説明

インクジェット記録体

【課題】印字中または印字後のコックリングを抑制し、にじみがなく、インク吸収性が良く、画像濃度が高く、且つ、断裁時の紙粉発生量の少ないインクジェット記録体を提供する。
【解決手段】支持体、該支持体上に形成され、ラテックスと顔料を少なくとも含む浸透遅延層、該浸透遅延層上に形成され、多孔質顔料、平板状顔料及びバインダーを少なくとも含む溶媒吸収層、及び、溶媒吸収層上に形成され、乾式法シリカとポリビニルアルコールを少なくとも含むインク定着層を有するインクジェット記録体において、前記浸透遅延層は、顔料としてインク溶媒が支持体に浸透することを遅延する機能を有する顔料Aと、浸透遅延層から支持体及び/又は溶媒吸収層に突出して存在する顔料Bとを含み、浸透遅延層中の全顔料100質量部に対して100〜10000質量部のラテックスを含み、且つ乾燥塗工量が1.5〜6.0g/mの層であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録体に関するものである。更に詳しくは、印字中又は印字後の支持体伸縮による波打ち(以下、コックリングともいう。)を抑制したインクジェット記録体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水性インクを微細なノズルからインクジェット記録体に向かって噴出し、インクジェット記録体表面上に画像を形成させるインクジェット記録方式は、記録時の騒音が少ないこと、フルカラー画像の形成が容易であること、高速記録が可能であること、および、他の印刷装置より記録コストが安価であることなどの理由により、端末プリンタ、ファクシミリ、プロッタ、あるいは帳票印刷等で広く利用されている。
また、使用されるインク自体の改良も進んでおり、従来の主流であった親水性の高い着色剤を使用した水性染料インク(以下、染料インクともいう。)とともに、耐水性や耐光性が優れる、疎水性の着色顔料を分散したインク(以下、顔料インクともいう。)も多用されるようになっている。
【0003】
近年、プリンタの急速な普及と高精細・高速化により、インク吸収速度の向上とともに、銀塩方式の写真、製版方式の多色印刷に匹敵する画像の均一性の実現が強く求められている。また、記録画像の品質のために、画像記録濃度や平滑性の更なる向上が望まれている。
銀塩写真と同等の画像を実現するために、プリンタのインク吐出量も増しており、紙基材を使用したインクジェット記録体では、インクの溶媒である水が紙基材まで浸透し、コックリングが発生し、印字中に記録ヘッドと擦れて画像が乱れるといった問題が生じたり、画像記録後もコックリングが残って印字物の見栄えを損なうといった問題が生じている。
【0004】
このような問題を解決するために、インクジェット記録体では、ポリエチレンのような熱可塑性樹脂を両面にラミネートした樹脂被覆紙が常用されてきたが、樹脂被覆紙を古紙として回収し、古紙パルプとして再生しようとすると皮膜した樹脂が残り、トラブルを起こす可能がある。
紙基材を使用したインクジェット記録体においても、上記問題を解決するため、様々な検討がなされている。例えば、(あ)インクジェット記録体の紙基材表面に、熱可塑性樹脂の分散液を塗工して透水性中間層を形成し、次いで、該透水性中間層の表面に、顔料と結着剤を含む塗液を塗工してインク受容層を形成する方法(例えば、特許文献1参照)、(い)紙基材上に、下塗り層とインク定着層を設け、該下塗り層の顔料として、平均粒子径が4〜50μmでアスペクト比が5〜70の平板状顔料を用いる方法(例えば、特許文献2参照)、(う)パルプの繊維間結合を少なくし紙の空隙を増すような低密度化薬品を含む基材を用いる方法(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
しかし、(あ)、(い)の方法では、紙基材とインク受容層の間に、バインダーのみもしくは吸収性の低い顔料を配合した層を設けているため、インク受容層との密着性が悪いという問題点があった。また、(う)の方法では、インク量の多い画像においては、印字中又は印字後のコックリングを十分に防ぐものではなかった。
【0005】
下塗り層とインク受容層の密着性を改善する方法としては、紙基材上にアルカリ土類金属塩、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを用いた塗工層を形成する方法(例えば、特許文献4)や、基材上にホウ酸塩を含む塗工層(下塗り層)を設け、該下塗り層のホウ酸塩とその上層のバインダーの重量比率を1:20以下にする方法(例えば、特許文献5)が提案されている。しかし、これらは充分なインク吸収性を有するものではなかった。
【0006】
本発明者等は、先に、紙支持体上に、インク溶媒吸収遅延層とインク溶媒吸収層及び、インク定着層を設ける3層構成のインクジェット記録体において、インク溶媒吸収遅延層に雲母族顔料等の平板状無機顔料と合成樹脂バインダーを含有する方法(特許文献6)や、前記3層構成においてインク溶媒吸収遅延層が合成樹脂バインダーおよび、アスペクト比が10〜1500の平板状無機顔料と吸油量が10ml/100g〜150ml/100gの顔料を含む方法(特許文献7)を提案した。
しかし、ポスターやサインディスプレー用として使用する大判インクジェットプロッタで画像を出力した際、耐コックリング適性は優れるものであったが、プロッタ内蔵カッターでメディアを断裁する際に、紙粉が発生する問題があることが判った。なお、紙粉が大量に発生すると、ノズル詰まりを生じる可能性も高くなり、安定した出力ができなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−103787号公報
【特許文献2】特開2006−015584号公報
【特許文献3】特開2002−103791号公報
【特許文献4】特開2003−170652号公報
【特許文献5】特表2008−505780号公報
【特許文献6】特開2008−213454号公報
【特許文献7】特開2008−200963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、印字中または印字後のコックリングを抑制し、にじみがなく、インク吸収性が良く、画像濃度が高く、且つ、断裁時の紙粉発生量の少ないインクジェット記録体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、下記の構成を採用することにより、達成できることを見出し、本発明に至ったのである。
【0010】
(1)支持体、該支持体上に形成され、ラテックスと顔料を少なくとも含む浸透遅延層、該浸透遅延層上に形成され、多孔質顔料、平板状顔料及びバインダーを少なくとも含む溶媒吸収層、及び、溶媒吸収層上に形成され、平均粒子径1μm以下の微細顔料とポリビニルアルコールを少なくとも含むインク定着層を有するインクジェット記録体において、前記浸透遅延層は、顔料としてインク溶媒が支持体に浸透することを遅延する機能を有する顔料Aと、浸透遅延層から支持体及び/又は吸収層に突出して存在する顔料Bとを含み、浸透遅延層中の全顔料100質量部に対して200〜10000質量部のラテックスを含み、且つ乾燥塗工量が1.5〜6.0g/mの層であることを特徴とするインクジェット記録体。
【0011】
(2)前記浸透遅延層が、顔料A100質量部に対し、顔料Bが100質量部〜300質量部である(1)に記載のインクジェット記録体。
(3)ラテックスと顔料A及び顔料Bを含有し、更に、溶媒吸収層に含まれるバインダーの一部と架橋性を示す架橋剤を含有する浸透遅延層塗液を塗布後、平板状顔料、多孔質顔料及びバインダーを含有する溶媒吸収層塗液を塗布することによって得られる(1)又は(2)に記載のインクジェット記録体。
(4)浸透遅延層塗液に含まれる架橋剤100質量部に対し、溶媒吸収層塗液に含まれる該架橋剤に対し架橋性を示すバインダーが100〜10000質量部である(3)記載のインクジェット記録体。
(5)前記溶媒吸収層の多孔質顔料と平板状顔料の比率が多孔質顔料100質量部に対し、50〜150質量部である(1)〜(4)のいずれか一に記載のインクジェット記録体。
(6)インク定着層に含まれるバインダーの一部を架橋する架橋剤を予め塗布した後、インク定着層を塗布することによって得られる(1)〜(5)のいずれか一に記載のインクジェット記録体。
【発明の効果】
【0012】
本発明で得られるインクジェット記録体は、印字中又は印字後のコックリングを抑制し、にじみがなく、インク吸収性が良く、画像濃度が高く、断裁時の紙粉発生量の少ない染料、顔料インクとも優れるインクジェット記録体に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、支持体上に少なくとも浸透遅延層、溶媒吸収層及びインク定着層を順次設けた層構成のインクジェット記録体である。以下、各構成について、説明する。
【0014】
<支持体>
支持体は特に限定するものではないが、本発明は、浸透遅延層を含む少なくとも三層の塗工層を形成することにより、コックリングを抑制したインクジェット記録体を提供するものであるから、コックリングを生じやすい繊維質支持体への適用に適している。繊維質支持体としては、紙基材や布などが例示できるが、取り扱い上、紙基材がよく使用される。紙基材としては、上質紙、アート紙、コート紙、キャスト塗被紙、クラフト紙、バライタ紙、含浸紙、蒸着紙等が適宜使用される。
【0015】
紙基材は、木材パルプを主成分として構成される。木材パルプは、製法及び種類等に特に限定はなく、例えば、KPのような化学パルプ、SGP、RGP、BCTMP、CTMP等の機械パルプ、脱墨パルプのような古紙パルプ、ケナフ、竹、藁、麻等のような非木材パルプ等各種化学パルプ、機械パルプ、再生パルプ等を使用することができ、紙力、抄紙適性等を調整するために、叩解機により叩解度を調整できる。
パルプの叩解度(フリーネス)は特に限定しないが、一般に250〜550ml(CSF:JIS P8121)程度である。平滑性を高めるためには叩解度を進めるほうが望ましいが、用紙に記録した場合にインク中の水分によって起こる用紙のボコツキや記録画像のにじみは、叩解を進めないほうが良好な結果を得る場合が多い。従ってフリーネスは300〜500ml程度が好ましい。
【0016】
また、支持体には、必要に応じて、填料が配合されていてもよい。填料としては、一般に用いられる各種の顔料を用いることができ、例えば、カオリン、焼成カオリン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、タルク、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、アルミナシリケート、シリカ、ホワイトカーボン、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト及びスメクタイト等の鉱物質顔料が挙げられる。特に炭酸カルシウムは、白色度が高い支持体となり、インクジェット記録体の光沢感が高まるので好ましい。支持体中の填料の含有率(灰分)は1〜20質量%程度が好ましく、多すぎると紙力が低下するおそれがある。少なすぎるとの透気性が悪くなるので、好ましい填料の含有率は3〜20質量%である。この範囲にすると、平滑度、透気度、紙力のバランスがとれているので、結果として平滑感が優れたインクジェット記録体が得られ易くなる。
【0017】
支持体には、助剤としてサイズ剤、定着剤、紙力増強剤、カチオン化剤、歩留り向上剤、染料、蛍光増白剤等を添加することができる。さらに、抄紙機のサイズプレス工程において、デンプン、ポリビニルアルコール類、カチオン樹脂等を塗布・含浸させ、表面強度、サイズ度等を調整できる。ステキヒトサイズ度(100g/mの紙として)は1〜200秒が好ましい。サイズ度が高いとインク吸収性が低下したり、印字後のカールやコックリングが著しくなる場合がある。より好ましいサイズ度の範囲は5〜120秒である。基材の坪量は、特に限定されないが、20〜400g/m程度である。特に印刷用途には50〜250g/mの範囲が好ましい。60〜200g/mの範囲が最も好ましい。
【0018】
<浸透遅延層>
浸透遅延層は、インク中の溶媒が支持体に浸透するのを抑え、コックリングを防止することを主目的とする層であり、支持体表面に、ラテックスと少なくとも2種類の顔料と、必要に応じて架橋剤を含有する塗液を塗工した層である。
【0019】
「ラテックス」
浸透遅延層に用いるラテックスは、非水溶性の熱可塑性高分子化合物が水中に分散したエマルションを示し、乾燥後は熱水にも溶解しない点で水溶性の合成樹脂と区別される。その例としては、スチレンブタジエンラテックス(SBR)、アクリルスチレンラテックス、メタクリレートブタジエンラテックス、アクリルニトリルブタジエンラテックスなどが挙げられるが、塗膜強度の点からスチレンブタジエンラテックスが好適である。ここで重合性単量体はスチレン及び1,3−ブタジエンを主体とするが、その他のスチレンおよび1,3−ブタジエンと共重合可能な単量体を本発明の目的を損なわない範囲で使用することができる。その他のスチレン及び1,3−ブタジエンと共重合可能な単量体としては、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−t−ブチルトルエン、クロロスチレン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有エチレン性不飽和単量体;アクリル酸グリシジル、およびメタクリル酸グリシジル等のエチレン性不飽和酸のグリシジルエステル;アリルグリシジルエーテル等の不飽和アルコールのグリシジルエーテル;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系単量体;等が挙げられ、これらの重合性単量体を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0020】
「顔料」
浸透遅延層に用いる顔料としては、インク溶媒が支持体に浸透することを遅延する機能を有する顔料Aと、浸透遅延層から支持体及び/又は吸収層に突出して存在する顔料Bとを少なくとも含有する。
顔料Aは、インク定着層などの上層から降りてきたインク溶媒が支持体に浸透するのを遅らせる目的で用いられる。このような顔料としては、平板状顔料や、膨潤性顔料が例示できる。
【0021】
平板状顔料を用いた場合、上層から浸透してきたインク溶媒は、平板状顔料によって支持体への経路が遮断されるため、平板状顔料を用いない場合と比較して支持体への到達速度が遅くなる。一旦、経路を遮断されたインク溶媒は、その後平板状顔料の間をすり抜けて支持体に辿り着く。支持体への浸透速度が緩やかになると、支持体の吸水による伸びは抑制されるため、コックリングを防止することが可能となる。このような平板状顔料としては、カオリンや雲母族といったフィロケイ酸塩鉱物が例示できる。
【0022】
膨潤性顔料を用いた場合、上層から浸透してきたインク溶媒は、膨潤性顔料によって吸収され、該顔料が膨潤することにより保持されるため、膨潤性顔料を用いない場合と比較して支持体への到達速度が遅くなる。膨潤性顔料が保持できなかったインク溶媒が、その後支持体に辿り着く。支持体への浸透速度が緩やかになると、支持体の吸水による伸びは抑制されるため、コックリングを防止することが可能となる。このような膨潤性顔料としては、モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、スチーブンサイト等のスメクタイトと呼ばれる粘土鉱物が例示できる。中でも、モンモリロナイトを主成分とした粘土であるベントナイトは、膨潤性に優れるために好ましい。
【0023】
顔料Bは、浸透遅延層から支持体及び/又は吸収層に突出して存在することによって、支持体―浸透遅延層間および、浸透遅延層―溶媒吸収層間で楔の役割を果たし、物理的に強度を上げる効果を発揮する。浸透遅延層から支持体及び/又は吸収層に突出して存在させる方法としては、特に限定するものではないが、浸透遅延層の厚みを小さくし、且つ比較的大きな粒子径の顔料を用いるとよく、中でも浸透遅延層の厚みよりも大きな粒子径を有する顔料を用いることが確実な方法である。例えば、平均粒子径(凝集体の場合は、凝集体の粒子径)が、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましく、塗工量は、6g/m以下が好ましく、5g/m以下がより好ましく、4g/m以下が更に好ましい。なお、塗工量6g/mの場合、浸透遅延層の厚みはおおよそ6μm程度となる。
【0024】
顔料Bの材質としては塗被紙分野で公知公用の各種顔料を用いる事ができ、乾式法シリカ、湿式法シリカ、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。これらの中では、粒径のバリエーションが豊富かつコスト的に優位な炭酸カルシウム、湿式法シリカが好ましく、紙粉とインク吸収性のバランスから湿式法シリカがより好ましい。また、顔料Bの形状としては、多孔状、紡錘状、立方状、柱状、花飾り状、針状、球状、不定形状などが挙げられる。これらの形状の中でも溶媒吸収層に含まれるバインダーの浸透効果を持つ多孔状は強度を更に上げる効果があり、好ましい。
【0025】
顔料Aと顔料Bの配合比率は、顔料Aの存在率が高くなると、強度が不十分となり、また過剰な遅延効果によってインク吸収性が悪化する傾向にある。一方、顔料Aの存在率が低くなると、インク溶媒の浸透速度が速くなるため、コックリングの抑制が困難になる傾向にある。好ましい配合比率は、顔料A100質量部に対し、顔料Bが50〜300質量部であり、100〜280質量部であることがより好ましく、150〜250質量部であることが更に好ましい配合比率である。なお、浸透遅延層には、顔料A及び顔料Bに属さない顔料を、発明の効果を阻害しない範囲において含んでいても構わない。
【0026】
「顔料とラテックスの配合割合」
浸透遅延層における、顔料とラテックスの配合比率は、全顔料100質量部に対し、ラテックスが100〜10000質量部である必要があり、コックリングと塗膜強度のバランスから200〜8000質量部であることが好ましく、500〜5000質量部がより好ましい。ラテックスが200質量部に満たない場合、顔料による支持体―浸透遅延層間および、浸透遅延層―溶媒吸収層間の物理的な強度維持効果が発揮されず、塗膜強度が著しく低下してしまい、10000質量部を超える場合浸透遅延層が支持体に浸透しやすくなり、層が形成され難く、コックリング抑制効果が著しく低下し、実用性がなくなる。
【0027】
「架橋剤」
浸透遅延層は、上記のラテックスと少なくとも2種類の顔料を含有する塗液を塗工して形成するが、該塗液には必要に応じて架橋剤を配合することができ、また、架橋剤を配合することが好ましい。該架橋剤は、その上に塗工される溶媒吸収層に含まれるバインダーの一部と架橋性を示すものである。架橋剤を配合した場合、その上に塗工される、溶媒吸収層塗液のバインダーと架橋し、得られる溶媒吸収層の強度及び浸透遅延層と溶媒吸収層間の強度を高めることができる。
【0028】
架橋剤としては、例えば、ホウ素化合物、ホルムアルデヒド、スクシンアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ジアルデヒドスターチ、植物ガムのジアルデヒド誘導体等のアルデヒド系化合物;ジアセチル、1,2−シクロペンタンジオン、3−ヘキセン−2,5−ジオン等のケトン系化合物;ビス(2−クロロエチル)尿素、ビス(2−クロロエチル)スルホン、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン・ナトリウム塩等の活性ハロゲン化合物;ジビニルスルホン、1,3−ビス(ビニルスルホニル)−2−プロパノール、N,N’−エチレンビス(ビニルスルホニルアセタミド)、ジビニルケトン、1,3−ビス(アクリロイル)尿素、1,3,5−トリアクリロイル−ヘキサヒドロ−s−トリアジン等の活性ビニル化合物;ジメチロ−ル尿素、メチロールジメチルヒダントイン等のN−メチロール化合物;トリメチロールメラミン、アルキル化メチロールメラミン、メラミン、ベンゾグアナミン、メラミン樹脂等のメラミン化合物;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、スピログリコールジグリシジルエーテル、フェノール樹脂のポリグリシジルエーテル等のエポキシ化合物;1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシナネート等のイソシアネート系化合物、アジリジン系化合物、カルボジイミド系化合物、1,6−ヘキサメチレン−N,N’−ビスエチレン尿素等のエチレンイミノ系化合物、ムコクロル酸、ムコフェノキシクロル酸等のハロゲン化カルボキシアルデヒド系化合物、2,3−ジヒドロキシジオキサン等のジオキサン系化合物、乳酸チタン、硫酸アルミ、ポリ塩化アルミニウム、クロム明ばん、カリ明ばん、酢酸ジルコニル、酢酸クロム等の金属含有化合物、テトラエチレンペンタミン等のポリアミン化合物、アジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジド化合物;オキサゾリン基を2個以上含有する低分子またはポリマー、多価酸の無水物、酸クロリド、ビススルホナート化合物、活性エステル化合物等、公知の材料が挙げられ、単独で用いてもよく、二種以上を組合せて用いることもできる。
【0029】
溶媒吸収層のバインダーとして、ポリビニルアルコールが使用される事が多く、この場合、架橋剤としてはホウ素化合物が好ましい。
ホウ素化合物としては、例えば、硼砂、ホウ酸、ホウ酸塩(オルト硼酸塩、InBO、ScBO、YBO、LaBO、Mg(BO、Co(BO、二硼酸塩(例えば、Mg、Co)、メタ硼酸塩(例えば、LiBO、Ca(BO、NaBO、KBO)、四硼酸塩(例えば、Na・10HO)、五硼酸塩(例えば、KB・4HO、Ca11・7HO、CsB)等を挙げられ、中でも、速やかに反応する点で硼砂が好ましい。
【0030】
浸透遅延層用の塗液には、さらに一般の塗被紙製造において使用される増粘剤、消泡剤、湿潤剤、界面活性剤、着色剤、帯電防止剤、耐光性助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤等の各種助剤が適宜添加される。
【0031】
この浸透遅延層は、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、カーテンコーター、ダイコーター等の各種公知の塗工装置で形成することができる。
【0032】
浸透遅延層の乾燥塗工量は、1.5〜6.0g/mである。浸透遅延層の乾燥塗工量が1.5g/mに満たない場合、支持体を充分に被覆することが出来ず、インク溶媒が支持体に到達する速度を遅らせコックリングを抑制することができない。乾燥塗工量が6.0g/mを超える場合では浸透遅延層のバリア性が高くなりすぎ、インク溶媒が支持体に到達し難く、インクジェット記録体としての吸収性を維持することができない。また、顔料が、浸透遅延層から支持体及び/又は吸収層に突出して存在し難くなり、層強度が低下することになる。
【0033】
<溶媒吸収層>
溶媒吸収層は、プリンタより着弾したインクの着色成分と溶媒成分を速やかに分離するために、溶媒成分の吸収性に富んだ層である。浸透遅延層とインク定着層の間に位置し、平板状顔料、多孔質顔料及びバインダーを含有する塗液を塗工した層である。インクの着色成分と溶媒成分を速やかに分離することにより、にじみのない鮮明な記録像が得られることとなる。
【0034】
「顔料」
溶媒吸収層に使用する顔料は、多孔質顔料と平板状顔料を併用する。多孔質顔料とは顔料粒子内に空隙を持つ、もしくは細かな1次粒子が複数集まり複合粒子を形成している粒子のことであり、インクの吸収性に寄与する。主に使用される多孔質顔料としては乾式法シリカ、湿式法シリカ、軽質炭酸カルシウム、焼成カオリンなどが挙げられる。これらの中では、粒径のバリエーションが豊富かつコスト的に優位な炭酸カルシウム、湿式法シリカが好ましい。一方、平板状顔料はカオリンや雲母といったフィロケイ酸塩鉱物などが挙げられ、溶媒吸収層の層内の強度を強化する効果がある。
多孔質顔料と平板状顔料の比率は、多孔質顔料100質量部に対し、50〜200質量部が好ましく、100〜150質量部がより好ましい。50質量部以上配合することにより、層内の強度を維持し、紙粉の発生を抑える効果を発揮でき、150質量部以下の配合とすることによりインク吸収性を維持することが可能となる。
【0035】
「バインダー」
溶媒吸収層のバインダーとしては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール、セルロース系樹脂〔メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等〕、キチン類、キトサン類、デンプン;エーテル結合を有する樹脂であるポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル(PVE);アミド基またはアミド結合を有する樹脂であるポリアクリルアミド(PAAM)、ポリビニルピロリドン(PVP)、並びに、解離性基としてカルボキシル基を有する、ポリアクリル酸塩、マレイン酸樹脂、アルギン酸塩、ゼラチン類、カゼイン、大豆蛋白、合成タンパク質類、でんぷんや各種ラテックス系接着剤が挙げられる。これらのバインダーは単独で又は2種以上混合して使用する。接着強度とインク吸収性から、ポリビニルアルコールが好ましく選択される。
【0036】
上記ポリビニルアルコールとしては、ポリビニルアルコール(PVA)に加えて、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコールおよびその他ポリビニルアルコールの誘導体も含まれる。上記ポリビニルアルコールは1種単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
なお、前記浸透遅延層の塗液に架橋剤を配合する場合、浸透遅延層塗液に含まれる架橋剤100質量部に対し、溶媒吸収層塗液に含まれる該架橋剤に対し架橋性を示すバインダーが100〜10000質量部であることが好ましく、300〜5000質量部であることがより好ましい。因みに、300質量部未満では架橋作用が弱く、充分な強度を得ることができず、紙粉発生量が増加する傾向にある。一方、10000質量部を越えると、架橋作用が強いため、硬化し、紙粉発生量が増加する傾向にある。
【0038】
なお、浸透吸収層には、さらに一般の塗被紙製造において使用される増粘剤、消泡剤、湿潤剤、界面活性剤、着色剤、帯電防止剤、耐光性助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤等の各種助剤を適宜配合してもよい。
【0039】
溶媒吸収層の塗工量は特に限定されるものではないが、0.5〜30g/mとするのが好ましく、5〜20g/mとするのがより好ましい。塗工量が0.5g/mより少ないと、インク吸収性が低下しやすく、塗工量が30g/mより多いと、塗膜強度や画像の鮮明性が低下しやすい。
【0040】
この溶媒吸収層は、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、カーテンコーター、ダイコーター等の各種公知の塗工装置で形成することができる。
【0041】
<インク定着層>
インク定着層は、溶媒吸収層上にあって、インクを受理し、インク中の着色剤(染料や着色顔料)を定着させることを主目的とする層である。
【0042】
「顔料」
インク定着層を形成する顔料としては、乾式法シリカを使用する。乾式法シリカを用いると、光沢性が優れ、平滑な記録面と極めて高いインク吸収性を示すため、印字適性が優れたインク定着層が得られる。なお、インク定着層には、印字適性を害さない範囲で、他の顔料を併用してもよい。このような顔料としては、インクジェット記録体用の顔料として公知のものが使用でき、例えば、カオリン、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、メソポーラスシリカ、湿式法シリカ、アルミナ酸化物、アルミナ水和物、アルミナシリケート、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの無機顔料;アクリル或いはメタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、スチレン−イソプレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の樹脂からなる有機顔料が挙げられ、これらの顔料は真球状でも不定形でもよく、2種以上混合して用いてもよい。例えば、得られたインクジェット記録体の光沢度を低く調節する目的で、インク定着層中に1μmを超える顔料(例えば湿式法シリカ)を少量加えることもできる。
【0043】
「バインダー」
インク定着層のバインダーとして、接着強度とインク吸収性を両立するために、ポリビニルアルコール(PVA)を使用する。ポリビニルアルコールとしては、ポリビニルアルコール(PVA)に加えて、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコールおよびその他ポリビニルアルコールの誘導体も含まれる。上記ポリビニルアルコールは1種単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
インク定着層に用いられるポリビニルアルコールの重合度としては3000〜5000であることが好ましい。重合度が3000未満では、得られるインク定着層の耐水性が不充分になる傾向にあり、5000を超えるものは、溶液あるいは塗料に対してせん断力が加えられると樹脂分子の結晶化が引き起こされ易くなり、取り扱い性低下の懸念があり、また実用上も入手が困難である。
【0045】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリビニルアセタール、セルロース系樹脂〔メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等〕、キチン類、キトサン類、デンプン;エーテル結合を有する樹脂であるポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル(PVE);アミド基またはアミド結合を有する樹脂であるポリアクリルアミド(PAAM)、ポリビニルピロリドン(PVP)、並びに、解離性基としてカルボキシル基を有する、ポリアクリル酸塩、マレイン酸樹脂、アルギン酸塩、ゼラチン類、カゼイン、大豆蛋白、合成タンパク質類、でんぷんや各種ラテックス系接着剤などのバインダーを併用してもよい。
【0046】
前記バインダーの含有量としては、インク定着層の顔料100部に対して、5〜40部が好ましく、インク吸収性と塗膜強度のバランスから10〜25部がより好ましい。
【0047】
「インク定着剤」
インク定着層には、インク定着剤を使用することができる。使用されるインク定着剤は特に限定するものではないが、インクジェット記録体用のインク定着剤として公知のカチオン性化合物を使用することができる。公知のカチオン性化合物として、1)ポリエチレンアミンやポリプロピレンなどのポリアルキレンアミン類、またはその誘導体、2)3級アミン基、4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、4)ジシアンジアミド−ホルマリン重縮合物に代表されるジシアン系カチオン樹脂、5)ジシアンジアミド−ジエチレントリアミン重縮合物に代表されるポリアミン系カチオン樹脂、6)ジメチルアミン−エピクロルヒドリン付加重合物、7)ジアリルアミン塩−SO共重合物、8)ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、9)アリルアミン塩の重合物、10)ビニルベンジルトリアリルアンモニウム塩の単独重合体又は共重合体、11)ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩共重合物、12)アクリルアミド−ジアリルアミン塩共重合物、13)ポリ塩化アルミニウム、ポリ酢酸アルミニウムなどのアルミニウム塩、カチオン性界面活性剤等の一般市販されているものが挙げられ、単独で用いられるかあるいは数種類が併用される。
【0048】
カチオン性化合物の配合割合は、特に限定されるものではないが、顔料100重量部に対し、1〜60質量部が好ましく、より好ましくは5〜50質量部である。カチオン性化合物が1質量部未満であると、画像の発色性の低下や、印字部の保存性の低下が起こりやすくなり、60質量部を超えると、インク吸収性の低下、印字ムラ、画像の鮮明性の低下が起こりやすくなる。
【0049】
インク定着層には、さらに一般の塗被紙製造において使用される増粘剤、消泡剤、湿潤剤、界面活性剤、着色剤、帯電防止剤、耐光性助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤等の各種助剤が適宜添加される。
【0050】
インク定着層の塗工量は特に限定されるものではないが、0.5〜30g/mとするのが好ましく、2〜20g/mとするのがより好ましい。塗工量が0.5g/mより少ないと、インク吸収性、画像の鮮明性、印字保存性が低下しやすく、塗工量が30g/mより多いと、塗膜強度や画像の鮮明性が低下しやすい。なお、インク定着層は複数層積層してもよく、その場合、層間でインク定着層組成が異なっていてもよい。
【0051】
このインク定着層は、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、カーテンコーター、ダイコーター等の各種公知の塗工装置で形成することができる。
【0052】
インク定着層の乾燥条件は、インク定着層塗液の濃度などによって調節されるが、乾燥条件によっても、吸収速度の挙動が変動する。できるだけ強い乾燥条件で処理することが好ましいが、過剰の乾燥は塗膜が硬化し、発色性や塗膜強度が低下する傾向である。
【0053】
<架橋剤の塗工>
インク定着層に微細顔料を用いているため、乾燥の際にひび割れを生じたり、得られたインク定着層の強度が不足したりする傾向にある。この様な場合は、インク定着層塗液を塗布する前に、インク定着層に含まれるバインダーの一部を架橋する架橋剤を予め塗布しておくことが好ましい。この架橋剤としては、前記浸透遅延層塗液に配合可能な架橋剤として例示したものが使用できる。インク定着層に用いるバインダー、特にポリビニルアルコールの架橋にはホウ素化合物が好ましく、中でも、ホウ酸、ホウ砂や他のホウ酸塩が好ましく選択される。
【0054】
架橋剤の塗工は、溶媒吸収層塗液に架橋剤を配合し、架橋剤含有する溶媒吸収層を形成しておく方法、溶媒吸収層上に架橋剤を含有する液を塗布する方法が採用できる。中でも、溶媒吸収層上に架橋剤を含有する液を塗布し、乾燥することなくインク定着層を塗工する方法を採用すると、効率よく架橋剤とインク定着層中のバインダーを架橋できるため、好ましい。
予め塗布する架橋剤は、インク定着層のバインダー100質量部に対し、2〜5質量部程度が好ましく、さらに好ましくは、2.5〜4である。2質量部以上とすることにより、架橋剤とバインダーが充分に架橋反応し、インク定着層の密着性が強く、紙粉をより防ぐことが出来る。また、5質量部以下とすることにより、インク定着層の成膜性が強くなりすぎることがなく、インク吸収性が損なわれることを防ぐことができる。
【0055】
<カレンダー処理>
なお、インク定着層を形成後に、マシンカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダーを用いて仕上げ処理を行ってもよいが、係る処理もインク定着層表面の空隙を潰すことになるので、印字適性を害さない範囲で行なう必要がある。
また、溶媒遅延層、溶媒吸収層、インク定着層の少なくとも1層をカレンダーで圧力印加して平滑処理することにより、インクジェット記録体表面のボコツキを改良し、見た目の光沢感、平滑感を向上する事が可能である。カレンダー圧としては、20〜250kg/cmである事が好ましい。カレンダー圧20kg/cmより低いと平滑処理効果が得られず、250kg/cmより高いと塗工層が潰れすぎてインク吸収性を阻害する。より好ましくは、30〜180kg/cmである。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。また、例中の部及び%は特に断らない限り、水を除いた固形分であり、それぞれ質量部及び質量%を示す。
【0057】
各実施例、比較例で得られたインクジェット記録体のコックリング、紙粉、インク吸収性、にじみ、印字濃度を以下に示す方法で評価した。
なお、評価にあたって、インクジェット記録体への印字は、市販の大判インクジェットプリンター(CANON社製、商標:ImagePROGRAF W8400(pgインクモデル)、印字モード:厚口コート紙/きれい)、で行った。
【0058】
[耐コックリング性]
上記ImagePROGRAF W8400でブラックベタを印字し、印字部分を目視及び質感で評価した。
○:印字部のうねりがなく、印刷紙並。
△:印字部にうねりが見られるが、実用上問題ないレベル。
×:うねりが目立ち、実用上問題となるレベル。
【0059】
[紙粉]
インクジェット記録体の白紙部を、NTカッターを用いて10m断裁し、粘着テープで回収した後、得られた紙粉の量を目視観察し、下記の方法で評価した。
◎:紙粉はほとんど発生せず、優れたレベル。
○:紙粉が発生するが、実用上問題ないレベル。
△:紙粉が発生するが、使用に耐えうるレベル。
×:紙粉の発生量が非常に多く、実用上重大な問題となるレベル。
【0060】
[インク吸収性]
インクジェット記録体に上記ImagePROGRAF W8400で、グリーン色及びブルー色のベタ印画を施し、そのインク吸収性を目視観察し、下記の方法で評価した。
○:インク吸収速度が速く、インクの溢れとビーディングなし。
△:多少のビーディングは認められるが、実用上問題ないレベル。
×:インクの溢れとビーディングがあり、実用上問題となるレベル。
【0061】
[にじみ]
上記ImagePROGRAF W8400の印字境界部分から印字のにじみを目視で評価した。
◎:印字のにじみは全く認められず、優れたレベル。
○:印字のにじみはややあるが、実用上問題ないレベル。
△:印字のにじみがあり、実用上問題となるレベル。
×:印字のにじみが著しく、実用上重大な問題となるレベル。
【0062】
<実施例1>
[浸透遅延層塗液の作製]
市販分散剤(東亞合成社製、商品名:アロンT−50)0.2部含有の水に顔料Bとして湿式法シリカ(東ソー・シリカ株式会社製、商品名:AY−603、平均粒子径6.5μm、吸油量250ml/100g)15部、顔料Aとしてカオリン(エンゲルハード社製、商品名:ウルトラホワイト90、平均粒子径0.5μm)10部を分散した後、架橋剤として硼砂(四ホウ酸ナトリウム十水和物)5部およびバインダーとしてスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(SBR)(日本ゼオン社製、商品名:PT1051、平均粒子径110nm、ガラス転移点10℃)100部、および消泡剤、界面活性剤等の助剤を混合分散して最終的に固形分濃度が23%の塗液を調製した。
【0063】
[溶媒吸収層塗液の作製]
市販分散剤(東亞合成社製、商品名:アロンT−50)0.2部含有の水に顔料として多孔質顔料として湿式法シリカ(東ソー・シリカ株式会社製、商品名:BY−400、平均粒子径3.0μm、吸油量210ml/100g)50部と平板状顔料としてカオリン(エンゲルハード社製、商品名:ウルトラホワイト90、平均粒子径0.5μm)50部、バインダーとしてPVA(クラレ社製、商品名:PVA145)15部、アクリル系重合体(明成化学社製、商品名:JK−7000、エマルジョン型バインダー)30部を混合分散して最終的に固形分濃度が25%の塗液を調製した。
【0064】
[インク定着層塗液の作製]
インク定着剤としてジシアンジアミド−ポリアリルアミン共重合体(日華化学社製、商品名:ネオフィックスE−117)20部を含有する水に、顔料として乾式法シリカ(degusa社製、商品名:AEROSIL−200、平均1次粒子径12nm)100部を分散させ、微細顔料の水分散液を得、バインダーとしてPVA(クラレ社製、商品名:PVA145)15部及び、消泡剤、界面活性剤等の助剤を混合分散して最終的に固形分濃度が13%の塗液を調製した。
なお、微細顔料の水分散液を、濃度1%に調整し、25℃の条件で、濃厚系粒径アナライザー FPAR−1000(大塚電子株式会社製)を使用し、動的光散乱法により求めた数平均二次粒子径は、400nmであった。
【0065】
[インクジェット記録体の作製]
坪量120g/mの上質紙の片面に、浸透遅延層塗液を、塗工量が2.5g/mとなるようにバーコーターで塗工、乾燥し、浸透遅延層上に溶媒吸収層塗液を塗工量が15g/mとなるようにダイコーターで塗工、乾燥し、その上にインク定着層塗液を塗工量が15g/mとなるようにダイコーターで塗工、乾燥し、インクジェット記録体を作製した。
【0066】
<実施例2>
実施例1の浸透遅延層塗液の作製において、顔料A(カオリン)10部を15部に変更し、顔料B(湿式法シリカ)15部を10部に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0067】
<実施例3>
実施例1の浸透遅延層塗液の作製において、顔料A(カオリン)10部を4部に変更し、顔料B(湿式法シリカ)15部を20部に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0068】
<比較例1>
実施例1の浸透遅延層塗液の作製において、顔料B(湿式法シリカ)を抜いて、顔料A(カオリン)10部を25部に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0069】
<比較例2>
実施例1の浸透遅延層塗液の作製において、顔料A(カオリン)を抜いて、顔料B(湿式法シリカ)15部を25部に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0070】
<実施例4>
実施例1の浸透遅延層塗液の作製において、顔料Bとして、湿式法シリカ(商品名:AY−603)を炭酸カルシウム(白石カルシウム株式会社製、商品名BF−200、平均粒子径5μm、吸油量25ml/100g)15部に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0071】
<実施例5>
実施例1の浸透遅延層塗液の作製において、顔料Aとして、カオリン(商品名:ウルトラホワイト90)をベントナイト(黒崎白土工業社製、商品名:オドソルブKH−101、平均粒子径4.7μm)に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作成した。
【0072】
<比較例3>
実施例1の浸透遅延層塗液の作製において、顔料Bとして用いる湿式法シリカ(東ソー・シリカ株式会社製、商品名:AY−603)を顔料Bに該当しない乾式法シリカ(degusa社製、商品名:AEROSIL−200、平均1次粒子径12nm)に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0073】
<実施例6>
実施例1の浸透遅延層塗液の作製において、バインダーとしてスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:PT1051)を、アクリル系重合体(ロームアンドハース社製、商品名:プライマルP−376)100部に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0074】
<実施例7>
実施例1の浸透遅延層塗液の作製において、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:PT1051)100部を60部に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0075】
<実施例8>
実施例1の浸透遅延層塗液の作製において、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:PT1051)100部を2000部に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0076】
<比較例4>
実施例1の浸透遅延層塗液の作製において、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:PT1051)100部を20部に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0077】
<比較例5>
実施例1の浸透遅延層塗液の作製において、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:PT1051)100部を3000部に変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0078】
<比較例6>
実施例1の浸透遅延層塗液の作製において、バインダーとしてポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:PVA145)を用い、且つ架橋剤である硼砂(四ホウ酸ナトリウム十水和物)を用いなかった以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作成した。
【0079】
<実施例9>
浸透遅延層の塗工量を5.0g/mとした以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0080】
<比較例7>
浸透遅延層の塗工量を1.0g/mとした以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0081】
<比較例8>
浸透遅延層の塗工量を7.0g/mとした以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0082】
<比較例9>
実施例1の溶媒吸収層塗液の作製において、多孔質顔料(湿式法シリカ)を含まない以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0083】
<比較例10>
実施例1の溶媒吸収層塗液の作製において、平板状顔料(カオリン)を含まない以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0084】
<比較例11>
実施例1のインク定着層塗液の作製において、顔料として乾式法シリカ(商品名:AEROSIL−200)の代わりに湿式法シリカ(東ソー・シリカ株式会社製、商品名:AY−200、平均粒子径1.8μm、吸油量280ml/100g)を用いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作成した。
【0085】
<比較例12>
浸透遅延層を設けない以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0086】
<比較例13>
溶媒吸収層を設けない以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0087】
<比較例14>
インク定着層を設けない以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0088】
<実施例10>
実施例1の浸透遅延層塗液の作製において、硼砂(四ホウ酸ナトリウム十水和物)を用いなかった以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0089】
<実施例11>
インク定着層を塗工する前に、下記の架橋剤含有塗液を塗工量が1g/mになるようにバーコーターで塗工した層を設けた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
[架橋剤含有塗液の作製]
80℃の水に架橋剤として硼砂(ボラックス・ジャパン製、商品名:硼砂)を100部溶解し、界面活性剤等の助剤を混合分散して最終的に固形分濃度が10%の塗液を調製した。
【0090】
<実施例12>
実施例1の溶媒吸収層塗液の作製において、ポリビニルアルコール(商品名:PVA145)15部を2部に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作成した。
【0091】
<実施例13>
実施例1の溶媒吸収層塗液の作製において、ポリビニルアルコール(商品名:PVA145)15部を50部に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作成した。
【0092】
<実施例14>
実施例1の溶媒吸収層塗液の作製において、平板状顔料(カオリン)50部を20部に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0093】
<実施例15>
実施例1の溶媒吸収層塗液の作製において、平板状顔料(カオリン)50部を90部に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録体を作製した。
【0094】
【表1】

【0095】
表1から明らかなように、本発明のインクジェット記録体は、コックリングを抑制し、にじみがなく、インク吸収性が良く、画像濃度が高く、画像の均一性が極めて良好で、断裁時の紙粉発生量の少ない染料、顔料インクとも優れるインクジェット記録体である。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のインクジェット記録体は、コックリングを抑制し、にじみがなく、インク吸収性が良く、画像濃度が高く、画像の均一性が極めて良好で、断裁時の紙粉発生量の少ない染料、顔料インクとも優れるインクジェット記録体を提供することができ、実用上極めて有用である。特に、内蔵カッターを有する大判インクジェットプロッタでの出力に適し、ポスターやサインディスプレーの出力に適したインクジェット記録体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、該支持体上に形成され、ラテックスと顔料を少なくとも含む浸透遅延層、該浸透遅延層上に形成され、多孔質顔料、平板状顔料及びバインダーを少なくとも含む溶媒吸収層、及び、溶媒吸収層上に形成され、乾式法シリカとポリビニルアルコールを少なくとも含むインク定着層を有するインクジェット記録体において、前記浸透遅延層は、顔料としてインク溶媒が支持体に浸透することを遅延する機能を有する顔料Aと、浸透遅延層から支持体及び/又は溶媒吸収層に突出して存在する顔料Bとを含み、浸透遅延層中の全顔料100質量部に対して100〜10000質量部のラテックスを含み、且つ乾燥塗工量が1.5〜6.0g/mの層であることを特徴とするインクジェット記録体。
【請求項2】
前記浸透遅延層が、顔料A100質量部に対し、顔料Bが50質量部〜300質量含有する請求項1に記載のインクジェット記録体。
【請求項3】
ラテックスと顔料A及び顔料Bを含有し、更に、溶媒吸収層に含まれるバインダーの一部と架橋性を示す架橋剤を含有する浸透遅延層塗液を塗布後、平板状顔料、多孔質顔料及びバインダーを含有する溶媒吸収層塗液を塗布することによって得られる請求項1又は2に記載のインクジェット記録体。
【請求項4】
浸透遅延層塗液に含まれる架橋剤100質量部に対し、溶媒吸収層塗液に含まれる該架橋剤に対し架橋性を示すバインダーが100〜10000質量部である請求項3記載のインクジェット記録体。
【請求項5】
前記溶媒吸収層の多孔質顔料と平板状顔料の比率が多孔質顔料100質量部に対し、50〜150質量部である請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録体。
【請求項6】
インク定着層に含まれるバインダーの一部を架橋する架橋剤を予め塗布した後、インク定着層を塗布することによって得られる請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録体。

【公開番号】特開2011−56688(P2011−56688A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206296(P2009−206296)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】