクの粘度を高い状態で保持しておいてもよく、図7(B)に示すように、印刷実行中のインク滴吐出時にのみ電極プレート38に電圧を印加してインク供給路18内のインクの粘度を上昇させ、それ以外の時には電極プレート38に電圧印加を行なわず、インク供給路18内のインクの粘度を通常の粘度にしておいてもよい。
【0035】
特に、図7(A)に示すように、印刷実行中のリフィル時以外、常時電極プレート38に電圧を印加してインク供給路18内のインクの粘度を高い状態で保持しておくことにより、以下の効果が得られる。通常、隣接するインク吐出ノズル10からインク滴が吐出されると、プール室14を介して圧力波が伝達されてくる。この圧力波により、インク吐出ノズル10のメニスカスは振動し、メニスカスの位置が変位するため、次に吐出するインク滴の滴体積が変化してしまう。そこで、インク供給路18内の粘度を高くしておき、プール室14から圧力波を伝達されにくくする。これにより、メニスカスの振動は抑制され、吐出するインク滴の滴体積を一定にすることができる。
【0036】
また、図7(C)に示すように、インク滴の吐出後、電圧印加を停止する時間をわずかに遅らせ、残留圧力波を打ち消すようにしてもよい。
【0037】
図8には、上記構成のインクジェット記録ヘッド112において、インク供給路18の構造は同一とし、インク供給路18内のインクの粘度を制御した場合と、インク粘度の制御を行なわなかった(電圧を印加しない)とで、インク滴の滴体積及びリフィル時間を比較した結果が示されている。インク供給路18に電圧を印加せず、インク粘度を通常状態にしたままでインク滴の吐出及びリフィルを行なった場合(粘度制御なし)のインク滴の滴体積とリフィル時間を1とすると、インク供給路18に電圧を印加してインク粘度を上昇させた後インク滴の吐出を行った場合(粘度制御あり)、インク滴の滴体積は1.3に増加した。また、リフィル時に電圧の印加を停止してインク粘度を低下させた場合(粘度制御あり)、リフィル時間は1で粘度制御なしの場合と同様であった。すなわち、上記実施形態のようにインク粘度を制御することで、リフィル速度を維持したまま、インク滴の吐出効率を向上させることができることがわかる。
【0038】
図9には、上記構成のインクジェット記録ヘッド112において、インク供給路18の構造を従来構造としてインク粘度の制御を行なわなかった場合と、インク供給路18の構造を従来構造よりもゆるく、すなわちインク抵抗を小さく(断面積を大きくする、長さを長くする)して、インク供給路18内のインクの粘度を制御した場合とで、インク滴の滴体積及びリフィル時間を比較した結果が示されている。インク供給路18に電圧を印加せず、インク粘度を通常状態にしたままでインク滴の吐出及びリフィルを行なった場合(粘度制御なし)のインク滴の滴体積とリフィル時間を1とすると、インク供給路18に電圧を印加してインク粘度を上昇させた後インク滴の吐出を行った場合(粘度制御あり)、インク滴の滴体積は1で粘度制御を行なわなかった場合と同様であった。また、リフィル時に電圧の印加を停止してインク粘度を低下させた場合(粘度制御あり)、リフィル時間は0.6となり粘度制御なしの場合と比較して短縮されている。すなわち、上記実施形態のようにインク粘度を制御することで、インク供給を18の流体抵抗を小さくしても、インク吐出効率は維持でき、リフィル速度は短縮できることがわかる。
【0039】
図10には、1のインク吐出ノズル10からインク滴が吐出された際に、隣接するインク吐出ノズル10のメニスカスの振動振幅を、インク粘度制御を行なった場合と行なわなかった場合とで比較した結果が示されている。インク粘度制御を行なわなかった場合、すなわちインク粘度を通常状態にしたままの場合には、メニスカスの振動振幅は20μmであった。これに対し、インク供給路18内のインク粘度の制御を行なった場合、すなわちインク供給路18に電圧を印加してインク粘度を上昇させていた場合、メニスカスの振動振幅は5μmであった。メニスカスの位置により吐出されるインク滴の滴体積が変化するため、メニスカスの振動振幅が小さいほど滴体積は安定する。上記の結果より、リフィル動作時以外には、インク供給路18のインク粘度を高くしておくことにより、隣接するイジェクタからの圧力波の影響によるメニスカスの振動を抑制することができることがわかる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態によれば、インク滴吐出時にインク供給路18内のインク粘度が高くなり、リフィル時にインク供給路18内のインク粘度が低くなるようにインク粘度を制御するので、リフィル速度を低下させることなく、インク吐出効率を向上させることができる。また、電極プレート38への電圧の印加によりインク粘度を制御するので、機械的な動作を伴う可動弁を用いた場合と比較して、簡単に制御を行なうことができる。
【0041】
なお、上記実施形態では、インクとしてER流体を用いた例で説明したが、インクとしてはMR((Magneto Rheological)流体を用いることもできる。MR流体は、磁界をあたえることにより、粘度が高くなる(粘度が高いような挙動をとる)性質を有する流体である。この場合には、電極プレート38に変えて、インク供給路18の近傍に電磁石を配置し、この電磁石に磁場を印加することにより、インク供給路18に磁界が発生し、これによりMR流体であるインクの粘度が上昇し、磁場印加の停止により、インクの粘度が通常時の程度に低下する。この性質を利用して、前述のER流体の場合と同様にインク粘度の制御を行なうことにより、上述の効果を得ることができる。
【0042】
また、インクとして温度変化により粘度も変化する性質を有するものを用いることもできる。この場合には、インク供給路18に電極プレート38に代えて、ヒーターを配置し、ヒーターのオン・オフにより温度を変化させることにより、インク粘度の制御を行なう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】インクジェット記録装置を示す概略斜視図である。
【図2】(A)はインクジェット記録ヘッドの要部を示す図である。(B)は(A)のX部の拡大図である。
【図3】インクジェット記録ヘッドの一部の構成を示す断面図である。
【図4】インクジェット記録ヘッドの駆動系の概略ブロック図である。
【図5】(A)は電圧印加されていない場合のインク粒子の状態を示す説明図であり、(B)は電圧印加されている場合のインク粒子の状態を示す説明図である。
【図6】インクジェット記録ヘッド内のインクの、(A)は圧電素子が駆動されて圧力波が発生している状態を示す図であり、(B)はリフィル時の状態を示す図である。
【図7】印字動作中のインク滴吐出信号、圧電素子への駆動パルス、電極プレートへの電圧印加のタイミングを示すチャートである。
【図8】同一構成のインク供給路である場合、インク粘度を制御した場合と、インク粘度を制御しなかった場合とで、インク滴体積及びリフィル速度を比較したグラフである。
【図9】インク粘度を制御しなかった場合と、インク供給路のインク抵抗を小さくし且つインク粘度を制御した場合とで、インク滴体積及びリフィル速度を比較したグラフである
【図10】インク供給路内における、インク粘度が通常のものと、インク粘度が高いものとで、メニスカスの振動振幅を比較したグラフである。
【符号の説明】
【0044】
10 インク吐出ノズル
12 圧力室
14 プール室
16 ノズル連通室
18 インク供給路
22 ノズルプレート
24 インクプールプレート
28 スループレート
30 インク供給路プレート
32 圧力室プレート
34 振動板
36 圧電素子
38 電極プレート
40 駆動回路
102 インクジェット記録装置
112 インクジェット記録ヘッド
P 圧力波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯留するプール室と、
インク滴を吐出させるインク吐出ノズルと、
インクが充填されると共に前記インク吐出ノズル及び前記プール室に連通され、前記インク吐出ノズルからインク滴を吐出させるための圧力波が発生させられる圧力室と、
前記プール室と前記圧力室との間に形成され、前記プール室から前記圧力室へインクを供給するインク供給路と、
インク滴吐出時に前記インク供給路内のインクの粘度を上昇させ、インク滴吐出後のリフィル時に前記インク供給路内のインクの粘度をインク吐出時よりも低下させる粘度制御手段と、
を備えたインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記インクは、電界をあたえることにより粘度が上昇するER流体であり、
前記粘度制御手段は、前記インク供給路を挟んだ両側に設けられ、電圧印加により前記インク供給路へ電界を発生させ、電圧印加を停止することにより前記インク供給路に発生した電界を解消することの可能な電極を含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記インクは、磁界をあたえることにより粘度が上昇するMR流体であり、
前記粘度制御手段は、前記インク供給路の近傍に設けられ、磁場印加により前記インク供給路へ磁界を発生させ、磁場印加を停止することにより前記インク供給路に発生した磁界を解消することの可能な磁場発生デバイスを含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記磁場発生デバイスは、電磁石であることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記粘度制御手段は、インク滴吐出後のリフィル時以外には前記インク供給路内のインクの粘度を上昇させた状態で保持することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記粘度制御手段は、インク滴吐出後に前記圧力室内の残留圧力波を消去するように粘度制御を行なうことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−88392(P2006−88392A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273956(P2004−273956)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】