説明

インクジェット記録ヘッドのパッケージ

【課題】パッケージの本来の目的である気密性や耐衝撃性、耐静電性等の品質を損なうことなく、電気信号入力端子部の腐食を防止する。
【解決手段】梱包されたインクジェット記録ヘッドは、インクの吐出を制御する電気信号が入力される電気信号入力端子部4aを備えた電気配線部材と、インクを内包するインクタンクとを有するインクジェット記録ヘッド10と、インクジェット記録ヘッド10を一体に梱包する外包部材101と、インクジェット記録ヘッド10の電気信号入力端子部4aの露出面を含む第1の外面を、第1の外面を除くインクジェット記録ヘッド10の残りの外面である第2の外面から隔離する隔離部材104とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出口からインクなどの記録液を吐出して記録動作をおこなうインクジェット記録ヘッドを梱包するパッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の記録方式のうち、吐出口からインクを吐出させて記録媒体上に記録をおこなうインクジェット記録方式は、静かで、高密度かつ高速の記録動作が可能であるため、近年では広く採用されている。
【0003】
インクジェット記録ヘッドには、多くの種類があるが、電気熱変換体素子を熱エネルギー発生素子として用いるインクジェット記録ヘッドでは、記録装置本体から送られてくる電気信号を、電気熱変換をおこなうヒーターボードに伝達する配線基板が接着されて設けられている。ヒーターボードと配線基板とは、ワイヤボンディングによって接続されている。配線基板の上面には、記録装置本体のフレキシブル配線基板と接触して電気的に接続される電気信号入力端子部が設けられている。
【0004】
インクジェット記録方式に用いられるインクジェット記録ヘッドには、大別して、装置に固定的に搭載されたパーマネントタイプと、装置への着脱をユーザーが容易におこなうことができるようにした交換可能タイプとがある。交換可能タイプのインクジェット記録ヘッドは、タンク内のインクが消費されたときに新たなカートリッジに交換する必要があるが、記録装置の小型化や低価格化を達成しやすいために、パーソナルユースなどに適している。交換可能タイプのインクジェット記録ヘッドには、記録ヘッドに供給するインクを保持するインクタンクと常時一体となっている一体型ヘッドカートリッジ(以下、一体型インクジェット記録ヘッドという場合がある。)と、記録ヘッドにタンクの装着部としてのタンクホルダーを設け、必要に応じて両者を分離可能としたタンク分離可能型のヘッドカートリッジとがある。
【0005】
交換可能タイプの一体型インクジェット記録ヘッドを梱包するパッケージとしては、従来より、モールド成形品の外包部材にシート状の蓋を熱溶着するタイプや、アルミ袋を用いるタイプなどが知られている。
【0006】
図16は、外包部材を用いた、従来技術のパッケージの構成の一例を示す模式図であり、同図(a)は断面図、同図(b)は下面図を示す。同図(a)に示すように、インクジェット記録ヘッド10は、電気信号入力端子部4aが外包部材801の内壁に接しないように、外包部材801の中に収納される。外包部材801は、蓋部材802が外包部材801の開放側に、例えば熱溶着等で固定されて、密閉される。
【0007】
図17は、アルミ袋を用いた、従来技術のパッケージの構成の一例を示す模式図であり、同図(a)は側面方向から見た斜視図、同図(b)はインクジェット記録ヘッドの電気信号入力端子部を示す側面図を示す。同図(a)に示すように、インクジェット記録ヘッド10のインク吐出口3aは、インクの蒸発により増粘固着して印字上不具合が生じないように、保護テープ921で保護してある。インクの蒸発を防ぐために、インク吐出口3aだけでなく、インクタンクと連通する大気連通口8(図16参照)をシールしてもよい(特許文献1参照)が、電気信号入力端子部4aはテープ等で保護されず、梱包中はそのままの状態である。インクジェット記録ヘッド10がアルミ袋の外包部材904に収納されると、外包部材904は、例えば熱溶着等で密封される。
【0008】
このようなパッケージを用いることによって、インク吐出口を保護するとともに、一体型インクジェット記録ヘッドに搭載されるインクタンクからのインクの蒸発量を抑えることができる。
【特許文献1】特開平3−176156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、インクジェット記録装置は、近年、種々の被記録媒体に一層高精細な記録を高速におこなうことが求められている。このため、記録装置に搭載されるインクタンクの個数およびタンク内に収納されるインクの種類は増加する傾向にあり、それに伴い一体型インクジェット記録ヘッドについても、一つのインクジェット記録ヘッドに複数色のインクタンクを収納できるものが多くなっている。さらに高耐候性・高速印字を実現するために、以前よりもアルカリ性の強いインクが使用される傾向にある。
【0010】
パッケージはインクタンクからのインクの蒸発を抑えるように密封されているため、このようなインクが、一体型インクジェット記録ヘッドに収納されて、高温下で長期間保管されていると、パッケージの内部はインクからの揮発成分と水分とで飽和状態になり、インク雰囲気で満たされる。インクからの揮発成分の中には、インクの組成物である尿素やイソプロピルアルコール(IPA)などの様々な成分が存在するが、高温から常温または低温へのわずかな温度変化により、雰囲気中に存在する尿素が熱で分解されて、アンモニアガスが発生することがある。このとき、温度の低下によって、同時に一体型インクジェット記録ヘッド自体が結露すると、アンモニアガスは、電気信号入力端子部上に結露した水分に溶け込んでアンモニア水になる。
【0011】
電気信号入力端子部は、銅でパッド形状を形成した後に、ニッケルメッキと金メッキを施されるのが一般的である。このとき、ニッケルメッキと金メッキの層が薄く、またはメッキ状態が悪くピンホール等が存在していると、下地の銅がわずかに表面に露出することがある。このような状態で、電気信号入力端子部上にアンモニア水が存在していると、銅とアンモニア水の酸塩基反応によって青白色沈殿を引き起こし、銅を腐食させ、一体型インクジェット記録ヘッドの信頼性を損ねることになる。
【0012】
この対策として、電気信号入力端子部の全体を覆って保護するために、ポリエチレンテレフタレート(PET)テープ等の保護テープを貼り付けることも考えられるが、電気配線部材の構造上、電気信号入力端子部の一つ一つが、隣接する面に対して凹になっているため、隣接面との段差空間ができる。このような形状の電気信号入力端子部に全体的にテープ等を貼り付けても、段差空間上には微小な空間が残る。たとえ微小でも電気信号入力端子部上に空間ができると、電気信号入力端子部上に結露が生じ、結露した部分にアンモニアガスが溶け込んでしまう可能性があり、大きな効果は期待できない。また、結露を完全に防止するために、電気信号入力端子部一つ一つに保護テープを貼ることも考えられるが、テープ自体の加工性や、組立て工程でのテープ貼り付け性等を考慮すると、技術的、コスト的に実現性は低い。また、パッケージの一部に穴を空けて大気と連通状態にし、インク雰囲気を大気開放することも考えられるが、インク蒸発量が多くなり、製品として成り立たなくなってしまう可能性がある。
【0013】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、パッケージの本来の目的である気密性や耐衝撃性、耐静電性等の品質を損なうことなく、電気信号入力端子部の腐食を防止する、信頼性の高いインクジェット記録ヘッド用のパッケージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の梱包されたインクジェット記録ヘッドは、インクの吐出を制御する電気信号が入力される電気信号入力端子部を備えた電気配線部材と、インクを内包するインクタンクと、インクジェット記録ヘッドの内部を外気と連通する大気連通口を備えた、梱包されたインクジェット記録ヘッドである。インクジェット記録ヘッドは、外包部材によって梱包され、インクジェット記録ヘッドの電気信号入力端子部は第1のカバー部材によって覆われ、大気連通口は第2のカバー部材によって各々覆われており、第1または第2のカバーの少なくともいずれかの気密性は、外包部材の気密性と異なっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以上のように、気密性や耐衝撃性、耐静電性等の品質を損なうことなく、長期保管後でも電気信号入力端子部の腐食を防ぐことができ、信頼性の高いインクジェット記録ヘッドを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係るインクジェット記録ヘッドのパッケージについて説明する。
【0017】
最初に、本発明のパッケージに収納されるインクジェット記録ヘッドについて、図1の分解斜視図を参照しながら、簡単に説明する。インクジェット記録ヘッド10は、記録媒体に画像を形成するためのインクを吐出するインク吐出口3aを備えたインク吐出部材3と、インク吐出部材3に接続されて、インクジェット記録装置本体からの電気信号を受ける電気信号入力端子部4aを備えた電気配線部材4と、流路プレート2と、インクタンク部材1と、フィルター5a、5b、5cと、インクを保持するインク吸収体6a、6b、6cと、インク吸収体6a、6b、6cを保持するインク供給タンク部材1と、インク供給部材蓋7とから構成されている。インク供給部材蓋7には大気連通口が設けられているが、詳細は後述する。
【0018】
次に、このような構成のインクジェット記録ヘッド10を梱包するパッケージについて説明する。図2は、本発明の第1の実施形態に係るパッケージを示す図であり、同図(a)は、側方断面図、同図(b)は上面図、同図(c)は同図(a)に示す大気連通口付近の部分拡大図を示す。
【0019】
図2(a)に示すように、インクジェット記録ヘッド10は、外包部材101内に収納される。外包部材101は、蓋部材102が外包部材101の溶着リブ(図示せず)に、例えば熱溶着されて、密封される。インクジェット記録ヘッド10は、外包部材101の内部で、外包部材101の底面より突出した壁109に保持されている。外包部材101の内壁に数ヶ所のリブ(図示せず)を設け、インクジェット記録ヘッド10をこれらのリブでも支持するようにしてもよい。これによって、インクジェット記録ヘッド10が外包部材101の内部でがたつくことがなくなり、外的衝撃に対する保護性能を高めることができる。インク吐出口部材3は、気密性の高いキャップ部材110でシールされている。
【0020】
図2(c)に示すように、インクジェット記録ヘッド10のインク供給部材蓋7には、台形状の部材17が固定され、その上面には大気連通口18が設けられている。蓋部材102はインク供給部材蓋7および大気連通口18と向かい合っており、蓋部材102の大気連通口18と向かい合う部分には、開口111が設けられている。開口111は、大気連通口部蓋103に隙間なく覆われている。部材17と蓋部材102との間は粘着剤104でシールされている。この結果、外包部材101は、インク吐出口3aや電気信号入力端子部4の露出面を含むパッケージ内部空間106と、大気連通口18の露出面を含む大気連通口部空間108とに分割され、かつ互いにシールされる。インク供給部材蓋7の、部材17の下方には、インク吸収体6a、6b、6cにつながる開口9が設けられている。
【0021】
粘着剤104は、インクジェット記録ヘッド10を蓋部材102から取り外す際に、インクジェット記録ヘッド10側に粘着剤が残らないように、表裏の粘着剤層とするのが望ましい。粘着剤104を用いる代わりに、蓋部材102を外包部材101に熱溶着するのにあわせ、部材17と蓋部材102との接触面を同時に熱溶着してもよい。
【0022】
外包部材101は、例えばポリプロピレンやポリエチレン等の、気密性の高い材質で構成されている。蓋部材102は、アルミ箔や無機材料をラミネートしたもの等、同じく気密性の高い材質で構成されている。大気連通口部蓋部材103は、例えばポリスチレンなど、アルミ箔や無機材料を含んでいない部材により構成されている。このため、大気連通口部蓋部材103は、外包部材101や蓋部材102より気密性が低くなっている。このため、インク吸収体6a、6b、6cから蒸発するインクは、開口9から、部材17の内部空間を通って、大気連通口18から大気連通口部空間108に入り、開口111を通って、気密性の低い大気連通口部蓋103から大気放出される。したがって、大気連通口部空間108の圧力が大きく上昇することはなく、蒸発したインクが粘着剤104の隙間からパッケージ内部空間106に流入することを防止できる。また、気密性が低いとはいえ、開口111は大気連通口部蓋部材103によって隙間なく封止されているので、蒸発によるインクの消失を最小限に抑えることができる。
【0023】
以上説明したように、本実施形態によれば、外包部材101の内部を、隔離部材である粘着剤104によって、電気信号入力端子部4aの露出面が含まれるパッケージ内部空間106と、インクが蒸発しやすい大気連通口18が含まれる大気連通口部空間108とに分割しているため、電気信号入力端子部4aをインク雰囲気から保護することができる。また、大気連通口部空間108は外包部材101よりも気密性の低い大気連通口部蓋部材103(カバー部材)に覆われているため、インクの蒸発を抑えながら、蒸発したインクを大気に逃がし、インクが粘着剤104を通ってパッケージ内部空間106に回り込むことを防止することができる。そのため、電気信号入力端子部4aの下地の銅がわずかに表面に露出していても、電気信号入力端子部4aの腐食を防止することができる。
【0024】
また、電気信号入力端子部4aは、外包部材101の内壁に接しない構造になっているため、インクジェット記録ヘッド10を外的衝撃から保護できる。例えば、インクジェット記録ヘッド10が、梱包状態で落下したり、輸送による振動を受けた場合にも、インクジェット記録ヘッド10を外的衝撃から保護することができる。さらに、このような構造は、人が手で触った場合の静電対策としても有効である。
【0025】
次に本発明の第2の実施形態について、図3、図4を参照して説明する。なお、本実施形態は、第1の実施形態との差異を中心に説明する。図3は、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの外形図で、同図(a)、(b)、(c)は各々、上面図、側面図、90度回転した方向からみた側面図を示す。また、図4は、本実施形態に係るパッケージの説明図で、同図(a)、(b)、(c)は各々、側方断面図、上面図、および同図(a)に示す大気連通口付近の部分拡大図を示す。
【0026】
図3(a)、図4(c)に示すように、インクジェット記録ヘッド30のインク供給部材蓋37には、大気連通口38からのインクの蒸発を抑えるため、複数の屈曲部を有する溝状の蛇行経路39が設けられている。本実施形態では、3色のインクタンクに対応して、大気連通口38は3つ設けられ、蛇行経路39も各大気連通口38に対応して3本設けられている。大気連通口38、蛇行経路39、および蛇行経路端部40の一部は、気密性の高い部材で構成されたラベル211で覆われ、ラベル211との間に空間部が形成され、ラベル211で覆われていない蛇行経路端部40の残りの部分が開口41を形成している。この結果、インクタンク6a,6b,6c内のインクは、ラベル211で覆われた大気連通口38、蛇行経路39を通って、開口41で大気開放される。ラベル211と蛇行経路39とによって形成された流路は、細く複雑な流路形状のため、流路の圧力損失が大きく、ラベル211および蛇行経路39は、大気連通口38に対して一種の封止部材として働く。本願発明者らが検討した結果では、蛇行経路39が設けられず、単に大気連通口38があるだけのインクジェット記録ヘッドと、本実施形態のインクジェット記録ヘッド30とでは、例えば60℃で1ヶ月間保管したときのインク蒸発量に7倍程度の差が確認された。
【0027】
図4(a)に示すように、インクジェット記録ヘッド30は外包部材201内に収納されている。蓋部材202と外包部材201との接着方法は第1の実施形態と同様である。外包部材201には、第1の実施形態と同様に、内壁に数ヶ所のリブが設けられてもよい。インク吐出口部材3は、第1の実施形態と同様、気密性の高いキャップ部材210でシールされている。
【0028】
図4(c)に示すように、蓋部材202はインクジェット記録ヘッド30のインク供給部材蓋37の上面に面しており、開口41の周囲は、第1の実施形態と同様に、粘着剤204でシールされ、空間208は、開口210に連通し、大気開放されている。粘着剤204は、第1の実施形態と同様に、表裏の粘着剤層としてもよく、粘着剤204の代わりに熱溶着でシールしてもよい。
【0029】
本実施形態では、第1の実施形態と同様、外包部材201の内部は、インクが蒸発しやすい大気連通口38を含む空間と、電気信号入力端子部4aの露出面を含む空間とに区画されており、かつ、インクは蛇行経路39を通じて開口41で大気開放されるため、電気信号入力端子部4aをインク雰囲気から保護することができる。また、蛇行経路39とラベル211で、外包部材201よりも気密性の低い封止要素(カバー部材)を構成しているため、インクの蒸発は抑えられる。以上より、本実施形態は第1の実施形態と同様の効果を奏し、しかも第1の実施形態のように、開口を大気連通口部蓋部材で覆う必要がない。
【0030】
次に本発明の第3の実施形態について、図5、6を参照して説明する。なお、本実施形態は、第1の実施形態との差異を中心に説明する。図5は、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの説明図で、同図(a)、(b)は各々、側方断面図と上面図を示す。また、図6は、大気連通口付近の詳細図で、同図(a)、(b)は各々、大気連通口が開放された状態と、閉止されている状態を示している。
【0031】
インクジェット記録ヘッド10は外包部材301内に収納されている。蓋部材302と外包部材301との接着方法は第1の実施形態と同様である。外包部材301には、第1の実施形態と同様に、内壁に数ヶ所のリブが設けられてもよい。インク吐出口部材3は、第1の実施形態と同様、気密性の高いキャップ部材310でシールされている。
【0032】
図6(a)に示すように、蓋部材302はインクジェット記録ヘッド10のインク供給部材蓋7の上面に面しており、大気連通口8の周囲は、第1の実施形態と同様に、粘着剤304でシールされ、大気連通口部空間308が形成されている。粘着剤304は、第1の実施形態と同様に、表裏の粘着剤層としてもよく、粘着剤304の代わりに熱溶着でシールしてもよい。また、大気連通口部空間308の開口311には、バルブ部材303が設けられている。
【0033】
バルブ部材303の構成および動作を、図6(a)(b)を用いて説明する。バルブ部材303は蓋部材302の上面に、オイル307でシールされて設けられている。バルブ部材303は、通常は、図6(a)に示すように、オイル307を介して蓋部材302と密着し、大気連通口8を外部空間から封止している。輸送中の温度や湿度変化などによりインクタンク内の圧力が上がった場合には、図6(b)に示すように、バルブ部材303の一部がオイル307から離れ、大気連通口8を大気開放し圧力を逃がす。
【0034】
本実施形態においても、第1,第2の実施形態と同様、インクが蒸発しやすい大気連通口8と、電気信号入力端子部4aとが別空間に区画され、かつ、バルブ部材303を外包部材301よりも気密性の低い封止要素(カバー部材)として構成しているため、第1,第2の実施形態と同様の効果を奏する。
【0035】
次に本発明の第4の実施形態について、図7〜9を参照して説明する。図7は、本実施形態に係るパッケージの部分破断斜視図である。図8は保護テープの外形図を示し、同図(a)、(b)は各々、インクジェット記録ヘッドに貼り付けた状態での正面図と側面図を示す。図9は、保護テープの膜構成を示す模式図である。なお、図7では、インク吐出口3aおよび電気信号入力端子部4aが示されているが、実際にはこれらは保護テープ400に覆われて見えない(図8(a)、図10、図11(a)も同様。)。また、インクジェット記録ヘッドの大気連通口は、テープ等の手段(カバー部材)でシールされている(図示せず。第4〜第7の実施形態に共通)。
【0036】
図7に示すように、インクジェット記録ヘッド10は外包部材404内に収納されている。外包部材404は、開放端同士が熱溶着等によって接着されて密封される。
【0037】
図7、8に示すように、インクジェット記録ヘッド10のインク吐出口3aおよび電気信号入力端子部4aは、保護テープ400で覆われている。保護テープ400は、インク吐出口3aをシールするテープ部分401と、電気信号入力端子部4aをシールするテープ部分402とが一体で形成されており、途中で折り曲げることによって、両方を同時に覆うことができる。このため、ユーザーはパッケージ開封時に、一枚の保護テープ400を剥がすだけでよい。保護テープ400は従来技術の保護テープと比べて長くなるが、後述のように金属が含まれているため、十分な強度を有しており、途中で切れることはない。また、保護テープ400の一端に、剥がしやすいようにタブ403を設けてもよい(図8(b)参照)。
【0038】
保護テープ400は、図9に示すように、金属層400bが間に挿入された基材400aと、粘着剤400cとから構成されている。基材400aはPETから、金属層400bはアルミ膜から、粘着剤400cはアクリル系粘着剤から形成されている。金属層400bとしてアルミ膜を用いたのは、気密性を高めるためである。このため、保護テープ400は外包部材404よりも気密性が高くなっている。粘着剤400cにアクリル系粘着剤を用いたのは、耐アルカリ性を備えつつ、保護テープ400をインクジェット記録ヘッド10から取り外す際に、インク吐出口3aおよび電気信号入力端子部4aに粘着剤が残らないようするためである。
【0039】
このように、電気信号入力端子部4aは、隔離部材である保護テープ400(カバー部材)によってインク雰囲気から隔離されているので、外包部材404の内部にアンモニアガスが発生しても、電気信号入力端子部4aの表面はアンモニアガスにさらされることがない。したがって、下地の銅がわずかに表面に露出していても、電気信号入力端子部4aの腐食を防止することができる。
【0040】
また、このように、外包部材404内部の雰囲気によらず、インクジェット記録ヘッド10の電気信号入力端子部4aを保護することが可能になるため、外包部材404にアルミ箔や無機材料をラミネートしたもの等、気密性の高い材質を使用することができる。したがって、インクジェット記録ヘッド10からのインクの蒸発を最小限に抑えることができる。
【0041】
次に本発明の第5の実施形態について、図10〜12を参照して説明する。なお、本実施形態は、第4の実施形態との差異を中心に説明する。図10は、本実施形態に係るパッケージの部分破断斜視図である。図11は保護テープの外形図を示し、同図(a)、(b)は各々、インクジェット記録ヘッドに貼り付けた状態での正面図と側面図を示す。図12は、保護テープの膜構成を示す模式図であり、同図(a)、(b)は各々、電気入力端子部を覆う部分と、インク吐出口を覆う部分の膜構成を示している。
【0042】
図10、11に示すように、保護テープ500は、インク吐出口3aを保護するテープ部分501と、電気入力端子部4aを覆うテープ部分502とが一体で形成されており、途中で折り曲げることによって、両方を同時に覆うことができる。
【0043】
テープ部分502は、図12(a)に示すように、第4の実施形態の膜構成と同様、金属層502bが間に挿入された基材502aと、粘着剤502cとから構成されている。一方、テープ部分501は、図12(b)に示すように、基材501aと、粘着剤501cとから構成されており、金属層を含んでいない。基材501a,502a、金属層502bの材質は第4の実施形態と同様である。このため、保護テープ500のうち、少なくともテープ部分502は、外包部材504よりも気密性が高くなっている。
【0044】
インク吐出口3aを覆う粘着剤501cと、電気入力端子部4aを覆う粘着剤502cは、各々の目的に応じて別の材料で構成することができる。すなわち、粘着剤501cは、耐アルカリ性を備えつつ、インク吐出口3aへの影響が生じないように、保護テープ剥離時の粘着剤の残りが少ない粘着剤を用いることが好ましく、第4の実施形態と同様、粘着剤501bにアクリル系粘着剤を用いることができる。また、粘着剤502cは、保護テープ剥離時に粘着材が電気入力端子部4aに多少残存しても機能上の問題は小さいため、電気配線部材4の構造上生じる、電気信号入力端子部4a上の隣接面との段差空間をより確実に封止するように、膜厚を増やすことが望ましい。なお、金属層を含むテープ部分502のテープが厚くなり、剥離強度が上がった場合でも、テープ部分501は薄く形成することができるので、保護テープ剥離時にインク吐出口3aに損傷を与えるおそれは少ない。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によれば、インクジェット記録ヘッド10の電気信号入力端子部4aを、気密性の高いアルミ膜502bを含む層構成のテープ部分502(カバー部材)で覆い、インク吐出口3aを別の層構成のテープ部分501で覆っている。これによって、保護テープ500を、電気信号入力端子部4aをインク雰囲気から隔離しつつ、インク吐出口3aに対して最適な剥離力を有するように構成でき、保護テープ剥離時に、インク吐出口3aを保護することができる。
【0046】
次に本発明の第6の実施形態について、図13を参照して説明する。なお、本実施形態は、第5の実施形態との差異を中心に説明する。図13は、保護テープの膜構成を示す模式図であり、同図(a)、(b)は各々、電気入力端子部を覆う部分と、インク吐出口を覆う部分の膜構成を示している。
【0047】
本実施形態の保護テープ600は、第5の実施形態と同様、インク吐出口3aを保護するテープ部分601と、電気入力端子部4aを覆うテープ部分602とが一体で形成されており、途中で折り曲げることによって、両方を同時に覆うことができる。本実施形態は、電気配線部材4の構造上生じる、電気信号入力端子部4a上の隣接面との段差空間を限りなく小さくするために、電気信号入力端子部4aを覆う保護テープにホットメルト保護テープを用いた点が、第5の実施形態と異なる。
【0048】
図13(a)に示すように、テープ部分602の膜構成は、第5の実施形態の膜構成と同様、金属層602bが間に挿入された基材602aと、粘着剤602cとから構成されているが、粘着剤602cはホットメルト接着剤で形成されている。テープ部分601は、第6の実施形態の膜構成と全く同様で、図13(b)に示すように、基材601aと、粘着剤601cとから構成されており、金属層を含んでいない。粘着剤601cにはアクリル系粘着剤等、基材601aにPET等を用いることができる。
【0049】
基材602aはPETで、金属層602bはアルミ膜で各々形成されている。粘着剤602cはアルカリ雰囲気に強い材料で構成されるのが望ましく、例えば、エチレン−酢酸ビニル系(EVA)を用いることができる。また、電気信号入力端子部4a上の隣接面との段差高さは50μm程度であるため、粘着剤602cの厚みは50〜100μm程度とするのがよい。
【0050】
本実施形態では、第4,5の実施形態と同様、電気信号入力端子部4aを覆う保護テープは、アルミ膜を有するテープ部分602(カバー部材)を用いているので、気密性が高い。このため、アンモニアガスを通さず、電気信号入力端子部4aをインク雰囲気から隔離でき、腐食の発生を防ぐことができる。また、ホットメルト接着剤で形成された粘着剤602cは、保護テープ貼付け時に加熱することによって、電気信号入力端子部4a上の隣接面との段差空間内を溶融しながら広がり、段差空間内は溶融した粘着剤602cで充填されるので、結露の発生を防ぐことが一層容易となる。この際、テープ部分602の金属層602bによって、熱がテープ全面に迅速に伝わり、粘着剤602cの溶融が促されるので、粘着剤602cは段差空間により確実に充填される。さらに、第4,5の実施形態と同様、外包部材604に気密性の高い材料を使用でき、インクの蒸発を最小限に抑えることも可能である。以上より、保護テープ600のうち、少なくともテープ部分602は、外包部材604に対してより一層気密性が高くなっている。
【0051】
次に本発明の第7の実施形態について、図14,15を参照して説明する。なお、本実施形態は、第4の実施形態との差異を中心に説明するが、第5,6の実施形態にも同様に適用可能である。図14は保護テープの外形図を示し、同図(a)、(b)は各々、インクジェット記録ヘッドに貼り付けた状態での正面図と側面図を示す。図15は、図14(a)の保護テープを裏側から見た図である。
【0052】
図14,15に示すように、インクジェット記録ヘッド10のインク吐出口3aは保護テープ700で覆われ、さらに電気信号入力端子部4aは、弾性体711を介して、保護テープ700で覆われている。保護テープ700と弾性体711は保護キャップ712(カバー部材)を構成する。
【0053】
保護テープ700は、気密性を高めるためポリプロピレン(PP)で形成されている。弾性体711は、シリカを含む塩素化ブチルゴムで形成され、気密性の高い無機材料がラミネートされている。弾性体711は、保護テープ700をインクジェット記録ヘッド10に取り付ける際の弾性力によって変形しないように、高い剛性を有している。このため、保護キャップ712は外包部材704よりも気密性が高くなっている。
【0054】
このように、本実施形態では、電気信号入力端子部4aは、気密性の高い保護テープ700でシールされ、しかも、気密性の高い無機材料をラミネートした弾性体711で、より確実にシールされている。したがって、外包部材の内部の雰囲気によらず、電気信号入力端子部4aを外包部材内部のインク雰囲気から隔離でき、腐食の発生を防ぐことができる。
【0055】
また、外包部材にアルミ箔や無機材料をラミネートしたもの等、気密性の高い材質を使用することができる。このため、第4の実施形態同様、インクジェット記録ヘッド10からのインクの蒸発を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】インクジェット記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るパッケージの、側方断面図、上面図、および大気連通口付近の部分拡大図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの全体図である。
【図4】図3に示すインクジェット記録ヘッドを梱包するパッケージの、側方断面図、上面図、および大気連通口付近の部分拡大図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係るパッケージの、側方断面図および上面図である。
【図6】図5に示すパッケージの大気連通口付近の詳細図である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係るパッケージの部分破断斜視図である。
【図8】図7に示すパッケージの保護テープの外形図である。
【図9】図7に示す保護テープの膜構成を示す模式図である。
【図10】本発明の第5の実施形態に係るパッケージの部分破断斜視図である。
【図11】図10に示すパッケージに係る保護テープの外形図である。
【図12】図11に示す保護テープの膜構成を示す模式図である。
【図13】本発明の第6の実施形態に係る保護テープの膜構成を示す模式図である。
【図14】本発明の第7の実施形態に係る保護テープの外形図である。
【図15】図14(a)の保護テープを裏側から見た図である。
【図16】外包部材を用いた、従来技術のパッケージの構成を示す模式図である。
【図17】アルミ袋を用いた、従来技術のパッケージの構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0057】
10 インクジェット記録ヘッド
1 インク供給タンク部材
2 流路プレート
3 インク吐出部材
3a インク吐出口
4 電気配線部材
4a 電気信号入力端子部
5a、5b、5c フィルター
6a、6b、6c インク吸収体
7,37 インク供給部材蓋
8,18、38 大気連通口
39 蛇行経路
40 蛇行経路端部
41 開口
211 ラベル
101、201、301 外包部材
102、202,302 蓋部材
103 大気連通口部蓋部材
104、204,304 粘着剤
106 パッケージ内部空間
108,208,308 大気連通口部空間
303 バルブ部材
307 オイル
400、500,600,700 保護テープ
712 保護キャップ
401,402,501,502,601,602,701,702 テープ部分
404,504,604,704 外包部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクの吐出を制御する電気信号が入力される電気信号入力端子部を備えた電気配線部材と、該インクを内包するインクタンクと、インクジェット記録ヘッドの内部を外気と連通する大気連通口を備えた、梱包されたインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記インクジェット記録ヘッドは、外包部材によって梱包され、該インクジェット記録ヘッドの前記電気信号入力端子部は第1のカバー部材によって覆われ、前記大気連通口は第2のカバー部材によって各々覆われており、
前記第1または第2のカバーの少なくともいずれかの気密性は、前記外包部材の気密性と異なっていることを特徴とする、梱包されたインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記第1のカバー部材は、前記外包部材よりも気密性が高い、請求項1に記載の梱包されたインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記第1のカバー部材は、無機材料を含むキャップまたはテープである、請求項2に記載の梱包されたインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記第1のカバー部材は、前記インクを吐出する吐出口を覆う第3のカバー部材との一体部材として構成されている、請求項2または3に記載の、梱包されたインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記一体部材は、少なくとも接着層と基材とを含む積層構造のテープであり、前記第1のカバー部材に相当する部分と、前記第3のカバー部材に相当する部分の層構成が異なっている、請求項4に記載の梱包されたインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記第1のカバー部材に相当する部分は、無機材料からなる層を含んでいる、請求項5に記載の梱包されたインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
前記第2のカバー部材は、外気に直接面しており、前記外包部材よりも気密性が低い、請求項1に記載の梱包されたインクジェット記録ヘッド。
【請求項8】
前記第2のカバー部材は、前記記録ヘッド内の圧力が大気圧よりも高くなった時に開き、それによって、前記大気連通口を外気に開放させるバルブ部材を有している、請求項7に記載の梱包されたインクジェット記録ヘッド。
【請求項9】
前記外包部材は無機材料を含み、前記第2のカバー部材は無機材料を含んでいない、請求項7に記載の梱包されたインクジェット記録ヘッド。
【請求項10】
前記インクジェットヘッドは、前記大気連通口から連続して設けられた溝状の蛇行経路を外面に有し、
前記第2のカバー部材は、前記大気連通口と、端部を除く前記蛇行経路とがラベルで覆われ、該ラベルと該蛇行経路とで仕切られた空間部が、該大気連通口と該端部とを結ぶ流路を構成することによって形成されている、
請求項7に記載の梱包されたインクジェット記録ヘッド。
【請求項11】
前記外包部材と、前記第1、第2のカバー部材とを有する、請求項1から10のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドに用いられる梱包部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate